特許第6521025号(P6521025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6521025
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】構造色発色部材およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20190520BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20190520BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20190520BHJP
   B60C 13/04 20060101ALI20190520BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   G02B5/26
   G02B5/28
   G02B5/30
   B60C13/04 Z
   B60C13/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-208170(P2017-208170)
(22)【出願日】2017年10月27日
(65)【公開番号】特開2019-78982(P2019-78982A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2018年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−112732(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/182108(WO,A1)
【文献】 韓国登録特許第10−1451774(KR,B1)
【文献】 国際公開第2017/086363(WO,A1)
【文献】 特開2005−289334(JP,A)
【文献】 特開2011−123186(JP,A)
【文献】 特開2012−250575(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0015118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
B60C 13/00
B60C 13/04
G02B 5/28
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に一定の配列周期の微細凹凸構造が形成され、前記微細凹凸構造による構造色を発色する基材と、
前記微細凹凸構造の表面に形成された偏向反射層と、を有し、
前記偏向反射層は、コレステリック液晶を含んで形成されており、
前記微細凹凸構造および前記偏向反射層が設けられた領域が、単一の色相で視認される、
ことを特徴とする構造色発色部材。
【請求項2】
前記偏向反射層は、前記微細凹凸構造により選択的に反射される波長を含む波長帯の透過性能を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の構造色発色部材。
【請求項3】
前記偏向反射層は、前記微細凹凸構造の凹部から前記微細凹凸構造の凸部の頂点までを埋めるように形成され、前記凸部の頂点から前記凹部と反対方向の厚さが0μm以上80μm以下に形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の構造色発色部材。
【請求項4】
前記基材は、黒色材料を含んで形成されており、前記微細凹凸構造以外の領域は黒色に視認される、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の構造色発色部材。
【請求項5】
前記基材は、軟質の高分子材料で形成されている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の構造色発色部材。
【請求項6】
前記基材は、ゴム組成物を含んで形成されている、
ことを特徴とする請求項記載の構造色発色部材。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の構造色発色部材を用いて形成されたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造色により発色する領域を有する構造色発色部材およびこれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光の波長またはそれ以下の寸法の微細構造により発色が生じる構造色が知られており、各種の分野へと応用されている。
例えば、下記特許文献1には、構造色による発色を用いたカラーフィルタが開示されている。また、下記特許文献2には、構造色の発色の変化(波長変化)を測定することにより物体の歪を算出する技術が開示されている。
特許文献1では、構造色を発生させる微細構造を型押しにより形成しており、特許文献2では、弾性体材料表面に微粒子を周期的に配列することにより構造色を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−192676号公報
【特許文献2】特許4925025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1のように、凹凸により構造色を発生させる場合、凹凸の高さを変更することによってある程度色相を制御することは可能であるが、視認方向により色が変わり、複数色(虹色)に見えるという課題がある。例えば構造色を用いて何らかの情報(文字やマークなど)を示したい場合、その情報に対応づけられた単一の色相で視認させたいというニーズがある。また、構造色が複数色で視認される場合、構造色が形成されている箇所と、構造色が形成されていない箇所との境界が不明瞭となる場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、単一の色相で視認される構造色発色部材およびこれを用いたタイヤを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、請求項1の発明にかかる構造色発色部材は、表面の少なくとも一部に一定の配列周期の微細凹凸構造が形成され、前記微細凹凸構造による構造色を発色する基材と、前記微細凹凸構造の表面に形成された偏向反射層と、を有し、前記偏向反射層は、コレステリック液晶を含んで形成されており、前記微細凹凸構造および前記偏向反射層が設けられた領域が、単一の色相で視認される、ことを特徴とする。
請求項2の発明にかかる構造色発色部材は、前記偏向反射層は、前記微細凹凸構造により選択的に反射される波長を含む波長帯の透過性能を有する、ことを特徴とする。
請求項の発明にかかる構造色発色部材は、前記偏向反射層は、前記微細凹凸構造の凹部から前記微細凹凸構造の凸部の頂点までを埋めるように形成され、前記凸部の頂点から前記凹部と反対方向の厚さが0μm以上80μm以下に形成されている、ことを特徴とする。
請求項の発明にかかる構造色発色部材は、前記基材は、黒色材料を含んで形成されており、前記微細凹凸構造以外の領域は黒色に視認される、ことを特徴とする。
請求項の発明にかかる構造色発色部材は、前記基材は、軟質の高分子材料で形成されている、ことを特徴とする。
請求項の発明にかかる構造色発色部材は、前記基材は、ゴム組成物を含んで形成されている、ことを特徴とする。
請求項の発明にかかるタイヤは、請求項1からのいずれか1項に記載の構造色発色部材を用いて形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、微細凹凸構造により構造色を発色する基材上に偏向反射層を形成したので、微細凹凸構造および偏向反射層が設けられた領域を単一の色相で視認可能とすることができる。例えば構造色を用いて何らかの情報(文字やマークなど)を示したい場合、その情報に対応づけられた単一の色相で当該情報を視認させることができる。また、構造色が複数色で視認される場合と比較して、構造色が形成されている箇所と、構造色が形成されていない箇所との境界を明瞭に区別可能とする上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態にかかる車両用タイヤ10の側面図である。
図2】ロゴマーク204部分の拡大図である。
図3】本発明および比較例における光の挙動を模式的に示す説明図である。
図4】構造色発色部材30の視認評価結果を示す表である。
図5】コレステリック液晶を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る構造色発色部材およびタイヤの好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態では、本発明に係る構造色発色部材を車両用タイヤに適用した例について説明する。
図1は、実施の形態にかかる車両用タイヤ10の側面図である。
車両用タイヤ10は、路面へ接地するトレッド面を有するトレッド部14、図示しないホイールと係合されるビード部16、それらトレッド部14とビード部16とを接続しタイヤ側面となるサイドウォール部12を含んで構成される。
トレッド部14が耐摩耗性を重視されるのに対して、サイドウォール部12は走行中の荷重による変形に耐えることが重視されており、その組成もトレッド部14とは異なっている。
より詳細には、本実施の形態では、サイドウォール部12は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、シリカとを含有し、ジエン系ゴムは30〜70質量%の天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムを含有し、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は20〜60m/gであり、カーボンブラックの含有量はジエン系ゴム100質量部に対して5〜45質量部であり、シリカの含有量はジエン系ゴム100質量部に対して15〜55質量部であり、カーボンブラックとシリカとの合計含有量はジエン系ゴム100質量部に対して30〜60質量部となっている。
【0009】
また、サイドウォール部12には、各種の情報が表示されている。
サイドウォール部12に表示される情報の一例としては、例えば車両用タイヤ10を製造するメーカー名202、メーカーのロゴマーク204、タイヤのブランド名206、タイヤの寸法208、ユニフォミティマーク214、軽点マーク216などが挙げられる。また、この他タイヤの製造番号や回転方向表示なども記載される。
【0010】
このうち、ユニフォミティマーク214および軽点マーク216は、タイヤの完成後(加硫後)、個々のタイヤを検査した上でインク等を用いて付される。
また、メーカー名202、メーカーのロゴマーク204、タイヤのブランド名206、タイヤの寸法208等は、車両用タイヤ10を加硫する際の金型(モールド)に形成された凹凸を、加硫時に転写することによって付される。
これら金型の凹凸によって転写される情報のうち、ロゴマーク204以外は車両用タイヤ10全体と同色であり、サイドウォール部12の表面に対する凹凸によって各情報を視認可能となっている。
一方、ロゴマーク204は、例えばメーカーのコーポレートカラー等、車両用タイヤ10の色とは異なる色で視認されるように形成されている。
【0011】
図2は、ロゴマーク204部分の拡大図であり、図2Aは断面図、図2B図2Aの拡大図、図2Cは基材32の斜視図である。
車両用タイヤ10のロゴマーク204部分は、基材32と偏向反射層34とを備える構造色発色部材30で形成されている。
基材32は、その表面の少なくとも一部に一定の配列周期の微細凹凸構造320が形成されており、微細凹凸構造320により構造色を発色する。
本実施の形態において、基材32はサイドウォール部12を構成するタイヤの一部領域であり、上述のようにジエン系ゴムと、カーボンブラックと、シリカとを含有している。よって、基材32は、黒色材料であるカーボンブラックを含んで形成されており、微細凹凸構造320以外の領域は黒色に視認される。また、基材32は、軟質の高分子材料、特にゴム組成物であるジエン系ゴムを含んで形成されている。
【0012】
なお、基材32を構成する材料は上記に限られず、従来公知の様々な素材を使用可能である。ポリエチレンやポリエステルなどに代表される軟質の高分子材料や、エチレンプロピレンゴムやアクリルゴムなどの非ジエンゴム、ウレタンゴムやシリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム組成物を含有していてもよい。
【0013】
図2に示すように、微細凹凸構造320は、基材32の表面328に微細凹凸部324が一定の配列周期で配列されて構成されている。この微細凹凸構造320が設けられた領域が、構造色により基材32の他の領域(本実施の形態では黒)と異なる色で視認される。
ここで微細凹凸部324とは、構造色を得るために用いられる突起や孔など従来公知の様々な構造であり、本実施の形態では曲面(あるいは平面)である基材32の表面328から突出する微細な突起である。
また、配列周期とは、本実施の形態では隣り合う微細な突起の中心間の距離、すなわちピッチである。ピッチは、図2Aの符号Lに示すように、ゴム部材(タイヤ)表面に沿った突起と凹部との長さの合計と一致する。
また、一定の配列周期とは、構造色を得るために用いられる従来公知の様々な周期(ピッチ)であり、微細凹凸構造320の全体において均一の値の場合もあり、連続的にあるいは段階的に変化させる場合もある。
微細凹凸部324の配列周期または凹凸高さは、構造色として視認される色に対応する可視光の波長に基づいて決定される。すなわち、可視光に分類される波長帯から、構造色として表現したい色に対応する波長を選択し、共鳴格子の原理により微細凹凸部324の配列周期または凹凸高さの具体的な寸法を決定する。
本実施の形態では、微細凹凸部324の配列周期または凹凸高さは、例えば650nm以下で構成される。これは、本願発明者らの実験の結果、微細凹凸構造320の配列周期または凹凸高さが650nm以下の範囲で構造色が認められたためである。
【0014】
本実施の形態では、微細凹凸部324は基材32の表面328に対して直交する方向に延びる円柱である。円柱の上面326は正円形であり、その直径Rはおよそ5μmである。また、隣り合う円柱間の距離Sは1μmであり、配列周期Lはおよそ6μmである。なお、図2では図示の便宜上、実際の寸法とは異なる比率で図示している。
ここで、本願発明者らは、微細凹凸部324の配列周期や円柱状の微細凹凸部324の直径は固定したまま、微細凹凸部324のタイヤ表面328からの高さ(凹凸高さ)Hを変更して複数のゴム部材を作成した。その結果、視認される面積が大きい順に以下のような構造色が視認された。複数の色が視認されるのは、構造色は観察角度によって色が異なるためである。
凹凸高さ650nm:赤、赤紫
凹凸高さ607nm:赤紫、赤、橙
凹凸高さ577nm:赤紫、橙
凹凸高さ536nm:橙、赤紫
凹凸高さ500nm:黄、緑、橙
以下、凹凸高さを小さくするほど青みが強くなる傾向にあった。
このように、微細凹凸部324の配列周期または凹凸高さを調整することにより、ゴム表面に任意の色で情報を表示することができる。例えばロゴマーク204部分を赤色で表示したい場合、凹凸高さを650nm程度にすればよい。
【0015】
偏向反射層34は、微細凹凸構造320の表面に形成に積層されている。すなわち、偏向反射層34は、微細凹凸構造320に対して光の入射方向(視認方向)に位置する。より詳細には、偏向反射層34は、微細凹凸構造320の凹部(本実施の形態では基材32の表面328)から微細凹凸構造320の凸部(微細凹凸部324)の頂点(上面326)を埋めるように形成され、頂点(上面326)より上方(表面328と反対方向)に任意の厚さを持って形成されている。
【0016】
本実施の形態では、偏向反射層34は、コレステリック液晶を含んで形成されている。
図5は、コレステリック液晶を模式的に示す説明図である。コレステリック液晶50は、棒状の分子52が幾重にも重なる層状の構造を有する。各層54内ではそれぞれの分子52が一定方向に配列されているとともに、互いの層54は分子52の配列方向がらせん状になるように集積している。通常は、各層54に対して垂直方向をらせん軸56としており、一定周期のらせん構造を持つ。らせんの周期と波長が等しく、かつらせんの巻きと同じ向きの円偏光を反射する。
コレステリック液晶は、層状の構造を持たずに平行配列しているネマチック液晶に、液晶分子にねじれを付与するカイラル剤と呼ばれる添加剤を加え、旋光性を持たせることで作製する。
【0017】
また、偏向反射層34は、微細凹凸構造320により選択的に反射される波長を含む波長帯の透過性能を有するのが好ましい。例えば、微細凹凸部324の凹凸高さを607nmとし、赤紫、赤、橙の構造色が得られるようにした場合、微細凹凸構造320により反射される光はおよそ750nm〜590nmである。この場合、偏向反射層34は、波長を含む波長帯を透過させるように形成するのが好ましい。
【0018】
従来の構造色は、図3Bに模式的に示すように、完全な単一色ではなく見る角度により色が変わり、虹色のように視認された。すなわち、基材32に微細凹凸構造320のみを設けた場合、入射光L1のうち特定の波長の成分のみが反射光L2となるものの、反射光L2には複数の色相に渡る波長成分が含まれ、複数の色相が視認されることとなる。
【0019】
一方、本実施の形態のように、構造色を発色する微細凹凸構造320の表面に特定の波長のみを反射する偏向反射層34を形成することにより、図3Aに模式的に示すように、微細凹凸構造320に届く入射光および微細凹凸構造320から反射する光が偏向反射層34の選択反射性により選別され、虹色だった構造色が単一の色相で視認されることとなる。
すなわち、微細凹凸構造320を設けた基材32に偏向反射層34を積層した場合、偏向反射層34により入射光L1のほとんどの成分は吸収され、単色に相当する成分L1’のみが基材32に到達する。基材32では、微細凹凸構造320により成分L1’のうち更に特定の波長のみが反射され、反射光L2となる。反射光L2は、偏向反射層34を透過可能な波長帯に含まれるため、構造色発色部材30の外部まで到達し、基材32の色と区別して視認されることとなる。
【0020】
なお、本実施の形態において単一の色相とは、通常の人間の色識別能においてほぼ単一色と認識される程度であり、レーザ光のように完全に同一の波長であることを示すものではない。例えば上述した微細凹凸部324の凹凸高さ607nmの場合のように、「赤紫、赤、橙」のような分布をもった色味ではなく、「赤」のように識別される程度の単一性を示す。
【0021】
つぎに、構造色発色部材30の製造方法について説明する。
なお、以下の工程に先立って、車両用タイヤ10上に付加したい模様等の色相を決め、当該色相(車両用タイヤ10上で模様等として視認される色)に対応する可視光の波長に基づいて微細凹凸部記配列周期または凹凸高さを決定しておく(配列周期決定工程または凹凸高さ決定工程)。
【0022】
(工程1)基材32の表面に微細凹凸構造320を形成するため、一定周期でパターン構造が配置されたマスクを形成する(マスク形成工程)。
まず、マスク形成用基板(シリコン基板)にスパッタリング装置を用いてクロム(Cr)を約80nm成膜する。つぎに、クロム膜上にポジ型電子線レジストをスピンコート(300rpmで3秒、のち4000rpmで60秒)する。その後、150℃のホットプレートで3分間プリベークを行い、電子線レジストをコートした基板に電子線描画装置を用いて露光、パターニング後、現像液に60秒浸漬して現像を行う。なお、構造色として視認される色に対応する可視光の波長に基づいて微細凹凸部324の配列周期を決定した場合、つまり構造色の発色を決めるパラメータとして微細凹凸部324の配列周期を用いた場合、パターニング時のパターン構造の配列周期を配列周期決定工程で決定した配列周期に基づいて決定する。現像後、混酸クロムエッチング液に約60秒浸し、露出しているCrのみを選択的に溶かすことでマスク(フォトマスク)を作製した。
【0023】
(工程2)マスクを金属または半導体材料で形成された基板上に配置し、基板をエッチングする(エッチング工程)。
本実施の形態では、上記基板として単結晶シリコン基板を使用する。この基板をアセトン、メタノールの順に5分間超音波で洗浄し、基板上にポジ型フォトレジストをスピンコート(300rpmで3秒、のち5000rpmで60秒)する。つぎに、95℃のホットプレートで90秒プリベークする。これにより、レジストに含まれる有機溶剤を蒸発させて基板との密着性を向上させることができる。つづいて、フォトレジストをコートした基板にマスクアライナーと工程1で作製したフォトマスクを用いて露光を行い、現像液に浸すことで露光した箇所を溶出させてパターニングを行う。
パターニング後、ドライエッチング装置(パッシベーションガス:C,80sccm,エッチングガス:SF,130sccm,ボッシュプロセス)を用いて、基板のエッチングを行い、鋳型(シリコン鋳型)を作製する。なお、構造色として視認される色に対応する可視光の波長に基づいて微細凹凸部324の凹凸高さを決定した場合、つまり構造色の発色を決めるパラメータとして微細凹凸部324の凹凸高さを用いた場合、基板のエッチング時間を適宜制御することにより、微細凹凸部324の凹凸高さを凹凸高さ決定工程で決定した凹凸高さと一致させることができる。
また、上記工程1および工程2(鋳型形成工程)では、フォトリソグラフィ技術を用いて微細凹凸構造を有する鋳型を作製する場合について説明したが、本発明にかかるゴム部材の製造方法はこれに限らず、従来公知の様々な手法を適用可能である。
【0024】
(工程3)エッチングした基板(鋳型)に未加硫ゴムを着接し、未加硫ゴムを加硫してゴム表面に微細凹凸構造を転写する(転写工程)。
シリコン鋳型に未加硫のゴムを載せ、80℃で10分間軟化させた後にプレスし、160℃で10分程度加硫した。
加硫後、シリコン鋳型から剥がしとり、ゴム表面(基材32表面)に微細凹凸構造320が転写されていることを確認した。微細凹凸構造320が形成されている領域は、基材32表面上の他の領域(平坦面領域)とは異なる色、すなわち微細凹凸構造320による構造色で視認される。
【0025】
(工程4)
基材32の微細凹凸構造320が形成された領域の表面に、コレステリック液晶のクロロホルム溶液をエアブラシで塗布し、偏向反射層34を形成した。
コレステリック液晶は、コレステリルオレイルカーボネート(TCI性)/ノナン酸コレステロール(TCI製)/安息香酸コレステロール(TCI製)をそれぞれ50/40/10の重量比で混合したものを用いた。
塗布に用いる器具はエアブラシのほか、スピンコートや筆など一般的な方法を用いることが出来る。
【0026】
図4は、上記のように作成した構造色発色部材30の視認評価結果を示す表である。
図4では、偏向反射層34の厚みを変えた4つの実施例(実施例1〜実施例4)を示し、比較例として偏向反射層34を設けない場合の結果とともに示した。
偏向反射層34の厚みは、基材32の微細凹凸部324の上面326(基材32の表面328から突出する凸部の頂点)から、基材32の表面328と反対方向への厚みとした。実施例1は偏向反射層34の厚さを0.2μm、実施例2は1.0μm、実施例3は5.0μm、実施例4は80.0μmとした。
なお、偏向反射層34の厚みは塗布した液晶溶液の重量から計算した。
【0027】
比較例では、様々な波長の光が反射することで構造色発色部材30が虹色に視認された(評価×)。実施例1および4では、構造色発色部材30の一部に他の色が見えるものの、比較例よりも単色に視認された(評価△)。また、実施例2および3では、構造色発色部材30が単色に視認された(評価〇)。
このように、構造色を発色する基材32の表面に偏向反射層34を形成することにより、構造色が単一の色相で視認されることが確認された。
【0028】
以上説明したように、実施の形態にかかる構造色発色部材30は、微細凹凸構造320により構造色を発色する基材32の上面側に偏向反射層34を形成したので、微細凹凸構造320および偏向反射層34が設けられた領域を単一の色相で視認可能とすることができる。
例えば、本実施の形態のように、構造色を用いて車両用タイヤ10にロゴマーク204を付す場合、通常ロゴマーク204に使用されているメーカーのコーポレートカラーを単一色で視認させることができ、ロゴマーク204およびコーポレートカラーの認知度向上や統一したブランドイメージの確立を図る上で有利となる。
また、構造色が複数色で視認される場合と比較して、構造色が形成されている箇所と、構造色が形成されていない箇所との境界を明瞭に区別可能となり、構造色で示す情報の認識精度を向上させる上で有利となる。
【0029】
なお、本実施の形態では、微細凹凸部324の形状を円柱形の突起としたが、これに限らず、構造色を表示するための構造として知られる従来公知の様々な形状を適用可能である。例えば微細凹凸部324の形状を、円錐状の突起や格子状の突起としてもよい。また、微細凹凸構造320をゴム表面に形成された孔や格子状の溝としてもよい。この場合も、孔の形状は例えば円筒形や円錐形などであってもよく、さらには円錐形に形成した孔の底部(円錐の頂点)に微粒子等を配置してもよい。
また、本実施の形態では、本発明に係る構造色発色部材30を車両用タイヤ10に適用した例について説明したが、これに限らず、従来公知の様々なゴム部材、特に製造工程で加硫を行う部材に適している。
また、本実施の形態では、ロゴマーク204のみを構造色発色部材30で表示するものとしたが、これに限らず、車両用タイヤ10のサイドウォール部12に表示される他の情報についても構造色発色部材30で表示するようにしてもよい。また、車両用タイヤ10の全体に構造色発色部材30を形成し、車両用タイヤ10全体が特定の色で視認されるようにしてもよい。
また、本実施の形態では、車両用タイヤ10のサイドウォール部12に表示される情報に本発明を適用したが、これに限らず車両用タイヤ10の他の箇所に表示される情報に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 車両用タイヤ
12 サイドウォール部
30 構造色発色部材
32 基材
320 微細凹凸構造
324 微細凹凸部
34 偏向反射層
図1
図2
図3
図4
図5