特許第6522166号(P6522166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522166
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/022 20060101AFI20190520BHJP
   H01S 5/40 20060101ALI20190520BHJP
   H01S 5/183 20060101ALI20190520BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   H01S5/022
   H01S5/40
   H01S5/183
   B23K26/073
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-561608(P2017-561608)
(86)(22)【出願日】2017年1月10日
(86)【国際出願番号】JP2017000414
(87)【国際公開番号】WO2017122611
(87)【国際公開日】20170720
【審査請求日】2018年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-5027(P2016-5027)
(32)【優先日】2016年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000161367
【氏名又は名称】株式会社アマダミヤチ
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内田 ▲高▼弘
(72)【発明者】
【氏名】梁瀬 淳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昌利
(72)【発明者】
【氏名】室木 佑斗
【審査官】 高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第7006549(US,B2)
【文献】 特表2011−520292(JP,A)
【文献】 特開2006−343712(JP,A)
【文献】 特開2015−191977(JP,A)
【文献】 特開2007−158347(JP,A)
【文献】 特開2015−115377(JP,A)
【文献】 特開2009−152524(JP,A)
【文献】 特開2009−094186(JP,A)
【文献】 特開2002−026452(JP,A)
【文献】 特開2001−119101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の標準波長に一致または近似する波長を有する一束の第1のレーザビームを出射する第1の面発光レーザと、
第2の標準波長に一致または近似する波長を有する一束の第2のレーザビームを出射する第2の面発光レーザと、
前記第1の面発光レーザからの前記第1のレーザビームと前記第2の面発光レーザからの前記第2のレーザビームとを空間的に多重合成して、合成レーザビームを出射するカップリングユニットと
を有し、
前記第1および第2の面発光レーザの各々は、
半導体基板と、この半導体基板上に形成された活性領域と、その活性領域の上に二次元的に離散して設けられた多数の発光口とを有し、各々の前記発光口より前記半導体基板の基板面に対して垂直または斜めの方向に所定の標準波長に一致または近似する波長を有する光を誘導放出する面発光レーザ素子と、
各々の前記発光口より誘導放出される光を共振増幅して単体のレーザビームを取り出すために、前記面発光レーザ素子の発光口から離間してそれと対向する位置に配置される出力ミラーと
を有する、レーザ装置。
【請求項2】
前記第1の面発光レーザは、前記単体のレーザビームの波長を前記第1の標準波長付近に狭帯域化する第1の狭帯域化素子を有し、
前記第2の面発光レーザは、前記単体のレーザビームの波長を前記第2の標準波長付近に狭帯域化する第2の狭帯域化素子を有する、
請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記第1および第2の狭帯域化素子は、前記出力ミラーとは独立に設けられる、請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記第1および第2の狭帯域化素子は、前記出力ミラーを兼用する、請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項5】
各々の前記発光口の中において、前記活性領域の上に重なって設けられる薄膜はいずれも前記誘導放出される光に対して透過性または無反射性の特性を有する、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記出力ミラーは、前記単体のレーザビームをコリメートするためのレンズ機能を有する、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記出力ミラーから独立して、前記単体のレーザビームをコリメートするための光学レンズが設けられる、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記カップリングユニットは、前記第1のレーザビームと前記第2のレーザビームとを波長カップリングにより多重合成する波長カップリング素子を有する、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項9】
前記カップリングユニットは、前記第1のレーザビームと前記第2のレーザビームとを偏光カップリングにより多重合成する偏光カップリング素子を有する、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項10】
前記カップリングユニットより出射される前記合成レーザビームを光ファイバに通して伝送するためのファイバ伝送系と、
前記光ファイバの他端より取り出される前記合成レーザビームを被処理体に向けて集光照射するレーザ出射部と
を有する請求項1に記載のレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザをレーザ光源に用いるレーザ装置に係り、特にレーザ加工に用いて好適なレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主に光通信、プリンタ、ディスプレイ等のレーザ応用分野で面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)が普及しつつある。面発光レーザは、半導体基板から基板面と垂直にレーザビームを出射するタイプの半導体レーザであり、基板面と水平にレーザビームを出射する一般(シングルエミッタ方式)の半導体レーザと比較して、高集積化、低消費電力化、量産化に有利な次世代のレーザ光源として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−114915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在普及している面発光レーザは、典型的には、4.7mm×4.7mmの発光面を有し、その発光面に二次元アレイとして形成される個々のビーム出射口の口径が18μm、そこから出射される単体レーザビームのレーザ出力は数10mWであり、二次元アレイ全体のレーザ出力は最も高くても100W程度で、しかもビーム品質が良くない。
【0005】
面発光レーザの高出力化を実現するには、ビーム出射口の口径を大きくし数を増やすことが簡明な解決法であるが、それにも限界があり、しかもビーム出射口の口径を大きくして数を増やすほど二次元アレイ全体で得られる一束のレーザビームのビーム品質が低下することが課題となっている。このため、従来の面発光レーザは、高出力および高品質のレーザビームを必要とするレーザ加工には使えないのが現状である。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、面発光レーザを用いて高出力および高品質のレーザビームを実現するレーザ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレーザ装置は、第1の標準波長に一致または近似する波長を有する一束の第1のレーザビームを出射する第1の面発光レーザと、第2の標準波長に一致または近似する波長を有する一束の第2のレーザビームを出射する第2の面発光レーザと、前記第1の面発光レーザからの前記第1のレーザビームと前記第2の面発光レーザからの前記第2のレーザビームとを空間的に多重合成して、合成レーザビームを出射するカップリングユニットとを有し、前記第1および第2の面発光レーザの各々は、半導体基板と、この半導体基板上に形成された活性領域と、その活性領域の上に二次元的に離散して設けられた多数の発光口とを有し、各々の前記発光口より前記半導体基板の基板面に対して垂直または斜めの方向に所定の標準波長に一致または近似する波長を有する光を誘導放出する面発光レーザ素子と、各々の前記発光口より誘導放出される光を共振増幅して単体のレーザビームを取り出すために、前記面発光レーザ素子の発光口から離間してそれと対向する位置に配置される出力ミラーとを有する。
【0008】
上記の構成においては、レーザ共振器の出力ミラーを面発光レーザ素子の発光口から離間してそれと対向する位置に配置する構成により、各発光口より得られる単体レーザビームの拡がり角を小さくすることが可能であり、それによって発光口の口径を大きくし数を増やしても、面発光レーザ素子全体で得られる一束のレーザビーム内で単体レーザビーム同士の重なり合いまたは相互干渉を極力少なくし、高出力とビーム品質とを両立させることができる。さらに、複数の面発光レーザより得られる各一束のレーザビームを空間的に多重合成することにより、レーザ出力の逓倍化つまり高出力化を一層効率的に実現することができる。
【0009】
本発明の好適な一態様においては、第1の面発光レーザが単体のレーザビームの波長を第1の標準波長付近に狭帯域化する第1の狭帯域化素子を有し、第2の面発光レーザが単体のレーザビームの波長を第2の標準波長付近に狭帯域化する第2の狭帯域化素子を有する。このように、各々の面発光レーザにおいて単体レーザビームの波長を標準波長付近にロックして狭帯域化することにより、空間カップリングを安定かつ高精度に行うことができる。より具体的には、カップリングユニットは、第1のレーザビームと第2のレーザビームとを波長カップリングにより多重合成する波長カップリング素子を有してよい。このような波長カップリング法によれば、面発光レーザ毎にレーザ発振波長(標準波長)をオフセットさせることにより、レーザ出力の逓倍化または高出力化を容易に実現することができる。また、別の態様として、偏光カップリング素子を用いて偏光カップリングにより第1および第2のレーザビームを多重合成することも可能である。
【0010】
別の好適な一態様においては、狭帯域化素子が出力ミラーを兼用する。この場合、狭帯域化素子は、波長の狭帯域化だけでなく、主たる外部共振器としても機能し、拡がり角が小さくて波長が安定にロックされた単体レーザビームを外部へ出射する。
【0011】
別の好適な一態様においては、各々の発光口の中で、活性領域の上に重なって設けられる薄膜がいずれも誘導放出光に対して透過性または無反射性の特性を有する。この構成によれば、活性領域の上に誘導放出される光が相当の距離を隔てた外部の出力ミラーによって反射されるので、垂直方向から斜めにずれた(つまり拡がり角の大きい)誘導放出光を効果的に単体レーザビームから除くことができる。
【0012】
別の好適な一態様においては、カップリングユニットが、第1および第2の標準波長が互いにオフセットしている第1および第2のレーザビームを波長カップリングにより多重合成する波長カップリング素子を有する。あるいは、カップリングユニットが、第1および第2の標準波長が同一である第1および第2のレーザビームを偏光カップリングにより多重合成する偏光カップリング素子を有する。波長カップリング素子と偏光カップリング素子とを併用する構成も可能である。かかる構成により、合成レーザビームの高出力化に用いる面発光レーザの数を任意に増やし、面発光レーザのレーザ出力の大幅な向上を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレーザ装置によれば、上記のような構成および作用により、面発光レーザを用いて高出力および高品質のレーザビームを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態におけるレーザ加工装置の全体構成を示す図である。
図2】上記レーザ加工装置が備える面発光レーザの要部の外観構成を示す斜視図である。
図3】上記面発光レーザにおける発光面の二次元アレイを模式的に示す平面図である。
図4】上記面発光レーザの構成を示す断面図である。
図5】上記レーザ加工装置において波長カップリング素子として用いられるダイクロイックミラーの波長−反射率特性を示す図である。
図6】別の実施形態におけるレーザ加工装置の全体構成を示す図である。
図7】別の実施形態におけるレーザ加工装置の要部の構成を示す図である。
図8】上記面発光レーザの構成の一変形例を示す断面図である。
図9】別の実施形態における面発光レーザの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0016】
[装置全体の構成]
図1に、本発明の一実施形態におけるレーザ加工装置の構成を示す。このレーザ加工装置は、レーザ溶接、レーザマーキング、レーザ切断、レーザ穴あけ等の各種レーザ加工に適用可能なレーザ装置であり、複数(この例では2つ)の面発光レーザ(VCSEL)10A,10B、カップリングユニット14、ファイバ伝送系15、レーザ出射部16、ステージ18、制御部20等で構成されている。
【0017】
制御部20は、このレーザ加工装置の各部および全体の動作を制御する。特に、各々の面発光レーザ10A,10Bについては、制御部20が、個別のレーザ電源22A,22Bを通じてそれらのレーザ発振動作(連続発振、パルス発振等)を任意に制御できるようになっている。また、レーザ出射部16にガルバノスキャナ等のスキャニング機構が搭載される場合や、ステージ18にXYテーブル等の送り機構が搭載される場合には、制御部20が、レーザ発振動作に同期して、あるいは加工ポイントの位置合わせのために、それら運動機構の動作(スキャニング動作、ワーク送り動作)を制御するようになっている。制御部20には、マン・マシン・インタフェース用の入出力装置等(図示せず)も接続されている。
【0018】
[面発光レーザの概略的な構成および作用]
図2に、面発光レーザ10A(10B)の要部の外観およびレーザ出射状態の様子を模式的に示す。面発光レーザ10A(10B)は、たとえば矩形の発光面24を有する板状の面発光レーザ素子(以下、「VCSEL素子」と称する。)26と、このVCSEL素子26の上方にその発光面24から適度な距離を置いて平行に配置される板状またはブロック状の出力ミラー28と、この出力ミラー28の上方に平行に配置される板状またはブロック状の狭帯域化素子29(図1図4)とを有している。
【0019】
VCSEL素子26の発光面24には、図3に示すように、二次元方向に離散的またはアレイ状に配置された多数の発光口30が設けられている。各発光口30の口径φは、通常のものより格段に大きく、たとえば100〜1000μmに選ばれる。発光口30の数は、図3では簡略化のため16(4×4)個で図示しているが、実際には数100個以上あるいは1000個以上である。
【0020】
発光面24の各発光口30より誘導放出される光SBのうち、VCSEL素子26に内蔵されている反射鏡34(図4)と外部の出力ミラー28ないし狭帯域化素子29との間で反射を繰り返して共振増幅されたものが、1本の単体レーザビームLBとして出力ミラー28の外へ取り出される。そして、出力ミラー28の外へ同時に取り出される単体レーザビームLBが全部合わさって、一束のレーザビームSLB(SLB)が構成される。
【0021】
この実施形態では、出力ミラー28の外に得られる各単体レーザビームLBが非常に小さな拡がり角を有しており、発光口30の口径φを相当大きなサイズ(100〜1000μm)に選び、かつ密度を高くしても、一束のレーザビームSLB(SLB)内における単体レーザビームLB同士の重なり合いまたは相互干渉を極力少なくして、ビーム品質を向上させている。
【0022】
[面発光レーザの詳細な構成および作用]
図4に、面発光レーザ10A(10B)の内部の構成(断面構成)を示す。VCSEL素子26は、たとえばGaAs系の半導体基板32を基材とし、この半導体基板32の上に通常の半導体プロセスにより多層反射鏡たとえばDBR(Distributed Bragg Reflector)34、単層または多層の下部半導体層36、活性層38、単層または多層の上部半導体層40および上部電極42を順に重ねて形成し、半導体基板32の裏面に下部電極44を形成している。通常、下部電極44は、絶縁体(図示せず)を介して冷却用のヒートシンク(図示せず)に結合される。
【0023】
下部半導体層36および上部半導体層40にはキャリア注入層が含まれている。さらに、上部半導体層40には反射防止膜も含まれている。この実施形態では、下部半導体層36および上部半導体層40を構成している薄膜は、いずれも発振波長の光に対して無反射性または透過性の特性を有している。上部電極42には、発光口30を形成する開口部42aが形成されている。活性層38の発光口30の直下に位置する部分が活性領域38aを形成する。
【0024】
この面発光レーザ10A(10B)にレーザ発振を行わせるときは、レーザ電源22A(22B)より上部電極42と下部電極44との間に駆動電圧Eが印加される。これにより、下部半導体層36および上部半導体層40を介して活性層38にキャリアが注入され、活性領域38aより所定の標準波長λと一致または近似する光SBが発光口30の外へ誘導放出される。
【0025】
ここで、該標準波長λおよびその近辺の波長に対して、光共振器を構成するために、VCSEL素子26内部の多層反射鏡34は略100%の反射率を有し、外部の出力ミラー28はたとえば1〜90%、好ましくは2〜30%の反射率を有している。活性領域38aより誘導放出される光SBのうち、多層反射鏡34と出力ミラー28ないし狭帯域化素子29との間で反射を繰り返して共振増幅されたものが、単体レーザビームLBとして出力ミラー28の外へ取り出される。
【0026】
この場合、図4に示すように、VCSEL素子26の発光口30からVCSEL素子26の基板面と垂直またはそれに近い角度で出たものは、実線SBで示すように、出力ミラー28の対向面(下面)で略垂直に反射して発光口30の中に戻ってくる。しかし、発光口30から一定角度以上拡がって出たものは、一点鎖線SB’で示すように、出力ミラー28の対向面(下面)で斜めに反射して、発光口30の中に戻ってこない。これにより、VCSEL素子26の基板面に対して垂直またはそれに近い角度で伝搬する光SBが多層反射鏡34と出力ミラー28ないし狭帯域化素子29との間で反射を繰り返して共振増幅されるので、拡がり角の小さな単体レーザビームLBが出力ミラー28の外に取り出される。
【0027】
このように、この実施形態においては、VCSEL素子26の活性領域38aの上に誘導放出される光SBが相当の距離を隔てた外部の出力ミラー28によって反射されるので、垂直方向から斜めにずれた(つまり拡がり角の大きい)誘導放出光SB’を効果的に単体レーザビームから除くことが可能であり、これによって出力ミラー28の外に得られる単体レーザビームLBの拡がり角を効果的に小さくすることができる。
【0028】
さらに、この実施形態では、単体レーザビームLBの拡がり角を一層小さくするための手段として、コリメータを好適に備える。このために、たとえば、図4に示すように、出力ミラー28の発光口30と対向する部位の上面に球面状の凸部28aを形成して、出力ミラー28にコリメートレンズの機能を持たせてよい。あるいは、図示省略するが、出力ミラー28の外に、たとえば出力ミラー28と狭帯域化素子29との間、あるいは狭帯域化素子29の外に独立のコリメートレンズを配置する構成も可能である。
【0029】
狭帯域化素子29は、たとえばVBG(Volume Bragg Grating)またはVHG(Volume Holographic Grating)からなり、外部共振器としても機能し、面発光レーザ10A(10B)より出射される単体のレーザビームLBないし一束のレーザビームSLB(SLB)の波長幅を十分狭い帯域λSA±Δλ(λSB±Δλ)に狭帯域化し、かつ中心波長のバラツキを抑えて標準波長λSA(λSB)付近にロックする。ここで、一方の面発光レーザ10におけるレーザ発振の標準波長λSAと、他方の面発光レーザ10Bにおけるレーザ発振の標準波長λSBとの間には、それぞれの波長幅が重ならないように、一定のオフセットλが設けられている(図5)。一例として、λSA=950nm、λSB=960nm、Δλ,Δλ=0.1〜3nm、λ=10nmである。
【0030】
この実施形態によれば、VCSEL素子26の発光口30が大きな口径(100〜1000μm)を有し、しかもレーザ発振の波長が狭帯域で安定にロックされるので、100mW以上の高出力の単体レーザビームLBを実現することが可能である。したがって、VCSEL素子26の1チップ上にそのような大きな口径の発光口30をたとえば1個当たり100mWで1000個以上設けることにより、100W以上のレーザ出力を有し、かつ高ビーム品質の一束のレーザビームSLB(SLB)を得ることができる。
【0031】
[装置全体の作用]
この実施形態においては、上記のように、VCSEL素子26、出力ミラー28および狭帯域化素子29で構成される一対の面発光レーザ10A,10Bにより、大きなビーム径を有しつつ拡がり角の小さい狭帯域化された多数の高出力単体レーザビームLBからなり、それぞれの波長が相互に重なり合わない一束のレーザビームSLB,SLBが出力される。
【0032】
図1において、一方の面発光レーザ10Aより出力される一束のレーザビームSLBと,他方の面発光レーザ10Bより出力される一束のレーザビームSLBとは、同一平面上で互いに直交してカップリングユニット14に入射する。このカップリングユニット14は、図5の曲線Mで示すような反射率特性を有するダイクロイックミラー50からなり、一方のレーザビームSLBを透過させるとともに、他方のレーザビームSLBを直角に折り返してレーザビームSLBの進行する方向に反射する。ここで、両レーザビームSLB,SLBはそれぞれの波長が重なり合わないので、波長カップリングによって空間的に多重合成される。特に、双方の面発光レーザ10A,10Bにおいて狭帯域化素子29により両レーザビームSLB,SLBの波長をそれぞれの標準波長λSA,λSB付近にロックして狭帯域化しているので、ダイクロイックミラー50において安定かつ高精度の波長カップリングを行うことかできる。
【0033】
ダイクロイックミラー50で両レーザビームSLB,SLBの波長カップリングによって得られた合成レーザビームSLBABは、入射ユニット(集光レンズ)52および光ファイバ54を有するファイバ伝送系15を介してレーザ出射部16に伝送され、レーザ出射部16内の集光レンズ(図示せず)によりステージ18上の被加工物Wに集光照射される。
【0034】
このレーザ加工装置は、高出力および高ビーム品質の合成レーザビームSLBABを被加工物Wに集光照射することにより、レーザ溶接、レーザマーキング、レーザ切断、レーザ穴あけ等の各種レーザ加工を所望の仕様で良好に行うことができる。
【0035】
[他の実施形態又は変形例]
本発明の技術思想によれば、上述した実施形態の延長あるいは変形として、種種の他の実施形態が可能である。
【0036】
図6に示す実施形態は、カップリングユニット14として、波長カップリング素子50の代わりに偏光カップリング素子56を用いる構成例を示す。
【0037】
この場合、一方の面発光レーザ10Aより標準波長λSAを有する一束のレーザビームSLBがP偏光で出力され、他方の面発光レーザ10Bより標準波長λを有する一束のレーザビームSLBがS偏光で出力される。ここで、標準波長λSAと標準波長λSBは同じ値に選定される。図示省略するが、P偏光またはS偏光の作成に1/2波長板を用いてよい。偏光カップリング素子56は、たとえば偏光ビームスプリッタからなり、互いに直交して入射するレーザビームSLB,SLBを偏光カップリングによって空間的に多重合成して、直進する側のレーザビームSLBの進行方向に標準波長λSA(λSB)を有する合成レーザビームSLBABを出射する。
【0038】
図7に示す実施形態は、カップリングユニット14において波長カップリング素子50と偏光カップリング素子56とを併用し、合成レーザビームの高出力化に用いる面発光レーザ(VCSEL)10の数を大幅(図示の例は6個)に増やしている。
【0039】
この場合、6個の面発光レーザ(VCSEL)10A〜10Fは、3組のペア(10A/10B)、(10C/10D)、(10E/10F)に分割される。第1組のペア(10A/10B)では、一方の面発光レーザ10Aより標準波長λSAを有する一束のレーザビームSLBがP偏光で出力され、他方の面発光レーザ10Bより標準波長λSB(ただし、λSB=λSA)を有する一束のレーザビームSLBがS偏光で出力される。そして、両レーザビームSLB,SLBが互いに直交して第1の偏光カップリング素子56(1)に入射し、そこで偏光カップリングされ、標準波長λSB(λSB)を有する合成レーザビームSLBABが得られる。
【0040】
同様に、第2組のペア(10C/10D)では、一方の面発光レーザ10Cより標準波長λSC(ただし、λSC=λSA+λK1)を有する一束のレーザビームSLBがP偏光で出力され、他方の面発光レーザ10Dより標準波長λSD(ただし、λSD=λSC)を有する一束のレーザビームSLBがS偏光で出力される。そして、両レーザビームSLB,SLBが互いに直交して第2の偏光カップリング素子56(2)に入射し、そこで偏光カップリングされ、標準波長λSC(λSD)を有する合成レーザビームSLBCDが得られる。また、第3組のペア(10E/10F)では、一方の面発光レーザ10Eより標準波長λSE(ただし、λSE=λSC+λK2)を有する一束のレーザビームSLBがP偏光で出力され、他方の面発光レーザ10Fより標準波長λSF(ただし、λSF=λSE)を有する一束のレーザビームSLBがS偏光で出力される。そして、両レーザビームSLB,SLBが互いに直交して第3の偏光カップリング素子56(3)に入射し、そこで偏光カップリングされ、標準波長λSE(λSF)を有する合成レーザビームSLBEFが得られる。
【0041】
第1の偏光カップリング素子56(1)より出射された標準波長λSA(λSB)を有する合成レーザビームSLBABと、第2の偏光カップリング素子56(2)より出射された標準波長λSC(λSD)を有する合成レーザビームSLBCDは、互いに直交して第1の波長カップリング素子50(1)に入射して、そこで波長カップリングされ、2種類の標準波長λSA(λSB),λSC(λSD)を有する合成レーザビームSLBABCDが得られる。
【0042】
この合成レーザビームSLBABCDは、第2の波長カップリング素子50(2)に入射し、それと直交する第3組のペア(10E/10F)からの標準波長λSE(λSF)を有する合成レーザビームSLBEFと波長カップリングされる。こうして、第2の波長カップリング素子50(2)より、6個の面発光レーザ10A〜10Fのレーザ出力が全部足し合わさった3種類の標準波長λSA(λSB),λSC(λSD),λSE(λSF)を有する高出力の合成レーザビームSLBABCDEFが後段のレーザ光学系(図示せず)に向けて出射される。
【0043】
図8に示す実施形態は、面発光レーザ(VCSEL)10において、出力ミラー28を、VCSEL素子26の各々の発光口30と対応する位置に個別に配置する構成を特徴としている。この場合も、単体レーザビームLBの拡がり角を可及的に小さくするために、個々の出力ミラー28にコリメートレンズの機能を持たせてもよく、あるいは個々の出力ミラー28の後段に独立したコリメートレンズ(図示せず)を配置してよい。
【0044】
図9に示す実施形態は、面発光レーザ(VCSEL)10において、狭帯域化素子29に出力ミラー28を兼用させる構成を特徴としている。すなわち、狭帯域化素子29は、波長の狭帯域化だけでなく、外部共振器としても機能するので、これを出力ミラーに利用することができる。この場合も、単体レーザビームLBの拡がり角を可及的に小さくするために、狭帯域化素子29の後段にコリメートレンズ(図示せず)を配置することができる。
【0045】
なお、上記実施形態は、上述したように、上部半導体層40に反射防止膜を設け、さらには上部半導体層40の各層を無反射性または透過性とするする構成を好適に採る。しかし、一変形例または一構成例として、上部半導体層40の中に反射性の膜を設けることも可能である。
【0046】
また、本発明のレーザ装置は、上記実施形態のようなレーザ加工装置に適用して特に大なる利点を有するが、たとえばレーザ医療装置等の他のアプリケーションにも適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10,10A〜10F 面発光レーザ(VCSEL)
14 カップリングユニット
15 ファイバ伝統系
16 レーザ出射部
20 制御部
26 面発光レーザ素子(VCSEL素子)
28 出力ミラー
29 狭帯域化素子(VBG/VHG)
30 発光口
32 半導体基板
38a 活性領域
42a 開口部
50,50(1),50(2) 波長カップリング素子
56,56(1),56(2),56(3) 偏光カップリング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9