(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522423
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】内燃機関の運転方法及びエンジン制御ユニット
(51)【国際特許分類】
F02M 51/00 20060101AFI20190520BHJP
F02M 65/00 20060101ALI20190520BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20190520BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
F02M51/00 A
F02M65/00 306B
F02M65/00 301A
F02M65/00 302
F02M65/00 303
F02M65/00 304
F02M65/00 306Z
F02D41/04 375
F02D45/00 364K
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-107284(P2015-107284)
(22)【出願日】2015年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-230004(P2015-230004A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年12月14日
(31)【優先権主張番号】10 2014 007 963.5
(32)【優先日】2014年6月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510153962
【氏名又は名称】マン・エナジー・ソリューションズ・エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アルミン・ヴェーバー
(72)【発明者】
【氏名】デニス・コヴァレフ
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−133391(JP,A)
【文献】
特開2010−053859(JP,A)
【文献】
特表2011−525595(JP,A)
【文献】
特表2013−543551(JP,A)
【文献】
特開2013−164081(JP,A)
【文献】
特開2009−174535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 51/00
F02M 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶ディーゼル内燃機関、とりわけ重油で運転される船舶ディーゼル内燃機関を運転するための方法であって、燃料供給システム、とりわけコモンレール式燃料供給システムのインジェクタ(1)を用いて、船舶ディーゼル内燃機関のシリンダに燃料を噴射する方法において、
前記インジェクタ(1)において直接的に、前記インジェクタ(1)に割り当てられた圧力センサ(15)を用いて各インジェクタ(1)について個別に圧力信号を測定技術的に検出し、
インジェクタごとの各圧力信号から、各インジェクタ(1)について個別に噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの少なくとも一つの特性値を決定し、
各インジェクタ(1)が個別のインジェクタ・リザーバ容量を有しており、前記圧力センサ(15)を用いて、各インジェクタ(1)について個別の圧力信号として、それぞれのインジェクタ・リザーバ容量のリザーバ圧力信号を測定技術的に検出し、
インジェクタごとの各リザーバ圧力信号から、各インジェクタ(1)について個別に噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値を決定することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記測定技術的に検出するインジェクタごとの圧力信号を時間に関して導きもしくは微分し、
インジェクタごとの微分した圧力信号から、それぞれのインジェクタ噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値を決定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インジェクタごとの前記微分した圧力信号から、それぞれのインジェクタの噴射率が以下の等式:
dm/dt=V×(dp/dt)/c(p)2
を用いて決定され、
上記等式においてdm/dtは噴射率、Vは個別のインジェクタ・リザーバ容量であり、dp/dtは時間tに関して微分されたインジェクタごとの圧力信号であり、c(p)はインジェクタごとの圧力pに応じた音速であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記音速が、測定されたインジェクタごとの圧力に応じて特性曲線又は特性ダイアグラムから求められることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
それぞれのインジェクタの噴射量が、時間に関して噴射率を積分することにより求められることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記インジェクタごとの圧力信号から、各インジェクタ(1)について個別に、それぞれのインジェクタ(1)の噴射サイクルのための液圧ニードルストローク・タイミングの特性値として、噴射開始、及び/又は、液圧最大ストローク到達、及び/又は、液圧最大ストローク離脱、及び/又は、噴射終了が決定されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値に基づいて、機能診断試験及び/又は摩耗診断試験がそれぞれのインジェクタ(1)について実行されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
船舶ディーゼル内燃機関、とりわけ重油で運転される船舶ディーゼル内燃機関のエンジン制御ユニット(16)であって、前記内燃機関が燃料供給システム、とりわけコモンレール式燃料供給システムを有している、エンジン制御ユニット(16)において、
前記エンジン制御ユニット(16)が、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実行するための手段(17、18、19)を有していることを特徴とする、エンジン制御ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のおいて書きにかかる、船舶ディーゼル内燃機関を運転するための方法、及び、前記方法を実行するためのエンジン制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
図1A及び
図1Bは、従来技術より知られている、船舶ディーゼル内燃機関のコモンレール式燃料供給システムの基本的な構造を示すものである。この構造は、特許文献1より知られている。
図1A及び
図1Bのコモンレール式燃料供給システムは、シリンダごとにそれぞれ少なくとも一つのインジェクタ1(
図1A:圧力制御式インジェクション・バルブ、
図1B:ストローク制御式リザーバインジェクタ)を有している。インジェクタ1を介して、シリンダのそれぞれに燃料を噴射可能である。コモンレール式燃料供給システムの低圧領域4から、コモンレール式燃料供給システムの高圧領域6へと燃料を送り込むために、コモンレール式燃料供給システムはさらに、ポンプ装置3を有しており、該ポンプ装置3は、少なくとも一つの低圧ポンプ5、少なくとも一つの高圧ポンプ2、及び高圧ポンプリザーバ8を有しており、高圧領域6においてポンプ装置3とインジェクタ1との間には常時高圧の蓄圧器システム7が設けられている。この常時高圧の蓄圧器システム7はコモンレールとも呼ばれ、複数の貯蔵ユニット9を有している。貯蔵ユニット9は、常時高圧の高圧ライン10を介してポンプ装置3に、及び、互い同士に接続されている。
【0003】
図1A:さらに、蓄圧器7、つまり貯蔵ユニット9は、噴射サイクルに応じて時々高圧下にある高圧ライン11を介してインジェクタ1に接続されている。インジェクタ1を貯蔵ユニット9に接続する、噴射サイクルに応じて時々高圧下にある高圧ライン11には、切替弁12が割り当てられており、これは、噴射サイクルに応じてインジェクタ1に燃料を供給する。蓄圧器7の貯蔵ユニット9の一つには、圧制御弁13及びパージ弁14が割り当てられている。
【0004】
図1B:蓄圧器7、つまり貯蔵ユニット9とインジェクタ1は、常時高圧下にある高圧ライン11を介してさらに接続されている。常時高圧下にあるインジェクタ1内には、切替弁12が組み込まれており、これは、噴射サイクルに応じてノズル制御室21の圧力を開放して噴射を起こす。蓄圧器7の貯蔵ユニット9の一つには、圧制御弁13及びパージ弁14が割り当てられている。
【0005】
そのような船舶ディーゼル内燃機関の運転を正確に制御もしくは調整できるようにするためには、内燃機関の運転中におけるインジェクタのいわゆる噴射率もしくは噴射量を常に正確に求めることが重要である。これに関して、従来そのために知られているのは、インジェクタにニードルストローク・センサを割り当てることのみであり、これらニードルストローク・センサを用いてインジェクタのニードルの機械的なストロークを監視及び評価し、それによりインジェクタの噴射率及び/又は噴射量を求める。しかしながら、ニードルストローク・センサを使用しインジェクタに取り付けることは手間も多くてコストも高くなり、そのため、量産にとってはほとんど実用的ではない。その上、ニードルストローク・センサの耐用年数も内燃機関の運転状況により異なる。とりわけ、重油で運転される船舶ディーゼル内燃機関においては、ニードルストローク・センサの耐用年数は大きく制限される。
【0006】
そのため、船舶ディーゼル内燃機関のインジェクタのとりわけ噴射率及び/又は噴射量を低労力、低コスト、ならびに簡単で高信頼的に求めることができる、船舶ディーゼル内燃機関の運転方法、及び、その方法を実行するためのエンジン制御ユニットが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許公報第10157135号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これから取り掛かり、本発明の課題は、船舶ディーゼル内燃機関を運転するための新規の方法を提供することである。この課題は、請求項1に記載の方法により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、インジェクタにおいて直接的にインジェクタに割り当てられている圧力センサを用いて、各インジェクタについて個別に圧力信号を測定することによって検出し、インジェクタごとの各圧力信号から、各インジェクタについて個別に噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの少なくとも一つの特性値を決定する。
【0010】
本発明の目的は、船舶ディーゼル内燃機関の燃料供給システムのインジェクタにおいて、インジェクタごとの圧力信号を測定技術的に検出することである。インジェクタごとの圧力信号から、各インジェクタについてインジェクタごとの噴射率、及び/又は、インジェクタごとの噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの少なくとも一つの個別の特性値を決定する。ニードルストローク・センサは、まったく使用しないこともできる。圧力センサを用いて圧力信号を求めることは、重油で運転される船舶ディーゼル内燃機関においても、簡単に、コスト安に、及び高信頼的に行うことができる。インジェクタごとの圧力信号から、所望の特定の又は所望のそれぞれのパラメータ、つまり、噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値を簡単かつ高信頼的に決定することができる。
【0011】
望ましくは、各インジェクタは、個別のインジェクタ・リザーバ容量を有しており、各インジェクタについての圧力センサを用いて、個別の圧力信号として、それぞれのインジェクタ・リザーバ容量のリザーバ圧力信号を測定技術的に検出し、また、インジェクタごとの各リザーバ圧力信号から、各インジェクタについて個別に噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値を決定する。
【0012】
とりわけ、それぞれのインジェクタにおける圧力信号としてそれぞれのインジェクタのインジェクタ・リザーバ容量のリザーバ圧力信号を求めると、圧力信号から、特に好適に噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値が決定される。インジェクタごとのリザーバ圧力信号は、燃料供給システムのその他のコンポーネントの影響による影響を受けず、それにより、上記パラメータ、つまり噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値のうちの少なくとも一つを特に正確かつ高信頼的に求めることができる。
【0013】
好適な発展形によると、測定技術的に測定された、インジェクタごとの圧力信号を時間に関して導きもしくは微分し、インジェクタごとの微分した圧力信号から、それぞれのインジェクタの噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値を決定する。このように、圧力信号を評価して噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値を決定することは、高信頼的、簡単、及び正確であるため、特に望ましい。
【0014】
望ましくは、インジェクタごとの圧力信号から、それぞれのインジェクタの噴射率を以下の等式により求める:
dm/dt=V×(dp/dt)/c(p)
2
ここで、dm/dtは噴射率、Vは個別のインジェクタ・リザーバ容量、dp/dtは時間tに関して微分されたインジェクタごとの圧力信号、c(p)はインジェクタごとの圧力pに応じた音速である。それぞれのインジェクタの噴射率をこのように決定することは簡単、高信頼的、及び正確である。
【0015】
望ましくは、インジェクタごとの圧力信号から、各インジェクタについて個別に、それぞれのインジェクタの噴射サイクルについての液圧ニードルストローク・タイミングの特性値として、噴射開始、及び/又は、液圧最大ストローク到達、及び/又は、液圧最大ストロークからの離脱、及び/又は、噴射終了を決定する。
【0016】
ここで指摘しておくことは、液圧ニードルストローク・タイミングと、機械的ニードルストローク・タイミングとが異なることである。
【0017】
液圧最大ストロークは、インジェクタのニードルシートの絞り効果が、それぞれのインジェクタのノズル孔もしくは噴射孔の絞り効果と同じか又はそれより小さい場合のニードルストロークに相当する。この時点からインジェクタのノズルの液圧ノズル流量は一定であるが、これに対して機械的最大ストロークはさらに増加する可能性がある。
【0018】
機械的ニードルストローク・タイミングと液圧ニードルストローク・タイミングとの間のさらなる違いは、液圧最大ストロークを離脱するとインジェクタのノズル流量が低下すること、つまり、それぞれのインジェクタのニードルシートの絞り効果が、ノズル孔の絞り効果より大きいことである。これに対して、機械的最大ストロークの機械的離脱は、典型的にはその前に起こる。
【0019】
本発明の望ましい発展形は、従属請求項及び以下の説明から理解できる。本発明の実施例について図を用いて詳しく説明するが、これに限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】圧力制御式インジェクション・バルブ(インジェクタ1)を有する、内燃機関のコモンレール式燃料供給システム、及び、エンジン制御ユニットを図式的に表した図である。
【
図1B】ストローク制御式リザーバインジェクタ(インジェクタ1)を有する、内燃機関のコモンレール式燃料供給システム、及び、エンジン制御ユニットを図式的に表した図である。
【
図2】船舶ディーゼル内燃機関の本発明による運転方法を明らかにするための第1ダイアグラムである。
【
図3】船舶ディーゼル内燃機関の本発明による運転方法をさらに明らかにするための第2ダイアグラムである。
【
図4】船舶ディーゼル内燃機関の本発明による運転方法をさらに明らかにするための第3ダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、船舶ディーゼル内燃機関、とりわけ重油で運転される船舶ディーゼル内燃機関の運転方法に関するものであり、そのような船舶ディーゼル内燃機関は、望ましくはコモンレール式燃料供給システムとして構成された燃料供給システムを有している。船舶ディーゼル内燃機関のそのようなコモンレール式燃料供給システムの基本的な構造は、すでに
図1A及び
図1Bを用いて説明されている。そのため、
図1A及び
図1Bに関する前述の実施例を参照する。この点に関して念のためここで再度述べることは、そのような燃料供給システムがシリンダごとに少なくとも一つのインジェクタ1を有しており、インジェクタ1を介して船舶ディーゼル内燃機関のシリンダ内に燃料が噴射され得ることである。
【0022】
図1A及び
図1Bによると、各インジェクタ1には、圧力センサ15が割り当てられている。圧力センサ15を用いて、インジェクタ1において直接的に、各インジェクタ1についての個別の圧力信号を測定技術的に検出する。
【0023】
望ましくは、各インジェクタ1は、個別のインジェクタ・リザーバ容量(図示されず)を有しており、圧力センサ15を用いて、各インジェクタ1について個別の圧力信号として、それぞれのインジェクタ1のそれぞれのインジェクタ・リザーバ容量のリザーバ圧力信号を測定技術的に検出する。
【0024】
本発明によるインジェクタごとの各圧力信号から、各インジェクタ1について個別に、それぞれのインジェクタ1の噴射率、及び/又は、それぞれのインジェクタ1の噴射量、及び/又は、それぞれのインジェクタ1の液圧ニードルストローク・タイミングの少なくとも一つの特性値を決定し、液圧ニードルストローク・タイミングの特性値としては、噴射開始、及び/又は、液圧最大ストローク到達、及び/又は、液圧最大ストローク離脱、及び/又は、噴射終了を決定する。
【0025】
ここで指摘しておきたいのは、液圧ニードルストローク・タイミングと、機械的ニードルストローク・タイミングとが異なることである。それぞれのインジェクタ1のニードルシートの絞り効果は、それぞれのインジェクタ1のノズル孔もしくは噴射孔の絞り効果以下である場合にニードルストロークは液圧最大ストロークに到達し、このニードルストロークにおいて液圧ノズル流量は一定である。これに対して、機械的最大ストロークは、液圧最大ストロークよりさらに増加することができる。液圧最大ストロークから離脱するのは、それぞれのインジェクタのニードルシートの絞り効果がそれぞれのインジェクタのノズル孔の絞り効果より大きい場合であり、典型的には、機械的最大ストロークの離脱は、液圧最大ストロークより前に起こる。
【0026】
望ましくは、測定技術的に検出したインジェクタごとの圧力信号、望ましくはインジェクタごとのリザーバ圧力信号は、時間tに関して導かれもしくは微分され、インジェクタごとの微分した圧力信号から、それぞれのインジェクタの噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの特定の又はそれぞれの特性値は、決定される。望ましくは、微分したリザーバ圧力信号であるインジェクタごとの微分した圧力信号から、それぞれのインジェクタの噴射率は、望ましくは以下の等式により決定される:
dm/dt=V×(dp/dt)/c(p)
2
ここでdm/dtは噴射率、Vは個別のインジェクタ・リザーバ容量、dp/dtは時間tに関して微分されたインジェクタごとの圧力信号、c(p)はインジェクタごとの圧力pに応じた音速である。
【0027】
このとき、圧力に応じた音速は、望ましくは、測定された、インジェクタごとの圧力に応じて特性曲線又は特性図に基づいて求められる。
【0028】
上述の決定された噴射率から、噴射率を時間に関して積分することにより、それぞれのインジェクタ1の噴射量を求めることができる。
【0029】
図2には、2つの信号曲線20、21が時間経過とともに図示されており、信号曲線20は、インジェクタ1において圧力センサ15を用いて測定したインジェクタごとの圧力信号、つまりインジェクタごとのリザーバ圧力信号である。信号曲線21は、測定されたこの圧力信号の時間に関して導出したものもしくは時間に関する微分である。
【0030】
前述の通り、望ましくは、インジェクタごとの微分した圧力信号21から、先述の公式を用いてそれぞれのインジェクタ1について個別の噴射率を計算し、
図4では、計算した噴射率を信号曲線22により表現している。測定した噴射率である信号曲線23と比較することにより、本発明による方法を用いて、インジェクタ1の噴射率を高信頼的かつ正確に決定できることが理解できる。
図4では、信号曲線22から計算したそれぞれのインジェクタの噴射量を時間に関して積分したものを、信号曲線24により視覚化している。
【0031】
図2に示されているように、微分したインジェクタごとの圧力信号からさらに、それぞれのインジェクタの液圧ニードルストローク・タイミングの少なくとも一つの特性値を簡単及び高信頼的に求めることができる。すると、時点t1は、噴射サイクルの噴射開始に対応し、時点t4は、噴射終了に対応する。時点t2では、液圧最大ストロークに到達し、これに対して、時点t3では、液圧最大ストロークを離脱する。
【0032】
これらの特性値から、
図3の信号曲線25により、それぞれのインジェクタ1のニードルのニードルストローク信号を計算することができ、その際、
図3の時点t1からt4は、
図2の時点t1からt4に対応する。したがって時点t1は噴射開始に対応し、時点t2で液圧最大ストロークに到達し、時点t3で液圧最大ストロークを離脱し、時点t4で噴射終了に到達する。
【0033】
図3には、計算されたニードルストローク信号25に、ニードルストローク・センサを用いて測定技術的に測定されたニードルストローク信号26を対比させたものが図示されており、信号曲線25及び26の比較から、計算したニードルストローク信号と測定技術的に検出したニードルストローク信号とが良好に一致していることが見て取れる。
【0034】
本発明により、船舶ディーゼル内燃機関の運転中に、インジェクタの噴射率、及び/又は、インジェクタの噴射量、及び/又は、インジェクタの液圧ニードルストローク・タイミングの少なくとも一つの特性値を、簡単かつ高信頼的に求めることができる。
【0035】
インジェクタごとの圧力信号から求められる上記のパラメータの少なくとも一つに基づいて、それぞれのインジェクタ1について機能診断及び/又は摩耗診断を実行することができる。例えば、時間と共に変化するインジェクタ1の噴射率から、インジェクタ1の摩耗を推量することができ、それにより適切な時期に部品保守もしくは部品交換を行う準備ができる。これは、本発明の方法を用いて船舶ディーゼル内燃機関の通常の運転中に行えるため、別個の測定テストベンチにおいて機能点検もしくは摩耗点検を行わずに済む。
【0036】
本発明の方法を用いることにより、各シリンダについて個別に、例えば噴射率もしくは噴射量を正確に決定することができる。そのため、内燃機関の運転を、シリンダごとに制御することが可能である。この方法はとりわけ、重油で運転される船舶ディーゼル内燃機関での使用に適している。
【0037】
さらに、本発明は、この方法を実行するためのエンジン制御ユニット16にも関する。
図1A及び
図1Bは、そのようなエンジン制御ユニット16を示しており、エンジン制御ユニット16は、この方法を実行するための手段17、18、19を有している。手段17は、少なくとも一つのデータインターフェースであり、とりわけ圧力センサ15とデータを交換するため、つまり圧力センサ15から提供された圧力測定信号を読み取るためのものである。手段18は、本発明の方法を実行するためのハードウェア側の手段であり、手段19はソフトウェア側の手段である。ハードウェア側手段18は、とりわけ、データを記憶するためのデータ記憶ユニット及びデータを処理するためのデータプロセッサである。ソフトウェア側手段19は、本発明の方法を実行するためのプログラムモジュールである。
【0038】
本発明の方法、ならびに本発明のエンジン制御ユニット16を用いることにより、とりわけ重油で運転される船舶ディーゼル内燃機関の通常運転中に、それぞれのインジェクタ1の噴射率、及び/又は、噴射量、及び/又は、液圧ニードルストローク・タイミングの少なくとも一つの特性値を簡単かつ高信頼的に、ならびに自動的に決定することができる。そのために必要となるのは、それぞれのインジェクタ1、とりわけインジェクタごとのリザーバ容量について直接的に圧力測定信号を測定し、これを先述の方法で評価するだけである。
【符号の説明】
【0039】
1 インジェクタ
2 高圧ポンプ
3 ポンプ装置
4 低圧領域
5 低圧ポンプ
6 高圧領域
7 蓄圧器
8 高圧ポンプリザーバ
9 貯蔵ユニット
10 高圧ライン
11 高圧ライン
12 切替弁
13 圧制御弁
14 パージ弁
15 圧力センサ
16 エンジン制御ユニット
17 インターフェース
18 ハードウェア側手段
19 ソフトウェア側手段
20 信号曲線
21 信号曲線
22 信号曲線
23 信号曲線
24 信号曲線
25 信号曲線
26 信号曲線