(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一の電線および前記他の電線の各々が、環状に並べられた複数の前記リッツ線、及び前記環状に並べられた複数のリッツ線の中心に設けられた非磁性の空間保持体、を含んで成ることにより、
前記一の電線に含まれる前記空間保持体と前記他の電線に含まれる当該空間保持体との間には、当該一の電線に含まれる前記リッツ線と当該他の電線に含まれる当該リッツ線が介在している請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高周波電流供給電線。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に従って、本発明の高周波電流供給電線を説明する。
【0025】
本発明の高周波電流供給電線1は、
図1に示すように、コルゲートチューブ13と、コルゲートチューブ13の内方に配置された複合電線10から構成される。
【0026】
コルゲートチューブ13は、複合電線10を包囲して保護するものであり、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ステンレス、又は鋼等の金属から成る管である。その管の長さ方向には波型の屈曲部13a(
図2)が形成されており、屈曲部13aは管の周囲を螺旋状に形成される。コルゲートチューブ13の防食のために、樹脂やコールタール等から成る防食層をコルゲートチューブ13の外周面に形成してもよい。ここで本発明のコルゲートチューブ13の寸法は、例えば、板厚が0.3mm、外径が25.3mmである。しかしながら、この寸法に限られず、複合電線10やスペーサ15の寸法、配線条件等により適宜変更できるものとする。
【0027】
複合電線10は、コルゲートチューブ13の内方に配置されており、撚り合わされた複数の電線20の外周を、テープ糸17、樹脂からなるシース材23の順に被覆して成るものである。
【0028】
電線20は、導体線束19と、この導体線束19の外周を被覆する樹脂からなるシース材21とで構成されたものである。導体線束19は、表面を絶縁膜12により個別に被覆された複数の導体線11を束ねて成る。導体線11は銅、又はアルミを主成分とする金属線であり、絶縁膜12は、例えばエナメル皮膜が挙げられる。導体線束19としては、例えばエナメル銅線を使用したリッツ線を用いることができる。電線20は、その先端部の絶縁膜12を除去して各導体線11を露出させることにより、接続相手端子と接続される。
【0029】
複合電線10とコルゲートチューブ13との間には所定の隙間14が形成されている。本願において隙間14とは、複合電線10の外周面とコルゲートチューブ13の内周面により囲まれて形成され、コルゲートチューブ13の筒軸方向に連続して形成されているものをいう。
図1の高周波電流供給電線においては、例えば0.7mmの隙間14が形成されている。隙間は0.7mmに限られず、複合電線10の外形寸法等に応じて適宜変更でき、限定されない。この複合電線10は例えば4本の電線20から構成され、電線20は例えば22本の導体線11から構成されている。複合電線10の外径は例えば20.1mm、電線20の外径は例えば4.3mmである。
【0030】
複合電線10の内部には、各電線20の位置ずれを防止するために、複数のテープ糸17が詰められている。テープ糸17は、テープ状に形成されたポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂である。このテープ糸17は、束ねられた複数の電線20の外周に沿って縦添えされ、電線20と共に撚り合わされることで、束ねられた電線20の外周を覆い、複合電線10の断面外形を円形に整える。
【0031】
複合電線10は上記のものに限られない。例えば、電線20を撚り合わせることなく、ポリエチレン製の押えテープ16で束ねて複合電線10を構成してもよい。また、複合電線10の寸法は、高周波電流供給電線1の接続相手の最大定格や、配線条件等により適宜変更できるものとする。また、電線20の本数は4本に限られず、適宜変更可能である。例えば、高周波電流供給電線1の接続相手がコイルである場合、偶数本の電線20を用いることができる。また、表皮効果の影響を抑制するために、導体線11の太さは、コイルに流す電流の周波数における表皮深さの1/2以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の高周波電流供給電線1はスペーサ15を備えてもよい。スペーサ15は、ポリエチレン等の樹脂製の紐状体である。スペーサ15は、複合電線10とコルゲートチューブ13との隙間14にあって、コルゲートチューブ13の管の長さ方向に略直線状に伸びている。スペーサ15は樹脂製に限られず、麻紐等を用いることもできる。
【0033】
本実施例の高周波電流供給電線1の製法を説明する。製造は次の(1)〜(6)の順に行う。
(1)絶縁膜12により個別に被覆された複数の導体線11、金属の帯状体13b、複数のテープ糸17、及びスペーサ15を準備する(
図2参照)。
(2)複数の導体線11を一方向に送りながら、不図示の撚合わせ機により一定方向に回転させて導体線束19を形成し、押出し成形により導体線束19をシース材21で被覆して電線20を形成する。
(3)複数の電線20に複数のテープ糸17を縦添えし、これらを一方向に送りながら、不図示の撚合わせ機により一定方向に回転させて撚り合わせて、押出し成形によりシース材16で被覆して複合電線10を形成する。
(4)
図2の左の方に示すように、複合電線10とスペーサ15を帯状体13bに縦添えし、これらを一方向に送りながら、成形ローラ31で複合電線10とスペーサ15を被覆するように帯状体13bを管状に曲成する。
(5)
図2の中央に示すように、
図2の管の合せ目を溶接機32により連続的に溶接し、溶接検査装置33により溶接部分を検査する。
(6)
図2の右の方に示すように、波付け器34により管に波付けしてコルゲートチューブ13とし高周波電流供給電線1を形成する。
本実施例の製造方法は上記の態様に限られない。例えば、上記(4)の工程において、成形ローラ31の代わりに自己潤滑性を有する樹脂製の板状体の型を用い、帯状体13bを管状に曲成してもよい。
【0034】
本発明の高周波電流供給電線1によれば、各電線20の導体線束19が、絶縁膜12によって個別に被覆された複数の導体線11から構成されているため、導体線の表面積を広く確保でき、表皮効果の影響が軽減される。
【0035】
また、複合電線10とコルゲートチューブ13との間に形成された隙間14は、高周波電流供給電線1を屈曲する際に、複合電線10が受ける押圧力を逃がして複合電線10の変形を緩和する。このため、複合電線10の変形による導体線の部分的な抵抗値の上昇を抑制し、発熱を防止することができる。また、製造時において、溶接機32により管の合せ目を溶接するときに生ずる熱が複合電線10に直接伝わらないようにする効果も有する。
【0036】
さらに、隙間14に収納されたスペーサ15は、コルゲートチューブ13内での複合電線10の振動を抑制する。このため、運搬時や敷設時における複合電線10の損傷を低減することができる。また、スペーサ15はコルゲートチューブ13内での複合電線10の移動を制限する。このため、高周波電流供給電線1と接続相手との接続部における断線を防止することができる。
【0037】
また、本発明の高周波電流供給電線1の製造方法によれば、導体線11、スペーサ15、テープ糸17、及び帯状体13bの長さに制限がない。このため、長尺の高周波電流供給電線1を連続的に製造することができる。また、複合電線10とコルゲートチューブ13との間に隙間14が形成されるように曲成、及び波付け加工するため、複合電線10に損傷を与えることがない。
【0038】
本発明の高周波電流供給電線1は、例えば、コイルと電力装置とを接続する電線として使用される。電力装置は高周波(30khz〜100kHz)かつ大電流(30A〜50A)の電力を発生させ、出力するものである。複合電線10は、
図3(a)に示すように、縦横に整列して配置された4本の電線20a・20bが撚り合わされたものを使用する。電線20aと電線20bの本数は等しく、電線20aはコイルの一方の接続端子に接続され、電線20bは他方の接続端子に接続される。一の電線20aとこれと縦横に隣り合う他の電線20bの接続先端子が互いに異なるように、電線20a・20bが割り当てられる。この際、整列された電線20a・20bの位置を保持するためにも、複数のテープ糸17を複合電線10内に詰めることが好ましい。電線20a・20bを撚り合わせる際に、複数のテープ糸17を縦横に整列された電線20a・20bに縦添えして、テープ糸17が電線20a・20bの外周を覆うように撚り合わされるため、複合電線10内の略中心に電線20a・20bが配置される。電線20は4本に限られず、偶数本であればよい。例えば
図3(b)に示すように6本の電線20a・20bを縦横に整列して配置してもよい。また、各電線20a・20bを構成する導体線11の本数は等しい。
【0039】
この高周波電流供給電線1は、電線20aと電線20bの電流の向きが逆であり、かつ、一の電線20aとこれと縦横に隣り合う他の電線20bが同数であるため、コルゲートチューブ13の位置では、各電線20a・20bから生じる磁界が互いに打ち消され、渦電流によるコルゲートチューブ13の発熱を防止することができる。
【0040】
本発明の高周波電流供給電線1は、スペーサ15を、複合電線10の外周に沿って、螺旋状に巻き付けてもよい。この際、複合電線10の周りに隙間14を均等に形成するために、スペーサ15は、少なくともコルゲートチューブ13の波付け間隔よりも広い巻き付け間隔で巻き付けられる。これにより、高周波電流供給電線1をあらゆる方向に対して屈曲することができる。
【0041】
また、例えば、地中に複数本の高周波電流供給電線1を埋設する等、複数本の高周波電流供給電線1の設置を容易にするために、
図4に示すように、平行に並べられた2本の高周波電流供給電線1を樹脂等の外層材18で被覆して、一体化したものであってもよい。尚、図面は簡略化して記載している。
【0042】
本発明の高周波電流供給電線1に用いる電線20の他の態様として、例えば
図5(a)に示す電線250であってもよい。この電線250は複数の導体線束19が撚り合わされて構成されている。この各導体線束19は絶縁膜12で個別に被覆された複数の導体線11が撚り合わされたものである。
図5(a)において、導体線束19を7束使用しているが、これに限られず、導体線束19の束数は適宜定められる。また、複数の導体線束19を撚り合わせず、単に束ねて電線250を構成しても良い。また、
図5(a)において、導体線束19は、樹脂製の薄手のシース材254で被覆されているが、これに限られず、シース材254で被覆されない態様であってもよい。
【0043】
また、この電線250の中心に配置された導体線束19に起因する近接効果を解消するため、
図5(b)に示す電線251を用いても良い。この電線251は、複数の導体線束19が環状に並べられたものである。これにより電線251の中心に、その線方向に連続して中空部253が形成される。よって、電線251の中心部に近接効果が発生せず、高周波帯域における交流抵抗の増加を抑制できる。このため、本発明の高周波電流供給電線を使用する装置における損失を低減することができる。
【0044】
さらに、複数の導体線束19を束ね易くするために、
図5(c)に示す電線252を用いても良い。この電線252は、複数の導体線束19を環状に並べて形成された中空部253(
図5(b))を埋める非磁性の空間保持体255を設けたものである。空間保持体255は紐状、線状又は柱状等であり、例えば、ポリエチレン等のプラスチック紐を用いることができる。
【0045】
図5に示された各高周波電流供給電線をコンパクトに形成するために、電線250,251,252を構成する各導体線束19が引抜加工され、導体線束19を構成する各導体線11どうしが一本化したものであっても良い。ここで各導体線11どうしが一本化したものとは、導体線11どうしの間に形成された隙間を埋めるように、各導体線11が変形され、導体線束19の断面形状が円状又は多角形状に形成されたものである。また、電線252が引抜加工され、各導体線束19どうし及び空間保持体255が一体化したものであってもよい。ここで、各導体線束19どうし及び空間保持体255が一本化したものとは、導体線束19どうし及びこれらと空間保持体255の間に形成された隙間を埋めるように各導体線束19及び空間保持体255が変形され、電線252の断面形状が円状又は多角形状に形成されたものである。
【0046】
図6に、電線の高周波数における抵抗特性を示す。
図6の横軸は周波数(Hz)を示し、縦軸はAC/DC抵抗比を示す。AC/DC抵抗比は、直流時の抵抗値に対する交流時の抵抗値の比率を示したものである。
図6中に二点鎖線で示すグラフAは、断面の直径が0.18mmのエナメル銅線を140本一括して撚り合わせて形成した導体線束19(リッツ線)から成る電線20(以下、電線Aという)の計測値を示す。
図6中に破線で示すグラフBは、断面の直径が0.18mmのエナメル銅線を20本撚り合わせて1つの導体線束19(リッツ線)を形成し、これを7束準備して、中心に配置した一の導体線束19の周りに他の導体線束19を配置して形成した電線250(以下、電線Bという)の計測値を示す。
図6中に実線で示すグラフCは、断面の直径が0.19mmのエナメル銅線を24本撚り合わせて1つの導体線束19(リッツ線)を形成し、これを6本準備して、中心に配置したポリエチレン製のスペーサ255の周りに導体線束19を6束配置して形成した電線252(以下、電線Cという)の計測値を示す。
【0047】
図6から分かるように、各電線は10kHzまでは略100%の抵抗比を有し、10kHzを超えると、抵抗比が上昇し始める。
周波数が50kHzの場合、電線Aの抵抗比は145%、電線Bの抵抗比は136%まで上昇している。一方、電線Cの抵抗比は108%である。
周波数が100kHzの場合、電線Aの抵抗比は189%、電線Bの抵抗比は171%まで上昇している。一方、電線Cの抵抗比は119%である。
周波数が200kHzの場合、電線Aの抵抗比は255%、電線Bの抵抗比は222%まで上昇している。一方、電線Cの抵抗比は157%である。
周波数が500kHzの場合、電線Aの抵抗比は414%、電線Bの抵抗比は400%まで上昇している。一方、電線Cの抵抗比は333%である。
【0048】
上記結果によれば、電線Cは高周波帯域における抵抗値の増加が最も低い。すなわち、複数の導体線束19の中心(電線の中心)に非磁性のスペーサ255を設けると、電線の中心部に生じる近接効果を抑制でき、電線の交流抵抗値の増加を最も低減できる。このことは、電線の中心部に生じる近接効果を抑制できる電線251も同様の効果を有すると考えられる。
次に、電線Bは電線Aよりも高周波帯域における抵抗値の増加が低い。すなわち、複数の導体線を一括して束ねて電線を形成するよりも、所定の本数毎に導体線を束ねて電線を形成した方が交流抵抗値の増加を低減できる。
【0049】
次に、本発明のコルゲートチューブ13の電磁遮蔽能力を調べるために、コイル状の電流プローブ(TEGAM93686-1)とスペクトラムアナライザー(hp 8563E)を用いて、高周波電流供給電線1の周りに発生する電界強度を測定した。測定結果を次の表1に示す。なお、発信機の出力電圧は、0.1V(0.2828Vpp)である。
【0051】
上記結果によれば、アルミニウム製コルゲートチューブ13を有する高周波電流供給電線1から生じる電界強度は、コルゲートチューブ13のない高周波電流供給電線1から生じる電界強度(複合電線から生ずる電界強度)に比べて小さいものであった。このため、非磁性体から成るコルゲートチューブ13であっても、電磁遮蔽能力を有するといえる。また、鉄製コルゲートチューブ13を有する高周波電流供給電線1の電界強度が最も小さかった。このことから鉄等の磁性体から成るコルゲートチューブ13の電磁遮蔽能力が最も高いといえる。よって、本発明の高周波電流供給電線1には、磁性体から成るコルゲートチューブ13を用いるのが好ましい。
【実施例1】
【0052】
本発明の高周波電流供給電線の電線は
図7に示すように、アルミ金属線102の表面に内側から順に下地メッキ層104、銅メッキ層106、表層メッキ層108が設けられてなるアルミ線110を導体とし、このアルミ線110の表面が絶縁膜により被覆されたアルミ電線であってもよい。
【0053】
用語「アルミ金属線」はアルミまたはアルミを主成分とする金属からなる金属線をいい、用語「アルミ線」はこのアルミ金属線を主たる構成要素とする線をいうものとする。
【0054】
図8に示すように、絶縁膜で被覆されたアルミ線110からなる複数本の加撚集束された導体線束112を、線束の外周を樹脂などからなるシース材で被覆してシース114を設けたものが本実施例のアルミ電線120の代表的な態様である。
【0055】
アルミ電線120は、その端末部122においてシース114及び絶縁膜を除去してアルミ線110を露出させた端末部122の外周を、相手側端子と電気的に接続される接続部124を有するかしめ部材126のかしめ部128で覆ってかしめ固定されてなる接続端子構造130を形成することにより、相手側端子と接続して好適に用いられる。
【0056】
一般に電線の腐食はこのシースでガードされるが、前述のように、接続端子部においては電線の端部(導体)が露出するので、この露出端部が腐食しやすい。とくに従来のアルミ製電線においては、接続端子部の端面から腐食が進行する。あるいは、かしめ部材との接触部における電気化学的反応に起因して腐食が発生する。
【0057】
さらには、アルミ線の露出端部を仮に被覆材で被覆したとしても、アルミ線がメッキ層を備える場合は、下地メッキ層とその表層のメッキ層との間のイオン化傾向の違いによる電気化学的反応により腐食が発生することがある。
【0058】
本実施例においては、
図7の表層メッキ層108は、SnまたはSn系合金からなるメッキ層である。Sn系合金はSnを主成分とする合金である。Sn系合金としては例えばSn−Ag−Cu合金、Sn−Cu合金、Sn−In合金が挙げられる。Sn−Ag−Cu合金としては例えばSn−3Ag−0.5Cuが、Sn−Cu合金としては例えば99.3Sn−0.7Cuが、Sn−In合金としては例えば99Sn−1Inが挙げられる。
【0059】
下地メッキ層104(
図7)は、イオン化傾向の順位がアルミと銅との中間にある金属からなるメッキ層であり、例えば、このような金属としてはニッケル、亜鉛、鉄、錫が例示される。
【0060】
本願発明者らにより、本実施例のアルミ電線は後述のようにこのような腐食が生じにくいことが見出された。
【0061】
本実施例のアルミ電線に用いるアルミ金属線102(
図7)の線径は特に限定されず、例えば、0.3〜1mmのものが好適に用いられる。
【0062】
下地メッキ層104(
図7)は電気メッキにより形成される。アルミ金属線102の径がd(mm)のとき、下地メッキ層104の厚みは0.2μm〜4.0d(μm)であることが好ましい。この厚みがこの範囲を下回ると、接続端子部における耐腐食性が低下する。厚みがこの範囲を上回ると、アルミ線の可撓性が損なわれる。例えば、アルミ金属線102の径が0.4mmの場合、下地メッキ層104の厚みは0.2〜1.6μmであることが好ましい。
【0063】
銅メッキ層106は電気メッキにより形成され、厚みは4〜7μmであることが好ましい。
【0064】
表層メッキ層108は熔融メッキ法により形成され、厚みは0.5〜1.5μmであることが好ましい。
【0065】
本実施例のアルミ電線の効果を以下の実験例で示す。
【0066】
実験例
表2に示す6種類のアルミ線につき、11Pの電線を作成し、端部の絶縁膜を除去し、その周面を銅板で筒状に巻きまわしてかしめて固定したものを腐食テスト用試料とした。
【0067】
アルミ線の原料素材としては、1.4mm径のアルミ金属線を用い、下地メッキ層104としてニッケルを電気メッキし、その上に銅を電気メッキしたのち、常法によりアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線し、次いで試料番号L−4〜6の試料につき表層メッキ層108としてSn−3Ag−0.5Cuを常法により熔融メッキした。
【0068】
この試料を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち縦割して腐食状態を観察した。腐食は端面から進行しており、腐食した部分は空洞になっている。当初の端面から残留のアルミ電線の端面までの距離、すなわち浸食の深さを測定した。
表2に試料の内容と浸食の深さを示す。
【0069】
【表2】
【0070】
図9に、表2の結果に基づく、浸食の深さとニッケルメッキ層の厚みとの関係を示す。
【0071】
表2、
図9より、ニッケルメッキ層の厚みが0.2μm以上であれば良好な耐腐食性能が得られることがわかる。また、最外層としてSn−3Ag−0.5Cuメッキ層が形成されていないものは、ニッケルメッキ層の厚みが0.2μm以上であっても耐腐食性能が劣ることがわかる。
【0072】
本実施例のアルミ電線を用いた接続端子構造130は、さらに、
図10に示すように、導体線束112の端末部122の端面132が金属または樹脂からなる被覆材134により被覆された構造であることが腐食を防ぐうえで好ましい。
【0073】
被覆材134は、端面132のみならず端面132近傍の絶縁膜が除去された導体線束112の周面を被覆するように設けられてもよい。被覆材134が
図11に示すように端面132と端面132近傍の絶縁膜が除去された導体線束112の周面137および、かしめ部128の端面132近傍の部分の表面135を被覆するように設けられてもよい。
【0074】
あるいは、
図10、
図11の場合に比べて製造工程に時間を要するが、
図12に示すように、被覆材134は、端面132、電線の端部に露出して絶縁膜が除去された導体線束112の周面全体、および、かしめ部128全体を被覆するように設けられてもよい。
【0075】
被覆材134を樹脂で形成する場合、例えば、2液混合型のエポキシ樹脂を端面132等に塗布して硬化させるなどの方法が用いられる。あるいは、紫外線硬化型の樹脂(アクリル系など)を端面132等に塗布して紫外線照射で硬化させるなどの方法が用いられる。
【0076】
被覆材134が金属からなる場合、この金属からなる被覆材134ははんだ材を用いて端面132等を覆うように半田付けすることにより容易に形成することができる。このはんだ材が、表層メッキ層に対する濡れ性が良好なはんだ材、例えば表層メッキ層がSn−Ag−Cu系合金のメッキ層であるとすると、このSn−Ag−Cu系合金のメッキ層に用いられているはんだ材と同様なはんだ材を用いる場合は、半田付け工程において熔融したはんだ材が、互いに隣接のアルミ線110の間の隙間に容易に入り込んで隙間を充填するので、被覆材134が端面132に確実に固着される。また、この充填により耐腐食性が向上する。
【0077】
はんだ材を用いて端面132を覆うように半田付けする態様の一例としては、
アルミ電線を構成するアルミ線110の導体線束112の端末部122を電気的に接続される接続部124を備えるかしめ部材126により端末部122の外周を覆ってかしめ固定する工程(
図8参照)、
絶縁膜が除去された導体線束112の端末部122の端面132に糸半田140の先端部142を近接させる工程(
図13参照)、
カソード電極装置144を用いて、カソード電極からアルゴン等の不活性ガスのプラズマフレーム133を発生させ、糸半田140の先端部142をアノード電極として先端部142を加熱蒸発させその金属蒸気を端面132に接触させて冷却することにより、端面132が糸半田140のはんだ材で被覆されるように半田付けする、プラズマアーク法による半田付けの工程(
図13参照)
を含むアルミ電線の接続端子構造形成方法が挙げられる。
【0078】
はんだ材を用いて端面132を覆うように半田付けする態様の他の一例としては、
アルミ電線を構成するアルミ線110の導体線束112の端末部122を電気的に接続される接続部124を備えるかしめ部材126により端末部122の外周を覆ってかしめ固定する工程(
図8参照)、
導体線束112の端末部122の端面132に糸半田140の先端部142を近接させる工程、
糸半田140と導体線束112との間に電圧を印加してアーク放電させるとともに糸半田140の先端部142にYAGレーザー等のレーザー光を照射して先端部142を加熱蒸発させその金属蒸気を端面132に接触させて冷却することにより、端面132が糸半田140のはんだ材で被覆されるように半田付けするレーザーアーク法による半田付けの工程
を含むアルミ電線の接続端子構造形成方法が挙げられる。
【0079】
この方法は、短時間で効率的に被覆材134を端面132に確実に固着させることができ、被覆材134の被覆操作の自動化を可能にする。
【0080】
実験例1
【0081】
アルミ線の原料素材として1.4mm径のアルミ金属線を用い、ニッケル、銅をこの順で常法により電気メッキしたのちアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線した。伸線後のニッケルメッキ層の厚みは0.3μm、銅メッキ層の厚みは5.7μmであった。次いでSn−3Ag−0.5Cuを常法により厚み0.2μmで熔融メッキしアルミ線を得た。このアルミ線から11Pの電線を作成し、端部の周面を銅性のかしめ部材でかしめて固定して接続端子構造を形成した。
【0082】
この接続端子構造の部分を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち縦割して腐食状態を観察した。腐食は端面から進行しており、腐食した部分は空洞になっている。当初の端面から残留のアルミ電線の端面までの距離、すなわち浸食の深さを測定したところ、0.5mmであり、良好な耐腐食性の接続端子構造を得た。
【0083】
比較例1
【0084】
実験例1で用いたと同様のアルミ金属線を用い、ニッケル、銅をこの順で常法により電気メッキしたのちアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線しアルミ線を得た。伸線後のニッケルメッキ層の厚みは0.3μm、銅メッキ層の厚みは5.7μmであった。このアルミ線から11Pの電線を作成し、端部の周面を銅性のかしめ部材でかしめて固定して接続端子構造を形成した。
【0085】
この接続端子構造の部分を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち実験例1と同様にして浸食の深さを測定したところ、3.5mmであり耐腐食性は不良であった。
【0086】
実験例2
【0087】
アルミ線の原料素材として1.4mm径のアルミ金属線を用い、亜鉛、銅をこの順で常法により電気メッキしたのちアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線した。伸線後の亜鉛メッキ層の厚みは0.3μm、銅メッキ層の厚みは5.7μmであった。次いでSn−3Ag−0.5Cuを常法により厚み0.2μmで熔融メッキしアルミ線を得た。このアルミ線から11Pの電線を作成し、端部の周面を銅性のかしめ部材でかしめて固定して接続端子構造を形成した。
【0088】
この接続端子構造の部分を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち実験例1と同様にして浸食の深さを測定したところ、0.6mmであり、良好な耐腐食性の接続端子構造を得た。
【0089】
実験例3
【0090】
アルミ線の原料素材として1.4mm径のアルミ金属線を用い、鉄、銅をこの順で常法により電気メッキしたのちアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線した。伸線後の鉄メッキ層の厚みは0.3μm、銅メッキ層の厚みは5.7μmであった。次いでSn−3Ag−0.5Cuを常法により厚み0.2μmで熔融メッキしアルミ線を得た。このアルミ線から11Pの電線を作成し、端部の周面を銅性のかしめ部材でかしめて固定して接続端子構造を形成した。
【0091】
この接続端子構造の部分を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち実験例1と同様にして浸食の深さを測定したところ、0.6mmであり、良好な耐腐食性の接続端子構造を得た。
【0092】
実験例4
【0093】
アルミ線の原料素材として1.4mm径のアルミ金属線を用い、錫、銅をこの順で常法により電気メッキしたのちアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線した。伸線後の錫メッキ層の厚みは0.3μm、銅メッキ層の厚みは5.7μmであった。次いでSn−3Ag−0.5Cuを常法により厚み0.2μmで熔融メッキしアルミ線を得た。このアルミ線から11Pの電線を作成し、端部の周面を銅性のかしめ部材でかしめて固定して接続端子構造を形成した。
【0094】
この接続端子構造の部分を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち実験例1と同様にして浸食の深さを測定したところ、0.6mmであり、良好な耐腐食性の接続端子構造を得た。
【0095】
実験例5
【0096】
アルミ線の原料素材として1.4mm径のアルミ金属線を用い、ニッケル、銅をこの順で常法により電気メッキしたのちアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線した。伸線後のニッケルメッキ層の厚みは0.3μm、銅メッキ層の厚みは5.7μmであった。次いで錫を常法により厚み0.2μmで熔融メッキしアルミ線を得た。このアルミ線から11Pの電線を作成し、端部の周面を銅性のかしめ部材でかしめて固定して接続端子構造を形成した。
【0097】
この接続端子構造の部分を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち実験例1と同様にして浸食の深さを測定したところ、0.6mmであり、良好な耐腐食性の接続端子構造を得た。
【0098】
実験例5
【0099】
アルミ線の原料素材として1.4mm径のアルミ金属線を用い、ニッケル、銅をこの順で常法により電気メッキしたのちアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線した。伸線後のニッケルメッキ層の厚みは0.3μm、銅メッキ層の厚みは5.7μmであった。次いで99.3Sn−0.7Cuを常法により厚み0.2μmで熔融メッキしアルミ線を得た。このアルミ線から11Pの電線を作成し、端部の周面を銅性のかしめ部材でかしめて固定して接続端子構造を形成した。
【0100】
この接続端子構造の部分を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち実験例1と同様にして浸食の深さを測定したところ、0.7mmであり、良好な耐腐食性の接続端子構造を得た。
【0101】
実験例6
【0102】
アルミ線の原料素材として1.4mm径のアルミ金属線を用い、ニッケル、銅をこの順で常法により電気メッキしたのちアルミ金属線の径が0.4mmになるように伸線した。伸線後のニッケルメッキ層の厚みは0.3μm、銅メッキ層の厚みは5.7μmであった。次いで99Sn−1Inを常法により厚み0.2μmで熔融メッキしアルミ線を得た。このアルミ線から11Pの電線を作成し、端部の周面を銅性のかしめ部材でかしめて固定して接続端子構造を形成した。
【0103】
この接続端子構造の部分を濃度5重量%の食塩水に常温で96時間浸漬したのち実験例1と同様にして浸食の深さを測定したところ、0.7mmであり、良好な耐腐食性の接続端子構造を得た。
【実施例2】
【0104】
本発明の高周波電流供給電線は、
図14に示すように、複数の電線200aを備えた高周波電流供給電線40であってもよい。電線200aは、複数の導体線11が中空導体管内201に収納され、導体線11どうしおよび中空導体管201が絶縁膜12を介して一体化したものである。
【0105】
中空導体管201は、
図15に示すように、導電性を有する銅管であり、導体線束19を収納するものである。
図15(c)における一体化前の中空導体管201の寸法は、例えば、内径が3.2mm、外径が4mm、肉厚が0.4mmである。
図15(d)における一体化後の中空導体管201の断面外形は、代表的には円形である。その寸法は、例えば、内径が1.7mm、外径が2.5mm、肉厚は0.4mmである。一体化後の中空導体管201の断面外形は、複合電線10の縮小化を図るため、矩形や六角形等であってもよい。「円」には、実用的に差し支えない範囲のゆがみをもった円も含まれる。「矩形」には、角が面取りされた矩形、角が丸みを帯びた矩形も含まれる。「正六角形」には、角が面取りされた正六角形、角が丸みを帯びた正六角形も含まれる。中空導体管201の肉厚は場所により異なっていてもよい。ここで、中空導体管201の肉厚は、最小の場所で使用周波数での表皮深さより小さいことが望ましい。その場合、電流は中空導体管201の断面全体を流れるため、表皮効果による電流密度低下が生じない。肉厚は0.4mmに限られず、導体線11の寸法および中空導体管201の材質等により、適宜設計可能である。また、
図15(f)に示すように中空導体管201の外周に絶縁膜202を被覆してもよい。
【0106】
導体線束19は、
図15(b)に示すように、表面を絶縁膜12で被覆された複数の導体線11から構成されている。導体線11は、代表的には、銅線である。一体化前の導体線11の直径は、例えば、0.5mmである。一体化後の導体線11の断面は矩形であり、絶縁膜12によって互いに区分けされている。ここで、導体線11の短径とは、導体線11の断面形状が多角形の場合、最小の辺長をいう。導体線11の短径は、使用周波数での表皮深さの2倍より小さいことが望ましい。その場合、電流は導体線11の断面全体を流れるため、表皮効果による電流密度低下が生じない。導体線11の断面形状、断面積、材質が全て同一である必要はない。
【0107】
中空導体管201及び導体線11の材質は、電気伝導度、加工性、コスト、耐久性などを考慮すると、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金のいずれか、あるいはそれらの組合せが望ましい。なお、「銅」には、微量の添加成分を有する銅も含まれる。「アルミニウム」には、微量の添加成分を有するアルミニウムも含まれる。導体線11の材質と中空導体管201の材質は異なっていてもよい。
【0108】
絶縁膜12は各導体線11を被覆するものであり、代表的には、ポリエステル、ポリアミドイミドなどからなる単層膜、あるいは多層膜である。膜厚は、例えば30μmであるが、絶縁が確保されれば、一定でなくてもよい。
【0109】
電線200aの製法は以下の通りである。製造は、次の(1)〜(4)の順に行う。
(1)
図15(a)に示すように、本実施例の電線の材料となる絶縁被膜された導体線11を準備する。
(2)
図15(b)に示すように、導体線11を9本撚って導体線束19を形成する。(導体線11を撚らずに平行に並べて導体線束19を形成してもよい)。
(3)
図15(c)に示すように、導体線束19を中空導体管201に挿入する。
(4)密着性を高めるため、引抜加工により、中空導体管201の内周を導体線束19の外周に密着させて絞り、導体線11、絶縁膜12、中空導体管201を一体化して、
図15(d)又は
図15(e)に示す電線200a・200bを形成する。この際、絶縁膜12に亀裂が生じないように注意する。
図15(d)は断面外形が円形に形成された電線200aである。
図15(e)は断面外形が矩形に形成された電線200bである。
(5)さらに、
図15(f)に示すように中空導体管201の外周に絶縁膜202を被覆してもよい。
【0110】
図16は、導体線束19を中空導体管201に連続的に挿入する製造方法の一例である。工程は
図16の右から左へ向かって進む。
図16の右の方は、複数の導体線11からなる導体線束19を、テープ状導体201a(例えば薄い銅板)に載せる工程を示す。
図16の中央は、テープ状導体201aを丸めて長手端面201bを接合し、中空導体管201を作製する工程を示す。この工程で中空導体管201内に導体線束19を収納する。図の左の方は、中空導体管201に挿入された導体線束19を示す。
【0111】
図17に、電線200bの表皮効果軽減状況を示す。
図17の横軸は電流の周波数、左縦軸は表皮深さ、右縦軸は相対的電流密度である。
図17の右縦軸の相対的電流密度は、直流の場合を100%として表示されている。
図17は、断面が3.2mm×1.7mmの長方形の銅製コイル線(単線)をモデルとした計算値と、断面外形が矩形の電線200bをモデルとした計算値である。電線200bの断面寸法は横3.2mm×縦1.7mmの長方形である。銅製コイル線(単線)の計算値はrelative current density(single wire)と称するグラフであり、電線200bの計算値はrelative current density(multi wires)と称するグラフである。
【0112】
図17から分かるように、銅製コイル線(単線)の場合、電流の周波数が約4kHzを越えると、相対的電流密度は低下していく。電流の周波数が約30kHzで、相対的電流密度は50%になり、電流の周波数が約200kHzで、相対的電流密度は20%になる。
【0113】
一方電線200bの場合、電流の周波数が約20kHzまで、相対的電流密度が低下しない。電流の周波数が約20kHzを越えると、相対的電流密度は低下していくが、約100MHzまで、銅製コイル線(単線)より常に相対的電流密度が高い。従って、約4kHzから約100MHzの間、電線200bを使用することにより、銅製コイル線(単線)に比べて表皮効果を軽減することができる。このため電線200bは、約4kHzから約100MHzの間で、従来の長方形のコイル線(単線)より高い電流密度で使用することができ、有利である。
【0114】
本実施例の高周波電流供給電線40は、一体化した電線の各導体線11が互いに絶縁膜12により仕切られており、断面が矩形である各導体線11の短径が表皮深さの2倍より小さい。よって、表皮深さの影響が軽減される。また、
図15(e)に示す電線200bは断面が矩形であるため、複数の電線200bから成る複合電線を隙間なく形成でき、高周波電流供給電線1の外形を縮小化できる。
【0115】
本実施例の製法によれば、中空導体管201および導体線11の長さに制限がないため、長尺の中空導体管201に挿入された導体線束19を連続的に作製することができる。
【0116】
本実施例のさらに他の態様としては、
図18に示すように、電線210aを備えた高周波電流供給電線50であってもよい。電線210aは、帯状の導体203がその幅方向に折り重ねられて、中空導体管201内に収納され、導体203aと中空導体管201が絶縁膜12を介して一体化したものである。この電線210aの断面外形は矩形であり、その寸法は、高さ2mm×幅3mmである。
【0117】
導体203は、
図19(a)に示すように帯状であり、
図19(b)に示すようにその幅方向に折り重ねられて、断面が略S字状の折り重ね導体203aが形成される。導体203の短径(厚み)は、0.6mmである。しかし、短径はこれに限られず、使用周波数での表皮深さの2倍より薄ければよい。導体203の材質は、代表的には銅である。しかし、材質は電気伝導度等を考慮して他の材質を適宜選択できる。また導体203は、絶縁膜12により被覆されている。導体203が絶縁膜12とともに折り重ねられることにより、折り重ね部211には絶縁膜12が介在する。折り重ね形状はS字状に限られず、W字状、コの字状等であってもよい。
【0118】
電線210aの製法を、
図19に従って説明する。製造は、次の(1)〜(4)の順に行う。
(1)
図19(a)に示すように、絶縁膜12に被覆された帯状の導体203を準備する。
(2)次に、帯状の導体203を絶縁膜12とともにその幅方向に折り重ねて、
図19(b)に示された断面が略S字状の折り重ね導体203aを形成する。
(3)
図19(c)に示すように、折り重ね導体203aを中空導体管201に挿入する。
(4)引抜加工により、中空導体管201を折り重ね導体203aの外形に密着するように絞り、中空導体管201、折り重ね導体203a、および絶縁膜12を一体化して、
図19(d)に示す電線210aを形成する。
図19(e)に示すように、中空導体管201の外周面をさらに絶縁膜202で被覆してもよい。
【0119】
図19(d)に示すように、一体化された中空導体管201の断面外形は矩形である。その断面寸法は、例えば高さ2mm×幅3mmである。折り重ねた導体203aは絶縁膜12を介して中空導体管201と一体化されている。折り重ねた導体203aの折り重ね部211には絶縁膜12が介在している。
【0120】
この電線の表皮効果及び近接効果の軽減状況を
図20に示す。横軸は電流の周波数、縦軸は相対的電流密度である。相対的電流密度は直流の場合を100%として表示される。グラフAは、断面寸法が高さ2mm×幅3mmの長方形である従来の銅性コイル線をモデルとした計算値である。グラフBは、帯状の導体203がその幅方向に略W字状に折り重ねられて、中空導体管201内に収納され、導体と中空導体管201が絶縁膜12を介して一体化した電線をモデルとした計算値である。
【0121】
従来の銅性コイル線の場合、周波数が4kHzより高くなると、相対的電流密度は低下し始める。周波数が6kHzでは相対的電流密度は90%、周波数が80kHzでは相対的電流密度は35%、周波数が1MHzでは相対的電流密度は10%まで減少する。
【0122】
本実施例の電線の場合、周波数が80kHzまでの相対的電流密度は90%であり、これより周波数が高くなると、相対的電流密度が低下し始める。周波数が1MHzでは相対的電流密度は30%になる。
【0123】
この結果から、本実施例の電線は、約6kHz以上の周波数において、従来の銅性コイルに比べて表皮効果および近接効果を軽減している。よって本実施例の電線は、高周波電流であっても、高い電流密度で流すことができ有利である。さらに、本実施例の電線は、周波数が80kHzまでは、一定の電流密度を維持することができる。よって、広い周波数帯域で使用可能である。
【0124】
高周波電流供給電線50の電線210aは、一の導体203aから成るため、近接効果が生じない。また、折り重ね部211には絶縁膜12が介在するので、導体203aの表面積を広く維持でき、表皮効果による影響を抑制できる。よって、導体203a内の電流密度の低下を抑制できるので、高い電流密度で電流を流すことができる。
【0125】
電線210aを使用する高周波電流供給電線50をコイルに接続した場合、導体203aの短径が、供給周波数における表皮深さの2倍より小さければ、表皮効果の影響を受けない。よって、電線210a内の電流密度を均一に維持することができる。
【0126】
本実施例のさらに他の態様としては、
図21に示すように、電線220aを備えた高周波電流供給電線60であってもよい。電線220aは、複数枚の帯状の導体203が積層されて、中空導体管201内に収納され、導体203と中空導体管201が絶縁膜12を介して一体化したものである。この電線220aの断面外形は矩形であり、その寸法は、高さ2mm×幅3mmである。
【0127】
導体203は帯状である。その厚みは0.6mmであるが、これに限定されず、使用周波数の表皮深さの2倍より薄ければよい。また導体203は、絶縁膜12により被覆されている。
図21(b)に示すように、複数枚の導体203が積層されて束ねられ、各導体203間には絶縁膜12が介在する。
【0128】
この電線220aは次のように形成される。先ず、絶縁膜12に被覆された帯状の導体203が複数枚準備される。次に、複数枚の導体203が積層される。次に、積層された導体203が中空導体管201に挿入される。次に、引抜加工により、積層された導体203と中空導体管201が絶縁膜12を介して一体化される。
【0129】
高周波電流供給電線60の電線220aは、絶縁膜12で被覆された導体203を複数枚積層して成るため、導体の総面積を広く確保できる。よって表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。
【0130】
本実施例のさらに他の態様としては、
図22(a)に示すように、電線230aを備えた高周波電流供給電線70であってもよい。電線230aは、
図22(c)に示すように、複数の導体線11を束ねて成る導体線束231が、中空導体管201内に収納され、導体線11と中空導体管201が絶縁膜12を介して一体化したものである。この電線230aの断面外形は矩形である。
【0131】
導体線束231は、
図22(b)に示すように、束ねられた複数の導体線11の外周を絶縁膜12により被覆されたものである。導体線11は、代表的には、銅線である。直径は0.5mmであるが、これに限定されず、電流の周波数における表皮深さの2倍より細ければよい。材質は電気伝導度等を考慮して他の材質を適宜選択できる。導体線11の芯数は特に限定されず、適宜選択可能である。
【0132】
この電線220aは次のように形成される。先ず、導体線11が複数本準備される。次に、これら複数の導体線11が撚って束ねられる。次に、束ねた導体線11が絶縁膜12で被覆されて導体線束231が形成される。次に、導体線束231が筒状の中空導体管201に挿入されて、引抜加工により、導体線束231と中空導体管201とが一体化される。これにより
図22(c)に示された一体化された矩形の電線230aが形成される。複数の導体線11は、撚ることなく、平行に並べて束ねられてもよい。
【0133】
一体化された電線230aの断面寸法は、例えば、高さが2mm、幅が3mmである。
図22(c)中の破線は、引抜加工により、多角形に変形された各導体線11の断面外形を示すものであり、その短径は、0.5mm以下である。また、一体化後の導体線束19bと中空導体管201との間には絶縁膜12が介在している。さらに、各導体線11の間に入り込んだ絶縁膜13が、電線230aの内部に向かって延出している。
【0134】
高周波電流供給電線70の電線230aは、束ねられた複数の導体線11が、互いに導通しており、電気的に一体の導体を形成する。よって、各導体線11間において近接効果が生じない。さらに、短径が供給周波数における表皮深さの2倍より小さい場合、表皮効果の影響を受けない。よって電線230a内の電流密度を均一に維持することができる。
【0135】
本実施例の電線の他の態様としては、
図23に示すように、電線内に電磁遮蔽層204が形成されたものであってもよい。電磁遮蔽層204は、隣接する電線間で生じる電気的な相互干渉を抑制するものである。その材料としては、例えば金属箔テープを用いることができる。電磁遮蔽層204は、例えば
図23に示すように形成される。
図23(a)は、絶縁膜12とともに折り重ねられた導体203aの外周に、内側から電磁遮蔽層204、絶縁層12がこの順に積層された電線210bである。電磁遮蔽層204は、折り重ねた導体203aの外周を金属箔テープで被覆して形成される。他には、帯状の導体203を金属箔テープで被覆して、導体203と金属箔テープを共に折り重ねて形成してもよい。電磁遮蔽層204により、複合電線内において隣接する電線210b間に生じる近接効果を抑制することができる。
図23(b)は、絶縁膜12で被覆された導体203が、電磁遮蔽層204を介して積層された電線220bである。電磁遮蔽層204により、各導体203間、及び複合電線内において隣接する電線220b間に生じる近接効果の影響を低減することができる。
図23(c)は、導体線束231の外周に、電磁遮蔽層204、絶縁層12がこの順に積層された電線230bである。この電磁遮蔽層204は、導体線束231の外周を金属箔テープで被覆することで形成される。電磁遮蔽層204により、複合電線内において隣接する電線230b間に生じる近接効果を抑制することができる。
【0136】
本実施例の電線のさらに他の態様としては、
図24及び
図25に示すように、中空導体管201の内周面に面した導体の一部が、絶縁膜12で被覆されておらず、中空導体管201の内周面と接触する接触部205を形成してもよい。接触部205では、導体の一部が、中空導体管201の内周面に対して露出している。
【0137】
図24(a)の電線210cは、略S字状に折り重ねられた導体203aの一の面(上面)を被覆する絶縁膜12が、導体203aの長さ方向に沿って剥離されて、中空導体管201の内周面に面する接触部205が形成されている。この電線210cは、導体203aが、接触部205を通じて中空導体管201と導通している。また、この電線210cは、不図示のシース材で被覆される。
図24(b)の電線220cは、積層された導体203の側面を被覆する絶縁膜12が導体203の長さ方向に沿って剥離されて、中空導体管201の内周面に面する接触部205が形成されている。この電線220cは、導体203が、接触部205を通じて中空導体管201と導通し、また各導体203が接触部205及び中空導体管201を通じて互いに導通している。また、この電線220cは、不図示のシース材で被覆される。
【0138】
図25の電線240は、同図(a)に示すように、個別に絶縁膜12に被覆された2本の導体線11が束ねられて導体線束241が形成されている。各導体線11を被覆する絶縁膜12の一部が線方向に沿って剥離されることにより、接触部205が形成されている。この接触部205は中空導体管201の内周面に面している。同図(b)に示すように、この導体線束241と中空導体管201が、引抜加工により一体化された電線240が形成される。この電線240は、導体線11が接触部205を通じて中空導体管201と導通し、各導体線11が接触部205及び中空導体管201を通じて互いに導通している。また、この電線240は、不図示のシース材で被覆される。
【0139】
接触部205の形成方法は、剥離に限られない。例えば絶縁膜12を形成する際、導体203又は導体線11の一部をテープ等で覆うことにより、導体203又は導体線11の一部に絶縁膜12を形成させないようにして接触部205を形成してもよい。また、接触部205の形成位置は、上記に限られるものでなく、任意の位置に形成可能であり、複数個所に形成しても良い。
【0140】
接続部205が形成された電線は、接触部205を通じて導体203又は導体線11が中空導体管201と接することにより、導体203又は導体線11が中空導体管201とが電気的に一体の導体となる。このため、導体203又は導体線11と中空導体管201との間に生じる近接効果を防止することができる。
【0141】
本実施例の高周波電流供給電線の他の態様としては、引抜加工により、
図26に示すように電線の断面外形が六角形であってもよく、
図27に示すように電線の断面外形が円形であってもよい。
図26及び
図27において、(a)の電線は上記電線210aの変形例である。略S字状の導体203aが中空導体管201と一体化している。
図26及び
図27において、(b)の電線は、絶縁膜12により被覆された帯状の導体203が、略W字状に折り重ねられて、中空導体管201と一体化している。
図26及び
図27において、(c)の電線は上記電線220aの変形例である。複数枚の導体203が、積層されて、中空導体管201と一体化している。
図26及び
図27において、(d)の電線は上記電線230aの変形例である。束ねられた複数の導体線11が、その外周面を絶縁膜12で被覆されて、中空導体管201と一体化している。
図26及び
図27において、(e)の電線は上記電線240の変形例である。各導体線11を被覆する絶縁膜12の一部が、その線方向に沿って剥離されて、中空導体管201と一体化している。
【0142】
以上、本発明の高周波電流供給電線について説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものであり、これらの態様はいずれも本発明の範囲に属するものである。