【実施例】
【0039】
実施例1
第1の実施例を
図3〜16に示す。装着者のための処方は、SPH +2.0、CYL +2、軸45°、及び2.5のAddである。前面に4.0の表面Addを適用する。
図3〜9に、この処方の第1の実装を示す。この場合、乱視矯正全体を与える円環状領域は、後面に形成されている。
【0040】
図10〜16に、この処方の第2の実装を示す。この場合、乱視矯正全体を与える円環状領域は、前面に形成されている。
図9と16の比較から、
図16において、
図9と対比して、望ましくない非点収差が低減されていることがはっきり分かる。これは、チェルニングの法則によると、前面湾曲(「表面度数」)が光学収差に影響を及ぼすからである。各レンズ度数について、対応する最適表面度数が存在する。よって、処方された乱視について、処方された乱視に対応する(モジュール及び軸において)円環状構成要素を有する前面が、チェルニングの法則による適切な方向の効果を与える(すなわち、最高レンズ度数の方向の最高表面度数)。
【0041】
実施例2
第2の実施例を
図17〜30に示す。装着者のための非乱視処方は、SPH −2.0、及び2.5のAddである。前面に4.0の表面Addを適用する。
図17〜23に、この非乱視処方の第1の実装を示す。
【0042】
図24〜30に、第2の実装を示す。これは、上記非乱視処方にCYL +2及び軸90°の前面上の円環状領域を加えている。
【0043】
図31は、
図23及び30の重ね合わせである。点線は、
図23、すなわち円環状構成要素を有さない例を表しているのに対し、実線は、
図30、すなわち前面に追加された円環状構成要素を有する例を表している。
図31からすぐ分かるように、レンズ上の度数変動及び度数分布のために、全体としてのレンズ度数は種々の方向により異なっている。その結果、レンズの前面全体に適用される円環状構成要素は、光学収差を部分的に補正することができる。
【0044】
図32は、累進眼科用レンズを決定する方法の実施例のフローチャートを示す。この実施形態では、この方法は、装着者に適する目標光学機能(「TOF」)を選択するステップ40を含んでいる。知られているように、眼科用レンズの光学性能を改善するために、眼科用レンズのパラメータを最適化する方法がこのように用いられる。このような最適化方法は、所定の目標光学機能に可能な限り近い眼科用レンズの光学性能を得るように考案される。
【0045】
目標光学機能は、当該眼科用レンズのもつべき光学特性を表す。本発明に関して、また、本明細書のこれからの部分においては、表現「レンズの目標光学機能」は、便宜的に使用される。この使用法は、目標光学機能が装着者−眼科用レンズ及びエルゴラマ系にとってのみ意味を有する限りにおいて、厳密には正しくない。実際に、かかるシステムの光学目標機能は、所与の注視方向について定義される一連の光学基準である。これは、1つの注視方向に関する光学基準の評価が光学基準値を与えることを意味する。得られた一連の光学基準値が目標光学的機能である。したがって、目標光学機能は、達成されるべき性能を表す。最も単純な場合には、屈折力又は非点収差などの単一の光学基準のみ存在するであろう。しかし、屈折力と非点収差の組み合わせのおかげで評価することのできる視力低下など、より精緻な基準が使用されることがある。高次の収差を含む光学基準が考えられるであろう。考慮される基準の個数Nは、所望の精度によって決まる。実際に、考慮される基準が多いほど、それにより得られるレンズは装着者のニーズを満たす可能性が高い。しかし、基準の個数Nを増やすことは、計算に要する時間及び解決するべき最適化問題の複雑性の増大をもたらすであろう。考慮する基準の個数Nの選択は、したがって、これらの2つの要件間の得失評価となる。目標光学機能、光学基準定義及び光学基準評価に関する詳細は、欧州特許出願公開第A2207118号明細書に記載されている。
【0046】
この方法は、レンズの第1非球体表面及びレンズの第2非球体表面を定義するステップ42も含んでいる。たとえば、第1表面は物体側(すなわち前側)表面であり、かつ、第2表面は眼球側(すなわち後側)表面である。各表面は、各点において、平均球面値SPH
mean、円柱値CYL及び円柱軸γ
AXを有する。
【0047】
この方法は、さらに、レンズの目標光学機能を実現し、かつ、レンズの最適鮮明度を保証するために第2非球体表面を修正するステップ50を含んでいる。第2表面の修正は、現在の光学機能と目標光学機能間の差を目的関数により最小化する光学的最適化により行われる。目的関数は、2つの光学機能間の隔たりを表す数学的数量である。それは、最適化において好まれる光学基準に従って種々の方法により表すことができる。本発明の説明においては、「最適化を実行すること」は、むしろ目的関数を「最小化すること」として理解されるべきである。もちろん、当業者は、本発明が最小化それ自体に限られないことを理解するであろう。最適化は、当業者により考慮される目的関数の表現に従う実関数の最大化とすることもできる。すなわち、実関数の「最大化」は、その正反対の「最小化」と等価である。かかる条件1及び2のとき、得られたレンズ(
図10〜16に示したものの1つのような)は、したがって低減された収差を示す一方、目標光学機能、すなわち最適鮮明度の像を装着者に与えるように定義された目標光学機能を保証する。かかる効果は、第1表面の湾曲の値及び方向が変更され、それにより、レンズの倍率に対する影響が変更されて近方視の快適性向上をもたらすということから定性的に理解され得る。言い換えると、第1表面の形状は、装着者の近方視快適性が向上するように選択される。第2表面は、像の鮮明度に影響を及ぼす最適光学性能を確保するように決定される。
【0048】
第1及び第2表面を修正するステップ48及び50は、第1目標光学機能を倍率増大専用の前面に関連付ける一方、第2目標光学機能を像の鮮明さを確保する後面に関連付けて、第1表面と第2表面を切り替えることにより実行することができる。第1及び第2表面間のかかる切り替えによる最適化は、たとえば、本出願による引用により本出願に含まれている内容を有する欧州特許出願公開第A2207118号に記載されている。
【0049】
プロセッサにアクセス可能であり、プロセッサにより実行されたときに本発明による方法のステップをプロセッサに実行させる1つ以上の蓄積命令シーケンスを含むコンピュータ・プログラム製品も提案する。
【0050】
かかるコンピュータ・プログラムは、フロッピー・ディスク(登録商標)、光ディスク、CD−ROM、光磁気ディスクを含む任意の種類のディスク、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、電気的にプログラム可能な読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的に消去可能な読み出し専用メモリ(EEPROM)、磁気又は光カード、又は電子命令を蓄積し、かつ、コンピュータ・システム・バスに結合され得るその他の種類の媒体などを含むがこれらに限られないコンピュータ可読記憶媒体に格納することができる。このコンピュータ・プログラム製品の1つ以上の命令シーケンスを格納するコンピュータ可読媒体も提案する。これは、任意の場所における本方法の実行を可能にする。
【0051】
本出願において提示するプロセス及び表示は、特定のコンピュータ又はその他の装置に本質的に関連するものではない。本出願における教示に従うプログラムにより種々の汎用システムを使用し得る一方、所望の方法を実行するためにより特殊化した装置を構築することもまた至便であろう。以下の説明により、さまざまなこれらのシステムのための望ましい構造が示される。また、本発明の実施形態は、特定のプログラミング言語に準拠して説明されるのではない。当然のことながら、本出願において記述される本発明の教示を実施するために種々のプログラミング言語を使用することができる。
【0052】
前述した方法に従って決定されるレンズの第1表面を使用するレンズ対を得るために、多数の装置又はプロセスを使用することができる。これらのプロセスは、一連のデータの交換を含むことが多い。たとえば、この一連のデータは、この方法により決定されるレンズの第1表面のみの場合もあり得る。この一連のデータは、さらに、装着者の眼に関するデータも含み、それにより累進眼科用レンズを製造できることも好ましいであろう。
【0053】
このデータ交換は、数値データを受け取る装置333を表す
図33の装置により図式的に理解できるであろう。この装置は、キーボード88,ディスプレイ104、外部情報センター86、データ受信装置102、これらと結合されている入出力装置98、これを含み、論理装置として実現されているデータ処理装置100を含む。
【0054】
このデータ処理装置100は、データ/アドレスバス92により相互に接続されている以下の装置を含んでいる:
− 中央処置装置90
− RAMメモリ96
− ROMメモリ94、及び
− 前記入力/出力装置98。
【0055】
図33に示した前記要素は、当業者によりよく知られている。これらの要素については、これ以上説明しない。
【0056】
装着者処方に対応する累進眼科用レンズを得るために、処方室は、レンズ・メーカーから半製品眼科用レンズ・ブランクを入手することができる。一般的に、半製品眼科用レンズは、光学基準表面に対応する第1表面(たとえば累進レンズ場合の累進表面)及び第2未仕上げ表面を含む。装着者処方に基づいて適切な光学特性を持つ半製品レンズ・ブランクが選択される。未仕上げ表面は、処方に合致する表面を得るために処方室により最終的に切削・研磨される。このようにして処方に合致する眼科用レンズが得られる。
【0057】
その他の製造方法も使用できる。
図34による方法は、一例である。この製造方法は、第1の場所において装着者の眼に関するデータを提供するステップ74を含んでいる。このデータは、この方法のステップ76において第1の場所から第2の場所に転送される。次にステップ78において、前述した決定方法に従って累進眼科用レンズが第2の場所において決定される。この製造方法は、さらに、第1表面に関して第1の場所に転送するステップ80を含んでいる。この方法は、転送された第1表面に関するデータに基づいて光学的最適化を行うステップ82も含んでいる。この方法は、さらに、光学的最適化の結果を第3の場所に転送するステップ84を含んでいる。この方法は、さらに、光学的最適化の結果に従って累進眼科用レンズを製造するステップ86を含んでいる。
【0058】
かかる製造方法は、レンズのその他の光学的性能を劣化させることなく歪みの少ない累進眼科用レンズを得ることを可能にする。
【0059】
転送ステップ76及び80は、電子的に実行することができる。これは、この方法を加速することを可能にする。累進眼科用レンズは、より迅速に製造される。
【0060】
この効果を高めるために、第1の場所、第2の場所及び第3の場所を3つの別々のシステム、すなわち、1つはデータ収集専用、1つは計算専用、残りの1つは製造専用とし、これらの3つのシステムを同一建屋内に配置することができる。しかし、これらの3つの場所は、3つの別々の会社、たとえば、1つは眼鏡販売店(眼鏡技師)、1つは処方室及び1つはレンズ設計会社とすることもできる。
【0061】
本発明の好ましい実施形態について上記において詳細に開示したが、当業者にとって当然のことながら、それに対する種々の改変を容易に行うことができる。すべてのかかる改変は、以下の請求項により定義される本発明の範囲内に属するものと解される。