【実施例1】
【0017】
図1は実施例1の誘導加熱調理器の本体1の傾斜図、
図2は誘導加熱調理器のトッププレート2を除いた上面図、
図3は誘導加熱調理器の左右の加熱コイルユニット3を主体とした鍋底温度検出手段の構成を示すブロック図である。
【0018】
以下では、誘導加熱が可能な鍋置き場所が3口有る誘導加熱調理器を例に挙げ説明を行うが、本実施例の適用対象はこれに限られず、中央後部の1口をラジエントヒータやハロゲンヒータ等のヒータ(加熱源)の放射熱で加熱可能な鍋置き場所であっても良く、ヒータ部が何口で構成された誘導加熱調理でも良い。なお、調理鍋30は、誘導加熱に適した磁性体の鉄鍋を例に説明するが、非磁性体のアルミ鍋、銅鍋であっても良い。
【0019】
図1において、誘導加熱調理器の本体1の上面にはトッププレート2が配置されている。トッププレート2は、耐熱性の高い結晶化ガラス製で構成され、調理鍋30を載置する。本実施例のトッププレート2は結晶化ガラスを例に説明するが、耐熱性が高く誘導加熱調理器での仕様を満たすガラスであればこれに限らず、例えばホウケイ酸ガラスを使用しても良い。
【0020】
トッププレート2の上面は、本体1の内部が見えないように全体を特定の意匠で塗装が施されており、調理鍋30の載置部4を表示している。調理鍋30の載置部4には赤外線透過窓5を設けている。赤外線透過窓5は、調理鍋30の鍋底から放射される赤外線をトッププレート2の下部へ透過するために、前記塗装を一部施さずトッププレート2の素材の状態や赤外線を透過する塗料を施したところである。
【0021】
トッププレート2の前面側の上面には、夫々のヒータ部(
図2に示す加熱コイルユニット3)に対応した上面操作部6a、6b、6cが設けられていて、加熱コイルユニット3の通電状態の設定や操作を行う。また、各上面操作部6a、6b、6cの近傍には、対応した上面表示部7a、7b、7cが設けられており、夫々の加熱コイルユニット3の通電状態などを表示する。
【0022】
上面操作部6aは、本体1右側の加熱コイルユニット3の火力等の入力を行い、上面操作部6bは本体1中央後部の加熱コイルユニット3の火力等の入力を行い、上面操作部6cは本体1左側の加熱コイルユニット3の火力等の入力を行う。
【0023】
本体1の前面左部には、魚やピザ等を焼くグリル庫8が設けられており、グリル庫8は、前面が開口した箱型をしていて、内部の調理庫内にシーズヒータ等の発熱体と内部の温度を検出するサーミスタが設けられ、前面部はハンドル8aが取り付けられたグリルドア8bにより塞がれている。グリルドア8bは、その裏側に受け皿が取り付けられており、調理庫内に前面開口部から出し入れ自在に収納され、受皿の上に載置された焼網の上に魚やピザ等の食材を載せて調理する。
【0024】
本体1の前面右部には、本体1へ供給する電源の主電源スイッチ9と、グリル庫8の加熱調理条件等を入力する前面操作部10が設けられている。前面操作部10は、下方に設けられた回転軸を中心として操作パネルの上方が前面側に倒れ、操作キーが上方側に向かって露出する所謂カンガルーポケット形態のものである。
【0025】
本体1内に設けたファン(図示せず)により、本体1に外気を取込む開口部(図示せず)から吸気した冷却風を本体1内に設けたインバータ基板や制御基板(図示せず)、加熱コイルユニット3等に流して冷却する。本体1の後部には、本体1内部を冷却した冷却風を排気する排気口11が設けられている。
【0026】
図2に示すように、トッププレート2の載置部4に対応する下方には、環状に形成された加熱コイルユニット3が本体1内上部の左右および中央後部に夫々配置されており、トッププレート2に載置された調理鍋30等を誘導加熱する。左右及び中央後部に配置された加熱コイルユニット3のヒータ部は、夫々環状の内側加熱コイル3aと、その外側に環状の隙間3bを設けて配置された環状の外側加熱コイル3cとで構成されている。隙間3bを設ける理由は、内側加熱コイル3aと外側加熱コイル3cとで発生する磁束を分散させて調理鍋30の温度を均一化するためである。
【0027】
なお、各加熱コイルユニット3は隙間3bを設ける構成としたが、特にこれに限定されることはない。例えば内側加熱コイル3aと外側加熱コイル3cを隙間無く巻回した隙間3bの無い加熱コイルユニット3とする構成であってもよい。
【0028】
図3に示すように加熱コイルユニット3は、コイルベース12上に内側加熱コイル3aと、隙間3b、外側加熱コイル3bを設置している。また、ギャップスペーサー13が、コイルベース12の外周縁部に取り付けられた支持部材13aによりコイルベース13の外周から中心側に向けて適宜間隔を保持して設けられており、コイルベース13が複数のバネ(図示せず)によりトッププレート2方向に付勢されることにより、加熱コイルユニット3がトッププレート2に対し略並行となり、かつ、トッププレート2に載置される調理鍋30と加熱コイルユニット3とのギャップが一定に保持されている。
【0029】
内側加熱コイル3aと外側加熱コイル3cは、表皮効果を抑制するためリッツ線を採用していて、後述するインバータ手段54により数十kHzの高周波で数百Vの電圧が印加され、調理鍋30に対して高周波磁界を印加して調理鍋30に渦電流を発生させ、調理鍋30を自己発熱させて加熱する。
【0030】
左右に配設された加熱コイルユニット3には、サーミスタで構成された複数の温度センサ14を配置しており、中心部近傍には、内側温度センサ14aがトッププレート2の下面に密着して設けられており、加熱コイルユニット3の上方に載せられた調理鍋30の温度を、トッププレート2を介して検知する。本実施例ではトッププレート2の温度検出手段にサーミスタを用いるが、特にこれに限定されず熱電対などの検出器を用いても良い。また、同様に加熱コイルユニット3の隙間3bには、加熱コイルユニット3の中心から等距離で、サーミスタによって構成された外側温度センサ14b、14c(
図2)が緩衝材(図示せず)を介して設けられ、トッププレート2の下面に密着することによりトッププレート2の温度を検知する。
【0031】
なお、外側温度センサ14b、14cは、加熱コイルユニット3の隙間3bに設ける構成としたが、特にこれに限定されることはない。例えば外側加熱コイル3cの外周近傍や、または、内側加熱コイル3aと外側加熱コイル3cを隙間無く巻回した隙間3bの無い加熱コイルユニット3とした構成の外周近傍に設ける構成であってもよい。また、外側温度センサ14b、14cは2個に限定されることはなく、1個または2個以上であってもよい。
【0032】
加熱コイルユニット3の隙間3bの下方には、鍋温度検出装置20が設置される。隙間3b下方には鍋温度検出装置20に設けた後述する
図4に示す導光筒28を配置する。鍋温度検出装置20は、調理鍋30の底面から放射され、トッププレート2の赤外線透過窓5を透過し、導光筒28から導かれた赤外線を受光する。
【0033】
図4は鍋温度検出装置20の詳細を説明する図である。
図4(a)は、
図1に示すX−X断面から見た鍋温度検出装置20の断面図を示し、
図4(b)は、
図1に示すY−Y断面から見た鍋温度検出装置20の断面図を示す。
【0034】
鍋温度検出装置20は、赤外線センサ21と
図6で後述する反射型フォトインタラプタ22が設けられている。赤外線センサ21は、集光レンズ21aを備えた熱型検出素子を使用したサーモパイルを例に説明する。
【0035】
赤外線センサ21と反射型フォトインタラプタ22は、赤外線センサ21の出力を増幅する増幅回路と反射型フォトインタラプタ22の出力を増幅する増幅回路を備えた電子回路基板23に配置される。赤外線センサ21と反射型フォトインタラプタ22の各出力は、電子回路基板23の出力端子23aから出力され、制御手段50や反射率計測手段51に出力信号を入力する。
【0036】
赤外線センサ21と反射型フォトインタラプタ22を設置した電子回路基板23は、全体をプラスチック部材のセンサケース24内に収納される。このセンサケース24の上方には赤外線を透過させるためにケース窓25が開口しており、このケース窓25にはトッププレート2を構成する結晶化ガラスの光学特性に類似した(
図9で説明するように1μm以上の長波長側の光学特性がトッププレート2とほぼ同じ。但し、波長1μm以下は透過率が小さく、可視光線をカットする)光学フィルタ26として嵌め込んである。光学フィルタ26の下方に、赤外線センサ21と反射型フォトインタラプタ22が配置された構成である。
【0037】
センサケース24の上面や側面部にはアルミなどの透磁率がほぼ1の金属ケース27で覆っており、先のケース窓25の上方に開口した開口部27aを設けている。
【0038】
金属ケース27の上部には、その上端が加熱コイルの下方に位置する導光筒28を配置しており、導光筒28は上方開口部28aと下端開口部28bを有している。導光筒28を通じて、調理鍋30からの赤外線を赤外線センサ21が受光し、
図6に後述するように反射型フォトインタラプタ22が投光した赤外線が調理鍋30で反射し、反射した赤外線を反射型フォトインタラプタに導く光路となる。赤外線センサ21の上方に位置する導光筒28の上方開口部28aには赤外線の光量を制限する絞り部29を設けている。
【0039】
図5は鍋温度検出装置20の上面図を示す。
図5(a)は、電子回路基板23を収納したセンサケース24の上面図、
図5(b)は、金属ケース27の上面図、
図5(c)は、導光筒28の上面図である。
【0040】
図5(a)より、センサケース24のケース窓25に配置した光学フィルタ26の下方に、赤外線センサ21と反射型フォトインタラプタ22を配置している。
図5(b)より、金属ケース27の開口部27aは、下方に配置された光学フィルタ26を臨む。
図5(c)より、導光筒28の上方開口部28aは光学フィルタ26を臨む配置としており、赤外線センサ21の上方に位置する上方開口部28aに絞り部29を設けて、赤外線センサ21に入射する赤外線量を制限する。なお、導光筒28の上方開口部28aは、内側加熱コイル3aと外側加熱コイル3cの下方に位置する。
【0041】
図6は反射型フォトインタラプタ22を説明する図である。図に示すように反射型フォトインタラプタ22は、赤外線発光手段としての赤外線LED22aと、赤外線受光手段としての赤外線フォトトランジスタ22bで構成している。
【0042】
赤外線LED22aの発光面上にはプラスチックによるレンズが構成され、細いビームの赤外光をトッププレート2に設けた赤外線透過窓5を介して上方に照射する。また、赤外線フォトトランジスタ22bの受光面上には可視光阻止のプラスチックレンズを装着しており、赤外線LED22aで照射した赤外光が赤外線透過窓5を覆う物体(調理鍋30の底面)にて反射した赤外光を受光し、その受光量に応じた電流を出力する。この反射型フォトインタラプタ22の赤外線フォトトランジスタ22bの出力が反射率計測手段51へと入力される。
【0043】
図7は、赤外線センサ21における視野角の特性を示す図である。赤外線センサ21は集光レンズ21aの直上に測温体を配置した場合に、集光レンズ21aの中心軸21b(視野角0°)において検出出力値の最大値を得る。
図7は、この最大値を相対感度100%として、前後左右に方向に測定視野角をずらした時の測温体の検出出力値を測定した分布を示している。本実施例では視野角は−20°及び+20°で、検出値がほぼ相対感度0%となる特性を有する。
【0044】
実施例1に係わる赤外線センサ21において、絞り部29で視野角を規制することで赤外線センサ21が検出する視野範囲を赤外線透過窓5に制限する。また、本実施例では、
図4(a)の集光レンズ21aの中心軸21bに対し、反射型フォトインタラプタ22を配置した左方向の視野角21cが、視野角20°以下となるように配置しており、赤外線センサ21が検出する視野範囲を赤外線透過窓5としている。右方向の視野角21dは、絞り部29によりトッププレート2の赤外線透過窓5を透過する赤外線のみを検出するように、赤外線センサ21の視野を規制される。
図4(b)では、集光レンズ21aの中心軸21bに対する左方向の視野角21eと、右方向の視野角21fも絞り部により赤外線透過5を透過する赤外線のみを検出するように、赤外線センサ21の視野を規制される。
【0045】
仮に、
図4(b)において、導光筒28の上方開口部28aに絞り部29が無い場合、赤外線センサ21の視野角±20°の視野範囲には、赤外線透過窓5以外のトッププレート2や加熱コイルユニット3が視野範囲となり、熱外乱の影響を受けて鍋底温度の検知精度を低下する。従って、導光筒28に設けた絞り部29により赤外線センサ21の視野範囲を規制して、導光筒28の上方の検出範囲を赤外線透過窓5に限定する検出手段により、赤外線透過窓5以外のトッププレートや加熱コイルユニット3からの熱外乱を低減できる。
【0046】
なお、本実施例の赤外線センサ21の視野角特性は、視野角−20°及び+20°で、相対感度0%として説明したが、本実施例はこの視野特性に限定するものでは無い。トッププレート2から鍋温度検出装置20の距離や、赤外線透過窓5の面積は誘導加熱調理器の構造により異なるため、絞り部29を介して赤外線センサ21が検出するトッププレート2の視野範囲を赤外線透過窓5内に規制できれば良い。
【0047】
ここで、調理鍋30の鍋底温度の換算方法について説明する。調理鍋30の温度を検出するためには、同じ温度の調理鍋30でも鍋底の材質や色、傷などの違いによって底から放射される赤外線量が異なるため、赤外線センサ21で検出した赤外線量から調理鍋30の温度を一義的に求めることはできない。調理鍋30の鍋底の温度を求めるためには、鍋底の放射率を得ることで検出した赤外線量を補正することで正確な温度を検出することができる。
【0048】
放射率は、金属物質の表面から放射される赤外線エネルギ(E=εσT
4)の放射率εと表面の反射率ρの間に成立するキルヒホフの法則による式(ε+ρ=1)より(但し、透過率α=0とする)、調理鍋30の反射率ρを知ることができれば、鍋30の放射率εを算出できることができる。ここで、σはステファン・ボルツマン係数、Tは絶対温度である。反射型フォトインタラプタ22でトッププレート2上に置かれた調理鍋30底面の反射率を計測し、反射率計測手段51で、その調理鍋30の放射率を算出し、その後、調理鍋30の放射率を制御手段50に入力する。
【0049】
ここで、上面操作部6aは、火力を設定する火力設定手段52と調理メニューを選択するメニュー設定手段53とを備えている。また、インバータ手段54は、数十kHzの高周波で数百Vの電圧を生成し加熱コイルユニット3に供給するものである。
【0050】
制御手段50は、火力設定手段52より設定された火力で調理鍋30を加熱できるようにインバータ手段54を制御したり、メニュー設定手段53で事前に組み込まれた自動メニューの中から選ばれたメニューに基づいてインバータ手段54を制御する。なお、制御手段50には、鍋温度の換算に必要な、赤外線センサ21からの信号と、温度センサ14bの信号、反射率計測手段51の信号が入力される。ここで、赤外線センサ21の信号から、温度センサ14bの信号によりトッププレート2の温度分の熱外乱を除算した後、反射率計測手段51より得た放射率で補正することで調理鍋30の鍋底温度に換算する。
【0051】
メニュー設定手段53で鍋底温度を設定して加熱を開始すると、調理鍋30の温度を決められた温度に維持するため前記鍋底温度に換算した値の情報に基づいて、インバータ手段54から加熱コイルユニット3に供給する電力を制御する。また、温度センサ14の信号に基づいてインバータ手段54から加熱コイルユニット3に供給する電力を制御するものである。トッププレート2上に置かれた調理鍋30は、誘導加熱により発熱する。この加熱により調理鍋30底面からは赤外線が放射される。この全放射エネルギーEは鍋温度Tの4乗に比例したものである(E=εσT
4;ステファン・ボルツマンの法則)。
【0052】
図8にプランクの分布則から算出される、黒体温度の分光放射エネルギーを示す。この分光放射エネルギーを全波長域で積分すれば全放射エネルギーが求まり、これは温度(絶対温度)の4乗に比例する。これが前述のステファン・ボルツマンの法則であり、この係数σがステファン・ボルツマン係数である。分光放射エネルギーのピーク波長はウィーンの変移則から、調理温度100〜300℃で5〜8μmである。
【0053】
誘導加熱された鍋底は、黒体温度の全放射エネルギーEに鍋底の放射率εを乗じた全放射エネルギーを温度に応じて放出する。すなわち、黒体温度の全放射エネルギーEと鍋底温度のそれ(E´=εσT
4)との比が、放射率εである。
【0054】
一方、非磁性体である結晶化ガラス(トッププレート2)の光学特性を
図9に実線で示す。
図9中実線で示すように、結晶化ガラスは、0.4〜2.9μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4.5μmの波長の光を最大50%程度透過し、4.5μmよりも長い波長、及び、0.4μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。光学フィルタ26の光学特性は
図9に破線で示す。先に述べた通り、1μm以上の長波長側の光学特性はトッププレート2に近い特性を有するが、3〜4.5μmの波長の透過率が最大70%程度と高く、短波長側で透過率0となる波長はトッププレート2の0.2μmに対し0.5μmと長波長側である。
【0055】
赤外線センサ21の集光レンズ21aの光学特性は、
図9中に一点破線で示す。赤外線センサ19のレンズは、0.3〜2.9μmの波長の光を80%以上透過し、3〜5μmの波長の光を最大70%程度透過し、5.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。
【0056】
誘導加熱された調理鍋30の鍋底より放射される赤外線放射エネルギーは、トッププレート2の赤外線透過窓5、光学フィルタ26、赤外線センサ21の集光レンズ21aの3種類の光学特性の各透過率の積で赤外線センサ21に受光される。このため、調理鍋30から放射される赤外線放射エネルギーの大部分(波長4μm以上、及び0.5μm以下)は赤外線センサ21では受光できない。全波長域で透過率100%(トッププレート2や光学フィルタ26が無い状態)の赤外線放射エネルギーを100%とした場合、赤外線センサ21で受光される赤外線放射エネルギーは、調理鍋30から放射される全赤外線放射エネルギーの約1%程度となる。
【0057】
図10に上面操作部6のメニュー設定手段53により鍋底温度を設定し、設定温度で調理鍋30を加熱した場合における、赤外線センサ21が検出した全赤外線放射エネルギーに対する、調理鍋30の赤外線放射エネルギーの割合を示している。これは、設定温度毎の赤外線センサ21の検出信号から熱外乱を除外し、調理鍋30分の赤外線放射エネルギーの割合を換算している。また、図中の調理鍋30の赤外線放射エネルギーの割合は、調理鍋30の温度及び本体1内部の温度が安定時の赤外線センサ21出力値から換算した値である。図中の実線の絞り部有りは本実施例構造の結果を示す。なお、破線は、絞り部が無い場合の結果を示す。
【0058】
図10に示す様に絞り部29の有無で比較すると、本実施例の構造では調理鍋30の鍋底温度150℃の場合、調理鍋の赤外線放射エネルギーの割合が約10%増加しており、熱外乱の割合が低減している。絞り部29の無い構造では、赤外線センサ21の視野角±20°の範囲には、赤外線透過窓5以外のトッププレート2の温度と、導光筒28の主に上方開口部28aの温度が熱外乱として検出される。従来構造のように上方開口部28aが加熱コイルユニット3の上面に配置していると、加熱コイルユニット3やトッププレート2からの放射熱により約100℃と高温となり、熱外乱となる。
【0059】
一方、本実施例構造は、導光筒28の上方開口部28aを内側加熱コイル3aと外側加熱コイル3cの下方に配置しており、トッププレート2からも遠ざけて配置することで絞り部29の温度を50℃以下に低減できることから、従来構造に比べて導光筒28からの熱外乱を低減できる。
【0060】
また、調理鍋30の赤外線放射エネルギーの割合40%における鍋底温度を比較すると、従来構造では160℃、本実施例の構造では140℃以下となる。仮に、鍋底温度の検出に要する赤外線放射エネルギーの割合が40%以上とすると、本実施例により、鍋底温度の検出下限値を従来の160℃から140℃まで低減できることから、検出範囲を拡大できる。
【0061】
また、本実施例では導光筒28の上方開口部28aに絞り部29を配置している。赤外線センサ21の視野角を制限する場合、赤外線センサ21から遠ざけた位置に絞り部29を設けた方が、絞り部29の開口面積を大きく設計できるため、鍋温度検出装置20の組立て誤差などの影響を最小限に抑える効果が得られる。このことから絞り部29の位置は上方開口部28aが望ましいが、本実施例では必ずしも絞り部29の設置位置を上方開口部28aに限定するものではなく、導光筒28の内部であれば良い。
【0062】
以上、本実施例の構造による導光筒28に設けた絞り部29により赤外線センサ21の視野範囲を規制して、導光筒28の上方の検出範囲を赤外線透過窓5に限定する検出手段により、鍋温度検出装置20が検出する調理鍋30以外の熱外乱を低減できることから、鍋温度の検出精度の向上とともに、低温度帯(100〜150℃)の検出精度も向上するので、検出範囲拡大の効果が得られる。
【実施例2】
【0063】
次に、本発明の実施例2について、
図11から
図14を用いて説明する。実施例2は、実施例1で説明した鍋温度検出装置20に搭載する電子回路基板23に、温度補償用赤外線センサ40を備えた配置とする内容である。
【0064】
実施例1で説明した通り鍋温度検出装置20は
図3に示す様に加熱コイル3の隙間3bで導光筒28を臨み、内側加熱コイル3aと外側加熱コイル3bの下方に配置されている。
【0065】
図11は実施例2の鍋温度検出装置20である。
図11(a)は、
図1に示すX−X断面から見た鍋温度検出装置20の断面図を示し、
図11(b)は、
図1に示すY−Y断面から見た鍋温度検出装置20の断面図を示す。
【0066】
鍋温度検出装置20は、調理鍋30からの赤外線を検出する赤外線センサ21と、調理鍋30からの赤外線を遮光した位置に配置した温度補償用赤外線センサ40、反射型フォトインタラプタ22が設けられている。赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40は、両センサ共にサーモパイルとして説明する。温度補償用赤外線センサ40の作用については
図13、
図14に後述する。
【0067】
赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40、反射型フォトインタラプタ22は、赤外線センサ21の出力と温度補償用赤外線センサ40を増幅する増幅回路と反射型フォトインタラプタ22の出力を増幅する増幅回路を実装される電子回路基板23に配置される。赤外線センサ21に温度補償用赤外線センサ40の出力を入力した出力と、反射型フォトインタラプタ22の出力は、電子回路基板23の出力端子23aから出力される。
【0068】
赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40、反射型フォトインタラプタ22と電子回路基板23は、全体をプラスチック部材のセンサケース24内に収納される。このセンサケース24の上方には赤外線を透過させるためにケース窓25が開口しており、このケース窓25には
図9で述べたトッププレート2を構成する結晶化ガラスの光学特性に類似した光学フィルタ26として嵌め込んである。ケース窓25の開口部及び光学フィルタ26の下方に、赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40、反射型フォトインタラプタ22が電子回路基板23上に配置された構成である。
【0069】
ここで、センサケース24の上面や側面部にはアルミなどの透磁率がほぼ1の金属ケース27で覆っており、先のケース窓25の上方に開口した開口部27aを設けている。金属ケース27の上部には、導光筒28が配置しており、導光筒28は上方開口部28aと下端開口部28bの開口部を設けている。導光筒28を通じて、調理鍋30からの赤外線を赤外線センサ21が受光し、反射型フォトインタラプタ22が投光・受光するための光路となる。赤外線センサ21の上方に位置する導光筒28の上方開口部28aには赤外線の光量を制限する絞り部29を設けている。温度補償用赤外線センサ40の上方は光学フィルタ40、導光筒28の下面28cを配置しており、調理鍋30からの赤外線を遮光する配置となる。
【0070】
図12は鍋温度検出装置20の上面図を示す。
図12(a)は、電子回路基板23を収納したセンサケース24の上面図、
図12(b)は、金属ケース27の上面図、
図12(c)は、導光筒28の上面図である。
図12(a)より、センサケース24のケース窓25に配置した光学フィルタ26の下方に、赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40、反射型フォトインタラプタ22が配置されている。
図12(b)より、金属ケース27の開口部27aは、下方に配置された光学フィルタ26、更に赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40、反射型フォトインタラプタ22を臨む。
図12(c)より、導光筒28の上方開口部28aは光学フィルタ26を臨む配置としており、赤外線センサ21の上方に位置する上方開口部28aに絞り部29を設けて、赤外線センサ21に入射する赤外線量を制限する。
【0071】
図13に実施例2の電子回路基板23に設けた赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40を組合せた赤外線検出回路を示す。赤外線センサ21の熱電対出力(熱起電力で、図中(+)、(−)記号間の電圧)は、オペレーショナルアンプ(以下OPアンプと略称する)60に入力する。
【0072】
赤外線センサ21内のサーミスタ61は、回路電源電圧Vcc(=5V)を抵抗R5、R6、R7で分圧された電圧源(抵抗R6の両端)に抵抗R8と直列接続された状態で接続される。サーミスタ61は温度25℃での抵抗値で0.5Vに設計され、このゼロ電圧から0.5Vオフセットしたバイアス電圧は赤外線検出回路72の故障検出に利用する。OPアンプ60の故障あるいは、出力端子62の開放、あるいは出力端子62が電源VCCあるいは回路グランドと短絡されていれば、制御手段50の読み込む電圧は0.5Vと異なることになる。
【0073】
OPアンプ63をR9、R10で増幅率G=(R10/R9+1)の正転増幅回路とし、この入力に調理鍋30からの赤外線を遮光した温度補償用赤外線センサ40の熱電対出力(図中(+)、(−)で示す)を接続している。赤外線センサの負出力((−)で示す)をOPアンプ63の正転入力に、正出力((+)で示す)をR10に接続する。この結果、赤外線センサ21とは逆位相の熱電対出力を増幅率G=(R10/R9+1)のOPアンプ63で増幅することとなり、この出力電圧がバイアス電圧としてOPアンプ60の図中bで示すバイアス点に印加される。
【0074】
赤外線センサ21、温度補償用赤外線センサ40が同一構造であれば赤外線入力あるいは周囲温度あるいは温度変化に対して同一位相、同一出力となる。赤外線センサ21の出力は増幅率G=(R2/R1+1)のOPアンプ60で正相増幅され、温度補償用赤外線センサ40の出力は赤外線センサ21とは逆位相で増幅率G=(R10/R9+1)のOPアンプ63で増幅され、OPアンプ60の(図中bで示す)バイアス点電圧を変動させる。この変動はそのまま、OPアンプ60の出力変動となる。今、赤外線センサ21に赤外線入射がなく、各OPアンプの増幅率Gが同じであれば(R2/R1+1=R10/R9+1)、出力端子62の温度変化による変動出力は、増幅信号が同一且つ逆位相のOPアンプ63出力であるバイアス電圧の変動出力で打ち消されることになる。この様子を
図14に模式的に示す。
【0075】
図14は電源投入後、周囲温度を25℃から40℃に変化させた場合の赤外線検出回路各部の電圧を示す。なお、赤外線センサ21への赤外線入射は無い状態である。図中2点鎖線で示す(a)のように、サーミスタ61での定常時の温度補償がない場合、OPアンプ60の出力は、25℃に比べ40℃で下がる。これを防止するため、
図13のa点のバイアス電圧をサーミスタ61の抵抗温度特性を用いて、
図14の1点鎖線で示す(b)のように温度上昇とともに持ち上げる。この結果、赤外線センサ21の出力特性は、実線で示す(c)のように、赤外線検出回路では定常時の温度補償(25℃の出力と40℃の出力が同じ)がなされる。しかし、赤外線センサ21の出力は過渡的に温度が変化している時は、赤外線センサ21内部の温度検出素子の冷接点と測温接点に温度差を生じてしまい出力変動(図中の出力下降)が生じる。本実施形態例の
図13のb点で示すバイアス電圧は
図14の破線で示す(d)のように、(b)で示す電圧に(c)で示す電圧の反転された(逆位相)電圧が加算された電圧となり、このバイアス電圧で(a)で示す2点鎖線(定常時および過渡時の温度変化補償がない)の電圧が打ち消され、結果(e)の太実線で示すように、定常時でも温度の変化する過渡時でも一定の電圧になる。つまり、赤外線検出回路の出力端子62出力は定常及び過渡的な温度変動に対して補償されたものとなる。
【0076】
このように温度補償用赤外線センサ40を赤外線検出回路に組み合わせることで、(c)に示す温度変化時の出力下降変動は、同一でかつ逆位相信号のバイアス電圧で打ち消されることとなり、出力端子62では出力下降変動および定常時での不一致がなくなる。上述のように、実施例2に示す温度補償用赤外線センサ2を設けた赤外線検出回路により、調理中の筐体内部の温度変化(過渡的な温度変化)に対して赤外線検出手段の出力を安定化し、筐体内部の温度が調理動作によって変化が生じても、調理鍋底の温度を正確に検出する誘導加熱調理器を提供することができる。また、導光筒28の構造により実施例1と同様に、トッププレート2や導光筒28の熱外乱を低減できることから、鍋温度の検出精度が向上する。
【0077】
また、本実施例では、金属ケース27の開口部27aは、温度補償用赤外線センサ40の上方を開口する構成とした。これは、赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40の検出対象を同条件に近づけることで、
図14で述べた温度補償効果を高めるためである。しかし、加熱コイルユニット3からの電界・磁界ノイズの耐防磁性能を向上する手段として、金属ケース27の開口部27aの開口を、赤外線センサ21と反射型フォトインタラプタ22の上方のみとしても良い。
【0078】
また、本実施例では赤外線センサ21の出力に対して逆位相となる温度補償用赤外線センサ40の出力を接続して赤外線検出回路の出力端子62に出力する例を述べたが、赤外線センサ21と温度補償用赤外線センサ40の回路構成はこれに限るものではない。例えば、赤外線センサ21の出力と温度補償用赤外線センサ40の出力を同位相とし、赤外線センサ20の出力から温度補償用赤外線センサ40の出力を減算した出力を出力端子62から出力する回路構成としても良い。また、同位相の出力となる赤外線センサ20と温度補償用赤外線センサ40の各出力を制御手段50に取込み、赤外線センサ20の出力から温度補償用赤外線センサの出力で減算する構成としても、本実施例と同様に筐体内部の温度変化に対して赤外線検出手段の出力を安定化させることができる。