【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波浪や強風といった外力が洋上風力発電をはじめとした浮体式の海洋構造物に作用した場合、サクションアンカーには緊張索等を介して引張力が伝達されるが、サクションアンカーの自重とその周面に作用する海底地盤からの周面摩擦力とを合わせた荷重が抵抗力となり、該抵抗力が上述の引張力を支持する。
【0007】
そのため、外力による引張力が上述の抵抗力以下である場合には、引抜きに関するサクションアンカーの健全性も確実に維持される。
【0008】
一方、過大な外力が海洋構造物に作用して引張力が上述の抵抗力を上回ると、サクションアンカーが海底地盤から引き抜かれる現象が発生する。
【0009】
その際、サクションアンカーには、内外で大気圧及び水圧の圧力差(負圧)が生じ、該負圧がサクションアンカーを下方に押し込んで引抜きに抵抗するものの、該引抜き変位は、過大な外力が入力するたびに累積して大きくなるため、サクションアンカーにおいては、周面摩擦力による抵抗力が徐々に低下し、やがてはアンカーとしての機能を喪失する。
【0010】
ちなみに、サクションアンカーの規模を大きくして周面摩擦による抵抗力を増やせば、引張力に対する抵抗力を高めることも可能であるが、その場合には経済性の低下が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、サクションアンカーの規模を大きくせずとも、引張力に対する抵抗力を高めることが可能なサクションアンカーを提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るサクションアンカーは請求項1に記載したように、水底地盤に貫入される周壁部及びその一端を塞ぐ天板部で構成され引張材を介して浮体構造物を前記水底地盤に係留できるようになっているサクションアンカーにおいて、
前記天板部の近傍に設けられたシリンダー状の隔室と、該隔室内を往復動自在に配置され前記引張材又はそれに連結された引張ロッドが前記天板部に挿通された状態で該引張材又は該引張ロッドの下端が連結された支圧板と、前記隔室の内部空間のうち、前記支圧板で仕切られた上方空間に配置され前記支圧板の上昇に伴って該支圧板の上面及び前記天板部の下面に復元力を作用可能な弾性部材とを備えるとともに、前記隔室を、前記上方空間が周辺水域に連通するように前記天板部又は前記周壁部に連通孔を設け、かつ前記隔室の内部空間のうち、前記支圧板で仕切られた下方空間が前記水底地盤の地盤面に延びるように構成したものである。
【0013】
また、本発明に係るサクションアンカーは、前記下方空間が前記周辺水域に連通するように前記天板部又は前記周壁部にオリフィスを設けたものである。
【0014】
また、本発明に係るサクションアンカーは、前記下方空間が前記上方空間を介して前記周辺水域に連通するように前記支圧板にオリフィスを設けたものである。
【0015】
また、本発明に係るサクションアンカーは、前記弾性部材をコイルスプリング又は透水性ゴムで構成したものである。
【0016】
本発明に係るサクションアンカーにおいては、天板部の近傍にシリンダー状の隔室を設けてあり、該隔室の内部空間には、引張材又はそれに連結された引張ロッドが連結されてなる支圧板を往復動自在に配置してあるとともに、支圧板の上方空間には弾性部材を配置してあり、隔室は、その内部空間のうち、支圧板で仕切られた上方空間が周辺水域に連通するように連通孔を設けてあるとともに、下方空間が水底地盤の地盤面に延びるように構成してある。
【0017】
このようにすると、引張材に生じる引張力が増加方向に変動したとき、支圧板は、弾性部材に抵抗しつつ、かつ上方空間の水を連通孔を介して流出させながら上昇するとともに、支圧板の下方空間では、水底地盤のうち、周壁部に囲まれた地盤によって、支圧板の上昇に伴う下方空間への水の流入速度が制限される。
【0018】
そのため、一定時間が経過するまでは、支圧板の下方に真空域(沸点降下によって水中の溶存空気が放出される場合には減圧域となるが、これらをまとめて真空域とよぶ)が形成され、該支圧板の下面には、水圧や大気圧がほとんど作用しなくなる。
【0019】
一方、支圧板の上面には、水深に応じた水圧と大気圧が継続して作用するため、それらの圧力差が負圧として支圧板に発生し、該負圧によって引張力における増加分の一部が支持される。
【0020】
すなわち、引張材を介して伝達されてきた引張力の増加分は、従来であればそのすべてが周壁部に伝達し、該周壁部での周面摩擦力が限界周面摩擦力に近い状態であれば、その増加分によって周面摩擦力が限界周面摩擦力に達し、その結果、サクションアンカーが水底地盤から引き抜かれる事態を避けることができなかったが、本発明によれば、引張力の増加分の一部を上述した負圧に負担させることができるため、周面摩擦力が限界周面摩擦力に近い状態であっても、サクションアンカーが水底地盤から引き抜かれる懸念を低減することができる。
【0021】
ここで、一定時間経過後は、周壁部に囲まれた地盤を介して水が流入し、その水で下方空間が満たされるので、支圧板の下面にも水深に応じた水圧と大気圧が作用する。そのため、支圧板の上下面では、圧力がバランスして負圧が消滅するとともに、弾性部材の復元力によって支圧板が下降して元の状態に戻り、次なる引張力の変動に備える状態となる。
【0022】
このように本発明によれば、引張力が増加方向に変動したとき、その変動に応答して、換言すれば受動的に支圧板を上昇させて負圧を発生させ、該負圧で変動分の一部を支持するようにしたので、浮体構造物を係留するための引張抵抗力は、周壁部の周面摩擦力と自重とを合算したものに、上述した負圧による抵抗力が加わることとなり、かくして引張力が増加方向に変動したときのサクションアンカーの引抜き抵抗力を高めることが可能となる。
【0023】
本発明においては、一定時間の経過後、周壁部に囲まれた地盤を介して水が流入することを前提としたが、該地盤が不透水性又は難透水性である場合、支圧板の上昇に伴う下方空間への水の流入速度が過度に制限され、その結果、一定時間が経過した後も下方空間に水が流入せず、次なる引張力の変動に備えることが難しくなることが懸念される。
【0024】
かかる場合においては、下方空間が周辺水域に連通するように天板部又は周壁部にオリフィスを設けた構成とするか、下方空間が上方空間を介して周辺水域に連通するように支圧板にオリフィスを設けた構成とすればよい。
【0025】
このようにすると、周壁部に囲まれた不透水性又は難透水性の地盤や上述したオリフィスによって、支圧板の上昇に伴う下方空間への水の流入速度が制限される一方、一定時間経過後は、オリフィスを介して周辺水域から水が流入し該水で下方空間が満たされるので、次なる引張力の変動に備えることが可能となる。
【0026】
隔室をどのように構成するかは任意であって、周壁部や天板部とは別構成としてもよいが、それらの少なくとも一部を共有する構成が典型例となる。
【0027】
例えば、周壁部を円筒状の筒体で、天板部を平板でそれぞれ構成してある場合に、これらの周壁部及び天板部で本発明の隔室を構成するとともに該隔室内に支圧板を収納した構成とすることができる。
【0028】
この構成においては、周壁部の内面、天板部の下面及び支圧板の上面で囲まれた円柱状の空間が本発明の上方空間となり、周壁部の内面、支圧板の下面及び水底地盤の地盤面で囲まれた同じく円柱状の空間が本発明の下方空間となる。
【0029】
また、周壁部よりも外寸が小さな筒状壁体をその内側空間が周壁部の内側空間に連通するように天板部本体の中央近傍から上方に向けて延設し、該筒状壁体の内側に支圧板を収納するようにしてもかまわない。
【0030】
この場合、サクションアンカーの設置時の状況を考慮すると、一般的には水底地盤の地盤面が天板部本体よりも低くなるため、隔室は、筒状壁体、その上方開口を塞ぐ頂部、天板部本体及び周壁部で構成されるとともに、筒状壁体の内面、頂部の下面及び支圧板の上面で囲まれた円柱状の空間が本発明の上方空間となり、筒状壁体の内面、支圧板の下面、天板部本体の下面、周壁部の内面及び水底地盤の地盤面で囲まれた段状の空間が本発明の下方空間となる。なお、筒状壁体及びその上方開口を塞ぐ頂部は、天板部本体とともに、本発明の天板部を構成する。
【0031】
また、上述の筒状壁体をその内側空間が周壁部の内側空間に連通するように天板部の中央近傍から下方に向けて垂設し、該筒状壁体の内側に支圧板を収納するようにしてもかまわない。
【0032】
この場合、隔室は、天板部、筒状壁体及び周壁部で構成されるとともに、筒状壁体の内面、天板部の下面及び支圧板の上面で囲まれた空間が本発明の上方空間となり、筒状壁体の内面と支圧板の下面で囲まれた小径の円柱状空間、周壁部と筒状壁体の間に拡がる環状空間及びそれらと水底地盤の地盤面との間に拡がる大径の円柱状空間が本発明の下方空間となる。
【0033】
弾性部材は、支圧板上面への水圧及び大気圧の作用を阻害することなく、該支圧板と隔室頂部との間で荷重伝達を可能にするものであれば、どのような構成でもよいが、例えば、コイルスプリングや透水性ゴムで構成することが可能である。