(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図1および
図2に基づいて、従来の空気圧縮機について説明する。
図1は、一段側と二段側に「ロッキングピストン」と称される揺動型ピストンを備えた可搬型の二段式空気圧縮機を示している。
図2は、
図1の空気圧縮機の二段側のピストンとシリンダの構成を示す部分断面図である。
【0003】
この空気圧縮機において、クランクケース1はモータシャフト8を回転可能に支持しており、該モータシャフト8にはクランク軸3が固定されている。このモータシャフト8は、モータ9の出力軸に連結されている。
【0004】
低圧用の一段側シリンダ11と、高圧用の二段側シリンダ31は、それぞれ円筒状に形成され、クランクケース1に取付けられている。このシリンダ11,31の内周面には、ピストン21,41が具備するシール部材(リップリング)が摺接する。
【0005】
円筒状のシリンダ11,31の上部には、シリンダヘッド13,33が搭載されている。このシリンダヘッド13,33内には、吸込口を介して外部に連通する吸込室と、吐出口を介して外部に連通する吐出室とが画成されている。
【0006】
一段側のピストン21および二段側のピストン41は揺動型ピストンであり、シリンダ11,31内において揺動しつつ往復動するように設けられている。一段側ピストン21と二段側ピストン41は、サイズ上の違いがある点を除いてほぼ同様の特徴を具備しているため、以下の説明では、主として二段側ピストン41について言及し、一段側ピストン21についてはその説明を省略する。
【0007】
ピストン41は、シリンダ31内へと伸長するピストン本体40と、該ピストン本体の上部に設けられた略円盤状のリップリング固定部材61とを具備している。
【0008】
ピストン本体40は、クランク軸3に回転可能に連結された連結部と、該連結部と一体の棒状のピストンロッドと、該ピストンロッドの他端側に一体的に設けられたピストン部42とを具備している。このピストン本体40は、ピストン部42がシリンダ31内に収容された状態で、全体が一体となってシリンダ31に対して揺動しながら往復動を繰り返す。
【0009】
略円盤状のピストン部42は、シリンダ31内に圧縮室を画成している。
図2の部分断面図に示すように、ピストン部42の上面側(圧縮室を向いた側)には、後述するリップリング固定部材61と凹凸嵌合する円形凹部43と、その周囲に盛り上がるように形成された平坦な環状の土台部44が形成されている。
【0010】
リップリング固定部材61は、リップリング71(シール部材)を固定するための円盤状部材である。このリップリング固定部材61は、底面側に突き出るように形成された円形凸部62と、その周囲に形成されたリップリング押え部63を具備している。
【0011】
シール部材であるリップリング71は、全体的には略円形カップ状(あるいは略円形皿状)の外観を有し、その中央に円形開口部が形成されている。このリップリング71は、内周側に位置する取付部72と、外周側に位置するリップ部73と、該リップ部73と前記取付部72との間に位置する断面円弧状のリップリングR部74とを具備している。
【0012】
リップリング71をピストン部42の上に取付けると、ピストン部42の外周側からリップ部73が外向きに張り出す。このようにリップリング71のリップ部73が外側に張り出した状態で、ピストン部42と共にシリンダ31内に挿入すると、リップリング71の外側が縮径方向に弾性変形して、取付部72とリップ部73との中間部が円弧状に湾曲してリップリングR部74となる。また、リップ部73の外周面がシリンダ31の内周面に対して摺接する。
【0013】
上記構成のリップリング71は、空気圧縮機の作動時において、ピストン41のピストン部42と一体となって、シリンダ31内で揺動しつつ往復動する。そのとき、リップ部73の外周面がシリンダ31の内周面に接した状態で摺動する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
<第1の問題点>
上述した従来技術の空気圧縮機において、リップリング71は、空気圧縮機の運転中に圧縮室内の圧縮空気(空気圧)によって、
図2(b)に示す矢示A方向に向けて押圧される。特に、ピストン部42がシリンダ31内を上昇する圧縮行程では、圧縮室内が高圧となるために、リップリング71は矢示A方向に強く押圧される上に、リップ部73がシリンダ31の内周面と摩擦摺動することにより、矢示A方向に摩擦力を受ける。
【0016】
このため、空気圧縮機の運転を続けるうちに、リップリング71はピストン部42の平坦な土台部44側に押付けられて弾性変形し、やがて、リップリングR部74は
図2(b)に示す如く直角状に屈曲するようになる。その結果、リップ部73のうちリップリングR部74に近い部分がシリンダ31の内周面に強く押し付けられて摺動するようになり、この部分における偏摩耗が早期に進行して、リップリング71の寿命が短くなると共に、ピストンの摺動抵抗が大きくなって圧縮機の機械効率が低下するという問題が生じる。
【0017】
また、この変形によってリップリングR部74には大きな曲げ荷重等(矢示A方向の力)が作用するため、
図2(b)に示すように、リップリング71はリップリングR部74の近傍部分に亀裂等を発生することがあり、これによって圧縮室の気密性が損なわれ、圧縮機の圧縮効率が著しく低下するといった問題が生じる。
【0018】
なお、一段側のピストンが具備するリップリングでも同様の問題が生じ得る。
【0019】
<第2の問題点>
上記第1の問題点を解決するための手段が特許文献1に開示されている。
特許文献1では、
図3(a)に示すように、上方に突き出るように形成された鋭角状の突出縁部45を、平坦な土台部44の外側に形成するとともに、突出縁部45の上面側を湾曲部46とすることが提案されている。
【0020】
すなわち特許文献1の提案によれば、リップリング71が圧縮室側から圧力等で押圧されても、リップリングR部74を湾曲部46に支持させた状態で円弧状の湾曲状態に保持できるから、リップリングがこのときの圧力等によって過度に変形するのを規制でき、その結果、リップリングの破損や偏摩耗等を防止できるとされている。
【0021】
しかしながら、特許文献1で提案されているような構造を採用した場合、
図3(b)に示すように、湾曲部46の最外部にある鋭角状の突出縁部45(鋭く尖った縁部分)が、リップリングR部に鋭角に突き当たる。そして、圧縮行程で空気圧力及びシリンダ内周面との摩擦力により、リップリングR部74が矢印A方向の力を受けると、湾曲部46の先端(突出縁部45)がリップリングR部74に食込み亀裂が発生するといった問題が生じる。
【0022】
<本発明の目的>
上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、リップリングなどのシール部材を具備するピストンを有する空気圧縮機であって、シール部材の耐久性を向上させることが可能なピストン構造を備えた空気圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的は、
ピストン部とシリンダとの間をシールするシール部材を備える圧縮機であって、
ピストン部に取り付けるシール部材の土台となる土台部と、
前記土台部の外側に形成され、前記シール部材底面側のR部(湾曲部)に当接する様な湾曲部と、
その湾曲部の外側に形成され、ピストン軸方向にほぼ垂直な方向の略平面と、
を有するピストンを具備する圧縮機によって達成される。
【0024】
上記圧縮機において、前記湾曲部は、前記土台部と前記略平面との間に形成され、前記略平面は、ピストン部の外縁部に形成されている。
【0025】
前記略平面の幅は、前記シール部材の板厚寸法の1/2以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の空気圧縮機によれば、シール部材底面側のR部の変形や、シール部材へのピストン部の食込みによる亀裂の発生などを防ぐことができ、その結果、ピストンに装着するシール部材の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(空気圧縮機の構成)
以下、
図4に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
以下の説明では、一段側と二段側に「ロッキングピストン」と称される揺動型ピストンを備えた可搬型の二段式空気圧縮機を具体例に挙げて、本発明の実施形態について説明する。
また、
図2及び
図3に示す従来技術と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を簡略化または省略する。
【0029】
図4の部分断面図は、二段圧縮機の二段側(高圧側)のシリンダ31と、ピストン部41と、リップリング7(シール部材)の構成を示している。
なお、一段側(低圧側)の構成は、
図4と同様であるので、図示と説明を省略する。
【0030】
図4に示すように本実施形態の空気圧縮機は、シリンダ31内で揺動しつつ往復動するピストン5の先端側に設けられたピストン部51と、このピストン部の上面側に取り付けられるリップリング固定部材6(リテーナ)と、ピストン部51とシリンダ31の内周面との間をシールするためのシール部材であるリップリング7と、を有している。
【0031】
ピストン5(高圧用ピストン)は、
図1との関係で説明した従来技術と同様に、揺動型ピストンであり、シリンダ31内において摺動しつつ往復動するように設けられている。
【0032】
また、このピストン5は、
図1に示す従来技術と同様に、シリンダ31内へと伸長するピストン本体と、該ピストン本体の上部に設けられたリップリング固定部材6(リテーナ)とを具備している。
【0033】
ピストン5のピストン本体は、
図1に示す従来技術と同様に、クランク軸に回転可能に連結された連結部と、該連結部と一体の棒状のピストンロッドと、該ピストンロッドの他端側に一体的に設けられたピストン部51とを具備している。このピストン本体は、ピストン部51がシリンダ31内に収容された状態で、全体が一体となってシリンダ31に対して揺動しながら往復動を繰り返す。
【0034】
ピストン本体の先端側にあるピストン部51は、略円盤状の外観に形成され、シリンダ31内に圧縮室を画成している。
【0035】
ピストン部51の上面側(圧縮室を向いた側)には、円形凹部53と、土台部54と、湾曲部56と、略平面57が形成されている。
【0036】
ピストン部51の円形凹部53は、ピストン部51の上面側中央に形成されており、リップリング固定部材6と凹凸嵌合する。
【0037】
平坦な環状の土台部54は、円形凹部53の外側に盛り上がるように形成され、ピストン部51に取り付けるリップリング7(シール部材)の土台として機能する。
【0038】
湾曲部56は、土台部54の外側に形成され、湾曲したリップリングR部74(シール部材底面側のR部)に当接して密着するようになっている。
【0039】
略平面57は、湾曲部56の外側に形成され、ピストン軸方向に対してほぼ垂直になるように形成されている。すなわち、略平面57は、ピストン軸方向に対してほぼ直交する方向で形成されている。なお、略平面57は、必ずしも厳密な意味での平坦面に限定されず、僅かに傾斜した面や僅かにカーブした面などであってもよい。
【0040】
上述したピストン部51の湾曲部56は、土台部54と略平面57との間に形成され、略平面57は、ピストン部51の外縁部に形成されている。つまり、円形凹部53、土台部54、湾曲部56、略平面57は、隣接して連なるようにピストン部51の上面側に形成されている。また、円形凹部53、土台部54、湾曲部56、略平面57は、それぞれ環状に形成されているとともに、ピストン部51の上面側に同心円状に形成されている。円形凹部53がピストン部51の上面側中央に形成され、さらに、その外側に向かって順に、土台部54、湾曲部56、略平面57が形成されている。
【0041】
リップリング固定部材6(リテーナ)は、後述するリップリング7を位置決めする部材であり、略円盤状の外観に形成されている。このリップリング固定部材6は、底面側に突き出るように形成された円形凸部62と、その周囲に形成されたリップリング押え部63とを具備している。リップリング固定部材6は、その円形凸部62をピストン部51の円形凹部53に対し凹凸嵌合させた状態で、該ピストン部51にネジ固定されている。
【0042】
シール部材の一例であるリップリング7は、
図4に示すように、断面略くの字状に湾曲した略リング状部材で構成されている。このリップリング7は、例えば自己潤滑性・可撓性に優れた公知の材料、例えば、フッ素樹脂やこれを基材とする複合材料などの樹脂材料から形成されている。なお、リップリング7は、例えば板状の部材を曲げて作製することが可能であるが、リップリングの作製方法は特に限定されず、例えば、切削加工や成型などにより作製してもよい。
【0043】
リップリング7は、全体的には略円形カップ状(あるいは略円形皿状)の外観を有し、その底部中央に円形開口部が形成されている。このリップリング7の外径は、ピストン部51よりも大きく、また、シリンダ31の内径よりも大きい。したがって
図4に示すように、ピストン部51がシリンダ31内に収まった状態では、リップリング7は、縮径方向に弾性変形しており、その外周面がシリンダ内周面に対し全周にわたって隙間なく常時摺接する。
【0044】
このリップリング7は、内周側に位置する取付部72と、外周側に位置してシリンダ内周面に摺接するリップ部73と、該リップ部73と前記取付部72との間に位置する円弧状のリップリングR部74(湾曲部)とを含んで構成されている。
【0045】
また、リップリング7は、その取付部72がピストン部51の土台部54とリップリング固定部材6の押え部63との間に介在して挟持されている。つまり、リップリング7の取付部72が土台部54の上に載り、その状態で、該取付部72がピストンの土台部54と固定部材の押え部63の間に挟持された状態で固定されている。その状態で、リップリングR部74は、ピストン側の湾曲部56に対して密着状態で当接しており、また、リップ部73の外周面はシリンダ31の内周面に摺接するようになっている。
【0046】
ピストン部51とリップリング固定部材6はネジ固定されている。したがって、リップリング7は、リップリング固定部材6によって、ピストン部51上に固定された状態が保持されている。
【0047】
略円形皿状のリップリング7をピストン部51の上に取付けると、ピストン部51の外周側からリップ部73が外向きに張り出す。このようにリップリング7のリップ部73が外側に張り出した状態で、ピストン部51と共にシリンダ31内に挿嵌すると、リップリング7の外側が縮径方向に弾性変形するとともに、リップ部73の外周面がシリンダ31の内周面に全周に亘って隙間なく弾性的に摺接する。そして、この状態でリップ部73の内周面とリップリング固定部材6の外周面との間には、環状の隙間75が形成されている。
【0048】
上記構成のリップリング7は、空気圧縮機の作動時において、ピストン部51と一体となって、シリンダ31内で揺動しつつ往復動する。そのとき、リップ部73の外周面がシリンダ31の内周面の全周に対して隙間なく常時接した状態で摺動することにより、ピストン部51とシリンダ31の内周面との間をシールし、高圧となる圧縮室の気密性を保持する。つまり、ピストン部51とシリンダ31との間がリップリング7によって気密にシールされ、ピストン部51の上方の圧縮室内の圧縮空気がピストン部外周とシリンダの間の隙間から漏出するのが阻止される。
【0049】
(空気圧縮機の運転時の動作)
上述した構成を具備する本実施形態の空気圧縮機は、その運転時に次のように作動する。
【0050】
空気圧縮機のモータを駆動させると、従来技術と同様に、モータシャフトに連結されたピストンが往復動する。この往復運動の間、ピストンの全体がシリンダに対して揺動を繰り返し、そのときシリンダの内周面には、ピストン本体の上面側に装着した可撓性リップリングが常時摺接する。
【0051】
ピストンは、吸込室から圧縮室内に空気を吸い込む吸込行程と、圧縮室内の空気を圧縮して吐出室に吐出する圧縮行程とを繰り返し、圧縮空気を生成する。一段側シリンダで圧縮された空気は、シリンダヘッドの吐出室を介して二段側へ送出され、二段側シリンダにおいて更に圧縮される。二段側シリンダで生成された高圧の圧縮空気は、シリンダヘッドの吐出室を介して吐出され、外部の空気タンクに貯留される。空気タンクに貯留された圧縮空気は、釘打ち機などの用途に供される。
【0052】
上述したようなピストンの往復動(吸込行程,吐出行程)を繰返す過程で、ピストン部51は、シリンダ31に対して揺動(傾斜)する。そのため、ピストン部51とシリンダ31の内周面との間の隙間寸法は変化するが、リップリング7はリップリングR部74を湾曲させた状態でリップ部73がシリンダ31の内周面に弾性的に摺接しているため、ピストン部51とシリンダ31の内周面との間を常にシールすることができる。
【0053】
すなわち、ピストン部51がシリンダ31に対して傾斜して、ピストン部51とシリンダ31の内周面との間の隙間寸法が拡がったときでも、弾性変形していたリップ部73が原形復帰によって拡径方向に拡がって、その外周面をシリンダ31の内周面に摺接させる。したがって、ピストンのピストン部51がシリンダ31に対して揺動しても、リップリング7は両者間を常にシールできる。
【0054】
以上、二段式空気圧縮機を具体例に挙げて本発明の実施形態について説明した。
なお、上述した説明では、代表例として二段圧縮機の二段側ピストンの構成および作用について説明したが、一段側ピストンについても同様である。
【0055】
(空気圧縮機によって達成される優れた効果)
上述した本実施形態の空気圧縮機によれば、シリンダ内を往復動するピストンのピストン部51には、土台部54と湾曲部56が形成されている。更に、その湾曲部56の外側隣接位置には、ピストン軸方向に対しほぼ垂直な方向の略平面57が形成されている。そして、リップ部73と取付部72を具備するリップリング7は、土台部54の上に取付部72を載せた状態で、ピストン部51とリップリング固定部材6との間で挟持されている。この固定状態で、リップリングR部74の底面側はピストン側の湾曲部56に当接し、また、リップ部73は(縮径方向に弾性変形した状態で)シリンダ31の内周面に摺接するようになっている。
【0056】
上記の如く構成することにより、圧縮行程での空気圧力及びシリンダ内周との摩擦力により、
図4(b)に示すようにリップリングR部74が矢印A方向に力を受けた場合でも、リップリングR部74の底面側がピストン側の湾曲部56に当接するため、従来技術の<第1の問題点>で挙げた
図2(b)に示すような変形を防ぐことができる。
【0057】
また、本発明では、ピストン側の湾曲部56の外側隣接位置(ピストン部上面側の外縁部)に略平面57が形成されている。したがって、仮に矢印A方向の力によりリップリングR部74の下部が湾曲部56の外側の略平面57に当接した場合でも、矢印A方向の力を略平面57で受けることができる。これによりリップリング7に作用する応力は(断面視で1点に集中せず)分散され、従来技術の<第2の問題点>で挙げた
図3(b)に示すようなリップリング側への鋭角部の食込みを防ぐことができる。
【0058】
そして、リップリングR部74の変形や、リップリング7へのピストン部51の食込みによる亀裂の発生などを防ぐことができる結果、リップリング7の耐久性を向上させることができるといった優れた効果が達成される。
【0059】
(他の実施形態)
上述した実施形態では、本発明の一例として二段式の空気圧縮機を挙げたが、本発明は、一段式の空気圧縮機または三段式以上の空気圧縮機に適用することも可能である。
【0060】
また、上述した実施形態では、シール部材の適用対象として「ロッキングピストン」と称される揺動型ピストンを例示したが、本発明の適用範囲は必ずしも揺動型ピストン(ロッキングピストン)に限定されず、リップリングなどのシール部材を装備可能な他のピストンに適用することも可能である。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0062】
図4に示すような二段式空気圧縮機を使用して、リップリングの耐久性を確認する実験を行った。
【0063】
具体的には、最高到達圧力4.5MPaの二段圧縮の往復圧縮機の二段側に、前述したピストンとリップリングの構造を取り入れて実験を行った。この実験では、圧力を4MPaで一定に保った状態で圧縮機を運転した。
【0064】
リップリングの耐久性は、次の方法により判定した。
(1)圧縮機の組立初期において、圧縮機を大気圧から運転して、最高到達圧力4.5MPaまで圧力を上げるのに掛かった時間を計測し、これを基準時間とした。
(2)圧縮機を大気圧から運転して、最高到達圧力4.5MPaまで圧力を上げるのに掛かった時間が、組立初期の時間(基準時間)に対して10%以上に伸びるまでの試験時間、すなわち運転時間を計測した。
【0065】
また、この実験では、構造が異なる次の4種類(比較例1、比較例2、実施例1、実施例2)のピストンを使って実験を行った。ピストンに装着するリップリングは、すべての比較例・実施例において同じ種類・寸法のものを使用した。
【0066】
(比較例1)
比較例1のピストンは、
図2に示す従来技術の構造を有していた。すなわち、
図2に示すように、円形凹部の外側に平坦な土台部だけが形成され、湾曲部が形成されていないピストンを使用した。
【0067】
(比較例2)
比較例2のピストンは、
図3に示す従来技術の構造を有していた。すなわち、
図3に示すように、上方に突き出るように形成された鋭角状の突出縁部を、ビストン部の外縁部に形成するとともに、土台部と突出縁部の間を湾曲部とするピストンを使用した。
【0068】
(実施例1)
実施例1のピストンは、
図4に示すように土台部と湾曲部を具備し、更に湾曲部の先端にピストン軸方向に垂直な方向の略平面を具備していた。略平面の幅は、リップリング板厚寸法の1/2以下とした。実験で使用した実施例1のピストン部およびリップリングの主要部分の寸法は、
図5に示すとおりであった。
【0069】
(実施例2)
実施例2のピストンは、
図4に示すように土台部と湾曲部を具備し、更に湾曲部の先端にピストン軸方向に垂直な方向の略平面を具備していた。略平面の幅は、リップリング板厚寸法の1/2以上とした。実験で使用した実施例2のピストン部およびリップリングの主要部分の寸法は、
図5に示すとおりであった。
【0070】
(実験結果)
比較例・実施例のピストンを個別に二段圧縮機に取り付けて、各比較例・各実施例ごとに前述した実験を実施した。
実験結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すとおり、
比較例1の場合、最高到達圧力4.5MPaまで圧力を上げるのに掛かった時間が、10%以上に伸びるまでに要した運転時間は、406時間であった。
比較例2の場合は、798時間であった。
実施例1の場合は、1131時間であった。
実施例2の場合は、1283時間であった。
【0073】
したがって、実施例(本発明)のピストンを備えた圧縮機の方が、比較例(従来技術)のピストンを備えた圧縮機に比べて、リップリングの耐久時間(最高到達圧力4.5MPaまで圧力を上げるのに掛かった時間が初期の時間に対して10%以上に伸びるまでの試験時間)が向上していることが分かった。つまり、本発明のピストン構造を適用した方が、リップリング(シール部材)の耐久性が向上することが確認できた。
【0074】
また、実施例1よりも実施例2の方が、リップリングの耐久時間が更に向上することが分かった。つまり、ピストン側の略平面の幅を、リップリング板厚寸法の1/2以上となるように拡げることで、ピストン部に装着するリップリング(シール部材)の耐久性が更に向上することが確認できた。