(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、セルロース等の繊維の質量に関する値は、特に記載した場合を除き、絶乾質量(固形分)に基づく。「A及び/又はB」は、特に記載した場合を除き、AとBの少なくとも一方であることを指し、Aのみであってもよく、Bのみであってもよく、AとBとの双方であってもよいことを意味する。
【0013】
(微細繊維状セルロース含有物)
本発明は、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有物に関する。本発明の微細繊維状セルロース含有物に含まれる微細繊維状セルロースは、(a)リン酸基と、炭素数が1以上の有機基とが共有結合してなる基と、(b)炭素数が1以上の有機基を有さないリン酸基と、を有する。このように微細繊維状セルロースは、炭素数が1以上の有機基を有するものであるため、本発明で用いる微細繊維状セルロースは、表面改質微細繊維状セルロースと呼ぶこともできる。
【0014】
本発明の微細繊維状セルロース含有物は、上記構成を有するため樹脂や溶媒との相溶性に優れる。例えば、微細繊維状セルロースが樹脂と優れた相溶性を有する場合は、樹脂組成物から成形された成形体は優れた曲げ弾性率を有する。また、このような樹脂組成物や成形体には微細繊維状セルロースの凝集物が存在しないか、または存在しても微量であるため、樹脂組成物や成形体は透明性に優れる。
【0015】
本発明では、微細繊維状セルロースが有する(a)リン酸基と、炭素数が1以上の有機基とが共有結合してなる基(以下、(a)の基ということもある)と、(b)炭素数が1以上の有機基を有さないリン酸基(以下、(b)の基ということもある)、との合計含有量は、0.1mmol/g以上であることが好ましい。(a)の基と(b)の基の合計含有量は0.5mmol/g以上であることがより好ましく、0.7mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.8mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.9mmol/g以上であることが特に好ましい。(a)の基と(b)の基の合計含有量の上限値は、5mmol/gであることが好ましい。
(a)の基と(b)の基の合計含有量を上記範囲とすることにより、微細繊維状セルロース含有物中における微細繊維状セルロースの分散性を良好なものとすることができる。これにより、微細繊維状セルロース含有物の透明性を高めることができる。
【0016】
なお、炭素数が1以上の有機基が導入される前のリン酸基導入量は、後述する工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求める伝導度滴定法を用いて測定することができる。
イオン交換樹脂を用いた処理では、微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(例えば、アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μm程度のメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離する。
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、
図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。
【0017】
(a)の基と(b)の基の導入量は下記の通り導出される。(a)の基は、炭素数が1以上の有機基が導入される前のリン酸基に、炭素数が1以上の有機基が導入ことで得られる。炭素数が1以上の有機基が導入されると、まず、弱酸性基の量が減っていき下記(A)の状態となる。次いで、強酸性基の量が減っていき、下記(A’)の状態となる。
【0019】
上述した伝導度滴定法で炭素数が1以上の有機基が導入される前のリン酸基量(P
0)を算出した後、(a)の基と(b)の基の導入量を伝導度滴定法で算出する。各基の導入量は下式より求めることができる。なお、上記リン酸基量(P
0)は、有機基導入後の微細繊維状セルロースに対してXRFやモリブデンブルー法等を実施することにより測定することができるリン原子量から算出することも可能である。
状態(A)の有機基導入量(a)=第1領域に要した滴定量−第2領域に要した滴定量
状態(B)の有機基が導入されていない基の導入量(b)=第2領域に要した滴定量
状態(A’)の有機基導入量(a’)=(P
0)−(a)
有機基導入量=(a)+(a’)
有機基導入量は、(a)の基の含有量となる。状態(B)の有機基が導入されていない基の導入量は、(b)の基の含有量となる。
【0020】
(a)の基の含有量は、0.005mmol/g以上が好ましく、0.01mmol/g以上がさらに好ましく、0.05mmol/g以上がよりさらに好ましい。(a)の基の含有量の上限値は、4mmol/gであることが好ましい。
(b)の含有量は、0.005mmol/g以上が好ましく、0.007mmol/g以上がさらに好ましく、0.009mmol/g以上がよりさらに好ましい。(b)の基の含有量の上限値は、5mmol/gであることが好ましい。
【0021】
<(a)の基/(b)の基>
微細繊維状セルロースは、(a)リン酸基と、炭素数が1以上の有機基とが共有結合してなる基と、(b)炭素数が1以上の有機基を有さないリン酸基と、を有する。
本願明細書において、リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO
3H
2で表される基である。また、リン酸基は、−PO
3M
2で表される基であってもよい。なお、Mは、1価以上の陽イオンであり、水素イオン、金属イオン、有機イオンから選択される。
【0022】
リン酸基はセルロースに導入されると2価の酸を示すことから、電気的な反発力を生じ、セルロース繊維同士の凝集を抑制することができる。このような反発力は、セルロースにカルボキシル基やカチオン基などの1価の官能基を導入した場合と比べて大きくなると考えられる。
また、リン酸基は2価の酸を示すことから炭素数が1以上の有機基との結合部位を2箇所有することとなる。このため、セルロースにカルボキシル基やカチオン基などの1価の官能基を導入した場合と比べて、炭素数が1以上の有機基を多く有することができるものと考えられる。これにより、セルロースの表面改質をより効果的に行うことができ、例えば、樹脂との相溶性を効果的に高めることができる。
【0023】
(a)リン酸基と、炭素数が1以上の有機基とが共有結合してなる基とは、微細繊維状セルロースに置換したリン酸基に、共有結合を介して炭素数が1以上の有機基を連結させた基をいう。
【0024】
具体的には、下記式(1)で表される基であることが好ましい。
【0026】
式(1)中、nは1〜nの整数を表す。R及びR
nは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数が1以上の有機基を表し、R及びR
nのうち少なくとも1つは炭素数が1以上の有機基を表す。また、X及びX
nは連結基であり、X及びX
nはそれぞれ独立に、単結合であるか、もしくはエステル結合、シリルエステル結合、エーテル結合、ウレタン結合及びアミド結合から選択される少なくともいずれかを含む連結基であることが好ましい。中でも、炭素数が1以上の有機基は、エステル結合、エーテル結合及びアミド結合から選択される少なくともいずれかによりリン酸基と結合していることが好ましく、エーテル結合によりリン酸基と結合していることがより好ましい。
【0027】
式(1)中、少なくとも1つのRは炭素数が1以上の有機基であればよい。また、Rは炭素数が10以下の有機基であることが好ましく、8以下の有機基であることがより好ましい。中でも、有機基は疎水性基であることが好ましい。
【0028】
本発明では、表面改質剤と微細繊維状セルロースを混合することで、微細繊維状セルロースに(a)リン酸基と、炭素数が1以上の有機基とが共有結合してなる基を導入することができる。このような表面改質剤は、セルロースのヒドロキシル基と反応し得る化合物を有するものである。表面改質剤としては、例えば、シラン化合物、ハロゲン化アルキル化物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アセチル化物、アミン化合物、トシラート・メシラート・その類似体、カルボン酸、及びビニル樹脂等を挙げることができる。すなわち、炭素数が1以上の有機基は、シラン化合物、ハロゲン化アルキル化物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アセチル化物、アミン化合物、トシラート・メシラート・その類似体、カルボン酸、及びビニル樹脂から選択される少なくとも1種に由来する基であることが好ましく、シラン化合物、ハロゲン化アルキル化物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アセチル化物及びトシラート・メシラート・その類似体から選択される少なくとも1種に由来する基であることがより好ましい。
【0029】
シラン化合物としては、ハロアルキルシラン、ジシラザン、N−シリルアセトアミド、アルコキシシラン、シリルスルフィド、メルカプトシラン、オクタノイルチオシランを挙げることができる。より具体的には、ハロアルキルシランとして、クロロジメチルイソプロピルシラン、クロロジメチルブチルシラン、クロロジメチルオクチルシラン、クロロジメチルドデシルシラン、クロロジメチルオクタデシルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロ(1−ヘキセニル)ジメチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロヘプチルメチルシラン、またはトリクロロオクチルシラン;ジシラザンとして、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,3−ジフェニル−1,3−ジメチル−ジシラザン、1,3−N−ジオクチルテトラメチル−ジシラザン、ジイソブチルテトラメチルジシラザン、ジエチルテトラメチルジシラザン、N−ジプロピルテトラメチルジシラザン、N−ジブチルテトラメチルジシラザンまたは1,3−ジ(パラ−t−ブチルフェネチル)テトラメチルジシラザン;N−シリルアセトアミドとして、N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチルジフェニルシリルアセトアミド、またはN−トリエチルシリルアセトアミド;アルコキシシランとして、t−ブチルジフェニルメトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、またはオクチルトリエトキシシラン;シリルスルフィドとして、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド;メルカプトシランとして、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン:オクタノイルチオシランとして、3−オクタノイルチオ−1プロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0030】
表面改質剤としてシラン化合物を用いた場合は、シラン化合物とリン酸基が反応して、シリルリン酸エステル結合を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0031】
ハロゲン化アルキル化物としては、クロロプロパン、クロロブタン、ブロモプロパン、ブロモヘキサン、ブロモヘプタン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードオクタン、ヨードオクタデカン、ヨードベンゼン等を挙げることができる。
【0032】
表面改質剤としてハロゲン化アルキル化物を用いた場合は、ハロゲン化アルキル化物とリン酸基が反応して、リン酸エステル結合を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0033】
イソシアネート化合物としては、ブチルイソシアネート、t−ブチルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、オクチルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、フェニルイソシアネート等を挙げることができる。
【0034】
表面改質剤としてイソシアネート化合物を用いた場合は、イソシアネート化合物とリン酸基が反応して、リン酸ウレタン結合を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0035】
エポキシ化合物としては、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、または1,2−エポキシ−7−オクテン、メチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−メチルブチルグリシジルエーテル、エチルヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0036】
表面改質剤としてエポキシ化合物を用いた場合は、エポキシ化合物とリン酸基が反応して、リン酸エステル結合を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0037】
アセチル化物としては、無水酢酸等を挙げることができる。
表面改質剤としてアセチル化物を用いた場合は、アセチル化物とリン酸基が反応して、リン酸カルボン酸無水物を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0038】
トシラート・メシラート・その類似体としては、トルエンスルホン酸メタン、トルエンスルホン酸エタン、トルエンスルホン酸プロピル、トルエンスルホン酸ブチル、メタンスルホン酸メタン、メタンスルホン酸エタン、メタンスルホン酸プロピル、メタンスルホン酸ブチル等を挙げることができる。なお、「トシラート・メシラート・その類似体」は、トシラート、メシラート、トシラートの類似体及びメシラートの類似体から選択される少なくともいずれかであることを意味する。
【0039】
表面改質剤としてトシラート・メシラート・その類似体を用いた場合は、トシラート・メシラート・その類似体とリン酸基が反応して、リン酸エステル結合を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0040】
カルボン酸としては、安息香酸、ヘプタン酸、ノナン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリル酸等を挙げることができる。また、カルボン酸はポリカルボン酸であってもよく、ポリカルボン酸としては、不飽和二塩基酸およびその無水物があり、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロルマレイン酸及びこれらのエステル等があり、ハロゲン化無水マレイン酸等、アコニット酸などのα,β−不飽和二塩基酸やジヒドロムコン酸等のβ,γ−不飽和二塩基酸が挙げられる。また、飽和二塩基酸およびその無水物として、フタル酸、無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ニトロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸及びこれらのエステル等があり、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘット酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、コハク酸無水物、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカン2酸,2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、またこれらのジアルキルエステル等が挙げられる。
カルボン酸はヒドロキシカルボン酸であってもよく、ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、p―ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
【0041】
表面改質剤としてカルボン酸を用いた場合は、カルボン酸とリン酸基が反応して、リン酸カルボン酸無水物を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0042】
ビニル樹脂としては、ビニルモノマーの重合体もしくは共重合体が挙げられる。ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル誘導体、ビニルエステル誘導体、マレイン酸ジエステル誘導体、フマル酸ジエステル誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、スチレン誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルケトン誘導体、オレフィン誘導体、マレイミド誘導体、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。ビニル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル誘導体を重合して得られる(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル誘導体の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸t−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸アセトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸―2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸―2−フェニルビニル、(メタ)アクリル酸―1−プロペニル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸―2−アリロキシエチル、(メタ)アクリル酸プロパルギル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、(メタ)アクリル酸トリエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸トリエチレングリコールモノエチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、(メタ)アクリル酸β−フェノキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸トリフロロエチル、(メタ)アクリル酸オクタフロロペンチル、(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸−γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
ビニルエステル誘導体の例としては、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルメトキシアセテート、および安息香酸ビニル等が挙げられる。
マレイン酸ジエステル誘導体の例としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、およびマレイン酸ジブチル等が挙げられる。
フマル酸ジエステル誘導体の例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、およびフマル酸ジブチルなどが挙げられる。イタコン酸ジエステル誘導体の例としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、およびイタコン酸ジブチル等があげられる。
(メタ)アクリルアミド誘導体の例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチルアクリル(メタ)アミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(2−メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ベンジル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ビニル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、N−アリル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
スチレン誘導体の例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヒドロキシスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、およびα−メチルスチレン等が挙げられる。
ビニルエーテル誘導体の例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテルおよびフェニルビニルエーテル等が挙げられる。
ビニルケトン誘導体の例としては、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、フェニルビニルケトン等が挙げられる。
オレフィン誘導体の例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。
マレイミド誘導体の例としては、マレイミド、ブチルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド等が挙げられる。
その他にも、(メタ)アクリロニトリル、ビニル基が置換した複素環式基(例えば、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ビニルカルバゾールなど)、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクトン等も使用できる。
【0043】
ビニル樹脂は、官能基を有することが好ましい。官能基としては、具体的にはハロゲン基(フッ素、塩素)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、シラノール基、シアノ基等が挙げられ、これらを複数種有していてもよい。また、ビニル樹脂は、直鎖型ポリマーであっても分岐型ポリマーであってもよく、分岐型ポリマーの場合くし型でも星型でもかまわない。
【0044】
表面改質剤としてビニル樹脂を用いた場合は、ビニル樹脂とリン酸基が反応して、リン酸エステル結合を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0045】
アミン化合物としては、EO/PO共重合部を有するアミン、芳香環(アリール基)を持つアミン、芳香環(アラルキル基)を持つアミン、PO重合部を有するアミン、アルキル基(C1〜30)を有する1級アミン、アルキル基(C1〜30)を有する2級アミン、脂環式アルキル基を有するアミン等を挙げることができる。なお、EO/PO共重合部とは、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)がランダム又はブロック状に重合した構造を意味する。
【0046】
表面改質剤としてアミン化合物を用いた場合は、アミン化合物とリン酸基が反応して、リン酸アミド結合を有する炭素数1以上の有機基がリン酸基に共有結合した(a)の基が形成されることとなる。
【0047】
<他の成分>
微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロースの他に他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、水溶性高分子や界面活性剤を挙げることができる。水溶性高分子としては、合成水溶性高分子(例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリアクリルアミドなど)、増粘多糖類(例えば、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチンなど)、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒロドキシエチルセルロースなど)、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類等、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を使用することができる。
【0048】
(微細繊維状セルロース)
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
【0049】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2〜1000nm、より好ましくは2〜100nmであり、より好ましくは2〜50nmであり、さらに好ましくは2〜10nmであるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0050】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0051】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0052】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0053】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1〜1000μmが好ましく、0.1〜800μmがさらに好ましく、0.1〜600μmが特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0054】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0055】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0056】
<リン酸化処理>
本発明においては、微細繊維状セルロースは(a)リン酸基と、炭素数が1以上の有機基とが共有結合してなる基と、(b)炭素数が1以上の有機基を有さないリン酸基を有する。(a)の基は、微細繊維状セルロースに導入されたリン酸基に上述した表面改質剤を反応させることにより導入される。(b)の基は、リン酸基に炭素数が1以上の有機基が結合していない基であり、微細繊維状セルロースに導入されたリン酸基それ自体を指す。(a)の基及び(b)の基はいずれも繊維原料をリン酸化する工程と、表面改質剤を反応させる工程を経て得られるものである。
【0057】
リン酸化処理工程(以下、リン酸基導入工程ともいう)では、上記工程を経て得られた繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩(以下、「化合物A」という。)を反応させることにより行うことができる。この反応は、尿素及び/又はその誘導体(以下、「化合物B」という。)の存在下で行ってもよく、これにより、微細繊維状セルロースのヒドロキシル基に、効率よくリン酸基を導入することができる。
【0058】
リン酸基導入工程は、セルロースにリン酸基を導入する工程を必ず含み、所望により、後述するアルカリ処理工程、余剰の試薬を洗浄する工程などを包含してもよい。
【0059】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0060】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0061】
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0062】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0063】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料に対するリン原子の添加量は0.5〜100質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、2〜30質量%が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0064】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントインなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすく、ヒドロキシル基を有する繊維原料と水素結合を作りやすいことから尿素が好ましい。
【0065】
化合物Bは化合物Aと同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料に対する化合物Bの添加量は1〜300質量%であることが好ましい。
【0066】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0067】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50〜250℃であることが好ましく、100〜200℃であることがより好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0068】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練または/および撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0069】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1〜300分間であることが好ましく、1〜200分間であることがより好ましいが、特に限定されない。
【0070】
また、リン酸基導入工程では、セルロースに導入されたリン酸基に由来する強酸性基と弱酸性基の導入量の差が0.5mmol/g以下になるよう反応させることが、高透明な微細繊維状セルロースを得るために好ましい。リン酸基に由来する強酸性基と弱酸性基の導入量の差は、0.3mmol/g以下になるよう反応させるのがさらに好ましく、0.2mmol/g以下になるよう反応させるのが特に好ましい。
【0071】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0072】
<リン酸基の導入量>
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1〜3.5mmol/gであることが好ましく、0.14〜2.5mmol/gがより好ましく、0.2〜2.0mmol/gがさらに好ましく、0.2〜1.8mmol/gよりさらに好ましく、0.4〜1.8mmol/gが特に好ましく、最も好ましくは0.6〜1.8mmol/gである。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースのスラリーの粘度を適切な範囲に調整することができる。
【0073】
リン酸基の繊維原料への導入量は、上述した伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0074】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸化処理工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0075】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5〜80℃が好ましく、10〜60℃がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5〜30分間が好ましく、10〜20分間がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100〜100000質量%であることが好ましく、1000〜10000質量%であることがより好ましい。
【0076】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0077】
<解繊処理>
リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0078】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0079】
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0080】
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0081】
上述した方法で得られたリン酸基を有する微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース含有スラリー(微細繊維状セルロース分散液)であり、所望の濃度となるように、水で希釈してもよい。すなわち、本発明の微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース含有スラリーであってもよい。この場合、微細繊維状セルロース含有スラリーに含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.3〜3.0質量%であることがより好ましく、0.5〜3.0質量%であることがさらに好ましい。
【0082】
<微細繊維状セルロースへの有機基導入>
リン酸基を有する微細繊維状セルロースの一部には炭素数が1以上の有機基が導入される。このような有機基の導入は、リン酸基を有する微細繊維状セルロースと、セルロースのヒドロキシル基と反応し得る化合物を有する表面改質剤を混合することで行われる。微細繊維状セルロースへの有機基導入工程では、セルロースのヒドロキシル基と反応し得る化合物に応じた溶媒を使用することが好ましく、表面改質剤を混合する工程の前に微細繊維状セルロース分散液の溶媒を置換する工程を設けることが好ましい。また、表面改質剤を混合する工程は、シート化した微細繊維状セルロースに表面改質剤を付与する工程であってもよく、このような場合、表面改質剤を混合する工程の前に微細繊維状セルロースのシートを得る工程を設けてもよい。
【0083】
溶媒としては、用いる表面改質剤によって適宜選択することができる。溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン(THF)、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸、ピリジン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
セルロースのヒドロキシル基と反応し得る化合物の使用量は、反応性の観点から、リン酸基含有微細繊維状セルロースに含有されるリン酸基1molに対して、0.1mol以上であることが好ましく、0.5mol以上であることがより好ましく、1mol以上であることがさらに好ましい。なお、表面改質剤は一度に反応に供しても、分割して反応に供してもよい。
【0085】
リン酸基含有微細繊維状セルロースと表面改質剤を混合する際の混合温度は10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。また、混合温度は150℃以下であることが好ましい。混合時間は、用いる表面改質剤や溶媒の種類に応じて適宜設定することができるが、1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、3時間以上であることがさらに好ましい。
【0086】
混合工程のあとには、適宜後処理を行うことが好ましい。後処理の方法としては、例えば、洗浄、濾過、遠心分離、透析等を用いることができる。
【0087】
以上のようにして、(a)リン酸基と、炭素数が1以上の有機基とが共有結合してなる基と、(b)炭素数が1以上の有機基を有さないリン酸基と、を有する微細繊維状セルロースを得ることができる。
【0088】
上述したように、本発明の微細繊維状セルロース含有物の製造工程は、リン酸基導入工程と、解繊工程と、有機基導入工程をこの順で含む。解繊工程は、リン酸基を有する微細繊維状セルロースを得る工程である。有機基導入工程は、微細繊維状セルロースと表面改質剤を反応させる工程である。必要に応じて有機基導入工程の前に微細繊維状セルロースのシートを得る工程を設けてもよい。
【0089】
(微細繊維状セルロース含有樹脂組成物)
本発明は、上述した微細繊維状セルロース含有物を含む微細繊維状セルロース含有樹脂組成物に関するものであってもよい。微細繊維状セルロース含有樹脂組成物は、微細繊維状セルロース含有物と、樹脂とを含む。本発明では、微細繊維状セルロースが、(a)リン酸基と、炭素数が1以上の有機基とが共有結合してなる基と、(b)炭素数が1以上の有機基を有さないリン酸基と、を有するため、微細繊維状セルロース含有物は樹脂への相溶性に優れており、透明性の高い微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を得ることができる。
【0090】
微細繊維状セルロース含有樹脂組成物に含まれる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の前駆体が加熱により重合硬化した硬化物)、又は光硬化性樹脂(光硬化性樹脂の前駆体が放射線(紫外線や電子線等)の照射により重合硬化した硬化物)等が挙げられる。
【0091】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体又は共重合体、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ABS樹脂)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、不飽和ポリエステル等)、ポリウレタン、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレート共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ポリメタキシリレンアジパミド等)、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂等が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は1種単独でもよいし、2種併用でもよい。
【0092】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、ポリウレタン樹脂、シルセスキオキサン樹脂、またはジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。
【0093】
光硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、上述の熱硬化性樹脂として例示したエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シルセスキオキサン樹脂、またはオキセタン樹脂等が挙げられる。
【0094】
さらに、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または光硬化性樹脂の具体例としては、特開2009−299043号公報に記載のものが挙げられる。
【0095】
(微細繊維状セルロース含有樹脂成形体)
さらに、本発明は、上述した微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を成形した微細繊維状セルロース含有樹脂成形体に関するものであってもよい。本発明では、樹脂との相溶性に優れた微細繊維状セルロース含有物を用いているため、微細繊維状セルロース含有樹脂成形体は、優れた曲げ弾性率を有する。また、微細繊維状セルロース含有樹脂成形体は透明性にも優れている。
【0096】
微細繊維状セルロース含有樹脂成形体の成形方法には特に制限はなく、射出成形法や加熱加圧成形法等を採用することができる。
【0097】
上述した樹脂に対する微細繊維状セルロース含有物の相溶性を向上させるために、例えば、微細繊維状セルロース含有物をシート化したのち、微細繊維状セルロース含有物シートを粉砕して、樹脂と混合しても良い。
粉砕工程においては、公知の粉砕機、例えば、サンプルミル、ハンマーミル、ターボミル、アトマイザー、カッターミル、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ジェットミルなどを使用することができる。またシュレッダーを用いて粉砕しても構わない。
粉砕後には、スクリーンを用いて粉砕物の形状、大きさを篩い分けてもよい。篩い分けすると、上述した樹脂に対する分散性をより高くすることができる。篩い分けに使用されるスクリーンの口径は、0.5〜10mmであることが好ましく、1〜8mmであることがより好ましい、スクリーンの口径が上記下限値以上であれば、粉砕物を容易に作製でき、上記上限値以下であれば、上述した樹脂との相溶性が高くなる。
【0098】
微細繊維状セルロース含有物シートの粉砕物と混合する樹脂の形状は特に制限はなく、例えば、ペレット状、顆粒状、粉体状、繊維状のいずれであってもよい。取り扱い性の点からは、樹脂の形状はペレット状であることが好ましい。
【0099】
混合方法としては、ミキサーを使用して微細繊維状セルロース含有物シートの粉砕物と樹脂とを攪拌する方法が好ましい。ミキサーとしては、例えば、タンブラーミキサー、スーパーミキサー、スーパーフローター、ヘンシェルミキサー等を用いることができる。
少量であれば、手作業で微細繊維状セルロース含有物シートの粉砕物と樹脂とを攪拌して混合しても構わない。
【0100】
また、微細繊維状セルロース含有物と、上述した樹脂との混合方法には公知の方法を採用することができる。例えば、混練機等を用いて溶融混練することが好ましい。
溶融混練の際には、押出機(単軸押出機、二軸押出機)、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いることができ、中でも、連続的に混練できる点で、押出機が好ましい。
【0101】
溶融混練工程における加熱温度は樹脂の溶融のしやすさに応じて決められるが、通常は、100〜300℃の範囲内であり、120〜280℃の範囲内であることがより好ましい。加熱温度が上記下限値以上であれば、樹脂を溶融しやすくなり、樹脂中にセルロース繊維を分散させやすくなり、上記上限値以下であれば、各成分の熱劣化を抑制できる。
【0102】
溶融混練した後には、成形体の使用目的に応じた形状(例えば、ペレット状、シート状、チューブ状、棒状、柱状等)に成形又は加工することができる。
例えば、成形体をペレット状とする場合には、溶融混練後、ストランドを形成し、そのストランドを、ペレタイザを用いて切断してペレット状にする。ペレット状の成形体は、さらなる成形用の材料として使用できる。例えば、ペレット状の成形体を、成形機(例えば、射出成形機、押出成形機等)によって成形することができる。
成形体をシート状とする場合には、溶融混練後、溶融樹脂をスリット状の孔から吐出させることによりシート状にすることができる。シート状の成形体は、さらにプレス成形法又は真空成形法によって成形してもよい。
成形体をチューブ状にする場合には、溶融混練後、溶融樹脂を環状の孔から吐出させることによりチューブ状にすることができる。
成形体を棒状又は柱状にする場合には、溶融混練後、溶融樹脂を孔から吐出させることにより棒状又は柱状にすることができる。
【0103】
(微細繊維状セルロース含有物の形態)
本発明の微細繊維状セルロース含有物は、スラリー等の液状物であってもよく、粉粒状物であってもよい。また、微細繊維状セルロース含有物は、シート状物であってもよい。
【0104】
微細繊維状セルロース含有物が微細繊維状セルロース含有粉粒物である場合、微細繊維状セルロース含有物は、粉状及び/又は粒状の物質からなる。ここで、粉状物質は、粒状物質よりも小さいものをいう。一般的には、粉状物質は粒子径が1nm以上0.1mm未満の微粒子をいい、粒状物質は、粒子径が0.1〜10mmの粒子をいうが、特に限定されない。粉粒物の粒子径はレーザー回折法を用いて測定・算出することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac3300EXII、日機装株式会社)を用いて測定した値とする。
【0105】
微細繊維状セルロース含有物が微細繊維状セルロース含有粉粒物である場合、その製造方法は公知の製造方法を採用することができる。例えば、オーブンドライ法や、スプレードライ法を採用することができる。
【0106】
微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース含有スラリーを塗工もしくは抄紙することで形成されたシート状物であってもよい。また、マトリックス樹脂等と混合して、微細繊維状セルロース含有複合シートとしてもよい。このような微細繊維状セルロース含有複合シートでは、微細繊維状セルロースとマトリックス樹脂が一体化されたシートであってもよい。
【0107】
なお、微細繊維状セルロース含有複合シートは、上述したような微細繊維状セルロース含有シートとマトリックス樹脂からなるシートを積層した積層体であってもよい。マトリックス樹脂としては例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の前駆体が加熱により重合硬化した硬化物)、又は光硬化性樹脂(光硬化性樹脂の前駆体が放射線(紫外線や電子線等)の照射により重合硬化した硬化物)等が挙げられる。
【0108】
微細繊維状セルロース含有複合シートは、さらにその表面に無機膜が積層されてもよい。無機膜を構成する無機材料としては、例えば、白金、銀、アルミニウム、金、若しくは銅等の金属、シリコーン、ITO、SiO
2、SiN、SiOxNy、ZnO等、又はTFT等が挙げられる。
【0109】
(用途)
本発明による微細繊維状セルロース含有物の用途は特に限定されない。一例としては、微細繊維状セルロース含有スラリーを用いて製膜し、各種フィルムとして使用することができる。別の例としては、微細繊維状セルロース含有スラリーは、増粘剤として各種用途(例えば、食品、化粧品、セメント、塗料、インクなどへの添加物など)に使用することができる。さらに、樹脂やエマルションと混合し補強材としての用途に使用することもできる。
【実施例】
【0110】
以下に実験例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実験例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0111】
(実験例1)
[リン酸化パルプの製造]
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙社製のパルプ(固形分93質量%、米坪208g/m
2のシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱した。このようにして、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0112】
[リン酸化パルプの洗浄]
得られたリン酸化パルプ(絶乾質量)100質量部に対して10000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、リン酸化パルプの脱水シートAを得た。
【0113】
[複数回リン酸化]
得られたリン酸化パルプの脱水シートAに対して、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程をさらに2回繰り返した(リン酸化および濾過脱水の合計回数は3回)。このようにして、リン酸化パルプの脱水シートBを得た。
【0114】
[機械処理]
得られたリン酸化パルプの脱水シートBにイオン交換水を添加して、固形分濃度が1.0質量%のパルプ懸濁液とした。このパルプ懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製:アルティマイザー)で245MPaの圧力にて5回パスさせ、微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0115】
[微細繊維状セルロース分散液の溶媒置換]
得られた微細繊維状セルロース分散液を、孔径0.45μmのメンブレンフィルター(アドバンテック社製、親水性PTFE製メンブレンフィルター)上で吸引ろ過し、微細繊維状セルロースウェットシートAを得た。微細繊維状セルロースウェットシートAに、固形分濃度が1.0質量%となるようイソプロピルアルコールを加え、上記メンブレンフィルターで再度吸引ろ過した。その後、イソプロピルアルコール添加、吸引ろ過を2回繰り返し、微細繊維状セルロースウェットシートB(固形分濃度10.0%)を得た。
【0116】
[微細繊維状セルロースへの有機基導入]
微細繊維状セルロースウェットシートBを96.0g分取してフラスコに入れ、25質量%水酸化ナトリウム水溶液3.8gを添加して浸透させた後、イソプロピルアルコール150g、メチルグリシジルエーテル(東京化成工業社製)9.8gを入れ、窒素下で撹拌しながら80℃で5時間反応させた。冷却後、酢酸で中和し、イソプロピルアルコールと水で洗浄した。上記の手順により、微細繊維状セルロースのリン酸基に2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル基が導入された微細繊維状セルロース含有物を得た。
【0117】
[微細繊維状セルロース含有物のシート化]
得られた微細繊維状セルロース含有物を孔径0.45μmのメンブレンフィルター(アドバンテック社製、親水性PTFE製メンブレンフィルター)上に平坦に展開し、吸引ろ過を行った。次いで、温度100℃に設定した回転乾燥機(ジャポー社製、L−30)に2回パスさせ(一回当たりの処理時間は7分間とした)、微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られた微細繊維状セルロース含有シートの固形分率は50質量%であった。
【0118】
[微細繊維状セルロース含有シートと樹脂の混合]
得られた微細繊維状セルロース含有シートを、カッターミル(イワタニ社製、IFM−720G)を用いて粉砕後、5mmのスクリーンを通過させて成形用粉砕物を得た。成形用粉砕物31.0質量部と、マトリックス樹脂としてのホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製、ノバテックMA3)のペレット68.5質量部と、酸化防止剤(BASF社製、イルガノックスB225)0.5質量部とをドライブレンドして、微細繊維状セルロースを含有した樹脂混合物を得た。
【0119】
次いで、樹脂混合物を、小型二軸混練機(DSM Xplore社製「MC15」)に投入し、5分間溶融混練した。その際のバレル温度は200℃、スクリュー回転数は50rpmとした。5分経過後、樹脂吐出口から溶融樹脂を棒状に押出し、ステンレス製トレーの上に載せ、室温で冷却して固化させた後、ペレット状に裁断した微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を得た。
【0120】
[評価]
実験例1で得られたペレット状の微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を射出成形することで、微細繊維状セルロース含有樹脂成形体を得た。この成形体について、以下の方法により、曲げ弾性率を測定した。その結果、実験例1で得られた微細繊維状セルロース含有樹脂組成物から成形された微細繊維状セルロース含有樹脂成形体は、曲げ弾性率に優れていた。
また、微細繊維状セルロース含有樹脂成形体における微細繊維状セルロースの分散性を評価した。実験例1で得られた微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を成形した微細繊維状セルロース含有樹脂成形体における微細繊維状セルロースの分散性は優れていた。
【0121】
[曲げ弾性率の測定]
実験例1で得られた微細繊維状セルロース含有樹脂成形体を射出成形機(日精樹脂株式会社製、PNX−III)により射出成形して試験片を作製した。試験片としては曲げ試験用の多目的試験片(JIS K 7139:A型)を作製した。上記試験片を用い、JIS K 7171に準じて、曲げ弾性率を測定した。曲げ試験機として、引張・圧縮試験機(ヤマト科学社製、テンシロンRTF−2430)を用い、曲げ速度は5mm/分とした。
【0122】
[微細繊維状セルロースの分散性]
曲げ試験用に作製した多目的試験片の目視観察し、以下の基準に従って微細繊維状セルロースのマトリックス樹脂中での分散性を評価した。
○:多目的試験片に微細繊維状セルロースの凝集物が確認されない
△:多目的試験片に微細繊維状セルロースの凝集物が若干確認されるが、実用上問題とならないレベルである。
×:多目的試験片に微細繊維状セルロースの凝集物が多数確認され、実用不可のレベルである。
【0123】
(実験例2〜102)
微細繊維状セルロースへの有機基導入工程における表面改質剤及び表面改質反応条件を下記の表1〜4の通りとし、実験例2〜102の微細繊維状セルロース含有物を得ることができる。
【0124】
(実験例103)
実験例1で用いた微細繊維状セルロース分散液を、孔径0.45μmのメンブレンフィルター(アドバンテック社製、親水性PTFE製メンブレンフィルター)上に平坦に展開し、吸引ろ過を行った。次いで、温度100℃に設定した回転乾燥機(ジャポー社製、L−30)に2回パスさせ(一回当たりの処理時間は7分間とした)、微細繊維状セルロース含有シートCを得た。得られた微細繊維状セルロース含有シートCの固形分率は50質量%であった。
微細繊維状セルロース含有シートとして、微細繊維状セルロース含有シートCを用いた以外は、実験例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を得た。
【0125】
(実験例104)
微細繊維状セルロース含有シートを用いず、ホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製、ノバテックMA3)のペレット100質量部と、酸化防止剤(BASF社製、イルガノックスB225)0.5質量部とをドライブレンドして、樹脂混合物を得た以外は、実験例1と同様にして、ペレット状に裁断した有機樹脂組成物を得た。
【0126】
実験例103及び104を除き、いずれの実験例においても、(a)の基および(b)の基を有していることが確認できる。実験例1〜102で得られた微細繊維状セルロース含有樹脂成形体は、曲げ弾性率に優れている傾向が見られる。また、実験例1〜102で得られた微細繊維状セルロース含有樹脂成形体においても微細繊維状セルロースの分散性は良好な傾向がある。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】