(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<導電性高分子分散液>
本発明の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子(A1)及びポリアニオン(A2)を含む導電性複合体(A)と多官能ビニル系化合物(B)とポリビニルアルコール(C)と分散媒(D)とを含有する。
本発明の導電性高分子分散液は、後述する、フィルム基材に塗布後に延伸する工程を有する導電シートの製造方法に使用されるものである。
【0013】
(導電性複合体(A))
[π共役系導電性高分子(A1)]
π共役系導電性高分子(A1)としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0014】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子(A1)の中でも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
前記π共役系導電性高分子(A1)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
[ポリアニオン(A2)]
ポリアニオン(A2)とは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子(A1)の導電性を向上させる。
ポリアニオン(A2)のアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオン(A2)の具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオン(A2)のなかでも、導電性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオン(A2)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオン(A2)の質量平均分子量は2万〜100万であることが好ましく、10万〜50万であることがより好ましい。
【0016】
導電性複合体(A)中の、ポリアニオン(A2)の含有割合は、π共役系導電性高分子(A1)100質量部に対して1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、10〜700質量部であることがより好ましく、100〜500質量部の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオン(A2)の含有割合が前記下限値未満であると、π共役系導電性高分子(A1)へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがあり、また、導電性複合体(A)の水分散性が低くなる。一方、ポリアニオン(A2)の含有量が前記上限値を超えると、π共役系導電性高分子(A1)の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0017】
ポリアニオン(A2)が、π共役系導電性高分子(A1)に配位することによって導電性複合体(A)を形成する。
ただし、ポリアニオン(A2)においては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子(A1)にドープせず、余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体(A)は水分散性を有する。
【0018】
(多官能ビニル系化合物(B))
本発明における多官能ビニル系化合物(B)は、上記式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物である。該多官能ビニル系化合物(B)は、ビニル基を2個以上有するから、塗膜形成時には架橋するため、塗膜の強度を向上させることができる。多官能ビニル系化合物(B)のビニル基が3個以上であれば、三次元網目構造を形成でき、塗膜の強度をより向上させることができる。
また、多官能ビニル系化合物(B)は導電性を向上させる機能も有する。
多官能ビニル系化合物(B)は、容易に得られる点では、分子量が250以上であることが好ましい。
【0019】
式(1)中、R
1は各々独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。R
aは各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基である。L
aは2価の連結基であり、Z
aはq+1価の有機基であり、qは1〜6の整数である。
【0020】
R
1は好ましくは水素原子又はメチル基であり、より好ましくは水素原子である。
R
aは水素原子又はアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素原子又は無置換のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子である。
R
aがアルキル基である場合、その炭素数は1〜8であることが好ましい。当該アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよい。当該アルキル基として、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、2−エチルへキシルが挙げられる。
R
aがアリール基である場合、その炭素数は6〜14であることが好ましい。当該アリール基として、例えば、フェニル、ナフチルが挙げられる。
R
aが複素環基である場合、当該複素環は芳香族複素環でも非芳香族複素環でもよい。また、単環でも縮合環でもよい。好ましくは環構成原子に酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含むことが好ましく、5員環又は6員環であることが好ましい。当該複素環として、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、トリアジン環、インドール環、チオフェン環、フラン環、ピペラジン環、ピペリジン環、モルホリン環が挙げられる。
【0021】
L
aは、アルキレン基、エチニレン基、アリーレン基、2価の複素環基、−O−、−S−、−N(R
a)−、−C(=O)−、−SO−、−SO
2−又はこれらを組み合わせた基(例えば、−アルキレン−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−C(=O)−N(R
a)−、−N(R
a)−C(=O)−、−SO
2−N(R
a)−、−N(R
a)−SO
2−など)が好ましく、−O−、アルキレン基又はこれらの基を組み合わせた基を少なくとも部分構造に有する連結基がより好ましく、−O−、アルキレン基又はこれらの基を組み合わせた基のみからなる場合がより好ましい。
これらの基は置換基を有していてもよく、該置換基としては、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基が好ましい。
【0022】
上記のアルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、へプチレン、オクチレン、ノニレンが挙げられる。
上記のアリーレン基としては、フェニレン、ナフチレンが挙げられる。
【0023】
上記の2価の複素環基における複素環としては、芳香族複素環であっても非芳香族複素環であってもよく、単環であっても縮合環であってもよい。好ましくは、環構成原子が酸素原子、硫黄原子または窒素原子のいずれかのヘテロ原子を含むものが好ましく、また5員環もしくは6員環の複素環が好ましい。このような複素環として具体的には、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環、シンノリン環、フタラジン環、キノキサリン環、ピロール環、インドール環、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピラゾール環、イミダゾール環、ベンズイミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、ベンズオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、イソチアゾール環、ベンズイソチアゾール環、チアジアゾール環、イソオキサゾール環、ベンズイソオキサゾール環、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、イミダゾリジン環、チアゾリン環などが挙げられる。なお、上記具体例では、2つの結合位置を省略した複素環の形で例示したが、2つの結合位置は限定されるものではなく、例えばピリジン環であれば、2〜6位のいずれか2つであり、例えば、ピリジン−2,4−ジイル、ピリジン−2,6−ジイルとなる。3位、4位で置換することが可能である。
【0024】
2価の複素環基のうち、2価の芳香族複素環基が好ましく、2価の芳香族複素環基の複素環としては、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、ベンズイミダゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、イソチアゾール環、ベンズイソチアゾール環、チアジアゾール環が好ましい。これらの複素環は置換基を有していてもよく、置換基の例としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0025】
Z
aはq+1価の脂肪族基が好ましく、q+1価のアルキル基がより好ましい。Z
aの炭素数は1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜4がさらに好ましく、1が特に好ましい。
【0026】
式(1)で表される化合物は、下記式(1−1)で表される化合物がより好ましい。
【0028】
式(1−1)中、R
1は水素原子又はメチル基である。L
1は2価の連結基である。L
2は、少なくとも2つの炭素原子を介して連結する、炭素数2〜4の直鎖又は分岐のアルキレン基である。kは2又は3であり、x,y及びzは0〜6の整数である。
【0029】
L
1における2価の連結基としては、前記L
aにおける2価の連結基が好ましい。
L
1がアルキレン基であるとき、その炭素数は1〜6であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
L
1がアリーレン基であるとき、その炭素数が、6〜14であることが好ましく、6〜10であることがより好ましく、6であることが特に好ましい。当該アリーレン基は置換基を有していてもよく、置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
L
1はアルキレン基であることが好ましい。
【0030】
式(1−1)において、kは2又は3である。複数のkは同一であることが好ましい。また、C
kH
2kは直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。
【0031】
式(1−1)において、x,y及びzは0〜5の整数であることが好ましく、0〜3の整数であることがより好ましい。x+y+zの総数は0〜18の整数であることが好ましく、より好ましくは0〜15、さらに好ましくは0〜9である。
【0032】
式(1−1)で表される化合物のなかでも、下記式(1−1−a)で表される化合物、すなわち、N−[トリス(3−アクリルアミドプロポキシメチル)メチル]アクリルアミドは入手容易で、好適に使用される。
【0034】
前記式(1)で表される多官能ビニル系化合物は、例えば、下記スキーム1またはスキーム2に従って製造することができる。
【0036】
スキーム1
(第一工程)アクリロニトリルとトリスヒドロキシメチルアミノメタンとの反応によりポリシアノ化合物を得る工程。この工程の反応は、3〜60℃で、2〜8時間行なうことが好ましい。
(第二工程)ポリシアノ化合物を、触媒存在下で水素と反応させ、還元反応によりポリアミン化合物を得る工程。この工程の反応は、20〜60℃で、5〜16時間行なうことが好ましい。
(第三工程)ポリアミン化合物とアクリル酸クロリド又はメタクリル酸クロリドとのアシル化反応により多官能アクリルアミド化合物を得る工程。この工程の反応は、3〜25℃で、1〜5時間行なうことが好ましい。なお、アシル化剤は、酸クロリドに換えてジアクリル酸無水物またはジメタクリル酸無水物を用いてもよい。なお、アシル化工程で、アクリル酸クロリドとメタクリル酸クロリドの両方を用いることで、最終生成物として同一分子内にアクリルアミド基とメタクリルアミド基とを有する化合物を得ることができる。
【0038】
スキーム2
(第一工程)アミノアルコールの窒素原子に、ベンジル基(上記スキームのBz)、ベンジルオキシカルボニル基等による保護基導入反応により窒素保護アミノアルコール化合物を得る工程。この工程の反応は、3〜25℃で、3〜5時間行なうことが好ましい。
(第二工程)窒素保護アミノアルコール化合物のOH基に、メタンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基等の脱離基を導入し、スルホニル化合物を得る工程。この工程の反応は、3〜25℃で、2〜5時間行なうことが好ましい。
(第三工程)スルホニル化合物とトリスヒドロキシメチルニトロメタンとのS
N2反応により、アミノアルコール付加化合物を得る工程。この工程の反応は、3〜70℃で、5〜10時間行なうことが好ましい。
(第四工程)アミノアルコール付加化合物を、触媒存在下で水素と反応させ、水素添加反応によりポリアミン化合物を得る工程。この工程の反応は、20〜60℃で、5〜16時間行なうことが好ましい。
(第五工程)ポリアミン化合物とアクリル酸クロリド又はメタクリル酸クロリドとのアシル化反応により多官能アクリルアミド化合物を得る工程。この工程の反応は、3〜25℃で、1〜5時間行なうことが好ましい。なお、アシル化剤は、酸クロリドに換えてジアクリル酸無水物又はジメタクリル酸無水物を用いてもよい。なお、アシル化工程で、アクリル酸クロリドとメタクリル酸クロリドの両方を用いることで、最終生成物として同一分子内にアクリルアミド基とメタクリルアミド基とを有する化合物を得ることができる。
【0039】
上記工程により得られた化合物は、反応生成液から常法により精製できる。例えば、有機溶媒を用いた分液抽出、貧溶媒を用いた晶析、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーなどによって精製できる。
【0040】
式(2)中、R
2は各々独立して水素原子又はメチル基を示す。L
bは炭素数1〜8のアルキレン基を示す。
l及びpは0又は1を示す。jは0〜8の整数を示す。
R
2は好ましくは水素原子である。L
bは直鎖であっても分岐を有してもよい。L
bの炭素数は2〜5であることが好ましく、3〜4であることがさらに好ましい。
l及びpは1であることが好ましい。jは2〜6の整数であることが好ましく、より好ましくは2〜4の整数である。
【0041】
式(2)で表される化合物のなかでも、下記式(2−1)で表される化合物は入手容易で有用で、好適に使用される。
【0043】
式(2)で表される多官能ビニル系化合物は、例えば、下記式(2−2)で表される化合物に対して塩基を作用させ、当該化合物中のX
1と、R
2が連結している炭素原子に結合する水素原子との脱離反応によって、末端に炭素−炭素二重結合を形成させることで得ることができる。
【0045】
式(2−2)中、R
2、L
b、l、j、pはそれぞれ、式(2)におけるR
2、L
b、l、j、pと同じである。X
1はハロゲン原子であり、好ましくは塩素原子である。
【0046】
前記式(2)で表される多官能ビニル系化合物は、例えば、アミン化合物を出発原料として下記合成方法1〜3のように常法により合成することができる。
・合成方法1
アミン化合物と酸ハライド化合物とを、塩基存在下で反応させる方法。
・合成方法2
アミン化合物カルボン酸化合物及び縮合剤を、塩基存在下で反応させる方法。
・合成方法3
アミン化合物とエステル化合物とを加熱し、エステル・アミド交換反応により合成する方法。
これらの反応は、新実験化学講座14 有機化合物の合成と反応(V)11.6 アミノ基の保護 p.2555〜2569に記載されている。また、出発原料とするアミン化合物として市販品を用いてもよい。
【0047】
式(3)中、R
3は各々独立して水素原子又はメチル基である。tは1〜8の整数であり、uは0〜5の整数である。
R
3は好ましくは水素原子である。また、tは1〜5の整数であることが好ましく、2〜4の整数であることがより好ましい。C
tH
2tで表される炭素鎖は直鎖でも分岐鎖でもよいが、直鎖であることがより好ましい。
uは0〜3の整数であることが好ましく、より好ましくは0〜2の整数であり、特に好ましくは0又は1である。
【0048】
式(3)で表される化合物は、下記式(3−1)又は下記式(3−2)で表される化合物が好ましい。さらに、式(3−1)で表される化合物は下記式(3−1−a)で表される化合物がより好ましく、式(3−2)で表される化合物は下記式(3−2−a)で表される化合物がより好ましい。
【0051】
式(3)で表される多官能ビニル系化合物は、上述の式(1)又は式(2)の多官能ビニル系化合物の合成方法に準じて合成することができる。
【0052】
式(4)中、Z
bは、ヒドロキシ基を3個以上有するポリオールのヒドロキシ基から水素原子をv個除いた残基であり、vは3〜6の整数である。R
4は各々独立して水素原子又はメチル基である。L
cは炭素数1〜8のアルキレン基である。
【0053】
前記ポリオールとしては、ヒドロキシ基を3〜6個有する多価アルコールが好ましく、ヒドロキシ基を3〜5個有する多価アルコールがより好ましく、ヒドロキシ基を3〜4個有する多価アルコールがさらに好ましい。当該ポリオールの炭素数は3〜12であることが好ましく、3〜10であることがより好ましく、3〜6であることが特に好ましい。また、当該ポリオールは、2分子以上の多価アルコール化合物が分子間縮合(脱水)して形成される多価アルコール縮合体化合物であってもよい。
当該ポリオールの具体例としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、マンニトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。なかでも、グリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0054】
vは好ましくは3〜5の整数であり、より好ましくは3〜4の整数である。
R
4は、好ましくは水素原子である。複数のR
4は同一であることが好ましい。
L
cは直鎖であっても分岐していてもよい。L
cは、炭素数2〜5のアルキレン基であることが好ましく、炭素数3〜4のアルキレン基であることがより好ましい。
【0055】
式(4)で表される化合物は、下記式(4−1)で表される化合物又は下記(4−2)で表される化合物が好ましい。
【0057】
式(4)で表される多官能ビニル系化合物は、上述の式(1)又は式(2)の多官能ビニル系化合物の合成方法に準じて合成することができる。
【0058】
多官能ビニル系化合物(B)の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して10〜10000質量部であることが好ましく、100〜2000質量部であることがより好ましい。多官能ビニル系化合物(B)の含有割合が前記範囲であると、導電性及び膜強度の両方を充分に向上させることができる。
【0059】
多官能ビニル系化合物(B)は水溶性が高いことが好ましく、具体的には、25℃の蒸留水に1質量%以上溶解することが好ましく、5質量%以上溶解することがより好ましく、10質量%以上溶解することが好ましい。
【0060】
(ポリビニルアルコール(C))
ポリビニルアルコール(C)は、該導電性高分子分散液から形成した塗膜の延伸性を向上させる機能を有する。
ポリビニルアルコール(C)の重合度は200〜5000であることが好ましく、500〜2500であることがより好ましい。ポリビニルアルコール(C)の重合度が前記範囲内であれば、塗膜の延伸性を充分に向上させることができる。
ポリビニルアルコール(C)のけん化度は、70〜100%であることが好ましい。ポリビニルアルコール(C)のけん化度が前記下限値以上であれば、水に簡単に溶解することができる。
ポリビニルアルコール(C)の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して10〜10000質量部であることが好ましく、50〜2000質量部であることがより好ましい。ポリビニルアルコール(C)の含有割合が前記下限値以上であれば、塗工フィルムの延伸性をより高くでき、前記上限値以下であれば、導電性の低下を抑制できる。
【0061】
(分散媒(D))
分散媒(D)は、水系分散媒又は有機溶剤系分散媒のいずれであってもよいが、前記多官能ビニル系化合物(B)は水溶性を有するため、水系分散媒とすることが好ましい。
水系分散媒は、少なくとも一部が水であり、具体的には、水、又は、水と水溶性有機溶媒との混合物である。水系分散媒における水の含有割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
水溶性有機溶媒としては、溶解度パラメータが10以上の溶剤が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等の窒素原子含有極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル溶媒、ジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル溶媒、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。このうち、安定性の観点から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つが好ましい。
【0062】
(単官能ビニル系化合物(E))
本発明の導電性高分子分散液は、塗膜の形成性を向上させるために、単官能ビニル系化合物(E)を含有してもよい。本発明における単官能ビニル系化合物(E)は、ビニル基を1つ有する化合物である。
単官能ビニル系化合物(E)としては、(メタ)アクリルアミド系化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系化合物、スチレン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、前記多官能ビニル系化合物(B)との反応性の点から、(メタ)アクリルアミド系化合物が好ましく、式(5)で表される化合物がより好ましい。
【0064】
式(5)中、R
10は水素原子又はメチル基であり、R
11は水素原子、メチル基又はエチル基であり、R
12は置換又は無置換のアルキル基である。R
11とR
12は互いに結合して5〜8員環を形成してもよく、当該5〜8員環はさらに−O−,−S−及び−NR
13−から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。R
13は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0065】
式(5)で表される(メタ)アクリルアミド系化合物の具体例としては、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシ基を有するものが好ましく、特に、2−ヒドロキシエチルアクリルアミドがより好ましい。2−ヒドロキシエチルアクリルアミドを用いると、導電層の導電性をより高くしながらも、膜強度を向上させることができる。
【0066】
本発明の導電性高分子分散液が単官能ビニル系化合物(E)を含有する場合、単官能ビニル系化合物(E)と多官能ビニル系化合物(B)との質量比率は、(B):(E)=1:99〜90:10であることが好ましく、10:90〜80:20であることがより好ましい。
単官能ビニル系化合物(E)の含有割合は、導電性複合体(A)100質量部に対して10〜10000質量部であることが好ましく、100〜2000質量部であることがより好ましい。単官能ビニル系化合物(E)の含有割合が前記下限値以上であれば、導電層をより形成しやすくなる。しかし、単官能ビニル系化合物(E)の含有割合が前記上限値を超えると、導電層の耐水性が低下するおそれがある。
【0067】
(重合開始剤(F))
重合開始剤(F)は、加熱又は光照射によってラジカルを生成して、ビニル系化合物をラジカル重合させることが可能なラジカル重合開始剤である。
重合開始剤(F)としては、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤であってもよいが、前記多官能ビニル系化合物(B)の重合に対してはアゾ系重合開始剤が適しており、特に水溶性アゾ系重合開始剤が好ましい。
水溶性アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]n−ハイドレート、2,2’−アゾビス[2−メチルプロピオンアミド]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド等が挙げられる。これら水溶性アゾ系重合開始剤の中でも、水溶性及び反応性の点から、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]が好ましい。
【0068】
過酸化物系重合開始剤としては、有機過酸化物、過硫酸塩過が挙げられる。
有機過酸化物としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−ハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート等が挙げられる。
過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。
【0069】
光ラジカル重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(Irgacure651)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(Irgacure184)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(Darocure1173)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(Irgacure2959)、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル-プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(Irgacure127)、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(Irgacure907)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(Irgacure369)等のアルキルフェノン系、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(LucirinTPO)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(Irgacure819)等のアシルフォスフィンオキサイド系などが挙げられるが、水溶性及び利便性からIrgacure2959や、Irgacure819の水分散体であるIrgacure819DWが好ましい。
【0070】
重合開始剤(F)の含有割合は、多官能ビニル系化合物(B)と単官能ビニル系化合物(E)の合計を100質量部とした際の0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましい。重合開始剤(F)の含有割合が前記下限値以上であれば、膜強度を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、重合開始に寄与しない無駄な重合開始剤の量を減らすことができる。
【0071】
(添加剤)
導電性高分子分散液には、公知の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、ポリアニオン(A2)、多官能ビニル系化合物(B)、ポリビニルアルコール(C)、分散媒(D)、単官能ビニル系化合物(E)及び重合開始剤(F)以外の化合物からなる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよいが、これらは導電性低下を招くことがあるから、添加しないことが好ましい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンレジン等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0072】
(導電性高分子分散液の製造方法)
上記導電性高分子分散液は、例えば、下記方法で製造される。
まず、ポリアニオン(A2)と分散媒の存在下でπ共役系導電性高分子(A1)の前駆体モノマーを化学酸化重合して、π共役系導電性高分子(A1)がポリアニオン(A2)によって分散媒に可溶化した導電性高分子含有液を得る。その導電性高分子含有液に多官能ビニル系化合物(B)及びポリビニルアルコール(C)、必要に応じて、単官能ビニル系化合物(E)、重合開始剤(F)、その他添加物を添加して、導電性高分子分散液を得る。
また、導電性高分子含有液は市販のものを使用しても構わない。
【0073】
<導電シート>
本発明における導電シートは、フィルム基材と、該フィルム基材の少なくとも一方の面に、上記導電性高分子分散液が塗工され、加熱乾燥及び延伸され、硬化されて形成された導電層とを備える。
【0074】
(フィルム基材)
フィルム基材としては、プラスチックフィルムを用いることができる。
プラスチックフィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらの樹脂材料の中でも、透明性、可撓性、汚染防止性及び強度等の点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
また、前記の樹脂材料は非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
プラスチックフィルムは未延伸のフィルムでもよいし、一軸延伸のフィルムでもよいし、二軸延伸のフィルムでもよい。機械的物性に優れる点では、プラスチックフィルムは二軸延伸のフィルムが好ましい。
【0075】
(導電層)
導電層は、少なくとも、導電性複合体(A)と、多官能ビニル系化合物(B)が硬化した硬化物とを含有する。導電性高分子分散液が単官能ビニル系化合物(E)を含有する場合には、導電層は、単官能ビニル系化合物の硬化物、あるいは、多官能ビニル系化合物(B)と単官能ビニル系化合物(E)とが共重合して硬化した硬化物を含有する。導電性高分子分散液が重合開始剤(F)を含有する場合には、導電層は、重合開始剤(F)の残渣を含有し、導電性高分子分散液が添加剤を含有する場合には、導電層は、添加剤を含有する。
ポリビニルアルコール(C)は、後述する乾燥延伸工程において、一部が分解して消失することがある。そのため、導電層は、添加したポリビニルアルコール(C)の全量が含まれないことがある。
導電層の厚さ(平均値)は、導電シートの用途に応じて、0.001〜500μmの範囲、好ましくは0.01〜1μmの範囲で適宜選択される。
【0076】
<導電シートの製造方法>
本発明の導電シートの製造方法は、塗工工程と乾燥延伸工程とを有する。また、本発明の導電シートの製造方法は、乾燥延伸工程の後、再加熱工程又は光照射工程を有してもよい。
【0077】
(塗工工程)
塗工工程は、前記導電性高分子分散液をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工して塗工フィルムを得る工程である。
導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方式、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0078】
(乾燥延伸工程)
乾燥延伸工程は、前記塗工フィルムを加熱して乾燥し、延伸する工程である。塗工によって形成された導電性高分子分散液の未硬化塗膜を乾燥させることにより、導電層を形成することができる。また、塗工フィルムを延伸させることにより、塗工面積を小さくしても大面積の導電シートを得ることができ、導電シートの生産性を向上させることができる。
乾燥延伸工程における塗工フィルムの加熱温度は、乾燥時間を短くする点では、50℃以上とすることが好ましい。しかし、塗工フィルムの加熱温度を150℃超とすると、延伸前に、多官能ビニル系化合物(B)が重合して硬化しやすくなるため、延伸性が低下する。そのため、塗工フィルムの加熱温度は150℃以下であることが好ましい。
塗工フィルムの加熱方法としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
【0079】
乾燥延伸工程では、塗工フィルムを乾燥させると同時に延伸させてもよいし、乾燥の後に延伸させてもよい。乾燥と同時に延伸、又は、乾燥後に延伸すれば、乾燥のために塗工フィルムに付与した熱を利用してフィルム基材を軟化させることができる。そのため、導電シートを得るためのエネルギーの効率を高めることができる。
延伸は一軸延伸でもよいし、二軸延伸でもよいが、フィルム基材として一軸延伸フィルムを用いた場合には、延伸されている方向とは垂直な方向に延伸することが好ましい。例えば、長手方向に沿って延伸された一軸延伸フィルムをフィルム基材として用いた場合には、幅方向に沿って延伸することが好ましい。
塗工フィルムの延伸倍率は2〜5倍にすることが好ましい。延伸倍率を前記下限値以上にすれば、導電シートの生産性をより高くでき、前記上限値以下であれば、フィルムの破断を防止できる。
【0080】
(再加熱工程)
熱によりラジカルを生成する重合開始剤(F)を含有する導電性高分子分散液を用いた場合には、乾燥延伸工程後に再加熱工程を有してもよい。
再加熱工程によって、多官能ビニル系化合物(B)を充分に硬化させることができ、膜強度を充分に高めることができる。
【0081】
フィルム基材として非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した場合には、再加熱工程において、延伸シートを200℃以上に加熱し、その後、ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度未満の温度まで冷却する冷却工程を有することが好ましい。
200℃以上に加熱すると、フィルム基材を構成する非晶性ポリエチレンテレフタレートの少なくとも一部が融解し始める。その融解後、ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度未満の温度まで冷却した際には、融解した一部の非晶性ポリエチレンテレフタレートが結晶化すると共に固化する。これにより、フィルム基材を結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムにすることができる。結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムからなるフィルム基材は、引張強度等の機械的物性に優れる。
【0082】
(光照射工程)
光によりラジカルを生成する重合開始剤(F)を含有する導電性高分子分散液を用いた場合には、乾燥延伸工程後に光照射工程を有することが好ましい。光照射によって、多官能ビニル系化合物(B)を充分に硬化させることができ、膜強度を充分に高めることができる。
光照射においては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源から紫外光を照射する方法を採用できる。
紫外光照射における照度は100mW/cm
2以上が好ましい。照度が100mW/cm
2未満であると、多官能ビニル系化合物(B)が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm
2以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm
2未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本発明における照度、積算光量は、トプコン社製UVR−T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD−T36、測定波長範囲;300〜390nm、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0083】
光照射工程を有する場合でも、フィルム基材として非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した場合には、延伸シートを200℃以上に加熱し、その後、ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度未満の温度まで冷却してもよい。すなわち、フィルム基材を結晶化させてもよい。
【0084】
(作用効果)
本発明では、導電性高分子分散液にポリビニルアルコール(C)を含有させているため、導電性高分子分散液の未硬化塗膜の延伸性を向上させることができる。従来、塗膜中にポリビニルアルコール(C)を含有させると、導電層の導電性が下がる傾向にあったが、多官能ビニル系化合物(B)を用いる本発明では、導電層の導電性を高くすることができる。
また、従来、延伸工程を経て形成された導電層は欠陥が生じて導電性が低下することがあったが、多官能ビニル系化合物(B)及びポリビニルアルコール(C)を併用した本発明においては、導電層に欠陥が生じにくい。この点からも、導電性を高くすることができる。
また、多官能ビニル系化合物(B)を含む導電性高分子分散液は、導電性を損ねずに、膜強度(特に耐水性)に優れた導電層を容易に形成できる。
さらに、前記多官能ビニル系化合物(B)は水溶性の化合物であり、水と分離しにくいため、容易に水系化できる。有機溶剤を含まない又は有機溶剤の含有量が少量の水系分散液は、有機溶剤を使用しにくい環境下でも使用できる。
【0085】
また、上記の工程を有する導電シートの製造方法では、押出成形によりフィルム基材を作製し、そのフィルム基材を巻き取ることなく走行させながら前記導電性高分子分散液を連続塗工し、該連続塗工に続いて加熱乾燥し、延伸して、連続的に導電シートを製造することができる。特に、分散媒(D)を水系とした場合には、前記の連続的な導電シートの製造を適用しやすい。
フィルム基材から導電シートを連続的に製造した場合には、導電シートの生産性をより高くできる。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸の複合体を含む導電性高分子含有液100g(ヘレウス社製クレビオスPH1000、固形分濃度1.2質量%)に、10質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA210、重合度1000)水溶液30g(固形分は3g)と、前記式(1−1−a)で表される多官能ビニル系化合物B1(和光純薬工業社製、40質量%水溶液)12.5g(固形分は5g)と、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド5gと、水溶性アゾ系重合開始剤である2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](和光純薬工業社製)0.5gとを添加して、導電性高分子分散液を調製した。
この導電性高分子分散液を、#20のバーコーターを用いて、非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルム(A−PETフィルム、ガラス転移温度72℃)の上に塗工し、70℃2分乾燥して、未硬化塗膜が形成された塗工フィルムを得た。この塗工フィルムを、フィルム二軸延伸装置(井本製作所製IMC−11A9)を用いて、130℃の温度で加熱しながら、2倍延伸した。これにより、導電層を有する導電シートを得た。
【0087】
(実施例2)
2−ヒドロキシエチルアクリルアミド5gの代わりにエチレングリコール5gを添加した以外は実施例1と同様に導電性高分子分散液を調製し、その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0088】
(実施例3)
10質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA210、重合度1000)水溶液30gの代わりに10質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA205、重合度500)水溶液30g(固形分は3g)を添加した以外は実施例1と同様に導電性高分子分散液を調製し、その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0089】
(実施例4)
10質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA210、重合度1000)水溶液30gの代わりに10質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA224、重合度2400)水溶液30g(固形分は3g)を添加した以外は実施例1と同様に導電性高分子分散液を調製し、その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0090】
(実施例5)
10質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA210、重合度1000)水溶液の添加量を10g(固形分は1g)に変更した以外は実施例1と同様に導電性高分子分散液を調製し、その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0091】
(実施例6)
10質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA210、重合度1000)水溶液の添加量を50g(固形分は5g)に変更した以外は実施例1と同様に導電性高分子分散液を調製し、その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0092】
(比較例1)
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸の複合体を含む導電性高分子含有液100g(ヘレウス社製クレビオスPH1000、固形分濃度1.2質量%)に、エチレングリコール5gを添加して、導電性高分子分散液を調製した。その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0093】
(比較例2)
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸の複合体を含む導電性高分子含有液100g(ヘレウス社製クレビオスPH1000、固形分濃度1.2質量%)に、エチレングリコール5gとポリエチレングリコール2000(和光純薬工業社製、数平均分子量:約2000)5gを添加して、導電性高分子分散液を調製した。その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0094】
(比較例3)
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸の複合体を含む導電性高分子含有液100g(ヘレウス社製クレビオスPH1000、固形分濃度1.2質量%)に、エチレングリコール5gとポリエチレングリコール4000(和光純薬工業社製、数平均分子量:約4000)5gを添加して、導電性高分子分散液を調製した。その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0095】
(比較例4)
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸の複合体を含む導電性高分子含有液100g(ヘレウス社製クレビオスPH1000、固形分濃度1.2質量%)に、エチレングリコール5gと10質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA210、重合度1000)水溶液50gを添加して、導電性高分子分散液を調製した。その導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工した以外は実施例1と同様にして導電シートを得た。
【0096】
[評価]
塗工フィルムを加熱乾燥した後且つ延伸前の塗膜の表面抵抗値と、延伸後の塗膜の表面抵抗値を、三菱化学社製ロレスタMCP−T600を用い、JIS K7194に準じて測定した。測定結果を表1,2に示す。なお、表中の「over」は測定上限値を超えたことを意味する。
延伸前の表面抵抗値と延伸後の表面抵抗値との差が小さい場合には、延伸性に優れる。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
多官能ビニル系化合物B1及びポリビニルアルコールを含む導電性高分子分散液を使用した実施例1〜6では、塗膜の延伸性に優れ、延伸後に塗膜を硬化させて形成した導電層の導電性が高かった。
多官能ビニル系化合物B1を含まない導電性高分子分散液を使用した比較例1〜4では、塗膜の延伸性が低く、延伸後に塗膜を硬化させて形成した導電層の導電性が低かった。