特許第6522661号(P6522661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6522661非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522661
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20190520BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   H01M4/485
   H01M4/36 A
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-565887(P2016-565887)
(86)(22)【出願日】2015年12月7日
(86)【国際出願番号】JP2015006057
(87)【国際公開番号】WO2016103591
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-265837(P2014-265837)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河北 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】地籐 大造
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/049958(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/156024(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/068831(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/125444(WO,A1)
【文献】 特開2015−15088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/485、4/36
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子と、希土類化合物の一次粒子が凝集した二次粒子と、アルカリ金属フッ化物の粒子と、を含み、
前記希土類化合物の二次粒子は、前記リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面において、隣接する一次粒子間に形成された凹部に付着し、且つ、前記希土類化合物の二次粒子は、前記凹部において隣接し合う前記一次粒子の両方に付着しており、
前記アルカリ金属フッ化物の粒子は、前記リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面に付着している、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記希土類化合物を構成する希土類元素が、ネオジム、サマリウム及びエルビウムから選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記希土類化合物が、水酸化物及びオキシ水酸化物から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム含有遷移金属酸化物に占めるニッケルの割合が、リチウムを除く金属元素の総モル量に対して80モル%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池には、長時間の使用が可能となるような高容量化や、比較的短時間に大電流充放電を繰り返すことが可能となるような出力特性の向上が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極活物質としての母材粒子の表面に周期律表の第3族の元素を存在させることにより、充電電圧を高くした場合においても正極活物質と電解液の反応を抑制することができ、充電保存特性の劣化を抑制できることが示唆されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、電池缶内部にNaFを含ませる(正極、負極、電解液に添加する)ことにより、HFと正極活物質などの反応によるサイクル劣化が抑制され、サイクル特性(容量維持率)が向上することが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/008812号
【特許文献2】特開平8−321326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1及び2に開示されている技術を用いても、充放電サイクル後の電池の直流抵抗(DCR:Direct Current Resistance、以後、DCRと呼ぶ場合がある)が上昇する、すなわち出力特性が低下することが分かった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、充放電サイクル後のDCRの上昇を抑制することができる非水電解質二次電池用正極活物質及び当該正極活物質を備える非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子と、希土類化合物の一次粒子が凝集した二次粒子と、アルカリ金属フッ化物の粒子と、を含み、前記希土類化合物の二次粒子は、前記リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面において、隣接する一次粒子間に形成された凹部に付着し、且つ、前記希土類化合物の二次粒子は、前記凹部において隣接し合う前記一次粒子の両方に付着しており、前記アルカリ金属フッ化物の粒子は、前記リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面に付着している。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る正極活物質によれば、充放電サイクル後のDCRの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の一例である非水電解質二次電池の模式正面図である。
図2図1のA−A線に沿った模式断面図である。
図3】本実施形態の正極活物質粒子及び該正極活物質粒子の一部を拡大した模式断面図である。
図4】比較例2の正極活物質粒子の一部模式断面図である。
図5】参考例で得られた正極活物質粒子の一部模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について以下に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。実施形態や実験例の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法や量などは、現物と異なる場合がある。
【0012】
図1は、本実施形態の一例である非水電解質二次電池を示す断面図である。図2は、図1のA−A線に沿った模式断面図である。図1及び図2に示すように、非水電解質二次電池11は、正極1と、負極2と、正極1と負極2との間に介在する非水電解質二次電池用セパレータ3(以下、単に「セパレータ3」という)と、非水電解質(不図示)とを備える。正極1及び負極2は、セパレータ3を介して巻回され、セパレータ3と共に扁平型電極群を構成している。非水電解質二次電池11は、正極集電タブ4、負極集電タブ5と、周縁同士がヒートシールされた閉口部7を有するアルミラミネート外装体6とを備える。扁平型電極群及び非水電解質は、アルミラミネート外装体6内に収容されている。そして、正極1は正極集電タブ4に接続され、負極2は負極集電タブ5に接続され、二次電池として充放電可能な構造となっている。
【0013】
図1及び図2に示す例では、扁平型電極群を含むラミネートフィルムパック電池を示しているが、本開示の適用はこれに限定されない。電池の形状は、例えば、円筒形電池、角形電池、コイン電池等であってもよい。
【0014】
以下に、本実施形態の非水電解質二次電池11の各部材について説明する。
【0015】
<正極>
正極1は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、非水電解質二次電池用正極活物質(以下、正極活物質と呼ぶ場合がある)を含み、その他に、導電材及び結着材を含むことが好適である。
【0016】
図3は、本実施形態の正極活物質粒子及び該正極活物質粒子の一部を拡大した模式断面図である。図3に示すように、正極活物質粒子は、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20が凝集して形成されたリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21、希土類化合物の一次粒子24が凝集して形成された希土類化合物の二次粒子25と、アルカリ金属フッ化物の粒子22と、を備えている。そして、希土類化合物の二次粒子25は、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面において、隣接するリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20と一次粒子20との間に形成された凹部23に付着し、且つ希土類化合物の二次粒子25は、凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20と一次粒子20の両方に付着している。また、アルカリ金属フッ化物の粒子22は、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面に付着している。アルカリ金属フッ化物の粒子22は一次粒子及び二次粒子のいずれの形態であってもよい。
【0017】
ここで、希土類化合物の二次粒子25が、凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着しているとは、「リチウム含有遷移金属酸化物粒子の断面を見たとき」、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面において隣接するリチウム含有遷移金属の一次粒子20間に形成された凹部23において、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方の表面に、希土類化合物の二次粒子25が付着した状態のことである。
【0018】
本実施形態の正極活物質粒子によれば、凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着している希土類化合物の二次粒子25により、充放電サイクルにおける、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の表面変質が抑制され、凹部23における一次粒子界面からの割れが抑制される。加えて、希土類化合物の二次粒子25は、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20同士を固定(接着)する効果も有していると考えられるため、充放電サイクルにおいて正極活物質が膨張収縮を繰り返しても、凹部23における一次粒子界面からの割れが抑制される。
【0019】
また、リチウム含有遷移金属酸化物に付着している希土類化合物により、リチウム遷移金属酸化物の二次粒子25の表面にはLiイオン透過性の被膜が形成されるが、この被膜には、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面に付着しているアルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素が含まれる。そして、このLiイオン透過性膜により、充放電サイクルにおける非水電解質の分解が抑制される。
【0020】
このように、充放電サイクルにおける正極活物質の粒子表面の変質及び割れが抑制されることで、例えばリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20同士の接触抵抗の増加が抑制され、また、非水電解質の分解が抑制されることで、例えば正極活物質粒子と非水電解質との界面抵抗の増加が抑制されると考えられる。その結果、充放電サイクル後のDCRの上昇が抑制される。
【0021】
本実施形態で用いられる希土類化合物としては、希土類の水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸化合物、リン酸化合物及びフッ素化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。これらの中でも、特に希土類の水酸化物及びオキシ水酸化物から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましく、これらの希土類化合物を用いると、例えば一次粒子界面で生じる表面変質の抑制効果がより発揮される。
【0022】
希土類化合物を構成する希土類元素は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選択される少なくとも1種である。これらの中でも、ネオジム、サマリウム、エルビウムが特に好ましい。ネオジム、サマリウム、エルビウムの化合物は、他の希土類化合物に比べて、例えば一次粒子界面で生じる表面変質の抑制効果がより発揮される。
【0023】
希土類化合物の具体例としては、水酸化ネオジム、オキシ水酸化ネオジム、水酸化サマリウム、オキシ水酸化サマリウム、水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウム等の水酸化物やオキシ水酸化物の他、リン酸ネオジム、リン酸サマリウム、リン酸エルビウム、炭酸ネオジム、炭酸サマリウム、炭酸エルビウム等のリン酸化合物や炭酸化合物、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化エルビウム、フッ化ネオジム、フッ化サマリウム、フッ化エルビウム等の酸化物やフッ素化合物等が挙げられる。
【0024】
希土類化合物の一次粒子の平均粒径としては、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上80nm以下であることがより好ましい。希土類化合物の二次粒子の平均粒径としては、100nm以上400nm以下であることが好ましく、150nm以上300nm以下であることがより好ましい。平均粒径が400nmを超えると、希土類化合物の二次粒子の粒径が大きくなりすぎるために、希土類化合物の二次粒子が付着するリチウム含有遷移金属酸化物の凹部の数が減少する場合がある。その結果、希土類化合物の二次粒子によって保護されないリチウム含有遷移金属酸化物の凹部が多く存在することになり、高温サイクル後の容量維持率の低下が抑制できない場合がある。一方、平均粒径が100nm未満になると、希土類化合物の二次粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間で接触する面積が小さくなるため、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子同士を固定(接着)する効果が小さくなり、二次粒子表面の一次粒子界面からの割れを抑制する効果が小さくなる場合がある。
【0025】
希土類化合物の割合(付着量)は、リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対して希土類元素換算で、0.005質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。上記割合が0.005質量%未満であると、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間に形成された凹部に付着する希土類化合物の量が少なくなるため、希土類化合物による上述の効果が十分に得られない場合がある。また、上記割合が0.5質量%を超えると、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間のみならず、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面も過剰に覆ってしまうため、初期充放電特性が低下する場合がある。
【0026】
アルカリ金属フッ化物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、のアルカリ金属と、フッ素とを含む化合物であれば特に制限されるものではないが、製造コスト、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子への付着性等の点から、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等が好ましい。
【0027】
アルカリ金属フッ化物の割合は、リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対してフッ素元素換算で、0.005質量%以上、1.0質量%以下が好ましく、特に0.01質量%以上、0.5質量%以下であることがより好ましい。アルカリ金属フッ化物がフッ素元素換算で0.005質量%未満であると、非水電解質の分解を抑制する効果が十分に得られなくなる場合がある。また1.0質量%より多いと、比容量が低下する場合がある。
【0028】
アルカリ金属フッ化物の平均粒径は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、2nm以上100nmであることがより好ましい。平均粒径が1nm未満であると表面処理時の制御が困難となる場合があり、平均粒径が500nmを超えると正極活物質表面においてアルカリ金属フッ化物が不均一となりフッ素の効果が十分に得られない部分が生じてしまう場合がある。
【0029】
リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の平均粒径としては、100nm以上5μm以下であることが好ましく、300nm以上2μm以下であることがより好ましい。平均粒径が100nm未満になると、二次粒子内部も含めた一次粒子界面が多くなりすぎて、充放電サイクルにおける正極活物質の膨張収縮により、一次粒子の割れが発生しやすくなる場合がある。一方、平均粒径が5μmを超えると、二次粒子内部も含めた一次粒子界面の量が少なくなりすぎて、特に低温での出力が低下する場合がある。リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の平均粒径としては、2μm以上40μm以下であることが好ましく、4μm以上20μm以下であることがより好ましい。平均粒径が2μm未満になると、二次粒子として小さすぎて、正極活物質としての充填密度が低下し、高容量化が十分に図られない場合がある。一方、平均粒径が40μmを超えると、特に低温での出力が十分に得られなくなる場合がある。なお、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子は、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子が結合(凝集)して形成されるため、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子よりも大きいことはない。
【0030】
平均粒径は活物質粒子の表面および断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、それぞれ例えば数十個の粒子の粒径を測定することにより求めた。また、希土類化合物の一次粒子およびアルカリ金属フッ化物の平均粒径とは活物質の表面に沿った大きさのことであり、厚さ方向ではない。
【0031】
リチウム含有遷移金属酸化物としては、正極容量をより増大させ得るだけでなく、後述する一次粒子界面でのプロトン交換反応がより生じやすいという観点から、リチウム含有遷移金属酸化物中に占めるNiの割合が、リチウムを除く金属元素の総量に対して80%以上であるものを用いることが好ましい。即ち、リチウム含有遷移金属酸化物中におけるLiを除く金属全体のモル量を1としたときのニッケルの比率が80%以上であることが好ましい。リチウム含有遷移金属酸化物として具体的には、リチウム含有ニッケルマンガン複合酸化物や、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物、リチウム含有ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物等を用いることができる。リチウム含有ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物としては、ニッケルとコバルトとアルミニウムとのモル比が8:1:1、82:15:3、85:12:3、87:10:3、88:9:3、88:10:2、89:8:3、90:7:3、91:6:3、91:7:2、92:5:3、94:3:3等の組成のものを用いることができる。尚、これらは単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0032】
Ni割合(Ni比率)が80%以上であるリチウム含有遷移金属酸化物では、3価のNiの割合が多くなるため、水中で水とリチウム含有遷移金属酸化物中のリチウムとのプロトン交換反応が起こりやすくなり、プロトン交換反応により生成したLiOHが、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面の内部から二次粒子表面に大量に出てくる。これにより、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面において隣接するリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間におけるアルカリ(OH)濃度が周囲より高くなる。このため、一次粒子間に形成された凹部のアルカリに引き寄せられるようにして希土類化合物の一次粒子が凝集して二次粒子を形成しながら付着しやすくなる。一方、Ni割合が80%未満であるリチウム含有遷移金属複合酸化物では、3価のNiの割合が少なく、上記プロトン交換反応が起こりにくくなるため、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間におけるアルカリ濃度は周囲と殆ど変わらない。このため、析出した希土類化合物の一次粒子が結合して二次粒子を形成したとしても、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着する際には、衝突しやすいリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の凸部に付着しやすくなる。
【0033】
リチウム含有遷移金属酸化物として、特に好ましい組成は、電池の高容量化等の観点から、リチウム含有遷移金属酸化物中に占めるコバルトの割合が、リチウムを除く金属元素の総モル量に対して7モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。しかし、コバルトが過少になると、充放電時の構造変化が起こり易くなり、粒子界面での割れが生じやすくなる場合があるため、コバルト比率が7モル%以下のリチウム含有遷移金属酸化物を用いる場合には、当該リチウム含有遷移金属複合酸化物にタングステンを固溶した上で、図1に示すように希土類化合物、アルカリ金属フッ化物を付着させることが好ましい。これにより、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の表面変質及び割れが、粒子の表面及び内部の両方から抑制されるため、高温サイクル時の容量維持率の低下がより抑制される。
【0034】
リチウム含有遷移金属酸化物は、さらに他の添加元素を含んでいてもよい。添加元素の例としては、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、ビスマス(Bi)、ゲルマニウム(Ge)等が挙げられる。
【0035】
リチウム含有遷移金属酸化物は、高温保存特性に優れた電池を得るという観点等から、リチウム含有遷移金属酸化物を水等で洗浄し、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着しているアルカリ成分を除去することが好ましい。
【0036】
リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に希土類化合物を付着させる方法としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物を含む懸濁液に、希土類化合物を溶解した水溶液を加える方法が挙げられる。
【0037】
リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に希土類化合物を付着させるにあたり、希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液を上記懸濁液に加える間、懸濁液のpHを11.5以上、好ましくはpH12以上の範囲に調整することが望ましい。この条件下で処理することで希土類化合物の粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面に偏在して付着した状態となりやすいためである。一方、懸濁液のpHを6以上10以下にすると、希土類化合物の粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に付着した状態となり易く、二次粒子表面における一次粒子界面で生じる表面変質による活物質の割れを十分に抑制することができない場合がある。また、pHが6未満になると、リチウム含有遷移金属酸化物の少なくとも一部が溶解してしまう場合がある。
【0038】
また、上記懸濁液のpHは14以下、好ましくはpH13以下の範囲に調整することが望ましい。pHが14より大きくなると、希土類化合物の一次粒子が大きくなりすぎるだけでなく、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子内部にアルカリが過剰に残留してしまい、スラリー作製時にゲル化しやすくなる場合や、電池の保存時に過剰にガス発生する場合がある。
【0039】
リチウム含有遷移金属酸化物を含む懸濁液に、希土類化合物を溶解した水溶液を加える際、単に水溶液を用いた場合には希土類の水酸化物として析出し、十分に二酸化炭素を溶解した場合には希土類の炭酸化合物として析出する。十分に燐酸イオンを懸濁液に加えた場合には希土類の燐酸化合物としてリチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面に希土類化合物を析出させることができる。
【0040】
希土類化合物が表面に析出したリチウム含有遷移金属酸化物の粒子は熱処理することが好ましい。熱処理温度としては、80℃以上500℃以下であることが好ましく、特に80℃以上400℃以下であることがより好ましい。80℃未満であると、熱処理により得られた正極活物質を十分に乾燥するのに過剰な時間がかかる恐れがあり、500℃を超えると、表面に付着した希土類化合物の一部がリチウム含有遷移金属酸化物の粒子内部に拡散してしまい、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面で生じる表面変質の抑制効果が低下する場合がある。一方、熱処理温度が400℃以下である場合には、リチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子内部に希土類元素は殆ど拡散せず、一次粒子界面に強固に付着するため、例えばリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面で生じる表面変質の抑制効果、及びこれら一次粒子同士の接着効果が大きくなる。また、希土類の水酸化物を一次粒子界面に付着させた場合には、約200℃から約300℃で水酸化物の殆どがオキシ水酸化物に変化し、さらに約450℃から約500℃で殆どが酸化物に変化する。このため、400℃以下で熱処理した場合には、表面変質の抑制効果が大きい希土類の水酸化物やオキシ水酸化物をリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面に選択的に配置することができるため、充放電サイクル後のDCRの上昇をより抑制することができる。
【0041】
希土類化合物が表面に付着したリチウム含有遷移金属酸化物の熱処理は、真空下で行うことが好ましい。希土類化合物を付着させる際に用いた懸濁液の水分は、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子内部にまで浸透しているが、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面において、一次粒子界面に形成された凹部に希土類化合物の二次粒子が付着していると、乾燥時に内部からの水分が抜けにくくなるため、熱処理を真空下で行わないと水分が効果的に除去されない場合がある。その結果、電池内に正極活物質から持ち込まれる水分量が増加して、水分と非水電解質との反応で生成した生成物により活物質表面が変質する場合があるためである。
【0042】
希土類化合物を含む水溶液としては、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酸化物又は塩化物等を水や有機溶媒に溶解したもの用いることができる。溶解度が高いことなどから水に溶解したものを用いることが好ましい。特に、希土類の酸化物を用いる場合、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸などの酸にこれを溶解して得られた希土類の硫酸塩、塩化物、硝酸塩が溶解した水溶液でもよい。
【0043】
なお、リチウム含有遷移金属酸化物と希土類化合物とを乾式で混合する方法を用いて、希土類化合物をリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着させた場合、希土類化合物の粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にランダムに付着するため、二次粒子表面の一次粒子界面に選択的に付着させることは困難である。また、乾式で混合する方法を用いた場合は、リチウム含有遷移金属酸化物に希土類化合物を強固に付着することが困難であるため、一次粒子同士を固着(接着)する効果が十分に得られない場合がある。また、導電剤や結着剤などと混合して正極合剤を作製する際に、希土類化合物がリチウム含有遷移金属酸化物から脱落しやすくなる場合がある。
【0044】
リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にアルカリ金属フッ化物を付着させる方法としては、例えば、リチウム遷移金属酸化物を含む懸濁液に、アルカリ金属フッ化物を溶解させた水溶液を加える方法や、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子を混合しながら、アルカリ金属フッ化物を溶解させた水溶液を添加(噴霧)する方法等が挙げられる。リチウム遷移金属酸化物を含む懸濁液に、アルカリ金属フッ化物を溶解させた水溶液を加える方法を用いる場合には、前述の希土類化合物を溶解させた水溶液と共にアルカリ金属フッ化物を溶解させた水溶液を加えることが望ましい。また、リチウム遷移金属酸化物の粒子を混合しながら、アルカリ金属フッ化物を溶解させた水溶液を添加(噴霧)する方法を用いる場合には、リチウム含有遷移金属酸化物を含む懸濁液に、希土類化合物を溶解した水溶液を加える方法によって、希土類化合物を付着させたリチウム含有遷移金属酸化物の粒子を混合しながら、アルカリ金属フッ化物を溶解させた水溶液を添加(噴霧)することが望ましい。
【0045】
正極活物質としては、上記で説明した本実施形態のリチウム含有遷移金属酸化物の粒子を単独で用いる場合に限定されない。上記で説明した本実施形態のリチウム含有遷移金属酸化物と他の正極活物質とを混合させて使用することも可能である。他の正極活物質としては、可逆的にリチウムイオンを挿入・脱離可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、安定した結晶構造を維持したままリチウムイオンの挿入脱離が可能であるコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどの層状構造を有するものや、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物などのスピネル構造を有するものや、オリビン構造を有するもの等を用いることができる。尚、同種の正極活物質のみを用いる場合や異種の正極活物質を用いる場合において、正極活物質としては、同一の粒径のものを用いても良く、また、異なる粒径のものを用いてもよい。
【0046】
導電材は、例えば正極活物質層の電気伝導性を高めるために用いられる。導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
結着材は、例えば正極活物質及び導電材間の良好な接触状態を維持し、且つ正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高めるために用いられる。結着材としては、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。例えば、フッ素系高分子としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等、ゴム系高分子としてエチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。結着剤は、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘剤と併用されてもよい。
【0048】
<負極>
負極2は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、銅などの負極の電位範囲で安定な金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵・脱離可能な負極活物質の他に、結着剤を含むことが好適である。結着剤としては、正極の場合と同様にPTFE等を用いることもできるが、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いることが好ましい。結着剤は、CMC等の増粘剤と併用されてもよい。
【0049】
上記負極活物質としては、リチウムを吸蔵放出可能な炭素材料、あるいはリチウムと合金を形成することが可能な金属またはその金属を含む合金化合物が挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛や難黒鉛化性炭素、人造黒鉛等のグラファイト類、コークス類等を用いることができ、合金化合物としては、リチウムと合金形成可能な金属を少なくとも1種類含むものが挙げられる。特に、リチウムと合金形成可能な元素としてはケイ素やスズであることが好ましく、これらが酸素と結合した、酸化ケイ素や酸化スズ等も用いることもできる。また、上記炭素材料とケイ素やスズの化合物とを混合したものを用いることができる。上記の他、エネルギー密度は低下するものの、負極材料としてはチタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0050】
<セパレータ>
セパレータ3には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好適である。
【0051】
<非水電解質>
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質の電解質塩としては、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiN(FSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ホウ酸塩類、イミド塩類などを用いることができる。さらに、フッ素含有リチウム塩に、フッ素含有リチウム塩以外のリチウム塩〔P、B、O、S、N、Clの中の一種類以上の元素を含むリチウム塩(例えば、LiPO等)〕を加えたものを用いても良い。この中でも、イオン伝導性と電気化学的安定性の観点から、LiPFを用いることが好ましい。電解質塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら電解質塩は、非水電解質1Lに対し0.8〜1.5molの割合で含まれていることが好ましい。また、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を用いることもできる。例として、LiBOB〔リチウム−ビスオキサレートボレート〕、Li[B(C)F]、Li[P(C)F]、Li[P(C]が挙げられる。中でも特に負極で安定な被膜を形成させるLiBOBを用いることが好ましい。
【0052】
非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、メチルプロピオネート(MP)フルオロメチルプロピオネート(FMP)が挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、高誘電率、低粘度、低融点の観点でリチウムイオン伝導度の高い非水系溶媒として、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、この混合溶媒における環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比は、2:8〜5:5の範囲に規制することが好ましい。また、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステルを含む化合物;プロパンスルトン等のスルホン基を含む化合物;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテルを含む化合物;ブチロニトリル、バレロニトリル、n−ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,3,5−ペンタントリカルボニトリル等のニトリルを含む化合物;ジメチルホルムアミド等のアミドを含む化合物等を上記の溶媒とともに用いることもでき、また、これらの水素原子Hの一部がフッ素原子Fにより置換されている溶媒も用いることができる。
【0053】
また、正極1とセパレータ3との界面、又は、負極2とセパレータ3との界面には、従来から用いられてきた無機物のフィラーからなる層を配置してもよい。フィラーとしては、チタン、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等を単独もしくは複数用いた酸化物やリン酸化合物、またその表面が水酸化物等で処理されているものを用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
[正極の作製]
LiOHと、共沈により得られたNi0.91Co0.06Al0.03(OH)で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を500℃で酸化物にしたものを、Liと遷移金属全体(Ni0.91Co0.06Al0.03)とのモル比が1.05:1.0となるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。次に、この混合物を酸素雰囲気中にて760℃で20時間熱処理後、粉砕することにより、均二次粒径が約15μmのLi1.05Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の粒子を得た。
【0056】
このようにして得られたリチウム含有遷移金属酸化物としてのリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物粒子を1000g用意し、この粒子を1.5Lの純水に添加して攪拌し、純水中にリチウム含有遷移金属酸化物が分散した懸濁液を調製した。次に、この懸濁液に、酸化エルビウムを硫酸に溶解して得た0.1 mol/Lの濃度の硫酸エル
ビウム塩水溶液を複数回にわけて加えた。懸濁液に硫酸エルビウム塩水溶液を加えている間の懸濁液のpHは11.5〜12.0であった。懸濁液を濾過し、得られた粉末にフッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた0.6 mol/Lの濃度の水溶液を噴霧し、
その後真空中200℃で乾燥して正極活物質を作製した。
【0057】
得られた正極活物質の表面をSEMにて観察したところ、平均粒径20〜30nmの水酸化エルビウムの一次粒子が凝集して形成された平均粒径100〜200nmの水酸化エルビウムの二次粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着していることが確認された。また、水酸化エルビウムの二次粒子の殆どは、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面において隣接するリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間に形成された凹部に付着しており、凹部において隣接し合うこれらの一次粒子の両方に接するように付着していることが確認された。また、平均粒径10〜30nmのフッ化ナトリウムはリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面(凹部凸部)に付着していることが確認された。
【0058】
実施例1では、懸濁液のpHは11.5〜12.0と高いために、懸濁液中で析出した水酸化エルビウムの一次粒子同士が結合(凝集)して二次粒子を形成したと考えられる。また、実施例1では、Niの割合が91%と高く、3価のNiの割合が多くなるために、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面でLiNiOとHOの間でプロトン交換が起こりやすくなり、プロトン交換反応により生成した多量のLiOHが、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にある一次粒子と一次粒子が隣接している界面の内部から出てくる。これにより、リチウム含有遷移金属酸化物の表面において隣接する一次粒子間におけるアルカリ濃度が高くなるため、懸濁液中で析出した水酸化エルビウム粒子が、アルカリに引き寄せられるようにして、上記一次粒子界面に形成された凹部に凝集するように二次粒子を形成しながら析出したと考えられる。
【0059】
エルビウム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。また、アルカリ金属フッ化物の付着量をイオンクロマトグラフにより測定したところ、フッ素元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.10質量%であった。
【0060】
上記正極活物質粒子と、導電剤としてのカーボンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質粒子と導電剤と結着剤との質量比が100:1:1となるように秤量し、T.K.ハイビスミックス(プライミクス社製)を用いてこれらを混練して正極合剤スラリーを調製した。
【0061】
次いで、上記正極合剤スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにアルミニウム製の集電タブを取り付けることにより、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極極板を作製した。尚、この正極における正極活物質の充填密度は3.60g/cmであった。
【0062】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛と、分散剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)と、結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、100:1:1の質量比で水溶液中において混合し、負極合剤スラリーを調製した。次に、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布した後、乾燥させ、圧延ローラーにより圧延し、さらにニッケル製の集電タブを取り付けた。これにより、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極極板を作製した。なお、この負極における負極活物質の充填密度は1.50g/cmであった。
【0063】
[非水電解質の作製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、2:2:6の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.3モル/リットルの濃度になるように溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して2.0質量%溶解させた非水電解液を調製した。
【0064】
[試験セル]
このようにして得た正極および負極を、これら両極間にセパレータを配置して渦巻き状に巻回した後、巻き芯を引き抜いて渦巻状の電極体を作製した。次に、この渦巻状の電極体を押し潰して、扁平型の電極体を得た。この後、この偏平型の電極体と上記非水電解液とを、アルミニウムラミネート製の外装体内に挿入し、電池を作製した。尚、当該電池のサイズは、厚み3.6mm×幅35mm×長さ62mmであった。また、当該非水電解質二次電池を4.20Vまで充電し、3.0Vまで放電したときの放電容量は950mAhであった。
【0065】
<実施例2>
正極活物質の作製において、フッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた0.14 mol/Lの濃度の水溶液を噴霧したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。また、アルカリ金属フッ化物の付着量は、フッ素元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.10質量%であった。
【0066】
<比較例1>
正極活物質の作製において、フッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた水溶液をリチウム含有遷移金属酸化物に噴霧しなかったこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0067】
<比較例2>
懸濁液に硫酸エルビウム塩水溶液を加えている間の懸濁液のpHを9で一定に保持したこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。なお、上記懸濁液のpHを9に調整(保持)するために、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えた。
【0068】
得られた正極活物質の表面をSEMにより観察したところ、平均粒径10nm〜50nmの水酸化エルビウムの一次粒子が、二次粒子化することなくリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体(凸部及び凹部)に均一に分散して付着していることが確認された。また、平均粒径10〜30nmのアルカリ金属フッ化物はリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面(凸部及び凹部)に付着していることが確認された。
【0069】
比較例2では、懸濁液のpHを9にしているために、懸濁液中における水酸化エルビウムの粒子の析出速度が遅くなり、このために水酸化エルビウムの粒子が二次粒子化することなくリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に析出した状態になったと考えられる。
【0070】
エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。また、アルカリ金属フッ化物の付着量は、フッ素元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.10質量%であった。
【0071】
<比較例3>
正極活物質の作製において、フッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた水溶液をリチウム含有遷移金属酸化物に噴霧しなかったこと以外は、比較例2と同様にして電池を作製した。エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0072】
<比較例4>
正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液を加えず、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に水酸化エルビウムを付着させなかったこと以外は、上記比較例2と同様にして電池を作製した。アルカリ金属フッ化物の付着量は、フッ素元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.10質量%であった。
【0073】
<比較例5>
正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液を加えず、また、フッ化ナトリウムを純水に溶解させて得られた水溶液を噴霧しなかったこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0074】
<DCRの測定>
上述のようにして作製した実施例1〜2及び比較例1〜5の電池について、下記条件での充放電を1サイクルとして、この充放電サイクルを100回繰り返し行った後、下記条件で100サイクル後のDCRを測定した。
【0075】
(充放電サイクル試験)
・充電条件
475mAの電流で電池電圧が4.2V(正極電位はリチウム基準で4.3V)となるまで定電流充電を行い、電池電圧が4.2Vに達した後は、4.2Vの定電圧で電流値が30mAとなるまで定電圧充電を行った。
・放電条件
950mAの定電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流放電を行った。
・休止条件
上記充電と放電の間の休止間隔は10分間とした。
【0076】
(100サイクル後のDCRの測定)
上記100サイクル後の電池をSOC100%まで475mAの電流で充電した後、SOCが100%に到達した電池電圧で電流値が30mAとなるまで定電圧充電を行った。充電終了後120分間休止した時点のOCVを測定し、475mAで10秒間放電を行い放電10秒後の電圧を測定し、下記式(1)により100サイクル後のDCR(SOC100%)を測定した。
DCR(Ω)=(120分休止後のOCV(V) − 放電10秒後の電圧(V))/(放電10秒後の電流値(A))・・・(1)
【0077】
表1に、実施例1〜2及び比較例1〜5の電池の100サイクル後のDCRを示す。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1及び2の電池の正極活物質は、図3に示すように、希土類化合物の二次粒子25が凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着している。これにより、充放電サイクルにおいて、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の表面変質及び一次粒子界面からの割れを抑制することができる。加えて、希土類化合物の二次粒子25は、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20同士を固定(接着)する効果も有しているので、凹部23において、一次粒子界面から割れが生じるのを抑制できる。
【0080】
さらに、実施例1及び2の電池の正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の希土類化合物により、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面全体に良質な被膜が生成される。また、この被膜にはアルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素が含まれる。そして、このLiイオン透過性被膜により、充放電サイクル中の電解液の分解が抑制される。
【0081】
このように、実施例1及び2の電池においては、正極活物質粒子の表面変質、割れ、及び電解液の分解反応が抑制されるため、比較例1〜5の電池と比較して、粒子の接触抵抗や、粒子と電解液との界面抵抗の増加が抑えられ、充放電サイクル後のDCRの増加が抑制されたと考えられる。
【0082】
比較例1の電池で用いた正極活物質は、希土類化合物の二次粒子が凹部において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の両方に付着しているため、実施例1の電池と同様に、充放電サイクル時において、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の表面変質及び割れが抑制される。しかし、比較例1の電池で用いた正極活物質には、アルカリ金属フッ化物が粒子表面に付着されていないため、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に生成する良質な被膜中にはアルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素が含まれない。このため、実施例1及び2の電池と比較して、充放電サイクル中の電解液の分解反応を抑制することができない。
【0083】
このように、比較例1の電池においては、正極活物質粒子の表面変質及び割れを抑制することはできるものの、充放電サイクル中の電解液の分解を抑制することができないため、実施例1及び2の電池と比較して、例えば粒子と電解液との界面抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0084】
図4は、比較例2の正極活物質粒子の一部模式断面図である。比較例2の電池で用いた正極活物質は、図4に示すように、希土類化合物の一次粒子24が、二次粒子を形成することなく、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面全体に均一に付着している。すなわち、比較例2の電池においては、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の凹部23において、希土類化合物の二次粒子が付着していないため、実施例1及び2の電池で用いた正極活物質と比較して、正極活物質の粒子表面の表面変質及び割れを抑制することができない。なお、比較例2の電池で用いた正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面に希土類化合物の一次粒子24と、アルカリ金属フッ化物の粒子22とが存在するため、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面全体に、アルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素が含まれる良質な被膜が生成される。このため、充放電サイクル中の電解液の分解反応は抑制される。
【0085】
このように、比較例2の電池においては、充放電サイクル中の電解液の分解を抑制することはできるものの、正極活物質粒子の表面変質及び割れを抑制することができないため、実施例1及び2の電池と比較して、例えば粒子間の接触抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0086】
比較例3の電池で用いた正極活物質は、比較例2の正極活物質と同様に、希土類化合物の一次粒子が、二次粒子を形成することなく、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に付着している。さらに、リチウム含有遷移金属酸化物表面にはアルカリ金属フッ化物は付着していない。したがって、比較例3の電池においては、正極活物質の粒子表面における表面変質及び割れを抑制することができず、さらに、充放電サイクル中の電解液の分解反応も抑制することができないため、比較例1及び2の電池と比較して、例えば粒子間の接触抵抗及び粒子と電解液との界面抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0087】
ここで、希土類化合物の二次粒子が凹部において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の両方に付着している正極活物質(以後、希土類化合物がリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の凹部に凝集付着している正極活物質、と呼ぶことがある。)を用いた実施例1〜2の電池及び比較例1の電池は、希土類化合物の一次粒子が二次粒子を形成することなく、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に付着している正極活物質を用いた比較例2及び3の電池よりも、100サイクル後のDCRは100mΩ以上も低い値を示していた(実施例1〜2と比較例2との比較、比較例1と比較例3との比較)。これに対して、リチウム含有遷移金属酸化物表面にアルカリ金属フッ化物が付着されたリチウム含有遷移金属酸化物を用いた実施例1〜2の電池及び比較例2の電池と、アルカリ金属フッ化物が付着されていないリチウム含有遷移金属酸化物を用いた比較例1及び3の電池とを比較した場合、実施例1〜2の電池の100サイクル後のDCRは、比較例1の電池と比較して55mΩ以上低い値を示し、比較例2の電池の100サイクル後のDCRは、比較例3の電池と比較して、35mΩ程度低い値を示した。すなわち、正極活物質の粒子表面における表面変質及び割れを抑制する方が、充放電サイクル中の電解液の分解を抑制する方より、充放電サイクル後のDCRの増加を抑制する影響が大きいと言える。この点については、以下の理由が推察される。
【0088】
正極活物質の粒子表面における表面変質及び割れが生じてしまうと、正極活物質の粒子表面には良質な被膜が形成されていない新生面が発生してしまうため、アルカリ金属フッ化物由来のアルカリ金属とフッ素を含む被膜による電解液の分解を抑制する効果が小さくなってしまうと考えられる。したがって、前述したように、例えば比較例1の電池と比較例3の電池における充放電サイクル後のDCRの差(100mΩ)が、例えば実施例2の電池と比較例1の電池における充放電サイクル後のDCRの差(55mΩ)よりも、大きかったと考えられる。
【0089】
比較例4の電池で用いた正極活物質では、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子に、希土類化合物は付着していないため、正極活物質の表面における表面変質及び割れを抑制することができない。また、比較例4の電池で用いた正極活物質では、リチウム含有遷移金属酸化物表面にアルカリ金属フッ化物は付着されているが、希土類化合物は付着されていないため、二次粒子表面全体に良質な被膜が形成されていない。このため、充放電サイクル中の電解液の分解抑制効果も得られない。
【0090】
このように、比較例4の電池においては、充放電サイクル中の電解液の分解を抑制することができず、また、正極活物質粒子の表面変質及び割れを抑制することもできないため、実施例1及び2の電池と比較して、例えば粒子間の接触抵抗及び粒子と電解液との界面抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0091】
比較例5の電池で用いた正極活物質では、リチウム含有遷移金属酸化物表面に希土類化合物及びアルカリ金属フッ化物が付着されていないため、正極活物質粒子の表面変質及び割れを抑制することができず、また充放電サイクル中の電解液の分解抑制効果も得られない。したがって、比較例5の電池は、実施例1及び2の電池と比較して、例えば粒子間の接触抵抗及び粒子と電解液との界面抵抗が増加する等により、充放電サイクル後のDCRが高くなったと考えられる。
【0092】
(参考例)
LiOHと、共沈により得られたNi0.35Co0.35Mn0。30(OH)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を500℃で酸化物にしたものを、Liと遷移金属全体(Ni0.35Co0.35Mn0。30)とのモル比が1.05:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。次に、この混合物を空気雰囲気中にて1000℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒径が約15μmのLi1.05Ni0.35Co0.35Mn0.30で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0093】
このようにして得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子を1000g用意し、この粒子を1.5Lの純水に添加して攪拌し、純水中にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が分散した懸濁液を調製した。次に、この懸濁液に、酸化エルビウムを硫酸に溶解して得た0.1 mol/Lの濃度の硫酸エルビウム塩水溶液を複数回にわけて加えた。懸濁液に硫酸エルビウム塩水溶液を加えている間の懸濁液のpHは11.5〜12.0であった。懸濁液を濾過し、得られた粉末を真空中200℃で乾燥することで、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にエルビウム化合物の粒子が付着した正極活物質を得た。
【0094】
得られた正極活物質の表面をSEMにて観察したところ、平均粒径20nm〜30nmの水酸化エルビウムの一次粒子が凝集して形成された平均粒径100〜200nmの水酸化エルビウムの二次粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着していることが確認された。
【0095】
図5は、参考例で得られた正極活物質粒子の一部模式断面図である。図5に示すように、参考例で得られた正極活物質は、希土類化合物の一次粒子24が凝集して形成された希土類化合物の二次粒子25が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の凸部26や、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20間の凹部23に付着していた。但し、凹部23に付着した希土類化合物の二次粒子25は、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の片方にのみ付着していることが確認された。また、エルビウム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0096】
参考例では、Niの割合が35%と低く、3価のNiの割合が少なくなるために、プロトン交換反応により生成したLiOHが、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の界面を通って、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面に出てくる反応が殆ど生じなかったと考えられる。その結果、参考例では、懸濁液のpHが11.5〜12.0と高く、懸濁液中で析出した水酸化エルビウムの一次粒子同士が結合(凝集)して二次粒子を形成しても、水酸化エルビウムの二次粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着する際には、衝突しやすいリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の凸部26に殆ど付着したと考えられる。また、水酸化エルビウムの二次粒子の一部は、凹部23に付着することもあるが、この場合、水酸化エルビウムの二次粒子は、凹部23において隣接しあうリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の片方にのみ付着する。
【0097】
(実施例3)
正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液の代わりに、硫酸サマリウム溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして電池を作製した。サマリウム化合物の付着量は、サマリウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.13質量%であった。
【0098】
(実施例4)
正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液の代わりに、硫酸ネオジム溶液を用いた以外は、実施例2と同様にして電池を作製した。ネオジム化合物の付着量は、ネオジム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.13質量%であった。
【0099】
実施例3及び4の電池について、実施例1と同様の条件で、100サイクル後のDCRを測定した。表2に、実施例2〜4の電池の100サイクル後のDCRを示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表2からわかるように、エルビウムと同じ希土類元素であるサマリウム、ネオジムを用いた場合においても、100サイクル後のDCRは低い値を示した。従って、エルビウム、サマリウム及びネオジム以外の希土類元素を用いた場合においても、同様にサイクル後の抵抗増加を抑制すると考えられる。
【符号の説明】
【0102】
1 正極、2 負極、3 非水電解質二次電池用セパレータ、4 正極集電タブ、5 負極集電タブ、6 アルミラミネート外装体、7 閉口部、11 非水電解質二次電池、20,24 一次粒子、21,25二次粒子、22 粒子、23 凹部、26 凸部。
図1
図2
図3
図4
図5