特許第6523613号(P6523613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6523613
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】管継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 19/08 20060101AFI20190527BHJP
【FI】
   F16L19/08
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-74399(P2014-74399)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-197137(P2015-197137A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年12月16日
【審判番号】不服2018-4590(P2018-4590/J1)
【審判請求日】2018年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】平松 浩司
(72)【発明者】
【氏名】曽我尾 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】星山 秀永
【合議体】
【審判長】 山崎 勝司
【審判官】 宮崎 賢司
【審判官】 窪田 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−232474(JP,A)
【文献】 特開2013−76457(JP,A)
【文献】 特開2012−215280(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/284419(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L19/08
F16L19/00
F16L21/08
F16L47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端側から管が挿入される管状ボディと、ボディの後端側から突出した管の周囲に嵌められるフロントリングおよびバックリングと、フロントリングおよびバックリングを締め付けて管をボディに固定する袋ナットとを備えており、バックリングがフロントリングの内周にもぐり込むテーパ面を有し、フロントリングの内周が、円筒面と、円筒面の後端に連なるテーパ面とを有している管継手において、
フロントリングのテーパ面は、バックリングのテーパ面に対応するテーパ角度を有する後側テーパ面と、後側テーパ面と円筒面との間にあって、後側テーパ面のテーパ角度よりも小さいテーパ角度を有する前側テーパ面とからなり、
軸方向の長さに関し、前側テーパ面の軸方向の長さが後側テーパ面の軸方向の長さよりも大きいことを特徴とする管継手。
【請求項2】
バックリングのテーパ面のテーパ角度は、80〜120°とされ、フロントリングの後側テーパ面のテーパ角度は、80〜120°とされ、フロントリングの前側テーパ面のテーパ角度は、30〜60°とされていることを特徴とする請求項1の管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管継手に関し、特に、ダブルフェルール型管継手などと称されている管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルフェルール型管継手と称されている管継手は、後端側から管が挿入される管状ボディと、ボディの後端側から突出した管の周囲に嵌められるフロントリングおよびバックリングと、フロントリングおよびバックリングを締め付けて管をボディに固定する袋ナットとを備えているもので、従来よりよく知られている(特許文献1など)。
【0003】
このような管継手において、バックリングは、フロントリングの内周にもぐり込むテーパ面を有しており、フロントリングの内周面は、円筒面と、円筒面の後端に連なるテーパ面とを有している。フロントリングのテーパ面は、バックリングのテーパ面に等しいかほぼ等しいテーパ角度を有している。
【0004】
袋ナットを締め付けると、フロントリングおよびバックリングの各前端部が径方向内方に変形させられて管に食い込み、管が強く締付けられる。これにより、所要の管保持力が得られて、高圧環境下においても十分なシール性を有する管継手が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−534804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の管継手では、締付けトルクの低減が求められている。しかしながら、締付けトルクを低減すると、管保持力が低下することになり、締付けトルクの低減が困難であるという問題があった。
【0007】
この発明の目的は、締付けトルクの低減を可能とした管継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による管継手は、後端側から管が挿入される管状ボディと、ボディの後端側から突出した管の周囲に嵌められるフロントリングおよびバックリングと、フロントリングおよびバックリングを締め付けて管をボディに固定する袋ナットとを備えており、バックリングがフロントリングの内周にもぐり込むテーパ面を有し、フロントリングの内周が、円筒面と、円筒面の後端に連なるテーパ面とを有している管継手において、フロントリングのテーパ面は、バックリングのテーパ面に対応するテーパ角度を有する後側テーパ面と、後側テーパ面と円筒面との間にあって、後側テーパ面のテーパ角度よりも小さいテーパ角度を有する前側テーパ面とからなり、軸方向の長さに関し、前側テーパ面の軸方向の長さが後側テーパ面の軸方向の長さよりも大きいことを特徴とするものである。
【0009】
締付け時には、バックリングのテーパ面がフロントリングのテーパ面にもぐり込みながら、フロントリングおよびバックリングが前進させられる。これに伴い、フロントリングおよびバックリングの各前端部が径方向内方に変形させられて管に食い込む。ここで、フロントリングのテーパ面は、従来、一段のテーパ面であったが、これが後側および前側の二段のテーパ面とされる。これにより、締付けの前半においては、フロントリングのテーパ面におけるバックリングのテーパ面との接触面は、後側テーパ面であり、両テーパ面が相対的に大きいテーパ角度を有していることで、必要とされる管保持力が確保される。締付けの後半において、フロントリングのテーパ面におけるバックリングのテーパ面との接触面は、後側テーパ面から前側テーパ面に移行し、これにより、バックリングがフロントリングにもぐり込みやすくなる。したがって、締付けの後半におけるトルクの上昇が緩和される。こうして、所要の管保持力を確保した上で、締付けトルクを低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、締付けの前半においては、フロントリングのテーパ面におけるバックリングのテーパ面との接触面が後側テーパ面とされることで、必要とされる管保持力が確保され、そして、締付けの後半において、フロントリングのテーパ面におけるバックリングのテーパ面との接触面が前側テーパ面に移行することにより、バックリングがフロントリングにもぐり込みやすくなる。したがって、締付けの後半におけるトルクの上昇が緩和され、こうして、所要の管保持力を確保した上で、締付けトルクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、この発明による管継手の1実施形態の組立状態を示す縦断面図である。
図2図2は、図1のフロントリングおよびバックリングを拡大して示す縦断面図である。
図3図3は、図2のフロントリングおよびバックリングを分離して示す縦断面図である。
図4図4は、従来の管継手と実施形態のものとの締付け状態を比較する図である。
図5図5は、従来の管継手と実施形態のものとの締付けトルクの推移を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の実施形態を、以下図面を参照して説明する。
【0013】
なお、この明細書において、前後関係については、図1を基準とし、同図の左を前、右を後というものとする。
【0014】
図1に示すように、この発明の管継手(30)は、後端側から管(32)が挿入される管状ボディ(継手部材)(31)と、ボディ(31)の後端側から突出した管(32)の周囲に嵌められるフロントリング(33)およびバックリング(34)と、フロントリング(33)およびバックリング(34)を締め付けて管(32)をボディ(31)に固定する袋ナット(35)とを備えている。
【0015】
ボディ(31)の中間部外周に外向きフランジ(36)が形成され、その前後両端部の外周におねじ部(37)(38)がそれぞれ形成されている。ボディ(31)の後端部の内周には、前側の部分より少し内径の大きい大径部(31a)が形成され、その後端部内周には、前方に行くにつれて径が小さくなるテーパ面(31b)が形成されている。
【0016】
袋ナット(35)の前端部側の内周に、めねじ(35a)が形成されており、これがボディ(31)の後端部のおねじ部(38)にねじ嵌められている。袋ナット(35)の後端には、内向きフランジ(35b)が形成されている。
【0017】
図2および図3に、フロントリング(33)およびバックリング(34)を拡大して示す。この発明の管継手(30)は、フロントリング(33)の形状に特徴があるもので、以下に、図2および図3を参照して、その詳細を説明する。
【0018】
フロントリング(33)の外周には、ボディ(31)後端のテーパ面(31b)に合致するテーパ面(40)が形成されている。フロントリング(33)の内周は、円筒面(41)と、円筒面(41)の後端に連なるテーパ面(42)とを有している。フロントリング(33)の内周の円筒面(41)の前寄り部分には、断面三角形の環状溝(43)が形成されている。また、円筒面(41)の前端部には、断面方形の環状溝(44)が形成されている。
【0019】
フロントリング(33)のテーパ面(42)は、後側テーパ面(42a)および前側テーパ面(42b)からなる二段のテーパ面とされている。後側テーパ面(42a)および前側テーパ面(42b)は、いずれも前方に行くにつれて径が小さくなるテーパ面とされている。図3から分かるように、軸方向の長さに関し、前側テーパ面(42b)の軸方向の長さが後側テーパ面(42a)の軸方向の長さよりも大きくなされている。
【0020】
バックリング(34)の前端には、フロントリング(33)のテーパ面(42)にもぐり込む前方に行くにつれて径が小さくなるテーパ面(45)が形成されている。
【0021】
上記において、バックリング(34)のテーパ面(45)のテーパ角度αは、88°(軸線となす角度としては44°)とされ、フロントリング(33)の後側テーパ面(42a)のテーパ角度βは、90°(軸線となす角度としては45°)とされ、フロントリング(33)の前側テーパ面(42b)のテーパ角度γは、45°(軸線となす角度としては22.5°)とされている。
【0022】
上記管継手(30)において、袋ナット(35)を締付けると、袋ナット(35)の内向きフランジ(35b)の前面がバックリング(34)の後面に当り、これを前進させる。フロントリング(33)の外周のテーパ面(40)がボディ(31)後端のテーパ面(31b)に当接することで、締付けに対する抵抗が大きくなり始め、袋ナット(35)をさらに締付けることで、フロントリング(33)およびバックリング(34)は、フロントリング(33)の外周のテーパ面(40)がボディ(31)のテーパ面(31b)にもぐり込みながら、また、バックリング(34)のテーパ面(45)がフロントリング(33)のテーパ面(42)にもぐり込みながら、前進させられる。これにより、フロントリング(33)およびバックリング(34)の各前端部が径方向内方に変形させられて管(32)に食い込む。食い込み量が増えることで、管保持力が大きくなるとともに、締付けの抵抗も大きくなり、締付けトルクは増大していく。
【0023】
締付けの前半においては、フロントリング(33)のテーパ面(42)におけるバックリング(34)のテーパ面(45)との接触面は、後側テーパ面(42a)であり、両テーパ面(45)(42a)が相対的に大きいテーパ角度を有していることで、必要とされる管保持力が確保される。締付けの後半において、フロントリング(33)のテーパ面(42)におけるバックリング(34)のテーパ面(45)との接触面は、後側テーパ面(42a)から前側テーパ面(42b)に移行し、これにより、バックリング(34)がフロントリング(33)にもぐり込みやすくなる。したがって、締付けの後半におけるトルクの上昇が緩和される。こうして、所要の管保持力を確保した上で、締付けトルクを低減することができる。
【0024】
図4には、従来の管継手(フロントリング(33')のテーパ面(40)が一段のもの)(図4(a))と、上記実施形態の管継手(フロントリング(33)のテーパ面(40)が二段のもの)(30)(図4(b))とをそれぞれ示している。
【0025】
図4において、袋ナット(35)が3/4回転するまでは両者は差異はないが(図示略)、袋ナット(35)が1回転を超えて、規定の回転数の1と1/4回転に達すると、図4の(b)に示す本実施形態では、フロントリング(33)の後側テーパ面(42a)と前側テーパ面(42b)との境目とバックリング(34)との接触面の応力が大となり、図4の(a)に示す従来のものに比べて、バックリング(34)がフロントリング(33)の下により多くもぐり込み、フロントリング(33)が上方に若干跳ねている。
【0026】
なお、図4(b)のものにおいては、バックリング(34)がフロントリング(33)の下により多くもぐり込むことになるため、図4(a)と同一寸法のバックリング(34)では、フロントリング(33)とバックリング(34)の間の空間が生じず、増し締めの効果を得ることができないため、バックリングの寸法についても変更を行っている。
【0027】
図5は、従来の管継手(フロントリング(33')のテーパ面(40)が一段のもの)と上記実施形態の管継手(フロントリング(33)のテーパ面(40)が二段のもの)(30)とについて、締付けトルクの推移の比較を行ったグラフである。
【0028】
図5では、径6.35mm、肉厚0.89mmの鋼管に対して、従来の管継手および上記実施形態の管継手の締付けトルクを測定しており、これによると、実施形態のものでは、従来品に比べて、10箇所平均で、21.3N・mから10.9N・mへ、49%低下している。
【0029】
こうして、必要な食い込み力(管保持力)を確保しつつ、締付けトルクを低減することができる。
【0030】
ここで、フロントリング(33)の前側テーパ面(42b)のテーパ角度γをフロントリング(33)の後側テーパ面(42a)のテーパ角度βよりも小さくすることで、上記効果を得ることができる。
【0031】
各テーパ角度の好ましい範囲としては、一例として、バックリング(34)のテーパ面(45)のテーパ角度αが80〜120°、フロントリング(33)の後側テーパ面(42a)のテーパ角度βが80〜120°、フロントリング(33)の前側テーパ面(42b)のテーパ角度が30〜60°とされる。
【符号の説明】
【0032】
(30):管継手、(31):ボディ、(32):管、(33):フロントリング、(34):バックリング、(35):袋ナット、(41):円筒面、(42):テーパ面、(42a):後側テーパ面、(42b):前側テーパ面、(45):テーパ面
図1
図2
図3
図4
図5