【実施例1】
【0042】
本発明の実施例1に係る湿式排煙脱硫装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施例1に係る湿式排煙脱硫装置を示す概略図である。
図1に示すように、本実施例に係る湿式排煙脱硫装置(以下「脱硫装置」という)10Aは、ボイラ(図示せず)から排出されるガス(以下「排ガス」という)12中の硫黄酸化物を吸収液14で除去する吸収塔11と、吸収塔11の側壁11aに設けられ、排ガス12を導入するガス導入部13と、吸収塔11の下方に設けられて、排ガス12中の硫黄酸化物を吸収した吸収液14を貯留する吸収液貯留部11bと、吸収液貯留部11bから吸収液14を循環させる循環ラインL
11と、吸収塔11の中間近傍に設けられ、循環ラインL
11により供給された吸収液14を、噴霧部(例えばノズル)15aにより噴出液14aとして上方に噴出させる噴出部15と、吸収液貯留部11b内に、吹込み部(例えばノズル)16aから空気17を供給する空気導入部16と、吸収液14の酸化還元電位(Oxidation−reduction Potential;ORP、以下本実施例では「ORP」という)を計測する酸化還元電位計(以下本実施例では「ORP計」という)18と、吸収液14又は吸収液貯留部11b内に、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤(硫黄オキソ酸と硫黄オキソ酸の塩を含む)19を供給する還元性添加剤供給部20と、制御装置50と、を備え、ORP計18の計測値がORPの適正範囲の上限を超えた場合、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19を供給し、ORP計18の計測値がORPの適正範囲(例えば50mV以上200mV以下)内に入るように調整する。なお、本実施例では、吸収液貯留部11b内に硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19を供給するようにしているが、吸収液14に供給するようにしても良い。脱硫装置10Aは、循環ラインL
11に介装された吸収液14を送液する送液ポンプP、排ガス12中のミストを除去するデミスタ30および浄化ガス32を排出する排ガスダクト31と、循環ラインL
11に接続された、吸収液14の一部を抜き出す排出ラインL
12と、吸収塔11の吸収液貯留部11bから循環ラインL
11、排出ラインL
12を介して抜き出した吸収液(以下「脱硫排水」という)14Aから石膏23を固液分離する固液分離機22と、石膏を排出する石膏排出ラインL
13と、石膏23が分離された分離液14Bを吸収液貯留部11bに戻す分離液戻しラインL
14と、を備える。
【0043】
本実施例に係る脱硫装置10Aは、石灰石膏法の脱硫装置であり、吸収液14として例えば石灰石スラリー(水に石灰石粉末を溶解させた水溶液)が用いられ、装置内の温度は例えば50℃となっている。
【0044】
ここで、排ガス12には、窒素酸化物や硫黄酸化物の他に水銀等の有害物質が微量に含まれるので、排ガス12中の水銀を除去する方法として、脱硝装置の前流工程で、煙道中の高温の排ガスに、塩素化剤を噴霧し、脱硝触媒上で水銀を酸化(塩素化)させて水溶性の塩化水銀にし、これを、脱硫装置10Aで吸収液14に溶解させることにより除去している。
【0045】
吸収液14として、例えば石灰石スラリーが、吸収液供給部25から吸収塔11の塔底部内の吸収液貯留部11bに供給される。吸収液貯留部11bに供給された吸収液14は、循環ラインL
11を介して吸収塔11内の複数の噴霧部15aに送られ、この噴霧部15aから塔頂部側に向かって噴出液14aが液柱状に噴出される。循環ラインL
11には、送液ポンプPが設けられている。送液ポンプPが駆動されることで、循環ラインL
11から噴霧部15aに吸収液14が送られる。吸収塔11には、ガス導入部13から排ガス12が導入される。吸収塔11に導入された排ガス12は、吸収塔11内を上昇して、塔頂部側に向かって噴霧部15aから噴出する噴出液14aと気液接触する。排ガス12と噴出液14aとが気液接触することにより、排ガス12中の硫黄酸化物及び塩化水銀は、吸収液14により吸収されるので、排ガス12から分離されるとともに除去される。吸収液14により浄化された排ガス12は、浄化ガス32として吸収塔11の塔頂部側の排ガスダクト31より排出され、図示しない煙突から外部に放出される。
【0046】
吸収液14として石灰石スラリーを用いた場合、吸収塔11の内部において、排ガス12中の亜硫酸ガスSO
2は石灰石スラリーと下記反応式(1)で表される反応を生じる。
SO
2+CaCO
3→CaSO
3+CO
2・・・(1)
【0047】
さらに、排ガス12中のSO
xを吸収した石灰石スラリーは、塔底部の吸収液貯留部11b内に供給される空気17により酸化処理され、空気17と下記反応式(2)で表される反応を生じる。
CaSO
3+1/2O
2+2H
2O→CaSO
4・2H
2O・・・(2)
このようにして、排ガス12中のSO
xは、吸収塔11において石膏(CaSO
4・2H
2O)の形で捕獲される。
【0048】
また、上記のように、吸収液14としての石灰石スラリーは、吸収塔11の塔底部の吸収液貯留部11bに貯留した石灰石スラリーを揚水したものが用いられるが、この揚水される石灰石スラリーの吸収液14中には、脱硫装置10Aの稼働に伴い、反応式(1)、(2)により石膏(CaSO
4・2H
2O)が混合される。以下では、この石膏が混合された石灰石スラリーを吸収液とよぶ。
【0049】
吸収塔11内で脱硫に用いる吸収液14は、循環ラインL
11により、循環再利用されると共に、この循環ラインL
11に接続された排出ラインL
12を介して、その一部が脱硫排水14Aとして外部に排出されて、別途固液分離機22に送られ、ここで脱水処理される。
【0050】
固液分離機22は、脱硫排水14A中の固形物である石膏23と液体分の分離液14Bとを分離するものである。固液分離機22としては、例えばベルトフィルタ、遠心分離機、デカンタ型遠心沈降機等が用いられる。よって、吸収塔11から排出された脱硫排水14Aは、固液分離機22により固形物の石膏23と液体の分離液14Bとに分離される。この分離の際、吸収液14の一部である脱硫排水14A中の塩化水銀は石膏23に吸着された状態で、該石膏23とともに液体と分離される。分離した石膏23は、システム外部(系外)に排出される。
【0051】
一方、固液分離機22からの分離液14Bは、分離液戻しラインL
14を介して返送水として、吸収塔11の吸収液貯留部11b内に供給される。
【0052】
本実施例では、吸収液貯留部11bの吸収液14のORPをORP計18により計測しており、ORPの適正範囲を維持するようにしている。このORP計18は、吸収液14中に設置されたORP電極と、ORP電極の測定信号をもとにORPを計測する計測部とを有する。計測部で計測されたORPの値は、制御装置50に送られる。ORP電極は、吸収液14のORPを計測できれば、吸収液貯留部11b内のいずれの場所に設けられていてもよい。また、吸収液14を循環させる循環ラインL
11内にORP電極を設置して、循環する吸収液14のORPを計測することもできる。
ここで、ORPの下限値を50mVとするのは、50mV未満では、吸収液14が還元領域となり、水銀イオンが還元され金属水銀となり水銀の再飛散があるので、好ましくないからである。
【0053】
ここで、ORPの適正範囲とは、吸収液14内に捕集されている酸化された水銀イオンの一部が金属水銀となるのが防止され、水銀の再飛散がないこと、また、吸収液14中への水銀イオンが石膏23側に取り込まれ、吸収液14中での水銀イオンの蓄積がないORPの範囲であり、プラント毎に決定している。
一般的には、ORPの適正範囲として、50mV以上200mV以下の範囲、好適には50mV以上150mV以下の範囲、より好適には80mV以上150mV以下の範囲、さらに好適には100mV以上150mV以下の範囲である。
【0054】
なお、ORPの適正範囲は、プラント毎に、また運転条件によっても変動するので、試運転の際にORPの適正範囲を予め求めておくようにする。また、ボイラに供給する燃料の種類の変更およびボイラ運転の負荷変動により、ORPの適正範囲が変更する場合もあるので、ボイラに供給する燃料の種類の変更およびボイラ運転の負荷が変動する際にも、ORPの適正範囲をその都度求めるようにしてもよい。
なお、プラントの運転に際しては、ORPの適正範囲の中で、最適な1つのORPの値を選定して操業するようにしている。
【0055】
ところで、例えば吸収液貯留部11bに供給する酸化用の空気17の供給量を零にしても吸収液14が過酸化状態となった場合には、吸収液14のORPが急激に上昇することとなる。
例えば吸収液14のORPの適正範囲が、50mV以上200mV以下の場合、このORPの適正範囲の上限の200mVを超えるとき、本実施例では、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19を吸収液貯留部11b内に供給し、その供給量を、ORP計18で計測した値がORPの適正範囲(50mV以上200mV以下)内になるように調整している。これにより、吸収液14のORPを適正範囲内に制御することができる。
【0056】
この運転制御は、制御装置50により行う。制御装置50は、ORP計18により計測された、吸収塔11の吸収液貯留部11bの吸収液14のORPの値に基づいて吸収液貯留部11b内に還元性添加剤供給部20から供給する還元性添加剤19の供給量を調整する。なお、この制御装置50の運転制御は自動で行うようにしてもよいし、運転作業員が手動により行うようにしてもよい。還元性添加剤供給部20は、吸収液貯留部11bの側壁に挿入された薬剤供給ラインL
21を備えている。還元性添加剤供給部20は、薬剤供給ラインL
21を介して還元性添加剤19を吸収液貯留部11b内に供給する。還元性添加剤供給部20は、還元性添加剤19を吸収液貯留部11b内に供給できる限り、いかなる構成を有していてもよい。例えば、還元性添加剤供給部20は、循環ラインL
11、分離液戻しラインL
14、もしくは吸収液供給部25から吸収液貯留部11b内に接続するラインに、接続された薬剤供給ラインL
21を備えていてもよい。この場合は、還元性添加剤供給部20は、循環ラインL
11を流れる吸収液14、分離液戻しラインL
14を流れる分離液14B、もしくは吸収液供給部25から吸収液貯留部11b内に接続するラインを流れる吸収液14に、薬剤供給ラインL
21を介して還元性添加剤19を供給する。
【0057】
ここで、吸収液貯留部11b内に供給する酸化空気17の量を零にしても吸収液14が過酸化状態となる条件は、例えばボイラの燃焼状態によって排ガス条件が変動し、排ガス中の酸素(O
2)濃度が想定より高くなる場合、計画よりも低いS(硫黄)分を含む燃料を焚いた時に、排ガス中の硫黄酸化物(SO
x)濃度が想定より低くなり、亜硫酸を酸化するための酸素(O
2)の必要量が減少した場合、または石炭に混合される有機物(例えば脂肪酸類およびフタル酸類等)により、吸収液14の発泡性が非常に高くなる場合等が想定される。
【0058】
ここで、過酸化状態であることは、以下1)から3)のいずれかのように監視される。
1)吸収液14のORPをORP計18により計測する。例えばORPが50mV以上200mV以下をORPの適正範囲として設定する場合、吸収液14のORPがORPの適正範囲の上限の200mVを超え、例えば300mVから1000mV程度となっているときには、過酸化状態であると判断される。
2)吸収液14である石膏スラリーの着色度合いが確認される。石膏分離のために循環ラインL
11から抜き出した吸収液(脱硫排水)14Aの、その着色度合いを目視又は色度計により確認される。
石膏スラリーが例えば黒又は茶色に着色されている場合は、排ガス中に含まれる重金属イオンである、例えばマンガンが酸化された酸化マンガンが生成していると考えられるため、過酸化状態であると判断される。
3)固液分離機22での脱水後の石膏23の着色度合いが確認される。吸収液14の一部を脱硫排水14Aとして抜出して、例えば脱水した後、石膏23の着色度合いを目視又は色度計により確認される。
石膏23が黒又は茶色に着色されている場合、酸化マンガンが生成していると考えられるため、過酸化状態であると判断される。
【0059】
本実施例で用いる硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19は、従来公知の還元性添加剤(例えばシリコン系、油脂系、脂肪酸系、鉱油系、アルコール系、アミド系、リン酸エステル系、金属せっけん系の消泡剤、アルコールおよびグリセリン)とは、その性質が異なる。
本発明に係る湿式排煙脱硫装置の還元剤として求められる条件としては、還元性が良好であることは勿論、吸収液14中に残留しにくいことが求められる。
【0060】
ここで、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤をイオンで表記すると、下記一般式(A)で示される。そして、[S]の価数xは、下記式(B)から算出される。本発明では、価数xが2、3又は4である、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤であることが望ましい。
S
(y)O
(z)n-・・・式(A)
x=(2z−n)/y・・・式(B)
このような条件に合致する硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19は、例えばチオ硫酸、メタ重亜硫酸、亜ジチオン酸等の薬剤を用いることができる。具体的には、硫黄オキソ酸塩としてナトリウム塩とする場合には、例えばチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)、メタ重亜硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
5)及び亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)の少なくとも1つを例示することができるが、これらに限定されるものではない。なお、チオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)、メタ重亜硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
5)、亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)の少なくとも2種類を配合するようにしてもよい。
【0061】
この硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19は、還元性が良好であると共に、吸収液14中では、分解しやすい。また、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19は、酸化されると、亜硫酸イオンとなる。この亜硫酸イオンは、石灰石膏法では、その吸収液14中に存在するので、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19を供給した場合でも、脱硫の機能を低下させることがない。
【0062】
なお、硫黄オキソ酸系の薬剤の内で他の還元性薬剤として、例えば亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)、重亜硫酸ナトリウム(NaHSO
3)も例示することができる。しかしながら、これらの薬剤は、吸収液14内で先行消費され、過酸化の状態では還元性が弱いものとなる。その結果、これらの薬剤は、微量添加による酸化抑制効果が発揮できないので、本実施例の還元性添加剤19としては、不向きとなる。
【0063】
さらに、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19として、[S]の価数が小さいものが良好である。この[S]の価数として小さいものが良好である理由について、例えばチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)、メタ重亜硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
5)、亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)を用いた場合の反応メカニズムを参照しつつ以下説明する。
【0064】
チオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)は、[S]の価数が2価である。チオ硫酸ナトリウムの解離式は以下となる。
Na
2S
2O
3⇔2Na+S
2O
32-・・・(I)
S
2O
32-+3H
2O⇔2HSO
3-+4H
++4e
-・・・(II)
【0065】
亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)は、[S]の価数が3価である。亜ジチオン酸ナトリウムの解離式は以下となる。
Na
2S
2O
4⇔2Na+S
2O
42-・・・(III)
S
2O
42-+2H
2O⇔2HSO
3-+2H
++2e
-・・・(IV)
【0066】
メタ重亜硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
5)は、[S]の価数が4価である。メタ重亜硫酸ナトリウムの解離式は以下となる。
Na
2S
2O
5⇔2Na+S
2O
52-・・・(V)
S
2O
52-+H
2O⇔2HSO
3-・・・(VI)
【0067】
ここで、還元性添加剤19の添加によりORPを適正にする観点から下記2点の機能Iおよび機能IIが特に重要となる。
【0068】
機能Iは、吸収液14中の高ORP運転で蓄積した過酸化物質を低減できることである。これは、吸収液中に過酸化物質が蓄積していると、酸化空気量のみでは、ORPの適正範囲内に調整することができないからである。
【0069】
次に、機能IIは、ORPの適正範囲(例えば50mV以上200mV以下)として、吸収液14内に捕集されている酸化された水銀イオンの大部分が石膏側に取り込まれ、石膏とともに排出されるため、吸収液中での水銀イオンの蓄積がなく、一部が金属水銀となるのが防止され、水銀の再飛散がないことである。
【0070】
ここで、吸収液14の溶存O
2を還元する反応を、還元性添加剤19としてチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)を用いた場合で説明する。
【0071】
酸素(O
2)の解離式は、以下の式(VII)となる。
4OH
-⇔2H
2O+O
2+4e
-・・・(VII)
チオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)の解離式は、上述した式(I)、(II)である。
【0072】
(II)式は、硫黄オキソ酸イオン(ここではS
2O
32-)が加水分解し、HSO
3-+4H
+になる平衡式を示している。
【0073】
(II)式の電位は、ネルンストの式より下記(VIII)式となる。
E
0=0.491−0.0391pH+0.0148log[HSO
3-]
2/[S
2O
32-]・・・(VIII)
【0074】
(II)式に示すように、右辺でH
+及びe
-が発生している事から、左辺では酸化反応が生じており、右辺では還元反応が生じている。ここで[H
+]及び[e
-]量論係数が大きいほど還元性が高く、(VIII)式で[HSO
3-]
2/[S
2O
32-]項が小さくなるので、ORPが低下、即ち還元反応の推進力が高くなる。
【0075】
このように、[S]の価数が小さいほど発生する[e
-]が多くなるため、チオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)を用いる場合には、還元性添加剤19としての添加効果が高くなり、オキソ酸(ここではチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3))の添加量が少なくて済むこととなる。よって、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19でも[S]の価数が小さい値が好ましい。よって、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19の中でも、[S]の価数が2価と小さいチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)が好ましい還元性添加剤となる。
【0076】
硫黄オキソ酸系の還元性添加剤の[S]の価数の上限は4価とするのが好ましく、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤の[S]の価数の範囲は2価以上4価以下とすることが好ましい。これは、[S]の価数が4価の亜硫酸と同等又はより強い還元力を有することが必要であり、かつ水溶性でイオンとして共存でき、さらなる酸化阻害を引き起こさない範囲とする必要があるからである。[S]の価数を2価以上とするのは、[S]の価数が0価の単体硫黄は固体として析出してしまうため不適であり、さらに[S]の価数が−2価の硫化物は酸化阻害効果が大きい上、酸の共存により発生する硫化水素(H
2S)は有毒かつ悪臭などの問題があり、取り扱いが容易でなく、好ましくないからである。
以上より、前記硫黄オキソ酸系の還元性添加剤の[S]の価数を2価以上4価以下とすることで、酸化還元電位を下げる作用が確実となり、酸化還元電位を適正範囲内に調整することができる。
【0077】
[試験例]
次に、実機の脱硫装置の吸収液の石膏スラリーを模擬した模擬スラリーと、ボイラ排ガスを模擬したSO
2を含む模擬ガスを導入して、石灰石膏法による脱硫試験を行った。
この試験の際、2価の水銀を吸収液中に所定量添加(共沈)させた。次いで、酸化剤としてMnを投入して、ORPを150mVから500mVに上昇させ、過酸化状態とした。その後、還元性添加剤としてチオ硫酸ナトリウムを微量添加し、ORPを200mVに低下させた。
この過酸化の状態(ORP500mV)と、チオ硫酸ナトリウムを添加してORPを200mVに低下させた状態とにおける、試験装置から排出されるガス中の水銀濃度を求めた。その結果を
図2に示す。
【0078】
図2は、脱硫試験結果を示す図である。
図2に示すように、高ORPの500mVとなったときの液相水銀濃度を100%とすると、チオ硫酸ナトリウムを添加して200mVに低下した後の液相水銀濃度は3%に低下し、97%除去された。
また、高ORPの500mVとなったときの再飛散水銀濃度を100%とすると、チオ硫酸ナトリウムを添加して200mVに低下した後の再飛散水銀濃度は10%に低下し、90%除去された。
【0079】
よって、本試験により、チオ硫酸ナトリウムの微量添加によりORPを200mVに低下させることで、液相水銀の蓄積量の低下と、水銀が再飛散することの抑制効果が発揮されることを確認できた。
【0080】
次に、本実施例に係る脱硫装置10Aの全体動作について説明する。
本実施例に係る脱硫装置10Aでは、例えば石炭焚ボイラからの排ガス12がガス導入部13から吸収塔11内に導入されると、循環する石灰石スラリーの吸収液14の噴出液14aと排ガス12とが接触して、排ガス12中のSO
2が吸収液14により除去される。吸収塔11の吸収液貯留部11b内に所定量の空気17が供給され、吸収液14が適正なORP(例えば150mV)となるように調節されている。このように排ガス12中の脱硫を続けて、ORP計18の計測値が安定している場合には、その状態で脱硫を継続する。これに対し、ORP計18の計測値がORPの適正範囲の上限値を超えた場合(例えばORPが200mVを超えた500mVから1000mVとなった場合)には、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19を還元性添加剤供給部20から吸収塔11内の吸収液貯留部11b内に供給し、その供給量を、ORP計18による計測値がORPの適正範囲(例えば50mV以上200mV以下)内になるように調整する。なお、ORP計18による計測値がORPの適正範囲(例えば50mV以上200mV以下)内になったときには、還元性添加剤19の供給を停止する。
【0081】
以上説明したように、脱硫装置10Aは、吸収塔11の吸収液貯留部11b内の吸収液14が過酸化状態となり、ORPの適正範囲の上限を超えた場合に、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19を供給することで、ORPを低下させて、吸収液14のORPを適正範囲内に制御することができる。
【0082】
この結果、吸収液は過酸化の状態ではなくなり、水銀の再飛散が防止されると共に、4価のセレンから6価のセレンへの酸化の促進が防止される。さらにはMnスケールの生成による腐食等も抑制され、安定した脱硫装置の運転を行うことができる。
【0083】
さらに、還元性添加剤を供給した場合でも、硫黄オキソ酸系の還元性添加剤19を用いるようにしているので、その後分解されても、亜硫酸イオン等となるので、脱硫機能を低下させることが無い。また、従来技術で提案するような還元剤(例えばシリコン系、油脂系等)がそのまま残留する場合と異なり、還元性添加剤19が分解によって残留せず、純度の高い石膏を得ることができる。