特許第6521050号(P6521050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6521050液圧シリンダ、シリンダ装置、作業車両、及び液圧シリンダ製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6521050
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】液圧シリンダ、シリンダ装置、作業車両、及び液圧シリンダ製造方法
(51)【国際特許分類】
   F15B 15/14 20060101AFI20190520BHJP
   F16J 10/00 20060101ALI20190520BHJP
   B66C 23/42 20060101ALI20190520BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20190520BHJP
   B23K 26/348 20140101ALI20190520BHJP
【FI】
   F15B15/14 370
   F16J10/00 Z
   B66C23/42 A
   B23K26/21 N
   B23K26/348
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-500503(P2017-500503)
(86)(22)【出願日】2016年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2016000697
(87)【国際公開番号】WO2016132713
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-27679(P2015-27679)
(32)【優先日】2015年2月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕治
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 博紀
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 独国実用新案第202012008320(DE,U1)
【文献】 独国特許出願公開第102007004666(DE,A1)
【文献】 特開2002−257238(JP,A)
【文献】 特開2004−340874(JP,A)
【文献】 特開2014−114134(JP,A)
【文献】 特開2006−224130(JP,A)
【文献】 実開昭59−001492(JP,U)
【文献】 特開2007−268609(JP,A)
【文献】 特開平06−026570(JP,A)
【文献】 特開平06−106235(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/098619(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00−15/28
F16J 1/00− 1/24; 7/00−10/04
F16J 12/00−13/24
B23K 26/00−26/70
B66C 23/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の伸縮ブームを伸縮させるシリンダ装置に用いられる液圧シリンダであって、
シリンダチューブと、
前記シリンダチューブの内径及び外径とそれぞれ同径の小径部及び大径部を有する扁平な円形形状を有し、前記小径部の外周面を前記シリンダチューブの内周面に、前記大径部の環状平面を前記シリンダチューブの軸方向端面に、夫々対向させて前記シリンダチューブに嵌合され、前記シリンダチューブに溶接されたヘッドカバーと、
を有し、
前記シリンダチューブに溶接された前記ヘッドカバーの溶融部分は、前記シリンダチューブの軸心を含む断面において、前記シリンダチューブ及び前記大径部の外周上の位置から、前記シリンダチューブの前記軸方向端面と前記大径部の前記環状平面との接触面を通り、前記小径部の前記外周面よりも内側の位置まで、前記円形形状の向心方向に沿って線状に延在しており、前記溶融部分の内側端部には、溶接入熱の影響を受けた熱影響部が形成されている、
液圧シリンダ。
【請求項2】
前記環状平面と前記軸方向端面とは、開先を介在させずに接触している、
請求項1に記載の液圧シリンダ。
【請求項3】
前記軸方向端面は、前記シリンダチューブの軸方向一端部に位置し、
前記シリンダチューブの軸方向他端部に着脱自在に設けられたロッドカバーをさらに有する、
請求項1に記載の液圧シリンダ。
【請求項4】
請求項1に記載の液圧シリンダと、
前記液圧シリンダに組み付けられたピストン及びピストンロッドと、
を有するシリンダ装置。
【請求項5】
伸縮可能な伸縮ブームと、
前記伸縮ブーム内に設けられ、前記伸縮ブームを伸縮させる、請求項4に記載のシリンダ装置と、
を有する作業車両。
【請求項6】
請求項1に記載の液圧シリンダの製造方法であって、
前記シリンダチューブの半径方向の外側から内側に向けてレーザを照射するレーザ溶接によって、前記シリンダチューブと前記ヘッドカバーとを溶接する、
液圧シリンダ製造方法。
【請求項7】
溶加材を用いない前記レーザ溶接と、溶加材を用いるアーク溶接と、からなるハイブリッド溶接により、前記シリンダチューブと前記ヘッドカバーとを溶接する、
請求項6に記載の液圧シリンダ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧シリンダ、シリンダ装置作業車両、及び液圧シリンダ製造方法に関する。さらに詳しくは、レーザを用いて溶接された液圧シリンダ、この液圧シリンダを用いたシリンダ装置このシリンダ装置を備えた作業車両、そしてこの液圧シリンダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダを構成するシリンダチューブとヘッドカバーとを溶接で結合した流体圧シリンダが特許文献1で開示されている。
【0003】
流体圧シリンダのうち油圧等を用いる液圧シリンダは、空圧のシリンダと異なり内部の作動流体が高圧になるため、所定の疲労強度を得るには、シリンダチューブとヘッドカバーとの溶接では、溶融部を深くすることが必要とされている。通常用いられている溶接法は、アーク溶接のうち、シールドガスに不活性ガスと炭酸ガスを混合して使用するMAG溶接(METAL ACTIVE GAS WELDING)で、シリンダチューブとヘッドカバーの合わせ部分に開先加工を施し、溶加材を加えて金属を深部まで溶融させることで、疲労強度を得るようにしている。
【0004】
MAG溶接によりシリンダチューブ2とヘッドカバー3とが溶接される際、図6に示すように、溶接強度を確保するために、溶加材用の開先をシリンダチューブ2側に設け、シリンダチューブ2の外側から内側にかけて、金属の溶融部分4が狭まるように溶接される。
【0005】
しかし、液圧シリンダの内周の形状は、シリンダ内部に収められているピストンを滑らかに動作させる必要があるため、高精度に仕上げられる必要がある。ここで、疲労強度確保のために溶融部を深くするには、溶接のための入熱量を大きくする必要があるものの、この入熱量による熱変形を抑えるように、液圧シリンダのヘッドカバー等の厚さ(図6記号b)は十分厚くする必要があり、それによりシリンダが長くなると共に、シリンダ全体が重くなるという問題があった。
【0006】
またMAG溶接で用いられる溶加材を加えることで、溶融部の外側に不純物が付着し、そこを起点として亀裂が生じるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−257238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、シリンダ内部の形状精度を確保しながら、全体の長さを短くし、重量を軽減した液圧シリンダ、そしてこの液圧シリンダを構成要素とするシリンダ装置、このシリンダ装置を備えた作業車両、及びこの液圧シリンダの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の溶接型液圧シリンダは、シリンダの端部を構成するヘッドカバーと、シリンダの筒部分を構成するシリンダチューブとが、シリンダチューブの半径方向の外側から内側に向けて照射されるレーザで溶接されていることを特徴とする。
第2発明の溶接型液圧シリンダは、第1発明において、レーザによる溶融部分が、シリンダチューブの肉厚よりも奥側まで達していることを特徴とする。
第3発明の溶接型液圧シリンダは、第1発明又は第2発明において、溶接には溶加材が用いられていないことを特徴とする。
第4発明の溶接型液圧シリンダは、第1発明又は第2発明において、溶接は、レーザによる溶接と、溶加材が用いられているアーク溶接とからなるハイブリッド溶接であることを特徴とする。
第5発明の溶接型液圧シリンダは、第1発明から第4発明のいずれかにおいて、シリンダのロッドカバーが、シリンダチューブに着脱自在に設けられていることを特徴とする。
第6発明は、第1発明から第5発明に記載の溶接型液圧シリンダと、ピストンと、ピストンロッドとを用いたことを特徴とするシリンダ装置である。
第7発明は、第6発明のシリンダ装置を、伸縮可能な伸縮ブーム内に備え、シリンダ装置により、伸縮ブームの伸縮動作が行われることを特徴とする作業車両である。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、ヘッドカバーとシリンダチューブとが、シリンダチューブの半径方向の外側から内側に向けて照射されるレーザにより溶接されていることにより、溶融部分が小さくなり、溶接のための入熱量が少なくなる。このように入熱量が少なくなることで、ヘッドカバーとシリンダチューブとを含む液圧シリンダが変形しにくくなり、ヘッドカバー等の厚さを薄くでき、シリンダ全体の重量を軽減することができる。
第2発明によれば、レーザ溶接による溶融部分をシリンダチューブの内周よりも内側にまで到達させることにより、溶接欠陥が生じやすい、溶融部分先端の熱影響部をヘッドカバー側に設けることができるので、溶接部分の疲労強度を高くし、シリンダの寿命を長くすることができる。
第3発明によれば、溶加材が用いられていないことにより、溶融部分と熱影響部の間に不純物が析出することが防止される。これによっても溶接部分の疲労強度を高くし、シリンダの寿命を長くすることができる。
第4発明によれば、溶接は、レーザによる溶接と、溶加材が用いられているアーク溶接と、からなるハイブリッド溶接であることにより、アーク溶接装置のみで溶接を行う場合と比較して、アーク溶接装置からシリンダへの入熱量を抑えることができ、シリンダ内の残留応力を減らすことができる。これによりシリンダの溶接ひずみを少なくし、溶接型液圧シリンダの軽量化、コンパクト化を図ることができる。このように入熱量が抑えられた場合でも、レーザによる溶接が行われるので、溶融深さを深くできる。
第5発明によれば、ロッドカバーがシリンダチューブと着脱自在に設けられていることにより、シリンダとピストンとを分離して、内部のメンテナンスを行うことができる。これにより、シリンダの寿命を長くすることができる。
第6発明によれば、シリンダ装置に、第1発明から第5発明の溶接型液圧シリンダを用いることにより、シリンダ装置の軸心方向の長さを短くでき、シリンダ装置の重量を軽減することができる。
第7発明によれば、旋回動作や起伏動作が可能な伸縮ブームを備えた作業車両に第6発明のシリンダ装置を用い、このシリンダ装置により伸縮ブームの伸縮動作を行うことにより、動作する部分の重量を軽減でき、伸縮ブーム先端のつり上げ荷重等を、シリンダ装置で軽減した重量分大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るシリンダ端部の断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るシリンダの疲労耐久試験結果を示すグラフである。
図3】本発明の実施形態に係るシリンダを溶接するためのレーザ装置である。
図4】本発明の第2実施形態に係るシリンダを溶接するためのレーザ装置、およびアーク溶接装置である。
図5】本発明のシリンダを用いた作業車両の全体図である。
図6】従来例のシリンダ端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るシリンダ1について図面に基づき説明する。図1には本発明の実施形態に係るシリンダ1の端部の、シリンダチューブ2の軸心を含む面で切断したときの断面図を示す。
【0013】
本実施形態に係るシリンダ1は、油圧による片ロッドタイプのシリンダ装置を構成するシリンダ1であって、シリンダチューブ2と、ヘッドカバー3と、ロッドカバーとを含んで構成される。シリンダチューブ2は、薄肉の円筒形状で、シリンダ1の筒部分を構成する。ヘッドカバー3は、片ロッドタイプのシリンダにおいて、ピストンロッド用の孔のない端部を構成する。ヘッドカバー3は、概略扁平な円柱形状を有し、他の機器などへ取り付けるための連結ピン孔等を備える場合がある。ロッドカバーは、シリンダ1のもう一つの端部を構成する。ロッドカバーは、中央にピストンロッドを通すための孔が設けられ、作動液体のシリンダ1外部への流出を防ぐパッキンが内部に設けられる。
【0014】
シリンダ1は、シリンダチューブ2と、ヘッドカバー3とが、レーザにより溶接されている。このレーザは、シリンダチューブ2の半径方向の外側から内側に向けて照射される。レーザは、シリンダチューブ2の軸心に向けて照射されるのが好ましい。レーザ照射による金属の溶融部分の深さを深くできるからである。
【0015】
シリンダチューブ2の内周側とヘッドカバー3の外周側とは、所定の公差で加工されており、溶接前に嵌め合わされる。このとき、シリンダチューブ2のヘッドカバー3側の端面と、このシリンダチューブ2の端面と向き合うヘッドカバー3側の端面には、溶接用の開先は設けない。このためシリンダチューブ2とヘッドカバー3との端面同士が接触する。
【0016】
そしてシリンダチューブ2とヘッドカバー3との溶接時に、その溶接による金属の溶融部分4が、シリンダチューブ2の内周よりも内側まで達するように、レーザにより溶接される。この溶接には、溶加材は使用されない。
【0017】
ヘッドカバー3とシリンダチューブ2とが、シリンダチューブ2の半径方向の外側から内側に向けて照射されるレーザにより溶接されていることにより、レーザによる溶融部分4が小さくなり、溶接のための入熱量が少なくなる。このように入熱量が少なくなることで、シリンダ1が変形しにくくなり、ヘッドカバー3等の厚さを薄くでき、シリンダ1全体の重量を軽減することができる。
【0018】
より詳しく説明すると、レーザを用いると、このレーザの焦点が小さいため、大きなエネルギを小さな点に向けて照射することが可能となり、溶融部分4の広がりが小さくなる、即ちシリンダ1の軸方向の、溶融部分4の長さが短くなり、シリンダ1の内部の変形を抑えながら、ヘッドカバー3の厚さを薄くできる。また全体的な入熱量も抑えることができ、シリンダ1の熱変形が少なくなるので、この点でもヘッドカバー3の厚さ(図1記号a)を薄くできる。ヘッドカバー3の厚さが薄くなることで、シリンダ1全体の重量を軽減することができる。
【0019】
レーザ溶接による溶融部分4が、シリンダチューブ2の内周よりも深く内側、即ちシリンダチューブ2の肉厚よりも奥側にまで達するように溶接が行われる。一般に溶接が行われると、金属が溶融した部分の周囲に熱による影響を受け、その組織や機械的性質が異なる熱影響部5が形成される。この熱影響部5は、溶接欠陥が生じやすく、繰り返し荷重を受けた場合、亀裂の始端となり強度を低下させる。レーザを用いた場合、この熱影響部5は溶融部分4の先端側に主に出現するようになり、この熱影響部5をヘッドカバー3側に形成させることができるので、溶接部分4の疲労強度を高くし、シリンダの寿命を長くすることができる。
【0020】
本実施形態のシリンダ1のレーザ溶接の際、溶加材は用いられない。レーザを用いることで、母材であるシリンダチューブ2とヘッドカバー3とが直接溶融され、接合できるからである。溶加材が用いられないことで、溶融部分4と熱影響部5との間に、溶加材に用いられている不純物が析出することが防止できる。この不純物も、亀裂の始端となりえるものであり、この不純物がないことによっても溶接部分の疲労強度が高くなり、シリンダ1の寿命を長くすることができる。
【0021】
図2には、本発明の実施形態に係るシリンダ1の疲労耐久試験の結果を示す。シリンダ1を用いて、シリンダ装置を構成し、シリンダ1のヘッドカバー3に、シリンダ1の軸心と垂直方向に繰り返し荷重を加えて、シリンダチューブ2とヘッドカバー3との間に亀裂が入った時の繰り返し回数を従来の溶接方法により製作したシリンダ1と比較した。繰り返し荷重の値は、定格負荷の中で、シリンダ内に発生する最大の圧力から計算で求められたものである。グラフの縦軸は、ヘッドカバー3に加えられた繰り返し荷重の大きさを表し、横軸は、亀裂が入った時の繰り返し回数を表している。従来のMAG溶接を行ったもの(丸印)と比較して、レーザ溶接を行ったもの(四角印)の寿命が、10倍近く伸びていることがわかる。
【0022】
本実施形態に係るシリンダ1を溶接するためのレーザ装置10の構成を図3に示す。レーザ装置10は、レーザ発振機12からのレーザを、レーザトーチ11からターゲット14に照射する構成である。レーザ装置10は、溶接に必要な出力を備え、一般にレーザ発振機12を冷却するための冷却装置13を備える。本実施形態ではレーザ媒質として、希土類を添加して利得を広帯域化させたファイバーを用いたファイバーレーザが用いられている。ファイバーレーザであることで、冷却装置13等が小型化される。ただしレーザの媒体は特に限定されず、ガスレーザとして炭酸ガスレーザや、固体レーザとしてYAGレーザを用いることもできる。
【0023】
本実施形態に係るシリンダ1の一方の端部は、レーザ溶接により溶接されるが、他方の端部には、ロッドカバーが、シリンダチューブ2に着脱自在に設けられている。具体的には、ロッドカバーはボルトや、タイロッド、ねじ込みによりシリンダチューブ2と固定され、シリンダを構成する。
【0024】
ロッドカバーがシリンダチューブ2と着脱自在に設けられていることにより、シリンダ1とピストンとを分離して、作動液体からの付着物の清掃や、パッキン等の交換のメンテナンスを行うことができる。これにより、シリンダ1の寿命を長くすることができる。
【0025】
本発明に係るシリンダ1の内部に、ピストンと、ピストンロッドとが備えられることで、シリンダ装置が構成される。このシリンダ装置は、シリンダ1の軸方向に、ピストンが直線的に動作することで、ピストンロッドによる直線動作を取り出すことができるものである。
【0026】
シリンダ装置に、本発明に係るシリンダを用いることにより、シリンダ装置の軸心方向の長さを短くでき、シリンダ装置の重量を軽減することができる。
【0027】
シリンダ装置は、作動液体の圧力装置とバルブ等を介して、シリンダ1の外部に設けられたポートで接続され、バルブ等が動作することで、作動流体がシリンダ装置内に導入排出され、ピストンロッドが直線的に動作する。作動液体は、主に作動油が用いられるが、用途によっては、水が用いられることがある。
【0028】
本実施形態のシリンダは、シリンダチューブ2の半径方向の外側から内側に向けて、シリンダチューブ2の軸心に垂直な面内にレーザ光の光軸が収まるように、レーザを照射することで溶接した。これは、シリンダチューブ2とヘッドカバー3との接触面が、シリンダチューブ2の軸心に垂直であることにより、このような構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、シリンダチューブ2とヘッドカバー3との接触面を含む面内にレーザ光の光軸を配置すればよい。
【0029】
また片ロッドタイプのシリンダ装置を構成するシリンダ1について説明したが、両ロッドタイプのシリンダ装置であっても問題ない。両ロッドタイプの場合は、両端を構成するいずれかのロッドカバーがシリンダチューブ2に溶接される。
【0030】
本実施形態に係るシリンダ装置を備えた作業車両20として移動式クレーンの構造を図5により説明する。作業車両20である移動式クレーンは、公知の走行車体21に走行のための原動機や複数の車輪22が備えられる他、クレーン作業中の安定を確保するアウトリガ24が設けられている。走行車体21の上面には旋回台30が搭載され、旋回台30は、旋回モータにより水平面内で360°旋回できる。
【0031】
旋回台30には伸縮ブーム40が起伏自在に取り付けられている。伸縮ブーム40は、基端側の主ブーム40aと、この主ブーム40aにテレスコープ式に嵌挿した複数段の副ブーム40b、40cからなる。図示の例では、副ブーム40b、40cは2本であるが、1本以下でもよく3本以上でもよい。そして各副ブーム40b、40cの伸縮動作は、この伸縮ブーム40内に設けられた伸縮シリンダで行われる。
【0032】
主ブーム40aの基端部はピン31で旋回台30に枢支され、主ブーム40aと旋回台30との間には起伏シリンダ43が取付けられている。この起伏シリンダ43を伸長させると伸縮ブーム40が起立し、起伏シリンダ43を収縮させると伸縮ブーム40が倒伏する。
【0033】
伸縮ブーム40の先端、つまり副ブーム40bの先端に形成されているブームヘッドからは、フック34を備えたワイヤロープ32が吊り下げられ、そのワイヤロープ32は伸縮ブーム40に沿って伸縮ブーム40の根本に導かれてウィンチ33に巻き取られている。ウィンチ33には、図示しないホイストモータが設けられており、ホイストモータの駆動によりウィンチ33を回転させて、ワイヤロープ32の巻き取り、繰り出しを行うことで、フック34を昇降させることができる。このように、伸縮ブーム40の伸縮、起伏、フック34の昇降を組み合わせることにより、立体空間内での荷揚げと荷降ろしが可能となっている。
【0034】
水平方向への回転や上下方向の回転の移動動作が可能な伸縮ブーム40を備えた作業車両20の、伸縮ブーム40内に本発明の実施形態であるシリンダ装置を用い、このシリンダ装置により伸縮ブーム40の伸縮動作を行うことにより、伸縮ブーム40の先端方向にある副ブーム等の重量を軽減できる。このことにより、伸縮ブーム40先端のつり上げ荷重等を、シリンダ装置で軽減した重量分大きくできる。
【0035】
なお、本発明に係る溶接型液圧シリンダの実施形態として、溶加材を使用せずにレーザのみで溶接された溶接型液圧シリンダについて説明したが、これに限定されない。例えば、レーザによる溶接と、溶加材が用いられているアーク溶接と、からなるハイブリッド溶接で溶接型液圧シリンダを製造することも可能である。このハイブリッド溶接で製造されている溶接型液圧シリンダを第2実施形態として以下に説明する。
【0036】
第2実施形態に係るシリンダ1は、図4で示すように、レーザ装置10と、アーク溶接装置15とを用いたハイブリッド溶接で製造されている。アーク溶接装置15は、ノズル16の中に、電極ワイヤ17を供給ローラ18で送り込み、ノズル16からはシールドガスを噴出させる公知の溶接機である。アーク溶接には、例えば、背景技術で言及したMAG溶接を含む消耗電極式ガスシールド溶接法、ノンガスシールドアーク溶接法、TIG溶接法などがある。
【0037】
ここでハイブリッド溶接とは、溶接を行うレーザ装置10と、アーク溶接装置15とを溶接の進行方向に並べ、1つの溶融部にこれら2つの装置から同時にエネルギを供給する溶接方法である。本実施形態では、溶接の進行方向に対して、アーク溶接装置15が、レーザ装置10の前側に設けられている。なお前後の配置は逆になることもある。
【0038】
溶接型液圧シリンダが、レーザによる溶接と、溶加材が用いられているアーク溶接と、からなるハイブリッド溶接で製造されていることにより、アーク溶接装置15のみで溶接を行う場合と比較して、アーク溶接装置15からシリンダ1への入熱量を抑えることができ、シリンダ1内の残留応力を減らすことができる。これによりシリンダ1の溶接ひずみを少なくし、溶接型液圧シリンダの軽量化、コンパクト化を図ることができる。
【0039】
このように入熱量が抑えられた場合でも、レーザによる溶接が行われるので、溶融深さを深くできる。特にアーク溶接装置15が、レーザ装置10の前側に設けられていることにより、まずアーク溶接装置15が、少ない入熱量で溶接対象の表面近くを溶融させた後で、レーザ装置10により溶融部材を溶接対象の奥まで到達させることができる。
【0040】
また、径の大きい溶接型液圧シリンダの溶接を、レーザ装置10のみを用いて行う場合、シリンダチューブ2の板厚が厚さに比して、レーザ装置10による溶融部分が小さいため、その溶融部分での梨型割れが生じ易くなる。アーク溶接装置15を組み合わせることにより、この梨型割れの発生を抑えることが可能となる。また、レーザ装置10のみで溶接する場合、シリンダチューブ2とヘッドカバー3との接合面の加工精度を上げる必要があるが、アーク溶接装置15によりこれらの接合面を溶加材で埋めることができるので、接合面の加工精度を必要以上に挙げる必要がなく、加工費用を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る液圧シリンダ、及びシリンダ装置は、従来シリンダ及びシリンダ装置を用いてきた装置に利用することができる。特に液圧シリンダ、及びシリンダ装置自体が装置上で動作させられる要素となる場合には、その要素の重量を軽くすることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 シリンダ
2 シリンダチューブ
3 ヘッドカバー
4 溶融部分
5 熱影響部
20 作業車両
40 伸縮ブーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6