特許第6523306号(P6523306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6523306ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリマーイオン性液体(PIL)系ブレンド膜、並びにその調製プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6523306
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリマーイオン性液体(PIL)系ブレンド膜、並びにその調製プロセス
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20190520BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20190520BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20190520BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20190520BHJP
【FI】
   C08J5/22 101
   C08J5/22CER
   C08J5/22CEZ
   C08L79/04 A
   C08L79/04 Z
   H01M8/02
   H01M8/10
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-547941(P2016-547941)
(86)(22)【出願日】2015年1月21日
(65)【公表番号】特表2017-505836(P2017-505836A)
(43)【公表日】2017年2月23日
(86)【国際出願番号】IN2015000037
(87)【国際公開番号】WO2015132797
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2017年12月13日
(31)【優先権主張番号】0184/DEL/2014
(32)【優先日】2014年1月21日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】511219191
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】カラル、 ウルハス カンハイヤラル
(72)【発明者】
【氏名】クランゴット、 スペークマール
(72)【発明者】
【氏名】リワー、 アニタ サンワーマル
(72)【発明者】
【氏名】チャウドハリ、 ハーシャル ディリップ
【審査官】 安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−523496(JP,A)
【文献】 特開平07−118480(JP,A)
【文献】 特開2008−282634(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/045335(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
H01M 8/00−8/0297、8/08−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増大したプロトン及びヒドロキシルイオン伝導率を有する、ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリマーイオン性液体(PIL)ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネート(P[DADMA][TFMS])を含む、安定なブレンド膜。
【請求項2】
前記ブレンド膜におけるPBI:PILの重量比が95:5、85:15、75:25、65:35及び55:45から選択される、請求項1に記載の安定なブレンド膜。
【請求項3】
濃度が1〜17Mの範囲のリン酸でドーピングされた、請求項1又は請求項2に記載の安定なブレンド膜。
【請求項4】
厚さが25〜300μmの範囲である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の安定なブレンド膜。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のPBI及びP[DADMA][TFMS]のブレンド膜を調製するためのプロセスであって:
混合が完了するまで、11〜13時間撹拌しながら室温で、P[DADMA][TFMS]のDMSO溶液を、PBIのDMAc(ジメチルアセトアミド)溶液に加えること;
続いて、平らなガラス表面上に混合溶液を流延して、緻密なブレンド膜を得ること;
減圧下で、約80℃の温度で約8日間乾燥させて、残存溶媒を除去すること;及び
前記ブレンド膜をリン酸でドーピングすること、
を含むプロセス。
【請求項6】
P[DADMA][Cl]の陰イオン交換を用いてP[DADMA][TFMS]を調製する、請求項5に記載のプロセスであって:
等モル量の銀塩を、水中で調製したP[DADMA][Cl]の約8%溶液に加えること;
周辺温度で撹拌して、最大限可能な交換が行われるようにすること;
さらに、遠心分離して、AgClを分離すること;及び、
続いて、上澄み溶液を蒸発させて、PIL、P[DADMA][TFMS]を得ること、
を含むプロセス。
【請求項7】
前記銀塩は、カルボキシラート、スルホナート、ハロゲン、NO、NO、PO、BF、HPO−N(SOCF、HPO、HSO、S、ClO、BrO、CrO、HCO、C、MnO、NH、FeCl、PF、(CN)、C1634PO、C1225、SCN、CH=CHCOOCH、CHCHSO、CH=CHSO及びCCOSNの金属塩から選択される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
プロトン及びヒドロキシルイオン伝導率が、それぞれ0.03〜0.08及び0.04〜0.14Scm−1の範囲である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の安定なブレンド膜。
【請求項9】
PBI及びP[DADMA][TFMS]の安定なブレンド膜が、高温プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)用の膜電解質として有用である、請求項1〜請求項4及び請求項8のいずれか1項に記載の安定なブレンド膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンズイミダゾール(PBI)及び脂肪族ポリマーイオン性液体(PIL)のブレンドによってH及びOHイオン伝導率が高まった、PBI及びPIL系ブレンド膜並びにその調製プロセスに関する。とりわけ、本発明は、増大したプロトン及びヒドロキシルイオン伝導率を有する、ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネートを含むブレンド膜に関する。
【背景技術】
【0002】
PBI(ポリベンズイミダゾール)は、熱化学的及び機械的に安定な汎用的な材料であり、酸でドーピングされたPBIは、高温プロトン交換膜燃料電池(HT−PEMFC)用の高分子電解質膜材料として広く実証されているが、更にその伝導率を改善する必要がある。
【0003】
Ronghuanらは、Fibers and Polymers 9,(6),pp679−684,2008において、プロトン交換膜燃料電池用のリン酸中のポリベンズイミダゾール膜について酸ドーピング挙動を報告している。
【0004】
中国特許第102945977号明細書では、メタノール燃料電池用の双性イオン変性グラフェンオキシドでドーピングした複合プロトン交換膜、及びその調製方法が開示されている。
【0005】
米国特許出願公開第2012270122号明細書は、酸でドーピングしたポリベンズイミダゾール(PBI)を含むポリマー材料で形成したプロトン交換膜を用いた、燃料電池システムを作動する方法に関する。
【0006】
さらに、PBI及びイオン性液体(IL)の複合膜は高温で高いプロトン伝導率を示すことが当業界において報告されている。しかしながら、PBIにILを加えることによって、結果として得られるPBI−ILの機械的性能が低下し、さらに、イオン性液体が長期間使用された後に膜から浸出する傾向がある。
【0007】
PILは、(ポリマーの繰り返し単位上に存在している)IL特性の連続的経路をもたらし、またILの流失に係る問題をなくすものと予想される。さらに、PILは、イオン伝導率、熱的安定性、調整可能な特性、及び化学安定性などの、ILの特性を示す。
【0008】
現在、PBI溶液中にポリマーイオン性液体を組み込むこと及びPBI−PILブレンド膜を形成することによって膜のプロトン伝導率を改善することに、研究の焦点が当てられている。
【0009】
現在、PBI中に異なる複合体を組み込むことによって膜のプロトン伝導率を改善することに、研究の焦点が当てられている。
【0010】
PILは、骨格におけるイオン特性及び高い溶媒溶解性などのPILに内在する特性を保持させるPBIとブレンドすることによって、プロトン伝導に使用することができる独特のポリマーである。これにより、ブレンド膜のプロトン伝導率は相当に高めることができる。
【0011】
本発明者らは、物理的及び電気化学的特性を改善するために、並びに高温PEMFCに対する適用可能性のために、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネートから選択される、代わりのPILを提供することを探求した。
【0012】
本発明者らは、高温PEMFCのための物理的及び電気化学的特性を改善するために、PBIとブレンドするための、PILである、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネートを提供することを探求した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の主要な目的は、ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリマーイオン性液体(PIL)系ブレンド膜、並びにその調製プロセスを提供することである。
【0014】
したがって、本発明では、増大したプロトン及びヒドロキシルイオン伝導率を有する、ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリマーイオン性液体(PIL)ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネート(P[DADMA][TFMS])を含む、安定なブレンド膜が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のある実施形態において、ブレンド膜におけるPBI:PILの重量比は、95:5、85:15、75:25、65:35及び55:45から選択される。
【0016】
本発明のある実施形態において、ブレンド膜は、濃度が1〜17Mの範囲であるリン酸でドーピングされる。
【0017】
本発明の別の実施形態において、ブレンド膜は厚さが25〜300μmの範囲である。
【0018】
本発明の更なる別の実施形態において、PBI及びP[DADMA][TFMS]のブレンド膜を調製するためのプロセス:このプロセスは、混合が完了するまで、11〜13時間撹拌しながら、室温で、P[DADMA][TFMS]のDMSO(ジメチルスルホキシド)溶液を、PBIのDMAc(ジメチルアセトアミド)溶液に加えること;続いて、平らなガラス表面上に混合溶液を流延して、緻密なブレンド膜を得ること;減圧下で、約80℃の温度で約8日間乾燥させて、残存溶媒を除去すること;及び、ブレンド膜をリン酸でドーピングすること、を含む。
【0019】
本発明の更なる別の実施形態においては、P[DADMA][Cl]の陰イオン交換を用いてP[DADMA][TFMS]が調製される:これは、等モル量の銀塩を水中で調製したP[DADMA][Cl]の約8%溶液に加えること;周辺温度で撹拌して、最大限可能な交換を確実にすること;さらに、遠心分離して、AgClを分離すること;及び、続いて、上澄み溶液を蒸発させて、PILである、P[DADMA][TFMS]を得ること、を含む。
【0020】
本発明の更なる別の実施形態において、銀塩は、カルボキシラート、スルホネート、ハロゲン、NO、NO、PO、BF、HPO−N(SOCF、HPO、HSO、S、ClO、BrO、CrO、HCO、C、MnO、NH、FeCl、PF、(CN)、C1634PO、C1225、SCN、CH=CHCOOCH、CHCHSO、CH=CHSO、及びCCOSNの金属塩から選択される。
【0021】
本発明の更なる別の実施形態において、安定なブレンド膜は、プロトン及びヒドロキシルイオン伝導率がそれぞれ0.03〜0.08及び0.04〜0.14Scm−1の範囲である。
【0022】
本発明の更なる別の実施形態において、PBI及びP[DADMA][TFMS]の安定なブレンド膜は高温PEMFC用の膜電解質として有用である。
【0023】
本発明では、増大したプロトン及びヒドロキシルイオン伝導率を有する、ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリマーイオン性液体(PIL)ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネートを様々な比率で含む、機械的及び熱的に安定なブレンド膜が提供される。ブレンド膜におけるPBI:PILの重量比は、95:5、85:15、75:25、65:35及び55:45から選択される。
【0024】
膜の優れた機械的安定性は、高温PEMFCにおける適用可能性にとって重要な要件の1つである。ある態様において、本発明のブレンド膜は、濃度が1〜17Mの範囲であるリン酸でドーピングされる。形成されたブレンド膜は、濃度が15Mであるリン酸でのドーピングに安定であることが観察されている。
【0025】
別の態様において、本発明では、以前に当業界で報告されていたようにポリリン酸(PPA)の存在下で、120〜250℃の上昇温度で、3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)及びイソフタル酸の重縮合反応を含む、ポリベンズイミダゾールの調製が提供される。
【0026】
ある態様において、本発明では、適切な濃度でポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(P[DADMA][Cl])の陰イオン交換を使用する、脂肪族骨格系のポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネートを調製するプロセスが提供される。陰イオン交換用の金属塩は、メチルスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート及びp−トルエンスルホネートの金属塩並びに他の塩から選択される。金属ハロゲン化物は遠心分離又はその他の公知の技法によって分離する。所望のポリマーのイオン性液体は、上澄み溶液を蒸発させることによって得られる(スキーム2を参照のこと)。
【0027】
さらに、陰イオン交換塩は、カルボキシラート、スルホネート、ハロゲン、NO、NO、PO、BF、HPO−N(SOCF、HPO、HSO、S、ClO、BrO、CrO、HCO、C、MnO、NH、FeCl、PF、(CN)、C1634PO、C1225、SCN、CH=CHCOOCHCHCHSO、CH=CHSO及びCCOSNの金属塩から選択してもよい。
【0028】
PILの陰イオン交換は、公知のVolhard法によって、形成されたPILにおける塩素含有量を見積もることによって評価する[G.H.Jeffery,J.Bassett,J.Mendham and C.Denney,Vogel’s Textbook of Quantitative Chemical Analysis,British Library Cataloguing in Publication Data,5th edn,1989,pp.355−356.]。
【0029】
別の態様において、本発明ではブレンド膜の調製プロセスが提供される。このプロセスは:混合が完了するまで攪拌しながら、室温で、P[DADMA][TFMS]のDMSO溶液を、PBIのDMAc溶液(3%溶液)に加えること;平らなガラス表面上で混合溶液を流延して、緻密なブレンド膜を得ること;減圧下で約8日間乾燥させて、残存溶媒を除去すること、を含む。ブレンド膜はリン酸でさらにドーピングされる。ブレンド膜は厚さが25〜300μmの範囲である。
【0030】
更なる別の態様において、本発明では、ブレンド膜においてPILのイオン性基が存在することにより、PBI膜のみの場合に比してプロトン伝導の増加を示す、PBI及びポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネートのブレンド膜が提供される。160℃でブレンド膜を用いて、単セルが首尾よくテストされ、得られた最大の出力密度及び電流密度は当初のPBI膜よりも高かった。
【0031】
別の態様において、本発明では、式Iを有するポリベンズイミダゾール(PBI)が提供される。
【0032】
【化1】
【0033】
別の態様において、本発明では、式IVを有するポリマーイオン性液体(PIL)が提供される。
【0034】
【化2】
【0035】
式中、置換基は、本明細書の以下の詳細な説明において表されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】異なるモル濃度の酸における、ブレンド膜のHPOドーピングレベルについて記載したものである。
図2】温度の関数としてのプロトン伝導率について記載したものである。
図3】PBI−PILブレンド膜の固有粘度の組成による変化について記載したものである。
図4】PBI−PILブレンド膜のフーリエ変換赤外分光(FTIR)スペクトルについて記載したものである。
図5】示差走査熱量測定(DSC)によって求めたTg(ガラス転移温度)の組成依存性(−−■−−)、及びFox式によって計算されたTgの組成依存性(・・●・・)について記載したものである。
図6】PBI−PILブレンド膜((a)PBI、(b)PBI−PIL、(c)PBI−PIL15、(d)PBI−PIL25、(e)PBI−PIL35、(f)PBI−PIL45)の熱重量測定(TGA)曲線について記載したものである。
図7】PBI−PILブレンド膜((a)PBI、(b)PBI−PIL、(c)PBI−PIL15、(d)PBI−PIL25、(e)PBI−PIL35、(f)PBI−PIL45)のDSC曲線について記載したものである。
図8】ブレンド膜の単セル膜電極接合体(Menbrane Electrode Assembly、MEA)試験について記載したものである。
図9】温度の関数としての水酸化物イオン伝導率について記載したものである。<略語>
【0037】
(DAB):3,3−ジアミノベンジジン
【0038】
(PBI):ポリベンズイミダゾール
【0039】
(PIL):ポリマーイオン性液体
【0040】
(DMAc):ジメチルアセトアミド
【0041】
(PPA):ポリリン酸
【0042】
P[DADMA][TFMS]:ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネート
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明では、増大したプロトン及びヒドロキシルイオン伝導率を有する、ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリマーイオン性液体(PIL)ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネートを様々な比率で含む、機械的及び熱的に安定なブレンド膜が提供される。
【0044】
IL又はリン酸でドーピングされたPBIの単独での使用及びPILをポリマーと組み合わせることの期待できる利点における問題を軽減するために、本発明では、IL部分をポリマー骨格中に配置することにより代替のブレンド膜が提供され、その結果、両成分の相乗効果をもたらし、完全な混和性により物理的及び電気化学的特性が高められる。
【0045】
上記によれば、本発明は、リン酸又はアルカリそれぞれでドーピングした後に、水酸化物イオンのみならずプロトンの伝導率も高めるか又は改善する、ポリベンズイミダゾール(PBI)及びポリマーイオン性液体(PIL)系ブレンド膜に関する。
【0046】
本発明では、増大したプロトン及びヒドロキシルイオン伝導率を有する、ポリベンズイミダゾール(PBI)、及びポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)トリフルオロメタンスルホネートによって合成されたポリマーイオン性液体を含む、機械的及び熱的に安定なブレンド膜が開示される。
【0047】
ブレンド膜におけるPBI:PILの重量比は、95:5、85:15、75:25、65:35及び55:45から選択される。
【0048】
本発明の膜のポリベンズイミダゾールは式Iのものである。
【0049】
【化3】
【0050】
式中、(m+n)=1であり;Rは式IIを有するテトラアミンモノマーである。
【0051】
【化4】
【0052】
式中:
【0053】
Arは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ベンゾ[a]ピレン、ジベンゾ[a,l]ピレン、コロネン、トリフェニレン、アズレン、インデン、フルオレン(flourene)からなる群から選択される単環式及び多環式の芳香族炭化水素;又は、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジンからなる群から選択される複素環式芳香族化合物;又は、カルバゾール、インドール、キノリン、キノキサリン又はビフェニルからなる群から選択される多環式の複素環式化合物;又は、Xで連結した2個の芳香環であり、Xは、−CH−、−O−、−SO−、−C(CH−、−C(CF−、−C(アルキル又は芳香族若しくは置換芳香族)−、C1−25のアルキル又はアリール基からなる群から選択され;
【0054】
Arは、また、置換されていないか、同じである若しくは異なるR基又はR基の組み合わせで置換されていてもよく;Rは、水素、ハライド、NO又はC1−24のアルキル若しくはアリール基からなる群から選択され;上記アリール基は、水素、ハロゲン、酸素、窒素、芳香環、アリーレン、アルキレン、アリーレンエーテル、又はピリジン、ピラジン、フラン、キノリン、チオフェン(thiopene)からなる群から選択される複素環式環を含み;
【0055】
式中、Rは式IIIのジカルボン酸であり;
【0056】
【0057】
式中、Rは、脂肪族、単核若しくは多核の芳香族炭化水素、置換された単核若しくは多核の芳香族炭化水素、又はその組み合わせ、Xを伴う芳香族縮合環からなる群から選択され、ここで、Xは、−CH−、−O−、−SO−、−C(CH−、−C(CF−、−C(アルキル、芳香族、又は置換芳香族)−、C1−25のアルキル又はアリール基からなる群から選択され、所望により、置換基、リンカー、又は芳香族部分の一部という形態でN、O、S、Pからなる群から選択されるヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0058】
本ブレンド膜における脂肪族ポリマーイオン性液体(PIL)は、式IVのものである。
【0059】
【化5】
【0060】
式中:(l+m+n=1);M1は直鎖を表し、M2及びM3は環式系を表し、ここで、Aは、N及びPの陽イオン形態を有するように、R’、R’’、R’’’で適切に置換されたヘテロ原子としてのN又はPからなる群から選択されるヘテロ原子であり;
【0061】
R’、R’’及びR’’’は、所望により官能基Xを有する、アルキル及び芳香族基からなる群から選択され、ここで、Xは、カルボキシラート、スルホネート、ハロゲン、NO、NO、PO、BF、HPO−N(SOCF、HPO、HSO、S、ClO、BrO、CrO、HCO、C、MnO、NH、FeCl、PF、(CN)、C1634PO、C1225、SCN、CH=CHCOOCHCHCHSO、CH=CHSO、及びCCOSNからなる群から選択される。
【0062】
本発明では、以前に報告されたように[Santosh C.Kumbharkar,Prasad B.Karadkar,Ulhas K.Kharul * Journal of Membrane Science 286(2006)161−169,2006]、120〜250℃の高温でポリリン酸(PPA)の存在下で3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)及びイソフタル酸を重縮合反応させ、続いて沈殿、洗浄及び精製することを含む、ポリベンズイミダゾールの調製が提供される(スキーム1参照)。
【0063】
【化6】
【0064】
式中、Rは式IIIを表す。
【0065】
本発明では、適切な濃度においてポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(P[DADMA][Cl])の陰イオン交換を用いる、脂肪族骨格系PIL(ポリマーイオン性液体)の調製が提供される。陰イオン交換用の金属塩は、式IVに記載されているような、メチルスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、及びp−トルエンスルホネートの金属塩並びに他の塩から選択される。金属ハロゲン化物は遠心分離又はその他の公知の技法によって分離される。所望のポリマーイオン性液体は上澄み溶液を蒸発させることによって得られる(スキーム2参照)。
【0066】
さらに、陰イオン交換塩は、カルボキシラート、スルホネート、ハロゲン、NO、NO、PO、BF、HPO−N(SOCF、HPO、HSO、S、ClO、BrO、CrO、HCO、C、MnO、NH、FeCl、PF、(CN)、C1634PO、C1225、SCN、CH=CHCOOCHCHCHSO、CH=CHSO、及びCCOSNの金属塩から選択されてもよい。
【0067】
PILの陰イオン交換は、公知のVolhard法によって、形成されたPILにおける塩素含有量を見積もることによって評価する。[G.H.Jeffery,J.Bassett,J.Mendham and C.Denney,Vogel’s Textbook of Quantitative Chemical Analysis,British Library Cataloguing in Publication Data,5th edn,1989,pp.355−356.]、
【0068】
【化7】
【0069】
種々の重量比におけるPBI:P[DADMA][TFMS]のブレンド膜の調製プロセスは、適切な溶媒の存在下で、室温でPBI及びPIL溶液を混合すること、続いて撹拌して、上昇させた温度で溶液を流延することにより緻密なブレンド膜を得ること、を含む。膜又はフィルムを剥がして、減圧下で乾燥させるが、ここで、ブレンド膜の厚さは25〜300μmの範囲である。上昇させた温度とは70〜200℃の範囲であり、好適な有機溶媒は、トルエン、DMSO、DMAc、及びこれらと同様のものからなる群から選択される。
【0070】
ブレンド膜をさらにリン酸でドーピングする。ある実施形態において、本発明では、P[DADMA][TFMS]−5、PBI+P[DADMA][TFMS]−15、PBI+P[DADMA][TFMS]−25、PBI+P[DADMA][TFMS]−35、及びPBI+P[DADMA][TFMS]−45のポリマーブレンド膜が開示される。
【0071】
本発明では、130℃及び0.5トンcm−2の圧力でホットプレスすることによってアノードとカソード電極との間にはさまれた、PBI及びP[DADMA][TFMS]のリン酸ドーピングしたブレンド膜を含む単セル膜電極接合体(Menbrane Electrode Assembly、MEA)が提供される。別の実施形態において、本発明では、PBI及びP[DADMA][TFMS]を含むブレンド膜の特性評価が開示される。PBI、PIL、及びブレンド膜の物理的性質は、下記表1に示す。
【0072】
さらに、本ブレンド膜の加水分解安定性及び酸化安定性について評価したが、PBI+P[DADMA][TFMS]ブレンド膜は2週間を超えて加水分解安定性である。ブレンド、好ましくは、PBI+P[DADMA][TFMS]の酸化安定性は、P[DADMA][TFMS]濃度の増加とともに低下する(表2を参照のこと)。
【0073】
PBI+P[DADMA][TFMS]ブレンド膜は、室温で(1〜17M)HPO中でドーピングする。HPOの濃度は膜のドーピングレベルに直接比例しており、燃料電池用途に有用な、安定な膜をもたらす。種々の酸モル濃度(1M〜17M)におけるブレンド膜のドーピングレベルは、1〜25mol/RUの範囲である(表3を参照のこと)。
【0074】
PBI+P[DADMA][TFMS]系ブレンド膜のガス透過率は、35℃で、20気圧の上流圧力下で測定される。ブレンドPBI:P[DADMA][TFMS]の水素ガス透過率は、0.40〜1.0バーラーの範囲であるが、酸素透過性は0.005〜0.05バーラーの範囲である(表4を参照のこと)。
【0075】
ブレンド膜のプロトン伝導率は、セルでインピーダンス分析計によって行われるが、ここで、電解質膜は2つの対称的な金被覆ステンレス鋼電極の間にはさまれ、Ptワイヤーによって分析計に接続されており、50〜150℃における異なる温度範囲で、5〜20mVの振幅で10Hz〜1MHzの周波数範囲において行われる。
【0076】
ブレンドは、プロトン伝導率(σ)が、30〜150℃の範囲の温度で0.01〜0.08S/cmの範囲である(図2を参照のこと)。ブレンドはそのヒドロキシルイオン伝導率について検討される。得られた最大の出力密度及び電流密度は、PBI−PIL25系MEAについて、それぞれ515mWcm−2及び1632mAcm−2であった。
【0077】
このように、本発明の安定なブレンド膜によってH+及びOH−イオンを透過させるための興味深い組み合わせを可能にし、この組み合わせは高温でのプロトン交換膜系燃料電池(PEMFC)の作動に有用である。
【0078】
本発明は、高温PEMFC用の膜電解質としての、本発明のブレンド膜の使用に関する。本発明を、ここで、実施例の助けを借りて説明する。
【実施例】
【0079】
下記の実施例は、本発明が実際に行われた場合の操作を示すことによって記載されているが、本発明の範囲を限定するものとして解釈されてはならないものである。
【0080】
<実施例1:ポリベンズイミダゾール(PBI−I)の合成>
【0081】
以前に報告されたように[S.C.Kumbharkar,P.B.Karadkar and U.K.Kharul,J.Membr.Sci.,2006,281−286,161]、ポリベンズイミダゾールをDAB及びイソフタル酸の重縮合反応によって合成した(PBI−I)。機械式撹拌機、N導入口、及びCaCl乾燥管を備えた三口フラスコに、300gのPPA、10g(0.04667mol)のDABを加えて、温度を140℃に上げた。DABの溶解後、0.04667molのイソフタル酸を加えて、温度を170℃に徐々に上げて、Nの一定流量下で5時間維持した。温度をさらに210℃に上げて、12時間維持した。水中での沈殿によってポリマーを得た。これを破砕して、水で完全に洗浄して、16時間10%NaHCO中に保持して、続いて、濾液が中性のpHになるまで水洗浄した。次いで、ポリマーをアセトン中に16時間浸して、濾過して、真空オーブンにおいて7日間100℃で乾燥させた。DMAc(3%w/v)中に溶解させることによるさらなる精製及び水中での再沈殿によって、黄色に着色した繊維質ポリマーを与えた。
【0082】
<実施例2:ポリマーイオン性液体(PIL)の合成>
【0083】
脂肪族骨格系PIL(ポリマーイオン性液体)の調製のために、P[DADMA][Cl]の陰イオン交換を行った。つまり、水中でP[DADMA][Cl]の8%溶液を調製して、周辺温度で撹拌しながら、メチルスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、及びp−トルエンスルホネートのAg塩を等モル量でそれぞれ加えた。Clが陰イオンと置換されていくにつれて、AgClが析出した。最大限可能な交換を確実にするために、撹拌は24時間続けた。混合物を12000rpmで遠心分離して、AgClを分離した。上澄み溶液を蒸発させることによって、生成物ポリマーが得られた。
【0084】
PILの陰イオン交換は、形成されたPIL中の塩素含有量をVolhardの方法[G.H.Jeffery,J.Bassett,J.Mendham and C.Denney,Vogel’s Textbook of Quantitative Chemical Analysis,British Library Cataloguing in Publication Data,5th edn,1989,pp.355−356.]で見積もることによって評価した;ここで、粉末形態の0.1gのPILを0.01MのAgNO溶液20ml中で24時間撹拌した。過剰の未反応AgNOを、0.01MのKSCNで滴定した。初めに消費したAgNOの量から、PIL中の塩素含有量(及びそれによる陰イオン交換)を見積もった。
【0085】
【化8】
【0086】
<実施例3:PBI−I及びP[DADMA][TFMS]系ブレンド膜の調製>
【0087】
PBI−I:PILブレンド膜を、それらの重量比95:5、85:15、75:25、65:35、55:45で調製した。PBI−Iを、継続的に撹拌しながら80℃で12時間かけてDMAcに溶解させて(3%溶液)、P[DADMA][TFMS]を、室温で12時間撹拌することにより最小量10mlのDMSOに溶解させた。続いて、PIL溶液を、撹拌しながら室温でPBI−Iの溶液に加えて、続いて最大限の混合が確実になるように24時間撹拌した。この混合溶液を、オーブンにおいて90℃で24時間かけて平らなガラス表面に流延することによって、緻密なブレンド膜を得た。形成したフィルムを剥がして、残存溶媒を除去するために真空オーブンにおいて80℃で8日間乾燥させた。測定したプロトン伝導率用の膜の平均厚さはおよそ70μmであった。
【0088】
固有粘度(ηinh)は、35℃で、DMSO中の0.2g/dLのPBI溶液を使用して求めた(図3)。
【0089】
<実施例4:a.スペクトル及び物理化学的特性評価>
【0090】
すべてのPBI−PILブレンド膜のFTIRスペクトルにおいて、PILのスルホン基(1030cm−1)だけでなくPBIのベンズイミダゾールに対応する典型的なバンドが示された(1430、1600及び1620cm−1)(図4)。図4から、ブレンド中のPIL含有量の増加とともに、元のPBI中に存在している、3434cm−1における遊離の非水素結合のN−H伸縮バンドが大幅に広がって、低周波数へシフトしたことを示していることは明らかである。赤色のシフト及びピークの広がりはPBIのPILとの間の相互作用を表す。このように、混合可能なブレンドをもたらすためには、PBIのイミダゾールN−H及びPILのイオン性の相互作用が重要であることが結論付けられた。
【0091】
b.ブレンドの熱的性質を、N雰囲気下でTGA及びDSCによって検討した(図6及び7)。
【0092】
PBI及びPILの分解温度は、それぞれおよそ600℃及び375℃であった。ブレンド膜については、2段階の分解パターンが観察された(図6)。およそ240℃で始まる第1の分解は、およそ15%の重量損失に対応する。この温度は、いずれの前駆体ポリマーのIDT(熱分解開始温度)よりもはるかに低いものであることが観察された。これらの試料は、分析前に7日間かけて真空オーブンにおいて100℃で乾燥させて、TGAを記録する前にもう一度最高150℃の温度にさらしたので、観察された15%の重量損失を伴う分解は、水の存在に起因するものではない可能性がある。PILの陰イオンがPBIのN−H基との相互作用によってより不安定になり、重量損失の原因になった可能性はある。400℃より高い温度で始まる第2の急激な分解は、PIL骨格の分解に関連づけることができる。PILの炭化収率がPBIのそれよりはるかに低いため、予想されるように、900℃でのブレンド膜の炭化収率は、PILの量が増加するにつれて減少した。元のPBIと比較して、ブレンド膜の熱的安定性は低下したが、HT−PEMFC用の膜としての適用可能性にとっては十分に高いものであった(240℃以上)。
【0093】
PBI、PIL、及び異なる組成を有するそれらのブレンドのDSCサーモグラムを図7に示す。
【0094】
すべてのブレンド膜のTはFox式によって予測されるより高く、個々のブレンド成分において強い相互作用が存在することを示した。ブレンドの単一のTは、個々の成分(PBI及びPIL)のガラス転移温度間に存在しており、本PBI−PILブレンドの混合可能な性質をさらに確証する(表1)。
【0095】
ブレンド膜はすべて、熱的及び機械的に安定であり、高温プロトン交換膜燃料電池に使用してもよい。熱的及び機械的安定性を、N中のTGA及び引張強度試験によってそれぞれ検討した。物理的性質を下記の表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
<実施例5:ブレンド膜の加水分解及び酸化安定性の分析>
【0098】
矩形でサイズ2×1cm及び厚さ90〜100μmの膜試料の加水分解安定性を、それらを脱イオン水中に80℃で浸すことによって評価した。水浴は30rpmの低速度で絶えず振盪するように調節した。次いで、加水分解安定性を、フレキシビリティの損失により少し曲げたときにフィルムが破損するのに必要とされる浸漬時間を記録することによって求めた。ブレンド膜はすべて、2週間を超えて加水分解安定性を有する。
【0099】
すべてのブレンド膜の酸化安定性は、膜が破損する経過時間、又は80℃でフェントン試薬(3%H及び3ppmFeSO)へ完全溶解する経過時間を求めることにより検討した。
【0100】
【表2】
【0101】
酸化安定性は、PBI−I>PBI+P[DADMA][TFMS]−5>PBI+P[DADMA][TFMS]−15>PBI+P[DADMA][TFMS]−25>PBI+P[DADMA][TFMS]−35>PBI+P[DADMA][TFMS]−45の順に減少する(表1)。
【0102】
<実施例6:ブレンド膜の酸ドーピング>
【0103】
ブレンド膜はすべて、15MのHPO中、室温で3日間かけてドーピングした。酸の濃度変化を回避するために、ドーピングは閉鎖容器中で行った。酸ドーピングの後、ブレンド膜を酸溶液から取り出して、濾紙で拭って、重量及び寸法を測定した。乾燥膜のHPOドーピング(100℃、1週間)を重量測定法によって求めた。酸取り込みの計算のために、下記の式[Kumbharkar,2009]を使用した。
【0104】
【数1】
【0105】
図1は、HPOの浴濃度の増加とともに、膜のドーピングレベルが上昇したことを示す。形成された膜が、15MのHPO中でさえ安定であり、このように燃料電池用途に有用であることが観察されたことは心強い。ドーピングレベルのデータを下記の表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
<実施例7:PBI及び[PDADMA][TFMS]系ブレンド膜のガス透過率分析>
【0108】
ブレンド膜のガス透過率を求めるために、可変容積法を使用した。浸透するガスの体積を測定するために、浸透側を大気圧に維持しながら、使用した上流圧力は35℃で20気圧とした。セルの浸透側を、少量の水銀粒(長さ0.5cm)を有する較正したガラスキャピラリーにつないだ。浸透したガスの体積は水銀粒の移動によって求めた。透過率は下記の式を使用して計算した。
【0109】
【数2】
【0110】
式中:Pはバーラーで表した透過係数であり;P及びPはそれぞれ浸透側及び供給側圧力(cmHg)であり;lは膜厚(cm)であり;Nは定常状態での流束(cm/s)である。透過測定は、同一条件下に調製した少なくとも3つの異なる膜試料を用いて繰り返した。透過率測定における変動は5〜10%であった。透過率のデータを下記の表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
<実施例8:PBI及び[PDADMA][TFMS]系ブレンド膜の伝導率>
【0113】
電解質膜のイオン伝導率測定は、セルを伴うインピーダンス分析計によって行い、ここで、電解質膜は2つの対称的な金被覆ステンレス鋼電極の間にはさまれており、Ptワイヤーによって分析計に接続している。インピーダンス測定は、50〜200℃の範囲における異なる温度で、10mVの振幅を伴う10Hz〜1MHzの周波数範囲にわたって実施した。測定は、すべて無水条件下で熱的に制御したセル中で実施した。
【0114】
伝導率(σ)は下記のように計算した。
【0115】
【数3】
【0116】
式中、R、L、及びAは、それぞれ、測定した膜の抵抗、厚さ、及び断面積である。プロトン伝導率の結果を図2に示す。
【0117】
伝導率が、温度の上昇並びにPIL含有量の増加とともに上昇することを見いだした。PBI膜のプロトン伝導率は150℃で0.04Scm−1であったが、PBI−PIL45については同じ温度で0.07Scm−1までさらに上昇した。
【0118】
<実施例9:単セル性能>
【0119】
図8は、PBI−I、PBI−PIL15、PBI−PIL25及びPBI−PIL35の、160℃の運転温度における膜電解質としての単セル性能を示す。ブレンド膜(およそ200μm厚)及びPt/C(活性炭に担持した40重量%Pt)を、アノード及びカソード両方の電極におけるPt装填率を1mgcm−2に維持することによって両方の電極における触媒として使用することによって調製した、9cmMEAで性能評価を実施した。160℃でのこれらのMEAの開放回路電位(OCP)及び出力密度は、それぞれ0.88、0.94、0.96、0.98V及び277、364、512、440mWcm−2であることを見いだした。より高いOCPであることは、膜を通じたアノードからカソードへの燃料クロスオーバーが欠如していることを示した。得られた最大電流密度は、それぞれ1261、1467、1632及び1478mAcm−2であった。図8に示すように、膜中のPIL含有量は、PILのすべての装填レベルについて、PBI−Iと比較して電池性能を改善した。性能はPBI−PIL25ブレンド組成物について最も高いことが明らかとなった。PIL含有率が35%までさらに増加すると、電気化学性能は低下し、このことはブレンド膜においてPBI及びPIL含有量のバランスが必要であることを示す。
【0120】
<発明の効果>
* 膜は加水分解安定性を有する
* 膜は酸化安定性を有する
* 膜は高められたプロトン伝導率を有する
* 燃料電池などの電気化学用途に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9