特許第6522103号(P6522103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522103
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】歯科補綴物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/01 20060101AFI20190520BHJP
   A61C 13/36 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   A61C13/01
   A61C13/36
【請求項の数】23
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-501042(P2017-501042)
(86)(22)【出願日】2015年7月3日
(65)【公表番号】特表2017-524448(P2017-524448A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】EP2015065232
(87)【国際公開番号】WO2016005287
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2018年1月24日
(31)【優先権主張番号】102014109563.4
(32)【優先日】2014年7月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399011900
【氏名又は名称】クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kulzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ ベーム
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ルッパート
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン デーケアト
【審査官】 村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/058822(WO,A1)
【文献】 特表2013−512695(JP,A)
【文献】 特開2003−079645(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0108988(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/021816(WO,A2)
【文献】 欧州特許出願公開第02742906(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/00
A61C 13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの義歯床(1)と複数の人工歯(4)からなる歯科用補綴物を製造する方法であって、以下の時系列工程、すなわち、
A)前記人工歯(4)を前記義歯床(1)に挿入し、人工歯(4)を前記義歯床(1)内への挿入後に該人工歯(4)が前記義歯床(1)内で制限された可動性を有するように、前記義歯床(1)と結合する工程であって、前記人工歯(4)固定供される前記義歯床(1)の表面(2)は前記人工歯(4)の対応する基部面(8)より大きいために、前記人工歯(4)は前記義歯床(1)内で制限された可動性を有する、工程と、
B)前記義歯床(1)内で少なくとも1つの前記人工歯(4)の位置および/または配向を変更する工程と、
C)前記人工歯(4)を歯冠(6)においてキーに固定する工程であって記人工歯(4)の相互の配向および位置が前記変更された位置および/または配向に定され、前記キーとは、前記義歯床(1)内での前記人工歯(4)の位置および/または配向の変更後にその相互の位置および配向がそのまま変わらないように、前記人工歯(4)の相互の相対的な位置または配向を固定する素材または装置である、工程と、
D)前記人工歯(4)を前記義歯床(1)から分離する工程と、
F)前記人工歯(4)をセメントまたは接着剤で前記義歯床(1)に固定する工程であって、前記人工歯(4)の固定供される前記義歯床(1)の表面(2)と前記人工歯(4)間のギャップが前記セメントまたは接着剤で充填される工程と、
G)前記セメントまたは接着剤を硬化させる工程であって、前記人工歯(4)前記義歯床(1)に固く結合されることにより、前記人工歯(4)の相互の配向および位置並びに前記人工歯(4)の前記義歯床(1)に対する配向および位置が固定される工程、および前記キーを前記人工歯(4)から分離する工程と、を備える方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、工程A)の前に、流体粘性ペーストが前記人工歯(4)固定供される前記義歯床(1)の表面(2)および/または人工歯(4)の基部に被着され、この際、工程A)で前記人工歯(4)が挿入された後、前記流体粘性ペーストが前記人工歯(4)と人工歯(4)固定供される前記義歯床の表面(2)の間に配置されていることにより、前記義歯床(1)内の前記人工歯(4)の位置および/または配向が、前記流体粘性ペーストを変形させることにより変更可能である方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、工程D)の後、工程F)の前に、前記流体粘性ペーストは、前記人工歯(4)および/または前記人工歯(4)固定供される前記義歯床(1)の表面(2)から去される方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、前記流体粘性ペーストは、熱水で洗い流される、あるいは蒸気で除去される、方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項記載の方法において、前記流体粘性ペーストは、ワックスまたは粘土である、方法。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項記載の方法において、前記流体粘性ペーストは、室温またはそれよりも上において前記人工歯(4)の位置および配向を変更するのが可能であると同時に、前記義歯床(1)内における前記人工歯(4)の位置および配向がその重みで変化しないような柔軟性を有する、方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項記載の方法において、前記義歯床(1)および/または前記人工歯(4)はCAM法またはラピッドプロトタイピング法を用いて製造される、および/または機械加工される方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項記載の方法において、工程B)において、前記義歯床(1)内の少なくとも1つの人工歯(4)の位置および/または配向の前記変更は、患者への合により直接行われる方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項記載の方法において、工程D)と工程F)の間の工程E)において、前記人工歯(4)の露出面少なくともある領域溶媒により膨潤され、および/または前記人工歯(4)固定供される前記義歯床(1)の表面(2)少なくともある領域溶媒により膨潤される方法。
【請求項10】
請求項記載の方法において、工程E)において、前記人工歯(4)の露出面は少なくともある領域で粗くされ溶媒でされ、および/または前記人工歯(4)固定供される前記義歯床(1)の表面(2)少なくともある領域で粗くされ溶媒でされ方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載の方法において、前記人工歯(4)固定供される前記義歯床(1)の表面(2)は前記人工歯(4)の対応する基部(8)よりも大きく、これにより、前記人工歯(4)は、前記義歯床(1)内で5度まで傾斜可能および/または回転可能、および/またはその位置1mmまで変位可能である方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載の方法において、工程C)において、使用される前記キーはシリコーンキーである方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項記載の方法において、セメントとして、自硬性のセメントペースト使用される方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項記載の方法において、セメントとして、粉末と液体からなるセメントペーストが使用される、方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項記載の方法において、セメントとして、ポリメチルメタクリレートのセメントペーストが使用される、方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項記載の方法において、工程A)の前に、部分義歯または総義歯がCAD法を用いてデジタル的に作成され、記義歯床(1)の仮想モデルおよび前記人工歯(4)の仮想モデルに分解され、前記義歯床(1)および/または前記人工歯(4)は仮想モデルに基づいてCAM法を用いて製造される方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項記載の方法において、メチルメタクリレート含有液が溶媒として使用される方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項記載の方法により製造される歯科用補綴物(1)。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか一項記載の方法を実行するためのキットであって、義歯床(1)内で配向される前記人工歯(4)を固定するためのキーと、前記人工歯(4)および/または前記義歯床(1)を膨潤させるための溶媒を備え、前記キーとは、前記義歯床(1)内での前記人工歯(4)の位置および/または配向の変更後にその相互の位置および配向がそのまま変わらないように、前記人工歯(4)の相互の相対的な位置および配向を固定する素材または装置である、キット。
【請求項20】
請求項19記載のキットにおいて、前記義歯床(1)内前記人工歯(4)に可動配置を提供するための前記流体粘性ペーストを有するキット。
【請求項21】
請求項19記載のキットにおいて、前記義歯床(1)内で前記人工歯(4)に可動な配置を提供するための、ワックスまたは粘土を有する、キット。
【請求項22】
請求項19〜21のいずれか一項記載のキットにおいて、前記義歯床(1)に前記人工歯(4)を固定するためのセメントまたは接着剤を有するキット。
【請求項23】
請求項1922のいずれか一項記載のキットにおいて、複数の前加工済みの人工歯(4)および/または少なくとも1つの義歯床(1)、あるいは、少なくとも1つの義歯床半製品を有するキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床および複数の人工歯から歯科補綴物を製造する方法に関する。更に本発明は、斯かる方法を用いて製造される歯科補綴物および斯かる方法を実施するためのキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
歯科補綴物は一般的にアナログ方式を用いて製造される。すなわち義歯床は現在アナログ方式を用いて製造され、該アナログ方式では、歯の無い患者の顎の印象が通常まず製造される。印象は型を作製するのに使用され、型は歯茎色のプラスチックで充填される。プラスチックが硬化した後、それを望ましい形状に仕上げる。次に、人工歯が中空の型に挿入され、成形工程中に義歯床に結合される。
【0003】
歯科補綴物を製造するため、歯の無い顎のギプス型上のワックス基剤に、人工歯が手で一つ一つ配置される。次の工程で、斯かるワックス補綴物はセルに置かれ、(後の処理技術次第であるが)ギプス、シリコーンまたはジェルに埋め込まれ、埋封材料が硬化した後ワックス基剤を熱水で洗い流すことにより、補綴物用のプラスチックのための中空空間が作製される。斯かる処理中、人工歯は埋封材料中に残ったままである。適切なプラスチックが中空空間内に注入され、または注がれ、プラスチックが硬化した後、歯科補綴物が得られる。人工歯が設置されると、歯科技師が、あるいは場合によっては歯科医も、各患者の口の状態に該人工歯を適合させ、研磨する。
【0004】
許文献1歯科補綴物の製造方法を開示しており、この方法には、印象に基づいてプラスチック製ブロックから義歯床を切削加工する工程が含まれる。
【0005】
歯科分野においては、手動による技術に加えてデジタル製造方法も益々重要になりつつある。ここ何年間か、歯冠やブリッジなどの歯が、CAD−CAM(CAM:コンピュータ支援製造、CAD:コンピュータ支援設計)技術を用いるサブトラクティブ切削加工法により製造されている。
【0006】
加えて、SLM(選択的レーザー融解)等の創成法が歯冠、ブリッジおよび模型を製造するのに益々重要になりつつあり、並びに光造形法およびDLP(デジタル光処理法)がポリマー系の歯科製品、例えば暫定義歯、補綴物、矯正装置、マウスガード、ドリリングテンプレート、歯科用模型等用に益々重要になりつつある。現時点では、ラピッドプロトタイピング(RP)によるアクリル系義歯の製造には未だかなりの制限がある。高品質で審美的な義歯の製造用の、多の義歯または異なる複数のポリマー素材(たとえばエナメル素材と象牙質素材)製の歯は、複数の素材チャンバを用いる高価なRP機械によってのみ、あるいは高価接着合技術によってのみ、現時点では製造可能である。
【0007】
同様に、RPによる複合材料(例えばコバルト/クロム(CoCr)とポリマー)の製造は極めて高価であり、現時点では商業的に成り立たない。
【0008】
分義歯ないし総義歯デジタル的に作成し、CAD−CAM法によって製造する、初めての方法が既に存在しており、たとえば特許文献2または3開示されている許文献4モデルでの歯の仮想的な作成を行い、義歯床の製造を該仮想モデルに基づいて行う、義歯の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第91/07141号
【特許文献2】独国特許出願公開第102009056752号明細書
【特許文献3】国際公開第2013/124452号
【特許文献4】独国特許発明第10304757号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
斯かる方法は、使用する歯科医または歯科技師が義歯床の人工歯の位置および配向を僅かに正するのでさえ膨大な努力を払わなければならないという欠点を有している。斯かる位置や配向の適合には、人工歯の咬合を機械加工する必要がある、あるいは人工歯を取り出た後に義歯床を研磨するまたは人工歯の基部研磨する必要がある。
従って、本発明の課題は従来技術の欠点を乗り越えることである。特に、歯科用補綴物を患者のニーズに簡単なやり方で合わせることができるように、歯科医またはユーザーが義歯床の人工歯の位置および配向を簡単に正できる方法提供される。加えて、義歯床の製造、従って歯科用補綴物の、可能な限り簡単であり、完全であり、しかも経済的な製造が可能となる
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目標は、以下の時系列工程に従って、1つの義歯床と複数の人工歯からなる歯科用補綴物を製造する方法によっても達成される。
A)人工歯を義歯床に挿入し、人工歯を義歯床内への挿入後に該人工歯が義歯床内で制限された可動性を有するように、前記義歯床(1)と結合する工程であって、人工歯固定供される義歯床の表面は人工歯の対応する基部面より大きいために、人工歯は義歯床内で制限された可動性を有する、工程と、
B)義歯床内で少なくとも1つの人工歯の位置および/または配向を変更する工程と、
C)人工歯を歯冠おいてキー固定する工程であって、人工歯の相互の配向および位置が変更された位置および/または配向に定され工程と、
D)人工歯を義歯床から分離する工程と、
F)人工歯をセメントまたは接着剤で義歯床に固定する工程であって、人工歯の固定供される義歯床の表面と人工歯のギャップがセメントまたは接着剤で充填される工程と、
G)セメントまたは接着剤が硬化する工程、あるいは硬化される工程であって、人工歯義歯床に固く結合されることによって、人工歯の相互の配向および位置並びに人工歯の義歯床に対する配向および位置が固定される工程、およびキーを人工歯から分離する工程。
【0012】
本発明において、キー(Schluessel)とは、義歯床内での人工歯の位置および/または配向の変更後にその相互の位置または配向がそのまま変わらないように、人工歯の相互の相対的な位置および配向を固定する素材または装置であ。斯かる目的のため、シリコーン塊(Silikonmasse)がキーとして好ましく使用できる
【0013】
歯冠(ラテン語の「冠」に由来)と言う用語は、歯の位置および方向に関する用語として歯の冠および歯の冠方向を意味し、人工歯の咬合面および咬合面を取り囲む辺領域を含む。それとの関連において、制限された可動性とは、人工歯は義歯床内で可動であるがその動は完全に自由なものではないことを意味する。挿入された人工歯は、人工歯固される義歯床の表面において義歯床に対して角度を数度回転または傾斜できる、あるいは1mmの数十分の一変位できる。
【0014】
セメントまたは接着剤は、十分長い間放置することにより硬化できる。硬化中、化学反応が生じ、それによりセメントまたは接着剤が硬化する。硬化は乾燥、例えば温度の上昇により積極的にサポート可能である。
【0015】
人工歯および/または義歯床は、好ましくはプラスチック、特に好ましくはポリメチルメタクリレート(PMMA)から成る。
【0016】
人工歯は個別におよび/または複数のグループに連結されて存在してもよいし、あるいは、完全な歯列弓として連結されて存在してもよい。連結された人工歯は、相互に固く結合されている。
【0017】
本発明の方法においては、好ましくは、工程A)の前に、流体粘性ペースト(fluide zaehe Masse)、好ましくはワックスまたは土が人工歯固定供される義歯床表面および/または人工歯の基部面に被着され、この際、工程A)で人工歯が挿入された後、流体粘性ペーストが人工歯と人工歯固定供される義歯床表面の間に配置されていることによって、義歯床内の人工歯の位置および/または配向は、流体粘性ペースト、好ましくはワックスまたは土を変形させることにより変更可能である。
【0018】
流体粘性ペースト、ないしはそのようなワックス、好ましくはスティッキーワックスまたは土は、室温(またはそれよりも少し上)において、人工歯の位置および配向を変更するのが可能である同時に、義歯床内における人工歯の位置および配向がその重みで変化しないような柔軟性を有しなければならない。加えて、流体粘性ペーストはある程度の粘着力を有しているのが好ましい。この粘着力または粘着性は、人工歯が流体粘性ペーストかられることができない程、人工歯を保持するのに十分なものでなければならない。
【0019】
これを達成するには、該流体粘性ペーストは10Pa・sと10Pa・sの間の粘性を有しているのが好ましい。流体粘性ペースト、特にワックスまたは土は、人工歯と義歯床の間に配置され、手で形可能である。これにより、人工歯は義歯床内で可動であるが、他の力が加えられない限りその位置を保持する。従って、歯科医またはユーザーは、義歯床内の人工歯の位置および配向を手で容易に変更できる。
【0020】
この手段により、義歯床内の人工歯の位置決めおよび配向が特に簡単になる。
【0021】
流体粘性ペースト、特にワックスまたはは、使用後、すなわち義歯床内の人工歯の位置および/または配向が補正され、義歯床から工歯かれた後、人工歯および義歯床から、可能な限り容易にかつ残留物を残すことなく除去可能なものであるべきである。
【0022】
工程D)の後、工程F)の前に、流体粘性ペースト、好ましくはワックスまたは土は、人工歯および/または人工歯固定供される義歯床の表面から除去される、好ましくは熱水で洗い流される、あるいは蒸気で除去される。
【0023】
流体粘性ペースト、好ましくはワックスまたは土が義歯床全体および/または全人工歯から洗浄されるのが好ましい。
【0024】
人工歯および/または義歯床の表面から流体粘性ペースト、好ましくはワックスまたは土を洗浄することにより、その後の人工歯を義歯床に固定する最終工程において、安定した結合が達成できる。その結果、歯科用補綴物は長期間安定する。
【0025】
本発明の更なる改良によれば、義歯床および/または人工歯はCAM法またはラピッドプロトタイピング法を用いて製造される、および/または機械加工される。
【0026】
本発明の文脈では、ラピッドプロトタイピングに一般的製造方法で義歯床および/または人工歯を製造する製造方法に関して、ラピッドプロトタイピングという一般的に知られた用語を使用する。義歯床および/または人工歯は作品はなくむしろ半製品であるので、斯かる関連性において時々使用される「ラピッドマニュファクチャリング」、「ジェネラティブマニュファクチャリング」、「ラピッドプロダクトディベロップメント」、「アドバンストデジタルマニュファクチャリング」または「E−マニュファクチャリング」と言う用語も「ラピッドプロトタイピング」と言う用語の代わりに使用できる。義歯床はバラ色またはピンクのプラスチック製であり、人工歯は歯の色のプラスチック製であるのが好ましい。
【0027】
義歯床および/または人工歯の製造または機械加工のためのAMまたはRP法を用いた製造方法の組み合わせは、人工歯固定用の義歯床の表面と人工歯の基部支持面との間の工程B)における義歯床内の人工歯の可動性に必要な遊びの空間CAD法の枠組み内で同一の計算により慮に入れることができ、製造にはCAM法またはRPによりそれを自動的に考慮に入れることができるという利点を有している。
【0028】
工程B)において、義歯床内の少なくとも1つの人工歯の位置および/または配向の変更は、患者への合により直接行われるのが好ましい。
【0029】
すなわち、人工歯の位置および/またはアラインメントまたは配向の変更は、患者の口腔内の解剖学的状態に合わせて行われるべきであるのは明白である。
【0030】
本発明の更なる改良によれば、工程D)と工程F)の間の工程E)において、人工歯の露出面は、少なくともある領域溶媒により膨潤され、および/または人工歯固定供される義歯床の表面少なくともある領域溶媒により膨潤される。
【0031】
その結果、人工歯と義歯床との間に特に安定した結合が達成される。膨潤により表面が液体または流体となるので、その後の接着工程中に斯かる領域が新たに硬化され、その結果、補綴材料の大きな厚み通して更に安定した結合が達成される。
【0032】
本方法の特に好ましい更なる改良においては、工程E)において、人工歯の露出表面少なくともある領域粗くされ溶媒で膨潤され、および/または人工歯固定供される義歯床の表面少なくともある領域粗くされ溶媒で膨潤される。
【0033】
表面を追加的に粗くすることにより、あるいは僅かに粗くすることにより、表面は溶媒によりさらに迅速に溶される。表面を粗くする、または僅かに粗くするのは、溶媒を用いて行える。加えて、セメントまたは接着剤による結合に対する有効表面が拡大するので、人工歯は義歯床に更に良好に保持されるようになり、その結果、歯科用補綴物の耐久性が改善される。更に、本発明の人工歯と義歯床は熱水または蒸気で洗浄できる。
【0034】
人工歯固定供される義歯床の表面は人工歯の対応する基部表面よりも大きい(すなわち、義歯床の表面に位置するはずの人工歯の対応する基部面よりも大きい)ので、人工歯は義歯床内で制限された可動性を有しており、従って本発明の方法の使用は特に有利である。人工歯は5度まで傾斜可能および/または回転可能、および/またはその位置は義歯床内で1mmまで変位可能であるのが好ましい。この場合、回転とは人工歯の長軸の周りの回転を意味し、傾斜とは長軸に垂直な軸の周りの回転を意味する。
【0035】
その結果、人工歯義歯床内で動性に必要なギャップが生まれる。本発明によれば、そのギャップは、人工歯の位置および配向を安定化させるため、少なくともある領域において流体粘性ペースト、特にワックスまたは土で充填されるのが好ましい。
【0036】
更に、工程C)において、使用されるキーはシリコーンキーである。
【0037】
シリコーンキー例えばシリコーン塊は、人工歯を望ましい新しい位置に保持するのに適した機械的特性を有している。
【0038】
本発明の方法によれば、過剰な量のセメントまたは接着剤が硬化後除去されるのが好ましい。
【0039】
更なる改良は、セメントとして、自硬性のセメントペースト、好ましくは粉末と液体から作られるセメントペースト、特に好ましくはポリメチルメタクリレートのセメントペーストの使用が提案される。
【0040】
斯かる方法により、人工歯と義歯床との間に特に安定したしかも簡単な結合が達成できる。セメントは膨潤時間が短く泡を発生しないで硬化するのが特に好ましい。セメントは室温で、しかも圧力を加えずに硬化するのが好ましい。特に、Heraeus Kulzer GmbH社のセメントPaladur(登録商標)が好ましいことが証明されている。
【0041】
義歯床内の人工歯の最終固定用セメントまたは接着剤は、非毒性、体積充填性、色安定性、配合耐久性、耐加水分解性、硬化の際の体積安定性を示すべきであり、長期間安定した適切な色を有しているべきである。Heraeus Kulzer GmbH社のPaladur(登録商標)等のPMMAセメントに加え、本目的に可能なセメントは、Heraeus Kulzer GmbH社のVersyo(登録商標)、Heraeus Kulzer GmbH社のSignum composit Flow(登録商標)、あるいはその他のPMMA系セメントである。
【0042】
接着剤として、例えば、強力瞬間接着剤、または同様に義歯床と人工歯との間のギャップの体積を充填するのに適した接着剤が使用できる。
【0043】
更に、本発明によれば、工程A)の前に、部分義歯または総義歯がCAD法を用いてデジタル的に作成され、ファイル分割により義歯床の仮想モデルおよび人工歯の仮想モデルに分解され、義歯床および/または人工歯は該仮想モデルに基づいてCAM法を用いて製造される。
【0044】
その結果、本方法の自動化可能となり、それはCAD−CAM法により達成できる。
【0045】
メチルメタクリレート含有液が溶媒として使用されるのが好ましい。
【0046】
あるいは、アセトン等のケトンまたはアルコールを溶媒として使用するのも可能である。しかし、PMMA製の人工歯および義歯床内のPMMAを膨潤させるには、メチルメタクリレート含有液が実質的に更に適している。
【0047】
斯かる溶媒は、義歯床および人工歯の製造に使用するのが特に好ましい材料を膨潤させるのに特に適している。
【0048】
本発明の目標は、斯かる方法により製造される歯科用補綴物によっても達成される。
【0049】
更に、本発明の目標は、斯かる方法を実行するためのキットによっても達成され、該キットは、義歯床内で配向される人工歯を固定するためのキーと、人工歯および/または義歯床を膨潤させるための溶媒、好ましくはMM含有液とを含む。
【0050】
キットは、義歯床内人工歯に可動配置を提供するための、流体粘性ペースト、特にワックスまたは土を含む。
【0051】
更に、キットは、義歯床に人工歯を固定するためのセメントまたは接着剤を含む。
【0052】
更に、最後に、キットは、複数の前加工済みの人工歯および/または少なくとも1つの義歯床半製品を含む。
【0053】
人工歯は相互に固く結合している、複数のグループまたは完全な補綴物歯列弓として存在してもよい。後者の場合、補綴物歯列弓の位置および配向義歯床に対してのみあるいは補綴物歯列弓間でのみ、いまだ相互に調整可能である
【0054】
本発明は、本方法によって、人工歯の位置および配向最小限に変更可能とできその後、簡単なやり方で歯科用補綴物に仕上げることができるという驚くべき発見に基づいている。これについては、キーの使用が重要である。キーの使用によって人工歯または人工歯のグループの配向および位置を相互に固定できるので、後にそれを義歯床に挿入する際に、工歯あるいは人工歯のグループの、その前に補正された望ましい相互の配向および位置が保存される。本方法を実行するにあたり、工歯の表面間の遊びとしてのギャップが義歯床内またはその表面付近に存在すること、並びに人工歯を一時的に安定な状態で自由に義歯床に位置決めするため、上記ギャップに流体粘性ペーストを充填することが重要でありないしは特に有利である。
【0055】
人工歯の表面および/または人工歯固定供される義歯床の表面の膨潤により、人工歯と義歯床との間に特に安定した結合が達成できる。人工歯および/または義歯床は、メチルメタクリレート(MMA)またはMMAを含む溶液で膨潤させるのが好ましい。人工歯は架橋度の高いPMMAから成っているのが好ましい。PMMA材料の溶においては、MMAがPMMAを溶、その中を流れることにより、材料が柔軟となる。その結果、好ましく使用されるPMMAセメントまたは接着剤を用いて人工歯と義歯床の最終結合を行う際に、その結合を安定化させる溶解層が生じる。本発明によれば、その結果、人工歯と義歯床との間に特に安定した結合が達成される。
【0056】
本発明の例示的実施形態を以下に2つの概略図を基に説明するが、本発明が斯かる実施形態により制限されることはない。図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1は、本発明の方法を実行するための、下顎用の義歯床の斜視図である。
図2図2は、本発明の方法を実行するための、図1の義歯床に挿入される人工歯の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図1は、本発明の方法を実行するための、下顎用の義歯床1の斜視図を示す。義歯床はバラ色のプラスチックから成っている。歯茎の様相を与えるため、色および透明性が適切に選択される。義歯床1の上部には、人工歯(図1には図示しない)固定用の複数の表面2が存在する。
【0059】
図2は、本発明の方法を実行するための、図1の義歯床1に挿入される人工歯4の斜視図を示す。特に、図2に示すように、人工歯4は互いに離れており、相互に結合されていないのが好ましい。しかし、相互に結合している(全てがまたはグループ毎に相互に結合している)人工歯4の歯列弓用いて、本方法を実行してもよい。
【0060】
人工歯4は、患者の歯に適したおよび透明性を有する硬い白色プラスチックから成っている。人工歯4はいずれも歯冠面6(咀嚼面)と基部面8を有している。基部面8は人工歯4固定用の義歯床1の表面2に固定される。表面2はインデキシングを有しているので、人工歯4は義歯床内の特定の1つの配向にしか挿入できないし、各人工歯4は1つの表面2にしか適合しない。
【0061】
表面2は、人工歯4の基部の基部対応部よりも多少大き目である。人工歯を義歯床1の表面2最初に挿入する前に、いワックス層(図示しない)が人工歯4の基部8および/または人工歯4固定用の義歯床1の表面2被着される。人工歯の挿入後、該ワックス層が義歯床1と人工歯4の間に配置される。その結果、挿入された人工歯4は義歯床1内で僅かに可動であり、従って、歯科医またはユーザーは、義歯床1内の人工歯4の位置および配向の最小限補正が可能である。その結果、製造された歯科用補綴物を使用する患者のニーズに、義歯床1内の人工歯4の位置および配向を合わせることができる。人工歯4の配向および位置決めに必要なデータは、患者から直接取得される、あるいはCAD法および/または写真(3D走査)の助けを得て、あるいは咬合器および印象の助けを得て取得される。最も簡単は、挿入された人工歯4を有する義歯床1を患者の口腔内に挿入し、患者の口腔内の状態に位置合わせをすることである。
【0062】
義歯床1内の人工歯4の位置および配向を適合させた後、人工歯4をシリコーン塊に埋め込むことにより、人工歯4をシリコーンキー(図示しない)で固定する。この際、配向や位置が変するような機械的を人工歯4に加えてはならない。次に、人工歯4を義歯床1から取り外す
【0063】
人工歯4と義歯床1からワックス層を除去する。これは、例えば、熱水または蒸気で洗い流すことにより達成できる。人工歯4の基部8を(例えば、サンドジェットを用いて機械的に、あるいは適切な溶媒を用いて化学的に)粗くし、メチルメタクリレート(MMA)を含む液体で膨潤させる。同様に、人工歯4固定用の義歯床1の表面2も粗くし、MMA含有液で膨潤させる。使用可能なMMA含有液は、例えば、Heraeus Kulzer GmbH社のPalabond(登録商標)である。
【0064】
このようにして結合すべき表面を前加工した後、シリコーンキーに最初に固定したままの状態で、最終的に人工歯4を義歯床1内にセメンティングする。セメンティングは過剰量のセメントを用いて行われるので、人工歯4固定用の義歯床1の表面2と人工歯4との間にある、以前ワックスで充填されていたギャップがセメントで充填されるが、ギャップ内には基部側に中空空間残らないし、製造された歯科用補綴物の歯の歯肉/首部領域にも縁部の隙間は残らない。加えて、過剰な量は接触表面を最適に湿らせる。押し出された過剰なセメントペーストの残留物は、硬化前および/または硬化後に除去できる。
【0065】
人工歯4を義歯床1に最終セメンティングするには、末/液体系の自硬性セメントが使用される。光は人工歯4と義歯床1の間のギャップの縁部領域にしか入らないので、光硬化性のセメントまたは接着剤は通常は十分な接着力を示さない。
【0066】
室温で硬化する粉末/液体系の補綴材料、例えばHeraeus Kulzer GmbH社のPaladur(登録商標)は、膨潤が迅速であり、しかもオートクレーブを使用しなくても(すなわち過剰な圧力なしに)室温で発泡せずに硬化するので、特に適している。
【0067】
しかし、他の硬化用組み合わせ、例えば二重硬化セメント等も考え得る。この場合、光で歯を短期間固定しておき、酸化還元反応により最終硬化を行う。
【0068】
本発明の方法は、手動またはラピッドプロトタイピング法で製造される義歯床1を用いて実行できる。同様に、本方法は、印刷人工歯または補綴物歯列弓にも適用できる。
【0069】
上述の説明、特許請求項の範囲、図面および例示的実施形態で開示した本発明の特徴は、種々の実施形態で本発明を実現するにあたり、個別的特徴または特徴のあらゆる組み合わせにおいて非常に重要であり得る。
【符号の説明】
【0070】
1 義歯床
2 人工歯固定用の表面
4 人工歯
6 人工歯の歯冠面
8 人工歯の基底面
図1
図2