特許第6520722号(P6520722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6520722ビニル系重合体粒子および該粒子を含有する組成物
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  • 特許6520722-ビニル系重合体粒子および該粒子を含有する組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6520722
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】ビニル系重合体粒子および該粒子を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/12 20060101AFI20190520BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20190520BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20190520BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20190520BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   C08F8/12
   C08F220/18
   C09D11/00
   C09D201/00
   D01F1/10
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-556757(P2015-556757)
(86)(22)【出願日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】JP2014083544
(87)【国際公開番号】WO2015104971
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2017年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-1197(P2014-1197)
(32)【優先日】2014年1月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田喬是
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−540721(JP,A)
【文献】 特表2004−511633(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/101197(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/125407(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/090417(WO,A1)
【文献】 特公昭43−023462(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F8/12
C08F20/00−20/70
C08F220/00−220/70
C09D5/00−201/10
D01F1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜10mmol/gのカルボキシル基を有し、かつエステル系架橋剤およびエステル構造を有さないエーテル系架橋剤を共重合成分として含む球状のビニル系重合体粒子であって、前記エステル系架橋剤の共重合割合が5〜30重量%であり、かつ前記エステル構造を有さないエーテル系架橋剤の共重合割合が0.01〜10重量%であることを特徴とするビニル系重合体粒子
【請求項2】
粒子内部に微小粒子状の添加剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のビニル系重合体粒子。
【請求項3】
下記式で示される水膨潤度の値が1〜3であることを特徴とする請求項1または2に記載のビニル系重合体粒子。
式:[水膨潤度]=X/Y
ここで、
X:1gの粒子を直径16.5mmの試験管に入れ、次いで10mlの目盛りまで水を添加し、試験管を垂直にして静置した後の試験管底部から沈降粒子の最上部までの高さ
Y:1gの粒子を直径16.5mmの試験管に入れ、次いで10mlの目盛りまでメチルエチルケトンを添加し、試験管を垂直にして静置した後の試験管底部から沈降粒子の最上部までの高さ
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のビニル系重合体粒子を含有する樹脂成型体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のビニル系重合体粒子を含有する塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のビニル系重合体粒子を含有するインキ組成物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のビニル系重合体粒子を含有する繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系重合体粒子および該粒子を含有する樹脂成型体や各種組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸湿性を有する樹脂粒子として、いくつかのものが提案されている。例えば、特許文献1には、ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0〜15.0重量%である架橋アクリロニトリル系重合体微粒子であり1.0mmol/g以上の塩型カルボキシル基が導入されてなることを特徴とする高吸放湿性微粒子が開示されている。しかしながら、該粒子はヒドラジン架橋構造に由来する濃いピンク色を有しているため、使用用途が限定されている。
【0003】
また、特許文献2には、カリウム塩型カルボキシル基を1.0〜8.0meq/g含有し、かつジビニルベンゼンを共重合することによって得られる架橋構造を有するビニル系重合体である吸放湿性重合体が開示されている。しかしながら、ジビニルベンゼンは臭気が強い、重合率が低い、残留モノマーの除去に手間がかかるなど、製造面における問題がある。
【0004】
さらに、特許文献3には、架橋ポリアクリル酸エステル粒子の表面にあるカルボン酸エステルを加水分解して得られる保湿性粒子が開示されている。しかしながら、該粒子を得るためには、加水分解工程をアルカリ水溶液と有機溶媒の混合溶媒中で実施しなければならず、さらに、乾燥状態にするためには、メタノールやジエチルエーテルなどの有機溶媒で水を置換した上で乾燥させなければならないなど、生産工程に有機溶媒をしなければならず、工程複雑化や環境負荷といった点で問題がある。また、該粒子の表面には多くの亀裂があり、乾燥時に表層部が崩れて微粉化するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−225610号公報
【特許文献2】特開2009−074098号公報
【特許文献3】特開2011−126979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来の吸放湿性粒子は、用途、生産工程、耐久性などに課題を有するものであった。本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、任意の色にすることが可能で、かつ生産が容易であり、乾燥などによっても微粉化しない吸放湿性粒子および該粒子を含有する樹脂成型体、各種組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明の上記目的は、以下の手段により達成される。
(1) 1〜10mmol/gのカルボキシル基を有し、かつエステル系架橋剤およびエステル構造を有さないエーテル系架橋剤を共重合成分として含む球状のビニル系重合体粒子であって、前記エステル系架橋剤の共重合割合が5〜30重量%であり、かつ前記エステル構造を有さないエーテル系架橋剤の共重合割合が0.01〜10重量%であることを特徴とするビニル系重合体粒子
【0008】
) 粒子内部に微小粒子状の添加剤を含有することを特徴とする(1)に記載のビニル系重合体粒子。
) 下記式で示される水膨潤度の値が1〜3であることを特徴とする(1)または)に記載のビニル系重合体粒子。
式:[水膨潤度]=X/Y
ここで、
X:1gの粒子を直径16.5mmの試験管に入れ、次いで10mlの目盛りまで水を添加し、試験管を垂直にして静置した後の試験管底部から沈降粒子の最上部までの高さ
Y:1gの粒子を直径16.5mmの試験管に入れ、次いで10mlの目盛りまでメチルエチルケトンを添加し、試験管を垂直にして静置した後の試験管底部から沈降粒子の最上部までの高さ
【0009】
) (1)〜()のいずれかに記載のビニル系重合体粒子を含有する樹脂成型体。
) (1)〜()のいずれかに記載のビニル系重合体粒子を含有する塗料組成物。
) (1)〜()のいずれかに記載のビニル系重合体粒子を含有するインキ組成物。
) (1)〜()のいずれかに記載のビニル系重合体粒子を含有する繊維構造物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のビニル系重合体粒子は、優れた吸放湿性能等を有しつつ、粒子内部に様々な添加剤を含有させることが容易であるため、例えば、顔料を含有させることによって、任意の色を有する吸放湿性粒子とすることが可能である。かかる本発明のビニル系重合体粒子は、例えば、外観が重視される合成皮革、フィルムなどの樹脂成型体、塗料やインキなどの組成物、不織布、紙、布帛などの繊維構造物などにおける吸放湿性付与剤として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のビニル系重合体粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のビニル系重合体粒子はカルボキシル基を有するものである。カルボキシル基は、親水性の高い極性基であり、該基を含有することにより、本発明のビニル系重合体粒子の吸放湿性が発現される。特に、カルボキシル基のカウンターイオンが水素イオン以外のイオンである場合(以下、このようなカルボキシル基を塩型カルボキシル基という)、優れた吸放湿性を発現させることが可能である。
【0013】
かかる塩型カルボキシル基の塩の型、すなわちカウンターカチオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等のその他の金属、NH、アミン等が挙げられる。なかでも、より高い吸放湿性、利用のしやすさ、安全性の観点などからNa、K、Mg、Ca、Zn、Al、Ag、NH等が好ましい。
【0014】
一方、カルボキシル基のカウンターカチオンが水素イオンである場合(以下、H型カルボキシル基という)にも、塩型カルボキシル基ほどではないが吸放湿性を発現させることができる。さらに、アンモニアや有機アミン化合物などの塩基性物質の吸着性、抗ウイルス性、あるいは抗アレルゲン性などについて、優れた性能を発現させることができる。
【0015】
なお、本発明においては、上述した各種のカルボキシル基が混在していても構わず、求められる性能に応じて適宜組み合わせることができる。
【0016】
本発明のビニル系重合体粒子におけるカルボキシル基の量としては、好ましくは1〜10mmol/g、より好ましくは3〜9mmol/g、さらに好ましくは5〜8mmol/gである。カルボキシル基量が10mmol/gを超える場合、後述する架橋構造の割合が少なくなりすぎ、高吸水性樹脂に近いものとなって、吸湿によって粘着性がでる、水膨潤による体積変化が激しくなるなどといった問題が生じてくる。一方、カルボキシル基量が少なくなるほど吸放湿性は低下してゆき、特に1mmol/gより少ない場合では、十分な吸放湿湿性能を得られない場合が多い。
【0017】
ビニル系重合体粒子へのカルボキシル基の導入の方法としては、加水分解などの化学変性によりカルボキシル基に変換可能な構造を有する単量体を共重合成分に用いて得られた重合体粒子に、化学変性によりカルボキシル基を導入し、その後、所望のカウンターイオンを有するカルボキシル基に変える方法が挙げられる。
【0018】
加水分解処理すればカルボキシル基を得られる構造を有する単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等の無水物およびその誘導体であり、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ノルマルプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸ノルマルオクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート等のエステル化合物、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、モノエチル(メタ)アクリルアミド、ノルマル-t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド等が例示できる。
【0019】
また、カルボキシル基を所望の塩型にする方法としては、得られた重合体粒子にLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属イオン、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属イオン、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等の他の金属イオン、NH、アミン等の有機の陽イオン等の所望のカウンターイオンを大量に含む溶液や酸を作用させてイオン交換を行う等の方法を挙げることができる。
【0020】
また、本発明のビニル系重合体粒子はエステル系架橋剤およびエーテル系架橋剤を共重合させて架橋構造を導入したものである。上述したように本発明のビニル系重合体粒子は水との親和性の高いカルボキシル基を多量に含有するため、水に接することで、粘着性を帯びたり、水に激しく膨潤したり、場合によっては水に溶解したりする可能性があり、このような粒子を樹脂等に配合した場合、特性に悪影響を与える場合がある。架橋構造はかかる不具合が起こらないようにするためのものである。
【0021】
本発明において採用するエステル系架橋剤とは、エステル構造と、2つ以上、好ましくは3つ以上の二重結合を有するものである。かかるエステル系架橋剤としては、ジ(メタ)アクリレート類、トリ(メタ)アクリレート類、テトラ(メタ)アクリレート類、ヘキサ(メタ)アクリレート類などを挙げることができる。ここで、(メタ)アクリレートとの表記はメタアクリレートとアクリレートの両者を表す。
【0022】
具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどを例示することができる。
【0023】
また、本発明において採用するエーテル架橋剤とは、エーテル結合と、2つ以上、より好ましくは3つ以上の二重結合を有するものであって、かつエステル構造を有さないものである。かかるエーテル系架橋剤としては、アリルエーテル類、アリルビニルエーテル類、ビニルエーテル類などが挙げられる。これらの中でも、3つ以上の二重結合を有するものがより好ましい。具体的には、ジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、アリルビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテルなどを例示することができる。
【0024】
本発明においては、上述したエステル系架橋剤とエーテル系架橋剤の両方を用いることが必要である。エステル系架橋剤のみを用いた場合には、後述する加水分解において粒子がゲル化して、その後の脱水、乾燥に多くの時間が必要となる。また、乾燥後に粒子同士が合一し、解砕等において多くの時間を要し、粒子形状も損なわれやすくなる。これは、加水分解によって、エステル系架橋剤のエステル構造の多くが分解されて架橋構造の数が少なくなってしまうことによるものと考えられる。
【0025】
また、エーテル系架橋剤のみを用いた場合には、後述する加水分解後の脱水、乾燥においては、上述のエステル系架橋剤のみを用いた場合ほどには時間を要しない。しかし、再度吸水すると激しく膨潤するため、該粒子を添加した樹脂成型体などにおいて、水濡れ時などに形状が変形したり、脆いゲルが脱落したりするなどの不具合が生じる。
【0026】
一方、上述したエステル系架橋剤とエーテル系架橋剤の両方を用いた場合には、加水分解後にゲル化することなく、脱水も容易に行うことができ、球状の粒子を得ることができる。また、得られた粒子は水に濡れても膨潤が抑制されるので、上記のような不具合も起こりにくい。
【0027】
エステル系架橋剤とエーテル系架橋剤の両方を用いた場合のかかる有利な効果を得るためには、エステル系架橋剤の共重合割合としては、好ましくは5〜30重量%であり、より好ましくは10〜30重量%である。また、エステル構造を有さないエーテル系架橋剤の共重合割合としては、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0028】
また、本発明のビニル系重合体粒子は球状を有するものである。具体的には、後述する方法で測定した円形度が0.90以上、より好ましくは0.95以上であるものである。球状であることにより、樹脂などに混合する際の撹拌等によって粒子が割れたり、欠けたりすることが起こりにくくなり、微粉化を抑制することができるので、樹脂成型体等に安定した機能付与を行うことができる。
【0029】
また、本発明のビニル系重合体粒子の水膨潤度としては、後述する方法で測定した数値が好ましくは1〜3、より好ましくは1.5〜3である。かかる水膨潤度が3を超える場合には、乾燥時と吸湿時の粒子の体積変化が過大となり、樹脂成型体などの添加剤として用いた場合に、樹脂成型体の変形や劣化促進、あるいは樹脂成型体からの粒子脱落などの不具合を生じやすくなる。一方、水膨潤度が1に満たない場合には、吸湿量が過度に制限されて十分な吸放湿性能を得られない場合がある。かかる水膨潤度は、ビニル系重合体粒子中のカルボキシル基量、カウンターイオンの種類、架橋剤の共重合割合などを調節することによって制御することができる。
【0030】
また、本発明のビニル系重合体粒子は後述するように懸濁重合を経て製造することができる。懸濁重合においては媒体中にモノマー滴を分散させて重合を行うが、本発明においては、このモノマー滴中に添加剤を含有させて重合することにより、上述した吸放湿性能などの機能ほかに、様々な機能を付加することが可能である。かかる添加剤としては、防腐剤、防かび剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、芳香剤、消臭剤、吸着材、無機系吸湿剤、光触媒粒子など、様々なものを挙げることができるが、加水分解処理を経ても機能が維持されるもの好ましい。なお、複数の添加剤を用いてもよいことは言うまでもない。
【0031】
中でも、本発明のビニル系重合体粒子において顔料を添加した場合には、所望の色を有する吸放湿性粒子を得ることができる。このような吸放湿性粒子は、外観が重視される合成皮革、フィルムなどの樹脂成型体、塗料やインキなどの組成物、不織布、紙、布帛などにおいて、外観に違和感を与えることなく、吸放湿性を付与することができるため極めて有用である。
【0032】
採用しうる顔料としては、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料やアゾ系顔料、多環式系顔料などの有機顔料などが挙げられる。このうち、無機顔料としては、亜鉛華、鉛白、リトポン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、鉛丹、酸化鉄赤、黄鉛、亜鉛黄、ウルトラマリン青、プロシア青、カーボンブラック、チタンブラックなどが挙げられる。また、アゾ系顔料としては、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などが挙げられ、多環式系顔料としては、フタロシアニン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料などが挙げられる。この他に、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料なども顔料として挙げられる。
【0033】
かかる添加剤の添加量としては、特に制限はなく、所望の機能が達成できるように設定することが可能であるが、例えば、顔料の場合であれば、十分な発色が得られ、安定的に重合を行う観点から、ビニル系重合体粒子を構成する重合体重量に対して、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.4〜3重量%の範囲で使用することが望ましい。
【0034】
また、本発明のビニル系重合体粒子の平均粒子径としては、好ましくは1〜500μm、より好ましくは5〜150μmである。平均粒子径が500μmを超えると樹脂に添加して成型する際などに成型不良などが発生しやすく、成型できても表面の凹凸が激しく外観不良となったり、使用時に粒子が脱落したりするなどの不具合を引き起こす場合がある。一方、1μm未満とすることは懸濁重合においては難しい。
【0035】
また、上述してきた本発明のビニル系重合体粒子を樹脂成型体などに吸放湿性能を付与する目的で使用する場合、該粒子の20℃×65%RH条件下での飽和吸湿率としては、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上とすることが望ましい。かかる飽和吸湿率は、主に粒子中の塩型カルボキシル基量を変化させることなどで調整することが可能である。
【0036】
本発明のビニル系重合体粒子の製造方法としては、懸濁重合法で得られた粒子を加水分解する方法を挙げることができる。具体的には、まず、上述した化学変性によりカルボキシル基に変換可能な構造を有する単量体、エステル系架橋剤、エステル構造を有さないエーテル系架橋剤、重合開始剤、および、必要に応じて、上述した添加剤やその他のビニル系単量体を混合した単量体混合物を液滴として水性媒体に分散させ、加熱して重合を行い、原料粒子を得る。
【0037】
次いで、該原料粒子をアルカリ性化合物溶液、鉱酸溶液、または有機酸溶液中で加水分解を行い、その後、必要に応じて、所望のカウンターイオンを大量に含む溶液や酸を作用させてイオン交換を行うことにより製造することができる。ここで、加水分解に用いるアルカリ性化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アンモニア等、鉱酸としては硝酸、硫酸、塩酸等、有機酸としては蟻酸、酢酸等を挙げることができる。
【0038】
上述のようにして得られる本発明のビニル系重合体粒子は、樹脂成型体、塗料組成物、インキ組成物、繊維構造物などのさまざまな材料、組成物に含有させることによって、その材料、組成物に吸放湿性、消臭性、塩基性物質吸着性、抗ウイルス性、あるいは抗アレルゲン性などの機能を付与することができる。特に、本発明のビニル系重合体粒子は顔料により任意の色に着色できるため、色を重視する材料、組成物に好適に使用することができる。
【0039】
本発明の樹脂成型体としては、繊維、合成皮革、人工皮革、フィルム、シートなどを挙げることができる。例えば、繊維の場合であれば、ウレタン樹脂をジメチルアセトアミドに溶解させた紡糸原液やアクリロニトリル系重合体をチオシアン酸ナトリウム水溶液に溶解させた紡糸原液などに本発明のビニル系重合体粒子を混合して常法の紡糸法により繊維形態に加工することで吸放湿性能を有するウレタン繊維やアクリル繊維を製造することができる。
【0040】
また、人工皮革の場合であれば、ジメチルホルムアミドにウレタン樹脂を溶解させた液体に本発明のビニル系重合体粒子を混合した後にポリエステル繊維で構成された不織布にコーティングを行い、その後水溶液中で脱溶媒、乾燥することで吸放湿性能を有する人工皮革を製造することができる。
【0041】
本発明の繊維構造物としては、糸、編物、織物、不織布、紙などを挙げることができる。これらのものは、上記のようにして得られる本発明のビニル系重合体粒子を含有させた繊維を用いて作製することができるほか、通常の糸、編物、織物、不織布、紙などに本発明のビニル系重合体粒子を固着させることによって作製することも可能である。
【0042】
上述したような材料や組成物における本発明のビニル系重合体粒子の添加量としては、目的とする吸放湿性、消臭性、塩基性物質吸着性、抗ウイルス性、あるいは抗アレルゲン性などの機能を発現できるように適宜設定することができるが、例えば、樹脂成型体の場合であれば、樹脂成型体全体の重量に対して5〜60重量%とするのが好ましい。5重量%未満であると本発明のビニル系重合体粒子の特性を活かしたものとならない場合があり、60重量%を超える場合には、成型体の強度等の物性の低下や摩擦などによるビニル系重合体粒子の脱落などの問題が発生する場合がある。
【実施例】
【0043】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。まず、各特性の評価方法について説明する。
【0044】
(1)円形度
本発明における円形度とは下記式にて算出される粒子の円形度を指して言う。
粒子投影像の円形度=(粒子投影面積と同じ面積の円の周長)/(粒子投影像の周長)
粒子投影像の円形度の平均値=粒子の円形度
すなわち、円形度は真円の場合に1となり、不定形の度合いが増すにつれ、より小さい値となる。かかる円形度は、例えば、シスメックス株式会社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000S」を用いて測定することができる。
【0045】
(2)脱水性
試料粒子を5%含有する水分散体を作成し、該水分散体を吸引濾過した時の状態を以下の基準によって評価した。
○:吸引開始後1時間以内に濾過が完了する
×:吸引開始後1時間を経過しても濾過が完了しない
【0046】
(3)カルボキシル基量
試料を水中に分散し、1Nの塩酸を添加してpH2.0に調整する。次いで、試料を濾別、乾燥し重量(W1[g])を測定する。重量測定後の試料を水中に再分散し、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液により滴定を行う。得られる滴定曲線から、カルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V[ml])を求め、次式によってカルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=0.1×V/W1
【0047】
(4)水膨潤度
直径16.5mmの試験管に乾燥させた試料粒子1gを入れる。次いで、10mlの目盛りまで水を添加し、該粒子を膨潤させる。試験管を垂直にして60時間静置した後、試験管底部から沈降した粒子の最上部までの高さ(X[cm])を測定する。他方、水のかわりにメチルエチルケトンを使用すること以外は同様にして、試料粒子をメチルエチルケトンに膨潤させたときの試験管底部から沈降した粒子の最上部までの高さ(Y[cm])を測定する。得られる測定値から、次式によって水膨潤度を算出する。
水膨潤度=X/Y
【0048】
(5)平均粒子径
島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD-200V」を使用して水を分散媒として測定し、体積基準で表した粒子径分布から、平均粒子径(μm)を求める。
【0049】
(6)粒子の飽和吸湿率
試料約5.0gを105℃、16時間乾燥して重量(W2[g])を測定する。次に該試料を温度20℃、相対湿度65%に調節した恒温恒湿器に24時間入れる。このようにして吸湿した試料の重量(W3[g])を測定する。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]=(W3−W2)/W2×100
【0050】
(7)シートの吸湿量
1辺が10cmの正方形の試料を105℃、16時間乾燥して重量(W4[g])を測定する。次に該試料を温度20℃、相対湿度40%に調節した恒温恒湿器に16時間入れる。このようにして吸湿した試料の重量(W5[g])を測定する。次に、測定後の試料を温度40℃、相対湿度90%に調節した恒温恒湿器に2時間入れた後、試料の重量(W6[g])を測定する。以上の測定結果から、各条件下におけるシートの吸湿率を次式によって算出する。
温度20℃、相対湿度40%下での吸湿率[g/m]=(W5−W4)/0.01
温度40℃、相対湿度90%下での吸湿率[g/m]=(W6−W4)/0.01
【0051】
[実施例1]
アクリル酸メチル82部、トリメチロールプロパントリメタアクリレート17部、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル1部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1部からなる単量体混合物を、水400部に分散させる。次いで、50℃で2時間重合を行い、水洗、脱水して原料粒子を得る。該原料粒子150部と水810部を混合し、水酸化ナトリウム40部を添加して、95℃で10時間加水分解を行い、水洗、脱水、乾燥、解砕を行うことで、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する実施例1のビニル系重合体粒子を得た。該粒子の特性を評価した結果を表1に示す。また、該粒子のSEM写真を図1に示す。
【0052】
[比較例1]
実施例1における単量体混合物の代わりに、アクリル酸メチル80部、トリメチロールプロパントリメタアクリレート20部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1部からなる単量体混合物を用いること以外は実施例1と同様にして、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する比較例1の粒子を得た。該粒子の特性を評価した結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
実施例1における単量体混合物の代わりに、アクリル酸メチル80部、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル20部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1部からなる単量体混合物を用いること以外は実施例1と同様にして、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する比較例2の粒子を得た。該粒子の特性を評価した結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
実施例1における単量体混合物の代わりに、アクリル酸メチル80部、トリメチロールプロパントリメタアクリレート19部、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル1部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1部、およびカーボンブラック2部からなる単量体混合物を用いること以外は実施例1と同様にして、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する実施例2のビニル系重合体粒子を得た。該粒子の特性を評価した結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
実施例1における単量体混合物の代わりに、アクリル酸メチル85部、トリメチロールプロパントリメタアクリレート10部、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル5部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1部からなる単量体混合物を用いること以外は実施例1と同様にして、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する実施例3のビニル系重合体粒子を得た。該粒子の特性を評価した結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
実施例1における単量体混合物の代わりに、アクリル酸メチル69.5部、トリメチロールプロパントリメタアクリレート30部、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル0.5部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1部からなる単量体混合物を用いること以外は実施例1と同様にして、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する実施例4のビニル系重合体粒子を得た。該粒子の特性を評価した結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1からわかるように、エーテル系架橋剤を使用しない比較例1およびエステル系架橋剤使用しない比較例2においては、脱水性が不良で、水膨潤度が大きいものであった。特に比較例1においては、加水分解後の脱水、解砕において、他の例よりもかなり多くの時間が必要であった。実施例2では、顔料としてカーボンブラックを添加しているが、得られた粒子は良好な黒色を発色するとともに、顔料を添加していない実施例1と同等の吸湿性能を有するものであった。
【0059】
[実施例5]
実施例2のビニル系重合体粒子67部、ウレタン樹脂「クリスボンNY−373」(DIC株式会社製)500部(固形分20%)、ジメチルホルムアミド175部を混合し、剥離紙上に塗工する。次いで、塗工後の剥離紙を水に浸漬して、脱溶媒を行い、乾燥させて、本発明のビニル系重合体粒子を含有するウレタン樹脂シートを得た。該シートの目付は145g/mであった。
【0060】
また、上記に記載の方法に従い該シート吸湿量を測定したところ、温度20℃、相対湿度40%下においては14.9g/mであり、温度40℃、相対湿度90%下においては47.8g/mであった。一方、ウレタン樹脂「クリスボンNY−373」のみを用いて作製したシートについて同様の吸湿量測定をした結果は、温度20℃、相対湿度40%下において0.28g/mであり、温度40℃、相対湿度90%下においては0.32g/mであった。以上から、本発明のビニル系重合体粒子を含有させることにより、吸湿性が高いシートを得ることがわかる。また、該シートは、低湿度雰囲気下と高湿度雰囲気下での吸湿量の差が大きいことから、高湿度雰囲気下で吸湿した水分を低湿度雰囲気下で放湿するといった湿度調整などにも利用可能なものである。
図1