(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6523540
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】縫合ガイド
(51)【国際特許分類】
A61B 17/04 20060101AFI20190527BHJP
【FI】
A61B17/04
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-177473(P2018-177473)
(22)【出願日】2018年9月21日
【審査請求日】2018年10月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507320502
【氏名又は名称】尾崎 重之
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 重之
【審査官】
中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−252924(JP,A)
【文献】
米国特許第03123077(US,A)
【文献】
特表2006−500119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形自在な線材の表面に縫合位置を示す目印が付され、生体に、取り外し可能に固定することができる、
縫合ガイド。
【請求項2】
前記線材の複数の箇所に設けられた尖鋭部を有する、
請求項1に記載の縫合ガイド。
【請求項3】
前記目印は、前記線材の長さ方向の中心を基準とした距離を示す目盛りである、
請求項1または2に記載の縫合ガイド。
【請求項4】
前記線材の長さは、患者の弁輪のサイズに対応し、
前記目盛りの間隔は、前記中心から第1の距離までは第1の間隔であり、前記第1の距離から端部までは、前記第1の間隔よりも大きい第2の間隔である、
請求項3に記載の縫合ガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術時において縫合を支援する器具に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術において、生体組織同士を縫合する場合に、縫い始め/終わりの位置、縫い目の間隔ができるだけ術者の意図した通りになっているか否かは手術の成否に関わる重要の事項である。ところが、縫合箇所の形状が複雑だったり術者に見えにくい位置だったりするなどの要因により、理想的な縫合位置に針を通すことが難しい場合がある。
血管の内側に生体組織を縫合するような手術がその一例である。とりわけ、石灰化した弁尖を切除して自己心膜等から形成した弁尖を大動脈の弁輪に縫い付ける大動脈弁形成術においては、縫い目の位置が適切でないと、縫合した弁尖が大動脈弁として正常に機能しない可能性があるが、理想的な縫合に到達するには熟練が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−77838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8および
図9を用いて、詳細に説明する。術者は、切開した大動脈7の切開面から大動脈7の内部を覗き込み、まず石灰化弁尖を切除する。続いて、弁輪のサイズを弁尖サイザーと呼ばれる器具を用いて計測し、計測したサイズに応じて、縫合対象のサイズの弁尖を心膜から切り出すなどして弁尖素材6を作成する。作成した弁尖素材6を大動脈7の内壁の弁輪に縫い付け、最後に隣り合う弁尖同士を縫い付ける。
【0005】
具体的には、
図8に示すように、弁尖素材6において、目印4Aから目印4Cまでを結ぶ仮想線を想定した場合、仮想線より外側は、大動脈7へ縫合するときの縫い代となる。術者は、上方からみて弁尖素材6が仮想線L1で谷折りされた状態で目印4Aに糸をかけて大動脈7に縫合し、目印4Aから交連部に向かって目印4Bの位置を順次縫い進める。術者は、交連部の近くまで縫い進めると、目印4Cに最も近い目印4Bから大動脈7の外へ針を突き出す。
【0006】
術者は、目印4Cと目印4Dの位置については、
図9に示すように、縫合の開始位置から交連部へ縫い進めた糸とは別の糸であって両端に針がついた糸8の一端側の針(図示略)を、目印4Cの位置から隣り合う弁尖素材6の目印4Cの位置へ貫通させる。隣り合う弁尖素材6を貫通した一端側の針は、隣り合う弁尖素材6にある目印4Dの位置から大動脈7の外へ突き出され、糸8の他端側の針(図示略)は、弁尖素材6にある目印4Dの位置から大動脈7の外へ突き出される。
【0007】
術者は、大動脈7の外側にプレジェットを当て、縫合の開始位置から縫い進められて目印4Bを通って大動脈7の外へでた糸9Aと、隣り合う弁尖素材6の目印4Bを通って大動脈7の外へ出た糸9Bをプレジェット上で結び、目印4Dを通って両端が血管外で出た糸8をプレジェット上で結んで弁尖素材6を大動脈7へ固定する。
【0008】
ここで、
図9に示すように、弁尖素材6に縫合位置を示す目印を予め付すことは簡単だが、大動脈7に明確な目印があるわけではない。視点や視野が制限された状態で大動脈の内壁の縫合位置を正確に把握するのは困難である。加えて、患者によっては弁尖(弁輪)の形状は理想的な円弧からずれていることも多く、症例に応じた理想的な縫合位置を見極めるのは簡単ではない。例えば、縫い目の間隔が均等でない場合、弁尖素材6や大動脈7に想定外の力が加わって、弁尖素材6の形状が撓み、弁としての機能に悪影響が出る虞がある。
【0009】
本発明は、縫合の位置決めを支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一の態様において、変形自在な線材の表面に縫合位置を示す目印が付され、生体に
、取り外し可能に固定することができる縫合ガイドを提供する。
好ましくは、前記線材の複数の箇所に尖鋭部が設けられる。
好ましくは、前記目印は、前記線材の長さ方向の中心を基準とした距離を示す目盛りである。
好ましくは、前記線材の長さは、患者の弁輪のサイズに対応し、前記目盛りの間隔は、前記中心から第1の距離までは第1の間隔であり、前記第1の距離から端部までは、前記第1の間隔よりも大きい第2の間隔である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、縫合の位置決めが支援される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は切開した大動脈7を上からみた図、(b)および(c)は大動脈7を横からみた図。
【
図2】(a)は、縫合ガイド10の外観図、(b)は縫合ガイド10を直線状にした状態の図。
【
図3】縫合ガイド10を大動脈7に固定する様子を示す図。
【
図5】縫合ガイド10を用いた手術の方法を説明するための図。
【
図8】従来の大動脈弁形成術の方法を説明するための図(その1)。
【
図9】従来の大動脈弁形成術の方法を説明するための図(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施例>
図1の(a)は、切開された大動脈7を上から(長さ方向から)みた図、(b)および(c)は、大動脈7を横方向からみた図である。(a)に示すように、弁輪F1、F2、F3は、それぞれ、交連部C1から交連部C3まで、交連部C2から交連部C1まで交連部C2から交連部C3まで、大動脈7の内壁に形成される。各弁輪Fは、ここでは便宜上、同一の形状および大きさであって、左右対称の略円弧状となっている。すなわち、中心(頂部T)から両交連部までの距離をL1、L2とすると、L1=L2である。よって、各弁輪Fの長さは2*L1(=2*L2)となる。
【0014】
図2は縫合ガイド10の外観図である。(a)は縫合ガイド10を適当に折り曲げた状態を、(b)は縫合ガイド10を直線状にした状態の詳細を示す。縫合ガイド10は、全長がLで変形自在なワイヤ状(紐状)である。縫合ガイド10には、所定の位置に目盛M0〜目盛M6が形成されている。目盛M0〜目盛M6は、縫合ガイド10の色とは異なる色で形成される。色付けは、染料を用いた印刷でもよいし、化学処理によるものであってもよい。縫合ガイド10は、例えば高分子材料で形成されることができるが、材質は問わない。より具体的には、縫合ガイド10は、対象の生体部位の3次元形状に沿わせることができる程度に柔軟であるが、少なくとも長さ方向(目盛り線に垂直な方向)については必要以上に伸縮しないことが好ましい。
【0015】
目盛M0は長さ方向の中心に形成され、最初に糸を通す位置を示す。目盛M1〜M6は、その順番に糸を通す位置を示す。つまり、目盛M1は目盛M0の次に糸を通す位置であり、目盛M2はその次に通す位置である。目盛M0は、目盛M1〜M6と区別するために、形状、線幅、線種、および/または色が異なっている。なお、同図では中心から右側のみ符号が示されているが、目盛りは左側にも同様に形成される。目盛M0〜M4までは等間隔(d1)となっており、目盛M4〜M6(端部)まで等間隔(d2、d1<d2)となっている。例えば、d1=1mm、d2=5mmである。換言すると、各目盛りは、線材の長さ方向の中心を基準とした距離を示す。
【0016】
また、縫合ガイド10の表面には尖鋭部P(P1、P2、P3、P4)が形成される。尖鋭部Pは、先端が尖っており、生体(この例では大動脈7)に突き刺して縫合ガイド10を固定するための手段である。尖鋭部Pは、例えば化学処理によって形成されるが、その材質や形成方法は問わない。
【0017】
図3は、縫合ガイド10を大動脈7に固定する様子を示す。術者は、大動脈7が形成されてる面を縫合ガイド10に向け、大動脈7の内壁の弁輪に沿うように縫合ガイド10を折り曲げつつ大動脈7に押し当てる。これにより、縫合ガイド10が弁輪の形状に沿って弁輪近傍の大動脈7に固定される。
【0018】
図4は、縫合ガイド10に対応する弁尖素材6の例を示す。弁尖素材6には、予め縫合位置を示す目印4A、目印4B、目印4C、目印4Dが形成される。縫合ガイド10の長さ(L)、目盛Mの位置や数は、弁尖素材6に対応して設定されている。すなわち、縫合ガイド10は弁尖素材6のサイズごとに予め用意され、術者は弁尖素材6のまずサイズが決定すると、そのサイズに合う縫合ガイド10を選択して使用することになる。
【0019】
同図の符号「4A(M0)」のカッコ内の文字は、対応する大動脈7の縫合位置を示す。例えば、「目印4B-3(目盛M3)」について、術者は目印4B-3の位置を通した糸を、大動脈7に固定された縫合ガイド10の目盛M3を目印として、大動脈7に糸を通す位置を決定する。
【0020】
図5を用いて、縫合ガイド10を用いた手術の方法を説明する。なお、同図においては目盛り等の縫合ガイド10の詳細な形態や弁尖素材に付された目印については、便宜上、捨象している。
(a)に示すように、まず、用いるサイズの弁尖素材6とそのサイズに対応する縫合ガイド10を決定すると、術者は、まず、縫合ガイド10を所望の形状に折り曲げ、大動脈7の内壁に固定する。具体的には、弁尖素材6を縫い付ける箇所である、新しく形成したい弁輪のすぐ下側(術者からみて奥側)に、当該弁輪の形状に沿わせて固定する。固定する位置は、縫合作業に邪魔にならず、位置決めの目印となるように視認でき、縫合完了後に縫合ガイド10を取り外せる位置であることが好ましい。なお、縫合対象の弁尖素材6の数が3つである場合(3弁尖)の場合は、各弁尖(サイズが同一とは限らない)に対応する縫合ガイド10を3つ用意し、その3つの縫合ガイド10を、弁輪を形成したい位置に対応する位置に固定する。
【0021】
続いて、(b)に示すように、術者は、各縫合ガイド10が固定された大動脈7の内壁に弁尖素材6を縫合する。この例では、3つの弁尖を縫合する手術の例である。縫合の方法は、
図8および
図9を用いて説明したものと同じである。(c)に示すように、縫合後、各縫合ガイド10を取り外す。
【0022】
本発明によれば、術者は弁尖素材6と縫合ガイド10とを目印として縫い進めればよいので、目検討なしに、理想的な位置で縫合が行われる。特に、弁輪が左右非対称である場合に顕著である。これを、
図6を用いて説明する。同図は、交連部C2から交連部C3までの弁輪F3が非対称の例である。このような場合、縫い始めの位置(目印4A対応する目盛M0)は、頂部T1とも、交連部C2と交連部C3とを直線で結んで線上にあるE1とも異なる位置にある。大動脈7側に目印がないと、例えば頂部T1やE1を縫い始めの位置だと錯覚してしまう可能性がある。仮に、尖鋭部P2から縫い始めてしまうと、右側(交連部C3まで)の縫い目の間隔が小さくなってしまう一方、逆に左側(交連部C2まで)の縫い目の間隔は広くなりすぎ、結果として縫合後の弁尖素材6が想定の通りに機能しない可能性がある。
【0023】
これに対し、縫合ガイド10を用いれば、弁輪F3の形状に沿わせて縫合ガイド10を固定することで、縫合開始位置が目盛M0によって示されることになる、目盛M0を目印に縫合開始することができる。また、縫合ガイド10は左右対称に形成されているので、目盛M1〜M6を目標に糸を通していけば中心から交連部C3までの部分と中心から交連部C2までの部分とで、縫い目の間隔が不揃いになるといったことがない。
【0024】
図2に例示した尖鋭部Pの形成態様は一例にすぎない。例えば、
図7の(a)に示すように、縫合ガイド10Aに同一断面内において2個の尖鋭部Pが形成されてもよい。これにより固定力や安定性が向上する。あるいは(b)に示すように、縫合ガイド10Bに同一断面内に複数(この例では目印4個)の尖鋭部Pが形成されてもよい。この場合、術者が取り付けの際に縫合ガイド10の向きを確認する必要がない。また、尖鋭部Pは縫合ガイド10の長さ方向に一直線に配列されている必要はない。例えば(c)に示すように、縫合ガイド10Cにおいて、隣り合う尖鋭部Pが螺旋状に配列されていてもよい。また、各目盛Mと尖鋭部Pとの位置関係は任意であり、尖鋭部P上に目盛Mが形成されていてもよい。
【0025】
本発明に係る縫合ガイドは、大動脈弁形成術に限定されず、いかなる生体組織の縫合においても用いることができる。また、2つの縫合対象のうち少なくともいずれか一方の側に縫合ガイド10を固定すればよく、他方の側には他の目印があってもなくてもよい。また、縫合ガイド10の生体への固定に関し、尖鋭部Pのように突き刺さす機構ではなく、生体と接着する機構が採用されてもよい。例えば、取り外しが可能な程度に接着力のある材料を縫合ガイド10の表面の全体または一部に塗布してもよい。要するに、本発明に係る縫合ガイドは生体に固定する機能を有していればよい。
【符号の説明】
【0026】
4A、4B、4C、4D・・・目印、6・・・弁尖素材、7・・・大動脈、10、10A、10B、10C・・・縫合ガイド、M・・・目盛、C1、C2、C3・・・交連部、T、T1・・・頂部、F・・・弁輪、P・・・尖鋭部
【要約】 (修正有)
【課題】縫合の位置決めを支援する装置を提供する。
【解決手段】縫合ガイド10は、全長がLで変形自在なワイヤ状又は紐状で、対象の生体部位の3次元形状に沿わせることができる程度に柔軟であり、更に所定の位置に目盛M0〜目盛M6が形成されている。目盛M0〜目盛M6は、縫合ガイド10の色とは異なる色で形成され、色付けは染料を用いた印刷、又は化学処理によるものである。縫合ガイド10は、縫合作業前に、表面に形成された尖鋭部によって大動脈に固定される。
【選択図】
図2