(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を用いて説明する。
本実施形態では、回転打撃工具の一例であるオイルパルスドライバを例に挙げる。
[第1実施形態]
図1に示すように、実施形態のオイルパルスドライバ1は、充電式オイルパルスドライバであり、工具本体10と、工具本体10に電力を供給するバッテリパック30と、を備える。
【0023】
工具本体10は、当該オイルパルスドライバ1の動力源としてのモータ4(
図2参照)や減速機構5等が収容されたハウジング2と、ハウジング2の下部(
図1の下側)から突出するように形成されたグリップ部3と、を備える。
【0024】
ハウジング2内には、当該ハウジング2の後部側(
図1の左側)から前方側(
図1の右側)へ、モータ4と減速機構5とが、その順に収容されている。
ハウジング2において、減速機構5の前方側(
図1の右側)には、カップ状のユニットケース6が組み付けられており、このユニットケース6内に、打撃機構としてのオイルユニット7が収容されている。また、ユニットケース6には、筒状のカバー8が装着されている。
【0025】
オイルユニット7は、作動油が充填された筒状のケース9と、ケース9に軸支されると共に、ケース9の減速機構5側とは反対側から突出した出力軸としてのスピンドル11と、を備える。
【0026】
ケース9は、モータ4の回転力により減速機構5を介して回転される。オイルユニット7では、通常は、ケース9とスピンドル11とが一体的に回転するが、スピンドル11への負荷が所定値以上なると、ケース9とスピンドル11とが相対回転する。つまり、ケース9の回転に対してスピンドル11が遅れるようになる。スピンドル11への負荷とは、スピンドル11に対して外部から該スピンドル11の回転方向とは反対の方向に加わるトルクである。
【0027】
そして、オイルユニット7では、ケース9とスピンドル11とが相対回転すると、ケース9内の油室の圧力が高まり、ケース9は、その高まった油圧を利用して、スピンドル11に対して回転方向に打撃力を間欠的に与える。打撃力とは、瞬間的なトルクであり、インパクトとも呼ばれる。尚、このようなオイルユニット7は、例えば特開2006−289596号公報や、特開2005−219139号公報や、特開2002−59371号公報等に開示されている。
【0028】
減速機構5は、インターナルギヤが形成されたギヤハウジング16と、ギヤハウジング16内でモータ4の出力軸(以下、モータ出力軸という)12を中心にして公転可能な複数(この例では2つ)の遊星歯車17,17と、遊星歯車17,17を支持する筒状のキャリア18と、を備える。キャリア18は、モータ出力軸12と同軸で軸支されている。
【0029】
この減速機構5は、モータ出力軸12の回転を減速してキャリア18へ出力するように構成されている。そして、キャリア18の前端(即ち、オイルユニット7側の端部)と、オイルユニット7のケース9の後端(即ち、キャリア18側の端部)とが、連結されている。このため、ケース9は、モータ4の回転力により減速機構5を介して回転される。尚、モータ出力軸12とオイルユニット7は、同軸状となるように配置されている。
【0030】
オイルユニット7のケース9から突出したスピンドル11の先端には、ドライバビットやソケットビット等の、工具要素としての各種工具ビット(図示略)を装着するためのチャックスリーブ19が設けられている。
【0031】
オイルパルスドライバ1においては、モータ4の回転力により減速機構5を介してオイルユニット7のケース9が回転すると、ケース9と共に、スピンドル11も回転する。
このため、スピンドル11の先端に装着されたドライバビット等が回転して、ネジ締めが可能となる。そして、ネジ締めが進み、スピンドル11に対して外部から回転方向とは反対の方向に所定値以上のトルクが加わると、オイルユニット7のケース9がスピンドル11に対して回転方向に打撃力を間欠的に与えることとなる。この打撃力により、ネジを高トルクで締め付けることができる。
【0032】
一方、グリップ部3は、作業者が当該オイルパルスドライバ1を使用する際に把持する部分であり、その上方にトリガスイッチ21が設けられている。
トリガスイッチ21は、当該オイルパルスドライバ1の使用者により引き操作されるトリガ21aと、トリガ21aの引き操作の有無によってオン/オフすると共にトリガ21aの操作量(引き量)に応じて抵抗値が変化するように構成されたスイッチ本体部21bと、を備える。以下の説明において、トリガスイッチ21のオンとは、トリガ21aが引き操作されてスイッチ本体部21bがオンしている、ということであり、トリガスイッチ21のオフとは、トリガ21aの引き操作が無くスイッチ本体部21bがオフしている、ということである。
【0033】
また、トリガスイッチ21の上側(ハウジング2の下端側)には、モータ4の回転方向を正転方向と逆転方向との何れかに設定するために、使用者により操作される正逆切替スイッチ22が設けられている。正転方向は、本実施形態では、オイルパルスドライバ1の後端側から前方を見た状態で右回り方向であり、ネジを締め付ける方向である。逆転方向は、正転方向とは逆の回転方向であり、ネジを緩める方向である。
【0034】
ハウジング2の下部前方には、トリガ21aが引き操作されたときに当該オイルパルスドライバ1の前方を光で照射するための照明LED23が設けられている。
グリップ部3における前方下部には、当該オイルパルスドライバ1の動作モードを、高速モードと、中速モードと、低速モードとの、3つのうちの何れかに設定するために、使用者により操作される速度切替スイッチ24(
図2参照)が設けられている。モータ4の回転速度は、「低速モード→中速モード→高速モード」の順に速くなる。
【0035】
グリップ部3の下端には、バッテリ29を収容したバッテリパック30が、着脱自在に装着される。バッテリパック30は、装着時にはグリップ部3の下端に対してその前方側から後方側へとスライドさせることにより装着される。バッテリパック30に収容されたバッテリ29は、本実施形態では、例えばリチウムイオン電池など、繰り返し充電可能な二次電池である。
【0036】
モータ4は、本実施形態では、U,V,W各相の電機子巻線を備えた3相ブラシレスモータである。
モータ4には、モータ4の回転位置(角度)を検出するための回転センサ50(
図2参照)が設けられている。回転センサ50は、例えば、モータ4の各相に対応して配置される3つのホール素子を備え、モータ4の所定回転角度毎に回転検出信号を発生するよう構成されたホールIC等により構成される。
【0037】
グリップ部3の内部には、バッテリ29からの電力を受けて、モータ4を駆動制御するモータ駆動装置40(
図2参照)が設けられている。
モータ駆動装置40は、
図2に示すように、駆動回路42と、ゲート回路44と、当該オイルパルスドライバ1の動作を司る制御回路としてのマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)46と、レギュレータ48と、を備える。
【0038】
駆動回路42は、バッテリ29からの電力を受けて、モータ4の各相巻線に電流を流すためのものであり、本実施形態では、6つのスイッチング素子Q1〜Q6を備える3相フルブリッジ回路として構成されている。各スイッチング素子Q1〜Q6は、本実施形態ではMOSFETである。
【0039】
駆動回路42において、3つのスイッチング素子Q1〜Q3は、モータ4の各端子U,V,Wと、バッテリ29の正極側に接続された電源ラインとの間に、いわゆるハイサイドスイッチとして設けられている。
【0040】
また、他の3つのスイッチング素子Q4〜Q6は、モータ4の各端子U,V,Wと、バッテリ29の負極側に接続されたグランドラインとの間に、いわゆるローサイドスイッチとして設けられている。
【0041】
ゲート回路44は、マイコン46から出力される制御信号に従い、駆動回路42内の各スイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフさせることで、モータ4の各相巻線に電流を流して、モータ4を回転させるものである。
【0042】
マイコン46は、CPU51、ROM52、RAM53、及びA/D変換器(ADC)54等を備える。そして、マイコン46には、上述したトリガスイッチ21(詳しくはスイッチ本体部21b)、正逆切替スイッチ22、照明LED23、及び速度切替スイッチ24が接続されている。尚、トリガスイッチ21からマイコン46には、トリガ21aの引き操作の有無(換言すれば、トリガスイッチ21のオン/オフ)を表すスイッチ信号と、トリガ21aの操作量を電圧で表す操作量信号とが、入力されるように構成されている。
【0043】
また、モータ駆動装置40において、駆動回路42からバッテリ29の負極側に至る通電経路には、モータ4に流れる電流(以下、モータ電流という)を検出するための電流検出回路55が設けられている。電流検出回路55は、例えば、電流検出用の抵抗と、その抵抗の両端電圧を増幅して、モータ電流を表す電流検出信号として出力する出力回路と、を備える。
【0044】
そして、マイコン46には、電流検出回路55からの電流検出信号と、回転センサ50からの回転検出信号との、各々も入力される。
マイコン46は、トリガ21aが引き操作されると、回転センサ50からの回転検出信号に基づきモータ4の回転位置及び回転速度を求め、正逆切替スイッチ22からの回転方向設定信号に従って、モータ4を、その回転方向設定信号が示す回転方向に駆動する。このため、正逆切替スイッチ22によって設定される回転方向が正転方向であれば、モータ4は正転方向に駆動され、正逆切替スイッチ22によって設定される回転方向が逆転方向であれば、モータ4は逆転方向に駆動される。
【0045】
また、マイコン46は、モータ4の駆動時には、トリガ21aの操作量と、速度切替スイッチ24を介して設定される動作モードとに応じて、モータ4の速度指令値を設定する。そして、マイコン46は、その速度指令値に従って、各スイッチング素子Q1〜Q6の駆動デューティ比を設定し、その駆動デューティ比に応じた制御信号(PWM信号)をゲート回路44に出力することで、モータ4の回転速度を制御する。
【0046】
更に、マイコン46は、モータ4を駆動するための駆動制御とは別に、モータ駆動時に照明LED23を点灯させる制御等も実行する。
レギュレータ48は、バッテリ29からの電力を受けて、マイコン46を動作させるのに必要な一定の電源電圧Vcc(例えば、直流5V)を生成する。そして、マイコン46は、レギュレータ48から電源電圧Vccが供給されることにより動作する。
【0047】
次に、マイコン46が実行する制御処理について説明する。尚、マイコン46の処理動作は、CPU51がROM52内のプログラムを実行することで実現される。
図3に示すように、マイコン46は、所定の制御周期でS120〜S160(Sはステップを表す)の一連の処理を繰り返し実行する。
【0048】
即ち、マイコン46は、S110にて、制御周期に相当する一定時間であるタイムベースが経過したか否かを判定することにより、タイムベースが経過するのを待ち、S110にてタイムベースが経過したと判定すると、S120に移行する。
【0049】
S120では、トリガスイッチ21、正逆切替スイッチ22、速度切替スイッチ24から入力される信号を確認することで、これら各スイッチ21,22,24の操作を検出するスイッチ操作検出処理を実行する。
【0050】
S130では、トリガスイッチ21からの操作量信号、電流検出回路55からの検出信号等を、A/D変換して取り込むA/D変換処理を実行する。尚、トリガスイッチ21からの操作量信号がA/D変換されることで、トリガ21aの操作量が検出される。
【0051】
S140では、保護実施条件が成立したか否かを判定するための保護実施条件判定処理を実行する。保護実施条件は、異常打撃から当該オイルパルスドライバ1を保護するための保護機能を働かせる条件であり、保護部動作条件に相当する。異常打撃とは、打撃機構(この例ではオイルユニット7)による打撃力の発生時に、出力軸としてのスピンドル11から打撃機構側への反力が規定値よりも大きくなる状態のことである。
【0052】
S150では、トリガ21aの操作量、速度切替スイッチ24を介して設定される動作モード、正逆切替スイッチ22を介して設定されるモータ4の回転方向、モータ4の回転速度、及び、保護実施条件判定処理の判定結果に基づき、モータ4を駆動制御する、モータ制御処理を実行する。尚、マイコン46は、回転センサ50から出力されるパルス状の回転検出信号の発生間隔を計測し、その計測値からモータ4の回転速度(以下、モータ回転速度ともいう)を算出する。
【0053】
S160では、照明LED23の点灯を制御する照明処理を実行し、その後、S110に移行する。
次に、S140にて実行される保護実施条件判定処理について説明する。
【0054】
図4に示すように、マイコン46は、保護実施条件判定処理を開始すると、S210にて、トリガスイッチ21がオン状態か否かを判定し、トリガスイッチ21がオン状態であれば(即ち、トリガ21aが引き操作されていれば)、S215に移行する。
【0055】
S215では、速度切替スイッチ24を介して設定される動作モードが、高速モード(Hモード)と中速モード(Mモード)との何れかであるか否かを判定し、動作モードが高速モードと中速モードとの何れかであれば、S220に移行する。
【0056】
S220では、モータ4を駆動するか否かを、トリガ21aの操作量等から判定し、モータ4を駆動しないと判定した場合には、S280に移行する。また、S210にて、トリガスイッチ21がオン状態ではない(即ち、トリガ21aが引き操作されていない)と判定した場合、あるいは、S215にて、動作モードが高速モードと中速モードとの何れでもない(即ち、低速モードである)と判定した場合にも、S280に移行する。
【0057】
S280では、後述の異常打撃カウンタ、時間カウンタ、経時開始フラグ、及び、異常打撃判定フラグを、それぞれクリアし、その後、当該保護実施条件判定処理を終了する。
一方、S220にて、モータ4を駆動すると判定した場合には、S225に移行する。
【0058】
S225では、正逆切替スイッチ22を介して設定されるモータ4の回転方向(以下、設定回転方向ともいう)が正転方向であるか否かを判定し、設定回転方向が正転方向であれば、S230移行する。
【0059】
S230では、後述するS255の判定で用いられる規定値を、第1の値N1に設定すると共に、後述するS270の判定で用いられる規定時間を、第1の時間T1に設定する。そして、その後、S240に移行する。
【0060】
尚、本実施形態において、第1の値N1は1以上の値であり、第1の時間T1は、0よりも大きい値である。
また、S225にて、設定回転方向が正転方向ではない(即ち、逆転方向である)と判定した場合には、S235に移行する。
【0061】
S235では、後述するS255の判定で用いられる規定値を、第2の値N2に設定すると共に、後述するS270の判定で用いられる規定時間を、第2の時間T2に設定する。そして、その後、S240に移行する。
【0062】
尚、本実施形態において、第2の値N2は、第1の値N1よりも大きい値であり、第2の時間T2は、第1の時間T1よりも大きい値(換言すれば、長い時間)である。
S240では、異常打撃判定フラグがセットされているか否かを判定し、異常打撃判定フラグがセットされていれば、そのまま当該保護実施条件判定処理を終了する。尚、異常打撃判定フラグは、保護実施条件が成立したか否かを示すフラグであり、後述のS275でセットされる。
【0063】
また、S240にて、異常打撃判定フラグがセットされていないと判定した場合には、S245に移行して、経時開始フラグがセットされているか否かを判定する。尚、経時開始フラグは、後述のS260でセットされるフラグである。
【0064】
そして、S245にて、経時開始フラグがセットされていないと判定した場合には、S250に移行して、異常打撃判定処理を実行する。
マイコン46は、異常打撃判定処理では、異常打撃を検出すると共に、異常打撃を検出する毎に、異常打撃カウンタをインクリメントする。このため、異常打撃カウンタの値は、異常打撃の検出回数を表す。また、異常打撃カウンタの値は、異常打撃が検出された回数に対応するカウント値の一例に相当する。一方、マイコン46は、異常打撃判定処理において、異常打撃を、例えば下記のように検出する。
【0065】
オイルユニット7による打撃力の発生時には、回転センサ50からの回転検出信号に基づき検出されるモータ回転速度が脈動するため、モータ回転速度の変化に基づいて、打撃力の発生を検出することができる。例えば、モータ回転速度の変動幅(詳しくは、時系列的に連続して現れる極大値と極小値との差)が、打撃力の発生を判定するための閾値以上である場合に、オイルユニット7による打撃力が発生したと判定することができる。尚、打撃力の発生時にモータ回転速度が脈動することや、打撃力の発生をモータ回転速度の変動幅に基づき検出する技術については、例えば特開2013−111729号公報に記載されている。
【0066】
このため、マイコン46は、モータ回転速度の変動幅から、打撃力が発生したか否かを判定し、更に、打撃力が発生したと判定した場合のモータ回転速度の変動幅が、上記閾値よりも大きい異常打撃検出用の判定値以上であれば、異常打撃が発生したと判定するように構成することができる。また、マイコン46は、打撃力が発生したことは判定せずに、モータ回転速度の変動幅が異常打撃検出用の判定値以上であれば、異常打撃が発生したと判定するように構成されても良い。また、モータ回転速度の微分値(即ち、回転加速度)が所定の判定値以上の場合に、異常打撃が発生したと判定するように構成されても良い。
【0067】
また、打撃力の発生時には、モータ電流も変動するため、マイコン46は、モータ回転速度の変動幅や微分値に代えて、電流検出回路55からの電流検出信号により検出されるモータ電流の変動幅に基づき、異常打撃を検出するように構成されても良い。例えば、モータ電流の変動幅が異常打撃検出用の判定値以上であれば、異常打撃が発生したと判定するように構成することができる。
【0068】
また、マイコン46は、モータ回転速度の変動幅が所定の判定値以上になり、且つ、モータ電流の変動幅も所定の判定値以上になった場合に、異常打撃が発生したと判定するように構成されても良い。
【0069】
また、マイコン46は、オイルパルスドライバ1に設けられた振動センサ(加速度センサ)によって検出される振動の大きさが、異常打撃と見なされる判定値以上になれば、異常打撃が発生したと判定するように構成されても良い。
【0070】
マイコン46は、S250の異常打撃判定処理を完了すると、S255に移行して、異常打撃カウンタの値が、S230又はS235で設定された規定値以上であるか否かを判定する。そして、異常打撃カウンタの値が規定値以上ではないと判定した場合には、そのまま当該保護実施条件判定処理を終了する。
【0071】
また、S255にて、異常打撃カウンタの値が規定値以上であると判定した場合には、S260に移行して、経時開始フラグをセットし、その後、当該保護実施条件判定処理を終了する。このため、経時開始フラグがセットされているということは、異常打撃の検出回数が規定値に達したことを意味する。
【0072】
また、S245にて、経時開始フラグがセットされていると判定した場合には、S265に移行する。
S265では、時間カウンタをインクリメント(+1)し、その後、S270に移行する。時間カウンタは、S260で経時開始フラグがセットされてからのモータ4の駆動時間であって、異常打撃の検出回数が規定値に達してからの経過時間を計測するためのカウンタである。
【0073】
S270では、時間カウンタの値に基づいて、異常打撃の検出回数が規定値に達してからの経過時間が、S230又はS235で設定された規定時間以上であるか否かを判定し、経過時間が規定時間以上でなければ、そのまま当該保護実施条件判定処理を終了する。
【0074】
また、S270にて、経過時間が規定時間以上であると判定した場合には、保護実施条件が成立したと判断して、S275に移行する。そして、S275では、異常打撃判定フラグをセットし、その後、当該保護実施条件判定処理を終了する。
【0075】
次に、
図3のS150にて実行されるモータ制御処理について説明する。
図5に示すように、マイコン46は、モータ制御処理を開始すると、S310にて、トリガスイッチ21がオン状態か否かを判定し、トリガスイッチ21がオン状態であれば(即ち、トリガ21aが引き操作されていれば)、S320に移行する。
【0076】
S320では、モータ4を駆動するか否かを、トリガ21aの操作量等から判定し、モータ4を駆動すると判定した場合には、S330に移行する。
S330では、速度切替スイッチ24を介して設定される動作モードが、高速モードと中速モードとの何れかであるか否かを判定し、動作モードが高速モードと中速モードとの何れかであれば、S340に移行する。
【0077】
S340では、異常打撃判定フラグがセットされているか否かを判定する。
そして、S340にて、異常打撃判定フラグがセットされていないと判定した場合、あるいは、S330にて、動作モードが高速モードと中速モードとの何れでもない(即ち、低速モードである)と判定した場合には、S350に移行する。
【0078】
S350では、モータ4を駆動するための目標出力値を設定する出力設定処理を実行する。目標出力値は、モータ4の無負荷時の回転速度を、速度指令値に相当する目標回転速度に制御するのに必要な、駆動デューティ比である。そして、マイコン46は、S350の出力設定処理では、トリガ21aの操作量と現在の動作モードとに基づいて、目標回転速度を算出し、その目標回転速度に対応する駆動デューティ比を、目標出力値として算出する。
【0079】
目標回転速度は、トリガ21aの操作量に対しては、操作量が大きいほど、大きい値に算出される。また、目標回転速度は、動作モードに対しては、「低速モード→中速モード→高速モード」の順に、大きい値に算出される。そして、目標出力値は、目標回転速度が大きいほど、大きい値に算出される。尚、目標回転速度と目標出力値は、例えば、ROM52に記憶されたマップ又は演算式を用いて算出される。また、目標回転速度を算出する手順を無くして、マイコン46は、目標出力値を、動作モードとトリガ21aの操作量とから直接的に算出するように構成されても良い。
【0080】
マイコン46は、S350の出力設定処理を完了すると、S360に移行して、モータ駆動処理を実行する。モータ駆動処理では、S350で算出した目標出力値と現在のモータ回転速度とに基づき、モータ4を実際に制御するための駆動デューティ比を設定し、その設定した駆動デューティ比と設定回転方向とに基づき制御信号を生成してゲート回路44に出力することにより、モータ4の回転方向及び回転速度を制御する。そして、マイコン46は、モータ駆動処理の実行後、当該モータ制御処理を終了する。
【0081】
また、マイコン46は、S310にて、トリガスイッチ21がオン状態ではないと判定した場合、あるいは、S320にて、モータ4を駆動しないと判定した場合には、S370に移行して、モータ4を停止させるモータ停止処理を実行する。
【0082】
更に、S340にて、異常打撃判定フラグがセットされていると判定した場合にも、S370に移行して、モータ停止処理を実行する。
S370のモータ停止処理では、駆動回路42を介してモータ4に制動力を発生させるか、あるいは、単に通電を遮断してモータ4をフリーラン状態にすることで、モータ4を停止させる。そして、次のS380にて、駆動回路42を介してモータ4を駆動するための出力値である駆動デューティ比をクリアし、その後、当該モータ制御処理を終了する。
【0083】
〈第1実施形態による効果〉
以上のようなオイルパルスドライバ1を用いてネジを締め付ける場合、使用者は、正逆切替スイッチ22によりモータ4の回転方向を正転方向に設定して、トリガ21aを引き操作することになる。また、オイルパルスドライバ1を用いて、締め付け済みのネジを緩める場合、使用者は、正逆切替スイッチ22によりモータ4の回転方向を逆転方向に設定して、トリガ21aを引き操作することになる。
【0084】
そして、使用者が、ネジを締め付ける場合とネジを緩める場合との、何れにおいても、オイルパルスドライバ1の動作モードが高速モード又は中速モードに設定されている場合には、異常打撃の検出が実施される。更に、異常打撃の検出回数が
図4におけるS255の判定で用いられる規定値に達してから、
図4におけるS270の判定で用いられる規定時間が経過すると、保護実施条件が成立して、異常打撃判定フラグがセットされる。すると、トリガ21aが引き操作されていてもモータ4を自動的に停止させる保護機能が働く。この保護機能は、マイコン46が、
図5のS340で「YES」と判定して、S370のモータ停止処理を行うことで実現される。このため、オイルパルスドライバ1を構成する打撃機構としてのオイルユニット7や他の構成部品に、異常打撃によってダメージが加わってしまうことが回避される。
【0085】
ここで、モータ4の回転方向が正転方向の場合である正転設定時には、
図4におけるS230の処理により、規定値が第1の値N1に設定されると共に、規定時間が第1の時間T1に設定される。また、モータ4の回転方向が逆転方向の場合である逆転設定時には、
図4におけるS235の処理により、規定値が第2の値N2に設定されると共に、規定時間が第2の時間T2に設定される。そして、第2の値N2は、第1の値N1より大きい値であり、第2の時間T2も、第1の時間T1より大きい値である。
【0086】
よって、逆転設定時には、正転設定時と比較して、保護実施条件が成立し難い条件となり、その結果、保護機能が働くことが抑制される。つまり、保護実施条件の成立のし難さ(成立難度)は、規定値と規定時間とによって変わる。そして、本第1実施形態では、逆転設定時には、正転設定時と比較して、規定値と規定時間との両方を、大きい値に変更することにより、保護実施条件が成立し難くなるようにして、保護機能が働くことを抑制している。
【0087】
このため、異常打撃が発生しつつ締め付けられたネジを緩めようとした場合に、保護機能がすぐに働いてしまって、そのネジを緩めることが難しくなる、ということを回避することができる。つまり、異常打撃が発生しつつ締め付けられたネジであっても、そのネジを緩める作業を行いやすくなる。よって、異常打撃によるダメージの抑制と、締め付けたネジを緩める場合の作業性とを、両立させることができる。
【0088】
また、保護機能が働き難くしたり、働き易くしたりすることを、保護実施条件を変えることによって容易に行うことができる。
また、正転設定時と逆転設定時とで、規定値と規定時間との両方を変えることにより、保護実施条件の成立難度を、より細かく変えることができる。よって、保護実施条件の成立難度を最適化するのに有利である。
【0089】
尚、第1実施形態において、正逆切替スイッチ22は、回転方向設定部の一例に相当する。また、マイコン46は、異常打撃検出部、保護部、抑制部、カウント値判定部、及び時間判定部の各々として機能している。そして、
図4の保護実施条件判定処理において、S250の処理は、異常打撃検出部が行う処理の一例に相当し、S255の処理は、カウント値判定部が行う処理の一例に相当し、S265,S270の処理は、時間判定部が行う処理の一例に相当し、S225〜S235の処理は、抑制部が行う処理の一例に相当する。また、
図5のモータ制御処理において、S340で「YES」と判定された場合に実行されるS370の処理は、保護部が行う処理の一例に相当する。
【0090】
[第1実施形態を変形した、第2実施形態]
第1の時間T1と第2の時間T2は、0よりも大きい同じ値に設定しても良い。つまり、逆転設定時には、正転設定時と比較して、規定時間は同じで、規定値の方だけを大きい値に変更するように構成しても良い。
【0091】
このように構成しても、逆転設定時には、正転設定時と比較して、規定値を大きい値に変更することにより、保護実施条件が成立し難くなるようにして、保護機能が働くことを抑制することができる。
【0092】
[第1実施形態を変形した、第3実施形態]
第1の時間T1と第2の時間T2は、両方とも0にしても良い。
その場合、規定時間が経過したか否かを判定する処理は実施しなくても良い。このため、
図4の保護実施条件判定処理は、例えば下記(a)〜(e)のように変形することができる。
【0093】
(a)S245とS265〜S275を削除する。
(b)S240で「NO」と判定された場合には、S250へ直接移行する。
(c)S255で「YES」と判定された場合に移行するS260では、経時開始フラグではなく、異常打撃判定フラグをセットする。
【0094】
(d)S230,S235の各々では、規定時間を設定する処理を行わなくても良い。
(e)S280では、時間カウンタと経時開始フラグのクリアを行わなくても良い。
このように構成しても、逆転設定時には、正転設定時と比較して、規定値を増やすことにより、保護実施条件が成立し難くなるようにして、保護機能が働くことを抑制することができる。
【0095】
[第1実施形態を変形した、第4実施形態]
第1の値N1と第2の値N2は、1よりも大きい同じ値に設定しても良い。つまり、逆転設定時には、正転設定時と比較して、規定値は同じで、規定時間の方だけを大きい値に変更するように構成しても良い。
【0096】
このように構成しても、逆転設定時には、正転設定時と比較して、規定時間を大きい値に変更する(換言すれば、規定時間を長くする)ことにより、保護実施条件が成立し難くなるようにして、保護機能が働くことを抑制することができる。
【0097】
[第1実施形態を変形した、第5実施形態]
第1の値N1と第2の値N2は、両方とも1にしても良い。
その場合、異常打撃の検出回数を判定する処理は実施しなくても良い。このため、
図4の保護実施条件判定処理は、例えば下記(A)〜(E)のように変形することができる。
【0098】
(A)S255とS260を削除する。
(B)S250では、異常打撃を検出すると、異常打撃を検出したことを示す異常打撃検出フラグをセットする。
【0099】
(C)S245では、経時開始フラグに代えて、異常打撃検出フラグがセットされているか否かを判定する。
(D)S230,S235の各々では、規定値を設定する処理を行わなくても良い。
【0100】
(E)S280では、異常打撃カウンタと経時開始フラグのクリアを行わなくても良く、その代わりに、異常打撃検出フラグをクリアする。
このように構成しても、逆転設定時には、正転設定時と比較して、規定時間を長くすることにより、保護実施条件が成立し難くなるようにして、保護機能が働くことを抑制することができる。
【0101】
尚、この第5実施形態の場合、マイコン46は、検出後時間判定部としても機能する。そして、
図4におけるS265,S270の処理は、検出後時間判定部が行う処理の一例に相当する。
【0102】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態のオイルパルスドライバについて説明するが、オイルパルスドライバの符号としては、第1実施形態と同じ“1”を用いる。また、第1実施形態と同様の構成要素や処理についても、第1実施形態と同じ符号を用いる。以下では、第1実施形態と相違する部分について説明する。
【0103】
第6実施形態のオイルパルスドライバ1では、マイコン46が、
図4の保護実施条件判定処理に代えて、
図6の保護実施条件判定処理を実行する。
図6の保護実施条件判定処理は、
図4の保護実施条件判定処理と比較すると、下記(1),(2)の点が異なる。
【0104】
(1)S235が削除されている。
(2)S225で「NO」と判定された場合には、S280に移行する。
この第6実施形態では、
図6のS225で「NO」と判定される逆転設定時には、S280で異常打撃判定フラグがクリアされるため、
図5のS340で「YES」と判定されることがなく、保護機能が働くことが禁止される。つまり、マイコン46は、逆転設定時には、保護機能が働くことを抑制する処理として、保護機能が働くことを禁止する処理(この例では、異常打撃判定フラグをクリアする処理)を行うようになっている。
【0105】
このような第6実施形態のオイルパルスドライバ1によっても、逆転設定時には、保護機能が働くことが抑制されることとなり、前述した他の実施形態と同様の効果が得られる。
【0106】
また、
図6のS225で「NO」と判定される逆転設定時には、
図6におけるS230〜S275の実行が禁止され、その禁止される処理の中には、S250の異常打撃判定処理が含まれている。よって、逆転設定時には、異常打撃を検出するための処理負荷を無くすことができる。
【0107】
尚、
図6の保護実施条件判定処理において、S225で「NO」と判定された場合に移行するS280で異常打撃判定フラグをクリアする処理は、抑制部が行う処理の一例に相当する。
【0108】
[他の実施形態]
上記各実施形態において、
図5のモータ制御処理は下記のように変更しても良い。
即ち、S340で「YES」と判定した場合(即ち、異常打撃判定フラグがセットされていると判定した場合)に、S370に移行することに代えて、モータ4の回転速度を低減させる処理を行うように構成しても良い。例えば、S340で「YES」と判定した場合には、S350の出力設定処理と同じ処理を行うと共に、その処理で設定した目標出力値を小さくする減少補正を行い、その後、S360に移行して、減少補正した目標出力値に基づきモータ4を駆動するように構成することができる。
【0109】
そして、このように構成しても、前述した各実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、第6実施形態以外の各実施形態では、逆転設定時には、正転設定時と比較して、異常打撃判定処理で異常打撃を検出するのに用いる判定値を、大きい値に変更しても良い。その判定値を大きい値に変更すれば、異常打撃判定処理で異常打撃が検出され難くなるため、保護実施条件が成立し難くなる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得る。また、前述の数値も一例であり他の値でも良い。
【0110】
例えば、上記実施形態では、動作モードが3つであるものとして説明したが、動作モードの数は1つ又は2つであっても良いし、4つ以上であっても良い。
また、上記実施形態では、複数の動作モードのうち、モータ4の回転速度が最も小さくなる低速モードの場合には、異常打撃の検出を実施しないものとして説明した。低速モードでは、オイルユニット7による打撃力が小さくなり、異常打撃は発生しないと考えられるためである。
【0111】
しかし、低速モードの場合でも、異常打撃が発生する可能性があるのであれば、中速モード及び高速モードの場合と同様の処理が行われるように構成すれば良い。具体的に説明すると、
図4,
図6の処理については、S215を削除して、S210で「YES」と判定した場合にはS220へ直接移行するように構成すれば良い。そして、
図5の処理については、S330を削除して、S320で「YES」と判定した場合にはS340へ移行するように構成すれば良い。
【0112】
また例えば、低速モードだけでなく中速モードの場合にも、異常打撃が発生しないと考えられるのであれば、高速モードの場合にだけ、異常打撃の検出を実施するように構成すれば良い。具体的に説明すると、
図4,
図6におけるS215では、動作モードが高速モードであるか否かを判定し、高速モードであればS220に移行し、高速モードでなければS280へ移行するように構成すれば良い。そして、
図5におけるS330では、動作モードが高速モードであるか否かを判定し、高速モードであればS340へ移行し、高速モードでなければS350へ移行するように構成すれば良い。
【0113】
つまり、動作モードが複数ある場合に、異常打撃を検出して保護機能を働かせることを、どの動作モードの場合に実施するように構成するかは、適宜決定することができる。
一方、打撃機構としてのオイルユニット7は、例えば特許第5021240号公報等に記載されているように、油圧と金属同士の打撃とによって、打撃力を発生させるように構成されたものであっても良い。
【0114】
また、打撃機構としては、例えば特許文献1や特開2013−111729号公報等に記載されているように、モータの出力で回転されるハンマにより、出力軸としてのアンビルに打撃を与えることで、打撃力を発生させるように構成されたものでも良い。
【0115】
また、本発明は、オイルパルスドライバに限らず、例えば、インパクトドライバやインパクトレンチ等、モータにより駆動される打撃機構を備えた回転打撃工具であれば適用することができる。
【0116】
また、上記実施形態では、モータ4は、3相ブラシレスモータにて構成されるものとして説明したが、打撃機構を回転駆動可能なモータであればよい。例えば、本発明の回転打撃工具は、バッテリ式のものに限らず、コードを介して電力の供給を受けるものでも良いし、交流モータによって工具要素を回転駆動させるように構成されたものであっても良い。
【0117】
また、上記実施形態では、制御回路としてマイコン46を備えるものとして説明したが、制御回路は、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuits)や、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイスで構成しても良い。
【0118】
また、駆動回路42を構成する各スイッチング素子Q1〜Q6は、例えばバイポーラトランジスタや絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等、MOSFET以外のスイッチング素子であっても良い。
【0119】
また、上記実施形態では、バッテリ29がリチウムイオン二次電池であるものとして説明したが、例えばニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム蓄電池など、他の二次電池であっても良い。
【0120】
また、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合させたりしても良い。また、上記実施形態の構成の一部を省略しても良い。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換しても良い。なお、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。また、上記実施形態のマイコン46が実行するプログラムや、このプログラムを記録した媒体、回転打撃工具の制御方法など、種々の形態で本発明を実現することもできる。