(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522433
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】ワークピースの歯車歯の歯面側部に面取り加工を施す方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B23F 19/10 20060101AFI20190520BHJP
B23F 21/12 20060101ALI20190520BHJP
B23C 3/12 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
B23F19/10
B23F21/12
B23C3/12 C
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-114875(P2015-114875)
(22)【出願日】2015年6月5日
(65)【公開番号】特開2016-453(P2016-453A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年5月16日
(31)【優先権主張番号】14171953.4
(32)【優先日】2014年6月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596043494
【氏名又は名称】クリンゲルンベルク・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Klingelnberg AG
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(72)【発明者】
【氏名】オラフ・フォーゲル
【審査官】
中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−171020(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0268524(US,A1)
【文献】
特表2017−520416(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第0211127(EP,A2)
【文献】
特表平09−500581(JP,A)
【文献】
特開2007−030159(JP,A)
【文献】
米国特許第7377731(US,B1)
【文献】
特開2009−034786(JP,A)
【文献】
特開2013−000882(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0022424(US,A1)
【文献】
特開2013−180347(JP,A)
【文献】
特表2014−530117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/12
B23F 1/00−23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CNC制御される多軸機械において、ワークピース(20)の歯車歯(21.1、21.2)の歯面側部に面取り加工を施す方法であって、
− 前記多軸機械に、第1のすくい角面(121.1)及び第2のすくい角面(121.2)を備えた少なくとも1つの切削歯(111)を有する工具(100)を装着するステップと、ここで、第1のすくい角面(121.1)は、第1の法線方向(R.1)を有し、第2のすくい角面(121.2)は、第2の法線方向(R.2)を有し、第1の法線方向(R.1)と第2の法線方向(R.2)とは異なる、
− 前記工具(100)を第1の回転方向に回転駆動するステップと、
− 前記工具(100)が前記第1の回転方向に回転しているときに、第1のCNC制御された相対移動を実施して、前記工具(100)の前記第1のすくい角面(121.1)を用いて前記歯車歯の第1の歯(21.1)の第1の歯面側部縁部(24)に面取り加工を施すステップと、ここで、第1の歯面側部縁部(24)は、第1の歯(21.1)の右側のフランク面(22)が端面とつながるところに位置する縁部である、
− 前記工具(100)が前記第1の回転方向に回転しているときに、第2のCNC制御された相対移動を実施して、前記工具(100)の前記第2のすくい角面(121.2)を用いて前記歯車歯の前記第1の歯(21.1)又は他の1つの歯(21.2)の第2の歯面側部縁部(25)に面取り加工を施すステップと、ここで、第2の歯面側部縁部(25)は、左側のフランク面(23)が端面とつながるところに位置する縁部である、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記面取り加工を施すときの前記CNC制御された相対移動は、パワースカイビング加工に類似する連続的な移動であり、工具軸(R1)とワークピース軸(R2)の軸交差角(Σ)の絶対値を、10°と30°の間の範囲内で予め設定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記面取り加工を施すときに、前記ワークピース(20)に対して前記工具(100)の径方向押し出し動作を実施し、かつ前記面取り加工を施した後に、前記工具(100)を前記ワークピース(20)から外部に移動させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記面取り加工を施すときに、前記ワークピース(20)に対して、前記工具(100)の押し出し動作を、軸方向移動と併用して行うことを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記多軸機械は、前記第1のCNC制御された相対移動を実施するときに、予め第1の機械設定を行い、前記第2のCNC制御された相対移動を実施するときに、予め第2の機械設定を行うようになっていて、前記第1の機械設定は前記第2の機械設定と異なることを特徴とする、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の機械設定と前記第2の機械設定とでは、工具軸(R1)とワークピース軸(R2)の軸交差角(Σ)が異なることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記工具(100)は、スカイビング加工ホイールと類似の動作を行い、かつその円周面又は側面(114)に少なくとも1つの切削歯(111)を有していて、
前記切削歯(111)は、第1のすくい角面(121.1)及び第2のすくい角面(121.2)を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記切削歯(111)はそれぞれ、台形又は三角形の基本形状を有することを特徴とする、請求項1又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記工具(100)は、歯切削工具(50)とともにピギーバック構造を形成していて、請求項1に記載の各ステップを、前記ワークピース(20)の前記歯切削のためのステップの後に続いて実施することを特徴とする、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項10】
第1の歯面側部縁部(24)の面取り加工は、下向きの切削方向を用いて実施され、第2の歯面側部縁部(25)の面取り加工は、上向きの切削方向を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
CNC制御される多軸機械の工具スピンドル(70)に把持されるように構成された、ワークピース(20)の歯車歯(21.1、21.2)の歯面側部に面取り加工を施す装置であって、
− 歯切削工具(50)と、
− 前記歯切削工具(50)と同軸構造をなすように配置され、前記同軸構造において前記ワークピース側からみて、前記歯切削工具(50)の前に配置された特殊工具(100)とを備えていて、
前記特殊工具(100)は、切削ホイールの形状を有し、その円周面又は側面(114)に少なくとも1つの切削歯(111)を有していて、
前記切削歯(111)が第1のすくい角面(121.1)及び第2のすくい角面(121.2)を有し、
ここで、第1のすくい角面(121.1)は、第1の法線方向(R.1)を有し、第2のすくい角面(121.2)は、第2の法線方向(R.2)を有し、第1の法線方向(R.1)と第2の法線方向(R.2)とは異なる、
ことを特徴とする装置。
【請求項12】
前記歯切削工具(50)は、ワークピースに近位する領域に円錐形端部(58)を有する本体部(51)を備えていて、前記特殊工具(100)は、前記歯切削工具(50)の前記円錐形端部(58)の前に、所定の間隙(A)を保って挟んで配置されていることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記特殊工具(100)は円錐形に形成され、前記特殊工具(100)に対応する円錐形状は、前記円錐端部(58)の円錐形状と反対方向に広がっていることを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の要旨は、ワークピース(workpiece)の歯車歯(gear teeth)の歯面側部に面取り加工を施す(face-side chamfering)ための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車を生産するための多数の方法が存在する。切削屑(chip)を生じさせるソフトな前機械加工(chip-producing soft pre-machining)としては、ホブ削り加工(hobbing)、歯車形削り加工(gear shaping)、創成平削り加工(generating planing)及びパワースカイビング加工(power skiving)などが挙げられる。ホブ削り加工及びパワースカイビング加工はいわゆる連続法である。
【0003】
パワースカイビング加工法は近年復活して用いられている。この加工法が確立されたのはほぼ100年前である。
図1Aに示すように、パワースカイビング加工法の場合、パワースカイビング加工工具10(スカイビング加工ホイールとも呼ばれている。)の回転軸R1とワークピース20の回転軸R2との間の軸交差角Σはゼロではない。その結果、パワースカイビング加工工具10とワークピース20との間の相対的な移動は、回転成分(rotational component)とスラスト成分(thrust component)ないしは並進成分(translational component)とに分解することができる螺旋状移動(spiral movement)である。円柱形のねじり駆動部(helical drive)は、駆動技術と類似の技術(drive-technology analogy)であるものと考えることができ、この場合回転成分はローリング(rolling)に対応し、スラスト成分はフランク面(flank)の滑動(sliding)に対応する。軸交差角Σの絶対値が大きければ大きい程、ワークピース20の機械加工に必要とされる並進移動成分が増加する。この場合、とくに、ワークピース20の2つのフランク面の方向へのパワースカイビング加工工具10の切削の移動成分を生じさせる。パワースカイビング加工の場合、はすば歯車と等価な歯車装置(helical wheel equivalent gearing)において互いに噛み合っている歯車の相対的な噛み合い移動の滑動成分が、切削移動を行うために利用される。パワースカイビング加工の場合、ワークピース20の回転軸R2と平行な方向への緩慢な軸方向の前進移動S
axのみが必要とされ、歯車形削り加工では典型的なものであるいわゆる形削り移動(shaping movement)は必要とされない。したがって、パワースカイビング加工を施しているときには、逆方向のストローク移動(reverse stroke movement)は起こらない。
【0004】
パワースカイビング加工の場合の切削速度は、パワースカイビング加工工具10又はワークピース20の回転速度によって直接的な影響を受けるとともに、両回転軸R1、R2間の軸交差角Σによって直接的な影響を受ける。ここでは、各回転移動は、ω1及びω2で示されている。軸交差角Σひいては滑動成分は、設定された回転速度で材料を機械加工するための最適な切削速度が実現されるように設定される。
【0005】
従来知られているパワースカイビング加工法における移動手順(movement sequence)及びその他の動作の詳細は、
図1Aに示す模式的な図から推察することができる。
図1Aは、円柱形のワークピース20の外歯のためのパワースカイビング加工を示している。
図1Aに示すように、ワークピース20及び工具10(ここでは、円柱形のパワースカイビング加工工具10)は、例えばそれぞれ角速度ω1及び角速度ω2でもって、互いに反対方向に回転する。
【0006】
さらなる相対的な移動も生じる。前記の軸方向の前進移動S
ax(advance)は、工具10を用いてワークピース20の歯幅の全体に機械加工を施すことを可能にするために必要なものである。この軸方向の前進移動は、ワークピース20の回転軸R2と平行な方向の、ワークピース20に対する工具10の移動を生じさせる。工具10のこの移動の方向は、
図1A中にS
axで示されている。ワークピース20にはすば歯車の歯を形成する場合は(すなわち、β
2≠0)、軸方向の前進移動S
axに、差分の前進移動S
D(differential advance)が重ねられる(superimposed)。これは、
図1Aに示すように、回転軸R2のまわりにおけるワークピース20の付加の回転に対応する。差分の前進移動S
D及び軸方向の前進移動S
axは、ワークピース20に対する工具10の結果的な前進移動が、形成されるべき歯間隙の方向に生じるように、所定の設計点(design point)で互いに適応させられる(adapted)。さらに、例えばワークピース20の歯車歯のクラウニング(crowing)に影響を及ぼすように、径方向の前進移動S
rad(radial advance)を用いることができる。
【0007】
パワースカイビング加工の場合、切削速度ベクトルvectorV
cは、基本的には、2つの速度ベクトルvectorV
0及びvectorV
2の差ベクトルである。これらの2つの速度ベクトルは、工具10及びワークピース20の回転軸R1及びR2の軸交差角Σでもって互いに傾斜している。ここで、vectorV
0は工具10の円周方向の速度ベクトルであり、vectorV
2はワークピース20の円周方向の速度ベクトルである。パワースカイビング加工法における切削速度Vcは、はすば歯車等価歯車装置における回転速度と軸交差角Σとにより変化させることができる。前記のとおり、比較的緩慢な軸方向の前進移動S
axは、パワースカイビング加工法における切削速度Vcにわずかな影響を及ぼすだけであり、無視することができる。したがって、軸方向の前進移動S
axは、
図1A中ではベクトルvectorV
0、vectorV
2、vectorV
cに係るベクトル図では考慮されていない。
【0008】
図1Bは、円錐形のパワースカイビング加工工具10を用いてワークピース20に外歯を形成するパワースカイビング加工を示している。
図1Bもまた、軸交差角Σと、切削速度ベクトルvectorV
cと、工具10の円周方向の速度ベクトルvectorV
0と、ワークピース20の円周方向の速度ベクトルvectorV
2と、工具10の傾斜角β
0と、ワークピース20の傾斜角β
2を示している。ここでは、ワークピース20の傾斜角β
2はゼロではない。
図1B中では、工具10の歯頂(tooth head)に参照番号4が付されている。
図1B中では、歯面(tooth face)には参照番号5が付されている。2つの回転軸R1及びR2は交差せず、互いにねじれの位置に配置されている。円錐形のパワースカイビング加工工具10においては、設計点APは、典型的には、2つの回転軸R1及びR2の両方と垂直な位置に設定される。なぜなら、逃げ角(clearance angle)をつくるためのパワースカイビング加工工具10の傾斜は必要とされないからである。ここでは、設計点APは、いわゆる当接点BP(touch point)と一致する。はすば歯車等価歯車装置のピッチ円(pitch circle of the helical wheel equivalent gearing)は、この設計点APと当接する。
【0009】
切削屑を生じさせるワークピースでの歯車の形成(chip-generating production of gearwheels on the workpiece)を行うときに、各歯面側部縁部(face-side edge)には、場合によっては非常に鋭利でありかつ明らかに顕著な、2つのフランク面(flank)と歯面(face plane)との間の遷移領域(transition regions)を生じさせる。これらの縁部には、典型的には別の工程で面取り加工が施される。歯車歯を形成するときには、このような縁部に面取り加工を施すための非常に多くの異なる手法が存在する。
【0010】
また、縁部の領域には、ときには製造方法にも関連するバリ(burrs)が生じ、このようなバリは、機械加工工程で、いわゆるバリ取り加工(deburring)により除去される。
【0011】
面取り加工とバリ取り加工は、大抵は移動手順が同一又はおおむね同一であるので、同等な処理工程である。また、工具も互いに必ずしも異ならせる必要はない。したがって、以下では、「面取り加工」との語は、バリ取り加工も含む概念を意味するものとして使用することにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
事情によっては、面取り加工のために特殊工具(special tool)が用いられるが、これらはいずれもこのような工具を使用する前に、別の工程で機械に取り付けなければならない。あるいは、面取り加工を施すための特殊工具を有する別の軸が機械に設けられる。縁部の領域において右側のフランク面及び左側のフランク面の両方に面取り加工を施すことを可能にするために、ときには、極めて複雑な移動手順(工具とワークピースの間の相対的な移動)が必要とされる。さらに、パワースカイビング加工の場合、回転方向の反転は、大抵は、例えば左側のフランク面に工具を用いて面取り加工を施した後に実施しなければならない。そして、回転方向を反転させた後においてのみ、右側のフランク面に面取り加工を施すことができる。このような回転方向の反転には時間がかかり、加工処理時間を長引かせる結果となる。しかしながら、とくに大量生産を行う場合は、加工処理時間を短縮することが有利である。
【0013】
それゆえ、本発明は、加工処理時間を短縮することを可能にするワークピースに面取り加工を施すための方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的は、本発明によれば、回転方向を反転させることなく右側及び左側のフランク面に面取り加工を施すことを可能にする、パワースカイビング加工に類似する方法によって達成される。さらに、前記の方法に対応する最適化された装置が特殊工具として提供される。
【0015】
本発明によれば、前記の目的を達成するために、CNC制御される多軸機械(multiaxis machine)に特殊工具(special tool)が用いられ、この特殊工具は、第1のすくい角面(rake face)及び第2のすくい角面を有する少なくとも1つの切削歯(cutting tooth)を備えている。
【0016】
本発明に係る方法は、面取り加工を施すために、前記特殊工具を用いて次の各ステップを実行する。
− 特殊工具を第1の回転方向に回転駆動する。
− 特殊工具が第1の回転方向に回転しているときにCNC制御された相対移動(relative movement)を実施し、該特殊工具の第1のすくい角面を用いて歯車歯(gear teeth)の第1の歯の第1の縁部(edge)に面取り加工を施す。
− 特殊工具が(さらに)第1の回転方向に回転しているときにCNC制御された相対移動を実施し、該特殊工具の第2のすくい角面を用いて歯車歯の第1の歯の第2の縁部に面取り加工を施す。
【0017】
第1の1つ又は複数の縁部の面取り加工は第1の機械設定(machine setting)で実施され、第2の1つ又は複数の縁部の面取り加工は第2の機械設定で実施される。すなわち、機械設定は、中間のステップ(intermediate step)で変更される。
【0018】
本発明に係る方法は、とくに、回転方向の反転を必要とすることなく右側及び左側のフランク面に面取り加工を施すことができるパワースカイビング加工に類似する生産方法でもって歯車歯の歯面側部に面取り加工を施す(face-side chamfering)のに適したものである。
【0019】
特殊工具の回転軸とワークピースの回転軸の間の軸交差角が、予め機械設定によりゼロでない値に設定された場合は、本発明に係る方法は、パワースカイビング加工に類似する連続生産方法と呼ばれることになる。
【0020】
本発明によれば、このようなパワースカイビング加工に類似する生産方法は、常に、結果的な特殊工具とワークピースの間の相対移動を伴っており、この相対移動は、回転成分(rotational component)と、スラスト成分(thrust component)ないしは並進成分(translational component)とに分解することができる。
【0021】
本発明に係る面取り加工においては、好ましくは、面取り加工のために必要とされる切削移動を行うすべての実施態様(embodiments)で、滑動成分(sliding component)が利用される。
【0022】
本発明に係る面取り加工においては、好ましくは、すべての実施態様で次の移動が実施される。
i. 正しい成分高さ(correct component height)において、ワークピースに特殊工具の径方向押出し動作(radial plunging)のみが行われ、縁部に完全な面取り加工が施される。この後、特殊工具は、再び歯間隙(tooth gap)から撤去される(withdrawn)。
ii. あるいは、ワークピースの歯車歯の「上」から特殊工具を押出し(ワークピースに向けての特殊工具の軸方向の案内)、かつ縁部に対して面取り加工が完全に施されるまで小さな軸方向の移動を行う。
iii. 本発明によれば、これらの2つの移動動作i.及びii.を互いに組み合わせることができる。
【0023】
本発明に係る、パワースカイビング加工に類似する面取り加工は連続プロセスであり、このとき特殊工具の1つ又は複数の切削歯は、例えば機械設定が変更されてすべての左側のフランク面に面取り加工が施される前に、すべての右側のフランク面に連続して面取り加工を施す。
【0024】
しかしながら、以下では、本発明に係るバリ取り加工法を、後歯面側部の縁部に基づいて説明する。
【0025】
本発明に係る方法は、乾式機械加工及び湿式機械加工のいずれに関しても実施することができる。
【0026】
以下では、さらに本発明の詳細及び利点を、図面を参照しつつ、典型的な実施形態に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】動力をかけてスカイビング加工を行っているときにおける、外歯が形成されるワークピースと係合する、円柱形の外輪郭を有する直歯スカイビング加工ホイールを模式的に示す図である。
【
図1B】動力をかけてスカイビング加工を行っているときにおける、外歯が形成されるワークピースと係合する、円錐形の外輪郭を有するねじれ歯スカイビング加工ホイールを模式的に示す図である。
【
図2】円錐形の外輪郭を有する、本発明に係る第1の特殊工具を非常に模式的に示す図であり、この図では1つの切削歯のみが示されている。
【
図3A】内歯が形成されたワークピースの右側のフランク面に、動力をかけてスカイビング加工を行う場合と同様に面取り加工を行っているときにおける、内歯が形成されたワークピースと係合している、本発明に係る特殊工具を模式的に示す斜視図である。
【
図3B】
図3Aに示す内歯が形成されたワークピースの一部を模式的に示す斜視図であり、この図では、右側のフランク面の歯面の面取り動作が矢印で示されている。
【
図3C】内歯が形成されたワークピースの左側のフランク面に、動力をかけてスカイビング加工を行う場合と同様に面取り加工を行っているときにおける、
図3Aに示す内歯が形成されたワークピースと特殊工具とを模式的に示す斜視図である。
【
図3D】
図3Aに示す内歯が形成されたワークピースの一部を模式的に示す斜視図であり、この図では、左側のフランク面の歯面の面取り動作が矢印で示されている。
【
図4】右側及び左側のフランク面に面取り加工が施された後における、内歯が形成されたワークピースの一部を模式的に示す斜視図である。
【
図5】一例として1つのカッタバーのみが装着された歯切削工具の本体部を模式的に示す側面図であり、この図では、本発明に係る特殊工具が、歯切削工具の前において該歯切削工具と同軸に配置されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において用いられている用語は、本願に関連する刊行物及び特許でも用いられているものである。しかしながら、これらの用語は、単に本発明のより良い理解に資するために用いられているだけであるということに注目すべきである。すなわち、本発明の技術思想及び本願において保護を求めている請求項の範囲は、これらの用語をとくに選択したことにより限定解釈されるべきではない。本発明は、他のシステム及び/又は技術分野にも容易に転用することができるものである。したがって、これらの用語は、他の技術分野にも当てはまるものである。
【0029】
回転対称周期構造(rotationally-symmetrical periodic structures)としては、例えば内歯又は外歯を有する歯車(例えば平歯車)などが挙げられる。しかしながら、このような周期構造には、ブレーキディスク、クラッチ又は変速機の部品なども含まれる。とくに、周期構造は、ピニオンシャフト、ねじ歯車、歯車ポンプ、リングジョイントハブ(リングジョイントは、例えば差動装置から車輪へ力を伝達する自動車の技術分野で用いられる)、スプライン軸接続部材、滑動スリーブ、ベルトプーリなどの生産に関連する。ここで、周期構造は、周期的繰り返し構造(periodically repeating structures)と呼ばれることもある。
【0030】
以下では、主として歯車、歯及び歯間隙(tooth gap)について説明する。しかしながら、本発明は、前記のとおり、その他の周期構造を有するその他の部品にも転用ないしは応用することができるものである。ただし、これらのその他の部品は、歯間隙ではなく、例えば溝(groove)又はうね(channel)などを備えている。
【0031】
前記のバリ取り加工法の利用範囲(usage spectrum)は広く、大きく異なる回転対称周期構造の生産にも拡張して応用することができる。
【0032】
「面取り加工」との語は、ワークピース20の縁部に面取り加工が施され及び/又は突出しているバリが除去されるときの工程で用いられる。これらは、例えば歯車の歯面側部(face-side)に生じるいわゆる歯面側部縁部(face-side edge)であってもよい。
【0033】
以下、切削ホイール(cutting wheel)の形状又は仕様を備えた特殊工具100について説明する。
図2は、このような工具100の第1の実施形態を示している。この典型的な実施形態は、切削歯111(cutting teeth)が工具100の一部をなす一体形成型の工具(solid tool)に関するものである。パワースカイビング加工工具100は、複数の切削歯111を有することができるが、
図2に示す典型的な実施形態では、1つの切削歯111が設けられているだけである。
【0034】
切削歯111は、いずれも、
図2に係るすべての実施形態において、軸R1と平行な断面(好ましくは、本明細書において観察面(observation plane)と呼ばれている面)においては、台形又は三角形の基本形状を有している。この断面は、第1及び第2のすくい角面121.1、121.2の両方と交差する。
図2は、台形の基本形状を有する単一の切削歯111を示している。実際には、切削歯111の現実の3次元形状は、この
図2に示すものと比べてより複雑なものである。
【0035】
図2に示す典型的な実施形態では、特殊工具100の本体部110は、円錐台の形状のディスク(the shape of truncated cone disk)、又は円錐台の形状のプレート(a plate in the shape of a truncated cone)を有している。本発明に係るすべての特殊工具100は、円錐台の形状のディスク又は円錐台の形状のプレートを有しているのが好ましい。したがって、以下では、切削ホイールと類似の特殊工具100について説明を行う。
【0036】
すべての実施形態において、
図2に示すように、特殊工具100は、切削歯111毎に、少なくとも1つの第1のすくい角面121.1と1つの第2のすくい角面121.2とを有している。すなわち、本発明に係る各切削歯111には、少なくとも1つの第1のすくい角面121.1と1つの第2のすくい角面121.2とが設けられる。
【0037】
第1及び第2のすくい角面121.1、121.2の位置及び向き等は、次のように設定することができる。
・2つのすくい角面121.1、121.2(あるいは、切削歯111が他の基本形状を有する場合は、3つのすくい角面121.1、121.2、121.3)は、それぞれ切削歯111の異なる側の領域に設定される。
・2つのすくい角面121.1、121.2の法線方向R.1、R.2(あるいは、3つのすくい角面121.1、121.2、121.3の法線方向R.1、R.2、R.3)は、互いに異なる。
・法線方向R.1、R.2は、典型的には、観察面(observation plane)内において90°より大きい角度ΔWを挟む。ここで、観察面は、軸R1と平行であり、かつ切削歯基準点(cutting tooth reference point)を通る平面である。本明細書おいて、切削歯基準点は、切削歯の「中央位置(middle)」である。この観察面はまた、台形の基本形状(trapezoidal basic shape)又は三角形の基本形状(triangular basic shape)を設定するのにも用いられる。
・
図2によれば、単一の切削歯111が、本体部110の端面112、113(end face)に対して傾斜していることが分かる。
図2に示す典型的な実施形態においては、切削歯111は、時計回り方向にほぼ45°傾斜している。この例では、第1のすくい角面121.1は、端面113の領域に配置されている。なお、この領域は、特殊工具100の「前側(front side)」と呼ぶことができる。
図2に示すように、第2のすくい角面121.2は、別の方向を向いている。
図2には、両すくい角面121.1、121.2のそれぞれの法線方向R.1、R.2を示している。
【0038】
本発明のすべての実施形態において、1つ又は複数の切削歯111は、本体部110の円周面(circumferential surface)又は側面114(lateral surface)領域の上又は内部に設置されている。
【0039】
図3Aは、内側に歯が形成されたワークピース20の右側のフランク面に面取り加工を施しているときにおける、本発明に係る特殊工具100のさらなる実施形態を示している。この実施形態では、特殊工具100は、右方向に回転する(すなわち、時計回り方向に回転する)ようにして用いられている。ω1は、軸R1のまわりの回転を表している。右側のフランク面の面取り加工には、下向きの切削方向が用いられている(対応するすくい角面121.1の法線方向R.1、したがって
図3Bでは斜め下方向)。
図3Aでは、工具100の前側113(front side)は下方に面している。
図3Aでは、後側112(rear side)が見えている。
図3Aに示す例では、第1のすくい角面121.1は、前側113の領域に存在するので見えていない。パワースカイビング加工と類似する面取り加工の場合、図示された例における軸交差角Σはほぼ12°であるという事実に加えてさらに、特殊工具100は、機械加工すべき内歯から離反するように傾斜させて(inclined away)、クリアランス角(clearance angle)を生成する。このような離反する傾斜は任意の要素である。
【0040】
すべての実施形態において、工具軸R1とワークピース軸R2の間の軸交差角Σの絶対値は、10°と30°の間の範囲内であるのが好ましい。
【0041】
図3Bは、
図3Aに示す内側に歯が形成されたワークピース20の一部の端部側(end side)を上からみた斜視図である。
図3Bでは、
図3Aとは対照的に、観察方向は、ワークピース20の端部側において、後側から斜め(diagonally from the rear)の方向である。
図3Bでは、この状態をより良く理解できるように、特殊工具100は図示していない。
図3Bでは、歯基部26(tooth base)と、歯間隙をはさむ右側のフランク面22及び左側のフランク面23とが見えている。この図では、歯間隙の右側に、ワークピース20の第1の歯21.1が配置されている。右側のフランク面22が端面とつながる(merge)ところに、本発明に係る方法を用いて面取り加工が施された縁部24(edge)が位置している。
図3B中には、これに対応する面取り部27が模式的に示されている。前記のとおり、この典型的な実施形態では、下向きの切削方向でもって、右側のフランク面22に対して面取り加工が施される。
図3B中には、使用されているすくい角面121.1の法線方向R.1が、右上から左下に向かって伸びる矢印で示されている。ここでは、縁部24に、おおむね30°の面取り角を有する面取り部27が形成されているが、これは特定の場合のものである。
【0042】
図3Cは、内側に歯が形成されたワークピース20の左側のフランク面に面取り加工を施しているときにおける、
図3Aに示す特殊工具100を示している。この実施形態でもまた、特殊工具100は、右方向に回転する(すなわち、時計回り方向に回転する)ようにして用いられている。左側のフランク面の面取り加工には、上向きの切削方向が用いられている。
図3Cでは、工具100の前側113は下方に面している。
図3Cでは、後側112が見えている。この第2の実施形態では、第2のすくい角面121.2は、工具100の後側112の領域に配置されている。パワースカイビング加工と類似する面取り加工の場合、図示された例における軸交差角Σはおおむね−12°に設定されるという事実に加えてさらに、特殊工具100は、任意的に、機械加工すべき内歯から離反するように傾斜させることができる。
【0043】
図3Aないし
図3Dに示す実施形態の場合、右側及び左側のフランク面に面取り加工を施すときには、軸交差角Σの絶対値を必ずしも同一にする必要はないということに注目すべきである。右側の縁部に面取り加工を施すとき、及び左側の縁部に面取り加工を施すときにおける機械設定(machine setting)は、各場合においてそれぞれ最適な切削条件が実現されるように予め実施される。
【0044】
図3Dは、
図3Bに示すワークピース20の歯間隙を示す図である。
図3Dでは、これをより良く理解できるように、特殊工具100は図示していない。
図3Dでは、歯基部26と、歯間隙をはさむ右側のフランク面22及び左側のフランク面23とが見えている。この図では、歯間隙の左側に、ワークピース20の第2の歯21.2が配置されている(第1の歯21.1は、この図中の右側に見えている。)。左側のフランク面23が端面とつながる(merge)ところに、本発明に係る方法を用いて面取り加工が施された縁部25が位置している。前記のとおり、この典型的な実施形態では、上向きの切削方向でもって、左側のフランク面23に対して面取り加工が施される。
図3D中には、対応する法線方向R.2が、右下から左上に向かって伸びる矢印で示されている。この特定の場合においては、縁部25に、おおむね30°の面取り角を有する面取り部28が形成されている。
【0045】
図4は、内側に歯が形成され、かつ面取り加工が施されたワークピース20の一部を示す模式的な上面図である。
図4中には、隣り合う2つの歯21.1、21.2と、これらの2つの歯の間に形成された歯間隙とが示されている。この例では、これらの歯に対応する歯間隙が、歯基部26と、右側及び左側のフランク面22、23とによって画成されている。元々縁部25及び縁部26が位置していたところに、それぞれ面取り部27及び面取り部28が位置している。
図4中では、面取り部27、28には陰影(ハッチング)が付されている。このような面取り部27、28は、例えば本発明に係る方法を用いて形成することができる。
【0046】
本発明のとくに好ましい実施形態においては、一例として
図5に示すように、特殊工具100は、歯切削工具50の回転軸R1*と同軸に(concentrically)配置されている。
【0047】
図5は、模式的な側面図であり、典型的な歯切削工具50の本体部51のジャケット(jacket)の形状を示している。この図では、本体部51には、1つのカッタバー60(cutter bar)だけが装着されている。図示されたカッタバー60の一部は、外部から見えるので実線で描かれている。なぜなら、カッタバーが、ワークピース側の端面52(workpiece-side end face)、又は本体部51の端部58の円錐部から外部に突出しているからである。カッタバー60の外部からは見えない部分、すなわち対応する容器開口部61(receptacle opening)において本体部51の内部に位置している部分は、破線で示されている。容器開口部61は、カッタバー60の外部からは見えない部分の形状におおむね対応する形状を、本体部51の内部に有している。この歯切削工具50は、該歯切削工具50を例えばCNC機械装置の工具スピンドル70(tool spindle)に固定することができるように中央通路開口部53(central passage opening)を有していてもよい。
図5中では、工具スピンドル70は、単に模式的に示されているだけである。
【0048】
図5に示す実施形態では、特殊工具100は、歯切削工具50の回転軸R1*と同軸に配置されている。すなわち、R1=R1*である。この実施形態では、特殊工具100は、歯切削工具のワークピース側の端面52の上方に配置され、特殊工具100の後面112は、ワークピース側の端面52の方向に面している。
【0049】
図5に示すように、特殊工具100の本体部110は、歯切削工具50の本体部51の端部58(end part)の円錐形状(conicity)とは逆に広がる円錐形状を有している。
【0050】
すべての実施形態において、このようなピギーバック構造(piggyback configuration)により、特殊工具100がワークピース20と衝突(collision)を起こすのを防止するために、特殊工具100の形状、寸法及び位置(端面52との間隔A)は、好ましく、これらが
図5中において破線で示す仮想的な円錐Ko内に位置するように設定される。
図5に示す実施形態においては、この要求は明確に満たされている。この実施形態では、仮想的な円錐Koは、本体部51の円錐形状によって決定され、カッタバー60もまたこの仮想的な円錐Ko内に配置されている。
【0051】
すべての実施形態において、本体部51の円錐形状は、カッタバー60が可能な限り多くの部分が収容される(容器開口部61内に深く着座する)一方、機械加工を施すべきワークピース30との衝突が生じないような態様に好ましく設定される。
【0052】
本発明によれば、
図5に示すようなピギーバック構造により、加工処理時間(processing time)及び付随的な処理時間(secondary time)を大幅に短縮することができ、とくに大量生産の場合はこのような効果が顕著となる。
【0053】
とくに、このようなピギーバック構造は、例えば独国実用新案公報DE202011050054U1に開示されたカッタヘッドとともに用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
20 ワークピース、21.1 歯車歯、21.2 歯車歯、22 右側のフランク面、23 左側のフランク面、26 歯基部、27 面取り部、28 面取り部、100 特殊工具、111 切削歯、121.1 第1のすくい角面、121.2 第2のすくい角面。