【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
実 施 例 1
ダイオキシン分解能を有する微生物のスクリーニング:
(1)子実体の採取
リグニン分解能を有する白色腐朽菌の単離を目的として、沖縄本島および離島合わせて23島から各島内偏りなく探索し、子実体を1946個採取した。採集した子実体は直ちに使用するまで4℃で保存した。
【0041】
(2)子実体の分離・単離
(1)で採取した子実体をメスで5mm角から1cm角の大きさに切断し、PDA(potato dextrose agar)プレート培地に植菌した。これを25℃、相対湿度75%で3日〜1週間培養した。その後、伸長した菌糸を培地ごとメスで1cm角に分離し、新たなPDA培地に植え替え、同様の条件で培養した。目視で細菌やカビなどのコンタミネーションが無い場合に単離できたとみなし、それを保存した。これにより536株が単離できた。
【0042】
(3)リグニン分解活性の測定
(2)で単離した菌株の中から白色腐朽菌を選別するため、文献(Chroma, L., Demnerova, K., Mackova, M., Macek, T.,Decolorization of RBBR by plant cells and correlation with the transformation of PCBs,Chemosphere, Vol. 49, p.739-748(2002))に記載のバーベンダム反応を用いて、菌体のリグニン分解活性を測定した。バーベンダム反応の観察のために、基本培地(2%グルコース、0.15%リン酸二水素カリウム、0.1%ポリペプトン、0.05%硫酸マグネシウム7水和物、0.001%硫酸鉄、3%組織培養用寒天)を調製した。基本培地にα−ナフトール50mMとなるよう添加した。同時に、PCB分解能の測定も行った。PCB分解能の測定には、PDA培地にレマゾールブリリアントブルーR(以下、「RBBR」という)を最終濃度50mMとなるよう添加した。
【0043】
上記2種類の培地に、単離した菌体をそれぞれ直径6mmのコルクボーラーで打ち抜いて培地ごと植菌した。そして25℃、相対湿度75%で5日間培養し、分解斑の直径を測定した。また対照として、難分解性物質を分解できることでも知られているセリポリオプシス・サブバーミスポラ(Ceriporiopsis subvermispora)ATCC90467株(以下、これを「対照株」という)を使用した。なお、対照株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより購入した。
【0044】
培養5日後の分解斑が大きいものほどリグニン分解活性が高い株とし、その結果上位7株まで絞り込んだ。この上位7株と標準株について、5日後における分解斑の直径を比較した結果を
図1に示した。α−ナフトール培地においては、7株すべてが対照株よりも分解斑が大きくなった。
【0045】
バーベンダム反応によって上位7株に絞った有望株については、RBBRを用いたPCB分解能の測定も行った。こちらもバーベンダム反応と同様に、5日後における分解斑の直径を対照株と比較した。上記と同様に、
図1に示した。RBBRの培地では、RBBRの分解斑が確認できた有望株4株全てに対照株よりも大きな分解斑を確認することができた。特に佐手2株については、対照株よりも6倍以上の分解活性をもつことがわかった。
【0046】
(4)酸化酵素活性の測定
ダイオキシン類分解に有効に作用していると考えられる佐手2株の酸化酵素産生について検討した。広葉樹木粉および小麦ふすまを含む培地5gに接種し25℃、相対湿度75%で4週間静置培養を行った。培地中に分泌されている酵素群を、10mLの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.5)で抽出した。4週間腐朽後の培地を緩衝液に懸濁し脱気を行い1時間放置した。ろ過と遠心分離で得た上清についてマンガン依存性ペルオキシダーゼ(MnP)、リグニンペルオキシダーゼ(LiP)、ラッカーゼ(Lac)の酵素活性を測定した。MnP 活性は、森永の方法に従いグアイアコールを基質とし波長475nmの1分間の吸光度変化を測定した。LiP活性は、渡邊らの方法に従ってベラトリルアルコールを基質として波長310nmの1分間の吸光度変化を測定した。Lac活性は Wangらの方法に従って(10,2,2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸アンモニウム塩)(ABTS)の酸化を波長405nmの1分間の吸光度変化を測定した。
【0047】
これらの活性は、0.1Mコハク酸緩衝液(pH4.5)中で測定し、酵素活性の1unitは、1分間に吸光度を1増加させる酵素量と定義した。佐手2株は特にラッカーゼを分泌・産生することが明らかになった。比較対照として、比較的生育が速くラッカーゼを産生することがわかっているタモギタケを同様に4週間培養した場合の酵素活性を測定した。タモギタケ腐朽材抽出液が0.1units/mLのラッカーゼ活性を示したのに対し、佐手2株腐朽材抽出液は7.4units/mLのラッカーゼ活性を示した(
図2)。佐手2株は一般的な食用白色腐朽菌よりも約70倍も強くラッカーゼを分泌することが明らかになった。
【0048】
(5)ダイオキシン分解能の測定
ダイキシン分解能の測定では、環境分析試験用として提供された焼却飛灰を赤土と混合した模擬汚染土壌を調製し、これに以下のように処理した単離株菌体を加えて、模擬汚染土壌中のダイオキシンに相当する毒性等量の減少を測定した。単離株菌体は、まず、単離株を直径6mmのコルクボーラーで培地ごと打ち抜き、4片を木材チップ培地(ブナ材チップ96g、小麦ふすま32g、水19mlを混合後、121℃、20分間でオートクレーブ滅菌した)に植菌し、25℃、相対湿度75%で1週間培養した。次に、木材チップ培地で培養した菌体を培地ごと10g秤量後、模擬汚染土壌(赤土100g、焼却飛灰2.5g)に混合し4週間培養し、1日に1回容器ごと培地を振って撹拌した。バーベンダム反応で絞り込んだ上位7株のうち、佐手2株が最もダイオキシン毒性当量が減少していたため、佐手2株を最優秀株とした(
図3)。
【0049】
更に、ダイオキシン分解効率を高めるため、培養条件の最適化を図った。一般に白色腐朽菌は好気性で多湿を好むため、湿った空気を土に通気(エアレーション)できるような培養装置を組み立てた(
図4)。これは模擬汚染土壌と菌体を入れる培養容器と、これに導入する空気の湿度を調整するための水のバブリング装置から成り、更に、焼却飛灰成分が空気中へ拡散することを防ぐため、排気の前段に活性炭槽を設置している。上記の間欠撹拌培養と同様の割合で佐手2株菌体と模擬汚染土を混合し培養した。未処理区と対照株および佐手2株で5個ずつ装置を組み、それぞれ2週間毎に1個を回収し残存する毒性当量の経時変化を分析した。10週間後の毒性当量で分解効率を評価した(
図5)。
【0050】
(6)安全性試験
マウス(ブリーダー:日本SLC株式会社、系統:ICR、性別:メス、年齢:8週齢、SPF動物)を用いて、実際に単離株を土壌浄化に活用した際の哺乳類に対する影響を確認した。各菌体破砕液の調製の為に、単離株を100mlのYM液体培地(0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキス、1%グルコース、0.5%ペプトン)で1週間、25℃、130rpmで振とう培養した。培養後、吸引ろ過(フィルターポアサイズ:0.22μm)によって菌体のみを回収し、マルチビーズショッカー多検体細胞破砕機(安井器械株式会社)を用いて20℃、3,000rpm、10secに設定し菌体を破砕した。マウスは対照区1匹を含めた9匹を用いて菌体投与当日に1個体ずつ体重測定を行い、体重測定から3時間絶食を行った。マウス1個体あたり300mg/kgの菌体破砕液をゾンデで経口投与し、OECD毒性試験ガイドライン420急性経口毒性試験−固定用量法のガイドラインに従い投与後の30分間、観察を続けた。また、投与1時間後、2時間後、24時間後および1日1回の経過観察と3日ごとに1回体重測定を行い急性毒性・目視によるマウスの異常行動・体重の著しい増減を調査した。また、パールダニオを用いて、単離株の魚類に対する影響も確認した。各菌体破砕液は上記と同様のものを使用した。パールダニオは、7Lの水中に10匹ずつ飼育し、菌体破砕液を最終濃度100mg/Lとなるよう水中に添加した。3時間後、6時間後、24時間後、36時間後、48時間後、72時間後、96時間後にそれぞれ観察し、菌体に急性毒性が無いか調査した。有望株7株について、パールダニオおよびマウスにおける安全性試験を実施した結果を表1に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
その結果、パールダニオおよびマウスについては、有望株全てにおいて急性毒性は見られなかった。また、その後の経過観察においても、全ての有望株で異常は確認されなかった。
【0053】
(7)菌株の選抜およびその同定
以上の結果より、安全、かつ、芳香族塩素化合物の分解能の高いものとして、佐手2株を選抜した。この佐手2株のDNAの解析を以下の方法で行い、菌種を同定した。
【0054】
まず、佐手2株の液体培養で得た菌体を液体窒素で凍結後、乳鉢で磨り潰して細胞を破砕した。この菌体破砕物からNucleoSpin gDNA Clean−up TM(タカラバイオ)で抽出したゲノムDNAを鋳型として用い、PCR法によりリボソーム遺伝子中の5.8Sを含むITS1とITS2領域を増幅した。PCRは、0.5unitsのTaKaRa LA TaqTM(タカラバイオ)、0.2mMの各dNTP、2μlの10×PCR GC BufferIおよび1μMの各プライマーを含む20μlの溶液中で行った。サーマルサイクラーはPTC1196型(BIO−RAD)を使用し、94℃で1分間熱変性した後、94℃30秒(変性)、45℃30秒(アニーリング)、72℃2分(伸長)を30回繰り返し、最後に72℃で10分間伸長反応を行った。PCR産物はTaKaRa SUPRECTM−PCR(タカラバイオ)により、残留しているプライマーおよびdNTPsを除去、ダイレクトシーケンスのテンプレートに使用した。シーケンス反応はDTCS Quick Start Master Mix(BECKMAN COULTER)で行い、DNAシーケンサー遺伝子解析システムCEQ8800(BECKMAN COULTER)で塩基配列解析した。
【0055】
なお、今回使用したITS領域プライマーは、真菌類の中でも特に担子菌のrRNA遺伝子に最適化されたITS1(5’−TCCGTAGGTGAACCTGCGG−3’)(配列番号2)とITS4(5’−TCCTCCGCTTATTGATATGC−3’)(配列番号3)である。上記で得られた佐手2株の塩基配列データ(配列番号1)をもとに、日本DNAバンク(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)の相同性検索サービス(BLAST system、NCBI-BLAST 2.2.18)でAltschulらのアルゴリズムによる相同性検索を行った。
【0056】
その結果、佐手2株は、マラスミエルス・パルミボラス isolate Bangi3など10種以上のマラスミエルス・パルミボラスに99%の高い相同性を示した。そこで、佐手2株は、マラスミエルス・パルミボラスと同定された。
【0057】
実 施 例 2
佐手2株の培養:
佐手2株をPSA培地に生育させ、これを直径6mmコルクボーラーで培地ごと打ち抜き切片を得た。これをブナ木粉(5mm以下に裁断されたもの)96gおよび小麦ふすま32g、水70mLを含む培地に6〜8片接種して、25℃、相対湿度75%に2週間保つことでスターターを調製した。
【0058】
このスターターを、ブナ木粉6kgおよび小麦ふすま2kg、水4Lを含む培地上に広げて接種し、LED(波長470nm付近の青色光:580から600Lux(約1500μW))照射下、25℃、相対湿度75%で2週間培養した。
【0059】
培養後は、佐手2株の菌糸が十分に生育し、培地が真っ白になるほどであった。このLED照射下の培養により佐手2株の菌糸の成長速度は、これを照射しない通常の培養と比較して、1.5〜2倍となった。
【0060】
また、このスターターをブナ木粉6kgおよび小麦ふすま2kg、水4Lを含む培地上に広げて接種し、35℃に管理された温室にLED照射はないが日照はある状態で放置したところ3週間で培地が真っ白になるほど良好に生育した。
【0061】
更にこの菌糸体が蔓延した培地60kg〜70kgを2〜3tの土に混合し、LED(波長470nm付近の青色光:580から600Lux(約1500μW))照射下、もしくはLED照射無しで放置したところ、1ヶ月後以上経ても土中から佐手2株の存在が検出された。