特許第6523735号(P6523735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6523735
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】バタフライ弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 1/22 20060101AFI20190527BHJP
   F16K 1/226 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   F16K1/22 H
   F16K1/22 G
   F16K1/226 F
   F16K1/226 G
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-66451(P2015-66451)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186336(P2016-186336A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕俊
(72)【発明者】
【氏名】若林 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】桑原 隆
(72)【発明者】
【氏名】入江 健
(72)【発明者】
【氏名】城山 重英
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0132810(KR,A)
【文献】 特開2013−181591(JP,A)
【文献】 特開2000−002342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 1/22
F16K 1/226
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路が形成された弁箱(1)と、
軸周りに回動して前記流路を開閉する弁体(2a)と、前記弁体(2a)との間に所定間隔をもって配置される補強板(2b)と、前記弁体(2a)と前記補強板(2b)とを連結するリブ板(2c)と、を有する前記弁箱(1)の流路内に設けられた複葉弁体(2)と、
前記弁体(2a)の弁体面から前記流路の流動方向に偏心するとともに、前記弁体(2a)の中心から前記流路の一方の内壁面側に偏心し、前記弁体(2a)を回動させる回動軸(3)と、
前記流路の中心軸上から前記回動軸(3)の前記内壁面側への偏心方向と同一方向に偏心した位置に頂点を有し、前記中心軸に対して傾斜した前記中心軸上からの偏心方向に沿う短軸を有する仮想楕円錐面(f1)を、所定距離離れた二枚の仮想平面で切断したときの、この両仮想平面で囲まれる仮想楕円錐面(f1)を当接面とし、前記弁箱(1)の内径側に設けられる弁箱弁座(4)と、
前記弁体(2a)の外周縁に設けられ、前記当接面に当接する弁体弁座(5)と、
を備え
前記二枚の仮想平面を、前記中心軸に対して垂直状態としたバタフライ弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バタフライ弁に関し、特に偏心構造を採用した複葉弁体形式のバタフライ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電所用の水車入口弁や、鉄管弁等においては、発電効率の観点から、圧力損失の低減を図ることができる球形弁や複葉弁の採用が考えられる。球形弁は、高水圧に耐えられるというメリットがある反面、非常に高コストとなるとともに、口径を同じにした場合、複葉弁と比較して、面間寸法、弁胴径が大きく、質量が大きくなる傾向がある。このため、生産設備を大型化する必要が生じるとともに、輸送上及び据え付け上の問題も生じやすく、採用が見送られることが多い。これに対し、複葉弁は、球形弁と比較して大幅に低コスト化を図ることができるとともに、面間寸法と弁胴径の小型化が可能であって輸送、製作、及び据付スペースの確保が容易等のメリットがあり、採用が積極的に検討されることが多い。
【0003】
ところが、一般的な複葉弁は、弁座にゴム等の軟質素材が採用されているため、ある程度の高圧になると、この軟質素材が水圧によって変形し、止水性能を確保できなくなることがある。
【0004】
この問題を解決すべく、下記特許文献1に記載のバイプレーンバルブ(以下、複葉弁と称する。)では、弁体を回動する弁棒(回動軸)の中心軸を、弁体シートを含む平面からずらす(一次偏心)とともに、弁胴の流路の中心軸からもずらし(二次偏心)、さらに弁座を含む仮想円錐の頂点が、流路の中心軸からの弁棒の中心軸のずれ方向に偏位するように、仮想円錐の中心軸を流路の中心軸から傾け(三次偏心)、弁板が流路の軸方向に対する垂直面から傾斜した状態で、弁体シートが弁座に押し当てられる、いわゆる3重偏心構造を採用している(本文献の図1参照)。
【0005】
このように、3重偏心構造とすることにより、弁体シート8を弁座7に押し当てるだけで、流路を確実に閉止することができ(本文献の段落0024参照)、弁座同士の摺動抵抗(シーティングトルク)を非常に小さくすることができる。このため、弁座の長寿命化を図ることができるとともに、弁棒を回転駆動する開閉装置の容量(駆動力)を小さくして装置の小型化を図ることもできる。
【0006】
この弁体シート8は、金属板9とゴム板10を複数層積層して構成されている(本文献の図3参照)。このように弁体シートを構成することにより、弁体シート8の脱落や破損を防止しつつ、高圧への対応を可能としている(本文献の段落0024参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−181591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示す三重偏心構造のバタフライ弁は、弁体が、弁胴の軸方向から傾斜した方向で閉止状態となるため、弁胴の長さを短くすることができず、面間寸法が長くなる問題がある。
【0009】
そこで、この発明は、複葉弁の弁体構造(以下、複葉弁体と称する。)を備えた偏心構造のバタフライ弁において、面間寸法を短くして弁の軽量化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明は、内部に流路が形成された弁箱と、軸周りに回動して前記流路を開閉する弁体と、前記弁体との間に所定間隔をもって配置される補強板と、前記弁体と前記補強板とを連結するリブ板と、を有する前記弁箱の流路内に設けられた複葉弁体と、前記弁体の弁体面から前記流路の流動方向に偏心するとともに、前記弁体の中心から前記流路の一方の内壁面側に偏心し、前記弁体を回動させる回動軸と、前記流路の中心軸上から偏心した位置に頂点を有し、前記中心軸に対して傾斜した前記中心軸上からの偏心方向に沿う短軸を有する仮想楕円錐面を、所定距離離れた二枚の仮想平面で切断したときの、この両仮想平面で囲まれる仮想楕円錐面を当接面とし、前記弁箱の内径側に設けられる弁箱弁座と、前記弁体の外周縁に設けられ、前記当接面に当接する弁体弁座と、を備えたバタフライ弁を構成した。
【0011】
このように、回動軸を4重偏心(流動方向への偏心、一方の内壁面側への偏心、仮想楕円錐面とする偏心、及び中心軸からの仮想楕円錐面の軸の偏心)させることにより、弁箱の断面形状及び弁体形状を円形とすることができ、流路方向の開口面積を大きく取ることができる。また、弁胴の長さを短くして弁の軽量化を図ることもできる。ここでいう弁体面とは、弁体弁座を閉じたときに弁箱弁座と弁体弁座とが当接した当接部を含み、前記流路の中心軸に垂直な面のことを指す。
【0012】
前記構成においては、前記二枚の仮想平面を、前記中心軸に対して垂直状態とするのが好ましい。
【0013】
このように垂直状態とすることにより、面間寸法を短くすることができ、弁の軽量化を図ることができる。
【0014】
あるいは、内部に流路が形成された弁箱と、軸周りに回動して前記流路を開閉する弁体と、前記弁体との間に所定間隔をもって配置される補強板と、前記弁体と前記補強板とを連結するリブ板と、を有する前記弁箱の流路内に設けられた複葉弁体と、前記弁体の弁体面から前記流路の流動方向に偏心するとともに、前記弁体の中心から前記流路の一方の内壁面側に偏心し、前記弁体を回動させる回動軸と、前記流路の中心軸上から偏心した位置に頂点を有し、前記中心軸に対して傾斜した仮想円錐面を、前記中心軸に対して垂直状態であって、かつ所定距離離れた二枚の仮想平面で切断したときの、この両仮想平面で囲まれる仮想円錐面を当接面とし、前記弁箱の内径側に設けられる弁箱弁座と、前記弁体の外周縁に設けられ、前記当接面に当接する弁体弁座と、を備えたバタフライ弁を構成してもよい。
【0015】
このように、回動軸を3重偏心(流動方向への偏心、一方の内壁面側への偏心、及び中心軸からの仮想円錐面の軸の偏心)させるとともに、中心軸に対して垂直状態の二枚の仮想平面で切断することにより、面間寸法を短くすることができ、弁の軽量化を図ることができる。
【0016】
前記各構成においては、前記弁箱弁座及び前記弁体弁座のうち少なくとも一方を前記弁体面の面内で、前記弁箱弁座及び前記弁体弁座との間で相対移動して、前記弁箱弁座と前記弁体弁座との間の当接状態を調節する自動調心機構をさらに備えた構成とするのが好ましい。
【0017】
この自動調心機構を備えた構成として、前記弁体弁座が円環状であって、前記自動調心機構が、前記弁体弁座の内周縁の基部が嵌め込まれる前記弁体に設けられた嵌合凹部と、この嵌合凹部の底部に形成された間隙部と、を備えた構成とすることができる。
【0018】
このように間隙部を設けることにより、弁体弁座が弁箱弁座によって押圧された時に、この弁体弁座を間隙部内にずらすように変位させることができる。このように、変位を許容することによって、弁箱弁座に対する弁体弁座の自動調心機能が発揮され、弁箱弁座と弁体弁座との間の当接力が弁体弁座の全周に亘って均等となり、水密及び気密状態の一層の向上が期待できる。
【0019】
この自動調心機構を備えた構成として、前記自動調心機構が、前記弁体弁座を弁体に固定する弁体固定部材と、前記弁体弁座に形成され、この弁体弁座が前記弁体固定部材に対して前記弁体面の面内で相対移動するのを許容する貫通孔状の弁体変位許容部と、を備えた構成とすることもできる。
【0020】
このように弁体変位許容部を設けることによって、弁体弁座が弁箱弁座によって押圧された時に、弁箱弁座に対する弁体弁座の自動調心機能が発揮され、水密及び気密状態の一層の向上が期待できる。
【0021】
この自動調心機構を備えた構成として、前記自動調心機構が、前記弁箱弁座を弁箱に固定する弁箱固定部材と、前記弁箱弁座に形成され、この弁箱弁座が前記弁箱固定部材に対して前記弁体面の面内で相対移動するのを許容する貫通孔状の弁箱変位許容部と、を備えた構成とすることもできる。
【0022】
このように弁箱変位許容部を設けることによって、弁箱弁座と弁体弁座が当接した時に、弁体弁座に対する弁箱弁座の自動調心機能が発揮され、水密及び気密状態の一層の向上が期待できる。
【発明の効果】
【0023】
この発明では、弁体を開閉する回動軸を4重偏心させた、あるいは、3重偏心させるとともに、中心軸に対して垂直状態の二枚の仮想平面で切断された両仮想平面で囲まれる仮想楕円錐面又は仮想円錐面を弁箱弁座の当接面とした複葉弁体を備えるバタフライ弁を構成した。このように構成することにより、各部材の寸法及び組み立てに対する要求精度が軽減され、簡便に水密状態を確保しつつ、弁体の開閉を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本願発明に係るバタフライ弁の第一実施形態を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図、(c)は正面図
図2図1(a)に示すバタフライ弁の要部の縦断面図を示し、(a)は一方の壁面側、(b)は他方の壁面側
図3図1(a)に示すバタフライ弁を少し開弁した状態を示す縦断面図
図4】本願発明に係るバタフライ弁の第二実施形態の要部の縦断面図を示し、(a)は一方の壁面側、(b)は他方の壁面側
図5】本願発明に係るバタフライ弁の第三実施形態を示す縦断面図
図6図5に示すバタフライ弁の要部の縦断面図
図7図5に示すバタフライ弁の横断面図
図8図5に示すバタフライ弁の要部の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明に係るバタフライ弁の第一実施形態を図面に基づいて説明する。図1(a)(b)に示すバタフライ弁は、弁箱1、複葉弁体2、複葉弁体2の回動軸3、弁箱1の内周面に設けられる弁箱弁座4、及び弁体弁座5を主要な構成要素とする四重偏心構造のものである。
【0026】
弁箱1の内部には、液体や気体等の流体を流動させる流路が形成されている。この流路内には、回動軸3周りに回動して、この流路を開閉する複葉弁体2が設けられている。この複葉弁体2は、流路を開閉する弁体2aと、弁体2aとの間に所定間隔をもって、弁体2aの全開時に流路に沿う方向(弁体2aと平行な方向)に配置される補強板2bと、弁体2aと補強板2bとを連結するリブ板2cと、を有し、弁体2a(複葉弁体2)の全開時に、圧力損失の低減を図ることができるように構成されている。
【0027】
弁体弁座5は、弁体2aの外周縁に設けられている。回動軸3は、弁体2aの弁体弁座5の取付面から流体の流動方向に偏心するとともに(一次偏心。図1(a)中の符号S1参照)、弁体2aの中心から流路の一方の内壁面側(図1(a)では上部内壁面側)に偏心した状態となっている(二次偏心。図1(a)中の符号S2参照)。
【0028】
弁箱弁座4は円環状をなし、弁箱1の内径側に取り付けられている。この弁箱弁座4の内周面(弁体弁座5との当接面)は、流路の中心軸上から偏心した位置に頂点を有し(三次偏心。図1(a)中の符号S3参照)、前記中心軸に対して傾斜した、中心軸上からの偏心方向に沿う短軸を有する仮想楕円錐面f1(四次偏心。図1(a)中の符号S4参照)を、前記中心軸に対して垂直状態であって、かつ所定距離離れた二枚の仮想平面で切断したときの、この両仮想平面で囲まれる仮想楕円錐面f1からなる。より具体的には、図1(a)(b)に示すように、仮想楕円錐面f1の偏心側において、内周面は、仮想楕円錐面f1の頂点に向かう中心軸に平行な平行面(流動方向に沿う面)であるのに対し、前記偏心側の反対側において、内周面は、仮想楕円錐面f1の頂点に向かう傾斜面となっている。
【0029】
この傾斜面の傾斜角は、この反対側で最も大きく、偏心側に向かうほど次第に小さくなる。この弁箱弁座4の素材は特に限定されず、メタルシート、ラミネートシート、高硬度のゴム、樹脂等の素材を適宜採用することができる。
【0030】
弁体弁座5は、図2(a)(b)に示すように、円環状の金属板5aとゴム板5bとが交互に複数積層された部材である。この弁体弁座5の内周縁側(基部5c)が、弁体2aの外周縁と円環状の保持部材6との間に形成された嵌合凹部2dに嵌め込まれ、保持部材6に設けられた弁体固定部材(ボルト)7によって固定されている。この弁体弁座5の外周縁は、弁箱弁座4の内周面に沿うように加工されている。すなわち、仮想楕円錐面f1の偏心側において、弁体弁座5の外周縁は、仮想楕円錐面f1の頂点に向かう中心軸に平行な平行面(流動方向に沿う面)であるのに対し、前記偏心側の反対側において、この外周縁は、仮想楕円錐面f1の頂点に向かう傾斜面となっている。
【0031】
この傾斜面の傾斜角は、弁箱弁座4の傾斜面と同様に、前記偏心側の反対側で最も大きく、偏心側に向かうほど次第に小さくなる。この実施形態においては、弁体弁座5を金属板5aとゴム板5bの積層体からなる部材としたが、ゴム板5bの代わりにグラファイトを用いてもよい。また、必ずしも積層体に限定されず、高硬度のゴム、樹脂、メタル等を適宜採用することができる。弁体2aと弁体弁座5との間には、シール部材8が介在して設けられており、このシール部材8によって、弁体2aと弁体弁座5との間の隙間を通って水が漏れる裏漏れを防止している。
【0032】
この弁体2a(複葉弁体2)は、図3に示すように、矢印の方向に回動軸3を回動すると、弁箱弁座4と弁体弁座5が離れて開弁する。この開弁時において、三重偏心構造又は四重偏心構造のバタフライ弁の弁箱弁座4と弁体弁座5はほとんど摺動しない。このため、閉弁状態の弁体2a(複葉弁体2)をスムーズに開弁することができ、両弁座4、5の長寿命化を図ることができる。
【0033】
この第一実施形態においては、仮想楕円錐面f1を、中心軸に対して垂直状態の二枚の仮想平面で切断し、この仮想平面で囲まれる仮想楕円錐面f1を当接面とする弁箱弁座4を構成し、弁体弁座5が中心軸に対して垂直に配置されるようにしたが、仮想楕円錐面f1を、中心軸に対して傾斜角を有する二枚の仮想平面で切断し、弁体弁座5が中心軸に対して傾斜した状態とすることもできる。
【0034】
また、この第一実施形態のように、4重偏心のバタフライ弁とする代わりに、回動軸3が、弁体2aの弁体弁座5の取付面から流体の流動方向に偏心するとともに(一次偏心。図1(a)中の符号S1参照)、弁体2aの中心から流路の一方の内壁面側(図1(a)では上部内壁面側)に偏心し(二次偏心。図1(a)中の符号S2参照)、弁箱弁座4の内周面(弁体弁座5との当接面)は、流路の中心軸上から偏心した位置に頂点を有し(三次偏心。図1(a)中の符号S3参照)、前記中心軸に対して傾斜した仮想円錐面f2を、前記中心軸に対して垂直状態であって、かつ所定距離離れた二枚の仮想平面で切断したときの、この両仮想平面で囲まれる仮想円錐面f2からなる、3重偏心のバタフライ弁とすることもできる。
【0035】
このように構成した、4重偏心又は3重偏心のバタフライ弁は、低圧から高圧まで幅広い圧力範囲に対応できるとともに、弁体2a(複葉弁体2)を全開したときの圧力損失も低い。このため、水車入口弁、鉄管弁、ジェットポンプ給水弁等のように水力発電設備で使用される多くのバルブに対して適用することができ、しかも、汎用性が高いことから、そのコストの抑制を図ることもできる。
【0036】
本願発明に係るバタフライ弁の第二実施形態の要部を図4(a)(b)に示す。この第二実施形態においては、弁体2aの外周縁から弁体弁座5を若干外向きに突出させるとともに、この弁体弁座5を嵌め込む嵌合凹部2dの底部に、この嵌合凹部2dと連続する所定深さの間隙部2eが形成されており、この嵌合凹部2d及び間隙部2eによって自動調心機構が構成されている。この自動調心機構によって、弁体弁座5を弁体面の面内で弁箱弁座4に対して相対移動させることにより、弁箱弁座4と弁体弁座5との間の当接状態を調節することができる。
【0037】
すなわち、弁箱1の中心軸と弁体2aの中心軸が完全に一致している状態で複葉弁体2が開弁された場合、弁体2aと弁体弁座5が完全に同心円状の位置にあり、弁体2aの周方向全体に亘って間隙部2eの深さ(弁体弁座5の基部5cの底部から間隙部2eの底部までの距離)が均等の状態のまま、弁箱弁座4と弁体弁座5が当接する。
【0038】
その一方で、バタフライ弁のアセンブリにおける誤差等により、弁箱弁座4と弁体弁座5との間に位置ずれや傾きが生じた場合、弁体2aに対して弁体弁座5が相対移動することによって、弁体弁座5の一部が間隙部2e内にずれた状態となる。このように、弁体弁座5の一部が間隙部2e内にずれたときには、弁体弁座5の中心に対する反対側の位置においては、逆に弁体弁座5が嵌合凹部2dから若干突出した状態となる。弁体2aと弁体弁座5との間の軸心をずらして、弁箱弁座4と弁体弁座5との間の軸心を一致させる自動調心がなされることにより、弁箱弁座4と弁体弁座5との間の隙間が解消して、高い水密及び気密状態が確保される。この間隙部2eの深さは、弁箱弁座4の内径や、弁体弁座5の外径等を考慮して適宜変更してもよい。
【0039】
本願発明に係るバタフライ弁の第三実施形態を図5〜8に示す。この第三実施形態に係るバタフライ弁の基本構成は、第二実施形態に係るバタフライ弁と同じであるが、自動調心機構の構成が異なっている。
【0040】
この第三実施形態の自動調心機構においては、弁体弁座5が円板状をしており、この弁体弁座5は、保持部材6を介して弁体固定部材7によって弁体2aに固定されている。この弁体弁座5には、弁体固定部材7を通す貫通孔(弁体変位許容部)9が形成されており、この貫通孔9の内径は、弁体固定部材7の直径よりも若干大きめとなっている(図6図8参照)。このようにすると、貫通孔9の内径と弁体固定部材7の直径の差の分だけ、弁体弁座5を弁体固定部材7に対して、弁体面の面内で相対移動させることが可能となり、弁体弁座5の調心作用が発揮される。
【0041】
保持部材6の弁体弁座5に臨む面には、座繰り10が形成されている。このように、座繰り10を形成することにより、保持部材6と弁体弁座5との間の摺動摩擦を減らすことができ、弁体弁座5の自動調心を一層スムーズに行うことができる。
【0042】
さらに、この実施形態の自動調心機構においては、弁箱弁座4は、弁箱固定部材(ボルト)11によって弁箱1に固定されている。この弁箱弁座4には、弁箱固定部材11を通す貫通孔(弁箱変位許容部)12が形成されており、この貫通孔12の内径は、弁箱固定部材11の直径よりも若干大きめとなっている(図6図8参照)。このようにすると、貫通孔12の内径と弁箱固定部材11の直径の差の分だけ、弁箱弁座4を弁箱固定部材11に対して、弁体面の面内で相対移動させることが可能となり、弁箱弁座4の調心作用が発揮される。
【0043】
このように、自動調心機構を設けることにより、さらなる水密及び気密状態の向上を図ることができる。この実施形態においては、弁体弁座5側の自動調心機構と、弁箱弁座4側の自動調心機構の両方を設けた構成について示したが、いずれか一方の自動調心機構を設けた構成としてもよい。
【0044】
上記の実施形態において説明したバタフライ弁はあくまでも一例であって、複葉弁体2を備えた偏心構造のバタフライ弁において、面間寸法を短くして弁の軽量化を図る、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、各部材の形状や材質は適宜変更することができる。例えば、上記実施形態においては、弁箱弁座4の内周面の偏心側を流路の中心軸に平行な平行面としたが、この構成もあくまで一例であって、前記中心軸に対して傾斜した傾斜面とする等、他の構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 弁箱
2 複葉弁体
2a 弁体
2b 補強板
2c リブ板
2d 嵌合凹部
2e 間隙部
3 回動軸
4 弁箱弁座
5 弁体弁座
5a 金属板
5b ゴム板
5c 基部
6 保持部材
7 弁体固定部材
8 シール部材
9 貫通孔(弁体変位許容部)
10 座繰り
11 弁箱固定部材
12 貫通孔(弁箱変位許容部)
f1 仮想楕円錐面
f2 仮想円錐面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8