(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気化器によって改質用水を水蒸気化した水蒸気を用いて、炭化水素原料を水蒸気改質して、水素を主成分とした改質ガスを生成する改質装置と、改質装置から放出された改質ガスをオフガスと水素とに分離して水素を精製する水素精製器と、を備えた水素製造装置であって、
前記気化器を加熱する加熱部と、
前記加熱部を制御して、起動時期までに前記改質用水を前記水蒸気化し得る温度まで予熱する予熱制御部とを有し、
前記予熱制御部が、
前記改質装置、前記水素精製器、及び周辺機器が起動する起動時期を取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記起動時期よりも予め定めた時間前の時期を予熱開始時期とし、当該予熱開始時期に前記加熱部での前記気化器の予熱開始を指示する予熱指示部と、
を備えることを特徴とする水素製造装置。
前記データベースに蓄積されたデータ量が不足しており、前記機械学習による起動時期の予測が不可能な場合に、予め定められた標準起動時期に基づいて予熱開始時期を取得することを特徴とする請求項3記載の水素製造装置。
前記加熱部が、水素製造の工程に関わらず、前記気化器を加熱する専用の手段として設けられた電気ヒータであることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項記載の水素製造装置。
気化器によって改質用水を水蒸気化した水蒸気を用いて、炭化水素原料を水蒸気改質して、水素を主成分とした改質ガスを生成する改質装置と、改質装置から放出された改質ガスをオフガスと水素とに分離して水素を精製する水素精製器と、を備えた水素製造装置による水素製造方法であって、
前記気化器を加熱して、起動時期までに前記改質用水を前記水蒸気化し得る温度まで予熱する場合に、
前記改質装置、前記水素精製器、及び周辺機器が起動する起動時期を取得し、
取得した前記起動時期よりも予め定めた時間前の時期を予熱開始時期とし、
当該予熱開始時期に前記気化器の予熱開始を指示する、
ことを特徴とする水素製造方法。
前記データベースに蓄積されたデータ量が不足しており、前記機械学習による起動時期の予測が不可能な場合に、予め定められた標準起動時期に基づいて予熱開始時期を取得することを特徴とする請求項8記載の水素製造方法。
前記気化器の加熱を、水素製造の工程に関わらず、前記気化器を加熱する専用の手段として設けられた電気ヒータで加熱することを特徴とする請求項6〜請求項9の何れか1項記載の水素製造方法。
【背景技術】
【0002】
水素を得るための水素製造装置としては、原料炭化水素を水蒸気改質装置で改質ガスに改質した後、PSA(Pressure Swing Adsorption)装置へ供給する構成がある。この水素製造装置では、PSA装置から送出されたオフガスを改質器のバーナに供給して燃焼させている。PSA装置で精製された水素は、製品として基準を満たした純度の水素であり、言い換えれば、当該基準を満たす能力を持つことが必要である。
【0003】
ところで、水素製造装置の稼働を開始するとき(起動時)、水蒸気改質装置に設けられた気化器(原料ガスと混合させる、改質用水を水蒸気にする機能)が所定温度以下(例えば、100℃以下)となっている場合がある。
【0004】
起動後は、燃焼ガスを燃焼させた排ガス等によって予熱する構造は知られている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1には、運転性能の低下を防止し、放熱ロスを減少し、全体の熱効率を高め、小型で起動が早く、高い運転効率を得ることを目的とした水素製造用の単管円筒式改質器において、改質触媒層の上流側に隣接して予熱層を設けたことが記載されている。
【0006】
特許文献1を含め、多くの従来技術では、起動後、すなわち、燃料用ガスの燃焼による予熱を行う構成であり、起動前の気化器に対しての予熱手段にはならない。このため、起動直後は、気化器が十分に機能するまでの間、所謂準備運転期間が必要となり、水素製造効率の低下につながる。
【0007】
一方、起動の開始時期(開始時刻)が、常に同時刻であれば、予め、燃料用ガスを燃焼させることもできるが、その他の処理(例えば、原料用ガス、改質用水の供給等)が行われていないため、排ガスは大気放出されるため、熱量の無駄となる。
【0008】
なお、予熱の理由としては、特許文献1のように気化部を温めることとは別に、以下のことが考えられる。
【0009】
改質器には、起動開始後比較的早いタイミングで改質用の水が入るが、その際に気化部→改質触媒部→シフト触媒部の一連の流路が100℃以上であることが重要である。
【0010】
100℃以下だと、一旦気化した水が再度液体に凝縮してしまい、その水が触媒を濡らすと劣化につながる。
【0011】
そこで、水が入る前にある程度改質装置全体を温めておくことが必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、改質装置全体を温める際に、いきなりバーナで改質装置を温め始めると、改質装置の一部が先に加熱され過ぎてしまい、改質用を気化する部位が100℃に到達する前に改質触媒部が、例えば、300℃〜400℃を超える高温となってしまう(温度むらの発生)。
【0014】
改質触媒部が高温(300℃〜400℃以上)になると、水が無い状態では、改質用の都市ガスから炭素が析出してしまい、こちらも触媒を劣化させる現象が生じてしまう。
【0015】
本発明は、水素製造装置の運転開始(起動)前に、改質装置全体として温度むらを生じさせることなく、予め改質装置の気化器を必要最低温度まで昇温させておくことができる水素製造装置、水素製造方法、及び予熱制御プログラムを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の水素製造装置は、気化器によって改質用水を水蒸気化した水蒸気を用いて、炭化水素原料を水蒸気改質して、水素を主成分とした改質ガスを生成する改質装置と、改質装置から放出された改質ガスをオフガスと水素とに分離して水素を精製する水素精製器と、を備えた水素製造装置であって、前記気化器を加熱する加熱部と、前記加熱部を制御して、起動時期までに前記改質用水を前記水蒸気化し得る温度まで予熱する予熱制御部とを有し、前記予熱制御部が、前記改質装置、前記水素精製器、及び周辺機器が起動する起動時期を取得する取得部と、前記取得部で取得した前記起動時期よりも予め定めた時間前の時期を予熱開始時期とし、当該予熱開始時期に前記加熱部での前記気化器の予熱開始を指示する予熱指示部と、を備えることを特徴としている。
【0017】
本発明によれば、予熱制御部では、加熱部を制御して、起動時期までに改質用水を水蒸気化し得る温度まで予熱する。例えば、改質装置は改質用水を水蒸気化するための燃焼室を有するが、燃焼室は起動時期から比較的高温で改質装置全体を加熱するため、改質ガスを生成するときの炭化水素原料を過加熱する場合があり、炭素が析出するおそれがある。
【0018】
そこで、気化器を加熱する加熱部を設け、起動時期までに改質用水を水蒸気化することで、炭化水素原料を過加熱することを防止することができる。
【0019】
本発明の水素製造装置において、前記予熱制御部が、予め定められた標準起動時期を記憶する記憶部をさらに有し、前記取得部は、前記記憶部に記憶された前記標準起動時期を読み出すことで、前記起動時期を取得することを特徴としている。
【0020】
起動時期を取得するための手段の一形態であり、記憶部に予め定められた標準起動時期を記憶しておき、当該記憶部に記憶された標準起動時期を読み出すことで、起動時期を取得する。
【0021】
本発明の水素製造装置において、前記予熱制御部が、前記起動時期を含む運転履歴情報を記憶するデータベースをさらに有し、前記取得部は、前記データベースに蓄積された過去の運転履歴情報に基づき、機械学習させることで次の起動時期を予測する、ことを特徴としている。
【0022】
起動時期を取得するための手段の一形態であり、データベースに起動時期を含む運転履歴情報を記憶しておき、当該データベースに蓄積された過去の運転履歴情報に基づき、機械学習させることで次の起動時期を予測する。
【0023】
本発明の水素製造装置において、前記データベースに蓄積されたデータ量が不足しており、前記機械学習による起動時期の予測が不可能な場合に、予め定められた標準起動時期に基づいて予熱開始時期を取得することを特徴としている。
【0024】
データベースに蓄積されたデータ量が不足している場合がある。この場合、機械学習による起動時期の予測が不可能となる。そこで、予測不可能な場合を想定して、例えば、予め定められた標準起動時期を記憶しておき、当該表受起動時期に基づいて予熱開始時期を取得する。なお、予測不可能の報知を受けた時点で、標準起動時期を入力するようにしてもよい。
【0025】
本発明の水素製造装置において、前記加熱部が、水素製造の工程に関わらず、前記気化器を加熱する専用の手段として設けられた電気ヒータであることを特徴としている。
【0026】
加熱手段としての一形態であり、加熱部として、電気ヒータを用いることで、制御が容易となる。
【0027】
本発明に係る水素製造方法は、気化器によって改質用水を水蒸気化した水蒸気を用いて、炭化水素原料を水蒸気改質して、水素を主成分とした改質ガスを生成する改質装置と、改質装置から放出された改質ガスをオフガスと水素とに分離して水素を精製する水素精製器と、を備えた水素製造装置による水素製造方法であって、前記気化器を加熱して、起動時期までに前記改質用水を前記水蒸気化し得る温度まで予熱する場合に、前記改質装置、前記水素精製器、及び周辺機器が起動する起動時期を取得し、取得した前記起動時期よりも予め定めた時間前の時期を予熱開始時期とし、当該予熱開始時期に前記気化器の予熱開始を指示する、ことを特徴としている。
【0028】
本発明の水素製造方法において、予め定められた標準起動時期を記憶しておき、記憶された前記標準起動時期を読み出すことで、前記起動時期を取得することを特徴としている。
【0029】
本発明の水素製造方法において、前記起動時期を含む運転履歴情報をデータベースに蓄積しておき、前記データベースに蓄積された過去の運転履歴情報に基づき、機械学習させることで次の起動時期を予測する、ことを特徴としている。
【0030】
本発明の水素製造方法において、前記データベースに蓄積されたデータ量が不足しており、前記機械学習による起動時期の予測が不可能な場合に、予め定められた標準起動時期に基づいて予熱開始時期を取得することを特徴としている。
【0031】
本発明の水素製造方法において、前記気化器の加熱を、水素製造の工程に関わらず、前記気化器を加熱する専用の手段として設けられた電気ヒータで加熱することを特徴としている。
【0032】
本発明に係る予熱制御プログラムは、コンピュータを、上記
水素製造装置の予熱制御部として機能させることを特徴としている。
【0033】
以上説明したように本発明は、水素製造装置の起動時期前に気化器に特定して予熱することができる。また、一形態として、過去の運転履歴情報のデータベース化によって起動時期の予測を行うことができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明した如く本発明では、水素製造装置の運転開始(起動)前に、改質装置全体として温度むらを生じさせることなく、予め改質装置の気化器を必要最低温度まで昇温させておくことができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1に示される如く、水素製造装置10は、改質器12と、昇圧前水分離部(ドレンタンク)14と、圧縮機16と、昇圧後水分離部(ドレンタンク)18と、PSA(Pressure Swing Adsorption)装置20とを備える。
【0037】
PSA装置20は、本発明の水素精製器の一例である。水素製造装置10は、炭化水素原料から水素を製造するものであり、本実施形態では、炭化水素原料の一例としてメタンを主成分とする都市ガスが用いられる場合について説明する。
【0039】
図2に示される如く、改質器12は、同心円上に異なる径寸法で多重に配置された複数の筒状壁70、71、72、73で仕切られた複数の空間を有しており(多重円筒形状)、本実施の形態では、4層の空間が形成され、内側の2層が下端部で連通し、外側の2層が上端で連通している。
【0040】
空間は、内側から順に、燃焼室75、燃焼排ガス流路76、予熱流路77、及び改質ガス流路78とされている。なお、本実施の形態の多重円筒形状の改質器12の構造は一例であり、当該構造が限定されるものではない。
【0041】
燃焼室75にはバーナ79が配置され、都市ガス又はオフガスが燃料として供給され、燃焼室75で空気と混合されて燃焼し、燃焼排ガスが燃焼排ガス流路76へ案内され、予熱流路77に流入される原料としての都市ガスと、改質用の水とが予熱され、混合ガスが生成される。
【0042】
予熱流路77には、上流側に螺旋部材80が設けられ、下流側に改質触媒層81が設けられている。混合ガスは、螺旋部材80によって螺旋状に移動して燃焼排ガス流路76を流れる燃焼排ガスからの熱を受け、その後、改質触媒層81において水蒸気改質反応することによって、水素を成分とする改質ガスG1が生成される。
【0043】
改質ガスは、最外層の空間である改質ガス流路78を通過するときに、CO変成触媒層82(及び必要に応じてCO選択酸化触媒層83)を通過することで、改質ガスに含まれる一酸化炭素と水蒸気とが反応して、水素と二酸化炭素に変換され、一酸化炭素が低減された改質ガスG2として排出される。なお、上記では、改質触媒層とCO変成触媒槽とが一体となる構造を想定しているが、改質触媒層とCO変成触媒槽とが一体ではない構造もとり得る。
【0044】
図1に示される如く、改質器12は、流路管22を介して、昇圧前水分離部(ドレンタンク)14と接続されている。改質器12から流出する改質ガスG2は、熱交換部24(
図1では、Heat Exchangerの略語として、「HEx」と称す。)において、液体室(チラー)26の冷却管内の冷却水との熱交換によって冷却され、昇圧前水分離部14へ流入する。
【0045】
昇圧前水分離部14は、上部が気体室とされ、下部が液体室とされている。昇圧前水分離部14の気体室に流入した改質ガスG2は、水が凝縮されて分離され、貯留される。
【0046】
貯留された水は、水回収管15へ送出され、図示しないポンプの駆動によって、改質用の水として、改質器12へ戻される。
【0047】
昇圧前水分離部14は、流路管28を介して、圧縮機16と接続されている。昇圧前水分離部14において、改質ガスG2から水が分離した改質ガスG3は、圧縮機16へ流入する。なお、流路管28には、バッファタンク30が介在されており、改質ガスG3は、このバッファタンク30で圧力(例えば、大気圧)が安定された状態で圧縮機16へ流入される。
【0048】
圧縮機16は、昇圧前水分離部14から供給された改質ガスG3を図示しないポンプで圧縮する。なお、圧縮機16は、例えば、公共の水(市水32)によって冷却されるようになっている。
【0049】
圧縮機16は、流路管34を介して、昇圧後水分離部(ドレンタンク)18と接続されている。圧縮機16で圧縮された改質ガスG4は、熱交換部36において、液体室(チラー)38の冷却管内の冷却水との熱交換によって冷却され、昇圧後水分離部18へ流入する。
【0050】
昇圧後水分離部18は、上部が気体室とされ、下部が液体室とされている。昇圧後水分離部18の気体室に流入する改質ガスG4は、水が凝縮されて分離され、貯留される。
【0051】
貯留された水は、水回収管19へ送出され、図示しないポンプの駆動によって、改質用の水として、改質器12へ戻される。
【0052】
昇圧後水分離部18は、流路管40を介して、バッファタンク42と接続されており、昇圧後水分離部18で改質ガスG4から水が分離した改質ガスG5は、バッファタンク42へ流入する。
【0053】
バッファタンク42は、昇圧後水分離部18から供給される改質ガスG5を蓄積する。バッファタンク42は、流路管44を介して、PSA装置20と接続されており、バッファタンク42で一旦蓄積されて一定の圧力とされた改質ガスG5は、PSA装置20へ流入する。
【0055】
PSA装置20では、改質ガスG5を、不純物(可燃ガスを含むオフガス)と水素とに分離する(水素精製)。精製された水素は、水素供給配管46へ送出され、不図示のタンクへ貯留されたり、水素供給ラインへ送られたりする。
【0056】
なお、参考として、水素供給配管46に送られた後の製品水素の搬送形態としては、以下の形態を挙げることができる。
【0058】
例えば、水素の利用先が燃料電池自動車の場合には、最終的に、70Mpa以上に昇圧する必要があるため、許容される高圧ガスでの輸送は有効である。
【0060】
水素は、−235℃で液化し、体積が1/800となるため、輸送に適している。
【0062】
水素をトルエン等の有機物に化合させて有機ハイドライドの形で輸送(又は貯蔵)することで、体積を通常のガスに比べて1/600程度とすることができる。
【0064】
都市ガスと同様にパイプラインで郵送することができる。
【0065】
図1に示される如く、PSA装置20で分離された水素以外のオフガスは、可燃ガス供給管48を流れて燃料として改質器12の燃焼室75に設けられたバーナへ供給される。
【0066】
すなわち、可燃ガス供給管48には、オフガスバッファタンク50が設けられている。オフガスバッファタンク50には、PSA装置20から可燃ガス供給管48を介してオフガスが流入され、蓄積される。オフガスバッファタンク50の上流側及び下流側には開閉弁50A、50Bが取り付けられ、オフガスバッファタンク50へのオフガスの流入及び流出が制御される。
【0067】
また、オフガスバッファタンク50の下流側には、流量調整部52が設けられている。この流量調整部52は、オフガスバッファタンク50に蓄積されたオフガスを改質器12へ供給する流量を調整する。
【0068】
オフガスバッファタンク50の容量は、PSA装置20から送出されるオフガス量とバーナへ供給するオフガス量のバランスや、オフガスバッファタンク50内の圧力等を考慮して、設定されている
【0069】
一方、改質器12の燃焼室75で燃焼した後の燃焼排ガスは、燃焼排ガス流路からガス排出管54に案内され、熱交換部56において、液体室(チラー)58の冷却管内の冷却水との熱交換によって冷却され、燃焼排ガス水分離部(ドレンタンク)60へ流入し、水が貯留され、排ガスが排気管62から外部へ排出される。
【0070】
貯留された水は、水回収管64へ送出され、図示しないポンプの駆動によって、改質用の水として、改質器12へ戻される。
【0071】
なお、各所に設置した熱交換部24、36、及び56で適用されるチラー26、38、及び58は単一構成として、冷媒を共有するようにしてもよい。
【0072】
(予熱制御)
ここで、改質器12の全体を温める際に、燃焼室75に設けたバーナ79によって、いきなり改質器12を温め始めると、改質触媒層81が先に加熱され過ぎてしまい、予熱流路77(改質用を気化する部位)が100℃に到達する前に改質触媒層81が、例えば、300℃〜400℃を超える高温となってしまうといった、温度むらが発生する場合がある。
【0073】
改質触媒層81が高温(300℃〜400℃以上)になると、水が無い状態では、改質用の都市ガスから炭素が析出してしまい、こちらも触媒を劣化させる現象が生じてしまうことになる。
【0074】
そこで、本実施の形態では、予熱流路77に加熱部としての電気ヒータ84を設け、予熱制御部86(
図2参照)において、起動時期に先だって予熱流路77を加熱し、起動直後から改質用の水が気化するようにした。
【0075】
図2には、改質器12の内部構造の詳細図、並びに、改質器12の予熱流路77を通過する改質用の水を予め加熱するための予熱流路77の予熱制御を実行する予熱制御部86の機能ブロック図が示されている。なお、予熱制御部86を示す各ブロックは、予熱制御のために実行する処理を機能別に分類したものであり、ハード構成を限定するものではない。
【0076】
予熱制御部86は、水素製造装置10の全体を制御するMCU(マシンコントロールユニット)87の一部として機能する。予熱制御部86は、MCU87の不揮発性メモリに予め記憶された予熱制御プログラムで構築されてもよいし、ICチップに予熱制御を実行するプログラムを組み込んだASIC等であってもよい。さらには、論理回路に基づいて組み付けたリレーやダイオード等の電子部品を所定の配線パターンに配置したハード構成の制御基板であってもよい。
【0077】
予熱制御部86は、ヒータコントローラ88を備えている。ヒータコントローラ88は、電力源として商用電源89から電力の供給を受けるようになっている。なお、電力源は、商用電源に限らず太陽光を含む再生可能エネルギーや化石燃料による発電、蓄電池等、他の電力源であってもよい。
【0078】
ヒータコントローラ88は、予熱指示部90からの指示に基づき、商用電源89の電力で予熱流路77に設けた電気ヒータ84を通電し、当該電気ヒータ84の温度を制御する。本実施の形態の温度制御は、オン(フルパワー)又はオフ(パワーオフ)であり、予め定めた起動開始前(詳細後述)から起動開始までの期間をオンとして、予熱流路77を予熱する。
【0079】
なお、本実施の形態の温度制御は精度が要求されるものではないため、オン・オフ制御(所定期間のオン制御)としたが、オン・オフ制御に限らず、例えば、予熱流路77を精度よく所定温度に制御するために、PID制御等、他の温度制御形態を用いてもよい。
【0080】
予熱指示部90は、起動時刻取得部91に接続されている。なお、以下において、起動時期を起動時刻として説明するが、起動時期の時期は、時刻に限定されず、独自のタイマ(ソフトウェアのプログラム処理で決まる単位時間のカウント数等)によって起動時期を特定してもよい。
【0081】
起動時刻取得部91は、起動時刻予測部92及び標準起動時刻記憶部93に接続されている。
【0082】
すなわち、起動時刻取得部91では、起動時刻予測部92又は標準起動時刻記憶部93から取得し、予熱指示部90へ送出する。予熱指示部90では、受け付けた起動時刻よりも所定時間前の時刻を予熱開始時刻として設定し、当該予熱開始時刻から水素製造装置10の起動時刻までの期間を予熱期間として、ヒータコントローラ88を制御する。
【0083】
起動時刻予測部92は、運転履歴情報データベース94に接続されている。運転履歴情報データベース94には、水素製造装置10における過去の運転履歴情報が蓄積可能となっている。
【0084】
すなわち、運転履歴情報データベース94には、運転履歴情報取込部95が接続されており、運転履歴情報取込部95では、MCU87の他の制御系から運転履歴情報を取り込み、運転履歴情報データベース94へ蓄積する。
【0085】
運転履歴情報データベース94に、水素製造装置10の過去の起動時刻に関する情報が蓄積されることで、起動時刻予測部92では、次の水素製造装置10の起動時刻を機械学習によって予測する。
【0086】
例えば、起動時刻予測部92では、季節による起動時刻の変化、業務上の運転休止日や運転開始時刻の変更(午前運転、午後運転等)、一定期間(日間、週間、月間、年間等)の水素製造量に基づく運転調整履歴等を判断材料として機械学習し、次の水素製造装置10の起動時刻を予測する。
【0087】
標準起動時刻記憶部93は、起動時刻のデフォルト値であり、起動時刻予測部92において、運転履歴情報データベース94の情報量が不足しており、機械学習によって起動時刻が予測できない場合(予測不可能な場合)に適用される起動時刻が記憶される。
【0088】
ヒータコントローラ88による電気ヒータ84の予熱開始時刻(予熱時間)は、予熱流路77が、当該予熱流路77を流れる改質用の水が気化し得る温度(100℃)となることを目標として、マイナスの許容は0、プラスの許容は特に限界はない。
【0089】
従って、予熱指示部90では、起動時刻取得部91で取得した起動時刻から一律に設定した予熱開始時刻を早めに補正するようにしてもよい。この場合、冬季は早める時間を多くし、夏季は早める時間を少なくするようにすれば、必要最小限のエネルギー消費(電力消費)で予熱することができる。また、温度センサを設置して、当日の検出温度に基づいて、予測開始時刻を補正するようにしてもよい。
【0090】
以下に、本実施の形態の作用を説明する。
【0091】
まず、水素製造装置10による水素製造工程の概略の流れを説明する。
【0092】
都市ガスは、改質器12へ供給される。改質器12へ供給された都市ガスは、改質器12の予熱流路で改質用の水と混合されつつ加熱され、改質触媒層へ供給される。改質触媒層では、燃焼排ガス流路を流れる燃焼排ガスからの熱を受けて混合ガスの水蒸気改質反応によって、水素を主成分とする改質ガスG1が生成される。当該改質ガスは、改質ガス流路を通ってCO変成触媒層へ供給される。CO変成触媒層では、改質ガスに含まれる一酸化炭素と水蒸気が反応して、水素と二酸化炭素に変換され、一酸化炭素が低減される。
【0093】
さらに、CO変成触媒層を通過した改質ガスは、酸化剤ガス供給管から供給される酸化ガス(空気)と共にCO選択酸化触媒層へ供給され、CO変成触媒層(及び必要に応じてCO選択酸化触媒層)を通過することで、改質ガスに含まれる一酸化炭素と水蒸気とが反応して、水素と二酸化炭素に変換され、一酸化炭素が低減された改質ガスG2として排出される。改質ガスG2は、流路管44へ送出される。
【0094】
改質ガスG2は、流路管22を経て、昇圧前水分離部14へ供給される。昇圧前水分離部14では、熱交換部24での熱交換による冷却により凝縮された水が貯留され、水回収管15へ送出される。水が分離された改質ガスG3は、バッファタンク30を介して流路管28を流れ、圧縮機16へ供給されて、圧縮機16によって圧縮される。
【0095】
圧縮された改質ガスG4は、流路管34を流れて昇圧後水分離部18へ供給される。昇圧後水分離部18では、熱交換部36での熱交換による冷却により凝縮された水が貯留され、水回収管19へ送出される。水が分離された改質ガスG5は、バッファタンク42を介して流路管40を流れてPSA装置20へ供給される。
【0096】
PSA装置20では、改質ガスG5が不純物であるオフガスと水素とに分離され、水素は水素供給配管46へ送出される。送出された水素は、不図示のタンクへ貯留されたり、水素供給ラインへ送られたりする。
【0097】
水素以外の不純物を含むオフガスは、可燃ガス供給管48を経てオフガスバッファタンク50へ流入される。オフガスバッファタンク50に貯留されたオフガスは、流量調整部52で流量調整されて、改質器12のバーナへ供給される。
【0098】
改質器12の燃焼室75では、オフガスが燃焼され、燃焼排ガスがガス排出管54を介して燃焼排ガス水分離部60へ供給される。燃焼排ガスに含まれる水は、熱交換部56での熱交換により冷却されて凝縮され、燃焼排ガス水分離部60に貯留され、水回収管64へ送出される。水が分離された燃焼排ガスは、排気管62を流れて外部へ排出される。
【0099】
次に、予熱制御部86における予熱流路77の予熱制御を、
図3のフローチャートに従い説明する。
【0100】
ステップ100では、運転履歴情報データベース94に蓄積された情報量に基づく起動時刻の予測が可能か否かを判定する。
【0101】
ステップ100で肯定判定された場合は、ステップ102へ移行して運転履歴情報データベース94から運転履歴情報を読み出して、ステップ104へ移行する。ステップ104では、読み出した運転履歴情報に基づいて、機械学習によって、次の水素製造装置10の起動時刻を予測して、ステップ108へ移行する。
【0102】
一方、ステップ100で否定判定された場合は、ステップ106へ移行して、標準起動時刻記憶部93から標準起動時刻を読み出して、ステップ108へ移行する。
【0103】
ステップ108では、予測した起動時刻又は読み出した標準起動時刻の何れかに基づいて、予熱開始時刻を設定し、ステップ110へ移行する。
【0104】
ステップ110では、予熱開始時刻か否かを判断し、このステップ110で肯定判定されると、ステップ112へ移行して、ヒータコントローラ88の制御によって、電気ヒータ84をオンし、予熱を開始する。
【0105】
次のステップ114では、起動時刻となったか否かを判断し、このステップ114で肯定判定されると、ステップ116へ移行して、予熱を終了し(電気ヒータ84をオフし)、ステップ118へ移行する。
【0106】
ステップ118では、水素製造装置10の運転が終了したか否かを判断し、このステップ118で肯定判定されると、ステップ120へ移行して、今回の起動時刻を含む運転情報を運転履歴情報データベース94へ格納して、このルーチンは終了する。
【0107】
以上説明したように、本実施の形態では、水素製造装置10が起動する前に、予熱流路77を電気ヒータ84によって予熱するようにしたため、燃焼室75に設けたバーナ79によって、いきなり改質器12を温め始めたときの、改質装置下部のみが先に加熱され過ぎるといった不具合が発生せず、改質用の都市ガスから炭素の析出等を防止することができる。
【0108】
なお、本実施の形態では、起動時刻を、運転履歴情報データベース94に蓄積された運転履歴情報に基づく予測と、標準起動時刻記憶部93に記憶された標準起動時刻から特定とを併用し、予測可能な場合は予測を優先し、予測不可能な場合に標準起動時刻から起動時刻を特定するようにしたが、併用せずに、運転履歴情報データベース94に蓄積された運転履歴情報に基づく予測、又は、標準起動時刻記憶部93に記憶された標準起動時刻から特定の何れかのみで起動時刻を取得するようにしてもよい。
【解決手段】水素製造装置10が起動する前に、予熱流路77を電気ヒータ84によって予熱するようにしたため、燃焼室75に設けたバーナ79によって、いきなり改質器12を温め始めたときの、改質装置下部のみが先に加熱され過ぎるといった不具合が発生せず、改質用の都市ガスから炭素の析出等を防止することができる。