特許第6521751号(P6521751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6521751
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20190520BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   F16F15/02 C
   E04H9/02 341A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-115447(P2015-115447)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2017-2952(P2017-2952A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
(72)【発明者】
【氏名】長島 一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】青野 英志
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−075199(JP,A)
【文献】 実開平05−058710(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体と、
第1の錘を有し、かつ、建物の水平方向の揺れを減衰させるための第1のTMDと、
前記第1の錘における上面に設置され、かつ、前記第1の錘における上下固有振動数に同調して当該第1の錘における上下振動を減衰させる第2のTMDとを備え、
前記第2のTMDは、第2の錘と、当該第2の錘を支持するバネ部材と、前記第2の錘における上下振動のエネルギーを吸収する吸収装置とを有する制震装置であって、
前記枠体に取り付けられ、かつ、前記第1の錘を吊持して振り子にする吊持部材をさらに備え、
前記第2の錘は、
収納部に収納され、かつ、水平方向において前記収納部の内壁との間にガイドローラを挟持することで、
水平方向への移動が拘束されて上下方向にのみ変位自在であることを特徴とする制震装置。
【請求項2】
第1のTMDが備える第1の錘の外周部に、上下方向および水平1方向に作動し、上記第1のTMDの上下固有振動数に同調して上記錘の上下振動を低減させるとともに、上記第1のTMDのねじれ固有振動数に同調して上記第1のTMDのねじれ振動を低減させる第2のTMDを設置したことを特徴とする制振装置。
【請求項3】
前記第1の錘に凹部を形成し、当該凹部内に上記第2のTMDを配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューンド・マス・ダンパ(TMD)を利用した制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先の東日本大震災の発生を受けて、南海トラフ沿いの海溝型巨大地震の想定震源域が見直され、大振幅で繰り返し回数の多い長周期・長時間の地震動の発生が危惧されている。そして、固有周期の長い超高層ビルは、長周期地震動によって建物が共振して応答が大きくなるという特徴があるため、設計当初に想定していなかった長周期・長時間地震動によって、構造物の被害や内部設備の損傷などが生じるおそれがある。
【0003】
このような長周期・長時間地震動に対する超高層建物の振動制御技術としては、建物の構造体内に鋼材ダンパーやオイルダンパーなどのエネルギー吸収装置を設置して応答を低減させる方法が一般的である。
【0004】
しかしながら、上記従来の振動制御技術にあっては、鋼材ダンパーやオイルダンパー等に生じる変位や速度が小さく、個々のダンパーではエネルギーを充分に吸収することができないために、期待される制振効果を得るためには多くのダンパーを設置する必要があり、建築計画上の制約になっていた。
【0005】
また、既存の超高層建物を制震補強する場合にも、上記ダンパーの設置工事のために、建物の利用者が一時退避する必要があり、経済的な損失も高かった。
【0006】
この課題を解決するために、従来、強風等に起因する建物の微小振動に対する制振技術として用いられてきた風揺用TMD(チューンド・マス・ダンパー)を大型化・大ストローク化して、地震の大振幅の揺れの制御にまで適用範囲を広げた各種の地震用TMDが開発されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
上記地震用TMDによれば、設置場所が建物の屋上あるいは最上層階になるために、建物の計画自由度を高めることが可能になるとともに、既存の超高層建物を制振補強する際にも、当該建物を使用したままで工事を行うことができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−27136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、従来の地震用TMDは、図8(a)に示すように、大きな錘50をワイヤーや鋼棒51で懸垂した振り子型の装置が一般的である。このような地震用TMDによれば、錘50の吊り長さを調整してTMDの周期を建物52の水平方向の固有周期に同調させることにより、TMDを共振させて建物の振動エネルギーを効率的にTMDに集め、当該TMDに設置したオイルダンパーなどのエネルギー吸収装置53で吸収して上記建物52の揺れを抑制するものである。
【0010】
また、上記地震用TMDにおいては、上下地震動によって、錘50が上下方向に振動して浮き上がりを生じ、これによりTMDの性能劣化や破損が生じることを防止するために、建物52とTMDの錘50とを上下方向にオイルダンパー54で接続することにより、上記錘50の上下方向の振動を低減させている。
【0011】
しかしながら、上記地震用TMDにあっては、地震時に錘50が水平方向に大きく揺動するために、上下方向のオイルダンパー54として、錘50の動きに追従可能な大きなストロークのものを用いる必要がある。
【0012】
また、錘50が揺動する際に、図8(b)に示すように、錘が原点から離れるに連れて上下方向のオイルダンパー54が水平方向に傾斜し、この結果オイルダンパー54の減衰力における上下方向の成分が低下してしまうという問題点もあった。加えて、建物52と錘50との間に、上下方向のオイルダンパー54を設置するための大きなスペースを確保する必要があるという問題点もあった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、建物の水平方向の制振を行うTMDに対して、コンパクトなスペースで効果的に上下振動の発生を抑制することができ、よって制振効果を高めることが可能になる制振装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明に係る制振装置は、枠体と、第1の錘を有し、かつ、建物の水平方向の揺れを減衰させるための第1のTMDと、前記第1の錘における上面に設置され、かつ、前記第1の錘における上下固有振動数に同調して当該第1の錘における上下振動を減衰させる第2のTMDとを備え、前記第2のTMDは、第2の錘と、当該第2の錘を支持するバネ部材と、前記第2の錘における上下振動のエネルギーを吸収する吸収装置とを有する制震装置であって、前記枠体に取り付けられ、かつ、前記第1の錘を吊持して振り子にする吊持部材をさらに備え、前記第2の錘は、収納部に収納され、かつ、水平方向において前記収納部の内壁との間にガイドローラを挟持することで、水平方向への移動が拘束されて上下方向にのみ変位自在であることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項2に記載の本発明に係る制振装置は、第1のTMDが備える第1の錘の外周部に、上下方向および水平1方向に作動し、上記第1のTMDの上下固有振動数に同調して上記錘の上下振動を低減させるとともに、上記第1のTMDのねじれ固有振動数に同調して上記第1のTMDのねじれ振動を低減させる第2のTMDを設置したことを特徴とするものである。
【0016】
さらに、請求項3に記載の本発明に係る制振装置は、請求項1または2に記載の発明において、前記第1の錘に凹部を形成し、当該凹部内に上記第2のTMDを配置したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜3のいずれかに記載の制振装置によれば、建物の水平方向の制振を行う第1のTMDの錘に設けた第2のTMDを上記錘の上下振動に同調させることにより、上記第2のTMDによる付加減衰効果によって、上下地震動により上記錘に生じる上下振動を低減させることができる。
【0018】
請求項1に記載の発明においては、上記第1のTMDの錘に第2のTMDが上下方向にのみ作動するように設置されているために、第2のTMDを第1のTMDの錘と水平方向に一体化させることにより、当該第2のTMDを第1のTMDの錘の一部として利用することができ、よって第1のTMDの制振効果を高めることができる。
【0019】
これに加えて、請求項2に記載の発明によれば、第2のTMDを上記錘の外周部において水平1方向にも作動するように設置し、かつ上記第1のTMDのねじれ固有振動数に同調するように設けているために、第2のTMDによって、上述した第1のTMDの錘に生じる上下振動のみならず、当該第1のTMDに生じるねじれ振動も低減させることが可能になる。
【0020】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、第1のTMDの錘に凹部を形成し、この凹部内に上記第2のTMDを配置しているために、第2のTMDの設置スペースを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態の概略構成を示す正面図である。
図2図1の錘部分の拡大図である。
図3】第1の実施形態の変形例を示す錘部分の拡大図である。
図4】本発明の第2の実施形態を示す錘部分の平面図である。
図5図4のA−A線視断面図である。
図6】第3の実施形態を示す錘部分の平面図である。
図7図6のB−B線視断面図である。
図8】従来のTMDを示すもので、(a)は平常時の状態を示す正面図、(b)は地震時の状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
図1および図2は、本発明の第1の実施形態を示すもので、この制振装置は、水平用TMD(第1のTMD)1と上下用TMD(第2のTMD)10とから概略構成されたものである。
【0023】
水平用TMD1は、建物Bの屋上部に設置されて地震時における建物Bの水平方向の揺れを低減するためのもので、枠体1aに錘2がワイヤーや鋼棒3を介して懸垂された振り子型のものである。そして、水平用TMD1の錘2と枠体1aとの間には、錘2の揺動エネルギーを吸収するためのオイルダンパー4が配置されている。そして、この水平用TMD1の錘2の上面に、上下用TMD10が設置されている。
【0024】
この上下用TMD10は、水平用TMD1の上下固有振動数に同調する質量の錘5がバネ部材6によって錘2上に支持されたもので、錘5と水平用TMD1の錘2の上面との間には、錘5の上下動のエネルギーを吸収するためのダンパー等の吸収装置7が設けられている。
【0025】
ここで、上下用TMD10の錘5は、例えば図2に示すように、角筒状の収納部8内に収納されており、当該収納部8との間にガイドローラ8aが介装されることにより、水平方向へ拘束されるとともに上下方向にのみ変位自在に設けられている。
【0026】
上記構成からなる制振装置によれば、建物Bの水平方向の制振を行う水平用TMD1の錘2の上面に上下用TMD10を設置し、この上下用TMD10を水平用TMD1の錘2の上下振動に同調させることにより、上下用TMD10による付加減衰効果によって、上下地震動により水平用TMD1の錘2に生じる上下振動を低減させることができる。
【0027】
しかも、上下用TMD10の錘5は、収納部8およびガイドローラ8aによって水平方向に拘束されるとともに上下方向にのみ作動するように設置されている結果、上下用TMD10の錘5が水平用TMD1の錘2と水平方向に一体化されているために、水平用TMD1の錘2の一部として利用することができ、よって水平用TMD1の制振効果を高めることができる。
【0028】
また、図3は、上記第1の実施形態の変形例を示すものである。
この制振装置においては、水平用TMD1の錘2の上面に穴部(凹部)9が形成されており、この穴部9内に上記上下用TMD10が収納されている。そして、上下用TMD10の錘5と穴部9内壁9aとの間にガイドローラ8aが介装されることにより、上記錘5は水平方向の移動が拘束され、上下方向にのみ移動自在に設けられている。
【0029】
上記構成からなる制振装置によっても、第1の実施形態に示したものと同様の作用効果を得ることができるとともに、さらにこの制振装置によれば、水平用TMD1の錘2に穴部9を形成し、この穴部9内に上下用TMD10を収納しているために、上下用TMD10の設置用のスペースを低減させることができる。
【0030】
(第2の実施形態)
図4および図5は、本発明の第2の実施形態を示すもので、図1および図2に示した第1の実施形態と同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
図4および図5に示すように、この制振装置においては、水平用TMD1の錘2が4本のワイヤーまたは鋼棒3によって吊持されているとともに、その4つの鉛直外周面2aに、それぞれ水平方向に突出する取付台11が設けられ、各々の取付台11上に上下用TMD10を収納した有底角筒状の収納部8が配置されている。
【0031】
ここで、各々の上下用TMD10は、上述したように錘5がバネ部材6によって上下方向に変位自在に設けられるとともに、錘2の鉛直外周面2aと収納部8との間および収納部8の底面と取付台11との間に介装されたリニアガイド12によって、水平方向の1方向に移動自在に設けられている。具体的には、図5において錘2の図中上下に位置する上下用TMD10はX方向に、錘2の図中左右に位置する上下用TMD10はY方向に移動自在に設けられている。
【0032】
そして、これら上下用TMD10は、水平用TMD1のねじれ固有振動数に同調する質量に形成されている。
【0033】
上記構成からなる制振装置によれば、第1の実施形態に示したものと同様の作用効果を得ることができる。加えて、この制振装置においては、上下用TMD10を水平用TMD1の錘2の鉛直外周面2aに沿って水平1方向にも作動するように設置するとともに、水平用TMD1のねじれ固有振動数に同調するように設けているために、上下用TMD10によって、上述した水平用TMD1の錘2に生じる上下振動のみならずねじれ振動も低減させることが可能になる。
【0034】
(第3の実施形態)
また、図6および図7は、上記第3の実施形態を示すもので、この制振装置においては、水平用TMD1の錘2の4つの鉛直外周面2aの中央部に、それぞれ上面および当該鉛直外周面2aに開口する凹部13が形成されている。そして、この凹部13の底面13a上に、上下用TMD10が収納されている。
【0035】
これら上下用TMD10も、収納部8と凹部13の底面13aとの間に介装されたリニアガイド12によって、水平方向の1方向に移動自在に設けられている。
【0036】
したがって、この実施形態に示した制振装置によっても、第2の実施形態に示したものと同様の作用効果を得ることができるとともに、さらに水平用TMD1の錘2の外周部に凹部13を形成し、この凹部139内に上下用TMD10を収納しているために、上下用TMD10の設置用のスペースを低減させることができるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0037】
1 水平用TMD(第1のTMD)
2、5 錘
8a ガイドローラ
9 穴部(凹部)
10 上下用TMD(第2のTMD)
12 リニアガイド
13 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8