特許第6521308号(P6521308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6521308
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】サクションアンカー
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20190520BHJP
   E02D 27/52 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   E02D5/80 Z
   E02D27/52 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-166808(P2015-166808)
(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-43953(P2017-43953A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真一
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−147988(JP,A)
【文献】 特開2013−245453(JP,A)
【文献】 特開2001−163288(JP,A)
【文献】 米国特許第04572304(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
E02D 27/52
E02B 3/06
B63B 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底地盤に貫入される周壁部及びその一端を塞ぐ天板部で構成され引張材を介して浮体構造物を前記水底地盤に係留できるようになっているサクションアンカーにおいて、
前記天板部の近傍に設けられたシリンダー状の隔室と、該隔室内を往復動自在に配置され前記引張材又はそれに連結された引張ロッドが前記天板部に挿通された状態で該引張材又は該引張ロッドの下端が連結された支圧板と、前記隔室の内部空間のうち、前記支圧板で仕切られた上方空間に配置され前記支圧板の上昇に伴って該支圧板の上面及び前記天板部の下面に復元力を作用可能な弾性部材とを備えるとともに、前記隔室を、前記上方空間が周辺水域に連通するように前記天板部又は前記周壁部に連通孔を設け、かつ前記隔室の内部空間のうち、前記支圧板で仕切られた下方空間が前記水底地盤の地盤面に延びるように構成したことを特徴とするサクションアンカー。
【請求項2】
前記下方空間が前記周辺水域に連通するように前記天板部又は前記周壁部にオリフィスを設けた請求項1記載のサクションアンカー。
【請求項3】
前記下方空間が前記上方空間を介して前記周辺水域に連通するように前記支圧板にオリフィスを設けた請求項1記載のサクションアンカー。
【請求項4】
前記弾性部材をコイルスプリング又は透水性ゴムで構成した請求項1乃至請求項3のいずれか一記載のサクションアンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として海底地盤に沈設されるサクションアンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
浮体式の海洋構造物を海上の所定位置に保持するためには、ワイヤーやチェーンで構成された係留索あるいは係留鎖を介して海底のアンカーに係留し、あるいはテンドンと呼ばれる緊張索を介してアンカーに係留する必要があるが、このようなアンカーとしてサクションアンカーが知られている。
【0003】
サクションアンカーは、筒状周壁部とその一端を塞ぐ天板部とで構成されたサクション構造体をアンカーとして利用するものであって、沈設の際には、筒状周壁部の開口側が下方となるようにサクション構造体を海底に設置した後、筒状周壁部内の水を排水してその内外で水圧差を生じさせ、その水圧差を押込み力として筒状周壁部を海底地盤に貫入することができるようになっているものであり、サクション構造体を設置するための起重機船やサクション力を与える排水ポンプさえあれば、それ以外は特殊な施工機械を使用せずに施工可能であるとともに、水平力に対しては、筒状周壁部の外周面に作用する海底地盤からの受動土圧が抵抗力となるため、工期短縮が可能でかつ強度特性に優れたアンカー方式として、北海油田の石油掘削プラットホーム等で採用されている。
【0004】
一方、温室効果ガスの排出抑制が可能で安全性にも優れたあらたなエネルギー源確保が急務となっている昨今、我が国においては洋上風力発電が有望視されているが、その設置方法については、周辺海域の水深が比較的大きいことから、サクションアンカーを用いた浮体式の導入が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−34430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波浪や強風といった外力が洋上風力発電をはじめとした浮体式の海洋構造物に作用した場合、サクションアンカーには緊張索等を介して引張力が伝達されるが、サクションアンカーの自重とその周面に作用する海底地盤からの周面摩擦力とを合わせた荷重が抵抗力となり、該抵抗力が上述の引張力を支持する。
【0007】
そのため、外力による引張力が上述の抵抗力以下である場合には、引抜きに関するサクションアンカーの健全性も確実に維持される。
【0008】
一方、過大な外力が海洋構造物に作用して引張力が上述の抵抗力を上回ると、サクションアンカーが海底地盤から引き抜かれる現象が発生する。
【0009】
その際、サクションアンカーには、内外で大気圧及び水圧の圧力差(負圧)が生じ、該負圧がサクションアンカーを下方に押し込んで引抜きに抵抗するものの、該引抜き変位は、過大な外力が入力するたびに累積して大きくなるため、サクションアンカーにおいては、周面摩擦力による抵抗力が徐々に低下し、やがてはアンカーとしての機能を喪失する。
【0010】
ちなみに、サクションアンカーの規模を大きくして周面摩擦による抵抗力を増やせば、引張力に対する抵抗力を高めることも可能であるが、その場合には経済性の低下が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、サクションアンカーの規模を大きくせずとも、引張力に対する抵抗力を高めることが可能なサクションアンカーを提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るサクションアンカーは請求項1に記載したように、水底地盤に貫入される周壁部及びその一端を塞ぐ天板部で構成され引張材を介して浮体構造物を前記水底地盤に係留できるようになっているサクションアンカーにおいて、
前記天板部の近傍に設けられたシリンダー状の隔室と、該隔室内を往復動自在に配置され前記引張材又はそれに連結された引張ロッドが前記天板部に挿通された状態で該引張材又は該引張ロッドの下端が連結された支圧板と、前記隔室の内部空間のうち、前記支圧板で仕切られた上方空間に配置され前記支圧板の上昇に伴って該支圧板の上面及び前記天板部の下面に復元力を作用可能な弾性部材とを備えるとともに、前記隔室を、前記上方空間が周辺水域に連通するように前記天板部又は前記周壁部に連通孔を設け、かつ前記隔室の内部空間のうち、前記支圧板で仕切られた下方空間が前記水底地盤の地盤面に延びるように構成したものである。
【0013】
また、本発明に係るサクションアンカーは、前記下方空間が前記周辺水域に連通するように前記天板部又は前記周壁部にオリフィスを設けたものである。
【0014】
また、本発明に係るサクションアンカーは、前記下方空間が前記上方空間を介して前記周辺水域に連通するように前記支圧板にオリフィスを設けたものである。
【0015】
また、本発明に係るサクションアンカーは、前記弾性部材をコイルスプリング又は透水性ゴムで構成したものである。
【0016】
本発明に係るサクションアンカーにおいては、天板部の近傍にシリンダー状の隔室を設けてあり、該隔室の内部空間には、引張材又はそれに連結された引張ロッドが連結されてなる支圧板を往復動自在に配置してあるとともに、支圧板の上方空間には弾性部材を配置してあり、隔室は、その内部空間のうち、支圧板で仕切られた上方空間が周辺水域に連通するように連通孔を設けてあるとともに、下方空間が水底地盤の地盤面に延びるように構成してある。
【0017】
このようにすると、引張材に生じる引張力が増加方向に変動したとき、支圧板は、弾性部材に抵抗しつつ、かつ上方空間の水を連通孔を介して流出させながら上昇するとともに、支圧板の下方空間では、水底地盤のうち、周壁部に囲まれた地盤によって、支圧板の上昇に伴う下方空間への水の流入速度が制限される。
【0018】
そのため、一定時間が経過するまでは、支圧板の下方に真空域(沸点降下によって水中の溶存空気が放出される場合には減圧域となるが、これらをまとめて真空域とよぶ)が形成され、該支圧板の下面には、水圧や大気圧がほとんど作用しなくなる。
【0019】
一方、支圧板の上面には、水深に応じた水圧と大気圧が継続して作用するため、それらの圧力差が負圧として支圧板に発生し、該負圧によって引張力における増加分の一部が支持される。
【0020】
すなわち、引張材を介して伝達されてきた引張力の増加分は、従来であればそのすべてが周壁部に伝達し、該周壁部での周面摩擦力が限界周面摩擦力に近い状態であれば、その増加分によって周面摩擦力が限界周面摩擦力に達し、その結果、サクションアンカーが水底地盤から引き抜かれる事態を避けることができなかったが、本発明によれば、引張力の増加分の一部を上述した負圧に負担させることができるため、周面摩擦力が限界周面摩擦力に近い状態であっても、サクションアンカーが水底地盤から引き抜かれる懸念を低減することができる。
【0021】
ここで、一定時間経過後は、周壁部に囲まれた地盤を介して水が流入し、その水で下方空間が満たされるので、支圧板の下面にも水深に応じた水圧と大気圧が作用する。そのため、支圧板の上下面では、圧力がバランスして負圧が消滅するとともに、弾性部材の復元力によって支圧板が下降して元の状態に戻り、次なる引張力の変動に備える状態となる。
【0022】
このように本発明によれば、引張力が増加方向に変動したとき、その変動に応答して、換言すれば受動的に支圧板を上昇させて負圧を発生させ、該負圧で変動分の一部を支持するようにしたので、浮体構造物を係留するための引張抵抗力は、周壁部の周面摩擦力と自重とを合算したものに、上述した負圧による抵抗力が加わることとなり、かくして引張力が増加方向に変動したときのサクションアンカーの引抜き抵抗力を高めることが可能となる。
【0023】
本発明においては、一定時間の経過後、周壁部に囲まれた地盤を介して水が流入することを前提としたが、該地盤が不透水性又は難透水性である場合、支圧板の上昇に伴う下方空間への水の流入速度が過度に制限され、その結果、一定時間が経過した後も下方空間に水が流入せず、次なる引張力の変動に備えることが難しくなることが懸念される。
【0024】
かかる場合においては、下方空間が周辺水域に連通するように天板部又は周壁部にオリフィスを設けた構成とするか、下方空間が上方空間を介して周辺水域に連通するように支圧板にオリフィスを設けた構成とすればよい。
【0025】
このようにすると、周壁部に囲まれた不透水性又は難透水性の地盤や上述したオリフィスによって、支圧板の上昇に伴う下方空間への水の流入速度が制限される一方、一定時間経過後は、オリフィスを介して周辺水域から水が流入し該水で下方空間が満たされるので、次なる引張力の変動に備えることが可能となる。
【0026】
隔室をどのように構成するかは任意であって、周壁部や天板部とは別構成としてもよいが、それらの少なくとも一部を共有する構成が典型例となる。
【0027】
例えば、周壁部を円筒状の筒体で、天板部を平板でそれぞれ構成してある場合に、これらの周壁部及び天板部で本発明の隔室を構成するとともに該隔室内に支圧板を収納した構成とすることができる。
【0028】
この構成においては、周壁部の内面、天板部の下面及び支圧板の上面で囲まれた円柱状の空間が本発明の上方空間となり、周壁部の内面、支圧板の下面及び水底地盤の地盤面で囲まれた同じく円柱状の空間が本発明の下方空間となる。
【0029】
また、周壁部よりも外寸が小さな筒状壁体をその内側空間が周壁部の内側空間に連通するように天板部本体の中央近傍から上方に向けて延設し、該筒状壁体の内側に支圧板を収納するようにしてもかまわない。
【0030】
この場合、サクションアンカーの設置時の状況を考慮すると、一般的には水底地盤の地盤面が天板部本体よりも低くなるため、隔室は、筒状壁体、その上方開口を塞ぐ頂部、天板部本体及び周壁部で構成されるとともに、筒状壁体の内面、頂部の下面及び支圧板の上面で囲まれた円柱状の空間が本発明の上方空間となり、筒状壁体の内面、支圧板の下面、天板部本体の下面、周壁部の内面及び水底地盤の地盤面で囲まれた段状の空間が本発明の下方空間となる。なお、筒状壁体及びその上方開口を塞ぐ頂部は、天板部本体とともに、本発明の天板部を構成する。
【0031】
また、上述の筒状壁体をその内側空間が周壁部の内側空間に連通するように天板部の中央近傍から下方に向けて垂設し、該筒状壁体の内側に支圧板を収納するようにしてもかまわない。
【0032】
この場合、隔室は、天板部、筒状壁体及び周壁部で構成されるとともに、筒状壁体の内面、天板部の下面及び支圧板の上面で囲まれた空間が本発明の上方空間となり、筒状壁体の内面と支圧板の下面で囲まれた小径の円柱状空間、周壁部と筒状壁体の間に拡がる環状空間及びそれらと水底地盤の地盤面との間に拡がる大径の円柱状空間が本発明の下方空間となる。
【0033】
弾性部材は、支圧板上面への水圧及び大気圧の作用を阻害することなく、該支圧板と隔室頂部との間で荷重伝達を可能にするものであれば、どのような構成でもよいが、例えば、コイルスプリングや透水性ゴムで構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本実施形態に係るサクションアンカー1の縦断面図。
図2】引張力が一定のときのサクションアンカー1の作用を示した説明図。
図3】引張力が増加したときのサクションアンカー1の作用を示した説明図。
図4】本実施形態の変形例に係るサクションアンカーの縦断面図。
図5】本実施形態の別の変形例に係るサクションアンカーの縦断面図。
図6】本実施形態のさらに別の変形例に係るサクションアンカーの縦断面図。
図7】同じく別の変形例に係るサクションアンカーの縦断面図。
図8】同じく別の変形例に係るサクションアンカーの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係るサクションアンカーの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0036】
図1は、本実施形態に係るサクションアンカー1を示した縦断面図である。同図に示すように、本実施形態に係るサクションアンカー1は、海底地盤13に貫入される円筒状の周壁部2と、その上端を塞ぐ天板部3と、該天板部の近傍に設けられたシリンダー状の隔室4と、該隔室内に配置され引張ロッド9がその下端で連結された円板状の支圧板8とで概ね構成してあり、引張ロッド9の上端に連結された引張材としての緊張索10を介して浮体構造物(図示せず)を海底地盤13に係留できるようになっている。
【0037】
隔室4は、周壁部2のうち、天板部3の直下に延びて該天板部に隣接する隣接部位2aと天板部3とで構成してあり、上述した引張ロッド9は、天板部3のロッド挿通孔7に挿通された状態で支圧板8に連結してある。
【0038】
支圧板8は、隔室4内をほぼ鉛直方向に沿って往復動自在となるように配置してあるとともに、該隔室の内部空間を、天板部3の下面と支圧板8の上面との間に拡がる上方空間14と、支圧板8の下面と海底地盤13の地盤面45との間に拡がる下方空間15とに水密に区画してある。
【0039】
隔室4の上方空間14には、支圧板8の上昇に伴って該支圧板の上面及び天板部3の下面に復元力を作用可能な弾性部材としてのコイルスプリング16を配置してある。
【0040】
ここで、ロッド挿通孔7は、上方空間14を周辺水域17に連通させるための連通孔としての役目も兼ねるようになっている。
【0041】
本実施形態に係るサクションアンカー1は図2(a)に示すように、浮体構造物としての風力発電施設21と緊張索10でつながれており、該緊張索に生じている引張力Pが、自重Wと海底地盤13から周壁部2の周面に作用する周面摩擦力Rとで支持されることにより、風力発電施設21が海底地盤13に係留される。
【0042】
ここで、同図(b)に示すように、隔室4の上方空間14及び下方空間15は、いずれも海水で満たされており、支圧板8の上下面には、それぞれ水深に応じた水圧と大気圧が作用し、両者はバランスする。
【0043】
また、支圧板8の上面には、天板部3及びコイルスプリング16を介して伝達される自重W及び周面摩擦力Rが作用し、これらが、引張ロッド9を介して伝達される引張力Pと釣り合うので、上述した力の関係は、
P=W+R (1)
となる。ちなみに、コイルスプリング16には、引張力Pに応じた弾性変形が生じる。
【0044】
一方、風力発電施設21は、波浪や風あるいは潮位変動を受けて上下左右に並進移動しあるいは揺動するため、該風力発電施設とサクションアンカー1とをつなぐ緊張索10の引張力も変動する。
【0045】
例えば図3(a)に示すように風力発電施設21が風によって並進移動し、それによって緊張索10の引張力PがΔPだけ増加する場合においては、支圧板8は同図(b)に示すように、コイルスプリング16に抵抗しつつ、かつロッド挿通孔7から上方空間14の水を流出させながら上昇するとともに、支圧板8の下方空間15では、海底地盤13のうち、周壁部2に囲まれた地盤46によって、支圧板8の上昇に伴う下方空間15への水の流入速度が制限される。
【0046】
そのため、一定時間が経過するまでは、支圧板8の下方に真空域31が形成され、該支圧板の下面には、水圧や大気圧がほとんど作用しなくなる。
【0047】
一方、支圧板8の上面には、水深に応じた水圧と大気圧が継続して作用するため、それらの圧力差が負圧ΔNとなって支圧板8に作用する。
【0048】
また、支圧板8の上面には、天板部3及びコイルスプリング16を介して伝達される自重W及び周面摩擦力(R+ΔR)が作用し、これらが、引張ロッド9を介して伝達される引張力(P+ΔP)と釣り合うので、これらの力の関係は、
P+ΔP=W+R+ΔR+ΔN (2)
となる。
【0049】
ここで、コイルスプリング16には、引張力(P+ΔP−ΔN)に応じた弾性変形が生じるが、該弾性変形は、引張力Pのときよりも収縮する変形となって復元力が増加し、該復元力の増加分は周壁部2に伝達され、周面摩擦力ΔRで支持される。
【0050】
すなわち、緊張索10及び引張ロッド9を介して伝達されてきた引張力Pの増加分ΔPは、その一部が負圧ΔNで負担されるため、周壁部2で負担されるべき周面摩擦力は低減される。
【0051】
ここで、一定時間経過後は、周壁部2に囲まれた地盤46を介して水が流入し、その水で下方空間15が満たされるので、支圧板8の下面にも水深に応じた水圧と大気圧が作用する。そのため、支圧板8の上下面では、圧力がバランスして負圧が消滅するとともに、コイルスプリング16の復元力によって支圧板8が下降して図2に示した元の状態に戻り、次なる引張力の変動に備える状態となる。
【0052】
なお、引張力Pが増加方向に変動している間、下方空間15が水で満たされることがないよう、周壁部2の高さを適宜設定して流入速度を制限する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係るサクションアンカー1によれば、引張力Pが増加方向に変動したとき、その変動に応答して、換言すれば受動的に支圧板8を上昇させて負圧ΔNを発生させ、該負圧で増加分ΔPの一部を支持するようにしたので、風力発電施設21を係留するための引張抵抗力は、周壁部2の周面摩擦力Rと自重Wとを合算したものに、上述した負圧ΔNによる抵抗力が加わることとなり、かくして引張力Pが増加方向に変動したときのサクションアンカー1の引抜き抵抗力を高めることが可能となる。
【0054】
本実施形態では、上方空間14を周辺水域17に連通させるための連通孔をロッド挿通孔7と兼用するようにしたが、これに代えて天板部3に連通孔を設けるようにしてもよいし、支圧板8のストローク上限よりも高く位置決めされるのであれば、周壁部2に連通孔を設ける構成としてもかまわない。
【0055】
また、本実施形態では、コイルスプリング16で本発明の弾性部材を構成したが、該弾性部材は、支圧板8上面への水圧及び大気圧の作用を阻害することなく、支圧板8と天板部3との間で荷重伝達ができれば足りるのであって、コイルスプリング16に代えて、透水性ゴムを採用することが可能である。
【0056】
また、本実施形態では、本発明の隔室を、周壁部2のうち、天板部3の直下に延びて該天板部に隣接する隣接部位2aと天板部3とで概ね構成されてなる隔室4としたが、隔室をどのように構成するかは任意であって、図4に示すように、周壁部2よりも外寸が小さな筒状壁体5をその内側空間が周壁部2の内側空間に連通するように天板部本体3aに上方に延設するとともに該筒状壁体の上部開口を頂部6で塞いで構成してなる隔室44を採用することができる。
【0057】
この場合、支圧板8は、筒状壁体5の内側空間に配置され、該支圧板で仕切られた隔室44の上方空間14には、支圧板8の上昇に伴って該支圧板の上面及び頂部6の下面に復元力を作用可能なコイルスプリング16を配置してあるとともに、引張ロッド9は、頂部6に形成されたロッド挿通孔7aに挿通された状態で支圧板8に連結してあり、頂部6には、隔室44の上方空間14を周辺水域17に連通する連通孔12を設けてある。
【0058】
なお、支圧板8の下方であって筒状壁体5の内側に拡がる小径の円柱状空間は、周壁部2と海底地盤13の地盤面45とに囲まれた大径の円柱状空間と一体化された段状空間15aとして、本発明の下方空間を構成するとともに、筒状壁体5及び頂部6は、天板部本体3aとともに本発明の天板部を構成する。
【0059】
また、図5に示すように、筒状壁体5をその内側空間が周壁部2の内側空間に連通するように天板部3の下面から下方に延設してなる隔室54で本発明の隔室を構成してもよい。
【0060】
この場合、支圧板8は、筒状壁体5の内側空間に配置され、該支圧板で仕切られた隔室54の上方空間14には、支圧板8の上昇に伴って該支圧板の上面及び天板部本体3bの下面に復元力を作用可能なコイルスプリング16を配置してあるとともに、引張ロッド9は、天板部3に形成され連通孔を兼用するロッド挿通孔7に挿通された状態で支圧板8に連結してある。
【0061】
なお、支圧板8の下方であって筒状壁体5の内側に拡がる小径の円柱状空間は、周壁部2と筒状壁体5の間に拡がる環状空間及びそれらと海底地盤13の地盤面45との間に拡がる大径の円柱状空間と一体化された空間15bとして、本発明の下方空間を構成する。
【0062】
これらの変形例においても、構成及び作用効果は上述の実施形態とほぼ同様であり、ここではその説明を省略する。
【0063】
また、本実施形態では、一定時間経過後、周壁部2に囲まれた地盤46を介して水が流入することを前提としたが、該地盤が不透水性又は難透水性である場合、支圧板8の上昇に伴う下方空間15,15a,15bへの水の流入速度が過度に制限され、その結果、一定時間が経過した後も下方空間15,15a,15bに水が流入せず、次なる引張力の変動に備えることが難しくなることが懸念される。
【0064】
かかる場合においては、下方空間15,15a,15bが、地盤46とは異なる連通路を介して周辺水域17に連通するように構成すればよい。
【0065】
図6は、図1で説明した実施形態において、海底地盤13の地盤面45よりも上方でかつ支圧板8の最下位置よりも下方となるように周壁部2にオリフィス61を設けるか、又は支圧板8にオリフィス62を設けた構成を示した変形例である。
【0066】
このようにすると、周壁部2に囲まれた不透水性又は難透水性の地盤46やオリフィス61,62によって、支圧板8の上昇に伴う下方空間15への水の流入速度が制限される一方、一定時間経過後は、オリフィス61又はオリフィス62を介して周辺水域から水が流入し、該水で下方空間15が満たされるので、次なる引張力の変動に備えることが可能となる。
【0067】
図7は、図4で説明した変形例において、海底地盤13の地盤面45よりも上方でかつ支圧板8の最下位置よりも下方となるように、天板部の一部である筒状壁体5にオリフィス71を設けるか、又は支圧板8にオリフィス72を設けた構成を示した変形例である。
【0068】
このようにすると、周壁部2に囲まれた不透水性又は難透水性の地盤46やオリフィス71,72によって、支圧板8の上昇に伴う下方空間15aへの水の流入速度が制限される一方、一定時間経過後は、オリフィス71又はオリフィス72を介して周辺水域17から水が流入し、該水で下方空間15aが満たされるので、次なる引張力の変動に備えることが可能となる。
【0069】
なお、オリフィス71を、筒状壁体5に代えて、天板部本体3a又は周壁部2に設けた構成としてもかまわない。
【0070】
図8は、図5で説明した変形例において、海底地盤13の地盤面45よりも上方となるように、周壁部2にオリフィス81を設けるか、又は支圧板8にオリフィス82を設けた構成を示した変形例である。
【0071】
このようにすると、周壁部2に囲まれた不透水性又は難透水性の地盤46やオリフィス81,82によって、支圧板8の上昇に伴う下方空間15bへの水の流入速度が制限される一方、一定時間経過後は、オリフィス81又はオリフィス82を介して周辺水域17から水が流入し、該水で下方空間15bが満たされるので、次なる引張力の変動に備えることが可能となる。
【0072】
なお、オリフィス81を、周壁部2に代えて天板部3に設けた構成としてもかまわない。
【符号の説明】
【0073】
1 サクションアンカー
2 周壁部
2a 天板部3に延びる周壁部2の隣接部位
3 天板部
3a 天板部本体(天板部)
4,44,54 隔室
5 筒状壁体(天板部)
6 頂部(天板部)
7 ロッド挿通孔(連通孔)
8 支圧板
9 引張ロッド
10 緊張索(引張材)
12 連通孔
13 海底地盤(水底地盤)
14 上方空間
15,15a,15b 下方空間
16 コイルスプリング(弾性部材)
17 周辺水域
21 風力発電施設(浮体構造物)
45 海底地盤13の地盤面
46 周壁部2に囲まれた地盤
61,62,71,72,81,82
オリフィス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8