【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
[正極の作製]
LiOHと、共沈により得られたNi
0.91Co
0.06Al
0.03(OH)
2で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を500℃で酸化物にしたものを、Liと遷移金属全体(Ni
0.91Co
0.06Al
0.03)とのモル比が1.05:1.0となるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。次に、この混合物を酸素雰囲気中にて760℃で20時間熱処理後、粉砕することにより、均二次粒径が約15μmのLi
1.05Ni
0.91Co
0.06Al
0.03O
2で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の粒子を得た。
【0056】
このようにして得られたリチウム含有遷移金属酸化物としてのリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物粒子を1000g用意し、この粒子を1.5Lの純水に添加して攪拌し、純水中にリチウム含有遷移金属酸化物が分散した懸濁液を調製した。次に、この懸濁液に、酸化エルビウムを硫酸に溶解して得た0.1 mol/Lの濃度の硫酸エル
ビウム塩水溶液を複数回にわけて加えた。懸濁液に硫酸エルビウム塩水溶液を加えている間の懸濁液のpHは11.5〜12.0であった。懸濁液を濾過し、得られた粉末にフッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた0.6 mol/Lの濃度の水溶液を噴霧し、
その後真空中200℃で乾燥して正極活物質を作製した。
【0057】
得られた正極活物質の表面をSEMにて観察したところ、平均粒径20〜30nmの水酸化エルビウムの一次粒子が凝集して形成された平均粒径100〜200nmの水酸化エルビウムの二次粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着していることが確認された。また、水酸化エルビウムの二次粒子の殆どは、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面において隣接するリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間に形成された凹部に付着しており、凹部において隣接し合うこれらの一次粒子の両方に接するように付着していることが確認された。また、平均粒径10〜30nmのフッ化ナトリウムはリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面(凹部凸部)に付着していることが確認された。
【0058】
実施例1では、懸濁液のpHは11.5〜12.0と高いために、懸濁液中で析出した水酸化エルビウムの一次粒子同士が結合(凝集)して二次粒子を形成したと考えられる。また、実施例1では、Niの割合が91%と高く、3価のNiの割合が多くなるために、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面でLiNiO
2とH
2Oの間でプロトン交換が起こりやすくなり、プロトン交換反応により生成した多量のLiOHが、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にある一次粒子と一次粒子が隣接している界面の内部から出てくる。これにより、リチウム含有遷移金属酸化物の表面において隣接する一次粒子間におけるアルカリ濃度が高くなるため、懸濁液中で析出した水酸化エルビウム粒子が、アルカリに引き寄せられるようにして、上記一次粒子界面に形成された凹部に凝集するように二次粒子を形成しながら析出したと考えられる。
【0059】
エルビウム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。また、アルカリ金属フッ化物の付着量をイオンクロマトグラフにより測定したところ、フッ素元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.10質量%であった。
【0060】
上記正極活物質粒子と、導電剤としてのカーボンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質粒子と導電剤と結着剤との質量比が100:1:1となるように秤量し、T.K.ハイビスミックス(プライミクス社製)を用いてこれらを混練して正極合剤スラリーを調製した。
【0061】
次いで、上記正極合剤スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにアルミニウム製の集電タブを取り付けることにより、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極極板を作製した。尚、この正極における正極活物質の充填密度は3.60g/cm
3であった。
【0062】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛と、分散剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)と、結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、100:1:1の質量比で水溶液中において混合し、負極合剤スラリーを調製した。次に、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布した後、乾燥させ、圧延ローラーにより圧延し、さらにニッケル製の集電タブを取り付けた。これにより、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極極板を作製した。なお、この負極における負極活物質の充填密度は1.50g/cm
3であった。
【0063】
[非水電解質の作製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、2:2:6の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.3モル/リットルの濃度になるように溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して2.0質量%溶解させた非水電解液を調製した。
【0064】
[試験セル]
このようにして得た正極および負極を、これら両極間にセパレータを配置して渦巻き状に巻回した後、巻き芯を引き抜いて渦巻状の電極体を作製した。次に、この渦巻状の電極体を押し潰して、扁平型の電極体を得た。この後、この偏平型の電極体と上記非水電解液とを、アルミニウムラミネート製の外装体内に挿入し、電池を作製した。尚、当該電池のサイズは、厚み3.6mm×幅35mm×長さ62mmであった。また、当該非水電解質二次電池を4.20Vまで充電し、3.0Vまで放電したときの放電容量は950mAhであった。
【0065】
<実施例2>
正極活物質の作製において、フッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた0.14 mol/Lの濃度の水溶液を噴霧したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。また、アルカリ金属フッ化物の付着量は、フッ素元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.10質量%であった。
【0066】
<比較例1>
正極活物質の作製において、フッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた水溶液をリチウム含有遷移金属酸化物に噴霧しなかったこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0067】
<比較例2>
懸濁液に硫酸エルビウム塩水溶液を加えている間の懸濁液のpHを9で一定に保持したこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。なお、上記懸濁液のpHを9に調整(保持)するために、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えた。
【0068】
得られた正極活物質の表面をSEMにより観察したところ、平均粒径10nm〜50nmの水酸化エルビウムの一次粒子が、二次粒子化することなくリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体(凸部及び凹部)に均一に分散して付着していることが確認された。また、平均粒径10〜30nmのアルカリ金属フッ化物はリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面(凸部及び凹部)に付着していることが確認された。
【0069】
比較例2では、懸濁液のpHを9にしているために、懸濁液中における水酸化エルビウムの粒子の析出速度が遅くなり、このために水酸化エルビウムの粒子が二次粒子化することなくリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に析出した状態になったと考えられる。
【0070】
エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。また、アルカリ金属フッ化物の付着量は、フッ素元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.10質量%であった。
【0071】
<比較例3>
正極活物質の作製において、フッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた水溶液をリチウム含有遷移金属酸化物に噴霧しなかったこと以外は、比較例2と同様にして電池を作製した。エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0072】
<比較例4>
正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液を加えず、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に水酸化エルビウムを付着させなかったこと以外は、上記比較例2と同様にして電池を作製した。アルカリ金属フッ化物の付着量は、フッ素元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.10質量%であった。
【0073】
<比較例5>
正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液を加えず、また、フッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた水溶液を噴霧しなかったこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0074】
<DCRの測定>
上述のようにして作製した実施例1〜2及び比較例1〜5の電池について、下記条件での充放電を1サイクルとして、この充放電サイクルを100回繰り返し行った後、下記条件で100サイクル後のDCRを測定した。
【0075】
(充放電サイクル試験)
・充電条件
475mAの電流で電池電圧が4.2V(正極電位はリチウム基準で4.3V)となるまで定電流充電を行い、電池電圧が4.2Vに達した後は、4.2Vの定電圧で電流値が30mAとなるまで定電圧充電を行った。
・放電条件
950mAの定電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流放電を行った。
・休止条件
上記充電と放電の間の休止間隔は10分間とした。
【0076】
(100サイクル後のDCRの測定)
上記100サイクル後の電池をSOC100%まで475mAの電流で充電した後、SOCが100%に到達した電池電圧で電流値が30mAとなるまで定電圧充電を行った。充電終了後120分間休止した時点のOCVを測定し、475mAで10秒間放電を行い放電10秒後の電圧を測定し、下記式(1)により100サイクル後のDCR(SOC100%)を測定した。
DCR(Ω)=(120分休止後のOCV(V) − 放電10秒後の電圧(V))/(放電10秒後の電流値(A))・・・(1)
【0077】
表1に、実施例1〜2及び比較例1〜5の電池の100サイクル後のDCRを示す。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1及び2の電池の正極活物質は、
図3に示すように、希土類化合物の二次粒子25が凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着している。これにより、充放電サイクルにおいて、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の表面変質及び一次粒子界面からの割れを抑制することができる。加えて、希土類化合物の二次粒子25は、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20同士を固定(接着)する効果も有しているので、凹部23において、一次粒子界面から割れが生じるのを抑制できる。
【0080】
さらに、実施例1及び2の電池の正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の希土類化合物により、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面全体に良質な被膜が生成される。また、この被膜にはアルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素が含まれる。そして、このLiイオン透過性被膜により、充放電サイクル中の電解液の分解が抑制される。
【0081】
このように、実施例1及び2の電池においては、正極活物質粒子の表面変質、割れ、及び電解液の分解反応が抑制されるため、比較例1〜5の電池と比較して、粒子の接触抵抗や、粒子と電解液との界面抵抗の増加が抑えられ、充放電サイクル後のDCRの増加が抑制されたと考えられる。
【0082】
比較例1の電池で用いた正極活物質は、希土類化合物の二次粒子が凹部において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の両方に付着しているため、実施例1の電池と同様に、充放電サイクル時において、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の表面変質及び割れが抑制される。しかし、比較例1の電池で用いた正極活物質には、アルカリ金属フッ化物が粒子表面に付着されていないため、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に生成する良質な被膜中にはアルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素が含まれない。このため、実施例1及び2の電池と比較して、充放電サイクル中の電解液の分解反応を抑制することができない。
【0083】
このように、比較例1の電池においては、正極活物質粒子の表面変質及び割れを抑制することはできるものの、充放電サイクル中の電解液の分解を抑制することができないため、実施例1及び2の電池と比較して、例えば粒子と電解液との界面抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0084】
図4は、比較例2の正極活物質粒子の一部模式断面図である。比較例2の電池で用いた正極活物質は、
図4に示すように、希土類化合物の一次粒子24が、二次粒子を形成することなく、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面全体に均一に付着している。すなわち、比較例2の電池においては、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の凹部23において、希土類化合物の二次粒子が付着していないため、実施例1及び2の電池で用いた正極活物質と比較して、正極活物質の粒子表面の表面変質及び割れを抑制することができない。なお、比較例2の電池で用いた正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面に希土類化合物の一次粒子24と、アルカリ金属フッ化物の粒子22とが存在するため、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面全体に、アルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素が含まれる良質な被膜が生成される。このため、充放電サイクル中の電解液の分解反応は抑制される。
【0085】
このように、比較例2の電池においては、充放電サイクル中の電解液の分解を抑制することはできるものの、正極活物質粒子の表面変質及び割れを抑制することができないため、実施例1及び2の電池と比較して、例えば粒子間の接触抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0086】
比較例3の電池で用いた正極活物質は、比較例2の正極活物質と同様に、希土類化合物の一次粒子が、二次粒子を形成することなく、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に付着している。さらに、リチウム含有遷移金属酸化物表面にはアルカリ金属フッ化物は付着していない。したがって、比較例3の電池においては、正極活物質の粒子表面における表面変質及び割れを抑制することができず、さらに、充放電サイクル中の電解液の分解反応も抑制することができないため、比較例1及び2の電池と比較して、例えば粒子間の接触抵抗及び粒子と電解液との界面抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0087】
ここで、希土類化合物の二次粒子が凹部において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の両方に付着している正極活物質(以後、希土類化合物がリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の凹部に凝集付着している正極活物質、と呼ぶことがある。)を用いた実施例1〜2の電池及び比較例1の電池は、希土類化合物の一次粒子が二次粒子を形成することなく、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に付着している正極活物質を用いた比較例2及び3の電池よりも、100サイクル後のDCRは100mΩ以上も低い値を示していた(実施例1〜2と比較例2との比較、比較例1と比較例3との比較)。これに対して、リチウム含有遷移金属酸化物表面にアルカリ金属フッ化物が付着されたリチウム含有遷移金属酸化物を用いた実施例1〜2の電池及び比較例2の電池と、アルカリ金属フッ化物が付着されていないリチウム含有遷移金属酸化物を用いた比較例1及び3の電池とを比較した場合、実施例1〜2の電池の100サイクル後のDCRは、比較例1の電池と比較して55mΩ以上低い値を示し、比較例2の電池の100サイクル後のDCRは、比較例3の電池と比較して、35mΩ程度低い値を示した。すなわち、正極活物質の粒子表面における表面変質及び割れを抑制する方が、充放電サイクル中の電解液の分解を抑制する方より、充放電サイクル後のDCRの増加を抑制する影響が大きいと言える。この点については、以下の理由が推察される。
【0088】
正極活物質の粒子表面における表面変質及び割れが生じてしまうと、正極活物質の粒子表面には良質な被膜が形成されていない新生面が発生してしまうため、アルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素を含む被膜による電解液の分解を抑制する効果が小さくなってしまうと考えられる。したがって、前述したように、例えば比較例1の電池と比較例3の電池における充放電サイクル後のDCRの差(100mΩ)が、例えば実施例2の電池と比較例1の電池における充放電サイクル後のDCRの差(55mΩ)よりも、大きかったと考えられる。
【0089】
比較例4の電池で用いた正極活物質では、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子に、希土類化合物は付着していないため、正極活物質の表面における表面変質及び割れを抑制することができない。また、比較例4の電池で用いた正極活物質では、リチウム含有遷移金属酸化物表面にアルカリ金属フッ化物は付着されているが、希土類化合物は付着されていないため、二次粒子表面全体に良質な被膜が形成されていない。このため、充放電サイクル中の電解液の分解抑制効果も得られない。
【0090】
このように、比較例4の電池においては、充放電サイクル中の電解液の分解を抑制することができず、また、正極活物質粒子の表面変質及び割れを抑制することもできないため、実施例1及び2の電池と比較して、例えば粒子間の接触抵抗及び粒子と電解液との界面抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0091】
比較例5の電池で用いた正極活物質では、リチウム含有遷移金属酸化物表面に希土類化合物及びアルカリ金属フッ化物が付着されていないため、正極活物質粒子の表面変質及び割れを抑制することができず、また充放電サイクル中の電解液の分解抑制効果も得られない。したがって、比較例5の電池は、実施例1及び2の電池と比較して、例えば粒子間の接触抵抗及び粒子と電解液との界面抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0092】
(参考例)
LiOHと、共沈により得られたNi
0.35Co
0.35Mn
0。30(OH)
2で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を500℃で酸化物にしたものを、Liと遷移金属全体(Ni
0.35Co
0.35Mn
0。30)とのモル比が1.05:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。次に、この混合物を空気雰囲気中にて1000℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒径が約15μmのLi
1.05Ni
0.35Co
0.35Mn
0.30O
2で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0093】
このようにして得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子を1000g用意し、この粒子を1.5Lの純水に添加して攪拌し、純水中にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が分散した懸濁液を調製した。次に、この懸濁液に、酸化エルビウムを硫酸に溶解して得た0.1 mol/Lの濃度の硫酸エルビウム塩水溶液を複数回にわけて加えた。懸濁液に硫酸エルビウム塩水溶液を加えている間の懸濁液のpHは11.5〜12.0であった。懸濁液を濾過し、得られた粉末を真空中200℃で乾燥することで、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にエルビウム化合物の粒子が付着した正極活物質を得た。
【0094】
得られた正極活物質の表面をSEMにて観察したところ、平均粒径20nm〜30nmの水酸化エルビウムの一次粒子が凝集して形成された平均粒径100〜200nmの水酸化エルビウムの二次粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着していることが確認された。
【0095】
図5は、参考例で得られた正極活物質粒子の一部模式断面図である。
図5に示すように、参考例で得られた正極活物質は、希土類化合物の一次粒子24が凝集して形成された希土類化合物の二次粒子25が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の凸部26や、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20間の凹部23に付着していた。但し、凹部23に付着した希土類化合物の二次粒子25は、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の片方にのみ付着していることが確認された。また、エルビウム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0096】
参考例では、Niの割合が35%と低く、3価のNiの割合が少なくなるために、プロトン交換反応により生成したLiOHが、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の界面を通って、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面に出てくる反応が殆ど生じなかったと考えられる。その結果、参考例では、懸濁液のpHが11.5〜12.0と高く、懸濁液中で析出した水酸化エルビウムの一次粒子同士が結合(凝集)して二次粒子を形成しても、水酸化エルビウムの二次粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着する際には、衝突しやすいリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の凸部26に殆ど付着したと考えられる。また、水酸化エルビウムの二次粒子の一部は、凹部23に付着することもあるが、この場合、水酸化エルビウムの二次粒子は、凹部23において隣接しあうリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の片方にのみ付着する。
【0097】
(実施例3)
正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液の代わりに、硫酸サマリウム溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして電池を作製した。サマリウム化合物の付着量は、サマリウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.13質量%であった。
【0098】
(実施例4)
正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液の代わりに、硫酸ネオジム溶液を用いた以外は、実施例2と同様にして電池を作製した。ネオジム化合物の付着量は、ネオジム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.13質量%であった。
【0099】
実施例3及び4の電池について、実施例1と同様の条件で、100サイクル後のDCRを測定した。表2に、実施例2〜4の電池の100サイクル後のDCRを示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表2からわかるように、エルビウムと同じ希土類元素であるサマリウム、ネオジムを用いた場合においても、100サイクル後のDCRは低い値を示した。従って、エルビウム、サマリウム及びネオジム以外の希土類元素を用いた場合においても、同様にサイクル後の抵抗増加を抑制すると考えられる。