特許第6522907号(P6522907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6522907ペンタエリスリトールジホスホネートおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522907
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】ペンタエリスリトールジホスホネートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6574 20060101AFI20190520BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20190520BHJP
   D06M 13/288 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   C07F9/6574 Z
   C09K21/12
   D06M13/288
【請求項の数】20
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2014-171656(P2014-171656)
(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-44165(P2016-44165A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 強
(72)【発明者】
【氏名】山中 克浩
(72)【発明者】
【氏名】五勝出 晃子
(72)【発明者】
【氏名】林 昌之
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−083537(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/187492(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/060900(WO,A1)
【文献】 特開2004−035470(JP,A)
【文献】 特開2004−018385(JP,A)
【文献】 特開2004−099526(JP,A)
【文献】 特開平10−306081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートであって、(i)体積基準メジアン径が22μm以下であり、(ii)純度が98%以上であり、(iii)下記式(2)に示されるハロゲン化化合物の含有量が200ppm以下であることを特徴とするペンタエリスリトールジホスホネート。
【化1】
(式中、ArおよびArは、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化2】
(式中、Arは炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。XはBr基である。)
【請求項2】
前記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートの(i)体積基準メジアン径が20μm以下であり、(ii)純度が99%以上であり、(iii)前記式(2)に示されるハロゲン化化合物の含有量が150ppm以下である請求項1記載のペンタエリスリトールジホスホネート。
【請求項3】
前記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートが下記式(1−a)で示されるジベンジルペンタエリスリトールジホスホネートである請求項1記載のペンタエリスリトールジホスホネート。
【化3】
【請求項4】
(A)三塩化リンをペンタエリスリトールに対して0.50〜2.00(モル/(hr・モル))の滴下速度で滴下させながら三塩化リンとペンタエリスリトールとを不活性な溶媒の存在下に反応させて式(3)で示されるペンタエリスリトールジクロロホスファイトを得て(a反応)、(B)該ペンタエリスリトールジクロロホスファイトと式(4)で示されるアラルキルアルコールとを反応させて式(5)で示されるペンタエリスリトールジホスファイトを得て(b反応)、(C)該ペンタエリスリトールジホスファイトを式(2)に示されるハロゲン化化合物の存在下に、温度80℃〜300℃の条件で加熱処理してペンタエリスリトールジホスホネートの粗結晶を得て(c反応)、(D)下記式(I)を満たす条件下で、洗浄温度35〜65℃にてリパルプ洗浄を行い(洗浄工程)、(E)減圧乾燥もしくは熱風乾燥を行う(乾燥工程)ことを特徴とする式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
(I)10≦X×Y40
(式中、Xは洗浄時間(h)、Yは洗浄を行うときの温度条件における洗浄溶媒に対するペンタエリスリトールジホスホネートの溶解度(g/100g−溶媒)である。)
【化4】
【化5】
(式中、Arは、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化6】
(式中、ArおよびArは、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化7】
(式中、Arは炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。XはBr基である。)
【化8】
(式中、ArおよびArは、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【請求項5】
前記a反応で得られたペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液または懸濁液を加熱処理および/または減圧処理する請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項6】
前記a反応で得られたペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液から、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトを単離せずに、次のb反応に使用する請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項7】
前記a反応において、使用する不活性な溶媒が、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素および含酸素原子炭化水素からなる群より選ばれる1種又は2種以上からなる溶媒である請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項8】
前記a反応において、三塩化リンをペンタエリスリトールに対して195モル%〜240モル%用いる請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項9】
前記a反応を有機塩基化合物の存在下で行なう請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項10】
前記b反応を有機塩基化合物の存在下で行なう請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項11】
前記b反応において、有機塩基化合物をペンタエリスリトールに対して180モル%〜400モル%用いる請求項10記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項12】
前記b反応で得られたペンタエリスリトールジホスファイトを含む反応混合物から、有機塩基化合物及び有機塩基化合物の塩(以下、有機塩基化合物成分とする)を反応系外に分離除去し、該有機塩基化合物成分を除去したペンタエリスリトールジホスファイトをc反応に使用する請求項10記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の反応系外に分離除去する有機塩基化合物成分が、使用した有機塩基化合物100モル%に対し、90モル%以上である請求項12記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項14】
請求項12において、有機塩基化合物成分を反応系外に分離除去した後のペンタエリスリトールジホスファイトの溶液または懸濁液から、該ペンタエリスリトールジホスファイトを単離せずに、次のc反応に使用する請求項12記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項15】
前記b反応において、アラルキルアルコールをペンタエリスリトールに対して180モル%〜250モル%用いる請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項16】
前記c反応において使用するハロゲン化化合物がベンジルブロマイドである請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項17】
前記c反応において使用するハロゲン化化合物がベンジルブロマイドであり、該ベンジルブロマイドをペンタエリスリトール1モルに対して1.5モル〜3モル用いる請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項18】
前記洗浄工程において使用する洗浄溶媒がメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を含む請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【請求項19】
前記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートが下記式(1−a)で示されるジベンジルペンタエリスリトールジホスホネートである請求項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【化9】
【請求項20】
(i)体積基準メジアン径が22μm以下であり、(ii)純度が98%以上であり、(iii)下記式(2)に示されるハロゲン化化合物の含有量が200ppm以下であることを特徴とする下記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートを含む繊維用防炎加工剤。
【化10】
(式中、ArおよびArは、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化11】
(式中、Arは炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。XはBr基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物およびその製造方法に関する。更に詳しくは、難燃剤、結晶核剤、可塑剤等の添加剤として使用でき、殊に繊維用防炎加工剤として優れた効果を有するペンタエリスリトールジホスホネート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、航空機、鉄道、建築物等の内装用材とフィルター材には、多くの繊維が使用され、繊維素材の種類も、ポリエステル、ナイロン、アクリルニトリル、ポリプロピレン等の合成繊維、レーヨン、綿、麻等のセルロース系繊維、あるいは羊毛、絹、羽毛等の動物性繊維が、単独又は複合状態で使用されている。
これらを使用した繊維製品は燃焼しやすいという欠点があるため、防炎性能が要求されている。例えば、航空機のパイロット用制服等、一部の用途では素材難燃繊維が使用されているが、コスト面から後加工防炎が一般的に行われている。
【0003】
後加工防炎には、防炎剤を直接繊維製品に付着させる方法と、各種合成繊維バインダーに防炎剤を添加し、防炎バインダーとして付着させる方法が代表的であり、自動車、航空機、鉄道車輛などの椅子張り用シート、あるいはカーペット等のバッキング加工などに一般的に用いられている。特に後者の防炎加工方法では、繊維の防炎化だけではなく、併用する合成樹脂バインダーの防炎化も必要である。
【0004】
従来、防炎剤としてハロゲン系化合物またはハロゲン系化合物と酸化アンチモンの併用処方が行われている。しかしながら、近年、環境保全、燃焼時の発生ガスの有害性の点から、ハロゲン系防炎剤を使用しない防炎化の要望が増えてきている。非ハロゲン系防炎剤としては、リン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモン、硫酸アンモニウム、硼砂、ほう酸、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステルなど数多くの防炎剤が知られている。
【0005】
しかし、防炎効果を出すのに必要な量を添加すると、水溶性防炎剤では、合成樹脂エマルジョンの増粘、破壊(ガムアップ)が生じたり、樹脂の皮膜強度低下、耐熱性の低下、風合いの低下等の問題がある。また、非ハロゲン系で比較的防炎効果のあるポリリン酸アンモニウムは水への溶解性があることから、耐水性が求められる条件では、水への溶出が発生し製品の物性面、防炎性で問題が生じる。さらに、改良された樹脂等でカプセル化したポリリン酸アンモニウムでも耐水性は十分ではない。このため、ハロゲン系防炎剤を使用せずに、十分な防炎性及び諸物性を有した防炎加工方法は提供されておらず、そのため開発が求められてきた(特許文献1〜3)。
【0006】
一方、二置換ペンタエリスリトールジホスホネートは、樹脂用難燃剤を中心に種々の検討がなされている。この化合物を熱可塑性樹脂に配合することにより、熱可塑性樹脂の難燃化を達成することができる。このホスホネート化合物が配合された熱可塑性樹脂組成物は、難燃剤の配合による耐熱性、および耐衝撃性等の特性が低下することなく、しかも混練の際に化合物が揮発、あるいはブリード等により樹脂中から失われることのない特徴を有する。
上記二置換ペンタエリスリトールジホスホネートの製造法についてはいくつか開示されている。特許文献4においては、ペンタエリスリトールとフェニルホスホン酸ジクロライドとの反応により、ジフェニルペンタエリスリトールジホスホネートを得る製造例の記載がある。
【0007】
特許文献5においては、ジベンジルペンタエリスリトールジホスフェートとベンジルブロマイドとを反応させ、Arbuzov転移によりジベンジルペンタエリスリトールジホスホネートを得る方法が開示されている。
特許文献6においては、ジアルキルペンタエリスリトールジホスファイトとベンジルクロライドあるいはベンジルブロマイドとを溶媒の存在又は非存在下に反応させてArbuzov転移によりジアルキルペンタエリスリトールジホスホネートを得る方法が開示されている。
特許文献7および特許文献8においては、ジアルキルペンタエリスリトールジホスファイトをハロゲン化アルキル触媒あるいはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の臭化物またはヨウ化物触媒の存在下で加熱することによりArbuzov転移反応させジアルキルペンタエリスリトールジホスホネートを得る方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献9においては、三塩化リンとペンタエリスリトールを出発原料として3段階の反応を経てペンタエリスリトールジホスホネートを得る製造方法が開示されており、高収率で回収できる方法について記載されている。
しかしながら、上記の特許文献においても、実機スケールでの十分な検討はなされておらず、さらなる不純物の低減と純度向上が求められており、さらに繊維用防炎加工剤としての使用に適した粒子特性を有するペンタエリスリトールジホスホネートが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−212669号公報
【特許文献2】特開2002−220782号公報
【特許文献3】特許第3484490号公報
【特許文献4】特開平05−163288号公報
【特許文献5】国際公開第2002/092690号パンフレット
【特許文献6】米国特許第4174343号明細書
【特許文献7】米国特許第3141032号明細書
【特許文献8】特開昭54−157156号公報
【特許文献9】特許第4181127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、工業的に有利な生産性に優れた方法で得られ、かつ、繊維用防炎加工剤として使用した際に高度な防炎性および良好な物性を付与することができるペンタエリスリトールジホスホネート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法により得られるペンタエリスリトールジホスホネートが、繊維用防炎加工剤として使用した際に高度な防炎性および良好な物性を付与することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、発明の課題は、下記により達成される。
【0012】
1.下記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートであって、(i)体積基準メジアン径が22μm以下であり、(ii)純度が98%以上であり、(iii)下記式(2)に示されるハロゲン化化合物の含有量が200ppm以下であることを特徴とするペンタエリスリトールジホスホネート。
【化1】
(式中、ArおよびArは、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化2】
(式中、Arは炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。XはBr基である。)
2.前記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートの(i)体積基準メジアン径が20μm以下であり、(ii)純度が99%以上であり、(iii)前記式(2)に示されるハロゲン化化合物の含有量が150ppm以下である前項1記載のペンタエリスリトールジホスホネート。
3.前記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートが下記式(1−a)で示されるジベンジルペンタエリスリトールジホスホネートである前項1記載のペンタエリスリトールジホスホネート。
【化3】
【0013】
4.(A)三塩化リンをペンタエリスリトールに対して0.50〜2.00(モル/(hr・モル))の滴下速度で滴下させながら三塩化リンとペンタエリスリトールとを不活性な溶媒の存在下に反応させて式(3)で示されるペンタエリスリトールジクロロホスファイトを得て(a反応)、(B)該ペンタエリスリトールジクロロホスファイトと式(4)で示されるアラルキルアルコールとを反応させて式(5)で示されるペンタエリスリトールジホスファイトを得て(b反応)、(C)該ペンタエリスリトールジホスファイトを式(2)に示されるハロゲン化化合物の存在下に、温度80℃〜300℃の条件で加熱処理してペンタエリスリトールジホスホネートの粗結晶を得て(c反応)、(D)下記式(I)を満たす条件下で、洗浄温度35〜65℃にてリパルプ洗浄を行い(洗浄工程)、(E)減圧乾燥もしくは熱風乾燥を行う(乾燥工程)ことを特徴とする式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
(I)10≦X×Y40
(式中、Xは洗浄時間(h)、Yは洗浄を行うときの温度条件における洗浄溶媒に対するペンタエリスリトールジホスホネートの溶解度(g/100g−溶媒)である。)
【化4】
【化5】
(式中、Arは、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化6】
(式中、ArおよびArは、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化7】
(式中、Arは炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。XはBr基である。)
【化8】
(式中、ArおよびArは、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【0014】
5.前記a反応で得られたペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液または懸濁液を加熱処理および/または減圧処理する前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
6.前記a反応で得られたペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液から、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトを単離せずに、次のb反応に使用する前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
7.前記a反応において、使用する不活性な溶媒が、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素および含酸素原子炭化水素からなる群より選ばれる1種又は2種以上からなる溶媒である前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
8.前記a反応において、三塩化リンをペンタエリスリトールに対して195モル%〜240モル%用いる前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
9.前記a反応を有機塩基化合物の存在下で行なう前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
10.前記b反応を有機塩基化合物の存在下で行なう前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
11.前記b反応において、有機塩基化合物をペンタエリスリトールに対して180モル%〜400モル%用いる前項10記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
12.前記b反応で得られたペンタエリスリトールジホスファイトを含む反応混合物から、有機塩基化合物及び有機塩基化合物の塩(以下、有機塩基化合物成分とする)を反応系外に分離除去し、該有機塩基化合物成分を除去したペンタエリスリトールジホスファイトをc反応に使用する前項10記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
13.前項12記載の反応系外に分離除去する有機塩基化合物成分が、使用した有機塩基化合物100モル%に対し、90モル%以上である前項12記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
14.前項12において、有機塩基化合物成分を反応系外に分離除去した後のペンタエリスリトールジホスファイトの溶液または懸濁液から、該ペンタエリスリトールジホスファイトを単離せずに、次のc反応に使用する前項12記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
15.前記b反応において、アラルキルアルコールをペンタエリスリトールに対して180モル%〜250モル%用いる前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
16.前記c反応において使用するハロゲン化化合物がベンジルブロマイドである前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
17.前記c反応において使用するハロゲン化化合物がベンジルブロマイドであり、該ベンジルブロマイドをペンタエリスリトール1モルに対して1.5モル〜3モル用いる前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
18.前記洗浄工程において使用する洗浄溶媒がメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を含む前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【0015】
19.前記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートが下記式(1−a)で示されるジベンジルペンタエリスリトールジホスホネートである前項4記載のペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法。
【化9】
20.(i)体積基準メジアン径が22μm以下であり、(ii)純度が98%以上であり、(iii)下記式(2)に示されるハロゲン化化合物の含有量が200ppm以下であることを特徴とする下記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートを含む繊維用防炎加工剤。
【化10】
(式中、ArおよびArは、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化11】
(式中、Arは炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。XはBr基である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の特定の構造を有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物は、難燃剤、結晶核剤、可塑剤等の添加剤として優れた効果を発揮し、殊に繊維用防炎加工剤として高度な防炎性および良好な物性を付与できることから、防炎繊維製品等の用途に幅広く有用であり、その奏する工業的効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
<ペンタエリスリトールジホスホネート>
本発明のペンタエリスリトールジホスホネート化合物として、上記式(1)においてAr、Arが、フェニル基、各種キシリル基、各種トルイル基、ジ−t−ブチルフェニル基、各種クメニル基、ビフェニル基、ナフチル基等であり、R、R、RおよびRが、水素原子、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、プロペニル基、フェニル基、各種トルイル基、各種キシリル基、各種クメニル基、ジ−t−ブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等である化合物が好ましい。より好ましくは、Ar、Arがフェニル基、R、R、RおよびRが水素原子、メチル基またはフェニル基であり、特に好ましくはAr、Arがフェニル基、R、R、RおよびRが水素原子である。
【0018】
具体的には、3,9−ビス(フェニルメチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2−メチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((3−メチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((4−メチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,4−ジメチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,6−ジメチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((3,5−ジメチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,4,6−トリメチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2−sec−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((4−sec−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,4−ジ−sec−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,6−ジ−sec−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,4,6−トリ−sec−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2−tert−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((4−tert−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2,4,6−トリ−tert−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((4−ビフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((1−ナフチル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2−ナフチル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((1−アントリル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((2−アントリル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス((9−アントリル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(1−フェニルエチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(2−メチル−2−フェニルエチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(ジフェニルメチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(トリフェニルメチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−フェニルメチル−9−((2,6−ジメチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−フェニルメチル−9−((2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−フェニルメチル−9−(1−フェニルエチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−フェニルメチル−9−ジフェニルメチル−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−((2,6−ジメチルフェニル)メチル)−9−(1−フェニルエチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−((2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)メチル)−9−(1−フェニルエチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−ジフェニルメチル−9−(1−フェニルエチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−ジフェニルメチル−9−((2,6−ジメチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3−ジフェニルメチル−9−((2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)メチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンが挙げられる。
【0019】
なかでも3,9−ビス(フェニルメチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(1−フェニルエチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(ジフェニルメチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンが好ましく、特に下記式(1−a)で示される3,9−ビス(フェニルメチル)−3,9−ジオキソ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ジベンジルペンタエリスリトールジホスホネート)が好ましい。
【0020】
【化12】
【0021】
(体積基準メジアン径)
本発明のペンタエリスリトールジホスホネートの体積基準メジアン径は、30μm以下であり、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは20μm以下であり、特に好ましくは15μm以下である。体積基準メジアン径が30μmより大きい場合は、繊維用難燃加工剤として使用する際に、加工布の色合いや耐チョーキング性の悪化を招くおそれがあり好ましくない。また、本発明のペンタエリスリトールジホスホネートの体積基準メジアン径は、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは2μm以上であり、さらに好ましくは3μm以上である。体積基準メジアン径が1μm以上の場合は、粉体の取扱性が良好であり好ましい。
【0022】
(純度)
本発明のペンタエリスリトールジホスホネートの純度は98%以上であり、好ましくは99%以上であり、より好ましくは99.5%以上である。純度が98%以上であれば、繊維用防炎加工剤として使用した際に高度な防炎性および良好な物性が得られる。
【0023】
(ハロゲン化化合物の残存量)
本発明のペンタエリスリトールジホスホネート中に含まれる前記式(2)に示されるハロゲン化化合物の残存量は、200ppm以下であり、好ましくは150ppm以下であり、より好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。ハロゲン化化合物の残存量が200ppmより高い場合は、催涙性の刺激臭が残るため好ましくない。また、繊維用防炎加工剤として使用するにあたっては、ハロゲン化化合物の残存量が200ppmより高い場合は、SUS製の容器や装置等を腐食させるおそれがあり好ましくない。
【0024】
<ペンタエリスリトールジホスホネートの製造方法>
(a反応(1段階目の反応))
三塩化リンについて
・純度
本発明に用いられる三塩化リンは、その純度が98%以上であることが望ましい。高純度の三塩化リンは、例えば市販品を不活性雰囲気下で蒸留することにより得られる。不活性雰囲気とは本発明で用いる三塩化リンを変性しうる酸素ガス、湿気等が実質的に無い状態の事である。系内の酸素ガス濃度について具体的には5%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは100ppm以下であることが望ましい。具体的な例としては、反応系内を窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換後、該不活性ガス気流下もしくは該不活性ガス雰囲気下で蒸留を行う方法等が挙げられる。該酸素濃度はJIS B 7983に規定のジルコニア式分析法等で測定する事ができる。三塩化リンの純度はガスクロマトグラフィーで定量することができ、またJIS K8404−1887に示される様に、化学反応での定量が可能である。
【0025】
ペンタエリスリトールについて
・純度、含水率
本発明に用いられるペンタエリスリトールは、その純度が98%以上であり、かつ、含水率が1000ppm以下であることが望ましい。好ましくは、含水率が500ppm以下であり、更に好ましくは、含水率が100ppm以下のものである。高純度のペンタエリスリトールは、主として市販品を水から再結晶して、高分子量の不純物を除去することにより得ることができる。また、低含水率のペンタエリスリトールは、反応に用いる直前に加熱乾燥させることにより得ることができる。ペンタエリスリトールの純度はガスクロマトグラフィーで定量される。ペンタエリスリトールの含水率はカールフィッシャー法で定量される。
【0026】
ペンタエリスリトールと三塩化リンのモル比について
本発明のペンタエリスリトールに対する三塩化リンのモル比は、三塩化リンをペンタエリスリトール100モル%に対して195モル%〜240モル%使用することが好ましく、200モル%〜220モル%使用することがより好ましい。該モル比が195モル%未満であると、最終的に得られるペンタエリスリトールジホスホネートの回収量が大幅に低下することがある。一方、該モル比が240モル%を越えると、未反応で残る三塩化リンが以後の反応に与える影響が大きくなり、最終的に得られるペンタエリスリトールジホスホネートの回収量が低下することがある。加えて、廃棄物の量が増大し、生産性が大幅に低下することがある。
【0027】
溶媒について
・溶媒種類
本発明の三塩化リンとペンタエリスリトールとの反応で使用する溶媒は、反応に関与しない不活性な溶媒であり、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素および含酸素原子炭化水素からなる群より選ばれる1種又は2種以上からなる不活性溶媒が望ましい。溶媒は単独でも混合溶媒でも使用できる。
かかる溶媒はペンタエリスリトール、三塩化リン、有機塩基化合物と反応しない不活性な溶媒であれば良い。この様なものとしては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等が挙げられる。特に、常圧下での沸点が100℃〜300℃のものが好適に用いられる。この様なものとしては、デカン、ドデカン、ジブチルエーテル、ジオキサン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられ、特にキシレンが好ましい。
【0028】
・溶媒含水量
これらの溶媒の含水率は1000ppm以下であることが望ましい。この含水率以上では、原料の三塩化リンの加水分解が促進することが認められる。より望ましくは500ppm以下、特に望ましいのは100ppm以下である。
【0029】
触媒について
・触媒種類
本発明の三塩化リンとペンタエリスリトールとの反応を効率よく進行させるために、触媒を使用する事ができる。かかる触媒としては、リン原子−塩素原子結合と反応しない有機塩基化合物が好ましく用いられる。該リン原子−塩素原子結合と反応しない有機塩基化合物とは、実質的に窒素原子−水素原子結合及び/または酸素原子−水素原子結合を有しない有機塩基化合物である。実質的にこれらの結合を有しないとは、該有機塩基化合物中の窒素原子−水素原子結合及び酸素原子−水素原子結合量が5000ppm以下のもので、好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下のものである。
【0030】
該リン原子−塩素原子結合と反応しない有機塩基化合物としては、脂肪族又は芳香族の、非環状又は環状アミン類、アミド類が挙げられる。これらの化合物の一例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−イソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ−t−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリ−n−オクチルアミン、メチルジエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリフェネチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N,N’,N’−テトラエチルメタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ブタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、1−メチルピロール、1−エチルピロール、1−メチルピロリジン、1−エチルピロリジン、オキサゾール、チアゾール、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール、1−メチルピラゾール、1−メチルピペリジン、1−エチルピペリジン、N,N’−ジメチルピペラジン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、N,N−ジエチル−4−アミノピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、キヌクリジン、キナゾリン、9−メチルカルバゾール、アクリジン、フェナントリジン、ヘキサメチレンテトラミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジエチルプロパンアミド、N,N−ジメチルベンズアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピペリドンなどが挙げられる。
【0031】
なかでもトリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−メチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、4−ビニルピリジンとスチレンの共重合体が好ましく、トリエチルアミン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミドがより好ましく、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミドがあらに好ましく、特にピリジンが好ましい。
また、上記の化合物がポリマー中に化学的に結合された化合物でもよい。例えばポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン)、4−ビニルピリジンとスチレンの共重合体などが挙げられる。
該有機塩基化合物は単一の化合物として用いるだけでなく、二種類以上併用して用いることもできる。
【0032】
・触媒量
上記の有機塩基化合物触媒の存在割合は、三塩化リン100モル%に対して0.1モル%〜100モル%が好ましい。また、実用上1モル%〜20モル%が望ましい。
【0033】
三塩化リンとペンタエリスリトールとの混合方法について
本発明における三塩化リンとペンタエリスリトールとの混合方法としては、ペンタエリスリトールの懸濁液に三塩化リンを滴下する方法が作業効率の点から好ましい。
【0034】
三塩化リンの滴下速度について
本発明のペンタエリスリトールに対する三塩化リンの滴下速度(下記式(i))は、好ましくは0.50〜2.00(モル/(hr・モル))であり、より好ましくは0.55〜1.50(モル/(hr・モル))である。三塩化リンの滴下速度が0.50(モル/(hr・モル))より遅いと、副反応が進行し、ペンタエリスリトールジホスホネートの純度低下や不純物を介した凝集により粒径が肥大化するおそれがある。また、三塩化リンの滴下速度が2.00(モル/(hr・モル))より速いと、反応が顕著に速くなり制御困難となり危険性が増すことがある。
(i)ペンタエリスリトールに対する三塩化リンの滴下速度(モル/(hr・モル))=三塩化リンの滴下速度(モル/hr)/ペンタエリスリトールの使用量(モル)
【0035】
反応温度について
本発明における三塩化リンとペンタエリスリトールとの反応における反応温度は−10℃〜90℃の範囲であることが望ましい。より望ましくは0℃〜60℃であり、特に望ましいのは5℃〜40℃である。該反応温度が−10℃未満であると反応速度が大幅に低下し、生産性の低下に繋がることがある。一方90℃を越えると副反応が起こり、目的とするペンタエリスリトールジホスホネートの回収量が少なくなることがある。
【0036】
反応時間について
本発明において、三塩化リンとペンタエリスリトールとを反応させるときの反応時間は特に規定しないが、1分間〜500分間かけて反応させるのが好ましい。更に好ましくは5分間〜300分間である。反応時間が上記範囲であれば、単位時間当りの発熱量、塩化水素ガスの発生量が小さく、反応温度を制御することが容易であり、熱交換器、冷却器や塩化水素ガス除害装置等の設備負荷が小さくなり好ましい。また、生産効率の点からも反応時間は上記範囲が好ましい。
【0037】
反応雰囲気について
本発明における三塩化リンとペンタエリスリトールとの反応系は、常時不活性気体雰囲気下に保つことが望ましい。かかる目的のためには、窒素、アルゴンらの不活性気体を反応系内に流せばよい。更には、この気体を連続的に系外に出すことで、副生するハロゲン化水素ガスもこの気体に同伴し、系外に出ていくという効果があり、不活性気体を反応系内に滞留させるよりも反応系内を流す方が好ましい。
【0038】
本発明において、三塩化リンとペンタエリスリトールとを反応に関与しない不活性な溶媒の存在下で反応させることにより3,9−ジクロロ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(以下、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトと呼ぶ。前記式(1)で示される化合物)が生成し、同時に副生成物としてペンタエリスリトール1モルに対して4モルの塩化水素が生成する。該ペンタエリスリトールジクロロホスファイト化合物は不安定な化合物である。
【0039】
塩化水素の除去について
本発明において、前記反応により得られたペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液から塩化水素を除去することが好ましい。かかる方法としては、下記の加熱処理や減圧処理が行われる。
【0040】
・加熱処理
加熱処理はペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液を40〜120℃に加熱する処理を行なう。加熱処理の時間は1分間〜1時間の範囲が好ましく、10分間〜30分間の範囲がより好ましい。また、加熱処理は不活性気体雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0041】
・減圧処理
減圧処理はペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液を減圧にする処理を行なう。減圧度は好ましくは100〜70,000Paの範囲であり、より好ましくは400〜40,000Paの範囲であり、更に好ましくは800〜20,000Paの範囲である。また、減圧処理に際して塩化水素は除去されるが反応溶媒や反応混合物が除去されないようにすることが好ましい。具体的な方法として、例えばペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液を室温に保ったまま、0℃以下に冷却した冷却管を通して減圧度3,000Pa程度で減圧処理をすることで塩化水素のみを除去する方法が挙げられる。減圧処理を行う時間はペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液の量や減圧度などによって変わるため一概には言えないが、通常1分間〜1時間行えば良く、好ましくは10分間〜30分間行えば良い。
【0042】
前記a反応により得られたペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液は、この溶液又は懸濁液からペンタエリスリトールジクロロホスファイトを単離、精製してもよいが、この溶液又は懸濁液をb反応の反応にそのまま使用することができる。ペンタエリスリトールジクロロホスファイトを単離、精製する工程を省略することで、作業性、生産効率の点で優れている。加えて、本来、不安定なペンタエリスリトールジクロロホスファイト化合物が分解するのを最小限にとどめることになり、結果として、本発明の目的物であるペンタエリスリトールジホスホネートの回収率の増加に繋がる。
【0043】
(b反応(2段階目の反応))
有機塩基化合物について
・有機塩基化合物の種類
本発明において前記a反応により得られたペンタエリスリトールジクロロホスファイトとアラルキルアルコールとを反応させる際に有機塩基化合物を共存させることが好ましい。有機塩基化合物とは、リン原子−塩素原子結合と反応しない有機塩基化合物が好ましく用いられる。該リン原子−塩素原子結合と反応しない有機塩基化合物とは、実質的に窒素原子−水素原子結合及び/または酸素原子−水素原子結合を有しない有機塩基化合物である。実質的にこれらの結合を有しないとは、該有機塩基化合物中の窒素原子−水素原子結合及び酸素原子−水素原子結合量が5000ppm以下のもので、好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下のものである。
【0044】
該リン原子−塩素原子結合と反応しない有機塩基化合物としては、脂肪族又は芳香族の、非環状又は環状アミン類が挙げられる。これらの化合物の一例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−イソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ−t−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリ−n−オクチルアミン、メチルジエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリフェネチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N,N’,N’−テトラエチルメタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ブタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、1−メチルピロール、1−エチルピロール、1−メチルピロリジン、1−エチルピロリジン、オキサゾール、チアゾール、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール、1−メチルピラゾール、1−メチルピペリジン、1−エチルピペリジン、N,N’−ジメチルピペラジン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、N,N−ジエチル−4−アミノピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、キヌクリジン、キナゾリン、9−メチルカルバゾール、アクリジン、フェナントリジン、ヘキサメチレンテトラミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどが挙げられる。
【0045】
なかでもトリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−メチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、キノリン、4−ビニルピリジンとスチレンの共重合体が好ましく、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリンがより好ましく、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリンが特に好ましい。
また、上記の化合物がポリマー中に化学的に結合された化合物でもよい。例えばポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン)、4−ビニルピリジンとスチレンの共重合体などが挙げられる。
該有機塩基化合物は単一の化合物として用いるだけでなく、二種類以上からなる混合物として用いることができる。
【0046】
・有機塩基化合物の使用量
本発明において、上記の有機塩基化合物の使用量は、ペンタエリスリトール100モル%に対して180モル%〜400モル%である事が望ましい。180モル%より少ないと、副生する塩化水素が捕捉できず、捕捉できなかった塩化水素が、得られたペンタエリスリトールジホスファイトを分解する為に、結果的に本発明の目的物であるペンタエリスリトールジホスホネートの回収量を大幅に減少させることがある。一方、該有機塩基化合物の割合がペンタエリスリトールに対して400モル%より多いと、該有機塩基化合物の回収または廃棄処理の負荷が大きくなり、生産効率の面で劣ることがある。より好ましくは190モル%〜250モル%であり、更に好ましくは195モル%〜220モル%である。
【0047】
・有機塩基化合物の含水量
上記の有機塩基化合物の含水量は、2000ppm以下が望ましい。2000ppmを越えると、水に由来する副生成物が生成し、更に該副生成物が、本発明のペンタエリスリトールジホスファイトの生成を阻害すると共に、ペンタエリスリトールジホスファイト自体の分解に関与する為に、結果として本発明の目的物であるペンタエリスリトールジホスホネートの回収量を大幅に減少させることがある。更に望ましくは1000ppm以下であり、特に望ましいのは100ppm以下である。
【0048】
アラルキルアルコールについて
・アラルキルアルコールの種類
本発明で用いられるアラルキルアルコールは、前記式(4)で示される化合物であり、式(4)において、Arがフェニル基、各種キシリル基、各種トルイル基、ジ−t−ブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等であり、RおよびRが水素原子、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、プロペニル基、フェニル基、各種トルイル基、各種キシリル基、各種クメニル基、ジ−t−ブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等である化合物が好ましい。より好ましくはArがフェニル基、RおよびRが水素原子、メチル基、フェニル基であり、特に好ましくはArがフェニル基、RおよびRが水素原子である。
【0049】
具体的には、ベンジルアルコール、(2−メチルフェニル)メチルアルコール、(3−メチルフェニル)メチルアルコール、(4−メチルフェニル)メチルアルコール、(2,4−ジメチルフェニル)メチルアルコール、(2,6−ジメチルフェニル)メチルアルコール、(3,5−ジメチルフェニル)メチルアルコール、(2,4,6−トリメチルフェニル)メチルアルコール、(2−sec−ブチルフェニル)メチルアルコール、(4−sec−ブチルフェニル)メチルアルコール、(2,4−ジ−sec−ブチルフェニル)メチルアルコール、(2,6−ジ−sec−ブチルフェニル)メチルアルコール、(2,4,6−トリ−sec−ブチルフェニル)メチルアルコール、(2−tert−ブチルフェニル)メチルアルコール、(4−tert−ブチルフェニル)メチルアルコール、(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)メチルアルコール、(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)メチルアルコール、(2,4,6−トリ−tert−ブチルフェニル)メチルアルコール、(4−ビフェニル)メチルアルコール、(1−ナフチル)メチルアルコール、(2−ナフチル)メチルアルコール、(1−アントリル)メチルアルコール、(2−アントリル)メチルアルコール、(9−アントリル)メチルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、1−メチル−1−フェニルエチルアルコール、ジフェニルメチルアルコール、トリフェニルメチルアルコールが挙げられる。なかでも、ベンジルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、ジフェニルメチルアルコールが好ましく、特にベンジルアルコールが好ましい。
該アラルキルアルコールは単一の化合物として用いるだけでなく、二種以上からなる混合物として用いることもできる。
【0050】
・アラルキルアルコールの使用量
該アラルキルアルコールの使用量は、ペンタエリスリトール100モル%に対し180モル%〜250モル%が望ましい。より好ましくは190モル%〜220モル%である。更に好ましくは200モル%〜210モル%である。該アラルキルアルコールの使用量が180モル%未満の場合、該アラルキルアルコールの不足分以上に、本発明の目的物であるペンタエリスリトールジホスホネートの回収量が大きく低下する。該アラルキルアルコールの使用量が250モル%を越えると過剰のアラルキルアルコールを回収する工程や廃棄処理する工程の負荷が大きくなり、工業的に不利となることがある。
【0051】
・アラルキルアルコールの添加方法
ペンタエリスリトールジクロロホスファイトと前記式(3)で示されるアラルキルアルコールを有機塩基化合物の存在下において反応させる方法は特に限定されない。ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液に有機塩基化合物を添加し、続いてアラルキルアルコールを添加して反応させても良く、アラルキルアルコールに、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液と有機塩基化合物の混合物を添加しても良く、有機塩基化合物とアラルキルアルコールとの混合物にペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液を添加しても良く、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液に有機塩基化合物とアラルキルアルコールとの混合物を添加して反応させても良い。
【0052】
反応温度、圧力について
本発明において、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトとアラルキルアルコールとを反応させるときの温度条件は−20℃〜100℃の範囲が望ましい。より好ましくは−10℃〜80℃である。−20℃未満だと反応速度が低下し、生産効率の低下をまねく。一方、100℃を越えた温度で反応させるとペンタエリスリトールジホスファイトの分解によって、結果的に本発明の目的物であるペンタエリスリトールジホスホネートの回収率低下を引き起こす。また、反応は常圧下に行なうことが好ましい。
【0053】
反応時間について
本発明において、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトとアラルキルアルコールとを反応させるときの反応時間は特に規定しないが、1分〜500分かけて反応させるのが好ましい。更に好ましくは5分〜300分である。1分未満で反応させると単位時間当りの発熱量が大きく、反応温度を制御することが困難となるだけでなく、熱交換器や冷却器等の設備負荷が大きくなる。一方、500分を越えた時間での反応は生産効率が低下することになる。
【0054】
反応系内の水分量について
本発明において、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトとアラルキルアルコールとを反応させるときの反応系内の含水率は2000ppm以下が望ましい。より好ましくは1000ppm以下であり、更に好ましくは500ppm以下であり、特に好ましくは300ppm以下である。反応系内の含水率が2000ppmを越えるとペンタエリスリトールジクロロホスファイトと水との反応で副生成物が生成する割合以上に目的物の回収率低下の割合が大きくなる。
【0055】
溶媒について
b反応においては反応に関与しない不活性な溶媒を使用する。a反応により得られたペンタエリスリトールジクロロホスファイトの溶液又は懸濁液をb反応にそのまま使用した場合は、新たに溶媒を追加する必要はないが追加してもよい。また、a反応においてペンタエリスリトールジクロロホスファイトを単離した場合は溶媒を使用する。
該溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、酢酸エチル、ベンゼン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等が挙げられる。好ましくはヘキサン、デカン、ドデカン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンである。更に好ましくはヘキサン、ドデカン、ジブチルエーテル、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンである。特にキシレンが好ましい。
【0056】
反応雰囲気について
ペンタエリスリトールジクロロホスファイトとアラルキルアルコールとを反応させる際には、不活性雰囲気下で行うことが望ましい。不活性雰囲気とは本発明で用いるアラルキルアルコール、有機塩基化合物や生成したペンタエリスリトールジホスファイト等を変性しうる酸素ガス、湿気、塩素ガス等が実質的に無い状態の事である。
系内の酸素濃度について具体的には5%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは100ppm以下であることが望ましい。具体的な例としては、反応系内を窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換後、該不活性ガス気流下もしくは該不活性ガス雰囲気下で反応を行う方法が挙げられる。該酸素濃度はJIS B 7983に規定のジルコニア式分析法等で測定される。
【0057】
有機塩基化合物成分の除去について
・有機塩基化合物成分の除去量
本発明のb反応において、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトとアラルキルアルコールとを有機塩基化合物の存在下に反応させた場合、生成したペンタエリスリトールジホスファイトを含む反応混合物から、有機塩基化合物及び有機塩基化合物の塩(有機塩基化合物成分)を反応系外に除去する事が好ましい。
該有機塩基化合物成分を反応系外に除去する割合としては、使用した有機塩基化合物100モル%に対し、90モル%以上の有機塩基化合物成分を除去することが望ましく、95モル%以上の有機塩基化合物成分を除去することが更に望ましい。有機塩基化合物の除去する割合が90モル%未満であると、次のc反応でペンタエリスリトールジホスホネートを得る際に副反応を誘発し、ペンタエリスリトールジホスホネートの回収量を低下させるおそれがある。有機塩基化合物成分の除去方法としては、使用する溶媒の種類や目的物の性質等、様々な条件に依存するため一概には言えないが、一例を挙げると、溶媒としてキシレンを使用した場合、有機塩基化合物はキシレンに実質的に不溶な有機塩基化合物の塩化水素塩を形成するため、ろ過等の操作で容易に取り除く事ができる。
【0058】
・有機塩基化合物成分の除去操作の雰囲気
前記生成したペンタエリスリトールジホスファイトから有機塩基化合物成分を反応系外に除去する操作は不活性雰囲気下で行う事が好ましい。不活性雰囲気とは本発明のペンタエリスリトールジホスファイトを変性しうる酸素ガス、塩素ガス等が実質的に無い状態の事である。系内の酸素濃度について具体的には5%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは100ppm以下であることが望ましい。例えば窒素ガス、アルゴンガス等の気流下もしくは雰囲気下において洗浄操作等を行う方法が挙げられる。該酸素濃度はJIS B 7983に規定のジルコニア式分析法等で測定される。
【0059】
有機塩基化合物成分除去後の処理について
前述した有機塩基化合物成分を除去した後の、ペンタエリスリトールジホスファイトの溶液または懸濁液は、この溶液または懸濁液からペンタエリスリトールジホスファイトを単離してもよいが、この溶液または懸濁液をそのまま次のc反応に使用することが好ましい。ペンタエリスリトールジホスファイトを単離する工程を省略することで、作業性、生産効率の点で優れている。
また、有機塩基化合物成分を除去した後のペンタエリスリトールジホスファイト溶液または懸濁液を水やアルカリ水溶液で洗浄処理した後に、次のc反応に使用することもできる。
また、有機塩基化合物成分を除去した後のペンタエリスリトールジホスファイトの溶液または懸濁液から溶媒等の一部を留去等で除去した後に、次のc反応に使用することもできる。
生産効率の点から、有機塩基化合物成分を除去した後のペンタエリスリトールジホスファイト溶液または懸濁液をそのまま次のc反応に使用する方法、もしくは有機塩基化合物成分を除去した後のペンタエリスリトールジホスファイト溶液または懸濁液を水やアルカリ水溶液で洗浄処理した後に次のc反応に使用する方法が好ましい。
【0060】
(c反応(3段階目の反応;アルブゾフ反応))
本発明において、前記b反応で得られたペンタエリスリトールジホスファイトは前記式(2)に示されるハロゲン化化合物の存在下に、温度80℃〜300℃の条件で加熱処理して、前記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネートを得る。
【0061】
溶媒について
・溶媒の種類
本発明のc反応において、ペンタエリスリトールジホスファイトを加熱処理する際に、溶媒を使用することもできる。溶媒を使用する事で、ペンタエリスリトールジホスファイトが該溶媒中に溶解若しくは分散し、攪拌の負荷を軽減できる。また本発明の加熱処理の際に反応系に熱が均一に伝わり易くなるという利点がある。
溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素および含酸素原子炭化水素からなる群より選ばれる1種又は2種以上からなる溶媒が好ましく、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる1種又は2種以上からなる溶媒が更に好ましい。また、常圧下の沸点が100℃〜300℃のものが望ましい。該溶媒としては、本発明の三塩化リンとペンタエリスリトールを反応させる際に使用する不活性な溶媒と同じ溶媒種であることが、溶媒の分離回収等の負荷を考えると望ましい。
【0062】
溶媒として、具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等が挙げられる。常圧下での沸点が100℃〜300℃のものが好適に用いられ、この様なものとしては、デカン、ドデカン、ジブチルエーテル、ジオキサン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられ、特にキシレンが好ましい。
【0063】
・溶媒の量
溶媒の使用量は、本発明で使用するペンタエリスリトールのモル濃度で表すと、好ましくは0.1〜5モル/L、より好ましくは0.3〜3モル/Lである。0.1モル/L未満ではペンタエリスリトールジホスホネートの生成速度が極端に低下し、生産効率の低下を招くことがある。
【0064】
加熱温度について
本発明のc反応において、ペンタエリスリトールジホスホネートはペンタエリスリトールジホスファイトを、ハロゲン化化合物の共存下に、加熱処理する事で得られる。その際、該加熱処理の温度は80℃〜300℃が好ましく、より好ましい加熱処理の温度は100℃〜250℃である。加熱処理の温度が80℃未満では反応速度が著しく低下し、生産効率が悪化することがある。加熱処理の温度が300℃を越える場合は、副反応を促進し、ペンタエリスリトールジホスホネートの回収率の低下を引き起こすことがある。
【0065】
反応時間について
本発明のc反応における加熱処理の時間は1分〜1200分が好ましく、10分〜1000分がより好ましい。1分未満では未反応物が残り、目的とするペンタエリスリトールジホスホネートの回収率の低下を引き起こすことがある。一方1200分をこえる時間では生産効率の悪化を引き起こすことがある。
【0066】
ハロゲン化化合物について
・ハロゲン化化合物の種類
本発明のc反応において、前記式(2)で示されるハロゲン化化合物が触媒として使用される。
前記式(2)で示されるハロゲン化化合物において、Arは炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基であり、好ましくは炭素数6〜10の置換もしくは非置換のアリール基である。RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子もしくは炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、好ましくは水素原子もしくは炭素数1〜8の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、より好ましくは水素原子もしくは炭素数1〜4の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、特に好ましくは水素原子である。XはBr基である。
該ハロゲン化化合物の具体例としては、ベンジルブロマイド、(1−ブロモエチル)ベンゼン、(2−ブロモエチル)ベンゼン、ジフェニルメチルブロマイド等が挙げられ、なかでもベンジルブロマイド、(1−ブロモエチル)ベンゼン、(2−ブロモエチル)ベンゼンが好ましく、特にベンジルブロマイドが好ましい。
前記式(2)で示されるハロゲン化化合物を使用することにより、通常触媒として使用される他のハロゲン化化合物(例えばヨウ化ナトリウム、テトラブチルアンモニウムブロマイド、n−ブチルアイオダイド)と比較して、高い収率で高純度のペンタエリスリトールジホスホネートを得ることができる。
【0067】
・ハロゲン化化合物の使用量
本発明で使用される前記式(2)で示されるハロゲン化化合物の使用量は特に限定はしないが、本発明で用いるペンタエリスリトール1モルに対して1モル〜10モルが好ましく、1.5モル〜3モルが特に好ましい。
【0068】
アルブゾフ反応系について
・水分量
本発明のc反応における反応系中の水分量は、特に規定しないが2000ppm以下が望ましい。更に好ましくは1000ppm以下である。該水分量が2000ppmより多い場合には、理由は不明であるが本発明で用いるペンタエリスリトールジホスファイトと水との反応に由来すると考えられる副生成物の割合以上に目的物の回収率低下の割合が大きくなる。
【0069】
・アルコール量
本発明のc反応における反応系中のアルコール量は、30000ppm以下が好ましい。更に好ましくは10000ppm以下である。該アルコールはペンタエリスリトールジホスファイトの製造工程で混入することがあり、該アルコールが大量に混入しているペンタエリスリトールジホスファイトを用いると目的とするペンタエリスリトールジホスホネートの回収率が大幅に低下する。
【0070】
・反応雰囲気
本発明のc反応における加熱処理は不活性雰囲気下で行うことが好ましい。不活性雰囲気とは本発明で用いるペンタエリスリトールジホスファイト等を変性しうる酸素ガス、湿気等が実質的に無い状態の事である。系内の酸素濃度について具体的には5%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは100ppm以下であることが望ましい。具体的な例としては、反応系内を窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換後、該不活性ガス気流下もしくは該不活性ガス雰囲気下で加熱処理を行う方法が挙げられる。該酸素濃度はJIS B 7983に規定のジルコニア式分析法等で測定される。
【0071】
(洗浄工程)
本発明において、c反応で得られたペンタエリスリトールジホスホネートは以下の洗浄方法で精製することが好ましい。
【0072】
洗浄溶媒と洗浄温度について
かかる精製とは、一般式R−OHもしくはR10−C(O)−R11で表される化合物(Rは水素原子もしくは炭素数1〜6の飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基、R10およびR11は同一または異なっていてもよく、炭素数1〜6の飽和の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)を用いて、目的物のペンタエリスリトールジホスホネートを洗浄する事である。その際の洗浄温度は35℃〜120℃以下が好ましい。かかる洗浄温度の範囲内では生成したペンタエリスリトールジホスホネートが分解する可能性が低く、また、洗浄効果が高く、残留揮発物の含有量を低減した該ペンタエリスリトールジホスホネートを得る為には洗浄を何度も繰り返す必要が無く、生産効率の点で好ましい。上記洗浄方法を採用することにより、c反応で得られた粉末状のペンタエリスリトールジホスホネートは鱗片状の結晶となり、乾燥性に優れたものとなる。
上記一般式R−OHで表される化合物としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられ、上記一般式R10−C(O)−R11で表される化合物としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、なかでも、経済的観点、操作性の観点からメタノールが好ましい。
【0073】
洗浄時間と洗浄を行うときの温度条件における洗浄溶媒に対するペンタエリスリトールジホスホネートの溶解度について
本発明の洗浄工程においては、下記式(I)を満たす条件下でリパルプ洗浄を行うことが好ましく、下記式(II)を満たす条件下でリパルプ洗浄を行うことがより好ましく、下記式(III)を満たす条件下でリパルプ洗浄を行うことがさらに好ましい。
(I)8≦X×Y≦45
(II)10≦X×Y≦40
(III)15≦X×Y≦35
(式中、Xは洗浄時間(h)、Yは洗浄を行うときの温度条件における洗浄溶媒に対するペンタエリスリトールジホスホネートの溶解度(g/100g−溶媒)である。)
X×Yが8未満である場合は洗浄効果が不十分であり、純度低下や不純物を介した凝集により粒径が肥大化するおそれがある。また、ペンタエリスリトールジホスホネート中に含まれる式(2)に示されるハロゲン化化合物の含有量も多くなり、刺激臭が残るため、実用的見地から好ましくない。一方、X×Yが45を超える場合は、オストワルド成長によるペンタエリスリトールジホスホネートの結晶成長が顕著となり、粒径が肥大化することがある。
【0074】
洗浄溶媒量について
洗浄溶媒の使用量は、本発明で使用するペンタエリスリトールのモル濃度で表すと、好ましくは0.1〜5モル/L、より好ましくは0.3〜3モル/Lである。0.1モル/L以上では洗浄に使用する溶媒量が少なくなり、経済的観点から好ましい。また、5モル/L以下の場合は、スラリー濃度が低く粘度も適当であるため、攪拌機への負荷が小さくなり好ましい。また、スラリー濃度が低くなるため、洗浄効率が高くなり、高純度の該ペンタエリスリトールジホスホネートを得る為には洗浄を何度も繰り返す必要が無く、生産効率の点で好ましい。
上記精製方法を適用した場合、式(2)に示されるハロゲン化化合物の含有量が低減された、高純度のペンタエリスリトールジホスホネートが得られる。さらに、上記精製方法では繊維用防炎加工剤としての使用に適した粒子特性を有するペンタエリスリトールジホスホネートを得ることができる。
【0075】
(乾燥工程)
本発明において、c反応で得られたペンタエリスリトールジホスホネートは減圧乾燥もしくは熱風乾燥いずれかの方法で乾燥することが好ましい。
減圧乾燥を行う際の乾燥温度は、好ましくは30〜180℃、より好ましくは40〜160℃、さらに好ましくは50〜140℃であり、減圧乾燥を行う際の真空度は、好ましくは0〜70Torr、より好ましくは1〜50Torr、さらに好ましくは2〜30Torrであり、乾燥時間は、好ましくは10〜90hr、より好ましくは15〜80hr、さらに好ましくは20〜70hrである。上記範囲で減圧乾燥を行うことにより、残留溶媒の少ない高品質なペンタエリスリトールジホスホネートを得ることができる。
【0076】
熱風乾燥を行う際の乾燥温度は、好ましくは80〜200℃、より好ましくは90〜180℃、さらに好ましくは100〜160℃であり、乾燥時間は、好ましくは10〜90hr、より好ましくは15〜80hr、さらに好ましくは20〜70hrである。上記範囲で熱風乾燥を行うことにより、残留溶媒の少ない高品質なペンタエリスリトールジホスホネートを得ることができる。
乾燥工程に用いられる加熱装置としては、連続式の加熱乾燥装置やタンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置及びナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型の加熱装置が好適に使用できるが、これらに限定されることなく公知の方法、装置を使用することができる。
【0077】
(加工剤)
本発明の方法で製造されたペンタエリスリトールジホスホネートは、繊維用防炎加工剤として好適に使用される。繊維用防炎加工剤は、分散剤100重量部に上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネートを1〜300重量部混合して得ることができる。
分散剤としては、水、有機溶剤または樹脂(溶液、エマルジョン、ラテックスを含む)が好ましく使用される。
【0078】
防炎加工剤の調製方法としては、上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネートを水、有機溶剤または樹脂溶液、樹脂エマルジョン、ラテックスに混合、分散させて調製する方法が好ましい。また、必要に応じて上述した界面活性剤、安定化剤、他の防炎剤等を使用することができる。
この際、分散剤100重量部に対する上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネートの混合割合は好ましくは5〜200重量部、より好ましくは10〜100重量部、特に好ましくは20〜50重量部である。上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネートが1重量部より少ない場合は、防炎効果が十分でないことがあり、また300重量部より多くなると、樹脂の皮膜形成が悪化し易くなり、繊維製品の品質が低下することがある。
【0079】
そして、得られた繊維用防炎加工剤を繊維製品に対して、固形分として3〜150重量%付着させて防炎繊維製品を製造する。固形分として好ましくは7〜100重量%、特に好ましくは15〜70重量%付着させる。固形分の付着量が3重量%未満では防炎効果が不十分であり、150重量%より多いと繊維製品の品質が低下する。加工法としても特に限定されるものではなく、従来より行われている浸漬法、吹き付け(スプレー等)による加工、はけ塗り等のコーティング法、吸尽法(染色同浴法)、サーモゾル法が一般に用いられる。
【0080】
また、繊維製品に関しては特に限定されるものではないが、代表例として、カーテン、カーペット、絨毯、人工芝、壁装材、椅子張り、幕類(幟旗等)、カーシート、カーマット、不織布フィルター、人工皮革、電磁波シールド材等が挙げられる。繊維素材の種類も特に限定されるものではないが、代表例としてポリエステル、ナイロン、アクリロニトリル、ポリプロピレン等の合成繊維、レーヨン、綿、麻等のセルロース系繊維、あるいは羊毛、絹、羽毛等の動物性繊維等が挙げられ、単独または複合状態で使用しても良い。
【0081】
本発明の方法で製造されたペンタエリスリトールジホスホネートは、合成皮革用難燃加工剤としても好適に使用される。難燃性合成皮革の製造方法は特に限定されるものでなく、湿式法あるいは乾式法のいずれの製造法で製造されても良い。
ここでいう湿式法とは、繊維基材上に溶剤に所定の濃度に溶解させた表皮用の樹脂をコーティングし、貧溶媒を含む凝固浴中で固化させるとともに該樹脂層中にスポンジ状に多くの微細な連通孔を生ぜしめ、その後水洗及び乾燥工程を経て製品とする方法である。
【0082】
また乾式法とは繊維基材の上に溶剤に所定の濃度に溶解した表皮用の樹脂を公知のコーティング方法により塗布し、乾燥機にて溶剤を揮散させて固化させるダイレクトコーティング法、または離型紙上に表皮用の樹脂を同じく公知のコーティング法によって塗布、乾燥し表皮樹脂層を形成させる。ここでいう離型紙としては、シリコーンタイプ、ポリプロピレンタイプ等があり、表面処理形状もフラットタイプ、エナメルタイプ、マットタイプ、エンボスタイプ等があるが、限定されるものではない。次いでこの表皮樹脂層上にポリウレタン樹脂系接着剤を公知のコーティング方法によって塗布し、繊維基材と熱圧着で貼り合わせ乾燥して製品とするラミネート法がある。
【0083】
具体的には、以下の方法により製造することができる。
離型紙上に表皮樹脂(例えばポリウレタン樹脂)を含む組成物を塗布し、必要により、熱処理、エージング処理して表皮樹脂層を形成する。次いで、表皮樹脂層表面に加熱溶融状態にある接着剤(例えばホットメルトポリウレタン)を含む組成物を塗布し、該プレポリマー組成物が粘調性を有する状態のうちに、繊維基材に貼り合わせ、室温まで冷却し、エージング処理して接着層を形成する。最後に離型紙を剥離する。
【0084】
表皮樹脂組成物としては、表皮用樹脂エマルジョンまたは表皮用樹脂溶解液に上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネートを添加し、その他必要に応じて架橋剤、顔料等を添加した後均一分散して作製した加工液を使用することが好ましい。
表皮樹脂組成物(加工液)を離型紙上に塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、T−ダイコーターなどの装置を用いた方法を挙げることができる。なかでも、均一な薄膜層の形成が可能であるという点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。
【0085】
また、接着剤を含む組成物としては、接着層用樹脂エマルジョンまたは接着層用樹脂溶解液に上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネートを添加し、その他必要に応じて架橋剤等を添加した後均一分散して作製した加工液を使用することが好ましい。接着剤を含む組成物(加工液)を表皮樹脂層に塗布する方法としては、上述したような従来公知の種々の方法を採用することができる。
【0086】
本発明の方法で製造されたペンタエリスリトールジホスホネートは、高速回転衝撃式粉砕機、ロール式粉砕機、媒体式粉砕機、気流式粉砕機、せん断・磨砕式粉砕機等、一般的に用いられる粉砕機を使用して、補助的に粉砕して、繊維用防炎加工剤または合成皮革用難燃加工剤として使用することができる。
【0087】
本発明の方法で製造されたペンタエリスリトールジホスホネートは、スチレン系樹脂(耐衝撃性ポリスチレン、ポリスチレン、ABS樹脂等)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の難燃剤としても好適に使用される。かかる難燃性樹脂組成物は、非常に高い難燃性能を有し、家電製品部品、電気・電子部品、自動車部品、機械・機構部品、化粧品容器などの種々の成形品を成形する材料として有用である。具体的には、ブレーカー部品、スイッチ部品、モーター部品、イグニッションコイルケース、電源プラグ、電源コンセント、コイルボビン、コネクター、リレーケース、ヒューズケース、フライバクトランス部品、フォーカスブロック部品、ディストリビューターキャップ、ハーネスコネクターなどに好適に用いることができる。さらに、薄肉化の進むハウジング、ケーシングまたはシャーシ、例えば、電子・電気製品(例えば電話機、パソコン、プリンター、ファックス、コピー機、ビデオデッキ、オーディオ機器などの家電・OA機器またはそれらの部品など)のハウジング、ケーシングまたはシャーシに有用である。特に優れた耐熱性、難燃性が要求されるプリンターの筐体、定着ユニット部品、ファックスなど家電・OA製品の機械・機構部品などとしても有用である。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、評価は下記の方法で行った。
【0089】
(1)原料の含水率
三菱化学株式会社製 電量滴定式水分測定装置 CA−06型を用いてカールフィッシャー法にて測定した。
【0090】
(2)ペンタエリスリトールジホスホネートの純度測定
HPLC装置としてWaters社製Separations Module 2690、検出器としてWaters社製Dual λ Absorbance Detector 2487(UV−264nm)、カラムとして東ソー(株)製TSKgel ODS−120T 2.0mm×150mm(5μm)を用い、溶離液に蒸留水とアセトニトリルとの混合液を用いて、カラム温度40℃で0→12min:アセトニトリル50%、12→17min:アセトニトリル50→80%、17→27min:アセトニトリル80%、27→34min:アセトニトリル80→100%、34→60min:100%のグラジエントプログラムにてHPLC分析を行った。測定は、ペンタエリスリトールジホスホネート50±0.5mgをアセトニトリル25mlに溶解させた後、孔径0.2μmのPTFEフィルターでろ過し、測定した。純度は面積%として算出した。
【0091】
(3)ペンタエリスリトールジホスホネート中に含まれる式(2)に示されるハロゲン化化合物の残存量
HPLC装置としてWaters社製Separations Module 2690、検出器としてWaters社製Dual λ Absorbance Detector 2487(UV−264nm)、カラムとして東ソー(株)製TSKgel ODS−120T 2.0mm×150mm(5μm)を用い、溶離液に蒸留水とアセトニトリルとの混合液を用いて、カラム温度40℃で0→12min:アセトニトリル50%、12→17min:アセトニトリル50→80%、17→27min:アセトニトリル80%、27→34min:アセトニトリル80→100%、34→60min:100%のグラジエントプログラムにてHPLC分析を行った。測定は、ペンタエリスリトールジホスホネート50±0.5mgをアセトニトリル25mlに溶解させた後、孔径0.2μmのPTFEフィルターでろ過し、測定した。あらかじめ作成しておいた検量線を用いて、ペンタエリスリトールジホスホネート中の式(2)に示されるハロゲン化化合物の残存量を求めた。
【0092】
(4)メジアン径の測定方法
日機装株式会社製マイクロトラックHRAを用い、メジアン径を測定した。測定条件は、粒子透過性:透過、粒子形状:非球形、粒子屈折率:1.60、溶媒屈折率:1.33とした。
【0093】
(5)防炎性
FMVSS−302に準拠し、防炎性の評価を行った。評価に当たっては、FMVSS−302に規定される、標線を越えてからの燃焼距離、標線を越えてからの燃焼時間、標
線を越えてからの燃焼速度をそれぞれ3回測定した。不燃は標線以下で自己消火、遅燃は
標線を越えて60秒以内かつ5cm以内で自己消火したことを示す。なお、燃焼速度が1
0cm/分を越えるものは不合格である。
【0094】
(6)耐光性
耐光性はフェードメーターを用い83℃×200時間照射後の変色の度合いを判定した。(JIS−L0842、カーボンアーク燈法;変褪色の程度をJIS変褪色用ブルースケールで判定した等級)
【0095】
(7)耐熱性
耐熱性はギヤオーブン乾燥機中で150℃×60分処理した後の変色の度合いを調べ以下の基準で評価した。
○:変色なし
△:変色あり
【0096】
(8)風合い
風合いは、手で触れた感触で判定した。
【0097】
(9)チョーキング試験
実施例及び比較例で作製したシート布から適宜の大きさの試験片を切り出し、その樹脂加工面を爪で引っ掻いて白化の度合いを観察した。評価基準は以下の通り。
○:ほとんど白化しない
△:白化するが粉落ち少ない
×:白化し、粉落ち多い
【0098】
(10)色目
実施例及び比較例で作製したシート布の樹脂加工面の色目を目視で観察した。評価基準は以下の通り。
○:凝集物があり、全体的に白みがかっている
△:凝集物は見られないが、全体的に白みがかっている
×:凝集物も、白みもほとんど観察されない
【0099】
実施例で使用した各試薬は以下に示した通りである。
(1)ペンタエリスリトール
広栄パーストープ株式会社製のペンタエリスリトール(純度99.4%)を使用した。含水率は34ppmであった。
(2)三塩化リン
三國製薬工業株式会社製の純度99%以上の三塩化リンを用いた。
(3)N,N−ジエチルアニリン
三星化学研究所製のN,N−ジエチルアニリンを用いた。含水率は65ppmであった。
(4)ピリジン
広栄化学工業株式会社製のピリジンを用いた。
(5)キシレン
双日株式会社から購入したキシレンを用いた。含水率は54ppmであった。
(6)ベンジルアルコール
東京応化工業株式会社製のベンジルアルコールを用いた。含水率は30ppmであった。
(7)ベンジルブロマイド
錦海化学株式会社製のベンジルブロマイドを用いた。含水率は25ppmであった。
(8)メタノール
三菱ガス化学株式会社製のメタノールを用いた。
【0100】
[実施例1]
(A)a反応
反応容器と攪拌翼を主装置とし、付帯設備として熱交換装置、冷却装置、加熱装置、精留塔、滴下装置、真空ポンプ等を具備し、腐食を避けるために内部がグラスライニングされた反応装置を窒素通気により十分乾燥させた後、キシレン896.1kg(1042L)、ペンタエリスリトール269.5kg(1979モル)、ピリジン6.36kg(80モル)を該反応装置に加えた。
滴下装置に三塩化リン560.8kg(4084モル)を加えた。精留塔に−20℃の冷媒を流し、攪拌を開始した。内温を20℃程度に調整し、3.4hrかけて該三塩化リンを滴下した。系内温度は、滴下開始直後約2℃ほど上昇したが、その後20℃付近でほぼ一定であった。滴下終了後、そのまま20℃の温度条件下で1時間攪拌をつづけることで3,9−ジクロロ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(以下、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトと呼ぶ)の白色懸濁液を得た。該反応中に発生した塩化水素は、該精留塔を通して反応系外の水酸化ナトリウム水溶液に吸収させた。その後、内温を60℃に調整し、1hr攪拌をつづけることで反応を完結させた。
内温が50℃以下になるまで冷却した後、真空ポンプにより25Torrまで減圧して内温を50℃程度に調整し、1hr白色懸濁液を攪拌して系内に残存する塩化水素を除去した。真空ポンプから排出される気体は水酸化ナトリウム水溶液に吹き込んだ。減圧処理後、真空ポンプを止め、40℃以下に冷却した後、反応装置内に窒素を流して常圧へと戻した。
【0101】
(B)b反応
次に、滴下装置にベンジルアルコール432.3kg(3998モル)とキシレン367.3kg(327L)を加えた。反応装置にはN,N−ジエチルアニリン596.7kg(3998モル)、キシレン491.9kg(572L)を加えた。精留塔に冷媒を流して冷却しながら攪拌した。ジャケットにブラインを流し、内温を5℃まで冷却した後、ベンジルアルコールのキシレン溶液を6hrかけて滴下した。滴下の進行に伴って反応系は白色スラリーとなった。滴下中の系内温度は10℃程度になるよう調整した。滴下終了後、30minかけて内温を20℃まで昇温し、そのまま1hr保持し、3,9−ビス((フェニルメチル)オキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(以下ペンタエリスリトールジベンジルホスファイトと呼ぶ)を含む反応混合物を得た。
得られた反応混合物は遠心濾過機を用いて窒素雰囲気下でろ別し、ペンタエリスリトールジベンジルホスファイトの溶液を得た。遠心濾過機の濾布上の白色固体の洗浄に乾燥キシレンを1167kg(1358L)用いた。なお濾布上の白色固体を水酸化ナトリウム水溶液に加えたところ、二層に分離し、上層はN,N−ジエチルアニリンであった。上層の重量及び1H NMR純度より使用したN,N−ジエチルアニリンの95%が回収されたことが分かった。
【0102】
(C)c反応
上記(B)で得たペンタエリスリトールジベンジルホスファイト溶液を、反応容器と攪拌翼を主装置とし、付帯設備として熱交換装置、冷却装置、加熱装置、精留塔、滴下装置、真空ポンプ等を具備し、腐食を避けるために内部がグラスライニングされ、窒素通気により十分乾燥された反応装置に移した。精留塔に冷媒を流して冷却して攪拌を開始し、内温を45℃に調整し、真空ポンプにより系内を10Torrまで減圧してキシレンを1109kg(1290L)留去させ、ペンタエリスリトールジベンジルホスファイト溶液を濃縮した。減圧処理後、真空ポンプを止め、20℃以下に冷却した後、反応装置内に窒素を流して常圧へと戻した。
次に、ベンジルブロマイド674.2kg(3942モル)を加え、窒素雰囲気下で
昇温を開始した。内温130℃に到達後、16hr反応させた。その間、内温は135〜145℃に制御した。反応装置内部は135℃で還流しており、均一溶液から白色沈殿が徐々に沈殿し、白色スラリーとなった。反応を完結させた後、室温まで冷却し、白色スラリーにキシレン700kg(814L)を加えた。均一になるまで攪拌を行った後、得られた反応混合物を遠心濾過機を用いて窒素雰囲気下でろ別し、遠心濾過機の濾布上に3,9−ビス(フェニルメチル)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(以下、ペンタエリスリトールジベンジルホスホネート)の粗結晶を得た。遠心濾過後、キシレン1194kg(1389L)を使用して、濾布上のペンタエリスリトールジベンジルホスホネートを簡易洗浄(かけ洗い)した。
【0103】
(D)洗浄工程
反応容器と攪拌翼を主装置とし、付帯設備として熱交換装置、冷却装置、加熱装置、精留塔等を具備し、腐食を避けるために内部がグラスライニングされた反応装置に、洗浄溶媒としてメタノール1392kg(1760L)を加えた。つづいて、上記(C)で得たペンタエリスリトールジベンジルホスホネート粗結晶を仕込み、攪拌を開始した。内温を65℃に調整して4hr洗浄を行った。反応装置内部は65℃でメタノールが還流していた。洗浄後、室温まで冷却を行った後、遠心濾過機を用いて窒素雰囲気下でろ別し、遠心濾過機の濾布上にペンタエリスリトールジベンジルホスホネートの結晶を得た。遠心濾過後、メタノール571kg(721L)を使用して、濾布上のペンタエリスリトールジベンジルホスホネートを簡易洗浄(かけ洗い)した。
【0104】
(E)乾燥工程
上記(D)で得たペンタエリスリトールジベンジルホスホネートをコニカルドライヤーに移し、内温を60〜80℃に調整し、10Torr以下まで減圧して、40hr減圧乾燥を行うことで白色粉末662kgを得た。
収率81.9%で、純度99.8%、ハロゲン化化合物の残存量32ppm、メジアン径13μmのペンタエリスリトールジベンジルホスホネートが得られたことが分かった。製造条件および分析結果を表1〜3に示した。
【0105】
(繊維用防炎加工剤の作製)
自動車内装用カーシート布を以下の加工液でコーティング処理した後、防炎性および諸物性に関して試験した。
(試布):ポリエステル100%織物カーシート布(目付300g/m
(加工剤):固形分45%のポリアクリル酸エステルエマルジョン100部に非イオン界面活性材1.5部、ポリアクリル酸系増粘剤1部及び25%アンモニア水0.5部を加え、攪拌しながら上記(E)で得たペンタエリスリトールジベンジルホスホネートを30部加えた。
(処理方法):ドクターナイフ方式でコーティングした。加工剤(加工液)の固形分付着量は100g/mとした。乾燥はプレドライが80℃で5分間、キュアリングは150℃で1分間とした。
(試験結果):防炎性、耐候性、耐熱性、風合い、耐チョーキング性、色目の評価結果について表4に示した。
【0106】
実施例2〜3、5〜7、参考例4、比較例1〜3]
表1〜3に示す条件とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペンタエリスリトールジベンジルホスホネートを得て、繊維用防炎加工剤の作製を行った。評価結果を表4に示す。
【0107】
[比較例4]
実施例1の(A)において、ペンタエリスリトール、三塩化リン、溶媒、触媒の使用量を表1に示すように変更し、三塩化リンの滴下速度を0.28(モル/(hr・モル))とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。三塩化リン滴下途中で攪拌不可となり、最終生成物のペンタエリスリトールジベンジルホスホネートは得られなかった。
【0108】
[比較例5]
実施例1の(B)において、N,N−ジエチルアニリンを使用しなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。最終生成物のペンタエリスリトールジベンジルホスホネートは得られなかった。
【0109】
[比較例6]
実施例1の(B)において、ペンタエリスリトールジベンジルホスファイトを含む反応混合物をろ別せずにそのまま(C)の反応に使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。最終生成物のペンタエリスリトールジベンジルホスホネートは得られなかった。
【0110】
[比較例7]
実施例1において、ペンタエリスリトールジベンジルホスホネートの代わりに、トリスジクロロプロピルホスフェートを30部加えて繊維用防炎加工剤を調製した以外は、実施例1と同様の操作を行い、試験を行った。評価結果を表4に示した。
【0111】
[比較例8]
実施例1において、ペンタエリスリトールジベンジルホスホネートの代わりに、デカブロモジフェニルエーテル75%と三酸化アンチモン25%の混合物を30部加えて繊維用防炎加工剤を調製した以外は、実施例1と同様の操作を行い、試験を行った。評価結果を表4に示した。
【0112】
[比較例9]
実施例1において、加工剤をコーティングせずに、そのままポリエステル100%織物カーシート布を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、試験を行った。評価結果を表4に示した。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の特定の構造を有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物は、難燃剤、結晶核剤、可塑剤等の添加剤として優れた効果を発揮し、殊に繊維用防炎加工剤として高度な防炎性および良好な物性を付与できることから、防炎繊維製品等の用途に幅広く有用であり、その奏する工業的効果は格別である。