(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シャフトと、同シャフトが挿入されるスリーブと、円筒状の本体部を備え当該本体部の内周面から径方向の外側に向かって隆起する複数の隆起部を有するトレランスリングと、を備え、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間に前記トレランスリングが嵌合されてなる軸継手構造において、
前記シャフトの外周面と前記トレランスリングの前記本体部との間には、前記隆起部の内外を連通する連通路が設けられ、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間にある潤滑油は、前記シャフトの外周面と前記トレランスリングの前記本体部との間に設けられた前記連通路を通じた前記隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている
ことを特徴とする軸継手構造。
シャフトと、同シャフトが挿入されるスリーブと、円筒状の本体部を備え当該本体部の外周面から径方向の内側に向かって隆起する複数の隆起部を有するトレランスリングと、を備え、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間に前記トレランスリングが嵌合されてなる軸継手構造において、
前記スリーブの内周面と前記トレランスリングの前記本体部との間には、前記隆起部の内外を連通する連通路が設けられ、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間にある潤滑油は、前記スリーブの内周面と前記トレランスリングの前記本体部との間に設けられた前記連通路を通じた前記隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている
ことを特徴とする軸継手構造。
前記複数の隆起部のうち少なくとも一つは、前記スリーブの内周面に頂部が当接する第1の隆起部と、当該第1の隆起部よりも隆起の高さが低く同第1の隆起部から連続して前記本体部の端部側に延びる第2の隆起部とを含み、
前記第2の隆起部の端部は、前記軸方向における前記小軸径部の両端部の間に位置する請求項3に記載の軸継手構造。
前記複数の隆起部のうち少なくとも一つは、前記シャフトの外周面に頂部が当接する第1の隆起部と、当該第1の隆起部よりも隆起の高さが低く同第1の隆起部から連続して前記本体部の端部側に延びる第2の隆起部とを含み、
前記第2の隆起部の端部は、前記軸方向における前記大内径部の両端部の間に位置する請求項4に記載の軸継手構造。
前記トレランスリングの前記本体部の内周面及び外周面の少なくとも一方には、リン酸マンガン皮膜が設けられている請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の軸継手構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トレランスリングに繰り返し滑り回転が生じることによって発生する摩耗粉は、トレランスリングの複数の隆起部とシャフトとの間、すなわち隆起部の内部に溜まる。この隆起部の内部に溜まった摩耗粉の一部がシャフトやスリーブとトレランスリングとの間の滑り面に介在した状態でトレランスリングに滑り回転が生じると、摩耗粉によりトレランスリング又はシャフトやスリーブの滑り面が削られることで摩耗粉が発生し摩耗が促進され、ひいては摩耗粉の発生が助長されるおそれがある。
【0006】
なお、このような課題は、シャフトとスリーブとの間の保持力が上記許容値を超えた場合に、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間に軸方向の滑りが生じることにより、上記保持力が許容値以下に制限される軸継手構造においても同様に存在する。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることのできる軸継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する軸継手構造は、シャフトと、同シャフトが挿入されるスリーブと、円筒状の本体部を備え当該本体部の内周面から径方向の外側に向かって隆起する複数の隆起部を有するトレランスリングとを備え、シャフトの外周面とスリーブの内周面との間にトレランスリングが嵌合されてなる。そして、この軸継手構造において、シャフトの外周面とトレランスリングの本体部との間には、隆起部の内外を連通する連通路が設けられている。
【0009】
その他、上記課題を解決する軸継手構造は、シャフトと、同シャフトが挿入されるスリーブと、円筒状の本体部を備え当該本体部の外周面から径方向の内側に向かって隆起する複数の隆起部を有するトレランスリングとを備え、シャフトの外周面とスリーブの内周面との間にトレランスリングが嵌合されてなる。そして、この軸継手構造において、スリーブの内周面とトレランスリングの本体部との間には、隆起部の内外を連通する連通路が設けられている。
【0010】
これら構成によれば、シャフトやスリーブとトレランスリングの本体部との間に設けられた連通路を通じて潤滑油が隆起部の内部に流入するようになる。そして、このように流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリングに繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を隆起部の内部から排出させて隆起部の内部に溜まり難くすることができる。これにより、トレランスリングに滑り回転が生じる場合、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間の滑り面に介在する摩耗粉を少なくすることができるため、更なる摩耗粉の発生を抑えることができる。その結果、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。
【0011】
また、トレランスリングが本体部の内周面から径方向の外側に向かって隆起する隆起部を有する場合、シャフトは、他の部位に比べて軸径が小さい小軸径部を有し、本体部の軸方向における隆起部と本体部のそれぞれの端部は、本体部の軸方向における小軸径部の両端部の間に位置し、連通路は、小軸径部の外周面とトレランスリングの本体部との間の隙間であることが望ましい。
【0012】
また、トレランスリングが本体部の外周面から径方向の内側に向かって隆起する隆起部を有する場合、スリーブは、他の部位に比べて内径が大きい大内径部を有し、本体部の軸方向における隆起部と本体部のそれぞれの端部は、本体部の軸方向における大内径部の両端部の間に位置し、連通路は、大内径部の内周面とトレランスリングの本体部との間の隙間であることが望ましい。
【0013】
これら構成によれば、シャフトやスリーブが小軸径部や大内径部を少なくとも有していれば、これら小軸径部や大内径部と通路部位との間の隙間を通じて潤滑油が隆起部の内部に流入するようになる。
【0014】
ところで、上述のようにシャフトの小軸径部やスリーブの大内径部により連通路を構成する場合、トレランスリングにおける隆起部の軸方向における位置や長さによっては、小軸径部や大内径部の軸方向の長さを拡大するなどの調整が必要となることがある。
【0015】
ただし、シャフトやスリーブに小軸径部や大内径部を設ける場合、これらを設けない場合と比較してシャフトやスリーブの剛性が低くなる。したがって、小軸径部や大内径部の軸方向の長さを拡大すると、シャフトやスリーブの剛性がさらに低くなってしまう。また、隆起部では、シャフトやスリーブから当該隆起部の頂部に作用する圧縮荷重として、所望の圧縮荷重が予め設定されている。したがって、こうした頂部を含む部位を本体部の端部側に拡大すると、シャフトやスリーブから頂部に作用する圧縮荷重が当初の設定からずれてしまう。
【0016】
そこで、上記軸継手構造において、複数の隆起部のうち少なくとも一つは、スリーブの内周面に頂部が当接する第1の隆起部と、当該第1の隆起部よりも隆起の高さが低く同第1の隆起部から連続して本体部の端部側に延びる第2の隆起部とを含み、第2の隆起部の端部は、本体部の軸方向における小軸径部の両端部の間に位置することが望ましい。
【0017】
また、上記軸継手構造において、複数の隆起部のうち少なくとも一つは、シャフトの外周面に頂部が当接する第1の隆起部と、当該第1の隆起部よりも隆起の高さが低く同第1の隆起部から連続して前記本体部の端部側に延びる第2の隆起部とを含み、第2の隆起部の端部は、本体部の軸方向における大内径部の両端部の間に位置することが望ましい。
【0018】
これら構成によれば、第2の隆起部を設けて調整を図ることで、第1の隆起部の頂部がシャフトやスリーブと当接する範囲については適正に維持することができるとともに、シャフトやスリーブにおいて小軸径部や大内径部の軸方向の長さを拡大する必要がなくなる。これにより、シャフトやスリーブの剛性の低下を抑えつつ、シャフトやスリーブから頂部に作用する圧縮荷重の当初の設定も適正に維持することができる。
【0019】
また、上記軸継手構造において、トレランスリングの本体部の内周面及び外周面の少なくとも一方には、リン酸マンガン皮膜が設けられていることが望ましい。
上記構成によれば、トレランスリングの摩耗をさらに抑えることができるため、トレランスリングの使用状態においてトルク許容値の低下を抑えることができる。なお、スリーブとトレランスリングとの間に滑り回転が生じる場合には、本体部の少なくとも外周面にリン酸マンガン皮膜を設けることが望ましい。一方、シャフトとトレランスリングとの間に滑り回転が生じる場合には、本体部の少なくとも内周面にリン酸マンガン皮膜を設けることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、軸継手構造の第1実施形態を説明する。
図1に示すように、本実施形態の軸継手構造は、シャフト30と、同シャフト30が挿入されるスリーブ40と、円筒状の本体部11を有するトレランスリング10とを備えている。トレランスリング10は、シャフト30と外周面とスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されている。
【0023】
ここで、トレランスリング10の構成について詳しく説明する。
図2に示すように、トレランスリング10は、円筒状の本体部11を備える。本体部11は、長辺及び短辺を有する矩形状の金属板を円筒状に湾曲させて形成されている。本体部11は、本体部11の周方向で対向する一対の端部13の間に形成され、同本体部11の軸方向に沿って延びる直線状の隙間である合口部12を有する。
【0024】
なお、以下の説明において、「軸方向」は本体部11の軸方向を意味し、「径方向」は「軸方向」に直交する方向を意味し、「周方向」は「軸方向」を中心とした回転方向を意味する。
【0025】
図2及び
図3に示すように、本体部11には、当該本体部11の内周面から径方向の外側に隆起する複数の隆起部14が設けられている。それぞれの隆起部14は、径方向視においてその外形が長辺及び短辺を有する矩形状をなし、その長手方向と本体部11の軸方向とが一致している。複数の隆起部14は、本体部11の周方向に沿って一列に並設されている。本体部11において、本体部11の軸方向の両側の端部11aにおいて、その周方向の両側の端部13からの距離が略等しい位置には、他の部位に比べて本体部11の軸方向の長さが短い短軸長部11bが設けられている。短軸長部11bは、径方向視においてその外形が台形をなしている。
【0026】
また、合口部12の近傍では、その他の部位に比べて隆起部14と隆起部14との間隔が短い。すなわち、合口部12を構成する一方の端部13から数えて6つ目から9つ目までの隆起部14は、周方向に間隔をあけて設けられている。これに対し、合口部12を構成する両端部13からそれぞれ数えて1つ目から5つ目までの隆起部14は、周方向に間隔をあけることなく連続的に設けられている。これにより合口部12の近傍における本体部11の剛性が高められている。
【0027】
ここで、隆起部14について詳しく説明する。
図4に示すように、隆起部14は、当該隆起部14の隆起の起点となる起点部位15を有する。起点部位15は、径方向視における隆起部14の外郭辺を構成する。
【0028】
また、隆起部14は、当該隆起部14における隆起の高さ、すなわち本体部11の径方向における長さが最も長い部位及びその近傍の部位によって構成される頂部16を有する。なお、複数の隆起部14のうち、合口部12に最も近接する一対の隆起部14(以下、特にこの一対の隆起部を指すときは「合口隆起部」という)は、その頂部16が合口部12を構成する一対の端部13によって形成されている。このため、合口隆起部は、他の隆起部14よりもその大きさが小さく、他の隆起部14を頂部16に沿って分割した一つの大きさ及び形状とほぼ等しい。
【0029】
また、
図3及び
図4に示すように、隆起部14は、起点部位15と頂部16との間の部分である立ち上がり部17を有する。立ち上がり部17は、起点部位15から頂部16に向かって径方向外側に緩やかに傾斜している。
【0030】
また、隆起部14は、立ち上がり部17のうち、本体部11の軸方向の両側において、立ち上がり部17の傾斜の途中から本体部11の軸方向の両側の端部11aに向かって直線状に延ばした延長部18を有している。延長部18は、隆起部14においてその軸方向から延びて、本体部11の軸方向の両側の端部11aの手前まで延びている。隆起部14の径方向の内側の内部には、起点部位15と頂部16と立ち上がり部17と延長部18との内壁によりくぼみSが画成されている。以下、複数の隆起部14のうち、延長部18が設けられた隆起部14を合口隆起部と区別するときは特定隆起部という。
【0031】
図5(a)及び
図5(b)に示すように、延長部18は、特定隆起部の起点部位15における短辺端部19及び長辺端部20のうち、本体部11の軸方向において対向する短辺端部19から延びている。延長部18は、本体部11において、立ち上がり部17の傾斜の途中の部位から延びており、本体部11の径方向における長さが頂部16と比較して短くなっている。このように特定隆起部は、頂部16と立ち上がり部17とからなる第1の隆起部と、こうした部位よりも隆起の高さが低く当該部位から連続して本体部11の端部11a側に延びる延長部18からなる第2の隆起部とを有している。
【0032】
また、延長部18は、当該延長部18の隆起の起点部位となる端部18aを有する。延長部18の端部18aと本体部11の軸方向の両側の端部11aとの間には、トレランスリング10の本体部11の径方向における長さが最も短い一般面を構成する通路部位21が設けられている。
【0033】
また、
図4の拡大図に示すように、本体部11の径方向の内側及び外側の内周面及び外周面のそれぞれには、耐摩耗皮膜処理の一種であるリン酸マンガン皮膜処理が施されている。
【0034】
リン酸マンガン皮膜処理では、処理前の本体部11の内周面及び外周面の油分を取り除く脱脂工程が行われる。次に、脱脂工程を経た本体部11の内周面及び外周面に細かな凸凹を形成する表面調整工程が行われる。次に、表面調整工程を経た本体部11の内周面及び外周面に所定厚さのリン酸マンガン皮膜層を形成する皮膜形成工程が行われる。次に、皮膜形成工程を経た本体部11を乾燥させてその内周面及び外周面にリン酸マンガン皮膜層を定着させる熱処理であるベーキング工程が行われる。なお、ベーキング工程は必須ではない。次に、ベーキング処理工程を経た本体部11の内周面及び外周面に防錆油を塗布する防錆塗布工程が行われる。上記各工程を経た本体部11の内周面及び外周面には、多孔質なリン酸マンガンの結晶体からなるリン酸マンガン皮膜FLが形成される。
【0035】
こうしたトレランスリング10は、シャフト30の外周面と同シャフト30が挿入されるスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合される。シャフト30には、他の部位に比べて軸径が小さい小軸径部31が設けられている。すなわち、小軸径部31の外周面は、シャフト30の径方向の内側に深さを有する溝をなしている。
【0036】
図6に示すように、小軸径部31は、トレランスリング10の本体部11の軸方向の端部11aに対向する態様で設けられている。具体的には、小軸径部31は、その両側の端部31a,31bの間に特定隆起部の通路部位21が位置するように設けられている。これにより、通路部位21の特定隆起部側の端部、すなわち特定隆起部の延長部18の端部18aは、小軸径部31の両端部31a,31bの間に位置するようになる。こうした延長部18の端部18aは、小軸径部31の特定隆起部側の端部31aに対して特定隆起部から離間する側、すなわち小軸径部31の端部31aに対してもう一方の端部31b側に位置するようになる。また、小軸径部31の端部31bは、本体部11の端部11aに対して特定隆起部から離間する側に位置するようになる。すなわち、特定隆起部の延長部18の端部18aと本体部11の端部11aは、小軸径部31の両端部31a,31bの間に位置するようになる。
【0037】
こうした軸継手構造において、小軸径部31の外周面と通路部位21との間の隙間により、特定隆起部の内部(くぼみS)と当該特定隆起部の径方向の外側とを連通する連通路22が構成されている。なお、小軸径部31の外周面と本体部11の短軸長部11bとの間は、連通路22と比較して本体部11の径方向の内外を連通する連通口が大きくなっている。
【0038】
以下、本実施形態の軸継手構造の作用を説明する。
図6に示すように、この軸継手構造において、隆起部14のうち第1の隆起部の頂部16は、スリーブ40の内周面に当接している。一方、隆起部14のうち第2の隆起部に相当する延長部18は、スリーブ40の内周面に当接していない。
【0039】
そして、
図6の拡大図に示すように、トレランスリング10が嵌合されているシャフト30の外周面とスリーブ40の内周面との間において、潤滑油Lbは、トレランスリング10とシャフト30との間の連通路22を通じた特定隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている。
【0040】
ここで、
図7に示すように、トレランスリング10とシャフト30との間において、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じる場合には、トレランスリング10とシャフト30の外周面との間、特に特定隆起部の内部(くぼみS)にトレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉Dが溜まりやすい。
【0041】
しかし、
図7に矢印で示すように、こうした摩耗粉Dは、連通路22を通じて潤滑油Lbが特定隆起部の内外に流入及び排出される過程において、特定隆起部の内側から、例えば特定隆起部の外側へと排出される。
【0042】
このように特定隆起部の内部に流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を特定隆起部の内部から排出させて特定隆起部の内部に溜まり難くすることができる。
【0043】
ところで、上述のようにシャフト30の小軸径部31により連通路22を構成する場合、トレランスリング10における隆起部14の軸方向における位置や長さによっては、小軸径部31の長さを拡大するなどの調整が必要となることがある。
【0044】
ただし、シャフト30に小軸径部31を設ける場合、これらを設けない場合と比較してシャフト30の剛性が低くなる。したがって、小軸径部31の軸方向の長さを拡大すると、シャフト30の剛性がさらに低くなってしまう。また、隆起部14では、シャフト30から当該隆起部14の頂部16に作用する圧縮荷重として、所望の圧縮荷重が予め設定されている。したがって、こうした頂部16を含む部位を本体部11の端部11a側に拡大すると、シャフト30から頂部16に作用する圧縮荷重が当初の設定からずれてしまう。
【0045】
その点、本実施形態において、特定隆起部は、頂部16と立ち上がり部17とからなる第1の隆起部と、こうした第1の隆起部よりも隆起の高さが低く当該部位から連続して本体部11の端部11a側に延びる延長部18からなる第2の隆起部とを有している。
【0046】
このため、延長部18(第2の隆起部)を設けて調整を図ることで、特定隆起部の頂部16がシャフト30と当接する範囲については適正に維持することができるとともに、シャフト30において小軸径部31の軸方向の長さを拡大する必要がなくなる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に示す効果を奏することができる。
(1)トレランスリング10とシャフト30との間の連通路22を通じて特定隆起部の内外に流入及び排出させる潤滑油により、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を特定隆起部の内部から排出させて特定隆起部の内部に溜まり難くすることができる。これにより、更なる摩耗粉の発生を抑えることができるため、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。
【0048】
(2)特定隆起部は、頂部16と立ち上がり部17とからなる第1の隆起部と、延長部18からなる第2の隆起部とを有している。このため、特定隆起部の頂部16がシャフト30と当接する範囲については適正に維持することができるとともに、シャフト30において小軸径部31の軸方向の長さを拡大する必要がなくなる。これにより、シャフト30の剛性の低下を抑えながらシャフト30から頂部16に作用する圧縮荷重の当初の設定も適正に維持することができる。
【0049】
(3)本体部11の内周面及び外周面には、リン酸マンガン皮膜FLが設けられている。これにより、トレランスリング10の摩耗を更に抑えることができるため、トレランスリング10の使用状態においてトルク許容値の低下を抑えることができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、トレランスリングの第2実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0051】
図8に示すように、本実施形態の複数の隆起部14は、本体部11の軸方向に二つずつが並ぶように本体部11の周方向に沿って二列に並設されている。本実施形態の複数の隆起部14は、起点部位15と、頂部16と、これらの間の部分である立ち上がり部17とから構成されている。本実施形態では、複数の隆起部14のうち、合口隆起部以外の隆起部を特定隆起部という。
【0052】
図9に示すように、特定隆起部の起点部位15における短辺端部19と本体部11の端部11aとの間には、通路部位21が設けられている。小軸径部31は、その両側の端部31a,31bの間に、本体部11の軸方向に並ぶ特定隆起部のうち、近接する特定隆起部の通路部位21が位置するように設けられている。これにより、通路部位21の特定隆起部側の端部、すなわち特定隆起部の起点部位15における短辺端部19は、小軸径部31の両端部31a,31bの間に位置するようになる。こうした短辺端部19は、小軸径部31の特定隆起部側の端部31aに対して特定隆起部から離間する側、すなわち小軸径部31の端部31aに対してもう一方の端部31b側に位置するようになる。また、小軸径部31の端部31bは、本体部11の端部11aに対して特定隆起部から離間する側に位置するようになる。すなわち、特定隆起部の短辺端部19と本体部11の端部11aは、小軸径部31の両端部31a,31bの間に位置するようになる。
【0053】
こうした軸継手構造において、小軸径部31の外周面と通路部位21との間の隙間により、当該小軸径部31に近接する特定隆起部の内部(くぼみS)と当該特定隆起部の径方向の外側とを連通する連通路22が構成されている。
【0054】
これにより、
図9の拡大図に矢印で示すように、特定隆起部の内部に流入した潤滑油が連通路22を通じて排出されるのに伴って、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を特定隆起部の内部から排出させて特定隆起部の内部に溜まり難くすることができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果(1),(3)に相当する効果に加えて、以下の効果を奏することができる。
(4)本実施形態で採用するトレランスリング10は、第1実施形態で採用するトレランスリング10に対して特定隆起部のいずれにおいても延長部18といった構成を設けていないもの、すなわち本体部11の内周面から径方向の外側に隆起する部位のみを設けるものである。こうした本体部11の内周面から径方向の外側に隆起する部位のみを設けるトレランスリング10であっても、小軸径部31が設けられているシャフト30と組み合わせて使用される場合、トレランスリング10とシャフト30との間に小軸径部31によって連通路22を構成することができる。これにより、本体部11の内周面から径方向の外側に隆起する部位のみを設けるトレランスリング10であっても、当該トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を特定隆起部の内部から排出させて特定隆起部の内部に溜まり難くすることができる。したがって、小軸径部31が設けられているシャフト30と組み合わせて使用される場合であれば、トレランスリング10について、設計の自由度が広がり設計をし易くすることができる。
【0056】
(第3実施形態)
次に、トレランスリングの第3実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0057】
図10に示すように、本実施形態の複数の隆起部14は、本体部11の軸方向に二つずつが並ぶように本体部11の周方向に沿って二列に並設されている。また、本体部11の周方向において隣り合う隆起部14同士は、軸方向に互い違いに設けられている。これによりトレランスリング10とシャフト30やスリーブ40との間で面圧が作用する部位を軸方向に分散させ、トレランスリング10の摩耗が低減されている。本実施形態の複数の隆起部14は、起点部位15と、頂部16と、これらの間の部分である立ち上がり部17とから構成されている。本実施形態では、複数の隆起部14のうち、合口隆起部以外の本体部11の軸方向に並ぶ隆起部14のうち、本体部11の端部11aに近い隆起部14を特定隆起部という。
【0058】
図11に示すように、特定隆起部の起点部位15における短辺端部19と本体部11の端部11aとの間には、通路部位21が設けられている。小軸径部31は、その両側の端部31a,31bの間に、特定隆起部の通路部位21が位置するように設けられている。これにより、通路部位21の特定隆起部側の端部、つまり特定隆起部の起点部位15における短辺端部19は、小軸径部31の両端部31a,31bの間に位置するようになる。こうした短辺端部19は、小軸径部31の特定隆起部側の端部31aに対して特定隆起部から離間する側、つまり小軸径部31の端部31aに対してもう一方の端部31b側に位置するようになる。また、小軸径部31の端部31bは、本体部11の端部11aに対して特定隆起部から離間する側に位置するようになる。すなわち、特定隆起部の短辺端部19と本体部11の端部11aは、小軸径部31の両端部31a,31bの間に位置するようになる。
【0059】
こうした軸継手構造において、小軸径部31の外周面と通路部位21との間の隙間により、特定隆起部の内部(くぼみS)と当該特定隆起部の径方向の外側とを連通する連通路22が構成されている。
【0060】
これにより、
図11の拡大図に矢印で示すように、特定隆起部について、その内部に流入した潤滑油が連通路22を通じて排出されるのに伴って、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を当該特定隆起部の内部から排出させてその内部に溜まり難くすることができる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記第各実施形態の効果(1),(3)に相当する効果を奏することができる。
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
【0062】
・第1実施形態では、
図12に示すように、特定隆起部が有する延長部18を本体部11の軸方向の両側の端部11aにまで延ばすようにしてもよい。すなわち、隆起部14と本体部11の端部11aとの間には、隆起部14の一部を本体部11の端部11aまで延ばした延長部18の内壁により画成される凹部が設けられていてもよい。
【0063】
本別例では、例えば、
図13に示すように、シャフト30としては、その軸径が一定のものを採用することができる。この場合、シャフト30の外周面と特定隆起部の延長部18の内周面との間の隙間により、特定隆起部の内部(くぼみS)と当該特定隆起部の径方向の外側とを連通する連通路22を構成することができる。そして、トレランスリング10とシャフト30との間において、トレランスリング10に滑り回転が生じる場合には、トレランスリング10とシャフト30の外周面との間、特に特定隆起部の内部(くぼみS)にトレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉Dが溜まりやすい。しかし、
図13の拡大図に矢印で示すように、こうした摩耗粉Dは、連通路22を通じて潤滑油Lbが特定隆起部の内外に流入及び排出される過程において、特定隆起部の内側から、例えば特定隆起部の外側へと排出される。これにより、上記第1実施形態の効果(1)に相当する効果を奏することができる。また、こうした本別例では、上記許容値を超えた場合に、シャフト30やスリーブ40とトレランスリング10との間に軸方向の滑りを生じる軸継手構造への適用も可能である。
【0064】
・上記別例では、特定隆起部に延長部18を設ける替わりに隆起部14と本体部11の端部11aとの間には、本体部11の径方向の内周面において、本体部11の厚さよりも深さの浅い溝を設けることにより、シャフト30の外周面と同溝との間に連通路22を構成するようにしてもよい。
【0065】
・各実施形態では、スリーブ40とトレランスリング10との間に滑り回転が生じる場合には本体部11の少なくとも外周面にリン酸マンガン皮膜FLを設けていればよい。一方、シャフト30とトレランスリング10との間に滑り回転が生じる場合には本体部11の少なくとも内周面にリン酸マンガン皮膜FLを設けていればよい。
【0066】
・第1実施形態では、合口隆起部に対しても特定隆起部と同様にして合口隆起部の内外を連通するように延長部を設けるようにしてもよい。
・第1実施形態において、特定隆起部に設ける延長部18は、特定隆起部の軸方向の両側に設けるようにしたが、片側の延長部18を省略してもよい。また、特定隆起部として、片側の延長部18を省略したものとそうでないものとが混在していてもよい。
【0067】
・第1実施形態では、合口隆起部を除く隆起部14として、延長部18が設けられるものと設けられないものとが混在していてもよい。
・第1実施形態では、本体部11に短軸長部11bを2箇所以上設けてもよい。
【0068】
・第1実施形態では、本体部11に短軸長部11bを設けていなくてもよい。
・第1実施形態では、
図10に示すように、本体部11の周方向において隣り合う隆起部14同士を軸方向に互い違いに配置することもできる。これによりトレランスリング10とシャフト30やスリーブ40との間で面圧が作用する部位を軸方向に分散させ、トレランスリング10の摩耗を低減することができる。
【0069】
・第1実施形態では、小軸径部31をシャフト30の軸方向に2箇所設けるようにしたが、2箇所のうちどちらかのみとしてもよい。この場合、トレランスリング10において、小軸径部31が設けられない側には、延長部18を設けなくてもよくなる。また、合口部12を通じた隆起部14の内外への潤滑油の流入及び排出が十分に確保される場合、小軸径部31は、隆起部14のくぼみSに対向するように1箇所設けるようにすることもできる。この場合、トレランスリング10において、隆起部14には、延長部18を設けなくてもよくなる。
【0070】
・各実施形態や各別例において、複数の隆起部14は、本体部11の外周面から径方向の内側に隆起するものであってもよい。例えば、
図14に示すように、第1実施形態のトレランスリング10に対し、複数の隆起部14が本体部11の外周面から径方向の内側に隆起していてもよい。この場合、
図15に示すように、トレランスリング10がシャフト30の外周面と同シャフト30が挿入されるスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されると、第1実施形態では隆起部14の頂部16がスリーブ40の内周面に当接しているのに対し、本別例では隆起部14の頂部16がシャフト30の外周面に当接している。こうした本別例のスリーブ40には、他の部位に比べて軸径が大きい大内径部41を設けるようにする。すなわち、大内径部41の内周面は、スリーブ40の径方向の外側に深さを有する溝をなす。また、大内径部41は、トレランスリング10の本体部11の軸方向の端部11aに対向する態様で設けるようにする。具体的には、大内径部41は、その両側の端部41a,41bの間に特定隆起部の通路部位21が位置するように設ける。これにより、通路部位21の特定隆起部側の端部、すなわち特定隆起部の延長部18の端部18aは、大内径部41の両端部41a,41bの間に位置するようになる。こうした延長部18の端部18aは、大内径部41の特定隆起部側の端部41aに対して特定隆起部から離間する側、すなわち大内径部41の端部41aに対してもう一方の端部41b側に位置するようになる。また、大内径部41の端部41bは、本体部11の端部11aに対して特定隆起部から離間する側に位置するようになる。すなわち、特定隆起部の延長部18の端部18aと本体部11の端部11aは、大内径部41の両端部41a,41bの間に位置するようになる。こうした軸継手構造において、大内径部41の内周面と通路部位21との間の隙間により、特定隆起部の内部(くぼみS)と当該特定隆起部の径方向の内側とを連通する連通路22が構成されるようになる。この場合、トレランスリング10とシャフト30との間において、トレランスリング10に滑り回転が生じる場合には、トレランスリング10とスリーブ40の内周面との間、特に特定隆起部の内部(くぼみS)にトレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉Dが溜まりやすい。しかし、こうした摩耗粉Dは、連通路22を通じて潤滑油Lbが特定隆起部の内外に流入及び排出される過程において、特定隆起部の内側から、例えば特定隆起部の外側へと排出される。このように、複数の隆起部14は、本体部11の径方向の内側に向かって隆起するものであっても、上記各実施形態や上記各別例同様の作用及び効果を奏する。
【0071】
・第1実施形態では、
図16に示すように、各隆起部14を周方向に所定間隔(図中、等間隔)をあけて配置するようにしてもよい。また、こうした配置は、第2実施形態及び第3実施形態や各別例においても同様に採用することができる。
【0072】
・第1実施形態では、小軸径部31の両端部31a,31bについて、どちらか一方を径方向の内側に掘り下げて、小軸径部31に段差を設けるようにしてもよい。例えば、
図17に示すように、小軸径部31の端部31a、すなわち小軸径部31に対して端部31a側に広がる周面を、小軸径部31の端部31b、すなわち小軸径部31に対して端部31b側に広がる周面と比較して径方向の内側に掘り下げて段差を設けるようにしてもよい。この場合、トレランスリング10がシャフト30の外周面と同シャフト30が挿入されるスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されると、トレランスリング10の軸方向の移動が小軸径部31に設けられる段差によって規制される。これにより、トレランスリング10の使用状態において当該トレランスリング10の軸方向の位置ずれを抑えることができる。なお、第1実施形態のトレランスリング10には、短軸長部11bが設けられていることから、トレランスリング10が軸方向に移動して小軸径部31に設けられる段差に突き当たった状態であっても特定隆起部の内外への潤滑油の流入及び排出を確保することができる。また、こうした構成は、第2実施形態及び第3実施形態や、複数の隆起部14が本体部11の内周面から径方向の外側に隆起するトレランスリング10を採用する各別例においても同様に採用することができる。
【0073】
・
図14及び
図15に示した別例では、大内径部41の両端部41a,41bについて、どちらか一方の端部を径方向の外側に掘り込んで、大内径部41に段差を設けるようにしてもよい。例えば、
図18に示すように、大内径部41の端部41a、すなわち大内径部41に対して端部41a側に広がる周面を、大内径部41の端部41b、すなわち大内径部41に対して端部41b側に広がる周面と比較して径方向の外側に掘り込んで段差を設けるようにしてもよい。この場合、トレランスリング10がシャフト30の外周面と同シャフト30が挿入されるスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されると、トレランスリング10の軸方向の移動が大内径部41に設けられる段差によって規制される。これにより、トレランスリング10の使用状態において当該トレランスリング10の軸方向の位置ずれを抑えることができる。なお、
図14及び
図15に示したトレランスリング10には、短軸長部11bが設けられていることから、トレランスリング10が軸方向に移動して大内径部41に設けられる段差に突き当たった状態であっても特定隆起部の内外への潤滑油の流入及び排出を確保することができる。また、こうした構成は、複数の隆起部14が本体部11の外周面から径方向の内側に隆起するトレランスリング10を採用する各別例においても同様に採用することができる。