特許第6522698号(P6522698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6522698密着性に優れるめっき物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522698
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】密着性に優れるめっき物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20190520BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   C23C18/20 Z
   H05K3/18 A
   H05K3/18 B
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-146899(P2017-146899)
(22)【出願日】2017年7月28日
(62)【分割の表示】特願2013-187400(P2013-187400)の分割
【原出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2017-197848(P2017-197848A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 弘樹
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−190026(JP,A)
【文献】 特開平10−027963(JP,A)
【文献】 特開2013−127106(JP,A)
【文献】 特開2012−036478(JP,A)
【文献】 特開2011−153372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
H05K 3/10−3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーと無機系フィラーとを含む塗膜層と、該塗膜層上に、無電解めっき法による金属析出により形成された金属めっき膜とを有するめっき物であって、該塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても前記金属析出により金属めっき組織が形成されており、該塗膜層中に形成された金属めっき組織の析出開始点は15−75%の範囲であり、該析出開始点とは、切削角度1度での前記めっき物の切削面における銅の正二次イオン像について、銅が存在する最下部位の、塗膜層の厚さに対する塗膜層上部からの距離の百分率割合をい
耐久試験後密着強度が0.5N/mm以上である、めっき物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温化においても密着性に優れるめっき物に関するものであり、詳細には、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層と、該塗膜層上に、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層と、該塗膜層上に、無電解めっき法による金属析出により形成された金属めっき膜とを有するめっき物であって、該塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても前記金属析出により金属めっき組織が形成されていることを特徴とする、めっき物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材との密着性に優れる金属めっき膜を無電解めっき法により形成しためっき物として、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層を形成し、該塗膜層上に金属めっき膜を無電解めっき法により形成しためっき物が開示されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているめっき物は、金属めっき膜と基材との密着性に優れ、加えて、金属めっき膜の表面には露出部(ムラ)がなく均一であり、更に、該膜を厚くすることが可能であるという優れた性能を有するめっき物である。
確かに、特許文献1に記載されているめっき物は、初期の密着性には優れるものの、例えば、高温化の環境下に晒されると密着性が低下して、金属めっき膜の剥離が発生する場合があることが分った。
従って、本発明は、上記の問題点を解消し得る、即ち、高温化においても密着性に優れるめっき物及びその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含み、場合により無機系フィラーを含んでいてもよい塗膜層と、該塗膜層上に、無電解めっき法による金属析出により形成された金属めっき膜とを有するめっき物において、該塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても前記金属析出により金属めっき組織を形成し、該塗膜層中に形成された金属めっき組織の析出開始点を10−75%の範囲とすると、該めっき物は高温化においても密着性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーと無機系フィラーとを含む塗膜層と、該塗膜層上に、無電解めっき法による金属析出により形成された金属めっき膜とを有するめっき物であって、該塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても前記金属析出により金属めっき組織が形成されており、該塗膜層中に形成された金属めっき組織の析出開始点は10−75%の範囲であり、該析出開始点とは、切削角度1度での前記めっき物の切削面における銅の正二次イオン像について、銅が存在する最下部位の、塗膜層の厚さに対する塗膜層上部からの距離の百分率割合をいう、めっき物
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーと場合により無機系フィラーを含む塗膜層と、該塗膜層上に、無電解めっき法による金属析出により形成された金属めっき膜とを有するめっき物であって、該塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても前記金属析出により金属めっき組織が形成されていることを特徴とする、めっき物が提供される。
本発明のめっき物は、上記のように、塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても金属めっき組織を形成させるものであるが、これにより、金属めっき膜は、塗膜層中に食い込んでアンカー効果を発現させ、結果として、金属めっき膜の密着性における耐久性を向上させたものと考えられる。
現在のところ、どのような機構で塗膜層内部で金属析出が生じて金属めっき組織が形成されるのかという点については必ずしも明らかではないが、触媒液による処理が完了するまでに、塗膜層が形成された基材を、界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液で少なくとも1回処理することにより、塗膜層に何らかの変化が生じて触媒金属が塗膜層内部にまで付与されることとなり、該付与された触媒金属を介して金属析出が生じ、結果として、金属めっき膜寄りの部分の一部においても前記金属析出により金属めっき組織が形成されたと考えることができる。
特許文献1に記載されるめっき物の断面は、例えば、[図1]のAで示される比較例1で製造しためっき物の断面と同様に、塗膜層1と金属めっき膜2から構成される。これに対して、本発明のめっき物の断面は、例えば、[図1]のBで示される実施例1で製造しためっき物の断面のように、塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても金属めっき組織が形成される。
このように、塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても金属めっき組織が形成されることは、[図1]のBで示されるめっき物をa−a”で切削した際の、切削面における銅の正二次イオン像の写真を示す[図2]において明示されている。
即ち、[図2]において、塗膜層の切断面における、bとa”の間では、銅が金属めっき膜と連続して存在しないものの、a’とbとの間では、銅が金属めっき膜と連続して存在することが示されてる(写真において白っぽくなっている部分が銅の存在を示す。)。また、ここでいう「銅が金属めっき膜と連続している」というのは、塗膜層における銅が金属めっき膜と「面」で連続している必要はなく、「線」で連続していればよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】Aは、比較例1で製造しためっき物の断面の模式図を表し、Bは、実施例1で製造しためっき物の断面の模式図を表す。
図2】実施例1で製造しためっき物をa−a”で切削した際の、切削面における銅の正二次イオン像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明のめっき物は、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層と、該塗膜層上に、無電解めっき法による金属析出により形成された金属めっき膜とを有するめっき物であって、該塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても前記金属析出により金属めっき組織が形成されていることを特徴とする。
本発明のめっき物は、
(A)基材上に還元性高分子微粒子とバインダー、そして場合により無機系フィラー等を含む塗料を塗布して塗膜層を形成し、該塗膜層が形成された基材を触媒液で処理して塗膜層上に触媒金属を付着させ、該触媒金属が付着した塗膜層上に無電解めっき法により金属膜を形成させる際、前記触媒液での処理が完了するまでに、前記塗膜層が形成された基材を、界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶
液で少なくとも1回処理することにより製造されるか又は
(B)基材上に導電性高分子微粒子とバインダー、そして場合により無機系フィラー等を含む塗料を塗布して塗膜層を形成し、該塗膜層が形成された基材を脱ドープ処理した後、触媒液で処理して塗膜層上に触媒金属を付着させ、該触媒金属が付着した塗膜層上に無電解めっき法により金属膜を形成させる際、前記触媒液での処理が完了するまでに、前記塗膜層が形成された基材を、界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液で少なくとも1回処理することにより製造される。
【0010】
上記製法(A)及び(B)に使用する基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ガラス等が挙げられる。
また、基材の形状は特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状が挙げられる。
他にも、基材として、例えば、射出成形などにより樹脂を成形した樹脂成形品が挙げられる。そして、この樹脂成形品に本発明のめっき物を設けることにより、例えば、自動車向けの装飾めっき品を作成することができたり、或いは、ポリイミド樹脂からなるフィルム上に本発明のめっき物をパターン状で設けることにより、例えば、電気回路品を作成することができる。
【0011】
製法(A)における塗膜層は、基材の表面上に還元性高分子微粒子とバインダーを含む塗料を塗布することにより形成することができる。
還元性高分子微粒子とバインダーを含む塗料における還元性高分子微粒子としては、0.01S/cm未満の導電率を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
また、還元性高分子微粒子としては、0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。
還元性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
【0012】
前記還元性高分子微粒子とバインダーを含む塗料におけるバインダーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
使用するバインダー量は、導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1質量部ないし60質量部である。バインダーが60質量部を超えると金属めっきが析出せず、バインダーが0.1質量部未満であると、基材への密着性が弱くなる。
【0013】
前記塗料には、還元性高分子微粒子及びバインダーに加えて、溶媒を含み得る。
上記溶媒としては、バインダーを溶解することができるものであれば特に限定されないが、基材を大きく溶解するものは好ましくない。但し、基材を大きく溶解する溶媒であっても、他の低溶解性の溶媒と混合することにより、溶解性を低下させて使用することが可能である。
上記溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽
和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
尚、還元性高分子微粒子として、予め有機溶媒に分散された分散液を使用する場合は、分散液に使用されている有機溶媒を塗料の溶媒の一部又は全部として使用することができる。
【0014】
更に、前記塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0015】
上記で調製された塗料を基材上に塗布して塗膜層を形成することにより、製法(A)における塗膜層を形成することができる。
上記塗料の塗布方法は、塗膜層を均一に形成し得る方法であれば特に限定されず、例えば、スプレー、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができるが、凹凸を有する成形品に塗布する場合は、スプレー及びディッピングが好ましい。
乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。
基材としてTgが低い樹脂基材を用いる場合の乾燥温度は、使用する樹脂基材のTgより5ないし15℃低い温度で行うことが好ましい。
【0016】
製法(B)における塗膜層は、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗料を塗布することにより形成することができる。
前記導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗料における導電性高分子微粒子としては、導電性を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
導電性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
【0017】
尚、導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗料を用いる塗膜層の形成方法は、製法(A)の還元性高分子微粒子とバインダーを含む塗料を用いる塗膜層の形成方法における還元性高分子微粒子を、導電性高分子微粒子に代えた以外は上記で詳述したのと同様の塗料の調製及び塗布操作等の条件を採用して、導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層を形成することができる。
製法(A)による塗膜層の厚さ及び製法(B)による塗膜層の厚さは、何れも20nmないし100μmの範囲である。
基材の形状が、薄い塗膜層の採用が好ましいフィルム等である場合は、例えば、20nmないし5μmの厚さを採用することが考えられ、また、基材の形状が、塗膜層を均一に形成することが困難となり易い樹脂成形品等である場合は、例えば、0.5μmないし100μmの厚さを採用することが考えられる。また、塗膜層の膜厚を厚くしても、例えば、100μmを超えても塗膜強度を維持することは可能であるものの、塗膜層を厚くし過ぎると、バインダーの種類や配合割合等によっては、塗膜強度が低下する場合があるため、塗膜層の厚さは100μm以下とするのが好ましい。
【0018】
製法(A)による塗膜層が形成された基材は、触媒液で処理して塗膜層上に触媒金属を付着させ、続いて、該触媒金属が付着した塗膜層上に無電解めっき法により金属膜を形成させることによりめっき物とするものであるが、前記触媒液での処理が完了するまでに、前記塗膜層が形成された基材は、界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液で少なくとも1回処理される。
【0019】
前記界面活性剤を含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液における界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤の各種の界面活性剤を用いることができる。
ノニオン性界面活性剤としては、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型が挙げられ、エーテル型として、ポリオキシエチレンアルキルおよびアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルが挙げられ、エーテルエステル型として、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、エステル型として、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル、ショ糖エステル、含窒素型として、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミド等が例示される。
【0020】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸の炭素数12〜18のカルボン酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、炭素数12〜18のN-アシルアミノ酸、N-アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、炭素数12〜18のアシル化ペプチド等のカルボン酸塩:アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、スルホコハク酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩;硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等の硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩等を用いることができる。
【0021】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン塩塩型、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩型、芳香族4級アンモニウム塩型、複素環4級アンモニウム型等の陽イオン界面活性剤を用いることができる。
【0022】
両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン型界面活性剤、アミノカルボン酸塩の他、イミダゾリウムベタイン、レシチン等を用いることができる。
これらの界面活性剤の内で、溶解性に優れ、低起泡性であるノニオン性界面活性剤が好適であり、特に、HLB値が8以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
また、ノニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤を混合して用いるのも好ましく、具体的には、HLB値が8以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルとラウリルトリメチルアンモニウムクロライドを混合して用いるのが好ましい。
【0023】
前記アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液におけるアルコールとしては、常温(20℃〜30℃)で、水に可溶であるアルコールであれば特に制限されないが、炭素原子数1ないし4の低級アルコールが好ましく、具体的には、イソプロピルアルコール(IPA)、エチルアルコール、メチルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、プロピルアルコールなどが挙げられ、特にイソプロピルアルコール(IPA)が好ましい。
上記アルコールとしては、1種のアルコールを単独で使用することができるが、2種以上を混合して使用することもできる。
【0024】
製法(A)において、前記界面活性剤を含む溶液は、水に界面活性剤を添加した水溶液
であり得るが、前記触媒液に界面活性剤を添加した溶液でもあり得、前記アルコールを含む溶液は、水にアルコールを添加した水溶液であり得るが、前記触媒液にアルコールを添加した溶液でもあり得、前記界面活性剤とアルコールを含む溶液は、水に界面活性剤とアルコールを添加した水溶液であり得るが、前記触媒液に界面活性剤とアルコールを添加した溶液でもあり得る。
前記界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液での処理は、塗膜層が形成された基材を、触媒液による処理の前に、水に界面活性剤を添加した水溶液、水にアルコールを添加した水溶液又は水に界面活性剤とアルコールを添加した水溶液で処理する及び/又は塗膜層が形成された基材を、前記触媒液に界面活性剤を添加した溶液、前記触媒液にアルコールを添加した溶液又は前記触媒液に界面活性剤とアルコールを添加した溶液で処理することにより達成され得る。
尚、上記の処理は、処理中に、超音波処理や脱泡処理を適用することができ、また、処理前に、塗膜層に対してコロナ処理やプラズマ処理を行うこともできる。
【0025】
製法(A)における触媒液による処理及び無電解めっき法による金属膜の形成は、以下のようにして行うことができる。
触媒液による処理は、塗膜層が形成された基材を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬することにより、達成される。
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。
上記の操作により、塗膜層中の還元性高分子微粒子は、容易に触媒金属のイオンに電子を供与して還元(例えば、Pd2+→Pd0)することになるが、それにより、高分子微粒子自身はカチオンとなるが、この時還元された触媒金属が高分子微粒子に吸着するので、結果的に導電性高分子微粒子となる。
また、上述のように、触媒液は、前記界面活性剤、前記アルコール又は前記界面活性剤と前記アルコールを添加することにより、塗膜層上に触媒金属を付着させるのと同時に、前記界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液での処理を行うことができる。
【0026】
塗膜層上に金属めっき膜を形成するめっき工程としては、無電解めっき法により行う方法が挙げられるが、該無電解めっき法は、通常知られた方法に従って行うことができる。
即ち、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0027】
上記で触媒金属の還元・吸着がなされた基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。
得られためっき物は、使用した基材のTgより低い温度範囲において、数時間以上、例
えば、2時間以上養生するのが好ましい。
【0028】
製法(B)による塗膜層が形成された基材は、脱ドープ処理した後、触媒液で処理して塗膜層上に触媒金属を付着させ、続いて、該触媒金属が付着した塗膜層上に無電解めっき法により金属膜を形成させることによりめっき物とするものであるが、前記触媒液での処理が完了するまでに、前記塗膜層が形成された基材は、界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液で少なくとも1回処理される。
【0029】
前記界面活性剤を含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液における界面活性剤、及び、前記アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液におけるアルコールとしては、製法(A)において示したものと同様のものを挙げることができる。
【0030】
製法(B)において、前記界面活性剤を含む溶液は、水に界面活性剤を添加した水溶液であり得るが、前記脱ドープ処理のために用いる溶液に界面活性剤を添加した溶液又は前記触媒液に界面活性剤を添加した溶液でもあり得、前記アルコールを含む溶液は、水にアルコールを添加した水溶液であり得るが、前記脱ドープ処理のために用いる溶液にアルコールを添加した溶液又は前記触媒液にアルコールを添加した溶液でもあり得、前記界面活性剤とアルコールを含む溶液は、水に界面活性剤とアルコールを添加した水溶液であり得るが、前記脱ドープ処理のために用いる溶液に界面活性剤とアルコールを添加した溶液又は前記触媒液に界面活性剤とアルコールを添加した溶液でもあり得る。
前記界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコールを含む溶液での処理は、塗膜層が形成された基材を、脱ドープ処理の前に、水に界面活性剤を添加した水溶液、水にアルコールを添加した水溶液又は水に界面活性剤とアルコールを添加した水溶液で処理する及び/又は塗膜層が形成された基材を、前記脱ドープ処理のために用いる溶液に界面活性剤を添加した溶液、前記脱ドープ処理のために用いる溶液にアルコールを添加した溶液又は前記脱ドープ処理のために用いる溶液に界面活性剤とアルコールを添加した溶液で処理する及び/又は触媒液による処理の前に、水に界面活性剤を添加した水溶液、水にアルコールを添加した水溶液又は水に界面活性剤とアルコールを添加した水溶液で処理する及び/又は脱ドープ処理後の基材を、前記触媒液に界面活性剤を添加した溶液、前記触媒液にアルコールを添加した溶液又は前記触媒液に界面活性剤とアルコールを添加した溶液で処理することにより達成され得る。
尚、上記の処理は、処理中に、超音波処理や脱泡処理を適用することができ、また、処理前に、塗膜層に対してコロナ処理やプラズマ処理を行うこともできる。
【0031】
製法(B)における脱ドープ処理は、以下のようにして行うことができる。
脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。
特に、導電性高分子微粒子を含む塗膜層は薄くできるため、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。
例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。
上記脱ドープ処理により、塗膜層中の導電性高分子微粒子は、還元性高分子微粒子となる。
また、上述のように、脱ドープ処理のために用いる溶液は、前記界面活性剤、前記アルコール又は前記界面活性剤と前記アルコールを添加することにより、脱ドープ処理を行うのと同時に、前記界面活性剤を含む溶液、アルコールを含む溶液又は界面活性剤とアルコ
ールを含む溶液での処理を行うことができる。
【0032】
製法(B)における触媒液による処理及び無電解めっき法による金属膜の形成は、製法(A)と同様の条件で行うことができる。
製法(A)及び製法(B)により、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層と、該塗膜層上に、無電解めっき法による金属析出により形成された金属めっき膜とを有するめっき物であって、該塗膜層の金属めっき膜寄りの部分の一部においても前記金属析出により金属めっき組織が形成されていることを特徴とするめっき物を製造することができる。
尚、上記めっき物は、形成された無電解めっき膜上に、電解めっきにより、同一又は異なる金属を更にめっきすることもできる。
また、金属めっき膜は、基材の両面に形成されてもよい。
【0033】
以下に、塗膜層を形成するために使用され得る導電性又は還元性の高分子微粒子を製造するための具体的な方法を記載する。
(1)還元性高分子微粒子の製造方法
還元性高分子微粒子は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0034】
π−共役二重結合を有するモノマーとしては、還元性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体が挙げられ、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0035】
また前記製造に用いるアニオン系界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離がスムーズであり、有機溶媒相に分散した還元性高分子微粒子が入手し易い。
疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナト
リウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0036】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.05mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.005mol〜0.03molである。0.05mol以上では添加したアニオン性界面活性剤がドーパントとして作用し、得られる微粒子は導電性を発現するため、これを用いて無電解めっきを行うためには脱ドープの工程が必要となる。
【0037】
ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アルキルグルコシド類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビダン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類が挙げられる。これらを一種類または複数混ぜて使用してもよい。特に安定的にO/W型エマルションを形成するものが好ましい。
【0038】
反応系中でのノニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し、アニオン系界面活性剤と足して0.2mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では重合後において、水相と有機溶媒相との分離が困難になり、有機溶媒相にある還元性高分子微粒子を得る事ができなくなる事から好ましくない。
【0039】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびπ−共役二重結合を有するモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した還元性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0040】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0041】
前記製造で使用する酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等のルイス酸でもπ−共役二重結合を有するモノマーを重合できるが、生成した粒子が凝集し、微分散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0042】
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、ポリマー微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集してポリマー微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0043】
前記ポリマー微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合させる工程、
(d)有機相を分液しポリマー微粒子を回収する工程。
【0044】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0045】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子を入手することができる。
【0046】
上記の製造法により得られるポリマー微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体のポリマーよりなり、そしてアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径を有し、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
得られたポリマー微粒子の導電率は0.01S/cm未満であり、好ましくは、0.005S/cm以下である。
【0047】
こうして得られた有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の還元性高分子微粒子成分として使用することができる。
【0048】
(2)導電性高分子微粒子の製造方法
使用する導電性高分子微粒子は、例えば、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0049】
π−共役二重結合を有するモノマー及びアニオン系界面活性剤としては還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0050】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性高分子微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0051】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した導電性高分子微粒子を回収する際の
有機相と水相との分離が困難になる。
【0052】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0053】
前記製造で使用する酸化剤としては、還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性高分子微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集して導電性高分子微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0054】
前記導電性高分子微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合しアニオン系界面活性剤にポリマー微粒子を接触吸着させる工程、
(d)有機相を分液し導電性高分子微粒子を回収する工程。
【0055】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0056】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子を入手することができる。
【0057】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体よりなり、そしてアニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径と、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、脱ドープ処理して還元性とした際に、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
【0058】
こうして得られた有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の導電性高分子微粒子成分として使用することができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
製造例1
<導電性ポリピロール微粒子を含む塗料(塗料1)の調製>
アニオン性界面活性剤ペレックスOT−P(花王(株)社製)1.5mmol、トルエン10mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで撹拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した導電性ポリピロール微粒子分散液を得た。
ここで得られたトルエン分散液中の導電性ポリピロール微粒子の固形分は、約5.0%であった。
バインダーとしてVYLON23CS(ポリエステル系、東洋紡績(株)社製)と無機系フィラー:ブラック♯5500(カーブンブラック、東海カーボン(株)社製)とを、バインダー:無機系フィラー=11:1.1となるように配合し、ビーズ入りホモミキサーにて分散させた。
次に、調製した導電性ポリピロール微粒子分散液に前記で調製したバインダー及び無機系フィラーを含む分散液を、導電性ポリピロール微粒子:バインダーの質量比が1:11となるように加え、さらに最終固形分が25%となるように、シクロヘキサノンを混合することにより塗料1を得た。
【0061】
製造例2
<還元性ポリピロール微粒子を含む塗料(塗料2)の調製>
アニオン性界面活性剤ペレックスOT−P(花王(株)社製)0.42mmol、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤エマルゲン409P(花王(株)社製)2.1mmol、トルエン10mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで撹拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した還元性ポリピロール微粒子分散液を得た。ここで得られたトルエン分散液中の還元性ポリピロール微粒子の固形分は、約5.0%であった。
バインダーとしてVYLON23CS(ポリエステル系、東洋紡績(株)社製)と無機系フィラー:ブラック♯5500(カーブンブラック、東海カーボン(株)社製)とを、バインダー:無機系フィラー=11:1.1となるように配合し、ビーズ入りホモミキサーにて分散させた。
次に、調製した還元性ポリピロール微粒子分散液に前記で調製したバインダー及び無機系フィラーを含む分散液を、還元性ポリピロール微粒子:バインダーの質量比が1:11となるように加え、さらに最終固形分が25%となるように、シクロヘキサノンを混合することにより塗料2を得た。
【0062】
実施例1
基材としてPETフィルム(コスモシャインA4100、東洋紡績(株)社製)を用い、該基材上に製造例1で調製した塗料1をグラビア校正機にてコーティングして、加熱乾燥し、膜厚4μmの塗膜層が形成された軟質フィルムを製造した。
上記で作成した塗膜が形成されたフィルムを、イオン交換水中に水酸化ナトリウムを4%、コータミン24P(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、花王(株)社製)を10%、ニトリロトリ酢酸3ナトリウムを5%、エマルゲン103(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB値:8.1、花王(株)社製)を1%、IPAを10%添加した水溶液(脱ドープ液A)に35℃で5分間浸漬して表面処理を行った。次に、イオン交換水中に、塩化パラジウムを0.02%、塩酸を0.01%、エマルゲン103を1%、IPAを10%添加した水溶液(触媒処理液A)に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。次に、フィルムを無電解めっき浴ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し、銅めっき(膜厚0.3μm)を施してめっき物を得た。
【0063】
実施例2−11、13−15、参考例12及び比較例1
実施例1と同様の操作により、塗膜層が形成された軟質フィルムを製造し、続いて、脱ドープ液A及び触媒処理液Aを表1に記載した通りに変更して処理した後、実施例1に記載と同様に、無電解めっきを施し、実施例2−11、13−15、参考例12及び比較例1のめっき物を製造した。
尚、表1中、脱ドープ液A−D及び触媒処理液A−Dは以下を意味する。
[脱ドープ液A]:イオン交換水中に水酸化ナトリウムを4%、コータミン24Pを10%、ニトリロトリ酢酸3ナトリウムを5%、エマルゲン103を1%、IPAを10%添加した水溶液。
[脱ドープ液B]:イオン交換水中に水酸化ナトリウムを4%、コータミン24Pを10%、ニトリロトリ酢酸3ナトリウムを5%、エマルゲン103を1%添加した水溶液。
[脱ドープ液C]:イオン交換水中に水酸化ナトリウムを4%、IPAを10%添加した水溶液。
[脱ドープ液D]:イオン交換水中に水酸化ナトリウムを4%添加した水溶液。
[触媒処理液A]:イオン交換水中に、塩化パラジウムを0.02%、塩酸を0.01%、エマルゲン103を1%、IPAを10%添加した水溶液。
[触媒処理液B]:イオン交換水中に、塩化パラジウムを0.02%、塩酸を0.01%、エマルゲン103を1%添加した水溶液。
[触媒処理液C]:イオン交換水中に、塩化パラジウムを0.02%、塩酸を0.01%、IPAを10%添加した水溶液。
[触媒処理液D]:イオン交換水中に、塩化パラジウムを0.02%、塩酸を0.01%添加した水溶液。
【0064】
実施例16
基材としてPETフィルム(コスモシャインA4100、東洋紡績(株)社製)を用い、該基材上に製造例2で調製した塗料2をグラビア校正機にてコーティングして、加熱乾燥し、膜厚4μmの塗膜層が形成された軟質フィルムを製造した。
上記で作成した塗膜が形成されたフィルムを、イオン交換水中に、塩化パラジウムを0.02%、塩酸を0.01%、エマルゲン103を1%、IPAを10%添加した水溶液(触媒処理液A)に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。次に、フィルムを無電解めっき浴ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し、銅めっき(膜厚0.3μm)を施してめっき物を得た。
【0065】
実施例17、18及び比較例2
実施例16と同様の操作により、塗膜層が形成された軟質フィルムを製造し、続いて、触媒処理液Aを表1に記載した通りに変更して処理した後、実施例16に記載と同様に、無電解めっきを施し、実施例17、18及び比較例2のめっき物を製造した。
尚、表1中、触媒処理液A−Dは上述と同様のものである。
【0066】
試験例1
上記で製造した実施例1〜11、13〜18、参考例12及び比較例1、2のめっき物において、析出開始点、初期密着強度及び耐久試験後密着強度の評価試験を行いその結果を表1に纏めた。
尚、評価項目及びその評価方法・評価基準は以下の通りである。
<析出開始点>
卓上傾斜切削機(株式会社NEAT製)にて、切削角度1度でめっき物を切削して、観察サンプルとした。切削面を二次イオン質量分析装置(PHI TRIFT 2、アルバック・ファイ株式会社製)にて銅の正二次イオン像を観察し、銅が存在する最下部位の膜の上部から距離を、膜の厚みで割った割合を析出開始点とした。
図1]のBで示される実施例1で製造しためっき物をa−a”で切削した際の、切削面における銅の正二次イオン像の写真を[図2]に示した(写真において白っぽくなっている部分が銅イオンの存在を示す。)。
ここで、[図2]中のbは銅が存在する最下部位を表し、析出開始点(%)は、(a’−b間の距離)÷(a’−a”間の距離)×100により算出される。
<初期密着強度>
実施例1〜11、13〜18、参考例12及び比較例1〜2のめっき物に対して、硫酸銅めっき浴により電解銅めっきを50分間行い、銅厚18μmのめっき膜を更に設けた後、JIS C 6471に準じてピール強度を測定した。
<耐久試験後密着強度>
実施例1〜11、13〜18、参考例12及び比較例1〜2のめっき物に対して、硫酸銅めっき浴により電解銅めっきを50分間行い、銅厚18μmのめっき膜を更に設けた後、150℃のオーブン内に168時間入れた後に、JIS C 6471に準じてピール強度を測定した。
判定は、日本電子回路工業規格 JPCA-BM03におけるスパッタめっき法での銅張積層基板の規格が0.35 N/mmであることから、0.35 N/mm以上を合格とした。
【表1】
【0067】
結果:
導電性ポリピロール微粒子を含む塗料(塗料1)を用いて塗膜層を形成し、脱ドープ処理及び触媒処理液による処理を行った後、無電解めっき及び電解めっきを行って製造した実施例1−11、13−15、参考例12及び比較例1のめっき物において、触媒液での処理が完了するまでに、塗膜層が形成された軟質フィルムを、界面活性剤を含む溶液(脱ドープ液B、触媒処理液B)、アルコールを含む溶液(脱ドープ液C、触媒処理液C)又は界面活性剤とアルコールを含む溶液(脱ドープ液A、触媒処理液A)で少なくとも1回処理した実施例1−11、13−15、参考例12のめっき物では、塗膜層の一部においても金属めっき組織が形成されており(析出開始点:10−75%)、また、初期密着強度及び耐久試験後密着強度の両方において優れていた。
これに対して、塗膜層が形成された軟質フィルムを、界面活性剤を含む溶液(脱ドープ液B、触媒処理液B)、アルコールを含む溶液(脱ドープ液C、触媒処理液C)又は界面活性剤とアルコールを含む溶液(脱ドープ液A、触媒処理液A)で1回も処理されなかった、比較例1のめっき物(脱ドープ液D及び触媒処理液Dで処理された)では、塗膜層内に金属めっき組織は形成されておらず(析出開始点:0%)、また、初期密着強度においては優れていたものの、耐久試験後密着強度は不十分であった。
還元性ポリピロール微粒子を含む塗料(塗料2)を用いて塗膜層を形成し、触媒処理液による処理を行った後、無電解めっき及び電解めっきを行って製造した実施例16−18及び比較例2のめっき物において、触媒液での処理が完了するまでに、塗膜層が形成された軟質フィルムを、界面活性剤を含む溶液(触媒処理液B)、アルコールを含む溶液(触媒処理液C)又は界面活性剤とアルコールを含む溶液(触媒処理液A)で少なくとも1回処理した実施例16−18のめっき物では、塗膜層の一部においても金属めっき組織が形成されており(析出開始点:40−60%)、また、初期密着強度及び耐久試験後密着強度の両方において優れていた。
これに対して、塗膜層が形成された軟質フィルムを、界面活性剤を含む溶液(触媒処理液B)、アルコールを含む溶液(触媒処理液C)又は界面活性剤とアルコールを含む溶液(触媒処理液A)で1回も処理されなかった、比較例2のめっき物(触媒処理液Dで処理された)では、塗膜層内に金属めっき組織は形成されておらず(析出開始点:0%)、また、初期密着強度においては優れていたものの、耐久試験後密着強度は不十分であった。
【符号の説明】
【0068】
1:金属めっき膜
2:塗膜層
3:切削角度
b:銅が存在する最下部位
図1
図2