特許第6523927号(P6523927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6523927電動作業車両用バッテリパック及び電動作業車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6523927
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】電動作業車両用バッテリパック及び電動作業車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/6566 20140101AFI20190527BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20190527BHJP
   B60K 11/06 20060101ALI20190527BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20190527BHJP
   H01M 10/617 20140101ALI20190527BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20190527BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20190527BHJP
   H01M 10/6551 20140101ALI20190527BHJP
   H01M 10/6563 20140101ALI20190527BHJP
   H01M 10/6565 20140101ALI20190527BHJP
   H01M 2/10 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   H01M10/6566
   B60K1/04 Z
   B60K11/06
   H01M10/613
   H01M10/617
   H01M10/625
   H01M10/647
   H01M10/6551
   H01M10/6563
   H01M10/6565
   H01M2/10 S
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-224091(P2015-224091)
(22)【出願日】2015年11月16日
(65)【公開番号】特開2017-91963(P2017-91963A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年12月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】伊東 寛和
(72)【発明者】
【氏名】小池 和生
【審査官】 辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−135236(JP,A)
【文献】 特開2008−105645(JP,A)
【文献】 特開2012−201188(JP,A)
【文献】 特開2015−198076(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/069270(WO,A1)
【文献】 特開2013−175296(JP,A)
【文献】 特開2011−177106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/10
H01M 10/52−10/667
B60K 11/06
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前ケース部と後ケース部とからなる密閉されたバッテリケースと、
前記前ケース部の内部を上下方向で第1空間と第2空間とに区分けするとともに、前記後ケース部の内部を上下方向で第3空間と第4空間とに区分けする水平仕切り壁と、
前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間のうちの1つの空間に収納されるバッテリ用電装ユニットと、
前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間のうちの残りの各空間に収納されるバッテリモジュールと、を備え、
前記バッテリケースの側壁面には、冷却用のフィンが形成され
前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間を通過して循環する縦貫空気流を作り出す循環ファンが備えられ、
前記循環ファンは前記バッテリ用電装ユニットと同じ空間に収納されている電動作業車両用バッテリパック。
【請求項2】
前ケース部と後ケース部とからなる密閉されたバッテリケースと、
前記前ケース部の内部を上下方向で第1空間と第2空間とに区分けするとともに、前記後ケース部の内部を上下方向で第3空間と第4空間とに区分けする水平仕切り壁と、
前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間のうちの1つの空間に収納されるバッテリ用電装ユニットと、
前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間のうちの残りの各空間に収納されるバッテリモジュールと、を備え、
前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間を通過して循環する縦貫空気流を作り出す循環ファンが備えられ、
前記循環ファンは前記バッテリ用電装ユニットと同じ空間に収納されている電動作業車両用バッテリパック。
【請求項3】
前記後ケース部は、前記前ケース部に対して上方にずれており、前記バッテリケースは、前記前ケース部と前記後ケース部との間で段差を形成している段差立体形状である請求項1又は2に記載の電動作業車両用バッテリパック。
【請求項4】
前記バッテリ用電装ユニットを外部に露出させるとともに蓋によって閉鎖される開口が前記バッテリケースに設けられている請求項1からのいずれか一項に記載の電動作業車両用バッテリパック。
【請求項5】
前記バッテリケースの壁面には、冷却用のフィンが形成されている請求項2から4のいずれか一項に記載の電動作業車両用バッテリパック。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の電動作業車両用バッテリパックを搭載した電動作業車両であって、
車体横断方向に間隔をあけて車体前後方向に延びた左フレームと右フレームとが備えられ、
前記バッテリパックが、前記左フレームの前記車体横断方向外側に配置された左後輪と、前記右フレームの前記車体横断方向外側に配置された右後輪との間で、前記バッテリパックの前端部が後輪ユニットの車軸心より前方に位置するように、配置されている電動作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによって作業走行する電動作業車両のためのバッテリパック、及びこのバッテリパックを搭載した電動作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車の分野では、電動モータの回転力で走行する電動車両が普及し始めている。その際、電動モータの電源として、バッテリが車両に搭載される。バッテリはその性能を維持するためには、バッテリ温度を適温に保つ必要があるため、バッテリには冷却構造が備えられることが少なくない。例えば、特許文献1による車両用バッテリパックでは、ケース内に、複数のバッテリセルでなるバッテリセル群と、このバッテリセル群へ空気を流す冷却ファンとが収納されている。ケースには、さらに、外部からこのケース内に空気を導入する吸入口と、このケース外へ空気を排出する排出口とが形成されている。冷却ファンの回転駆動によって発生した空気流が、バッテリセル同士の間の隙間、及びケースの内側底面とバッテリセル群の底面との間の底部空間に延びる吸気流路を通り抜ける。つまり、車外から吸入口を通じてケース内に導入された冷却空気は、吸気流路、底部空間、バッテリ同士の隙間を経由して排出口からケースの外に排出される。さらに、ケースの下面に下方に突出する複数の放熱フィンが設けられている。
【0003】
しかしながら、草刈機、田植機、トラクタなどのように、作業を行いながら走行する作業車両においては、作業走行における周囲環境が、自動車などの周囲環境に比べて悪く、周囲から冷却空気を取り入れた場合、その冷却空気には、刈り草や藁などの塵が混じりやすく、冷却風通路の詰まりといった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−075181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情に鑑み、草や藁などの異物が浮遊している周囲環境下を作業走行する電動作業車両に適した構造を有するバッテリパックが要望されている。その際、そのようなバッテリパックに複数のバッテリモジュールが含まれる場合、各バッテリモジュールの温度をできるだけ均一にすることも重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に関わる電動作業車両用バッテリパックは、前ケース部と後ケース部とからなる密閉されたバッテリケースと、前記前ケース部の内部を上下方向で第1空間と第2空間とに区分けするとともに、前記後ケース部の内部を上下方向で第3空間と第4空間とに区分けする水平仕切り壁と、前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間のうちの1つの空間に収納されるバッテリ用電装ユニットと、前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間のうちの残りの各空間に収納されるバッテリモジュールとを備え、前記バッテリケースの側壁面には、冷却用のフィンが形成され、前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間を通過して循環する縦貫空気流を作り出す循環ファンが備えられ、前記循環ファンは前記バッテリ用電装ユニットと同じ空間に収納されている
また、本発明に関わる電動作業車両用バッテリパックは、前ケース部と後ケース部とからなる密閉されたバッテリケースと、前記前ケース部の内部を上下方向で第1空間と第2空間とに区分けするとともに、前記後ケース部の内部を上下方向で第3空間と第4空間とに区分けする水平仕切り壁と、前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間のうちの1つの空間に収納されるバッテリ用電装ユニットと、前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間のうちの残りの各空間に収納されるバッテリモジュールと、を備え、前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間を通過して循環する縦貫空気流を作り出す循環ファンが備えられ、前記循環ファンは前記バッテリ用電装ユニットと同じ空間に収納されている。
【0007】
なお、上記の「密閉」とは、バッテリケースの内部空間が完全な気密状態に維持されるという意味ではなく、内部空間への外気の流通が抑制され、外気温度と内部空間の温度とが簡単には平衡化されない、ゆるやかな気密状態をも含む広い意味をもつ用語として用いられている。
また、第1空間、第2空間、第3空間、第4空間なる語句は、区分けされる空間の個数を4つに限定するものではなく、バッテリケースはさらに第5空間、第6空間・・・に区分けされてもよい。
【0008】
この構成では、密閉されたバッテリケースの内部を、水平仕切り壁によって複数の空間に区分けし、その1つの空間に、バッテリ用電装ユニットを配置し、残りの空間にバッテリ用電装ユニットが配置される。これにより、実質的には、刈り草や藁などの塵がバッテリケースの内部に侵入することはない。また、バッテリケースの内部が水平仕切り壁によって上下に、区分けされているので、複数のバッテリモジュールからの放出される熱がバッテリケースの天井領域に集中することが防止される。
【0009】
特に好適な実施形態として、前記第1空間と前記第2空間と前記第3空間と前記第4空間を通過して循環する縦貫空気流を作り出す循環ファンが備えられる。この構成では、複数のバッテリモジュールと循環ファンとが1つのバッテリケースに密閉収容されており、循環ファンによるケース内部空間の空気の循環と、バッテリケースの密閉による外気の進入の抑制とにより、外部からの異物の進入が抑制されながらも、ケース内空間の温度が均一化される。その際、循環ファンによって作り出された冷却風が、電装ユニットと、各バッテリモジュールとを順番に通り抜けるように、電装ユニット及びバッテリモジュールが配置されると、各バッテリモジュールの温度分布ができるだけ均一化する。これにより、バッテリモジュールの温度分布が均一化しやすくなり、各バッテリモジュールは電気的に効率よく動作する。
【0010】
なお、本発明の権利は、上述したバッテリパックを搭載した電動作業車両にも及ぶものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】バッテリパックの基本構造を示す部分的に破断された斜視図である。
図2】バッテリパックの電動作業車両への基本的な搭載例を模式的に示す側面である。
図3】バッテリパックの電動作業車両への基本的な搭載例を模式的に示す平面である。
図4】電動作業車両の実施形態の1つである乗用型電動草刈機の側面図である。
図5】乗用型電動草刈機の平面図である。
図6】車体フレームと、バッテリパックと、後輪ユニットの駆動機構とを示す斜視図である。
図7】バッテリパックの斜視図である。
図8】バッテリパックの横断面図である。
図9】バッテリケースの分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に関係するバッテリパックの具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて、電動作業車両に搭載されるバッテリパックの基本構造を、図2図3とを用いて、そのようなバッテリパックを電動作業車両に搭載する際のバッテリパックの基本的な配置を説明する。なお、この明細書において、車体前後方向は、バッテリパックが搭載される車体の走行方向に沿って水平方向に延びる車体中心軸(車体長手軸とも称する)の方向であり、車体横断方向(単に横方向とも称する)とは、車体中心軸に直交して水平方向に延びる方向である。「前(前方)」は車体前後方向で前進側を意味し、「後(後方)」は車体前後方向で後進側を意味する。「左(左側)」は、車体前進方向を向いて左を意味し、「右(右側)」は、車体前進方向を向いて右を意味する。
【0013】
図1に示すバッテリパック6は、バッテリケース60と、水平仕切り壁63と、バッテリ用電装ユニット68(単に電装ユニット68と略称される)、複数のバッテリモジュール6Aとから構成されている。バッテリケース60は、前ケース部61と後ケース部62とからなる密閉ケースである。なお、図1では、図面に面して左側が前側(前方)と、右側が後側(後方)と定義されている。前ケース部61と後ケース部62とは、別個の部材ではなく、バッテリケース60を前側部分と後側部分に分けて考察する際の、それぞれの名称であり、前ケース部61と後ケース部62とがつながることでバッテリケース60となる。図1で示された例では、前ケース部61から後ケース部62への移行領域が上方へ傾斜している。これにより、後ケース部62は前ケース部61に対して上下方向で上側にずれており、バッテリケース60は中間で上方段差を有する立体である。この段差は、使用形態の制約等から要求されるものであり、下方段差を有してもよいし、段差なしでもよい。
【0014】
水平仕切り壁63は、バッテリケース60の内部を上下にほぼ二分するように設けられた板材である。この水平仕切り壁63によって、前ケース部61の内部は上下方向で第1空間S1と第2空間S2とに区分けされ、後ケース部の内部は上下方向で第3空間S3と第4空間S4とに区分けされる。第1空間S1と第3空間S3とは連通しており、バッテリケースの上部空間を形成している。同様に、第2空間S2と第4空間S4とは連通しており、バッテリケースの下部空間を形成している。水平仕切り壁63の前端は、水平仕切り壁63の前壁面との間で、第1空間S1と第2空間S2との間の空気流通を許す隙間63aをあけている。水平仕切り壁63の後端は、水平仕切り壁63の後壁面との間で第3空間S3と第4空間S4との間の空気流通を許す隙間63bをあけている。これにより、バッテリケース60の内部には、第1空間S1から第2空間S2−第4空間S4−第3空間S3を経て第1空間S1に戻る空気循環路が形成される。
【0015】
図1の例では、第1空間S1に、電装ユニット68が配置され、第2空間S2と第3空間S3と第4空間S4とに、それぞれ1つのバッテリモジュール6Aが配置されている。
バッテリモジュール6Aは多数のバッテリセル6aから構成されている。さらに、第1空間S1には、第1空間S1からの空気を第3空間S3に送り出すように、循環ファン49が配置されている。これにより、空気が、第1空間S1−第3空間S3−第4空間S4−第2空間S2−第1空間S1の順で通過する循環空気の流れ路が作り出される。この循環空気の流れは、電装ユニット68を冷却するだけでなく、バッテリモジュール6Aが配置されている第2空間S2、第3空間S3、第4空間S4の温度を均一にする。これにより、温度分布の不均一によるバッテリモジュール6Aの機能不全が防止される。
【0016】
電装ユニット68や各バッテリモジュール6Aの保守点検のために、バッテリケース60が少なくとも部分的に取り外し可能に構成されるか、あるいは、蓋によって閉鎖される開口が形成される。
【0017】
図2図3とは、図1に示すバッテリパック6の電動作業車両への基本的な搭載例を説明するための側面図である。この電動作業車両は、車体横断方向に間隔をあけて車体前後方向に延びた左フレーム21と右フレーム22と、左フレーム21と右フレーム22とを接続する少なくとも1つのクロスビーム23とを含む車体フレーム20を備えている。前輪ユニットを構成する左前輪11Lと右前輪11Rとは、車体フレーム20の前部に配置されている。後輪ユニットを構成する左後輪12Lと右後輪12Rとは、車体フレーム20の中央より後側に配置されている。以下において、特に区別する必要がない場合には、左前輪11Lと右前輪11Rとはその総称として前輪ユニット11なる語句が使用され、左後輪12Lと右後輪12Rとはその総称として後輪ユニット12なる語句が使用される。後車軸心Prは車体横断方向に延びている。
【0018】
バッテリパック6は、左フレーム21と右フレーム22との間で、車体フレーム20の後半領域に配置されており、側方視で、バッテリパック6の前端が後車軸心Prより前方、ほぼ後輪ユニット12の前端付近に位置している。バッテリパック6の後端は、ほぼ車体フレーム20の後端に位置している。図3から明らかなように、バッテリパック6は、左フレーム21と右フレーム22との間にほぼぴったりと収まる幅を有し、等幅で車体前後方向に延びている。また、図2から明らかなように、バッテリパック6の前半部は、後輪ユニット12の車軸空間に入り込んでいる。特に好ましいバッテリパック6の配置形態として、バッテリパック6の重心が、車体前後方向中心線上で、かつ車体前後方向で後車軸心から後輪12の距離内に入っていることである。これにより、バッテリパック6の重量が、車体の安定性に貢献する。
【0019】
さらに、このバッテリパック6は、前ケース部61に対して後ケース部62が上下方向で上側にずれた形状である。したがって、バッテリパック6の後ケース部62の対地高さHbは、バッテリパック6の前ケース部61の対地高さHfより高くなっている。図2で示された例では、前ケース部61の対地高さHfは、後輪ユニット12の後車軸ケース31の下端の対地高さとほぼ同じである。バッテリパック6の後ケース部62の対地高さHbは、後車軸ケース31の対地高さより高く、後車軸心Prの対地高さとほぼ同じである。バッテリパック6を支持している部分の車体フレーム20の最低対地高さは、バッテリパック6の最低対地高さにほぼ一致している。前ケース部61の対地高さHfが、低く設定されていることで、バッテリパック6の重心が低くなり、走行安定性が良好となる。また、後ケース部62の対地高さHbが高く設定されていることで、登坂走行時や悪路走行時に、バッテリパック6または車体フレーム20の後端が地面や石に接触する可能性が低い。
【0020】
左後輪12Lに回転動力を伝達する左モータ4Lは、バッテリパックの前ケース部61付近で左後輪12Lの周辺に配置されている。右後輪12Rに回転動力を伝達する右モータ4Rは、後ケース部62付近で右後輪12Rの周辺に配置されている。左モータ4Lと右後輪12Rとは左右対称の位置に配置されている。左モータ4L及び右モータ4Rの配置スペースを作り出すために、前ケース部61の第1空間S1を覆っている部分を凹ませてもよい。左モータ4L及び右モータの上方には、運転座席16が配置され、空間が有効に利用されている。
【0021】
さらなる空間の有効利用のため、図1で例示されたバッテリパック6では、バッテリパック6の前側直方体部6Fは、その右上部と左上部が欠如されたような形態で、車体前後方向に延びる凸状の中央部6Fcが作り出されている。このことから、中央部6Fcの左右には、空間が生まれる。前側直方体部6Fの中央部6Fcの左側の空間に左モータ4Lが入り込むとともに、中央部6Fcの右側の空間に右モータ4Rが入り込んでいる。
【0022】
次に、図面を用いて、バッテリパックが搭載される電動作業車両の具体的な実施形態の1つを説明する。図4は、電動作業車両の一例である乗用電動草刈機の側面図であり、図5は乗用電動草刈機の平面図である。
【0023】
図4図5に示されているように、乗用電動草刈機(以下単に草刈機と称する)は、車体10を備えており、車体10は、左前輪11Lと右前輪11Rとからなるキャスタタイプの前輪ユニット11と、回転駆動される左後輪12Lと右後輪12Rとからなる後輪ユニット12とによって対地支持されている。車体10は、ベースフレームとして車体フレーム20を有している。車体フレーム20は、左フレーム21と、右フレーム22と、左フレーム21と右フレーム22を連結するクロスビーム23とからなる。前輪ユニット11と後輪ユニット12との間で、モーアユニット13がリンク機構14を介し車体フレーム20から吊り下げられている。モーアユニット13には、ブレード伝動機構131と、このブレード伝動機構131によって回転するブレード132が備えられている。車体10の車体前後方向中央領域に運転座席16が配置されている。バッテリパック6の基本構造と車体フレーム20における基本配置は、図1図2とを用いて説明した内容が採用されている。
【0024】
図6は、車体フレーム20と、バッテリパック6と、後輪ユニット12の駆動機構とを示す斜視図である。後輪ユニット12に回転動力を供給する駆動機構は、モータ4とトランスミッションケース30と、後車軸ケース31とを備えている。図6に示されているように、左フレーム21及び右フレーム22は、中間領域から上下に分岐し後領域で再び連結している。つまり、左フレーム21は、後半分領域で、上フレーム部21aと下フレーム部21bとを含んでいる。同様に、右フレーム22は、後半分領域で、上フレーム部22aと下フレーム部22bとを含んでいる。側面視で、左フレーム21の上フレーム部21aと下フレーム部21bとの間の領域に左トランスミッションケース30Lが配置され、右フレーム22の上フレーム部22aと下フレーム部22bとの間の領域に右トランスミッションケース30Rが配置されている。左トランスミッションケース30Lには左後車軸ケース31Lがつながっており、この左後車軸ケース31Lに左後輪12Lが支持されている。右トランスミッションケース30Rには右後車軸ケース31Rがつながっており、この右後車軸ケース31Rに右後輪12Rが支持されている。左後車軸ケース31Lは、左後輪12Lの左後車軸41を内装して軸受け支持する筒状体であり、その外形は円錐台形状である。同様に、右後車軸ケース31Rは、右後輪12Rの右後車軸42を内装して軸受け支持する筒状体であり、その外形は円錐台形状である。バッテリパック6は、バッテリパック6の重心が、平面視において、車体前後方向中心線上にほぼ位置しており、かつ後車軸心Prから前側および後側で後輪半径の長さ内に入るように配置されている。
【0025】
左トランスミッションケース30Lは、左後車軸ケース31Lの中心軸心でもある後車軸心Prに直交するように左後車軸ケース31Lから車体前後方向前方に延びた中空体であり、その内部にギヤ伝動機構からなる左トランスミッションが内装されている。左トランスミッションケース30Lの動力入力部32fに左モータ4Lの装着面が形成されている。同様に、右後車軸ケース31Rの中心軸心でもある後車軸心Prに直交するように右後車軸ケース31Rから車体前後方向前方に延びた中空体であり、その内部にギヤ伝動機構からなる右トランスミッションが内装されている。ギヤ伝動機構は、一般的には、入力動力を減速するが、増速であってもよいし、増減速なしでもよい。右トランスミッションの動力入力部32fに右モータ4Rの装着面が形成されている。この実施形態では、左トランスミッションケース30Lと左後車軸ケース31Lとは一体的に構成され、右トランスミッションケース30Rと右後車軸ケース31Rとは一体的に構成されている。なお、左トランスミッション及び右トランスミッションとして、ギヤ伝動機構に代えて、チェーン電動機構や伝動軸機構などを採用してもよい。
【0026】
左モータ4Lと右モータ4Rとに対する変速操作は、運転座席16の両側に配置された、左右一対の変速レバー18(図4及び図5参照)によって行われる。変速レバー18を前後中立位置に保持すると対応するモータ4は停止状態となり、変速レバー18を中立位置から前方に操作することで対応するモータ4が正転駆動して前進変速が実現し、後方に操作することで対応するモータ4が後転駆動して後進変速が実現する。左右一対の変速レバー18の独立した操作により、左モータ4Lと右モータ4Rとはそれぞれ独立して可変速駆動制御される。例えば、左右一対の変速レバー18が中立位置から前方向でほぼ同一操作量で操作されると、左後輪12Lと右後輪12Rの両方がほぼ同じ速度で駆動され、車体10が直進前進する。左右一対の変速レバー18が中立位置から後方向でほぼ同一操作量で操作されると、左後輪12Lと右後輪12Rとがほぼ同じ速度で後進方向に駆動され、車体10が直進後進する。さらに、左右一対の変速レバー18が互いに異なる操作量で操作されると、左後輪12Lと右後輪12Rとが異なる速度で駆動され、車体10が旋回する。その際、左後輪12Lと右後輪12Rのいずれか一方を零速に近い低速にさせ、他方を高速で前進側あるいは後進側に操作することで小回り旋回させることができる。さらには、左後輪12Lと右後輪12Rとを互いに逆方向に駆動することで、車体10を後輪ユニット12のほぼ中央部を旋回中心としてスピンターンさせることもできる。
【0027】
以下、図6図7図8図9を用いて、バッテリパック6を説明する。バッテリパック6は、バッテリケース60に収納された複数のバッテリモジュール6Aを備えている。
なお、図1図2図3とを用いたバッテリパック6の基本的構成の説明では、バッテリケース60とバッテリモジュール6Aとを一体化したものとしてバッテリパック6を取り扱っており、バッテリパック6の前半分が前側直方体部6Fと定義され、バッテリパック6の後半分が後側直方体部6Bと定義されていた。さらに、前側直方体部6Fの上半分には、凸状の中央部6Fcが形成され、その中央部6Fcの左側の空間に左モータ4Lが配置され、中央部6Fcの右側の空間に右モータ4Rが入り込んでいる。このような配置構造は、この実施形態でも採用されている。但し、ここでのバッテリパック6の説明では、本来別体であるバッテリケース60とバッテリモジュール6Aとは、それぞれの構造が別個に説明される。
【0028】
バッテリケース60は、上下2つ割れの成形品であり、上ケース60aと、下ケース60bとからなる。しかしながら、内部構造の説明を容易にするため、バッテリケース60を、前ケース部61と、後ケース部62とに区分けして説明する。
【0029】
前ケース部61は、直方体から、左上部と右上方を凹ませることで、凸状の中央部611が上部に形成された立体である。言い換えると、中央部611の機体横断方向で両側には、左モータ4Lと右モータ4Rとが入り込むモータ収納空間が形成されるように、機体横断方向の長さが短くなっている。後ケース部62は、前ケース部61と前後方向で接続した直方体である。前ケース部61と後ケース部62とは、後ケース部62が上方にずれた姿勢で接続しており、バッテリケース60は、前側と後側とで上下の段差をもった立体形状である。なお、中央部611は、前ケース部61と後ケース部62との接続領域で左右及び上方に拡大した拡大部612を有しており、この拡大部612においてその内部空間が拡張されている。
【0030】
後ケース部62は、前ケース部61と同じ横幅(車体横断方向長さ)を有する直方体形状である。後ケース部62は、前ケース部61に対して上方にずれており、これにより、バッテリケース60は、前ケース部61と後ケース部62との間で段差を有する段差立方体形状となっている。
【0031】
図8図9とに示すように、上ケース60aと下ケース60bとに分割されるバッテリケース60の内部には、前ケース部61と後ケース部62とにわたって内部を上下に二分する水平仕切り壁63が設けられている。この水平仕切り壁63によって、前ケース部61の内部は上側の第1空間S1と下側の第2空間S2とに区分けされ、後ケース部62の内部は上側の第3空間S3と下側の第4空間S4とに区分けされる。水平仕切り壁63は板材であり、折り曲げ加工を通じてバッテリケース60と同様な上下段差を有するように成形され、第2空間S2と第3空間S3と第4空間S4とがほぼ同一な形状及び体積となっている。第1空間S1は、幅と高さが他の空間より小さくなっている。第1空間S1と第3空間S3との間には垂直仕切り壁64が設けられている。
【0032】
第2空間S2と第3空間S3と第4空間S4のそれぞれには、同じ仕様のバッテリモジュール6Aが収納されている。図9に示すように、バッテリモジュール6Aは縦寸法と横寸法とに比べて高さが低い長方体である。このバッテリモジュール6Aの内部に、多数のバッテリセル6aが収納されている。
【0033】
第1空間S1には、バッテリモジュール6Aと外部とを接続する電力線に設けられたリレーやフューズなどからなる電装ユニット68が収納される。垂直仕切り壁64には、第1空間S1の空気を吸引して第3空間S3に送り込む循環ファン69が装着されている。
循環ファン69の電気系は電装ユニット68に組み込まれている。水平仕切り壁63はその前端63aと前ケース部61との間に前端隙間G1が形成されており、その後端63bと後ケース部62との間に後端隙間G2が形成されている。さらに、バッテリケース60は、その内部空間に外部から草や塵が入り込まない程度、または、内部空間と外部との間での空気流通が抑制される程度の密閉構造を有する。これにより、バッテリケース60の内部には、循環ファン69から出て、第3空間S3、第4空間S4、第2空間S2を通り抜けて第1空間S1に達し、循環ファン69に戻る循環空気流路(図8において矢印で示されている)が形成される。この循環空気流路を流れる循環空気によって、バッテリケース60の4つの空間の温度が均等化される。また、電装ユニット68は、そのような循環空気によって冷却される。この冷却効果を高めるため、部分的にしか図示されていないが、バッテリケース60の壁面にはフィン60fが形成されている。フィン60fはバッテリケース60の内壁面または外壁面あるいはその両方に形成可能である。
【0034】
前ケース部61の上壁には、電装ユニット68の保守点検のための開口が設けられており、通常は、蓋613によって閉鎖されている。
【0035】
図4に示すように、この実施形態では、作業装置としてのモーアユニット13に動力を与える作業用モータ4Wがモーアユニット13の後部に配置され、作業用モータ4Wからの動力がベルトを介してブレード伝動機構131に伝達される。これに代えて、バッテリパック6の前側に、作業用モータ4Wを配置することできる。その際には、作業用モータ4Wからの出力軸と中継軸とを含むPTO軸が車体前後方向で前方に延設され、このPTO軸を介して作業用モータ4Wからの動力がモーアユニット13のブレード伝動機構131に伝達される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、電動草刈機、電動田植機、電動トラクタなどの電動作業車両に搭載されるバッテリパック、及びそのような電動作業車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
4 :モータ
4L :左モータ
4R :右モータ
10 :車体
11 :前輪ユニット
12L :左後輪
12R :右後輪
13 :モーアユニット
20 :車体フレーム
21 :左フレーム
22 :右フレーム
30L :左トランスミッションケース
30R :右トランスミッションケース
31L :左後車軸ケース
31R :右後車軸ケース
6 :バッテリパック
6B :後側直方体部
6F :前側直方体部
6Fc :中央部
6A :バッテリモジュール
6a :バッテリセル
60 :バッテリケース
60a :上ケース
60b :下ケース
60f :フィン
611 :中央部
612 :拡大部
613 :蓋
61 :前ケース部
62 :後ケース部
63 :水平仕切り壁
64 :垂直仕切り壁
68 :電装ユニット
69 :循環ファン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9