(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522412
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】平ベルト
(51)【国際特許分類】
B65G 15/34 20060101AFI20190520BHJP
【FI】
B65G15/34
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-93188(P2015-93188)
(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公開番号】特開2016-210532(P2016-210532A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100182796
【弁理士】
【氏名又は名称】津島 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100181308
【弁理士】
【氏名又は名称】早稲田 茂之
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 謙介
(72)【発明者】
【氏名】城尾 将文
【審査官】
福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−067367(JP,A)
【文献】
特開2000−309414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの長手方向に延びる芯体織布と、
この芯体織布の一方の面に設けたエラストマー層と、
前記芯体織布の他方の面に設けた織布と
を備え、
前記織布は、厚さが0.3mm以下で、空隙率が70%以下のタフタ織布であることを特徴とする平ベルト。
【請求項2】
前記織布は、表面の動摩擦係数が0.18以下である請求項1に記載の平ベルト。
【請求項3】
前記織布は、表面の静摩擦係数が0.25以下である請求項1または2に記載の平ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置、動力伝達装置等に用いられる平ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ベルトコンベアは、粉体や食品の搬送に広く使用されている。このようなベルトコンベアでは、
図2に示すように、無端状に形成された平ベルト10が、駆動プーリ110および従動プーリ120間に巻き掛けられている。平ベルト10は、駆動プーリ110の動力が摩擦伝導され、駆動プーリ110および従動プーリ120間において、被搬送物140が載置される部分を支持するテーブル130上を、テーブル130に摺接しながら走行する。
【0003】
平ベルト10は、通常、テーブル130との摩擦を考慮して、テーブル130と摺接する内周面に織布(帆布)が接着されている。そのため、この平ベルトを用いて粉体や食品を搬送した場合、粉体とその破砕片、食品の油分、液汁等の異物が平ベルト10の搬送面から裏側(ベルト内周面側)に回り込み、駆動プーリ110および従動プーリ120とテーブル130との圧接によって平ベルト10の内周面にある織布に強くすり込まれてしまう。このようにして織布内に侵入した異物は、織布の糸と糸との隙間等に入り込んで、糸をベルトの厚さ方向に伸ばしてしまい、その結果としてベルトの内周面側がベルト長手方向に収縮するという問題がある。
ベルトの内周面側だけが収縮すると、ベルトが走行時に蛇行する原因となる。また、ベルトの張力が増加するため、駆動プーリ110および従動プーリ120の軸受や軸に対する負荷が増大し破損の原因となる。さらに、一度取り外したベルトを再度プーリに装着できないという問題もある。
【0004】
異物がベルト内周面の織布内に侵入するのを防止するために、特許文献1には、織布の表面に樹脂層を形成することが提案されている。また、特許文献2には、前記織布として、ベルト長手方向に伸縮性を有する伸縮糸を含む経糸で編んだ帆布を用いて、ベルトの収縮を防止する平ベルトが提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、織布の表面に樹脂を被覆した場合は、ベルト走行時のテーブル130等との間で摩擦が大きくなり、搬送が困難になるという問題がある。
【0006】
一方、特許文献2のように、織布に伸縮糸を使用する場合は、粉体等の異物が侵入してもベルトの収縮を防止することができるとされているが、長期間の使用等によって織布内に異物が多量に集積すると、伸縮機能が損なわれて、ベルトの寿命が短くなり、また伸縮糸を使用するため、製造コストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−309414号公報
【特許文献2】特開2010−269918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、織布内に粉体等の異物が入り込むのを防止し、かつ低摩擦性を実現し、長期にわたって使用することができる平ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)ベルトの長手方向に延びる芯体織布と、この芯体織布の一方の面に設けたエラストマー層と、前記芯体織布の他方の面に設けた織布とを備え、前記織布は、厚さが0.3mm以下であり、空隙率が70%以下であることを特徴とする平ベルト。
(2)前記織布は、表面の動摩擦係数が0.18以下である(1)に記載の平ベルト。
(3)前記織布は、表面の静摩擦係数が0.25以下である(1)または(2)に記載の平ベルト。
(4)前記織布がタフタ織布である(1)〜(3)のいずれかに記載の平ベルト。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、芯体織布の他方の面に設けられる織布は厚さが0.3mm以下と薄く、かつ空隙率が70%以下と少ないので、織布の表面が緻密であり、粉体やその破砕片、食品の油分・肉汁等の異物が殆ど織布内にすり込まれるのが抑制される。そのためベルトの収縮が発生せず、しかも低摩擦であるため、円滑に走行できると共に、長期にわたって使用することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る平ベルトの断面図である。
【
図2】平ベルトを用いたベルトコンベアを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る平ベルト10を示す断面図である。
図1に示すように、平ベルト10は、少なくとも一層の芯体織布20を備え、この芯体織布20の上面にエラストマー層30を設け、芯体織布20の下面に樹脂層40を介して織布50を積層接着したものである。エラストマー層30および織布50は、それぞれ無端状平ベルト10の外周面および内周面を形成する。
【0014】
芯体織布20としては、例えば帆布等が使用可能である。芯体織布20は、平ベルト10の長手方向に沿って延在する経糸20Aと、平ベルト10の幅方向に沿って延在する緯糸20Bとによって織成されたものであり、ベルト長手方向に高い張力(引張力)を有する平ベルト10の芯体である。
【0015】
経糸20Aは、例えばマルチフィラメントであって、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリビニル系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、ポリフルオルカーボン系、含フッ素系等の合成繊維糸が使用される。
緯糸20Bは、例えばスパン糸またはモノフィラメントあって、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリビニル系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、ポリフルオルカーボン系、含フッ素系等の合成繊維糸が使用され、芯体織布20は経糸20Aおよび緯糸20Bが上記の構成から適宜選択されて形成される。
経糸20Aに、伸縮性を有するマルチフィラメントを用いた場合には、平ベルト10の長手方向への伸縮性が確保される。また、緯糸20Bにモノフィラメントを用いた場合には、平ベルト10の幅方向への剛性が確保され、エラストマー層30を薄くすることができ、軽量化が図れる。
また、芯体織布20は一層以上設けてもよい。同一または異なる材質の複数の芯体織布20を接着積層して用いると、平ベルト10の耐性や強度をより向上させることができる。
【0016】
エラストマー層30は、前記芯体織布20の上面(外周面)に接着積層され、平ベルト10の外周面として
図1に示す被搬送物140に接触する。
このエラストマー層30としては、例えば熱可塑性エラストマーがあげられ、必要に応じて各種添加剤が添加されていてもよい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーなどが挙げられこれらは単独で、または混合して使用される。
【0017】
織布50は、平ベルト10の長手方向に延在する経糸50Aと、平ベルト10の幅方向に延在する緯糸50Bとによって織成された織布である。織布50は、芯体織布20の下面に接着積層され、平ベルト10の内周面として
図2に示すように駆動プーリ110、従動プーリ120、支持テーブル130に接触する。
【0018】
織布50としては、厚さが0.3mm以下、好ましくは0.03〜0.4mmであり、空隙率が70%以下である織布が使用される。空隙率は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
このような織布50は、厚さが薄く且つ目が詰まった緻密な組織を有することを意味する。そのため、織布50は、ベルト内への粉体等の異物がすり込まれるのを防止でき、かつプーリや支持テーブルに対して滑りがよくなる。これに対して、厚さが大きい場合は、糸と糸との間に形成される凹部が大きくなり、異物がすりこまれやすくなる。また、空隙率が大きい場合は、糸と糸との間の隙間に異物が侵入しすりこまれやすくなる。上記の厚さおよび空隙率を有する織布50を得るには、例えば、できるだけ径の小さい糸を用いて緻密に織り上げるのが好ましい。
【0019】
また、織布50は、表面の動摩擦係数が0.18以下であり、かつ表面の静摩擦係数が0.25以下であるのがよい。このように織布50が低摩擦係数を有し、滑りがよいのは、主として、前記したように厚さが薄く且つ目が詰まった緻密な組織を有することに起因している。
織布50としては、例えばタフタ織布等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、タフタ織布等の織布50を構成する経糸50Aおよび緯糸50Bとしては、絹の他、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリビニル系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、ポリフルオルカーボン系、含フッ素系等の合成繊維糸などが挙げられる。これらの糸の太さは、織布50の前記厚さより大きくならないようにする。
なお、織布50は、1層に限定されるものではなく、2層またはそれ以上を積層接着したものであってもよい。
【0020】
織布50は、例えば、芯体織布20の内周面に樹脂層40を介して接着積層される。この樹脂層40は接着剤として、織布50と芯体織布20とを接合する機能を有する。樹脂層40としては、織布50と芯体織布20とを接合できる限り特に限定されず、例えば前記した各種熱可塑性エラストマーが使用可能であり、さらにポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等の樹脂を使用してもよい。
【0021】
次に、本実施形態の平ベルト10の製造方法を説明する。まず、所定長さの芯体織布20を用意する。次に、エラストマー層30を構成するエラストマー材を、芯体織布20の片面(ベルト10の外周面側)に含浸または塗布し、硬化させて、芯体織布20とエラストマー層30との積層体を形成する。次に、芯体織布20の他面(ベルト10の内周面側)に樹脂層40を構成する樹脂を含浸又は塗布し、芯体織布20と樹脂層40の積層体と、織布50とを積層し、樹脂を硬化させて樹脂層40を形成する。これにより、ベルト10が製造される。また、織布50の表面に、樹脂層40、芯体織布20およびエラストマー層30をこの順で積層接着してもよい。
なお、無端状の平ベルト10は長片状の平ベルトの両端部を接合して製造してもよい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
経糸および緯糸に、繊度が30デニールの66ナイロンマルチフィラメント糸を使用し、平織りしたタフタ織布(ナイロンタフタ)を準備した。
このナイロンタフタの表面に熱可塑性ポリウレタンからなる樹脂層を介して、ナイロン帆布からなる芯体織布を積層接着し、さらに芯体織布の表面に熱可塑性ポリウレタンを積層接着し、長さ約30000mmの平ベルトを作製した。
【0024】
(実施例2)
経糸および緯糸に、繊度が44デニールの66ナイロンマルチフィラメント糸を使用した他は、実施例1と同様にして、平ベルトを作製した。
【0025】
(比較例1)
経糸および緯糸に、繊度が1000デニールのポリエステルフィラメント糸を使用した帆布を使用した他は、実施例1と同様にして、平ベルトを作製した。
【0026】
実施例1,2で使用したタフタ織布および比較例1で使用した帆布の詳細を表1に示す。
【表1】
(注1)織布および帆布の「厚さ」は、糸の繊度から計算して求めた。
(注2)織布および帆布の「計算質量」は、記式から求めた。
計算質量=糸の比重×100
2×厚さ
(注3)「糸の空間占有率(%)」は、織布または帆布において糸が占有する空間を意味し、下記式から求めた。
糸の空間占有率(%)=(実測質量/計算質量)×100
(注4)「空隙率」は、下記式から求めた。
空隙率(%)=100−糸の空間占有率(%)
【0027】
<摩擦係数の測定>
次に、摩擦係数測定装置(ヘイドン)で、上述した実施例1のナイロンタフタ面、および比較例1の帆布面のそれぞれの摩擦係数を測定した。また、参考のため、実施例1における樹脂面(熱可塑性ポリウレタン面)についても、同様にして摩擦係数を測定した。測定条件は、以下の通りである。
荷重変換器量:19.6133N
DSAアンプレンジ:100%
垂直荷重:500g
サンプリング速度:1ms
試験結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2に示すように、実施例1のナイロンタフタ面の摩擦係数は、運動摩擦係数(μs)および静止摩擦係数(μk)共に比較例1の帆布面より低いことがわかる。なお、実施例1の樹脂面では摩擦力が高いため、樹脂面がテーブルに摺接する形態での搬送ができない。
【0030】
<物理収縮量の比較>
無端状の平ベルトを駆動プーリ(径55mm)とナイフエッジ(先端の曲率半径R:3mm)との間に、取付伸長率0.3%で架け渡した。次いで、薄力粉と油とを5:3で混合した塗着物10mlを注射器で平ベルトの内周面に滴下した。次に、モータ速度1200rpm、ベルト速度3.5m/sで、10分間回転させて平ベルト内周面に塗着物をすり込ませた。
前記平ベルトをそれぞれベルトコンベアから取り外し、内周面に付着した塗着物を拭き取り、試験後の平ベルトの長手方向の周長(L2)を測定した。そして、試験前の長手方向の初期周長(L1)と試験後の周長(L2)とからベルトの収縮率を求めた。その結果を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
表3から、ベルトの内周面がナイロンタフタからなる実施例1は、ベルトの内周面が帆布からなる比較例1と比べて、ベルトの収縮が起こらず、ベルトの収縮防止効果を有していることがわかる。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、ベルト内周面に、特定の厚さと空隙率を有する織布を用いることにより、ベルト内周面からの粉体や食品の油分・肉汁等のすり込みが抑制され、そのため平ベルトの収縮が防止され、しかもベルトの内周面は摩擦係数が低いので、長期にわたり効率的にベルトコンベアを運転することができる。
【0034】
10 平ベルト
20 芯体織布
20A、50A 経糸
20B、50B 緯糸
30 エラストマー層
40 樹脂層
50 織布
100 ベルトコンベア
110 駆動プーリ
120 従動プーリ
130 テーブル
140 被搬送物