特許第6522385号(P6522385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522385
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 33/02 20060101AFI20190520BHJP
【FI】
   D06F33/02 K
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-63081(P2015-63081)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-182178(P2016-182178A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100183450
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 太知
(72)【発明者】
【氏名】間宮 春夫
【審査官】 石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−046779(JP,A)
【文献】 特開平11−319364(JP,A)
【文献】 特開平09−239189(JP,A)
【文献】 特開2005−066000(JP,A)
【文献】 特開2002−035468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 1/00−51/02
D06F 58/00−60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯物を収容する洗濯槽と、
前記洗濯槽内の洗濯物を撹拌するために回転可能な撹拌部材と、
前記撹拌部材を回転させるモータと、
前記洗濯槽に給水したり、前記モータの回転を制御して前記撹拌部材を回転または停止させたりする実行手段であって、前記洗濯槽に水が溜まった状態で所定の洗い期間において前記撹拌部材を周期的に間欠回転させる洗い工程を含む洗濯運転を実行する実行手段と、
前記洗濯運転に設定された複数のコースの選択を受け付ける受付手段とを含み、
前記複数のコースには、標準コースや、前記標準コースで洗濯される洗濯物よりもデリケートな洗濯物の洗濯のために前記洗い工程における前記モータの最大回転数が前記標準コースよりも低く設定されたデリケートコースが含まれ、
前記受付手段が、前記複数のコースのうち前記標準コースや前記デリケートコースとは異なる所定コースの選択を受け付けた場合に、前記実行手段は、前記所定コースの前記洗い工程において、前記洗濯槽内の水量が前記標準コースよりも多く、前記モータの最大回転数が前記標準コースよりも低く且つ前記デリケートコースよりも高く、前記撹拌部材の間欠回転の各周期で前記モータが回転する期間が前記標準コースよりも長いという運転条件で、前記撹拌部材を間欠回転させ
前記所定コースでの運転条件は、前記洗い期間における前記モータの回転数の積分値が前記標準コースの50%以上90%以下の範囲に収まるように設定されることを特徴とする、洗濯機。
【請求項2】
前記実行手段は、前記所定コースの前記洗い工程において、前記撹拌部材の間欠回転の各周期で前記モータの回転が停止した期間が前記標準コースよりも長いという運転条件で、前記撹拌部材を間欠回転させることを特徴とする、請求項1記載の洗濯機。
【請求項3】
前記実行手段は、前記所定コースの前記洗い工程において、前記撹拌部材の間欠回転の各周期における最大回転数までの前記モータの加速度が前記標準コースよりも低いという運転条件で、前記撹拌部材を間欠回転させることを特徴とする、請求項1または2記載の洗濯機。
【請求項4】
前記洗濯槽は、回転可能であって、前記モータは、前記洗濯槽を回転させることができ、
前記洗濯運転には、前記洗い工程の後に前記実行手段が前記モータの回転を制御して前記洗濯槽を回転させる脱水工程が含まれ、
前記実行手段は、前記所定コースの前記脱水工程において、前記モータの最大回転数が前記標準コースよりも低いという運転条件で、前記洗濯槽を回転させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載の洗濯機では、衣類などの洗濯物が収容される洗濯槽の底部に、回転翼が設けられ、回転翼は、動力伝達機構を介して連結された駆動モータによって回転される。ウールやシルクなどの傷み易いデリケートな洗濯物を洗濯する場合、駆動モータでは、大半の回転数が低下したものであり、途中で速度変化が与えられる。これにより、洗濯槽内に乱流が発生して洗濯槽内の洗濯物同士の位置の入れ替えが行われるので、デリケートな洗濯物をソフト且つ均一に洗浄することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平4−3998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近では、衣類を、汚れたら洗濯するのではなく、着たらその都度洗濯することが一般的である。そのため、同じ衣類が洗濯機で洗濯される頻度が高くなるのだが、たとえば、お気に入りの衣類については、洗濯のたびに傷むことを極力抑えてなるべく長く着続けたいという要望がある。なお、一度着ただけの衣類であっても、汗などが付着することによって、ある程度は汚れた状態にある。特許文献1に開示されたデリケートな洗濯物を洗濯するコースにおいてこの衣類を洗えば、衣類の傷みを極力抑えることができる。しかし、この衣類がデリケートでなく比較的丈夫な場合には、このコースだと洗浄効果が低く、この衣類から汚れを効果的に除去することが困難となる虞がある。かといって、洗濯機において一般的な洗濯運転として選ばれる標準コースで洗濯する場合には、デリケートな洗濯物でなくても、傷みを抑えることが困難となる虞がある。
【0005】
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、デリケートな洗濯物であってもデリケートでない洗濯物であっても、洗濯運転の際に傷みが生じることを抑制しつつ効果的に洗浄できる洗濯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、洗濯物を収容する洗濯槽と、前記洗濯槽内の洗濯物を撹拌するために回転可能な撹拌部材と、前記撹拌部材を回転させるモータと、前記洗濯槽に給水したり、前記モータの回転を制御して前記撹拌部材を回転または停止させたりする実行手段であって、前記洗濯槽に水が溜まった状態で前記撹拌部材を周期的に間欠回転させる洗い工程を含む洗濯運転を実行する実行手段と、前記洗濯運転に設定された複数のコースの選択を受け付ける受付手段とを含み、前記複数のコースには、標準コースや、前記標準コースで洗濯される洗濯物よりもデリケートな洗濯物の洗濯のために前記洗い工程における前記モータの最大回転数が前記標準コースよりも低く設定されたデリケートコースが含まれ、前記受付手段が、前記複数のコースのうち前記標準コースや前記デリケートコースとは異なる所定コースの選択を受け付けた場合に、前記実行手段は、前記所定コースの前記洗い工程において、前記洗濯槽内の水量が前記標準コースよりも多く、前記モータの最大回転数が前記標準コースよりも低く且つ前記デリケートコースよりも高く、前記撹拌部材の間欠回転の各周期で前記モータが回転する期間が前記標準コースよりも長いという運転条件で、前記撹拌部材を間欠回転させることを特徴とする、洗濯機である。
【0007】
また、本発明は、前記実行手段は、前記所定コースの前記洗い工程において、前記撹拌部材の間欠回転の各周期で前記モータの回転が停止した期間が前記標準コースよりも長いという運転条件で、前記撹拌部材を間欠回転させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記実行手段は、前記所定コースの前記洗い工程において、前記撹拌部材の間欠回転の各周期における最大回転数までの前記モータの加速度が前記標準コースよりも低いという運転条件で、前記撹拌部材を間欠回転させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記洗濯槽は、回転可能であって、前記モータは、前記洗濯槽を回転させることができ、前記洗濯運転には、前記洗い工程の後に前記実行手段が前記モータの回転を制御して前記洗濯槽を回転させる脱水工程が含まれ、前記実行手段は、前記所定コースの前記脱水工程において、前記モータの最大回転数が前記標準コースよりも低いという運転条件で、前記洗濯槽を回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、洗濯機における洗濯運転の洗い工程において、実行手段は、洗濯槽に水が溜まった状態でモータの回転を制御して撹拌部材を周期的に間欠回転させる。これにより、洗濯槽内に水流が発生する。間欠回転する撹拌部材や水流による機械力が洗濯物を撹拌することによって洗濯物から汚れが除去されるので、洗濯物を洗浄できる。
洗濯運転には複数のコースが設定され、これらのコースには、一般的な標準コースや、デリケートな洗濯物の洗濯のために洗い工程におけるモータの最大回転数が標準コースよりも低く設定されたデリケートコースが含まれる。デリケートな洗濯物の場合には、機械力が弱いデリケートコースによって、洗濯運転の際に傷みが生じることを抑制しつつ効果的に洗浄できる。
一方、標準コースだと傷みが生じ得るがデリケートコースでは効果的に洗浄できないようなデリケートでない洗濯物の場合には、標準コースやデリケートコースとは異なる所定コースを選択できる。所定コースが選択された場合には、実行手段は、所定コースの洗い工程において、所定の運転条件で、撹拌部材を間欠回転させる。
この運転条件では、洗濯槽内の水量が標準コースよりも多く設定される。これにより、洗濯槽内では、溜まった水が多いことによって、洗濯物同士が互いに擦れ合うことを抑制できるので、洗濯物に傷みが生じることを抑制できる。また、この運転条件では、モータの最大回転数が標準コースよりも低く且つデリケートコースよりも高いので、洗濯物にかかる機械力が標準コースよりも弱く且つデリケートコースよりも強い。そのため、標準コースだと生じ得る傷みが洗濯物に生じることを抑制しつつ、デリケートコースよりも効果的に洗濯物を洗浄できる。また、この運転条件では、撹拌部材の間欠回転の各周期でモータが回転する期間が標準コースよりも長いので、この期間における撹拌部材の回転によって洗濯槽内での洗濯物の位置の入れ替えが促進される。これにより、効果的に洗濯物を洗浄できる。
【0011】
また、本発明によれば、所定コースの洗い工程で撹拌部材を間欠回転させる運転条件では、撹拌部材の間欠回転の各周期でモータの回転が停止した期間が標準コースよりも長いので、洗濯物にかかる機械力が標準コースよりも弱い。また、このように長くなった期間では、洗濯物に洗剤を効果的に浸透させることができる。そのため、所定コースの洗い工程では、洗濯物に傷みが生じることを抑制しつつ、効果的に洗濯物を洗浄できる。
【0012】
また、本発明によれば、所定コースの洗い工程で撹拌部材を間欠回転させる運転条件では、撹拌部材の間欠回転の各周期における最大回転数までのモータの加速度が標準コースよりも低いので、モータの加速中に洗濯物にかかる機械力が標準コースよりも弱い。そのため、所定コースの洗い工程では、洗濯物に傷みが生じることを抑制できる。
【0013】
また、本発明によれば、所定コースの脱水工程において、実行手段は、モータの最大回転数が標準コースよりも低いという運転条件で、洗濯槽を回転させる。この場合、脱水工程でのモータの回転中において洗濯物にかかる力が標準コースよりも弱い。そのため、所定コースの脱水工程では、洗濯物に傷みが生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る洗濯機の模式的な縦断面右側面図である。
図2図2は、洗濯機の電気的構成を示すブロック図である。
図3図3は、洗濯運転における制御動作を示すフローチャートである。
図4図4は、洗い工程におけるモータの回転数を示すタイムチャートである。
図5図5は、標準コースでの洗い工程に関するデータをまとめたテーブルである。
図6図6は、やさしくコースでの洗い工程に関するデータをまとめたテーブルである。
図7図7は、デリケートコースでの洗い工程に関するデータをまとめたテーブルである。
図8図8は、洗い工程における総積算面積比および最大回転数比のそれぞれと負荷量との関係を示すグラフである。
図9図9は、洗い工程後のモータの回転数、モータのON・OFF状態および給水弁のON・OFF状態を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。図1は、この発明の一実施形態に係る洗濯機1の模式的な縦断面右側面図である。図1における上下方向を洗濯機1の上下方向Zと称し、図1における左右方向を洗濯機1の前後方向Yと称し、図1の紙面に垂直な方向を左右方向Xと称して、まず、洗濯機1の概要について説明する。上下方向Zのうち、上方を上方Z1と称し、下方を下方Z2と称する。前後方向Yのうち、図1における左方を前方Y1と称し、図1における右方を後方Y2と称する。左右方向Xのうち、図1の紙面の奥側を左方X1と称し、図1の紙面の手前側を右方X2と称する。
【0016】
洗濯機1には、乾燥機能を有する洗濯乾燥機も含まれるが、以下では、乾燥機能が省略されて洗濯運転だけを実行する洗濯機を例に取って洗濯機1について説明する。洗濯機1は、筐体2と、外槽3と、洗濯槽4と、撹拌部材5と、電動のモータ6と、伝達機構7とを含む。
【0017】
筐体2は、たとえば金属製であり、ボックス状に形成される。筐体2の上面2Aは、たとえば、後方Y2に向かうに従って上方Z1に延びるように、水平方向Hに対して傾斜して形成される。上面2Aには、筐体2の内外を連通させる開口8が形成される。上面2Aには、開口8を開閉する扉9が設けられる。上面2Aにおいて開口8の周囲の領域には、スイッチなどで構成された受付手段としての操作部10Aと、液晶パネルなどで構成された表示部10Bとが設けられる。操作部10Aおよび表示部10Bは、図1では開口8よりも前方Y1に配置されるが、たとえば、開口8よりも右方X2に配置されてもよい。使用者は、操作部10Aを操作することによって、洗濯運転の運転条件を自由に選択したり、洗濯機1に対して洗濯運転の開始や停止などを指示したりすることができる。表示部10Bには、洗濯運転に関する情報が目視可能に表示される。
【0018】
外槽3は、たとえば樹脂製であり、有底円筒状に形成される。外槽3は、上下方向Zに対して前方Y1に傾斜した傾斜方向Kに沿って配置された略円筒状の円周壁3Aと、円周壁3Aの中空部分を下方Z2から塞ぐ底壁3Bと、円周壁3Aの上方Z1側の端縁を縁取りつつ円周壁3Aの円中心側へ張り出したリング状の環状壁3Cとを有する。傾斜方向Kは、上下方向Zだけでなく、水平方向Hに対しても傾斜する。環状壁3Cの内側から円周壁3Aの中空部分が上方Z1へ露出される。底壁3Bは、傾斜方向Kに直交し、水平方向Hに対して傾斜して延びる円板状に形成され、底壁3Bの円中心位置には、底壁3Bを貫通する貫通孔3Dが形成される。筐体2の前壁2Bは、図1では上下方向Zに延びるように形成されるが、円周壁3Aの前側部分に沿って傾斜方向Kに延びるように形成されてもよい。
【0019】
外槽3内には、水が溜められる。たとえば、筐体2内における外槽3の上方Z1には、ボックス状の洗剤収容室17が配置される。洗剤収容室17には、蛇口(図示せず)につながった給水路13が上方Z1かつ後方Y2から接続され、水が給水路13から洗剤収容室17内を通って外槽3内に供給される。洗剤収容室17からの水は、破線矢印で示すようにシャワー状で流れ落ちて外槽3内に供給されてもよい。給水路13の途中には、給水を開始したり停止したりするために開閉される給水弁14が設けられる。
【0020】
洗剤収容室17には、給水路13において給水弁14よりも蛇口に近い上流側の部分から分岐した分岐路15も接続される。水は、給水路13から分岐路15に流れ込むことによって、分岐路15から洗剤収容室17内を通って外槽3内に供給される。分岐路15の途中には、給水を開始したり停止したりするために開閉される柔軟剤供給弁16が設けられる。洗剤収容室17内には、柔軟剤が収容される第1領域(図示せず)と、柔軟剤が収容されない第2領域(図示せず)とが区画される。柔軟剤供給弁16が開くと、給水路13から分岐路15に流れ込んだ水が洗剤収容室17の第1領域を経由した後に外槽3内に供給される。これにより、洗剤収容室17内の柔軟剤が水に乗って外槽3内に供給される。一方、給水弁14が開くと、給水路13から直接流れ込んだ水が洗剤収容室17の第2領域を経由した後に外槽3内に供給される。この場合、柔軟剤が混じった状態にない水が外槽3内に供給される。
【0021】
外槽3には、排水路18が下方Z2から接続され、外槽3内の水は、排水路18から機外に排出される。排水路18の途中には、排水を開始したり停止したりするために開閉される排水弁19が設けられる。
【0022】
洗濯槽4は、たとえば金属製であり、傾斜方向Kに延びる中心軸線20を有し、外槽3よりも一回り小さい有底円筒状に形成され、内部に洗濯物Qを収容することができる。洗濯槽4は、傾斜方向Kに沿って配置された略円筒状の円周壁4Aと、円周壁4Aの中空部分を下方Z2から塞ぐ底壁4Bとを有する。
【0023】
円周壁4Aの内周面は、洗濯槽4の内周面である。円周壁4Aの内周面の上端部は、円周壁4Aの中空部分を上方Z1に露出させる出入口21である。出入口21は、外槽3の環状壁3Cの内側領域に対して下方Z2から対向し、筐体2の開口8に下方Z2から連通した状態にある。洗濯機1の使用者は、開放された開口8および出入口21を介して、洗濯槽4に対して洗濯物Qを出し入れする。
【0024】
洗濯槽4は、外槽3内に同軸状で収容され、上下方向Zおよび水平方向Hに対して斜めに配置される。外槽3内に収容された状態の洗濯槽4は、中心軸線20まわりに回転可能である。洗濯槽4の円周壁4Aおよび底壁4Bには、図示しない貫通孔が複数形成され、外槽3内の水は、当該貫通孔を介して、外槽3と洗濯槽4との間で行き来できる。そのため、外槽3内の水位と洗濯槽4内の水位とは一致する。また、洗剤収容室17から流れ出た水は、洗濯槽4の出入口21を通って、洗濯槽4内に上方Z1から直接供給される。
【0025】
洗濯槽4の底壁4Bは、外槽3の底壁3Bに対して上方Z1に間隔を隔てて略平行に延びる円板状に形成され、底壁4Bにおいて中心軸線20と一致する円中心位置には、底壁4Bを貫通する貫通孔4Cが形成される。底壁4Bには、貫通孔4Cを取り囲みつつ中心軸線20に沿って下方Z2へ延び出た管状の支持軸22が設けられる。支持軸22は、外槽3の底壁3Bの貫通孔3Dに挿通されて、支持軸22の下端部は、底壁3Bよりも下方Z2に位置する。
【0026】
撹拌部材5は、いわゆるパルセータであり、中心軸線20を円中心とする円盤状に形成され、洗濯槽4内において底壁4Bに沿って洗濯槽4と同心状に配置される。撹拌部材5において洗濯槽4の出入口21を下方Z2から臨む上面には、放射状に配置される複数の羽根5Aが設けられる。撹拌部材5には、その円中心から中心軸線20に沿って下方Z2へ延びる回転軸23が設けられる。回転軸23は、支持軸22の中空部分に挿通されて、回転軸23の下端部は、外槽3の底壁3Bよりも下方Z2に位置する。
【0027】
本実施形態では、モータ6は、インバータモータによって構成される。モータ6は、筐体2内において、外槽3の下方Z2に配置される。モータ6は、中心軸線20を中心として回転する出力軸24を有する。伝達機構7は、支持軸22および回転軸23のそれぞれの下端部と、出力軸24の上端部との間に介在される。伝達機構7は、モータ6が出力軸24から出力する駆動力を、支持軸22および回転軸23の一方または両方に対して選択的に伝達する。伝達機構7として、公知のものが用いられる。
【0028】
モータ6からの駆動力が支持軸22および回転軸23に伝達されると、洗濯槽4および撹拌部材5が中心軸線20まわりに回転する。洗濯槽4および撹拌部材5の回転方向は、洗濯槽4の周方向Sと一致する。
【0029】
図2は、洗濯機1の電気的構成を示すブロック図である。図2を参照して、洗濯機1は、実行手段および受付手段としてのマイクロコンピュータ30を含む。マイクロコンピュータ30は、たとえば、CPUと、ROMやRAMなどのメモリ部とを含み、筐体2内に配置される(図1参照)。
【0030】
洗濯機1は、水位センサ31と、回転センサ32と、ブザー33とをさらに含む。水位センサ31、回転センサ32およびブザー33ならびに前述した操作部10Aおよび表示部10Bのそれぞれは、マイクロコンピュータ30に対して電気的に接続される。モータ6、伝達機構7、給水弁14、柔軟剤供給弁16および排水弁19のそれぞれは、駆動回路34を介して、マイクロコンピュータ30に対して電気的に接続される。
【0031】
水位センサ31は、外槽3および洗濯槽4の水位、換言すれば、洗濯槽4内の水量を検知するセンサであり、水位センサ31の検知結果は、リアルタイムでマイクロコンピュータ30に入力される。
【0032】
回転センサ32は、モータ6の回転数、厳密には、モータ6における出力軸24の回転数を読み取る装置であり、たとえば、複数のホールIC(図示せず)で構成される。回転センサ32が読み取った回転数は、リアルタイムでマイクロコンピュータ30に入力される。マイクロコンピュータ30は、入力された回転数に基づいて、モータ6のON・OFF、詳しくはモータ6に印加される電圧のデューティ比を制御して、モータ6が所望の回転数で回転するようにモータ6の回転を制御する。この実施形態では、モータ6の回転数は、洗濯槽4および撹拌部材5のそれぞれの回転数と同じである。また、マイクロコンピュータ30は、モータ6の回転方向を制御することもできる。そのため、モータ6は、正回転したり、逆回転したりすることができる。この実施形態では、モータ6の出力軸24の回転方向は、洗濯槽4および撹拌部材5のそれぞれの回転方向と一致する。たとえば、モータ6が正回転すると、洗濯槽4および撹拌部材5は、上方Z1から見て平面視で時計回りに回転し、モータ6が逆回転すると、洗濯槽4および撹拌部材5は、平面視で反時計回りに回転する。
【0033】
前述したように使用者が操作部10Aを操作して洗濯運転の運転条件などについて選択すると、マイクロコンピュータ30は、その選択を受け付ける。マイクロコンピュータ30は、必要な情報を表示部10Bに使用者に対して目視可能に表示する。マイクロコンピュータ30は、所定の音をブザー33によって発生させることによって、洗濯運転の開始や終了などを使用者に知らせる。
【0034】
マイクロコンピュータ30は、伝達機構7を制御することによって、モータ6の駆動力の伝達先を支持軸22および回転軸23の一方または両方へと切り替える。マイクロコンピュータ30は、給水弁14、柔軟剤供給弁16および排水弁19の開閉を制御する。そのため、マイクロコンピュータ30は、給水弁14を開くことによって洗濯槽4に給水でき、柔軟剤供給弁16を開くことによって洗濯槽4に柔軟剤を供給でき、排水弁19を開くことによって洗濯槽4の排水を実行できる。
【0035】
次に、図3のフローチャートを参照して、洗濯機1においてマイクロコンピュータ30が実行する洗濯運転について説明する。洗濯運転は、洗濯物Qを洗う洗い工程と、洗い工程の後に洗濯物Qをすすぐすすぎ工程と、洗濯物Qを脱水する脱水工程とで構成される。脱水工程は、洗濯運転の最後に実行される最終脱水工程と、少なくとも洗い工程の直後に実行される中間脱水工程とを含む。なお、洗濯運転では、水道水だけが用いられてもよいし、必要に応じて風呂水も用いられてもよい。
【0036】
洗濯運転には、複数のコースが設定される。複数のコースには、一般的によく選ばれる「標準コース」や、「デリケートコース」や、標準コースやデリケートコースとは異なる所定コースである「やさしくコース」などが含まれる。デリケートコースは、ドライコースとも呼ばれ、標準コースで洗濯される洗濯物Qよりもデリケートな洗濯物Qの洗濯のために設定されたコースである。デリケートコースの対象となるデリケートな洗濯物Qの具体例として、いわゆる「手洗い」や「ドライ」のマークが表示されたウールやシルクなどのおしゃれ着が挙げられる。
【0037】
やさしくコースは、デリケートコースの対象となるほどデリケートではないものの標準コースで繰り返し洗濯すると傷む虞がある洗濯物Qを、やさしく、且つ、デリケートコースよりも効果的に洗浄するために設定されたコースである。やさしくコースの対象となる洗濯物Qの具体例として、いわゆる「弱洗い」のマークが表示された衣類や、デリケートではないお気に入りの衣類のうち、汚れが少なくて軽く洗濯したいものなどが挙げられる。
【0038】
マイクロコンピュータ30に設けられたメモリ部(図示せず)には、標準コースの運転条件をまとめたテーブル40や、やさしくコースの運転条件をまとめたテーブル41や、デリケートコースの運転条件をまとめたテーブル42が記憶される(後述する図5図7参照)。
【0039】
洗濯機1の使用者は、操作部10Aを操作することにより、複数のコースのいずれかを選択することができる。マイクロコンピュータ30は、使用者による操作部10Aに応じて、コースの選択を受け付け、受け付けたコースでの洗濯運転を実行する。
【0040】
マイクロコンピュータ30は、洗濯運転の開始に応じて、洗濯槽4内の洗濯物Qの量を負荷量として検知する(ステップS1)。具体的には、マイクロコンピュータ30は、洗濯槽4を低速で定常回転させたときのモータ6の回転数のばらつきによって負荷量を検知する。負荷量の単位はkgである。マイクロコンピュータ30は、検知した負荷量に応じた洗濯運転の期間や洗剤の必要量などを表示部10Bに表示する。また、マイクロコンピュータ30は、検知した負荷量に応じた運転条件を決定する。
【0041】
次に、マイクロコンピュータ30は、洗い工程を実行する(ステップS2)。洗い工程において、マイクロコンピュータ30は、排水弁19が閉じた状態で給水弁14を開いて洗濯槽4に給水する。洗濯槽4内に所定の水量まで水が溜まると、マイクロコンピュータ30は、給水弁14を閉じて給水を停止する。その後、マイクロコンピュータ30は、所定の洗い期間において、洗濯槽4を静止させた状態で、ONおよびOFFが交互に繰り返されるようにモータ6の回転を制御して撹拌部材5を交互に回転させたり停止させたりする。これにより、洗い工程では、洗濯槽4に所定の水量まで水が溜まった状態で撹拌部材5が周期的に間欠回転する。洗濯槽4内の洗濯物Qは、間欠回転する撹拌部材5の羽根5Aに触れたり、間欠回転する撹拌部材5が洗濯槽4内に発生させた水流に乗ったりすることによって撹拌される。このように間欠回転する撹拌部材5や水流による機械力が洗濯物Qを撹拌することによって洗濯物Qから汚れが除去されるので、洗濯物Qを洗浄できる。また、洗濯槽4内の洗濯物Qは、洗濯槽4内に投入された洗剤によって汚れが分解される。これによっても、洗濯槽4内の洗濯物Qが洗浄される。
【0042】
図4は、洗い工程におけるモータ6の回転数を示すタイムチャートである。図4のタイムチャートでは、横軸が経過時間を示し、縦軸がモータ6の回転数を示す。回転数の単位はrpmである。図4のタイムチャートでは、標準コースでのモータ6の回転数の経時変化を示す波形が太い破線で示され、やさしくコースでのモータ6の回転数の経時変化を示す波形が太い実線で示される。モータ6の正回転、この正回転の停止、モータ6の逆回転およびこの逆回転の停止という一連の流れが、各コースにおける撹拌部材5の間欠回転の1周期を構成する。なお、正回転および逆回転のそれぞれにおいて、モータ6の回転方向が逆であるものの、モータ6の回転数は、いずれの回転方向でも正の値である。
【0043】
通常コース、やさしくコースおよびデリケートコースのそれぞれのコースでの撹拌部材5の間欠回転の各周期において、モータ6がONになって正回転する時間をT1onと呼び、次にモータ6がOFFになって停止した時間をT1offと呼び、次にモータ6がONになって逆回転する時間をT2onと呼び、次にモータ6がOFFになって停止した時間をT2offと呼ぶことにする。また、各周期において、正回転時におけるモータ6の最大回転数をMax1と呼び、逆回転時におけるモータ6の最大回転数をMax2と呼ぶことにする。T1onとT1offとT2onとT2offとの合計が、各コースの1周期である。モータ6は、T1onにおいて、Max1まで加速してからMax1で定常回転した後に、T1offにおいて、回転数が零になるまで減速してからしばらく停止する。その後、モータ6は、T2onにおいて、Max2まで加速してからMax2で定常回転した後に、T2offにおいて、回転数が零になるまで減速してからしばらく停止する。
【0044】
標準コースでの洗い工程に関するデータをまとめたテーブル40を示す図5を参照して、この実施形態の標準コースでは、T1onとT2onとが同じ値であって「ON時間」と総称され、T1offとT2offとが同じ値であって「OFF時間」と総称され、Max1とMax2とが同じ値であって「最大回転数」と総称される。停止状態から最大回転数までの立ち上がるときのモータ6の加速度は「モータ加速度」と呼ばれる。ON時間およびOFF時間のそれぞれの単位は秒(s)であり、モータ加速度の単位はrpm/20msである。テーブル40では、洗い工程で洗濯槽4に溜める水の水量と、ON時間と、OFF時間と、最大回転数と、モータ加速度とを含む運転条件が、負荷量毎に定められて記憶される。水量の単位はリットル(L)である。ON時間とOFF時間とモータ回転数とモータ加速度とは、洗い工程における水流の強さを示すパラメータであり、テーブル40には、水量と水流の強さとが、負荷量毎に定められて記憶される。マイクロコンピュータ30は、ステップS1で得られた負荷量に応じた運転条件で、標準コースの洗い工程を実行する。なお、テーブル40には、標準コースの洗濯運転における洗い工程後の各工程についての運転条件(図示せず)も記憶される。
【0045】
やさしくコースでの洗い工程に関するデータをまとめたテーブル41を示す図6を参照して、この実施形態のやさしくコースでは、T1onとT2onとが同じ値であって「ON時間」と総称され、T1offとT2offとが同じ値であって「OFF時間」と総称され、Max1とMax2とが同じ値であって「最大回転数」と総称される。テーブル41では、テーブル40と同様に、洗い工程で洗濯槽4に溜める水の水量と、ON時間と、OFF時間と、最大回転数と、停止状態から最大回転数までのモータ加速度とを含む運転条件が、負荷量毎に定められて記憶される。マイクロコンピュータ30は、ステップS1で得られた負荷量に応じた運転条件で、やさしくコースの洗い工程を実行する。なお、テーブル41には、やさしくコースの洗濯運転における洗い工程後の各工程についての運転条件(図示せず)も記憶される。
【0046】
デリケートコースでの洗い工程に関するデータをまとめたテーブル42を示す図7を参照して、デリケートコースでも、洗い工程で洗濯槽4に溜める水の水量と、ON時間と、OFF時間と、最大回転数と、モータ加速度とを含む運転条件が、テーブル40やテーブル41と同様に、負荷量毎に定められてテーブル42に記憶される。マイクロコンピュータ30は、ステップS1で得られた負荷量に応じた運転条件で、デリケートコースの洗い工程を実行する。なお、テーブル42には、デリケートコースの洗濯運転における洗い工程後の各工程についての運転条件(図示せず)も記憶される。
【0047】
洗い工程において撹拌部材5の間欠回転が継続される洗い期間は、この実施形態では、いずれのコースでも7分である(図4参照)。各コースにおいて、ON時間とOFF時間との合計は、モータ6の回転とその後の停止とで構成される1回の間欠処理に要する時間であり、1周期の半分に相当し、1周期は、正回転での1回の間欠処理と、逆回転での1回の間欠処理とで構成される(図4参照)。7分間で間欠処理が繰り返される回数である反復回数は、7分を秒の単位に変換してからON時間とOFF時間との合計で割ることで得られる。各間欠処理においてモータ6が停止状態から最大回転数に到達するまでに要する時間である加速時間は、最大回転数をモータ加速度で割ることによって算出され、その単位は秒(s)である。
【0048】
各コースにおいて、モータ6の回転数は、それぞれの間欠処理において、横軸を上底または下底とする台形状の波形を描くのだが(図4参照)、この台形部分の面積である積算面積は、1つの台形部分につき、以下の式(1)で得られる。積算面積の単位は、rpm・sである。ちなみに、式(1)では、前提として、加速時間と、ON時間経過後に最大回転数から零までモータ6が減速するのに要する減速時間とは同じである。
積算面積=((ON時間−加速時間)・最大回転数)+(加速時間・最大回転数)
…式(1)
【0049】
各コースにおいて、式(1)で得られた積算面積に反復回数を乗じて得られた値は、7分の洗い期間内での全ての台形部分の積算面積の合計を示す総積算面積である。なお、総積算面積は、経過時間を変数として回転数の波形を示す数式を積分することによっても得られる。総積算面積は、洗い期間内での撹拌部材5の間欠回転によって洗濯槽4内の洗濯物Qにかかる全体の機械力の指標であるとともに、洗い工程全体における洗濯物Qの洗浄効果の指標でもある。総積算面積が大きい程、洗浄効果も高まるが、機械力が大きくなるので、丈夫でない洗濯物Qには傷みが発生し得る。
【0050】
各コースでは、反復回数と、加速時間と、積算面積と、総積算面積とは、負荷量毎に算出される。これらのデータは、テーブル40〜42に記憶されてもよい(図5図7参照)。なお、テーブル40〜42のそれぞれの右端の欄には、総積算面積を最大回転数で割って得られた値が負荷量毎に記憶される。
【0051】
図5の標準コースのテーブル40と図6のやさしくコースのテーブル41とを同じ負荷量毎に見比べればわかるように、やさしくコースの水量は、いずれの負荷量の場合でも、標準コースの水量よりも10%以上多い。また、撹拌部材5の間欠回転の1周期のデータに関し、やさしくコースのON時間は、いずれの負荷量の場合でも、標準コースのON時間よりも1秒以上長い。また、やさしくコースのOFF時間は、いずれの負荷量の場合でも、標準コースのOFF時間よりも1秒以上長い。やさしくコースの最大回転数は、いずれの負荷量の場合でも、標準コースの最大回転数よりも低く、標準コースの最大回転数の50%以上90%以下である。やさしくコースのモータ加速度は、いずれの負荷量の場合でも、標準コースのモータ加速度よりも10%以上小さい。そのため、いずれの負荷量の場合でも、反復回数については、やさしくコースが標準コースよりも少なくなる。
【0052】
デリケートコースの最大負荷量は1.5kgである。図6のやさしくコースのテーブル41と図7のデリケートコースのテーブル42とで同じ負荷量を見比べればわかるように、1.5kgの負荷量の場合、デリケートコースの水量は、やさしくコースおよび標準コースよりも多い。撹拌部材5の間欠回転の1周期のデータに関し、デリケートコースのON時間は、1.5kg以下の負荷量の場合、やさしくコースのON時間よりも1秒以上長い。また、デリケートコースのOFF時間は、1.5kg以下の負荷量の場合、やさしくコースのOFF時間よりも2秒程度長い。デリケートコースの最大回転数は、いずれの負荷量の場合でも200rpmであって、やさしくコースの最大回転数よりも約50%以上低い。ちなみに、デリケートコースにおける200rpmという最大回転数は、洗濯物Qを傷めずにかろうじて水流を発生させる程度に低くなるように定められた値である。デリケートコースのモータ加速度は、いずれの負荷量の場合でも、やさしくコースのモータ加速度以下である。
【0053】
図8は、洗い工程における総積算面積比および最大回転数比のそれぞれと負荷量との関係を示すグラフである。図8のグラフでは、横軸が負荷量を示し、縦軸が総積算面積比および最大回転数比を示す。総積算面積比とは、標準コースでの総積算面積を100%とした場合における標準コースに対するデリケートコースおよびやさしくコースのそれぞれの総積算面積の割合を%で示したものである。最大回転数比とは、標準コースでの最大回転数を100%とした場合における標準コースに対するデリケートコースおよびやさしくコースのそれぞれの最大回転数の割合を%で示したものである。
【0054】
図8を参照して、洗浄効果と機械力による洗濯物Qへの負担とを示す指標である総積算面積について、デリケートコースは、1点鎖線で示すように、1.5kg以下の負荷量の場合、最大でも標準コースの30%程度である。また、最大回転数について、デリケートコースは、2点鎖線で示すように、1.5kg以下の負荷量の場合、最大でも標準コースの35%程度である。つまり、デリケートコースの洗い工程におけるモータ6の最大回転数は、同じ負荷量毎に比較した場合に、標準コースよりも低く設定される。デリケートな洗濯物Qの場合には、機械力が弱いデリケートコースによって、洗濯運転の際に傷みが生じることを抑制しつつ効果的に洗浄できる。デリケートコースでは、洗濯物Qは、洗濯槽4に溜まった水につけおきされた状態で、低速回転する撹拌部材5によって優しく押し洗いされる。柔らかいデリケートな洗濯物Qであれば、デリケートコースにおいて、傷まずに効果的に洗浄できるが、やさしくコースで対象となる洗濯物Qをデリケートコースで洗浄しても、デリケートな洗濯物Qほどの高い洗浄効果を得ることは困難である。
【0055】
やさしくコースでは、対象となる洗濯物Qを、標準コースよりもやさしく且つデリケートコースよりも効果的に洗浄できることが目標である。そこで、洗い期間が他のコースと同様に7分であってもこの目標が達成できるように、総積算面積は、実線で示すように、標準コースの50%以上90%の範囲に収まるように設定され、総積算面積から逆算することによって、ON時間やOFF時間や最大回転数やモータ加速度といった運転条件が算出される。これにより、最大回転数は、破線で示すように、標準コースの50%以上90%の範囲に収まるように設定される。好ましくは、やさしくコースでは、最大回転数比が90%以下且つ総積算面積比が50%以上であれば、前述した目標を確実に達成できる。
【0056】
以上により、洗濯機1では、標準コースだと傷みが生じ得るがデリケートコースでは効果的に洗浄できないようなデリケートでない洗濯物Qの場合には、標準コースやデリケートコースとは異なるやさしくコースを選択できる。マイクロコンピュータ30は、やさしくコースの選択を受け付けた場合に、やさしくコースの洗い工程において、やさしくコース専用の運転条件(図6参照)で撹拌部材5を間欠回転させる。
【0057】
具体的には、図5図7を参照して、やさしくコースの洗い工程の運転条件では、洗濯槽4内の水量が、同じ負荷量毎に比較した場合に、標準コースよりも多く設定される。これにより、洗濯槽4内では、溜まった水が多いことによって、洗濯物Q同士が互いに擦れ合うことを抑制できるので、洗濯物Qに傷みが生じることを抑制できる。また、やさしくコースの洗い工程の運転条件では、モータ6の最大回転数が、同じ負荷量毎に比較した場合に、標準コースよりも低く且つデリケートコースよりも高いので、洗濯物Qにかかる機械力が標準コースよりも弱く且つデリケートコースよりも強い。そのため、標準コースだと生じ得る傷みが洗濯物Qに生じることを抑制しつつ、デリケートコースよりも効果的に洗濯物Qを洗浄できる。なお、やさしくコースでは、洗濯物Qを効果的に撹拌させる比較的強い水流を発生させるために、最大回転数は、最低でも450rpm程度であることが好ましい(図6参照)。
【0058】
また、やさしくコースの洗い工程の運転条件では、撹拌部材5の間欠回転の各周期でモータ6が回転する期間であるON時間が、同じ負荷量毎に比較した場合に、標準コースよりも長い。これにより、長いON時間における撹拌部材5の回転によって洗濯槽4内での洗濯物Qの位置の入れ替えが促進される。そのため、効果的に洗濯物Qを洗浄できる。
【0059】
また、やさしくコースの洗い工程の運転条件では、撹拌部材5の間欠回転の各周期でモータ6の回転が停止した期間であるOFF時間が、同じ負荷量毎に比較した場合に、標準コースよりも長い。これにより、洗濯物Qにかかる機械力が標準コースよりも弱い。また、このように長くなったOFF時間では、洗濯物Qに洗剤を効果的に浸透させることができる。そのため、やさしくコースの洗い工程では、洗濯物Qに傷みが生じることを抑制しつつ、効果的に洗濯物Qを洗浄できる。
【0060】
また、やさしくコースの洗い工程の運転条件では、撹拌部材5の間欠回転の各周期における最大回転数までのモータ6の加速度であるモータ加速度が、同じ負荷量毎に比較した場合に、標準コースよりも低い。そのため、モータの加速中に洗濯物Qにかかる機械力が標準コースよりも弱い。そのため、やさしくコースの洗い工程では、洗濯物Qに傷みが生じることを抑制できる。
【0061】
図3を参照して、いずれのコースにおいても、洗い期間が経過すると、マイクロコンピュータ30は、モータ6をOFFにして撹拌部材5の回転を停止して、排水弁19を開く。これにより、洗濯槽4に溜まった水が外槽3の排水路18から機外に排出されて、ステップS2の洗い工程が終わる。なお、洗い工程が終わった段階では、洗濯物Qには、洗剤が溶けた水が、洗剤水として染み込んだ状態にある。以降での洗濯運転の説明の際に、図9のタイムチャートもあわせて参照する。図9のタイムチャートでは、横軸が経過時間を示し、縦軸が、上から順に、モータ6の回転数、モータ6のON・OFF状態および給水弁14のON・OFF状態を示す。
【0062】
マイクロコンピュータ30は、洗い工程の直後に中間脱水工程を実行する(ステップS3)。中間脱水工程において、マイクロコンピュータ30は、排水弁19を開いたままにしてモータ6の回転を制御して洗濯槽4および撹拌部材5を一体回転させる。洗濯槽4および撹拌部材5の回転により、洗濯槽4内の洗濯物Qには遠心力が作用するので、洗濯物Qが脱水される。脱水により洗濯物Qから染み出た水は、外槽3の排水路18から機外に排出される。
【0063】
中間脱水工程の詳細について説明すると、マイクロコンピュータ30は、0rpmから120rpmいう第1回転数までモータ6の回転数を加速させてから、低速の120rpmでモータ6を定常回転させる。第1回転数は、洗濯槽4の横共振が発生する回転数(たとえば50rpm〜60rpm)よりも高く、かつ、洗濯槽4の縦共振が発生する回転数(たとえば200rpm〜220rpm)よりも低い。120rpmでの定常回転の後、マイクロコンピュータ30は、モータ6の回転数を、120rpmから、240rpmという第2の回転数まで加速させてから、低速の240rpmでモータ6を定常回転させる。第2の回転数は、縦共振が発生する回転数よりも若干高い。その後、マイクロコンピュータ30は、モータ6の回転数を、240rpmから、400rpmまたは800rpmの最大回転数まで加速させてから、最大回転数でモータ6を定常回転させる。
【0064】
つまり、中間脱水工程において、マイクロコンピュータ30は、0rpmから120rpmまでの第1加速段階と、120rpmから240rpmまでの第2加速段階と、240rpmから最大回転数までの第3加速段階との3段階でモータ6の回転を加速させる。このような場合と異なり、モータ6を0rpmから最大回転数まで一気に加速させると、洗濯物Qから多量の水が一度に染み出ることによって排水路18における排水状態が悪くなったり、排水路18に泡が噛んだりする虞がある。しかし、この実施形態では、洗濯物Qから多量の水が一度に染み出ないようにモータ6を段階的に加速させるので、このような不具合を防止できる。マイクロコンピュータ30は、中間脱水工程の最後に、モータ6の回転にブレーキをかけてモータ6の回転を停止させた後に、排水弁19を閉じる。ここでのブレーキとして、マイクロコンピュータ30がデューティ比を制御してモータ6の回転を急停止させてもよいし、ブレーキ装置(図示せず)を別途設けてマイクロコンピュータ30がブレーキ装置を作動させることによってモータ6の回転を急停止させてもよい。
【0065】
マイクロコンピュータ30は、中間脱水工程の直後に給水工程を実行する(ステップS4)。給水工程において、マイクロコンピュータ30は、モータ6をONにして駆動させることと、OFFにして停止させることとを交互に繰り返すことによって、洗濯槽4を極低速で間欠回転させる。詳しくは、モータ6の回転数は、0rpmから30rpmまでの上昇と、30rpmから0rpmまでの下降とを交互に繰り返すように変動する。
【0066】
ここでの30rpmは、一例であり、要は、給水工程におけるモータ6の回転数は、洗濯槽4の共振が発生する最低回転数よりも低ければよい。この最低回転数は、洗濯槽4のサイズによって異なるが、この実施形態の場合、洗濯槽4の横共振が発生する回転数であって、前述した50rpm〜60rpmである。
【0067】
また、給水工程において、マイクロコンピュータ30は、給水弁14を交互にONにして開くことと、OFFにして閉じることとを交互に繰り返すことによって、洗濯槽4に間欠給水する。給水弁14のON・OFFのタイミングとモータ6のON・OFFのタイミングとは一致する。そのため、モータ6がONである期間に給水弁14もONになり、モータ6がOFFである期間に給水弁14もOFFになる。給水工程では、洗濯槽4の間欠回転と間欠給水とが同じタイミングで実行されるので、洗濯槽4が極低速回転する間に、洗濯槽4内の洗濯物Qに給水路13から水が浴びせられる。このとき、給水路13からの水は、前述したシャワー状で洗濯物Qに供給される。このようなシャワー状の水の供給は、「シャワー給水」とも呼ばれる。給水工程では、洗濯物Qに水が染み込む程度に洗濯槽4に少量の給水が行われるので、洗濯槽4内には、ほとんど水が溜まらない。
【0068】
マイクロコンピュータ30は、給水工程の直後に、前述したステップS3と同じ内容の中間脱水工程を再度実行する(ステップS5)。ここでの中間脱水工程により、洗濯槽4内の洗濯物Qが遠心脱水される。これにより、洗濯物Qに浸透した洗剤水を、給水工程で給水した水と共に飛ばして取り除くことができる。
【0069】
ステップS4の給水工程と、給水工程の直後におけるステップS5の中間脱水工程とは、1回の脱水すすぎ工程を構成する。脱水すすぎ工程は、すすぎ工程の一種である。なお、脱水すすぎ工程では、洗濯槽4は回転されるものの、撹拌部材5は静止した状態にある。
【0070】
マイクロコンピュータ30は、脱水すすぎ工程の直後に、溜めすすぎ工程を1回実行する(ステップS6)。溜めすすぎ工程は、すすぎ工程の一種である。溜めすすぎ工程の最初の段階における給水工程として、マイクロコンピュータ30は、排水弁19が閉じた状態で給水弁14を所定時間連続して開いて洗濯槽4に給水する。たとえば洗濯物Qが水面よりも下方Z2に位置する所定水位まで洗濯槽4内に水が溜まると、マイクロコンピュータ30は、給水弁14を閉じて給水を停止する。
【0071】
そして、マイクロコンピュータ30は、洗濯槽4内に当該所定水位まで水が溜まった状態で、溜めすすぎ工程におけるすすぎ工程として、モータ6を所定時間駆動させて撹拌部材5を間欠回転させる。このような溜めすすぎ工程において、洗濯槽4内の洗濯物Qは、水に浸った状態で、回転する撹拌部材5の羽根5Aに撹拌されることによって、すすがれる。その後、マイクロコンピュータ30は、モータ6の駆動を停止し、排水弁19を開く。これにより、溜めすすぎ工程の最後の段階における排水工程として、洗濯槽4に溜まった水が外槽3の排水路18から機外に排出される。溜めすすぎ工程が終わった段階では、洗濯物Qは完全にすすがれた状態にあり、洗濯物Qには洗剤成分がほとんど存在しない。
【0072】
マイクロコンピュータ30は、溜めすすぎ工程の直後に、最終脱水工程を実行する(ステップS7)。最終脱水工程において、マイクロコンピュータ30は、排水弁19を開いたままにしてモータ6を所定時間駆動させて、洗濯槽4および撹拌部材5を一体回転させる。最終脱水工程は、ステップS3およびS5の中間脱水工程とほぼ同じ内容であるが、最終脱水工程において第3加速段階後に最大回転数でモータ6を定常回転させる時間は、中間脱水工程よりも長い。最終脱水工程において、マイクロコンピュータ30は、第1加速段階と第2加速段階と第3加速段階との3段階でモータ6の回転を加速させる。これにより、洗濯槽4内の洗濯物Qには、遠心力が作用するので、洗濯物Qが本格的に脱水される。脱水により洗濯物Qから染み出た水は、外槽3の排水路18から機外に排出される。最終脱水工程が終了することにより、各コースの洗濯運転が終了する。
【0073】
以上のように、マイクロコンピュータ30は、洗濯槽4に給水したり、洗濯槽4の排水をしたり、モータ6の回転を制御して洗濯槽4や撹拌部材5を回転させたりすることによって、洗濯運転を実行する。
【0074】
そして、中間脱水工程および最終脱水工程のそれぞれの脱水工程における最大回転数は、標準コースでは800rpm(図9の太い破線参照)であり、やさしくコースでは400rpm(図9の太い実線参照)である。そのため、マイクロコンピュータ30は、中間脱水工程および最終脱水工程のそれぞれにおいて、3段階でモータ6の回転を加速させるが、やさしくコースでは、標準コースとは異なり、第3加速段階において240rpmから400rpmまでしかモータ6の回転を加速させない。そのため、やさしくコースの場合、第3加速段階後には、マイクロコンピュータ30は、中速の400rpmでモータ6を定常回転させる。このように、マイクロコンピュータ30は、やさしくコースの脱水工程において、モータ6の最大回転数が標準コースよりも低いという運転条件で、洗濯槽4を回転させる。この場合、脱水工程でのモータ6の回転中において洗濯物Qにかかる力が標準コースよりも弱い。そのため、やさしくコースの脱水工程では、洗濯物Qに傷みが生じることを抑制できる。ただし、第3加速段階において240rpmから400rpmまでモータ6の回転を加速する以外では、中間脱水工程および最終脱水工程のそれぞれの内容は、やさしくコースと標準コースとで同じである。
【0075】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0076】
たとえば、前述した実施形態において、各コースの洗い工程においてモータ6の正回転と逆回転とが交互に繰り返され、正回転、この正回転の停止、逆回転およびこの逆回転の停止という一連の流れが、撹拌部材5の間欠回転の1周期を構成する(図4参照)。ここでの1周期の定義は、あくまで一例なので、正回転とこの正回転の停止という流れで構成された1回の間欠処理を1周期とみなし、その後の逆回転とこの逆回転の停止という流れで構成された1回の間欠処理を次の1周期とみなしてもよい。また、正回転と逆回転とが交互に繰り返されるのではなく、正回転および逆回転のどちらかだけが繰り返されてもよい。
【0077】
また、前述した実施形態では、T1onとT2onとが同じ値であり、T1offとT2offとが同じ値であるが、T1onとT2onとが異なる値であったり、T1offとT2offとが異なる値であったりしてもよい。同様に、Max1とMax2とが異なる値であってもよい。
【0078】
また、各コースの洗濯運転において、脱水すすぎ工程やためすすぎ工程の回数は、任意に変更できる。
【0079】
また、洗濯機1では、外槽3および洗濯槽4の中心軸線20が傾斜方向Kに延びるように配置されるが(図1参照)、上下方向Zに延びるように配置されても構わない。
【符号の説明】
【0080】
1 洗濯機
4 洗濯槽
5 撹拌部材
6 モータ
10A 操作部
30 マイクロコンピュータ
Q 洗濯物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9