(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射性物質を含有するモリブデン酸ジルコニウムに、前記モリブデン酸ジルコニウムを溶解させる溶解除去剤を接触させて前記モリブデン酸ジルコニウムと共に前記放射性物質を溶解除去する際、
前記溶解除去剤が、エチレンジアミンテトラアセテート又はシュウ酸のキレート剤を含有するアルカリ性水溶液であることを特徴とする放射性物質の除去方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の溶解反応槽の固着スラッジの除去方法では、溶解反応槽に固着したスラッジを効率良く除去するためには、取扱いが困難な強塩基及び強酸を交互に複数回切替えて固着スラッジに接触させて洗浄する必要がある。このため、固着スラッジの除去に要する廃液の液量が増大して廃液の処理が困難となり、必ずしも効率良く固着スラッジを除去できていない実情がある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去できる放射性物質の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の放射性物質の除去方法は、放射性物質を含有するモリブデン酸ジルコニウムに、前記モリブデン酸ジルコニウムを溶解させる溶解除去剤を接触させて前記モリブデン酸ジルコニウムと共に前記放射性物質を溶解除去することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、モリブデン酸ジルコニウムに当該モリブデン酸ジルコニウムを溶解する溶解除去剤を接触させるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0008】
本発明の放射性物質の除去方法においては、前記溶解除去剤が、キレート剤を含有するアルカリ性水溶液であることが好ましい。この構成により、アルカリ性水溶液によってモリブデン酸ジルコニウムのモリブデンを溶解できると共に、キレート剤によってジルコニウムを溶解できるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0009】
本発明の放射性物質の除去方法は、前記アルカリ性水溶液が、アルカリ金属水酸化物の水溶液であることが好ましい。この構成により、モリブデン酸ジルコニウムのモリブデンを効率良く溶解できるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0010】
本発明の放射性物質の除去方法は、前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム及び水酸化カリウムからなる群から選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。この構成により、モリブデン酸ジルコニウムのモリブデンを効率良く溶解できるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0011】
本発明の放射性物質の除去方法は、前記キレート剤が、エチレンジアミンテトラアセテート、シュウ酸、クエン酸、イタコン酸、アコニット酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライオン酸、フタル酸、イソフタル酸及びグリコール酸からなる群から選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。この構成により、ジルコニウムを効率良く溶解できるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0012】
本発明の放射性物質の除去方法は、前記アルカリ性水溶液は、電位調整剤を含有することが好ましい。この構成により、モリブデン酸ジルコニウムのモリブデンを効率良く溶解できるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0013】
本発明の放射性物質の除去方法は、前記溶解除去剤が、ナノバブルを含有する酸性水溶液であることが好ましい。この構成により、酸性水溶液によってモリブデン酸ジルコニウムのジルコニウムを溶解できると共に、正に帯電したナノバブルによってモリブデンを溶解できるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0014】
本発明の放射性物質の除去方法は、前記溶解除去剤が、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤を含有する酸性水溶液であることが好ましい。この構成により、酸性水溶液によってモリブデン酸ジルコニウムのジルコニウムを溶解できると共に、正に帯電した界面活性剤によってモリブデンを溶解できるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0015】
本発明の放射性物質の除去方法は、前記溶解除去剤が、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1種を含有するアルカリ性水溶液であることが好ましい。この構成により、アルカリ性水溶液によってモリブデン酸ジルコニウムのモリブデンを溶解できると共に、負に帯電した界面活性剤によってジルコニウムを溶解できるので、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、モリブデン酸ジルコニウムに含まれる放射性物質を効率良く除去できる放射性物質の除去方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、放射性物質を含有するモリブデン酸ジルコニウムの説明図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る放射性物質の除去方法の溶解除去対象となるモリブデン酸ジルコニウム1は、原子燃料再処理設備の溶解槽11の内壁に固着したスラッジである。このモリブデン酸ジルコニウム1は、モリブデン12とジルコニウム13とが交互に積層されている。また、モリブデン酸ジルコニウム1は、モリブデン12とジルコニウム13との間に放射性物質14を巻き込んで内部に含有した状態で溶解槽11の内壁に付着している。モリブデン酸ジルコニウム1は、強酸性及び強塩基性の溶解除去剤と接触させることで溶解除去することが可能である。
【0019】
図2は、溶解除去剤のpHに対するモリブデン酸ジルコニウムの溶解量の関係を示す図である。
図2に示すように、モリブデン酸ジルコニウムは、溶解除去剤のpHが小さい酸性側の領域では、ジルコニウムの溶解量が高くなる一方、モリブデンの溶解量が小さくなる。また、モリブデン酸ジルコニウムは、溶解除去剤のpHが大きい塩基性側の領域では、モリブデンの溶解量が高くなる一方、ジルコニウムの溶解量が小さくなる。さらに、モリブデン酸ジルコニウムは、pHが7付近の中性の領域では、モリブデンの溶解量及びジルコニウムの溶解量がいずれも小さくなる。
【0020】
図3Aに示すように、放射性物質14を含有するモリブデン酸ジルコニウム1を、強酸性の溶解除去剤と接触させた場合には、モリブデン酸ジルコニウム1表面のジルコニウム13が溶解除去される一方、モリブデン12が表面に析出してモリブデン酸ジルコニウム1内部の放射性物質14を溶解除去することはできない。また、
図3Bに示すように、放射性物質14を含有するモリブデン酸ジルコニウム1を、強塩基性の溶解除去剤と接触させた場合には、モリブデン酸ジルコニウム1表面のモリブデン12が溶解除去される一方、ジルコニウム13が表面に析出してモリブデン酸ジルコニウム1内部の放射性物質14を溶解除去することはできない。したがって、一般的には、放射性物質14を含有するモリブデン酸ジルコニウム1を溶解除去するためには、強酸性の溶解除去剤と強塩基性の溶解除去剤とを交互にモリブデン酸ジルコニウム1と接触させる必要があった。
【0021】
本発明者らは、上述したモリブデン酸ジルコニウム1の溶解特性に着目した。そして、本発明者らは、溶解除去剤の液性及び添加剤について種々検討した結果、単一の溶解除去剤を用いるだけでモリブデン酸ジルコニウム1と共に放射性物質14を溶解除去できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の骨子は、放射性物質を含有するモリブデン酸ジルコニウム1に、モリブデン酸ジルコニウム1を溶解させる溶解除去剤を接触させてモリブデン酸ジルコニウム1と共に前記放射性物質14を溶解除去することである。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の各実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。また、以下の各実施の形態は適宜組み合わせて実施可能である。また、各実施の形態において共通する構成要素には同一の符号を付し、説明の重複を避ける。
【0023】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る放射性物質の除去方法は、放射性物質を含有するモリブデン酸ジルコニウムに、モリブデン酸ジルコニウムを溶解させるキレート剤を含有するアルカリ性水溶液を接触させてモリブデン酸ジルコニウムと共に放射性物質を溶解除去するものである。
【0024】
図4は、第1の実施の形態に係る放射性物質の除去方法の概念図である。
図4に示すように、本実施の形態では、モリブデン酸ジルコニウム1に、キレート剤15を含有するアルカリ性水溶液と接触させるので、アルカリ性水溶液によってモリブデン12が溶解除去されると共に、モリブデン酸ジルコニウム1表面に析出したジルコニウム13とキレート剤15とがキレートを形成してアルカリ性水溶液に溶解する。キレート剤としてシュウ酸((COOH)
2)を用いた場合には、下記式(1)に基づいて、モリブデン酸ジルコニウム(Mo
2ZrO
7(OH)
2・2H
2O)のジルコニウムとシュウ酸とがキレートを形成して、ジルコニウムが溶解除去剤のpHに応じて、Zr[(COO)
2]
2+、Zr[(COO)
2]
2、Zr[(COO)
2]
32−及びZr[(COO)
2]
44−の何れかとなって溶解除去剤に溶解し、モリブデンがMoO
42−として溶解除去剤に溶解する。この結果、アルカリ性水溶液を用いるだけで、モリブデン酸ジルコニウム1の内部に巻き込まれた放射性物質14をモリブデン酸ジルコニウム1と共に溶解除去することが可能となる。
Mo
2ZrO
7(OH)
2・2H
2O+(COOH)
2→Zr[(COO)
2]
2++Zr[(COO)
2]
2+Zr[(COO)
2]
32−+Zr[(COO)
2]
44−+MoO
42− ・・・(1)
【0025】
図5は、キレート剤を加えた溶解除去剤のpHに対するモリブデン酸ジルコニウムの溶解量の関係を示す図である。
図5に示すように、キレート剤を加えることにより、上述した作用効果でジルコニウムの溶解量は、点線L1から実線L2に変化してpHが大きい領域で増大する。したがって、本実施の形態では、pHが大きいアルカリ水溶液にキレート剤を加えて溶解除去剤として用いることにより、モリブデン酸ジルコニウムを効率良く溶解除去することが可能となる。
【0026】
図6は、溶解除去剤のキレート剤濃度と金属濃度との関係を示す図である。なお、
図6においては、横軸にキレート剤濃度を示し、縦軸にアルカリ性水溶液中に溶解したモリブデン又はジルコニウムの濃度のうち、低い方の金属イオン濃度を示している。また、
図6においては、水酸化ナトリウム濃度を0mol/Lとしてキレート剤としてシュウ酸の濃度を変化させた場合(L3参照)と、水酸化ナトリウム濃度を0.5mol/Lとしてキレート剤としてシュウ酸の濃度を変化させた場合(L4参照)と、水酸化ナトリウム濃度を1.5mol/Lとしてキレート剤としてシュウ酸の濃度を変化させた場合(L5参照)とを示している。
【0027】
図6に示すように、水酸化ナトリウム濃度を0mol/Lとした場合に対し、水酸化ナトリウム濃度を0.5mol/Lとした場合には、金属イオン濃度が大幅に増大することが分かる。この結果から、溶解除去剤のpHを増大させてキレート剤と併用することにより、モリブデン酸ジルコニウムを効率良く溶解除去できることが分かる。また、水酸化ナトリウム濃度を0.5mol/Lとした場合に対し、水酸化ナトリウム濃度を1.5mol/Lとした場合には、キレート剤が低濃度の範囲では金属イオン濃度がキレート剤のみを用いた場合よりも低いものの、キレート剤の濃度の増大と共に金属イオン濃度が増大することが分かる。この結果から、溶解除去剤のpHとキレート剤濃度とを所定範囲に制御することにより、モリブデン酸ジルコニウムを効率良く溶解除去できることが分かる。
【0028】
キレート剤としては、アルカリ性水溶液中でジルコニウム13とキレートを形成できるものであれば特に制限はなく、従来公知の各種キレート剤を用いることが可能である。キレート剤としては、エチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)、シュウ酸、クエン酸、イタコン酸、アコニット酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼラ
イン酸、フタル酸、イソフタル酸及びグリコール酸が挙げられる。これらのキレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのキレート剤の中でも、ジルコニウム13を効率良く溶解除去できる観点から、シュウ酸、エチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)が好ましい。
【0029】
アルカリ性水溶液としては、モリブデン12を溶解除去できるものであれば特に制限はなく、従来公知の各種アルカリ水溶液を用いることが可能である。アルカリ水溶液としては、例えば、アルカリ金属水酸化物の水溶液が挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム及び水酸化セシウムなどが挙げられる。これらのアルカリ金属水酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリ金属水酸化物の中でも、モリブデン12を効率良く溶解除去できる観点から、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム及び水酸化セシウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0030】
溶解除去剤のpHとしては、モリブデン酸ジルコニウムを効率良く溶解除去する観点から、4以上が好ましく、2以上がより好ましく、また11以下が好ましい。
【0031】
溶解除去剤のキレート剤の濃度としては、モリブデン酸ジルコニウムを効率良く溶解除去する観点から、0.5mol/L以上が好ましく、また2.0mol/Lが好ましい。
【0032】
溶解除去剤のキレート剤の含有量としては、アルカリ金属酸化物の水酸基の当量に対して、キレート剤のカルボキシル基の当量が1:1〜1:4の範囲がより好ましい。
【0033】
本実施の形態に係る放射性物質の除去方法においては、溶解除去剤が、更に電位調整剤を含有することが好ましい。この電位調整剤を含有することにより、モリブデン酸ジルコニウムを更に効率良く溶解除去することが可能となる。
【0034】
図7は、モリブデンとジルコニウムの電位pHの概念図である。
図7に示すように、溶解除去剤に還元性を有するシュウ酸などのキレート剤を添加すると、溶解除去剤の水素電極基準の酸化還元電位は、モリブデン酸ジルコニウムのモリブデンがMoO
2となる不溶解領域A1となる。そこで、過酸化水素などの溶解除去剤の酸化還元電位を向上する電位調整剤を添加することにより、溶解除去剤の酸化還元電位は、モリブデンの不溶解領域A1外に向上するので、モリブデン酸ジルコニウムを更に効率良く溶解除去することが可能となる。
【0035】
電位調整剤としては、過酸化水素水などの過酸化物類、ペルオキシ酢酸などのペルオキソ酸、ペルオキソ酸塩、酸素ガス、オゾン、二酸化炭素、過塩素酸、過塩素酸塩、次亜塩素酸、及び次亜塩素酸塩などを用いることができる。これらの電位調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、モリブデン酸ジルコニウムを効率良く溶解除去する観点から、過酸化水素水が好ましい。
【0036】
溶解除去剤の電位調整剤の濃度としては、モリブデン酸ジルコニウムを効率良く溶解除去する観点から、0.1質量%以上が好ましく、また10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0037】
次に、本実施の形態に係る放射性物質の除去方法について詳細に説明する。
図8は、本実施の形態に係る放射性物質の除去方法のフロー図である。
図8に示すように、本実施の形態に係る放射性物質の除去方法では、まず、溶解除去剤を調製した後(ステップST11)、調製した溶解除去剤を用いて洗浄対象となる対称設備を洗浄する(ステップST12)。次に、洗浄後の放射性物質を含有する溶解除去剤を廃液として回収した後(ステップST13)、廃液から放射性物質を分離する(ステップST14)。ここでは、廃液から分離した放射性物質は放射性廃棄物として廃棄される。次に、放射性物質を分離した廃液を精製して廃液中に溶存する微量の放射性物質を放射性廃棄物として廃棄する(ステップST15)。ここでの廃液の精製には、再処理設備の濃縮設備及び中和処理設備を用いることが可能である。精製した溶解除去剤は、再び洗浄対象設備の溶解除去剤として用いられる。廃液の精製には、既存の設備を用いてもよく、専用設備を設けてもよい。
【0038】
図9は、洗浄対象設備の一例を示す模式図である。この洗浄対象設備100は、コンクリート製の密閉可能な構造を有するセル101内に複数の原子燃料再処理設備の溶解槽を有する。このセル101には、セル101内に洗浄液を供給する供給配管102とセル内の洗浄液を排出する排出配管103が設けられている。また、セル101には、セル101内に蒸気を供給する蒸気配管L1と、セル101内に空気を供給する空気配管L2が設けられている。蒸気配管L1には、蒸気の供給量を調整する調整バルブV1が設けられ、空気配管L2には、空気の供給量を調整する調整バルブV2が設けられている。本実施の形態に係る放射性物質の除去方法においては、単一の溶解除去剤を用いてモリブデン酸ジルコニウムを溶解除去できるので、セル101内に溶解除去剤を供給してセル101内を溶解除去剤で満たした後、セル101から溶解除去剤を排出するだけでセル101を洗浄することが可能となる。また、単一の溶解除去剤でセル101内を洗浄することができるので、供給配管102だけでなく、再処理設備固有の移送機器のユーティリティである蒸気配管L1及び空気配管L2からセル101内に溶解除去剤を供給することによっても、効率良くセル101内を洗浄することが可能となる。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態によれば、キレート剤を含有するアルカリ性水溶液をモリブデン酸ジルコニウムと接触させるので、アルカリ性水溶液によってモリブデンを溶解できるだけでなく、キレート剤によってジルコニウムも溶解できる。これにより、放射性物質の除去方法は、モリブデン酸ジルコニウムに巻き込まれた放射性物質を速やかに溶解除去することが可能となるので、モリブデン酸ジルコニウムを主成分とした放射性物質を効率良く除去することが可能となる。
【0040】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、以下においては、上述した第1の実施の形態との相違点を中心に説明し、説明の重複を避ける。また、上述した第1の実施の形態と共通する構成要素については説明を省略する。
【0041】
本発明の第2の実施の形態に係る放射性物質の除去方法は、放射性物質を含有するモリブデン酸ジルコニウムに、モリブデン酸ジルコニウムを溶解させる溶解除去剤としてのナノバブルを含有する酸性水溶液を接触させてモリブデン酸ジルコニウムと共に放射性物質を溶解除去するものである。
【0042】
図10は、本発明の第2の実施の形態に係る放射性物質の除去方法の概念図である。
図10に示すように、本実施の形態に係る放射性物質の除去方法においては、ナノバブルを含有する酸性水溶液をモリブデン酸ジルコニウム1に接触させるので、酸性水溶液によってモリブデン酸ジルコニウム1のジルコニウム13が溶解してモリブデン酸ジルコニウム1が脆化する。残存したモリブデン酸ジルコニウム1のモリブデン12は、負(−)に帯電するので、酸性溶液中で正(+)に帯電したナノバブル16との静電的な相互作用によって脆化したモリブデン酸ジルコニウム1から剥離して溶解する。この結果、モリブデン酸ジルコニウム1と共に、モリブデン酸ジルコニウム1に巻き込まれた放射性物質14を効率良く溶解除去することが可能となる。
【0043】
図11は、溶解除去剤のpHとナノバブルのゼータ電位との関係を示す図である。
図11に示すように、ナノバブルは、溶解除去剤のpHがマイナスの領域では、負に帯電するのに対して、pHが4以下の領域では正に帯電する。したがって、本実施の形態では、溶解除去剤を酸性水溶液とすることにより、ナノバブルが正に帯電して上述した作用効果によってモリブデン12を効率良く溶解除去することが可能となる。
【0044】
酸性水溶液としては、ジルコニウム13を溶解除去できるものであれば特に制限はなく、従来公知の各種酸性水溶液を用いることが可能である。酸性水溶液としては、例えば、硫酸、硝酸、及び塩酸などの酸の水溶液が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸の中でも、硝酸が好ましい。
【0045】
ナノバブルの発生方法としては、特に制限はなく、例えば、加圧溶解方式、二相流旋回放式及び散基式などが挙げられる。
【0046】
ナノバブルの気泡径としては、モリブデン12を溶解除去できる範囲であれば特に制限はない。ナノバブルの気泡径としては、モリブデン12を効率良く溶解する観点から、1μm未満が好ましく、10nm以上500nm以下がより好ましく、100nm以上200nm以下の範囲が更に好ましい。
【0047】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、以下においては、上述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態との相違点を中心に説明し、説明の重複を避ける。また、上述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態と共通する構成要素については説明を省略する。
【0048】
本発明の第3の実施の形態に係る放射性物質の除去方法は、放射性物質を含有するモリブデン酸ジルコニウムに、モリブデン酸ジルコニウムを溶解させる溶解除去剤としてのカチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤を含有する酸性水溶液又はアニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1種を含有するアルカリ性水溶液を接触させてモリブデン酸ジルコニウムと共に放射性物質を溶解除去するものである。
【0049】
図12A及び
図12Bは、本発明の第3の実施の形態に係る放射性物質の除去方法の概念図である。
図12Aに示すように、本実施の形態に係る放射性物質の除去方法においては、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤を含有する酸性水溶液をモリブデン酸ジルコニウム1に接触させるので、酸性水溶液によってモリブデン酸ジルコニウム1のジルコニウム13が溶解してモリブデン酸ジルコニウム1が脆化する。残存したモリブデン酸ジルコニウム1のモリブデン12は、負(−)に帯電するので、酸性溶液中で正(+)に帯電したカチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤17との静電的な相互作用によって脆化したモリブデン酸ジルコニウム1から剥離して溶解する。この結果、モリブデン酸ジルコニウム1と共に、モリブデン酸ジルコニウム1に巻き込まれた放射性物質14を効率良く溶解除去することが可能となる。アルカリ性水溶液としては、上述した第1の実施の形態と同様のものを用いることができる。
【0050】
また、
図12Bに示すように、本実施の形態に係る放射性物質の除去方法においては、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤を含有する酸性水溶液をモリブデン酸ジルコニウム1に接触させるので、酸性水溶液によってモリブデン酸ジルコニウム1のモリブデン12が溶解してモリブデン酸ジルコニウム1が脆化する。残存したモリブデン酸ジルコニウム1のジルコニウム13は、正(+)に帯電するので、アルカリ性溶液中で負(−)に帯電したアニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤18との静電的な相互作用によって脆化したモリブデン酸ジルコニウム1から剥離して溶解する。この結果、モリブデン酸ジルコニウム1と共に、モリブデン酸ジルコニウム1に巻き込まれた放射性物質14を効率良く溶解除去することが可能となる。酸性水溶液としては、上述した第2の実施の形態と同様のものを用いることができる。
【0051】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩及び下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【化1】
(式(1)中、R
1〜R
4は、ステアリル基、パルミチル基、メチル基、又はブチル基などのアルキル基を表す。Xは、塩素又は臭素などのハロゲンを表す。)
【0052】
上記式(1)におけるR
1〜R
4としては、廃液処理の観点から、炭素数が1以上25以下のアルキル基が好ましく、炭素数が1以上10以下のアルキル基がより好ましく、炭素数が1以上5以下のアルキル基が更に好ましい。
【0053】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アシル化アミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、N−アシル−N−メチルタウリン塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、アルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、脂肪酸石ケン、アルキルリン酸エステル塩、N−ラウロイルグルタミン酸塩、N−パルミトイルグルタミン酸塩、N−ラウロイル−N−エチルグリシン塩、N−ラウロイルサルコシン塩、及びN−ミリストイル−β−アラニン塩などが挙げられる。
【0054】
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタインなどのアルキルベタイン系活性剤、アルキルアミドプロピルベタインなどのアミドベタイン系活性剤、スルホベタイン系活性剤、ヒドロキシスルホベタイン系活性剤、アミドスルホベタイン系活性剤、ホスホベタイン系活性剤、イミダゾリニウムベタイン系活性剤、アミノプロピオン酸系活性剤、及びアミノ酸系活性剤などが挙げられる。
【0055】
界面活性剤の濃度としては、例えば、溶解除去剤に対して、0.1質量%以上が好ましい。
【0056】
酸性水溶液のpHとしては、7未満が好ましく、4以下がより好ましい。
【0057】
アルカリ性水溶液のpHとしては、7超えが好ましく、10以上がより好ましい。