特許第6522185号(P6522185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6522185-複合半透膜 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522185
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】複合半透膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20190520BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20190520BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20190520BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20190520BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20190520BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   B01D71/56
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D69/02
   B01D69/00
   B01D71/38
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-40783(P2018-40783)
(22)【出願日】2018年3月7日
(62)【分割の表示】特願2013-229789(P2013-229789)の分割
【原出願日】2013年11月5日
(65)【公開番号】特開2018-108589(P2018-108589A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2018年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越前 将
(72)【発明者】
【氏名】高本 敦人
(72)【発明者】
【氏名】榊原 康之
(72)【発明者】
【氏名】松井 かずさ
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰輔
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−013888(JP,A)
【文献】 特開2006−068644(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152484(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00− 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布層の片面にポリマー多孔質層を有し、そのポリマー多孔質層上にポリアミド系分離機能層を有する複合半透膜において、前記複合半透膜の厚さが90μm以下であり、前記ポリマー多孔質層の厚さと不織布層の厚さからなる比が0.22〜0.45である複合半透膜。
【請求項2】
圧力1.5MPaで純水を透過させたときの初期透過流束(F0)が1.0m/m/d以上であって、さらに5.5MPaの圧力で純水を4時間加圧通水させた後、圧力1.5MPaで純水を透過させたときの透過流束(F1)が1.0m/m/d以上であり、且つそれらの比(F1/F0)が0.8以上である請求項1記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記ポリマー多孔質層の厚さが10μm以上35μm以下である請求項1または2記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記不織布層の厚さが78μm以下であり、且つ前記ポリマー多孔質層の厚さが10μm以上29μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記ポリアミド系分離機能層が、ピペラジンまたはm−フェニレンジアミンを用いた多官能アミン成分からなる分離機能層である請求項1〜4のいずれかに記載の複合半透膜。
【請求項6】
前記ポリアミド系分離機能層の表面をケン化度99%以上のポリビニルアルコールでコーティングした請求項1〜5のいずれかに記載の複合半透膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種液体から特定物質等を分離・濃縮するための複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水資源を安定的に確保することが難しい乾燥・半乾燥地域の沿岸部大都市においては海水を脱塩して淡水化することが試みられている。さらに中国やシンガポールなど水資源の乏しい地域では工業排水や家庭排水を浄化し再利用する試みがなされている。さらに最近では、油田プラント等から出る油分まじりの濁質度の高い排水から油分や塩分を除去することで、このような水を再利用するといった取り組みも試みられている。このような水処理にはコストや効率等の面で複合半透膜を用いた膜法が有効であることが分かっている。このような水処理方法では、連続的に1〜7MPa程度の高圧で連続的にスパイラル型の複合半透膜エレメントを有する膜モジュールに被処理水が供給される。(特許文献1または2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−299947号公報
【特許文献2】特開2006−130497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に近年の膜処理効率の向上に伴うエネルギー効率の向上とともに、濁質分が多く目詰まりしやすい排水を効率よく処理するための複合半透膜が検討されている。このような濁質分が多い処理水を膜処理する場合には、多くの場合、処理を一旦停止させて、塩素等の洗浄剤とともに水流を逆流させるなどの洗浄を施す必要がある。しかしながらこれらの方法では停止に伴う処理効率の低下や、洗浄剤による膜の劣化が問題となっている。このような問題に対して実際の運転では、できるだけ洗浄回数を減らすために、必要な透過流量に応じて加圧圧力を上昇させる方法がとられる場合がある。
【0005】
本発明ではこのような方法を用いる場合にも処理効率(特にFlux)が高く、高圧下での圧力上昇操作時にも処理効率が劣化しにくい複合半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高圧連続使用時の透過流束(Flux)低下に対して鋭意検討の結果、高圧使用初期の膜状態の変化に要因を見出し、複合半透膜を本発明の構成にすることにより、高圧使用での不具合が解決できることを見出した。以下に本発明について説明する。
【0007】
本発明は、不織布層の片面にポリマー多孔質層を有し、そのポリマー多孔質層上にポリアミド系分離機能層を有する複合半透膜において、前記ポリマー多孔質層の厚さと不織布層の厚さからなる比が0.22〜0.45である複合半透膜に関する。
【0008】
前記複合半透膜は、圧力1.5MPaで純水を透過させたときの透過流束(F0)が1.0m/m/d以上であって、さらに5.5MPaの圧力で純水を用いて4時間加圧通水させた後に、圧力1.5MPaで純水を透過させたときの透過流束(F1)が1.0m/m/d以上であり、且つ加圧通水前後の透過流束比(F1/F0)、つまり透過流束保持率(F1/F0×100)が80%以上の複合半透膜である。
【0009】
前記複合半透膜における前記ポリマー多孔質層の厚さは10μm以上35μm以下であることが好ましい。さらには、32μm以下であることがより好ましく、29μm以下とすることが特に好ましく、23μm以下とすることが最も好ましい。前記不織布層の厚さは120μm以下とすることが好ましい。
【0010】
前記ポリアミド系分離機能層は、ピペラジンまたはm−フェニレンジアミンを用いた多官能アミン成分からなるものが好ましい。また、前記ポリアミド系分離機能層の表面にはケン化度99%以上のポリビニルアルコールでコーティングすることでさらに本発明の機能を高めることができる。
【0011】
前記本発明の複合半透膜は、特にこれに限定されるものではないが、二つ折りにした封筒状膜と流路材を積層し、壁面に複数の孔を有する有孔中空管に巻回し、端部材及び外装材を用いて一体化したスパイラル型複合半透膜エレメントとして用いることが好ましい。このような複合半透膜エレメントにおいて本発明の複合半透膜を用いると、前記封筒状膜を30〜40組用いることができるため、さらにエレメントの高効率化に寄与する。
【0012】
また、前記スパイラル型複合半透膜エレメントにおいて、前記封筒状膜の内面部に設ける流路材の厚さは0.9mm以上1.3mm以下のものを用いることで、さらに本発明の複合半透膜を用いたスパイラル型複合半透膜エレメントの透過流束保持率を高めることができることを見出している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に用いることのできるスパイラル型複合半透膜エレメントの構造の一例を示す一部切欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、不織布層の片面にポリマー多孔質層を有し、さらにその上にポリアミド系分離機能層を有する複合半透膜であって、前記ポリマー多孔質層の厚さと前記不織布層の厚さからなる比(ポリマー多孔質層の厚さ/不織布層の厚さ)を0.22〜0.45とすることにより、1〜7MPa程度の高圧処理化で複合半透膜を連続使用しても、従来よりも透過流束(Flux)が著しく低下しにくい複合半透膜を見出したものである。
【0015】
前記複合半透膜は、不織布とポリマー多孔質層からなる複合半透膜支持体のポリマー多孔質層上にポリアミド系分離機能層を有するものであれば特に限定されるものではなく、平膜の場合、その厚さは40〜200μm程度である。この複合半透膜が薄すぎると処理時の圧力によって膜面に欠落が生じるなど、高圧処理が困難となる。したがって、55μm以上が好ましく、75μm以上がより好ましい。一方で、複合半透膜が薄いほど一定のエレメント空間に多くの膜を装填することができるようになるため、その性能を高めることができる。そのため、120μm以下とすることが好ましく、90μm以下とすることがより好ましい。このような複合半透膜はその濾過性能や処理方法に応じてRO(逆浸透)膜、NF(ナノ濾過)膜、FO(正浸透)膜と呼ばれ、超純水製造や、海水淡水化、かん水の脱塩処理、排水の再利用処理などに用いることができる。
【0016】
前記ポリアミド系分離機能層としては、一般に、視認できる孔のない均質膜であって、所望のイオン分離能を有する。この分離機能層としては前記ポリマー多孔質層から剥離しにくいポリアミド系薄膜であれば特に限定されるものではないが、例えば、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを多孔性支持膜上で界面重合させてなるポリアミド系分離機能層がよく知られている。このようなポリアミド系分離機能層はひだ状の微細構造を有することが知られており、この層の厚さは特に限定されるものではないが、0.05〜2μm程度であって、好ましくは0.1〜1μmである。この層が薄すぎると膜面欠陥が生じやすくなり、厚すぎると透過性能が悪化することが知られている。
【0017】
前記ポリアミド系分離機能層を前記ポリマー多孔質層の表面に形成する方法は特に制限されずにあらゆる公知の方法を用いることができる。例えば、界面重合法、相分離法、薄膜塗布法などの方法が挙げられるが、本発明では特に界面重合法が好ましく用いられる。界面重合法は例えば、前記ポリマー多孔質層上を多官能アミン成分含有アミン水溶液で被覆した後、このアミン水溶液被覆面に多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液を接触させることで界面重合が生じ、スキン層を形成する方法である。この方法では、アミン水溶液及び有機溶液の塗布後、適宜余剰分を除去して進めることが好ましく、この場合の除去方法としては対象膜を傾斜させて流す方法や、気体を吹き付けて飛ばす方法、ゴム等のブレードを接触させて掻き落とす方法などが好ましく用いられている。
【0018】
また、前記工程において、前記アミン水溶液と前記有機溶液が接触するまでの時間は、アミン水溶液の組成、粘度及び多孔性支持膜の表面の孔径にもよるが、1〜120秒程度であり、好ましくは2〜40秒程度である。前記の間隔が長すぎる場合には、アミン水溶液が多孔性支持膜の内部深くまで浸透・拡散し、未反応多官能アミン成分が多孔性支持膜中に大量に残留し、不具合が生じる場合がある。前記溶液の塗布間隔が短すぎる場合には、余分なアミン水溶液が残存しすぎるため、膜性能が低下する傾向にある。
【0019】
このアミン水溶液と有機溶液との接触後には、70℃以上の温度で加熱乾燥してスキン層を形成することが好ましい。これにより膜の機械的強度や耐熱性等を高めることができる。加熱温度は70〜200℃であることがより好ましく、特に好ましくは80〜130℃である。加熱時間は30秒〜10分程度が好ましく、さらに好ましくは40秒〜7分程度である。
【0020】
前記アミン水溶液に含まれる多官能アミン成分は、2以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンであり、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能アミンが挙げられる。 前記芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、N,N’−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。前記脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、n−フェニル−エチレンジアミン等が挙げられる。前記脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に本発明では、逆浸透膜性能において高阻止率を求める場合には緻密性の高い分離機能層が得られるm−フェニレンジアミンを主成分とすることが好ましく、また、NF膜性能において高いFlux保持率を求める場合にはピペラジンを主成分とすることが好ましい。
【0021】
前記有機溶液に含まれる多官能酸ハライド成分は、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドであり、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。前記芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。前記脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。前記脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これら多官能酸ハライドは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能のスキン層を得るためには、芳香族多官能酸ハライドを用いることが好ましい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを用いて、架橋構造を形成することが好ましい。
【0022】
前記界面重合法において、アミン水溶液中の多官能アミン成分の濃度は特に限定されるものではないが、0.1〜7重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜5重量%である。多官能アミン成分の濃度が低すぎると、スキン層に欠陥が生じやすくなり、塩阻止性能が低下する傾向にある。一方で多官能アミン成分の濃度が高すぎる場合には、厚くなりすぎて透過流束が低下する傾向にある。
【0023】
前記有機溶液中の多官能酸ハライド成分の濃度は特に制限されないが、0.01〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.05〜3重量%である。多官能酸ハライド成分の濃度が低すぎると、未反応多官能アミン成分が増加するため、スキン層に欠陥が生じやすくなる。一方、多官能酸ハライド成分の濃度が高すぎると、未反応多官能酸ハライド成分が増加するため、スキン層が厚くなりすぎて透過流束が低下する傾向にある。
【0024】
前記多官能酸ハライドを含有させる有機溶媒としては、水に対する溶解度が低く、多孔性支持膜を劣化させることなく、多官能酸ハライド成分を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びノナン等の飽和炭化水素、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン置換炭化水素などを挙げることができる。好ましくは沸点が300℃以下、さらに好ましくは沸点が200℃以下の飽和炭化水素である。
【0025】
前記アミン水溶液や有機溶液には、各種性能や取り扱い性の向上を目的とした添加剤を加えてもよい。前記添加剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールや、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、重合により生成するハロゲン化水素を除去する水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、及びトリエチルアミン等の塩基性化合物、アシル化触媒及び、特開平8−224452号公報記載の溶解度パラメータが8〜14(cal/cm1/2の化合物などが挙げられる。
【0026】
前記ポリアミド系分離機能層の露出表面には、各種ポリマー成分からなるコーティング層を設けてもよい。前記ポリマー成分は、分離機能層及び多孔性支持膜を溶解せず、また水処理操作時に溶出しないポリマーであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、及びケン化ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらのうち、ポリビニルアルコールを用いることが好ましく、特にケン化度が99%以上のポリビニルアルコールを用いるか、ケン化度90%以上のポリビニルアルコールを前記スキン層のポリアミド系樹脂と架橋させることで、水処理時に溶出しにくい構成とすることが好ましい。このようなコーティング層を設けることにより、膜表面の電荷状態が調整されるとともに親水性が付与されるため、汚染物質の付着を抑制することができ、さらに本発明との相乗効果によりFlux保持効果をより高めることができる。
【0027】
前記不織布層としては、前記複合半透膜の分離性能および透過性能を保持しつつ、適度な機械強度を付与するものであれば特に限定されるものではなく、市販の不織布を用いることができる。この材料としては例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、セルロースなどからなるものが用いられ、複数の素材を混合したものも使用することができる。特に成形性の点ではポリエステルを用いることが好ましい。また適宜、長繊維不織布や短繊維不織布を用いることができるが、ピンホール欠陥の原因となる微細な毛羽立ちや膜面の均一性の点から、長繊維不織布を好ましく用いることができる。また、このときの前記不織布層単体の通気度としては、これに限定されるものではないが、0.5〜10cm/cm・s程度のものを用いることができ、1〜5cm/cm・s程度のものが好ましく用いられる。
【0028】
前記不織布層の厚さは120μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、78μm以下が特に好ましい。この厚さが厚すぎると透過抵抗が高くなりすぎるためFluxが低下しやすくなり、逆に薄すぎると複合半透膜支持体としての機械強度が低下し、安定した複合半透膜が得られにくくなるため、30μm以上が好ましく、45μm以上がより好ましい。
【0029】
前記ポリマー多孔質層としては、前記ポリアミド系分離機能層を形成しうるものであれば特に限定されないが、通常、0.01〜0.4μm程度の孔径を有する微多孔層である。前記微多孔層の形成材料は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンに例示されるポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができる。特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホンを用いたポリマー多孔質層を形成することが好ましい。
【0030】
前記ポリマー多孔質層の厚さは、本発明では35μm以下とすることが好ましく、32μm以下がより好ましい。厚すぎると、加圧後のFlux保持率が低下しやすくなることが分かっている。さらには、29μm以下が特に好ましく、23μm以下が最も好ましい。この程度まで薄く形成することでさらにFlux保持率の安定性を高めることができる。また、薄すぎると欠陥が生じやすくなるため、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。
【0031】
前記ポリマー多孔質層のポリマーがポリスルホンである場合の製造方法について例示する。ポリマー多孔質層は一般に湿式法または乾湿式法と呼ばれる方法により製造できる。まず、ポリスルホンと溶媒及び各種添加剤を溶解した溶液準備工程と、前記溶液で不織布上を被覆する被覆工程と、この溶液中の溶媒を蒸発させてミクロ相分離を生じさせる乾燥工程と、水浴等の凝固浴に浸漬することで固定化する固定化工程を経て、不織布上のポリマー多孔質層を形成することができる。前記ポリマー多孔質層の厚さは、不織布層に含浸される割合も計算の上、前記溶液濃度及び被覆量を調整することで設定することができる。
【0032】
本発明では、このようにして得られた複合半透膜支持体の前記ポリマー多孔質層の厚さと前記不織布層の厚さからなる比(ポリマー多孔質層の厚さ/不織布層の厚さ)を、0.22〜0.45の範囲とすることで、5.5MPaの圧力で純水を用いて4時間加圧通水した前後の複合半透膜を用いて、圧力1.5MPaで純水を透過させたときの透過流束保持率が80%以上となることを見出した。これはポリマー多孔質層と不織布層の厚さバランス次第でFlux保持率が大きく変わるものと推測され、各層の圧縮程度の相関によって、分離機能層周辺の流れに影響を与えられているものと考えられる。この範囲は、0.23〜0.38とすることがより好ましい。
【0033】
本発明では、前記不織布層及び前記ポリマー多孔質層を前記の厚さ比とし、前記ポリアミド系分離機能層を形成することで、圧力1.5MPaで純水を透過させたときの初期の透過流束を1.0m/m/d以上、好ましくは1.3m/m/d以上、より好ましくは1.5m/m/d以上の複合半透膜を得ることができる。前記透過流束は加圧通水後の複合半透膜においても前記透過流束を保持していることが好ましい。特に本発明では、圧力1.5MPaで純水を透過させたときの初期透過流束(F0)が1.0m/m/d以上であって、さらに5.5MPaの圧力で純水を4時間加圧通水させた後、圧力1.5MPaで純水を透過させて測定した透過流束(F1)が1.0m/m/d以上であって、且つそれらの比(F1/F0)が0.8以上、より好ましくは0.85以上の複合半透膜を得ることができる。
【0034】
前記複合半透膜は、通常、膜エレメントの形態に加工され、圧力容器(ベッセル)に装填されて使用される。膜エレメントの形態としては特に限定されるものではなく、フレームアンドプレート型などの平膜型、スパイラル型、プリーツ型などが挙げられるが、一般に圧力と流れ効率の関係よりスパイラル型複合半透膜エレメントとして好ましく用いることができる。前記スパイラル型複合半透膜エレメントは、二つ折りにした複合半透膜の内面側(凹面側)の流路材と、外面側の流路材とが積層された状態で、複数の壁面孔を有する中心管(有孔中空管)の周囲に巻回され、さらに端部材や外装材などで固定されて使用される。
【0035】
このようなスパイラル型複合膜エレメントにおいては通常、前記封筒状膜は20〜30組程度巻回されるが、本発明を用いると30〜40組の封筒状膜を巻回することが可能となる。これにより、さらに大量の処理が可能となるため、処理効率が格段に上がることがわかっている。
【0036】
なお、流路材は一般に、膜面に流体を満遍なく供給するための間隙を確保する役割を有する。このような流路材は、例えばネット、編み物、凹凸加工シートなどを用いることができ、最大厚さが0.1〜3mm程度のものを適宜必要に応じて用いることができる。このような流路材では、圧力損失が低い方が好ましく、さらに適度な乱流効果を生じさせるものが好ましい。また、流路材は分離膜の両面に設置するが、供給液側には供給側流路材、透過液側には透過側流路材として、異なる流路材を用いることが一般的である。供給側流路材では目が粗く厚いネット状の流路材を用いる一方で、透過側流路材では目の細かい織物や編物の流路材を用いる。
【0037】
前記供給側流路材は、海水淡水化や排水処理等の用途において、RO膜やNF膜を用いる場合に、前記の二つ折りにした複合半透膜の内面側に設けられる。供給側流路材の構造は、一般に線状物を格子状に配列した網目構造のものを好ましく利用することができる。構成する材料としては特に限定されるものではないが、ポリエチレンやポリプロピレンなどが用いられる。これらの樹脂は殺菌剤や抗菌剤を含有していてもよい。この供給側流路材の厚さは、一般に0.2〜2.0mmであり、0.5〜1.0mmが好ましい。厚さが厚すぎるとエレメントに収容できる膜の量とともに透過量が減ってしまい、逆に薄すぎると汚染物質が付着しやすくなるため、透過性能の劣化が生じやすくなる。特に本発明では、0.9〜1.3mmの供給側流路材と組みわせることで、汚染物質が堆積しにくくなるとともに、バイオファウリングも生じにくくなるため、連続使用時にもFluxの低下を抑制することができる。
【0038】
前記透過側流路材は、海水淡水化や排水処理等の用途において、RO膜やNF膜を用いる場合に、前記の二つ折りにした複合半透膜の外面側に設けられる。この透過側流路材には膜にかかる圧力を膜背面から支えるとともに、透過液の流路を確保することが求められる。一般にはポリエチレンやポリプロピレンから構成されるネットやトリコット編物が用いられる。特にポリエチレンテレフタレートからなるトリコット編物が特に好ましく用いられる。
【0039】
前記中心管としては、パイプ(中空管)の壁面に複数の小孔を有する有孔中空管であれば特に限定されるものではない。一般に海水淡水化や排水処理等で用いる場合には、複合半透膜を経た透過水が壁面の孔から中空管中に侵入し、透過水流路を形成する。中心管の長さはエレメントの軸方向長さより長いものが一般的だが、複数に分割するなど連結構造の中心管を用いてもよい。中心管を構成する材料としては特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が用いられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
厚さ61.0μmの市販の水処理膜支持体用ポリエステル製不織布の表面に、ポリスルホンとジメチルホルムアミドの混合溶液を塗布及び凝固処理することで厚さ21.1μmのポリマー多孔質層を形成し、複合半透膜支持体を準備した。この複合半透膜支持体のポリマー多孔質層表面に、ピペラジン6水和物3.6重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%を混合した溶液Aを接触させた後、余分の溶液Aを除去して、溶液Aの被覆層を形成した。次いで、溶液A被覆層の表面に、ヘキサン溶媒中にトリメシン酸クロライド0.4重量%を含有する溶液Bを接触させた。その後、120℃の環境下で乾燥することで分離機能層を形成し、複合半透膜とした。
【0042】
(実施例2)
厚さ114.0μmのポリエステル製不織布の表面に、厚さ27.2μmのポリマー多孔質層を形成した複合半透膜支持体を用いた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。
【0043】
(実施例3)
厚さ109.8μmのポリエステル製不織布の表面に、厚さ31.2μmのポリマー多孔質層を形成した複合半透膜支持体を用いた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。
【0044】
(実施例4)
厚さ107.6μmのポリエステル製不織布の表面に、厚さ31.8μmのポリマー多孔質層を形成した複合半透膜支持体を用いた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。
【0045】
(比較例1)
厚さ96.0μmのポリエステル製不織布の表面に、厚さ19.1μmのポリマー多孔質層を形成した複合半透膜支持体を用いた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。
【0046】
(比較例2)
厚さ61.8μmのポリエステル製不織布の表面に、厚さ28.3μmのポリマー多孔質層を形成した複合半透膜支持体を用いた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。
【0047】
(比較例3)
厚さ65.9μmのポリエステル製不織布の表面に、厚さ30.9μmのポリマー多孔質層を形成した複合半透膜支持体を用いた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。
【0048】
実施例及び比較例で得られたシートについて以下の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
(透過流束(Flux)測定)
得られた複合半透膜をテストユニット(日東電工(株)製:C40−B)にセットし、温度25℃の純水を用いて操作圧力1.5MPaでの初期の透過流束を測定した。次に、5.5MPaの操作圧力で4時間加圧通水した後、初期と同様に温度25℃の純水を用いて操作圧力1.5MPaで透過流束を測定し、加圧前後の透過流束比率を算出した。
【0050】
(厚さ測定)
厚さ測定は市販の厚さ測定器((株)尾崎製作所製:ダイヤルシックネスゲージ G−7C)を用いて測定を行った。不織布層とポリマー多孔質層の厚さ測定については、あらかじめ不織布層の厚さを測定しておき、その不織布層上にポリマー多孔質層を形成した状態で複合半透膜支持体全体の厚さを測定した。その後、複合半透膜支持体の厚さと不織布の厚さの差を求め、ポリマー多孔質層の厚さとした。各厚さ測定では同一膜面における任意十点測定値の平均値を用いた。
【0051】
【表1】
【0052】
上記表1に示す通り、本発明の構成による実施例1〜4では80%以上の透過流束(Flux)保持率を有しており、その効果は良好である。一方で本発明の構成を外れる比較例1〜3は透過流束(Flux)保持率が著しく低下してしまう。
【産業上の利用可能性】
【0053】
上記の通り本発明は、高いFlux性能を有するためエネルギー効率を著しく高めることができるとともに、高圧処理前後でも高いFlux保持を可能としている。これによって、特に供給液の濁質分が高い油田や工場等の排水処理において有効に寄与できる。
【符号の説明】
【0054】
1 スパイラル型複合半透膜エレメント
2 複合半透膜
3 透過側流路材
4 封筒状膜
5 中心管
6 供給側流路材
7 供給水
8 透過水
9 濃縮水
図1