特許第6521621号(P6521621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6521621光学シースルー・グラス型ディスプレイ装置およびそれに対応する光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6521621
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】光学シースルー・グラス型ディスプレイ装置およびそれに対応する光学素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20190520BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   G02B27/02 Z
   H04N5/64 511A
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-255088(P2014-255088)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2015-121789(P2015-121789A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2017年11月17日
(31)【優先権主張番号】13306758.7
(32)【優先日】2013年12月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501263810
【氏名又は名称】トムソン ライセンシング
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(74)【代理人】
【識別番号】100134094
【弁理士】
【氏名又は名称】倉持 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100123629
【弁理士】
【氏名又は名称】吹田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】ブロンド,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ドラジツク,バルター
【審査官】 越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0050140(US,A1)
【文献】 特開2013−235119(JP,A)
【文献】 特表2013−542462(JP,A)
【文献】 特表2000−513116(JP,A)
【文献】 米国特許第06288846(US,B1)
【文献】 米国特許第05959777(US,A)
【文献】 特開昭58−220173(JP,A)
【文献】 特開昭54−002146(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0300766(US,A1)
【文献】 特表2009−512889(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0090283(US,A1)
【文献】 米国特許第08384999(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0273948(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00−27/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学シースルー・グラス型ディスプレイ装置であって、
仮想画像を投影する画像プロジェクタと、
前記仮想画像の光を導くように構成された第1の光学素子と、
前記第1の光学素子と周囲光景との間に配置される第2の光学素子であって、前記第2の光学素子の前面を通って入来する光を反射する第1の反射面と、前記第2の光学素子の後面を通って入来する光を逆反射する第2の反射面とを有する前記第2の光学素子と、
前記第2の光学素子の前記第1の反射面と前記第2の反射面との間に形成された少なくとも1つの隙間と、
液体を供給して前記隙間を充填し、かつ前記隙間から前記液体を除去する液体供給器/除去器であって、前記液体は、前記第2の光学素子の前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射を不可能にすることが可能な屈折率を有する、前記液体供給器/除去器と
を有し、
前記第2の光学素子は、前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射が可能になる第1の状態と、前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射が不可能になる第2の状態との間で切替え可能である、前記ディスプレイ装置。
【請求項2】
前記隙間は、マトリクス状に配列された複数の隙間にセグメント化されており、前記液体供給器/除去器は、各隙間に個別に前記液体を供給して充填し、かつ各隙間から個別に前記液体を除去する、請求項に記載のディスプレイ装置。
【請求項3】
前記液体供給器/除去器は、前記仮想画像が提示される前記第1の光学素子の領域と重なる隙間には前記液体を供給せず、前記領域と重ならない隙間には前記液体を供給する、請求項に記載のディスプレイ装置。
【請求項4】
前記液体供給器/除去器は、前記液体を収容する容器と、前記液体を前記隙間に出し入れするポンプと、前記ポンプおよび前記隙間への液体流を制御する制御装置とを有する、請求項からのいずれか1項に記載のディスプレイ装置。
【請求項5】
光学素子であって、
前記光学素子の前面を通って入来する光を反射する第1の反射面と、前記光学素子の後面を通って入来する光を逆反射する第2の反射面と、前記光学素子の前記第1の反射面と前記第2の反射面との間に形成された少なくとも1つの隙間であり、前記光学素子の前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射を不可能にすることが可能な屈折率を有する液体を供給して前記隙間を充填し、かつ前記液体を前記隙間から除去することが可能である、前記隙間とを有し、
前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射が可能になる第1の状態と、前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射が不可能になる第2の状態との間で切替え可能である、前記光学素子。
【請求項6】
前記隙間は、マトリクス状に配列された複数の隙間にセグメント化されており、各隙間に個別に前記液体を供給して充填し、かつ各隙間から個別に前記液体を除去することが可能である、請求項に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、光学シースルー・グラス型ディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学シースルー・グラス型ディスプレイ装置は、光学シースルー・グラスによって網膜に投影される仮想画像を観察者に提供する。仮想画像は、グラス越しに見える周囲光景画像に重ね合される。この仮想画像は、プロジェクタによって投影して、グラス上の光学素子を介して観察者の眼に導くことができる。
【0003】
光学シースルー・グラス型ディスプレイ装置を装着すると、観察者は、装置の構成要素によって多少減衰した周囲光景画像と、プロジェクタによって投影され、光学素子を介して観察者の眼に導かれる仮想画像とを、同時に見ることができる。グラス上の周囲光景画像と仮想画像との間の相対的な光パワーを管理して、これら2つの画像で十分なコントラストが得られるようにする必要がある。仮想画像は、プロジェクタの光束を調節することによって減光することができるが、周囲光景画像を減衰させる必要もあり、あるいは、何らかの構成による遮光を周囲光景画像に適用して、仮想画像のコントラストを高める必要さえもある。
【0004】
米国特許出願公開第2012068913(A1)号には、半透明フィルタ(opacity filter)としてLCDパネルを有するレンズを含むシースルー型ヘッド・マウント・ディスプレイが開示されている。このLCDパネルは、現実世界の光景の一部分を選択的にブロックして、レンズ上で現実世界の光景と組み合わせる拡張現実画像がさらにはっきり見えるようにするために使用される。透明な状態でも、このLCDパネルは、半透明フィルタとして、LCDパネルの偏光によってLCDパネルを通過する光の損失を引き起こすので、半透明フィルタの透過レベルを十分に改善する何らかの解決策が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様によれば、光学シースルー・グラス型ディスプレイ装置は、仮想画像を投影する画像プロジェクタと、仮想画像の光を導くように構成された第1の光学素子と、第1の光学素子と周囲光景との間に配置される第2の光学素子であって、第2の光学素子の前面を通って入来する光を反射する第1の反射面と、第2の光学素子の後面を通って入来する光を逆反射する第2の反射面とを有する第2の光学素子とを有する。第2の光学素子は、第1の反射面および第2の反射面における反射が可能になる第1の状態と、第1の反射面および第2の反射面における反射が不可能になる第2の状態との間で切替え可能である。
【0006】
本発明の別の態様によれば、光学素子は、その光学素子の前面を通って入来する光を反射する第1の反射面と、その光学素子の後面を通って入来する光を逆反射する第2の反射面とを有する。この光学素子は、第1の反射面および第2の反射面における反射が可能になる第1の状態と、第1の反射面および第2の反射面における反射が不可能になる第2の状態との間で切替え可能である。
【0007】
本発明の目的および利点は、特許請求の範囲に具体的に指摘する要素および組合せによって実現され、達成される。
【0008】
上記の概略的な説明、および以下の詳細な説明は、例示および説明のためのものであり、請求する本発明を制限するものではないことを理解されたい。
【0009】
本発明の上記その他の態様、特徴および利点は、以下の説明を添付の図面と関連付けて読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態によるシースルー・グラス型ディスプレイ装置を示す図である。
図2】(a)は「逆反射オン・モード」で動作する図1に示す光学シースルー・グラス・ディスプレイ装置を示す図であり、(b)は部分Aを拡大して示す図である。
図3】観察者の眼の網膜で散乱された光が、逆反射器によってどのようにして網膜に戻るかについての原理を示す概略図である。
図4】(a)は「逆反射オフ・モード」で動作する図1に示す光学シースルー・グラス・ディスプレイ装置を示す図であり、(b)は部分Bを拡大して示す図である。
図5】本発明の実施形態によるシースルー・グラス型ディスプレイ装置の構成要素を示すブロック図である。
図6】本発明の代替実施形態によるシースルー・グラス型ディスプレイ装置の構成要素を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明では、本発明の実施形態の様々な態様について述べる。説明を目的として、完全な理解が得られるように、具体的な構成および詳細を記載する。ただし、本発明は、本明細書に記載する具体的な詳細を用いることなく実施することもできることも、当業者には明らかであろう。
【0012】
図1は、本発明の実施形態によるシースルー・グラス型ディスプレイ装置を示す図である。
【0013】
図1に示すように、装置100は、前側ガラス板120および後側ガラス板130を有するガラス板ユニット110と、画像プロジェクタ140と、光学導光素子150と、液体供給器/除去器160とを含むことができる。装置100は、眼鏡型装置とすることもできるので、2つのガラス板ユニットを互いに接続するブリッジ170、および観察者の両耳の上にそれぞれ延びて装置100を適所に保持するのを助けるテンプル・アーム180も含む。図示を簡潔にするために、図1には、観察者の左眼105用の、装置100の半分の構成要素のみを示してある。
【0014】
前側ガラス板120は、周囲光景側に位置する第1のガラス板122と、観察者の眼の側に位置する第2のガラス板124とを含む。第1のガラス板122は、その後側表面上に反射面122aを有し、第2のガラス板124は、その前側表面上に反射面124aを有する。第1のガラス板122の反射面122aは、ガラス板122の前側から入来する光を反射するように構成されている。一方、第2のガラス板124の反射面124aは、ガラス板124の後側から入来する光をその光と同じ方向に逆反射することができるように構成されている。反射面122aおよび124aは、全反射(TIR:Total Internal Reflection)を引き起こすことができる光学素子のマトリクスとして形成することができる。例えば、コーナ・キューブ・プリズムまたはその他の任意のタイプの逆反射プリズムを、この光学素子として利用して、光景(122a)に向かう、または観察者の眼(124a)に向かう全反射(TIR)を生じさせることができる。
【0015】
前側ガラス板120は、第1のガラス板122の後面と第2のガラス板124の前面との間に形成された隙間126をさらに有する。液体供給器/除去器160は、導管162を介してこの隙間126に接続される。隙間126は、液体供給器/除去器160によって供給される液体を充填することができ、隙間126内の液体は、やはり液体供給器/除去器160によって除去することができる。液体供給器/除去器160は、液体を収容する容器と、液体を隙間126に出し入れするためのポンプと、ポンプを制御する制御装置とを含むことができる。必要に応じて、板122は、板124に対して前後に移動して、板122と124の間の隙間126から液体を除去しやすくするように構成してもよい。
【0016】
後側ガラス板130は、後側ガラス板130の前面上に形成された半反射鏡132のアレイを有する。半反射鏡132は、光の反射/透過スペクトルの波長選択性を有することができる。開示する例では、半反射鏡132は、プロジェクタ140のRGB(赤、緑および青)光源に一致する波長帯を有する光を反射し、反射される波長を除く全ての波長を含み得る周囲光景光を透過させるように構成されている。各色(赤、緑および青)の各半反射鏡132を、ローテーションで繰返し配置することができる。半反射鏡132は、画像プロジェクタ140から投影され、光学導光素子150を介して後側ガラス板130に導かれる光ビームを、ガラス板130の後側から装置100を観察者の眼に向かって投影するように方向付ける。また、半反射鏡132は、周囲光景から入来する光が半反射鏡132を通って観察者の眼に向かって進行するような透過性を有する。
【0017】
画像プロジェクタ140は、仮想画像を投影するように構成されている。例えば、画像プロジェクタ140は、仮想画像を投影するディスプレイ142と、ディスプレイ142を制御する制御装置と、ディスプレイ142から光学導光素子150に光を導く光学素子146とを含むことができる。また、画像プロジェクタ140は、仮想画像として投影する画像または映像を受信して格納する、受信機およびメモリを含むこともでき、これらの画像または映像は、画像または映像を格納する装置(図示せず)から有線接続または無線接続を介して受信する。ディスプレイ142の例示的な実施態様は、LCD(液晶ディスプレイ)とLED(発光ダイオード)のRGB光源モジュールとで構成することができる。なお、その他の任意の技術を利用して、ディスプレイ142を構成してもよいことに留意されたい。
【0018】
画像プロジェクタ140によって投影された仮想画像の光ビームは、光学素子146および光学導光素子150を介して導かれた後に、後側ガラス板130の中に入る。この光ビームは、板130の両表面の間の全反射(TIR)によって後側ガラス板130内を横方向に伝搬する。次いで、光ビームは、半反射鏡132によって、装置100の観察者の眼105に方向づけられる。こうしたプロセスの結果として、観察者に対して仮想画像が提示される。なお、構成要素146,150および130の寸法、角度および屈折率、ならびに後側ガラス板130上の各半反射鏡132の寸法、角度および位置は、プロジェクタ140からの仮想画像が構成要素146,150および130を通って導かれた後に、ガラス130から観察者に向かって示されるように規定されることに留意されたい。
【0019】
装置100は、「逆反射オン・モード」および「逆反射オフ・モード」の2つの異なる動作モードで動作させることができる。これら2つの動作モードについて、図2および図3を参照して説明する。
【0020】
図2(a)は、「逆反射オン・モード」で動作する図1に示す光学シースルー・グラス・ディスプレイ装置を示す図であり、図2(b)は、図2(a)の部分Aを拡大して示す図である。「逆反射オン・モード」では、前側ガラス板120中の隙間126に液体が供給されない。換言すれば、隙間126から液体が除去されている。従って、両ガラス板122および124の反射面122aおよび124aは、それぞれ入来光を反射することができるようになる。前側ガラス板120の前方から入来する周囲光景光206は、反射面122aによって周囲光景の方に反射され、後側ガラス板130の後方から入来する光204は、反射面124aによって、入来光と同じ方向に逆反射される。
【0021】
プロジェクタ140によって投影された仮想画像光202は、後側ガラス板130中を伝搬し、半反射鏡132によって観察者の眼105に向かって方向が変えられる。光202は、眼105の網膜に到達し、これにより、観察者は仮想画像を知覚することになる。一方、光202のうちのごく一部は、眼105の網膜で、後側ガラス板130に向かって散乱される。有利なことに、眼の網膜は可視光を効率的に吸収する光トラップ特性を有し、これにより散乱光レベルは非常に低い。散乱光は、ガラス板130内を伝わり、図2(b)に参照番号204で示すように、ガラス板130の後方に再度逆反射される。逆反射光204は、眼105に入り、眼105の網膜で吸収される。このプロセスにおいて、網膜は、仮想画像光202のこのような散乱光を吸収する光トラップとして作用し、これにより、眼105の瞳に深いブラック・アスペクト(deep black aspect)を持たせる。
【0022】
上述のように、装置100の「逆反射オン・モード」では、ガラス板124の反射面124aによる逆反射によって観察者の眼105に深いブラック・アスペクトが生じる。さらに、周囲光景光206は、光景に向かって反射され、観察者の眼105には到達しない。これにより、ガラス板ユニット110に表示される仮想画像のコントラストが高まることになる。
【0023】
図3は、観察者の眼の網膜で散乱された光が、逆反射器によってどのようにして網膜に戻るかについての原理を示す概略図である。図3において、破線は、ごく一部が網膜で眼の外部に向かって散乱される光を表し、実線は、逆反射器によって網膜に逆反射される光を示す。
【0024】
図4(a)は、「逆反射オフ・モード」で動作する図1に示す光学シースルー・グラス・ディスプレイ装置を示す図であり、図4(b)は、図4(a)の部分Bを拡大して示す図である。「逆反射オフ・モード」では、前側ガラス板120中の隙間126に、液体供給器/除去器160によって液体が供給されるので、隙間126は液体で満たされている。この液体は、両ガラス板122および124の反射面122aおよび124aで全反射(TIR)が起きないようにする屈折率を有する。従って、隙間126が液体で満たされている前側ガラス板120の領域では、周囲光景光306は、前側ガラス板120を通過し、さらに後側ガラス板130も通過することになる。プロジェクタ140によって投影された仮想画像光302は、後側ガラス板130中を伝搬し、半反射鏡132によって観察者の眼105に向かって方向が変えられる。
【0025】
装置100の「逆反射オフ・モード」では、観察者は、隙間126が液体で満たされた領域のガラス板110上で周囲光景画像に重ね合された仮想画像を知覚することになるので、ガラス板ユニット110に表示される仮想画像のコントラストは、「逆反射オン・モード」のコントラストと比較して低下することになる。
【0026】
なお、隙間126を、マトリクス・アレイ構造に配置された複数の隙間にセグメント化することもできることに留意されたい。この構成では、液体供給器/除去器160をそれぞれの隙間126に接続することができ、各隙間126への液体流を制御することによって、ガラス板120中の各隙間126に個別に液体を供給したり各隙間126から個別に液体を除去したりするように構成することができる。このような液体流制御は、例えば「Fluidic Optics」、George M. WhitesidesおよびSindy K.Y. Tang、Department of Chemistry and Chemical Biology、Harvard University、Optofluidics、Demetri PsaltisおよびYeshaiahu Fainman編、Proc. of SPIE Vol.6329、63290A、(2006年)に記載された技術を用いて実現することができる。
【0027】
上述の構成によれば、仮想画像を表示する領域以外の領域では隙間126に液体を供給するが、仮想画像が表示される領域では隙間126に液体を供給しないようにすることによって、仮想画像のコントラストを向上させた状態で、ガラス板ユニット110において仮想画像を周囲光景画像に重ね合せることができる。なお、仮想画像が表示されない領域または表示される仮想画像のコントラストが低下する領域の隙間126に選択的に液体を供給するように液体供給器/除去器160内の制御装置を制御することができるように、プロジェクタ140と液体供給器/除去器160とを任意の有線接続または無線接続を用いて接続して、互いに通信し、液体供給器/除去器160を制御するようにすることもできることに留意されたい。
【0028】
図5は、本発明の実施形態によるシースルー・グラス型ディスプレイ装置の構成要素を示すブロック図である。図5に示すように、この装置の構成要素は、有線または無線の接続570を介して互いに接続された画像プロジェクタ500と液体供給器/除去器550とを含む。画像プロジェクタ500は、図1を参照して上述したように、仮想画像を投影するディスプレイ505と、ディスプレイ505を制御する制御装置510と、ディスプレイ505から光学導光素子150(図1)に光を導く光学素子515と、仮想画像として投影する画像または映像を受信し、格納する受信機520およびメモリ525とを含む。また、図5に示すように、液体供給器/除去器550は、図1を参照して上述したように、液体を収容する容器555と、1つまたは複数の隙間126(図1)に液体を出し入れするポンプ560と、ポンプ560を制御する制御装置565とを含む。
【0029】
代替として、電子的に駆動される可変(variable)または双安定(bistable)な屈折率を有する固体または液体材料の「要素」と、これらの要素を個別に駆動する「透明電極」とを、それぞれマトリクス状に配列して、各要素の屈折率を個別に2つのモードの間で切り替えることができるようにすることもできる。この2つのモードは、一方が、「逆反射オフ・モード」のガラス122および124とほぼ同じ屈折率を有する高屈折率状態であり、もう一方が、「逆反射オン・モード」のガラス122および124より低い屈折率を有する低屈折率状態である。この構成では、ITO(インジウムスズ酸化物)を透明電極に使用することができ、例えば、液体供給器/除去器の代わりに、透明電極を電気的に駆動する制御装置を使用する。これらの要素は、「逆反射オン・モード」において仮想画像のコントラストを向上させた状態でガラス板ユニット110上に仮想画像を周囲光景画像に重ね合せることができるように、それぞれの屈折率を2つの状態の間で切り替えるように大域的または局所的に駆動することができる。
【0030】
図6は、本発明の代替実施形態によるシースルー・グラス型ディスプレイ装置の構成要素を示すブロック図である。図6に示すように、この装置の構成要素は、ディスプレイ605、制御装置610、光学素子615、受信機620およびメモリ625を有するプロジェクタ600を含む。これらの要素は、図5に示すプロジェクタ500の要素と同じ要素であるため、これらの要素の詳細な説明は省略する。この装置の構成要素は、さらに、前側ガラス板120(図1)にそれぞれマトリクス状に配列された、または埋め込まれた、電子的に駆動される可変または双安定な屈折率を有する固体または液体材料の要素650と、これらの要素650を個別に駆動する透明電極655とを含む。また、この装置の構成要素は、透明電極655を電気的に駆動する制御装置660をさらに含み、この制御装置660は、有線または無線の接続665によってプロジェクタ600に接続される。
【0031】
図1に示す実施形態に対する別の代替実施形態では、板122は、2つの位置の間で板124に対して前後に移動するように構成することができる。第1の位置は、反射面122aと124aが互いに離間する位置であり、第2の位置は、これらの反射面が互いに接触する位置である。反射面122aおよび124aが互いに離間している第1の位置では、これらの反射面で反射を起こすことができるが、これらの反射面が互いに接触して両反射面上のTIR効果を打ち消す第2の位置では、反射面で反射は起きない。反射面122aおよび124aの間の隙間に供給される液体は、この実施形態では省略することができる。
【0032】
互いに接触している反射面122aおよび124aが離間し始めるとき、反射面122aおよび124aは、表面間で発生する分子付着によって引き離しにくいことがある。このような付着を回避するために、例えば、表面122aおよび124aの間に1μm未満の微細構造を挿入して、付着は防止するがエバネッセント波によるTIRの可能性を残す隙間を形成することができる。板122を板124に押しつけて、表面上のTIRが打ち消される程度まで表面122aおよび124aが互いに接触できるようにすることによって、反射面122aおよび124aで反射が起きないようにすることができる。
【0033】
上述のように、図示を簡潔にするために、図1には、観察者の左眼用の装置100の構成要素の半分しか示していない。ただし、装置100は、図1に示す構成要素と同じ観察者の右眼用の構成要素を対称的に含むことができ、この場合、観察者の両眼に仮想画像を提供することになることに留意されたい。あるいは、装置100は、観察者の右眼用としては、単一の単純なガラス板と、そのガラス板に接続されたテンプルとしか含まない、またはガラス板のない空フレームと、そのフレームに接続されたテンプルとしか含まないこともあり、この場合は、観察者の片眼にしか仮想画像を提供しないが、特定の用途では、これで問題ない。
【0034】
さらに、本発明の一実施形態では、ガラス板ユニット110は、半反射鏡132の代わりに、そのうちの少なくとも2つの間に隙間が存在するように位置決めされた反射鏡を含むことができる。本発明の別の実施形態では、半反射鏡132は、そのうちの少なくとも2つの間に隙間が存在するように互いに離間させることもできる。このような隙間によって、外部光を通すことができる。
【0035】
本明細書に記載する全ての例および条件に関する表現は、本発明と、当技術分野をさらに進歩させるために発明者が与える概念とを、読者が理解するのを助けるという教育的な目的を有するものであって、本発明がこれらの具体的に列挙した例および条件に限定されるわけではないものと解釈されたい。また、本明細書におけるこれらの例の構成は、本発明の優劣を示すこととは無関係である。
上記の実施形態に加えて、以下の付記を開示する。
(付記1)
光学シースルー・グラス型ディスプレイ装置であって、
仮想画像を投影する画像プロジェクタと、
前記仮想画像の光を導くように構成された第1の光学素子と、
前記第1の光学素子と周囲光景との間に配置される第2の光学素子であって、前記第2の光学素子の前面を通って入来する光を反射する第1の反射面と、前記第2の光学素子の後面を通って入来する光を逆反射する第2の反射面とを有する前記第2の光学素子と、
を有し、
前記第2の光学素子は、前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射が可能になる第1の状態と、前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射が不可能になる第2の状態との間で切替え可能である、前記ディスプレイ装置。
(付記2)
前記第2の光学素子の前記第1の反射面と前記第2の反射面との間に形成された少なくとも1つの隙間と、
液体を供給して前記隙間を充填し、かつ前記隙間から前記液体を除去する液体供給器/除去器であって、前記液体は、前記第2の光学素子の前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射を不可能にすることが可能な屈折率を有する、前記液体供給器/除去器と、
をさらに有する、付記1に記載のディスプレイ装置。
(付記3)
前記隙間は、マトリクス状に配列された複数の隙間にセグメント化されており、前記液体供給器/除去器は、各隙間に個別に前記液体を供給して充填し、かつ各隙間から個別に前記液体を除去する、付記2に記載のディスプレイ装置。
(付記4)
前記液体供給器/除去器は、前記仮想画像が提示される前記第1の光学素子の領域と重なる隙間には前記液体を供給せず、前記領域と重ならない隙間には前記液体を供給する、付記3に記載のディスプレイ装置。
(付記5)
前記液体供給器/除去器は、前記液体を収容する容器と、前記液体を前記隙間に出し入れするポンプと、前記ポンプおよび前記隙間への液体流を制御する制御装置とを有する、付記2から4のいずれか1つに記載のディスプレイ装置。
(付記6)
前記第2の光学素子の前記第1の反射面と前記第2の反射面との間にマトリクス状に配列された屈折率可変要素と、
前記要素を個別に駆動する、前記第2の光学素子上に形成された電極と、
前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射を可能にする低屈折率状態と、前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射を不可能にする高屈折率状態との間で各要素の屈折率が個別に切り替えられるように、前記屈折率可変要素を個別に駆動するように前記電極を制御する制御装置と、
をさらに有する、付記1に記載のディスプレイ装置。
(付記7)
前記仮想画像が提示される前記第1の光学素子の領域と重なる前記屈折率可変要素が前記低屈折率状態に切り替えられ、前記領域と重ならない前記屈折率可変要素が前記高屈折率状態に切り替えられる、付記6に記載のディスプレイ装置。
(付記8)
光学素子であって、
前記光学素子の前面を通って入来する光を反射する第1の反射面と、前記光学素子の後面を通って入来する光を逆反射する第2の反射面とを有し、
前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射が可能になる第1の状態と、前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射が不可能になる第2の状態との間で切替え可能である、前記光学素子。
(付記9)
前記光学素子の前記第1の反射面と前記第2の反射面との間に形成された少なくとも1つの隙間をさらに有し、前記光学素子の前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射を不可能にすることが可能な屈折率を有する液体を供給して前記隙間を充填し、かつ前記液体を前記隙間から除去することが可能である、付記8に記載の光学素子。
(付記10)
前記隙間は、マトリクス状に配列された複数の隙間にセグメント化されており、各隙間に個別に前記液体を供給して充填し、かつ各隙間から個別に前記液体を除去することが可能である、付記9に記載の光学素子。
(付記11)
前記光学素子の前記第1の反射面と前記第2の反射面との間にマトリクス状に配列された屈折率可変要素と、
前記要素を個別に駆動する、前記光学素子上に形成された電極と、をさらに有し、
前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射を可能にする低屈折率状態と、前記第1の反射面および前記第2の反射面における反射を不可能にする高屈折率状態との間で各要素の屈折率が個別に切り替えられるように、前記屈折率可変要素が前記電極によって個別に駆動される、付記8に記載の光学素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6