(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、中性の除錆剤を含むpH4〜8の洗浄液が、ヘマタイトが付着した部材を有する前記洗浄対象機器に供給される洗浄液供給工程と、
前記部材中の少なくとも前記ヘマタイトが付着した領域が前記洗浄液に浸漬され、前記洗浄液の酸化還元電位が前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持されて、前記ヘマタイトが前記部材から除去される洗浄工程と、
前記洗浄液中の鉄濃度が計測される計測工程と、
前記鉄濃度に基づいて前記部材からの前記ヘマタイトの除去状況が判定される判定工程とを有し、
前記洗浄工程中に前記洗浄液が前記洗浄対象機器から排出され、前記計測工程で排出された前記洗浄液中の鉄濃度が計測され、
前記判定工程において前記鉄濃度が所定濃度以上と判定された場合、または、濃度勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定された場合に、前記洗浄工程が終了される化学洗浄方法。
前記部材の一端側端部と他端側端部とを直接的に連絡する循環ラインと、前記循環ラインに設置される循環ポンプとを備える循環部を有し、洗浄中に前記循環ラインを通じて、前記一端側端部から排出された前記洗浄液を前記他端側端部に循環させ、
前記循環ラインに抜出し部が設置され、
前記判定部が、前記抜出し部から採取された前記洗浄液中の前記鉄濃度を用いて前記ヘマタイトの除去状況を判定する請求項7に記載の化学洗浄装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように従来の化学洗浄では、設置した循環路内が洗浄液で満たされる必要があった。また、酸性の洗浄液を使用することにより洗浄中に水素ガスが発生するので、化学洗浄は火気を用いる機械・電気工事と並行して作業することができなかった。このように、化学洗浄を実施している間は、洗浄液に浸漬されている機器だけでなく他の機器でもメンテナンス作業を行うことができず、メンテナンスを効率良く行うことができないという問題があった。
【0008】
従来の化学洗浄方法では、鉄系酸化物からなるスケールを除去するために速い流速で洗浄液を流通させる必要があった。また、十分な流量を得るためには大径の配管に接続する必要があるが、貫流ボイラ10の上流側配管及び下流側配管は小径配管であり、化学洗浄装置を接続するには不適切である。このため、具体的に特許文献1に示すように節炭器26の上流側配管と、気水分離器30内の配管に循環路を接続するしかなく、装置上の制約があった。
【0009】
ヘマタイトは難溶性酸化物であり、従来の酸性の洗浄液(例えば塩酸系やクエン酸系)では、洗浄液中に溶解しにくく、化学洗浄によりスラッジが発生する。
また、配管や特許文献3の金属製フィルタの表面に、自然酸化スケールであるマグネタイト層が形成されている。特許文献3の方法では付着した鉄酸化物スケールを全て溶解させることなくマグネタイト層だけを溶解させてスケールを剥離させることになる。従って、特許文献3に開示される方法を用いれば、スラッジが発生する。
【0010】
火力発電システム1中の貫流ボイラ10の火炉壁管などは配管形状が長く複雑なために、スラッジが発生すると配管の途中の一部に集積して配管内を閉塞する場合がある。
このため、従来の化学洗浄では洗浄液からスラッジを除去する必要があった。スラッジを除去する方法としては、洗浄液が通過する部分の途中にフィルタを設けて洗浄液中に浮遊するスラッジを捕集する方法や、化学洗浄後に洗浄対象機器の配管等の一部を切断して管内部を点検して、吸引清掃など物理的方法により除去してから再度配管を溶接する方法などがある。
【0011】
また、酸性の洗浄液を用いた従来の化学洗浄では、上述のように洗浄液を加熱する必要があり、洗浄液を加熱する昇温設備を別途設置する必要があった。また、酸性の洗浄液に浸漬された機器内を洗浄後に中和しなければならず、多量の中和水が必要とされていた。
【0012】
図20に示す火力発電システムのように、気水分離器30の下流側にステンレス製の部品を有する過熱器31がある場合、ステンレス製部品が塩酸などの酸性の洗浄液に接触すると腐食する恐れがある。このため、従来の化学洗浄では、洗浄対象となる機器の下流側に隣接する非洗浄系統内に水を張り加圧して、洗浄液の侵入を防止する必要があり、水張・加圧用のポンプが設置されていた。
【0013】
このように、従来の化学洗浄を行う場合には、多量の洗浄液と水張用及び中和用の水とが必要な上、大掛かりな設備とその設置工事が必要であり、工期が長期に亘るため、メンテナンスコストが高いことが問題となっていた。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ヘマタイトを除去する化学洗浄を低コストで短期間に実施することができる化学洗浄方法、及び、当該化学洗浄方法を実施するための化学洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様に係る化学洗浄方法は、
貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、中性の
除錆剤を含む
pH4〜8の洗浄液が、ヘマタイトが付着した部材を有する
前記洗浄対象機器に供給される洗浄液供給工程と、前記部材中の少なくとも前記ヘマタイトが付着した領域が前記洗浄液に浸漬され、前記洗浄液の酸化還元電位が前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持されて、前記ヘマタイトが前記部材から除去される洗浄工程と、前記洗浄液中の鉄濃度が計測される計測工程と、前記鉄濃度に基づいて前記部材からの前記ヘマタイトの除去状況が判定される判定工程とを有し、前記洗浄工程中に前記洗浄液が前記洗浄対象機器から排出され、前記計測工程で排出された前記洗浄液中の鉄濃度が計測され、前記判定工程において前記鉄濃度が所定濃度以上と判定された場合、または、濃度勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定された場合に、前記洗浄工程が終了される。
【0016】
本発明の第1の態様に係る化学洗浄装置は、
貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、ヘマタイトが付着した部材を有する
前記洗浄対象機器を化学洗浄するための化学洗浄装置であって、中性の
除錆剤を含む
pH4〜8の洗浄液を収容する薬液タンクと、前記洗浄対象機器と前記薬液タンクとを連結し、前記部材に前記洗浄液を供給する薬液供給ラインと、前記薬液供給ラインに設置されるポンプと、前記洗浄対象機器と前記薬液タンクとを連結し、前記洗浄液を前記部材から排出する薬液排出ラインと、前記洗浄対象機器の前記洗浄液の酸化還元電位を前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持して前記洗浄対象機器を洗浄している間に、前記洗浄対象機器から排出された前記洗浄液中の鉄濃度に基づいて前記部材からの前記ヘマタイトが溶出する除去状況を判定し、前記鉄濃度が所定濃度以上と判定した場合、または、濃度勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定した場合に前記洗浄対象機器の洗浄を終了させる判定部と、を備える。
【0017】
第1の態様の化学洗浄方法及び化学洗浄装置では、洗浄対象機器のみに洗浄液を送給するので、化学洗浄に要する洗浄液量を大幅に削減することができる。
更に、中性の除錆剤を含む洗浄液を用いるため、洗浄対象機器の下流側にステンレス製部品を有する機器が配置される場合でも、部材の腐食を防止するための水張等を実施する必要が無く、水張のための設備が不要となり、装置構成が簡略化する。また、洗浄時に水素が発生しないので火気を用いる機械工事や電気工事と並行して化学洗浄を実施することができるとともに、各部の点検やメンテナンス作業を並行して実施することができることから、メンテナンス工期を短縮することができる。
このように本発明の化学洗浄方法及び化学洗浄装置を用いれば、設備費や薬品代などのメンテナンスに要するコストを大幅に削減することができるので有利である。
【0018】
部材中にヘマタイトが偏在して付着している場合には、部材を洗浄液に浸漬している間は洗浄液中の鉄濃度に分布が発生する。洗浄対象機器の構造上、鉄濃度を計測するために部材中のヘマタイトが付着している領域近傍のみから洗浄液を採取することは極めて困難である。
そこで本態様の化学洗浄方法及び化学洗浄装置では、洗浄中に洗浄対象機器から一旦排出された洗浄液中の鉄濃度を用いて化学洗浄の終了を判定している。こうすることによって鉄濃度の計測が容易になるばかりでなく、洗浄対象機器から排出されることによって洗浄液が撹拌され鉄濃度が均一化するので、計測精度が向上する。本発明に依れば、確実に化学洗浄によりヘマタイトを除去することができ、メンテナンス効率が向上するという効果を得ることができる。
【0019】
第1の態様に係る化学洗浄方法では、前記洗浄工程において所定の時間周期で前記洗浄液が前記洗浄対象機器から排出され、前記判定工程において前記鉄濃度が所定濃度未満と判定された場合、または、濃度勾配の変化量が所定範囲内よりも大きい値であると判定された場合に、前記洗浄液が前記洗浄対象機器に戻されても良い。
【0020】
第1の態様に係る化学洗浄装置において、前記判定部が、前記洗浄対象機器から排出され前記薬液タンクに貯留された前記洗浄液中の前記鉄濃度を用いて前記ヘマタイトの除去状況を判定しても良い。
【0021】
上記態様に依れば、簡易な工程及び装置構成で洗浄対象機器の洗浄や洗浄液の撹拌を実施することができる。
【0022】
第1の態様に係る化学洗浄方法において、前記洗浄工程中に、前記洗浄液が前記部材に通過して前記部材の一端側端部から排出され、排出された前記洗浄液が、前記部材の他端側端部に直接的に循環され、前記計測工程において前記排出された前記洗浄液の一部を用いて前記鉄濃度が計測されても良い。
【0023】
第1の態様に係る化学洗浄装置において、前記部材の一端側端部と他端側端部とを直接的に連絡する循環ラインと、前記循環ラインに設置される循環ポンプとを備える循環部を有し、洗浄中に前記循環ラインを通じて、前記一端側端部から排出された前記洗浄液を前記他
端側端部に循環させ、前記循環ラインに抜出し部が設置され、前記判定部が、前記抜出し部から採取された前記洗浄液中の前記鉄濃度を用いて前記ヘマタイトの除去状況を判定しても良い。
【0024】
本化学洗浄方法及び化学洗浄装置では、ヘマタイトが付着した領域で洗浄液に流速が与えられるとともに洗浄液が撹拌されるので、洗浄力が向上する。また、循環される洗浄液の一部は化学洗浄の終了判定にも利用可能である。
【0025】
参考発明の
一態様に係る化学洗浄方法は、貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、中性の除錆剤を含むpH4〜8の洗浄液が、ヘマタイトが付着した部材を有する前記洗浄対象機器に供給される洗浄液供給工程と、前記部材中の少なくとも前記ヘマタイトが付着した領域が前記洗浄液に浸漬され、前記洗浄液の酸化還元電位が前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持されて、前記ヘマタイトが前記部材から除去される洗浄工程と、前記洗浄工程中に、前記ヘマタイトが付着している面の色が観測される観測工程と、前記色に基づいて前記部材からの前記ヘマタイトの除去状況が判定される判定工程とを有し、前記ヘマタイトが付着している面が、前記領域、または、前記洗浄液に浸漬された試験体における前記ヘマタイトが付着した部分であり、前記判定工程において前記ヘマタイトに由来する色が観測されないと判定された場合に、前記洗浄工程が終了される。
【0026】
参考発明の
一態様に係る化学洗浄装置は、貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、ヘマタイトが付着した部材を有する前記洗浄対象機器を化学洗浄するための化学洗浄装置であって、中性の除錆剤を含むpH4〜8の洗浄液を収容する薬液タンクと、前記洗浄対象機器と前記薬液タンクとを連結し、前記部材に前記洗浄液を供給する薬液供給ラインと、前記薬液供給ラインに設置されるポンプと、前記洗浄対象機器と前記薬液タンクとを連結し、前記洗浄液を前記部材から排出する薬液排出ラインと、前記洗浄対象機器の前記洗浄液の酸化還元電位を前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持して前記洗浄対象機器を洗浄している間に、前記ヘマタイトが付着している面で前記ヘマタイトが溶出する除去状況を色の観測で判定し、前記ヘマタイトに由来する色が観測されないと判定した場合に前記洗浄対象機器の洗浄を終了させる判定部と、を備え、前記ヘマタイトが付着している面が、前記部材中の少なくとも前記ヘマタイトが付着した領域、または、前記洗浄液に浸漬された試験体における前記ヘマタイトが付着した部分である。
【0027】
本態様の化学洗浄方法及び化学洗浄装置においても、化学洗浄に要する洗浄液量を大幅に削減できるとともに、メンテナンス工期を短縮することができるため、メンテナンスコストの大幅な削減を実現することができる。
更に本態様に依れば、付着したヘマタイトの残量有無を判断するという簡易な方法により化学洗浄の終了を判定することができるので作業効率が向上するという効果を奏する。
【0028】
参考発明の
他の態様に係る化学洗浄方法は、貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、中性の除錆剤を含むpH4〜8の洗浄液が、ヘマタイトが付着した部材を有する前記洗浄対象機器に供給される洗浄液供給工程と、前記部材中の少なくとも前記ヘマタイトが付着した領域が前記洗浄液に浸漬され、前記洗浄液の酸化還元電位が前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持されて、前記ヘマタイトが前記部材から除去される洗浄工程と、前記洗浄工程中に、前記部材の前記領域が形成された側と反対側の面で超音波計測または交流電気特性計測が実施される計測工程と、前記計測工程で得た計測値の時間変化に基づいて前記部材からの前記ヘマタイトの除去状況が判定される判定工程とを有し、前記判定工程において前記計測値が所定値以下であると判定された場合、または、前記計測値の変化勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定された場合に、前記洗浄工程が終了される。
【0029】
参考発明の
他の態様に係る化学洗浄装置は、貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、ヘマタイトが付着した部材を有する前記洗浄対象機器を化学洗浄するための化学洗浄装置であって、中性の除錆剤を含むpH4〜8の洗浄液を収容する薬液タンクと、前記洗浄対象機器と前記薬液タンクとを連結し、前記部材に前記洗浄液を供給する薬液供給ラインと、前記薬液供給ラインに設置されるポンプと、前記洗浄対象機器と前記薬液タンクとを連結し、前記洗浄液を前記部材から排出する薬液排出ラインと、前記部材の前記ヘマタイトが形成された面と反対側の面に設置され、前記部材に対して超音波計測または交流電気特性計測を実施する計測部と、前記洗浄対象機器の前記洗浄液の酸化還元電位を前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持して前記洗浄対象機器を洗浄している間に、前記計測部が取得した計測値の時間変化に基づいて前記部材からの前記ヘマタイトの除去状況を判定し、前記計測値が所定値以下であると判定した場合、または、前記計測値の変化勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定した場合に前記洗浄対象機器の洗浄を終了させる判定部と、を備える。
【0030】
上記化学洗浄方法及び上記化学洗浄装置において、前記計測値が前記超音波計測で得られる前記部材に付着した前記ヘマタイトの厚さであるであることが好ましい。
【0031】
あるいは、上記化学洗浄方法及び上記化学洗浄装置において、前記計測値が前記交流電気特性計測で得られるリアクタンスであることが好ましい。
【0032】
本態様の化学洗浄方法及び化学洗浄装置においても、化学洗浄に要する洗浄液量を大幅に削減できるとともに、メンテナンス工期を短縮することができるため、メンテナンスコストの大幅な削減を実現することができる。
また本態様では、ヘマタイト付着面と反対側の面から超音波計測または交流電気特性計測を実施することにより取得した計測値がヘマタイトの付着状況に対応して変化することに着目した。本態様は洗浄液を採取する必要がなく、付着したヘマタイトの残量有無を判断するという簡易な方法で迅速に化学洗浄の終了を判定することが可能であるという利点を有する。
【0033】
参考発明の
さらなる他の態様に係る化学洗浄方法は、貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、中性の除錆剤を含むpH4〜8の洗浄液が、ヘマタイトが付着した部材を有する前記洗浄対象機器に供給される洗浄液供給工程と、前記部材中の少なくとも前記ヘマタイトが付着した領域が前記洗浄液に浸漬され、前記洗浄液の酸化還元電位が前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持された状態で、前記洗浄液が前記部材から排出される工程と、前記洗浄液の少なくとも一部が前記部材に対して排出される工程と送給される工程とを繰り返されて、前記領域の近傍で前記洗浄液の液面の高さを移動させながら、前記ヘマタイトが前記部材から除去される洗浄工程と、前記排出される工程中に前記部材から排出された前記洗浄液の圧力が計測される計測工程と、前記計測工程で得た前記圧力の変化に基づいて前記部材からの前記ヘマタイトの除去状況が判定される判定工程とを有し、前記送給される工程において、前記洗浄液が所定の周波数で送給量が変化されながら前記部材に送給され、前記判定工程において、前記洗浄液の送給量の変化の波形と前記圧力の変化の波形との位相差が所定値以下であると判定された場合、または、前記位相差の変化勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定された場合、または、前記圧力の変化の波形の周期若しくは振幅が所定値以下であると判定された場合、または、前記周期の変化勾配の変化量若しくは前記振幅の変化勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定された場合に、前記洗浄工程が終了される。
【0034】
参考発明の
さらなる他の態様に係る化学洗浄装置は、貫流ボイラの火炉壁管内部を洗浄対象機器とし、ヘマタイトが付着した部材を有する前記洗浄対象機器を化学洗浄するための化学洗浄装置であって、中性の除錆剤を含むpH4〜8の洗浄液を収容する薬液タンクと、前記洗浄対象機器と前記薬液タンクとを連結し、前記部材に前記洗浄液を供給する薬液供給ラインと、前記薬液供給ラインに設置されるポンプと、前記薬液供給ラインに設置されるバルブと、前記洗浄対象機器と前記薬液タンクとを連結し、前記洗浄液を前記部材から排出する薬液排出ラインと、前記薬液排出ラインに設置される圧力計測部と、判定部とを有し、前記洗浄対象機器の前記洗浄液の酸化還元電位を前記洗浄液に前記ヘマタイトが溶出する値に維持して前記洗浄対象機器を洗浄している間に、前記薬液排出ラインを通じて前記部材内の洗浄液の少なくとも一部を前記薬液タンクに向かって排出させることと、前記薬液タンク中の前記洗浄液を前記薬液供給ラインを通じて前記部材に送給させることとを繰り返させ、前記ポンプまたは前記バルブが、前記部材に送給する前記洗浄液の送給量を所定の周波数で変化させ、前記圧力計測部が、前記洗浄対象機器を洗浄している間に前記薬液排出ラインを流通する前記洗浄液の圧力を計測し、前記判定部が、前記圧力の変化に基づいて前記部材からの前記ヘマタイトの除去状況を判定し、前記判定部が、前記洗浄液の送給量の変化の波形と前記圧力の変化の波形との位相差が所定値以下であると判定された場合、または、前記位相差の変化勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定された場合、または、前記圧力の変化の波形の周期若しくは振幅が所定値以下であると判定された場合、または、前記周期の変化勾配の変化量若しくは前記振幅の変化勾配の変化量が所定範囲内の値であると判定された場合に、前記洗浄対象機器の洗浄を終了させる。
【0035】
第4の態様に係る化学洗浄方法及び化学洗浄装置に依れば、洗浄工程中に洗浄液の排出と送給とを繰り返して液面を移動させることによりヘマタイトが付着した領域で洗浄液に流速が与えられるとともに洗浄液が撹拌されるので、洗浄力が向上するので有利である。
【0036】
ヘマタイトの付着状態により、洗浄液と部材との摩擦係数が変化する。本発明者らは、洗浄液の送給時に所定の周波数で送給量を変化させると部材内で洗浄液の液面が振動するが、この振動状況が排出時の洗浄液の圧力変化に反映されることを見出した。本態様のように、周波数と圧力変化との位相差や圧力変化の波形に基づいてヘマタイトの除去を容易に判定することが可能となる。
【0037】
上記化学洗浄方法において、前記洗浄液の酸化還元電位が銀−塩化銀電極基準で−0.8V以上−0.4V以下である還元状態に維持されて前記洗浄工程が実施される。上記化学洗浄方法において、前記洗浄対象機器に還元雰囲気ガスが供給されることによって前記値が調整されても良い。
上記化学洗浄装置は、前記洗浄液を、銀−塩化銀電極基準で酸化還元電位が−0.8V以上−0.4V以下の還元状態に調整する還元雰囲気調整部を備える。この場合、前記還元雰囲気調整部が、前記洗浄対象
機器に還元雰囲気ガスを供給しても良い。
【0038】
上記の酸化還元電位として還元状態を維持することによりヘマタイトが洗浄液中に溶解して除去される。洗浄によりスラッジなどの固形物がほとんど発生することなく、また若干の固形物の発生があった場合でも、洗浄対象機器から洗浄液とともに容易に排出することができる。また、スラッジを除去する設備が不要であるので、設備費を削減することが可能である。
【0039】
上記化学洗浄方法において、前記洗浄工程中の前記洗浄液の温度が、前記部材の周辺の環境温度以上前記環境温度よりも10℃高い温度以下の範囲内であることが好ましい。
上記化学洗浄方法において、前記部材に供給された前記洗浄液の温度が、前記部材の周辺の環境温度以上前記環境温度よりも10℃高い温度以下の範囲内であることが好ましい。
【0040】
本発明に依れば酸性の洗浄液を使用した場合よりも低温でヘマタイトの除去が可能であり、洗浄液を積極的に昇温させる必要が無く、環境温度のままの温度維持は極めて容易である。
洗浄液を環境温度より10℃高い温度以下に昇温すれば、更に洗浄力を高めることも可能である。例えばポンプ運転時に発生する熱を利用して、洗浄液を容易に昇温することができる。本発明の構成は積極的な冷却がないので長時間に亘り洗浄液の温度を環境温度よりも高く維持することが可能である。
本発明に依れば酸性洗浄液を用いた従来法よりも低温で洗浄を行うことができる結果、設備費及び洗浄コストを削減することが可能である。
【発明の効果】
【0041】
本発明に依れば、従来の化学洗浄方法よりも洗浄液の使用量を削減できるとともに化学洗浄装置の装置構成が簡略化するので、化学洗浄に要するコストを大幅に削減することが可能である。
また、本発明では他の機器に洗浄液が送給されず、洗浄時に水素が発生しないため、化学洗浄と同時に他の作業を行うことが可能である。このため本発明は、従来技術と比較してメンテナンス工期が短縮するという有利な効果を奏する。
更に本発明は、洗浄工程中に計測されるパラメータを用いてヘマタイトの除去状況をモニタリングして洗浄工程終了のタイミングを判定しているので、ヘマタイトを部材表面から確実に除去できる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の化学洗浄方法及び化学洗浄システムで使用される洗浄液は、中性の除錆剤を含む水溶液である。
中性の除錆剤は、キレート剤、還元剤、またはキレート剤と還元剤の混合剤である。キレート剤は、例えばEDTA、BAPTA、DOTA、EDDS、INN、NTA、DTPA、HEDTA、TTHA、PDTA、DPTA−OH、HIDA、DHEG、GEDTA、CMGA、EDDSなどのアミノカルボン酸やこれらの塩などのアミノカルボン酸系キレート剤、クエン酸、グルコン酸、ヒドロキシ酢酸などのオキシカルボン酸やこれらの塩などのオキシカルボン酸系キレート剤、ATMP、HEDP、NTMP、PBTC、EDTMP等の有機リン酸やこれらの塩などの有機リン系キレート剤である。還元剤は、例えば、Fe
2+、Sn
2+などの各種金属イオン、亜硫酸ナトリウムなどの亜
硫酸塩、シュウ酸、蟻酸、アスコルビン酸、ピロガロールなどの有機化合物、ヒドラジン、水素などである。中性の除錆剤を含む洗浄液は、pHが4〜8であり、好ましくはpHが5〜7である。
【0044】
中性の除錆剤には腐食抑制剤が添加されていても良い。洗浄液は、所望の洗浄力及び洗浄時間が得られるように、キレート剤、還元剤及び腐食抑制剤の濃度が適切に調整されている。
【0045】
また洗浄液は、発泡を防止するための消泡剤を含んでいても良いし、含まなくても良い。本実施形態では公知の消泡剤を使用することができる。
【0046】
以下では火力発電システムを例に挙げて本発明の化学洗浄方法及び化学洗浄装置の実施形態を説明する。但し、本発明は火力発電システムに限定されず、ヘマタイトが付着する他の機器に対しても適用可能である。
【0047】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係る化学洗浄装置を説明する概略図である。
図1は、メンテナンス時において火力発電システム1に化学洗浄装置100が設置された場合を示す。火力発電システム1の構成は
図20と同じである。火力発電システム1では、貫流ボイラ10の火炉壁管などの伝熱配管内部に粉状スケールであるヘマタイトが付着して伝熱配管の熱伝導率が低下している。従って、伝熱性能の回復のために、貫流ボイラ10が洗浄対象機器となっている。
【0048】
第1実施形態の化学洗浄装置100は、薬液タンク101、薬液タンク101と貫流ボイラ10とを連結する薬液供給ライン102、薬液タンク101と貫流ボイラ10とを連結する薬液排出ライン103、及び、制御部104を有する。薬液タンク101は上述の洗浄液を収容する。制御部104は例えばコンピュータである。制御部104は、判定部を含む。
【0049】
図2は貫流ボイラの一例である。
図2(a)は貫流ボイラの概略図であり、
図2(b)は、
図2(a)において丸印Aで囲まれた部分の拡大図である。
図2(a)の貫流ボイラ10aは、壁面12aで囲まれた燃焼室11aと、複数の火炉壁管とにより構成される。貫流ボイラ10aの火炉壁管13aは直線状の管が壁面12aに沿って燃焼室11a横断面に対して垂直方向に延在する。複数の火炉壁管13aが壁面12aに沿って水平方向に配列されている。燃焼室11aの下部に下部管寄せ14aが設置され、複数の火炉壁管13aの下端部が下部管寄せ14aに接続する。燃焼室11aの上部に上部管寄せが設置され、複数の火炉壁管13aの上端部が上部管寄せ15aに接続する。
【0050】
図3は貫流ボイラの別の例である。
図3(a)は貫流ボイラの概略図であり、
図3(b)は、
図3(a)において丸印Bで囲まれた部分の拡大図である。
図3の貫流ボイラ10bは、火炉壁管の形状が
図2の貫流ボイラ10aと異なる。貫流ボイラ10bにおいて、燃焼室11bの下側では複数の火炉壁管13bがスパイラル状に壁面12bに沿って配設される。燃焼室11bの垂直方向途中位置(分岐部16)で火炉壁管13bが複数の管に分岐する。分岐後の火炉壁管13bは直線状であり、壁面12bに沿って燃焼室11a横断面に対して垂直方向上方に延びる。
燃焼室11bの下部に下部管寄せ14bが設置され、複数の火炉壁管13bの下端部が下部管寄せ14bに接続する。燃焼室11bの上部に上部管寄せが設置され、複数の火炉壁管13bの上端部が上部管寄せ15bに接続する。
【0051】
第1実施形態の化学洗浄装置100では、貫流ボイラ10(10a,10b)の下部管寄せ14a,14bに薬液供給ライン102及び薬液排出ライン103が接続する。
薬液供給ライン102には、ポンプ105及びバルブV1が設置される。薬液排出ライン103にはバルブV2が設置される。ポンプ105、バルブV1,V2は制御部104に連絡する。
【0052】
火炉壁管の配設方法によりヘマタイトが付着する場所が異なる。ヘマタイトは火炉壁管内でボイラ給水の流速が変化する場所に付着し易い傾向がある。例えば
図2の貫流ボイラ10aでは燃焼室11a下方に位置する火炉壁管13a内面に、他部よりもヘマタイトが多く付着する。
図3の貫流ボイラ10bでは分岐部16の火炉壁管13b内面に、他部よりもヘマタイトが多く付着する。
【0053】
第1実施形態の化学洗浄装置100は更に還元雰囲気調整部を備える。第1実施形態の化学洗浄装置100において還元雰囲気調整部は還元雰囲気ガス供給部110である。
図1における還元雰囲気ガス供給部110は、還元雰囲気ガス貯留部111、給気ライン112を備える。化学洗浄装置100は排気ライン113を備える。給気ライン112及び排気ライン113には、各々バルブV3,V4が設置される。給気ライン112及び排気ライン113は、貫流ボイラ10(10a,10b)の上部管寄せ15a,15bに接続する。バルブV3,V4は制御部104に接続する。
【0054】
還元雰囲気ガス貯留部111は還元雰囲気ガスを収容するボンベである。還元雰囲気ガスは洗浄液を還元状態に調整するためのガスである。具体的に、還元雰囲気ガスは窒素、アルゴン、蒸気、二酸化炭素、燃焼排ガスなどである。還元雰囲気ガスの純度は高純度ガスである必要はなく、後述する洗浄工程中の洗浄液の酸化還元電位を所定範囲に維持できるものであれば良い。還元雰囲気ガスとして窒素を用いる場合は、還元雰囲気ガス供給部110として火力発電システム1に既設される窒素注入設備が利用可能であるし、窒素注入設備を仮設または新設しても良い。還元雰囲気ガスとしての蒸気や燃焼排ガスは、隣接した別の火力発電システムのボイラで発生する蒸気や燃焼排ガスとすることができる。
【0055】
第1実施形態の化学洗浄装置100を用いて貫流ボイラ内に付着したヘマタイトを洗浄除去する化学洗浄方法を以下で説明する。
本実施形態の化学洗浄方法は例えば、火力発電システムの定期点検時において、炉内足場を架設する工程や洗浄対象機器(貫流ボイラ10)以外の機器を工事する工程の期間中に実施される。
本実施形態の化学洗浄方法を実施するに当たり、貫流ボイラ10と節炭器26とを連結する配管に設置されるバルブは閉鎖される。
【0056】
<ガス供給工程>
制御部104はバルブV2,V3を開放する。還元雰囲気ガス(窒素ガスなど)が、還元雰囲気ガス貯留部111から給気ライン112を介して貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに送給される。火炉壁管13a,13b内の空気が薬液排出ライン103を介して系外に排出される。この工程により、貫流ボイラ10内の火炉壁管13a,13b内の空気が薬液排出ライン103を介して排出される。ガス供給工程により、火炉壁管13a,13b内が還元雰囲気ガスで充填される。
ガスの置換に十分な時間が経過した後、制御部104はバルブV2,V3を閉鎖する。
【0057】
<洗浄液供給工程>
制御部104はポンプ105を起動させるとともにバルブV1を開放する。制御部104はバルブV4を開放する。薬液タンク101内の洗浄液が薬液供給ライン102を介して貫流ボイラ10に送給される。これにより、火炉壁管13a,13b内面が洗浄液に浸漬し、供給された洗浄液に相当する体積の窒素など火炉壁管13a,13b内のパージガスが排気ライン113を介して系外に排出される。
【0058】
本実施形態では貫流ボイラ10と節炭器26とを連結する配管のバルブが閉鎖されているため、薬液供給ライン102から下部管寄せ14a,14bに供給された洗浄液が節炭器26に流入することはない。
【0059】
本実施形態では、少なくとも火炉壁管13a,13b内面のヘマタイトが付着した領域が洗浄液に浸漬される。特に火炉壁管13a,13b内面で、他の部分よりもヘマタイトが多量に付着した領域は必ず洗浄液に浸漬される。例えば、
図4に示すように、他部よりもヘマタイトが多く付着した領域17の上方に洗浄液の液面18が位置するように、制御部104が洗浄液を供給する。化学洗浄のコストを考慮すると、洗浄液は複数の火炉壁管13a,13bの上端部(上部管寄せ15a,15bとの接続部)を上限として充填される。本実施形態では洗浄液が貫流ボイラ10を超えて下流側の気水分離器30には到達しない。すなわち、本実施形態では洗浄液は洗浄対象機器である貫流ボイラ10のみに供給される。
【0060】
ヘマタイトが付着する領域、特に、他部よりもヘマタイトが多く付着する領域17の場所が予め特定されることにより、火炉壁管13a,13bの各サイズからヘマタイト付着領域を浸漬することができる洗浄液の必要量が決定できる。制御部104は洗浄液の必要量を格納しており、洗浄液供給工程で蒸気必要量に応じた所定量の洗浄液を貫流ボイラ10に送給する。
【0061】
<洗浄工程>
ヘマタイトが付着した領域が洗浄液に浸漬されると、制御部104はポンプ105を停止するとともにバルブV1,V4を閉鎖する。洗浄液が静置された状態で、ヘマタイトが洗浄液に漬け置きされて洗浄工程が実施される。
漬け置き時間(洗浄時間)はヘマタイトの発生量にも依るが、例えば24時間以上である。この洗浄工程中は、火炉壁管13a,13b内の圧力はほとんど変化することがなく、一定である。
【0062】
本実施形態では洗浄工程中に洗浄液が静置されるので、洗浄工程中の洗浄液温度は火炉壁管13a,13bの周辺の環境温度と同程度になる。例えば、火炉壁管13a,13bの周辺の環境温度は20〜40℃程度である。環境温度は外気温度に近く、洗浄工程中は大きく変化することはないので、洗浄液温度も環境温度とほぼ同程度に維持される。
【0063】
ガス供給工程によって火炉壁管13a,13b内部の空間に還元雰囲気ガスが充填されているため、洗浄工程中の洗浄液は還元状態に維持される。具体的に、洗浄工程中の洗浄液の酸化還元電位は、例えば薬液排出ライン103の途中で、酸化還元電位計を用いて計測することができ、その酸化還元電位は銀−塩化銀電極基準で−0.8V以上−0.4V以下に維持される。pH−電位線図によると、酸化還元電位を−0.4V以下とすることで鉄酸化物の溶解反応効率を高まりヘマタイトが洗浄液中に溶解する。一方、酸化還元電位が低くなる程Fe
0が生じる。酸化還元電位が−0.8V未満になるとFe
0が生じ、スラッジが沈殿したり火炉壁管13a,13bに鉄が付着する。
【0064】
酸化還元電位が所定範囲から外れた場合、洗浄液の酸化還元電位を維持するように、還元雰囲気ガスを再充填する。具体的に、バルブV2,V3が開放される。これにより、還元雰囲気ガス貯留部111から還元雰囲気ガスが貫流ボイラ10に供給されて洗浄液が薬液排出ライン103を介して薬液タンク101に送給される。その後、バルブV2,V3が閉鎖され、バルブV1,V4が開放されるとともにポンプ105が起動することにより、薬液タンク101中の洗浄液が貫流ボイラ10に送給される。あるいは、バルブV1,V2が閉鎖された状態でバルブV3,V4が開放されて、還元雰囲気ガス貯留部111から還元雰囲気ガスが貫流ボイラ10に供給されて、還元雰囲気ガスが再充填される。
酸化還元電位が所定値から外れた場合に、洗浄液中に上述の還元剤を追加してもよい。具体的に、上記と同様に薬液タンク101に洗浄液を戻し、薬液タンク101内で還元剤が添加された後に、洗浄液が貫流ボイラ10に送給される。
酸化還元電位の維持は、酸化還元電位をモニタリングする制御部104からの指示に基づいて自動化されていても良いし、作業員が酸化還元電位の検出と維持とを手動で実施しても良い。
【0065】
図5,6は、実機から採取した火炉壁管で本実施形態の化学洗浄方法の効果を検証した結果である。ヘマタイトが付着した火炉壁管を実機から採取し、上述の洗浄液(pH5〜7)に25℃に維持しながら浸漬(漬け置き)した。洗浄液の成分はキレート剤が3〜5重量%、還元剤が1.5〜2.5重量%の間で適宜条件を選定している。
洗浄液浸漬前の火炉壁管内面は赤色であり、SEM写真(
図5)では自己酸化スケール(マグネタイト(Fe
3O
4))とヘマタイトとが確認された。一方、化学洗浄後の火炉壁管内面は黒色であり、SEM写真(
図6)では自己酸化スケールのみが確認できた。
【0066】
ヘマタイトを用いて洗浄液の洗浄効果を検証した。ヘマタイト粉末を添加した洗浄液(pH5〜7)を容器に入れ、洗浄液の上方を窒素パージしてから密封した。試験期間中の酸化還元電位は、銀−塩化銀電極基準で−0.8V〜−0.4Vの範囲内にあった。洗浄液の成分はキレート剤が3〜5重量%、還元剤が1.5〜2.5重量%の間で適宜条件を選定している。洗浄液を8時間静置しながら25℃に保持させた結果、洗浄液が不透明な赤茶色からほぼ透明に変化した。このことは、漬け置きによって洗浄液にヘマタイトが溶解したことを意味する。
【0067】
本実施形態において、洗浄工程の終了は(1)洗浄液中の鉄濃度、(2)ヘマタイト付着部分の色変化、(3)火炉壁管外側からの内部状態の分析結果、のいずれかに基づいて判定される。
【0068】
(1)洗浄液中の鉄濃度に基づく判定
洗浄工程において、所定の時間周期でバルブV2,V3が開放される。還元雰囲気ガスが、還元雰囲気ガス貯留部111から給気ライン112を介して貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに送給され、火炉壁管13a,13b内の洗浄液が下部管寄せ14a,14bから薬液排出ライン103を介して薬液タンク101に送給される。全ての洗浄液が薬液タンク101に収容されると、バルブV2,V3が閉鎖される。
【0069】
<計測工程>
薬液タンク101に回収された洗浄液の一部が採取される。採取された洗浄液を用いて、JIS B8224にて規定される定量分析により、洗浄液中の鉄濃度が計測される。所定の時間周期で取得された鉄濃度が、制御部104の判定部に入力される。
【0070】
<判定工程>
洗浄液中の鉄濃度の数値は時間とともに増加し、ヘマタイトが完全に火炉壁管13a,13bから除去されると濃度は略一定値へと飽和することとなる。判定部は、鉄濃度の時間変化からヘマタイトが溶出して除去される状況を判定する。
【0071】
基礎試験やシミュレーションにより付着したヘマタイトが十分に溶出したことを示す鉄濃度を予想することができる。基礎試験またはシミュレーションで得られた鉄濃度が、ヘマタイトが除去されたことを示す所定濃度(判定基準濃度)として、判定部に格納されていても良い。この場合、判定部が計測工程で計測された鉄濃度が判定基準濃度以上と判定した場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0072】
あるいは、鉄濃度の変化量からヘマタイトの除去を判定しても良い。ヘマタイトが十分に溶出されている場合には、計測工程で計測される鉄濃度の計測値と前回計測値との差の単位時間当たりの変化(濃度勾配)が徐々に小さくなる。このことから、濃度勾配の変化量が判定基準として判定部に格納され、判定部が濃度勾配の変化量が所定範囲以内の値となったと判定した場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0073】
例えば、計測工程で時間T
tにおける鉄濃度C
tが計測され、判定部に入力される。判定部は、前回(時間T
t−1)における鉄濃度C
t−1と、前々回(時間T
t−2)における鉄濃度C
t−2も格納している。
判定部は、時間T
tと時間T
t−1との間の鉄濃度の単位時間当たりの濃度勾配ΔC
t(=(C
t−C
t−1)/(T
t−T
t−1))を取得する。判定部は、前回取得した鉄濃度の単位時間当たりの濃度勾配ΔC
t−1(=(C
t−1−C
t−2)/(T
t−1−T
t−2))を格納している。
判定部は、今回取得した濃度勾配ΔC
tと前回取得した濃度勾配ΔC
t−1の変化量Δd
tを取得する。判定部は、取得したΔd
tが予め格納された判定基準の範囲内である場合に、判定基準に到達したと判定する。例えば、判定基準は±20%とする。洗浄対象機器10内でのヘマタイトの析出が比較的均一である場合には、判定基準を±10%とすることにより、判定精度を向上させることができる。
【0074】
計測部に最新に入力された鉄濃度が判定基準未満と判定された場合、または、濃度勾配の変化量が所定範囲よりも大きいと判定された場合は、判定部は制御部104に洗浄工程を継続させる。制御部104は、洗浄液供給工程と同様の工程で、薬液タンク101内の洗浄液を再度に貫流ボイラ10に送給する。
【0075】
本実施形態において、上記計測工程で鉄濃度の計測と同時に洗浄液の酸化還元電位が計測され、洗浄液の酸化還元電位が上述の所定範囲から外れた場合、薬液タンク101中の洗浄液に還元剤が投入されることにより洗浄液の成分調整がなされてもよい。
【0076】
(2)色変化に基づく判定
本判定方法では、(A)ヘマタイトが付着した試験片、(B)火炉壁管、のいずれかの色変化を観測することによって判定される。
【0077】
(2−A)試験片を用いた判定
ヘマタイトが付着した試験片が準備される。
試験片は、
図7に示すように軸方向に沿って二分割に切断された火炉壁管であり、内壁面にヘマタイトが付着している。この試験片(切断試験片120)は、洗浄されている貫流ボイラ10(洗浄対象機器)と同程度のヘマタイトが付着しているものである。例えば、以前のメンテナンス時に同一位置から採取された火炉壁管や、類似条件で運用された別のプラントから採取された火炉壁管を切断して試験片が作製される。
試験片は、火炉壁管と同じ材質の板材(板状試験片)であって、一表面に火炉壁管と同程度のヘマタイトが付着したものであっても良い。
また試験片は、上記のように採取された火炉壁管(筒状の試験片であって、上記切断試験片のように軸方向に沿って切断していないもの)であっても良い。
【0078】
本判定では、洗浄工程時に、試験片のヘマタイトが付着している面が洗浄液に浸漬される。
浸漬方法としては、洗浄開始と同時に、複数個の切断試験片または板状試験片が薬液タンク101に貯留されている洗浄液中に浸漬される。
この場合、薬液タンク101内部に還元雰囲気ガスが送給可能な構成とされて、試験片が浸漬されている間、薬液タンク101内部の洗浄液が火炉壁管13a,13bと同等の酸化還元電位に調整されることが好ましい。
【0079】
別の浸漬方法として、
図8のように、切断試験片120の切断面に透明板(例えばアクリル製)121が配置されるとともに、切断試験片120の一端面が板材(
図8では不図示)が配置されることにより形成された空間122に、貫流ボイラ10に送給された洗浄液と同濃度の
除錆剤を含む洗浄液が注入されることにより、ヘマタイトが付着している面が洗浄液に浸漬される。洗浄液の注入は洗浄工程の開始と略同時に行われることが好ましい。
この場合、還元雰囲気ガスにより、切断試験片120内に注入された洗浄液の酸化還元電位が火炉壁管13a,13bと同等の酸化還元電位に調整されることが好ましい。
【0080】
別の浸漬方法として、
図9に示すように薬液供給ライン102のバルブV1上流側にバイパス部130が設置され、バイパス部130のバイパス管131の途中位置に筒状試験片132が接続される。洗浄液供給工程においてポンプ105が起動されるとともにバルブV1が開放されると、薬液供給ライン102を通過する洗浄液の一部がバイパス部130に流入して、筒状試験片132の内壁面が洗浄液に浸漬される。
この場合、ガス供給工程において還元雰囲気ガスがバイパス部130にも到達するように供給して、筒状試験片132が浸漬されている間の筒状試験片132内の洗浄液が火炉壁管13a,13bと同等の酸化還元電位に調整されることが好ましい。
【0081】
<観測工程>
洗浄工程中に、薬液タンク101内の洗浄液に浸漬された試験片の1つが、所定の時間間隔で洗浄液から取り出される。取り出された試験片のヘマタイトが付着した面の色が観測される。観測は、オペレータの目視またはCCDカメラを用いて行われる。目視観察の場合、オペレータは判定部に色変化の判定結果を入力する。CCDカメラによる観測の場合、計測データが判定部に送信される。
【0082】
図8のようにヘマタイトが付着している面が洗浄液に浸漬された場合は、所定の時間周期で、透明板121側から目視またはCCDカメラによる観測が実施される。
【0083】
図9のようにバイパス部130を設置した場合は、所定の時間周期で筒状試験片132の内壁面がCCDカメラを用いて観測される。具体的に、筒状試験片132に観察孔が穿設され、観察孔にCCDカメラへ観測部位からの反射光が入光可能となるようなビューポートが挿入され、洗浄液に浸された内壁面が観測される。計測データが判定部に送信される。
【0084】
<判定工程>
ヘマタイトは凡そ赤色であるが、ヘマタイトの除去が進行すると下地である自然酸化層(マグネタイト:凡そ黒色)または下地金属層(凡そ銀色)が露出するので、色調が変化する。
判定部は、ヘマタイト由来の色が観測されない場合に、ヘマタイトが除去されたと判定する。判定部は、制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。判定部は、ヘマタイト由来の色が観測された場合に、制御部104に洗浄工程を継続させる。
【0085】
判定部は、計測データ信号のRGB成分を分離し、R成分のみを抽出するか、R成分とB成分とを抽出する。判定部は、R成分の時間変化、または、R成分とB成分との比(R成分/B成分)の時間変化からヘマタイトの溶出し除去する状況を判定する。
【0086】
具体的に、判定部は、初期値に対するR成分値の比(R成分計測値/R成分初期値)、または、初期値に対するR成分/B成分の値の比((R成分/B成分計測値)/(R成分/B成分初期値))の判定基準を格納している。この判定基準は、具体的に1/5〜1/10の範囲内の値である。ヘマタイトの析出状態によりR成分またはR成分/B成分の計測値が異なるので、基礎試験において判定基準を定めることが好ましい。
判定部が初期値に対するR成分値の比、または、初期値に対するR成分/B成分の値の比が判定基準以下である場合に、ヘマタイト由来の色が観測されないと判定する。判定部は、ヘマタイト由来の色が観測されない場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0087】
初期値に対するR成分値の比、または、初期値に対するR成分/B成分の値の比が判定基準よりも大きい場合は、ヘマタイトが残留していることになるので判定部は制御部104に洗浄工程を継続させる。
【0088】
(2−B)火炉壁管を用いた判定
洗浄工程において、所定の時間周期でバルブV2,V3が開放される。還元雰囲気ガスが、還元雰囲気ガス貯留部111から給気ライン112を介して貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに送給され、火炉壁管13a,13b内の洗浄液が下部管寄せ14a,14bから薬液排出ライン103を介して薬液タンク101に送給される。全ての洗浄液が薬液タンク101に収容されると、バルブV2,V3が閉鎖される。
【0089】
<観測工程>
火炉壁管13a,13bのヘマタイトが付着した領域17の近傍において、観察孔が穿設される。観察孔は、火炉壁管13a,13bの燃
焼室11a,11bと反対側の面に形成される。観察孔にCCDカメラ用のビューポートが挿入され、内壁面が観測される。
【0090】
<判定工程>
(2−A)での説明と同様の工程で、判定部がヘマタイト由来の色からヘマタイトの除去状況を判定し、制御部104に洗浄工程の継続または終了を実施させる。
【0091】
なお、CCDカメラを用いて判定するために火炉壁管13a,13bの面に形成された観察孔は、化学洗浄が終了した後に溶接などで埋めることで復旧させる。
【0092】
(3)火炉壁管外側からの内部状態の分析結果に基づく判定
本方法では、超音波による肉厚計測または交流電気特性計測によって火炉壁管内部の状態が分析される。
【0093】
(3−A)超音波計測
化学洗浄実施前に、ヘマタイトが付着した領域の火炉壁管外側に超音波探触子が取り付けられる。ヘマタイトが付着する領域は、前回のメンテナンス時に火炉壁管を採取して内壁面を観察することにより特定される。または、化学洗浄実施前に火炉壁管外側で探触子を水流通方向にスキャンさせてヘマタイトが付着した火炉壁管の肉厚を計測することにより特定される。
【0094】
<計測工程>
洗浄工程中に所定の時間間隔で火炉壁管の超音波計測が実施される。計測工程で取得された計測値(火炉壁管の厚さ)は、判定部に送信される。
【0095】
<判定工程>
ヘマタイトが溶出し除去が進行すると計測値は減少し、ヘマタイトが完全に除去されると超音波による計測値はヘマタイトの付着がない火炉壁管の肉厚として一定になる。判定部は、超音波による計測値の時間変化からヘマタイトの除去状況を判定する。
【0096】
基礎試験やシミュレーションにより、付着したヘマタイトが十分に溶出したことを示す火炉壁管の肉厚を予想することができる。基礎試験またはシミュレーションで得られた肉厚が、ヘマタイトが除去されたことを示す判定基準として判定部に格納されている。この場合、判定部が計測工程で計測された肉厚が判定基準以下になったと判定した場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0097】
あるいは、肉厚の計測値の変化量からヘマタイトの除去を判定しても良い。ヘマタイトが十分に溶出されている場合には、計測工程で得られる肉厚値と前回の計測工程で得られた肉厚値との差が徐々に小さくなる。このことから、単位時間当たりの肉厚の変化の傾きである肉厚変化勾配の変化量が判定基準として判定部に格納され、判定部が肉厚変化勾配の変化量が所定範囲以内の値となったと判定された場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0098】
具体的な判定は、(1)洗浄液中の鉄濃度に基づく判定で説明した方法と同じ思想で行われる。超音波計測の場合も、判定基準は±20%とする。また、洗浄対象機器10内でのヘマタイトの析出が比較的均一である場合には、判定基準を±10%とすることにより、判定精度を向上させることができる。
【0099】
計測工程で計測された肉厚値が判定基準に到達していないと判定された場合、または、肉厚変化勾配の変化量が所定範囲よりも大きいと判定された場合は、判定部は制御部104に洗浄工程を継続させる。
【0100】
(3−B)交流電気特性計測
化学洗浄実施前に、ヘマタイトが付着した領域の火炉壁管外側に電気特性評価装置140が
図10に示すように設置される。2本の端子141が火炉壁管13(13a,13b)の軸方向に離間して設置され、端子141間にLCRメータ142が設置される。端子141先端間の距離は、火炉壁管13(13a,13b)の直流電気抵抗分と区別しやすいように、1m〜5m程度に設定される。LCRメータ142に変えてネットワークアナライザが設置されても良い。
【0101】
<計測工程>
洗浄工程中に所定の時間間隔で火炉壁管の交流電気特性計測が実施される。
図11は
図10に示すように電気特性評価装置140を設置した場合の回路図である。火炉壁管13及び火炉壁管内部の洗浄液は、それぞれ抵抗R1及びR3と表される。ヘマタイトが付着した領域17は、抵抗R2a,R2b及びコンデンサ容量C1,C2で表される。
【0102】
ヘマタイト(酸化物)は抵抗成分である。ヘマタイトの除去が進行すると、ヘマタイトのコンデンサ容量(C1及びC2)が減少するので、上記回路のリアクタンスが減少する。LCRメータ14
2は、所定の時間間隔で火炉壁管13のリアクタンスを計測する。計測工程で取得されたリアクタンスの値は、判定部に送信される。
【0103】
<判定工程>
ヘマタイトの除去が進行するとリアクタンスの計測値は減少し、ヘマタイトが完全に除去されると計測されるリアクタンスは一定になる。判定部は、リアクタンスの時間変化からヘマタイトが溶出する除去状況を判定する。
【0104】
基礎試験やシミュレーションにより、付着したヘマタイトが十分に溶出したことを示す火炉壁管のリアクタンスを予想することができる。基礎試験またはシミュレーションで得られたリアクタンスが、ヘマタイトが除去されたことを示す判定基準として判定部に格納されている。この場合、判定部が計測工程で計測されたリアクタンスが判定基準以下になったと判定した場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0105】
あるいは、リアクタンスの計測値の変化量からヘマタイトの除去を判定しても良い。ヘマタイトが十分に溶出されている場合には、計測工程で得られるリアクタンスと前回の計測工程で得られたリアクタンスとの差は徐々に小さくなる。単位時間当たりのリアクタンス変化勾配の変化量が判定基準として判定部に格納され、判定部がリアクタンス変化勾配の変化量が所定範囲内の値になったと判定された場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0106】
具体的な判定は、(1)洗浄液中の鉄濃度に基づく判定で説明した方法と同じ思想で行われる。交流電気特性を計測する場合も、判定基準は±20%とする。また、洗浄対象機器10内でのヘマタイトの析出が比較的均一である場合には、判定基準を±10%とすることにより、判定精度を向上させることができる。
【0107】
計測工程で計測されたリアクタンスが判定基準に到達していないと判定された場合、または、リアクタンス変化勾配の変化量が所定範囲よりも大きいと判定された場合に、判定部は制御部104に洗浄工程を継続させる。
【0108】
<排出工程>
制御部104はバルブV2を開放する。火炉壁管13a,13b内の洗浄液は下部管寄せ14a,14bから薬液排出ライン103を介して薬液タンク101に送給されて回収される。これにより、本実施形態の化学洗浄方法が終了する。
回収された洗浄液は除錆剤が残存していれば、洗浄成分(
除錆剤の濃度)を再調整して次の化学洗浄に再利用しても良い。
【0109】
上記方法に依れば、中性
除錆剤を含む洗浄液を使用しているので、漬け置き状態で洗浄工程が実施されたとしても、洗浄液に浸漬される火炉壁管13a,13bの内面が腐食することなく、ヘマタイトを洗浄液に溶解することができる。
図5,6を用いて説明したように、本実施形態では自然酸化スケールであるマグネタイトの層を溶出させてヘマタイトを剥離除去する方法ではないので、スラッジの発生が抑制される。特に火力発電システム1では、貫流ボイラ10の火炉壁管の配管形状が長く複雑なために、スラッジが発生すると配管の途中にスラッジが集積して配管内を閉塞する場合がある。本実施形態のように洗浄液にヘマタイトを溶解させて火炉壁管13a,13bから除去すれば、化学洗浄後に洗浄液の排出とともに溶出したヘマタイトを排出することができる。従って、例えば本実施形態を採用した火力発電システム1では、フィルタ等のスラッジを除去する設備が不要であるし、スラッジを除去するための別の洗浄などの工程も不要である。
【0110】
[第2実施形態]
図12は第2実施形態に係る化学洗浄装置を説明する概略図である。
第2実施形態の化学洗浄装置200は、第1実施形態と同様に、薬液供給ライン202及び薬液排出ライン203が貫流ボイラ10の下部管寄せ14a,14bに接続する。薬液供給ライン202及び薬液排出ライン203は薬液タンク201に接続する。貫流ボイラの上部管寄せ15a,15bに排気ライン213が接続する。
【0111】
化学洗浄装置200は、薬液供給ライン202のポンプ205の下流側に還元雰囲気調整部として還元雰囲気ガス供給部210を備える。還元雰囲気ガス供給部210は制御部204に接続する。
【0112】
第2実施形態の還元雰囲気ガス供給部210はマイクロバブル発生装置である。マイクロバブル発生装置は液体中に気泡を注入する装置である。本実施形態において、液体(洗浄液)に気泡として注入される気体は、第1実施形態で列挙した還元雰囲気ガスである。
【0113】
図12では図示されていないが、
図1と同様に貫流ボイラ10に接続される還元雰囲気ガス貯留部及び給気ラインが設置されていても良い。
【0114】
第2実施形態の化学洗浄装置200を用いた化学洗浄方法を以下で説明する。本実施形態においても、化学洗浄方法を実施するに当たり、貫流ボイラ10と節炭器26とを連結する配管に設置されるバルブは閉鎖される。
【0115】
<洗浄液供給工程・ガス供給工程>
制御部204はバルブV2を閉鎖する。制御部204はポンプ205及び還元雰囲気ガス供給部210を起動するとともにバルブV1を開放する。薬液タンク201内の洗浄液は薬液供給ライン202を介して還元雰囲気ガス供給部210に搬送される。還元雰囲気ガス供給部210は、洗浄液中に還元雰囲気ガスの気泡を注入する。気泡を含む洗浄液が薬液供給ライン202を介して貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに供給される。
【0116】
洗浄液中の気泡は火炉壁管13a,13b内で洗浄液から放出され、火炉壁管13a,13b内に供給された洗浄液の上部空間に貯留される。制御部204はバルブV4を開放し、火炉壁管13a,13b内の空気は排気ライン213を介して系外に放出される。こうして、火炉壁管13a,13b内がパージガス雰囲気から還元雰囲気ガスに置換される。
【0117】
このように、第2実施形態では、第1実施形態のように独立したガス供給工程が不要であり、火炉壁管13a,13b内のガスの置換は洗浄液供給工程とともに行なわれる。
【0118】
<洗浄工程>
少なくともヘマタイトが付着した領域(特にヘマタイトが他部よりも多く付着した領域17)が洗浄液に浸漬されると、制御部204はポンプ205及び還元雰囲気ガス供給部210を停止するとともにバルブV1,V4を閉鎖する。洗浄液が静置された状態で、ヘマタイトの漬け置き洗浄処理が実施される。本実施形態においても、火炉壁管13a,13b内の洗浄液は火炉壁管13a,13bの周辺の環境温度と同程度であり、酸化還元電位が銀−塩化銀電極基準で−0.8V以上−0.4V以下に維持される。
【0119】
本実施形態において洗浄工程の終了は、第1実施形態と同様に、(1)洗浄液中の鉄濃度、(2)ヘマタイト付着部分の色変化、(3)火炉壁管外側からの内部状態の分析結果、のいずれかに基づいて判定される。判定工程においてヘマタイトが溶出し除去されたことを判定部が判定すると、判定部は制御部
204に洗浄工程を終了させ、排出工程を実施させる。
【0120】
<排出工程>
第1実施形態と同様の工程で火炉壁管13a,13b内の洗浄液が薬液タンク201に回収される。これにより、本実施形態の化学洗浄方法が終了する。
【0121】
第1及び第2実施形態の化学洗浄方法で消泡剤を含まない洗浄液を使用した場合、洗浄液を火炉壁管13a,13bに送給することによって洗浄液が発泡し、ヘマタイトが発生した領域に泡状の洗浄液が付着する。ヘマタイトと泡状の洗浄液とが接触する時間が長くなることで、洗浄力が向上する。また、洗浄液を泡状とすることで、洗浄液の使用量が低減する。
【0122】
[第3実施形態]
図13は第3実施形態に係る化学洗浄装置を説明する概略図である。
第3実施形態の化学洗浄装置300は、第1実施形態と同様に、薬液供給ライン302及び薬液排出ライン303が貫流ボイラ10の下部管寄せ14a,14bに接続する。薬液供給ライン302及び薬液排出ライン303は薬液タンク301に接続する。
【0123】
化学洗浄装置300は、還元雰囲気調整部として還元雰囲気調整剤供給部310を備える。還元雰囲気調整剤供給部310は、還元雰囲気調整剤貯留部311及び還元雰囲気調整剤供給ライン312を備える。還元雰囲気調整剤貯留部311は還元雰囲気調整剤を収容する。還元雰囲気調整剤は例えばヒドラジン、L-アスコルビン酸、硫黄系還元剤等である。
還元雰囲気調整剤供給部310はポンプ305の下流側で薬液供給ライン302に接続する。還元雰囲気調整剤供給ライン312にバルブV5が設置される。バルブV5は制御部304に接続する。
【0124】
図13では図示されていないが、
図1と同様に貫流ボイラ10に接続される還元雰囲気ガス貯留部、給気ライン及び排気ラインが設置されていても良い。
【0125】
第3実施形態の化学洗浄装置300を用いて貫流ボイラ内に付着したヘマタイトを洗浄除去する化学洗浄方法を以下で説明する。本実施形態の化学洗浄方法を実施するに当たり、貫流ボイラ10と節炭器26とを連結する配管に設置されるバルブは閉鎖される。
【0126】
<洗浄液供給工程>
制御部304はバルブV2を閉鎖する。制御部304はポンプ305を起動するとともにバルブV1,V5を開放する。薬液タンク301内の洗浄液が薬液供給ライン302を通過する間に、還元雰囲気調整剤供給部310から洗浄液中に還元雰囲気調整剤が投入される。還元雰囲気調整剤が投入された洗浄液が貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに送給される。
【0127】
<洗浄工程>
少なくともヘマタイトが付着した領域が洗浄液に浸漬されると、制御部304はポンプ305を停止するとともにバルブV1,V5を閉鎖する。洗浄液が静置された状態で、ヘマタイトの漬け置き洗浄処理が実施される。
【0128】
本実施形態においても、火炉壁管13a,13b内の洗浄液は火炉壁管13a,13bの周辺の環境温度と同程度である。還元雰囲気調整剤供給部310から洗浄液に還元雰囲気調整剤が投入されることにより、洗浄液の酸化還元電位が銀−塩化銀電極基準で−0.8V以上−0.4V以下に維持される。制御部304は蒸気酸化還元電位が得られる還元雰囲気調整剤投入量にするために、バルブV5の開度を調整する。
【0129】
本実施形態において洗浄工程の終了は、第1実施形態と同様に、(1)洗浄液中の鉄濃度、(2)ヘマタイト付着部分の色変化、(3)火炉壁管外側からの内部状態の分析結果、のいずれかに基づいて判定される。判定工程においてヘマタイトが溶出し除去されたことを判定部が判定すると、判定部は制御部
304に洗浄工程を終了させ、排出工程を実施させる。
【0130】
<排出工程>
第1実施形態と同様の工程で火炉壁管13a,13b内の洗浄液が薬液排出ライン303を介して薬液タンク301に回収される。これにより、本実施形態の化学洗浄方法が終了する。
【0131】
ヘマタイトが大量に付着している場合には、ヘマタイトの溶解による酸化還元電位の変動が大きくなる。本実施形態のように洗浄液に還元雰囲気調整剤を追加投入することにより、酸化還元電位を−0.8〜−0.4Vの範囲内に容易に調整することができる。
【0132】
[第4実施形態]
図14は第4実施形態に係る化学洗浄装置を説明する概略図である。
第4実施形態に係る化学洗浄装置400は第1実施形態の化学洗浄装置と同様に、薬液タンク401、薬液供給ライン402、薬液排出ライン403、制御部404、ポンプ405、還元雰囲気ガス供給部410として還元雰囲気ガス貯留部411及び給気ライン412、排気ライン413を備える。
化学洗浄装置400において、薬液供給ライン402のポンプ405を跨いで循環ループ406が設置される。
なお、第2実施形態及び第3実施形態の化学洗浄装置に対しても循環ループを設けることができる。
【0133】
洗浄液供給工程においてポンプ405を通過することにより洗浄液の温度が上昇する。ポンプ405を通過した洗浄液の一部が循環ループ406に流入し、ポンプ405上流側の薬液共有ラインに搬送される。こうすることにより、貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに昇温された洗浄液が送給されることになり、第1実施形態乃至第3実施形態よりも高温(具体的に、火炉壁管13a,13bの周辺の環境温度より高く、環境温度+10℃以下)で洗浄工程が実施される。
【0134】
洗浄工程の温度を高くするほど、洗浄液とヘマタイトとの反応や洗浄液中への溶解が促進される。本実施形態に依れば、昇温設備を設置することなく簡易な構成で洗浄液の昇温を実現することができる。また、環境温度と洗浄液温度の温度差が小さいので、本実施形態の構成では長時間に渡り洗浄液の温度を環境温度よりも高く維持することが可能である。この結果、更に洗浄力を高めることが可能となる。
【0135】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の方法で洗浄工程の終了が判定される。
【0136】
[
参考実施形態]
図15は
参考実施形態に係る化学洗浄装置を説明する概略図である。
参考実施形態に係る化学洗浄装置500は第1実施形態の化学洗浄装置と同様に、薬液タンク501、薬液供給ライン502、薬液排出ライン503、制御部504、ポンプ505、還元雰囲気ガス供給部510として還元雰囲気ガス貯留部511及び給気ライン512、排気ライン513を備える。
化学洗浄装置500は、更に水供給部520を備える構成である。水供給部520は、水タンク521及び水供給ライン522を備える。水タンク521は内部に水を収容する。水供給ライン522には水張ポンプ523及びバルブV6が設置される。水供給ライン522は、下部管寄せ14a,14bに接続する。
【0137】
参考実施形態の化学洗浄装置500を用いて貫流ボイラ内に付着したヘマタイトを洗浄除去する化学洗浄方法を以下で説明する。本実施形態の化学洗浄方法を実施するに当たり、貫流ボイラ10と節炭器26とを連結する配管に設置されるバルブは閉鎖される。
【0138】
<ガス供給工程>
第1実施形態と同様の工程で、還元雰囲気ガス貯留部511から給気ライン512を介して火炉壁管13a,13b内に還元雰囲気ガスが供給され、火炉壁管13a,13b内が還元雰囲気ガスで充填される。
【0139】
<洗浄液供給工程>
制御部504はポンプ505を起動するとともにバルブV1,V4を開放する。薬液タンク501内の洗浄液が薬液供給ライン502を介して貫流ボイラ10に送給される。
【0140】
所定量の洗浄液が送給された後、制御部504はポンプ505を停止しバルブV1を閉鎖する。次いで、制御部504は、水張ポンプ523を起動するとともにバルブV6を開放する。これにより水タンク521内の水が水供給ライン522を介して貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに送給される。
【0141】
洗浄液及び水の流速を調整することにより、洗浄液の層が鉛直方向上側にあり、水の層が鉛直方向下側となり、洗浄液の層と水の層とが少なくとも一部が分離した状態で火炉壁管13a,13b内の水位が上昇する。本実施形態では、火炉壁管13a,13b内でヘマタイトが他部よりも多く付着している領域17が洗浄液の層に浸漬するように、制御部504は所定量の洗浄液及び水を、それぞれ薬液タンク501及び水タンク521から火炉壁管13a,13bに送給する。
【0142】
<洗浄工程>
ヘマタイトが他部よりも多く付着した領域17が洗浄液に浸漬されると、制御部504は水張ポンプ523を停止するとともにバルブV4,V6を閉鎖する。洗浄液が静置された状態で、ヘマタイトの漬け置き洗いが実施される。本実施形態においても、洗浄工程中の洗浄液温度は火炉壁管13a,13bの周辺の環境温度と同程度であり、洗浄工程中の洗浄液の酸化還元電位が−0.8V以上−0.4V以下(銀−塩化銀電極基準)に維持される。
【0143】
本実施形態では洗浄工程中に洗浄液の層と水の層とが分離した状態を確保する必要がある。このため、洗浄工程の終了は、第1実施形態で説明した(2)ヘマタイト付着部分の色変化、(3)火炉壁管外側からの内部状態の分析結果、のいずれかに基づいて判定される。判定工程においてヘマタイトが溶出して除去されたことを判定部が判定すると、判定部は制御部
504に洗浄工程を終了させ、排出工程を実施させる。
【0144】
<排出工程>
第1実施形態と同様の工程で火炉壁管13a,13b内の洗浄液が薬液タンク501に送給される。これにより、本実施形態の化学洗浄方法が終了する。
薬液タンク501に回収された洗浄液は除錆剤濃度が低下している。このため、新たな洗浄液を追加して洗浄液を再利用するか、薬液タンク501から洗浄液を排出して廃棄する。
【0145】
本実施形態の方法に依れば、ヘマタイトが他部よりも多く付着した領域17が洗浄液に浸漬されて集中的に除去されるので、使用する洗浄液の量を大幅に削減することができるため、洗浄コストを削減することが可能である。
【0146】
[第6実施形態]
第6実施形態の化学洗浄装置は、洗浄液がマイクロカプセルが収容される以外は、第1実施形態と同じ構成である。
マイクロカプセルは、上述の洗浄液が水溶性のカプセルに包装されたものである。マイクロカプセルのカプセル材質は、例えばデキストリン、加工でんぷん、ゼラチン、アラビアガム、アルギン酸ソーダ、カラギーナン等の水溶性の高分子である。マイクロカプセルの大きさは例えば直径0.5mm〜2mm程度である。マイクロカプセルは、例えば噴霧乾燥法、スプレークーリング法等により作製される。
【0147】
第6実施形態の化学洗浄装置では、薬液供給ライン102のポンプ105上流側に、マイクロカプセル供給部が設置される。マイクロカプセル供給部はマイクロカプセルを収容するタンクを有している。マイクロカプセルは搬送用液体(例えば水)に分散された状態でタンクに収容される。
【0148】
第6実施形態では、第1実施形態と同様にして、ガス供給工程、洗浄液供給工程、洗浄工程及び排出工程が実施される。第6実施形態の洗浄液供給工程では、マイクロカプセル供給部と薬液供給ライン102とを連結する流路に設置されたポンプの起動によりマイクロカプセルを含む搬送用液体が薬液供給ライン102を流通する洗浄液中に供給され、マイクロカプセルを含む洗浄液が火炉壁管13a,13bに供給される。火炉壁管13a,13b内でマイクロカプセルが上方に向かって移動し、液面近傍に堆積する。マイクロカプセルのカプセルが搬送用液体に溶解することで洗浄液が放出され、液面近傍に泡状の洗浄液の層が形成される。特にヘマタイトが他部よりも多く付着した領域17が洗浄液の層に浸漬するように、マイクロカプセルの分散濃度(洗浄液量)及び液面高さ(制御部104が供給する搬送用液体の量)が適宜調整される。
【0149】
本実施形態の方法によれば、ヘマタイトが他部よりも多く発生した領域を洗浄液に容易に浸漬することができるので、使用する洗浄液の量を更に大幅に削減することができ、洗浄コストを更に削減することが可能である。
【0150】
なお、第6実施形態は第2実施形態〜第4実施形態および
参考実施形態の化学洗浄方法及び化学洗浄装置に対しても適用可能である。
【0151】
[第7実施形態]
第7実施形態に係る化学洗浄方法を、
図1の化学洗浄装置100を用いて説明する。第7実施形態の化学洗浄方法では、洗浄工程以外は第1実施形態と同様にして、ガス供給工程、洗浄液供給工程及び排出工程が実施される。
【0152】
第7実施形態の化学洗浄方法における洗浄工程では、ヘマタイトが付着した領域が洗浄液に浸漬されると、制御部104はポンプ105を停止するとともにバルブV1,V4を閉鎖する。
【0153】
制御部104はバルブV2を開放する。バルブV2の開放により洗浄液が薬液排出ライン103を介して薬液タンク101に戻るように送給されるので、火炉壁管13a,13b内の洗浄液の液面が低下する。次いで制御部104は、バルブV2を閉鎖するとともにバルブV1を開放し、ポンプ105を起動させる。これにより、薬液タンク101中の洗浄液が薬液供給ライン102を介して貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに送給されて、火炉壁管13a,13b内の洗浄液の液面が上昇する。制御部104は、この洗浄液の排出と送給とを所定の周期で実施する。
【0154】
ここでの洗浄液の排出量は洗浄液の一部でも良いし全部でも良い。洗浄液の排出量を変えれば、液面の変化量を変えることができる。洗浄液の排出量、すなわち、液面の変化量は、ヘマタイトが他部よりも多く付着した領域の大きさや洗浄効率等を考慮して適宜設定されることが好ましい。制御部104は、液面変化量に対応させて、所定量の洗浄液を排出及び送給する。
また、洗浄液の排出と送給とを繰り返す期間と、静置期間とを周期的に交互に実施されてもよい。
【0155】
洗浄液の排出と送給とを繰り返すと、火炉壁管13a,13b内での液面付近での洗浄液の撹拌が発生するとともに、洗浄液に流速が与えられることになる。この結果、洗浄力が向上し、ヘマタイトの洗浄効率が上昇する。
【0156】
本実施形態において、洗浄工程の終了は、第1実施形態と同様に、(1)洗浄液中の鉄濃度、(2)ヘマタイト付着部分の色変化、(3)火炉壁管外側からの内部状態の分析結果、のいずれかに基づいて判定される。判定工程においてヘマタイトが除去されたことを判定部が判定すると、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、排出工程を実施させる。
【0157】
更に本実施形態では、(4)圧力変化に基づいて洗浄工程の終了が判定されても良い。
(4)圧力変化に基づく判定
圧力変化信号に基づく判定では、
図16に示すように、薬液排出ライン103の途中位置に圧力計150が設置される。
【0158】
上記の洗浄工程における送給工程時に、ポンプ105の回転数またはバルブV1の開度を所定の周波数で増減させる。こうすることにより、洗浄液の送給量が所定の周波数で増減するので、火炉壁管13a,13b内で洗浄液の液面が振動する。
【0159】
<計測工程>
上記の洗浄工程における排出工程で、圧力計150は薬液排出ライン103を通過する洗浄液の圧力を計測する。圧力値は判定部に送信される。
【0160】
<判定工程>
送給工程により洗浄液の液面が振動すると、排出工程で圧力計150で計測される圧力は液面の振動状況を反映して周期的に変化する。この圧力の変化は、ヘマタイトの付着状況により変動する。すなわち、洗浄によりヘマタイトの除去が進行すると、洗浄液とヘマタイトとの摩擦係数が変化するために、圧力変化が経時的に変動する。ヘマタイトが火炉壁管から除去されると、送給工程での洗浄液送給の周波数と、排出工程での圧力変化の周波数とが一致する。このため、送給工程時の周期的な洗浄液送給の位相と、排出工程時の圧力変化の位相との差が一定になる。
【0161】
判定工程は以下の2通りのステップのいずれかで実施される。
(ステップ4−A)
判定部は、
図17に例示されるように、送給工程時における送給量の波形、及び、計測工程で取得された圧力値の変化の波形を取得する。判定部は、送給量の波形と圧力変化の波形とを比較してヘマタイトが溶出する除去状況を判定する。
【0162】
具体的に、付着したヘマタイトが十分に溶出した場合における送給量の波形の位相と圧力変化の波形の位相との差(位相差、
図17中に図示)を、基礎試験やシミュレーションにより予想することができる。基礎試験またはシミュレーションで得られた位相差が、ヘマタイトが除去されたことを示す判定基準として判定部に格納されている。この場合、判定部が計測工程で計測された位相差が判定基準以下になったと判定した場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、排出工程を実施させる。
【0163】
あるいは、位相差の変化量からヘマタイトの除去を判定しても良い。ヘマタイトが十分に溶出されている場合には、得られる位相差と前回得られた位相差との差は徐々に小さくなる。単位時間当たりの位相差の変化の傾きである位相差変化勾配の変化量が判定基準として判定部に格納され、判定部が位相差変化勾配の変化量が所定範囲内の値になったと判定された場合に、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0164】
具体的な判定は、(1)洗浄液中の鉄濃度に基づく判定で説明した方法と同じ思想で行われる。位相差を用いて判定する場合も、判定基準は±20%とする。また、洗浄対象機器10内でのヘマタイトの析出が比較的均一である場合には、判定基準を±10%とすることにより、判定精度を向上させることができる。
【0165】
位相差が判定基準より大きいと判定された場合、または、位相差変化勾配の変化量が所定範囲よりも大きいと判定された場合は、判定部は制御部104に洗浄工程を継続させる。
【0166】
(ステップ4−B)
判定部は、計測工程で取得された圧力値の変化の波形を取得し、波形の周期や振幅などの経時変化からヘマタイトの除去状況を判定する。
【0167】
具体的に、付着したヘマタイトが十分に溶出した場合における圧力値の波形の周期や振幅が、基礎試験やシミュレーションにより予想される。基礎試験またはシミュレーションで得られた周期または振幅が、ヘマタイトが除去されたことを示す判定基準として判定部に格納されている。この場合、周期または振幅が判定基準以下になったと判定した場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、排出工程を実施させる。
【0168】
あるいは、周期または振幅の変化量からヘマタイトの除去を判定しても良い。ヘマタイトが十分に溶出されている場合には、計測工程により得られた周期または振幅の変化量と前回得られた周期または振幅の変化量のとの差は徐々に小さくなる。単位時間当たりの周期変化または振幅変化の傾きである周期変化勾配または振幅変化勾配の変化量が判定基準として判定部に格納され、判定部が周期変化勾配の変化量または振幅変化勾配の変化量が所定範囲内の値になったと判定された場合に、ヘマタイトが溶出して除去されたとして、判定部は制御部104に洗浄工程を終了させ、後述の排出工程を実施させる。
【0169】
具体的な判定は、(1)洗浄液中の鉄濃度に基づく判定で説明した方法と同じ思想で行われる。周期または振幅を用いて判定する場合も、判定基準は±20%とする。また、洗浄対象機器10内でのヘマタイトの析出が比較的均一である場合には、判定基準を±10%とすることにより、判定精度を向上させることができる。
【0170】
周期または振幅が判定基準より大きいと判定された場合、または、周期変化勾配の変化量若しくは振幅変化勾配の変化量が所定範囲よりも大きいと判定された場合は、判定部は制御部104に洗浄工程を継続させる。
【0171】
なお、本実施形態の化学洗浄方法は、第2実施形態〜第4実施形態の化学洗浄装置を用いた場合にも適用可能である。
【0172】
[第8実施形態]
図18は第8実施形態に係る化学洗浄装置を説明する概略図である。
第8実施形態に係る化学洗浄装置600は第1実施形態の化学洗浄装置と同様に、薬液タンク601、薬液供給ライン602、薬液排出ライン603、制御部604、ポンプ605、還元雰囲気ガス供給部610として還元雰囲気ガス貯留部611及び給気ライン612、排気ライン613を備える。化学洗浄装置600は更に、薬液排出ライン603にポンプ606を備える。薬液排出ライン603には、薬液排出ライン603を流通する洗浄液の圧力を計測する圧力計が設置されていても良い。
第8実施形態に係る化学洗浄方法を、
図18を用いて説明する。第8実施形態の化学洗浄方法では、洗浄工程以外は第1実施形態と同様にして、ガス供給工程、洗浄液供給工程及び排出工程が実施される。
【0173】
第8実施形態の化学洗浄方法における洗浄工程では、ヘマタイトが付着した領域が洗浄液に浸漬されると、制御部604は薬液供給ライン602のポンプ605を停止するとともにバルブV1,V4を閉鎖する。
【0174】
制御部604はバルブV2,V3を開放するとともにポンプ606を作動させる。バルブV3の開放により還元雰囲気ガス貯留部
611から給気ライン
612を介して貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに還元雰囲気ガスが送給され、洗浄液液面上部の空間内のガス圧力が上昇する。同時に、バルブV2の開放とポンプ606の起動により、火炉壁管13a,13b内部の洗浄液が薬液排出ライン603を介して薬液タンク601に送給され、火炉壁管13a,13b内の洗浄液の液面が低下する。
【0175】
次いで制御部604は、バルブV2,V3を閉鎖するとともにバルブV1,V4を開放する。制御部はポンプ606を停止させ、ポンプ605を起動させる。これにより、薬液タンク601中の洗浄液が薬液供給ライン602を介して貫流ボイラ10の火炉壁管13a,13bに送給されて、火炉壁管13a,13b内の洗浄液の液面が上昇する。
【0176】
ガスによる洗浄液液面の加圧とポンプを用いた洗浄液の排出を利用するので、第7実施形態に比べて洗浄液排出時の流速が高く、火炉壁管13a,13b内での液面付近での洗浄液が撹拌されやすい。このため、第7実施形態よりも洗浄力が向上し、ヘマタイトの洗浄効率が上昇する。
【0177】
本実施形態において、洗浄工程の終了は、第7実施形態と同様に、(1)洗浄液中の鉄濃度、(2)ヘマタイト付着部分の色変化、(3)火炉壁管外側からの内部状態の分析結果、(4)圧力変化信号、のいずれかに基づいて判定される。判定工程においてヘマタイトが除去されたことを判定部が判定すると、判定部は制御部
604に洗浄工程を終了させ、排出工程を実施させる。
【0178】
本実施形態の化学洗浄装置及び化学洗浄方法は、第2実施形態〜第4実施形態に対して薬液排出ラインにポンプを設置する場合にも適用可能である。
【0179】
[第9実施形態]
図19は第9実施形態に係る化学洗浄装置を説明する概略図である。
第9実施形態に係る化学洗浄装置700は第1実施形態の化学洗浄装置と同様に、薬液タンク701、薬液供給ライン702、薬液排出ライン703、制御部704、ポンプ705、還元雰囲気ガス供給部710として還元雰囲気ガス貯留部711及び給気ライン712、排気ライン713を備える。化学洗浄装置700は更に循環ライン720を備える。
なお、第2実施形態〜第4実施形態の化学洗浄装置に対しても同様の循環ラインを設置することが可能である。
【0180】
循環ライン720は、貫流ボイラの一端側として下部管寄せ14a,14bと、他端側として上部管寄せ15a,15bとに接続する。循環ライン720の途中位置に循環ポンプ721が設置される。循環ライン720及び循環ポンプ721は仮設として設置されても良い。
循環ポンプ721の下流側に抜出し部722が設置される。
【0181】
洗浄液の循環方向は特に限定されない。
図19の構成では火炉壁管13a,13b内を下から上に向かって洗浄液が流通するように循環されるが、上から下に向かって洗浄液が流通するように循環される構成としても良い。
【0182】
本実施形態では洗浄液の温度は環境温度付近であり、また循環流量も洗浄工程の間に少なくとも1回は循環する程度の小流量でよい。従って、循環ポンプ721の吐出し圧力は低くても良い。
【0183】
第9実施形態の化学洗浄装置700を用いた化学洗浄方法を以下で説明する。第9実施形態の化学洗浄方法では、第1実施形態と同様にして、ガス供給工程及び排出工程が実施される。
【0184】
<洗浄液供給工程>
制御部704はポンプ705を起動させるとともにバルブV1,V4を開放する。薬液タンク701内の洗浄液が薬液供給ライン702を介して貫流ボイラ10に送給される。第9実施形態では、貫流ボイラ10内の下部管寄せ、火炉壁管、上部管寄せ、及び循環ライン720の全てに洗浄液が供給される。制御部704は下部管寄せ、火炉壁管、上部管寄せ、及び循環ライン720の全てを浸漬できる洗浄液量を格納しており、洗浄液供給工程で所定量の洗浄液を貫流ボイラ10に送給する。
【0185】
ここで、貫流ボイラ10と気水分離器30とを連結する配管に設置されるバルブは閉鎖される。こうすることにより洗浄液が貫流ボイラ10の下流側で隣接する機器である気水分離器30に洗浄液が流入することを防止できる。
【0186】
<洗浄工程>
所定量の洗浄液が貫流ボイラ10に送給されると、制御部704はポンプ705を停止するとともにバルブV1,V4を閉鎖する。次いで制御部704は循環ポンプ721を起動する。循環ポンプ721の起動により、洗浄液が下部管寄せ14a,14b、火炉壁管13a,13b、上部管寄せ15a,15a及び循環ライン720を通過する。すなわち、本実施形態では貫流ボイラ10に隣接する他の機器(節炭器26、気水分離器30)に洗浄液が流入することなく循環される。循環は、洗浄工程期間中に洗浄液が貫流ボイラ10〜循環ライン720の間を少なくとも1周回るだけの流量で実施される。
【0187】
なお、循環ポンプ721の回転数を所定の周期で増減させても良い。こうすることにより、火炉壁管13a,13b内部を流通する洗浄液の流速が変動し、洗浄能力が更に向上する。
【0188】
また、循環ポンプ721を通過する際に洗浄液が昇温される。このため、例えば第1実施形態のように洗浄工程中に洗浄液を静置した場合と比較して高い温度(具体的に、火炉壁管13a,13bの周辺の環境温度より高く、環境温度+10℃以下)で洗浄工程が実施される。
【0189】
洗浄工程中において洗浄液の流通路(下部管寄せ14a,14b、火炉壁管13a,13b、上部管寄せ15a,15b及び循環ライン720)は閉空間を構成するので、洗浄工程中の洗浄液の酸化還元電位は−0.8V以上−0.4V以下(銀−塩化銀電極基準)に維持される。
【0190】
本実施形態において洗浄工程の終了は、第1実施形態と同様に、(1)洗浄液中の鉄濃度、(2)ヘマタイト付着部分の色変化、(3)火炉壁管外側からの内部状態の分析結果、(4)圧力変化のいずれかに基づいて判定される。
(1)洗浄液中の鉄濃度による判定の場合は、第1実施形態のように薬液タンク701に洗浄液が回収されて鉄濃度が測定されても良い。または、循環ライン720を通過する洗浄液の一部が抜出し部722から採取されて、鉄濃度測定に供されてもよい。
【0191】
(4)圧力変化に基づく判定の場合は、第7実施形態と同様に循環ライン720に圧力計が設置される。循環ポンプ721の回転数を所定の周波数で増減させる運用を行い、循環ライン720に設置された圧力計で計測される圧力値を用いて、第7実施形態で説明したのと同様の思想で、判定部がヘマタイトが溶出する除去状況を判定する。
【0192】
判定工程においてヘマタイトが除去されたことを判定部が判定すると、判定部は制御部
704に洗浄工程を終了させ、排出工程を実施させる。
【0193】
本実施形態に依れば、洗浄液に流速が与えられ、洗浄液が撹拌され、更に洗浄工程中に洗浄液が加熱されるため、循環ラインを設けない第1実施形態よりも洗浄力が向上し、ヘマタイトの洗浄効率が上昇する。