(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
耐熱性繊維からなるシートに熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグを作製するプリプレグ作製工程であって、前記プリプレグが、前記熱硬化性樹脂の耐熱温度よりも低い耐熱温度を有する熱可塑性樹脂を含まない又は微量含有するプリプレグ作製工程と、
前記プリプレグを複数枚積層して積層体を作製する積層体作製工程と、
前記積層体を、前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度で、プレス成形するプレス工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の断熱材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記先行技術に鑑み、本発明者らは既に、良好な加工性を有しつつ、耐熱性、機械的強度、靱性等に優れるとともに、加工精度及び厚さ精度に優れた断熱材を提供している(特願2013−117843)。本発明の目的は、さらに耐熱性及び耐摩耗性に優れる断熱材とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討した結果、断熱材に含まれる熱可塑性樹脂の量を減らすことにより耐熱性及び耐摩耗性を改善できることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の断熱材とその製造方法を提供する。
1.耐熱性繊維からなる繊維層が積層した積層体からなり、前記繊維層は熱硬化性樹脂により固められており、
前記積層体は、前記熱硬化性樹脂の耐熱温度よりも低い耐熱温度を有する熱可塑性樹脂を含まない又は微量含有することを特徴とする断熱材。
2.前記積層体が熱可塑性樹脂を微量含有し、熱可塑性樹脂の含量は7質量%以下であることを特徴とする1に記載の断熱材。
3.耐熱性繊維からなるシートに熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグを作製するプリプレグ作製工程であって、前記プリプレグが、前記熱硬化性樹脂の耐熱温度よりも低い耐熱温度を有する熱可塑性樹脂を含まない又は微量含有するプリプレグ作製工程と、
前記プリプレグを複数枚積層して積層体を作製する積層体作製工程と、
前記積層体を、前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度で、プレス成形するプレス工程とを含むことを特徴とする断熱材の製造方法。
4.前記プリプレグが熱可塑性樹脂を微量含有し、熱可塑性樹脂の含量は7質量%以下であることを特徴とする3に記載の断熱材の製造方法。
5.耐熱性繊維からなる繊維層が積層した積層体からなり、前記繊維層は熱硬化性樹脂により固められており、
前記積層体は、熱可塑性樹脂を含まない又は微量含有し、
前記熱硬化性樹脂は、熱硬化性フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂から選択される1以上であり、
前記熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET樹脂、PBT樹脂から選択される1以上であることを特徴とする断熱材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性及び耐摩耗性に優れる断熱材とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の断熱材は、耐熱性繊維からなる繊維層が積層した積層体からなり、繊維層は熱硬化性樹脂により固められている。さらに、本発明の断熱材では、前記繊維層は、前記熱硬化性樹脂の耐熱温度よりも低い耐熱温度を有する熱可塑性樹脂を含まない又は微量含有する。前記繊維層が熱可塑性樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂の含量は好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
ここで、上記の「耐熱温度」とは、樹脂の物理的性状を保持できる上限の温度(例えば樹脂材料に軟化・変形が生じる温度、或いは樹脂材料に熱分解が生じる温度等)である。具体的には、耐熱温度とは、物理的耐熱性の観点では軟化温度やガラス転移点等の温度であり、化学的耐熱性の観点では、加熱時の重量減少等が生じる温度である。より詳細には、本発明の耐熱温度は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とで各々異なる。本発明の熱可塑性樹脂の耐熱温度は、所定の加熱条件(加熱時間、昇温速度)下で軟化する軟化温度、又は、組成成分の結合が切れて樹脂自体が変質劣化する温度である熱分解温度(具体的には所定率(5%又は10%)重量減少温度、荷重たわみ温度、所定率(例えば2%)厚さ変化率温度、樹脂材料の形状(膨れ、ひび割れ、曲がり)・色の外観判定による温度)である。本発明の熱硬化性樹脂の耐熱温度は、前記所定の加熱条件下で硬化する硬化温度、又は、組成成分の結合が切れて樹脂自体が変質劣化する温度である熱分解温度(具体的には所定率(5%又は10%)重量減少温度、荷重たわみ温度、所定率(例えば2%)厚さ変化率温度、樹脂材料の形状(膨れ、ひび割れ、曲がり)・色の外観判定による温度)である。さらに特定すると、本発明の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の耐熱温度は、一定時間加熱した際の重量減少が10%以下になる温度である。
【0012】
このように本発明では、熱可塑性樹脂を含まない又は熱可塑性樹脂の含量を微量にすることにより、耐熱性、耐摩耗性、強度(曲げ強度)を高めている。
この点、具体的には、断熱材の繊維層が、例えば保形のためのサイジング剤やバインダー等として、熱硬化性樹脂の耐熱温度よりも低い耐熱温度を有する熱可塑性樹脂を所定量含む場合、高温下では熱可塑性樹脂の可塑性によってクリープ(材料変形)を生じ易く、かかるクリープによる疲労のため構造的強度が弱くなる。
また、断熱材が例えば金型装置の断熱板として用いられる場合には、金型装置のプレス成型時の加熱・加圧によって断熱板にクリープが生じると、断熱板と金型装置の被取付体との間に隙間が生じ、金型装置の圧力が不安定になる。
さらに、高温化で熱可塑性樹脂が熱分解されると、その分解の際の発熱によりさらに分解が進む。このような熱分解によって熱可塑性樹脂の消失が進むと、繊維層の接着強度が弱まり繊維層が解けやすい状態となって耐熱性及び摩耗性の低下や更なる強度低下をもたらす。
従って、本発明の断熱材では、熱可塑性樹脂を含まない又は熱可塑性樹脂の含量を微量にするという構成を採用することによって、熱可塑性樹脂が断熱材の耐熱性、耐摩耗性、強度(曲げ強度)を低減させることを抑制できる。換言すれば、本発明の断熱材では、熱可塑性樹脂を含まない又は熱可塑性樹脂の含量を微量にするという構成を採用することによって、耐熱性、耐摩耗性、強度(曲げ強度)を高めることできる。
【0013】
耐熱性繊維として、耐熱性を有する無機繊維及び/又は有機繊維を使用できる。無機繊維としては、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、炭化珪素繊維、ロックウール等から選ばれる一種以上を挙げることができる。有機繊維として、アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、アクリル、レーヨン、炭素繊維等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
熱硬化性樹脂として、熱硬化性フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
熱可塑性樹脂として、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET樹脂、PBT樹脂等から選ばれる一種以上を挙げられる。尚、上記の熱可塑性樹脂は、上記の熱硬化性樹脂より、耐熱温度が低い。
ここで、上記の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に鑑みて、本発明の断熱材は、耐熱性繊維からなる繊維層が積層した積層体からなり、前記繊維層は熱硬化性樹脂により固められており、前記積層体は、熱可塑性樹脂を含まない又は微量含有し、前記熱硬化性樹脂は、熱硬化性フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂から選択される1以上であり、前記熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET樹脂、PBT樹脂から選択される1以上であるように構成することができる。
【0014】
断熱材において、繊維と熱硬化性樹脂が占める割合は、例えば、93質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、又は99質量%以上であってよい。
本発明の断熱材は、繊維と熱硬化性樹脂以外に硬化剤,硬化促進剤、無機充填剤、触媒等を含むことができる。
硬化剤(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を含まない)としては、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン類や、有機過酸化物等の過酸化物等を挙げることができる。
硬化促進剤としては、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0015】
無機充填材としては、シリカ、炭酸カルシウム等から選ばれる一種以上を挙げることができる。無機充填材を含むことにより、補強効果を発揮したり、密度、熱伝導率、クリープ性を容易に所望範囲に制御することができる。例えば、断熱材は、無機充填材を好ましくは0〜32質量%、より好ましくは5〜20質量%、さらに好ましくは7〜15質量%含むように構成できる。
【0016】
断熱材では、耐熱性繊
維の含有量については特に限定されない。例えば、断熱材は、耐熱性繊維を10〜90質量%、20〜80重量%又は30〜70質量%含有するように構成することができる。また、断熱材は、熱硬化性樹脂を10〜90質量%、20〜80重量%又は30〜70質量%含有するように構成することができる。
【0017】
本発明の断熱材は、繊維層と非繊維層(例えば金属含有層)とからなる積層体で構成されることもできるが、好ましくは、繊維層のみが積層した積層体(即ち非繊維層を有しない積層体)で構成され得る。なお、前記非繊維層は、例えば断熱材(積層体)の保護用途(補強材や耐火材、耐水材等)の層で構成することができ、本発明の断熱材では、外観の美観用途である化粧板用紙(チタン紙等)を含まないで構成することができる。また、積層体における各繊維層や各非繊維層の厚さは、均等又は略均等で構成されてもよいし、互いに異なるように構成されてもよい。
【0018】
本発明の断熱材は、耐熱性シート(繊維製シート)に熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグを作製し、このプリプレグを複数枚積層して積層体を作製し、積層体を、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度で、プレス成形して、製造できる。熱可塑性樹脂はシートに含まれていてもよいし、熱硬化性樹脂と共に含浸してもよい。
【0019】
図1は、本発明の断熱材の製造に用いるプリプレグの製造例を示す模式図である。
図1に示す例においては、耐熱性シート1を巻回した状態で保持するホルダーHから耐熱性シート1をローラー等により引き出しつつ、熱硬化性樹脂2を満たした含浸槽Tに浸漬して所定量の熱硬化性樹脂2を含浸させ、その後、乾燥機Dで乾燥した後に、切断機Cで所定サイズに切断することにより、目的とするプリプレグ3を製造することができる。
【0020】
本発明で使用する耐熱性シート1には、クロス、ペーパー、マット等がある。クロスはガラス繊維を織ることで製造できる。
【0021】
ペーパーは、抄造機により製造できる。無機ペーパーは、バルク状の無機繊維に適宜少量の有機バインダーを加え、抄造機により紙状に加工して製造できる。有機バンイダーとして熱可塑性樹脂(アクリル樹脂、ポリビニルアルコール等)及び/又は熱硬化性樹脂を使用できる。熱硬化性樹脂が好ましい。
【0022】
無機ペーパーは、無機繊維の含有割合が好ましくは45〜100質量%、より好ましくは74〜94質量%、さらに好ましくは82〜88質量%である。有機バインダーの含有割合が好ましくは0〜55質量%、より好ましくは6〜26質量%、さらに好ましくは12〜18質量%である。
【0023】
ペーパーの平均厚さは、通常0.2〜6mmである。本発明において、平均厚さは、ノギス又はマイクロメータで任意の8箇所の厚みを測定したときの算術平均値を意味する。
ペーパーの坪量は、通常、20〜430g/m
2である。本発明において、坪量(g/m
2)は、JIS P 8124の規定に基づいて算出される値を意味する。
【0024】
マットは繊維を絡合したものであり、例えば、バルク状の繊維をニードルパンチ機で絡合させマット状に加工して製造できる。かかるマットとしては、例えば無機繊維のみで構成され(即ち無機繊維100質量%)、保形のためのサイジング剤等として熱可塑性樹脂を含まないで構成することができる。無機繊維は、例えばガラス繊維で構成され得る。
マットは表面に凹凸があるため積層した場合、互いにからみ強度が増すため好ましい。また、バインダーを用いずに製造できるので、コストを低減できる。
【0025】
マットの平均厚さは、例えば2〜20mmである。マットの坪量は、例えば100〜4000g/m
2である。
【0026】
耐熱性シート1は、熱硬化性樹脂と共に硬化剤や硬化促進剤に含浸させてもよい。また、熱硬化性樹脂と共に無機充填材に含浸させてもよい。
【0027】
耐熱性シート1がペーパーで構成される場合、ペーパーから得られるプリプレグの坪量は、例えば30〜690g/m
2とすることができる。
耐熱性シート1がマットで構成される場合、マットから得られるプリプレグの坪量は、例えば150〜10000g/m
2とすることができる。
プリプレグの坪量(g/m
2)は、100cm四方の正方形状のプリプレグの質量(g)から算出される値を意味する。
【0028】
図2は、プリプレグから本発明の断熱材を製造する製造例を示す模式図である。
図2に示す例においては、耐熱性シートに熱硬化性樹脂を含浸してなるプリプレグ3を所望枚数枚積層して積層物Lを5個形成し、得られた5個のプリプレグの積層物Lを、各積層物間にスペーサーを介した状態でプレス機Pのプレス板間に積み重ねた上で、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上の温度条件下、プリプレグ1枚当たりの平均厚みが所望厚みになるように加圧して熱圧プレスすることにより、目的とする断熱材4を得ることができる。
図2に示す態様においては、上記積層物Lを5個積み重ねた状態で熱圧プレス成形しているが、積層物Lは、通常、1〜20個程度積み重ねた状態で熱圧プレス成形することができる。
【0029】
熱圧プレス成形されるプリプレグの積層枚数は特に制限されない。シートがペーパーのときは、厚さ10mmあたり、例えば3〜200枚である。シートがマットのときは、厚さ10mmあたり、例えば1〜20枚である。
【0030】
また、熱圧成形前後におけるプリプレグの圧縮率は、例えば、15〜50%、15〜33%、又は21〜29%である。プリプレグの圧縮率は、下記式により算出される。
圧縮率(%)=(熱圧成形後のプリプレグ1枚あたりの平均厚み(mm)/熱圧成形に供したプリプレグ1枚の平均厚み(mm))×100
【0031】
熱圧プレス成形時の温度は、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上の温度であり、例えば、100〜200℃であることが好ましく、130〜180℃であることがより好ましく、145〜155℃であることがさらに好ましい。
【0032】
熱圧プレス成形時の加圧時間は、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂が熱硬化し得る時間であれば特に制限されず、例えば、30分間以上であることが好ましく、60分間以上であることがより好ましく、120分間以上であることがさらに好ましい。
【0033】
熱圧プレス成形後して得られた熱圧成形物を、必要に応じて更に機械加工してもよく、また、必要に応じて、適宜所定温度に加熱してアフターキュアを行ってもよい。
【0034】
上記の方法で得られた断熱材は、耐熱性シートを基材とするプリプレグを複数枚積層した状態で熱圧プレス成形されているので、熱硬化性樹脂が均質に分散されたプリプレグが、熱圧成形時に熱ムラ(加熱温度のバラツキ)の発生を抑制しつつプレス成形されていると考えられる。
このために、断熱材は、同量の繊維及び熱硬化性樹脂を含有する断熱材に比較して、精度の高い良好な加工性を有するとともに、優れた曲げ強度、靱性、厚さ精度等を発揮し得ると考えられる。
【0035】
本発明の断熱材の密度は、特に限定されない。例えば、断熱材の密度は、400〜2000kg/m
3であるものが好ましく、900〜1250kg/m
3であるものがより好ましく、1000〜1100kg/m
3であるものがさらに好ましいように構成することが可能である。
断熱材の密度は、縦120mm×横40mm×得られた断熱材の厚さに切り出した試験片の寸法(m
3)及び重量(kg)から求めた値を意味する。
【0036】
本発明の断熱材は、空気雰囲気下、200℃で24時間加熱したときに割れや欠けを生じない耐熱性を有するものであることが好ましく、260℃で24時間加熱したときに割れや欠けを生じない耐熱性を有するものであることがより好ましい。
【0037】
本発明の断熱材は、熱伝導率が、0.25W/(m・K)以下であるものが好ましく、0.18W/(m・K)以下であるものがより好ましく、0.12W/(m・K)以下であるものがさらに好ましい。
断熱材の熱伝導率は、JIS A 1412−2:1999第2部 熱流計法HFM法で測定した値を意味する。
【0038】
本発明の断熱材は、曲げ強度が、30MPa以上であるものが好ましく、45MPa以上であるものがより好ましく、55MPa以上であるものがさらに好ましい。
曲げ強度は、JIS C2210−1975の繊維強化樹脂の曲げ試験に基づいて測定した値を意味する。
【0039】
本発明の断熱材は、JIS K 6911により測定したときのシャルピー衝撃値が10kJ/m
2以上であるものが好ましく、15kJ/m
2以上であるものがより好ましく、18kJ/m
2以上であるものがさらに好ましい。
シャルピー衝撃値が上記範囲内にあることにより、十分な靱性を発揮することができる。
【0040】
本発明の断熱材は、ノギスにより任意の8箇所の厚さを測定したときに、厚さの差が±5mm以内である厚さ精度を有するものが好ましく、厚さの差が±3mm以内である厚さ精度を有するものがより好ましく、厚さの差が±2.5mm以内である厚さ精度を有するものがさらに好ましい。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0042】
実施例1
(1)プリプレグの作製
図1に示す装置を用い、ホルダーHに巻き付けた耐熱性マット1(平均厚さ6mm、平均幅1050mm、平均長さ30mm、密度120kg/m
3)をローラーで引き出しつつ、熱硬化性樹脂2であるレゾール型フェノール樹脂(熱硬化温度150℃)を満たした含浸槽Tに浸漬した。耐熱性マット1は、ガラス繊維をニードルパンチで絡合して得たものである。その後、乾燥機Dで60〜130℃で乾燥し、次いで切断機Cで切断することにより、ガラス繊維製マットに由来する繊維40質量%、レゾール型フェノール樹脂60質量%を含有するシート状(板状)のプリプレグ3を複数枚作製した。
【0043】
(2)断熱材の作製
(1)で得たプリプレグ3を13枚積層した積層物Lを5個作製し、得られた5個の積層物Lを、
図2に示すように、各積層物間にスペーサーを介した状態でプレス機Pのプレス板間に積み重ねた上で、150℃の温度条件下で2時間(又は200℃の温度条件下で1時間)熱圧プレス成形することにより、シート状又は板状(例えば、縦2000mm、横1000mm、厚さ22mmの断熱材4を得た。断熱材4はマットのガラス繊維が熱硬化性樹脂で固められ、熱可塑性樹脂は含んでいなかった。
【0044】
得られた断熱材4は、繊維40質量%、レゾール型フェノール樹脂60質量%を含有し、密度が1050kg/m
3、空気雰囲気下、200℃で24時間加熱したときに割れや欠けを生じない耐熱性を有し、熱伝導率が0.12W/(m・K)、曲げ強度が60MPa、JIS K 6911により測定したときのシャルピー衝撃値が20kJ/m
2であり、ノギスにより任意の8箇所の厚さを測定したときに、厚さの差が2mm以内である厚さ精度を有し、切削加工したときに、割れや欠け等を生じることなく容易に加工し得る優れた加工性や加工精度を有するものであった。
【0045】
実験例1
本発明の断熱材は、熱可塑性樹脂の含量が少ないことにより、耐摩耗性、耐熱性に優れることを、この実験例で示す。
【0046】
(1)断熱材Bの製造
実施例1において、耐熱性マット1の代わりにポバール系合成樹脂(熱可塑性樹脂)とアクリル系合成樹脂(熱可塑性樹脂)を16質量%含むガラス繊維製ペーパー(平均厚さ0.78mm、坪量110g/m
2)を用いた他は、実施例1と同様にして、平均厚さ0.84mm、縦2110mm、横1050mmのプリプレグを複数枚作製した。さらに、得られたプリプレグを57枚積層した積層物Lを作製した他は、実施例1と同様にして、縦2070mm、横1020mm、厚さ12mmの断熱材Bを得た。
得られた断熱材Bは、繊維を42質量%、レゾール型フェノール樹脂を50質量%、熱可塑性樹脂を8質量%含有していた。
【0047】
(2)耐熱温度の測定
断熱材に用いた、樹脂の耐熱温度は以下のようにして測定した。汎用のオーブン等の加熱機器及び汎用の重量測定装置を用いて、所定の加熱時間において樹脂材料を加熱した際に当該材料に10%重量減少が生じたときの温度を耐熱温度として測定した。なお、TG(熱重量測定装置)を用いて耐熱温度を測定することも可能である。
【0048】
(3)摩耗性の評価
以下、実施例1で得られた断熱材を、断熱材Aと呼ぶ。
断熱材A,Bを、240℃の雰囲気下で50時間及び70時間加熱した。その後、常温に戻して、摩耗量を測定した。具体的には、テーバー型磨耗試験装置を用いて、断熱材を磨耗輪に接触させ、断熱材を摩耗輪に対して回転させた。磨耗輪と接触した部分が削れるので、試験前後の断熱材の重量変化を測定して、磨耗量(g)を求めた。結果を
図3に示す。
【0049】
(4)耐熱性の評価
断熱材A,Bをオーブンに入れて、180℃で16MPa、及び200℃で15MPaの、熱と圧力をかけ、厚さの変化を測定した。結果を
図4に示す。
【0050】
また、断熱材A,Bを450℃まで加熱して重量減少(%)を測定した。結果を
図5に示す。
以上、
図3〜
図5に示されるように、断熱材に含まれる熱可塑性樹脂が8質量%以上であると、断熱材の磨耗性、耐熱性(重量減少、厚さ変化)の低下が顕著であり、断熱材に含まれる熱可塑性樹脂は、少なくとも7質量%以下であることが好ましい。