特許第6523722号(P6523722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ FDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6523722-筒型電池の封口板及び筒型電池 図000005
  • 特許6523722-筒型電池の封口板及び筒型電池 図000006
  • 特許6523722-筒型電池の封口板及び筒型電池 図000007
  • 特許6523722-筒型電池の封口板及び筒型電池 図000008
  • 特許6523722-筒型電池の封口板及び筒型電池 図000009
  • 特許6523722-筒型電池の封口板及び筒型電池 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6523722
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】筒型電池の封口板及び筒型電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/04 20060101AFI20190527BHJP
   H01M 2/12 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   H01M2/04 F
   H01M2/04 E
   H01M2/12 101
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-54947(P2015-54947)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-177877(P2016-177877A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小橋 孝英
(72)【発明者】
【氏名】西口 信博
(72)【発明者】
【氏名】砂田 賢
(72)【発明者】
【氏名】飯田 佳恵
(72)【発明者】
【氏名】板垣 翔平
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 実開平3−104953(JP,U)
【文献】 実開平4−6161(JP,U)
【文献】 特開2010−129546(JP,A)
【文献】 特表平7−502144(JP,A)
【文献】 実開昭58−27859(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/04−2/06
H01M 2/12
H01M 2/30
H01M 2/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の電池缶と、当該電池缶の内側に配置されている発電要素と、前記発電要素と電気的に接続されている電極端子とを有する筒型電池を構成すべく、前記電池缶の開口部を封止するための封口板であって、
前記封口板は前記電池缶の内周部と封止状態に接続される外周部と、前記電極端子の周縁部を封止するための内周部とを有する平板状に形成されており、
前記封口板の前記外周部と前記内周部との間には、当該封口板の周方向に沿って所定の幅でもって、他の前記封口板の部分の厚みよりも厚みが薄く形成されている帯状の領域である薄肉部が形成されており、前記封口板の前記薄肉部より内周側部分が、前記封口板の前記薄肉部の外周側よりも前記電池缶の底方向に偏位されている、
ことを特徴とする筒型電池の封口板。
【請求項2】
請求項1に記載の筒型電池の封口板であって、
前記薄肉部は、前記封口板の前記電池缶内部の側から設けられた前記幅の溝として形成されていることを特徴とする筒型電池の封口板。
【請求項3】
有底筒状の電池缶と、当該電池缶の内側に配置されている発電要素と、前記発電要素と電気的に接続されている電極端子と、前記電池缶の開口部を封止するための封口板とを有する筒型電池であって、
前記封口板は前記電池缶の内周部と封止状態に接続される外周部と、前記電極端子の周縁部を封止するための内周部とを有する平板状に形成されており、
前記封口板の前記外周部と前記内周部との間には、当該封口板の周方向に沿って所定の幅でもって、他の前記封口板の部分の厚みよりも厚みが薄く形成されている帯状の領域である薄肉部が形成されており、前記封口板の前記薄肉部より内周側部分が、前記封口板の前記薄肉部の外周側よりも前記電池缶の底方向に偏位されている、
ことを特徴とする筒型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型電池の封口板及び筒型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
筒型電池は、各種電気機器の電源用電池として広く使用されている。筒型電池は、発電要素を収容している有底筒型電池缶の開口部を当該電池缶を封止するための金属製封口板で封口し、電極端子板を取り付けてなる基本構造を有している。筒型電池は、逆接続等により電池内圧が上昇した場合の安全策として、上昇した内圧を外部に逃がす機構を設けている。例えば特許文献1には、図2に例示されているように、円筒型電池において、金属からなる封口板20aの表面にV字溝形状等の薄肉部21を設け、電池1a内の内圧が異常上昇した際に、薄肉部21が先行破断して内圧を開放するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−123375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の封口板20aでは、薄肉部21が形成されている表面と薄肉部21が形成されている表面と対向する表面とは、封口板21の全体にわたって同一平面を形成している。すなわち、薄肉部21は、平板状の封口板20aの一方の面に刻設されている。しかし、このような構成の封口板20aでは、電池内圧の上昇に対して薄肉部21が破断する圧力にばらつきが生じることが観察された。電池内圧の上昇に対して薄肉部21がなかなか破断せず電池内圧が極度に上昇した状態で薄肉部21が破断した場合には、電池内圧が一気に開放されるとともに電解液等の電池内容物が放出されてしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、電池内圧の上昇に対して安定して内圧開放動作を行う筒型電池の封口板及び筒型電池を提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の、及び他の問題点を解決するために、本発明の一つの態様は、有底筒状の電池缶と、当該電池缶の内側に配置されている発電要素と、前記発電要素と電気的に接続されている電極端子とを有する筒型電池を構成すべく、前記電池缶の開口部を封止するための封口板であって、前記封口板は前記電池缶の内周部と封止状態に接続される外周部と、前記電極端子の周縁部を封止するための内周部とを有する平板状に形成されており、前記封口板の前記外周部と前記内周部との間には、当該封口板の周方向に沿って所定の幅でもって、他の前記封口板の部分の厚みよりも厚みが薄く形成されている帯状の領域である薄肉部が形成されており、前記封口板の前記薄肉部より内周側部分が、前記封口板の前記薄肉部の外周側よりも前記電池缶の底方向に偏位されていることを特徴とする筒型電池の封口板である。
【0007】
また、本発明の他の態様は、有底筒状の電池缶と、当該電池缶の内側に配置されている発電要素と、前記発電要素と電気的に接続されている電極端子と、前記電池缶の開口部を封止するための封口板とを有する筒型電池であって、前記封口板は前記電池缶の内周部と封止状態に接続される外周部と、前記電極端子の周縁部を封止するための内周部とを有する平板状に形成されており、前記封口板の前記外周部と前記内周部との間には、当該封口板の周方向に沿って所定の幅でもって、他の前記封口板の部分の厚みよりも厚みが薄く形成されている帯状の領域である薄肉部が形成されており、前記封口板の前記薄肉部より内周側部分が、前記封口板の前記薄肉部の外周側よりも前記電池缶の底方向に偏位されていることを特徴とする筒型電池である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、電池内圧の上昇に対して安定して内圧開放動作を行う筒型電池の封口板及び筒型電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る筒型電池1の構成を例示する縦断面図である。
図2図2は、図1の筒型電池1に設けられる封口板30の模式平面図である。
図3図3は、図1の筒型電池1に設けられる薄肉部32周辺部の構成を例示する縦断面図である。
図4図4は、本実施形態の封口体30の薄肉部32の破断シミュレーション用モデルを示す模式図である。
図5図5は、各シミュレーションモデルについての発生応力と薄肉部32の変位との関係を例示するグラフである。
図6図6は、本実施形態と従来例について封口体30の薄肉部32による破断応力のばらつきを示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は、それらの実施形態に限定されるものではない。
【0011】
まず、図1に、本実施形態に係る筒型電池1の構成例を示す縦断面図を示している。図1の筒型電池1は、有底筒型の電池缶10の内部に発電要素20を収容して構成されている。筒型の形状は、円筒形であっても他の角筒形であってもよい。発電要素20としては、正極合剤と負極合剤とをセパレータを介してスパイラル状に形成してリチウム一次電池を構成した例として示しているが、アルカリ電池などの他の形式の電池にも適用することができる。
【0012】
図1に示されるように、電池缶10は略平板状の封口板30の周縁折り曲げ部30aを電池缶10の内周に沿って溶接することにより封止されている。封口板30の中央開口部には、この封口板30と一体的に設けられる合成樹脂でなる絶縁ガスケット36を有する。絶縁ガスケット36の中央に設けられた開口部には正極端子40が挿通されており、その電池缶10内に突出する一端部には集電リード50がその一端部において固接されて発電要素20の正極材料と接続している。正極端子40の一端部にはワッシャ34がはめ込まれ、正極端子40の端部を軸方向に押圧変形させることにより、封口板30と絶縁ガスケット36とをかしめつけている。なお、封口板30による電池缶10の封止構造としては、上記の溶接による構成に限定されることなく、封口板30の外周と電池缶10とを封止状態に接続するための種々の構成が含まれる。
【0013】
封口板30には、その折り曲げ部30a及び絶縁ガスケット36のいずれとも重複しない範囲で、封口板30を周回するように設けられた薄肉部32を有する。薄肉部32の外周側と薄肉部32の内周側とでは、電池缶10の軸方向における封口板30の位置が異なる。すなわち、封口板30には、その半径方向で見て、薄肉部32の外周側と内周側とで段差が設けられている。図2に封口板30を電池缶10の開口端側から見た平面図を、図3に封口板30の薄肉部32周辺の構成を部分断面図として示している。
【0014】
封口板30の薄肉部32は、封口板30の素材となる金属板(例えばステンレス板)をプレス加工することによって形成することができる。封口板30の薄肉部32の形状は、薄肉部32を挟んだ封口板30の段差H、薄肉部32の厚みT、薄肉部32の封口板30半径方向の幅Wによって規定され、その形状によって電池内圧上昇時に圧力を逃がす作用を行う排出弁としての性能が変化する。本出願人は、この封口板30の薄肉部32の形状を種々変更した場合の排出弁としての性能を確認するためのシミュレーションモデルを制作し、当該シミュレーションモデルを用いて本実施形態による封口板30の薄肉部32の効果を確認した。以下にそのシミュレーションモデルとシミュレーション結果について説明する。
【0015】
図4に、本実施形態に関する封口板30の薄肉部32の破断シミュレーションのために制作したシミュレーションモデルを示している。シミュレーションモデルは、従来モデル、本願モデル1、本願モデル2の3種類とし、封口板30の薄肉部32を半径方向に切断して得られる二次元モデルとしている。封口板30の素材としては、ステンレス材のSUS430を非線形材として想定した。従来モデルは封口板30に段差Hがなく、幅W、厚みTの薄肉部32が設けられているのみである。薄肉部32を形成するための溝は、電池1の内方側(電池内圧が印加される側)の表面に設けている。これは、電池内圧上昇時に、電池内圧が薄肉部32に形成される凹溝部に集中して安定した破断効果が得られるようにするためである。本願モデル1は、封口板30に薄肉部32を挟んで段差H=0.1mmを設けている。本願モデル2は、封口板30に薄肉部32を挟んで段差H=0.2mmを設けている。段差Hは、封口板30の外周側が内周側よりも電池1の正極端子40よりとなるように設定されている。すなわち封口板30は正極端子40側から見て略凹状となっている。
【0016】
まず、本実施形態の薄肉部32を設けた封口板30の内圧上昇時の挙動に与える効果を確認するシミュレーションを実施した。前記3つのモデルについて、薄肉部32の厚みT=0.3mm、幅W=1.0mmと設定した。これらのシミュレーションモデルについて、封口板30の薄肉部32の内方側の部分が電池1の軸方向に電池缶10外方へ向けて0.2mm変位したときに薄肉部32に発生する応力を算出した。この想定は、電池1の内圧上昇により、封口板30の薄肉部32内方部分が0.2mm押し出された状態を意味している。
【0017】
各シミュレーションモデルについて薄肉部32内方側の変位(mm)に対する薄肉部32での発生応力(GPa)を算出した。電池内圧を安全に開放することができるために薄肉部32に発生する応力として、0.5GPaを想定した。図5のグラフに、各シミュレーションモデルについての発生応力と薄肉部32の変位との関係を例示している。図5に示されているように、薄肉部32が破断して排出弁として機能する0.5GPaに応力が到達する際の変位は、
従来モデル 0.12mm
本願モデル1 0.05mm
本願モデル2 0.13mm
となった。このことから、従来モデル、本願モデル2と比較して、本願モデル1では約1/3程度の変位量で薄肉部32が破断し、確実に電池内圧を開放可能であることが確認された。
【0018】
本願モデル1では、電池内圧の上昇により封口板30が膨張する過程で、薄肉部32に作用する応力が圧縮から引張へと変化する。このため、発生応力が排出弁作動の閾値として設定した0.5GPaに達するまでに薄肉部32に圧縮・引張による金属疲労が生じ、破断しやすくなっていると考えられる。一方、本願モデル2では、電池内圧の上昇により膨張する過程で、本願モデル1よりも段差Hが大きく、その結果薄肉部32の長さも長くなっているので、その薄肉部32が複雑に変形することとなり、従来モデルと大差ない結果となったと考えられる。本願モデル2は、薄肉部32が比較的長いため、その変形を適切に制御することは難しいと考えられる。以上のことから、本願発明を適切に実施するためには本願モデル1がより好適と考えられたので、以下、従来モデルと本願モデル1とを用いて他のシミュレーションを実施した。なお、以下の各シミュレーションにおいても前記した図5と同様の発生圧力と薄肉部32の変位との関係を得たが、個々のグラフの記載は省略して読み取った数値を各表に記載した。
【0019】
薄肉部32の厚みに関するシミュレーション
まず、封口板30に設ける薄肉部32の厚みと、薄肉部32に発生する応力との関係を、前記シミュレーションモデルにより算出した。シミュレーションモデルは、従来モデル(段差なし)と本願モデル1(段差H=0.1mm)であり、薄肉部32の幅Wは1.0mmとした。各モデルについて、薄肉部32に発生する応力が、排出弁として作動する閾値と想定している0.5GPaに達するときの薄肉部32の変位(封口板30で、薄肉部32の内方側部分が外方側部分に対して電池1の軸方向に移動した距離)を求めた。表1に、薄肉部32の厚みをパラメータとして、各モデルについて算出された変位を示している。なお、薄肉部32の厚みは、四捨五入して小数点以下2桁に丸めたものである。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示すように、従来モデルでは、薄肉部32の厚みを0.02、0.03、0.04mmと変更した場合、いずれの厚みについても応力が閾値に達するには0.1mm以上変位している。一方、本願モデル1では、薄肉部32の厚みが0.04mmと厚い場合に変位が0.2mmを超えているが、薄肉部32の厚みが0.02、0.03mmの場合にはそれぞれ0.06、0.04mm程度の小さな変位で排出弁作動閾値に達している。これらの場合には、電池内圧が上昇した場合、わずかな変位で安全に内圧を開放することができることを意味している。薄肉部32の厚みが小さいほど、圧縮力、引張力いずれについても薄肉部32に発生する応力は大きくなる傾向があるため、小さな変位で作動するようになる。ただし、薄肉部32の厚みを小さくしすぎると、薄肉部32の強度低下により、電池1に衝撃が与えられた場合などに薄肉部32が損傷するおそれがあるので、薄肉部32の厚みは上記シミュレーション結果と耐久性とのバランスで決定すればよい。
【0022】
薄肉部32の幅に関するシミュレーション
次に、封口板30に設ける薄肉部32の幅と、薄肉部32に発生する応力との関係を、前記シミュレーションモデルにより算出した。シミュレーションモデルは、従来モデル(段差なし)と本願モデル1(段差H=0.1mm)であり、薄肉部32の厚みTは0.03mmとした。各モデルについて、薄肉部32に発生する応力が、排出弁として作動する閾値と想定している0.5GPaに達するときの薄肉部32の変位を求めた。表2に、薄肉部32の幅をパラメータとして、各モデルについて算出された変位を示している。なお、薄肉部32の幅は、四捨五入して小数点以下2桁に丸めたものである。
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示すように、従来モデルでは、薄肉部32の幅を0.75、1.00、1.25mmと変更した場合、いずれの幅についても応力が閾値に達するには0.1mm以上変位していることがわかる。一方、本願モデル1では、薄肉部32の幅が1.25mmと大きい場合に変位が0.2mmを超えているが、薄肉部32の幅が0.75、1.0mmの場合にはそれぞれ0.03、0.05mm程度の小さな変位で排出弁作動閾値に達している。これらの場合には、電池内圧が上昇した場合、わずかな変位で安全に内圧を開放することができることを意味している。
【0025】
薄肉部32の段差に関するシミュレーション
次に、封口板30に設ける薄肉部32の段差と、薄肉部32に発生する応力との関係を、前記シミュレーションモデルにより算出した。シミュレーションモデルは、薄肉部32の幅W=1.0mm、厚みT=0.03mmとし、段差Hを0(従来モデルの段差なし)から本願モデル1(段差H=0.1mm)を含み0.2mmまで変化させ、薄肉部32に発生する応力が、排出弁として作動する閾値と想定している0.5GPaに達するときの薄肉部32の変位を求めた。なお、薄肉部32の段差は、四捨五入して小数点以下2桁に丸めたものである。表3に、薄肉部32の段差をパラメータとして算出された変位を示している。表3で段差Hのマイナス記号は、封口板30の薄肉部32を挟んだ内方側が外方側よりも低くなっている(封口板30を正極端子側から見たときに略凹状となっている)ことを示している。なお、逆に薄肉部32の外方側を内方側よりも0.1mm低くしたモデルについて変位を算出したが、薄肉部32での発生応力が高まる(従来モデルよりも小さい変位で閾値応力に達する)効果は見られなかった。
【0026】
【表3】
【0027】
表3に示すように、薄肉部32の幅と厚みを前記のように一定として段差Hを変化させた場合、H=−0.10mm近辺では0.05mmと比較的小さい変位で閾値応力に達しており、電池1の内圧上昇に対して小さい変位で、すなわち小さな内圧上昇で薄肉部32が破断して内圧を開放可能と期待できることがわかる。
【0028】
上記のほか、封口板30の材質を変更したシミュレーションも実施した。シミュレーションモデルは、薄肉部32の段差H=0.10mm、幅W=1.00mm、厚みT=0.03mmとし、材質は、ステンレス材のSUS316、SUS430を想定した。これらの場合、材質により変位に対する発生応力の挙動、大きさに差異は見られたが、いずれも変位が0.05mm以下で閾値応力に達する効果が見られた。
【0029】
以上のように、封口板30の本実施形態の薄肉部32を設けた場合の効果が明らかとなったが、ここで、本実施形態の封口板30を設けた電池缶10を用いて、実際に電池内圧を上昇させたとした場合の作動圧(薄肉部32が排出弁として動作するときの圧力)を測定した。電池1として円筒型電池を想定し、以下の手順で測定を行った。測定対象としては、シミュレーションにおける従来モデルと本願モデル1とし、薄肉部32の幅W=1.0mm、厚みT=0.03mmとした。
【0030】
まず、封口板30を溶接して密封した電池缶10を作動圧試験機に取り付け、作動圧試験機から純水が封口板付きの外装缶に自動供給されるように設定した。そして、電池缶10内に純水が貯留されて内圧が上昇し、封口板30の薄肉部32が破断した時の圧力を測定した。測定結果を図6に示している。
【0031】
図6は、従来モデル、本願モデル1各10個のサンプルについて、上記の作動圧を測定した結果を示している。図示のヒストグラムの縦軸は作動圧を、横軸は対応するサンプル数を示している。図6の結果から明らかなように、本発明を適用した本願モデル1によるサンプル電池では、従来モデルと比較して作動圧のばらつきが抑制されており、安定した弁差動が可能となっている。
【0032】
以上詳細に説明したように、本発明の実施形態に係る、薄肉部32を有する封口板30を備えた筒型電池では、なんらかの原因で電池内圧が上昇した場合、電池内圧が比較的低い段階で薄肉部32が破断して電池内圧を外部に開放することができる。したがって、電池が破裂して内容物が噴出するような状況を防止することができる。また、薄肉部32が破断する際の圧力にばらつきが少ないため、電池内圧を安全に開放する効果を確実に得ることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 筒型電池 10 電池缶 20 発電要素
30 封口板 32 薄肉部
図1
図2
図3
図4
図5
図6