【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
JIS SKD61の試験片を用意し、この試験片に対して、表1(発明例)、表2(比較例)に示す各種化学組成の溶接棒(φ1.6mm×1000mm)を用いてティグ溶接を行った。試験片は、予め焼入れ、焼戻し処理を2回行い、43HRCの硬さとした。なお、溶接材料(溶接棒)は、直径が0.2〜3.5mmであることが好ましい。0.2mmよりも直径が細いと溶接の際の熱が母材の方に多く加わって母材の溶融量が多くなり、溶接部の硬さを必要以上に硬くしてしまうことに繋がる。一方、3.5mmよりも太過ぎると溶接時の熱が溶接材料に奪われて母材側に十分加わらず、融合不良の原因となってしまう。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
溶接条件は、Arをシールドガスとして、溶接棒をアーク内に挿入して加熱し、これを溶融させて溶接を行った。なお、溶接電流は、120A、溶接速度は、5cm/minの条件で行った。そして、溶接後の試験片を用いて、下記の各種試験を実施した。
【0036】
<溶接後の組織観察>
30×30×15mmのSKD61の試験片を用いて、30×30mmの面に実施例と比較例をそれぞれ2層となる肉盛溶接した。その後、断面を切り出し、研磨および腐食を行い、肉盛溶接部のミクロ組織を観察し、ベイナイトの生成具合を比較した。視野の30%以上にベイナイトが認められないものを「○」、視野の10%以上にベイナイトが認められるものを「×」と評価した。
【0037】
<耐Al溶損性評価>
Φ20×30mmの試験片のΦ20mmの面に実施例と比較例を15mm上に肉盛溶接を行い、その後に機械加工を施してΦ10×40mmの試験片を作成した。評価にはAl合金ADC12を用い、溶湯温度750℃で試験片を回転させた状態で、試験片のΦ10×10mm部分のみを30分間浸漬させ、浸漬前における浸漬前後の重量変化の割合を溶損率とした。耐Al溶損性としては、本試験条件における溶損率が35%未満を「○」、35%以上を「×」と評価した。
【0038】
<積層性評価>
上記溶接後の組織観察に用いた試験片の断面から、母材に対する肉盛溶接部分の高さを測定し、積層性を評価した。溶接部分の高さが高くなるものを積層性が良いとし、本試験条件で積層性が3mm以上を「○」、3mm未満を「×」と評価した(クラックの深さとして長いもので3mmを想定した)。
【0039】
<窒化特性評価>
金型を窒化した後の影響を確認するため、上記溶接後の組織観察と同様の方法で肉盛溶接を行い、溶接跡を平面研磨で除去後にガス窒化処理を施した。その試験片の断面を切り出して、研磨後、ビッカース硬さ試験を実施した。ガス窒化処理条件は、510℃の大気圧雰囲気中にNH
3ガスを導入し、3時間保持後に冷却する条件を用いた。表層から20μm位置の硬さを表層硬さとして比較を行い、表層硬さが1100HV以上を「○」、1100HV未満を「×」と評価した。
【0040】
<硬さ測定(溶接まま)>
30×30×15mmのSKD61の試験片を用いて、30×30mmの面に実施例と比較例を3mm肉盛溶接した。次に、試験片の表面を平面研磨し、溶接跡を除去した後のその表面に対し、ロックウェル硬さ試験を実施した。硬さが42〜49HRCになったものを「○」、それ以外を「×」と評価した。
【0041】
<熱伝導率測定>
硬さ測定に用いた試験片において、溶接部分からΦ10×2mmを切り出し、熱伝導率測定用の試験片を作成した。熱伝導率はレーザーフラッシュ法で測定し、室温の熱伝導率を測定した。熱伝導率が22〜35W/m・Kになったものを「○」、それ以外を「×」と評価した。
【0042】
<高温硬さ測定>
耐Al溶損性評価の試験片と同様の方法で肉盛溶接を行い、肉盛溶接部からΦ10×5mmの試験片を採取した。その試験片の表面を研磨後、試験片をヒーターにより加熱し、直接ビッカース圧痕をうち、その圧痕サイズからHV硬さを測定した。500℃時の高温硬さが300HV以上になったものを「○」、300HV未満を「×」と評価した。
【0043】
<耐ヒートチェック性評価試験>
Φ62×50mmのSKD61試験片の上面に、実施例と比較例の2mmの肉盛溶接を行い、その後に平面研磨で溶接跡を除去および研磨で粗さを整えた試験片を用いた。耐ヒートチェック性の評価は、Φ62mmの面に対し、高周波加熱コイルを用いて7秒間で580℃まで上昇させ、その後に噴射水を用いて3秒間冷却し、エアブローで7秒間放冷させ、熱応力を負荷させた。この行程を1サイクルとし、溶接部分における25000サイクル時のヒートチェックの発生具合をカラーチェック(赤色)で評価した。発生具合を写真撮影し、視野の10%以上に赤色が認められなかった場合には「〇」、それ以外は「×」と評価した。
【0044】
<結晶粒評価>
溶接後の組織観察に用いた試験片の切断面を研磨、腐食を行い、450mm
2の面積を観察し、その面積中にある最大粒径をJIS G 0551「鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法」に規定されている粒度番号で表現し、結晶粒の粗大化の有無を評価した。本試験条件で粒度番号が4番以上を「○」、4番未満を「×」と評価した。
【0045】
<シャルピー衝撃値評価>
100×15×30mmの試験片の2つを肉盛溶接で接合させ、その中央部が10mm×10mm×55mmのJIS 3号衝撃試験片のノッチ部分になるように試験片を採取し、シャルピー衝撃値を室温で測定した。衝撃値が大きいほど、金型となった場合に割れにくいため好ましく、本試験条件でシャルピー衝撃値が35J/cm
2以上を「○」、35J/cm
2未満を「×」と評価した。
【0046】
<破壊靭性値評価>
シャルピー衝撃値の試験片採取と同様の方法で肉盛溶接を行い、ASTM E399(金属材料の線形弾性平面ひずみ破壊靭性KICのための標準試験方法)に準じて、試験片を採取し、予きれ裂を導入後に破壊靭性KIC(臨界応力拡大係数)を求め、本試験条件で破壊靭性値が25MPa・m
0.5以上を「○」、25MPa・m
0.5未満を「×」と評価した。
【0047】
<溶接割れ評価>
耐ヒートチェック性の評価に用いたΦ62×50mmの試験片の研磨後の状態において、目視で溶接部分に割れがあるかを観察し、割れが見られないものは「○」、割れが有るものは「×」とした。
【0048】
各種試験結果を表3〜表6に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
表1〜表6を比較すると、以下のことが分かる。すなわち、比較例1は、Cが0.30%超となっている。そのため、溶接部が硬くなりすぎて、硬さ測定、溶接割れ評価の試験結果が「×」となっている。なお、比較例1は、溶接割れ評価の試験で割れてしまったため、耐ヒートチェック性評価試験は、実施することができなかった。
【0054】
また、比較例2は、Siが0.50%超となっている。そのため、熱伝導率測定、耐ヒートチェック性評価試験の試験結果が「×」となっている。
【0055】
また、比較例3〜5は、Mnが0.50%超となっている。そのため、溶接後の組織観察、耐Al溶損性評価の試験結果が「×」となっている。
【0056】
また、比較例6、7は、Crが3.6%未満となっている。そのため、高温硬さ測定、耐ヒートチェック性評価試験の試験結果が「×」となっている。
【0057】
また、比較例8〜10は、Crが6.0%超となっている。そのため、熱伝導率測定、耐ヒートチェック性評価試験の試験結果が「×」となっている。
【0058】
また、比較例11〜13は、Moが1.5%超となっている。そのため、破壊靭性値評価の試験結果が「×」となっている。
【0059】
また、比較例14〜16は、Vが0.8%超となっている。そのため、結晶粒評価、シャルピー衝撃値評価の試験結果が「×」となっている。
【0060】
また、比較例17は、Alが0.001%未満となっている。そのため、積層性評価、窒化特性評価の試験結果が「×」となっている。
図1は、肉盛高さとAlの添加量との関係(積層性)を示した図である。
図1を見ると、Alの添加により、溶接材料の積層性を向上し得ることがわかる。
【0061】
上記比較例に対し、発明例は、いずれの試験結果においても良好な結果を得ている。上記結果から、金型の耐ヒートチェック性及び金型の寿命を確保しつつ、溶接材料の積層性を向上させることができる、と言える。
【0062】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態、実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。