(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522015
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】ナノセルロースおよびその前駆体の製造および使用のための方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20190520BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20190520BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H15/02
C08B15/00
【請求項の数】15
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-574495(P2016-574495)
(86)(22)【出願日】2015年3月11日
(65)【公表番号】特表2017-510730(P2017-510730A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】FI2015000009
(87)【国際公開番号】WO2015136147
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2018年2月5日
(31)【優先権主張番号】20140067
(32)【優先日】2014年3月12日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】516272663
【氏名又は名称】ナノレフィックス オサケユキテュア
【氏名又は名称原語表記】NANOREFIX OY
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】ウリヨ マルッキ
【審査官】
河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−224960(JP,A)
【文献】
特表2008−544112(JP,A)
【文献】
特開平11−315473(JP,A)
【文献】
特開2008−075214(JP,A)
【文献】
特開2010−236109(JP,A)
【文献】
特開2012−111849(JP,A)
【文献】
特表2014−505093(JP,A)
【文献】
特開2003−062057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
C08B 1/00−37/18
A61K 31/33−33/44
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロース、その前駆体および濃縮物の製造のための方法であって、光、または、制御された加熱によって水を除去する処理によって、有機溶媒または他の疎水性液体媒体中で、ナノメートルサイズの粒子が、乾燥または空気乾燥の状態にあるセルロース材料のフィブリルから分離されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記水を除去する処理が、180℃を超えない温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱が、電磁エネルギーを発生する熱を供給することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
処理される材料が、木ではない植物の一部または構成物質からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
処理される材料が、再循環されたセルロース繊維またはこれを含有するセルロース材料であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
セルロース材料が、ヘミセルロースまたはペクチン分解酵素で前処理されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ナノメートルスケールの粒子は、懸濁物として液体媒体中で分離されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ナノメートルスケールの粒子が互いに合わさり、鎖、基本フィブリル、ミクロフィブリル、二次的に作られたフィブリルおよびこれらの網目構造を形成することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ミクロフィブリル、二次フィブリルまたはこれらの網目構造が、セルロース繊維またはフィブリルを架橋することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ナノスケールの粒子の分離およびその後の段階は、乾燥または空気乾燥した(空気中の湿度と平衡状態にある含水量を有する)セルロース材料中で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
紙の機械特性および表面特性を向上させるミクロフィブリル網目構造を成長させることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
セルロース材料からのナノスケールの粒子の分離およびその後の段階は、疎水性液体媒体に懸濁したときに行われることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
液体媒体が、コンポジットまたは塗料材料の成分からなることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ナノサイズの粒子が、亀裂または裂け目で分離することなく、結合材料と結合することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノセルロースまたはその前駆体が、被覆材の中で生成され、かつ、前記被覆材等から放出されるか、又は、光、または、制御された加熱によって活性化した後に放出されることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、経済的で、エネルギー消費が少ないナノセルロースおよびその前駆体の製造および分離のための方法、ならびにそのままで、または純粋な状態に分離しないこれらの使用のための方法である。本発明は、化学技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
以下、ナノセルロースという用語は、粒径が1マイクロメートルより小さなセルロース、ナノセルロースの生合成で作られる前駆体化合物または構成要素(例えば、基本繊維)を意味するために用いられる。これらの粒子は、さまざまな粒径および形状を有する可能性がある。ナノセルロースは、産業のいくつかの部門での用途にとって有用ないくつかの技術上の特性を有することが示されてきた。従来のセルロースから逸脱する中心となる特性は、高い水結合性、低濃度で高い粘度、異なる材料の透過のための障壁層の生成、表面特性、高い比表面積、吸収特性および吸着特性、エアロゲルを生成する能力、微結晶セルロースの高い機械特性である。特に、紙、厚紙、包装、コンポジット、電子機器、医療、食品および化粧品の産業のための潜在的な用途が提示されてきた。
【0003】
ナノセルロースの製造のために提示された技術は、エネルギー集約的な機械粉砕、高圧ホモジナイゼーション、強酸またはアルカリの使用、低温凍結または他の凍結、低温粉砕、原子の官能基のグラフト接合、酵素処理またはこれらの組み合わせに基づく、その主要部分のための技術である。粉砕およびホモジナイゼーションを用い、微小繊維状セルロース(MFC)が得られる。そのフィブリルの直径は、種々の製剤において、5〜100ナノメートルであり、フィブリルの長さは、数十ナノメートル〜数マイクロメートルである。直径に対する長さの比率は、さまざまであるか、または、測定が困難なため計算することができない。酸性法を用いると、微結晶セルロース(MCC)が得られ、直径に対する長さの比率は、2〜10である。
【0004】
調製のための操作は、通常、水懸濁物中で行われる。希釈した懸濁物からの最終生成物の分離は、粒子の粒径が小さく、水と比較した密度の差が小さく、水と結合する特性および粘度特性のため、困難である。調製および分離の際の費用に起因して、最終製品の費用は、意図する経済的な用途に障害となるレベルに達している。製造および用途に集中した開発が近年盛んであり、いくつかのパイロットスケール単位および商業化前のスケール単位へと進んでいる。公開されているデータによれば、これらのうち最大のものは、2011年から始まって、1日あたりの生産量が1トンである。
【0005】
微小繊維状セルロースの製造は、天然に成長したCladophora algaeから分離することによっても行うことができる(Ekら、Cellulose powder from Cladophora sp.algae.Journal of Molecular.Recognition 11、263−265、1998;Mihranyanら、Rheological properties of cellulose hydrogels prepared from Cladophora cellulose powder.Food Hydrocolloids 21、267、2007)。遺伝子操作された青緑色の藻類からナノセルロースを製造しようとする試みは、まだ実験段階である(https://cns.utexas.edu/news.10 April 2013)。
【0006】
バクテリアナノセルロース(BC)は、種々のGluconacetobacter種(以前の名称はAcetobacter)または関連する種によって製造することができる。セルロース材料は、好気培養で製造され(WO 2005/003366 A1号、Polytechnika Lodzka、2005年1月13日)、いくつかの手法によってさらに調製し、改質することができる(Fuら、Present status and applications of bacterial cellulose−based materials for skin tissue repair.Materials Science and Engineering C 33、2995−3000、2013)。その主な用途は、今までのところ、医療機器、特に、手術用インプラントや、傷および火傷の治癒のための医療機器である。BCは、生体適合性であり、組織の成長の足場として作用し、組織への融合を示す能力を有する。このような傷治癒製剤のための製造費用は、2007年に概算すると、0.02米ドル/cm
2であった(Czajaら、The Future Prospects of Microbial Cellulose in Biomedical Applications.Biomacromolecules 8(1)1−12,)。例えば、PetersenおよびGatenholm(Bacterial cellulose−based materials and medical devices:current state and perspectives.Applied Microbiology and Biotechnology.91、1277−1286,2011)によってまとめられているように、臨床結果は成功しているにもかかわらず、この材料の使用は、非常に限定されている。その理由は、明らかに一部には、培養、分離および取り扱いの費用が高いからであり、一部には、製造技術の信頼性および制御可能性の証拠が不十分だからである。
【0007】
いくつかの研究論文で研究されたBCの別の用途は、コンポジットのための用途である。そのミクロフィブリルの機械特性は、木材由来のナノセルロースの機械特性よりも高いことがわかっている(総説:Leeら、On the use of nanocellulose as reinforcement in polymer matrix composites.Composites Science and Technology 105、15−27、2014)が、製造費用は、この目的のための産業用途を予想するには、依然として高い。
【0008】
結晶性ナノセルロースの引張強度は、金属アルミニウムと同様であることがわかっており、その剛性は、ガラス繊維よりも高い。高い機械特性は、精製された木材由来のミクロフィブリルまたはバクテリアミクロフィブリルについても得られている。コンポジット中の強化繊維としての使用への可能性について、注目および期待が寄せられている。現時点で利用可能な実験的な製造から得られる品質を用いて作られた数百の研究論文が公開されており、Leeら(locus citatus)によってまとめられている。これらの多数派において、コンポジット中のナノセルロース含有量は、20重量%未満である。含有量を30%まで上げたところから出発すると、かなりの強化が達成されるが、含有量が95%であっても、精製された製剤のレベルまたは理論的に計算されたレベルには達しない。判明した理由または推測される理由は、ナノ粒子の直径に対する長さの比率が小さく、これらの凝集が、効果的な直径に対する長さの比率を小さくし、弱い分散または不均一な分散、不完全な濡れ性、結合材料に対する弱い接着、得られたコンポジットの空隙率、残留水による複数の妨害となる影響である。コンポジットの強度特性を向上させるための予備条件は、通常、直径に対する長さの比率が、50より大きいか、または100より大きいと考えられる。
【0009】
紙と繊維の混合物にミクロフィブリルを加えることによって、機械特性の向上および紙の空気透過性の低下が達成された(WO 2013/072550 A2号、UPM−Kymmene Corporation、2013年5月23日)。使用される製剤は、繊維状セルロースと呼ばれ、「単離されたセルロースミクロフィブリルの集合体またはセルロース材料から誘導されるミクロフィブリルの束」からなる。このプロセスの湿式段階中に、繊維混合物にこれを加える。
【0010】
元々は無機材料または炭素から作られるエアロゲルの製剤は、近年、セルロース材料からも製造することができる。方法は、水懸濁物中でゲルを生成し、その後、溶媒を交換し、低温乾燥または凍結乾燥する(Fischerら、Cellulose−based aerogels.Polymer 47、7636−7645、2006;Paeaekkoeら、Long and entangled native cellulose I nanofibers allow flexible aerogels and hierarchically porous templates for functionalities.Soft Matter 4、2492−2499、2008;HeathおよびTielemans、Cellulose nanowhisker aerogels.Green Chem.12、1448−1453、2010)。エアロゲルの構造の強化は、レゾルシノールホルムアルデヒド樹脂と結合することによって可能であることがわかっており(Tamonら、Control of mesoporous structure of organic and carbon aerogels.Carbon 36、1257−1262、1998)、またはポリウレタンと結合することによって可能であることがわかっている(Fischerら、locus.citatus)。用途は、体積あたりの重量が小さいこと、高い空隙率、重量または体積に対して高い表面積、および/または構造の安定性に基づく。提示されている重要な用途は、電気産業および電子産業、触媒反応器、熱および音の単離および医療産業である。
【0011】
フォトニクス分野での研究から、光の照射によって小さな粒径の粒子を動かし、移すことができることが知られている。その部位から材料を放出するのに必要なエネルギー量に関し、粗い概算のみが存在し、その現象は、予備的または産業的に故意には使用されてこなかった。
【発明の概要】
【0012】
(方法)
現在行われている研究において、驚くべきことに、農作物のいくつかのリグノセルロース部分が、すでにそれ自体が微小繊維状セルロースまたは微結晶セルロース、またはこれらの前駆体として作用する傾向がある材料を含有し、その分離または濃縮は、現時点で利用可能な方法よりももっと経済的に行うことができることが発見された。この研究で使用される材料は、主に、穀物のわら、トウモロコシ茎葉の種々の植物部分およびティッシュペーパーであるが、使用される方法は、他の木材以外の植物由来のバイオマスおよび他のセルロース製造産業の製品または支流物品にも適用することができ、限定された範囲で、他のセルロースにも適用することができる。この方法は、光エネルギーによって、制御された加熱によって、または溶媒処理によって、エアロゾルとして乾燥状態で、懸濁物として液体媒体中で、これらの材料からのナノサイズの粒子の放出に基づく。分離した後、粒子が合わさって鎖になり、鎖が互いに指向性となり、合わさってミクロフィブリルおよび二次フィブリルを生成する。必要な場合、前処理は、細胞構造を崩壊させるため、阻害する材料層の除去のため、または利用し得る材料の一部を濃縮するための物理的な操作、溶解操作および酵素操作であってもよい。
【0013】
顕微鏡を用いた研究において、驚くべきことに、薄い直径のセルロースフィブリルに強い光を集中的にあてることによって、粒子の崩壊が始まり、その粒径が、光学顕微鏡の解像限界上にあることが観察された。この粒子は、その部位で移動しており、植物組織から分離することもできる。その後、粒子はこの材料から分離し始める。開始時には、この分離は、表面の隆起、泡またはエアロゾルとして観察することができる。粒子は、最初、放出光線の方向に移動し、その後、局所的な空気流およびそのための妨害物によって、または吸着または吸収が起こる物理的な力によって向きが変わる。
【0014】
この現象は、拡散日光によってすでに生じ、弱いながら観察することができ、光の強度に依存する。この現象は、赤外光、可視光および紫外光の照射によって影響を受け、熱エネルギーによっても影響を受けることがわかっている。このエネルギーは、他の電磁気エネルギー源(例えば、マイクロ波、ラジオ波またはオーム熱)から作り出すこともできる。熱によるセルロースの既知の崩壊に起因して、処理温度は、最大で180℃であってもよい。
【0015】
照射が続き、局所的な温度が上がると、残留水分が蒸発し、液滴または蒸気の形態で除去される。照射または加熱された材料の小さな断片を同時に分離することができ、この粒子の流れに沿って流れ、重力によって分離される。光学顕微鏡によって観察することができない粒子の放出は、この段階の後も続き、巨視的な粒子の振動、光が集中的にあてられる表面の減少として、近位でのエアロゾルの蓄積として、粒子が蓄積する領域での新しいミクロフィブリルの生成として観察される。光学顕微鏡によって観察することができる最も小さな種類の粒子は、疎水性の尾部を有し、直径が30〜100nmであり、他端が楕円形であり親水性である棍棒状の形状を有する。これらの粒子は、以下、目に見える前駆体と呼ばれる。さらに、直径が0.5〜3μmの球状の粒子または液滴が分離される。
【0016】
顕微鏡を用いた研究において、これらの液滴は、上述の目に見える前駆体によって作られる多層壁を有することがわかっている。その最内層において、目に見える前駆体は、その親水性末端が内側に指向し、その次の末端が外側または内側に交互に指向する。この構造によって、水の蒸発が抑制されるか、または遅れ、この構造を破壊するための蒸気圧を生成するのに十分なエネルギーが利用可能でない限り、上述の目に見える前駆体を同時に放出する。前駆体は、水の除去に基づき、エタノール、メタノールまたはアセトンのような水溶性有機溶媒を用いた処理によって(多くは、加熱による処理よりも迅速である)、球状の粒子または水滴から、または元々のリグノセルロース植物材料から分離することもできる。
【0017】
何らかの可能な機構に束縛されないが、上の章に与えられる観察結果は、この方法の鍵となる機構が、植物組織またはナノセルロースまたはその前駆体を含有する蓄積からの結合水の除去であることを示す。リグノセルロース材料からの残留水(約2%)の除去は、従来の乾燥方法を用いると非常に困難であることが一般的に知られている。ナノセルロースは、一般的に、高い水保持能を有することが知られている。長期間にわたる加熱、赤外線照射、マイクロ波照射および水溶性有機溶媒は、それぞれ良好な水除去能を有し、ナノサイズの粒子の分離を誘発することがわかっている。紫外線照射の効果が弱いことは、明らかに一部には既知の透過率が低いことに起因するか、または小さな粒子の移動を誘発する光子の影響によって引き起こされることに起因する。
【0018】
ミクロフィブリルおよび二次的に作られるフィブリルは、外的なエネルギーを入力している間、合わさって成長し続け、その後にも、供給されたエネルギーの量、温度、ナノサイズの粒子の局所的な濃度および媒体の粘度に依存して持続する。終了した後、照射、熱または溶媒処理を再び開始することによって、再び開始させることができる。
【0019】
二次フィブリルは、直径が200〜600nmであってもよい。鎖の長さは、多くは50μmより大きく、観察される最大寸法は5mmである。従って、直径に対する長さの比率は、少なくとも80である。
【0020】
乾燥状態で作られるエアロゾルは、部分的に孔に吸収され、部分的に外に向かう繊維材料である。これに対応して、処理される材料を液体媒体に懸濁したら、加熱または光照射によって放出される粒子は、媒体の粘度に依存するものの、同様に移動し、挙動する。水溶性有機溶媒で処理する際、ナノサイズの粒子と、その後にミクロフィブリルおよび二次フィブリルが、分離される主要部分であるか、または即座に作られる。
【0021】
この目的に有利であることがわかった成分は、繊維から分離されるセルロースフィブリルであり、損傷を受けた繊維の状態であり、および/または保護材料の層を除去するために化学手段または酵素手段によって処理されている。別個のフィブリルの豊富な供給源、または光、熱または溶媒の影響を受けて強く反応するフィブリルの豊富な供給源は、特に、わらのセルロース、トウモロコシの穂軸および再循環された紙、またはこれを含有するティッシュペーパーである。さらに、強くフィブリル化したセルロース中に現れる透明シートは、ナノフィブリルの網目構造である。これらは、本方法の処理中に超微小粒子に崩壊し、上述の前駆体を生成する。材料を選択する際に、混合物の他の構成要素について可能な熱または光によって影響を受ける反応を含め、用途に応じて、衛生上および他の純度の要求事項を考慮しなければならない。
【0022】
析出した薄層は、非定形であってもよく、数ヶ月間にわたってこの状態を維持し得る。ミクロフィブリル構造、クラスター、二次フィブリルまたは網目構造への変換は、水分および/またはさらなるエネルギーまたは溶媒処理によって向上する。供給原料(例えば、トウモロコシの穂軸、再循環された繊維またはこれを含有するティッシュペーパー)の中に存在するナノセルロースおよびその前駆体の粒子およびクラスターは、分離されて前駆体となり、次いで、光、熱エネルギーまたは溶媒処理によって蓄積し、ミクロフィブリル、これらのクラスターまたは薄い透明な箔となってもよい。
【0023】
エアロゾル中の粒子と同じ大きさの粒子を含む懸濁物は、有機溶媒またはプラスチック、ゴムまたは塗料の成分のような液体媒体中で製造することができる。他の成分との混合は、例えば、前処理されたセルロース材料をそのまま含浸してもよく、またはこのような媒体と共に他の材料の繊維またはフィブリルと合わせ、この混合物に1段階またはいくつかの段階で熱処理または光処理を行ってもよい。ナノスケールの粒子をこの混合物中で分離し、硬化または媒体の他の結合によって防がれるまでは、二次フィブリル、これらのクラスターまたは網目構造を生成する。生成したが、ミクロフィブリルに結合しなかったエアロゾルは、この材料の孔または亀裂に対する局所的な圧力差に起因して流れ、フィブリルまたはこれらの網目構造に徐々に変化し、それによって、作られた結合が構造を強化する。これらの効果は、従来の処理より低い温度であっても、新しい熱処理または光処理によって進めることができる。
【0024】
エアロゲル状の薄いエアロゾル層の調製は、セルロース系の出発物質を熱、光、他の電磁気エネルギーによって処理し、得られたエアロゾルをそのまま、または水および出発物質の断片をそれ自体が既知の方法によって除去した後に選択した表面に向かって流すことによって最も簡単に行われる。固定は、例えば、沈殿、吸着または静電手段によるものであってもよい。層の安定性を高めるために、出発物質を使用し、この出発物質から精密に分割されたフィブリルを分離し、その構造を支持するためにエアロゾル流と混合することができることが有利である。上述の形態のエネルギーのいくつかを用いることによって、密なエアロゾル層を二次フィブリルまたはこれらのクラスターに変換することができる。
【0025】
これに代えて、エアロゾルは、多孔性セルロース材料中で作られ、水溶性有機溶媒を用いて抽出され、選択した表面にこの懸濁物を塗布し、その場で溶媒が蒸発する。これにより、均一で制御可能な厚みを有するナノサイズの材料が可能になる。これらの代替物は、両方とも、電気用途、電子用途または医療用途に使用される薄いナノセルロース層の製造に使用することができる。
【0026】
コンポジット、紙または厚紙を強化するために作られるナノ繊維の用途は、セルロースまたは他のマクロスケールの繊維と組み合わせたときに最も有利である。作られるミクロフィブリルおよび二次フィブリルは、セルロース繊維およびフィブリルを架橋し、その機械構造を強化し、透過性および表面特性も変えることがわかっている。この方法の利点は、ナノセルロースが、強化される材料の中で作られることによって、他のナノサイズの粒子との初期の凝集が避けられることである。
【0027】
コンポジットにおいて、結合材料は、疎水性であることが最も多い。前駆体が放出される場合、前駆体は、この媒体とすぐに接触し、疎水性の尾部は、その中で確実に一体化する。結果として、作られるミクロフィブリルおよび二次フィブリルも、この即時の接触を有する。フィブリルを結合媒体から分離する裂け目がないことが光学顕微鏡によって観察されている。別の利点は、機械特性を向上させるのに必要な寸法および直径に対する長さの比率になるまで、結合媒体中でこれらのフィブリルが成長することである。二次フィブリルの十分な成長を可能にするか、または高めるための予備条件は、硬化前の適用可能な粘度、温度および時間である。組成物へのナノセルロースを含有する成分の添加は、特に、弾性率および衝撃強度を高めることがわかっている。長さ寸法が小さいことに起因して、引張強度の増加はみとめられないが、強化される混合物中に長い繊維を含むことによって達成されると予想される。
【0028】
この方法によって調製されるナノセルロースおよびその前駆体は、医療用デバイスに使用するために、例えば、傷被覆材およびある種の手術用インプラントの調製に適用可能である。バクテリアナノセルロースと比較して、費用的に有利なことに加え、ナノサイズの粒子を傷に放出し、治癒しつつある組織の成長を助けるという利点を有する。この能力は、このナノセルロースを含有する傷被覆材を使用する前に、短時間のエネルギー処理(例えば、1分間)によって、マイクロ波、紫外線または赤外線処理によって活性化することによって高めることができる。1日の間に放出される粒子の量は、0.1mg/cm
2未満であることがわかっている。
【0029】
潜在的な用途は、導入部で述べた目的および産業のための用途である。ある種の典型的な用途の手順または原理は、実施例に与えられ、出発物質および特定の用途に依存して最適化され、さらに、特許請求の範囲に与えられる。
【実施例】
【0030】
実施例1。ナノセルロースおよび前駆体の濃縮。
【0031】
米国特許第8,956,522号(Cerefi Ltd、2006年4月18日)に従って調製されたオート麦セルロースから製造した紙8.8gを、脱塩水400ml中でパルプ化した。残存する可能性がある二価カチオンを錯体化するためにクエン酸100mgを加えることによって、pHを5.5まで下げた。ペクチナーゼ酵素(Biotouch PL 300、AB Enzymes、RajamaJd、フィンランド)0.5mlを加えた。この混合物を50℃で90分間インキュベートし、ブレードミキサーを用いて均質化した。その後、この混合物に2回の凍結解凍サイクルを行い、細胞構造を崩壊させた。家庭用界面活性剤混合物(Nopa A/S、デンマーク)1mlを加え、攪拌することによって混合物を泡立たせ、マイクロ波オーブン中、700Wで、6秒の後30秒間乾燥させた。濃縮された生成物中、目に見える前駆体のクラスターが、顕微鏡によって認識可能であった。この生成物をそのまま、または所与のいくつかの工程を省略し、シートまたは粉砕物として、本記載で与えられるエネルギー源または溶媒によって、ある用途の生成物中のナノセルロースまたはミクロフィブリルに対し、活性化される成分または中間体として使用することができる。
【0032】
実施例2。固体表面上のミクロフィブリル薄層。
【0033】
実施例1の濃縮されたナノ前駆体製剤のサンプルに、100Wの顕微鏡ランプを用いて照射し、7mm
2の領域に光を集中的にあてた。約30秒後、崩壊を引き起こすエアロゾルが、ナノスケールの粒子の放出を開始した。エアロゾルの流れを、照射された材料から2mmまたは3mm上に配置されたガラスプレートに向かわせた。照射されたセルロースサンプルから3mm上のガラスプレートの上に成長した薄膜は、均質で指向性のミクロフィブリルの網目構造を有し、出発物質の固体片を実質的に含まず、一方、このような固体片は、サンプルから2mm上のガラスプレートの上には時折みられた。このガラスプレートをポリエチレン薄片で覆うと、この可撓性材料の上に同様の網目構造が集まった。電気産業および電子産業のために、また、医療機器の製造のために、この原理を、もっと大きなバッチまたは連続的な製造にスケールアップすることができる。
【0034】
実施例3。紙の機械特性および表面特性に及ぼす影響
米国特許第8,956,502号に従って調製されたオート麦繊維セルロースから、35gm
2の紙シートを調製した。処理した時、この紙シートは、空気湿度38%と平衡状態にあった。試験シートに、紫外光(Omnilux R 80 75 W、omnilux−lamps.com)、赤外光(Sylvania Infra−red 100 W、havells−sylvania.com)またはマイクロ波(700W)を照射するか、または試験シートを100%エタノールに浸した。それぞれの処理を60秒間続けた。紫外光またはマイクロ波による処理で移動したエネルギーは、1.57kWh/紙のkg数に対応し、赤外光による処置では、2.09kWh/紙のkg数に対応していた。これらの条件下で、紫外光以外による処理から、同様のミクロフィブリルの網目構造が成長し、紙のセルロース繊維およびフィブリルを架橋した。エタノールの影響は、最も迅速であった。マイクロ波による処理の後、紙の弾性率を空気湿度50%で平衡状態にして測定した。処理から1時間後、開始時の値からの有意な変化は観察されなかった。処理から24時間の間に、弾性率は、初期値2.24GPaから15.34GPaまで上昇した。紫外光を用いると、光源に隣接する光沢のある表面上および表面より上側に濃いエアロゾルが成長し、ゆっくりと堆積した。紫外光による処理の後、10日間、弾性率の変化はみられなかった。この違いは、表面に対する影響が集中すること、紫外光の透過が低いことに起因する可能性が高く、他の処理では残留水分の除去が起こり、その結果、ナノスケールの粒子がもっと多く放出されるような熱の影響がないことによる。この処理によって、もっと密度が高いフィブリル網目構造が生じ、もっと平滑な表面が生じた。
【0035】
実施例4。コンポジットの機械特性に及ぼす影響。
【0036】
米国特許第8,956,502号に従って調製されたオート麦セルロースから、102gm
2の紙シートを調製し、Ashland Envirezポリエステルを用い、真空吸引装置で、濡れた状態で4層になるように積層した。このコンポジット中のセルロースの重量パーセントは、80℃、硬化時間12時間で65%であった。得られたコンポジットシートの厚みは1.1mmであった。このコンポジットの曲げ強度は102MPaであり、曲げ弾性率は5.1GPaであった。繊維を含まない重縮合した樹脂の対応する値は、それぞれ33.8MPa、3.0GPaであった。顕微鏡による評価から、硬化中にセルロース材料の一部がミクロフィブリルおよび二次フィブリルに変換されたことが示された。
【0037】
実施例5。火傷および傷の治癒のための製剤
米国特許第8,956,522号に記載されるようにオート麦の紙を調製し、実施例1に記載されるように泡を乾燥させ、130℃で90分間加熱することによって活性化させた。男性患者の腕の長さ70mm、広さ5mm、深さ0.5〜2mmの火傷の治癒について、この生成物を試験した。液の滲出が始まったら、この生成物を傷の上に置き、12時間後に除去した。負傷してから24日後、治癒した皮膚の表面サンプルの顕微鏡試験から、治癒した組織にミクロフィブリルが混合したことがわかり、このことは、生成物からのエアロゾルが組織と一体化し、治癒しつつある組織の成長を助けたことを示している。負傷から6ヶ月以内に、傷跡はできず、負傷部位の皮膚の表面パターンも、付近の皮膚と同様であった。