(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ニット構造の被覆層は、その一つの層が、単一の前記ニット基材を用いて形成されている共に、当該単一のニット基材上の異なる位置の縁部どうしが部分的に重ね合わせられている請求項2記載のガス絶縁開閉装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態を図面に基づき説明する。
<第1の実施の形態>
図1に示すように、本実施形態のガス絶縁開閉装置(GIS:Gas Insulated Switchgear)10は、主母線12、14、断路器15、16、遮断器17、変流器18、ガス絶縁母線(GIB:Gas Insulated Busbar)19、ブッシング21などを主に備えている。
【0019】
ガス絶縁母線19の内部には、高電圧導体22が配置されている。断路器15、16は、無負荷時の電圧を開閉するための開閉器である。遮断器17は、電流を遮断する際には、電極間に、SF
6(六フッ化硫黄)ガスなどの絶縁ガス8を吹き付けることでアーク放電を消滅させる。変流器18は、主回路に流れる電流を計測する機能を有する。
【0020】
また、上述した遮断器17、変流器18、ガス絶縁母線19などは、
図1、
図2に示すように、圧力容器20によってケーシングが構成されている。この圧力容器20は、接地されており、内部には絶縁ガス8が充填されている。
【0021】
ここで、圧力容器20及びその外周部分の構造について説明する。圧力容器20は、例えばAC4C−T6などを用いて形成された鋳造物(鋳物)であり、潜在的欠陥部を内在する可能性を有している。このため、万が一電気事故によって内部の圧力が使用範囲を超えて高くなると圧力容器20が破裂する可能性があるため、破壊時の破片が周囲に飛散することを防止する目的で、
図2に示すように、圧力容器20の外側は、ニット構造の被覆層23及び合成樹脂製の被覆層24によって被覆されている。
【0022】
ニット構造の被覆層23は、
図2に示すように、被覆対象の圧力容器20の外形に合わせて繊維を立体的に編成した無縫製のニット基材23aを用いて形成されている。具体的には、一体型(単一)のこのニット基材23aは、無縫製横編機を使用して立体形状に編成された基材であって、縫いしろ(継ぎ目)のないシームレス構造を持つ編物である。一例として、ホールガーメント(登録商標)が挙げられる。
【0023】
ニット基材23aは、例えばクラレ社のベクトラン(登録商標)繊維などのポリアリレート繊維や、以下に例示される高強度及び高弾性を有する有機高分子系繊維である、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、パラ系アラミド繊維、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、ガラス繊維、PE(ポリエチレン)繊維、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、人工合成クモ糸繊維のうちの、いずれか1種類の繊維、若しくは2種類以上の繊維(2種類以上の繊維を組み合わせたハイブリッド糸)を編成することによって構成されている。ニット基材23aは、高強度繊維の他に、高強度、高弾性、耐衝撃性、高タフネス性、高伸度、さらには、低吸湿性、耐熱性、難燃性、耐候性、界面活性の機能性を持ち備えた繊維材料で構成されていることが好適である。具体的には、上述したポリアリレート繊維やアラミド繊維、炭素繊維などの弾性率が3GPa以上、かつ、引張強度が50GPa以上の繊維材料で構成されていることが好ましい。
【0024】
上述した例えばベクトラン(登録商標)繊維を用いてニット基材23aを編成する場合、糸の太さが5番手相当のフィラメント糸を用いて、ミスリンクス編み(ミスを組み合わせたリンクス編み)で編成することなどが例示される。ミスリンクス編みは、メリヤス編みと比較すると、X軸方向、Y軸方向の伸び率がほぼ同程度となっており、例えば飛散物などが衝突した場合などにおいても比較的衝撃を受け止めやすい構造になっている。つまり、ニット基材23aの編み組織としては、伸縮性の優れた構造であることが望ましい。このため、ニット基材23aの編成としては、フィラメント糸又はステープル糸を用いた編成や、フィラメント糸とステープル糸との混合糸による編成などが挙げられる。
【0025】
このような構造を適用したことにより高い伸縮性を有するニット基材23aは、
図2に示すように、圧力容器20の例えばフランジ部分(円筒形状の開口端の周縁部分)や、曲率面どうしが交差する交点部分など、複雑な立体形状部分に対しても、当該ニット基材23a本体が追従して、容易に圧力容器20全体を被覆するニット構造の被覆層23を構成する。
【0026】
一方、合成樹脂製の被覆層24は、
図2に示すように、ニット構造の被覆層23に対して積層されており、このニット構造の被覆層23の外側をさらに被覆する。合成樹脂製の被覆層24は、高粘度、高弾性、柔軟性を有する高分子材料で構成されており、例えば伸び率が100%以上の伸縮性を持つ。詳述すると、合成樹脂製の被覆層24は、合成樹脂材料として、下塗り材及び上塗り材を用いて形成されている。下塗り材としては、関西ペイント社製の伸び率100%のKCエポエラストなどの高弾性エポキシ樹脂を例示することができ、一方、上塗り材としては、関西ペイント社製のKCエタンエラストなどを挙げることができる。
【0027】
したがって、
図2に示すように、上述したニット構造の被覆層23及び合成樹脂製の被覆層24を形成する場合には、まず、上記の繊維材料及び無縫製横編機を用いて圧力容器20の外形に合うように立体的に編成したニット基材23aと、圧力容器20とを用意する。
【0028】
次に、圧力容器20の外周部分にニット基材23aを装着することによって、
図2に示すように、圧力容器20の外側にニット構造の被覆層23を形成する。さらに、ニット構造の被覆層23の外側に合成樹脂材料を塗布して固化させることによって、ニット構造の被覆層23の外側に合成樹脂製の被覆層24を積層する。合成樹脂材料の塗布については、前述したように、例えば下塗り材と上塗り材とを塗布する。また、上塗り材には、耐候性に優れた合成樹脂材料を適用することが望ましい。
【0029】
さらに、本実施形態のガス絶縁開閉装置は、2層以上のニット構造の被覆層及び2層以上の合成樹脂製の被覆層で圧力容器20を被覆するものあってもよい。この場合、まず1つ目のニット基材23aを圧力容器20に装着して下塗り材及び上塗り材を塗布する。さらに、2つ目のニット基材23aを圧力容器20に装着して下塗り材及び上塗り材を塗布する。この工程を複数回繰り返すことによって所望の層数のニット構造の被覆層及び合成樹脂製の被覆層によって圧力容器20を被覆することが可能となる。
【0030】
このように、ニット構造の被覆層23及び合成樹脂製の被覆層24で被覆された圧力容器20は、電気事故などの発生によって圧力容器20が破裂した場合でも、伸縮性に優れたニット構造の被覆層23が自在に変形して、破裂時の破片の運動エネルギーを吸収し、このような簡易的な構成によって周囲への破片の飛散を抑制することができる。
【0031】
ここで、ニット構造の被覆層23の材料が、上記したポリアリレート繊維のうちのベクトラン(登録商標)繊維である場合、このニット構造の被覆層23は、高強度、低吸水性、並びに優れた耐熱性及び耐摩耗性を有するため、より良好な破片の飛散防止効果を期待できる。また、ニット構造の被覆層23の基材であるニット基材23aは、ループを用いた編物として構成されているため、例えば織物でできた基材と比べた場合、伸縮性に優れ、圧力容器20などを含む立体構造物への装着を容易に行うことができる。
【0032】
さらに、ニット構造の被覆層23を形成するための基材として無縫製のニット基材23aを用いていることで、一方向材、織物、テープ状又はシート状の繊維基材などには存在する繊維の切断面や継ぎ目がないため、このような部位からの破片の飛散を阻止できる。また、無縫製のニット基材23aの編成に無縫製横編機を適用できるので、装着対象の圧力容器20の形状が複雑な場合でも、容易にニット基材23aを一体的に編成することが可能となる。
【0033】
また、ニット構造の被覆層23(ニット基材23a)の材料の例えばポリアリレート繊維は、紫外線劣化する欠点を有するものの、本実施形態の圧力容器20では、ニット構造の被覆層23の外側(表層)に、高分子弾性体からなる合成樹脂製の被覆層24が形成されている。具体的には、合成樹脂製の被覆層24は、例えば2液性の合成樹脂材料が適用され、ニット構造の被覆層23の外側に塗布して固化させる。詳述すると、この塗布する下塗り材は、例えば高粘度、高弾性、柔軟性を有する合成樹脂材料が適用されていることによって、圧力容器20が破裂した際のニット構造の被覆層23の変形に対する追従が可能となる。一方、屋外で長期間使用されるガス絶縁開閉装置10の使用状況を考慮し、上塗り材には、例えば耐候性の高い合成樹脂材料を適用することによって、ニット構造の被覆層23の紫外線劣化を防ぐことが可能になる。
【0034】
また、ニット構造の被覆層23及び合成樹脂製の被覆層24で被覆された圧力容器20は、FRP層などを被覆して補強される圧力容器などと比べて、施工が容易であり、さらには、電気事故などで例えば圧力容器本体が破裂した場合に生じ得る膨大なエネルギー(飛散しようとする破片の運動エネルギー)を、上記したニット構造の被覆層23及び合成樹脂製の被覆層24によって効果的に吸収することができる。
【0035】
既述したように、本実施形態のガス絶縁開閉装置10によれば、電気事故などの発生によって例えば圧力容器20が破裂した場合に破片の飛散を抑制することができる。
【0036】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施形態を
図3、
図4に基づき説明する。なお、
図3、
図4において、
図2に示した第1の実施形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付与し重複する説明を省略する。
【0037】
第2の実施形態に係るガス絶縁開閉装置は、
図3に示すように、合成樹脂製の被覆層24を圧力容器20に設けていないものの、単一のニット基材23aを用いたニット構造の被覆層23によって圧力容器20が被覆されている。
【0038】
第2の実施形態に係るガス絶縁開閉装置は、ニット構造の被覆層23単独で圧力容器20を被覆していることから、被覆層の形成が容易となる。さらに、圧力容器20が破裂した場合などにニット構造の被覆層23(繊維どうしの隙間)から絶縁ガスが良好にガス抜けするため、破裂の際のエネルギーを効率的に外部に開放させることができ、これにより破片の飛散防止効果を高めることができる。
【0039】
また、第2の実施形態に係るガス絶縁開閉装置は、
図4に示すように、複数、例えば2つのニット基材23a、25aを適用して2層のニット構造の被覆層23、25で圧力容器20を被覆するものあってもよい。さらに、3層以上のニット構造の被覆層で圧力容器20を被覆するものあってもよい。これらの場合、ニット構造の被覆層の総合的な強度が高まるため、圧力容器破裂時などにおける破片の飛散をより確実に抑えることができる。上述した第1の実施形態と第2の実施形態を組合せてもよく、すなわち、第1の実施形態に対して複数のニット基材23a、25aを適用して複数のニット構造の被覆層23、25を形成してもよい。
【0040】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施形態を
図5に基づき説明する。なお、
図5において、
図2に示した第1の実施形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付与し重複する説明を省略する。
【0041】
第3の実施形態に係るガス絶縁開閉装置では、
図5に示すように、ニット構造の被覆層26は、その一つの層が(一層毎に)、それぞれ立体的に編成された複数のニット基材(
図5の例では三つのニット基材26a、26b、26c)を用いて形成されている。つまり、複数のニット基材26a、26b、26cは、
図5に示すように、圧力容器20の外周部分における互いに異なる部位をそれぞれ被覆する。
【0042】
このように、第3の実施形態に係るガス絶縁開閉装置は、実質的に複数のパーツに分割されたニット基材26a、26b、26cをそれぞれ装着して組み合わせることによって、ニット構造の被覆層26が構成されている。したがって、圧力容器20が複雑な形状であっても、ニット構造の被覆層26を容易に形成することができる。
【0043】
なお、
図5では、ニット構造の被覆層が単層である場合を例示したが、ニット構造の被覆層を多層にする場合には、一つの層毎の形成において、複数のニット基材を用いることが望ましい。
【0044】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施形態を
図6に基づき説明する。なお、
図6において、
図5に示した第3の実施形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付与し重複する説明を省略する。
【0045】
第4の実施形態に係るガス絶縁開閉装置は、
図6に示すように、ニット構造の被覆層27(一つの被覆層27)を形成している複数のニット基材(
図6の例では三つのニット基材27a、27b、27c)を、部分的に重ね合わせて(縁部がラップするように)配置されている。具体的には、
図6に示すように、それぞれ立体的に編成された複数のニット基材27a、27b、27cは、これらの縁部を重ね合わせるラップ量が10mm以上ラップするように装着されている。
【0046】
ここで、このようなラップ部分は、他のラップ部分とは、重ならないようにすることが望ましい。なお、合成樹脂製の被覆層28は、ニット基材27a、27b、27cどうしを組み合わせて構成したニット構造の被覆層27の外側に積層されている。
【0047】
つまり、第4の実施形態に係るガス絶縁開閉装置によれば、実質的に分割されたニット基材27a、27b、27cを圧力容器20に対して容易に装着(ニット構造の被覆層27を容易に形成)することができ、さらには、ニット基材どうしの境界部分に生じ得る間隙などが合理的に塞がれることになり、これにより、圧力容器破裂時などにおける破片の飛散を効果的に抑えることができる。また、
図6では一つの層が複数のニット基材27a、27b、27cを用いて形成される例を示したが、
図7に示すように一つの層が単一のニット基材35aを用いて形成されてもよい。その場合も単一のニット基材35aが部分的に重ね合わせられて(縁部35b、35cがラップするように)配置されたニット構造の被覆層35を形成することで、同様の効果を得ることができる。なお、縁部35b、35cどうしを重ね合わせるラップ量は10mm以上ラップするように装着されることが好ましい。さらに、
図6、
図7に例示したニット構造の被覆層を2層以上の多層にしてもよい。
【0048】
<第5の実施の形態>
次に、第5の実施形態を
図8に基づき説明する。なお、
図8において、
図2に示した第1の実施形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付与し重複する説明を省略する。
【0049】
第5の実施形態に係るガス絶縁開閉装置は、
図8に示すように、ニット構造の被覆層23をその外周面側から圧力容器20に対して部分的に固定する合成樹脂製の固定部29、30を備えている。この際、圧力容器20と被覆層23との間には、合成樹脂製の塗料が塗布される。合成樹脂製の固定部29、30は、第1の実施形態に係る合成樹脂製の被覆層24と同一の合成樹脂材料を、ニット構造の被覆層23の外側(
図8に示す圧力容器20における例えばフランジ部の段差部分に対応する部位の外側)から塗布して固化させることによって形成されている。また、
図4に示した第2の実施形態に係るガス絶縁開閉装置に対して、合成樹脂製の固定部29、30を適用してもよい。
【0050】
したがって、第5の実施形態に係るガス絶縁開閉装置によれば、
図2に示す第1の実施形態などと比べて施工性が優れていると共に、例えば圧力容器20の破裂時などにニット構造の被覆層23(ニット基材23a)が、圧力容器20から容易に脱離してしまうことなどを抑制することができる。なお、
図8に例示したニット構造の被覆層を2層以上の多層にしてもよい。
【0051】
<第6の実施形態>
次に、第6の実施形態を
図9に基づき説明する。なお、
図9において、
図2に示した第1の実施形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付与し重複する説明を省略する。
【0052】
第6の実施形態に係るガス絶縁開閉装置では、
図9に示すように、ニット構造の被覆層(
図9の例ではニット基材23a、31aによってそれぞれ構成された被覆層23、31)は、合成樹脂製の被覆層24を間に挟んで二層以上積層されている。より具体的には、
図9に示すように、合成樹脂製の被覆層24及びニット構造の被覆層23、31を含む複数の被覆層のうち、少なくとも、ニット構造の被覆層(
図9の例では被覆層31)は、最外層に配置されている。
【0053】
つまり、第6の実施形態に係るガス絶縁開閉装置によれば、ニット構造の被覆層本来の伸縮性及びこれを多層にしたことによる補強効果と、合成樹脂製の被覆層の例えば耐候性と、のそれぞれを効果的に取り入れることができ、これにより、圧力容器破裂時などにおける破片の飛散防止効果を、長期にわたって十分に得ることができる。また、
図10に示すように、合成樹脂製の被覆層36、37が、ニット構造の被覆層38を間に挟んで二層以上積層されてもよく、上述の効果に加えて、耐候性をより向上させることができる。
【0054】
<第7の実施形態>
次に、第7の実施形態を
図11〜
図14に基づき説明する。なお、第7の実施形態では、第6の実施形態の
図10に例示した構成についてより詳細に説明する。
【0055】
第7の実施形態に係るガス絶縁開閉装置では、
図11〜
図14に示すように、複数のフランジ部50aを備える圧力容器50の外側(外表面全体)は、複合被覆層51及びトップコート層(耐候性を有する被覆層)52によって被覆されている。
図12、
図13に示すように、複合被覆層51は、高分子弾性体からなる合成樹脂製の被覆層53と、ニット構造の被覆層54と、が交互に積層されている。具体的には、
図12に示すように、複合被覆層51は、例えば一層のニット構造の被覆層54を間に挟んで、例えば二層の合成樹脂製の被覆層53が積層されている。
【0056】
合成樹脂製の被覆層(高分子弾性体)53は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂(熱可塑性樹脂)、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、合成ゴム系樹脂のうちの、いずれかの合成樹脂材料によって構成されている。合成樹脂製の被覆層53は、ニット構造の被覆層54(ニット基材)の材料よりも可撓性のある高分子材料である。合成樹脂製の被覆層53には、例えば、伸び率100%の高弾性エポキシ樹脂である関西ペイント社製のKCエポエラストが用いられる。
【0057】
一方、上述したトップコート層52は、圧力容器50における最外層の被覆層である。このトップコート層52は、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂のうちのいずれかを含む耐候性塗料の固化物である。トップコート層52の材料としては、例えば、ウレタン系樹脂である関西ペイント社製のKCレタンエラストが挙げられる。
【0058】
ここで、圧力容器50の外側を複合被覆層51及びトップコート層52で被覆する場合には、合成樹脂製の被覆層(高分子弾性体)53を形成する工程とニット構造の被覆層54を形成する工程とを交互に実施することによって、
図12に示すように、少なくとも、二層以上の合成樹脂製の被覆層53と一層以上のニット構造の被覆層54を形成する。さらに、圧力容器50における最外層に(複合被覆層51の外側に)トップコート層52を形成する。
【0059】
より具体的には、合成樹脂製の被覆層53を形成するための液状の高分子弾性材料を、圧力容器50の外表面全体に塗布した後、その外側に例えば一枚のニット構造の被覆層54を被覆し(ニット基材を被せ)、さらにその外側に上記した液状の高分子弾性材料を塗布する。この工程を例えば3回(3サイクル)行い、
図13に示すように、例えば三層の複合被覆層51を形成する。さらに、三層目の複合被覆層51の表面(外側)に耐候性塗料を塗布して固化させ、
図14に示すように、トップコート層52を形成する。これにより、個々のニット構造の被覆層54は、合成樹脂製の被覆層53によって圧力容器50に固定される。
【0060】
上述したように、圧力容器50を被覆する被覆層として高強度繊維からなるニット構造の被覆層(編物)54を適用していることで、織物やメッシュシートなどの他の繊維基材にはない編物特有の性質を利用することができる。また、ニット構造の被覆層54(ニット基材)は、ループの連結によって形成されているため、伸縮性に優れ、さまざま形状に適合する性質がある。さらに、ニット構造の被覆層54(ニット基材)は、生産性にも優れており、裁断の必要がなく、裁ち落としなどの材料の無駄を低減することができる。
【0061】
また、一体化された無縫製のニット構造の被覆層54(ニット基材)は、継目が無いことにより編物本来の伸縮性を最大限に生かすことができ、一箇所にかかる張力が全体にわたって効果的に分散されるので、継目などの欠陥が要因となる損傷を防ぐことができる。このようなニット構造の被覆層54を含む複合被覆層51を、圧力容器50の外表面に形成することで、圧力容器50が破裂した際に、周囲への破片の飛散を防止することが可能になる。また、ウレタン系樹脂などを材料とするトップコート層(耐候性を有する被覆層)52を、複合被覆層51の表面に積層していることで、太陽光による複合被覆層51の紫外線劣化を防ぐことができる。
【0062】
なお、圧力容器の外表面を一般の高強度繊維で被覆する場合、通常では、一方材、織物、メッシュシートなどの平面構造の繊維基材が用いられるが、裁断などの手間が掛かる。また、フランジ部などの凹凸や、複数の分岐点などを有する圧力容器の複雑な形状に適合させて、一般の高強度繊維を被覆することは困難である。そこで、上述したニット基材を適用することで編物としての伸縮性を利用することができ、圧力容器50の複雑な形状に適合させて、高強度繊維を被覆することができる。
【0063】
また、上述したように、合成樹脂製の被覆層(高分子弾性体)53を用いて、伸縮性を有するニット構造の被覆層54を固定できるため、圧力容器50の外表面に容易に複合被覆層51を形成することができる。また、複合被覆層51を多層にすることで、圧力容器50が破壊した際に破片が飛散しようとするエネルギーの吸収性を高めることができる。また、合成樹脂製の被覆層53の材料として、可撓性に優れた高分子弾性材料を適用していることで、複合被覆層51自体が緩やかに変形する特性を持つ。つまり、ニット構造の被覆層54と合成樹脂製の被覆層(高分子弾性体)53とが積層された複合被覆層51は、万が一圧力容器50が破裂した場合でも、飛散しようとする破片の衝撃を当該複合被覆層51自体が吸収しながら変形することで、破片の飛散速度や飛散する破片の数を低減させることができ、これにより、破片の飛散防止効果を高めることができる。
【0064】
既述したように、本実施形態に係るガス絶縁開閉装置によれば、圧力容器50が破裂した場合でも、破片の飛散を簡易な構成にて抑制することができ、鋳造製の低コストな圧力容器50を安全に使用することができる。
【0065】
<第8の実施形態>
次に、第8の実施形態を
図15に基づき説明する。なお、
図15において、
図11、
図13に示した第7の実施形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付与し重複する説明を省略する。なお、第8の実施形態は、第4の実施形態の
図6に例示した構成についての説明を追加するものである。
【0066】
第8の実施形態に係るガス絶縁開閉装置では、
図15に示すように、ニット構造の被覆層56を形成している複数のニット基材(
図15では例えばニット基材56a、56b)を、部分的に重ね合わせて(縁部がラップするように)圧力容器50の外側に配置している。具体的には、
図15に示すように、それぞれ立体的に編成された複数のニット基材56a、56bは、これらの縁部を(部分的に)重ね合わせているラップ量が10mm以上になるように(好ましくはラップ量が30mmになるように)装着されている。重ね合わせているラップ部分は、高分子弾性体からなる合成樹脂製の固定部57によって固定されている。合成樹脂製の固定部57は、第7の実施形態で説明した合成樹脂製の被覆層53と同一の材料によって構成されている。また、第8の実施形態においても、
図15に示したように、圧力容器50における最外層には、トップコート層52が形成される。
【0067】
したがって、第8の実施形態では、圧力容器50の形状に適合するように編成された複数のニット基材56a、56bを部分的に重ね合わせるようにして配置することで、圧力容器50の外側にニット構造の被覆層56を容易に形成することができる。また、複数のニット基材56a、56bによって圧力容器50の外表面のほぼ全体を被覆できるので、複数のニット基材56a、56bを配置する際に生じ得るシワやよれなどを容易に修正でき、これにより、圧力容器50の形状にならって密着する外観が良いニット構造の被覆層56を容易に形成することができる。
【0068】
<第9の実施形態>
次に、第9の実施形態を
図16に基づき説明する。なお、
図16において、
図11、
図13に示した第7の実施形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付与し重複する説明を省略する。
【0069】
第9の実施形態に係るガス絶縁開閉装置では、
図16に示すように、ニット構造の被覆層58は、圧力容器50の外側に巻回された無縫製のテープ状(帯状)のニット基材58aによって構成されている。テープ状のニット基材58aの幅は、実用性を考慮し例えば30mm以上500mm以下で形成されている。テープ状のニット基材58aは、その幅が100mm程度のものを用いると、圧力容器50の外側に巻回する場合に良好な作業性を得ることができる。また、テープ状のニット基材(テープ状のニット基材の外側面及び/又は内側面)58には、高分子弾性体からなる合成樹脂製の被覆層が積層されている。この積層されている合成樹脂製の被覆層は、第7の実施形態で説明した合成樹脂製の被覆層53と同一の材料によって構成されている。また、第9の実施形態においても、
図15に示したように、圧力容器50における最外層には、トップコート層52が形成される。
【0070】
ここで、圧力容器50の外側をニット構造の被覆層58で被覆する場合には、合成樹脂製の被覆層を形成するための液状の高分子弾性材料を、テープ状のニット基材58aに塗布した後(又は塗布して固化させた後)、圧力容器50の形状に追従するように、テープ状のニット基材58aの長手方向に張力をかけながら、当該テープ状のニット基材58aを圧力容器の外側に巻回する。この巻回の際には、テープ状のニット基材58aの幅方向が10mm以上重なり合う(ラップする)ようにして巻回することが望ましい。
【0071】
したがって、第9の実施形態では、合成樹脂製の被覆層(高分子弾性体)が積層されたテープ状のニット基材58aを用いてニット構造の被覆層58を形成するので、圧力容器50における凹凸などの複雑な形状部分に対しても適切にニット構造の被覆層58を配置することができる。また、第9の実施形態によれば、形状の異なる圧力容器毎に専用のニット基材を用意する必要がないので、被覆層の形成に要する製造コストを削減することができる。
【0072】
<実施例1>
次に、実施例1(実施例1a〜1f、及び比較例1a)について説明する。
実施例1a〜1fは、
図2、
図3、
図5、
図6、
図8、
図9に基づいてそれぞれ例示した第1〜第6の実施形態の構成を適用した。一方、実施例1a〜1fに対する比較例1aは、
図11に示す構成を適用した。比較例1aは、例えば第1の実施形態におけるニット構造の被覆層23及び合成樹脂製の被覆層24に代えて、
図17に示すように、ポリアリレート繊維クロスと熱可塑性樹脂とを用いたハンドレイアップ法によって、圧力容器20の外周部分に繊維強化プラスチック(FRP)被覆層41とFRP保護被覆層42とを順に形成したものを適用した。
【0073】
実施例1a〜1f及び比較例1aのそれぞれに対して施工性試験及び破壊試験を実施し、被覆層の施工性及び破片の飛散防止効果を評価した。施工性試験は、圧力容器20を被覆する被覆層の形成に要した施工時間を計測して評価を行った。より具体的には、施工性試験では、施工時間に対応する例えば4つの閾値を用いて4段階の施工時間範囲を設定し、下記の表1に示すように、施工時間が短いものから順に「◎」、「○」、「△」、「×」を付与した。
【0074】
一方、破壊試験は、実施例1a〜1f及び比較例1aにおける圧力容器20内を所定の空気圧によって加圧し、圧力容器20の破壊状況を観察した。下記の表1に示すように、圧力容器20の微少な形状変形が観察されたものは「◎」、圧力容器20のひび割れが観察されたものは「○」、圧力容器20の破片が被覆層の外側に飛び出したものは「×」を付与した。
【0076】
比較例1aは、被覆層による補強効果は高いものの、表1に示すように、施工性が悪く、しかも被覆層の外側への破片の飛散が観察された。一方、実施例1a〜1fは、施工性については比較的時間を要する実施例(例えば実施例1f)が存在するものの、いずれの実施例も破片の飛散を防止できることが観察された。なお、実施例1bは、ニット構造の被覆層(繊維の隙間)からのガス抜けが良好であり、結果的に圧力容器20の損傷が抑えられる結果となった。
【0077】
<実施例2>
次に、実施例2(実施例2a〜2c、及び比較例2a、2b)について説明する。
実施例2a〜2cは、第7〜第9の実施形態の構成をそれぞれ適用した。
実施例2aは、主に
図11に示した第7の実施形態において、ニット構造の被覆層54の材料には、ポリアリレート繊維であるクラレ社のベクトラン(登録商標)を適用し、また、合成樹脂製の被覆層(高分子弾性体)53の材料には、伸び率100%の高弾性エポキシ樹脂である関西ペイント社製のKCエポエラストを適用し、さらに、トップコート層(耐候性を有する被覆層)52の材料には、ウレタン系樹脂の関西ペイント社製のKCレタンエラストを適用した。複合被覆層51は、
図12に示したように、一層のニット構造の被覆層54を間に挟んで、二層の合成樹脂製の被覆層53を積層して構成した。
【0078】
実施例2bは、主に
図15に示した第8の実施形態において、ニット構造の被覆層56(ニット基材56a、56b)の材料には、ポリアリレート繊維であるクラレ社のベクトラン(登録商標)を適用し、合成樹脂製の固定部(高分子弾性体)57の材料には、伸び率100%の高弾性エポキシ樹脂である関西ペイント社製のKCエポエラストを適用し、さらに、トップコート層(耐候性を有する被覆層)52の材料には、ウレタン系樹脂の関西ペイント社製のKCレタンエラストを用いた。
【0079】
実施例2cは、主に
図16に示した第9の実施形態において、ニット構造の被覆層58(幅100mmのテープ状のニット基材58a)の材料には、ポリアリレート繊維であるクラレ社のベクトラン(登録商標)を適用し、また、テープ状のニット基材58aに積層された合成樹脂製の被覆層(高分子弾性体)の材料には、伸び率100%の高弾性エポキシ樹脂である関西ペイント社製のKCエポエラストを適用し、さらに、トップコート層(耐候性を有する被覆層)52の材料には、ウレタン系樹脂の関西ペイント社製のKCレタンエラストを用いた。
【0080】
一方、比較例2aは、例えば第7の実施形態の複合被覆層51及びトップコート層52に代えて、ポリアリレート繊維製の被覆層(織物)と熱可塑性樹脂とを用いてハンドレイアップ法にて繊維強化プラスチック(FRP)を外表面に形成した圧力容器を適用した。また、比較例2bは、被覆層を全く形成してない(施工なしの)圧力容器を適用した。
【0081】
実施例2a〜2c、及び比較例2a、2bのそれぞれに対して、最高圧力15MPaでの破壊試験を実施することで、破片の飛散防止効果を評価した。試験方法は、地下ピット内にある防護壁内部で実施し、窒素ボンベを圧力源として減圧弁及び流量調節弁により加圧することで行った。実施例2a〜2c、及び比較例2a、2bについての、施工性、及び破壊試験結果を下記の表2に示す。
【0083】
実施例2a〜2cは比較例2a、2bに対して、施工性における作業者数、作業時間を低減して、簡易的に施工することができた。また、破壊試験の結果から、実施例2a〜2cは、比較例2aの半分以下の破壊圧力値で破壊しており、破片数、および、1破片あたりの飛散速度を大幅に低減する効果があった。
【0084】
また、実施例2a、2bにおいては、施工性では、作業者、および、作業時間は共にほぼ同等程度となったが、実施例2cの工数が4時間多くなった。破壊試験では、実施例2a〜2cの破壊値はすべて比較例2bの5.8MPa以下となり、破壊値を高める効果は確認できなかった。しかし、比較例2bの破片数が350p(個)であったのに対して、実施例2aは15p、実施例2bでは25p、実施例2cでは30pとなり、破壊時の圧力容器の破片数を大幅に低減することができ、高い飛散防止効果を有していることが確認できた。また、1破片あたりの飛散速度についても比較例2a、2bに比べて、実施例2a〜2cの被覆層が飛散速度を遅らせる効果を有していることがわかった。比較例2aでは、FRPの被覆層は破壊値が高く補強強化が得られたが、破壊時の破片数および破片速度が共に大きくなった。補強強化により破壊値が上った場合、破片数、破壊速度が共に増大し、すなわち、危険度合が増す可能性がある。
【0085】
しかし、実施例2a〜2cでは、比較例2bと同レベルの破壊値で、破壊値を上げることなく、破片数と破片速度を抑制する結果となったことから、比較例2aのFRP施工に比べてより安全性を高めることができた。したがって、実施例2a〜2cによれば、圧力容器破壊時の破片の飛散防止効果があることを確認できた。
【0086】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。