特許第6521301号(P6521301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6521301-車両用操舵装置 図000002
  • 特許6521301-車両用操舵装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6521301
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20190520BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20190520BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20190520BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20190520BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D113:00
   B62D119:00
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-76916(P2015-76916)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-196242(P2016-196242A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100086391
【弁理士】
【氏名又は名称】香山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕貴
【審査官】 野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/038134(WO,A1)
【文献】 特開2014−133530(JP,A)
【文献】 特開2007−137294(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0262073(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D6/00−6/10
B62D5/00−5/32
B60W30/00−50/16
H02P4/00
H02P25/08−25/098
H02P29/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を操向するための操舵部材と、転舵輪を転舵させるための転舵機構と、前記操舵部材の動きをロックさせるためのロック機構と、前記操舵部材と前記転舵機構とを機械的に連結したり分離したりするためのクラッチと、前記操舵部材に反力を与えるための反力モータと、前記クラッチが解放されている状態で転舵機構を駆動するための転舵モータと、前記操舵部材に加えられる操舵トルクを検出するための操舵トルク検出手段とを含む車両用操舵装置であって、
イグニッションキーがACC位置にある場合において、前記ロック機構による前記操舵部材のロックを解除させた後に、前記操舵トルク検出手段によって検出される検出操舵トルクが所定値以上になったか否かを監視する監視手段と、
前記検出操舵トルクが所定値以上になったときに、前記クラッチを解放させるためのクラッチ解放指令を出力させるクラッチ解放指令出力手段とを含む、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記クラッチ解放指令出力手段によってクラッチ解放指令が出力された後に、前記クラッチが解放されているか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記クラッチが解放されていると判定されたときには、前記操舵部材と前記転舵機構とが機械的に連結されていない状態で前記転舵輪の転舵が行われるステアバイステアモードに動作モードを移行させ、前記クラッチが解放されていないと判定されたときには、前記操舵部材と前記転舵機構とが機械的に連結されている状態で前記転舵輪の転舵が行われるフェイルセーフモードに動作モードを移行させる手段とを含む、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両に用いられる車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操舵装置として、操舵部材と転舵機構とが機械的に連結されていない、いわゆるステアバイワイヤ(SBW:Steer-By-Wire)式の車両用操舵装置が知られている。例えば、下記特許文献1には、操舵部材としてのステアリングホイールと転舵機構とを電磁クラッチを介して機械的に連結することが可能なステアバイワイヤ式の車両用操舵装置が開示されている。この電磁クラッチは、通常状態では、解放状態となっており、ステアバイワイヤモード(SBWモード)で転舵制御が行われる。ステアバイワイヤモードで転舵制御が行われているときに、何らかの異常が発生した場合には、電磁クラッチが締結され、パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)モードで転舵制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−218192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアリングホイールと転舵機構とを電磁クラッチを介して機械的に連結することが可能なステアバイワイヤ式の車両用操舵装置では、一般的に、イグニッションキーがオン位置に操作されたときに電磁クラッチが解放されて、SBWモードへ移行する。しかし、イグニッションキーがオフ位置からACC(アクセサリー)位置に操作されたときには、ハンドルロック装置によるステアリングホイールのロックは解除されるが、電磁クラッチは締結された状態のままであり、SBWモードへ移行しない。イグニッションキーがACC位置にある場合に、運転者がステアリングホイールを操作すると、電磁クラッチにトルクがかかり、電磁クラッチが噛み込みを起こすおそれがある。
【0005】
イグニッションキーがACC位置にある場合に電磁クラッチが噛み込みを起こすと、その後に、イグニッションキーがオン位置に操作されて、クラッチ解放指令が出力されたにもかかわらず、電磁クラッチが締結状態を維持する可能性がある。電磁クラッチが締結状態を維持した状態のままSBWモードに移行した場合には、ステアリングホイールに運転者の予期しないトルクが発生するため、いわゆるハンドル取られが発生するおそれがある。
【0006】
この発明の目的は、イグニッションキーがACC位置にある場合に、クラッチの噛み込みが起こりにくくなる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、車両を操向するための操舵部材(2)と、転舵輪(3)を転舵させるための転舵機構(4)と、前記操舵部材の動きをロックさせるためのロック機構(10)と、前記操舵部材と前記転舵機構とを機械的に連結したり分離したりするためのクラッチ(6)と、前記操舵部材に反力を与えるための反力モータ(14)と、前記クラッチが解放されている状態で転舵機構を駆動するための転舵モータ(31)と、前記操舵部材に加えられる操舵トルクを検出するための操舵トルク検出手段(12)とを含む車両用操舵装置(1)であって、イグニッションキーがACC位置にある場合において、前記ロック機構による前記操舵部材のロックを解除させた後に、前記操舵トルク検出手段によって検出される検出操舵トルクが所定値以上になったか否かを監視する監視手段(40)と、前記検出操舵トルクが所定値以上になったときに、前記クラッチを解放させるためのクラッチ解放指令を出力させるクラッチ解放指令出力手段(40)とを含む、車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0008】
この構成では、イグニッションキーがACC位置にある場合に、検出操舵トルクが所定値以上になったときに、クラッチ解放指令が出力される。これにより、締結状態のクラッチに大きなトルク(操舵トルク)が加えられる前に、クラッチを解放させることが可能となる。このため、イグニッションキーがACC位置にある場合に、操舵部材が操作されたとしても、クラッチの噛み込みが起こりにくくなる。これにより、SBWモードに移行した場合に、いわゆるハンドル取られが発生しにくくなる。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記クラッチ解放指令出力手段によってクラッチ解放指令が出力された後に、前記クラッチが解放されているか否かを判定する判定手段(40)と、前記判定手段によって前記クラッチが解放されていると判定されたときには、前記操舵部材と前記転舵機構とが機械的に連結されていない状態で前記転舵輪の転舵が行われるステアバイステアモードに動作モードを移行させ、前記クラッチが解放されていないと判定されたときには、前記操舵部材と前記転舵機構とが機械的に連結されている状態で前記転舵輪の転舵が行われるフェイルセーフモードに動作モードを移行させる手段(40)とを含む、請求項1に記載の車両用操舵装置である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、イグニッションキーがACC位置にある場合にECUによって実行される処理(ACC状態時の処理)の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
車両用操舵装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、転舵輪3を転舵するための転舵機構4と、ステアリングホイール2に連結されたステアリングシャフト5と、ステアリングシャフト5(ステアリングホイール2)と転舵機構4とを機械的に連結したり分離したりするためのクラッチ6とを含む。この実施形態では、クラッチ6は、電磁クラッチである。クラッチ6は、入力軸(図示略)と、出力軸(図示略)と、それらの間でトルクを伝達・遮断するクラッチ機構部(図示略)と、クラッチ機構部の締結・解放を動作するための励磁部(図示略)とを含む。
【0012】
ステアリングシャフト5は、ステアリングホイール2に連結された第1軸7と、クラッチ6の入力軸に一体的に連結された第2軸9と、第1軸7と第2軸9とを連結するトーションバー8とを含む。
第1軸7の近傍には、ステアリングホイール2の回転をロックするためのハンドルロック装置10が設けられている。ハンドルロック装置10は、モータ(図示略)によって駆動されてステアリングホイール2の回転をロックするロック機構(図示略)を含んでいる。
【0013】
第1軸7の周囲には、第1軸7の回転角である操舵角θsを検出するための舵角センサ11が配置されている。この実施形態では、舵角センサ11は、第1軸7の中立位置からの第1軸7の正逆両方向の回転量(回転角)を検出するものであり、中立位置から右方向への回転量を例えば正の値として出力し、中立位置から左方向への回転量を例えば負の値として出力する。
【0014】
また、ステアリングシャフト5の周囲には、トルクセンサ12が配置されている。トルクセンサ12は、第1軸7および第2軸9の相対回転変位量、つまり、トーションバー8の捩れ角に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクTを検出する。この実施形態では、トルクセンサ12によって検出される操舵トルクTは、右方向への操舵のためのトルクが正の値として検出され、左方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほど操舵トルクの大きさが大きくなるものとする。
【0015】
第2軸9には、減速機13を介して反力モータ14が連結されている。反力モータ14は、ステアリングホイール2に操舵反力(操舵方向と反対方向のトルク)を付与するための電動モータである。減速機13は、反力モータ14の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォーム軸(図示略)と、このウォーム軸と噛み合い、第2軸9に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。反力モータ14には、反力モータ14の回転角を検出ための回転角センサ15が設けられている。
【0016】
転舵機構4は、クラッチ6の出力軸に一体的に連結された第1ピニオン軸16と、転舵軸としてのラック軸17と、ラック軸17に転舵力を付与するための転舵アクチュエータ30とを含む。ラック軸17の各端部には、タイロッド18およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。第1ピニオン軸16の先端には、第1ピニオン19が連結されている。ラック軸17は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸17の軸方向の第1端部には、第1ピニオン19に噛み合う第1ラック20が形成されている。
【0017】
転舵アクチュエータ30は、転舵モータ31と、減速機32と、第2ピニオン軸33と、第2ピニオン34と、第2ラック35とを含む。第2ピニオン軸33は、ステアリングシャフト5とは、分離して配置されている。減速機32は、転舵モータ31の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォーム軸(図示略)と、このウォーム軸と噛み合い、第2ピニオン軸33に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。
【0018】
第2ピニオン34は、第2ピニオン軸33の先端に連結されている。第2ラック35は、ラック軸17の軸方向の第1端部とは反対の第2端部側に設けられている。第2ピニオン34は、第2ラック35に噛み合っている。転舵モータ31には、転舵モータ31の回転角を検出するための回転角センサ36が設けられている。ラック軸17の近傍には、ラック軸17の軸方向移動量を検出するためのストロークセンサ37が配置されている。ストロークセンサ37が検出したラック軸17の軸方向移動量から、転舵輪3の転舵角θrが検出されるようになっている。
【0019】
舵角センサ11、トルクセンサ12、回転角センサ15,36、ストロークセンサ37および車速センサ38の検出信号ならびにイグニッションキーの状態検知信号は、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)40に入力される。ECU40は、これらの入力信号に基づいて、ハンドルロック装置10、クラッチ6、反力モータ14および転舵モータ31を制御する。具体的には、ECU40は、ハンドルロック装置10、クラッチ6、反力モータ14および転舵モータ31それぞれに対する駆動回路(図示略)と、それらの駆動回路を制御するためのマイクロコンピュータ(図示略)とを含んでいる。
【0020】
車両用操舵装置1は、動作モードとして、ステアバイワイヤモード(以下、「SBWモード」という。)、フェイルセーフモード等を有している。SBWモードは、ステアリングホイール2と転舵機構4とが機械的に連結されていない状態(クラッチ6が解放されている状態)で、転舵輪3の転舵が行われるモードである。フェイルセーフモードは、ステアリングホイール2と転舵機構4とを機械的に連結させた状態(クラッチ6が締結されている状態)で、転舵輪3の転舵が行われるモードであり、SBWモード時に何らかの異常が発生したときに自動的に設定されるモードである。この実施形態では、フェイルセーフモードは、反力モータ14および転舵モータ31の少なくとも一方によって、操舵トルク等に応じた操舵補助力を発生させるパワーステアリングモード(EPSモード)である。なお、フェイルセーフモードは、手動のみによって転舵を行うマニュアルステアリングモードであってもよい。
【0021】
SBWモード時においては、ECU40は、例えば、舵角センサ11によって検出される操舵角θs、トルクセンサ12によって検出される操舵トルクT、車速センサ38によって検出される車速V等に基づいて、反力モータ14および転舵モータ21を制御する。具体的には、ECU40は、操舵角θs、操舵トルクTおよび車速Vに基づいて反力トルク目標値を演算し、反力トルク目標値に応じたモータトルクが反力モータ14から発生するように、反力モータ14を制御する。また、ECU40は、操舵角θs、操舵トルクTおよび車速Vに基づいて転舵角目標値を演算し、ストロークセンサ37の出力から演算される転舵輪3の転舵角θrが転舵角目標値と等しくなるように、転舵モータ31を制御する。
【0022】
EPSモード時においては、ECU40は、例えば、操舵角θs、操舵トルクTおよび車速Vに基づいてアシストトルク目標値に対応したモータ電流指令値を演算し、転舵モータ31(または反力モータ14)のモータ電流が、モータ電流指令値と等しくなるように、転舵モータ31(または反力モータ14)を制御する。
ECU40は、イグニッションキーの状態検知信号に基づいて、イグニッションキーの状態を認識する。イグニッションキーがキーシリンダに差し込まれていないときおよびイグニッションキーがオフ位置にあるときには、クラッチ6は締結状態となっている。イグニッションキーがオン位置に操作されると、ECU40は、クラッチ6を解放状態にした後、動作モードをSBWモードに移行させる。SBWモード時に何らかの異常が発生すると、ECU40は、クラッチ6を締結状態にした後、動作モードをフェイルセーフモード(この実施形態ではEPSモード)に移行させる。イグニッションキーがオン位置からオフ位置に操作されると、ECU40はクラッチ6を締結状態にする。
【0023】
図2は、イグニッションキーがACC位置にある場合にECU40によって実行される処理(ACC状態時の処理)の手順を示すフローチャートである。
イグニッションキー(IGキー)がACC(アクセサリー)位置に操作されると(ステップS1)、ECU40は、ハンドルロック装置10によるステアリングホイール2のロックを解除させる(ステップS2)。この後、ECU40は、イグニッションキーが引き続きACC位置にあるか否かを判別する(ステップS3)。
【0024】
イグニッションキーがACC位置にあれば(ステップS3:YES)、ECU40は、トルクセンサ12によって検出される操舵トルクTの絶対値|T|が所定値A(A>0)以上であるか否かを判別する(ステップS4)。操舵トルクTの絶対値|T|が所定値A未満であれば(ステップS4:NO)、ECU40は、ステップS3に戻る。
前記ステップS3において、イグニッションキーがACC位置にないと判別された場合には(ステップS3:NO)、ECU40は今回の処理(ACC状態時の処理)を終了する。
【0025】
前記ステップS4において、操舵トルクTの絶対値|T|が所定値A以上であると判別された場合には(ステップS4:YES)、クラッチ6が噛み込みを起こすのを回避するために、ECU40は、クラッチ解放指令をクラッチ6の駆動回路に出力する(ステップS5)。これにより、クラッチ6を解放させるための励磁部に電力が供給される。
この後、ECU40は、クラッチ6が解放されたか否かを判定する(ステップS6)。言い換えれば、ECU40は、クラッチ解放指令を出力したにもかかわらず、クラッチ6が噛み込みによって締結状態を維持しているか否かを判定する。この判定は、例えば、転舵モータ31を駆動させた状態で、トルクセンサ12によって検出される操舵トルクTの絶対値|T|が所定値B(B>0)以下であるか否かを判定することによって行うことができる。クラッチ6が解放されている場合には、転舵モータ31によって発生したモータトルクはステアリングシャフト5には伝達されないので、トルクセンサ12によって検出される操舵トルクTの絶対値|T|は所定値B以下となる。一方、クラッチ6が締結状態を維持している場合には、転舵モータ31によって発生したモータトルクは転舵機構4およびクラッチ6を介してステアリングシャフト5に伝達されるので、トルクセンサ12によって検出される操舵トルクTの絶対値は所定値Bよりも大きくなる。
【0026】
なお、転舵モータ31を駆動した状態で、クラッチ6の入力軸に連結されたステアリングシャフト5とクラッチ6の出力軸に連結された第1ピニオン軸16との間の角度偏差が所定値C(C>0)以上であるか否かに基いて、クラッチ6が解放されているか否かを判定してもよい。ステアリングシャフト5と第1ピニオン軸16との間の角度偏差が所定値C以上であれば、クラッチ6が解放されていると判別する。
【0027】
前記ステップS6において、クラッチ6が解放されていると判別された場合には(ステップS6:YES)、ECU40は、動作モードをSBWモードに移行させる(ステップS7)。そして、今回の処理(ACC状態時の処理)を終了する。
前記ステップS6において、クラッチ6が解放されていないと判別された場合には(ステップS6:NO)、ECU40は、クラッチ6を締結させるためのクラッチ締結指令をクラッチ6の駆動回路に出力する(ステップS8)。これにより、クラッチ6を解放させるための励磁部への電力供給が停止される。この後、ECU40は、動作モードをフェイルセーフモード(EPSモード)に移行させる(ステップS9)。そして、今回の処理(ACC状態時の処理)を終了する。
【0028】
前述の実施形態では、イグニッションキーがACC位置に操作されると、ハンドルロックが解除される(ステップS1,S2参照)。この後、イグニッションキーが引き続きACC位置にあるときには、トルクセンサ12によって検出される操舵トルクTの絶対値|T|が所定値A以上になったか否かが監視される(ステップS3,S4参照)。そして、操舵トルクTの絶対値|T|が所定値A以上になると、クラッチ6を解放させるためのクラッチ解放指令が出力される(ステップS4,S5参照)。これにより、締結状態のクラッチ6に大きなトルク(操舵トルク)が加えられる前に、クラッチ6を解放させることが可能となる。このため、イグニッションキーがACC位置にある場合に、ステアリングホイール2が操作されたとしても、クラッチ6の噛み込みが起こりにくくなる。
【0029】
この後、クラッチ6が解放されたか否かのクラッチ解放判定が行われ、クラッチ6が解放されていると判定されると、動作モードはSBWモードに移行する(ステップS6,S7参照)。これにより、SBWモードによる転舵が可能となる。この場合、クラッチは解放されているので、いわゆるハンドル取られは発生しなくなる。
一方、クラッチ解放判定において、クラッチ6が締結されていると判定されると、クラッチ締結指令が出力された後に、動作モードがフェイルセーフモード(この例ではEPSモード)に移行する(ステップS6,S8,S9参照)。これにより、EPSモードによる転舵が可能となる。
【0030】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、前記実施形態では、ECU40は、図2のステップS5でクラッチ解放指令を出力した後、クラッチ6が解放されたか否かを判定し、その判定結果に応じて動作モードをSBWモードまたはフェイルセーフモード(この例ではEPSモード)に移行させている(図2のステップS5〜S9参照)。しかし、このようにして、動作モードがSBWモードまたはEPSモードに移行した後においても、イグニッションキーがACC位置にある状態が維持された場合には、ステアリングホイール2の操作される毎に反力モータ14および転舵モータ31の両方または一方が駆動されるため、バッテリーが上がってしまうおそれがある。そこで、バッテリー上がりが生じないように、図2のステップS5でクラッチ解放指令を出力した後、ECU40は、ハンドルロック装置10によってステアリングホイール2をロックさせるようにしてもよい。この場合、操舵を行えるようにするには、運転手は、イグニッションキーをオフ位置に操作した後に、ACC位置に操作して、ハンドルロックを解除させる必要がある。
【0031】
また、前記実施形態では、転舵輪3の転舵角θrをストロークセンサ37が検出したラック軸17の軸方向移動量から検出しているが、転舵輪3の転舵角θrを回転角センサ36が検出した回転角に基づいて検出してもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…車両用操舵装置、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、4…転舵機構、10…ハンドルロック装置、6…クラッチ、12…トルクセンサ、14…反力モータ、31…転舵モータ、40…ECU
図1
図2