(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6523346
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】使用済み触媒からの白金族金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/06 20060101AFI20190520BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20190520BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20190520BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20190520BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20190520BHJP
B01J 38/42 20060101ALI20190520BHJP
B01J 38/00 20060101ALI20190520BHJP
B01J 38/48 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
C22B11/06
C22B7/00 B
B09B3/00 304L
B09B5/00 Z
B01J23/42 A
B01J23/42 M
B01J38/42
B01J38/00 301T
B01J38/00 C
B01J38/48 C
【請求項の数】25
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-574112(P2016-574112)
(86)(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公表番号】特表2017-521557(P2017-521557A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(86)【国際出願番号】IL2015050621
(87)【国際公開番号】WO2015193901
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】62/014,209
(32)【優先日】2014年6月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/136,762
(32)【優先日】2015年3月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルボミルスキー、イゴール
(72)【発明者】
【氏名】カプラン、ヴァレリー
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05102632(US,A)
【文献】
特開平03−013532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/06
B01J 23/42
B01J 38/00
B01J 38/42
B01J 38/48
B09B 3/00
B09B 5/00
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み触媒から白金族金属を回収する方法であって、前記方法が、
前記使用済み触媒を粉砕して、所定の粒径を有する粒子を含む触媒粒子状材料を得ること;
塩素含有ガスを準備し、前記塩素含有ガスを反応区域に供給すること;
前記反応区域において、前記触媒粒子状材料を前記塩素含有ガスと接触させることによって、前記触媒粒子状材料を所定の温度で所定の時間行う塩素化処理に付し、揮発性白金族金属含有塩化物を得ること;
前記反応区域において前記塩素含有ガスに電磁場を印加して塩素をイオン化し、これにより白金族金属との間の化学反応を生じさせること;及び
前記揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を冷却して、前記揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を固相白金族金属含有材料に変換すること
を含み、
前記方法は、前記触媒粒子状材料を前記塩素化処理に付す前に、前記触媒粒子状材料に塩化物水溶液を含浸させることをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記塩化物水溶液が、1種以上の塩化物塩と、1種以上の次亜塩素酸塩とを水中で溶解することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩化物水溶液中の前記1種以上の塩化物塩の濃度が15重量パーセント〜40重量パーセントであり、前記1種以上の次亜塩素酸塩の濃度が5重量パーセント〜15重量パーセントであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩化物塩がアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、塩化アルミニウム及び/または塩化アンモニウムから選択され、前記次亜塩素酸塩がアルカリ金属次亜塩素酸塩及び/またはアルカリ土類金属次亜塩素酸塩から選択されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒粒子状材料に前記塩化物水溶液を含浸させることが、前記触媒粒子状材料を、前記触媒粒子状材料が浸漬されるまで前記塩化物水溶液中に浸すことを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒粒子状材料の前記所定の粒径が100ミクロン〜300mmであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記塩素含有ガス中の塩素の量が、前記使用済み触媒1キログラムあたり1グラム〜200グラムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記塩素含有ガスが、塩素と、大気とを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記塩素含有ガスが、塩素と、酸素とを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記塩素含有ガス中の塩素含有量が0.1重量パーセント〜95重量パーセントであり、前記塩素含有ガス中の酸素含有量が0.1重量パーセント〜25重量パーセントであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記反応区域内の前記所定の温度が300℃〜1100℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記触媒粒子状材料を加熱する前記所定の時間が10分〜120分であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記反応区域に印加する前記電磁場の周波数が50kHz〜12GHzであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記反応区域に印加する前記電磁場の放射照度が0.1kW/cm2〜10kW/cm2であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記塩素含有ガスに前記電磁場を印加して塩素をイオン化することを、5分〜180分の時間行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記反応区域において前記触媒粒子状材料を加熱することを、前記塩素含有ガスに前記電磁場を印加することと同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記塩素含有ガスを準備することが、塩素含有材料を準備することと、塩素生成区域において、前記塩素含有材料を前記塩素含有材料の分解温度で加熱して、これにより前記塩素含有材料の熱分解を生じさせ、前記塩素含有ガスを生成させることとを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記塩素含有材料が、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸バリウム、塩化−次亜塩素酸カリウム、塩化−次亜塩素酸ナトリウム、塩化−次亜塩素酸カルシウム、塩化−亜塩素酸マグネシウム、塩化−次亜塩素酸バリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、塩酸及びそれらの任意の組合せから選択される粒子状材料であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記塩素含有材料が、次亜塩素酸カルシウムと塩化カルシウムの組成物であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記次亜塩素酸カルシウムと前記塩化カルシウムの組成物中の前記次亜塩素酸カルシウムの量が、5重量パーセント〜80重量パーセントであることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記塩素含有材料を加熱することを、150℃〜400℃で行うことを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記塩素含有材料を前記塩素含有材料の分解温度で加熱して、これにより前記塩素含有材料の熱分解を生じさせ、前記塩素含有ガスを生成させることを、5分〜120分の時間行うことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項23】
使用済み触媒から白金族金属を回収する装置であって、前記装置が、
触媒粒子状材料入口;
反応区域を備えた塩素化反応器;
塩素含有ガス入口;
ヒーター;
電磁誘導器;及び
白金族金属含有蒸気出口、及び1つ以上の対応する冷却マニホールドであって、白金族金属含有蒸気が前記冷却マニホールドを通って前記反応区域から放出される冷却マニホールド;
を備えた装置であって、
触媒粒子状材料が前記触媒粒子状材料入口へ供給され、前記反応区域において、前記ヒーターにより得られる所定の温度で、前記塩素化反応器からの塩素含有ガスで処理され、前記反応区域において前記塩素含有ガスに電磁場を印加して塩素をイオン化し、これにより白金族金属と前記塩素含有ガスとの間の化学反応が生じて、揮発性白金族金属含有塩化物の生成物が得られるように構成され、
前記触媒粒子状材料は、塩化物水溶液が含浸されているものであることを特徴とする装置。
【請求項24】
前記電磁誘導器が、前記塩素含有ガスと前記触媒粒子状材料の混合物に電磁場を印加するように構成されることを特徴とする請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記塩素含有ガスを供給するための貯蔵タンクをさらに含むことを特徴とする請求項23に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属及びレアメタルの分離及び回収に利用される冶金技術に関しており、詳細には、使用済み触媒からの白金族金属の回収装置及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族金属、例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)などはよく知られた貴金属であり、宝石や装飾品、電子機器、電話回線、歯科合金などといった多くの工業用途で重要な役割を果たしている。白金及びパラジウムは、石油工業または自動車工業においてそれぞれ改質触媒及び水素化触媒としても長く使用されている。触媒では、少量の白金またはパラジウムが大量の担体材料中に含まれており、典型的にはアルミナ、ジルコニアまたはシリカに担持された金属被覆として含まれている。
【0003】
白金またはパラジウムを含有する石油工業触媒または自動車工業触媒は、通常、触媒機能が低下した際に廃棄される。この触媒中のパラジウム含有量は、通常、0.4質量パーセント〜5.0質量パーセントで変動する。同様に、白金、ルテニウム及びオスミウムの含有量は、0.1質量パーセント〜0.5質量パーセントで変動し得る。使用済み触媒は、1.5〜2.5質量パーセントのレニウム、及び3.0〜5.0質量パーセントのバナジウムも含有してもよい。白金族金属の天然存在比が低いこと、価格が高いこと、及び様々な工業分野で需要が増加していることに起因して、様々な使用済み材料から白金族金属を回収し精製することが、非常に有利となり得る。従って、使用済み触媒から貴金属を効率的に回収すること及び精製することには、経済的な利益がある。
【0004】
使用済みの石油工業触媒または自動車工業触媒中の白金及びパラジウムは、様々な湿式冶金技術または乾式冶金技術により回収することができる。湿式冶金処理は概して粉砕(例えば、すり砕き及び摩砕)段階、浸出段階、濾過段階、及び洗浄段階を含み、その後、溶液からパラジウムを抽出する(セメンテーションまたは電気化学的方法)。この処理は、酸性廃液、濾塊及び酸性排ガスの中和も含んでもよい。
【0005】
例えば米国特許第6,455,018号明細書(特許文献1)では、使用済み触媒コンバーターから白金、パラジウム及びロジウムなどの貴金属を抽出する複雑な非選択的方法が記載されており、この方法では、触媒を粉砕し、硫酸で処理し、この混合物を150℃〜450℃でか焼し、塩化物及び塩酸で浸出させて、固体残渣と共に貴金属及び任意の他の金属の溶液を得ることによって抽出する。
【0006】
基本的には、湿式冶金処理には3つのプロセス経路がある。第1の経路は、アルミナまたはジルコニア触媒担持体の部分的な破壊と、塩素ガスを用いた高温塩素化を含む。この場合では、パラジウムは完全に溶液または融解物へと変化し、支持体は部分的に溶液または融解物へと変化する。白金またはパラジウムは、例えば浸出液を使用して触媒担持体から直接抽出することができる。よって、この触媒は、例えば硝酸、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム及び塩素ガスなどの酸化剤を含む王水中または塩酸中で浸出させることができる。
【0007】
第2の経路は、アルミナまたはジルコニア触媒担持体の完全破壊を含む。この経路では、パラジウムとアルミナは共に溶液または融解物へと変化する。この経路は、アルミナ担体を完全に溶解させ、これにより不溶性またはわずかな可溶性の白金とパラジウムとを残渣に濃縮することに基づいている。
【0008】
第3の経路は、溶液中または金属回収剤中でパラジウムを選択的に溶解させ、さらに金属分離し、アルミナまたはジルコニア触媒担体を破壊することなくパラジウムを抽出するプロセスを含む。この場合では、パラジウムは完全に溶液または融解物へと変化し、アルミナは不溶性形態のままである。
【0009】
触媒からの白金族金属の回収について、従来の湿式冶金プロセスが不利な点は、多段階プロセスであること、大量の酸性廃液またはアルカリ性廃液が生成することに関連する。同様に、これらのプロセスは、このプロセスのセメンテーション段階において溶液から白金族金属を抽出することに対し比較的多い量の金属回収剤(例えば、ZnまたはAl)を必要とし、通常、化学量論量よりも7〜8倍多い量を必要とする。
【0010】
従来の白金族金属回収用の触媒の乾式冶金処理は、概して粉砕(すり砕き及び摩砕)段階と溶錬段階とを含み、その後、例えば電気化学的方法により金属回収剤から金属を分離し、パラジウムを抽出する。この処理は、スラグ処理と酸性排ガスの中和を伴う。
【0011】
使用済み石油工業触媒または自動車工業触媒中の貴金属は、高温での塩素化によっても回収することができる。
【0012】
例えば米国特許第3,951,648号明細書(特許文献2)では、5パーセント未満のパラジウム含有量を有する使用済み触媒からパラジウムを回収するプロセスが記載されている。この方法は、パラジウムを蒸発させるのに十分な温度で、気体の塩素化有機化合物と触媒を接触させることと、生成した塩素化パラジウム誘導体を回収するためこの気相を冷却することとを含む。
【0013】
米国特許第5,102,632号明細書(特許文献3)では、使用済み触媒から、白金、パラジウム及びロジウムなどの貴金属混合物の貴金属含有物を回収する2段階の方法が記載されている。この方法は、還元剤(例えば、少しずつの二酸化硫黄及び一酸化炭素)存在下での気体の塩素化剤による、高温での第1の還元的塩素化を含む。この方法は、ウォッシュコートまたは下にあるセラミックのいずれかの塩素化から生成する三塩化アルミニウムの量を最小限にすること、及びこの三塩化アルミニウムまたは他のウォッシュコート塩化物を貴金属塩素化生成物から分離し、これにより貴金属塩化物を濃縮した形態で回収することも含む。上記の分離は、還元雰囲気下、貴金属塩素化生成物の蒸発温度よりも低い温度で、三塩化アルミニウムまたは他のウォッシュコート塩化物を昇華させることによって行う。第2段階として、塩素のみの雰囲気下、温度をさらに上昇させて三塩化ロジウムを蒸発させ、第1段階の還元的塩素化で以前に蒸発させた塩化パラジウム及び塩化白金とは別に回収する。
【0014】
使用済み触媒の処理の分野において先行技術があるにもかかわらず、使用済み触媒から白金族金属を回収するために、石油化学工業、化学工業及び自動車工業からの使用済み触媒を再生利用する技術のさらなる改善に対して、この技術における要求がいまだに存在する。
【0015】
穏和な条件で選択的且つ効率的にパラジウム及び/または他の白金族金属を抽出することができる、環境影響の低い薬剤を用いた白金族金属の回収方法及び回収装置を有することも有利であろう。
【0016】
容易に工業化することができ、かなり高い産出量の回収金属をもたらす白金族金属回収方法及び回収装置を有することもまた有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第6455018号明細書
【特許文献2】米国特許第3951648号明細書
【特許文献3】米国特許第5102632号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本開示は、1種以上の白金族金属を含む使用済み触媒から白金族金属を回収する方法を提供することにより、前述の要求を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一実施形態においては、本発明は、使用済み触媒から白金族金属を回収する方法を提供し、この方法は、
上記の使用済み触媒を粉砕して、所定の粒径を有する粒子を含む触媒粒子状材料を得ること;
塩素含有ガスを準備し、この塩素含有ガスを反応区域に供給すること;
上記の反応区域において、上記の触媒粒子状材料を上記の塩素含有ガスと接触させることによって、この触媒粒子状材料を所定の温度で所定の時間行う塩素化処理に付し、揮発性白金族金属含有塩化物を得ること;
選択に応じて、上記の反応区域において上記の塩素含有ガスに電磁場を印加して塩素をイオン化し、これにより白金族金属との間の化学反応を生じさせること;及び
上記の揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を冷却して、この揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を固相白金族金属含有材料に変換すること
を含む。
【0020】
一実施形態においては、本発明は、使用済み触媒から白金族金属を回収する装置を提供し、この装置は、
触媒粒子状材料入口;
反応区域を備えた塩素化反応器;
塩素含有ガス入口;
ヒーター;
選択に応じて、電磁誘導器;
白金族金属含有蒸気出口、及び1つ以上の対応する冷却マニホールドであって、上記の白金族金属含有蒸気がこの冷却マニホールドを通って上記の反応区域から放出される冷却マニホールド;
を備えた装置であって、
触媒粒子状材料が上記の触媒粒子状材料入口へ供給され、上記のヒーターにより得られる所定の温度で、上記の塩素化反応器からの塩素含有ガスで処理され、白金族金属と上記の塩素含有ガスとの間の化学反応が生じて、揮発性白金族金属含有塩化物の生成物が得られるように構成された装置である。
【0021】
本明細書及び特許請求の範囲においては、「白金族金属」という表現は、白金族の全元素、すなわちロジウム、パラジウム、イリジウム、白金、ルテニウム及びオスミウム元素を、単独でも組合せでも指す広義の用語として使用される。
【0022】
本発明の実施形態によれば、上記の方法は、使用済み触媒を粉砕して、所定の粒径を有する粒子を含む触媒粒子状材料を得ることを含む。例えば、この触媒粒子状材料の所定の粒径は、100ミクロン〜300mmであり得る。
【0023】
本発明の実施形態によれば、上記の方法は、塩化物水溶液を準備して、上記の触媒粒子状材料にこの塩化物水溶液を含浸させることを含む。
【0024】
一実施形態によれば、上記の触媒粒子状材料に上記の塩化物水溶液を含浸させることは、この触媒粒子状材料を、この触媒粒子状材料が浸漬されるまで上記の塩化物水溶液中に浸すことを含む。
【0025】
一実施形態によれば、上記の塩化物水溶液を準備することは、1種以上の塩化物塩と、1種以上の次亜塩素酸塩とを水中で溶解することを含む。この塩化物水溶液中の1種以上の塩化物塩の濃度は、例えば約15重量パーセント〜約40重量パーセントであり得、1種以上の次亜塩素酸塩の濃度は、例えば約5重量パーセント〜約15重量パーセントであり得る。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記の塩化物塩はアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、塩化アルミニウム及び/または塩化アンモニウムから選択され、上記の次亜塩素酸塩はアルカリ金属次亜塩素酸塩及び/またはアルカリ土類金属次亜塩素酸塩から選択される。
【0027】
上記の方法は、塩素含有ガスを準備し、この塩素含有ガスを反応区域に供給することも含む。
【0028】
一実施形態によれば、上記の塩素含有ガスは、塩素生成区域において塩素含有材料の分解温度で塩素含有材料を加熱することにより、塩素含有材料から生成させることができる。この分解温度は塩素含有材料の熱分解を生じさせ、よって塩素含有ガスが生成する。
【0029】
塩素含有ガスの生成に好適な塩素含有材料の例としては、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸バリウム、塩化‐次亜塩素酸カリウム、塩化‐次亜塩素酸ナトリウム、塩化‐次亜塩素酸カルシウム、塩化‐次亜塩素酸マグネシウム、塩化‐次亜塩素酸バリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、塩酸及びそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
一実施形態によれば、上記の塩素含有材料を加熱することは、150℃〜800℃で5分〜120分の時間行う。
【0031】
一実施形態によれば、上記の塩素含有材料は、次亜塩素酸カルシウムと塩化カルシウムの組成物である。例えば、この次亜塩素酸カルシウムと塩化カルシウムの組成物中の次亜塩素酸カルシウムの量は、5〜80重量パーセントであり得る。
【0032】
一実施形態によれば、使用済み触媒から白金族金属を回収する上記の方法は、上記の反応区域において、上記の触媒粒子状材料を上記の塩素含有ガスと接触させることによって、この触媒粒子状材料を所定の温度で所定の時間行う塩素化処理に付すことを含む。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、塩素化処理に付す上記の触媒粒子状材料は、使用済み触媒を粉砕した直後に取り出される。
【0034】
本発明の別の実施形態によれば、塩素化処理に付す上記の触媒粒子状材料は、上記の塩化物水溶液を含浸させた後に取り出される。
【0035】
上記の塩素含有ガス中の塩素の量は、使用済み触媒1キログラムあたり1グラム〜200グラムである。上記の反応区域内の所定の温度は、例えば300℃〜1100℃であり得る。上記の触媒粒子状材料を加熱する所定の時間は、10分〜120分である。
【0036】
一実施形態によれば、白金族金属を回収する上記の方法は、上記の反応区域において上記の塩素含有ガスに電磁場を印加して塩素をイオン化し、これにより白金族金属と塩素イオンとの間の化学反応を生じさせて、この反応区域内で揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を生成させることを含む。この塩素ガスのイオン化は、例えば上記の反応区域に50kHz〜12GHzの周波数で交流電磁場を印加することによって行うことができる。この反応区域における電磁場の放射照度は、例えば0.1kW/cm
2〜10kW/cm
2であり得る。この反応区域に印加する電磁場の放射照度は、例えば0.1kW/cm
2〜10kW/cm
2であり得る。例えば上記の塩素含有ガス混合物に電磁場を印加して、5分〜180分の時間、塩素のイオン化を行うことができる。
【0037】
一実施形態によれば、上記の反応区域において上記の触媒粒子状材料を加熱することは、上記の塩素含有ガス混合物に電磁場を印加することと同時に行う。
【0038】
次に、上記の方法は、上記の揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を冷却して、この揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を固相白金族金属含有材料に変換することを含む。
【0039】
このように、本発明のより重要な特徴をかなり広く概説してきたので、以下に続く本発明の詳細な説明がより深く理解されてもよく、当技術分野への本発明の寄与がより深く理解されてもよい。この詳細な説明においては、本発明のさらなる詳細と利点とが記載される。
【0040】
本発明を理解し、実際にどう実施され得るかを示すために、添付の図を参照しながら、実施形態を単に非限定的な例として後に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】使用済み触媒から白金族金属を回収する方法の概略図である。
【
図2】本発明の実施形態による、使用済み触媒から白金族金属を回収する装置の概略的な長手方向部分断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図面においては、図の単純化及び明確化のため、図中に示される要素は、必ずしも原寸に比例して描かれていないことが理解されよう。例えば、いくつかの要素の寸法は、明確化のため、他の要素と比較して拡大されたものであり得る。さらに、適切であると判断される場合、参照番号は図中で繰り返し使用され、一致する要素または類似の要素を示すことがあり得る。
【0043】
以下の詳細な説明においては、本発明の十分な理解を提供するため、多数の具体的詳細な形態を記載する。しかしながら、本発明は、これらの特定の詳細な形態を用いずに実施してもよいことは当業者によって理解されよう。また、他の例においては、本発明を不明瞭にしないよう、周知の方法、手順及び構成要素を詳細に説明していない。
【0044】
本発明の、使用済み触媒から白金族金属を回収する装置の原理と作用は、図面及び付随の説明を参照することにより、より深く理解されよう。これらの図面は単に説明目的で提示するものであり、発明を限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0045】
一実施形態においては、本発明は、使用済み触媒から白金族金属を回収する方法を提供し、この方法は、
上記の使用済み触媒を粉砕して、所定の粒径を有する粒子を含む触媒粒子状材料を得ること;
塩素含有ガスを準備し、この塩素含有ガスを反応区域に供給すること;
上記の反応区域において、上記の触媒粒子状材料を上記の塩素含有ガスと接触させることによって、この触媒粒子状材料を所定の温度で所定の時間行う塩素化処理に付し、揮発性白金族金属含有塩化物を得ること;
選択に応じて、上記の反応区域において上記の塩素含有ガスに電磁場を印加して塩素をイオン化し、これにより白金族金属との間の化学反応を生じさせること;及び
上記の揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を冷却して、この揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を固相白金族金属含有材料に変換すること
を含む。
【0046】
本明細書及び特許請求の範囲においては、「白金族金属」という表現は、すべての白金族元素、すなわちロジウム、パラジウム、イリジウム、白金、ルテニウム及びオスミウム元素に対して、単独でも組合せでも指すように、広義の用語として使用される。
【0047】
回収する白金族金属を含有する使用済み触媒は様々な形態であってもよく、すなわち例えばペレット形態またはモノリス形態であってもよい。このような触媒はその構造及び組成の両方に関して当技術分野で広く説明されており、従って本明細書においては記載されないことは理解されよう。
【0048】
使用済み触媒は概して、ジルコニア、シリカ、セリア、アルミナ、炭素質物質及び同等なものなどの様々な不純物を含有してもよい。しかしながら、本発明の方法及び装置は、これらの不純物の存在に影響を受けない。
【0049】
図1を参照する。本発明の方法の任意の段階によれば、使用済み触媒の粉砕が最初に行われる。この段階は、使用済み触媒がモノリス形態である場合に必要である。粉砕中、この触媒をすり砕き、そのようにして粒子状材料へと変換する。この粒子状材料の平均粒径は、例えば100ミクロン〜300ミリメートルであり得る。この段階により、一方ではより均一で、他方では続く本発明の方法の工程でより扱いやすい生成物の調製が可能となる。別の実施形態においては、この粒子状材料は、100ミクロン〜200ミリメートルの平均粒径を有する。別の実施形態においては、この粒子状材料は、100ミクロン〜100ミリメートルの平均粒径を有する。別の実施形態においては、この粒子状材料は、100ミリメートル〜300ミリメートルの平均粒径を有する。
【0050】
本発明の実施形態によれば、上記の方法は、塩化物水溶液を準備することを含む。この塩化物水溶液は、水中に1種以上の塩化物塩と、1種以上の次亜塩素酸塩とを溶解させることによって調製する。
【0051】
本発明の実施形態によれば、上記の塩化物水溶液中の塩化物塩の濃度は約15重量パーセント〜約40重量パーセントであり、次亜塩素酸塩の濃度は約5重量パーセント〜約15重量パーセントである。別の実施形態においては、この塩化物水溶液中の塩化物塩の濃度は約15重量パーセント〜約25重量パーセントである。
【0052】
上記の塩化物塩は、例えばアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、塩化アルミニウム及び/または塩化アンモニウムから選択することができる。上記の次亜塩素酸塩は、例えばアルカリ金属次亜塩素酸塩及び/またはアルカリ土類金属次亜塩素酸塩から選択することができる。
【0053】
アルカリ金属塩化物塩の例としては、塩化カリウム及び塩化ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。アルカリ土類金属塩化物塩の例としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び塩化バリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
アルカリ金属次亜塩素酸塩の例としては、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、塩化‐次亜塩素酸カリウム及び塩化‐次亜塩素酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。アルカリ土類金属次亜塩素酸塩の例としては、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸バリウム、塩化‐次亜塩素酸カルシウム、塩化‐次亜塩素酸マグネシウム及び塩化‐次亜塩素酸バリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本発明の実施形態によれば、上記の方法は、上記の触媒粒子状材料に上記の塩化物水溶液を含浸させることを含む。このように触媒粒子状材料に塩化物水溶液を含浸させることは、例えばこの触媒粒子状材料を塩化物水溶液中に浸すことによって行うことができる。このように触媒粒子状材料を塩化物水溶液中に浸すことは、例えば大気圧下室温で、この触媒粒子状材料が完全に浸漬されるまで行うことができる。例えばこのように浸すことは、10分間以上行い得る。この塩化物水溶液の量は、例えば乾燥した触媒粒子状材料の50重量パーセント〜180重量パーセントであり得る。別の実施形態においては、この塩化物水溶液の量は、乾燥した触媒粒子状材料の50重量パーセント〜100重量パーセントである。別の実施形態においては、この塩化物水溶液の量は、乾燥した触媒粒子状材料の75重量パーセント〜125重量パーセントである。
【0056】
本発明の実施形態によれば、上記の方法は、塩素含有ガスを準備して、このガスを反応区域に供給することを含む。
【0057】
一実施形態によれば、塩素含有ガスを準備することは、塩素含有材料から塩素含有ガスを生成させることを含む。本発明に好適な塩素含有材料の例としては、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸バリウム、塩化‐次亜塩素酸カリウム、塩化‐次亜塩素酸ナトリウム、塩化‐次亜塩素酸カルシウム、塩化‐次亜塩素酸マグネシウム、塩化‐次亜塩素酸バリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、塩酸及びそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。この塩素含有材料は、例えば粒子状形態であり得る。例えばこの塩素含有ガス材料の量は、使用済み触媒1キログラムあたり1グラム〜1キログラムであり得る。
【0058】
2種以上の異なる塩素含有材料の組合せを使用する場合、この組成物の成分の濃度は、広い範囲で変えることができる。例えばこの塩素含有材料が次亜塩素酸カルシウムと塩化カルシウムとの組成物である場合、この次亜塩素酸カルシウムと塩化カルシウムの組成物中の次亜塩素酸カルシウムの量は、5重量%〜80重量%であり得る。
【0059】
上記の塩素含有ガスを準備することは、上記の塩素含有材料を加熱する分解区域を有する好適な反応器内でこの塩素含有材料を処理して、この塩素含有材料を熱分解し、これにより塩素含有ガス混合物を生成させることをさらに含む。加熱温度及び加熱時間は、この塩素含有材料の熱分解がもたらされ、塩素含有ガス混合物が生成するよう選択する。例えば所定の温度は約150℃〜約400℃であり得る。塩素含有ガス混合物を生成させるため混合物を加熱して塩素含有材料を熱分解することは、5分〜120分の時間行い得る。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態によれば、使用済み触媒から白金族金属を回収する上記の方法は、上記の反応区域において、上記の触媒粒子状材料を塩素含有ガスと接触させることによって、この触媒粒子状材料を所定の温度で所定の時間行う塩素化処理に付すことを含む。
【0061】
本発明の一実施形態によれば、塩素化処理に付す上記の触媒粒子状材料は、使用済み触媒を粉砕した直後に取り出される。
【0062】
本発明の別の実施形態によれば、塩素化処理に付す上記の触媒粒子状材料は、上記の塩化物水溶液を含浸させた後に取り出される。
【0063】
上記の触媒粒子状材料に上記の塩化物水溶液を含浸させる工程を含む上記の方法の実施形態では、使用済み触媒の粉砕直後に塩素化処理を行う場合の実施形態よりも、より効率的な使用済み触媒からの白金族金属の回収がもたらされることが本発明の発明者により見出された。さらに、上記の塩化物水溶液が水中に1種以上の塩化物塩と、1種以上の次亜塩素酸塩の両方を含む場合に、塩化物塩のみまたは次亜塩素酸塩のみを含む場合よりも、回収率が優れることが見出された。
【0064】
一実施形態においては、本発明は、使用済み触媒から白金族金属を回収する装置を提供し、この装置は、
触媒粒子状材料入口;
反応区域を備えた塩素化反応器;
塩素含有ガス入口;
ヒーター;
選択に応じて、電磁誘導器;
白金族金属含有蒸気出口、及び1つ以上の対応する冷却マニホールドであって、上記の白金族金属含有蒸気がこの冷却マニホールドを通って上記の反応区域から放出される冷却マニホールド;
を備えた装置であって、
触媒粒子状材料が上記の触媒粒子状材料入口へ供給され、上記のヒーターにより得られる所定の温度で、上記の塩素化反応器からの塩素含有ガスで処理され、白金族金属と上記の塩素含有ガスとの間の化学反応が生じて、揮発性白金族金属含有塩化物の生成物が得られるように構成された装置である。
【0065】
図2は、本発明の実施形態による、触媒粒子状材料の処理用の装置の概略的な長手方向断面図を示す。この処理は、本発明の実施形態によれば、塩素雰囲気で上記の混合物を加熱し、電磁場を印加することによって行う。
【0066】
この図は明確化のため一定の縮尺ではなく、また比例して描かれていないことに留意が必要である。ブロック及びこの図中の他の要素は、単に機能的な存在物としての意図で表示され、この存在物間の物理的な接続及び/または物理的な関係を表すのではなく、機能的な関係を表す意図で表示されていることにも留意が必要である。構造物、材料、寸法及び製造プロセスの例は、選択された要素に対して提供される。提供される例の多くには、利用してもよい好適な代替物が存在するということを当業者は理解されよう。
【0067】
本発明の実施形態によれば、触媒粒子状材料(触媒25)の処理用の装置20は、筐体壁部210を有する筐体21を備える。「筐体」という用語は、本発明の教示に従って使用済み触媒から白金族金属を回収するプロセスの実行に使用することができる任意のコンテナ、タンク、チャンバー、容器、カートリッジ、取り囲む筐体、枠組立体または任意の他の構造体を説明する広義の用語として使用される。
【0068】
筐体壁部210は、反応区域を備えた塩素化用の反応器22を画定する。この反応区域では、混合物25が加熱され、電磁場にさらされる。筐体21は、所望される任意の寸法を有してもよく、円柱、角柱などの所望される任意の形状を有してもよいことを理解されたい。さらに、空洞の寸法は、所望される任意のサイズ分布を有し得る。
【0069】
筐体壁部210の内面は、任意の好適な材料で作製され得る。このような材料の例としては、シリカ系、アルミナ系、マグネシア系またはジルコニア系セラミック材料及びそれらの任意の組合せから選択される1種以上の要素を含有するセラミック材料が挙げられるが、これに限定されない。
【0070】
触媒粒子状材料は、好適な様々な方法で塩素化用の反応器22へ供給することができる。例えば、筐体壁部210に配置された供給口23を通して供給することができる。この目的では、例えば供給ホッパー24を供給口23に配置することができる。
図2では、供給口23は筐体21の上部に示されているが、通常は任意の好適な場所に配置することができる。
【0071】
いくつかの実施形態によれば、反応器22は、上記の触媒粒子状材料を所定の温度に加熱して維持するよう構成されたヒーター221を備える。熱処理は、例えばアルミナ触媒担体を、可溶性形態γ‐Al
2O
3から不溶性形態α‐Al
2O
3へと変化させることに有用であり得る。予備熱処理は、白金族金属を被覆しているものであり得るあらゆる酸化物層を取り除くことによって、白金族金属をより反応性にすることができる。熱処理は、例えば300℃〜1100℃で所定の時間行うことができる。上記の触媒粒子状材料を加熱する所定の時間は、例えば10分〜120分であり得る。
【0072】
いくつかの実施形態によれば、塩素化用の反応器22は、温度センサー222も備えることができる。この温度センサー222は反応器22に配置され、混合物25内にあり、所定の温度を測定してヒーター221の作動を制御するよう構成されている。
【0073】
図2に示されるように、反応器22は、塩素含有ガス入口マニホールド224に連結した塩素含有ガス入口223を備える。この塩素含有ガス入口マニホールド224は筐体壁部210に配置され、塩素含有ガスを受け取り、この塩素含有ガスの所定の量を上記の反応区域へ導くよう構成されている。この塩素含有ガスは、例えば塩素ガスと、アルゴンなどの希ガスとのガス混合物であり得るが、このガス混合物は大気も含み得る。この塩素含有ガスが酸素(例えば、空気中に存在する酸素)を含む場合、このガス混合物中に酸素が存在しない場合よりも、使用済み触媒から白金族金属を回収する最終結果はより効率的であることが、本発明の発明者により見出された。この塩素含有ガス中の塩素含有量は、例えば0.1重量パーセント〜95重量パーセントであり得、この塩素含有ガス中の酸素含有量は、例えば0.1重量パーセント〜25重量パーセントであり得る。
【0074】
本発明の実施形態によれば、上記の塩素含有ガスは、反応器(図示されていない)から供給される。この反応器では、塩素含有材料が熱処理され、熱分解して上記の塩素含有ガスが生成する。
【0075】
本発明の別の実施形態によれば、上記の塩素含有ガスは貯蔵タンク(図示されていない)から供給される。この貯蔵タンクでは、上記の塩素含有ガスを高圧で貯蔵することができる。
【0076】
作動中、上記の塩素含有ガスは、上記の反応区域を通り、上記の触媒粒子状材料と接触することができる。この反応区域を通る塩素含有ガスの量は、例えば上記の触媒粒子状材料1キログラムあたり0.2リットル〜15リットルの塩素であり得る。この塩素含有ガスは、例えば加熱中に反応区域を通ることができる。
【0077】
必要であれば、塩素含有ガス入口マニホールド224内に、塩素含有ガス入口バルブ225を配置することができる。塩素含有ガス入口バルブ225は、塩素含有ガスの進入流速を制御するよう構成することができる。「バルブ」という用語は、本明細書において使用される場合、広い意味を有し、ガス及び液体の流速を制御するように適合されたあらゆる電気的装置及び/または機械装置に関する。
【0078】
図1に戻ると、使用済み触媒から白金族金属を回収する上記の方法は、上記の反応区域において、上記の塩素含有ガスに電磁場を印加して、塩素をイオン化することを含む。
【0079】
貴金属塩化物の生成は、速度論的に制限された過程である。塩素が活性ラジカル(例えば、王水溶液中)として存在する場合、塩素分子で塩素化を行う場合よりも、塩素化が速いことが知られている。従って、白金族金属を塩素プラズマ(塩素分子ではなく、塩素イオン及び塩素ラジカルである)と接触させることによっても、以下のような塩素化過程を加速することができる。
Pd金属+2Cl
−1=PdCl
2昇華
Pt金属+4Cl
−1=PdCl
4昇華
塩素分子による塩素化に対するプラズマ塩素化の有利性は、熱駆動の塩素化に必要な温度よりもずっと低い温度で行うことができ、低温塩素化過程では、白金族金属回収用の高純度塩化物がより多く選択され得るという事実に因るものである。
【0080】
本発明の装置は、筐体21内に配置された電極27を有する電磁誘導器28を備えるが、電極が筐体21の外側に配置された場合の実施形態も想定される。上記の塩素プラズマは、例えば静磁場を印加することによって上記の反応区域内で保つことができる。この静磁場は、筐体21内に配置された誘導コイル26によって発生させることができるが、誘導コイル26が筐体21の外側に配置された場合の実施形態も想定される。上記の塩素含有材料の分解の結果生成する上記の塩素含有ガス混合物に電磁場を印加することにより、塩素をイオン化し、塩素プラズマを発生させることができる。
【0081】
従って、白金族金属と塩素イオンの間の化学反応が生じる。このような化学反応の例としては以下の反応が挙げられるが、これらに限定されない。
Pd+Cl
2=PdCl
2↑
Pt+Cl
2=PtCl
2↑
【0082】
化学反応の結果、揮発性白金族金属含有塩化物の生成物が上記の反応区域内で生成する。
【0083】
上記の反応区域内の電磁場の放射照度は、装置の構成、触媒粒子状材料(触媒25)の体積、及び塩素化反応器22内の塩素含有ガスの圧力に依存することを理解されたい。
【0084】
上記の反応区域内の塩素含有ガス混合物の圧力は、例えば1ミリバール〜1バールであり得る。これらの条件下では、塩素分子のイオン化は、例えばこの反応区域に50kHz〜12GHzの周波数で交流電磁場を印加することによって行うことができる。この反応区域における電磁場の放射照度は、例えば0.1kW/cm
2〜10kW/cm
2であり得る。
【0085】
塩素のイオン化をもたらすために、電磁場は、例えば5分〜180分の時間、上記の塩素含有ガスに印加することができる。上記の反応区域で上記のプラズマを保つための静磁場は、0テスラよりも大きく、2テスラ未満の強さを有し得る。
【0086】
一実施形態によれば、反応区域において上記の触媒粒子状材料を加熱することは、上記の塩素含有ガスに電磁場を印加することと同時に行う。
【0087】
装置20はまた、1つ以上の白金族金属含有蒸気出口226(
図2には1つの白金族金属含有蒸気出口226のみが示されている)と、1つ以上の対応する冷却マニホールド29(
図2には1つの冷却マニホールド29のみが示されている)とを含み、白金族金属含有蒸気はこの冷却マニホールド29を通って上記の反応区域22から放出される。冷却マニホールド29は、上記の揮発性白金族金属含有塩化物の生成物(すなわち、白金族金属含有蒸気)を凝縮させるために冷却し、これによりこの揮発性白金族金属含有塩化物の生成物を固相白金族金属含有材料へと変換するよう構成されている。
【0088】
冷却マニホールド29は、熱伝導性材料でできた管であり得、この管は大気に露出しており、室温に置かれている。この場合には、上記の白金族金属含有蒸気の冷却は、この材料が冷却マニホールド29を通過する間に行うことができる。必要であれば、冷却マニホールド29を専用冷却装置(示されていない)内に配置することができる。
【0089】
装置20は、冷却マニホールド29を経由して白金族金属含有蒸気出口226に連結した、白金族金属含有材料回収装置30を備えていてもよい。白金族金属含有材料回収装置30は、例えばコンテナ、タンク、チャンバー、カートリッジ、筐体、枠、または本発明の教示に従って揮発性白金族金属含有塩化物の生成物の凝縮中に得られる固相材料を回収して貯蔵するのに使用することができる任意の他の構造体などの、任意の好適な容器であり得る。
【0090】
装置20は、塩素含有ガス入口バルブ225に連結され、その作動を制御するよう構成された制御システム(図示されていない)を備えてもよく、またはこの制御システムに接続可能であってもよい。同様に、この制御システムを、ヒーター221の作動を制御するよう調整することができる。詳細には、温度センサー222によって作られる信号を、接続線(図示されていない)を介して、または無線でこの制御システムに中継することができる。これらの信号に応答して、この制御システムは対応する制御信号を発生させて、ヒーター221の作動を制御することができる。
【0091】
白金族金属は、当技術分野で従来行われている任意の回収手段によって、上記の固相の白金族金属含有材料から回収することができる。例えばこの回収は、白金族金属含有凝縮固体生成物を水中で溶解させ、この溶液を金属亜鉛で処理して白金族金属を還元することによって、便利に行ってもよい。
【0092】
以下の実施例は例示として提供するものであり、従っていかなる意味においても本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
0.45重量パーセントの白金を含有する使用済み触媒289グラムを粉砕して、触媒粒子状材料を得た。次にこの触媒粒子状材料を、27重量パーセントの塩化カルシウム(CaCl
2)及び12重量パーセントの次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)
2)を含有する塩化物水溶液中に浸した。この塩化物水溶液中に触媒粒子状材料を浸すことは、大気圧下室温で10分間行った。浸した後、浸漬した触媒粒子状材料の重量は525グラムであった。
【0094】
次に、90重量パーセントの塩素及び10重量パーセントの空気を含有する塩素含有ガスと、上記の浸漬した触媒粒子状材料とを接触させることにより、この触媒粒子状材料を1000℃で1時間塩素化処理に付した。
【0095】
上記の触媒粒子状材料を含む反応区域内で、1.3テスラの強さを有する静電磁場を上記の塩素含有ガスに10分間印加して塩素をイオン化し、この反応区域内で揮発性塩化白金生成物を生成させた。
【0096】
上記の揮発性塩化白金生成物を冷却後、白金の回収率は94パーセントであった。
【0097】
(実施例2)
0.45重量パーセントの白金を含有する使用済み触媒30グラムを粉砕して、触媒粒子状材料を得た。次にこの触媒粒子状材料を、25重量パーセントの塩化アンモニウム(NH
4Cl)及び12重量パーセントの次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)
2)を含有する塩化物水溶液中に浸した。この塩化物水溶液中に触媒粒子状材料を浸すことは、大気圧下室温で10分間行った。浸した後、浸漬した触媒粒子状材料の重量は67グラムであった。
【0098】
次に、90重量パーセントの塩素及び10重量パーセントの空気を含有する塩素含有ガスと、上記の浸漬した触媒粒子状材料とを接触させることにより、この触媒粒子状材料を1000℃で1時間塩素化処理に付した。
【0099】
上記の触媒粒子状材料を含む反応区域内で、1.3テスラの強さを有する静電磁場を上記の塩素含有ガスに10分間印加して塩素をイオン化し、この反応区域内で揮発性塩化白金生成物を生成させた。
【0100】
上記の揮発性塩化白金生成物を冷却後、白金の回収率は83パーセントであった。
【0101】
(実施例3)
0.45重量パーセントの白金を含有する使用済み触媒48グラムを粉砕して、触媒粒子状材料を得た。次にこの触媒粒子状材料を、13重量パーセントの次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)
2)を含有する塩化物水溶液中に浸した。使用したこの塩化物水溶液は、いずれの塩化物塩も含有しなかった。この塩化物水溶液中に触媒粒子状材料を浸すことは、大気圧下室温で10分間行った。浸した後、浸漬した触媒粒子状材料の重量は103グラムであった。
【0102】
次に、90重量パーセントの塩素及び10重量パーセントの空気を含有する塩素含有ガスと、上記の浸漬した触媒粒子状材料とを接触させることにより、この触媒粒子状材料を1000℃で1時間塩素化処理に付した。
【0103】
上記の触媒粒子状材料を含む反応区域内で、1.3テスラの強さを有する静電磁場を上記の塩素含有ガスに10分間印加して塩素をイオン化し、この反応区域内で揮発性塩化白金生成物を生成させた。
【0104】
上記の揮発性塩化白金生成物を冷却後、白金の回収率は46重量パーセントであった。
【0105】
(実施例4)
0.45重量パーセントの白金を含有する使用済み触媒150グラムを粉砕して、触媒粒子状材料を得た。次にこの触媒粒子状材料を、21重量パーセントの塩化カルシウム(CaCl
2)を含有する塩化物水溶液中に浸した。使用したこの塩化物水溶液は、いずれの次亜塩素酸塩も含有しなかった。この塩化物水溶液中に触媒粒子状材料を浸すことは、大気圧下室温で10分間行った。浸した後、浸漬した触媒粒子状材料の重量は241グラムであった。
【0106】
次に、90重量パーセントの塩素及び10重量パーセントの空気を含有する塩素含有ガスと、上記の浸漬した触媒粒子状材料とを接触させることにより、この触媒粒子状材料を1000℃で1時間塩素化処理に付した。
【0107】
上記の触媒粒子状材料を含む反応区域内で、1.3テスラの強さを有する静電磁場を上記の塩素含有ガスに10分間印加して塩素をイオン化し、この反応区域内で揮発性塩化白金生成物を生成させた。
【0108】
上記の揮発性塩化白金生成物を冷却後、白金の回収率は68パーセントであった。
【0109】
上記の実施例1〜4は、塩化物水溶液が水中に1種以上の塩化物塩と、1種以上の次亜塩素酸塩の両方を含む場合(実施例1及び2)に、1種以上の塩化物塩のみを含む場合(実施例4)または1種以上の次亜塩素酸塩のみを含む場合(実施例4)よりも、上記の方法の回収率が優れることを例証している。
【0110】
よって、本発明は好ましい実施形態に関して説明されてきたが、本開示が基づく概念は、本発明のいくつかの目的を行う他の構造体、システム及びプロセスの設計用の基礎として容易に利用されてもよいことを、本発明が関する技術分野の当業者は理解することができる。
【0111】
また、本明細書において使用される専門用語及び学術用語は説明のために使用されたものであって、限定を意図するものとみなすべきでないことを理解されたい。
【0112】
最後に、「含む、備える、有する(comprising)」という語は、特許請求の範囲で使用される場合、「〜を含むがそれらに限定されない」ことを意味するものとして解釈される必要がある。
【0113】
従って、本発明の範囲は、本明細書に記載された説明用の実施形態によって限定されるとは解釈されないということが重要である。添付の特許請求の範囲において規定される本発明の範囲内で、他の変形形態が可能である。本出願または関連出願における本特許請求の範囲の補正または新しい特許請求の範囲の提示によって、特徴、機能、要素及び/または特性の他のコンビネーション及びサブコンビネーションが請求され得る。このような補正された特許請求の範囲または新しい特許請求の範囲はまた、それらが異なる組合せに関しているかまたは同じ組合せに関しているかのいずれであっても、また最初の特許請求の範囲と異なっているか、より広い範囲であるか、より狭い範囲であるかまたは同等な範囲であるかのいずれであっても、本明細書の内容の範囲内に含まれるものと見なされる。