特許第6523615号(P6523615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6523615
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】酵母培養物およびその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9728 20170101AFI20190527BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20190527BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20190527BHJP
   A61K 36/062 20060101ALI20190527BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20190527BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20190527BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20190527BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   A61K8/9728
   A23L33/10
   A61K8/34
   A61K36/062
   A61K47/10
   A61P17/16
   A61Q19/00
   C12N1/16 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-106262(P2014-106262)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-221756(P2015-221756A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年4月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小林 豊明
(72)【発明者】
【氏名】上原 静香
【審査官】 木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3767627(JP,B2)
【文献】 特開2008−273851(JP,A)
【文献】 特開昭63−027413(JP,A)
【文献】 特開平01−272511(JP,A)
【文献】 Archivio di scienze biologiche,1952年,Vol. 36, No. 2,p. 135-141
【文献】 Journal of Medical & Veterinary Mycology,1995年,Vol. 33,p. 27-31
【文献】 Medical Mycology,2000年,Vol. 38,p. 73-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61Q
C12N 1/00−7/08
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドミセス・マグヌシ(Endomyces magnusii)又はディポダスカス・マグヌシ(Dipodascus magnusii)の培養物であって、エンドミセス・マグヌシ(Endomyces magnusii)又はディポダスカス・マグヌシ(Dipodascus magnusii)を、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体及びそれらの塩からなる群より選択されるヒアルロン酸類を含有する培地でヒアルロン酸類の分子量が45万以下となるまで培養して得られたことを特徴とする、培養物。
【請求項2】
菌体除去済又は滅菌済であることを特徴とする、請求項1に記載の培養物。
【請求項3】
培養上澄液又はその乾燥物の形態である、請求項1又は2に記載の培養物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養物を含む、化粧料又は皮膚外用剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養物を含む、食品。
【請求項6】
次の成分(A)及び(B);
(A)請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養物
(B)多価アルコール
を含む、化粧料又は皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養物を有効成分とする、保湿及び/又は美白のための剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸を含有する培地で酵母を培養して得られる培養物、および化粧品、食品、医薬品としてのその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物による発酵に関連した機能性の成分の探索や素材の改質は、古くから食品分野で行われてきたが、近年では、化粧品分野への応用も検討されてきている。
【0003】
例えば特許文献1は、安全な微生物および安全な食品素材を利用した発酵法による抗酸化剤の製造法および発酵法により得られる抗酸化剤を提供することを課題になされたものである。ここでは、大豆残渣を含有する培地中で特定のバチルス(Bacillus)属に属する微生物または植物性乳酸菌を培養し、培養上清から抗酸化剤を得ることが提案されている。また特許文献2は、これまでにない高い抗酸化効果を有する抗酸化物質を得、化粧品に応用することを課題としてなされたものである。ここでは、天然成分を含まず、炭素源、窒素源、リン源を含む基本培地に地楡抽出液および/または丁子抽出液を加え、Saccharomyces cerevisiae 酵母で培養し、培養終了後、菌体と培養液とに分離し、本培養菌体の抽出液を効果成分として用いて、抗酸化剤、抗酸化化粧料を得ることが提案されている。特許文献3は、柑橘類の果皮を有効利用する技術を提供することを課題になされたものである。ここでは、柑橘類の果皮を麹菌発酵させて得られる発酵組成物、;前記発酵組成物が前記麹菌発酵後に固液分離を行って得られた上清である発酵組成物、;前記発酵組成物を有効成分として含有してなる神経突起伸長作用、記憶改善作用、抗アルツハイマー作用を有する薬剤および機能性飲食品が提案されている。
【0004】
一方、ヒアルロン酸は、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸の二糖を反復構造単位とする直鎖状の多糖類である。身体では、関節液および関節軟骨に多く含まれ、潤滑作用や緩衝作用を発揮しているほか、真皮にも多く含まれ、水分の保持に重要な役割を果たしている。ヒアルロン酸は既に、健康食品、化粧品、医薬部外品の添加物、および医薬品の主成分として、経口、外用および注射等の様々な方法で人々に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−1904号公報
【特許文献2】特開2012−214393号公報
【特許文献3】特開2011−012048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒアルロン酸は様々な分野において用いられてきているが、通常、100万を超える分子量を有し、粘度が高いために取扱いが容易ではなく、また比較的多量に配合した場合にはべたつきや安定性が問題となる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、化粧品・食品等に有用な成分の開発を目的として各種有用成分の探索を行っているが、今般、安全性の面から、使用実績・食経験が十分にあり、安全性が高いことがすでに知られている素材を利用することにより、新規な機能・用途を有する有効成分を検討した。その結果、ヒアルロン酸を含有する培地で酵母を培養した際に得られる培養物に新規な機能を見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1]酵母の培養物であって、酵母を、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体およびそれらの塩からなる群より選択されるヒアルロン酸類を含有する培地で培養して得られたことを特徴とする、培養物。
[2]菌体除去済または滅菌済であることを特徴とする、[1]に記載の培養物。
[3]酵母がエンドミセス・マグヌシ(Endomyces magnusii)またはディポダスカス・マグヌシ(Dipodascus magnusii)である、[1]または[2]に記載の培養物
[4]培養上澄液またはその乾燥物の形態である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の培養物。
[5][1]〜[4]のいずれか1項に記載の培養物を含む、化粧料または皮膚外用剤。
[6][1]〜[4]のいずれか1項に記載の培養物を含む、食品。
[7]次の成分(A)および(B);
(A)[1]〜[4]のいずれか1項に記載の培養物
(B)多価アルコール
を含む、化粧料または皮膚外用剤。
[8][1]〜[4]のいずれか1項に記載の培養物を有効成分とする、保湿および/または美白のための剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、化粧料、皮膚外用剤、食品または医薬品として用いることができる新たな素材が提供される。
本発明の培養物により、化粧料または皮膚外用剤の保湿効果を向上できる。
本発明の培養物により、化粧料または皮膚外用剤において美白効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を挙げながら、本発明を説明する。なお、本発明の説明において数値範囲を「X〜Y」で表すときは、その範囲は両端の値XおよびYを含む。
【0011】
[酵母]
本発明には、酵母を用いることができる。本発明に用いることのできる酵母は、その培養物が、化粧料、皮膚外用剤、食品または医薬として用いることができるものであれば、限定されない。本発明に用いることができる酵母の例としては、エンドミセタセア(Endomycetaceae)科に属する酵母、例えばエンドミセス(Endomyces)属に属する、酵母エレマスクス(Eremascus)属に属する酵母を挙げることができ、またサッカロミセタセア(Saccharomycetaceae)科に属する酵母、例えばシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属に属する酵母、ナドソニア(Nadsonia)属に属する酵母、サッカロミコデス(Saccharomycodes)属に属する酵母、ハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属に属する酵母、ウィッカーハミア(Wickerhamia)属に属する酵母、サッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属に属する酵母、ロッデロミセス(Lodderomyces)属に属する酵母、ウィンゲア(Wingea)属に属する酵母、エンドミコプシス(Endomycopsis)属、ピキア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、パキソレン(Pachysolen)属に属する酵母、シテロミセス(Citeromyces)属に属する酵母、デバリオミセス(Debaryomyces)属に属する酵母、シュワンニオミセス(Schwanniomyces)属、デッケラ(Dekkera)属に属する酵母、サッカロミコプシス(Saccharomycopsis)属に属する酵母、リポミセス(Lipomyces)属を挙げることができ、スペルモフソラセア(Spermophthoraceae)科に属する酵母、例えばスペルモフソラ(Spermophthora)属に属する酵母、エレモテシウム(Eremothecium)属に属する酵母、クレブロテシウム(Crebrothecium)属に属する酵母、アシュブヤ(Ashbya)属に属する酵母、ネマトスポラ(Nematospora)属に属する酵母、メトシュニコウィア(Metschnikowia)属に属する酵母、コッキディアスクス(Coccidiascus)属に属する酵母を挙げることができる。本発明には、エンドミセス・マグヌシ(Endomyces magnusii)またはディポダスカス・マグヌシ(Dipodascus magnusii)であれば、好適に用いることができる。当該酵母は、独立行政法人製品評価技術基盤機構等の微生物を扱う機関から入手できる。本発明においては、当該酵母をヒアルロン酸類を含有する培地中で培養することで、有効な活性を有するヒアルロン酸類の分解産物が生じる。
【0012】
[ヒアルロン酸類]
本発明においては、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体およびそれらの塩からなる群より選択されるヒアルロン酸類(単に「ヒアルロン酸類」ということもある。)を酵母の培地に添加して用いる。
本発明に用いられるヒアルロン酸類は、製造方法、由来等は限定されない。化粧料、皮膚外用剤、食品または医薬として用いられるヒアルロン酸類であれば、本発明において好適に用いることができる。ヒアルロン酸誘導体の例としては、アセチル化ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム、ヒアルロン酸硫酸化物等が挙げられる。ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体の塩としては、化粧料、皮膚外用剤、食品または医薬として許容される塩であればよく、特に好ましい例として、ナトリウム塩、カリウム塩およびカルシウム塩を挙げることができる。
【0013】
本発明においては、ヒアルロン酸類は培地に添加して発酵処理され、低分子化される。したがって、ヒアルロン酸類としては分子量50〜数百万の、比較的高分子のヒアルロン酸類を用いることができる。本発明に用いることができるヒアルロン酸類の分子量は、例えば50万〜220万であり、100万〜200万でもよい。140万〜180万であれば、好適に用いることができる。なお、本発明でヒアルロン酸類に関して分子量を示すときは、特に記載した場合を除き、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いた高速液体クロマトグラフィー測定法による重量平均の分子量である。また、ここでいうヒアルロン酸の分子量は、出発原料としての分子量である。
【0014】
[培養工程]
本発明においては、酵母を、ヒアルロン酸類を含有する培地で培養して得られた培養物が用いられる。培養物は、酵母および培養液を含む培養全体、上澄液、酵母菌体、または培養全体、上澄液もしくは酵母菌体の凍結乾燥物、濃縮物または抽出物を含む。培養物は、例えば、次のようにして得ることができる。
【0015】
ヒアルロン酸類を固形分として0.01〜1w/v%、好ましくは0.02〜0.75w/v%、より好ましくは0.05〜0.5w/v%で含む培地を準備する。培地は、他に、窒素源、炭素源、ミネラル類、ビタミン類、糖類等の酵母の増殖・発酵のために必要な他の栄養素を含んでいてもよい。なお、本発明で培地の成分に関し濃度をいう場合は、特に記載した場合を除き、培地容量あたりの成分の質量%、すなわちw/v%で表したものである。また、成分の濃度は、特に記載した場合を除き、培養開始時の酵母によって消費等される前の濃度である。
【0016】
培地は、必要に応じ、滅菌してから培養に用いることができる。滅菌は、常法により行うことができる。
【0017】
準備した培地に、酵母を適切な量で添加し、培養を開始する。培養は酵母の生育上有効な条件で行うことができる。培養温度は10〜50℃が好ましく、15〜35℃であればより好ましい。培養期間は、植菌量および温度にもよるが、例えば4時間以上とすることができ、8時間以上とすることが好ましく、12時間以上とすることがより好ましい。このような十分な期間で培養されることにより、培養物が目的の効果を奏することとなるからである。
【0018】
培養の終点は、種々の観点から定めることができる。発酵が進むと酵母臭が生じ得るから、化粧料または皮膚外用剤に用いるとの観点からは、酵母臭の有無または程度に基づいて培養期間に上限を設けてもよく、例えば72時間以下とすることができ、48時間以下としてもよく、36時間以下としてもよく、24時間以下としてもよい。培養の終点はまた、ヒアルロン酸類の低分子化の程度によりに決定してもよい。原料として分子量80万〜220万のヒアルロン酸類を添加し、加熱加圧滅菌した培地を用いた場合には、培養液中のヒアルロン酸類の分子量が45万以下となるまで培養を行ってもよく、30万以下となるまで培養をおこなってもよく、15万以下となるまで培養を行ってもよい。培養の終点はまた、培養上澄液の粘度によりに決定してもよい。原料として分子量80万〜220万のヒアルロン酸類を添加し、加熱加圧滅菌した培地を用いた場合には、ヒアルロン酸としての固形分濃度が0.50w/v%である培養上澄液の粘度が、100mPasになるまで培養を行うことができる。なお、本発明で粘度の値を示すときは、特に記載した場合を除き、本明細書の実施例の項に記載した測定方法による値である。
【0019】
ヒアルロン酸類の低分子化の程度または培養液の粘度を考慮した好ましい態様においては、培養期間は4時間〜72時間であり、8時間〜48時間とすることができ、16時間〜32時間とすることができる。
【0020】
このようにして得られた酵母の培養物は、酵母の作用により低分子化されたヒアルロン酸を含んでおり、培養物自体が新規なものである。
【0021】
[分離工程、滅菌工程]
培養物は、必要に応じ、菌体と培養上澄液とを、遠心分離等の手段により、分離することができる。培養上澄液は、必要に応じ、濃縮することができ、また凍結乾燥することができる。培養物は滅菌してもよい。滅菌は、常法により、例えば濾過滅菌により、行うことができる。培養物はまた、脱色脱臭(例えば、活性炭処理、UF処理、アルカリ処理等)してもよい。培養物としての好ましい態様の例は、培養上澄液、その濃縮物、および乾燥物であり、さらに好ましくは滅菌済みの培養上澄液、その濃縮物、および乾燥物である。なお、本発明では、培養物のうち滅菌済みの培養物(酵母培養物ということもある。)を例に説明することがあるが、その説明は、他の形態の培養物についてもあてはまる。
【0022】
[培養物の作用・効果]
また、培養物は、肌に用いた場合に、原料ヒアルロン酸類より保湿効果が高く、また美白効果が期待できるものである。本発明により得られた培養物の保湿効果は、化粧料の保湿効果の評価のための方法、例えば角層水分量を測定することにより、また表皮からの水分蒸散量を測定することにより、評価できる。また本発明により得られた培養物の美白効果は、化粧料の美白効果の評価のための方法、例えばチロシナーゼ阻害活性評価試験、B16メラノーマ細胞を用いたメラニン生成抑制作用評価試験、シミ画像測定評価試験、メラニン色素分解作用評価試験、肌メラニン量測定評価試験により、評価できる。本発明により得られる培養物は、本発明者らの検討により、B16メラノーマ細胞を用いたメラニン生成抑制作用評価試験において原料ヒアルロン酸類より効果が高いことが確認されている。
【0023】
[化粧料、皮膚外用剤、食品、医薬における利用]
本発明の培養物は、化粧料、皮膚外用剤、食品または医薬(以下、「化粧料等」という。)の成分として用いることができる。化粧料等は固形分として本明細書の培養物を、例えば0.00001〜0.9質量%以上含むことができ、0.00005〜0.2質量%以上含むことが好ましく、0.0001〜0.1質量%以上含むことがより好ましい。
【0024】
本発明の培養物を含む化粧料等はまた、その使用目的に応じて、固形剤、半固形剤、液剤等の各種剤形の形態に調製することができる。より具体的には、化粧料は、基礎化粧品として、クレンジング、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、マッサージ製品、パック製品、美容液・ジェル、リップケア製品等;ベースメーク化粧品として、ファンデーション、フェイスパウダー、化粧下地、コンシーラー等;ポイントメーク化粧品として、口紅、リップグロス・ライナー、チーク製品、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、アイブロウ製品等;ボディ用化粧品として石鹸、液体洗浄料、日焼け止めクリーム、入浴剤等;頭髪用化粧品または頭皮用化粧品としてシャンプー、リンス、ヘアトリートメント、整髪料、ヘアトニック、育毛剤、スキャルプトリートメント等とすることができる。また、硬膏剤、軟膏剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、塗布剤、貼付剤、エアゾール剤(スプレー薬)とすることができる。
【0025】
本発明の培養物を含む化粧料等は、本発明の培養物の効果を損なわない限り、化粧料、皮膚外用剤、食品または医薬の添加物として許容される種々の機能性の成分を配合することができる。このような成分の例は、美白剤、紫外線防御剤、抗菌剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、活性酸素除去剤、保湿剤、皮膚を清浄にする成分、ニキビ、アセモを防ぐ成分である。また、本発明の培養物を含む化粧料等は、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の剤以外に、化粧料または医薬として許容される、種々の添加物を配合することができる。この例は、水(精製水、温泉水、海洋深層水等)、界面活性剤(乳化剤、可溶化剤、懸濁化剤、安定剤等)、酸化防止剤、防腐剤、ゲル化剤、アルコール類、皮膜形成剤、着色料、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ビタミン類等がある。
【0026】
また、本発明の培養物は上記のようにヒアルロン酸より高い保湿効果を持つものであるが、多価アルコール類の1種または2種以上と組み合わせることにより、相乗的に保湿効果を発揮する。多価アルコールとは、脂肪族炭化水素の水素原子の2個以上が水酸基(ヒドロキシル基)で置換されたアルコールである。用いることができる多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、イソプレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等の2価のアルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等の3価のアルコール;ペンタエリスリトール等の4価アルコール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール重合体が挙げられる。好ましくは2価または3価であるアルカンジオール、アルカントリオールを配合することができ、さらに好ましくは炭素数が5以下であるアルカントリオール、アルカンジオールを配合することができる。特に好ましいものとして具体的には1,2,3−プロパントリオール(グリセリン)、プロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール等の1種または2種以上を配合することができる。
【0027】
本発明の培養物を含む化粧料等において多価アルコールを配合する場合、配合量(2種以上用いる場合は、2種の合計量)は、特に制限されないが、例えば0.1〜30%とすることができ、また1〜20%としてもよい。また、培養物(A)と多価アルコール(B)の配合質量比(B)/(A)は特に限定されるものではないが、例えば、0.1〜3000とすることができ、また1〜300とすることができる。この範囲であれば、相乗的な保湿効果が期待できるからである。
【0028】
本発明により得られる培養物は、保湿および/または美白のための剤としても用いることができる。本発明で「剤」というときは、特に記載した場合を除き、有効成分である培養物自体であることもあり、有効成分である培養物に、さらに希釈剤、安定化剤、酸化防止剤、防腐剤等の化粧料、皮膚外用剤、食品または医薬として許容される添加物を添加したものであることもある。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0030】
[実施例1:酵母培養物1の調製と評価]
ヒアルロン酸を含有する培地を用いて酵母を培養し、酵母培養物1を得た。具体的には、重量平均分子量150万のヒアルロン酸0.1w/v%、グルコース1w/v%の混合液200mlを121℃で滅菌後、酵母Dipodascus magnusiiを植菌して、26℃で培養した。12時間ごとにサンプリングを行い、72時間まで培養した。培養後の培養液を無菌フィルターで濾過することにより、滅菌済の酵母培養物を得た。得られた酵母培養物は、凍結乾燥した。
【0031】
〔物性等の評価〕
1.ヒアルロン酸の重量平均分子量
実施例1の条件で培養を行い、サンプリングした酵母培養物1に含まれるヒアルロン酸の分子量を測定した。分子量の測定は、高速液体クロマトグラフィーにより行った。ポリビニルアルコールを充填したカラムを用い、移動相に0.1M 酢酸バッファー、検出器にはRI検出器を用いゲル濾過クロマトグラフィーを行った。
【0032】
【表1】
【0033】
2.臭い
所定の時間ごとにサンプリングした発酵液の臭いを専門パネルが10人で評価した。
○:酵母臭が感じられない
△:酵母臭が感じられる
×:酵母臭が強く感じられる
【0034】
【表2】
【0035】
培養時間が36時間以上では、酵母臭が感じられる場合があることが分かった。
【0036】
[実施例2〜5:酵母培養物2の調製と評価]
ヒアルロン酸を含有する培地を用いて酵母を培養し、酵母培養物2を得た。具体的には、重量平均分子量180万の0.1w/v%ヒアルロン酸、1w/v%グルコースの混合液5Lを121℃で滅菌後、酵母Dipodascus magnusiiを植菌して、28℃、24時間培養した。その後も分子量測定用に培養液の一部は培養を続けた。培養後の培養液を無菌フィルターで濾過することにより、滅菌済の酵母培養物を得た。得られた酵母培養物は、凍結乾燥した。
【0037】
〔物性の評価〕
1.粘度
酵母培養物2の粘度を測定した。測定は、サンプルを水に溶解し、単一円筒型回転粘度計ビスメトロンVS−A1(芝浦システム社製)を用い、25℃、2号ローター、6rpmで行った。
【0038】
【表3】
【0039】
なお、上表の固形分は、ヒアルロン酸としての固形分を指す。ヒアルロン酸の0.5%液は、ヒアルロン酸量として酵母培養物2(凍結乾燥物)の5%に相当する。酵母培養物2は酵母臭もなく、低粘度でべたつきのないものであった。
【0040】
1.ヒアルロン酸の重量平均分子量
実施例2の条件で培養を継続し、所定の時間ごとに発酵液をサンプリングし、酵母培養物2に含まれるヒアルロン酸の分子量を測定した。分子量の測定は、高速液体クロマトグラフィーにより行った。カラムにはポリビニルアルコールを充填したゲル濾過クロマトグラフィーを、移動相に0.1M 酢酸バッファーを、検出器にはRI検出器を用いた。
【0041】
【表4】
【0042】
〔保湿効果〕
24時間培養した酵母培養物2の保湿効果を評価した。具体的には、精製水、発酵前のヒアルロン酸、グルコース、実施例2で調製した酵母培養物2、グリセリンを表5の比率で混合し、実施例3、4および比較例1〜4のサンプルを製造した。被験者10名の両方の前腕内側部を洗浄し、2×2cmの範囲をマーキングした。前腕内側のマーキングした位置の初期水分量を測定した。次いで、2×2cmのティッシュに、製造したサンプル100μL添加し、マーキングした位置に貼付した。5分間後、ティッシュを剥がし、残った液を指でなじませるように塗布した。塗布30分後肌の水分量を測定した。塗布後の値から初期水分量で引き、水分変化量を算出した。なお、水分量の測定には、皮表角層水分量測定装置SKICON−200EX(アイ・ビイ・エス株式会社)を用いた。
【0043】
【表5】
【0044】
ヒアルロン酸を含有する培地で酵母Dipodascus magnusiiを培養して得られた酵母培養物には発酵前のヒアルロン酸とグルコースの混合液より倍以上の高い保湿効果があることが分かった。これは一般に保湿効果が高いとされるグリセリン水溶液と同程度であった。さらに、酵母培養物は多価アルコールと組み合わせることにより、保湿性が相乗的に向上することが分かった。
【0045】
〔酵母培養物の保湿効果2〕
下記に示すような化粧水を作成した。
被験者10名の両方の前腕内側部を洗浄し、2×2cmの範囲をマーキングした。前腕内側のマーキングした位置の初期水分量を測定した。次いで、2×2cmのティッシュに、下方の表に従って処方製造したサンプル100μL添加し、マーキングした位置に貼付した。5分間後、ティッシュを剥がし、残った液を指でなじませるように塗布した。塗布30分後および60分後の肌の水分量を測定した。塗布後の各値を各初期水分量で引き、水分変化量を算出した。なお、水分量の測定には、皮表角層水分量測定装置SKICON−200EX(アイ・ビイ・エス株式会社)を用いた。
【0046】
【表6】
【0047】
〔酵母培養物2の美白効果〕
マウス由来のB16メラノーマ培養細胞を使用し、実施例2で得られた酵母培養物2の美白効果を評価した。具体的には、下記の通りに行った。6穴プレートの各ウェルに10%FBS含有MEM培地を適量とりB16メラノーマ細胞を播種し、37℃、二酸化炭素濃度5%中にて静置した。翌日、ヒアルロン酸、実施例2で調製した酵母培養物2の各サンプルを水に溶解したものを、最終固形分濃度が3000〜5000μg/mLになるように細胞を培養しているウェルへ添加し、混和した。培養5日目に培地を交換し、再度各サンプル水溶液を同様に添加した。翌日、培地を除き、各ウェルの細胞をリン酸緩衝液で洗浄した後、細胞数をカウントした。今回の濃度範囲ではいずれのサンプルも細胞毒性がなく、安全性が高いものであった。
【0048】
その後各々のウェルから細胞を回収し、肉眼で白色度の判定を行った。
判定基準
◎:強い白色化の傾向
○:明らかに白色化の傾向
△:わずかに白色化の傾向あり
×:ブランクと同程度の黒さ
【0049】
美白効果評価結果を表7に示した。酵母培養物2は、濃度依存的に美白効果が見られた。酵母培養物2は、美白効果が高いことが認められた。
【0050】
【表7】
【0051】
[実施例6:化粧水1]
(製法)
A.下記成分(1)〜(8)を混合溶解する。
B.下記成分(9)〜(15)を混合溶解する。
C.BにAを加え混合し、化粧水を得る。
(成分)(質量%)
(1)メドウホーム油 0.1
(2)ホホバ油 0.05
(3)香料 適量
(4)フェノキシエタノール 0.1
(5)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.5
(6)イソステアリン酸ポリオキシエチレン(50E.O.)硬化ヒマシ油 1.0
(7)エタノール 8.0
(8)トコフェロール 0.05
(9)グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
(10)グリセリン 5.0
(11)1,3−ブチレングリコール 5.0
(12)ポリエチレングリコール1500 0.1
(13)酵母培養物1(*1) 0.001
(14)加水分解コラーゲン 0.001
(15)精製水 残量
(*1)実施例1により調製されたもの
【0052】
[実施例7:化粧水2]
(製法)
A.下記成分(1)〜(8)を混合溶解する。
B.下記成分(9)〜(12)を混合溶解する。
C.AにBを加え混合し、化粧水を得た。
(成分)(質量%)
(1)クエン酸 0.05
(2)クエン酸ナトリウム 0.2
(3)ピロリドンカルボン酸ナトリウム(50%)水溶液 0.5
(4)アスコルビン酸グルコシド 0.3
(5)酵母培養物2(*2) 0.0001
(6)グリセリン 3.0
(7)1,3−ブチレングリコール 8.0
(8)精製水 残量
(9)エタノール 10.0
(10)カテキン 0.0001
(11)香料適量
(12)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.5
(*2)実施例2により調製されたもの
【0053】
[実施例8:乳液]
(製法)
A.下記成分(11)の一部を加熱し、70℃に保つ。
B.下記成分(1)〜(10)を加熱混合し、70℃に保つ。
C.BにAを加えて混合し、均一に乳化する。
D.Cを冷却後、下記成分(12)〜(16)と(11)の残部を混合してから加え、均一に混合して乳液を得た。
(成分)(質量%)
(1)ポリオキシエチレン(10E.O.)ソルビタンモノステアレート 1.0
(2)ポリオキシエチレン(60E.O.)ソルビタントリオレエート 0.5
(3)グリセリルモノステアレート 1.0
(4)ステアリン酸 0.5
(5)ベヘニルアルコール 0.5
(6)スクワラン 8.0
(7)プロピレングリコール 5.0
(8)パルミチン酸レチノール 0.1
(9)グリチルレチン酸ステアリル 0.1
(10)フェノキシエタノール 0.1
(11)精製水 残量
(12)カルボキシビニルポリマー 0.2
(13)水酸化ナトリウム 0.1
(14)ヒアルロン酸 0.1
(15)酵母培養物1(*3) 0.003
(16)香料適量
(*3)実施例1により調製されたもの
【0054】
[実施例9:リキッドファンデーション(水中油型クリーム状)]
(製造方法)
A:成分(6)〜(11)を分散する。
B:Aに成分(12)〜(17)を加え70℃で均一に混合する。
C:成分(1)〜(5)を70℃で均一に混合する。
D:CにBを加え乳化し、室温まで冷却する。
E:Dに成分(18)、(19)を添加し均一に混合して水中油型クリーム状リキッドファンデーションを得た。
(成分)(質量%)
(1)アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合(注1) 0.5
(2)トリエタノールアミン 1.5
(3)精製水 残量
(4)グリセリン 5
(5)パラオキシ安息香酸エチル 0.1
(6)1,3-ブチレングリコール 5
(7)水素添加大豆リン脂質 0.5
(8)酸化チタン 5
(9)ベンガラ 0.1
(10)黄酸化鉄 1
(11)黒酸化鉄 0.05
(12)ステアリン酸 0.9
(13)モノステアリン酸グリセリン 0.3
(14)セトステアリルアルコール 0.4
(15)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.2
(16)トリオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.2
(17)パラメトキシケイ皮酸2―エチルヘキシル 5
(18)酵母培養物2(*4) 0.1
(19)香料 0.02
(*4)実施例2により調製されたもの
(注1)ペミュレンTR−2(NOVEON社製)
【0055】
[実施例10:日焼け止め化粧料(油中水型クリーム状)]
(製造方法)
A:成分(1)〜(7)を均一に分散する。
B:成分(8)〜(12)を均一に分散する。
C:Bを攪拌しながら徐々にAを加えて乳化し、油中水型クリーム状日焼け止め化粧料を得た。
(成分)(質量%)
(1)モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.2
(2)POE(60)硬化ヒマシ油 0.1
(3)精製水 残量
(4)ジプロピレングリコール 10
(5)硫酸マグネシウム 0.5
(6) 酵母培養物2(*5) 0.005
(7)アスコルビルリン酸マグネシウム 3
(8)PEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン(注2) 3
(9)デカメチルシクロペンタシロキサン 20
(10)イソノナン酸イソトリデシル 5
(11)パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル 8
(12)ジメチルステアリルアンモニウムヘクトライト 1.2
(*5)実施例2により調製されたもの
(注2)KF−6028(信越化学工業社製)
【0056】
[実施例11:軟膏剤]
(製造方法)
A.成分(5)、(6)および(9)の一部を加熱混合し、75℃に保つ。
B.成分(1)〜(4)を加熱混合し、75℃に保つ。
C.AにBを徐々に加え、これを冷却しながら成分(9)の残部で溶解した(7)(8)を加え、軟膏剤を得た。
(成分)(質量%)
(1)ステアリン酸 18.0
(2)セタノール 4.0
(3)酢酸dl−α―トコフェロール 0.2
(4)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(5)トリエタノールアミン 2.0
(6)グリセリン 5.0
(7)グリチルリチン酸ジカリウム 0.5
(8)酵母培養物2(*6)0. 01
(9)精製水 残量
(*6)実施例2により調製されたもの
【0057】
[実施例12:ローション剤]
(製造方法)
A.成分(4)〜(7)を混合溶解する。
B.成分(1)〜(3)を混合溶解する。
C.AとBを混合して均一にし、ローション剤を得た。
(成分)(質量%)
(1)グリセリン 5.0
(2)1,3−ブチレングリコール 6.5
(3)精製水 残量
(4)ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタンモノラウリン酸エステル 1.2
(5)エチルアルコール 8.0
(6)酵母培養物2(*7) 0.00005
(7)パラオキシ安息香酸メチル 0.2
(*7)実施例2により調製されたもの
【0058】
[実施例13:養毛剤]
(製造方法)
A.成分(1)〜(5)を混合溶解する。
B.成分(6)〜(10)を混合溶解する。
C.AとBを混合して均一にし、養毛剤を得た。
(成分)(質量%)
(1)エチルアルコール 50.0
(2)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(80E.O) 0.5
(3)メントール 0.05
(4)カンファ 0.01
(5)フェノキシエタノール 0.05
(6)精製水 残量
(7)酵母培養物2(*8) 1
(8)オタネニンジン抽出物 0.5
(9)パントテニルアルコール 0.1
(10)グリセリン 5.0
(*8)実施例2により調製されたもの
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により提供される新規素材、酵母によるヒアルロン酸類の発酵物は、化粧料および皮膚外用剤の成分としてのみならず、食品、医薬品の成分としての利用も期待できる。本発明は、美容、食、ヘルスケア、医療等の分野で有用である。