【実施例】
【0079】
下記の実施例は、本発明が実際に行われた場合の操作を示すことによって記載されているが、本発明の範囲を限定するものとして解釈されてはならないものである。
【0080】
<実施例1:ポリベンズイミダゾール(PBI−I)の合成>
【0081】
以前に報告されたように[S.C.Kumbharkar,P.B.Karadkar and U.K.Kharul,J.Membr.Sci.,2006,281−286,161]、ポリベンズイミダゾールをDAB及びイソフタル酸の重縮合反応によって合成した(PBI−I)。機械式撹拌機、N
2導入口、及びCaCl
2乾燥管を備えた三口フラスコに、300gのPPA、10g(0.04667mol)のDABを加えて、温度を140℃に上げた。DABの溶解後、0.04667molのイソフタル酸を加えて、温度を170℃に徐々に上げて、N
2の一定流量下で5時間維持した。温度をさらに210℃に上げて、12時間維持した。水中での沈殿によってポリマーを得た。これを破砕して、水で完全に洗浄して、16時間10%NaHCO
3中に保持して、続いて、濾液が中性のpHになるまで水洗浄した。次いで、ポリマーをアセトン中に16時間浸して、濾過して、真空オーブンにおいて7日間100℃で乾燥させた。DMAc(3%w/v)中に溶解させることによるさらなる精製及び水中での再沈殿によって、黄色に着色した繊維質ポリマーを与えた。
【0082】
<実施例2:ポリマーイオン性液体(PIL)の合成>
【0083】
脂肪族骨格系PIL(ポリマーイオン性液体)の調製のために、P[DADMA][Cl]の陰イオン交換を行った。つまり、水中でP[DADMA][Cl]の8%溶液を調製して、周辺温度で撹拌しながら、メチルスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、及びp−トルエンスルホネートのAg塩を等モル量でそれぞれ加えた。Cl
−が陰イオンと置換されていくにつれて、AgClが析出した。最大限可能な交換を確実にするために、撹拌は24時間続けた。混合物を12000rpmで遠心分離して、AgClを分離した。上澄み溶液を蒸発させることによって、生成物ポリマーが得られた。
【0084】
PILの陰イオン交換は、形成されたPIL中の塩素含有量をVolhardの方法[G.H.Jeffery,J.Bassett,J.Mendham and C.Denney,Vogel’s Textbook of Quantitative Chemical Analysis,British Library Cataloguing in Publication Data,5th edn,1989,pp.355−356.]で見積もることによって評価した;ここで、粉末形態の0.1gのPILを0.01MのAgNO
3溶液20ml中で24時間撹拌した。過剰の未反応AgNO
3を、0.01MのKSCNで滴定した。初めに消費したAgNO
3の量から、PIL中の塩素含有量(及びそれによる陰イオン交換)を見積もった。
【0085】
【化8】
【0086】
<実施例3:PBI−I及びP[DADMA][TFMS]系ブレンド膜の調製>
【0087】
PBI−I:PILブレンド膜を、それらの重量比95:5、85:15、75:25、65:35、55:45で調製した。PBI−Iを、継続的に撹拌しながら80℃で12時間かけてDMAcに溶解させて(3%溶液)、P[DADMA][TFMS]を、室温で12時間撹拌することにより最小量10mlのDMSOに溶解させた。続いて、PIL溶液を、撹拌しながら室温でPBI−Iの溶液に加えて、続いて最大限の混合が確実になるように24時間撹拌した。この混合溶液を、オーブンにおいて90℃で24時間かけて平らなガラス表面に流延することによって、緻密なブレンド膜を得た。形成したフィルムを剥がして、残存溶媒を除去するために真空オーブンにおいて80℃で8日間乾燥させた。測定したプロトン伝導率用の膜の平均厚さはおよそ70μmであった。
【0088】
固有粘度(η
inh)は、35℃で、DMSO中の0.2g/dLのPBI溶液を使用して求めた(
図3)。
【0089】
<実施例4:a.スペクトル及び物理化学的特性評価>
【0090】
すべてのPBI−PILブレンド膜のFTIRスペクトルにおいて、PILのスルホン基(1030cm
−1)だけでなくPBIのベンズイミダゾールに対応する典型的なバンドが示された(1430、1600及び1620cm
−1)(
図4)。
図4から、ブレンド中のPIL含有量の増加とともに、元のPBI中に存在している、3434cm
−1における遊離の非水素結合のN−H伸縮バンドが大幅に広がって、低周波数へシフトしたことを示していることは明らかである。赤色のシフト及びピークの広がりはPBIのPILとの間の相互作用を表す。このように、混合可能なブレンドをもたらすためには、PBIのイミダゾールN−H及びPILのイオン性の相互作用が重要であることが結論付けられた。
【0091】
b.ブレンドの熱的性質を、N
2雰囲気下でTGA及びDSCによって検討した(
図6及び7)。
【0092】
PBI及びPILの分解温度は、それぞれおよそ600℃及び375℃であった。ブレンド膜については、2段階の分解パターンが観察された(
図6)。およそ240℃で始まる第1の分解は、およそ15%の重量損失に対応する。この温度は、いずれの前駆体ポリマーのIDT(熱分解開始温度)よりもはるかに低いものであることが観察された。これらの試料は、分析前に7日間かけて真空オーブンにおいて100℃で乾燥させて、TGAを記録する前にもう一度最高150℃の温度にさらしたので、観察された15%の重量損失を伴う分解は、水の存在に起因するものではない可能性がある。PILの陰イオンがPBIのN−H基との相互作用によってより不安定になり、重量損失の原因になった可能性はある。400℃より高い温度で始まる第2の急激な分解は、PIL骨格の分解に関連づけることができる。PILの炭化収率がPBIのそれよりはるかに低いため、予想されるように、900℃でのブレンド膜の炭化収率は、PILの量が増加するにつれて減少した。元のPBIと比較して、ブレンド膜の熱的安定性は低下したが、HT−PEMFC用の膜としての適用可能性にとっては十分に高いものであった(240℃以上)。
【0093】
PBI、PIL、及び異なる組成を有するそれらのブレンドのDSCサーモグラムを
図7に示す。
【0094】
すべてのブレンド膜のT
gはFox式によって予測されるより高く、個々のブレンド成分において強い相互作用が存在することを示した。ブレンドの単一のT
gは、個々の成分(PBI及びPIL)のガラス転移温度間に存在しており、本PBI−PILブレンドの混合可能な性質をさらに確証する(表1)。
【0095】
ブレンド膜はすべて、熱的及び機械的に安定であり、高温プロトン交換膜燃料電池に使用してもよい。熱的及び機械的安定性を、N
2中のTGA及び引張強度試験によってそれぞれ検討した。物理的性質を下記の表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
<実施例5:ブレンド膜の加水分解及び酸化安定性の分析>
【0098】
矩形でサイズ2×1cm
2及び厚さ90〜100μmの膜試料の加水分解安定性を、それらを脱イオン水中に80℃で浸すことによって評価した。水浴は30rpmの低速度で絶えず振盪するように調節した。次いで、加水分解安定性を、フレキシビリティの損失により少し曲げたときにフィルムが破損するのに必要とされる浸漬時間を記録することによって求めた。ブレンド膜はすべて、2週間を超えて加水分解安定性を有する。
【0099】
すべてのブレンド膜の酸化安定性は、膜が破損する経過時間、又は80℃でフェントン試薬(3%H
2O
2及び3ppmFeSO
4)へ完全溶解する経過時間を求めることにより検討した。
【0100】
【表2】
【0101】
酸化安定性は、PBI−I>PBI+P[DADMA][TFMS]−5>PBI+P[DADMA][TFMS]−15>PBI+P[DADMA][TFMS]−25>PBI+P[DADMA][TFMS]−35>PBI+P[DADMA][TFMS]−45の順に減少する(表1)。
【0102】
<実施例6:ブレンド膜の酸ドーピング>
【0103】
ブレンド膜はすべて、15MのH
3PO
4中、室温で3日間かけてドーピングした。酸の濃度変化を回避するために、ドーピングは閉鎖容器中で行った。酸ドーピングの後、ブレンド膜を酸溶液から取り出して、濾紙で拭って、重量及び寸法を測定した。乾燥膜のH
3PO
4ドーピング(100℃、1週間)を重量測定法によって求めた。酸取り込みの計算のために、下記の式[Kumbharkar,2009]を使用した。
【0104】
【数1】
【0105】
図1は、H
3PO
4の浴濃度の増加とともに、膜のドーピングレベルが上昇したことを示す。形成された膜が、15MのH
3PO
4中でさえ安定であり、このように燃料電池用途に有用であることが観察されたことは心強い。ドーピングレベルのデータを下記の表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
<実施例7:PBI及び[PDADMA][TFMS]系ブレンド膜のガス透過率分析>
【0108】
ブレンド膜のガス透過率を求めるために、可変容積法を使用した。浸透するガスの体積を測定するために、浸透側を大気圧に維持しながら、使用した上流圧力は35℃で20気圧とした。セルの浸透側を、少量の水銀粒(長さ0.5cm)を有する較正したガラスキャピラリーにつないだ。浸透したガスの体積は水銀粒の移動によって求めた。透過率は下記の式を使用して計算した。
【0109】
【数2】
【0110】
式中:Pはバーラーで表した透過係数であり;P
1及びP
2はそれぞれ浸透側及び供給側圧力(cmHg)であり;lは膜厚(cm)であり;Nは定常状態での流束(cm
3/s)である。透過測定は、同一条件下に調製した少なくとも3つの異なる膜試料を用いて繰り返した。透過率測定における変動は5〜10%であった。透過率のデータを下記の表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
<実施例8:PBI及び[PDADMA][TFMS]系ブレンド膜の伝導率>
【0113】
電解質膜のイオン伝導率測定は、セルを伴うインピーダンス分析計によって行い、ここで、電解質膜は2つの対称的な金被覆ステンレス鋼電極の間にはさまれており、Ptワイヤーによって分析計に接続している。インピーダンス測定は、50〜200℃の範囲における異なる温度で、10mVの振幅を伴う10Hz〜1MHzの周波数範囲にわたって実施した。測定は、すべて無水条件下で熱的に制御したセル中で実施した。
【0114】
伝導率(σ)は下記のように計算した。
【0115】
【数3】
【0116】
式中、R、L、及びAは、それぞれ、測定した膜の抵抗、厚さ、及び断面積である。プロトン伝導率の結果を
図2に示す。
【0117】
伝導率が、温度の上昇並びにPIL含有量の増加とともに上昇することを見いだした。PBI膜のプロトン伝導率は150℃で0.04Scm
−1であったが、PBI−PIL
45については同じ温度で0.07Scm
−1までさらに上昇した。
【0118】
<実施例9:単セル性能>
【0119】
図8は、PBI−I、PBI−PIL
15、PBI−PIL
25及びPBI−PIL
35の、160℃の運転温度における膜電解質としての単セル性能を示す。ブレンド膜(およそ200μm厚)及びPt/C(活性炭に担持した40重量%Pt)を、アノード及びカソード両方の電極におけるPt装填率を1mgcm
−2に維持することによって両方の電極における触媒として使用することによって調製した、9cm
2MEAで性能評価を実施した。160℃でのこれらのMEAの開放回路電位(OCP)及び出力密度は、それぞれ0.88、0.94、0.96、0.98V及び277、364、512、440mWcm
−2であることを見いだした。より高いOCPであることは、膜を通じたアノードからカソードへの燃料クロスオーバーが欠如していることを示した。得られた最大電流密度は、それぞれ1261、1467、1632及び1478mAcm
−2であった。
図8に示すように、膜中のPIL含有量は、PILのすべての装填レベルについて、PBI−Iと比較して電池性能を改善した。性能はPBI−PIL
25ブレンド組成物について最も高いことが明らかとなった。PIL含有率が35%までさらに増加すると、電気化学性能は低下し、このことはブレンド膜においてPBI及びPIL含有量のバランスが必要であることを示す。
【0120】
<発明の効果>
* 膜は加水分解安定性を有する
* 膜は酸化安定性を有する
* 膜は高められたプロトン伝導率を有する
* 燃料電池などの電気化学用途に有用である。