(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸音材等を自動車の室内の天井に貼り付ける作業を、作業者の手作業によって行う場合には、作業者は貼付けの確認をしながら上向き作業を行う必要があり、作業者の負担が大きい。また、この貼付け作業を、産業用ロボットを利用して行う場合には、型枠治具又はローラ治具による押付位置が、産業用ロボットの移動先端部から離れるほど、大きな可搬質量の産業用ロボットが必要になり、設備が大型化する。
【0006】
また、型枠治具を用いる場合には、型枠治具の全体を同時に吸音材に当接させるために、大きな出力を有するアクチュエータが必要になる。また、ローラ治具を用いる場合には、ローラ治具を吸音材に順次当接させるために、大きなストロークを有するアクチュエータが必要になる。なお、特許文献1においても、動力源としてのアクチュエータを小型化する工夫はなく、設備を小型化する工夫もない。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、動力源としてのアクチュエータを小型化することができるとともに、設備を小型化することができる押付治具を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ベース部材と、
該ベース部材に取り付けられ、長尺状に伸びる押付面を有し、該押付面が平面状になる平面状態と、上記押付面が曲面状になる曲面状態とを形成可能な押付部材と、
上記ベース部材に一端が取り付けられ、上記押付部材における先端側部位に他端が取り付けられた弾性変形可能な弾性部材と、
該弾性部材に一端が回動可能に取り付けられ、上記押付部材に他端が移動可能に接触する回動リンクと、
該回動リンクに一端が回動可能に取り付けられ、上記ベース部材に他端が回動可能に取り付けられた複動可能なアクチュエータと、を備え、
該アクチュエータによる力が、上記回動リンク及び上記弾性部材を介して、上記曲面状態から上記平面状態に変化する過程の上記押付部材に伝達される、押付治具にある。
【発明の効果】
【0009】
上記押付治具は、平面状態と曲面状態とを形成可能な押付部材、並びにアクチュエータの動作を受けて押付部材に力を伝達できる回動リンク及び弾性部材を備える。そして、アクチュエータによる力を、回動リンク及び弾性部材を介して、曲面状態から平面状態に変化する過程の押付部材に適切に伝達することができる。また、弾性部材による剛性を利用して、押付部材を支えることができる。そのため、出力及びストロークが小さなアクチュエータを用いる場合でも、押付部材の押付面が、押付対象物の曲面に倣って押付対象物に適切な力で押し付けられる。また、押付治具は、曲面形状が異なる種々の押付対象物に対しても柔軟に対応することができ、種々の押付対象物の曲面に倣って、押付部材の押付面を押し付けることができる。
【0010】
さらに、アクチュエータによる力を押付部材に適切に伝達できることにより、押付治具を産業用ロボットの移動先端部に取り付けて使用する場合には、可搬質量の小さな産業用ロボットを用いることができる。そのため、押付治具が装着される設備を小型化することができる。
それ故、動力源としてのアクチュエータを小型化することができるとともに、設備を小型化することができる押付治具を提供することができる。
【0011】
上記曲面状態は、連続的な曲面だけでなく、断続的な平面によって形成される曲面であってもよい。また、曲面状態は、全体が曲面である必要はなく、部分的な平面と部分的な曲面とが合わさった状態であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述した押付治具にかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
押付治具1は、
図1に示すように、ベース部材2、押付部材3、弾性部材としての板バネ4、回動リンク5、及びアクチュエータとしてのシリンダー6を備える。押付部材3は、ベース部材2に一端が取り付けられており、長尺状に伸びる押付面301を有する。押付部材3は、
図2に示すように、押付面301が長尺方向Lに沿って平面状になる平面状態X1と、
図3に示すように、押付面301が長尺方向Lに沿って曲面状になる曲面状態X2とを形成可能である。板バネ4は、弾性変形可能な帯状の鋼材によって構成されている。板バネ4の一端は、ベース部材2に取り付けられており、板バネ4の他端は、押付部材3における先端側部位に取り付けられている。
【0014】
図1に示すように、回動リンク5は、板バネ4に一端が回動可能に取り付けられており、押付部材3に他端が移動可能に接触している。シリンダー6は、複動可能であり、回動リンク5に一端が回動可能に取り付けられており、ベース部材2に他端が回動可能に取り付けられている。押付治具1は、
図4に示すように、シリンダー6による力が、回動リンク5及び板バネ4を介して、曲面状態X2から平面状態X1に変化する過程の押付部材3に伝達されるよう構成されている。また、押付治具1は、
図6、
図7に示すように、シリンダー6の動作を受けて、押付部材3が曲面状態X2から平面状態X1に変化する過程において、板バネ4の剛性を利用して、押付部材3の押付面301が、押付対象物8の曲面に倣って押付対象物8に押し付けられるよう構成されている。
【0015】
以下、本形態の押付治具1について詳説する。
図5〜
図7に示すように、押付治具1は、産業用ロボット7における、三次元に位置及び姿勢を変更可能な移動先端部71に取り付けられて使用される。また、押付治具1は、押付対象物8としての車体の室内の天井に、貼付ワーク81としての吸音材を貼り付けるために用いられる。貼付ワーク81の裏面(上面)には、両面テープが設けられ、貼付ワーク81は、この両面テープによって天井に貼り付けられる。
【0016】
車体の天井は、車幅方向に向けて曲面状に形成されている。車体の天井の曲面は、車幅方向の外側に近づくほど曲率半径が小さくなる曲面に形成されている。押付部材3は、この曲面状の天井に、曲面状態X2から平面状態X1に変化する過程において押し付けられる。
車体は、バス、ワンボックス、ミニバン等の車体とすることができ、産業用ロボット7の移動先端部71及び押付治具1は、車体の左右の側方における窓部82を介して、車体の室内に配置される。産業用ロボット7は、サーボモータによって駆動される多関節ロボットであり、可動範囲を広げるための助長軸を有するものである。
【0017】
図1に示すように、押付治具1は、産業用ロボット7の移動先端部71に取り付けられるフレーム部材11に対して、ベース部材2を介して横に2つ並んで取り付けられている。2つの押付治具1は、同様の構成を有しており、同じタイミングで動作するシリンダー6によって、押付部材3の平面状態X1と曲面状態X2とを形成可能である。
シリンダー6は、シリンダー本体61に対してシリンダーロッド62を複動可能な電動シリンダーである。シリンダー6は、押付部材3が伸びる長尺方向Lに近い横方向に向けて配置されている。産業用ロボット7及びシリンダー6の動作は、制御装置からの指令によって行われる。産業用ロボット7の移動先端部71の位置及び姿勢の制御、並びにシリンダー6の動作の制御は、作業者による教示作業によって構築された教示プログラムに基づいて行われる。
【0018】
図2に示すように、押付部材3は、連結軸32を介して長尺方向Lに複数連なるキャタピラ部品31によって構成されている。押付部材3の押付面301は、各キャタピラ部品31の上面によって形成されている。キャタピラ部品31同士が対向する端面には、キャタピラ部品31同士の相対的な許容回動角度θが設定された傾斜対向面33が形成されている。許容回動角度θは、互いに隣接するキャタピラ部品31同士が相対的に回動することができる角度の範囲を定める。
押付部材3を複数のキャタピラ部品31によって構成することにより、押付部材3の曲面状態X2を容易に形成することができる。なお、押付部材3は、変形量(たわみ量)が規制された、可撓性を有する部材によって構成することもできる。
【0019】
キャタピラ部品31の連結数が多くなるほど、キャタピラ部品31全体の許容傾斜角度が大きくなる。そのため、キャタピラ部品31同士の間に設定される許容回動角度θは、キャタピラ部品31の連結数が多くなるほど小さく設定することができる。許容回動角度θは、例えば、0.2〜2°の範囲内において設定することができる。
【0020】
図2に示すように、押付部材3の平面状態X1においては、複数のキャタピラ部品31は水平方向に直線状に並ぶ。キャタピラ部品31同士は、傾斜対向面33同士が接触することにより、水平方向よりも上方へは回動できなくなっている。押付部材3の曲面状態X2においては、複数のキャタピラ部品31における先端側部位に位置するものが水平方向から下方へ垂れ下がる状態になる。そして、キャタピラ部品31同士は、傾斜対向面33同士が接触することにより、水平方向に直線状に並ぶ状態から、許容回動角度θを超えては下方へ回動することができなくなっている。
複数のキャタピラ部品31による押付面301には、貼付ワーク81としての吸音材を載置可能である。
【0021】
押付部材3の先端側部位(複数のキャタピラ部品31のうちの先端側に位置する1つ又は複数のキャタピラ部品31)には、永久磁石等の磁石を配置することができる。この場合には、押付対象物8に押付部材3が押し付けられるときに、押付部材3の先端側部位を、金属部材を含む押付対象物8に吸着させることができ、押付部材3による押付力を大きくすることができる。
【0022】
図2、
図3に示すように、板バネ4は、押付部材3の長尺方向Lに倣うように伸びており、板バネ4の表面は、押付部材3における、押付面301とは反対側の裏面302に対向している。板バネ4の一端は、ベース部材2に取り付けられており、板バネ4の他端は、複数のキャタピラ部品31のうちの先端側部位に位置するキャタピラ部品31に回動可能に取り付けられている。本形態における板バネ4の他端は、先端側から2つ目に位置するキャタピラ部品31に回動可能に取り付けられている。
【0023】
板バネ4の中間部位には、回動リンク5を回動可能に取り付けるための取付用部品41が設けられている。板バネ4は、キャタピラ部品31に回動可能に取り付けられた支持部品42Aと取付用部品41との間に掛け渡され、ベース部材2に回動可能に取り付けられた支持部品42Bと取付用部品41との間に掛け渡されている。ベース部材2に対する支持部品42Bの取付位置は調整可能であり、支持部品42Bの取付位置を調整して、板バネ4に作用する弾性力を調整することができる。
弾性部材として板バネ4を用いることにより、シリンダー6の推力を押付部材3に効果的に伝達することができる。また、板バネ4を用いることにより、押付対象物8から押付部材3に作用する反力を効果的に受けることができる。
【0024】
シリンダー6の動作を受けて回動リンク5が押付部材3に接触しながら回動するときには、シリンダー6の推力が回動リンク5を介して板バネ4に伝達される。
回動リンク5の一端は、取付用部品41に回動可能に取り付けられている。回動リンク5の他端には、キャタピラ部品31の裏面302に転がり接触するローラ51が設けられている。また、回動リンク5における中間部位には、シリンダー6の一端が回動可能に取り付けられている。ローラ51を用いることにより、押付部材3の裏面302に接触する回動リンク5の接触抵抗を低減させることができる。
【0025】
図1、
図2に示すように、押付治具1は、シリンダー6のシリンダーロッド62が出位置にあるときに、複数のキャタピラ部品31が水平方向に並んで、押付部材3の平面状態X1を形成する。この押付部材3の平面状態X1は、複数のキャタピラ部品31による押付面301に、貼付ワーク81としての吸音材を載置可能な状態として形成される。押付部材3の平面状態X1においては、シリンダー6の推力を受けた回動リンク5によって板バネ4に張力が与えられ、回動リンク5及び板バネ4によって押付部材3が支えられる。
図5に示すように、産業用ロボット7は、平面状態X1にある押付部材3の押付面301に貼付ワーク81が載置された状態で、移動先端部71に取り付けられた押付治具1を移動させる。
【0026】
図3に示すように、押付治具1は、シリンダー6のシリンダーロッド62が戻位置にあるときに、複数のキャタピラ部品31における先端側部位に位置するキャタピラ部品31が下方へ垂れ下がり、押付部材3の曲面状態X2を形成する。この押付部材3の曲面状態X2は、押付対象物8に押付部材3を押し付ける前(押付対象物8に貼付ワーク81を貼り付ける前)の押付治具1の初期位置として形成される。押付部材3の曲面状態X2においては、板バネ4に作用する張力が緩み、板バネ4が波を打つ(又は曲がる)状態になり、板バネ4によって支えられない押付部材3の先端側部位が下方に垂れ下がる。
図6に示すように、産業用ロボット7によって、押付治具1が押付対象物8の下方に配置されたときには、押付部材3の曲面状態X2が形成される。
【0027】
図7に示すように、押付治具1は、シリンダー6による推力を受けて押付部材3が曲面状態X2から平面状態X1に変化するときに、押付部材3の押付面301が押付対象物8に押し付けられ、押付面301に載置された貼付ワーク81が押付対象物8に貼り付けられるよう構成されている。そして、押付対象物8への押付部材3の押付けがされるときには、回動リンク5によって押付部材3と板バネ4との間隔が広げられ、シリンダー6による推力が、複数のキャタピラ部品31の押付面301に分散して伝達される。また、この押付けがされるときには、シリンダー6の動作を受けて回動リンク5が回動するときに、ローラ51が押付部材3におけるキャタピラ部品31の裏面302に転がり接触する。
【0028】
次に、押付治具1を用いて、押付対象物8としての車体の天井に、貼付ワーク81としての吸音材を貼り付ける方法について説明する。
図5に示すように、車体の外部において、押付治具1における、平面状態X1にある押付部材3の押付面301に貼付ワーク81が載置される。このとき、シリンダー6のシリンダーロッド62が出位置にあり、シリンダー6の推力が回動リンク5及び板バネ4を介して押付部材3の複数のキャタピラ部品31に伝達される。貼付ワーク81は、車体の天井における車幅方向の半分の大きさであって、車体の天井における車長方向に複数に分けた大きさに形成されている。
【0029】
次いで、
図6に示すように、産業用ロボット7の移動先端部71の移動によって、押付治具1が車体の側方の窓部82を介して車体の室内に挿入される。そして、車体の天井における車幅方向の右側又は左側の下方に押付治具1が配置されたときには、シリンダー6のシリンダーロッド62が戻位置に変化し、押付部材3が曲面状態X2に変化する。そして、車体の天井の下方に、押付治具1の押付部材3に載置された貼付ワーク81が対向して配置される。
【0030】
次いで、
図4、
図7に示すように、シリンダー6のシリンダーロッド62が戻位置から出位置に変化する過程において、シリンダー6によって押される回動リンク5は、板バネ4の取付用部品41に取り付けられた一端を中心に、押付部材3の先端側へ回動を始める。そして、キャタピラ部品31の裏面302に接触する、回動リンク5の他端におけるローラ51が、キャタピラ部品31の裏面302を転がりながら、押付部材3の先端側へ移動する。
【0031】
こうして、シリンダー6の推力が回動リンク5を介して板バネ4に伝達され、板バネ4によって押されて、押付部材3の先端側部位(先端側に位置するキャタピラ部品31)が上方へ移動し、押付部材3が曲面状態X2から平面状態X1へと変化していく。また、押付部材3の先端側部位が上方へ移動する過程において、貼付ワーク81が車体の天井に押し付けられる。このとき、シリンダー6の推力が板バネ4を介して押付部材3に伝達されることにより、シリンダー6の推力を、複数のキャタピラ部品31にできるだけ均等に分散させて伝達することができる。
【0032】
本形態の押付治具1においては、シリンダー6による推力を、回動リンク5及び板バネ4を介して押付部材3に適切に伝達することができる。また、板バネ4による張力及び剛性を利用して、押付部材3を支えることができる。そのため、出力及びストロークが小さなシリンダー6を用いる場合でも、押付部材3の押付面301が、押付対象物8の曲面に倣って押付対象物8に適切な力で押し付けられる。また、押付治具1は、曲面形状が異なる種々の押付対象物8に対しても柔軟に対応することができ、種々の押付対象物8の曲面に倣って、押付部材3の押付面301を押し付けることができる。
【0033】
さらに、シリンダー6による推力を押付部材3に適切に伝達できることにより、押付治具1を移動させるために、可搬質量の小さな産業用ロボット7を用いることができる。そのため、押付治具1を装着する設備の小型化を図ることができる。
それ故、本形態の押付治具1によれば、動力源としてのシリンダー6を小型化することができるとともに、押付治具1が装着される設備を小型化することができる。
なお、本発明は、実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。