(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該PEGが約500、約1,000、約1,500、約2,000、約5,000、約10,000、約20,000、約30,000、約40,000、約50,000、約60,000、約70,000、約80,000、約90,000、または約100,000ダルトンの平均分子量を有する(CH2CH2O)n部分を含む、請求項1に記載のコンプスタチン類似体。
コンプスタチン類似部分が配列番号28のアミノ酸配列を含むコンプスタチン類似体部分と、Lys側鎖のアミノ基を介してNHSエステルの反応に由来する構造によりPEGにコンジュゲートされる配列番号28のThr残基のC末端側にAEEAc−Lys部分を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のコンプスタチン類似体。
請求項1〜8のいずれか1項に記載のコンプスタチン類似体を少なくとも1つの薬学的に許容される担体または賦形剤と混合することを含む、請求項9の組成物を製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の特定の実施形態に関する詳細な説明)
I.定義
数に関連する「約」という用語は一般に、特に明記されない限り、あるいは文脈上特に明らかでない限り、その数の±10%以内、いくつかの実施形態では±5%以内、いくつかの実施形態では±1%以内、いくつかの実施形態では±0.5%以内に収まる数を包含する(ただし、その数が許容範囲を超えて、考え得る値の100%を上回る場合は除く)。
【0011】
「補体成分」または「補体タンパク質」とは、補体系の活性化に関与する、あるいは補体が媒介する1つ以上の作用に関与するタンパク質のことである。古典的補体経路の成分としては、例えばC1q、C1r、C1s、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9および膜侵襲複合体(MAC)とも呼ばれるC5b−9複合体ならびに上記のいずれかの活性フラグメントまたは酵素切断産物(例えば、C3a、C3b、C4a、C4b、C5aなど)が挙げられる。代替経路の成分としては、例えばB因子、D因子およびプロパージンが挙げられる。レクチン経路の成分としては、例えばMBL2、MASP−1およびMASP−2が挙げられる。補体成分としてはほかにも、可溶性補体成分に対する細胞結合受容体が挙げられ、この場合、可溶性補体成分が結合すると細胞結合受容体がこの可溶性補体成分の1つ以上の生物活性を媒介する。このような受容体としては、例えばC5a受容体(C5aR)、C3a受容体(C3aR)、補体受容体1(CR1)、補体受容体2(CR2)、補体受容体3(CR3、CD45としても知られる)などが挙げられる。「補体成分」という用語は補体活性化の「トリガー」として働く分子および分子構造、例えば、抗原抗体複合体、微生物の表面または人工的な表面上に存在する外来の構造などを包含することを意図するものではないことが理解されよう。
【0012】
「補体介在性の障害」とは、罹患している少なくとも一部の対象において補体活性化が要因および/または少なくとも部分的に原因であることが知られている、あるいはそうであることが疑われるあらゆる障害、例えば、補体活性化により組織損傷を来たす障害のことである。補体介在性の障害の非限定的な例としては、特に限定されないが、(i)溶血または溶血性貧血を特徴とする様々な障害、例えば非定型溶血性尿毒症症候群、寒冷凝集素症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、輸血反応など;(ii)移植拒絶反応(例えば、超急性または急性移植拒絶反応)または移植機能不全;(iii)外傷、外科手術(例えば、動脈瘤修復)、心筋梗塞、虚血性脳卒中などの虚血/再灌流傷害を伴う障害;(iv)喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器系の障害;(v)関節炎、例えば、関節リウマチ;(vi)加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、緑内障およびブドウ膜炎などの眼障害が挙げられる。本明細書では、「障害」は「疾患」、「状態」と互換的に使用され、生物体のあらゆる健康障害または機能異常の状態、例えば、内科的および/または外科的処置が適応とされるあらゆる状態、あるいは対象が適宜に内科的および/または外科的処置を求めるあらゆる状態を指す語とほぼ同じものである。このほか、特定の範疇において特定の障害を挙げるのは便宜上のことであって、本発明を限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。特定の疾患が複数の範疇において適宜挙げられ得ることが理解されよう。
【0013】
「補体制御タンパク質」とは、補体活性の制御に関与するタンパク質のことである。補体制御タンパク質は、例えば、補体活性化を阻害することにより、あるいは1種類以上の活性化補体タンパク質の崩壊を不活性化または加速することにより、補体活性をダウンレギュレートし得る。補体制御タンパク質の例としては、C1阻害因子、C4結合タンパク質、クラスタリン、ビトロネクチン、CFH、I因子ならびに細胞結合タンパク質CD46、CD55、CD59、CR1、CR2およびCR3が挙げられる。
【0014】
本明細書において2つ以上の部分に関して使用される「結合している」とは、それらの部分が互いに物理的に結び付いて、あるいは繋がって、好ましくはその新たな分子構造が使用される条件下、例えば生理的条件下でそれらの部分の結び付きが維持されるよう十分に安定な分子構造を形成することを意味するものである。本発明の特定の好ましい実施形態では、結合は共有結合である。他の実施形態では、結合は非共有結合である。部分同士が直接結合していても、間接的に結合していてもよい。2つの部分が直接結合している場合、それらは互いに共有結合しているか、あるいは2つの部分の間の分子間力が部分同士の結び付きを維持するのに十分な程度に接近している。2つの部分が間接的に結合している場合、それらはそれぞれが第三の部分と共有結合または非共有結合し、これにより両部分の間の結び付きが維持される。一般に、「結合部分」または「結合部」により結合しているという場合、両結合部分の間の結合は間接的なものであり、通常は、結合される部分のそれぞれが結合部分と共有結合している。2つの部分を「リンカー」を用いて結合させることができる。リンカーは、実体の安定性を維持できる条件下(条件によっては、必要に応じて実体の一部分を保護することがある)適度な時間内に、適度な収率が得られる量で、結合させる実体と反応する、任意の適切な部分であり得る。リンカーは通常、少なくとも2つの官能基を含み、2つの官能基一方が第一の実体と反応し、他方が第二の実体と反応する。リンカーが結合させる実体と反応した後は、「リンカー」という用語は、得られた構造のリンカーに由来する部分または少なくとも反応した官能基を含まない部分を指し得ることが理解されよう。結合部分は、結合させる実体との結合には関与せずに実体を互いに空間的に分離することを目的とする部分を含み得る。このような部分は「スペーサー」と呼ばれ得る。
【0015】
本明細書で使用される「ポリペプチド」は、任意選択でアミノ酸類似体を1つ以上含むアミノ酸のポリマーを指す。タンパク質とは、1つ以上のポリペプチドからなる分子のことである。ペプチドとは、長さが通常約2〜60アミノ酸、例えば、長さが8〜40アミノ酸の比較的短いポリペプチドのことである。「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は互換的に使用され得る。本明細書で使用されるポリペプチドは、タンパク質中に本来存在するアミノ酸、タンパク質中に本来存在しないアミノ酸および/またはアミノ酸ではないアミノ酸類似体などのアミノ酸を含み得る。本明細書で使用されるアミノ酸の「類似体」は、アミノ酸と構造が類似している別のアミノ酸またはアミノ酸と構造が類似しているアミノ酸以外の化合物であり得る。タンパク質中に普通にみられる20種類のアミノ酸(「標準」アミノ酸)の当該技術分野で認められている類似体が多数知られている。例えば、炭水化物基、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、コンジュゲーション、官能基化またはその他の修飾のためのリンカーなどの化学的実体を付加することにより、ポリペプチド中の1つ以上のアミノ酸を修飾することができる。特定の非限定的な適切な類似体および修飾が国際公開第2004026328号および/または以降に記載されている。ポリペプチドを、例えばN末端でアセチル化し、かつ/または例えばC末端でアミド化してもよい。
【0016】
本明細書で使用される「反応性官能基」は、特に限定されないが、オレフィン、アセチレン、アルコール、フェノール、エーテル、オキシド、ハロゲン化物、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、アミド、シアナート、イソシアナート、チオシアナート、イソチオシアナート、アミン、ヒドラジン、ヒドラゾン、ヒドラジド、ジアゾ、ジアゾニウム、ニトロ、ニトリル、メルカプタン、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホン酸、スルフィン酸、アセタール、ケタール、無水物、硫酸、スルフェン酸、イソニトリル、アミジン、イミド、イミダート、ニトロン、ヒドロキシルアミン、オキシム、ヒドロキサム酸、チオヒドロキサム酸、アレン、オルトエステル、亜硫酸、エナミン、イナミン、尿素、イソ尿素、セミカルバジド、カルボジイミド、カルバミン酸、イミン、アジド、アゾ化合物、アゾキシ化合物およびニトロソ化合物、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、マレイミド、スルフィドリルなどを含めた基を指す。上に挙げた各官能基を調製する方法は当該技術分野で周知であり、特定の目的でのその適用または修飾は当業者の能力の範囲内にある(例えば、SandlerおよびKaro編,ORGANIC FUNCTIONAL GROUP PREPARATIONS,Academic Press,San Diego,1989ならびにHermanson,G.,Bioconjugate Techniques,第2版,Academic Press,San Diego,2008を参照されたい)。
【0017】
「特異的結合」は一般に、標的ポリペプチド(またはより一般には標的分子)と、抗体またはリガンドなどの結合分子との間の物理的な結び付きを指す。この結び付きは通常、結合分子によって認識される抗原決定基、エピトープ、結合ポケットまたは間隙などの標的の特定の構造的特徴の存在に依存するものである。例えば、抗体がエピトープAに対して特異的である場合、遊離の標識されたAおよびそれと結合する結合分子をともに含有する反応物中に、エピトープAを含むポリペプチドが存在することまたは遊離の未標識のAが存在することにより、結合分子と結合する標識されたAの量が減少する。このほか、特異性は完全なものである必要はなく、一般に結合が起こる状況を指すものであることを理解するべきである。例えば、多くの抗体が、標的分子中に存在するエピトープに加えて他のエピトープと交差反応することが当該技術分野で周知である。このような交差反応性は、抗体を使用する適用によっては許容され得るものである。当業者は、任意の適用において(例えば、標的分子の検出のため、治療目的など)、十分に機能できる程度の特異性を有する抗体またはリガンドを選択することができるであろう。このほか、結合分子と他の標的、例えば競合物質との親和性に対する結合分子と標的分子との親和性などの他の因子の観点から特異性が評価され得ることも理解するべきである。結合分子が検出することを望む標的分子に対して高い親和性を示し、非標的分子に対しては低い親和性を示せば、その抗体は許容される試薬である可能性がある。結合分子の特異性が1つ以上の状況において確認されれば、その特異性を再び評価する必要なしにそれを他の状況、好ましくはほぼ同じ状況で用いることができる。いくつかの実施形態では、特異的結合を示す2分子の親和性(平衡解離定数Kdにより測定される)は、試験条件下、例えば生理的条件下で10
−3M以下、例えば10
−4M以下、例えば10
−5M以下、例えば10
−6M以下、10
−7M以下、10
−8M以下または10
−9M以下である。
【0018】
本発明に従って治療する「対象」は通常、少なくとも一部の霊長類(例えば、ヒト)補体成分C3と、任意選択でさらに1つ以上の霊長類補体成分とを発現するか、これを含むヒト、非ヒト霊長類またはこれより下等な動物(例えば、マウスまたはラット)である。いくつかの実施形態では、対象は雄である。いくつかの実施形態では、対象は雌である。いくつかの実施形態では、対象は成体、例えば最低でも18歳、例えば18〜100歳のヒトである。
【0019】
対象を治療することに関連して本明細書で使用される「治療(すること)」は、治療を提供すること、すなわち、対象の任意のタイプの内科的または外科的処置を提供することを指す。治療は、疾患を正常な状態に戻す、それを軽減する、疾患の進行を抑制する、疾患を予防する、疾患の可能性を低下させるために、あるいは疾患の1つ以上の症状または徴候を正常な状態に戻す、それを軽減する、それを抑制する、疾患の1つ以上の症状または徴候の進行を防ぐ、疾患の1つ以上の症状または徴候を予防する、疾患の1つ以上の症状または徴候の可能性を低下させるために提供され得る。「予防する」とは、少なくとも一部の患者において疾患または疾患の症状もしくは徴候が少なくとも一定期間は生じないようにすることを指すものである。治療には、疾患を示す1つ以上の症状または徴候が発現したときに、例えば、疾患を正常な状態に戻す、それを軽減する、疾患の重症度を軽減するおよび/または疾患の進行を抑制するもしくは防ぐために、ならびに/あるいは疾患の1つ以上の症状もしくは徴候を正常な状態に戻す、それを軽減する、疾患の1つ以上の症状もしく徴候の重症度を軽減するおよび/または抑制するために、対象に化合物または組成物を投与することが含まれ得る。疾患を発症している対象または疾患の発症リスクが一般集団の者より高い対象に化合物または組成物を投与することができる。疾患を発症している対象あるいは疾患の1つ以上の特定の症状もしくは徴候の発現または疾患増悪のリスクが、その疾患を有すると診断されている他の患者に比べて、または増悪に対する対象の典型的または平均的なリスクに比べて高い対象に化合物または組成物を投与することができる。例えば、対象は、対象に増悪が認められるリスクを増大させる(例えば、一時的にリスクを増大させる)「トリガー」に曝露されていてもよい。化合物または組成物を予防的に、すなわち、疾患の症状または徴候が発現する前に投与することができる。通常この場合、対象は、任意選択で年齢、性別および/またはその他の人口統計学的変数(1つまたは複数)の点で一致する一般集団の者に比べて疾患の発症リスクがある。
【0020】
本明細書で使用される「脂肪族」という用語は、直鎖状(すなわち、非分岐)、分岐状または環状(融合多環、架橋多環およびスピロ融合多環を含む)であり得、完全に飽和されているか、不飽和の単位を1つ以上含み得るが、芳香族ではない炭化水素部分を意味する。特に明記されない限り、脂肪族基は1〜30個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、脂肪族基は1〜10個の炭素原子を含む。他の実施形態では、脂肪族基は1〜8個の炭素原子を含む。さらに他の実施形態では、脂肪族基は1〜6個の炭素原子を含み、またさらに他の実施形態では、脂肪族基は1〜4個の炭素原子を含む。適切な脂肪族基としては、特に限定されないが、直鎖状または分岐状のアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基ならびに(シクロアルキル)アルキル、(シクロアルケニル)アルキルまたは(シクロアルキル)アルケニルなどの上記基のハイブリッドが挙げられる。
【0021】
本明細書で使用される「アルキル」は、約1個〜約22個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)を有する飽和の直鎖状、分岐状または環状炭化水素を指し、本発明の特定のある実施形態では、炭素原子の数は約1個〜約12個または約1個〜約7個が好ましい。アルキル基としては、特に限定されないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、シクロペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、シクロオクチル、アダマンチル、3−メチルペンチル、2,2−ジメチルブチルおよび2,3−ジメチルブチルが挙げられる。
【0022】
本明細書で使用される「ハロ」はF、Cl、BrまたはIを指す。
【0023】
本明細書で使用される「アルカノイル」は、約1個〜10個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)、例えば、理解されるように、末端のC=O基と単結合で結合した(「アシル基」と呼ばれることもある)約1個〜7個の炭素原子を有し、任意選択で置換されている直鎖状または分岐状の脂肪族非環状残基を指す。アルカノイル基としては、特に限定されないが、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、イソペンタノイル、2−メチル−ブチリル、2,2−ジメトキシプロピオニル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイルなどが挙げられ、本発明の目的のためには、ホルミル基はアルカノイル基と見なされる。「低級アルカノイル」は、約1個〜約5個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)を有し、任意選択で置換されている直鎖状または分岐状の脂肪族非環状残基を指す。このような基としては、特に限定されないが、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、イソペンタノイルなどが挙げられる。
【0024】
本明細書で使用される「アリール」は、約5個〜約14個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)、好ましくは約6個〜約10個の炭素原子を有し、任意選択で置換されている単環式または二環式の芳香環系を指す。非限定的な例としては、例えばフェニルおよびナフチルが挙げられる。
【0025】
本明細書で使用される「アラルキル」は、アリール置換基を有し、かつ約6個〜約22個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)を有するアルキルラジカルを指し、特定の実施形態では、炭素原子の数は約6個〜約12個が好ましい。アラルキル基は、任意選択で置換されていてもよい。非限定的な例としては、例えば、ベンジル、ナフチルメチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、フェニルエチルおよびジフェニルエチルが挙げられる。
【0026】
本明細書で使用される「アルコキシ」および「アルコキシル」という用語は、任意選択で置換されているアルキル−O−基を指し、ここでは、アルキルは上で定義した通りのものである。アルコキシ基およびアルコキシル基の例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシおよびヘプトキシが挙げられる。
【0027】
本明細書で使用される「カルボキシ」は−C(=O)OH基を指す。
【0028】
本明細書で使用される「アルコキシカルボニル」は−C(=O)O−アルキル基を指し、ここでは、アルキルは上で定義した通りのものである。
【0029】
本明細書で使用される「アロイル」は−C(=O)−アリール基を指し、ここでは、アリールは上で定義した通りのものである。アロイル基の例としては、ベンゾイルおよびナフトイルが挙げられる。
【0030】
「環系」という用語は、一部が不飽和であるか完全に飽和されている芳香族または非芳香族の3員〜10員環系を指し、これには、3〜8個の原子の大きさの単環ならびに非芳香環と融合した芳香族5員もしくは6員アリール基または芳香族複素環基を含み得る二環系および三環系が含まれる。このような複素環には、独立して酸素、硫黄および窒素からなる群より選択されるヘテロ原子を1個〜3個有する複素環が含まれる。特定の実施形態では、複素環という用語は、少なくとも1つの環原子がO、SおよびNからなる群より選択されるヘテロ原子である非芳香族5員、6員もしくは7員環基または多環基を指し、これには、特に限定されないが、独立して酸素、硫黄および窒素からなる群より選択されるヘテロ原子を1個〜3個有する融合6員環を含む二環基または三環基が含まれる。いくつかの実施形態では、「環系」はシクロアルキル基を指し、本明細書で使用されるシクロアルキル基は、3個〜10個、例えば4個〜7個の炭素原子を有する基を指す。シクロアルキルとしては、特に限定されないが、任意選択で置換されているシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、「環系」は、任意選択で置換されているシクロアルケニル部分またはシクロアルキニル部分を指す。
【0031】
置換されている化学的部分には通常、水素に代わる置換基が1つ以上含まれている。置換基の例としては、例えば、ハロ、アルキル、シクロアルキル、アラルキル、アリール、スルフィドリル、ヒドロキシル(−OH)、アルコキシル、シアノ(−CN)、カルボキシル(−COOH)、−C(=O)O−アルキル、アミノカルボニル(−C(=O)NH
2)、−N−置換アミノカルボニル(−C(=O)NHR”)、CF
3、CF
2CF
3などが挙げられる。上記の置換基について、部分R’’はそれぞれ独立して、例えばH、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルのいずれかであり得る。
【0032】
本明細書で使用される「L−アミノ酸」は、タンパク質中に普通に存在する天然の左旋性のα−アミノ酸またはこのα−アミノ酸のアルキルエステルのいずれかを指す。「D−アミノ酸」という用語は右旋性のα−アミノ酸を指す。特に明記されない限り、本明細書で言及されるアミノ酸はすべてL−アミノ酸である。
【0033】
本明細書で使用される「芳香族アミノ酸」とは、芳香環を少なくとも1つ含むアミノ酸のことであり、例えば、芳香族アミノ酸はアリール基を含む。
【0034】
本明細書で使用される「芳香族アミノ酸類似体」とは、芳香環を少なくとも1つ含むアミノ酸類似体のことであり、例えば、芳香族アミノ酸類似体はアリール基を含む。
【0035】
II.概要
本発明は、細胞反応性コンプスタチン類似体およびそれに関連する方法、例えば、その使用方法を提供する。細胞反応性コンプスタチン類似体とは、コンプスタチン類似体部分と、細胞の表面に露出している官能基と例えば生理的条件下で反応して共有結合を形成することができる細胞反応性の官能基とを含む、化合物のことである。したがって、細胞反応性コンプスタチン類似体は細胞と共有結合する。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、細胞に係留されたコンプスタチン類似体が、例えば、細胞表面および/または細胞付近でC3(C3(H
2O)の形態であり得る)と結合してC3の切断および活性化を阻害することにより、ならびに/あるいはC3bと結合してその細胞への沈着または補体活性化カスケードへの関与を阻害することにより、補体介在性の傷害から細胞を保護する。本発明のいくつかの態様では、単離細胞と細胞反応性コンプスタチン類似体とをex vivo(体外)で接触させる。本発明のいくつかの態様では、細胞は単離された組織または臓器内、例えば、対象に移植する組織または臓器内に存在する。本発明のいくつかの態様では、対象に細胞反応性コンプスタチン類似体を投与することにより、細胞と細胞反応性コンプスタチン類似体とをin vivoで接触させる。細胞反応性コンプスタチン類似体は、in vivoで細胞と共有結合するようになる。いくつかの態様では、本発明の方法は、少なくとも2週間、その期間の間に再び治療を実施する必要なしに、補体活性化の有害な作用から細胞、組織および/または臓器を保護するものである。
【0036】
いくつかの態様では、本発明は、細胞もしくは組織の表面に存在する標的分子または細胞もしくは組織に結合していない細胞外物質と非共有結合する標的化部分を含む、コンプスタチン類似体を提供する。本明細書では、このようなコンプスタチン類似体を「標的化コンプスタチン類似体」と呼ぶ。標的分子は多くの場合、細胞膜に結合して細胞表面に露出しているタンパク質または炭水化物である。標的化部分は、コンプスタチン類似体を補体活性化の影響を受けやすい細胞、組織または部位に対して標的化する。本発明のいくつかの態様では、単離細胞と標的化コンプスタチン類似体とをex vivo(体外)で接触させる。本発明のいくつかの態様では、細胞は、単離された組織または臓器内、例えば、対象に移植する組織または臓器内に存在する。本発明のいくつかの態様では、標的化コンプスタチン類似体が対象に投与されて、細胞、組織または細胞外物質とin vivoで共有結合するようになる。いくつかの態様では、本発明の方法は、少なくとも2週間、その期間の間に再び治療を実施する必要なしに、補体活性化の有害な作用から細胞、組織および/または臓器を保護するものである。いくつかの実施形態では、標的化コンプスタチン類似体は、標的化部分と細胞反応性部分をともに含む。標的化部分は、細胞上の分子と非共有結合することにより、コンプスタチン類似体を例えば特定の細胞タイプに対して標的化する。次いで、細胞反応性部分が細胞または細胞外物質と共有結合する。他の実施形態では、標的化コンプスタチン類似体は細胞反応性部分を含まない。
【0037】
いくつかの態様では、本発明は長時間作用型コンプスタチン類似体を提供し、ここでは、長時間作用型コンプスタチン類似体は、体内での化合物の寿命を(例えば、その血液からのクリアランスを低下させることにより)延ばすポリエチレングリコール(PEG)などの部分を含む。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は標的化部分も細胞反応性部分も含まない。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は標的化部分および/または細胞反応性部分を含む。
【0038】
III.補体系
本発明の理解を容易にするため、本発明を限定する意図は一切ないが、本節に補体とその活性化経路の概要を記載する。さらに詳細な説明については、例えば、Kuby Immunology,第6版,2006;Paul,W.E.,Fundamental Immunology,Lippincott Williams & Wilkins;第6版,2008;およびWalport MJ.,Complement.First of two parts. N Engl J Med.,344(14):1058−66,2001に記載されている。
【0039】
補体は、感染病原体から体を防御するのにある重要な役割を担う自然免疫系の一部門である。補体系には、古典経路、代替経路およびレクチン経路として知られる3つの主要な経路に関与する30種類以上の血清タンパク質および細胞タンパク質が含まれる。古典経路は通常、抗原とIgMまたはIgG抗体との複合体がC1と結合することにより誘発される(ただし、ある種の他の活性化因子もこの経路を開始することができる)。活性化したC1がC4およびC2をC4aとC4bおよびC2aとC2bに切断する。C4bとC2aが合わさってC3転換酵素を形成し、これがC3を切断してC3aとC3bが形成される。C3bとC3転換酵素が結合するとC5転換酵素が生じ、これがC5をC5aとC5bに切断する。C3a、C4aおよびC5aはアナフィロトキシンであり、急性炎症性応答における複数の反応を媒介する。またC3aおよびC5aは、好中球などの免疫系細胞を誘引する走化性因子でもある。
【0040】
代替経路は、例えば、微生物表面および様々な複合多糖類により開始され、またこれらによって増幅される。この経路では、低レベルで自発的に生じるC3からC3(H
2O)への加水分解によりB因子との結合が生じ、これがD因子により切断されて液相のC3転換酵素が生じ、これがC3をC3aとC3bに切断することにより補体を活性化する。C3bが細胞表面などの標的と結合してB因子と複合体を形成し、これがのちにD因子により切断されてC3転換酵素が生じる。表面と結合したC3転換酵素がさらに別のC3分子を切断して活性化し、活性化部位に近接してC3bが急速に沈着してさらに別のC3転換酵素が形成され、これによりさらに別のC3bが生じる。このような過程により、反応を大幅に増幅させるC3切断およびC3転換酵素形成のサイクルが生じる。C3の切断および別のC3b分子とC3転換酵素との結合によりC5転換酵素が生じる。この経路のC3転換酵素とC5転換酵素は、宿主細胞分子であるCR1、DAF、MCP、CD59およびfHによって制御される。これらのタンパク質の作用機序には、活性促進の低下(すなわち、転換酵素を解離させる能力)、I因子によるC3bまたはC4bの分解において補助因子として働く能力あるいはその両方が含まれる。通常、宿主細胞表面に補体制御タンパク質が存在することにより、細胞表面で著しい補体活性化が生じないようになっている。
【0041】
両経路で生成したC5転換酵素はC5を分解してC5aとC5bを生じる。次いで、C5bがC6、C7およびC8と結合してC5b−8を形成し、これがC9の重合を触媒してC5b−9膜侵襲複合体(MAC)を形成する。MACは標的細胞膜に侵入し、細胞溶解を引き起こす。細胞膜上のMACの量が少ないと、細胞死以外の様々な結果がもたらされ得る。
【0042】
レクチン補体経路は、マンノース結合レクチン(MBL)およびMBL関連セリンプロテアーゼ(MASP)が炭水化物と結合することにより開始される。MB1−1遺伝子(ヒトではLMAN−1として知られる)は、小胞体とゴルジ体との間の中間領域に存在するI型内在性膜タンパク質をコードする。MBL−2遺伝子は、血清中に存在する可溶性マンノース結合タンパク質をコードする。ヒトレクチン経路では、MASP−1およびMASP−2がC4とC2のタンパク質分解に関与し、上記のC3転換酵素が生じる。
【0043】
補体活性は、補体制御タンパク質(CCP)または補体活性化制御因子(RCA)タンパク質と呼ばれる様々な哺乳動物タンパク質により制御されている(米国特許第6,897,290号)。これらのタンパク質は、リガンド特異性および補体阻害機序(1つまたは複数)が異なるものである。これらは転換酵素の正常な崩壊を加速し、かつ/またはI因子の補助因子として機能して、C3bおよび/またはC4bを酵素的に切断してさらに小さいフラグメントにする。CCPは、ジスルフィド結合した4つのシステイン(2つのジスルフィド結合)を有する保存されたモチーフ、プロリン、トリプトファンおよび多数の疎水性残基を含み、ショートコンセンサスリピート(SCR)、補体制御タンパク質(CCP)モジュールまたはSUSHIドメインとして知られる、長さ約50〜70アミノ酸の複数(通常、4〜56個)の相同なモチーフが存在することを特徴とする。CCPファミリーとしては、補体受容体1(CR1;C3b:C4b受容体)、補体受容体2(CR2)、膜補因子タンパク質(MCP;CD46)、崩壊促進因子(DAF)、補体H因子(fH)およびC4b結合タンパク質(C4bp)が挙げられる。CD59は、構造的にはCCPと関連のない膜結合補体制御タンパク質である。補体制御タンパク質は通常、制限しなければ哺乳動物、例えばヒト宿主の細胞および組織上で生じ得る補体活性化を制限するものである。したがって、「自己」の細胞は通常、これらの細胞上で補体活性化が進行すれば続いて生じる有害な作用から保護されている。補体制御タンパク質(1つまたは複数)の不足または欠損が様々な補体介在性の障害、例えば本明細書で述べるような障害の病理発生に関与している。
【0044】
IV.コンプスタチン類似体
コンプスタチンは、C3と結合し補体活性化を阻害する環状ペプチドである。米国特許第6,319,897号には、配列Ile−[Cys−Val−Val−Gln−Asp−Trp−Gly−His−His−Arg−Cys]−Thr(配列番号1)を有するペプチドが記載されており、配列中、2つのシステインの間にあるジスルフィド結合が括弧で表わされている。「コンプスタチン」という名称は米国特許第6,319,897号では使用されていないが、のちに、米国特許第6,319,897号に開示されている配列番号2と同じ配列を有するが表1(配列番号8)に示されるようにC末端がアミド化されているペプチドを呼ぶのに科学文献および特許文献(例えば、Morikisら,Protein Sci.,7(3):619−27,1998を参照されたい)で採用されたことが理解されよう。本明細書では一貫して、「コンプスタチン」という用語をこのような使用法で(すなわち、配列番号8を呼ぶ場合に)用いる。コンプスタチンより高い補体阻害活性を有するコンプスタチン類似体が開発されている。例えば、国際公開第2004/026328号(国際出願PCT/US2003/029653号)、Morikis,D.ら,Biochem Soc Trans.32(Pt 1):28−32,2004, Mallik,B.ら,J.Med.Chem.,274−286,2005;Katragadda,M.ら,J.Med.Chem.,49:4616−4622,2006;国際公開第2007062249号(国際出願PCT/US2006/045539号);国際公開第2007044668号(国際出願PCT/US2006/039397号)、国際公開第2009/046198号(国際出願PCT/US2008/078593号);国際公開第2010/127336号(国際出願PCT/US2010/033345号)および後述の考察を参照されたい。
【0045】
コンプスタチン類似体は、例えばN末端および/またはC末端でアセチル化またはアミド化されていてよい。例えば、コンプスタチン類似体は、N末端でアセチル化され、かつC末端でアミド化されていてよい。当該技術分野で使用される通り、本明細書で使用される「コンプスタチン」およびコンプスタチンの活性と比較した本明細書に記載のコンプスタチン類似体の活性は、C末端でアミド化されたコンプスタチンのことを指す(Mallik,2005,上記)。
【0046】
ほかにも、コンプスタチンのコンカテマーもしくは多量体またはその補体阻害類似体が本発明で使用される。
【0047】
本明細書で使用される「コンプスタチン類似体」という用語は、コンプスタチンおよびその任意の補体阻害類似体を包含する。「コンプスタチン類似体」という用語は、コンプスタチンおよびコンプスタチンに基づき設計または同定され、その補体阻害活性が、例えば、当該技術分野で認められている任意の補体活性化アッセイまたはこれと実質的にほぼ同じもしくは同等なアッセイを用いて測定されるコンプスタチンの活性の少なくとも50%の大きさである他の化合物を包含する。特定の適切なアッセイが米国特許第6,319,897号、国際公開第2004/026328号、Morikis,上記、Mallik,上記、Katragadda 2006,上記、国際公開第2007062249号(国際出願PCT/US2006/045539号);国際公開第2007044668号(国際出願PCT/US2006/039397号)、国際公開第2009/046198号(国際出願PCT/US2008/078593号);および/または国際公開第2010/127336号(国際出願PCT/US2010/033345号)に記載されている。アッセイは、例えば、代替経路もしくは古典経路に媒介される赤血球溶解を測定するものであっても、ELISAアッセイであってもよい。いくつかの実施形態では、国際公開第2010/135717号(国際出願PCT/US2010/035871号)に記載されているアッセイを用いる。
【0048】
コンプスタチン類似体の活性はそのIC
50(補体活性化を50%阻害する化合物の濃度)により表すことができ、当該技術分野で認められているように、IC
50が低いほど活性が高いことを示す。本発明で使用するのに好ましいコンプスタチン類似体の活性は、少なくともコンプスタチンの活性と同じ大きさである。補体阻害活性を減少させるか打ち消すことが知られている特定の修飾が本発明のいずれの実施形態からも明確に除外され得ることが留意される。コンプスタチンのIC
50については、代替経路媒介による赤血球溶解アッセイを用いて12μMという測定結果が得られている(国際公開第2004/026328号)。所与のコンプスタチン類似体で測定される正確なIC
50値は、実験条件(例えば、アッセイで使用する血清濃度)によって異なることが理解されよう。例えば、実質的に同一の条件下で複数の異なる化合物のIC
50を決定する実験から得られた値を比較したものが有用である。一実施形態では、コンプスタチン類似体のIC
50はコンプスタチンのIC
50以下である。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体の活性はコンプスタチンの活性の2〜99倍である(すなわち、類似体のIC
50がコンプスタチンのIC
50の2〜99倍低い)。例えば、活性は、コンプスタチンの活性の10〜50倍の大きさまたはコンプスタチンの活性の50〜99の大きさであり得る。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体の活性はコンプスタチンの活性の99〜264倍である。例えば、活性は、コンプスタチンの活性の100倍、110倍、120倍、130倍、140倍、150倍、160倍、170倍、180倍、190倍、200倍、210倍、220倍、230倍、240倍、250倍、260倍または264倍の大きさであり得る。特定の実施形態では、活性は、コンプスタチンの活性の250〜300倍、300〜350倍、350〜400倍または400〜500倍の大きさである。本発明はさらに、コンプスタチンの活性の500〜1000倍またはそれ以上の活性を有するコンプスタチン類似体を考慮する。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体のIC
50は約0.2μM〜約0.5μMである。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体のIC
50は約0.1μM〜約0.2μMである。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体のIC
50は約0.05μM〜約0.1μMである。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体のIC
50は約0.001μM〜約0.05μMである。
【0049】
C3と結合するコンプスタチンのK
dは等温滴定熱量測定を用いて測定することができる(Katragaddaら,J.Biol.Chem.,279(53),54987−54995,2004)。当該技術分野で認められているように、様々なコンプスタチン類似体のC3に対する結合親和性とその活性との間には相関がみられ、K
dが低いほど結合親和性が高いことを示す。試験された特定の類似体には結合親和性と活性との間に線形相関が認められている(Katragadda,2004,上記;Katragadda 2006,上記)。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は0.1μM〜1.0μM、0.05μM〜0.1μM、0.025μM〜0.05μM、0.015μM〜0.025μM、0.01μM〜0.015μMまたは0.001μM〜0.01μMのK
dでC3と結合する。
【0050】
「コンプスタチンに基づき設計または同定される」化合物としては、特に限定されないが、(i)コンプスタチンの配列を改変すること(例えば、コンプスタチンの配列の1つ以上のアミノ酸を異なるアミノ酸もしくはアミノ酸類似体に置き換えること、コンプスタチンの配列に1つ以上のアミノ酸もしくはアミノ酸類似体を挿入することまたはコンプスタチンの配列から1つ以上のアミノ酸を削除すること);(ii)コンプスタチンの1つ以上のアミノ酸を無作為化し、任意選択で方法(i)に従ってさらに改変するファージディスプレイペプチドライブラリーから選択すること;あるいは(iii)C3またはそのフラグメントとの結合に関して方法(i)または(ii)で得られたコンプスタチンまたはその任意の類似体と競合する化合物のスクリーニングにより同定することにより配列が得られるアミノ酸鎖を含む化合物が挙げられる。有用なコンプスタチン類似体の多くが疎水性クラスター、βターンおよびジスルフィド架橋を含むものである。
【0051】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体の配列は、コンプスタチンの配列に1個、2個、3個または4個の置換を施すことにより、すなわち、コンプスタチンの配列中の1個、2個、3個または4個のアミノ酸を異なる標準アミノ酸にまたは非標準アミノ酸に置き換えることにより得られる配列を含むか、あるいは実質的にこれよりなるものである。本発明の特定の実施形態では、4位のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、9位のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、4位と9位のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、4位と9位のアミノ酸のみを変化させる。本発明の特定の実施形態では、4位または9位のアミノ酸を変化させるか、あるいは特定の実施形態では、4位と9位のアミノ酸をともに変化させ、さらに1位、7位、10位、11位および13位から選択される位置にある2個以下のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、4位、7位および9位のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、2位、12位または両方のアミノ酸を変化させるが、この変化は化合物が環状化する能力を保存するものである。2位および/または12位におけるこのような変化(1つまたは複数)は、1位、4位、7位、9位、10位、11位および/または13位における変化(1つまたは複数)に追加されるものであってもよい。任意選択で、コンプスタチン配列の1個以上のアミノ酸を置き換えることにより得られる任意のコンプスタチン類似体の配列は、C末端に最大1個、2個または3個の追加のアミノ酸を含む。一実施形態では、追加のアミノ酸はGlyである。任意選択で、コンプスタチン配列の1つ以上のアミノ酸を置き換えることにより得られる任意のコンプスタチン類似体の配列は、C末端に最大5個または最大10個の追加のアミノ酸をさらに含む。特に明記されない限り、あるいは文脈から明らかでない限り、コンプスタチン類似体が本明細書に記載の様々な実施形態のいずれか1つ以上の特徴または特性を有し得ること、また任意の実施形態の特徴または特性が本明細書に記載の他の任意の実施形態をさらに特徴付け得ることを理解するべきである。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体の配列は、コンプスタチンの配列の4位および9位に対応する位置に関する以外はコンプスタチンと同一の配列を含むか、あるいは実質的にこれよりなるものである。
【0052】
コンプスタチンおよびコンプスタチンよりもいくぶん活性が大きい特定のコンプスタチン類似体には標準アミノ酸(「標準アミノ酸」とは、グリシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、システイン、メチオニン、アルギニン、リジン、プロリン、セリン、トレオニンおよびヒスチジンである)のみが含まれている。活性が向上した特定のコンプスタチン類似体には非標準アミノ酸が1つ以上組み込まれている。有用な非標準アミノ酸としては、単一のハロゲン化を受けたおよび複数のハロゲン化を受けた(例えば、フッ素化された)アミノ酸、D−アミノ酸、ホモアミノ酸、N−アルキルアミノ酸、デヒドロアミノ酸、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン以外)、オルト−、メタ−またはパラ−アミノ安息香酸、ホスホ−アミノ酸、メトキシル化アミノ酸およびα,α−二置換アミノ酸が挙げられる。本発明の特定の実施形態では、本明細書の他の箇所の記載されているコンプスタチン類似体の1つ以上のL−アミノ酸を対応するD−アミノ酸に置き換えることにより、コンプスタチン類似体を設計する。このような化合物およびその使用方法は本発明の態様である。有用な非標準アミノ酸の例としては、2−ナフチルアラニン(2−NaI)、1−ナフチルアラニン(1−NaI)、2−インダニルグリシンカルボン酸(2Ig1)、ジヒドロトリプトファン(Dht)、4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン(Bpa)、2−α−アミノ酪酸(2−Abu)、3−α−アミノ酪酸(3−Abu)、4−α−アミノ酪酸(4−Abu)、シクロヘキシルアラニン(Cha)、ホモシクロヘキシルアラニン(hCha)、4−フルオロ−L−トリプトファン(4fW)、5−フルオロ−L−トリプトファン(5fW)、6−フルオロ−L−トリプトファン(6fW)、4−ヒドロキシ−L−トリプトファン(4OH−W)、5−ヒドロキシ−L−トリプトファン(5OH−W)、6−ヒドロキシ−L−トリプトファン(6OH−W)、1−メチル−L−トリプトファン(1MeW)、4−メチル−L−トリプトファン(4MeW)、5−メチル−L−トリプトファン(5MeW)、7−アザ−L−トリプトファン(7aW)、α−メチル−L−トリプトファン(αMeW)、β−メチル−L−トリプトファン(βMeW)、N−メチル−L−トリプトファン(NMeW)、オルニチン(orn)、シトルリン、ノルロイシン、γ−グルタミン酸などが挙げられる。
【0053】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体はTrp類似体を(例えば、コンプスタチンの配列に対して4位および/または7位に)1つ以上含む。Trp類似体の例は上に記載されている。このほか、Beeneら,Biochemistry 41:10262−10269,2002(特に単一のハロゲン化を受けたTrp類似体および複数のハロゲン化を受けたTrp類似体について記載している);Babitzke & Yanofsky, J.Biol.Chem.270:12452−12456,1995(特にメチル化Trp、ハロゲン化Trpおよびその他のTrp類似体ならびにインドール類似体について記載している);および米国特許第6,214,790号、同第6,169,057号、同第5,776,970号、同第4,870,097号、同第4,576,750号および同第4,299,838号を参照されたい。その他のTrp類似体としては、インドール環のαまたはβ炭素および任意選択で1つ以上の位置においても(例えば、メチル基により)置換されている変異体が挙げられる。2つ以上の芳香環を含むアミノ酸が、その置換変異体、非置換変異体または別法で置換された変異体を含め、Trp類似体の対象となる。本発明の特定の実施形態では、例えば4位におけるTrp類似体は5−メトキシ、5−メチル−、1−メチル−または1−ホルミル−トリプトファンである。本発明の特定の実施形態では、1−アルキル置換基、例えば低級アルキル(例えば、C
1〜C
5)置換基を含むTrp類似体(例えば、4位における類似体)を用いる。特定の実施形態では、N(α)メチルトリプトファンまたは5−メチルトリプトファンを用いる。いくつかの実施形態では、1−アルカニオール(alkanyol)置換基、例えば低級アルカノイル(例えば、C
1〜C
5)を含む類似体を用いる。例としては、1−アセチル−L−トリプトファンおよびL−β−トリプトファンが挙げられる。
【0054】
特定の実施形態では、Trp類似体は疎水性がTrpに比べて増大している。例えば、インドール環は、1つ以上のアルキル(例えば、メチル)基で置換されたものであり得る。特定の実施形態では、Trp類似体はC3との疎水性相互作用に関与する。このようなTrp類似体は、例えば、コンプスタチンの配列に対して4位に位置し得る。特定の実施形態では、Trp類似体は、置換もしくは非置換二環式芳香環成分または2つ以上の置換もしくは非置換単環式芳香環成分を含む。
【0055】
特定の実施形態では、Trp類似体は、C3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、疎水性はTrpと比べて増大していない。Trp類似体は、極性がTrpに比べて増大したものであり得、かつ/またはC3上での水素結合供与体との静電気的な相互作用に関与する能力が増大したものであり得る。水素結合を形成する性質が増大した特定の例示的なTrp類似体は、インドール環上に電気陰性置換基を含むものである。このようなTrp類似体は、例えば、コンプスタチンの配列に対して7位に位置し得る。
【0056】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は(例えば、コンプスタチンの配列に対して9位に)Ala類似体、側鎖にCH
2基を1つ以上含むこと以外はAlaと同一であるAla類似体を1つ以上含む。特定の実施形態では、Ala類似体は、2−Abuのような非分岐の単一メチルアミノ酸である。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、1つ以上のTrp類似体(例えば、コンプスタチンの配列に対して4位および/または7位に)と、Ala類似体(例えば、コンプスタチンの配列に対して9位に)とを含む。
【0057】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、(X’aa)
n−Gln−Asp−Xaa−Gly−(X”aa)
mの配列(配列番号2)を有するペプチドを含む化合物であり、式中、各X’aaおよび各X”aaは独立してアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択され、XaaはTrpまたはTrpの類似体であり、かつn>1、m>1であり、n+mが5〜21である。ペプチドはコア配列Gln−Asp−Xaa−Gly
(配列番号70)を有し、式中、XaaはTrpまたはTrpの類似体、例えば、H結合供与体と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。例えば、類似体は、Trpのインドール環が電気陰性部分、例えば、フッ素などのハロゲンで置換されているものであり得る。一実施形態では、Xaaは5−フルオロトリプトファンである。反証がない限り、当業者であれば、配列がこのコア配列を含み、補体活性化を阻害する、かつ/またはC3と結合する任意の非天然のペプチドがコンプスタチンの配列に基づき設計されることを認識するであろう。別の実施形態では、Xaaは、Gln−Asp−Xaa−Gly
(配列番号70)ペプチドがβターンを形成することが可能なアミノ酸またはTrp類似体以外のアミノ酸類似体である。
【0058】
本発明の特定の実施形態では、ペプチドはコア配列X’aa−Gln−Asp−Xaa−Gly(配列番号3)を有し、式中、X’aaおよびXaaはTrpおよびTrpの類似体から選択される。本発明の特定の実施形態では、ペプチドはコア配列X’aa−Gln−Asp−Xaa−Gly(配列番号3)を有し、式中、X’aaおよびXaaはTrp、Trpの類似体および芳香環を少なくとも1つ含むその他のアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択される。本発明の特定の実施形態では、コア配列は、ペプチドとの関連でβターンを形成する。βターンは、柔軟であり、ペプチドが例えば核磁気共鳴(NMR)を用いて評価される2つ以上のコンホメーションをとることを可能にするものであり得る。特定の実施形態では、X’aaは、置換もしくは非置換二環式芳香環成分または2つ以上の置換もしくは非置換単環式芳香環成分を含むTrpの類似体である。本発明の特定の実施形態では、X’aaは2−ナフチルアラニン、1−ナフチルアラニン、2−インダニルグリシンカルボン酸、ジヒドロトリプトファンおよびベンゾイルフェニルアラニンからなる群より選択される。本発明の特定の実施形態では、X’aaは、疎水性がTrpに比べて増大しているTrpの類似体である。例えば、X’aaは1−メチルトリプトファンであり得る。本発明の特定の実施形態では、Xaaは、水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。本発明の特定の実施形態では、水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているTrpの類似体は、Trpのインドール環の例えば5位に、5位のH原子のハロゲン原子による置換などの修飾を含む。例えば、Xaaは5−フルオロトリプトファンであり得る。
【0059】
本発明の特定の実施形態では、ペプチドはコア配列X’aa−Gln−Asp−Xaa−Gly−X”aa(配列番号4)を有し、式中、X’aaおよびXaaはそれぞれ独立して、TrpおよびTrpの類似体から選択され、X”aaはHis、Ala、Alaの類似体、Pheの類似体およびTrpの類似体から選択される。本発明の特定の実施形態では、X’aaは、疎水性がTrpに比べて増大している、1−メチルトリプトファンまたはインドール環上(例えば、1位、4位、5位または6位)にアルキル置換基を有する別のTrp類似体である。特定の実施形態では、X’aaは、置換もしくは非置換二環式芳香環成分または2つ以上の置換もしくは非置換単環式芳香環成分を含むTrpの類似体である。本発明の特定の実施形態では、X’aaは2−ナフチルアラニン、1−ナフチルアラニン、2−インダニルグリシンカルボン酸、ジヒドロトリプトファンおよびベンゾイルフェニルアラニンからなる群より選択される。本発明の特定の実施形態では、Xaaは、C3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。本発明の特定の実施形態では、水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているTrpの類似体は、Trpのインドール環の例えば5位に、5位のH原子のハロゲン原子による置換などの修飾を含む。例えば、Xaaは5−フルオロトリプトファンであり得る。特定の実施形態では、X”aaは、AlaもしくはAbuなどのAlaの類似体または別の非分岐の単一メチルアミノ酸である。本発明の特定の実施形態では、ペプチドはコア配列X’aa−Gln−Asp−Xaa−Gly−X”aa(配列番号4)を有し、式中、X’aaおよびXaaはそれぞれ独立して、Trp、Trpの類似体および芳香族側鎖を少なくとも1つ含むアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択され、X”aaはHis、Ala、Alaの類似体、PheおよびTrpから選択される。特定の実施形態では、X”aaはTrpの類似体、芳香族アミノ酸および芳香族アミノ酸類似体から選択される。
【0060】
本発明の特定の好ましい実施形態では、ペプチドは環状である。ペプチドは、一方が(X’aa)
nであり他方が(X”aa)
m内に位置する2つの任意のアミノ酸の間の結合により環状化され得る。特定の実施形態では、ペプチドの環状部分は長さが9〜15アミノ酸、例えば、長さが10〜12アミノ酸である。特定の実施形態では、ペプチドの環状部分は、長さが11アミノ酸であり、2位と12位のアミノ酸の間に結合(例えば、ジスルフィド結合)を有する。例えば、ペプチドは、長さが13アミノ酸であり、2位と12位のアミノ酸の間の結合により長さが11アミノ酸の環状部分が生じたものであり得る。
【0061】
特定の実施形態では、ペプチドは、配列X’aa1−X’aa2−X’aa3−X’aa4−Gln−Asp−Xaa−Gly−X”aa1−X”aa2−X”aa3−X”aa4−X”aa5(配列番号5)を含むか、あるいはこれよりなるものである。特定の実施形態では、X’aa4およびXaaはTrpおよびTrpの類似体から選択され、X’aa1、X’aa2、X’aa3、X”aa1、X”aa2、X”aa3、X”aa4およびX”aa5は独立してアミノ酸およびアミノ酸類似体から選択される。特定の実施形態では、X’aa4およびXaaは芳香族アミノ酸および芳香族アミノ酸類似体から選択される。X’aa1、X’aa2、X’aa3、X”aa1、X”aa2、X”aa3、X”aa4およびX”aa5のうち任意の1つ以上のものが、コンプスタチンの対応する位置にあるアミノ酸と一致し得る。一実施形態では、X”aa1はAlaまたは単一メチル非分岐アミノ酸である。ペプチドは、(i)X’aa1、X’aa2またはX’aa3と(ii)X”aa2、X”aa3、X”aa4またはX”aa5との間の共有結合により環状化され得る。一実施形態では、ペプチドは、X’aa2とX”aa4との間の共有結合により環状化されている。一実施形態では、共有結合しているアミノ酸がそれぞれCysであり、共有結合がジスルフィド(S−S)結合である。他の実施形態では、共有結合がC−C、C−O、C−SまたはC−N結合である。特定の実施形態では、一方の共有結合している残基が、第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸またはアミノ酸類似体であり、他方の共有結合している残基が、カルボン酸基を含む側鎖を有するアミノ酸またはアミノ酸類似体であり、かつ共有結合がアミド結合である。第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸またはアミノ酸類似体としては、リジンならびに一般構造がNH
2(CH
2)
nCH(NH
2)COOHのジアミノカルボン酸、例えば2,3−ジアミノプロピオン酸(dapa)、2,4−ジアミノ酪酸(daba)およびオルニチン(orn)(式中、それぞれn=1(dapa)、2(daba)および3(orn)である)などが挙げられる。カルボン酸基を含む側鎖を有するアミノ酸の例としては、グルタミン酸およびアスパラギン酸などのジカルボキシルアミノ酸が挙げられる。このほか、β−ヒドロキシ−L‐グルタミン酸などの類似体を使用し得る。いくつかの実施形態では、例えば国際出願PCT/US2011/052442号(国際公開第2012/040259号)に記載されているように、チオエーテル結合によりペプチドを環状化する。例えば、いくつかの実施形態では、いずれかのペプチドのジスルフィド結合をチオエーテル結合に置き換える。いくつかの実施形態では、シスタチオニンが形成される。いくつかの実施形態では、シスタチオニンはδ−シスタチオニンまたはγ−シスタチオニンである。いくつかの実施形態では、修飾は、配列番号5のX’aa2とX”aa4(または他の配列の対応する位置)のシステイン間のCys−Cysジスルフィド結合をCH
2の付加により置き換えてX’aa2またはX”aa4にホモシステインを形成することと、チオエーテル結合を導入してシスタチオニンを形成することとを含む。一実施形態では、シスタチオニンはγ−シスタチオニンである。別の実施形態では、シスタチオニンはδ−シスタチオニンである。本発明による別の修飾は、CH
2を付加せずにジスルフィド結合をチオエーテル結合に置き換えてランチチオニン(lantithionine)を形成することを含む。いくつかの実施形態では、ジスルフィド結合の代わりにチオエーテルを有するコンプスタチン類似体は、少なくとも一部の条件下で、ジスルフィド結合を有するコンプスタチン類似体に比べて安定性が増大している。
【0062】
特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列:
Xaa1−Cys−Val−Xaa2−Gln−Asp−Xaa2
*−Gly−Xaa3−His−Arg−Cys−Xaa4(配列番号6)
[式中、
Xaa1はIle、Val、Leu、B
1−Ile、B
1−Val、B
1−LeuまたはGly−IleもしくはB
1−Gly−Ileを含むジペプチドであり、B
1は第一のブロック部分を表し;
Xaa2およびXaa2
*は独立して、TrpおよびTrpの類似体から選択され;
Xaa3はHis、AlaまたはAlaの類似体、Phe、TrpまたはTrpの類似体であり;
Xaa4はL−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Thr−AlaおよびThr−Asnから選択されるジペプチドまたはThr−Ala−Asnを含むトリペプチドであり、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、AlaまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHが任意選択で第二のブロック部分B
2に置き換わっており;
2つのCys残基はジスルフィド結合により結合している]
を有するペプチドを含む化合物である。いくつかの実施形態では、Xaa4はLeu、Nle、HisもしくはPheまたはXaa5−AlaおよびXaa5−Asnから選択されるデペプチド(depeptide)またはトリペプチドXaa5−Ala−Asnであり、式中、Xaa5はLeu、Nle、HisまたはPheから選択され、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Leu、Nle、His、Phe、AlaまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHが任意選択で第二のブロック部分B
2に置き換わっており:2つのCys残基はジスルフィド結合により結合している。
【0063】
他の実施形態では、Xaa1は存在しないか、あるいは任意のアミノ酸またはアミノ酸類似体であり、Xaa2、Xaa2
*、Xaa3およびXaa4は上で定義した通りのものである。Xaa1が存在しない場合、N末端Cys残基は、それに結合したブロック部分B
1を有する。
【0064】
別の実施形態では、Xaa4は任意のアミノ酸またはアミノ酸類似体であり、Xaa1、Xaa2、Xaa2
*およびXaa3は上で定義した通りのものである。別の実施形態では、Xaa4は、Thr−AlaおよびThr−Asnからなる群より選択されるジペプチドであり、式中、カルボキシ末端−OHまたはAlaもしくはAsnが任意選択で第二のブロック部分B
2に置き換わっている。
【0065】
配列番号6のコンプスタチン類似体のいずれかの実施形態では、Xaa2はTrpであり得る。
【0066】
配列番号6のコンプスタチン類似体のいずれかの実施形態では、Xaa2は、置換もしくは非置換二環式芳香環成分または2つ以上の置換もしくは非置換単環式芳香環成分を含むTrpの類似体であり得る。例えば、Trpの類似体は2−ナフチルアラニン(2−NaI)、1−ナフチルアラニン(1−NaI)、2−インダニルグリシンカルボン酸(Ig1)、ジヒドロトリプトファン(Dht)および4−ベンゾイル−L−フェニルアラニンから選択され得る。
【0067】
配列番号6のコンプスタチン類似体のいずれかの実施形態では、Xaa2は、疎水性がTrpに比べて増大しているTrpの類似体であり得る。例えば、Trpの類似体は1−メチルトリプトファン、4−メチルトリプトファン、5−メチルトリプトファンおよび6−メチルトリプトファンから選択され得る。一実施形態では、Trpの類似体は1−メチルトリプトファンである。一実施形態では、Xaa2は1−メチルトリプトファンであり、Xaa2
*はTrpであり、Xaa3はAlaであり、その他のアミノ酸はコンプスタチンのものと一致している。
【0068】
配列番号6のコンプスタチン類似体のいずれかの実施形態では、Xaa2
*はTrpの類似体、例えばC3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体などであり得る。特定の実施形態では、Trpの類似体はインドール環上に電気陰性置換基を含む。例えば、Trpの類似体は、5−フルオロトリプトファンおよび6−フルオロトリプトファンから選択され得る。
【0069】
本発明の特定の実施形態では、Xaa2はTrpであり、Xaa2
*は、C3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。配列番号6のコンプスタチン類似体の特定の実施形態では、Xaa2は、疎水性がTrpに比べて増大しているTrpの類似体、例えば1−メチルトリプトファン、4−メチルトリプトファン、5−メチルトリプトファンおよび6−メチルトリプトファンから選択されるTrpの類似体などであり、Xaa2
*は、C3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。例えば、一実施形態では、Xaa2はメチルトリプトファンであり、Xaa2
*は5−フルオロトリプトファンである。
【0070】
上記実施形態のうち特定の実施形態では、Xaa3はAlaである。上記実施形態のうち特定の実施形態では、Xaa3は単一メチル非分岐アミノ酸、例えばAbuである。
【0071】
本発明はさらに、上記の配列番号6のコンプスタチン類似体であって、Xaa2およびXaa2
*が独立して、Trp、Trpの類似体および芳香環を少なくとも1つ含むその他のアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択され、Xaa3がHis、AlaもしくはAlaの類似体、Phe、Trp、Trpの類似体または別の芳香族アミノ酸もしくは芳香族アミノ酸類似体であるコンプスタチン類似体を提供する。
【0072】
本発明の特定の実施形態では、本明細書に記載のいずれかのコンプスタチン類似体のN末端またはC末端に存在するブロック部分は、哺乳動物(例えばヒトまたは非ヒト霊長類)の血液中または間質液中で生じ得る分解に対してペプチドを安定化させる任意の部分である。例えば、ブロック部分B
1は、ペプチドのN末端アミノ酸とそれに隣接するアミノ酸との間のペプチド結合の切断が阻害されるようペプチドのN末端の構造を変化させる任意の部分であり得る。ブロック部分B
2は、ペプチドのC末端アミノ酸とそれに隣接するアミノ酸との間のペプチド結合の切断が阻害されるようペプチドのC末端の構造を変化させる任意の部分であり得る。当該技術分野で公知の任意の適切なブロック部分を用いることができる。本発明の特定の実施形態では、ブロック部分B
1はアシル基(すなわち、カルボン酸から−OH基を除去して残った部分)を含む。アシル基は通常、1〜12個の炭素、例えば1〜6個の炭素を含む。例えば、本発明の特定の実施形態では、ブロック部分B
1は、ホルミル、アセチル、プロプリオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリルなどからなる群より選択される。一実施形態では、ブロック部分B
1はアセチル基である、すなわち、Xaa1はAc−Ile、Ac−Val、Ac−LeuまたはAc−Gly−Ileである。
【0073】
本発明の特定の実施形態では、ブロック部分B
2は第一級または第二級アミン(Rがアルキル基などの有機部分である−NH
2または−NHR
1)である。
【0074】
本発明の特定の実施形態では、ブロック部分B
1は、生理的pHにおいてN末端に存在し得る負電荷を中和する、あるいは減少させる任意の部分である。本発明の特定の実施形態では、ブロック部分B
2は、生理的pHにおいてC末端に存在し得る負電荷を中和する、あるいは減少させる任意の部分である。
【0075】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、N末端および/またはC末端でそれぞれアセチル化またはアミド化されている。コンプスタチン類似体は、N末端でアセチル化されていても、あるいはC末端でアミド化されていても、あるいはN末端でアセチル化されかつC末端でアミド化されていてもよい。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、N末端にアセチル基ではなくアルキル基またはアリール基を含む。
【0076】
特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列:
Xaa1−Cys−Val−Xaa2−Gln−Asp−Xaa2
*−Gly−Xaa3−His−Arg−Cys−Xaa4(配列番号7)
[式中、
Xaa1はIle、Val、Leu、Ac−Ile、Ac−Val、Ac−LeuまたはGly−IleもしくはAc−Gly−Ileを含むジペプチドであり;
Xaa2およびXaa2
*は独立して、TrpおよびTrpの類似体から選択され;
Xaa3はHis、AlaまたはAlaの類似体、Phe、TrpまたはTrpの類似体であり;
Xaa4はL−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Thr−AlaおよびThr−Asnから選択されるジペプチドまたはThr−Ala−Asnを含むトリペプチドであり、式中、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、AlaまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHが任意選択で−NH
2に置き換わっており;
2つのCys残基はジスルフィド結合により結合している]
を有するペプチドを含む化合物である。いくつかの実施形態では、Xaa4はLeu、Nle、HisもしくはPheまたはXaa5−AlaおよびXaa5−Asnから選択されるデペプチド(depeptide)またはトリペプチドXaa5−Ala−Asnであり、式中、Xaa5はLeu、Nle、HisまたはPheから選択され、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Leu、Nle、His、Phe、AlaまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHが任意選択で第二のブロック部分B
2に置き換わっており;
2つのCys残基はジスルフィド結合により結合している。
【0077】
いくつかの実施形態では、Xaa1、Xaa2、Xaa2
*、Xaa3およびXaa4は、配列番号6の各種実施形態について上で述べた通りのものである。例えば、特定の実施形態では、Xaa2
*はTrpである。特定の実施形態では、Xaa2は、疎水性がTrpに比べて増大しているTrpの類似体、例えば1−メチルトリプトファンである。特定の実施形態では、Xaa3はAlaである。特定の実施形態では、Xaa3は単一メチル非分岐アミノ酸である。
【0078】
本発明の特定の実施形態では、Xaa1はIleであり、Xaa4はL−Thrである。
【0079】
本発明の特定の実施形態では、Xaa1はIleであり、Xaa2
*はTrpであり、Xaa4はL−Thrである。
【0080】
本発明はさらに、上記の配列番号7のコンプスタチン類似体であって、Xaa2およびXaa2
*が独立して、Trp、Trpの類似体、その他のアミノ酸または芳香族アミノ酸類似体から選択され、Xaa3がHis、AlaもしくはAlaの類似体、Phe、Trp、Trpの類似体または別の芳香族アミノ酸もしくは芳香族アミノ酸類似体であるコンプスタチン類似体を提供する。
【0081】
本明細書に記載のいずれかのコンプスタチン類似体の特定の実施形態では、PheではなくPheの類似体を用いる。
【0082】
表1は、本発明に有用なコンプスタチン類似体の非限定的なリストを記載したものである。各類似体は、親ペプチドであるコンプスタチンと比較して、指定された位置(1〜13位)における具体的な修飾を示すことにより左側の列に省略形で記されている。当該技術分野で使用される通り、本明細書で使用される「コンプスタチン」およびコンプスタチンの活性と比較した本明細書に記載のコンプスタチン類似体の活性は、C末端でアミド化されたコンプスタチンペプチドのことを指す。特に明示されない限り、表1のペプチドはC末端でアミド化されている。太字を用いて特定の修飾を示した。コンプスタチンと比較した活性は、公開されているデータおよびそこに記載されているアッセイに基づくものである(国際公開第2004/026328号,同第2007044668号,Mallik,2005;Katragadda,2006)。1つの活性について報告している刊行物を複数参照する場合、最近公開された方の値を用いたが、アッセイ間に相違がある場合は値を調整し得ることが認識されよう。また、本発明の特定の実施形態では、表1に挙げられたペプチドが本発明の治療用組成物および方法で使用される場合、これらは2つのCys残基の間のジスルフィド結合を介して環状化されることも理解されよう。ペプチドを環状化する別の手段も本発明の範囲内にある。上記のように、本発明の様々な実施形態では、コンプスタチン類似体(例えば、本明細書に開示されるコンプスタチン類似体のいずれか)の1つ以上のアミノ酸がN−アルキルアミノ酸(例えば、N−メチルアミノ酸)であり得る。例えば、特に限定されないが、ペプチドの環状部分の内側にある少なくとも1つのアミノ酸、環状部分のN末端にある少なくとも1つのアミノ酸および/または環状部分のC末端にある少なくとも1つのアミノ酸がN−アルキルアミノ酸、例えばN−メチルアミノ酸であり得る。本発明のいくつかの実施形態では、例えば、コンプスタチン類似体は、例えばコンプスタチンの8位に対応する位置および/またはコンプスタチンの13位に対応する位置に、N−メチルグリシンを含む。いくつかの実施形態では、表1の1つ以上のコンプスタチン類似体が、例えばコンプスタチンの8位に対応する位置および/またはコンプスタチンの13位に対応する位置に、N−メチルグリシンを1つ以上含む。
【0084】
本発明の組成物および方法の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列9〜36から選択される配列を有する。本発明の組成物および方法の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列番号14、21、28、29、32、33、34および36から選択される配列を有する。本発明の組成物および/または方法の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列番号30および31から選択される配列を有する。本発明の組成物および方法の一実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号28の配列を有する。本発明の組成物および方法の一実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号32の配列を有する。本発明の組成物および方法の一実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号34の配列を有する。本発明の組成物および方法の一実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号36の配列を有する。
【0085】
本発明の組成物および方法の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は表1に記載の配列を有するが、上記にようにAc基が代わりのブロック部分B
1に置き換わっている。いくつかの実施形態では、−NH
2基は上記のように代わりのブロック部分B
2に置き換わっている。
【0086】
一実施形態では、コンプスタチン類似体は、ヒトC3のβ鎖のうちコンプスタチンが結合する領域と実質的に同じ領域と結合する。一実施形態では、コンプスタチン類似体は、ヒトC3のβ鎖のうちコンプスタチンが結合する分子量が約40kDaのC末端部分のフラグメントと結合する化合物である(Soulika,A.M.ら,Mol.Immunol.,35:160,1998;Soulika,A.M.ら,Mol.Immunol.43(12):2023−9,2006)。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、コンプスタチン−C3構造、例えば、結晶構造またはNMRによる3D構造で決定されるコンプスタチンの結合部位と結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、コンプスタチン−C3構造内のコンプスタチンと置き換わることが可能であり、実質的にコンプスタチンと同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、ペプチド−C3構造内、例えば結晶構造内の表1に記載の配列、例えば配列番号14、21、28、29、32、33、34または36を有するペプチドの結合部位と結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、ペプチド−C3構造内、例えば結晶構造内の配列番号30または31を有するペプチドの結合部位と結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列番号9〜36のペプチドと置き換わることが可能な化合物、例えば、ペプチド−C3構造内の配列番号14、21、28、29、32、33、34または36のペプチドと置き換わることが可能であり、実質的にそのペプチドと同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、ペプチド−C3構造内の配列番号30または31のペプチドと置き換わることが可能であり、実質的にそのペプチドと同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。
【0087】
当業者は、日常的な実験方法を用いて、コンプスタチン類似体がC3のβ鎖のC末端部分のフラグメントと結合するかどうかを容易に判定することができるであろう。例えば、当業者であれば、化合物中の例えば、配列のC末端にp−ベンゾイル−L−フェニルアラニン(Bpa)などの光架橋アミノ酸を含ませることにより、光架橋性のコンプスタチン類似体合成することが可能であろう(Soulika,A.M.ら,上記)。任意選択で、追加のアミノ酸、例えば、FLAGタグまたはHAタグなどのエピトープタグを含ませて、例えばウエスタンブロット法による化合物の検出を容易にすることが可能である。コンプスタチン類似体をフラグメントとインキュベートして架橋を開始する。コンプスタチン類似体とC3フラグメントの共局在が結合を示す。このほか、表面プラズモン共鳴を用いて、コンプスタチン類似体がC3のコンプスタチン結合部位またはそのフラグメントと結合するかどうかを判定してもよい。当業者であれば分子モデリングソフトウェアプログラムを用いて、化合物がコンプスタチンあるいは表1に記載のいずれかのペプチドの配列、例えば、配列番号14、21、28、29、32、33、34もしくは36またはいくつかの実施形態では配列番号30もしくは31の配列を有するペプチドと実質的に同じC3との分子間の接触を形成するかどうかを予測することが可能であろう。
【0088】
アミノ酸残基の縮合を介した当該技術分野で公知のペプチド合成の様々な合成方法によりコンプスタチン類似体を調製することができ、例えば、従来のペプチド合成法に従い、当該技術分野で公知の方法を用いて、それをコードする適切な核酸配列からin vitroまたは生きた細胞内で発現させることにより、コンプスタチン類似体を調製することができる。例えば、Malik,上記,Katragadda,上記,国際公開第2004026328号および/または国際公開第2007062249号に記載されている標準的な固相法を用いて、ペプチドを合成することができる。当該技術分野で公知の様々な保護基および方法論を用いて、アミノ基およびカルボキシル基、反応性官能基などのような潜在的に反応性の部分を保護し、次いで脱保護することができる。例えば、「Protective Groups in Organic Synthesis」,第3版(Greene,T.W.およびWuts,P.G.編,John Wiley & Sons,New York:1999)を参照されたい。逆相HPLCなどの標準的な方法を用いて、ペプチドを精製することができる。必要に応じて、逆相HPLCなどの既知の方法を用いて、ジアステレオマーペプチドペプチドの分離を行ってもよい。所望に応じて、調製物を凍結乾燥させ、次いで適切な溶媒、例えば水に溶解させてもよい。得られた溶液のpHは、NaOHなどの塩基を用いて、例えば生理的pHに調整することができる。必要に応じて、質量分析によってペプチド調製物の特徴付けを行い、質量および/またはジスルフィド結合形成を確認してもよい。例えば、Mallik,2005およびKatragadda,2006を参照されたい。
【0089】
任意選択で細胞反応性部分または標的化部分と結合させたコンプスタチン類似体を、ポリエチレングリコール(PEG)またはこれと同様の分子などの分子の付加により修飾して、化合物を安定化させる、その免疫原性を低減する、その体内での寿命を延ばす、その溶解性を増大または低減する、および/または分解に対するその耐性を増大させることができる。PEG化の方法は当該技術分野で周知である(Veronese,F.M.およびHarris,Adv.Drug Deliv.Rev.54,453−456,2002;Davis,F.F.,Adv.Drug Deliv.Rev.54,457−458,2002);Hinds,K.D.およびKim,S.W.Adv.Drug Deliv.Rev.54,505−530(2002;Roberts,M.J.,Bentley,M.D.およびHarris,J.M.Adv.Drug Deliv.Rev.54,459−476;2002);Wang,Y.S.ら,Adv.Drug Deliv.Rev.54,547−570,2002)。ポリペプチドを適宜結合させることができるPEGおよび誘導体化されたPEGを含めた修飾PEGなどの多種多様なポリマーがNektar Advanced PEG化 2005−2006 Product Catalog,Nektar Therapeutics,San Carlos,CAに記載されており、この文献からほかにも、適切なコンジュゲーション法の詳細を知ることができる。別の実施形態では、コンプスタチン類似体を免疫グロブリンのFcドメインまたはその一部分と融合させる。他のいくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体をアルブミン部分またはアルブミン結合ペプチドとコンジュゲートする。したがって、いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体を1つ以上のポリペプチド成分または非ポリペプチド成分で修飾する、例えば、コンプスタチン類似体をペグ化するか、別の部分とコンジュゲートする。いくつかの実施形態では、成分は免疫グロブリンのFcドメインでもその一部分でもない。コンプスタチン類似体を単一の分子種または複数の異なる分子種(例えば、複数の異なる類似体)を含み得る多量体として、あるいは超分子複合体の一部として得ることができる。
【0090】
いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は、ポリマー骨格またはポリマー足場と共有結合または非共有結合した複数のコンプスタチン類似体部分を含む多価化合物である。コンプスタチン類似体部分は同一のものでも異なるものでもよい。本発明の特定の実施形態では、多価化合物は、複数例または複数コピーの単一のコンプスタチン類似体部分を含む。本発明の他の実施形態では、多価化合物は、2種類以上の異なるコンプスタチン類似体部分、例えば、3種類、4種類、5種類またはそれ以上の異なるコンプスタチン類似体部分のそれぞれの例を1つ以上含む。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体部分の個数(「n」)は2〜6である。本発明の他の実施形態では、nは7〜20である。本発明の他の実施形態では、nは20〜100である。他の実施形態では、nは100および1,000である。本発明の他の実施形態では、nは1,000〜10,000である。他の実施形態では、nは10,000〜50,000である。他の実施形態では、nは50,000〜100,000である。他の実施形態では、nは100,000〜1,000,000である。
【0091】
コンプスタチン類似体部分は、ポリマー足場と直接結合させても、あるいはコンプスタチン類似体部分とポリマー足場とを接続する結合部分を介して結合させてもよい。結合部分は単一のコンプスタチン類似体部分およびポリマー足場と結合させることができる。あるいは、結合部分が複数のコンプスタチン類似体部分をポリマー足場と結合させるよう、結合部分がそれと結合した複数のコンプスタチン類似体部分を有していてもよい。
【0092】
いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は、第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸、例えばLys残基を含む。例えば、コンプスタチン類似体のN末端および/またC末端にLys残基またはLys残基を含む配列が付加されている。いくつかの実施形態では、Lys残基は、堅いスペーサーまたは柔軟なスペーサーによりコンプスタチン類似体の環状部分と分離されている。スペーサーは、例えば、置換または非置換の飽和または不飽和アルキル鎖、オリゴ(エチレングリコール)鎖および/またはその他の部分、例えば、リンカーに関して第VI節に記載されているものを含み得る。鎖の長さは、例えば、炭素原子2〜20個であり得る。他の実施形態では、スペーサーはペプチドである。ペプチドスペーサーは、例えば、長さが1〜20アミノ酸、例えば、長さが4〜20アミノ酸であり得る。適切なスペーサーは、例えば、複数のGly残基、Ser残基またはその両方を含むか、あるいはこれよりなるものであり得る。任意選択で、第一級もしくは第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸および/またはスペーサー内の少なくとも1つのアミノ酸はD−アミノ酸である。任意の各種ポリマー骨格またはポリマー足場を用いることができる。例えば、ポリマー骨格またはポリマー足場はポリアミド、多糖、ポリ酸無水物、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、ポリペプチド、ポリエチレンオキシドまたはデンドリマーであり得る。例えば、国際公開第98/46270号(国際出願PCT/US98/07171号)または国際公開第98/47002号(国際出願PCT/US98/06963号)に適切な方法およびポリマー骨格が記載されている。一実施形態では、ポリマー骨格またはポリマー足場は、カルボン酸基、無水物基またはスクシンイミド基などの複数の反応性官能基を含む。ポリマー骨格またはポリマー足場をコンプスタチン類似体と反応させる。一実施形態では、コンプスタチン類似体は、カルボン酸、無水物基またはスクシンイミド基などの多数の異なる反応性官能基のいずれかを含み、これらをポリマー骨格のしかるべき基と反応させる。あるいは、互いに結合してポリマー骨格またはポリマー足場を形成し得るモノマー単位を最初にコンプスタチン類似体と反応させ、得られたモノマーを重合させる。別の実施形態では、短鎖を重合し、官能化した後、異なる組成の短鎖の混合物を長いポリマーに組み立てる。
【0093】
V.コンプスタチン模倣物
コンプスタチンの構造は当該技術分野で公知であり、またコンプスタチンより高い活性を有する数多くのコンプスタチン類似体のNMR構造も知られている(Malik,上記)。構造に関する情報を用いてコンプスタチン模倣物を設計することができる。
【0094】
一実施形態では、コンプスタチン模倣物は、C3またはそのフラグメント(コンプスタチンが結合するβ鎖の40kDフラグメントなど)との結合に関してコンプスタチンまたは任意のコンプスタチン類似体(例えば、表1に記載されている配列のコンプスタチン類似体)と競合する任意の化合物である。いくつかの実施形態では、コンプスタチン模倣物は、コンプスタチンの活性と同等かそれを上回る活性を有する。いくつかの実施形態では、コンプスタチン模倣物は、コンプスタチンより安定であるか、経口使用しやすいか、バイオアベイラビリティが高い。コンプスタチン模倣物はペプチド、核酸または小分子であり得る。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は、コンプスタチン−C3構造、例えば、結晶構造またはNMR実験で得られる3−D構造において決定されるコンプスタチンの結合部位に結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は、コンプスタチン−C3構造内のコンプスタチンと置き換わることが可能で、コンプスタチンと実質的に同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は、ペプチド−C3構造内の表1に記載の配列、例えば、配列番号14、21、28、29、32、33、34もしくは36または特定の実施形態では配列番号30もしくは31を有するペプチドの結合部位と結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は、ペプチド−C3構造内の表1に記載の配列、例えば、配列番号14、21、28、29、32、33、34もしくは36または特定の実施形態では配列番号30もしくは31を有するペプチドと置き換わることが可能で、そのペプチドと実質的に同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は非ペプチド骨格を有するが、コンプスタチンの配列に基づき設計された配列で配置された側鎖を有する。
【0095】
短いペプチドの具体的な所望のコンホメーションが確認されれば、そのコンホメーションに適合するペプチドまたはペプチド模倣物を設計する方法がよく知られていることを当業者は理解するであろう。例えば、G.R.Marshall(1993),Tetrahedron,49:3547−3558;HrubyおよびNikiforovich(1991)(Molecular Conformation and Biological Interactions,P.Balaram & S.Ramasehan編,Indian Acad.of Sci.,Bangalore,PP.429−455)、Eguchi M,Kahn M.,Mini Rev Med Chem.,2(5):447−62,2002を参照されたい。本発明に特に関連して、例えば、とりわけ、コンプスタチンおよびその類似体に関して当該技術分野で報告されているように、官能基の作用または立体構造上の考慮事項へのアミノ酸残基の様々な側鎖の関与を考慮に入れることにより、ペプチド類似体の設計をさらに精緻化することができる。
【0096】
C3と結合して補体活性化を阻害するのに必要な特定の骨格コンホメーションおよび側鎖官能基をもたらすという目的に、ペプチド模倣物がペプチドと等しく十分に役立ち得ることが当業者に理解されよう。したがって、結合して適切な骨格コンホメーションを形成することができる天然のアミノ酸、アミノ酸誘導体、アミノ酸類似体または非アミノ酸分子のいずれかを使用ことにより、C3と結合し補体を阻害する化合物を作製し使用することが本発明の範囲内にあるものとして考慮される。本明細書では、例示のペプチドと類似するようにそれとほぼ同じ骨格コンホメーション特性および/またはその他の機能性を有し補体活性化を阻害することができるペプチドの置換体または誘導体を表すために、非ペプチド類似体またはペプチド成分と非ペプチド成分とを含む類似体を「ペプチド模倣物」または「アイソスター模倣物」と呼ぶことがある。より一般的には、コンプスタチン模倣物とは、骨格が異なっていてもファルマコフォアがそのコンプスタチンにおける位置付けと同様に位置付けされ得る任意の化合物のことである。
【0097】
高親和性のペプチド類似体開発のためにペプチド模倣物を使用することは、当該技術分野で周知である。ペプチド内のアミノ酸残基とほぼ同じ回転束縛を仮定し、既知の技術の中でも特にRamachandranプロットを用いて、非アミノ酸部分を含む類似体を分析し、コンホメーションモチーフを検証することができる(HrubyおよびNikiforovich 1991)。
【0098】
当業者は、容易に適切なスクリーニングアッセイを確立して、さらなるコンプスタチン模倣物を同定し、所望の阻害活性を有するものを選択することができるであろう。例えば、コンプスタチンまたはその類似体を(例えば、放射性標識または蛍光標識で)標識し、様々な濃度の試験化合物の存在下でC3と接触させることができる。試験化合物がコンプスタチン類似体とC3の結合を減少させる能力を評価する。コンプスタチン類似体とC3との結合を有意に減少させる試験化合物をコンプスタチン模倣物の候補とする。例えば、コンプスタチン類似体−C3複合体の定常状態濃度を減少させる試験化合物またはコンプスタチン類似体−C3複合体の形成率を少なくとも25%または少なくとも50%減少させる試験化合物をコンプスタチン模倣物候補とする。当業者には、このスクリーニングアッセイの数多くの変形物を用い得ることが認識されるであろう。スクリーニングの対象となる化合物としては、天然の生成物、アプタマーのライブラリー、ファージディスプレイライブラリー、コンビナトリアル化学を用いて合成された化合物ライブラリーなどが挙げられる。本発明は、上記コア配列に基づいて化合物のコンビナトリアルライブラリーを合成し、そのライブラリーをスクリーニングしてコンプスタチン模倣物を同定することを包含する。このほか、ここに挙げたいずれかの方法を用いて、それまでに試験したコンプスタチン類似体よりも阻害活性が高い新たなコンプスタチン類似体を同定することができる。本発明の細胞反応性化合物にコンプスタチン模倣物を使用し得ること、また本発明がこのような細胞反応性コンプスタチン模倣物を提供することが理解されよう。
【0099】
VI.細胞反応性または長時間作用型コンプスタチン類似体
本発明は様々な細胞反応性コンプスタチン類似体を提供する。いくつかの態様では、細胞反応性コンプスタチン類似体は式A−L−Mの化合物を含み、式中、Aは細胞反応性官能基Jを含む部分であり、Lは任意選択で存在する結合部であり、Mはコンプスタチン類似体部分を含む。コンプスタチン類似体部分は、様々な実施形態において任意のコンプスタチン類似体、例えば、上記の任意のコンプスタチン類似体を含み得る。式A−L−Mは、A−Lがコンプスタチン類似体部分のN末端に存在する実施形態、A−Lがコンプスタチン類似体部分のC末端に存在する実施形態、A−Lがコンプスタチン類似体部分のアミノ酸の側鎖に結合している実施形態および同じまたは異なるA−LがMの両端に存在する実施形態を包含する。特定のコンプスタチン類似体(1つまたは複数)が式A−L−Mの化合物中のコンプスタチン類似体部分として存在する場合、コンプスタチン類似体の官能基はLの官能基と反応してAまたはLと共有結合を形成していることが理解されよう。例えば、コンプスタチン類似体部分が第一級アミン(NH
2)基を含む側鎖を有するアミノ酸を含むコンプスタチン類似体(そのコンプスタチン類似体は式R
1−(NH
2)で表すことができる)を含む細胞反応性コンプスタチン類似体は、Lとの新たな共有結合(例えば、N−C)が形成されて水素が失われた式R
1−NH−L−Aを有し得る。したがって、「コンプスタチン類似体部分」という用語は、コンプスタチン類似体の少なくとも1個の原子が第二の部分との共有結合に関与する(例えば、側鎖の修飾となり得る)分子構造を包含する。同様のことが上記多価化合物中に存在するコンプスタチン類似体部分でも考慮される。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体、例えば、上の第IV節に記載のコンプスタチン類似体のN末端またはC末端にあるブロック部分を、細胞反応性コンプスタチン類似体の構造内のA−Lに置き換える。いくつかの実施形態では、AまたはLはブロック部分を含む。いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体は、同じアミノ酸配列(および該当する場合は1つ以上のブロック部分)を有するが細胞反応性部分を含まない対応するコンプスタチン類似体の活性の少なくとも約10%、20%または30%、例えば、30%〜40%、30%〜50%、30%〜60%、30%〜70%、30%〜80%、30%〜90%またはそれ以上のモル活性を有する。細胞反応性コンプスタチン類似体が複数のコンプスタチン類似体部分を含むいくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体のモル活性は、前記コンプスタチン類似体部分の活性の合計の少なくとも約10%、20%または30%、例えば、30%〜40%、30%〜50%、30%〜60%、30%〜70%、30%〜80%、30%〜90%またはそれ以上である。
【0100】
細胞反応性部分Aは、様々な実施形態において様々な異なる細胞反応性官能基Jのいずれかを含み得る。一般に、少なくとも部分的には、例えば、(a)標的とする特定の官能基;(b)反応性官能基が生理的に許容されるex vivo条件下(例えば、生理的に許容されるpHおよびモル浸透圧濃度)および/またはin vivo条件下(例えば、血液中)で標的官能基と反応する能力;(c)生理的に許容されるex vivo条件下および/またはin vivo条件下で反応性官能基と標的官能基との間で生じる反応の特異性;(d)反応性官能基とその標的官能基との反応により生じ得る共有結合の(例えば、in vivo条件下での)安定性;(e)反応性官能基を含む細胞反応性コンプスタチン類似体の合成が容易であるかどうかなど因子に基づき細胞反応性官能基を選択し得る。いくつかの実施形態では、脱離基を解離せずに標的化学基と反応する反応性官能基を選択する。いくつかの実施形態では、標的との反応時に脱離基の解離を生じる反応性官能基を選択する。このような基を含む化合物は、例えば、反応の進行および/または程度をモニターするのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、脱離基は、生じた量(例えば、生じた濃度および/または絶対量に基づく量)において細胞、組織または臓器に生理的に許容されるものおよび/または生じた量(例えば、関連する血液などの体液中の濃度に基づく量および/または生じた絶対量に基づく量)において対象に医学的に許容されるものである。いくつかの実施形態では、ex vivoで生じた脱離基の少なくとも一部を、例えば生理食塩水を用いて、例えば、細胞を洗浄することにより、あるいは組織または臓器を洗浄または灌流することにより除去する。
【0101】
多くの実施形態では、本発明で使用する細胞反応性官能基がアミノ酸残基の側鎖および/またはタンパク質のN末端アミノ基もしくはC末端カルボキシル基と反応する。いくつかの実施形態では、細胞反応性官能基は、システイン残基の側鎖に存在するスルフィドリル(−SH)基と反応する。いくつかの実施形態では、マレイミド基を用いる。マレイミド基は、生理的pHでタンパク質のシステイン残基のスルフィドリル基と反応して、安定なチオエーテル結合を形成する。いくつかの実施形態では、ヨードアセチル基またはブロモアセチル基などのハロアセチル基を用いる。ハロアセチル基は、生理的pHでスルフィドリル基と反応する。ヨードアセチル基の反応は、ヨウ素とスルフィドリル基の硫黄原子との求核性置換により進行し、安定なチオエーテル結合を生じるものである。他の実施形態では、ヨードアセトアミド基を用いる。いくつかの実施形態では、細胞反応性官能基は、タンパク質のN末端に存在するアミノ(−NH
2)基およびリジン残基の側鎖に存在するアミノ基(ε−アミノ基)と反応する。いくつかの実施形態では、活性エステル、例えばスクシンイミジルエステル(すなわち、NHSエステル)を用いる。例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはその水溶性類似体(スルホ−NHS)を合成に使用し、得られた細胞反応性コンプスタチン類似体はNHSエステルを含むものとなる。いくつかの実施形態では、細胞反応性官能基は、タンパク質のC末端および様々なアミノ酸残基の側鎖に存在するカルボキシル(−COOH)基と反応する。いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体は、様々なアミノ酸の側鎖およびグリコシル化タンパク質の炭水化物部分に存在するヒドロキシル(−OH)基と反応する。
【0102】
一般に結合部Lは、結合される部分を結合する安定な化合物の形成と合致する任意の1つ以上の脂肪族部分および/または芳香族部分を含み得る。本明細書で使用される「安定な」という用語は、好ましくは、製造が可能な程度の安定性を有し、例えば、本明細書に記載の1つ以上の目的に有用な程度の期間、化合物の完全性を維持する化合物を指す。いくつかの実施形態では、Lは炭素原子1〜30個、1〜20個、1〜10個、1〜6個または5個以下の長さを有する飽和または不飽和、置換または非置換、分岐または非分岐の脂肪族鎖を含み、ここでは長さは、主鎖(最長鎖)のC原子の数を指す。いくつかの実施形態では、脂肪族鎖はヘテロ原子(O、N、S)を1つ以上含み、これらのヘテロ原子は独立して選択され得る。いくつかの実施形態では、Lの主鎖の原子の少なくとも50%が炭素原子である。いくつかの実施形態では、Lは飽和アルキル部分(CH
2)
nを含み、式中、nは1〜30である。
【0103】
いくつかの実施形態では、Lはヘテロ原子を1つ以上含み、鎖中の総炭素原子数1〜1000個、1〜800個、1〜600個、1〜400個、1〜300個、1〜200個、1〜100個、1〜50個、1〜30個または1〜10個の長さを有する。いくつかの実施形態では、Lはオリゴ(エチレングリコール)部分(−(O−CH
2−CH
2−)
n)を含み、式中、nは1〜500、1〜400、1〜300、1〜200、1〜100、10〜200、200〜300、100〜200、40〜500、30〜500、20〜500、10〜500、1〜40、1〜30、1〜20または1〜10である。
【0104】
いくつかの実施形態では、Lは、−CH=CH−もしくは−CH
2−CH=CH−などの不飽和部分;非芳香族環系を含む部分(例えば、シクロヘキシル部分);芳香族部分(例えば、フェニル部分などの芳香族環系);エーテル部分(−C−O−C−);アミド部分(−C(=O)−N−);エステル部分(−CO−O−);カルボニル部分(−C(=O)−);イミン部分(−C=N−);チオエーテル部分(−C−S−C−);アミノ酸残基;および/または適合性のある2つの反応性官能基の反応により形成され得る任意の部分を含む。特定の実施形態では、結合部または細胞反応性部分の1つ以上の部分が、その部分上の1つ以上の水素(またはその他の)原子が独立して、特に限定されないが、脂肪性;芳香族、アリール;アルキル、アラルキル、アルカノイル、アロイル、アルコキシ;チオ;F;Cl;Br;I;−NO2;−CN;−CF3;−CH2CF3;−CHCl2;−CH2OH;−CH2CH2OH;−CH2NH2;−CH2SO2CH3;−または−GRG1を含めた1つ以上の部分に置き換わることにより置換されており、式中、Gは−O−、−S−、−NRG2−、−C(=O)−、−S(=O)−、−SO2−、−C(=O)O−、−C(=O)NRG2−、−OC(=O)−、−NRG2C(=O)−、−OC(=O)O−、−OC(=O)NRG2−、−NRG2C(=O)O−、−NRG2C(=O)NRG2−、−C(=S)−、−C(=S)S−、−SC(=S)−、−SC(=S)S−、−C(=NRG2)−、−C(=NRG2)O−、−C(=NRG2)NRG3−、−OC(=NRG2)−、−NRG2C(=NRG3)−、−NRG2SO2−、−NRG2SO2NRG3−または−SO2NRG2−であり、RG1、RG2およびRG3はそれぞれ独立して、特に限定されないが、水素、ハロゲンまたは任意選択で置換されている脂肪族部分、芳香族部分またはアリール部分を含む。環系が置換基として存在する場合、それは任意選択で直鎖状部分を介して結合していてもよいことが理解されよう。本発明により構想される置換基と可変物の組合せは、好ましくは、本明細書に記載の方法のいずれか1つ以上において有用な、例えば、本明細書に記載の1つ以上の障害の治療および/または細胞、組織もしくは臓器との接触に有用な、ならびに/あるいは1つ以上のこのような化合物の製造の中間体として有用な安定な化合物をもたらすである。
【0105】
Lは様々な実施形態において、前段落に記載されている部分のいずれか1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態では、Lは、互いに結合して通常は1〜約60個の原子、1〜約50個の原子、例えば、1〜40個、1〜30個、1〜20個、1〜10個または1〜6個の原子の長さを有する構造を形成する2つ以上の異なる部分を含み、ここでは長さは、主鎖(最長鎖)の原子の数を指す。いくつかの実施形態では、Lは、互いに結合して通常は主鎖(最長鎖)の炭素原子が1〜約40個、例えば1〜30個、例えば、1〜20個、1〜10個または1〜6個である構造を形成する2つ以上の異なる部分を含む。このような細胞反応性コンプスタチン類似体の構造は一般に、式A−(L
Pj)j−Mにより表すことができ、式中、jは通常1〜10であり、L
Pjはそれぞれ独立して、前段落に記載されている部分から選択される。多くの実施形態では、Lは−(CH
2)n−および/または−(O−CH
2−CH
2−)nなどの炭素含有鎖を1つ以上含み、これらは、例えば適合性のある2つの反応性官能基の反応により生じた部分(例えば、アミド部分、エステル部分またはエーテル部分)により、互いに共有結合し、かつ/または細胞反応性官能基もしくはコンプスタチン類似体と共有結合している。いくつかの実施形態では、Lはオリゴ(エチレングリコール)部分および/または飽和アルキル鎖を含む。いくつかの実施形態では、Lは−(CH
2)
m−C(=O)−NH−(CH
2CH
2O)
n(CH
2)
pC(=O)−または−(CH
2)
m−C(=O)−NH−(CH
2)
p(OCH
2CH
2)
nC(=O)−を含む。いくつかの実施形態では、m、nおよびpは、鎖の炭素数が1〜500個、例えば、2〜400個、2〜300個、2〜200個、2〜100個、2〜50個、4〜40個、6〜30個または8〜20個になるように選択される。いくつかの実施形態では、mが2〜10であり、nが1〜500であり、かつ/またはpが2〜10である。いくつかの実施形態では、mが2〜10であり、nが1〜400であり、かつ/またはpが2〜10である。いくつかの実施形態では、mが2〜10であり、nが1〜300であり、かつ/またはpが2〜10である。いくつかの実施形態では、mが2〜10であり、nが1〜200であり、かつ/またはpが2〜10である。いくつかの実施形態では、mが2〜10であり、nが1〜100であり、かつ/またはpが2〜10である。いくつかの実施形態では、mが2〜10であり、nが1〜50であり、かつ/またはpが2〜10である。いくつかの実施形態では、mが2〜10であり、nが1〜25であり、かつ/またはpが2〜10である。いくつかの実施形態では、mが2〜10であり、nが1〜8であり、かつ/またはpが2〜10である。任意選択で、少なくとも1つの−CH
2−がCH−Rに置き換わっており、式中、Rは任意の置換基であり得る。任意選択で、少なくとも1つの−CH
2−がヘテロ原子、環系、アミド部分、エステル部分またはエーテル部分に置き換わっている。いくつかの実施形態では、Lは、最長鎖の炭素原子が3個より多いアルキル基を含まない。いくつかの実施形態では、Lは、最長鎖の炭素原子が4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個または11個であるアルキル基を含まない。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態では、Aは細胞反応性官能基Jと、結合部L
P1を含むリンカーL
1と、コンプスタチン類似体と反応してA−Mを生じる反応性官能基とを含む。いくつかの実施形態では、2つの反応性官能基と、結合部L
P2をを含む二官能性リンカーL
2ととを用いる。Lの反応性官能基がAおよびMのしかるべき反応性官能基と反応して、細胞反応性コンプスタチン類似体A−L−Mが生成する。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は、結合部L
P3を含むリンカーL
3を含む。例えば、後述するように、反応性官能基を含むリンカーがN末端またはC末端に存在していても、反応性官能基を含む部分がリンカーを介してN末端またはC末端に結合していてもよい。したがって、Lは、例えば、A、AとMを結合するのに用いられるリンカー(1つまたは複数)および/またはコンプスタチン類似体により与えられる複数の結合部L
Pを含み得る。構造A−L−M内に存在する場合、反応前にL
1、L
2、L
3などに存在する特定の反応性官能基(1つまたは複数)が反応を受け、前記反応性官能基(1つまたは複数)の一部分のみが最終的な構造A−L−M内に存在し、化合物は前記官能基の反応により形成された部分を含むことが理解されよう。一般に、化合物が結合部を2つ以上含む場合、その結合部は同じものであっても異なるものであってもよく、また様々な実施形態において独立して選択され得るものである。複数の結合部L
Pを互いに結合させてより大きな結合部Lを形成させることができ、そのような結合部の少なくとも一部は、それと結合したコンプスタチン類似体(1つまたは複数)および/または細胞反応性官能基(1つまたは複数)を1つ以上有し得る。複数のコンプスタチン類似体を含む分子では、コンプスタチン類似体は同じものであっても異なるものであってもよく、異なるものである場合、それは独立して選択され得る。同じことが結合部および反応性官能基にも当てはまる。本発明は、細胞反応性官能基を1つ以上含む多価のコンプスタチン類似体の使用および細胞反応性官能基を1つ以上含むコンプスタチン類似体のコンカテマーの使用を包含する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの結合が、ビオチン/(ストレプト)アビジン結合またはこれとほぼ同じ強さの他の非共有結合などの安定な非共有結合である。
【0107】
いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体は、配列番号3〜36のいずれかがN末端、C末端または両末端においてアミノ酸1つ分以上延長されたコンプスタチン類似体を含み、そのアミノ酸のうち少なくとも1つが、第一級もしくは第二級アミン、スルフィドリル基、カルボキシル基(カルボン酸基として存在し得る)、グアニジノ基、フェノール基、インドール環、チオエーテルまたはイミダゾール環などの反応性官能基を含む側鎖を有するものである。いくつかの実施形態では、アミノ酸(1つまたは複数)はL−アミノ酸である。いくつかの実施形態では、任意の1つ以上のアミノ酸(1つまたは複数)がD−アミノ酸である。複数のアミノ酸が付加される場合、アミノ酸は独立して選択され得る。いくつかの実施形態では、細胞反応性官能基を含む部分を付加するための標的として反応性官能基(例えば、第一級または第二級アミン)を用いる。第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸としては、リジン(Lys)ならびに一般構造NH
2(CH
2)
nCH(NH
2)COOHのジアミノカルボン酸、例えば2,3−ジアミノプロピオン酸(dapa)、2,4−ジアミノ酪酸(daba)およびオルニチン(orn)(それぞれn=1(dapa)、2(daba)および3(orn)の場合)などが挙げられる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸がシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、チロシン、トリプトファン、メチオニンまたはヒスチジンである。システインはスルフィドリル基を含む側鎖を有する。アスパラギン酸およびグルタミン酸はカルボキシル基(イオン化されるとカルボン酸基になる)を含む側鎖を有する。アルギニンはグアニジノ基を含む側鎖を有する。チロシンはフェノール基(イオン化されるとフェノラート基になる)を含む側鎖を有する。トリプトファンは、例えばトリプトファンを含むインドール環を含む側鎖を有する。メチオニンは、例えばメチオニンを含むチオエーテル基を含む側鎖を有する。ヒスチジンはイミダゾール環を含む側鎖を有する。天然のアミノ酸および天然に存在しないアミノ酸を含め、このような反応性官能基を1つ以上含む側鎖を有する多種多様な非標準アミノ酸が利用可能である。例えば、Hughes,B.(編),Amino Acids,Peptides and Proteins in Organic Chemistry,Volumes 1−4,Wiley−VCH(2009−2011);Blaskovich,M.,Handbook on Syntheses of Amino Acids General Routes to Amino Acids,Oxford University Press,2010を参照されたい。本発明は、非標準アミノ酸を1つ以上用いて、細胞反応性官能基を含む部分を付加するための標的とする実施形態を包含する。必要に応じて、化合物の合成時に任意の1つ以上のアミノ酸を保護してもよい。例えば、標的アミノ酸側鎖が含まれる反応(1つまたは複数)時に1つ以上のアミノ酸を保護してもよい。細胞反応性官能基を含む部分を付加するための標的としてスルフィドリル含有アミノ酸を用いるいくつかの実施形態では、システインなどの他のアミノ酸との間で分子内ジスルフィド結合を形成することより化合物を環状化する間、スルフィドリルを保護する。
【0108】
本段落の考察では、アミン基を含む側鎖を有するアミノ酸を例として用いる。本発明は、異なる反応性官能基を含む側鎖を有するアミノ酸を用いる類似した実施形態を包含する。いくつかの実施形態では、第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸が、ペプチド結合を介して配列番号3〜36のいずれかのN末端またはC末端に直接結合している。いくつかの実施形態では、第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸が、上記結合部分のいずれか1つ以上を含み得る結合部を介して配列番号3〜36のいずれかのN末端またはC末端と結合している。いくつかの実施形態では、少なくとも2つのアミノ酸が一端または両端に付加されている。この2つ以上の付加されているアミノ酸はペプチド結合により互いに結合していてもよく、また付加されているアミノ酸の少なくとも一部が、本明細書に記載の結合部分のいずれか1つ以上を含み得る結合部を介して互いに結合していてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体は、式B1−R1−M
1−R2−B2のコンプスタチン類似体部分Mを含み、式中、M
1は配列番号3〜36のいずれかを表し、R1またはR2のいずれかは存在しなくてもよく、R1およびR2のうち少なくとも1つが第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸を含み、B1およびB2は任意選択で存在するブロック部分である。R1および/またはR2はM1と、ペプチド結合により結合していても、非ペプチド結合により結合していてもよい。R1および/またはR2は結合部L
P3を含み得る。例えば、R1が式M
2−L
P3を有し、かつ/またはR2が式L
P3−M
2を有していてもよく、式中、L
P3は結合部であり、M
2は、第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸を少なくとも1つ含む。例えば、M
2はLysであっても、Lysを含むアミノ酸鎖であってもよい。いくつかの実施形態では、L
P3は1つ以上のアミノ酸を含むか、あるいはこれよりなるものである。例えば、L
P3は、長さが1〜約20アミノ酸、例えば、長さが4〜20アミノ酸である。いくつかの実施形態では、L
P3は複数のGly、Serおよび/またはAla残基を含むか、あるいはこれよりなるものである。いくつかの実施形態では、L
P3は、Cysなどの反応性SH基を含むアミノ酸を含まない。いくつかの実施形態では、L
P3はオリゴ(エチレングリコール)部分および/または飽和アルキル鎖を含む。いくつかの実施形態では、L
P3は、M
1のN末端アミノ酸とアミド結合を介して結合している。いくつかの実施形態では、L
P3は、M
1のC末端アミノ酸とアミド結合を介して結合している。化合物は、さらなる結合部(1つまたは複数)および/またはアミノ酸(1つまたは複数)の付加により、一端または両端がさらに延長されていてもよい。アミノ酸は同じものであっても異なるものであってもよく、異なるものである場合、それは独立して選択され得る。いくつかの実施形態では、反応性官能基を含む側鎖を有するアミノ酸を2つ以上使用し、反応性官能基は同じものであっても異なるものであってもよい。2つ以上の反応性官能基は、2つ以上の部分を付加するための標的として用いることができる。いくつかの実施形態では、2つ以上の細胞反応性部分を付加する。いくつかの実施形態では、細胞反応性部分および標的化部分を付加する。いくつかの実施形態では、アミノ酸をペプチド鎖内に組み込んだ後にリンカーおよび/または細胞反応性部分をアミノ酸側鎖に結合させる。いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体の合成において、アミノ酸を用いる前にリンカーおよび/または細胞反応性部分が既にアミノ酸側鎖と結合している。例えば、側鎖にリンカーが結合したLys誘導体を用い得る。リンカーは細胞反応性官能基を含むものであってもよく、あるいは細胞反応性官能基を含むよう後に修飾してもよい。
【0109】
以下に特定の細胞反応性コンプスタチン類似体についてさらに詳細に記載する。以下の考察では、コンプスタチン類似体部分の例として、アミノ酸配列Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr(配列番号37)(配列番号28のコンプスタチン類似体に対応するものであり、配列番号37の配列中、アスタリスクは活性化合物中でジスルフィド結合により結合したシステインを表し、(1Me)Trpは1−メチル−トリプトファンを表す)を有するペプチドを使用し;細胞反応性官能基の例としてマレイミド(略号Mal)を使用し;結合部分の例として(CH2)
nおよび(O−CH2−CH2)
nを使用し;反応性官能基を含むアミノ酸の例としてリジンを使用し(一部の化合物)、一部の化合物に任意選択で存在するブロック部分の例として、N末端およびC末端のそれぞれアセチル化およびアミド化(イタリック体でそれぞれ
Acおよび
NH2と表す)を使用する。化合物は様々な合成方法および様々な前駆体を用いて調製され得ることが理解されよう。以下の様々な合成方法および前駆体に関する記述は、本発明を限定することを意図するものではない。一般に、以下に記載されるいずれの化合物のいずれの特徴も、以下に記載される、あるいは本明細書の他の箇所に記載されている他の化合物の特徴(1つまたは複数)と自由に組み合わせることが可能であり、本発明はこのような実施形態を包含する。
【0110】
いくつかの実施形態では、細胞反応性部分は、マレイミド基(細胞反応性官能基として)を含む細胞反応性化合物とアルカン酸(RCOOH)とによって与えられ、式中、Rはアルキル基である。例えば、下に示す6−マレメイドカプロン酸(6−malemeidocaproic acid)(Mal−(CH
2)
5−COOH):
【化1】
を用いることができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、細胞反応性部分は、カルボン酸部分が活性化されている、例えば、OH部分がより好ましい脱離基に変換されているアルカン酸の誘導体によって与えられる。例えば、化合物Iのカルボキシル基をEDCと反応させた後、NHS(任意選択で水溶性スルホ−NHSとして提供され得る)反応させて、6−マレメイドカプロン酸(6−malemeidocaproic acid)のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体、すなわち、6−マレイミドヘキサン酸N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル(下図):
【化2】
を得てもよい。
【0112】
配列番号37の化合物のN末端および/またはC末端を修飾して細胞反応性コンプスタチン類似体を得ることができる。例えば、化合物IIを用いて、IleのN末端アミノ基との反応により、次に挙げる細胞反応性コンプスタチン類似体:
マレイミド−(CH
2)
5−C(=O)−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2(配列番号38)
を得ることができる。配列番号38では、−C(=O)部分がC−N結合(式中、Nはアミノ酸の一部分であり、示されていない)を介して、隣接するC末端アミノ酸(Ile)と結合していることが理解されよう。
【0113】
他の実施形態では、マレイミド基がC末端のThrと結合して、次に挙げる細胞反応性コンプスタチン類似体:
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−(C=O)−(CH
2)
5−マレイミド(配列番号39)
が得られる。
【0114】
いくつかの実施形態では、二官能性リンカー(例えば、ヘテロ二官能性リンカー)を用いて細胞反応性コンプスタチン類似体を合成することができる。(CH
2−CH
2−O)
n部分と(CH
2)
m部分(式中、m=2)とを含むヘテロ二官能性リンカーの例を下に示す。
【化3】
【0115】
化合物IIIは、細胞反応性官能基としてのマレイミド基と、アミノ基(例えば、N末端アミノ基またはアミノ酸側鎖のアミノ基)と容易に反応するNHSエステル部分とを含む。
【0116】
n=2である化合物IIIの実施形態を用いて、配列番号37のコンプスタチン類似体を使用し、次に挙げる細胞反応性コンプスタチン類似体:
【0117】
マレイミド−(CH
2)
2−C(=O)−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2C(=O)−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2(配列番号40)
を得ることができる。
【0118】
配列番号40の化合物では、−C(=O)部分がC−N結合(式中、Nはアミノ酸の一部分であり、示されていない)を介して、N末端アミノ酸(Ile残基)と結合していることが理解されよう。いくつかの実施形態では、リンカーは、nが1以上である化合物IIIの式を有する。(CH
2−CH
2−O)
n部分のnの値の例が本明細書に記載されている。
【0119】
いくつかの実施形態では、配列番号39または配列番号40の化合物と比較して、マレイミド部分と分子の残りの部分とを結合させているアルキル鎖がそれより多いもしくは少ないメチレン単位を含み、オリゴ(エチレングリコール)部分がそれより多いもしくは少ないエチレングリコール単位を含み、かつ/またはそれより多いもしくは少ないメチレン単位がオリゴ(エチレングリコール)部分の一端または両端に隣接して存在する。このような変形物を説明するための細胞反応性コンプスタチン類似体の例を以下に示す(配列番号41〜46):
マレイミド−(CH
2)
2−C(=O)−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2C(=O)−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2(配列番号41)
マレイミド−(CH
2)
3−C(=O)−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2C(=O)−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2(配列番号42)
マレイミド−(CH
2)
5−C(=O)−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2C(=O)−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2(配列番号43)
マレイミド−(CH
2)
4−C(=O)−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2C(=O)−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2(配列番号44)
マレイミド−(CH
2)
2−C(=O)−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2C(=O)−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2(配列番号45)
マレイミド−(CH
2)
5−C(=O)−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2C(=O)−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2(配列番号46)。
【0120】
いくつかの実施形態では、配列番号37が、例えばC末端結合について以下に示すように、延長されてペプチドのN末端またはC末端にLys残基を含む:
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−Lys−
NH2(配列番号47)。
【0121】
いくつかの実施形態では、Lys残基が、例えばC末端結合について以下に示すように、ペプチドリンカーを介して配列番号37のN末端またはC末端に結合している:
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−(Gly)
5−Lys−
NH2(配列番号48)。
【0122】
いくつかの実施形態では、第一級または第二級アミンを含むリンカーがコンプスタチン類似体のN末端またはC末端に付加されている。いくつかの実施形態では、リンカーはアルキル鎖および/またはオリゴ(エチレングリコール)部分を含む。例えば、NH
2(CH
2CH
2O)
nCH
2C(=O)OH(例えば、8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸(AEEAc)または11−アミノ−3,6,9−トリオキサウンデカン酸)またはそのNHSエステル(例えば、8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸または11−アミノ−3,6,9−トリオキサウンデカン酸のNHSエステル)を用いることができる。いくつかの実施形態では、得られる化合物は次のようなものである(式中、リンカーによって与えられる部分が太字で示されている):
NH2(CH2)5C(=O)−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−
NH2(配列番号49)
NH2(CH2CH2O)2CH2C(=O)−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−
NH2(配列番号50)。
【0123】
いくつかの実施形態では、Lys残基が、非ペプチド部分を含むリンカーを介して配列番号37のN末端またはC末端に結合している。例えば、リンカーは、アルキル鎖、オリゴ(エチレングリコール)鎖および/または環系を含み得る。いくつかの実施形態では、8−AEEAcまたはそのNHSエステルを用いて、次のような化合物(式中、8−AEEAcによって与えられる部分が太字で示されている)が得られる(LysがC末端で結合する場合):
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH−CH2CH2OCH2CH2OCH2−C(=O)−Lys−
NH2(配列番号51)。
【0124】
配列番号49および50では、−C(=O)部分がC−N結合(式中、Nはアミノ酸の一部分であり、示されていない)を介して、隣接するIle残基と結合していることが理解されよう。同様に配列番号51では、−C(=O)部分がC−N結合(式中、Nはアミノ酸の一部分であり、示されていない)を介して、隣接するLys残基と結合している。また、配列番号51では、NH部分がC−N結合(式中、Cはアミノ酸のカルボニル炭素であり、示されていない)を介して、隣接するN末端アミノ酸(Thr)と結合していることも理解されよう。
【0125】
配列番号47〜51の化合物の第一級アミン基を修飾して細胞反応性コンプスタチン類似体を得ることは容易である。例えば、配列番号47〜51の化合物(または第一級もしくは第二級アミンとコンプスタチン類似体部分とを含む他の化合物)を6−マレイミドカプロン酸N−スクシンイミジルエステルを反応させて、次に挙げる細胞反応性コンプスタチン類似体を得ることができる:
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−Lys−(C(=O)−(CH
2)
5−Mal)−
NH2(配列番号52)
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−(Gly)
5−Lys−(C(=O)−(CH
2)
5−Mal)−
NH2(配列番号53)
Mal−(CH
2)
5−(C(=O)−
NH(CH2)5C(=O)−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−
NH2(配列番号54)
Mal−(CH
2)
5−(C(=O)
NH(CH2CH2O)2CH2C(=O)−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−
NH2(配列番号55)
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH−CH2CH2OCH2CH2OCH2−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CH
2)
5−Mal)−
NH2(配列番号56)。
【0126】
別の実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体が次のように表される:
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−Lys−C(=O)−CH
2(OCH
2CH
2)
2NH(C(=O)−(CH
2)
5−Mal)−
NH2(配列番号57)。
【0127】
本発明は配列番号38〜57のバリアントを提供し、このバリアントは−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
(配列番号71)が、他の任意のコンプスタチン類似体、例えば、配列番号3〜27または29〜36のいずれかのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列に置き換わったものであるが、ただし、コンプスタチン類似体のN末端および/またはC末端に存在するブロック部分(1つまたは複数)が存在しないもの、リンカー(ブロック部分を含み得る)に置き換わったものあるいは対応するバリアント(1つまたは複数)内に存在する異なるN末端またはC末端アミノ酸に結合したものであり得る。
【0128】
本発明の様々な実施形態で有用であり、細胞反応性部分としてのマレイミドと、アミン反応性部分としてのNHSエステルとを含む他の二官能性架橋剤としては、例えば、スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート(SMPB);スクシンイミジル 4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシラート(SMCC);N−γ−マレイミドブチリル−オキシスクシンイミドエステル(GMBS)が挙げられる。NHS環にスルホン酸を付加すると、スルホ−スクシンイミジル(4−ヨードアセチル)−アミノベンゾアート(スルホ−SIAB)、スルホ−スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシラート(スルホ−SMCC)、スルホ−スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート(スルホ−SMPB)、スルホ−N−γ−マレイミドブチリル−オキシスクシンイミドエステル(スルホ−GMBS)などの水溶性の類似体が得られ、有機溶媒の必要性がなくなる。いくつかの実施形態では、NHSエステル部分と分子の残りの部分との間にスペーサーアームを含む上記のいずれかの長鎖型を用いる。スペーサーは、例えばアルキル鎖を含み得る。その具体例にはスクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロアート]がある。
【0129】
いくつかの実施形態では、NHSエステル(アミン反応性部分として)とヨードアセチル基(スルフィドリル基と反応する)とを含む二官能性リンカーを用いる。このようなリンカーとしては、例えば、N−スクシンイミジル(4−ヨードアセチル)−アミノベンゾアート(SIAB);スクシンイミジル6−[(ヨードアセチル)−アミノ]ヘキサノアート(SIAX);スクシンイミジル6−[6−(((ヨードアセチル)アミノ)−ヘキサノイル)アミノ]ヘキサノアート(SIAXX);スクシンイミジル4−((ヨードアセチル)アミノ)メチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシラート(SIAC);スクシンイミジル6−((((4−(ヨードアセチル)アミノ)メチル−シクロヘキサン−1−カルボニル)アミノ)ヘキサノアート(SIACX)が挙げられる。
【0130】
いくつかの実施形態ではNHSエステル(アミン反応性部分として)とピリジジスルフィド(pyridy disulfide)基(スルフィドリル基と反応する細胞反応性部分として)とを含む二官能性リンカーを用いる。その例としては、N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP);スクシンイミジルオキシカルボニル−α−メチル−α−(2−ピリジルジチオ)トルエン(SMPT)ならびにNHS環上にスルホン酸を含み、かつ/またはNHSエステル部分と分子の残りの部分との間にアルキル鎖を含むスペーサーを含む型のもの(例えば、スクシンイミジル6−(3−[2−ピリジルジチオ]−プロピオンアミド)ヘキサノアート)(LC−SPDP)が挙げられる。追加の部分または異なる部分を含むこのようなリンカーの変形物を用いることができる。例えば、スペーサー内に比較的長いまたは短いアルキル鎖を用いる、あるいはアルキル鎖の代わりにオリゴ(エチレングリコール)部分を用いることができる。
【0131】
細胞反応性コンプスタチン類似体は一般に、様々な方法を用いて合成することができる。多くの場合、細胞反応性官能基とリンカーとを含む細胞反応性の化合物を予め形成された基礎的要素として購入することができる。例えば、6−マレメイドカプロン酸(6−malemeidocaproic acid)および6−マレイミドカプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルは各種供給業者から購入することが可能である。あるいは、当該技術分野で公知の方法を用いて、このような化合物を合成することができる。例えば、Keller O,Rudinger J.Helv Chim Acta.58(2):531−41,1975およびHashida S.ら,J Appl Biochem.,6(1−2):56−63,1984を参照されたい。このほか、コンジュゲート合成に有用な方法および試薬に関する考察については、Hermanson,G.,上記およびその参考文献を参照されたい。本発明は一般に、コンプスタチン類似体部分と細胞反応性官能基とを含む化合物を作製する任意の方法およびそれによって得られる化合物を包含する。
【0132】
いくつかの実施形態では、側鎖に結合したリンカーを有するアミノ酸を直鎖状ペプチドの合成に用いる。直鎖状ペプチドは、当該技術分野で公知であるペプチド合成の標準的な方法、例えば標準的な固相ペプチド合成を用いて合成することができる。次いで、直鎖状ペプチドを(例えば、Cys残基を酸化して分子内ジスルフィドを形成することにより)環状化する。次いで、この環状化合物を細胞反応性官能基を含むリンカーと反応させ得る。他の実施形態では、直鎖状化合物を環状化する前に細胞反応性官能基を含む部分をこれと反応させる。一般に、細胞反応性コンプスタチン類似体の合成時に反応性官能基同士が望ましくない反応を起こさないよう適宜これを保護することができる。細胞反応性官能基、いずれかのアミノ酸側鎖および/またはペプチドの一端もしくは両端を反応時に保護し、その後それを脱保護することができる。例えば、Cys残基のSH基および/またはマレイミドなどのSH反応性部分の間で反応が起こらないよう、これを環化後まで保護することができる。適度な時間内に適度な収率が得られるように、少なくとも部分的には特定の反応性官能基(1つまたは複数)の必要性を踏まえて反応条件を選択する。反応の所望の程度または速度が得られるように、温度、pHおよび試薬の濃度を調整することができる。例えば、Hermanson(上記)を参照されたい。所望の生成物を精製して、例えば、細胞反応性官能基を含む未反応の化合物、未反応のコンプスタチン類似体、リンカー(1つまたは複数)、反応で生じた所望の細胞反応性コンプスタチン類似体以外の生成物、反応混合物中に存在するその他の物質などを除去することができる。細胞反応性コンプスタチン類似体を作製するための組成物および方法ならびに合成における中間体は本発明の態様である。
【0133】
本発明のいくつかの態様では、例えば化合物を安定化させる、その体内での寿命を延ばす、その溶解性を増大させる、その免疫原性を低減する、および/または分解に対するその耐性を増大させるポリエチレングリコール(PEG)鎖またはその他のポリマー(1つまたは複数)などの部分を含むコンプスタチン類似体の作製に上記のリンカー(1つまたは複数)を用いる。決して本発明を限定するものではないが、本明細書では、このような部分を「クリアランス低減部分」(CRM)と呼ぶことがあり、このような部分を含むコンプスタチン類似体を「長時間作用型コンプスタチン類似体」と呼ぶことがある。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、ヒトまたは非ヒト霊長類に10mg/kgの用量でIV投与した場合、平均血漿中半減期が少なくとも1日、例えば、1〜3日、3〜7日、7〜14日または14〜28日である。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体をヒトまたは非ヒト霊長類に10mg/kgの用量でIV投与した後のその平均血漿中半減期は、同じアミノ酸配列(および該当する場合は1つ以上のブロック部分)を有するがCRMを含まない対応するコンプスタチン類似体より少なくとも2倍、例えば、2〜5倍、5〜10倍、10〜50倍または50〜100倍低い。上記のように、いくつかの実施形態では、配列番号3〜36のいずれかのコンプスタチン類似体は、N末端、C末端または両末端においてアミノ酸1つ分以上延長されており、そのアミノ酸のうち少なくとも1つが、第一級もしくは第二級アミン、スルフィドリル基、カルボキシル基(カルボン酸基として存在し得る)、グアニジノ基、フェノール基、インドール環、チオエーテルまたはイミダゾール環などの反応性官能基を含む側鎖を有するものであり、これにより、CRMとコンプスタチン類似体とを結合させる反応性官能基とのコンジュゲーションが促進される。CRMを含まない対応するコンプスタチン類似体が、それが対応する長時間作用型コンプスタチン類似体中に存在する1つ以上のこのようなアミノ酸を欠くものであってもよいことが理解されよう。したがって、配列番号3〜36のいずれかを含み、CRMを欠く対応するコンプスタチン類似体は、それぞれ配列番号3〜36と「同じアミノ酸配列を有する」ことが理解されよう。例えば、配列番号14、21、28、29、32、33、34または36のアミノ酸配列を含み、CRMを欠く対応するコンプスタチン類似体は、それぞれ配列番号14、21、28、29、32、33、34または36と「同じアミノ酸配列を有する」ことが理解されよう。いくつかの実施形態では、血漿中半減期とは単回IV用量投与後の終末相半減期のことである。いくつかの実施形態では、血漿中半減期とは、複数回IV用量投与後に定常状態に達した後の終末相半減期のことである。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、霊長類に単回IV用量を投与した後または複数回IV用量を投与した後、その血漿中CmaxがCRMを含まない対応するコンプスタチン類似体の血漿中Cmaxの少なくとも5倍、例えば、5〜50倍に達する。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、霊長類に単回IV用量を投与した後または複数回IV用量を投与した後、その血漿中CmaxがCRMを含まない対応するコンプスタチン類似体の血漿中Cmaxの10〜20倍に達する。いくつかの実施形態では、霊長類はヒトである。いくつかの実施形態では、霊長類は非ヒト霊長類、例えば、カニクイザルまたはアカゲザルなどのサルである。いくつかの実施形態では、10mg/kgの用量でヒトまたは非ヒト霊長類にIV投与した直後24時間の長時間作用型コンプスタチン類似体の腎クリアランスは、対応するコンプスタチン類似体の腎クリアランスより少なくとも2倍、例えば、2〜5倍、5〜10倍、10〜50倍または50〜100倍低い。コンプスタチン類似体の濃度は、例えば、UV、HPLC、質量分析(MS)もしくはCRMに対する抗体またはLC/MSもしくはLC/MS/MSなどのこのような方法の組合せを用いて、血液試料および/または尿試料中で測定することができる。半減期およびクリアランスなどの薬物動態パラメータは、当業者に公知の方法を用いて明らかにすることができる。例えばWinNonlinソフトウェアv5.2(Pharsight社、St.Louis、MO)を用いて、薬物動態分析を実施することができる。
【0134】
いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、同じアミノ酸配列(および該当する場合は1つ以上のブロック部分)を有するがCRMを含まない対応するコンプスタチン類似体の活性の少なくとも約10%、20%、30%、例えば、30%〜40%、30%〜50%、30%〜60%、30%〜70%、30%〜80%、30%〜90%またはそれ以上のモル活性を有する。長時間作用型コンプスタチン類似体が複数のコンプスタチン類似体部分を含むいくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体のモル活性は、前記コンプスタチン類似体部分の活性の合計の少なくとも約10%、20%または30%、例えば、30%〜40%、30%〜50%、30%〜60%、30%〜70%、30%〜80%、30%〜90%またはそれ以上である。いくつかの実施形態では、ポリエチレングリコール(PEG)は、分子量が少なくとも500ダルトンの(CH
2CH
2O)
n部分を含む。いくつかの実施形態では、上記リンカーは、平均分子量が約500;1,000;1,500;2,000;5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンの(CH
2CH
2O)
n部分を含む。「平均分子量」は数平均分子量を指す。いくつかの実施形態では、(CH
2CH
2O)n部分の多分散度Dが1.0005〜1.50、例えば、1.005〜1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.40もしくは1.50であるか、1.0005〜1.50の任意の値をとる。
【0135】
いくつかの実施形態では、(CH
2CH
2O)n部分が単分散であり、(CH
2CH
2O)n部分の多分散度は1.0である。このような単分散の(CH
2CH
2O)n部分は当該技術分野において公知で、Quanta BioDesign社(Powell、OH)から購入可能であり、またその非限定的な例として、nが2、4、6、8、12、16、20または24である単分散部分が挙げられる。
【0136】
いくつかの実施形態では、化合物は複数の(CH
2CH
2O)
n部分を含み、前記(CH
2CH
2O)
n部分の総分子量が約1,000;5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、化合物は、定められた長さ、例えば、n=4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28もしくは30またはそれ以上の長さの(CH
2CH
2O)
n部分を複数含む。いくつかの実施形態では、化合物は、定められた長さの(CH
2CH
2O)
n部分を、前記(CH
2CH
2O)
n部分の総分子量が約1,000;5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンになる程度の数だけ含む。いくつかの実施形態では、nが約30〜約3000である。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体部分が直鎖状PEGの各末端に結合している。例えば上記のように、鎖の各末端に反応性官能基を有する二官能性PEGを用いることができる。いくつかの実施形態では、反応性官能基が同じものであるが、いくつかの実施形態では、各末端に異なる反応性官能基が存在する。いくつかの実施形態では、複数の(CH
2CH
2O)
n部分が分岐構造で与えられる。分岐枝は直鎖状ポリマー骨格に付加されているもの(例えば、櫛形構造)であっても、1つ以上の中核となる基から生じているもの(例えば、星形構造)であってもよい。いくつかの実施形態では、分岐状分子が(CH
2CH
2O)
n鎖を3〜10本有する。いくつかの実施形態では、分岐状分子が(CH
2CH
2O)
n鎖を4〜8本有する。いくつかの実施形態では、分岐状分子が(CH
2CH
2O)
n鎖を10本、9本、8本、7本、6本、5本、4本または3本有する。いくつかの実施形態では、星形分子が、中核となる基から生じている(CH
2CH
2O)
n鎖を10〜100本、10〜50本、10〜30本または10〜20本有する。したがって、いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、それぞれが鎖末端の官能基を介して(CH
2CH
2O)
n鎖と結合したコンプスタチン類似体部分を、例えば、3〜10個、例えば4〜8個含み得る。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、それぞれが鎖末端の官能基を介して(CH
2CH
2O)
n鎖と結合したコンプスタチン類似体部分を、10〜100個含み得る。いくつかの実施形態では、分岐状または星形のPEGの分岐枝(「アーム」と呼ばれることもある)が(CH
2CH
2O)部分をほぼ同数含む。いくつかの実施形態では、少なくとも一部の分岐枝の長さが異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の(CH
2CH
2O)
n鎖がそれと結合したコンプスタチン類似体部分を有さないことが理解されよう。いくつかの実施形態では、鎖の少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%がそれと結合したコンプスタチン類似体部分を有する。
【0137】
本明細書に図示される属および化合物では、酸素原子を反復単位の右側または反復単位の左側にしてポリエチレングリコール部分が描かれている。一方向のみが描かれる場合でも、本発明は所与の化合物または属の両方向のポリエチレングリコール部分(すなわち、(CH
2CH
2O)
nおよび(OCH
2CH
2)
n)を包含し、また化合物または属が複数のポリエチレングリコール部分を含む場合、あらゆる組合せの方向が本開示に包含される。
【0138】
反応性官能基を含む単官能性PEGの例の式を以下にいくつか図示する。例示を目的に、反応性官能基(1つまたは複数)がNHSエステルを含む式が図示されているが、例えば上記のような他の反応性官能基を用いることも可能である。いくつかの実施形態では、(CH
2CH
2O)
nは、左端がメトキシ基(OCH
3)で終わるように図示されているが、以下または本明細書の他の箇所に図示される鎖が異なるOR部分(例えば、脂肪族基、アルキル基、低級アルキル基または他の任意の適度なPEG末端基)またはOH基で終わっていてもよいことが理解されよう。また、様々な実施形態において、図示されているもの以外の部分が(CH
2CH
2O)
n部分とNHS基を接続し得ることも理解されよう。
【0139】
いくつかの実施形態では、単官能性PEGは式A:
【化4】
のPEGであり、式中、
「反応性官能基」およびnは上で定義され、本明細書のクラスおよびサブクラスに記載されている通りのものであり;
R
1は水素、脂肪族または任意の適切な末端基であり;
Tは、共有結合であるか、あるいはTの1つ以上の炭素単位が任意選択で独立して−O−、−S−、−N(R
x)−、−C(O)−、−C(O)O−、−OC(O)−、−N(R
x)C(O)−、−C(O)N(R
x)−、−S(O)−、−S(O)
2−、−N(R
x)SO
2−またはSO
2N(R
x)−に置き換わっているC
1〜12の直鎖状または分岐状炭化水素鎖であり;
R
xはそれぞれ独立して、水素またはC
1〜6脂肪族である。
【0140】
式Aの単官能性PEGの例としては:
【化5】
が挙げられる。
【0141】
式Iでは、反応性官能基を含む部分は、m=2である一般構造−CO−(CH
2)
m−COO−NHSを有する。いくつかの実施形態では、単官能性PEGが式Iの構造を有し、式中、mは1〜10、例えば1〜5である。例えば、いくつかの実施形態では、下に示すようにmが3である。
【化6】
【0143】
式IIでは、反応性官能基を含む部分は、m=1である一般構造−(CH
2)
m−COO−NHSを有する。いくつかの実施形態では、単官能性PEGが式IIの構造を有し、式中、mは1〜10であるか(例えば、下の式IIIに示すようにmが5である)、mが0である(下の式IIIaに示す)。
【化8】
【化9】
【0144】
いくつかの実施形態では、二官能性の直鎖状PEGが、反応性官能基を含む部分をその両端に含む。反応性官能基は同じもの(ホモ二官能性)であっても、異なるもの(ヘテロ二官能性)であってもよい。いくつかの実施形態では、二官能性PEGの構造は対称性のものであり得、この構造では、反応性官能基と−(CH
2CH
2O)
n鎖の各末端にある酸素原子とが同じ部分を用いて接続されている。いくつかの実施形態では、2つの反応性官能基と分子のPEG部分とが異なる部分を用いて接続されている。例となる二官能性PEGの構造を下に図示する。例示を目的に、反応性官能基(1つまたは複数)がNHSエステルを含む式が図示されているが、他の反応性官能基を用いることも可能である。
【0145】
いくつかの実施形態では、二官能性直鎖状PEGは式B:
【化10】
のPEGであり、式中、Tおよび「反応性官能基」はそれぞれ独立して、上で定義され、本明細書のクラスおよびサブクラスに記載されている通りのものであり、nは上で定義され、本明細書のクラスおよびサブクラスに記載されている通りのものである。
【0146】
式Bの二官能性PEGの例としては:
【化11】
が挙げられる。
【0147】
式IVでは、反応性官能基を含む部分は、m=1である一般構造−(CH
2)
m−COO−NHSを有する。いくつかの実施形態では、二官能性PEGが式IVの構造を有し、式中、mは1〜10、例えば1〜5である。
【0149】
式Vでは、反応性官能基を含む部分は、m=2である一般構造−CO−(CH
2)
m−COO−NHSを有する。いくつかの実施形態では、二官能性PEGが式Vの構造を有し、式中、mは1〜10、例えば1〜5である。
【0150】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に図示されるPEG含有化合物および属のコンプスタチン類似体コンジュゲートを提供する。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体上の官能基(例えば、アミン基、ヒドロキシル基またはチオール基)と本明細書に記載の「反応性官能基」を有するPEG含有化合物とを反応させて、このようなコンジュゲートを作製する。例として、式IIIおよびIVはそれぞれ、次の構造:
【化13】
を有するコンプスタチン類似体コンジュゲートを形成することができ、式中、
【化14】
はコンプスタチン類似体上のアミン基の結合点を表す。特定の実施形態では、アミン基はリジン側鎖基である。本明細書に図示されるPEG含有化合物および属のいずれかを用いて、反応性官能基および/またはコンプスタチン官能基の選択に応じ、それに対応するコンジュゲートを形成し得ることが理解されよう。
【0151】
いくつかの実施形態では、分岐した櫛形または星形のPEGは、反応性官能基を含む部分を複数の各−(CH
2CH
2O)
n鎖の末端に含む。反応性官能基は同じものであってもよく、あるいは少なくとも2つの異なる基が存在してもよい。いくつかの実施形態では、分岐した櫛形または星形のPEGは、下式:
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
式H
のPEGであり、式中、R
2はそれぞれ独立して、「反応性官能基」またはR
1であり、T、nおよび「反応性官能基」はそれぞれ独立して、上で定義され、本明細書のクラスおよびサブクラスに記載されている通りのものである。反応性官能基としてNHS部分を含む分岐状PEG(アーム、すなわち分岐枝を8本有する)の例の構造を下に図示する。
【化21】
【化22】
【0152】
反応性官能基としてNHS部分を含む分岐状PEG(アーム、すなわち分岐枝を4本有する)の例の構造を下に図示する:
【化23】
【化24】
【0153】
骨格から生じる分岐枝の数は様々であり得る。例えば、上式VIおよびVIIの分岐枝数4を様々な実施形態において、0〜10の他の任意の整数に変化させてもよい。特定の実施形態では、1つ以上の分岐枝が反応性官能基を含まず、その分岐枝は上記のような−CH
2CH
2OH基または−CH
2CH
2OR基で終わっている。
【0154】
いくつかの実施形態では、分岐状PEGが式VII、VIIIまたはIX(または分岐枝の数が異なるそのバリアント)の構造を有し、かつxが
【化25】
である。
【0155】
いくつかの実施形態では、分岐状PEGが式VII、VIIIまたはIX(または分岐枝の数が異なるそのバリアント)の構造を有し、かつxが
【化26】
である。
【0156】
当然のことながら、上記x部分のメチレン(CH
2)基が代わりにこれより長いアルキル鎖(CH
2)
m(mは2、3、4、5、6、8、10、20または30以下である)を含んでもよく、あるいは本明細書に記載の他の部分を1つ以上含んでもよい。
【0157】
いくつかの実施形態では、NHS反応基またはマレイミド反応基を有する分岐状PEGの例が次のように図示される:
【化27】
【化28】
【0158】
いくつかの実施形態では、4本の分岐枝のうちの3本または各分岐枝が反応性官能基を含む式XまたはXIのバリアントを用いる。
【0159】
PEGのさらに別の例が次のように表される。
【化29】
【化30】
【0160】
上で述べたことであるが、本明細書に記載のように、様々な実施形態において、長時間作用型コンプスタチン類似体のペプチド成分と(CH
2CH
2O)
n−R部分との間に、直鎖状アルキル、エステル、アミド、芳香環(例えば、置換もしくは非置換フェニル)、置換もしくは非置換シクロアルキル構造またはこれらの組合せなどの各種部分のいずれかを組み込み得ることが理解されよう。いくつかの実施形態では、このような部分(1つまたは複数)が化合物の加水分解に対する感受性を高め、これにより化合物のペプチド部分がCRMから解離し得る。いくつかの実施形態では、このような解離がin vivoでの組織への浸透性および/または化合物の活性を増大させ得る。いくつかの実施形態では、加水分解は一般的な(例えば、酸−塩基)加水分解である。いくつかの実施形態では、加水分解は酵素触媒によるもの、例えばエステラーゼ触媒によるものである。当然のことながら、加水分解が2種類とも生じる場合がある。1つ以上のこのような部分と反応性官能基としてのNHSエステルとを含むPEGの例には以下のものがある。
【化31】
式XIV
【化32】
【化33】
【0161】
いくつかの実施形態では、分岐状(複数のアームを有する)のPEGまたは星形のPEGは、ペンタエリスリトール核、ヘキサグリセリン核またはトリペンタエリトリトール核を含む。特定の実施形態では、分岐枝がすべて単一の点から生じているとは限らないことが理解されよう。
【0162】
反応性官能基を1つ以上含む一官能性、二官能性、分岐状およびその他のPEGは、いくつかの実施形態では、例えば、特にNOF America社(White Plains、NY)またはBOC Sciences社(45−16 Ramsey Road Shirley、NY 11967、USA)から入手するか、当該技術分野で公知の方法を用いて調製することができる。
【0163】
本発明のいくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は細胞反応性官能基とCRMをともに含む。いくつかの態様では、本発明は、細胞反応性の官能基または部分が、分子量が少なくとも500ダルトン、例えば、少なくとも1,500ダルトンから最大約100,000ダルトンまで(例えば、平均分子量が約20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;または100,000ダルトン)の(CH
2CH
2O)
n部分に置き換わっている、上記の細胞反応性コンプスタチン類似体のいずれかの分子のバリアントを提供する。
【0164】
nが約500;1,000;1,500;2,000;5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンの平均分子量を得るのに十分な値となっている長時間作用型コンプスタチン類似体の例を以下に記載する。
【0165】
(CH
2CH
2O)
nC(=O)−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−
NH2)(配列番号58)
【0166】
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2−C(=O)−Lys−C(=O)−(CH
2CH
2O)
n−
NH2(配列番号59)
【0167】
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−Lys−C(=O)−(CH
2CH
2O)n−
NH2(配列番号60)
【0168】
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−(Gly)
5−Lys−C(=O)−(CH
2CH
2O)n−
NH2(配列番号61)
【0169】
Ac−(CH
2CH
2O)nC(=O)Lys−(Gly)
5−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2)(配列番号62)
Ac−(CH
2CH
2O)nC(=O)Lys−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
NH2)(配列番号63)
【0170】
配列番号58では、(CH
2CH
2O)nがアミド結合を介してN末端アミノ酸と結合している。配列番号59〜63では、(CH
2CH
2O)n部分がアミド結合を介してLys側鎖と結合している。したがって、上記のように、配列番号59、60および61のC末端のNH
2はペプチドのC末端のアミド化を表していることが理解され、また配列番号62および63では、N末端のAcはペプチドのN末端のアセチル化を表していることが理解されよう。ほかにも、(CH
2CH
2O)
n部分の遊離末端が通常、下線を施したOが末端(CH
2CH
2O)基のO原子を表す(
OR)で終わることが当業者には理解されよう。(OR(Oに下線))は多くの場合、ヒドロキシル(
OH)基またはメトキシ(−
OCH
3)基などの部分であるが、他の基(例えば、他のアルコキシ基)を用いることも可能である。したがって、例えば、配列番号59は、
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CH
2CH
2O)
n−R)−
NH2(配列番号64)(式中、Rは、例えば直鎖状PEGの場合、HまたはCH
3である)のように表すことができる。二官能性、分岐状または星形のPEGの場合、Rは分子の残りの部分を表す。さらに、反応性官能基を含む部分は本明細書に記載されるように(例えば、本明細書に記載の式のいずれかに従って)変化し得ることが理解されよう。例えば、反応性官能基を含む部分がエステルおよび/またはアルキル鎖を含み、配列番号64と同じペプチド配列を含む長時間作用型コンプスタチン類似体は、次のように表すことができる:
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CH
2)
m−(CH
2CH
2O)
n−R)−
NH2(配列番号65);
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CH
2)
m−C(=O)−(CH
2CH
2O)
n−R)−
NH2(配列番号66)
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−NH−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CH
2)
m−C(=O)−(CH
2)
j(CH
2CH
2O)
n−R)−
NH2(配列番号67)。
配列番号65〜67では、mは様々な実施形態において、1から最大約2、3、4、5、6、7、8、10、15、20または30までの範囲に収まり得る。配列番号67では、jは様々な実施形態において、1から最大約2、3、4、5、6、7、8、10、15、20または30までの範囲に収まり得る。また、本明細書に記載のように、様々な実施形態において、Lys−(C(=O)−と(CH
2CH
2O)
n−Rとの間に、アミド、芳香環(例えば、置換もしくは非置換フェニル)または置換もしくは非置換シクロアルキル構造などの他の部分を組み込み得ることも理解されよう。
【0171】
本発明は、配列番号58〜67のバリアントを提供し、このバリアントは−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−
(配列番号71)が、他の任意のコンプスタチン類似体、例えば、配列番号3〜27または29−36のいずれかのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列に置き換わったものであるが、ただし、コンプスタチン類似体のN末端および/またはC末端に存在するブロック部分(1つまたは複数)が存在しないもの、リンカー(ブロック部分を含み得る)に置き換わったものあるいは対応するバリアント(1つまたは複数)内に存在する異なるN末端またはC末端アミノ酸に結合したものであり得る。
【0172】
任意のコンプスタチン類似体、例えば、配列番号3〜37のいずれかを含む任意の化合物が様々な実施形態において、そのN末端またはC末端を介して、あるいはその付近で(例えば、そのN末端またはC末端アミノ酸のあるいはその付近のアミノ酸の側鎖を介して)、反応性官能基を含む任意の部分、例えば、式I〜XVIまたは式A〜Hの任意の化合物と直接的にあるいは間接的に結合し得る。
【0173】
いくつかの実施形態では、CRMは、ヒト血清中にみられるポリペプチドもしくはそのフラグメントまたは上記ポリペプチドもしくはそのフラグメントと実質的に類似したバリアントを含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチド、フラグメントまたはバリアントは分子量が5kD〜150kD、例えば、少なくとも5kd、10kd、20kd、30kd、40kd、50kd、60kd、70kd、80kd、90kd、100kdまたはそれ以上、例えば、100〜120kDまたは120〜150kDである。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、反応性官能基を含むコンプスタチン類似体とポリペプチドの1つ以上のアミノ酸側鎖とを反応させることを含み、この側鎖は適合性のある官能基を含むものである。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、反応性官能基を含むコンプスタチン類似体とポリペプチドのN末端アミンおよび/またはC末端カルボキシル基とを反応させることを含む。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、アミン反応性官能基を含むコンプスタチン類似体と、第一級アミン(例えば、リジン)を含む側鎖を有するアミノ酸および/またはポリペプチドのN末端アミンとを反応させることを含む。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、カルボキシル反応性官能基を含むコンプスタチン類似体とポリペプチドのC末端カルボキシル基とを反応させることを含む。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体部分をポリペプチドの各末端に結合させ、任意選択で、1つ以上の内部アミノ酸の側鎖と結合させる。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、スルフィドリル反応性官能基を含むコンプスタチン類似体とポリペプチドの1つ以上のスルフィドリル基とを反応させることを含む。
【0174】
いくつかの実施形態では、ポリペプチド内に反応性官能基を少なくとも1つ導入する。例えば、いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体と反応させる前に、ポリペプチドの側鎖を少なくとも1つ修飾して、第一の反応性官能基を異なる反応性官能基に変換する。いくつかの実施形態では、チオールを導入する。生体分子内にチオールを導入するには、内在性ジスルフィドの還元およびアミン基、アルデヒド基またはカルボン酸基のチオール基への変換を含めた複数の方法を用いることができる。ジチオスレイトール(DTT)、トリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)またはトリス−(2−シアノエチル)ホスフィンにより、タンパク質中のシスチンのジスルフィド架橋をシステイン残基に還元することができる。スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)と反応させた後、DTTまたはTCEPにより3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルコンジュゲートを還元することにより、アミンを間接的にチオラート化することができる。スクシンイミジルアセチルチオアセタートと反応させた後、ほぼ中性pHで50mMのヒドロキシルアミンまたはヒドラジンを用いてアセチル基を除去することにより、アミンを間接的にチオラート化することができる。2−イミノチオランと反応させ、分子全体の電荷を保持して遊離チオールを導入することにより、アミンを直接チオラート化することができる。チオールを含まないタンパク質中のトリプトファン残基をメルカプトトリプトファン残基に酸化し、次いで、これをヨードアセトアミドまたはマレイミドにより修飾することができる。チオールを1つ以上含むポリペプチドと、
Ac−Ile−Cys
*−Val−Trp(1−Me)−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−AEEAc−Lys−(C(=O)−(CH
2)
5−Mal)−
NH2(配列番号68)などのマレイミド基を含むコンプスタチン類似体とを反応させて、長時間作用型コンプスタチン類似体を作製してもよい。
【0175】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドは組換えにより作製されたものである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、少なくとも一部が組換えにより作製されたものであり(例えば、細菌内で、あるいは真菌、昆虫、植物または脊椎動物などの真核宿主の細胞内で)および/または少なくとも一部が化学合成を用いて作製されたものである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはpufである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドがグリコシル化されている。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはグリコシル化されていない。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはヒト血清アルブミン(HSA)である。いくつかの実施形態では、ポリペプチドと実質的に類似したバリアントが、対象、例えばヒト対象の正常な免疫系によって異物として認識されない程度にそのポリペプチドと類似している。いくつかの実施形態では、MHCクラスIエピトープが生じないよう、バリアントの元となるポリペプチドと比較したときの実質的に類似したバリアントの配列の変化を選択する。当該技術分野で公知の様々な方法を用いて、配列がMHCクラスIエピトープを含むかどうかを予測することができる。
【0176】
本発明はさらに、CRMを含むコンプスタチン類似体を2つ以上(例えば、2〜10)含む多量体、例えばコンカテマーを提供し、ここでは、得られる分子(またはそのCRM成分)の平均分子量が20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、上記結合部分のいずれかを用いて、CRMを含むコンプスタチン類似体を結合させることができる。
【0177】
VII.標的化コンプスタチン類似体
本発明は、標的化部分とコンプスタチン類似体部分とを含み、標的化部分が標的分子と非共有結合する、標的化コンプスタチン類似体を提供する。いくつかの態様では、本発明は、第VI節に記載されている細胞反応性コンプスタチン類似体に類似した標的化コンプスタチン類似体を提供し、ここでは、この化合物は細胞反応性部分に加えて、あるいは細胞反応性部分の代わりに標的化部分を含む。標的化部分は、標的分子と特異的に結合する、例えば抗体、ポリペプチド、ペプチド、核酸(例えば、アプタマー)、炭水化物、小分子または超分子複合体を含み得る。いくつかの実施形態では、標的分子(平衡解離定数Kdにより測定されるもの)に対する標的化部分の親和性(平衡解離定数Kdにより測定されるもの)が試験条件下、例えば生理的条件下で10
−3M以下、例えば10
−4M以下、例えば10
−5M以下、例えば10
−6M以下、10
−7M以下、10
−8M以下または10
−9M以下である。
【0178】
標的化部分が抗体である本発明の実施形態では、抗体は、結合能を保持する任意の免疫グロブリンもしくはその誘導体または免疫グロブリン結合ドメインと相同なもしくはほぼ相同な結合ドメインを有する任意のタンパク質であり得る。このようなタンパク質は、天然源に由来するものであっても、一部分または全体が(例えば、組換えDNA技術、化学合成などを用いて)合成により作製されたものであってもよい。抗体は任意の種、例えば、ヒト、げっ歯類、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどのものであり得る。抗体は、ヒトのクラス:IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEのいずれも含めた任意の免疫グロブリンクラスのメンバーであり得る。本発明の様々な実施形態において、抗体は、Fab’、F(ab’)
2、scFv(単鎖可変部)もしくは抗原結合部位を保持する他のフラグメントなどの抗体フラグメントまたは組換えにより作製したフラグメントを含めた組換えにより作製したscFvフラグメントであり得る。例えば、Allen,T.,Nature Reviews Cancer,Vol.2,750−765,2002およびその参考文献を参照されたい。一価、二価または多価の抗体を用いることができる。抗体は、例えばげっ歯類由来の可変ドメインとヒト由来の定常ドメインが融合され、げっ歯類抗体の特異性を保持する、キメラ抗体であり得る。いくつかの実施形態では、ファージディスプレイなどのディスプレイ技術を用いて、例えば、ゲノムにヒト免疫グロブリン遺伝子が組み込まれたげっ歯類で、ヒト抗体またはその一部分を作製する。いくつかの実施形態では、ヒト抗体配列内に非ヒト種(例えば、マウス)由来の相補性決定領域を1つ以上移植することによりヒト化抗体を作製する。抗体は一部分がヒト化されていても、全体がヒト化されていてもよい。例えば、本発明に有用な標的化部分を得るのに使用し得るヒト化抗体を入手する様々な方法を概説したものとして、Almagro JC,Fransson J.,Humanization of antibodies.Front Biosci.13:1619−33(2008)を参照されたい。本発明の目的のためには一般にモノクローナル抗体が好ましいが、抗体はポリクローナルであってもモノクローナルであってもよい。本発明の特定の実施形態ではF(ab’)2またはF(ab’)フラグメントを使用し、他の実施形態ではFcドメインを含む抗体を使用する。ほぼあらゆる目的の分子と特異的に結合する抗体を作製する方法が当該技術分野で公知である。例えば、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を天然源から、例えば、(例えば、分子またはその抗原性のフラグメントによる免疫感作後に)その抗体を産生する動物の血液または腹水液から精製する、あるいは細胞培養で組換えにより作製することができる。例えば消化、ジスルフィド還元または合成により抗体フラグメントを作製する方法が当該技術分野で公知である。
【0179】
本発明の様々な実施形態において、標的化部分は、抗原抗体相互作用以外の機序で標的分子と特異的に結合する任意の分子であり得る。このような標的化部分は「リガンド」と呼ばれる。例えば、本発明の様々な実施形態において、リガンドはポリペプチド、ペプチド、核酸(例えば、DNAまたはRNA)、炭水化物、脂質もしくはリン脂質または小分子であり得る。いくつかの実施形態では、小分子は、天然のものまたは人工的に作製されたものに関係なく、比較的低分子量で、タンパク質、ポリペプチド、核酸および脂質ではない、通常は分子量が約1500g/mol未満であり、かつ通常は複数の炭素−炭素結合を有する有機化合物である。一般にアプタマーとは、特定のタンパク質と結合するオリゴヌクレオチド(例えば分子を、例えばヌクレアーゼによる分解に対する耐性を高めることにより安定化させる、修飾ヌクレオシド(例えば、RNAおよびDNAに最もよくみられる5種類の標準的な塩基(A、G、C、T、U)または糖(リボースおよびデオキシリボース)以外の塩基または糖)または修飾されたヌクレオシド間結合(例えば、非ホスホジエステル結合)を任意選択で含む、RNAまたはDNAなど)のことである。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、長さが最大約100ヌクレオシド、例えば、長さが12〜100ヌクレオシドである。アプタマーはSELEXと呼ばれるin vitro進化法を用いて得ることができ、また目的とするタンパク質に特異的なアプタマーを得る方法が当該技術分野で公知である。例えば、Brody E N,Gold L.J Biotechnol.2000 March;74(1):5−13を参照されたい。いくつかの実施形態では、ペプチド核酸またはロックト核酸を用いる。
【0180】
本発明の特定の実施形態では、標的化部分はペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、酵母ディスプレイなどのディスプレイ技術を用いて、目的とする標的分子と結合するペプチドを同定する。
【0181】
小分子をリガンドとして用いることができる。このようなリガンドを同定する方法は当該技術分野で公知である。例えば、タンパク質の凹面(ポケット)と結合する低分子量有機化合物を同定するための、コンビナトリアルライブラリーを含めた小分子ライブラリーのin vitroスクリーニングやコンピュータを用いたスクリーニングなどでは、多数の目的とするタンパク質に対する小分子リガンドを同定することができる(Huang,Z.,Pharm.& Ther.86:201−215,2000)。
【0182】
本発明の特定の実施形態では、標的化部分は、通常は担体として用いたり、抗体作製を目的に抗原とコンジュゲートしたりするタンパク質でも分子でもない。その例には、ウシ血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、ウシガンマグロブリンおよびジフテリア毒素などの担体タンパク質または分子がある。本発明の特定の実施形態では、標的化部分は免疫グロブリン分子のFc部分ではない。いくつかの実施形態では、標的化部分は、それが共有結合または非共有結合する追加の部分を1つ以上含む複合体の一部となっている。
【0183】
本発明の様々な実施形態において、標的分子は、細胞により産生される任意の分子(細胞表面に発現される任意の形態または少なくとも一部が細胞外修飾によるものであるその修飾形態を含む)であり得る。いくつかの実施形態では、標的分子は、組織内または組織上に存在する細胞外物質である。いくつかの実施形態では、標的分子は、特定の疾患または生理的状態の特徴を示す、あるいは1種類以上の細胞タイプまたは組織タイプの特徴を示すものである。標的分子は多くの場合、分子の少なくとも一部分が抗体などの細胞外結合物質による結合を受けやすいように、少なくとも部分的に細胞表面に存在する分子(例えば、膜貫通型タンパク質または膜結合型タンパク質)である。標的分子は細胞タイプ特異的であり得るが、そうである必要もない。例えば、細胞タイプ特異的標的分子は多くの場合、1つまたは複数の特定のタイプの細胞上または細胞内に他の多くのタイプの細胞上または細胞内よりも高レベルで存在するタンパク質、ペプチド、mRNA、脂質または炭水化物である。いくつかの場合、細胞タイプ特異的標的分子が、目的とする特定のタイプの細胞内または細胞上のみに検出可能なレベルで存在する。しかし、有用な細胞タイプ特異的標的分子が細胞タイプ特異的であるとみなされるのに、目的とする細胞タイプに対して完全に特異的である必要はないことが理解されよう。いくつかの実施形態では、特定の細胞タイプの細胞タイプ特異的標的分子がその細胞タイプ内で、例えば複数(例えば、5〜10種類以上)の異なる組織または臓器に由来する細胞をほぼ同量含む混合物からなる参照細胞集団の少なくとも3倍のレベルで発現される。いくつかの実施形態では、細胞タイプ特異的標的分子は、参照集団でのその平均発現量の少なくとも4〜5倍、5〜10倍または10倍以上のレベルで存在する。いくつかの実施形態では、当業者が細胞タイプ特異的標的分子を検出するか測定することにより、目的とする1つまたは複数の細胞タイプを他の多くのタイプ、ほとんどのタイプまたはすべてのタイプの細胞から識別することが可能である。一般に、ほとんどの標的分子の有無および/または量は、ノーザンブロット法、in situハイブリダイゼーション、RT−PCR、配列決定、免疫学的方法(イムノブロッティング、免疫検出(例えば、免疫組織化学によるもの)または蛍光標識抗体で染色後の蛍光検出(例えば、FACSを用いるもの)など)、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ、cDNAマイクロアレイ、膜アレイ、タンパク質マイクロアレイ分析、質量分析など標準的な技術を1つ以上用いて明らかにすることができる。
【0184】
いくつかの実施形態では、標的分子はチャネル、輸送体、受容体または少なくとも一部分が細胞表面に露出しているその他の分子である。いくつかの実施形態では、標的分子は陰イオン輸送体または水チャネル(例えば、アクアポリンタンパク質)である。
【0185】
いくつかの実施形態では、標的分子は、グリコホリン(例えば、グリコホリンA、B、CまたはD)またはバンド3などの少なくとも一部分が赤血球表面に露出しているタンパク質である。
【0186】
いくつかの実施形態では、標的分子は、少なくとも一部分が内皮細胞表面に露出しているタンパク質である。いくつかの実施形態では、標的分子は、通常の健常な血管系の表面に存在する。いくつかの実施形態では、標的分子は、活性化された内皮細胞の表面に存在する。いくつかの実施形態では、標的分子は、活性化された内皮細胞の表面に存在するが、活性化されていない内皮細胞の表面には存在しない。いくつかの実施形態では、標的分子は、傷害または炎症などの刺激により発現または露出が誘発される分子である。いくつかの実施形態では、標的分子が、標的分子を発現する細胞を含む移植片を受けたレシピエントにより「非自己」として認識され得る。いくつかの実施形態では、標的分子は、それに対する抗体がヒトによくみられる炭水化物異種抗原である。いくつかの実施形態では、炭水化物は血液型抗原を含む。いくつかの実施形態では、炭水化物は異種抗原を含む。例えば、アルファ−galエピトープ(Galalpha1−3Galbeta1−(3)4GlcNAc−R)(例えば、Macher BAおよびGalili U.The Galalpha1,3Galbeta1,4GlcNAc−R(alpha−Gal)epitope:a carbohydrate of unique evolution and clinical relevance. Biochim Biophys Acta.1780(2):75−88(2008)を参照されたい。
【0187】
本発明のいくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は標的化部分とCRMをともに含む。
【0188】
いくつかの実施形態では、標的化コンプスタチン類似体は複数の標的化部分を含み、これらは同じものまたは異なるものであり得る。異なる標的化部分は、同じ標的分子とも異なる標的分子とも結合し得る。本発明は、標的化部分、コンプスタチン類似体またはその両方に関して多価である標的化コンプスタチン類似体を提供する。
【0189】
本発明は一般に、コンプスタチン類似体部分と標的化部分とを含む化合物を作製する任意の方法およびそれにより得られる化合物を包含する。いくつかの実施形態では、一般的に第VI節に記載されているものとほぼ同じ方法を用いて標的化コンプスタチン類似体を作製し得るが、ここでは細胞反応性部分の代わりに、あるいは細胞反応性部分に加えて標的化部分を用いる。いくつかの実施形態では、標的化部分としてペプチドを含む標的化コンプスタチン類似体を、コンプスタチン類似体部分とペプチド標的化部分とを含むポリペプチド鎖として合成する。任意選択で、ポリペプチド鎖はコンプスタチン類似体部分と標的化部分との間にスペーサーペプチドを1つ以上含む。
【0190】
いくつかの実施形態では、標的化コンプスタチン類似体は、同じアミノ酸配列(および該当する場合は1つ以上のブロック部分)を有するが標的化部分を含まない対応するコンプスタチン類似体の活性の少なくとも約10%,20%または30%、例えば、30%〜40%、30%〜50%、30%〜60%、30%〜70%、30%〜80%、30%〜90%またはそれ以上のモル活性を有する。標的化コンプスタチン類似体が複数のコンプスタチン類似体部分を含むいくつかの実施形態では、標的化コンプスタチン類似体のモル活性は、前記コンプスタチン類似体部分の活性の合計の少なくとも約10%,20%または30%、例えば、30%〜40%、30%〜50%、30%〜60%、30%〜70%、30%〜80%、30%〜90%またはそれ以上である。
【0191】
VIII.用途
細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体には多種多様な用途がある。決して本発明を限定するものではないが、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体の特定の用途および関連する本発明の態様を本明細書に記載する。いくつかの実施形態では、臓器、組織または細胞への補体介在性の傷害に罹患している対象またはそのリスクのある対象に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を投与する。いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体がex vivoで臓器、組織または細胞と接触し、それと共有結合する。その臓器、組織または細胞が対象内に導入され、レシピエントの補体系によって惹き起こされ得る傷害から保護される。
【0192】
本明細書に記載の目的のために、細胞と共有結合しないコンプスタチン類似体を使用することができる。例えば、体内での化合物の寿命を延ばす部分により修飾したコンプスタチン類似体および/または補体活性化の影響を受けやすい細胞タイプもしくは部位に対してコンプスタチン類似体を標的化する部位を含むコンプスタチン類似体を使用することができ、本発明はこのような用途を包含する。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体を使用する。いくつかの実施形態では、標的化部分を含むコンプスタチン類似体を使用する。いくつかの実施形態では、体内での化合物の寿命を延ばす部分と標的化部分をともに含むコンプスタチン類似体を使用する。以下の考察で細胞反応性コンプスタチン類似体に言及する場合、本発明は、標的化コンプスタチン類似体に関連する類似した組成物および方法ならびに(少なくともコンプスタチン類似体を対象に投与することに関する態様では)細胞反応性コンプスタチン類似体の代わりに、あるいは細胞反応性コンプスタチン類似体に加えて、標的化部分も細胞反応性部分も含まないコンプスタチン類似体、任意選択で長時間作用型コンプスタチン類似体を使用する実施形態を提供する。
【0193】
対象となる特定の用途としては、次のものが挙げられる:(1)発作性夜間ヘモグロビン尿症もしくは非定型溶血性尿毒症症候群などの障害または補体介在性のRBC溶解を特徴とするその他の障害の患者において、補体介在性の傷害から赤血球(RBC)を保護すること;(2)移植された臓器、組織および細胞を補体介在性の傷害から保護すること;(3)(例えば、外傷、血管閉塞、心筋梗塞またはその他のI/R傷害が起こり得る状況にある患者において)虚血/再灌流(I/R)傷害を軽減すること;ならびに(4)様々な異なる補体介在性の障害のいずれかにおいて、補体成分に曝され得る様々な身体構造(例えば、網膜)または膜(例えば、滑膜)を補体介在性の傷害から保護すること。細胞またはその他の身体構造の表面で補体活性化を阻害して得られる有益な効果は、補体介在性の傷害から細胞または構造自体を保護すること(例えば、細胞溶解の防止)により直接もたらされるものに限定されない。例えば、細胞反応性コンプスタチン類似体を用いて補体活性化を阻害すれば、アナフィロトキシンの生成とそれによる好中球の流入/活性化およびその他の炎症誘発事象が軽減し、かつ/または傷害を与える得る細胞内容物の放出が軽減することにより、離れたところにある臓器系または全身に有益な効果がもたらされる可能性がある。
【0194】
A.血液細胞の保護
本発明のいくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体、細胞標的化コンプスタチン類似体および/または非標的化コンプスタチン類似体(例えば、長時間作用型の非標的化コンプスタチン類似体)を用いて、補体介在性の傷害から血液細胞を保護する。血液細胞は血液の任意の細胞成分、例えば赤血球(RBC)、白血球(WBC)および/または血小板であり得る。いくつかの実施形態では、RBCの細胞表面に露出しているグリコホリンまたはバンド3などの標的分子に対して細胞標的化コンプスタチン類似体を標的化する。様々な障害が血液細胞への補体介在性の傷害によるものである。このような障害は、例えば、患者の1つ以上の細胞内CRPまたは可溶性CRPにみられる欠損または欠陥、例えば、(a)このようなタンパク質をコードする遺伝子(1つまたは複数)の突然変異(1つまたは複数);(b)1つ以上のCRPの産生もしくは適切な機能に必要な遺伝子の突然変異(1つまたは複数)および/または(c)1つ以上のCRPに対する自己抗体の存在に起因するこのような欠損または欠陥により生じ得る。補体介在性のRBC溶解は、一連の多様な原因によって生じ得るRBC抗原に対する自己抗体の存在に起因し得る(多くの場合、特発性である)。CRPをコードする遺伝子のこのような変異(1つまたは複数)および/またはCRPに対する抗体もしくは自身のRBCに対する抗体を有する患者では、補体介在性のRBC傷害を伴う障害のリスクが高くなる。障害に特徴的な症状が1回以上発現したことのある患者では再発のリスクが高くなる。
【0195】
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、補体介在性の血管内溶血、ヘモグロビン尿、骨髄不全および血栓形成傾向(血餅を形成する傾向)を特徴とする後天性溶血性貧血を含む、比較的まれな障害である。この障害は世界で100万人に16人が罹患していると推定され、性別および年齢を問わず発症し得るが、若年成人によくみられるものである(Bessler,M.およびHiken,J.,Hematology Am Soc Hematol Educ Program,104−110(2008);Hillmen,P.Hematology Am Soc Hematol Educ Program,116−123(2008))。PNHは急性の溶血により中断される慢性消耗性疾患であり、著しい病的状態をもたらし、平均余命の短い疾患である。患者の多くが貧血のほかにも腹痛、嚥下障害、勃起不全および肺高血圧症を訴え、腎不全および血栓塞栓症のリスクが高くなる。
【0196】
PNHは1800年代に初めて明確な疾患として記載されたが、PNHの溶血の原因が確固として確立されたのは、補体活性化の代替経路が発見された1950年代のことである(Parker CJ.Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:an historical overview.Hematology Am Soc Hematol Educ Program.93−103(2008))。CD55およびCD59は通常、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー(細胞膜に特定のタンパク質を係留する糖脂質構造)を介して細胞膜と結合している。PNHは、GPIアンカーの合成に関与するタンパク質をコードするPIGA遺伝子に体細胞変異を生じた造血幹細胞(1つまたは複数)の非悪性クローン増殖の結果生じるものである(Takeda Jら,Deficiency of the GPI anchor caused by a somatic mutation of the PIG−A gene in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria.Cell.73:703−711(1993))。このような幹細胞の子孫は、CD55およびCD59を含めたGPI係留タンパク質が欠損している。この欠陥により細胞が補体介在性のRBC溶解を受けやすくなる。診断にはGPI係留タンパク質に対する抗体を用いたフローサイトメトリー分析がよく用いられる。この分析法では細胞表面のGPI係留タンパク質の欠損が検出され、欠損の程度および罹患細胞の割合を明らかにすることができる(Brodsky RA.Advances in the diagnosis and therapy of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria.Blood Rev.22(2):65−74(2008))。PNHIII型RBCではGPI結合タンパク質が完全に欠損し、補体に対する感受性が高くなっているのに対し、PNHII型RBCではGPI結合タンパク質の一部が欠損し、補体に対する感受性が比較的低くなっている。FLAERはプロアエロリジン(GPIアンカーと結合する細菌毒素)の不活性なバリアントを蛍光標識したものであり、PNHの診断にフローサイトメトリーとともに用いられることが多くなっている。FLAERと顆粒球の結合が確認されなければPNHと診断される。いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体がC3bの沈着からPNH RBCを保護する。
【0197】
いくつかの実施形態では、非定型溶血症候群(aHUS)に罹患している対象に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を投与する。aHUSは、微小血管症性溶血性貧血、血小板減少症および急性腎不全を特徴とする慢性障害であり、多くは補体制御タンパク質をコードする遺伝子の突然変異による、異常な補体活性化を原因とする(Warwicker,P.ら,Kidney Int 53,836−844(1998);Kavanagh,D.およびGoodship,T.Pediatr Nephrol 25,2431−2442(2010)。補体H因子(CFH)遺伝子の突然変異がaHUS患者に最もよくみられる遺伝子異常であり、この患者の60〜70%が疾患発症後1年以内に死亡するか、末期腎不全に至る(KavanaghおよびGoodship,上記)。ほかにもI因子、B因子、C3、H因子関連タンパク質1〜5およびトロンボモジュリンの突然変異が記載されている。aHUSの他の原因としては、CFHなどの補体制御タンパク質に対する自己抗体が挙げられる。いくつかの実施形態では、I因子、B因子、C3、H因子関連タンパク質1〜5もしくはトロンボモジュリンの変異を有することが確認されている対象または補体制御タンパク質、例えばCFHに対する抗体を有することが確認されている対象に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を対象に投与する。
【0198】
補体介在性の溶血は、RBCと結合して補体介在性の溶血を惹き起こす抗体に関連する自己免疫性溶血性貧血を含めた多様なグループの他の状態にみられる。例えば、原発性慢性寒冷凝集素症ならびに薬物およびその他の外来物質に対するある種の反応にこのような溶血がみられることがある(Berentsen,S.ら,Hematology 12,361−370(2007);Rosse,W.F.,Hillmen,P.およびSchreiber,A.D.Hematology Am Soc Hematol Educ Program,48−62(2004))。本発明のいくつかの実施形態では、慢性 寒冷凝集素症に罹患している、あるいはそのリスクのある対象に細胞反応性コンプスタチン類似体を投与する。別の実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体を用いて、HELLP症候群に罹患している、あるいはそのリスクのある対象を治療し、この疾患は溶血、肝臓酵素の上昇および血小板数の減少がみられることにより定義され、少なくとも一部の患者では補体制御タンパク質(1つまたは複数)の突然変異を原因とするものである(Fakhouri,F.ら,112:4542−4545(2008))。
【0199】
他の実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体を用いて、対象に輸血する血液のRBCまたはその他の細胞成分を保護する。このような用途の特定の例については以下でさらに考察する。上記のように、上に挙げた補体介在性の溶血および/またはRBC傷害を阻害する方法に標的化コンプスタチン類似体および/または長時間作用型コンプスタチン類似体を用いることができる。いくつかの実施形態では、(CH2CH2O)部分を含む長時間作用型コンプスタチン類似体を用いてPNHまたはaHUSを治療する。
【0200】
B.移植
移植は、外傷、疾患またはその他の状態により損傷を受けた臓器および組織を取り換える手段となる治療法であり、その重要性は増しつつある。移植が成功し得る臓器には腎臓、肝臓、肺、膵臓および心臓がある。頻繁に移植が行われる組織としては、骨、軟骨、腱、角膜、皮膚、心臓弁および血管が挙げられる。膵島または島細胞移植は糖尿病、例えばI型糖尿病の有望な治療法である。本発明の目的のために、移植される、移植されている、あるいは既に移植された臓器、組織または細胞(または細胞の集団)を「移植片」と呼ぶことがある。本明細書の目的のために、輸血を「移植片」とみなす。
【0201】
移植では、移植片が、移植片機能不全および潜在的に移植不全の一因となり得る傷害を与える様々な事象および刺激に曝される。例えば、虚血−再灌流(I/R)傷害は、多くの移植片(特に固形臓器)の場合において罹病および死亡のよくみられる重要な原因になっており、移植片生着の可能性の主要な決定因子となり得るものである。移植拒絶反応は、遺伝的に異なる個体間での移植による主要なリスクの1つであり、移植不全を惹き起こし、レシピエントから移植片を除去する必要性をもたらす可能性がある。
【0202】
本発明のいくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体、細胞標的化コンプスタチン類似体および/または長時間作用型コンプスタチン類似体を用いて、補体介在性の傷害から移植片を保護する。細胞反応性コンプスタチン類似体は移植片の細胞と反応してそれに共有結合し、補体活性化を阻害する。細胞標的化コンプスタチン類似体は移植片の標的分子(例えば、移植片の内皮細胞またはその他の細胞により発現されるもの)と結合し、補体活性化を阻害する。標的分子は、例えば、傷害または炎症などの刺激により発現が誘発または刺激される分子、レシピエントにより「非自己」として認識され得る分子、血液型抗原または異種抗原などのそれに対する抗体がヒトによくみられる炭水化物異種抗原、例えばアルファ−galエピトープを含む分子であり得る。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体、例えば細胞反応性コンプスタチン類似体と接触させた移植片の血管へのC4d沈着の平均値が、コンプスタチン類似体と接触させなかった移植片でのC4d沈着レベルの平均値(例えば、移植片および受ける他の治療法が一致する対象のもの)と比較して減少していることにより、補体活性化の減少が示され得る。
【0203】
本発明の様々な実施形態において、移植前、移植時および/または移植後に移植片に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を接触させることができる。例えば、移植前に、ドナーから取り出した移植片に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む液体を接触させることができる。例えば、移植片をその溶液に浸漬し、かつ/または移植片にその溶液を灌流することができる。別の実施形態では、移植片と取り出す前に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体をドナーに投与する。いくつかの実施形態では、移植片の導入時および/または導入後に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体をレシピエントに投与する。いくつかの実施形態では、移植された移植片に細胞反応性コンプスタチン、長時間作用型または標的化類似体を局所送達する。いくつかの実施形態では、例えば静脈内投与により、細胞反応性コンプスタチン類似体を全身投与する。
【0204】
本発明は、単離移植片(a)と、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体(b)とを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は、ドナーから取り出され、レシピエントへの移植を待機中の単離移植片などの移植片(例えば、臓器)に接触させるのに適した(例えば、すすぎ、洗浄、浸漬、灌流、維持または保管に適した)溶液をさらに含む。いくつかの実施形態では、本発明は、移植片(例えば、臓器)に接触させるのに適した溶液(a)と、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体(b)とを含む組成物を提供する。溶液は、移植片に生理的に許容され(例えば、適切な浸透圧組成であり、非細胞毒性である)、かつのちに移植片をレシピエントに導入するという点で医学的に許容され(例えば、好ましくは無菌である、あるいは少なくとも妥当な程度に微生物またはその他の汚染物を含まない)、かつ細胞反応性コンプスタチン類似体と適合性がある(すなわち、コンプスタチン類似体の反応性を損なわない)あるいは長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体と適合性がある、任意の溶液であり得る。いくつかの実施形態では、溶液は、任意のこのような目的のための当該技術分野で公知の任意の溶液である。いくつかの実施形態では、溶液はMarshallの溶液または高浸透圧クエン酸溶液(Soltran(登録商標)、Baxter Healthcare社)、ウィスコンシン大学(UW)溶液(ViaSpan(商標)、Bristol Myers Squibb社)、ヒスチジン−トリプトファン−ケトグルタル酸(HTK)溶液(Custodial(登録商標)、Kohler Medical Limited社)、EuroCollins(Fresenius社)およびCelsior(登録商標)(Sangstat Medical社)、Polysol、IGL−1またはAQIX(登録商標) RS−1である。当然のことながら、生理的に許容される組成物の範囲内で他の溶液、例えば、同じまたはほぼ同じ成分を同じまたは異なる濃度で含有する溶液を使用することも可能である。いくつかの実施形態では、溶液は、細胞反応性コンプスタチン類似体が著しい反応を生じることが予想される成分(1つまたは複数)を含有せず、またいずれかの溶液も、このような成分を含まないよう改変または設計することができる。いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体は、移植片に適合性のある溶液中に、例えば0.01mg/ml〜100mg/mlの濃度で存在するか、あるいはこのような濃度になるまでこの溶液に加えてもよい。
【0205】
いくつかの実施形態では、本発明は、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体(a)と、移植片に適合性のある溶液またはその固体(例えば、粉末)成分(b)とを含むキットを提供する。細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体は、固体の形態(例えば、粉末)で提供しても、あるいは少なくとも部分的に溶液に溶解させて提供してもよい。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体および/または移植片に適合性のある溶液を組み合わせると、移植片に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を接触させるのに適した濃度の溶液が得られるよう、これらを所定量で提供する。多くの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体および移植片に適合性のある溶液またはその固体(例えば、粉末)成分がキット内で個別の容器に収納されている。いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体と移植片に適合性のある溶液の成分がともに、個別の容器に収納されて、あるいは混合されて、固体(例えば、粉末)の形態で提供される。いくつかの実施形態では、キットは、使用上の指示、例えば、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を移植片に適合性のある溶液に加えるための指示および/または移植片に細胞反応性コンプスタチン類似体を接触させるための指示を含む。任意選択で、キットは、移植、細胞療法および/または輸血で使用する製品の規制に関わる政府機関により承認を受けたラベルを含む。
【0206】
本発明はさらに、単離移植片に細胞反応性コンプスタチン類似体を接触させることを含む、コンプスタチン類似体と単離移植片とを共有結合させる方法を提供する。本発明はさらに、コンプスタチン類似体が共有結合した単離移植片を提供する。単離移植片には通常、コンプスタチン類似体分子が多数結合している。いくつかの実施形態では、移植片は腎臓、肝臓、肺、膵臓または心臓などの固形臓器であるか、あるいはこれを含むものである。いくつかの実施形態では、移植片は骨、軟骨、筋膜、腱、靭帯、角膜、強膜、心膜、皮膚、心臓弁、血管、羊膜または硬膜であるか、あるいはこれを含むものである。いくつかの実施形態では、移植片は心肺または膵腎移植片などの多臓器を含む。いくつかの実施形態では、移植片は、臓器または組織全体に満たないものを含む。例えば、移植片は臓器または組織の一部分、例えば、肝葉、血管の一部、皮弁または心臓弁を含み得る。いくつかの実施形態では、移植片は、元の組織から単離されているが組織構造の少なくとも一部を保持する単離細胞または単離組織片、例えば膵島を含む調製物を含む。いくつかの実施形態では、調製物は、結合組織を介して互いに結合していない単離細胞、例えば、末梢血および/または臍帯血または全血に由来する造血幹細胞または前駆細胞あるいは赤血球(RBC)または血小板などの任意の細胞含有血液製剤を含む。いくつかの実施形態では、死亡したドナー(例えば、「脳死後に提供する」(DBD)ドナーまたは「心臓死後に提供する」ドナー)から移植片を得る。いくつかの実施形態では、移植片の特定のタイプに応じて、生存しているドナーから移植片を得る。ドナーに過度のリスクを負わせず、正当な医療行為を逸脱せずに生存しているドナーから入手できることが多い移植片のタイプには、例えば腎臓、肝臓の一部、血液細胞がある。
【0207】
いくつかの実施形態では、移植は異種移植である(すなわち、ドナーとレシピエントの種が異なっている)。いくつかの実施形態では、移植は自家移植(すなわち、同一個体内で体の一部分から別の部分へ移植すること)である。いくつかの実施形態では、移植は同系移植である(すなわち、ドナーとレシピエントが遺伝的に一致する)。ほとんどの実施形態では、移植は同種移植である(すなわち、ドナーとレシピエントが同じ種に属するが遺伝的に異なる)。同種移植の場合、ドナーとレシピエントは遺伝的に関係がある(例えば、家族の一員同士である)者であっても、そうでなくてもよい。通常、ドナーとレシピエントは血液型が適合する(少なくともABO適合性があり、任意選択でRh、Kellおよび/またはその他の血液細胞抗原で適合性がある)。同種抗体が存在すると超急性拒絶反応(すなわち、移植片がレシピエントの血液と接触するのとほぼ同時に、例えば数分以内に始まる拒絶反応)が生じる可能性があるため、レシピエントの血液は、移植片および/またはレシピエントとドナーに対する同種抗体に関してスクリーニングされたものであり得る。補体依存性細胞傷害(CDC)試験を用いて、対象の血清の抗HLA抗体をスクリーニングすることができる。血清を一群の既知のHLA表現型のリンパ球とインキュベートする。血清中に標的細胞上のHLA分子に対する抗体が含まれていれば、補体介在性の溶解による細胞死がみられる。選択された一群の標的細胞を用いれば、検出された抗体に対する特異性を決定することが可能である。抗HLA抗体の有無を判定し、任意選択でそのHLA特異性を決定するのに有用なその他の技術としては、ELISAアッセイ、フローサイトメトリーアッセイ、マイクロビーズアレイ技術(例えば、Luminex技術)が挙げられる。ここに挙げたアッセイを実施するための方法論はよく知られており、それを実施するためのキットが各種市販されている。
【0208】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体が補体介在性の拒絶反応を抑制する。例えば、いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体が超急性拒絶反応を抑制する。超急性拒絶反応は少なくとも部分的には、古典経路を介したレシピエント補体系の抗体媒介性の活性化とそれにより生じる移植片へのMAC沈着によって惹き起こされる。超急性拒絶反応は通常、移植片と反応する既存の抗体がレシピエントに存在することに起因する。移植前の十分なマッチングにより超急性拒絶反応を回避するよう努めるのが望ましいが、例えば時間および/または供給源の制約により、常にそれを実施できるとは限らない。さらに、一部のレシピエント(例えば、輸血を何回か受けた患者、これまでに移植を受けたことがある患者、何度か妊娠したことのある女性)では、通常は試験対象にならない抗原に対する抗体を含む可能性の予め形成された抗体を多数もつため、時宜に即し適合する移植片を確信をもって入手することが困難であるか、あるいはほぼ不可能な場合がある。このような患者では超急性拒絶反応のリスクが高くなる。
【0209】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体が急性拒絶反応または移植不全を抑制する。本明細書で使用される「急性拒絶反応」は、移植後少なくとも24時間、通常少なくとも数日から1週間の間、最大で移植の6か月後に生じる拒絶反応を指す。急性の抗体媒介性拒絶反応(AMR)では、移植後最初の数週間にドナー特異的同種抗体(DSA)の急激な増加がみられることが多い。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、既存の形質細胞および/また記憶B細胞から新たに変換された形質細胞がDSAの産生増大に何らかの役割を演じている可能性が考えられる。このような抗体により移植片に補体介在性の傷害が生じ得るが、移植片に細胞反応性コンプスタチン類似体を接触させることによりこれが阻害され得る。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、移植片での補体活性化を阻害することにより、急性移植不全の別の原因である白血球(例えば、好中球)浸潤が低減され得る。
【0210】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体が移植片に対する補体介在性のI/R傷害を阻害する。以下さらに考察するように、I/R傷害は、移植臓器にみられるように、血液供給が一時的に妨げられた組織の再灌流の際に生じ得る。I/R傷害の軽減が急性移植片機能不全の可能性を低下させ、あるいはその重症度を低下させ、急性移植不全の可能性を低下させ得る。
【0211】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体が慢性拒絶反応および/または慢性移植不全を抑制する。本明細書で使用される「慢性拒絶反応または慢性移植不全」は、移植後少なくとも6か月後、例えば、移植後6か月から1年、2年、3年、4年、5年またはそれ以上で、多くの場合、移植片が数か月から数年間正常に機能した後に生じる拒絶反応または不全を指す。これは移植片に対する慢性の炎症性免疫応答によるものである。本明細書の目的のために、慢性拒絶反応には、移植組織の内部血管の線維症を指すのに用いられる用語である慢性同種移植血管症が含まれ得る。免疫抑制療法により急性拒絶反応の発現率が低下しているため、慢性拒絶反応が移植片機能不全および移植不全の原因として一層目立つようになっている。B細胞の同種抗体産生が慢性拒絶反応および慢性移植不全の発生における重要な要素であるという証拠がある(Kwun J.およびKnechtle SJ,Transplantation,88(8):955−61(2009))。移植片に対する初期の傷害が、最終的に慢性拒絶反応を来たし得る線維症などの慢性過程をもたらす要因となり得る。したがって、細胞反応性コンプスタチン類似体を用いてこのような初期の傷害を抑制することにより、慢性移植片拒絶反応の発現を遅らせ、かつ/または慢性移植片拒絶反応の可能性もしくは重症度を低下させ得る。
【0212】
いくつかの実施形態では、移植片のレシピエントに長時間作用型コンプスタチン類似体を投与して、移植片拒絶反応および/または移植不全を抑制する。
【0213】
C.虚血/再灌流傷害
虚血−再灌流(I/R)傷害は、外傷後および心筋梗塞、脳卒中、重症感染症、血管疾患、動脈瘤修復、心肺バイパス術および移植など一時的な血流途絶を伴う他の状態における組織傷害の重要な原因である。
【0214】
外傷の場合、挫傷、コンパートメント症候群および血管損傷による全身低酸素血症、低血圧症および局所的な血液供給の遮断が、代謝の活発な組織に損傷を与える虚血を惹き起こす。血液供給の回復が、虚血自体よりも有害なことが多い強い全身炎症性反応を誘発する。虚血部位に再灌流が生じると、局所的に産生され放出された因子が循環系に入って離れた位置にある部位に到達し、場合によっては、元の虚血性損傷を受けることのない肺および腸などの臓器に重大な傷害を惹き起こし、単一臓器および多臓器の機能不全を来たす。補体活性化は再灌流直後に発生し、直接的に、またその好中球に対する走化性および刺激性作用を介して、虚血後傷害の重要なメディエーターとなる。主要な補体経路は3種類とも活性化されて協同的にあるいは独立して作用し、多数の臓器系に影響を及ぼすI/R関連の有害事象に関与する。本発明のいくつかの実施形態では、最近(例えば、過去2時間、4時間、8時間、12時間、24時間または48時間以内)に外傷、例えば、全身低酸素血症、低血圧症および/または局所的な血液供給の遮断などにより対象にI/R傷害のリスクが生じる外傷を受けた対象に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を投与する。いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体を血管内に、任意選択で、受傷した身体部位に供給されている血管内に、あるいは直接その身体部位に投与する。いくつかの実施形態では、対象は脊髄損傷、外傷性脳損傷、熱傷および/または出血性ショックの患者である。
【0215】
いくつかの実施形態では、外科的処置、例えば、組織、臓器または体の一部への血流を一時的に遮断すると予想される外科的処置の実施前、実施時または実施後に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を対象に投与する。このような処置の例としては、心肺バイパス術、血管形成術、心臓弁修復術/置換術、動脈瘤修復術またはその他の血管外科術が挙げられる。外科的処置と重なる時間の前、後および/またはその時間中に細胞反応性コンプスタチン類似体を投与し得る。
【0216】
いくつかの実施形態では、MI、血栓塞栓性卒中、深部静脈血栓症または肺塞栓症に罹患している対象に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を投与する。細胞反応性コンプスタチン類似体を組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)(例えば、アルテプラーゼ(Activase)、レテプラーゼ(Retavase)、テネクテプラーゼ(TNKase))、アニストレプラーゼ(Eminase)、ストレプトキナーゼ(Kabikinase、Streptase)またはウロキナーゼ(Abbokinase)などの血栓溶解剤と併用投与してもよい。血栓溶解剤と重なる時間の前、後および/またはその時間中に細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を投与し得る。
【0217】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を対象に投与してI/R傷害を治療する。
【0218】
D.その他の補体介在性の障害
いくつかの実施形態では、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、緑内障またはブドウ膜炎などの眼障害を治療するために細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を眼内に導入する。例えば、AMDに罹患している、あるいはAMDのリスクのある対象を治療するために細胞反応性コンプスタチン類似体を(例えば、硝子体内注射により)硝子体腔内に導入する。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を前眼房内に導入して、例えば前部ブドウ膜炎を治療する。
【0219】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、自己免疫疾患、例えば少なくとも部分的には1つ以上の自己抗原に対する抗体により媒介される自己免疫疾患に罹患している、あるいは自己免疫疾患のリスクのある対象を治療する。
【0220】
細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を、例えば、関節炎(例えば、関節リウマチ)に罹患している対象の滑液腔内に導入し得る。当然のことながら、これらをさらに全身に投与してもよい。
【0221】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、脳内出血に罹患している、あるいは脳内出血のリスクのある対象を治療する。
【0222】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、重症筋無力症に罹患している、あるいは重症筋無力症のリスクのある対象を治療する。
【0223】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、視神経脊髄炎(NMO)に罹患している、あるいは視神経脊髄炎のリスクのある対象を治療する。
【0224】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、膜性増殖性糸球体炎(MPGN)、例えば、I型MPGN、II型MPGNまたはIII型MPGHに罹患している、あるいは膜性増殖性糸球体炎のリスクのある対象を治療する。
【0225】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、神経変性疾患に罹患している、あるいは神経変性疾患のリスクのある対象を治療する。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、神経障害性疼痛に罹患している、あるいは神経障害性疼痛を発症するリスクのある対象を治療する。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、鼻副鼻腔炎または鼻ポリープに罹患している、あるいは鼻副鼻腔炎または鼻ポリープのリスクのある対象を治療する。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、癌に罹患している、あるいは癌のリスクのある対象を治療する。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、敗血症に罹患している、あるいは敗血症のリスクのある対象を治療する。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、成人呼吸窮迫症候群に罹患している、あるいは成人呼吸窮迫症候群のリスクのある対象を治療する。
【0226】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、アナフィラキシー反応または注入反応のある、あるいはアナフィラキシーまたは注入反応のリスクのある対象を治療する。例えば、いくつかの実施形態では、アナフィラキシーまたは注入反応を惹き起こし得る薬物または溶媒の投与前、投与時または投与後に対象に前処置を実施してもよい。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体により、食物(例えば、ピーナッツ、甲殻類またはその他の食物アレルゲン)、昆虫刺傷(例えば、ミツバチ、スズメバチ)によるアナフィラキシーのリスクのある、あるいはアナフィラキシーを起こしている対象を治療する。
【0227】
本発明の様々な実施形態において、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を局所投与しても、全身投与してもよい。
【0228】
いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、呼吸器疾患、例えば、喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)を治療する。様々な実施形態において、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を、例えば、乾燥粉末として、あるいは噴霧による吸入により気道に投与してもよく、あるいは注射により、例えば静脈内に投与してもよい。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を用いて、重症の喘息、例えば、気管支拡張剤および/または吸入副腎皮質ステロイド剤によっても十分に抑制されない喘息を治療する。
【0229】
IX.組成物および投与
本発明は、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む各種組成物を提供する。組成物は様々な実施形態において、互いに排他的でない限り、本明細書で考察されている任意の特徴または特徴の組合せを有し得る。本発明は、コンプスタチン類似体を任意のコンプスタチン類似体とするこのような組成物およびその使用方法の実施形態を提供する。
【0230】
いくつかの実施形態では、組成物は精製された細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む。精製は、精製前の組成物中に存在する様々な成分について所望の純度が得られるよう当業者が選択可能な様々な方法を用いて実施することができる。例えば、ろ過、高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーおよび/またはその他の方法ならびにこれらの組合せを用いることができる。いくつかの実施形態では、組成物は、重量による総コンプスタチン類似体の百分率で少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、モル基準での総コンプスタチン類似体の百分率で少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、組成物は細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体からなるか、あるいは実質的にこれよりなるものである。
【0231】
いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体と、細胞反応性官能基を含む化合物とを含む組成物は、細胞反応性コンプスタチン類似体と細胞反応性官能基を含む化合物との比が、モルベースで少なくとも10:1、20:1、50:1、100:1、500:1、1,000:1またはそれ以上であることを特徴とする。いくつかの実施形態では、組成物は、重量による総コンプスタチン類似体の百分率で少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の細胞反応性コンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくともモルベースの総コンプスタチン類似体の百分率で80%、85%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の細胞反応性コンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、98重量%、99重量%またそれ以上の細胞反応性コンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、98重量%、99重量%またはそれ以上の長時間作用型コンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、98重量%、99重量%またはそれ以上の標的化コンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、98重量%、99重量%またはそれ以上の標的化コンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、重量は乾燥重量である。
【0232】
いくつかの態様では、本発明は、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む医薬品等級の組成物を提供する。医薬品等級の組成物は、様々な実施形態において、純度の点で上に挙げたいずれかの特徴を有し得る。医薬品等級の組成物は、それ以上精製せず、ヒト対象への投与またはヒト対象に投与する医薬組成物の製造に適した医薬組成物として許容される程度に内毒素、重金属ならびに未確認のおよび/または特徴不明の物質を含まないものである。いくつかの実施形態では、医薬品等級の組成物は無菌である。
【0233】
適切な調製物、例えば、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体またはその他の活性物質の実質的に純粋な調製物と、薬学的に許容される担体または溶媒などとを組み合わせて、しかるべき医薬組成物を作製し得る。「薬学的に許容される担体または溶媒」という用語は、一緒に製剤化する化合物の薬理活性を打ち消さない非毒性の担体または溶媒を指す。担体または溶媒が、過度の中毒を惹き起こすことなく化合物を送達するのに適した量において対象への投与に適合する場合、その担体または溶媒は「非毒性」であることを当業者は理解するであろう。本発明の組成物で使用し得る薬学的に許容される担体または溶媒としては、特に限定されないが、水、生理食塩水、リンガー液、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウム溶液、5%ブドウ糖などが挙げられる。組成物は、例えば本明細書で考察しているように、所望の製剤に適した他の成分を含み得る。このほか補助的な活性化合物、例えば、補体介在性の障害に罹患している対象を治療するのに独立して有用な化合物を組成物に組み込んでもよい。本発明は、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体と、任意選択で、補体介在性の障害に罹患している対象を治療するのに有用な第二の活性物質とを含む、このような医薬組成物を提供する。
【0234】
いくつかの実施形態では、本発明は、医薬品の規制に関わる政府機関、例えば米国食品医薬品局により認可を受けたラベルとともに包装された、ヒトへの投与に適した薬学的に許容される組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、固体形態の薬学的に許容される細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体(a)と、薬学的に許容される担体または溶媒(b)とを含む、医薬品キットまたは医薬品パックを提供する。任意選択で、キットまたはパックは細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を担体に溶解するための指示書を含む。いくつかの実施形態では、医薬品キットまたは医薬品パックが提供される。パックまたはキットは、少なくとも1用量、例えば1〜200用量またはその間にある任意の数もしくは部分範囲の用量に十分な量の医薬組成物を含む。いくつかの実施形態では、医薬品パックまたは医薬品キットは、1つ以上の針および任意選択で1つ以上のシリンジを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの充填済みのシリンジが提供される。いくつかの実施形態では、1つ以上の単位投与剤形または計量済みのアリコートが提供される。いくつかの実施形態では、投与のための指示書であって、いくつかの実施形態では自己投与のための指示書を含む指示書が提供される。
【0235】
医薬組成物は、特に限定されないが、静脈内、筋肉内、皮下、吸入、経鼻送達、髄腔内、頭蓋内、動脈内、経口、直腸内、経皮、皮内、皮下などの経路を含めた任意の適切な投与経路により、対象に投与することができる。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む組成物を静脈内に投与する。いくつかの実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む組成物を動脈内に投与する。組成物は、臓器または組織に供給されている脈管系内に、あるいは臓器または組織付近の血管外に局所的に投与することができる。「投与」は、対象に化合物または組成物を直接投与すること、対象に化合物または組成物を投与するよう第三者に指示すること、(例えば、自己投与のために)対象に化合物または組成物を処方するまたは提案すること、自己投与および必要に応じて、対象に利用可能な化合物または組成物を作製する他の手段を包含することが理解されよう。
【0236】
注射での使用(例えば、静脈内投与)またはポンプもしくはカテーテルによる使用に適した医薬組成物は通常、無菌注射用液剤または無菌注射用分散剤の即時調製のための無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液と無菌粉末とを含む。無菌溶液は、必要量の化合物をしかるべき溶媒に組み込み、任意選択で、フィルターによる滅菌後に1つの成分または成分の組合せ、例えば、酢酸塩、クエン酸、乳酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤;張性を調節する塩化ナトリウムまたはブドウ糖などの物質;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸、グルタチオンまたは亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;およびその他の適切な成分などを必要に応じて一緒に組み込むことにより調製することができる。当業者には、医薬組成物中に含まれ得る生理的に許容される化合物が多数認識されよう。その他の有用な化合物としては、例えば、グルコース、スクロース、ラクトースなどの炭水化物;デキストラン;グリシンなどのアミノ酸;マンニトールなどのポリオールが挙げられる。上に挙げた化合物は、例えば、粉末中で、および/または製造もしくは保管の工程に凍結乾燥が含まれる場合に、例えば増量剤および/または安定化剤として働き得る。Tween−80、プルロニック−F108/F68、デオキシコール酸、ホスファチジルコリンなどの界面活性剤(1つまたは複数)を組成物中に含ませて、例えば、溶解性を増大させる、あるいは疎水性薬物を送達するマイクロエマルション剤を得ることができる。必要に応じて、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基によりpHを調整することができる。非経口製剤は、アンプル、使い捨てのシリンジもしくは注入バッグまたはガラス製もしくはプラスチック製の複数回用量バイアルに封入することができる。注射用の液剤は無菌で、毒素を許容される程度に含まないことが好ましい。
【0237】
分散液剤は一般に、基礎となる分散媒と、上に挙げた他の成分のうち適切なものとを含有する無菌溶媒に、活性化合物を組み込むことにより調製される。無菌注射用液剤の調製のための無菌粉末の場合、調製方法は、有効成分と、例えば予め滅菌ろ過されたその溶液に由来する、任意の他の所望の成分との粉末が得られる、真空乾燥および凍結乾燥を含み得る。
【0238】
特定の実施形態では、経口投与を用い得る。一般に経口組成物は不活性希釈剤または食用担体を含む。経口治療投与の目的には、活性化合物を賦形剤と組み合わせて錠剤、トローチ剤またはカプセル剤、例えばゼラチンカプセル剤の形態で使用し得る。組成物の一部として、薬学的に適合する結合剤および/または補助剤が含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、次に挙げるいずれかの成分またはこれとほぼ同じ性質の化合物を含有し得る:微結晶性セルロース、トラガントゴムもしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、Primogelもしくはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはSteroteなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの滑剤;スクロースもしくはサッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチルもしくはオレンジ香味料などのまたは香味剤。ほかにも液体組成物を経口投与することができる。経口送達用の製剤に消化管内での安定性を向上させる物質および/または吸収を促進する物質を組み込んでもよい。
【0239】
吸入による投与では、適切な噴射剤、例えば二酸化炭素などのガスを含む加圧容器またはディスペンサによるエアロゾルスプレーの形態で、コンプスタチン類似体を送達し得る。用量が計量される吸入器または噴霧器を使用し得る。エアロゾルは、液体粒子または乾燥エアロゾル(例えば、乾燥粉末、大粒径の多孔性粒子など)を含み得る。
【0240】
局所適用では、コンプスタチン類似体を、1種類以上の担体に懸濁または溶解させた有効成分を含有する適切な軟膏に製剤化し得る。局所投与用の担体としては、特に限定されないが、鉱油、液体ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ロウおよび水が挙げられる。あるいは、薬学的に許容される組成物を、1種類以上の薬学的に許容される担体に懸濁または溶解させたコンプスタチン類似体を含有する適切なローションまたはクリームとして製剤化してもよい。適切な担体としては、特に限定されないが、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水が挙げられる。
【0241】
全身投与はほかにも、経粘膜的手段または経皮的手段によるものであってもよい。経粘膜投与または経皮投与では、バリアを通過させるのに適した浸透剤を製剤に使用し得る。このような浸透剤は一般に、当該技術分野で公知であり、例えば経粘膜的投与用に界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体が挙げられる。例えば、鼻噴霧剤または坐剤の使用により経粘膜投与を実施することができる。経皮投与では、活性化合物を通常、一般に当該技術分野で公知のように軟膏剤、塗布剤、ゲル剤またはクリーム剤に製剤化する。
【0242】
このほか、化合物を直腸送達用の坐剤(例えば、カカオ脂およびその他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を用いたもの)または停留浣腸の形態に調製してもよい。
【0243】
本発明の特定の実施形態では、例えばインプラントおよびマイクロカプセル送達システムを含めた徐放製剤などのように、体内からの迅速な除去から化合物を保護する担体とともにコンプスタチン類似体またはその他の活性化合物を調製する。例えば、コンプスタチン類似体を微粒子製剤またはナノ粒子製剤中に組み込むか、あるいは微粒子製剤またはナノ粒子製剤中に封入し得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリエーテル、ポリ乳酸、PLGAなどの生分解性生体適合性ポリマーを使用することができる。リポソームまたはその他の脂質ベースの粒子を薬学的に許容される担体として使用することができる。ここに挙げたものは当業者に公知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号および/または同明細書中に挙げられている他の参考文献に記載されている方法に従って調製することができる。コンプスタチン類似体を含有するデポ製剤を用いてもよい。コンプスタチン類似体は、治療濃度が化合物を静脈内投与した場合よりも長時間得られるように、デポ剤から徐々に放出される。当業者は、徐放製剤、インプラントなどの調製に選択される材料および方法が、化合物の活性を保持するものであるべきであることを理解するであろう。
【0244】
コンプスタチン類似体および/または追加の活性物質(1つまたは複数)が薬学的に許容される塩として提供され得ることが理解されよう。薬学的に許容される塩としては、薬学的に許容される無機および有機の酸および塩基から得られるものが挙げられる。適切な酸性塩の例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、硫酸水素塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パルモ酸塩(palmoate)、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩およびウンデカン酸塩が挙げられる。このほか、活性物質の性質によっては必要に応じて、薬学的に許容される塩をナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩から調製することができる。
【0245】
本明細書に挙げられている薬学的に許容される担体、化合物および調製方法は例示的なものであり、非限定的なものであることが理解されよう。薬学的に許容される化合物および様々なタイプの医薬組成物の調製方法に関するさらなる記述については、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy.第21版.Philadelphia,PA.Lippincott Williams & Wilkins,2005を参照されたい。
【0246】
医薬組成物を所望の有益な効果を得るのに有効な量で投与することができる。いくつかの実施形態では、有効量とは、次に挙げる利益の1つ以上を得るのに十分な量のことである:
【0247】
本発明の特定の実施形態では、細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を含む医薬組成物を非経口的に投与する。いくつかの実施形態では、組成物を静脈内に投与する。いくつかの実施形態では、組成物を静脈内注射により投与する。いくつかの実施形態では、組成物をIVボーラスまたはIV注入として投与する。いくつかの実施形態では、組成物をIV点滴として投与する。いくつかの実施形態では、組成物をIVボーラスとして、次いでIV注入またはIV点滴として投与する。いくつかの実施形態では、IV注入を約1分,2分,3分,4分,5分,15分,20分,30分,60分または120分間にわたり実施する。いくつかの実施形態では、IV点滴を約60分以上、例えば、約1時間、2時間、3時間またはそれ以上にわたり実施する。いくつかの実施形態では、計約0.1mg/(kg・日)〜約2,000mg/(kg・日)、例えば約1mg/(kg・日)〜約1,000mg/(kg・日)、例えば約5mg/(kg・日)〜約500mg/(kg・日)の量のコンプスタチン類似体を投与する。いくつかの実施形態では、計約10mg/(kg・日)〜約100mg/(kg・日)、例えば約10mg/(kg・日)〜約50mg/(kg・日)、例えば約10mg/(kg・日)〜約20mg/(kg・日)の量のコンプスタチン類似体を投与する。様々な異なる投与レジメンを用いて所望の合計1日量を投与し得ることが理解されよう。例えば、24時間に1回の投与または複数回の投与で所望の量のコンプスタチン類似体を投与し得る。例えば、24時間以内に2用量以上を対象に投与することが可能であり、それぞれの用量を同じ長さの時間にわたり投与することも、異なる長さの時間にわたり投与することも可能である。いくつかの実施形態では、24時間を超える間隔で細胞反応性、長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体を投与する。例えば、様々な実施形態において、平均して隔日、3〜4日毎、毎週、隔週などで投与することができる。いくつかの実施形態では、共有結合した長時間作用型または標的化コンプスタチン類似体が、数週間または数か月間、再治療を必要とせずに細胞、組織、器官を保護する。例えば、1〜2週間、2〜4週間、4〜6週間、6〜8週間またはそれ以上長い間隔の再治療で対象を維持し得る。いくつかの実施形態では、皮下投与を用いて少なくとも一部の用量を投与する。例えば、いくつかの実施形態では、例えば、約0.25ml〜2mLの体積、例えば約1mlの体積で約0.1〜5mg/(kg・日)、例えば約0.5〜2mg/(kg・日)の投与が企図される。いくつかの実施形態では、濃度は約50mg/ml〜約300mg/ml、例えば、約50mg/ml〜約100mg/mlまたは約100mg/ml〜約200mg/mlである。いくつかの実施形態では、投与を毎日実施する。いくつかの実施形態では、ほぼ同じ量の化合物を送達するのに筋肉内投与を用いる。これより高い頻度で治療を実施し、かつ/またはこれより高い用量を投与する初期治療段階が存在し得ることが理解されよう。例えば、PNHまたはaHUSの対象では、対象の多くの割合のRBCを保護するのに複数回の投与が必要となる。こののち、これより低い用量および/または低い頻度の投与を用いて、例えば、新たに形成されたRBCを保護し、かつ/または既存のRBCの保護を補充する。当然のことながら、必要に応じて、ほぼ同じ方法に従って任意の疾患の治療を実施することができる。いくつかの実施形態では、IV投与を用いて治療を開始したのち、維持療法として皮下投与、筋肉内投与または真皮内投与に切り替える。疾患に応じて、治療を例えば、数か月、数年の間隔で、あるいは無期限に継続してもよい。適切な用量および投与レジメンは、少なくとも部分的にはコンプスタチン類似体(またはその他の活性物質)の効力および半減期によって決まるが、任意選択で、例えば、補体阻害および/または細胞保護の所望の程度などの予め選択された所望の応答が得られるまで用量を漸増させて投与することにより、特定のレシピエントに合わせて調整することができる。必要に応じて、特定の任意の対象に対する具体的な用量レベルを少なくとも部分的には、使用する具体的な化合物の活性、治療する特定の状態、年齢、体重、全般的健康状態、投与経路、排泄速度、任意の薬物の組合せおよび/または対象から得られた1つ以上の試料で測定される補体タンパク質の発現もしくは活性の程度を含めた様々な因子に基づいて選択することができる。
【0248】
本発明は、追加の治療法と併用したコンプスタチン類似体の投与を包含する。このような追加の治療法は、当該技術分野で使用されている、あるいは疾患に罹患している対象の治療に有用であると考えられる任意の薬剤(1つまたは複数)の投与を含み得る。
【0249】
2種類以上の治療法(例えば、化合物または組成物)を互いに「併用して」用いる、あるいは投与する場合、これらの治療法は本発明の様々な実施形態において、重なる時間内に同時に実施しても、逐次的に(例えば、最大2週間の時間をあけて)実施してもよい。これらを同じ経路で投与しても、異なる経路で投与してもよい。いくつかの実施形態では、化合物または組成物を互い48時間以内に投与する。いくつかの実施形態では、追加の化合物(1つまたは複数)を投与する前または後に、例えば、コンプスタチン類似体と追加の化合物(1つまたは複数)が少なくとも1回は有効なレベルで体内に存在する程度の近い時間でコンプスタチン類似体を投与することができる。いくつかの実施形態では、第二の化合物または組成物が投与される時点で、その前に投与された組成物の90%以下が代謝されて不活性な代謝産物になっている、あるいは体内から除去されている、例えば排泄されている程度の近い時間で、化合物または組成物を投与する。
【0250】
いくつかの実施形態では、細胞反応性コンプスタチン類似体と追加の化合物(1つまたは複数)をともに含む組成物を投与する。
【実施例】
【0251】
実施例1:実質的な補体阻害活性を保持するペグ化コンプスタチン類似体の開発
配列番号28のコンプスタチン類似体のアミノ酸配列を有するが、のちにNHSエステルにより活性化されたPEGをLys側鎖のアミノ基にコンジュゲートすることを目的に、配列番号28のThr残基のC末端側にAEEAc−Lys部分が組み込まれたコンプスタチン類似体。この化合物を標準的な方法を用いて合成した。簡潔に述べれば、各アミノ酸のα−アミノ基がFmocで保護されたFmoc保護アミノ酸としてアミノ酸(AEEAcを含む)を得た。側鎖官能基も種々のしかるべき保護基でブロックした。Merrifield(J.Amer.Chem.Soc.85,2149(1963))により記載されている固相法に従って合成を行った。固相上で鎖の組立てを行い、その結果N末端がアセチル化された。次いで、ペプチドを固相から切断し、同時にTFAおよびアミド化を用いた酸加水分解により脱保護した。次いで、直鎖状のペプチドを酸化し精製した。得られたコンプスタチン類似体は
Ac−Ile−Cys
*−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−AEEAc−Lys−
NH2(配列番号51)で表され、CA28−AEEAc−Lysと略記される。簡潔にするため、この略記ではN末端アセチル基とC末端アミノ基が省略されていることに留意されたい。NHSエステルにより活性化され、分子量が30kDおよび40kDの単官能性、直鎖状のPEG(NOF America社、White Plains、NY、カタログ番号SUNBRIGHT(登録商標)ME−400GS)をそれぞれCA28−AEEAc−Lysのリジン側鎖に結合させ、CA28−AEEAc−Lys−(PEG30k)およびCA28−AEEAc−Lys−(PEG40k)で表される長時間作用型コンプスタチン類似体を得、これを精製した。「PEG」の語の後ろ、「k」の文字の前に書かれている数字はPEG部分のキロダルトンでの分子量を表し、「k」はkDの略記であることに留意されたい。CA28−AEEAc−Lys−(PEG30k)はCA28−1とも呼ばれる。CA28−AEEAc−Lys−(PEG40k)はCA28−2とも呼ばれる。
【0252】
標準的な補体阻害アッセイを用いて、古典経路を介した補体活性化に対する合成された化合物の効果を測定することにより、化合物の阻害活性を評価した。このプロトコルは、ELISAフォーマットでC3b沈着を測定するものである。この方法を用いてモニターされるC3b沈着は、古典経路により活性化された補体から生じるものである。簡潔に述べれば、96ウェルプレートをBSAでコーティングする。ヒト血漿、ニワトリオボアルブミン(OVA)、ポリクローナル抗OVA抗体および被験化合物(「薬物」と呼ぶ)を加えてインキュベートした後、抗ヒトC3 HRPコンジュゲート抗体を加えた。さらにインキュベートした後、基質を加え、シグナルを検出した。プロトコルの詳細を以下に示す。
【0253】
古典的補体阻害アッセイのプロトコル
材料:
・96ウェルプレート(ポリスチレンプレート、Thermo Scientific社、9205)
・ニワトリOVA(Sigma社、A5503−5G)
・ウサギ抗ニワトリOVA(Abcam社、ab1221)
・ブロッキング緩衝液(Startingblock緩衝液、Thermo Scientific社、37538)
・ベロナール緩衝液(5倍濃度、Lonza社、12−624E)
・ヒト血漿(レピルジンを用いて最終濃度50μg/mlで採取)
・ヤギ抗ヒトC3 HRPコンジュゲートAb(MP Biomedicals社、55237)
・Tween−20洗浄緩衝液(0.05%Tween20−PBS緩衝液)
・TMB(ペルオキシダーゼ基質、BD社、555214)−BD社製51−2607KCと51−2606KCの1:1混合物。
・1M H
2SO
4
プロトコル:
1.100μl/ウェルの1%ニワトリOVA(PBS中)を加える。
2.4℃で一晩または室温で1〜2時間、インキュベートする。
3.プレートを振盪しタッピングすることにより除去を行う。
4.ブロッキング緩衝液200μlを加えてブロッキングを行う。
5.室温で1時間インキュベートする。
6.プレートを振盪しタッピングすることにより除去を行う。
7.ポリクローナル抗ニワトリOVAをブロッキング緩衝液で1:1000に希釈した溶液100μlを加える。
8.室温で1時間インキュベートする。
9.洗浄緩衝液で2回洗浄する。
10.ウェル番号2〜12にVB
++50μlを加える。
11.ウェル1に薬物の開始希釈液(VB
++で2倍希釈)100μlを加える。
12.薬物をウェル1〜10まで次のように連続希釈(1:2)する:
a.出発点となるウェルから溶液50μlを取り出す。
b.これを次のウェルに加える。
c.ピペッティングを数回行ってかき混ぜる。
d.以上の操作をウェル番号10まで繰り返す。
注:ウェル番号10から50μlを取り出して捨てること。
13.ウェル1〜11に血漿の2倍希釈液(元の血漿の1:37.5希釈)50μlを加える。
14.1時間インキュベートする。
15.洗浄緩衝液で洗浄する。
16.抗C3−HRP Abをブロッキング緩衝液で1/1000に希釈した溶液100μlを加える。
17.1時間インキュベートする。
18.洗浄緩衝液で洗浄する。
19.全ウェルにTMBを100μl加える。
20.暗所で5〜10分間インキュベートする。
21.1M H
2SO
4を50μl加える。
22.450nmでプレートを読み取る。
VB++
調合:
ストック溶液:
Veronal緩衝液(5倍)
Mg−Cl2(200倍)
CaCl
2(500倍)
作業緩衝液50mlの調製:
・NaClを210mg計量する
・5倍VBを10ml加える。
・CaCl
2(500倍)を100μl加える。
・MgCl(200倍)を250μl加える。
・H
2Oで体積を50mlに調整する。
・pHを7.4に調整する。
【0254】
GraphPad Prism5ソフトウェアを用いてデータを分析した。各実験から得られたデータセットを、化合物を加えなかったウェルに対応する100%活性化対照に対するパーセント活性化に正規化した。薬物濃度の値(Xの値)を対数に変換し、パーセント活性化(Pa)(Yの値)を式Pi=100−Pa(Yi=100−Ya)を用いてパーセント阻害(Pi)に変換した。パーセント阻害を薬物濃度に対してプロットし、得られたデータセットをシグモイド曲線の用量反応関数[Y=最低値+(最高値−最低値)/(1+10((LogEC−X)))]に適合させた。適合パラメータからIC
50値を求めた。
【0255】
図1に結果を示し、表2(実施例2)にIC
50値を示す。図のように、CA28−1およびCA28−2はモル基準でCA28の約30%の活性を示した。
【0256】
実施例2:増加したモル活性を示す長時間作用型コンプスタチン類似体の開発
アームを8本有する分子量40kDのNHSエステル活性化PEG(NOF America社、White Plains、NY、カタログ番号SUNBRIGHT(登録商標)HGEO−400GS;化学式:ヘキサグリセロールオクタ(スクシンイミジルオキシグルタリル)ポリオキシエチレン)をCA28−AEEAc−Lysのリジン側鎖に結合させて、(CA28−AEEAc)
8−PEG40kで表され、CA28−3とも呼ばれる長時間作用型コンプスタチン類似体を得た。
【0257】
実施例1に記載のアッセイを用いて、CA28−3の補体阻害活性を試験した。
図1に結果をプロットし、表2にIC50値を記載するが、ともにCA28濃度の関数として表したものである。CA28濃度は、283nmにおけるCA28の吸光係数(10208.14L・mol−1・cm−1)を用いて計算したものである。他の分析(UV吸収対物質の質量および元素CHN%分析)に基づき、1分子のCA28−3当たり7.5個のCA28部分が存在すると結論付けられた。したがって、モル基準でのCA28−3の活性は
図1および表2に示される活性の7.5倍になる。したがって、表2のIC50値は、モル基準でのCA28−3の実際のIC50の7.5倍になる。モル基準でのCA28−3のIC50は約0.26と計算される(親化合物CA28より低い値である)。
図2は、CA28ならびに長時間作用型コンプスタチン類似体CA28−2およびCA28−3のパーセント補体活性化阻害活性をCA28−3濃度(μM)の関数として示したものである、すなわち、CA28−3の活性を補正して、この化合物が7.5個のCA28部分を含むことを説明したものである。モル基準では、CA28−3の補体阻害活性はCA28を上回っている。
表2
【0258】
各種緩衝物質および/または賦形剤を含む水またはこれを含まない水へのCA28−1、CD28−2およびCA28−3の溶解度が親化合物CA28を上回ることが観察された。
【0259】
実施例3:著しく増大した血漿中半減期およびCmaxを示す長時間作用型コンプスタチン類似体
この実施例は、カニクイザルに投与したときの長時間作用型コンプスタチン類似体CA28−2およびCA28−3の薬物動態パラメータの測定について記載するものである。
【0260】
投与および試料採取
時間0の時点で、雌カニクイザル(1群当たり3匹、2〜5歳、2.9〜3.5kg)に静脈内注射によりCA28−2およびCA28−3を投与した。化合物を濃度25mg/mlの5%ブドウ糖水溶液として50mg/kgで投与した。投与前、投与の5分後、15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後、48時間後、96時間(4日)後および192時間(8日)後の各時点で、大腿静脈から血液試料(それぞれ約1mL)を採取した。直接静脈穿刺により試料を採取し、抗凝固剤を含む赤い栓の血清チューブに入れて、室温で少なくとも30分間保管した。血液試料を温度4℃、3000×gで5分間、遠心分離した。処理中は試料を冷却状態で維持した。遠心分離後、血清試料を収集し、試料チューブに入れた。−60℃〜−80℃を維持するよう設定された冷凍庫で試料を保管した。試験期間中、全個体とも正常な活動を示した。試験期間中、いずれの個体にも化合物に関連する異常は認められなかった。
【0261】
試料分析
上記のように得られた血漿試料を、次のような方法に従ってLC/MS/MSにより分析し、化合物の濃度を決定した:試料50μLを社内の標準物質(CA28−AEEAc−Arg)と混合し、次いで、HOAcでpH3.5にした1M NH
4OAcを100μL加えて混合した。次いで、アセトニトリル250μLを加えて混合した。試料を遠心分離し、上清を別のチューブに入れて乾燥させた。試料を元に戻し、LC/MS/MSシステムに注入した。移動相Aは0.1%FAを含む5mM NH
4OAc、移動相Bは0.1%FAを含む90:10(ACN:50mM NH
4OAc)とした。LCカラムはIntrada WP−RP 2×150mm、3μであった。陽イオンモードで作動させたApplied Biosystems社のAPI−4000三連四重極質量分析計により定量を行った。質量分析計のイオン源でインソース衝突誘起解離(CID)を用いて化合物を断片化し、Q1でm/z144イオンを質量選択して断片化し、Q3でm/z77イオンを質量選択して検出した。Analyst1.4.2ソフトウェアを用いてデータを処理した。
【0262】
結果
各時点におけるCA28−2およびCA28−3の血清中濃度(μg/ml)を下の表3に示す。示される化合物を投与したサル3個体それぞれのデータが示されている。平均値および標準偏差は容易に計算される。個体間に際立った一致がみられた。CA28は、カニクイザルにCA28を静脈内投与した以前の試験で得られた過去のデータである。その試験では、HPLCを用いて試料中のCA28を検出した。
表3
【0263】
各化合物の結果の平均値を求め、
図3にプロットした。CA28−2、CA28−3ともに、CA28に比べて半減期およびCmaxの著明な増加がみられた。CA28−2およびCA28−3の終末相半減期はともに4〜4.5日前後であった。ここに挙げたデータを踏まえれば、ヒト対象では、約1〜2週間の投与間隔で静脈内投与すれば化合物のレベルが維持され、補体活性化が効果的に阻害されることが予想されるが、これよりも短い、あるいは長い投与間隔を用いてもよい。
【0264】
実施例4:クリアランス低減部分としてHSAを含む長時間作用型コンプスタチン類似体
2−イミノチオランを用いてヒト血清アルブミン(HSA)の側鎖リジンをチオールに変換し、反応性官能基としてマレイミドを含むコンプスタチン類似体:
Ac−Ile−Cys
*−Val−Trp(1−Me)−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys
*−Thr−AEEAc−Lys−(C(=O)−(CH
2)
5−Mal)−
NH2(配列番号68)と反応させた。得られた長時間作用型コンプスタチン類似体(CA28−4)について、補体阻害活性(
図4)を実施例1に記載されている通りにin vitroで試験し、薬物動態特性を実施例3に記載されている通りにin vivoで試験した。カニクイザルに投与したときのCA28−4の薬物動態パラメータを、上の実施形態に記載されている通りに測定した。結果を
図5に示す(CA28、CA28−1、CA28−2およびCA28−3の結果も一緒に示す)。CA28−4のPKデータを表4に示す。
表4
【0265】
実施例5:PNH患者における長時間作用型コンプスタチン類似体
PNHと診断された被験者のコホートを4つのグループに分ける。グループ1とグループ2の被験者には用量5mg/kg〜20mg/kg、時間間隔1〜2週間で、それぞれCA28−2またはCA28−3の静脈内投与による治療を実施する。任意選択で、これより頻度が高くなる時間間隔で治療を開始したのち、維持療法で頻度を減らす。グループ3の被験者には、推奨される投与レジメンに従ってエクリズマブによる治療を実施する。血管内溶血(LDH測定および/またはRBCの(51)Cr標識に基づくもの)、網状赤血球増加症(貧血の指標)、ヘマトクリット値、血中ヘモグロビン濃度、赤血球のオプソニン化(フローサイトメトリーを用いて検出することができる、C3bなどのC3活性化産物の赤血球への沈着)、PNHの症状、輸血の必要性、血栓塞栓症、生活の質および生存期間を経時的にモニターする。得られた結果について、群間での比較およびエクリズマブの臨床試験で得られた対照PNH患者の過去のデータとの比較を実施する。グループ4の被験者と比較してCA28−2(グループ1)またはCA28−3(グループ2)を投与した被験者にみられる持続性貧血の改善(例えば、網状赤血球増加症の軽減、溶血の徴候の軽減、ヘマトクリット値の増加、ヘモグロビンの増加を根拠とする)、生活の質の改善、PNH症状の軽減、輸血の必要性の減少、血栓塞栓症の軽減、生活の質の向上および/または生存期間の増大を有効性の指標とする。
【0266】
実施例6:PNH患者における長時間作用型コンプスタチン類似体
エクリズマブによる治療を実施したが、依然として輸血に依存し、かつ/またはがカットオフ値(9.0g/dLなど)より低いヘモグロビン値が継続する患者を被験者に変更して、実施例4を再び実施する。得られた結果を群間で比較する。
【0267】
実施例7:aHUS患者における長時間作用型コンプスタチン類似体
aHUSと診断された被験者のコホートを4つのグループに分ける。グループ1とグループ2の被験者には用量5mg/kg〜20mg/kg、時間間隔1〜2週間で、それぞれCA28−2またはCA28−3の静脈内投与による治療を実施する。任意選択で、これより頻度が高くなる時間間隔で治療を開始したのち、維持療法で頻度を減らす。グループ3の被験者には、推奨される投与レジメンに従ってエクリズマブによる治療を実施する。血管内溶血(LDH測定に基づくもの)、赤血球のオプソニン化(C3bなどのC3活性化産物の赤血球への沈着)、aHUSの症状、腎機能、血漿交換または透析の必要性、生活の質および生存期間を経時的にモニターする。得られた結果について、群間での比較およびエクリズマブの臨床試験で得られた対照aHUS患者の過去のデータとの比較を実施する。グループ4の被験者と比較してCA28−2またはCA28−3を投与した被験者にみられる溶血の徴候の軽減、生活の質の改善、aHUS症状の軽減、血漿交換または透析の必要性の減少、生活の質の向上および/または生存期間の増大を有効性の指標とする。
【0268】
実施例8:ほかの長時間作用型コンプスタチン類似体を用いて実施例5〜7を再び実施する。
【0269】
実施例9:細胞反応性コンプスタチン類似体を用いて実施例5〜7を再び実施する。
【0270】
当業者は日常的な実験のみを用いて、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態の均等物を多数認識する、あるいは確認することが可能であろう。本発明の範囲は上記「説明」に限定されることが意図されるものではなく、添付の「特許請求の範囲」に記載されている通りのものである。本発明は、任意の具体的な実施例または任意の具体的な実施形態で得られる特定の結果に依存するものでは決してないことが理解されよう。別途明示されない限り、あるいは文脈から特に明らかでない限り、「a」、「an」および「the」などの冠詞は1つを意味することも2つ以上を意味することもある。別途明示されない限り、あるいは文脈から特に明らかでない限り、あるグループの1つ以上の要素間に「または(もしくは、あるいは)」を含む請求項または記載は、そのグループの1つ、2つ以上またはすべての要素が所与の製造物または工程に存在する、用いられる、あるいは関連する場合に満たされるものする。本発明は、所与の製造物または工程にグループのちょうど1つの要素が存在する、用いられる、あるいは関連する実施形態を包含する。例えば、特に限定されないが、請求項または記載が、特定の位置にある残基が特定のグループのアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択され得ることを表している場合、本発明は、その位置にある残基が、挙げられているアミノ酸またはアミノ酸類似体のいずれかである個々の実施形態を包含することが理解される。また本発明は、所与の製造物または工程にグループの2つ以上またはすべての要素が存在する、用いられる、あるいは関連する実施形態も包含する。さらに、本発明は、記載されている請求項の1つ以上または上の記述による1つ以上の制限、構成要素、条項、記述用語などが別の請求項に導入されているあらゆる変更、組合せおよび置換を包含することを理解するべきである。例えば、別の請求項に従属する任意の請求項が、同じ基本請求項に従属する他のすべての請求項に記載されている1つ以上の構成要素、制限、条項または記述用語が含まれるよう改変され得る。さらに、請求項に組成物が引用されている場合、特に明示されない限り、あるいは矛盾または不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、本明細書に開示されているいずれかの方法に従って組成物を投与する方法および本明細書に開示されているいずれかの目的で組成物を使用する方法が本発明の範囲内にあること、また本明細書に開示されているいずれかの製造方法に従って組成物を製造する方法が本発明の範囲内にあることを理解するべきである。対象を治療する方法は、そのような治療を必要とする対象(例えば、疾患に罹患したことがある対象または疾患に罹患するリスクの高い対象)を準備する段階、対象が疾患に罹患していると診断する段階および/または細胞反応性コンプスタチン類似体による治療を実施する対象を選択する段階を含み得る。
【0271】
構成要素がリストで示されている場合、構成要素の各サブグループも開示されることになり、また任意の構成要素(1つまたは複数)がそのグループから除去され得ることを理解するべきである。簡潔にするため、本明細書にはここに挙げた実施形態のうち一部のみが具体的に引用されているが、本発明はここに挙げた実施形態をすべて包含するものである。一般に、本発明または本発明の態様が特定の構成要素、特徴などを含むものとして記載されている場合、本発明の特定の実施形態または本発明の特定の態様は、そのような構成要素、特徴などからなる、あるいは実質的にそれよりなるものであることも理解するべきである。本明細書の様々な表題の下で様々な疾患、障害および状態について述べられているが、これは便宜的なものであって、本発明を限定することを意図するものではない。
【0272】
範囲が記載されている場合、その終点も含まれる。さらに、特に明示されない限り、あるいは文脈および当業者の理解から特に明らかでない限り、範囲として表されている値が、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、本発明の様々な実施形態で記載されている範囲内にある任意の具体的な値または部分範囲が、その範囲の下限の10分の1の単位まで想定され得るものであることを理解するべきである。本発明の任意の特定の実施形態、態様、構成要素、特徴などは、本明細書に明確に記載されていない場合であっても、請求項から明確に除外され得る。例えば、任意のコンプスタチン類似体、官能基、結合部分、疾患または適応が明確に除外され得る。