(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について、詳細に説明をする。
【0018】
本発明は、
図1に示す如く、透明基材11の片面又は両面に単層又は多層の光学無機蒸着膜(主として反射防止膜)13を備え、該光学無機蒸着膜の上面にさらに防曇機能膜15を備えた光学要素(図例では眼鏡レンズ)Lに係るものである。そして本発明の光学要素は、
図2に示すような各工程を経て製造する。なお、活性化処理工程は、必然的ではない。
【0019】
ここでは、プラスチック基材(有機ガラス基材)を主として例に採り説明するが、無機ガラス基材の場合も同様である。
【0020】
光学要素としては、眼鏡レンズ、カメラ用レンズ等の光学用レンズ、各種ディスプレイの前面ガラスないし前面フィルター、光学プリズム等、の光透過性のもの、さらには、各種平板鏡、凹面鏡、凸面鏡等の非光透過性のものを挙げることができる。
【0021】
透明基材としては、有機ガラス、無機ガラスを問わない。しかし、有機ガラスの場合、防曇機能膜の加熱処理を特定温度で行う必要があるため、加熱処理温度における耐熱性が必要である。また、後述の如く、通常、プライマーコート膜、ハードコート膜や蒸着成膜を行うため、それらの処理温度以上の耐熱性が必要である。
【0022】
上記有機ガラスとしては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET:ポリエステル)、ポリウレタン、脂肪族アリルカーボネート樹脂、芳香族アリルカーボネート樹脂、ポリチオウレタン、エピスルフィド樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド、ポリオレフィン系等を挙げることができる。本発明を眼鏡等に適用する場合の上市品としては、「CR−39」(PPGCO.社製脂肪族アリルカーボネート樹脂、n
D:1.50)、「MR−8」、「MR−20」(三井化学株式会社製ポリチオウレタン、n
D:1.60)、「MR−7」(三井化学株式会社製ポリチオウレタン、n
D:1.67)、「MR−174」(三井化学株式会社製エピスルフィド樹脂、n
D:1.74)、等を好適に使用できる。上記各商品名はいずれも商標である。
【0023】
上記無機ガラスとしては、汎用石英ガラスでもよいが、本発明を眼鏡等に適用する場合には、屈折率(n
D)1.55以上のものを得易い下記例示のものを好適に使用できる。
【0024】
バリウムクラウンガラス(BaK)1.54〜1.60、重クラウンガラス(SK)>1.54、特重クラウンガラス(SSK)>1.60、軽バリウムフリント(BaLF)>1.55、バリウムフリント(BaF)>1.56、重バリウムフリント(BaSF)>1.585。
【0025】
そして、透明基材が有機ガラスの場合、耐擦傷性の見地から、通常、ハードコート膜17を形成する。なお、該ハードコート膜17を形成する場合には、耐衝撃性を高めるため、プライマーコート膜19を透明基材11との間に介在させることが望ましい。
【0026】
(1)上記ハードコート膜を形成するハードコート(組成物)は、ガラス表面に耐擦傷性等を付与できるものなら特に限定されないが下記シリコーン系(a)又はアクリル系(b)のものが、好適に使用できる。
【0027】
(a)シリコーン系ハードコート:
例えば、オルガノアルコキシシランの加水分解物に、触媒、金属酸化物微粒子を加え、希釈溶剤にて塗布可能な粘度になるように調節する。
【0028】
さらに、この液状のハードコートには、適宜界面活性剤、紫外線吸収剤等の添加も可能である。
【0029】
1)上記オルガノアルコキシシランとしては、下記一般式にて示されるものが使用できる。
R
1aR
2bSi(OR
3)
4-(a+b)
(但し、R
1 は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリルオキシ基、フェニル基であり、R
2 は炭素数1〜3の炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、アリール基、R
3 は炭素数1〜4のアルキル基である。また、a=0又は1、b=0、1又は2である)。
【0030】
具体的には、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。これらは、単独使用の他に、2種以上を併用することも可能である。
【0031】
2)上記触媒としては、トリメリト酸、無水トリメリト酸、イタコン酸、ピロメリト酸、無水ピロメリト酸等の有機カルボン酸、メチルイミダゾール、ジシアンジアミド等の窒素含有有機化合物、チタンアルコキシド、ジルコアルコキシド等の金属アルコキシド、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトン鉄等の金属錯体、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属有機カルボン酸塩が好適に使用できる。
【0032】
3)金属酸化物微粒子としては、平均粒径が5〜50nmのコロイダルシリカ、コロイダルチタニア、コロイダルジルコニア、コロイダル酸化セリウム(IV)、コロイダル酸化タンタル(V)、コロイダル酸化スズ(IV)、コロイダル酸化アンチモン(III)、コロイダルアルミナ、コロイダル酸化鉄(III)等が好適に使用でき、これらは、単独使用の他に、2種以上を併用、または複合微粒子として使用することも可能である。
【0033】
4)希釈溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類及びセロソルブ類等の極性溶剤が好適に使用できる。
【0034】
5)コーティング方法としては、浸漬(ディッピング)法、スピンコート法等の慣用の方法を使用する。硬化条件は、好適には80〜140℃×1〜4hとする。
【0035】
(b)アクリル系ハードコート:
例えば、1分子中に3個以上のアクリロイルオキシ基を有する多官能アクリル系オリゴマー、モノマーに、目的機能を有するモノマー、オリゴマー、及び光重合開始剤を加えたものを必須成分とし、希釈溶剤にて塗布可能な粘度となるように調節する。必要に応じて、重合禁止剤、レベリング剤及び紫外線吸収剤等の添加剤、熱可塑性樹脂や酸化金属微粒子等の改質剤の添加も可能である。
【0036】
1)上記多官能アクリル系オリゴマー・モノマーとしては、1分子中に3個以上のアクリロイルオキシ基を有する下記各種アクリレート類が好適に使用できる。
【0037】
(i)ポリオールアクリレート(多価アルコールまたはポリエーテル型多価アルコールの(メタ)アクリレート):トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート等、
【0038】
(ii)ポリエステル(メタ)アクリレート(多塩基酸と多価アルコールと(メタ)アクリル酸の三成分を反応させて得られるもの。):例えば多塩基酸としてはフタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等、多価アルコールとしてはトリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール等、
【0039】
(iii)ウレタンアクリレート(3価以上のポリオール成分、3価以上のポリイソシアナートまたはポリオールポリイソシアナートと水酸基含有多官能(メタ)アクレートの三成分を反応させて得られるもの):例えば、ポリオール成分としてはトリメチロールプロパン等、ポリイソシアナートとしてはHMDIのビューレット又は三量体、水酸基含有多官能(メタ)アクレートとしてはペンタエリトリトールトリアクリレート等の前記ポリオールアクリレートが、好適に使用できる。
【0040】
(iv)エポキシアクリレート(エポキシ化合物に(メタ)アクリル酸、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの):グリセリントリグリシジルエーテルトリアクリレート、トリス(グリシジルエーテルエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラグリシジルエーテルテトラアクリレート、フェノールノボラックポリグリシジルエーテルポリアクリレート、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルポリアクリレート等、
【0041】
(V)その他:トリスアクリロイルオキシイソシアヌレート、アミノポリアクリレート、ヘキサキスメタクリロイルオキシエチルホスファゼン、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート等。
【0042】
2)上記光重合開始剤としては、下記に例示する各種タイプのものが好適に使用できる。
【0043】
(i)モノフェノン系:4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシプロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン等、
【0044】
(ii)ベンゾイン系:ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルメチルケタール等、
【0045】
(iii)ベンゾフェノン系:ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等、
【0046】
(iv)チオキサンソン系:チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等、
【0047】
(v)特殊グループ:α−アシロキシムエステル、アシルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル−9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアンスラキノン、4’,4”−ジエチルイソフタロフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等。
【0048】
なお、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、等の光重合開始助剤を併用することもできる。
【0049】
光重合開始剤の濃度は、硬化性樹脂100部に対して0.5〜10部、好ましくは1〜7部とする。
【0050】
3)上記重合禁止剤としては、下記のものが好適に使用できる。
ヒドロキノン、メトキノン、p−ベンゾキノン、フェノチアジン、モノ−t−ブチルヒドロキノン、カテコール、p−t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、アンスラキノン、2,6−ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン、等。
【0051】
4)上記レベリング剤としては、炭化水素系、シリコーン系、フッ素系のものが好適に使用できる。
【0052】
5)上記紫外線吸収剤としては、ヒドロキシベンゾフェノン系、サルチレート系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、等が好適に使用できる。
【0053】
6)上記熱可塑性樹脂は、ポリウレタンエラストマー、ポリブタジエンエラストマー、アクリルニトリル/ブタジエンエラストマー等が好適に使用できる。
【0054】
7)上記酸化金属微粒子及び希釈溶剤としては、上記シリコーン系で例示したものと同様のものが使用できる。
【0055】
コーティング方法も、シリコーン系の場合と同様である。
【0056】
硬化条件は、管壁負荷80〜160W/cmの高圧水銀ランプ系またはメタルハライドランプ系紫外線光源下にて2〜180秒とする。
【0057】
(2)プライマーコート膜は、特に、耐衝撃性に優れた熱可塑性エラストマーをベースとするプライマーを使用して形成することが望ましい。
【0058】
具体的には、1)ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)に金属酸化物無機微粒子を添加したTPUプライマー組成物、2)塗膜形成ポリマーの全部または主体がエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)に上記と同様の金属酸化物無機微粒子を添加したTPEEプライマー組成物が好適に使用できる。
【0059】
1)TPUは、長鎖ポリオールとポリイソシアナートからなるソフトセグメントと短鎖ポリオールとポリイソシアナートからなるハードセグメントとで構成されるもので、水性エマルション(乳濁液)の形態で添加されることが望ましい。
【0060】
金属酸化物微粒子は、前述のハードコートに使用したものを使用できる。
【0061】
2)TPEEは、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテル又はポリエステルを使用したマルチブロック共重合体で、このハードセグメントとソフトセグメントとの質量比率は、通常、前者/後者=約30/70〜10/90とする。
【0062】
また、ウレタン系プライマーと同様の金属酸化物無機微粒子を屈折率調整用として用いる。
【0063】
(3)そして、本実施形態においては、上記ハードコート膜17上には、単層又は多層の光学無機蒸着膜13を形成して、反射率を低下ないし増加させたりする。即ち、反射防止膜やミラー膜を形成する。
【0064】
上記光学無機蒸着膜13は、SiO
2で形成された最外層(SiO
2最外層)を備えている必要がある。そして、本発明では、光学要素の製造に際して加熱処理(55℃以上、望ましくは75℃以上)を必須とするため、光学無機蒸着膜は、耐熱仕様とすることが望ましい。SiO
2最外層の内側の少なくとも一層が、実質的に下記組成の焼結混合物(特定蒸着膜材料)からなる高度耐熱性を有するものとすることがさらに望ましい。
【0065】
当該焼結混合物は、具体的には、特開2002-226967号公報に高屈折率光学層製造用蒸着材料として記載されているものを使用することができる(要約から編集を加えて引用)。
【0066】
「蒸着材料が、酸化チタン(TiO
X;
X=1.5〜1.8)
33〜74質量%、酸化ランタン(La
2O
3)
19〜65質量%、チタン(Ti) 2〜7質量%である。」
【0067】
より具体的には、「酸化チタン37.9質量%、酸化ランタン58.9質量%及びチタン3.2質量%の混合物を均質混合し、粒径約1〜4mmまで造粒し、減圧下に約1500℃で6h焼成」したもの(同「実施例1」)や、「酸化チタン34質量%、酸化ランタン63質量%及びチタン3.0質量%の混合物を均質混合し、粒径約1〜4mmまで造粒し、減圧下、約1500℃で6h焼成」したもの(同「実施例2」)等を好適に使用できる。
【0068】
さらに具体的には、メルク株式会社から上市されている「サブスタンスH4」、「サブスタンスH5」(いずれも商標)等を挙げることができる。
【0069】
なお、上記公報の実施例1・2の蒸着における基板温度は、280〜310℃であり、プラスチック基板(有機ガラス)を想定していないが、後述の如く、本発明の有機ガラス基材でも基板温度を下げれば使用可能である。
【0070】
そして、当該特定蒸着膜材料からなる蒸着層(「特定蒸着膜」)と、該特定蒸着膜材料以外の上記金属酸化物・金属ハロゲン化物などのセラミックスないし金属の1種又は2種以上の汎用無機蒸着材料からなる汎用光学無機蒸着層を組み合わせて、反射防止膜(AR膜:反射低下膜)又はミラー膜(反射鏡:反射増加膜)を形成する。
【0071】
なお、反射防止膜の設計は、通常、光学膜厚をλ/4(例えば、λ:500nm)の整数倍に選び、無反射条件から所要の屈折率を計算し、該屈折率を有する材料からなる層、又は、複層等価膜で置き換えることにより行う(小瀬他編「光工学ハンドブック」朝倉書店、1996.2、p170参照)。
【0072】
また、ミラー膜の設計は、透明な高屈折率、低屈折率のλ/4繰り返し多層膜とする(同p171参照)。
【0073】
ここで、上記特定蒸着膜材料以外の蒸着膜材料としては、下記例示のa)無機酸化物、b)無機ハロゲン化物、c)金属単体、及びそれらの同種内又は異種組み合わせの混合物(金属単体の場合は合金を含む。)等を好適に使用できる。
【0074】
a)チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、アンチモン、イットリウム、インジウム、スズ、ランタン、セリウム、マグネシウム、アルミニウム、珪素、
b)マグネシウム、ランタン、アルミニウム、リチウム、
c)珪素、ゲルマニウム、クロム、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、白金。
【0075】
光学無機蒸着膜(反射防止膜又はミラー膜)は、通常、真空蒸着法(イオンアシスト法を含む。)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク放電法などの乾式メッキ法(PVD法)を使用して形成する。
【0076】
そして、上記反射防止膜又はミラー膜のうちの1層又は複数層をイオンアシストにより蒸着(成膜)してもよい。有機ガラス上に特定蒸着膜を形成する場合、120℃未満に加熱された真空容器内に蒸着材料を入れ、少なくともO
2を含む気体を適時送入しながら5.0×10
-1〜5.0×10
-3Paの圧力に調節した状態で加熱を行い、さらにイオン銃を用いてイオンアシストを行いながら成膜を行うことが好ましい。
【0077】
有機ガラス上に特定蒸着膜を形成する場合、真空容器内の加熱温度としては、常温〜120℃、好ましくは、60〜90℃とすることが望ましい。常温下では成膜された膜の密度が低く十分な膜耐久性が得られず、120℃を超えると成膜する基板の劣化・変形が起きる可能性がある。
【0078】
イオンアシスト条件としては、通常、ガス導入量1〜100sccm(好ましくは5〜50sccm)、加速電圧100〜1200V(好ましくは200〜1000V)とする。ここで、「sccm」とは、「standard cc/m」の略で0℃、101.3kPa(1気圧)におけるものを示す。
【0079】
イオン銃への導入ガスとしては、O
2、Arのいずれか又はそれらの混合ガスとすることが望ましい。
【0080】
なお、上記イオンアシストに先立ち、ハードコート膜の表面処理を行うことが望ましい。具体的には、(a)酸素又はアルゴン雰囲気下におけるプラズマ処理、(c)酸・アルカリによる薬品処理、(b)イオン銃による酸素又はアルゴンガスによるイオン照射処理(イオンクリーニング)等を挙げることができる。これらのなかでは、イオンクリーニングをイオンアシストに組み合わせることが望ましい。
【0081】
なお、イオンクリーニング及びイオンアシストについては、特開平10−123301号公報及び特開平11−174205号公報にそれぞれ詳細に記載されている。それらの公報の記載の一部を纏めて下記する。
【0082】
・イオンクリーニング「光学無機蒸着膜を成膜する際は、光学無機蒸着膜の付着力を高めるため、前処理として、ハードコート膜の表面処理を行うことが望ましい。具体的な例として、高周波による酸素またはアルゴンによるプラズマ処理、酸、アルカリによる薬品処理、イオン銃による酸素イオンまたはアルゴンイオン照射処理等が挙げられる。
【0083】
上記のうち、イオン銃による酸素イオンまたはアルゴンイオン照射処理により良好な表面を得ることが望ましい。」
【0084】
・イオンアシスト法「少なくとも高屈折率層の成膜は、イオンビームアシスト法を使用して蒸着を行う。その他の膜についても、イオンビームアシスト法を使用してもよいし、その他の物理的蒸着法を使用してもよい。」
【0085】
なお、特定蒸着膜以外の反射防止膜又はミラー膜の他の構成層は、特定蒸着膜と同じイオンアシストでも、電子ビームなどの他の真空蒸着でもよい。通常、電子ビームで行うことが同じ真空室を使用でき望ましい。
【0086】
各蒸着材料の屈折率(n)を以下に示す。
特定蒸着膜:2.0〜2.2
SiO
2:1.43〜1.47
TiO
2:2.2〜2.4
ZrO
2:1.90〜2.1
Ta
2O
5:2.0〜2.3
【0087】
そして、本実施形態では、耐熱仕様であるとともにSiO
2で形成された最外層(SiO
2最外層)の光学無機蒸着膜の上に、防曇機能膜を形成する。当該防曇機能膜は、アルコキシシリル基(−Si(OR)
3)を有する(メタ)アクリル系ポリマーを塗膜形成要素とする塗料組成物で形成する。
【0088】
そして、光学無機蒸着膜のSiO
2最外層の表面に、活性化処理を施しOH基を生成・増大させることが望ましい。防曇機能膜の光学無機蒸着膜(SiO
2最外層)に対する結合性が増大して防曇機能膜の密着性や耐摩耗性が向上することが期待できる(後述の試験例参照)。
【0089】
前記活性化処理としては、プラズマ処理、紫外線オゾン洗浄、ピラニア洗浄、RCA洗浄および超臨界洗浄等を挙げることができ、それらの一以上の処理を適宜選択する。これらのうちで、プラズマ処理(特に酸素プラズマ処理)がOH基を生成させ易いため望ましい。
【0090】
アルコキシシリル基(−Si(OR)
3)を有する(メタ)アクリル系ポリマーとしては、前記特許文献10に記載の下記構成のものを好適に使用できる。
【0091】
引用文献10の段落0019〜0023及び段落0040〜0074を、編集上の訂正を適宜加えて引用する。
【0092】
<引用開始>
本実施形態で使用する(メタ)アクリル系ポリマーは、
式(I):
【化1】
【0093】
(式中、R
1は水素原子またはメチル基、R
2は親水性基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有し、少なくとも片末端に式(II):
【0095】
(式中、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R
3、R
4およびR
5のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、R
6は炭素数1〜12のアルキレン基を示す)
で表わされるアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーで形成されていることを特徴とする。
【0096】
そして、
式(I)で表わされる繰り返し単位において、R
1は、水素原子またはメチル基である。
【0097】
R
2は、親水性基である。R
2としては、例えば、水素原子、水酸基を少なくとも1個有する炭素数1〜4のアルキル基、片末端に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を有する炭素数1〜20のポリエチレングリコール基、片末端に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を有する炭素数1〜10のポリプロピレングリコール基、式(III):
【0099】
(式中、R
7およびR
8は、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキレン基、R
9およびR
10は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表わされる基、式(IV):
【0101】
(式中、R
11は炭素数1〜4のアルキレン基、R
12およびR
13はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R
14は有機基、X
-は陰イオンを示す)
で表わされる基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの基のなかでは、塗膜強度を高める観点から、式(III)で表わされる基が好ましい。
【0102】
式(III)において、R
7およびR
8は、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキレン基である。R
7は、好ましくはメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基またはイソプロピレン基であり、より好ましくはメチレン基またはエチレン基である。R
8は、好ましくはメチレン基またはエチレン基である。R
9およびR
10は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。
【0103】
式(IV)において、R
11は、炭素数1〜4のアルキレン基である。R
11は、好ましくはメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基またはイソプロピレン基であり、より好ましくはメチレン基またはエチレン基である。R
12およびR
13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。R
14は、有機基である。有機基の具体例としては、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜6のカルボキシアルキル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。X
-は、陰イオンである。X
-の好適な例としては、炭素数1〜4のアルキルクロライドイオン、アルキル基の炭素数が1〜4の1価のジアルキル硫酸イオン、炭素数6〜8のアリールクロライドイオン、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキル硫酸ハライドイオン、ハロゲンイオン、酢酸イオン、ホウ酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸水素イオン、重亜硫酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記ハライドにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。前記ハロゲンイオンにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。X
-のなかでは、炭素数1〜4のアルキルクロライドイオン、アルキル基の炭素数が1〜4の1価のジアルキル硫酸イオンおよび炭素数6〜8のアリールクロライドイオンが好ましい。
【0104】
基材表面に親水性を付与する観点から、式(I)で表わされる繰り返し単位の数の下限値は、好ましくは1以上、より好ましくは10以上であり、式(I)で表わされる繰り返し単位の数の上限値は、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下である。
【0105】
式(II)で表わされるアルコキシシリル基において、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基(アルコキシル基)であって、R
3、R
4およびR
5のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基である。R
3、R
4およびR
5のうちの少なくとも1つの基が炭素数1〜4のアルコキシ基であるのは、防曇塗膜を光学無機蒸着膜のSiO
2最外層に化学的結合(脱水縮合によるSi−O−Si結合)させるためである。したがって、R
3、R
4およびR
5のうちの少なくとも1つの基が炭素数1〜4のアルコキシ基であることが好ましく、R
3、R
4およびR
5のうちの少なくとも2つの基が炭素数1〜4のアルコキシ基であることがより好ましく、R
3、R
4およびR
5のいずれもが炭素数1〜4のアルコキシ基であることがさらに好ましい。炭素数1〜4のアルキル基のなかでは、メチル基およびエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。炭素数1〜4のアルコキシ基のなかでは、メトキシ基およびエトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0106】
式(II)で表わされるアルコキシシリル基において、R
6は、炭素数1〜12のアルキレン基である。R
6のなかでは、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜6のアルキレン基がより好ましい。
【0107】
式(II)で表わされるアルコキシシリル基は、(メタ)アクリル系ポリマーの少なくとも片末端に存在するが、(メタ)アクリル系ポリマーが有する性質を十分に発現させる観点から、(メタ)アクリル系ポリマーの片末端にのみ存在することが好ましい。式(II)で表わされるアルコキシシリル基が(メタ)アクリル系ポリマーの片末端にのみ存在する場合、その他方の末端には、(メタ)アクリル系ポリマーが有する性質を十分に発現させる観点から、例えば、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、重合開始剤の残基などの基が存在することが好ましい。
【0108】
式(I)で表わされる繰り返し単位を有し、少なくとも片末端に式(II)で表わされるアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、式(V):
【0110】
(式中、R
1およびR
2は、前記と同じ)
で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを、式(VI):
【0112】
(式中、R
3、R
4、R
5およびR
6は、前記と同じ)
で表わされるアルコキシシリル基含有化合物の存在下で重合させることによって調製することができる。
【0113】
式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのメチルクロライド塩、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのジメチル硫酸塩、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのジエチル硫酸塩、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド塩、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのメチルクロライド塩、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのジメチル硫酸塩、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのジエチル硫酸塩、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド塩、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートのメチルクロライド塩、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートのジメチル硫酸塩、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートのジエチル硫酸塩、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド塩、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのメチルクロライド塩、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのジメチル硫酸塩、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのジエチル硫酸塩、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、N−(メタ)アクリロイルアミノエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの(メタ)アクリル系モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル系モノマーのなかでは、安価で容易に入手することができることから、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのメチルクロライド塩、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのジエチル硫酸塩などが好ましい。なお、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインは、例えば、特開平9−95474号公報、特開平9−95586号公報、特開平11−222470号公報などに記載されている方法により、高純度で容易に調製することができる。
【0114】
式(VI)で表わされるアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、1−チオプロピル−3−トリメトキシシラン、1−チオプロピル−3−トリエトキシシラン、1−チオプロピル−3−トリイソプロポキシシラン、1−チオプロピル−3−メチルジメトキシシラン、1−チオプロピル−3−メチルジエトキシシラン、1−チオプロピル−3−メチルジプロポキシシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコキシシリル基含有化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
式(VI)で表わされるアルコキシシリル基含有化合物の量は、特に限定されないが、通常、重合に供されるモノマー全量100質量部あたり、0.01〜10質量部程度であることが好ましい。
【0116】
なお、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば、式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを他の重合性モノマーと併用してもよい。
【0117】
他の重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、スチレン、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他の重合性モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0118】
式(VI)で表わされるアルコキシシリル基含有化合物の存在下で、式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを重合させる際には、重合開始剤を用いることが好ましい。
【0119】
重合開始剤としては、例えば、アゾイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0120】
重合開始剤の量は、特に限定されないが、通常、式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを含む重合に供されるモノマー全量100質量部あたり0.01〜5質量部程度であることが好ましい。
【0121】
式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを重合させる方法としては、例えば、溶液重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを溶液重合法によって重合させる場合には、例えば、式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを溶媒に溶解させ、得られた溶液を攪拌しながら重合開始剤を添加することにより、重合させることができる。
【0122】
溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0123】
溶媒の量は、通常、式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを含む重合に供するモノマー混合物を、溶媒に溶解させて得られる溶液のモノマー濃度が10〜80質量%程度となるように調製することが好ましい。
【0124】
式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを重合させる際の重合温度、重合時間などの重合条件は、そのモノマーの種類およびその使用量、重合開始剤の種類およびその使用量などに応じて適宜調整することが好ましい。
【0125】
式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーを重合させるときの雰囲気は、不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0126】
重合反応の終了や反応系内における未反応モノマーの有無は、例えば、ガスクロマトグラフィーなどの一般的な分析方法で確認することができる。
【0127】
以上のようにして式(V)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーおよび必要により使用される他のモノマーを重合させることにより、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーを得ることができる。
【0128】
アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーの粘度平均分子量は、表面改質効果を十分に発現させる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは500以上であり、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーの溶解性を高める観点から、好ましくは100000以下、より好ましくは50000以下である。なお、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーの粘度平均分子量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーなどによって測定することができる。
【0129】
アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーは、溶媒に溶解させて用いることができる。溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
<引用終了>
【0130】
防曇機能膜は、基材11に形成された無機蒸着膜13におけるSiO
2最外層上に上記アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマー(以下「特定アクリル系ポリマー」という。)またはその溶液(以下、「特定アクリル系塗料」という。)を塗布することによって形成する。
【0131】
なお、特定アクリル系ポリマーは、大阪有機化学工業株式会社から上市されている「LAMBIC」(商標)シリーズで、「LAMBIC-400EP」、「LAMBIC-500EP」、「LAMBIC-770W」等を好適に使用できる。これらのうちで、相対的に高分子量の「LAMBIC-770W」が特に望ましい。「LAMBIC-770W」は、特に、優れた防曇持続性、耐擦傷性を示すためである。なお、「LAMBIC-770W」の10%粘度実測値(20℃)は「8.3mPa・s」であった。
【0132】
アルコキシシリル基を有する特定アクリル系ポリマー又は特定アクリル系塗料を、SiO
2最外層を備えた光学無機蒸着膜上に塗布する。その際の塗料濃度は、0.001〜4質量%(望ましくは0.01〜2質量%)とする。また、塗料温度は、10〜40℃(望ましくは20〜30℃)とする。
【0133】
なお、上記塗布方法としては、特に限定されない。例えば、フローコート法、スプレーコート法、浸漬法、刷毛塗法、ロールコート法等を挙げることができる。
【0134】
アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーまたはその溶液(塗料)の塗布量は、要求される擦り試験後の防曇性および耐久性を発揮できる範囲内で、可及的に薄い方が望ましい。具体的には、例えば、塗料粘度1〜2mPa・sのとき、引き上げ速度50〜500mm/min(望ましくは100〜200mm/min)で浸漬塗布する場合の塗布量とする。
【0135】
本発明においては、防曇機能塗料を光学無機蒸着膜のSiO
2最外層上に塗布した後は、基材を特定温度で加熱処理することが必要であり、さらにはSiO
2最外層の表面を活性化処理することが望ましい。後述の実施例に示す如く、加熱処理をしなければ、光学無機蒸着膜上に耐久性(特に、擦り試験における)に優れた防曇機能膜を形成することができない。
【0136】
すなわち、上記加熱処理により、アルコキシシリル基の加水分解が促進されて防曇機能膜を形成する特定アクリル系ポリマーのOH基数が増大するとともに、SiO
2最外層上のOH基と上記加水分解で生成するOH基との脱水縮合が促進されて、脱水縮合による強固な結合(Si−O)が形成されるためと考えられる。また、上記活性化処理により、SiO
2最外層のOH基数が増大して、脱水縮合による結合がさらに増大すると考えられる。
【0137】
上記加熱処理の条件は、有機ガラスの場合、通常、55〜120℃×5〜60min、望ましくは75〜120℃×10〜30minの範囲内で、適宜選定する。無機ガラスの場合、55〜200℃×5〜60min、望ましくは75〜200℃×5〜60minの範囲内で適宜選定する。
【0138】
後述の実施例で示す如く、温度が低すぎたり処理時間が短かったりすると、擦り試験後の防曇性・外観を維持しがたく、温度が高すぎたり処理時間が長すぎたりすると、有機ガラス基材の場合基材を熱劣化させるおそれがあるとともに、無機ガラス基材の場合、かえって擦り試験後の外観不良が発生し易くなる。
【0139】
以上のようにして、特定アクリル系塗料を、基材の表面上に形成されているSiO
2最外層を備えた光学無機蒸着膜上に塗布し、特定温度で加熱処理することにより、光学無機蒸着膜上に耐久性(特に、擦り試験における)に優れた防曇機能膜を形成することができることを、本発明者らは知見した。
【0140】
本発明の防曇機能膜は、SiO
2最外層を備えた光学無機蒸着膜上に特定アクリル系ポリマーを塗膜形成要素とする防曇機能膜が形成されるので、親水性を基材に付与することができ、従来の界面活性剤を用いたときのように水分が付着したときに流失することを防止することができる。さらに、本発明で防曇機能膜を形成する特定アクリル系ポリマーは、膜厚が薄くても十分な防曇機能を付与できることを知見した。このため、従来の親水性グラフトポリマーを用いた場合のように防曇機能膜を厚肉にする必要がない。このため、表面層が厚肉となることによって反射防止膜の低反射性が損なわれることを抑止することができるとともに、熱処理温度を相対的に高いものとすることにより、擦り試験後における防曇性、外観に優れたものになる。
【実施例】
【0141】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例及び比較例について詳細に説明をする。
図1に実施例/比較例の光学基本構成を示すモデル断面図を示すとともに、
図2に概略製造工程図を示す。
【0142】
(1)薬剤及び光学基材は、下記のものである。
【0143】
<プライマー・金属酸化物微粒子>
・TPEE「ペスレジンA−160P」(高松油脂株式会社製、ポリエステル・ポリエーテル型水分散エマルション(水性)、固形分濃度27%)
・チタニア系酸化金属微粒子A「オプトレイク1130F−2(A−8)」(触媒化成工業株式会社製、固形分濃度30%、分散溶媒メチルアルコール)
・チタニア系酸化金属微粒子B「オプトレイク1120Z(S−7,G)」(触媒化成工業株式会社製、固形分濃度20%、分散溶媒メチルアルコール)
【0144】
<反射防止膜(光学無機蒸着膜)材料>
・ランタンチタネート「サブスタンスH4」(以下「特定蒸着膜材料」とする。)
【0145】
<有機ガラス基材>
・屈折率1.60:「MR−20」(三井化学株式会社製)
【0146】
<無機ガラス基材>
・屈折率1.52:市販石英ガラス板
【0147】
上記各基材は、前処理として40℃の10%NaOH水溶液に3分浸漬させ、次いで水洗、乾燥させたものを使用した。
【0148】
(2)プライマー組成物は下記の如く調製したものである。
市販のTPEE「ペスレジンA−160P」100部に、チタニア系酸化金属微粒子「オプトレイク1120Z(S−7.G)」57部、希釈剤としてメチルアルコール350部、及びシリコーン系界面活性剤「L−7001」1部を混合し、均一な状態になるまで撹拌して、プライマー組成物を調製した。
【0149】
(3)ハードコート(HD)組成物は下記の如く調製したものである。
γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン150部、テトラエトキシシラン25部に、メチルアルコール150部を加え、撹拌しながら0.01Nの塩酸40部を滴下して一昼夜加水分解を行って加水分解物を調製した。
【0150】
該加水分解物に、チタニア系酸化金属微粒子「オプトレイク1130F−2(A−8)」170部、シリコーン系界面活性剤(L−7001)1部と、触媒としてアセチルアセトンアルミニウム1.0部を混合し、一昼夜撹拌し、ハードコート組成物を調製した。
【0151】
(4)防曇機能膜用塗料は、大阪有機化学工業株式会社から上市されている特定アクリルポリマーの水溶液濃度10%である「LAMBIC770W」を希釈して水溶液濃度0.05%(20℃粘度実測値1.05mPa・s)のものを調製した。
【0152】
(5)各試験例の試料調製
各有機ガラス基材の試料については、各基材をアルカリ洗浄後、プライマーコート組成物を塗布して、100℃×20minの条件で硬化後、ハードコート組成物を塗布し、110℃×2hの条件で硬化させ、プライマーコート膜/ハードコート膜(HD膜)19、17を形成した。
【0153】
更に、真空蒸着装置における真空室を60℃に加熱しながら、圧力1.33×10
-3Pa以下まで排気し、酸素イオンクリーニングを行った後、上記HD膜上に、イオンアシストを行いつつ、真空蒸着で表1に示す構成の反射防止膜(AR1・AR2・AR4)を形成した。
【0154】
また、無機ガラス基材については、アルカリ洗浄をした基材を、上記の有機ガラス基材と同様にして表1に示す構成の反射防止膜(AR3・AR5・AR6)を形成し、さらに、プラズマ処理をおこなって、各防曇機能膜が形成される試料を調製した。
【0155】
【表1】
【0156】
なお、上記イオンクリーニングは、加速電圧:200V、イオンアシストの加速電圧:600Vで行った。
【0157】
また、プラズマ処理は、出力500W、時間80秒で行った。
【0158】
そして、各試料の表面に、引き上げ速度(150mm/min)の条件で防曇機能膜用塗料を浸漬塗布後、各群について加熱温度を変更して15minで加熱処理を行って防曇機能膜15を成膜して各試験片を調製した。このときの加熱温度は、有機ガラス基材の場合は60〜80℃の範囲で3点(表2・3)、無機ガラスの場合は60〜180℃の範囲で6点(表4・5)とした。
【0159】
また、有機ガラス基材のハード膜を備えた被処理体、又は、該ハード膜上に反射防止膜(AR2)を備えた被処理体に、実施例と同様にして防曇処理膜を成膜し加熱処理をしなかった試験片をそれぞれ対照例1・2として調製した。
【0160】
なお、各試験片は調製後、純水で表面不純物を除去してエアブローにより表面を乾燥させた。
【0161】
(6)上記の如く調製した各参照例・実施例群の試験片について、下記各項目の物性/評価試験を行った。なお、試料個数は各試験項目について、それぞれn=5とした。また、接触角の数値は、中間のn=3の算術平均値とした。
【0162】
また、接触角試験は、合格基準である接触角10°(超親水性性能が十分に発揮される)を大きく超えた時点で、後の各種洗浄処理後乃至擦り試験後については行わなかった。
【0163】
<試験項目>
防曇機能膜の性能として「呼気吹付外観」および「(水)接触角」の2個の特性を判定基準とした。すなわち、前者は官能的特性であり、後者は定量的特性であり、略相対関係にあるが、後述の試験結果から示す通り、試験条件によっては、必ずしも相関関係にあるとは限らないためである。
【0164】
1)初期呼気吹付け外観
各試験片について、調製直後に、呼気を吹き付け、防曇機能膜の状態を目視観察した。判定基準は下記の通りとした。
【0165】
○:全面に水薄膜あり
(注:全面に親水性による水薄膜が形成され曇らない状態)
△:部分的に水薄膜
(注:水薄膜の形成が出来ていない部分が曇る状態)
×:全面に水薄膜なし
(注:全面に水薄膜が無く曇りが発生する状態)
【0166】
2)擦り試験後の呼気吹付け外観
各試験片について、下記擦り試験を表示回数(50・1000・3000回)行って、上記1)と同様にして呼気を吹き付け、試験片中心部の外観を目視観察した。呼気吹付外観判定基準の、○、△、×は上記1)と同様である。
・メガネクロスに荷重500gを負荷して、1回/1sのストロークで実施した。
【0167】
3)初期接触角
各試験片について、調製直後、接触角を下記方法により測定した。
・各試験片に水滴を滴下し、接触角計(エルマ(株)製)を用いて、水との接触角を25℃の大気中で測定した。
【0168】
4)洗浄後の接触角
各試験片について、下記各方法で洗浄した後、エアブローで表面を乾燥させ前記方法で接触角を測定した。
・水洗浄:純水(20℃)×浸漬5min
・湯洗浄:加熱純水(40℃)×浸漬5min
・超音波洗浄:25Hz×浸漬5min
【0169】
5)擦り試験後の接触角
各試験片について、上記2)と同様、擦り試験を表示回数(50・1000・3000回)行って、それぞれ接触角を測定した。
【0170】
<試験結果・考察>
上記試験結果を、透明基材が有機ガラスの場合については、表2(外観試験)・表3(接触角)に、同じく無機ガラスの場合については表4・表5にそれぞれ示す。
【0171】
1)有機ガラス基材:
処理温度60℃の参照例1−1では、表2に示す初期呼気吹き付け外観および擦り試験後呼気吹付け外観において、並びに、表3に示す洗浄後の接触角において、実施例1−1、2−1と略同等であることが分かる。また、擦り試験後の接触角において、擦り回数が多くなると(3000回)、処理温度60℃の参照例1−1は、ほとんど防曇機能を発揮し得ないことが分かる。
【0172】
処理温度80℃、100℃における参照例1−2、参照例1−3と、実施例1−2、1−3並びに実施例2−2、2−3とを対比すると、擦り回数1000回および3000回において、接触角において、明白な有意差があることが分かる。
【0173】
上記から、SiO
2最外層であっても、処理温度が低いと、無機蒸着膜と前記防曇機能膜とが、SiO
2最外層上のOH基と、前記アルコキシシリル基の加水分解で生成するOH基との脱水縮合を介して結合されてなる状態が安定して得難いためと考えられる。上記結果から、本発明の効果を確実に得るためには、処理温度を55℃以上、さらには75℃以上にすることが望ましいことが分かる。
【0174】
さらには、耐熱蒸着膜の場合の実施例2群の場合、処理温度を高くすれば(実施例2−3)、さらに、安定して防曇性を確保し易いことが分かる(表2、表3の擦り試験後吹付け外観・接触角参照)。
【0175】
なお、無機蒸着膜の非SiO
2最外層である比較例1群は、防曇機能膜を直接HD膜に適用した参照例1群より劣る防曇性しか得られないことが確認できた。すなわち、比較例1群は、初期接触角:30°であり、参照例1群は、初期接触角:4°である(表3参照)。
【0176】
また、対照例1・2から明らかな如く、加熱処理をしない場合は、防曇機能膜を形成しても、洗浄処理後は、全く防曇性を発揮し得ないことが分かる。すなわち、加熱処理をしないと、防曇機能膜が流出してしまうためと推定される。
【0177】
【表2】
【0178】
【表3】
【0179】
2)無機ガラス基材:
無機ガラスに直接防曇機能塗膜を形成して加熱処理した参照例2群は、SiO
2最外層の無機蒸着膜を形成した実施例3〜5群と、同様の洗浄・擦り試験後の接触角において略同等である(表5参照)。
【0180】
しかし、擦り試験後外観において、表4・5に示す如く、参照例2群は、防曇機能膜の熱処理温度が低い場合(60℃)は擦り試験1000回で曇りが発生し、また、高い場合(100℃)は擦り試験3000回で曇りが発生して、それぞれ、実施例3〜5群より官能試験において、劣ることが分かる。
【0181】
さらに、加熱処理温度を上昇させた場合、表5に示す如く、直接無機ガラス上に適用した参照例2に比して、相対的に擦り回数が多くても接触角の増大傾向が小さいことが分かる。すなわち、耐擦り性に優れていることが伺える。
【0182】
【表4】
【0183】
【表5】