特許第6521589号(P6521589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6521589
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】車両ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/00 20060101AFI20190520BHJP
【FI】
   B60T17/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-160908(P2014-160908)
(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-37145(P2016-37145A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】赤田 吉朗
(72)【発明者】
【氏名】三好 照剛
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−527485(JP,A)
【文献】 特表2002−510579(JP,A)
【文献】 特開平10−159893(JP,A)
【文献】 米国特許第05410945(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダとホイールシリンダ間が配管を介して連通され、前記ホイールシリンダから流出せしめられるブレーキ液を一時的に蓄積するリザーバが設けられ、前記リザーバのブレーキ液を前記ホイールシリンダに圧送可能に油圧ポンプ装置が設けられ、前記油圧ポンプ装置と前記マスタシリンダとの間に位置せしめられて、前記油圧ポンプ装置と前記マスタシリンダとの連通・遮断を制御する通常ブレーキ用常開型ソレノイドバルブが設けられ、前記ブレーキ配管の、前記油圧ポンプ装置と前記ホイールシリンダとの間に位置せしめられて、前記油圧ポンプ装置と前記ホイールシリンダとの連通・遮断を制御する第1乃至第4のブレーキ用常開型ソレノイドバルブが設けられ、前記マスタシリンダと前記油圧ポンプ装置の吸込み側の間に、前記マスタシリンダと前記油圧ポンプ装置の吸込み側との連通・遮断を制御する自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブが配管接続により設けられると共に、前記自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブと前記油圧ポンプ装置の吸込み側の間にブレーキ液の脈動に起因して発生する振動を減衰、抑圧せしめるダンパーが設けられてなる油圧ユニットを有してなる車両ブレーキ装置であって、
前記ダンパーは、前記マスタシリンダと前記油圧ポンプ装置の吸込み側の間の配管に連通せしめられ、径が内部に向かって段階的に小さくなるよう径の異なる複数の段部を有するシリンダと、前記シリンダの開口側に設けられたカバー部材と、前記段部の内周面に接するように配置され、前記段部の内周面より前記シリンダの開口側に突出するように設けられた支持部材と、前記カバー部材と前記支持部材の間に設けられた弾性変位部材とを具備し、
前記弾性変位部材は、前記カバー部材のフランジ部に突出形成された押止突起と前記支持部材の間に挟持されており、
前記弾性変位部材は、全体概略形状が大凡円盤状をなし、その周縁部には、前記カバー部材により前記シリンダに固定される挟持部が形成される一方、当該弾性変位部材の中央部分は、直径方向と直交する方向における厚みが、当該中央部分と前記挟持部との間の第1の変位部の厚みに比して大に設定されてなる中央変位部をなすよう構成されてなり、
前記シリンダは、前記弾性変位部材により、前記自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブと前記油圧ポンプ装置の吸込み側の間の配管と連通するブレーキ液流入室と、前記カバー部材との間に画成される室とに区分されてなることを特徴とする車両ブレーキ装置。
【請求項2】
前記弾性変位部材は、前記ブレーキ液流入室へ流入したブレーキ液の圧力上昇に応じて前記カバー部材側へ変位する一方、前記ブレーキ液の圧力低下に応じて復元可能に形成されてなるものであることを特徴とする請求項1記載の車両ブレーキ装置。
【請求項3】
前記弾性変位部材の中央変位部は、前記第1の変位部よりも前記カバー部材側へ変位せしめられて形成されてなることを特徴とする請求項2記載の車両ブレーキ装置。
【請求項4】
前記中央変位部の周縁部には、環状突起部が環状に突出形成されてなることを特徴とする請求項3記載の車両ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ブレーキ装置に係り、特に、ブレーキ液の脈動に起因して発生する振動、異音等の低減、抑圧による車内静粛性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来装置としては、例えば、油圧ポンプの吐出側の配管途中に設けられたダンパ油圧室内に、ダイアフラムと、このダイアフラムによって仕切られた空気室からなるガスチャンバを設けて、ブレーキ液の脈動を低減可能に構成したもの等が種々提案、実用化されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4085625号公報(第3−7頁、図1図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたガスチャンバは、特に、油圧ポンプの低圧脈動の低減に効果を奏するものであり、高圧脈動に対しては必ずしも十分機能するとは言い難いものである。
また、上述のガスチャンバは、空気室が形成されたキャップに、空気室を閉塞するダイアフラムと、ダイアフラムを空気室へ接合させるプレートとを順に重ね合わせて取り付け(第1の作業)、しかる後、キャップの外周面にOリングを取り付けた状態で、ダンパ油圧室が形成されるハウジングに取り付け(第2の作業)て完成される構成となっており、少なくとも、4つの部品(キャップ、ダイアフラム、プレート、及び、Oリング)が必要であることに加えて、少なくとも2回の取り付け作業が必要となり、比較的コストを要する構造となっているという問題がある。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、比較的簡素な構成で、ブレーキ液の脈動に起因する振動、騒音の低減、車内静粛性の向上を図った車両ブレーキ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る車両ブレーキ装置は、
マスタシリンダとホイールシリンダ間が配管を介して連通され、前記ホイールシリンダから流出せしめられるブレーキ液を一時的に蓄積するリザーバが設けられ、前記リザーバのブレーキ液を前記ホイールシリンダに圧送可能に油圧ポンプ装置が設けられ、前記油圧ポンプ装置と前記マスタシリンダとの間に位置せしめられて、前記油圧ポンプ装置と前記マスタシリンダとの連通・遮断を制御する通常ブレーキ用常開型ソレノイドバルブが設けられ、前記ブレーキ配管の、前記油圧ポンプ装置と前記ホイールシリンダとの間に位置せしめられて、前記油圧ポンプ装置と前記ホイールシリンダとの連通・遮断を制御する第1乃至第4のブレーキ用常開型ソレノイドバルブが設けられ、前記マスタシリンダと前記油圧ポンプ装置の吸込み側の間に、前記マスタシリンダと前記油圧ポンプ装置の吸込み側との連通・遮断を制御する自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブが配管接続により設けられると共に、前記自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブと前記油圧ポンプ装置の吸込み側の間にブレーキ液の脈動に起因して発生する振動を減衰、抑圧せしめるダンパーが設けられてなる油圧ユニットを有してなる車両ブレーキ装置であって、
前記ダンパーは、前記マスタシリンダと前記油圧ポンプ装置の吸込み側の間の配管に連通せしめられ、径が内部に向かって段階的に小さくなるよう径の異なる複数の段部を有するシリンダと、前記シリンダの開口側に設けられたカバー部材と、前記段部の内周面に接するように配置され、前記段部の内周面より前記シリンダの開口側に突出するように設けられた支持部材と、前記カバー部材と前記支持部材の間に設けられた弾性変位部材とを具備し、
前記弾性変位部材は、前記カバー部材のフランジ部に突出形成された押止突起と前記支持部材の間に挟持されており、
前記弾性変位部材は、全体概略形状が大凡円盤状をなし、その周縁部には、前記カバー部材により前記シリンダに固定される挟持部が形成される一方、当該弾性変位部材の中央部分は、直径方向と直交する方向における厚みが、当該中央部分と前記挟持部との間の第1の変位部の厚みに比して大に設定されてなる中央変位部をなすよう構成されてなり、
前記シリンダは、前記弾性変位部材により、前記自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブと前記油圧ポンプ装置の吸込み側の間の配管と連通するブレーキ液流入室と、前記カバー部材との間に画成される室とに区分されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ダンパーを構成する弾性変位部材に、大小厚みの異なる部位を形成し、ブレーキ液圧の低い領域で変位する部分と、ブレーキ液圧の高い領域で変位する部分とが生ずるように構成したので、従来と異なり、ブレーキ液圧が低圧のみならず、高圧の場合にもダンパーとして機能し、ブレーキ液の脈動に起因する振動、騒音を確実に低減、抑圧することができ、ひいていは車内静粛性の向上に寄与するという効果を奏するものである。
また、シリンダの開口部分において、カバー部材と支持部材に弾性変位部材が挟持されるように設けられる構成としたので、従来に比して、比較的簡素な構成となり、しかも、組み立て作業が従来に比して簡素となるので、従来に比して、より低価格化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態における車両ブレーキ装置の構成例を示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態における車両ブレーキ装置に用いられるダンパーの縦断面図である。
図3図2に示されたダンパーを構成する弾性変位部材の全体斜視図である。
図4図3に示されたダンパーのブレーキ液注入室の脈動による液圧増加が比較的低圧域の場合の弾性変位部材の変位の様子を模式的に示す模式図である。
図5図3に示されたダンパーのブレーキ液注入室の脈動による液圧増加が比較的高圧域の場合の弾性変位部材の変位の様子を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至及び図5を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における車両ブレーキ装置の構成について、図1を参照しつつ説明する。
図1には、いわゆる還流型のアンチロックブレーキ制御機能、及び、横滑り防止機能を備えた自動四輪車用の車両ブレーキ装置における配管系統を中心に表した構成例が示されている。
【0010】
かかる車両ブレーキ装置は、ブレーキ操作子としてのブレーキペダル40の踏み込みを、その踏み込み量に応じた油圧に変換するブレーキマスタシリンダ1と、4つの車輪に対応して設けられた4つのホイールシリンダ201〜204と、ブレーキマスタシリンダ1とホイールシリンダ201〜204との間に設けられた液圧制御ユニット101とに大別されて構成されたものとなっている。
【0011】
ブレーキマスタシリンダ1とブレーキペダル40との間には、ブレーキペダル40の踏み込み力を増圧するためのブースタ2が設けられている。
そして、ブレーキマスタシリンダ1とホイールシリンダ201〜204との間に設けられた液圧制御ユニット101は、次述するように構成されたものとなっている。
すなわち、液圧制御ユニット101は、ブレーキマスタシリンダ1側に2つのマスタ側接続口3a,3bを、ホイールシリンダ201〜204側に4つのホイール側接続口4a〜4dを、それぞれ有し、ブレーキマスタシリンダ1、及び、ホイールシリンダ201〜204は、対応する接続口に配管接続されたものとなっている。
【0012】
なお、図1において、”FR W/C”は右前輪ホイールシリンダ201を、”RL W/C”は左後輪ホイールシリンダ202を、”RR W/C”は右後輪ホイールシリンダ203を、”FL W/C”は左前輪ホイールシリンダ204を、それぞれ表している。
【0013】
また、液圧制御ユニット101は、4つのホイールシリンダ201〜204に対応して、4つの第1乃至第4のブレーキ用常開型ソレノイドバルブ(図1においては「EV」と表記)5a〜5dと、4つの第1乃至第4の放出用常閉型のソレノイドバルブ(図1においては「AV」と表記)6a〜6dとを有している。
第1乃至第4のブレーキ用常開型ソレノイドバルブ5a〜5dは、後述する油圧ポンプ装置50の吐出し側とホイールシリンダ201〜204とを接続するブレーキ配管15a〜15dにより配管接続されて、油圧ポンプ装置50の吐出し側とホイールシリンダ201〜204との間に設けられたものとなっている。
また、第1乃至第4の放出用常閉型のソレノイドバルブ6a〜6dは、後述する油圧ポンプ装置50の吸込み側とホイールシリンダ201〜204とを接続する副ブレーキ配管16a〜16dにより配管接続されて、油圧ポンプ装置50の吸込み側とホイールシリンダ201〜204の間に設けられたものとなっている。
【0014】
さらに、液圧制御ユニット101は、油圧ポンプ装置50を有しており、かかる油圧ポンプ装置50は、駆動モータ7と、この駆動モータ7の出力軸(図示せず)に固着された図示されない固定カムによって往復動される2つのプランジャ8a,8bを有して構成されたものとなっている。
そして、油圧ポンプ装置50を駆動することで、第1乃至第4のブレーキ用常開型のソレノイドバルブ5a〜5dを介して各ホイールシリンダ201〜204にブレーキ圧を流入せしめてブレーキ液圧を高めることができる一方、第1乃至第4の常閉型のソレノイドバルブ6a〜6dを介して各ホイールシリンダ201〜204のブレーキ液をリザーバ11a,11bへ貯めてブレーキ液圧を弛めることができるようになっている。
【0015】
また、油圧ポンプ装置50の駆動により、リザーバ11a,11bや配管内のブレーキ液を吸い上げて、ブレーキマスタシリンダ1及びホイールシリンダ201〜204側にブレーキ液を送ることができるようになっている。
液圧制御ユニット101には、さらに、ブレーキマスタシリンダ1と油圧ポンプ装置50の吐出し側との間に、2つの通常ブレーキ用常開型ソレノイドバルブ(図1においては「USV」と表記)21a,21bが配管接続されて設けられる一方、油圧ポンプ装置50の吸込み側とのブレーキマスタシリンダ1との間に、2つの自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブ(図1においては「HSV」と表記)22a,22bが、自動ブレーキ配管17a,17bにより配管接続されて設けられている。
【0016】
そして、本発明の実施の形態においては、2つの自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブ22a,22bと油圧ポンプ装置50の吸込み側との間の自動ブレーキ配管17a,17bの適宜な位置に、油圧ポンプ装置50の動作時に発生するブレーキ液の脈動が液圧制御ユニット101の外部に伝達されるのを抑圧、低減するためのダンパー12a,12bが設けられている(詳細は後述)。
【0017】
次に、かかる構成におけるブレーキ動作は、基本的に、この種の従来装置における動作と同様であるので、以下に、概括的に説明することとする。
まず、通常、2つの通常ブレーキ用常開型ソレノイドバルブ21a,21bは開弁状態にある一方、自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブ22a,22bは閉弁状態となっている。
【0018】
かかる状態において、ブレーキペダル40が踏み込まれると、その踏み込みに応じて、ブレーキマスタシリンダ1から、ブレーキ液が第1乃至第4のブレーキ用常開型ソレノイドバルブ5a〜5dを介してホイールシリンダ201〜204に供給され、ホイールシリンダ201〜204におけるブレーキ力が発生する。
また、図示されない電子制御ユニットにおいて、アンチロックブレーキ制御が必要と判断されると、通常ブレーキ用常開型ソレノイドバルブ21a,21bが励磁されて閉弁状態とされ、ブレーキマスタシリンダ1とホイールシリンダ201〜204間の連通が遮断され、ホイールシリンダ201〜204の液圧が一定に保持される。
【0019】
そして、さらに、電子制御ユニット(図示せず)において、ブレーキを弛めるべきであると判断されると、第1乃至第4の放出用常閉型ソレノイドバルブ6a〜6dが励磁されて、開弁状態とされ、ホイールシリンダ201〜204のブレーキ液が第1乃至第4の放出用常閉型ソレノイドバルブ6a〜6dを介してリザーバ11a,11bへ排出され、ブレーキ力が弛められるようになっている。
【0020】
また、電子制御ユニット(図示せず)において、例えば、左前輪ホイールシリンダ204に対してブレーキ力を発生させる必要があると判断されると、一方の自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブ22bが励磁されて開弁状態とされると共に、油圧ポンプ装置50が駆動され、ブレーキマスタシリンダ1のブレーキ液が一方の自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブ22bを介して油圧ポンプ装置50に吸い上げられ、その後、ブレーキ液は、油圧ポンプ装置50から吐き出されて、第4のブレーキ用常開型ソレノイドバルブ5dを介して左前輪ホイールシリンダ204へ流入せしめられ、強制的にブレーキ力が発生せしめられることとなる。
【0021】
次に、本発明の実施の形態におけるダンパー12a,12bについて、図2及び図5を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態におけるダンパー12a,12bは、液圧制御ユニット101を構成する液圧ハウジング30に凹設形成されたシリンダ31と、このシリンダ31の開口面側に設けられたカバー部材32及び支持部材33と、並びに、弾性変位部材34とに大別されて構成されたものとなっている。
シリンダ31は、開口部31a側からシリンダ頭部31b側へ向かって、径が段階的に小さくなるようにして、第1中空部35a、第2中空部35b、第3中空部35c、及び、第4中空部35dが扁平円筒状に形成されたものとなっている。
【0022】
第4中空部35dは、自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブ22a,22bと油圧ポンプ装置50の吸込み側との間の自動ブレーキ用管17a,17bに連通せしめられたものとなっている。
一方、第1中空部35aには、カバー部材32が、その周縁部分で図示されないかしめ等により固着され取り付けられるものとなっている。
【0023】
本発明の実施の形態のカバー部材32は、その全体の概略外観形状が大凡カップ状に形成され、室形成用凹部32aを有してなるもので、最も大径となるフランジ部32bは第1中空部35aの内径と同一の外径に設定されたものとなっている。かかるカバー部材32は、室形成用凹部32aが第2中空部35b側に臨むようにして、フランジ部32bが第1中空部35aに固着されて開口部31aを閉鎖するように取り付けられるものとなっている。
【0024】
また、本発明の実施の形態におけるカバー部材32は、室形成用凹部32aの周縁部分付近に、室形成用凹部32aと反対方向へ押止突起32cが環状に突出形成されており、後述するように、支持部材33との間で、弾性変位部材34の第1変位部34cの一部を挟持するようになっている。
【0025】
支持部材33は、やや扁平、かつ、環状に形成されたものとなっており、その外径は、第3中空部35cの内径と同一に設定される一方、その厚み、すなわち、径方向と直交する方向の厚み(図2において紙面左右方向)は、第3中空部35cの軸方向の長さ、すなわち、径方向と直交する方向の長さよりもやや大に設定されたものとなっている(図2参照)。
かかる支持部材33は、その外周面が第3中空部35cの内周面に接するように嵌合されて、後述するようにカバー部材32との間に弾性変位部材34が挟持されるようになっている。
【0026】
弾性変位部材34は、その全体の概略外観形状が円盤状に形成され、その直径は、第2中空部35bの内周と同一に設定されたものとなっている(図2及び図3参照)。なお、弾性変位部材34は、可塑性、復元性のある良好な弾性力と、ブレーキ液に対する良好な耐腐食性を有する部材、例えば、EPDMゴム材などを用いるのが好適である。
この弾性変位部材34の周縁部分は、後述するようにカバー部材32によりシリンダ31に固定される挟持部34aとなっている。かかる挟持部34aは、直径方向と直交する方向の断面形状が大凡楕円形状となるよう形成されており、後述するようにカバー部材32と第2中空部35bの段部に挟持、固定された際に圧縮されて、図2に示されたように、その断面形状が大凡矩形状をなすものとなっている。
本発明の実施の形態において、この挟持部34aは、直径方向と直交する方向の長さが、第2中空部35bの軸方向の長さ(図2において紙面左右方向)よりも大きく設定されると共に、横方向の長さ、すなわち、直径方向に沿った長さが、第2中空部35bの段部36の長さ、すなわち、第2中空部35bの直交方向に沿った長さとほぼ同一に設定されたものとなっている。
【0027】
さらに、弾性変位部材34は、その中央部付近が、挟持部34aを除いた残余の部位に比して、直径方向と直交する方向の厚みが大に設定された中央変位部34bとなっており、この中央変位部34bと挟持部34aの間は、中央変位部34bに比して、直径方向と直交する方向の厚みがやや小さく設定された第1変位部34cとなっている。
さらに、本発明の実施の形態における中央変位部34bは、第1変位部34cよりもカバー部材32側に変位して形成される共に、その周縁部分に環状突起34dが形成されたものとなっている(図2及び図3参照)。
【0028】
かかる弾性変位部材34は、中央変位部34bが、カバー部材32の室形成用凹部32a側に位置し、挟持部34aの外周面がシリンダ31の第2中空部35bの内周面に接して嵌合するように取り付けられるものとなっている。
弾性変位部材34の取り付けにおいては、最初に、支持部材33が第3中空部35cに内挿され、次いで、弾性変位部材34が第2中空部に内挿され、最後に、カバー部材32が第1中空部35aに内挿されるものとなっている。
【0029】
カバー部材32が第1中空部35aに取り付けられた状態において、弾性変位部材34の挟持部34aは、カバー部材32のフランジ部32bと第2中空部35bの段部36との間に挟持、固定されると共に、挟持部34aに続く第1変位部34cの一部が、押止突起32cと支持部材33との間に挟持されるようになっている(図2参照)。
上述のように弾性変位部材34がシリンダ31に取り付けられることによって、シリンダ31内は、カバー部材32と弾性変位部材34との間に室37が画成される一方、その反対側、すなわち、弾性変位部材34とシリンダ頭部31bとの間にブレーキ液流入室38が画成されるものとなっている
【0030】
従来、挟持部34aに続く部位を、押止突起32cと支持部材33との間に挟持するような構成のものはなく、そのため、弾性変位部材34がカバー部材32側へ大きく変位した場合、挟持部34aの部分に大きな引っ張り力が作用し、挟持部34aの一部、又は、最悪時には、全部が、フランジ部32bと段部36に相当する部位から抜け出てしまうようなことがあったが、本発明の実施の形態においては、上述のように、押止突起32cと支持部材33との間に挟持される部位を設けることで従来のような問題発生が確実に回避されるものとなっている。
なお、カバー部材32の押止突起32cの位置や、押止突起32cから径方向の外側方向におけるフランジ部32bの長さなどは、弾性変位部材34が上述のように第2中空部35bに内装されるよう予め設定されたものとなっている。
【0031】
次に、上述のように弾性変位部材34がシリンダ31内に取り付けられた状態におけるダンパー12a,12bの作用について、図4及び図5を参照しつつ説明する。
例えば、油圧ポンプ装置50が駆動されてリザーバ11a,11bや配管内のブレーキ液の吸い上げが行われ、ブレーキマスタシリンダ31やホイールシリンダ201〜204へブレーキ液を送り込むような場合に、ブレーキ液の脈動が生じることがある。このような脈動は、液圧制御ユニット101内の配管を介してブレーキマスタシリンダ1へ伝達され、ブレーキペダル40の振動や異音の発生を招く等の現象が発生することがあるが、本発明の実施の形態においては、ダンパー12a,12bが設けられているため、脈動がダンパー12a,12bにおいて減衰、抑圧され、上述の振動や異音の発生が抑圧、防止されるものとなっている。
【0032】
すなわち、脈動によるブレーキ液流入室38の圧力の増大が比較的低圧域で生じた場合、弾性変位部材34の第1変位部34cは、先に説明したように、その厚みが中央変位部34bに比して小さいため、中央変位部34bよりも先に室37側へ変形、変位することとなる(図4参照)。この第1変位部34cの室37側への変位によってブレーキ液流入室38の容積が増加することとなるため、脈動によるブレーキ液流入室38の圧力上昇が低減され、脈動に伴う振動等の発生が低減、抑圧されることとなる。
【0033】
一方、ブレーキ液流入室38の圧力がさらに上昇し、第1変位部34cの変位では十分吸収しきれない場合には、第1変位部34cに続いて、中央変位部34bが室37側へ変位し、第1変位部34c同様、ブレーキ液流入室38の容積を増加させるため、脈動がさらに低減、抑圧されることとなる(図5参照)。
なお、ブレーキ液流入室38の圧力上昇がさらに大きい場合には、環状突起34dの部分がカバー部材32に接する状態となる(図示省略)。
なお、上述した本発明の実施の形態において、ダンパー12a,12bは、自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブ22a,22bと油圧ポンプ装置50の吸込み側との間に設けられるものとしたが、設置位置はこれに限定される必要はなく、ブレーキマスタシリンダ1と油圧ポンプ装置50の吸込み側との間に設けられるものであれば、この間の特定の箇所に限定される必要はなく、任意の箇所に設けて良いものである。例えば、ブレーキマスタシリンダ1と自動ブレーキ用常閉型ソレノイドバルブ22a,22bの間に設けるようにしても好適である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
比較的簡素な構造で、ブレーキ液の脈動に起因する振動、騒音の低減、抑圧が所望される車両ブレーキ装置に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1…ブレーキマスタシリンダ
12a,12b…ダンパー
31…シリンダ
32…カバー部材
33…支持部材
34…弾性変位部材
101…液圧制御ユニット
201〜204…ホイールシリンダ
図1
図2
図3
図4
図5