【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目標は、以下の時系列工程に従って、
1つの義歯床と複数の人工歯から
なる歯科用補綴物を製造する方法によっても達成される。
A)人工歯を義歯床
内に挿入し、
該人工歯を
、義歯床
内への挿入後
に該人工歯が義歯床内で制限された可動性を有するように
、前記義歯床(1)と結合する工程であって、人工歯
の固定
に供される義歯床の表面は人工歯の対応する基部面より大きい
ために、人工歯は義歯床内で制限された
可動性を有する、工程と、
B)義歯床内で
の少なくとも1つの人工歯の位置および/または
配向を変更する工程と、
C)
人工歯を歯冠
面に
おいてキー
に固定
する工程であって、人工歯の相互の
配向および位置
が変更された位置および/または配向に確
定される
、工程と、
D)人工歯を義歯床から分離する工程と、
F)人工歯をセメントまたは接着剤で義歯床
内に固定する工程であって、人工歯の固定
に供される義歯床
の表面と人工歯
とのギャップがセメントまたは接着剤で充填される
、工程と、
G)セメントまたは接着剤が硬化する工程、あるいは硬化
される工程であって、人工歯
が義歯床に固く結合され
ることによって、人工歯の相互の
配向および位置並びに人工歯の義歯床に対する
配向および位置が固定される
、工程、およびキーを人工歯から分離する工程。
【0012】
本発明において、キー
(Schluessel)とは
、義歯床内での人工歯の位置および/または配向の変更後にその相互の位置または配向がそのまま変わらないように、人工歯の相互の
相対的な位置および
配向を固定する素材または装置であ
る。斯かる目的のため、シリコーン塊
(Silikonmasse)がキーとして
好ましく使用できる
。
【0013】
歯冠(ラテン語の「冠」に由来)と言う用語は、歯の位置および方向に関する用語として歯の冠および歯の冠方向を意味し、
人工歯の咬合面および咬合面を取り囲む
周辺領域を含む。それとの関連において、制限された可動性とは、人工歯は義歯床内で
可動であるがその動
きは完全に自由なものではないことを意味する。挿入された人工歯は、人工歯固
定に
供される義歯床の表面において義歯床に対して角度を数度回転または傾斜できる、あるいは1mmの数十分の一変位できる。
【0014】
セメントまたは接着剤は、十分長い間放置することにより硬化できる。硬化中、化学反応が生じ、それによりセメントまたは接着剤が硬化する。硬化は乾燥、例えば温度の上昇により積極的にサポート可能である。
【0015】
人工歯および/または義歯床は、好ましくはプラスチック、特に好ましくはポリメチルメタクリレート(PMMA)から成る。
【0016】
人工歯は
、個別
におよび/または複数のグループに
連結されて存在してもよいし
、あるいは、完全な歯列弓
として連結されて存在してもよい。
連結された人工歯は、相互に固く結合されている。
【0017】
本発明の方法においては、好ましくは、工程A)の前に、
流体粘性ペースト(fluide zaehe Masse)、好ましくはワックスまたは
粘土が人工歯
の固定
に供される義歯床表面および/または人工歯の基部面に
被着され、
この際、工程A)で人工歯が挿入された後、
流体粘性ペーストが人工歯と人工歯
の固定
に供される義歯床表面
との間に配置され
ていることによって、義歯床内の人工歯の位置および/または
配向は、
流体粘性ペースト、好ましくはワックスまたは
粘土を変形させることにより変更可能である。
【0018】
流体粘性ペースト、ないしはそのようなワックス、好ましくはスティッキーワックスまたは
粘土は、室温(またはそれよりも少し上)
において、人工歯の位置および
配向を変更するのが可能である
と同時に、義歯床内
における人工歯の位置および
配向がその重みで変
化しないよう
な柔軟性を有しなければならない。加えて、
流体粘性ペーストはある程度の粘着力を有しているのが好ましい。
この粘着力または粘着性は、人工歯が
流体粘性ペーストから
離れることができない程、人工歯を保持するのに十分なものでなければならない。
【0019】
これを達成するには、該
流体粘性ペーストは10
2Pa・sと10
6Pa・sの間の粘性を有しているのが好ましい。
流体粘性ペースト、特にワックスまたは
粘土は、人工歯と義歯床の間に配置され、手で
変形可能である。
これにより、人工歯は義歯床内で
可動であるが、他の力が加えられない限りその位置を保持
する。従って、歯科医またはユーザーは、義歯床内の人工歯の位置および
配向を手で容易に変更できる。
【0020】
この手段により、義歯床内の人工歯の位置決めおよび
配向が特に簡単になる。
【0021】
流体粘性ペースト、特にワックスまたは
粘土
は、使用後、すなわち義歯床内の人工歯の位置および/または
配向が補正され
て、義歯床から
人工歯
が除
かれた後、人工歯および義歯床から
、可能な限り容易にかつ残留物を残すことなく
除去可能なものであるべきである。
【0022】
工程D)の後、工程F)の前に、
流体粘性ペースト、好ましくはワックスまたは
粘土は、人工歯および/または人工歯
の固定
に供される義歯床の表面から除去される、好ましくは熱水で洗い流される、あるいは
水蒸気で除去される。
【0023】
流体粘性ペースト、好ましくはワックスまたは
粘土が義歯床全体および/または全人工歯から洗浄されるのが好ましい。
【0024】
人工歯および/または義歯床の表面から
流体粘性ペースト、好ましくはワックスまたは
粘土を洗浄することにより、その後の人工歯を義歯床に固定する最終工程において、安定した結合が達成できる。その結果、歯科用補綴物は長期間安定する。
【0025】
本発明の更なる改良によれば、義歯床および/または人工歯はCAM法またはラピッドプロトタイピング
法を用いて製造される、および/または
機械加工される。
【0026】
本発明
の文脈では、ラピッドプロトタイピングに一般的
な製造方法で義歯床および/または人工歯を製造する製造方法に関して、ラピッドプロトタイピング
法という一般的に知られた用語を使用する。義歯床および/または人工歯は
試作品
ではなくむしろ半
製品であるので、斯かる関連性において時々使用される「ラピッドマニュファクチャリング」、「
ジェネラティブマニュファクチャリング」、「
ラピッドプロダクトディベロップメント」、「
アドバンストデジタルマニュファクチャリング」または「
E−マニュファクチャリング」と言う用語も「ラピッドプロトタイピング
法」と言う用語の代わりに使用できる。義歯床はバラ色またはピンクのプラスチック製であり、人工歯は歯の色のプラスチック製であるのが好ましい。
【0027】
義歯床および/または人工歯の製造または
機械加工
のための、
CAM
法またはRP
法を用いた製造方法の組み合わせは、人工歯固定用の義歯床の表面と人工歯の基部支持面との間の
、工程B)における義歯床内の人工歯の可動性に必要な遊び
の空間を
、CAD法の枠組み内
で同一の計算により
考慮に入れることができ、製造
時にはCAM法またはRP
法によりそれを自動的に考慮に入れることができる
、という
利点を有している。
【0028】
工程B)にお
いて、義歯床内の少なくとも1つの人工歯の位置および/または
配向の変更は、患者への
適合により
直接行われるのが好ましい。
【0029】
すなわち、人工歯の位置および/またはアラインメントまたは
配向の変更は、患者の口腔内の解剖学的状態に合わせて行われるべきであるのは明白である。
【0030】
本発明の更なる改良によれば、工程D)と工程F)の間の工程E)において、人工歯の露出面
は、少なくともある領域
で溶媒により膨潤され、および/または人工歯
の固定
に供される義歯床の表面
は少なくともある領域
で溶媒により膨潤される。
【0031】
その結果、人工歯と義歯床との間に特に安定した結合が達成される。膨潤により表面が液体または流体となるので、その後の
接着工程中に斯かる領域が
新たに硬化され、その結果、補綴材料の
大きな厚み
を通して更に安定した結合が達成される。
【0032】
本方法の特に好ましい更なる改良においては、工程E)において、人工歯の露出表面
は少なくともある領域
で粗くされ
溶媒で膨潤
され、および/または人工歯
の固定
に供される義歯床の表面
は少なくともある領域
で粗くされ
溶媒で膨潤
される。
【0033】
表面を追加的に粗くすることにより、あるいは僅かに粗くすることにより、表面は溶媒によりさらに迅速に溶
解され
得る。表面を粗くする、または僅かに粗くするのは、溶媒を用いて行える。加えて、セメントまたは接着剤による結合
に対する有効表面が拡大するので、人工歯は義歯床
内に更に良好に保持されるようになり、その結果、歯科用補綴物の耐久性が改善される。更に、本発明の人工歯と義歯床は熱水または
水蒸気で洗浄できる。
【0034】
人工歯
の固定
に供される義歯床の表面は人工歯の対応する基部表面よりも大きい(すなわち、義歯床の表面に位置するはずの人工歯の対応する基部面よりも大きい)ので、人工歯は義歯床内で制限された可動性を有しており、従って本発明の方法の使用は特に有利である。人工歯は5度まで傾斜可能および/または回転可能、および/またはその位置は義歯床内で1mmまで変位可能であるのが好ましい。この場合、回転とは人工歯の長軸の周りの回転を意味し、傾斜とは長軸に垂直な軸の周りの回転を意味する。
【0035】
その結果、人工歯
の義歯床内で
の可
動性に必要なギャップが生まれる。本発明によれば、そのギャップは、人工歯の位置および
配向を安定化させるため、少なくともある領域
において流体粘性ペースト、特にワックスまたは
粘土で充填されるのが好ましい。
【0036】
更に、工程C)
において、使用されるキーはシリコーンキーである。
【0037】
シリコーンキー例えばシリコーン塊は、人工歯を望ましい新しい位置に保持するのに適した機械的特性を有している。
【0038】
本発明の方法によれば、過剰な量のセメントまたは接着剤が硬化後除去されるのが好ましい。
【0039】
更なる改良は、セメントとして、自硬性のセメントペースト、好ましくは粉末と液体から作られるセメントペースト、特に好ましくはポリメチルメタクリレートのセメント
ペーストの使用が提案される。
【0040】
斯かる方法により、人工歯と義歯床との間に特に安定したしかも簡単な結合が達成できる。セメントは膨潤時間が短く泡を発生しないで硬化するのが特に好ましい。セメントは室温で、しかも圧力を加えずに硬化するのが好ましい。特に、Heraeus Kulzer GmbH社のセメントPaladur(登録
商標)が好ましいことが証明されている。
【0041】
義歯床内の人工歯の最終固定用セメントまたは接着剤は、非毒性、体積充填性、色安定性、配合耐久性、耐加水分解性、硬化の際の体積安定性を示すべきであり、長期間安定した適切な色を有しているべきである。Heraeus Kulzer GmbH社のPaladur(登録
商標)等のPMMAセメントに加え、本目的に可能なセメントは、Heraeus Kulzer GmbH社のVersyo(登録
商標)、Heraeus Kulzer GmbH社のSignum composit Flow(登録
商標)、あるいはその他のPMMA系セメントである。
【0042】
接着剤として、例えば、強力瞬間接着剤、または同様に義歯床と人工歯との間のギャップの体積を充填するのに適した接着剤が使用できる。
【0043】
更に、本発明によれば、工程A)の前に、部分義歯または総義歯がCAD法を用いてデジタル的に
作成され、ファイル分割により義歯床の仮想モデルおよび人工歯の仮想モデルに分解され、義歯床および/または人工歯は該仮想モデルに基づいてCAM法
を用いて製造される。
【0044】
その結果、
本方法の自動化
が可能となり、それはCAD−CAM法により達成できる。
【0045】
メチルメタクリレート含有液が溶媒として使用されるのが好ましい。
【0046】
あるいは、アセトン等のケトンまたはアルコールを溶媒として使用するのも可能である。しかし、PMMA製の人工歯および義歯床内のPMMAを膨潤させるには、メチルメタクリレート含有液が実質的に更に適している。
【0047】
斯かる溶媒は、義歯床および人工歯の製造に使用するのが特に好ましい材料を膨潤させるのに特に適している。
【0048】
本発明の目標は、斯かる方法により製造される歯科用補綴物によっても達成される。
【0049】
更に、本発明の目標は、斯かる方法を実行するためのキットによっても達成され、該キットは、義歯床内で
配向される人工歯を固定するためのキーと、人工歯および/または義歯床を膨潤させるための溶媒、好ましくはMM
A含有液とを含む。
【0050】
キットは、義歯床内
で人工歯に可動
な配置を提供する
ための、流体粘性ペースト、特にワックスまたは
粘土を含む。
【0051】
更に、キットは、義歯床
内に人工歯を固定するためのセメントまたは接着剤を含む。
【0052】
更に、最後に、キットは、複数の
前加工済みの人工歯および/または少なくとも1つの義歯床半製品を含む。
【0053】
人工歯は
、相互に固く
結合している
、複数のグループまたは完全な補綴物歯列弓
として存在してもよい。後者の場合、補綴物歯列弓の位置および
配向は
、義歯床に対してのみ
、あるいは補綴物歯列弓間で
のみ、いまだ相互に調整可能である
。
【0054】
本発明は、本方法
によって、人工歯の位置および
配向を
最小限に変更可能と
でき、
その後、簡単なやり方で歯科用補綴物
に仕上げることができるという驚くべき発見に基づいている。
これについては、キーの使用
が重要である。キー
の使用によって人工歯または人工歯のグループの
配向および位置を相互に固定できるので、後にそれを義歯床に挿入する際に、
人工歯あるいは人工歯のグループの
、その前に補正
された望ましい相互の
配向および位置が保存される。本方法を実行するにあたり、
人工歯
固定
用の表面間の
遊びとしてのギャップが
義歯床内またはその表面付近に存在すること、並びに人工歯を一時的に安定な状態で自由に義歯床
内に位置決めするため、上記ギャップに
流体粘性ペーストを充填することが重要であり
ないしは特に有利である。
【0055】
人工歯の表面および/または人工歯
の固定
に供される義歯床の表面の膨潤により、人工歯と義歯床との間に特に安定した結合が達成できる。人工歯および/または義歯床は、メチルメタクリレート(MMA)またはMMAを含む溶液で膨潤させるのが好ましい。人工歯は架橋度の高いPMMAから成っているのが好ましい。PMMA材料の溶
解においては、MMAがPMMAを溶
解し
、その中を流れることにより、材料が柔軟となる。その結果、好まし
く使用されるPMMAセメントまたは接着剤を用いて人工歯と義歯床の最終結合を行う際に、その結合を安定化させる
溶解層が生じる。本発明によれば、その結果、人工歯と義歯床との間に特に安定した結合が達成される。
【0056】
本発明の例示的実施形態を以下に2つの概略図を基に説明するが、本発明が斯かる実施形態により制限されることはない。図面は以下の通りである。