【文献】
C.R.Hoffmann,et al.,The Chalk river Heavy Ion Superconducting Cyclotron,IEEE Transactions on Nuclear Science,1975年 6月,Vol.NS−22 No.3,p.1647−1650
【文献】
J.H.Ormrod,et al.,Status of the Chalk River Superconducting Heavy−Ion Cyclotron,Proceedings of the 9th International Conference on Cyclotrons and their Applications,1981年9月,p.159−167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1つ以上の前記磁性シムが、前記粒子加速器の回転によって生じる前記コイルの移動を補償するために、前記コイルの位置を調節するように制御可能とされる、請求項4に記載の粒子加速器。
1つ以上の前記磁性シムが、前記電磁石の回転によって生じる前記超電導コイルの移動を補償するために、前記超電導コイルの位置を調節するように制御可能とされる、請求項17に記載の電磁石。
1つ以上の前記磁性シムが、前記電磁石の回転によって生じる前記超電導コイルの移動を補償するために、前記超電導コイルの位置を調節するように制御可能とされる、請求項22に記載の方法。
前記抽出チャネルに対する前記進入部が、前記抽出チャネルに進入する前に粒子ビームが通過するエネルギー吸収構造体を含んでいない、請求項32に記載の粒子加速器。
【発明を実施するための形態】
【0023】
様々な図面中の同様の参照符号は、同様の要素を示す。
【0024】
本明細書では、陽子又はイオン治療システムなどの、例示的なシステムにおいて使用するための粒子加速器の一例について説明する。システムは、ガントリー上に取り付けられた粒子加速器−−この例では、シンクロサイクロトロン−−を含む。ガントリーは、以下に詳述するように、加速器を患者の位置の周りに回転させることを可能にする。幾つかの実施例では、ガントリーは鋼製であり、患者の両側に配設された2つの軸受それぞれに回転するように取り付けられた2つの脚部を有する。粒子加速器は、患者が横たわる治療領域を跨設するに十分に長い鉄骨トラスによって支持されており、鉄骨トラスは、その両端においてガントリーの回転式脚部に安定して取り付けられている。患者の周りをガントリーが回転する結果、粒子加速器も回転する。
【0025】
超電導磁石は、粒子加速器の一部である。例えば、粒子加速器(例えばシンクロサイクロトロン)は、磁場(B)を発生させる電流を伝導するための超電導コイルを保持するクライオスタットを含み得る。この例では、クライオスタットは、例えば4°ケルビン(K)などの超電導温度にコイルを維持するために液体ヘリウム(He)を使用する。超電導コイルは、クライオスタットのコイルチャンバ内に保持される。コイルチャンバは、実質的に円形であり、したがって超電導コイルは、実質的に円形の構成に保持される。この幾何学的形状の結果として、超電導コイルにより生成される磁場は、超電導コイルにより囲まれる内方領域においては、その領域の外部よりも高い。
【0026】
磁気ヨークは、クライオスタットに隣接して(例えば周囲に)位置し、粒子が加速される空洞を画成する。クライオスタットは、磁気ヨークに装着される。この装着及びクライオスタットにおける超電導コイルの装着により、超電導コイルの移動が制限されるが、コイルの移動は、完全には防止されない。例えば、幾つかの実施例においては、回転時の引力の結果として、超電導コイルは、わずかに(例えば幾つかの例では10分の数ミリメートル)可動となる。この移動は、引き出しチャネルで受け取られる粒子ビームのエネルギー量に影響を及ぼし、それにより粒子加速器の出力に影響を及ぼし得る。移動が十分に大きい場合には、コイル支持部に対する物理的損傷が生じる結果となる恐れがあり、例えばコイル支持部が破損する場合がある。
【0027】
また、一例においては、粒子加速器は、空洞にプラズマ柱を提供するために粒子源(例えばペニングイオンゲージすなわちPIG源)を含む。水素ガスがイオン化されてプラズマ柱を生成する。電圧源が、プラズマ柱からの粒子を加速させるために、空洞に高周波(RF)電圧を印加する。この例では、粒子加速器は、シンクロサイクロトロンである。したがって、RF電圧は、粒子に対する相対論的効果(例えば粒子質量の増加)に対処するために、ある周波数範囲にわたって掃引される。コイルにより生成される磁場は、プラズマ柱から加速された粒子をキャビティ内において軌道を描くように加速させる。磁場再生器が、空洞内部の既存の磁場を調節することによりプラズマ柱から加速される粒子の連続軌道位置を変化させ、それによって最終的に粒子がヨーク内に含まれる引き出しチャネルに出力されるように、空洞内に位置決めされる。再生器は、空洞内のあるエリアで磁場を増大させることにより、そのエリアにおける粒子の各連続軌道が、引き出しチャネルの進入部に向かって外方へと歳差運動され、最終的に引き出しチャネルに到達し得る。引き出しチャネルは、プラズマ柱から加速された粒子を受け取り、空洞からこの受け取った粒子を出力する。
【0028】
超電導コイルの移動は、空洞内部の軌道の位置に影響を及ぼし、それにより粒子ビームが加速器から出るのを妨げる恐れがある。例えば、ある方向への移動により、より低いエネルギーの軌道が再生器に影響を及ぼす恐れがあり、また一方では、別の方向への移動により、より高いエネルギーの軌道が再生器に影響を及ぼす恐れがある(粒子軌道エネルギーは、起点となるプラズマ柱からの径方向距離に比例する)。そのため、過剰に低いエネルギーの軌道が再生器に影響を及ぼす場合には、粒子ビームは、上記のように引き出しチャネルの内方エッジに衝突し得る。過剰に高いエネルギーの軌道が再生器に影響を及ぼす場合には、粒子ビームは、上記のように引き出しチャネルの外方エッジに衝突し得る。幾つかの実施例においては、10分の数ミリメートルのオーダ(例えば2/10ミリメートル)の超電導コイルの移動が、粒子加速器の動作にこのように影響を及ぼし得る。
【0029】
上記のように、十分な移動があった場合には、コイルは、動作時に物理的損傷を被る恐れがある。例えば、幾つかの実施例においては、超電導コイルが、2ミリメートルだけ偏心すると、電磁石の動作時に発生する力が、コイル支持部に損傷を与える場合がある。
【0030】
本明細書において説明される例示的なシステムは、クライオスタットチャンバ内の超電導コイルの位置を調節することにより、回転による(例えば引力効果による)超電導コイルの動きを補正する技術を使用する。これらの技術の概要が以下に示され、その後、これらの技術を実装し得る例示的な粒子治療システムの説明と、これらの様々な技術のさらに詳細な説明とが示される。
【0031】
これに関連して、ヨークは、鋼などの強磁性体材料から作製される。したがって、1つ又は複数の磁性シムを使用して、ヨークの実効磁気中心を調節することが可能である。強磁性ヨーク(又はヨークに置き換えられる他の強磁性構造体)とのコイルの磁気的相互作用の結果として生じる力は、ヨークに対して超電導コイルをある位置から別の位置へと移動させるために使用され得る。例えば、コイル磁場のあるエリアに位置する磁性材料を増加させることにより、結果としてある方向に超電導コイルを移動させる力を生じさせることが可能であり、又はそのエリアに位置する磁性材料を減少させることにより、結果として別の異なる方向に超電導コイルを移動させる力を生じさせることが可能である。
【0032】
例の実施例においては、ヨークの実効磁気中心は、超電導コイルの付近に位置する磁石コイルの穴(又はスロット)内において磁性シムを移動させることにより調節される。任意の適切なタイプの磁性シムが、本明細書において説明される技術を実装するために使用され得るが、本明細書において説明される実施例は、ヨークのスロットの内外に移動可能である複数の強磁性ロッド形状磁性シムを使用する。例えば、ねじが、スロット/穴に対する磁性シムの運動を制御するために使用される。
【0033】
例の実施例においては、各磁性シムは、強磁性体材料から作製される。対応する超電導コイルに対する各磁性シムの近さが、結果的に得られる磁場により超電導コイルに印加される力の量に作用する。超電導コイルに対してより近くに(例えばヨークのスロット内部へとさらに)磁性シムを移動させることにより、コイルに対する磁場力は増加する。対照的に、超電導コイルから離れるように(例えばスロット内へと上方に又はスロット外に)磁性シムを移動させることにより、コイルに対する磁場力は減少する。他の実施例においては、ヨークのスロットの内外への磁性シムの移動に対して逆の反応が得られてもよい。
【0034】
複数の磁性シムが、超電導コイルを適切に位置決めするために、超電導コイルに対する多様な位置で使用され得る。例えば、幾つかの実施例においては、位置決めは、10分の数ミリメートルのオーダで行われてもよい。他の実施例においては、位置決めは、10分の数ミリメートル範囲よりも大きい又は小さいものであってもよい。磁性シムは、例えば粒子加速器の回転位置などに基づき位置を変動させるようにコンピュータ制御され得る。
【0035】
超電導コイルの位置を調節するための前述の例の技術は、粒子加速器での使用に限定されず、又は粒子治療システムでの使用に限定されない。むしろ、かかる技術及びその変種は、任意のタイプの医療用途又は非医療用途での超電導コイルを含む任意の適切な電磁石と共に使用されてもよい。前述の技術を使用し得る粒子治療システムの一例を以下に示す。
【0036】
例示的な粒子治療システム
図1に表すように、荷電粒子線治療システム500は、ビーム発生粒子加速器502を備えており、ビーム発生粒子加速器502の重量及び大きさは、ビーム発生粒子加速器502の出力が加速器ハウジングから患者50に向かう直線方向に(すなわち、実質的に直接)方向づけられている状態において、向けられた出力を有する回転式ガントリー504に取り付け可能とされる大きさである。
【0037】
幾つかの実施例では、鋼製ガントリー504は、2つの脚部508、510を有しており、2つの脚部508、510は、患者の両側に配設された2つの軸受512、514それぞれに回転するように取り付けられている。ビーム発生粒子加速器502は、患者が横たわる治療領域518を跨設するに十分に長い(患者の所望のターゲット領域をビームライン上に維持した状態で空間内において背の高いヒトを完全に回転させることができるように、例えば当該背の高いヒトの身長の2倍の長さとされる)鉄骨トラス516によって支持されており、その両端においてガントリーの回転式脚部に安定に取り付けられている。
【0038】
幾つかの実施例では、ガントリー504の回転が360°未満の範囲520、例えば、約180°に制限され、これにより、治療システムを収納するボールト524の壁から患者治療領域内部に至るまで床522を延在させることができる。また、ガントリー504の回転範囲520が制限されることによって、患者治療領域の外側に居る人々を放射線から遮蔽するための壁のうち幾つかの壁の必要な厚さを薄くすることができる。ガントリー504の回転範囲520を180°とすれば、すべての治療アプローチ角に対応するのに十分であるが、移動範囲を拡大することは優位である。例えば、回転範囲520は、180°〜330°としても、依然として治療のための床面積に対するクリアランスを確保することができる。
【0039】
ガントリー504の水平回転軸線532は、患者と療法士とが治療システムをインタラクティブに操作する場所の床より公称1メートル上方に配置されている。この床は、荷電粒子線治療システム500を遮蔽しているボールト524の最下床より約3メートル上方に位置決めされている。ビーム発生粒子加速器502は、治療ビームを回転軸線の下方から照射するために高床の下方において旋回可能とされる。患者用カウチは、ガントリー504の回転軸線532に対して略平行とされる水平面内において移動及び回転する。カウチは、このような構成によって水平面内において約270°の範囲534にわたって回転可能とされる。ガントリー504及び患者の回転範囲520、534と自由度との組み合わせによって、療法士は、ビームについての任意のアプローチ角を実質的に選択することができる。必要に応じて、患者を反対の向きでカウチに載置することによって、想定し得るすべての角度が利用可能となる。
【0040】
幾つかの実施例では、ビーム発生粒子加速器502は、超高磁界超電導電磁構造体を有しているシンクロサイクロトロンを利用する。所定の運動エネルギーを具備する荷電粒子の曲率半径は、当該荷電粒子に印加される磁場の増大に正比例して小さくなるので、超高磁界磁場超電導磁気構造体を利用することによって、加速器を小型かつ軽量にすることができる。シンクロサイクロトロンは、回転角度が一様とされる磁場であって、半径が大きくなるに従って強度が低下する磁場を利用する。このような磁場形状は、磁場の規模に関係なく実現されるので、シンクロサイクロトロン内で利用可能とされる磁場の強度(ひいては、固定された半径において結果として得られる粒子エネルギー)についての上限は理論上存在しない。
【0041】
非常に高い磁場の存在下において、超電導体はその超電導特性を失う。非常に高い磁場を実現するために、高性能な超電導線からなる巻線が利用される。
【0042】
超電導体は、一般に、その超電導特性が得られる低温状態に至るまで冷却される必要がある。本明細書で説明されている幾つかの実施例では、超電導コイル巻線を絶対零度近傍の温度に冷却するために、冷凍機が利用される。冷凍機を利用することによって、複雑性及びコストが低減される。
【0043】
シンクロサイクロトロンは、ビームが患者に対して直接生成されるようにガントリーに支持されている。ガントリーは、患者の体内の点又は患者の近傍の点(アイソセンター540)を含む水平回転軸線を中心としてサイクロトロンを回転させることができる。水平回転軸線に対して平行とされる分割式トラスが、サイクロトロンをその両側で支持している。
【0044】
ガントリーの回転範囲は、制限されているので、アイソセンターを中心とする広い領域内に患者支持領域を収容することができる。アイソセンターを中心として広範囲にわたって床を延在させることができるので、患者支持台は、アイソセンターを通過する垂直軸線542に対して相対的に移動するように、かつ垂直軸線542を中心として回転するように位置決めされ、ガントリーの回転と患者支持台の移動及び回転との組み合わせによって、患者の任意の部位に向けて任意の角度でビームを方向づけることができる。2つのガントリーアームは、背の高い患者の身長の2倍を超える長さで離隔されているので、高床の上方に位置する水平面内において、患者を乗せたカウチを回転及び並進運動させることができる。
【0045】
ガントリーの回転角度を制限することによって、治療室を囲む壁のうちの少なくとも1つの壁の厚さを低減することができる。一般にコンクリートから構成された厚肉の壁によって、治療室の外に居るヒトは放射線から防護される。陽子ビームを阻止するための下流側の壁は、同等のレベルの防護を実現するために、治療室の反対側の壁の約2倍の厚さとされる場合がある。ガントリーの回転を制限することによって、治療室を3つの側面においてアースグレード(earth grade)より低く設定することができる一方、占有領域を最も薄肉の壁に隣接させることができるので、治療室を建築するコストを低減することができる。
【0046】
図1に示されている例示的な実施例において、超電導シンクロサイクロトロン502は、シンクロサイクロトロンの磁極間隙において8.8テスラのピーク磁場で動作する。シンクロサイクロトロンは、250MeVのエネルギーを有する陽子ビームを発生する。他の実施例では、場の強度は、6から20テスラ又は4から20テスラの範囲内とすることが可能であり、陽子エネルギーは、150から300MeVの範囲内とすることが可能である。
【0047】
この例で説明されている放射線治療システムは陽子放射線治療に使用されるが、同じ原理及び詳細は、重イオン(イオン)治療システムで使用するための類似のシステムにおいて適用され得る。
【0048】
図2、
図3、
図4、
図5、及び
図6に示されているように、例示的なシンクロサイクロトロン10(例えば、
図1の502)は、粒子源90を収容する磁石システム12、高周波駆動システム91、及びビーム引き出しシステム38を含む。磁石システムによって確立される磁場は、環状超電導コイル40、42の分割されたペアと成形された強磁性(例えば、低炭素鋼)磁極面44、46のペアとの組み合わせを使用して、内部に存在する陽子ビームの集束を維持するのに適切な形状を有する。
【0049】
2つの超電導磁気コイルは、共通軸47を中心とし、この軸に沿って相隔てて並ぶ。
図7及び
図8に示されているように、コイルは、撚り合わせたケーブルインチャネル導体形態で配設される直径0.8mmのNb
3Sn系超電導線48(最初に、銅シースによって囲まれているニオブスズコアを備える)から形成される。7本の個別の線がまとめられてケーブルにされた後、これらは加熱され、ワイヤ状の最終(脆い)超電導体を形成する反応を引き起こす。材料が反応した後、ワイヤは銅チャネル(外径3.18×2.54mm及び内径2.08×2.08mm)内にハンダ付けされ及び、絶縁体52(この例では、ガラス繊維織布)で覆われる。次いで、ワイヤ53を収容する銅チャネルコイル状に巻き取られ、これは8.55cm×19.02cmの矩形の断面を有し、26の層を有し、層毎に49回の巻き数を有する。次いで、この巻きコイルは、エポキシ化合物で真空含浸される。完成したコイルは、環状ステンレスリバースボビン56上に取り付けられる。ヒーターブランケット55は間隔をあけて巻線の層内に入れられ、磁石クエンチが生じた場合にアセンブリを保護する。
【0050】
次いで、コイル全体を銅板で覆って熱伝導性及び機械的安定性を付与し、次いで、追加エポキシ層内に収容する。コイルの事前圧縮は、ステンレス製リバースボビンを加熱し、コイルをリバースボビン内に嵌め込むことによって行われ得る。リバースボビンの内径は、質量全体が4Kまで冷却されたときに、リバースボビンがコイルと接触したままになり、ある程度の圧縮をもたらすように選択される。ステンレス製のリバースボビンを約50℃に加熱し、コイルを100度のケルビン温度でコイルを嵌合すると、これが達成され得る。
【0051】
コイルの幾何学的形状は、コイルを矩形リバースボビン56内に取り付けて、コイルが通電されたときに発生する歪みを起こす力に抗して作用する復元力60を与えることによって維持される。
図5に示されているように、コイル位置は、一組の高温−低温支持ストラップ402、404、406を使用して磁気ヨーク及び低温保持装置に対して維持される。低温質量体を細いストラップで支持することにより、剛体支持システムによって低温質量体に与えられる熱漏洩が低減される。ストラップは、磁石が搭載された状態でガントリーを回転するときにコイルにかかる変化する重力に耐えるように構成される。これらは、重力と、磁気ヨークに対して完全対称位置から摂動したときにコイルによって生じる大きな偏心力との複合効果に耐える。それに加えて、リンクは、位置が変わった場合にガントリーが加減速する際にコイルに与えられる動的な力を低減する働きをする。それぞれの高温−低温支持体は、1つのS2ガラス繊維リンクと1つの炭素繊維リンクとを含む。炭素繊維リンクは、高温のヨークと中間温度(50〜70K)との間のピン上で支持され、S2ガラス繊維リンク408は、中間温度ピン及び低温質量体に取り付けられたピン上で支持される。それぞれのリンクは長さ5cm(ピン中心からピン中心までの間)、幅17mmである。リンクの厚さは、9mmである。それぞれのピンは、高張力ステンレス鋼から作られ、直径は40mmである。
【0052】
図3を参照すると、半径の関数としての場の強度プロファイルは、大部分がコイルの幾何学的形状及び磁極面の形状の選択によって決定され、透磁性ヨーク材料の磁極面44、46は、磁場の形状を微調整して加速時に粒子ビームの収束を確実に保つように、起伏が付けられ得る。
【0053】
超電導コイルは、限定された一組の支持点71、73を除き、コイル構造体の周りに自由空間を設ける真空にされた環状アルミニウム又はステンレス製低温保持槽70の内側にコイルアセンブリ(コイル及びボビン)を封じ込めることによって絶対零度近くの温度(例えば、約4ケルビン)に維持される。代替的バージョン(
図4)において、低温保持装置の外壁は、低炭素鋼で作られ、磁場に対する追加の帰還磁路をもたらすことができる。
【0054】
幾つかの実施例では、絶対零度近くの温度は、1つの単段ギフォードマクマホン冷凍機と3つの2段ギフォードマクマホン冷凍機とを使用して達成され、維持される。それぞれの2段冷凍機は、ヘリウム蒸気を液体ヘリウムに再凝縮する凝縮器に取り付けられた第2段低温端部を有する。冷凍機のヘッドには、圧縮機から圧縮ヘリウムが供給される。単段ギフォードマクマホン冷凍機は、電流を超電導巻線に供給する高温(例えば、50〜70ケルビン)のリード線を冷却するように構成される。
【0055】
幾つかの実施例では、絶対零度近くの温度は、コイルアセンブリ上の異なる位置に配置された2つのギフォードマクマホン冷凍機72、74を使用して達成され、維持される。それぞれの冷凍機は、コイルアセンブリと接触する低温端部76を有する。冷凍機のヘッド78には、圧縮機80から圧縮ヘリウムが供給される。他の2つのギフォードマクマホン冷凍機77、79は、電流を超電導巻線に供給する高温(例えば、60〜80ケルビン)のリード線を冷却するように構成される。
【0056】
コイルアセンブリ及び低温保持槽は、ピルボックス形状の磁気ヨーク82の2つの半分81、83内に取り付けられ、完全に封じ込められる。この例では、コイルアセンブリの内径は、約74.6cmである。鉄ヨーク82は、帰還磁束84に対する経路となり、磁極面44、46の間の容積部86を磁気遮蔽して外部からの磁気的影響がその容積部内の磁場の形状を摂動するのを防ぐ。ヨークは、加速器の付近の漂遊磁場を減少させる働きもする。幾つかの実施例では、シンクロサイクロトロンは、漂遊磁場を低減する能動的帰還システムを有するものとしてよい。能動的帰還システムの一例は、その内容が参照により本明細書に組み込まれている、2013年5月31日に出願した米国特許出願第13/907,601号で説明されている。能動的帰還システムにおいて、本明細書で説明されている比較的大きな磁気ヨークは、磁極片と称される、より小さな磁気構造体で置き換えられる。超電導コイルは、本明細書で説明されている主コイルの反対側に電流を流し、磁気帰還をもたらし、それによって、漂遊磁場を低減する。
【0057】
図3及び
図9に示されているように、シンクロサイクロトロンは、磁気構造体82の幾何学的中心92の近くに配置されているペニングイオンゲージ形態の粒子源90を含む。粒子源は、以下に説明されている通りであるか、又は粒子源は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許出願第11/948,662号で説明されている種類のものであってよい。
【0058】
粒子源90は、水素の供給部99からガス管路101及び気体水素を送達する管194を通して供給される。電気ケーブル94は電流源95から電流を運び、磁場200の方向に揃えられた陰極192、190からの電子の放出を刺激する。
【0059】
幾つかの実施例では、ガス管101内のガスは、水素と1つ又は複数の種類の他のガスとの混合物を含み得る。例えば、混合物は、水素と希ガス、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、及び/又はラドンのうちの1つ又は複数を含み得る(混合物は希ガスとの使用に制限されない)。幾つかの実施例では、混合物は、水素とヘリウムとの混合物であってもよい。例えば、混合物は、水素を約75%以上、ヘリウムを約25%以下(残留ガスが含まれ得る)含有することができる。別の例では、混合物は、水素を約90%以上、ヘリウムを約10%以下(残留ガスが含まれ得る)含有することができる。例えば、水素/ヘリウム混合物は、>95%/<5%、>90%/<10%、>85%/<15%、>80%/<20%、>75%/<20%などのうちのどれかであってよい。
【0060】
粒子源中で希ガス(又は他のガス)を水素と組み合わせて使用する利点として考えられるのは、ビーム強度の増大、陰極の寿命の増加、及びビーム出力の定常性の増大である。
【0061】
この例では、放出される電子は、管194から小さな穴を通して出て来るガスを電離し、磁石構造体と1つのダミーディープレート102とによって囲まれた空間の半分にかかる1つの半円形(ディー形状)高周波プレート100によって加速する陽イオン(陽子)の供給部を形成する。遮断された粒子源の場合(その一例は、米国特許出願第11/948,662号で説明されている)、プラズマを収容する管の全部(又は実質的な部分)が加速領域で取り除かれ、これにより、比較的高い磁場内でイオンをより高速に加速することができる。
【0062】
図10に示されているように、ディープレート100は、磁石構造体によって囲まれた空間の周りの回転の半分において陽子が加速される空間107を囲む2つの半円形表面103、105を有する中空金属構造体である。空間107内に開いているダクト109は、ヨークを通り、真空ポンプ111が取り付けられ得る外部の場所に延在し、これにより、空間107及び、加速が行われる真空槽119内の空間の残り部分を真空にする。ダミーディー102は、ディープレートの露出されている縁の近くに間隔をあけて並ぶ矩形の金属リングを備える。ダミーディーは、真空槽及び磁気ヨークに接地される。ディープレート100は、高周波伝送路の終端部に印加される高周波信号によって駆動され、電場を空間107内に発生させる。高周波電場は、加速された粒子ビームが幾何学的中心からの距離を増やすにつれ時間に関して変化させられる。高周波電場は、その内容が参照により本明細書に組み込まれている米国特許出願第11/948,359号、名称「Matching A Resonant Frequency Of A Resonant Cavity To A Frequency Of An Input Voltage」で説明されているように制御され得る。
【0063】
ビームが中央に配置された粒子源から現れて粒子源構造体をクリアし、外向きに螺旋を描き始めると、高い電圧差が高周波プレート上に必要になる。高周波プレートに20,000Vが印加される。幾つかのバージョンでは、8,000から20,000ボルトが高周波プレートに印加され得る。この高い電圧を駆動するために必要な電力を低減するために、磁石構造体は、高周波プレートと接地との間の静電容量を減らすように構成される。これは、高周波構造から外側ヨーク及び低温保持装置ハウジングまで十分な間隔をあけて穴を形成し、磁極面の間に十分な空間を確保することによって行われる。
【0064】
ディープレートを駆動するこの高電圧の交流電位は加速サイクルにおいて、陽子の増大する相対論的質量と減少する磁場とを考慮して、周波数が低くなるように掃引される。ダミーディーは、真空槽壁と共に接地電位にあるので中空半円筒形構造体を必要としない。基本周波数の異なる位相又は倍数の周波数で駆動される加速電極の複数のペアなどの、他のプレート構成も使用することが可能である。RF構造は、例えば、互いにかみ合う回転及び静止ブレードを有する回転コンデンサを使用することによって、必要な周波数掃引においてQを高く保つように調整することができる。ブレードのかみ合い毎に、静電容量が増加し、したがって、RF構造の共振周波数が下がる。ブレードは、必要な正確な周波数掃引がもたらされる形状に成形され得る。回転コンデンサ用の駆動モータは、正確な制御を行うためにRF発生器に位相固定され得る。一群の粒子が、回転コンデンサのブレードのかみ合い毎に加速される。
【0065】
加速が行われる真空槽119は、中央が薄く、縁が厚い、一般的に円筒形の容器である。真空槽は、RFプレート及び粒子源を封じ込め、真空ポンプ111によって真空にされる。高真空を維持することで、加速するイオンが気体分子との衝突で失われないことが保証され、アーク地絡を生じることなくRF電圧をより高いレベルに保つことが可能になる。
【0066】
陽子は、粒子源から始まる一般的に螺旋状の軌道経路を横断する。螺旋経路のそれぞれのループの半分において、陽子は、空間107内のRF電場を通過するときにエネルギーを獲得する。イオンがエネルギーを獲得すると、螺旋経路のそれぞれの連続するループの中心軌道の半径は、ループ半径が磁極面の最大半径に達するまで前のループより大きくなる。その位置で、磁場及び電場摂動はイオンを磁場が急速に減少する領域内に導き、イオンは高い磁場の領域から出て、本明細書では引き出しチャネルと称される真空管38に通され、サイクロトロンのヨークから出る。磁場摂動を変えてイオンの向きを決めるために磁気再生器が使用され得る。サイクロトロンから出たイオンは、サイクロトロンの周りの部屋内に存在する著しく減少する磁場の領域に入ると分散する傾向を有する。引き出しチャネル38内のビーム成形要素107、109は、イオンが空間的広がりを制限された真っ直ぐなビーム状態を保つようにイオンの向きを変える。
【0067】
磁極間隙内の磁場は、加速するときに真空槽内にビームを維持する幾つかの特性を有している必要がある。磁場指数nは、式
n = −(r/B)dB/dr
で表され、この「弱い」集束を維持するように正に保たれなければならない。ここで、rはビームの半径であり、Bは磁場である。それに加えて、幾つかの実施例では、磁場指数は、0.2未満に維持される必要があるが、それは、この値では、ビームの径方向振動及び鉛直方向振動の周期がvr=2v
zの共振で一致するからである。ベータトロン周波数は、v
r=(1−n)
1/2及びv
z=n
1/2によって定義される。強磁性磁極面は、磁場指数nが所定の磁場内で250MeVのビームと一致する最小の直径において正に維持され、0.2未満となるようにコイルによって生成される磁場を成形するように設計される。
【0068】
ビームが引き出しチャネルから出るときに、ビームはビームに対する散乱角、及び飛程変調の所望の組み合わせを形成するようにプログラム可能に制御され得るビーム形成システム125(
図5)に通される。ビーム形成システム125は、ビームを患者に導くために内側ガントリー601(
図14)と共に使用され得る。
【0069】
動作時に、プレートは、プレートの表面に沿った導通抵抗の結果として、印加される高周波場からエネルギーを吸収する。このエネルギーは、熱として現れ、熱交換器113(
図3)内に熱を放出する水冷管路108を使用してプレートから取り出される。
【0070】
サイクロトロンから出る漂遊磁場は、ピルボックス磁気ヨーク(シールドとしても働く)と別の磁気シールド114の両方によって制限される。別の磁気シールドは、空間116によって隔てられる、ピルボックスヨークを囲む強磁性体(例えば、鋼又は鉄)の層117を含む。ヨーク、空間、及びシールドのサンドイッチを含むこの構成は、より低い重量で所定の漏れ磁場に対する適切な遮蔽を形成する。
【0071】
上述のように、ガントリー504は、シンクロサイクロトロンを水平回転軸線532を中心として回転させる。トラス構造体516は、2つの略平行なスパン580、582を有する。シンクロサイクロトロンは、脚部508、510同士の間における略中央にかつスパン580、582同士の間に配設されている。ガントリーは、トラスの反対側に位置する脚部508、510の端部に取り付けられた釣合いおもり122、124を利用することによって軸受512、514を中心として回転するようにバランスされている。
【0072】
ガントリー504は電気モータによって回転駆動され、電気モータはガントリー504の少なくとも1つの脚部に取り付けられており、駆動歯車を介して軸受ハウジングに接続されている。ガントリー504の回転位置は、ガントリー504の駆動モータ及び駆動歯車に組み込まれた軸角エンコーダによって付与される信号から導き出される。
【0073】
イオンビームがサイクロトロンから出る位置において、ビーム形成システム125は、患者の治療に適した特性をイオンビームに付与するようにイオンビームに作用する。例えば、ビームを拡散させ、当該ビームの貫入深さを変化させることによって、所定の目標体積に対して均一に放射することができる。ビーム形成システムは、能動的走査要素に加えて、受動的散乱要素を備えている場合がある。
【0074】
シンクロサイクロトロンの能動的システムのすべて(例えば、電流駆動式超電導コイル、RF駆動式プレート、真空加速室のための真空ポンプ、超電導コイル冷却室のための真空ポンプ、電流駆動式粒子源、水素ガス源、及びRFプレート冷却装置)が、例えば制御を効果的に実施するために適切なプログラムでプログラムされた1つ以上のコンピュータを含む、適切なシンクロサイクロトロンを制御するための電子機器(図示しない)によって制御される。
【0075】
ガントリー、患者支持体、能動的ビーム成形要素、及びシンクロサイクロトロンは、適切な治療を制御するための電子機器(図示しない)によって、治療セッションを実施するために制御される。
【0076】
図1、
図11、及び
図12に表すように、ガントリー504の軸受512、514は、サイクロトロンのボールト524の壁によって支持されている。ガントリー504は、患者の上方位置、側方位置、及び下方位置を含む180°(又は180°以上)の回転範囲520にわたって、サイクロトロンを旋回させることができる。ボールト524は、ガントリー504の運動の上端及び下端点においてガントリー504が通過可能とされるのに十分な高さを有している。壁148、150を側面とする迷路146は、療法士及び患者のための出入り口経路とされる。少なくとも1つの壁152は、サイクロトロンからの直接的な陽子ビームの照射範囲に存在しないので、当該壁は、比較的薄くすることができ、依然として遮蔽機能を発揮させることができる。治療室の他の3つの側壁154、156、150/148は、遮蔽を比較的厳重にする必要があり、盛り土(図示しない)に埋設されている。土自体が必要な遮蔽の一部分を果たすことができるので、側壁154、156、158の必要な厚さは低減される。
【0077】
図12及び
図13に表すように、安全上及び美観上の理由から、治療室160は、ボールト524の内部に構成されている。治療室160は、旋回するガントリーが通過可能とされるように、かつ、治療室の床面積164の範囲を最大限に拡張するように、壁154、156、150及び収容室の基部162からガントリー504の脚部508、510同士の間に形成された空間の内部に向かって片持ち梁として形成されている。ビーム発生粒子加速器502の定期的整備は、高床の下方の空間内で実施可能とされる。ビーム発生粒子加速器502がガントリー504の下方位置に至るまで回転された場合、治療領域から離隔された空間内において、加速器全体に対してアクセス可能とされる。電源、冷却機器、真空ポンプ、及び他の支援機器は、当該離隔された空間内において高床の下方に配置されている。患者支持体170は、支持体を上下動させると共に患者を様々な位置及び向きに回転及び移動させることができる様々な態様で、治療室160の内部に取り付け可能とされる。
【0078】
図14に表すシステム602では、本明細書で説明されているタイプのビーム発生粒子加速器が、当該実施例ではシンクロサイクロトロン604が回転式ガントリー605に取り付けられている。回転式ガントリー605は、本明細書で説明されているタイプのものであり、患者支持体606の周りで角度的に回転することができる。この特徴によって、シンクロサイクロトロン604は、様々な角度から粒子ビームを患者に直接照射することができる。例えば、
図14に表すように、シンクロサイクロトロン604が患者支持体606の上方に位置している場合には、粒子ビームは患者に向かって下方に方向づけられている。代替的には、シンクロサイクロトロン604が患者支持体606の下方に位置している場合には、粒子ビームは患者に向かって上方に方向づけられている。中間ビーム経路指定機構が必要ないという意味では、粒子ビームは患者に直接印加される。本発明では、成形又はサイズ決定機構がビームの経路変更をするのではなく、同一かつ一般的なビーム軌道を維持しつつビームのサイズ及び/又は形状を決定するという点において、中間ビーム経路指定機構は成形又はサイズ決定機構と相違する。
【0079】
上述のシステムの例示的な実施例に関するさらなる詳細は、米国特許第7,728,311号明細書及び米国特許出願第12/275,103号に開示されている。これら特許文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれている。幾つかの実施例では、シンクロサイクロトロンは、米国特許出願第13/916,401号明細書で説明されている可変エネルギーデバイスとされる場合がある。当該特許文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0080】
例示的な実施例
上記で説明したように、超電導磁石の超電導コイルは、典型的にはそれらの超電導特性を実現するために低温に冷却される。幾つかの実施例においては、超電導コイルは、限定された支点の組を除いてはコイル構造体の周囲に自由空間を提供する真空排気される環状アルミニウム又はステンレス鋼クライオスタットチャンバの内部にコイルアセンブリ(超電導コイル及びコイルを保持する構造体)を密閉することによって、絶対零度(例えば約4°ケルビン(K))付近の温度に維持される。
【0081】
粒子加速器700で使用され得る超電導磁石700の一部の断面が、
図15に示される。同じ超電導磁石の斜視図が、
図16に示される。超電導磁石700は、事前に巻き付けられた超電導コイルが配置されたコイルチャンバ704、705を含む構造半部701、702(「ボビン」と呼ぶ)を含む。
【0082】
アセンブリの少なくとも一部が、動作時に例えば超電導温度などの低温に維持されるため、ボビン及び超電導コイルを含むアセンブリは、「低温質量体」と呼ばれる構造体の一部となる。例示的な実施例においては、低温質量体は、構造的ステンレス鋼ボビン内で支持されるスプリット型超電導ソレノイドコイル対である。冷却ターレットが、超電導コイルを適温に維持するために使用される。幾つかの実施例においては、冷却ターレットは、クライオクーラ凝縮器アセンブリ(上述のような)、電流リード、及びダイオードパックアセンブリを含む。低温質量体は、ターレットが組み付けられることにより超電導磁石を形成するクライオスタットの一部である。低温質量体は、支持ストラップによりヨーク内部に吊られ得る。
【0083】
図15及び
図16の例示的な実施例においては、冷却チャンバ707、708が、各対応するボビン701、702の外周部に沿って延在する。冷却チャンバ707、708は、対応するボビンの構造体中に機械加工され、ステンレス鋼プレート710、711(
図15ではボビン702のみに関して図示される)により密閉(例えば液密に構成)されてもよい。ステンレス鋼は、一般的には伝熱体として劣るが、幾分かの熱を伝導し得る。幾つかの実施例においては、液体ヘリウムが冷媒として使用され得る。そのため、各冷却チャンバは、液体ヘリウムで充填されてもよい。しかし、本明細書において説明される実施例は、液体ヘリウムを使用するが、他の液体冷媒及び/又は気体冷媒が使用されてもよい。
【0084】
各ボビンにおいて、コイルチャンバ704、705が、事前に巻き付けられた超電導コイルを保持する。幾つかの実施例においては、超電導コイルは、ボビンの周囲に巻き付けられず、代わりに対応するコイルチャンバ内に単に配置される。コイルは、支持構造体により定位置に保持されてもよい。液体ヘリウム及び各対応する超電導コイルは、異なるチャンバ内に別個に置かれる(例えば冷却チャンバ707、708及びコイルチャンバ704、705のそれぞれの中に)。その結果、超電導コイルと例えば液体ヘリウムなどの冷媒との間に、直接的な物理的接触はなくなる。さらに、ボビンの本体がステンレス鋼であることにより、各ボビンの本体(例えば714、715)を介した超電導コイルと冷媒との間の熱接触は、あるとしても殆どない。したがって、超電導コイル及び液体ヘリウムの両方に接触し、これら2つの間で熱を伝導することにより超電導コイルを冷却させるために使用される伝熱構造体が導入される。
【0085】
図示するように、各コイルチャンバ704、705の構造は、実質的に円形である。したがって、コイルチャンバ内に配置された場合には、超電導コイルは、この実質的に円形の構成をとる。超電導コイルが、この円形構成から逸脱する場合には、磁力が、粒子加速器の動作に影響を及ぼし得るか又はコイルに損傷を与え得る。例えば、超電導磁石の動作時に、フープ力が超電導コイルを外方へと拡張させることにより、超電導コイルがコイルチャンバの外方内壁部に当接される場合がある。超電導コイルが、円形構成から十分に逸脱する場合には、このフープ力によりコイルは断裂する恐れがある。
【0086】
各超電導コイルは、円形構造の外側領域よりも円形構成の内側領域においてより強力となる磁場を発生させる。例えば、超電導コイルに囲まれた領域750内の磁場は、超電導コイルに囲まれたエリアの外部である領域752内の磁場よりも強い。幾つかの実施例においては、この内側領域の磁場は、外側領域の磁場の10倍の強さを有し得るが、これがすべての実施例に当てはまるわけではない。磁場は、超電導コイルの内側領域及び外側領域の両方から距離を置くにしたがって漸減する。
【0087】
図17を参照すると、1つ又は複数の磁性シムが、磁場に、したがってヨークにより超電導コイルに印加される磁力に作用するように、ヨーク753、754のスロット755a、755b、755c、755d内に導入され得る。幾つかの実施例においては、磁性シムは、超電導コイルの内側領域750のスロット内に導入されるが、これは要件ではない。磁力は、外側領域よりも内側領域でより大きいため、より小型の及び/又はより少数の磁性シムを内側領域において使用することにより、外側領域に配置されたより大型の及び/又はより多数の磁性シムによって生成されるものと同一の力を生成し得る。他の実施例においては、磁性シムの中の1つ又は複数が、内側領域に位置してもよく、及び/又は磁性シムの中の1つ又は複数が、外側領域に位置してもよい。幾つかの実施例においては、磁性シムは、単純に外側領域よりも内側領域に対してより近くてもよく、又はその逆であってもよい。
【0088】
この実施例においては、各ヨークは、対応する超電導コイルの近傍に1つ又は複数のスロットを備える。例えば、スロット755aは、コイル756の付近に位置し、スロット755cは、コイル757の付近に位置する、等となる。スロット及び磁性シムの個数及びサイズは、超電導磁石により発生する磁場などの様々な要因によってシステム毎に異なる。
【0089】
図18は、ヨーク753及び低温質量体760を備える超電導磁石の一部分の分解斜視図を示す。スロット761a、761b、761c、及び761dは、上述のタイプの4つの磁性シムが上部ヨーク753(この図面のヨーク)内に導入され得る位置を示す。対応する構成が、下部ヨーク(図示せず)についても存在し得る。
【0090】
幾つかの実施例においては、磁性シムは、
図19に示す磁性シム762などの鉄又は鋼の磁性シムを使用して実装される。磁性シム762は、ロッド(プランジャ)の形状であってもよく、又は他の適切な形状を有してもよい。磁性シムは、対応する超電導コイル付近のヨークのスロット内に配置され得る。さらにヨーク内部へと下方に磁性シムを移動させることにより、超電導コイル付近の強磁性体材料の量が増加し、それにより対応する超電導コイルに印加される磁力量が増加する。対照的に、上方へとヨークの外に磁性シムを移動させることにより、超電導コイル付近の強磁性体材料の量が減少し、それにより対応する超電導コイルに印加される磁力量が低下する。
【0091】
図19の例では、磁性シム762は、エンクロージャ763の内部にロッド状部分を備える。その部分は、ねじ764を使用してヨークの内外へと移動され得る。キャップ765が、ヨークに磁性シム762を固定し得る。
図20は、スロット内に永久的に固定され、キャップ771により定位置に保持され得る磁性シム770を示す。例えば、磁性シム770は、特定のサイズに機械加工され、スロット内に導入され、さらなる調節の余地を伴わずに固定され得る。
【0092】
図21は、ヨークのキャップ777に導入された磁性シムを示す。シム772は、
図19に示すタイプのものであり、シム774は、
図20に示すタイプのものである。シム773は、途中まで設置されているが、キャップをまだ備えず、またヨークにも固定されていない。スロット775は、シムをまだ備えていない。ヨークは、すべてが同一タイプの磁性シムを備えてもよく、又は種々のタイプが同一のヨークで使用されてもよい(
図21に図示)点を指摘しておく。また、すべてのスロットがシムを必要とするわけではない。
【0093】
磁性シムの移動は、粒子治療システムの一部である制御システムを介してコンピュータ制御され得る。例えば、磁性シム773の移動は、粒子加速器が取り付けられたガントリーの回転位置により測定されるような、粒子加速器の回転位置(及びしたがって加速器内部の電磁石の回転位置)に基づき制御され得る。加速器の回転位置に対して磁性シムの位置を設定するために使用される様々なパラメータは、実験的に測定され、制御システムコンピュータにプログラミングされ得る。1つ又は複数のコンピュータ制御アクチュエータが、磁性シムの実移動を実行するために使用されてもよい。
【0094】
幾つかの実施例においては、磁性シムの移動は、リアルタイム制御され得る。他の実施例においては、磁性シムの最適位置は、試験を介して判定されてもよく、磁性シムは、ヨークのスロットに適切な深さで永久的に挿入されてもよい。幾つかの実施例においては、8つのスロット/磁性シム(ヨーク半部毎に4つ)が存在し得る。他の実施例においては、異なる個数のスロット/磁性シムが使用されてもよい。
図21は、4つの磁性シムが対応するヨークに導入され得る一例を示す。この例では、同様の磁性シム構成が、他方のヨーク(図示せず)に対しても用意される。
【0095】
幾つかの実施例においては、磁性シム(例えば上述の磁性シム)が、代わりとして1つ又は複数の小型電磁石であってもよく、又はそれらを含んでもよい。この電磁石を流れる電流は、上述のように再生器により生成される磁場に作用するように制御される。1つ又は複数の電磁石を流れる電流は、粒子治療システムの一部である制御システムによりコンピュータ制御されてもよい。例えば、電流は、粒子加速器が取り付けられたガントリーの回転位置により測定されるような粒子加速器の回転位置に基づき制御されてもよい。加速器の回転位置に対して電流を設定するために使用される様々なパラメータは、実験的に測定され、制御システムコンピュータにプログラミングされ得る。
【0096】
図17に戻ると、上記で説明したように、幾つかの実施例においては、磁気は、超電導コイルの位置を調節するために超電導コイルの内側領域750のスロットに導入され得る。幾つかの実施例においては、本明細書において説明されるタイプの磁性シムであるが、場合によってはより小サイズの磁性シムが、領域750の粒子軌道エネルギーに作用するために内側領域750に導入され得る。より具体的には、上記で説明したように、磁場再生器が、空洞内部の既存の磁場を調節することによりプラズマ柱から加速される粒子の連続軌道位置を変化させ、それによって最終的に粒子がヨーク内に含まれる引き出しチャネルに出力されるように、空洞(領域750)内で位置決めされ得る。再生器は、空洞のある領域で磁場を増大させることにより、その領域における粒子の各連続軌道が、引き出しチャネルの進入点に向かって外方へと歳差運動し、最終的に引き出しチャネルに到達し得る。引き出しチャネルは、プラズマ柱から加速された粒子を受け取り、空洞からこの受け取った粒子を出力する。
【0097】
幾つかの場合では、超電導コイルが回転時に移動することにより、再生器702による作用を受ける軌道が、コイルの引力移動により変化する。この移動は、10分の数ミリメートルの小さなものとなり得る。しかし、結果として、引き出しチャネルに進入する粒子ビームのエネルギーは、チャネル全体を横断するのに必要とされるエネルギーとは異なり得る。幾つかの場合では、引き出しチャネルに進入する粒子エネルギーのこの変化に対する調節を行うために、ある構造体が、引き出しチャネルの内部に又は進入点に配置される。この構造体は、粒子ビームの過剰エネルギーを吸収するために使用され得る。しかし、この構造体は、結果的に得られるビームのスポットサイズを変化させ得る。照射標的中にわたり粒子ビームを走査するために走査を利用する粒子治療システムの実施例においては、粒子ビームスポットサイズの変化は、望ましくないものとなり得る。
【0098】
したがって、本明細書において例が説明される磁性シムは、粒子ビームの過剰エネルギーを吸収するための引き出しチャネルの内部又は進入点における構造体の使用を解消するために使用され得る。例えば、磁性シムは、領域750内部の磁場を変化させることにより領域750の粒子軌道を変化させ、それによって、引き出しチャネルの進入部(領域750に連接する)に達する粒子のエネルギーが引き出しチャネルを横断するために必要とされるエネルギーと厳密に整合するように、領域750に導入され得る。磁性シムを適切に位置決めする結果として、粒子ビームからエネルギーを吸収しそれにより粒子ビームスポットサイズに作用するために、エネルギー吸収器は引き出しチャネルには不要となる。
【0099】
さらに具体的には、磁性シム又は吸収構造体を使用しない場合には、引き出しチャネルに進入する幾つかの粒子が、引き出しチャネルを横断するために必要とされるエネルギーを超過するエネルギーを有し得る。結果として、かかる粒子は、横断時に引き出しチャネル又は他の構造体の壁部に衝突し、それによりそれらの出力が妨げられ得る。他の場合では、幾つかの粒子が、引き出しチャネルに達するのに十分なエネルギーを有さない場合があり、それによりそれらの出力が妨げられ得る。本明細書において説明される磁性シムは、ある特定のエネルギーレベルで粒子軌道を摂動させ、それによって引き出しチャネルに達するエネルギーレベルの粒子が引き出しチャネルに進入し出力のために引き出しチャネルを横断するのに十分なエネルギーを有するように、領域750内の1つ又は複数の位置の磁場を形状設定するために使用され得る。
【0100】
幾つかの実施例においては、磁性シムは、再生器の使用を伴わずに空洞内の磁場を形状設定するために使用され得る。例えば、上述の例は、1つ又は複数の磁性シムが、空洞内の磁場を形状設定するために再生器と同時に使用される。幾つかの実施例においては、再生器自体が、本明細書において説明されるタイプの1つ又は複数の磁性シムと置換され得る。したがって、空洞内の磁場全体が、磁性シムを使用して形状設定されることにより、システムをカスタマイズ可能なものにし得る。
【0101】
領域750の磁性シムは、コンピュータ制御され得る。1つ又は複数の磁性シム位置が、シンクロサイクロトロンの動作時に変化を伴わずに位置決めされるように、事前に設定されてもよい。代替的には、1つ又は複数の磁性シムは、リアルタイムで領域750内の磁場を形状設定するために、シンクロサイクロトロンの動作時に連係的に制御され得る。1つ又は複数の磁性シムは、領域750内で使用されてもよい。
【0102】
米国特許出願第13/907,601号に記載されるものなどの能動的帰還システムを使用する実施例においては、様々な磁性シムのサイズ及び位置は、本明細書に示されるものとは異なる。磁性シムは、磁気ヨークに導入されるのと同様の態様で適切な磁極片の穴を通して導入され得る。必要な場合には、追加の強磁性構造体が、能動的帰還システムを使用する実施例においてコイル位置を制御するために使用され得る。
【0103】
電磁石における超電導コイルの位置決めを調節するために、前述の特徴の中の任意の2つ以上が適切な組み合わせで使用されてもよい。
【0104】
本明細書で説明されている異なる実施例の要素は、特に上で述べていない他の実施例を形成するように組み合わせることもできる。要素は、その動作に悪影響を及ぼすことなく本明細書で説明されているプロセス、システム、装置などから外してもよい。本明細書で説明されている機能を実行するために、様々な別々の要素を1つ又は複数の個別の要素に組み合わせることができる。
【0105】
本明細書で説明されている例示的な実施例は、粒子治療システムと共に使用すること、又は本明細書で説明されている例示的な粒子治療システムと共に使用することに限定されない。むしろ、例示的な実施例は、超電導コイルを含む任意の適切なシステム内で使用され得る。
【0106】
本明細書で説明されているようなシステム内で使用され得る粒子加速器の例示的な実施例の設計に関する追加の情報は、参照により本明細書に組み込まれている2006年1月20日に出願した米国仮出願第60/760,788号、名称「High−Field Superconducting Synchrocyclotron」、2006年8月9日に出願した米国特許出願第11/463,402号、名称「Magnet Structure For Particle Acceleration」、及び2006年10月10日に出願した米国仮出願第60/850,565号、名称「Cryogenic Vacuum Break Pneumatic Thermal Coupler」に記載されている。
【0107】
以下の出願は、参照により本出願に組み込まれている。米国仮出願、名称「CONTROLLING INTENSITY OF A PARTICLE BEAM」(出願第61/707,466号)、米国仮出願、名称「ADJUSTING ENERGY OF A PARTICLE BEAM」(出願第61/707,515号)、米国仮出願、名称「ADJUSTING COIL POSITION」(出願第61/707,548号)、米国仮出願、名称「FOCUSING A PARTICLE BEAM USING MAGNETIC FIELD FLUTTER」(出願第61/707,572号)、米国仮出願、名称「MAGNETIC FIELD REGENERATOR」(出願第61/707,590号)、米国仮出願、名称「FOCUSING A PARTICLE BEAM」(出願第61/707,704号)、米国仮出願、名称「CONTROLLING PARTICLE THERAPY」(出願第61/707,624号)、米国仮出願、名称「CONTROL SYSTEM FOR A PARTICLE ACCELERATOR」(出願第61/707,645号)。
【0108】
以下の参考文献も、参照により本出願に組み込まれている。2010年6月1日に発行された米国特許第7,728,311号、2007年11月30日に発行された米国特許出願第11/948,359号、2008年11月20日に出願した米国特許出願第12/275,103号、2007年11月30日に出願した米国特許出願第11/948,662号、2007年11月30日に出願した米国仮出願第60/991,454号、2011年8月23日に発行された米国特許第8,003,964号、2007年4月24日に発行された米国特許第7,208,748号、2008年7月22日に発行された米国特許第7,402,963号、2010年2月9日に出願した米国特許出願第13/148,000号、2007年11月9日に出願した米国特許出願第11/937,573号、2005年7月21日に出願した米国特許出願第11/187,633号、名称「A Programmable Radio Frequency Waveform Generator for a Synchrocyclotron」2004年7月21日に出願した米国仮出願第60/590,089号、2004年9月24日に出願した米国特許出願第10/949,734号、名称「A Programmable Particle Scatterer for Radiation Therapy Beam Formation」、及び2005年7月21日に出願した米国仮出願第60/590,088号。
【0109】
本出願の特徴は、以下の1つ又は複数の適切な特徴と組み合わせることができる。米国仮出願、名称「CONTROLLING INTENSITY OF A PARTICLE BEAM」(出願第61/707,466号)、米国仮出願、名称「ADJUSTING ENERGY OF A PARTICLE BEAM」(出願第61/707,515号)、米国仮出願、名称「ADJUSTING COIL POSITION」(出願第61/707,548号)、米国仮出願、名称「FOCUSING A PARTICLE BEAM USING MAGNETIC FIELD FLUTTER」(出願第61/707,572号)、米国仮出願、名称「MAGNETIC FIELD REGENERATOR」(出願第61/707,590号)、米国仮出願、名称「FOCUSING A PARTICLE BEAM」(出願第61/707,704号)、米国仮出願、名称「CONTROLLING PARTICLE THERAPY」(出願第61/707,624号)、及び米国仮出願、名称「CONTROL SYSTEM FOR A PARTICLE ACCELERATOR」(出願第61/707,645号)、2010年6月1日に発行された米国特許第7,728,311号、2007年11月30日に出願した米国特許出願第11/948,359号、2008年11月20日に出願した米国特許出願第12/275,103号、2007年11月30日に出願した米国特許出願第11/948,662号、2007年11月30日に出願した米国仮出願第60/991,454号、2013年5月31日に出願した米国特許出願第13/907,601号、2013年6月12日に出願した米国特許出願第13/916,401号、2011年8月23日に発行された米国特許第8,003,964号、2007年4月24日に発行された米国特許第7,208,748号、2008年7月22日に発行された米国特許第7,402,963号、2010年2月9日に出願した米国特許出願第13/148,000号、2007年11月9日に出願した米国特許出願第11/937,573号、2005年7月21日に出願した米国特許出願第11/187,633号、名称「A Programmable Radio Frequency Waveform Generator for a Synchrocyclotron」、2004年7月21日に出願した米国仮出願第60/590,089号、2004年9月24日に出願した米国特許出願第10/949,734号、名称「A Programmable Particle Scatterer for Radiation Therapy Beam Formation」、及び2005年7月21日に出願した米国仮出願第60/590,088号。
【0110】
本特許出願が優先権を主張する仮出願及び上で参照により組み込まれている文献を除き、他のいかなる文献も参照により本特許出願に組み込まれない。
【0111】
本明細書で特に説明されていない他の実施例も、以下の請求項の範囲内に収まる。