(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6524467
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/053 20060101AFI20190527BHJP
H01L 41/23 20130101ALI20190527BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20190527BHJP
H02N 2/00 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
H01L41/053
H01L41/23
H01L41/09
H02N2/00
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-218281(P2015-218281)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-92167(P2017-92167A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】野村 俊勝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優
【審査官】
宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−034149(JP,A)
【文献】
特開昭61−046082(JP,A)
【文献】
特開2000−183414(JP,A)
【文献】
特表2015−520963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/053
H01L 41/09
H01L 41/23
H02N 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加により屈曲運動する圧電アクチュエータであって、
金属製の振動板、および前記振動板の主面上に設けられ、素子本体の両主面に電極が設けられた圧電素子を有する圧電アクチュエータ本体と、
前記圧電アクチュエータ本体を被覆し、ショアA硬度が100°以上である第1樹脂層と、
前記第1樹脂層を被覆し、ショアA硬度が80°以下である第2樹脂層と、を備えることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記第2樹脂層は、アクリル系またはエポキシ系の硬化樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記第2樹脂層は、アクリル系の紫外線硬化樹脂からなることを特徴とする請求項2記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記第2樹脂層の厚さは、10μm〜50μmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記第2樹脂層の材料は、硬化後の伸び率が50%以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
電圧の印加により屈曲運動する圧電アクチュエータの製造方法であって、
電極を両主面に設けた素子本体を有する圧電素子を、金属製の振動板の主面上に接着して圧電アクチュエータ本体を作製する工程と、
前記圧電アクチュエータ本体の表面に、硬化時にショアA硬度100°以上となる第1樹脂を塗布する工程と、
前記第1樹脂の表面に硬化時にショアA硬度80°以下となる第2樹脂をスクリーン印刷する工程と、を含むことを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加により屈曲運動する圧電アクチュエータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子を駆動させて針の往復運動を制御する編み機が知られている。例えば、特許文献1記載の繊維機械用圧電アクチュエータ素子は、シム材プレートと、シム材プレートの表裏両面に積層された圧電体とを有している。
【0003】
圧電素子は、繊維機械に接続される支持部を備え、圧電素子の両面の電極膜とシム材プレートには、それらに電流を供給する導線が接続されている。そして、圧電素子はレジスト膜上に設けられた電気絶縁膜で全面的に被覆され、電極膜や接続部位は耐水蒸気性および非導電性を有する材料で封止されている。
【0004】
一方、このような屈曲型の圧電アクチュエータを薄くする技術についても提案されている。特許文献2は、特定構造を有する積層型圧電体が貼り合わされたバイモルフ型の圧電アクチュエータを提案している。この圧電アクチュエータは、厚さを薄くすることで、低電圧での駆動を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−34149号公報
【特許文献2】特開2003−209302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような圧電アクチュエータ素子は、過酷な環境で長時間駆動されると、圧電アクチュエータを覆う膜に亀裂が生じることがあり、亀裂が生じた場合には圧電アクチュエータ表面の外部電極に対し、絶縁性が悪くなる。そして、亀裂に水や溶剤が付着したときには圧電アクチュエータ素子の故障を誘発する。
【0007】
自硬化型のコート材の主な使用用途は、動作により変形することのない回路基盤用のコート材であるため、大きく変位するアクチュエータ用のコート材として使用すると変位を阻害もしくは変位に追従できずコート材にクラックが入り、そこを基点とし絶縁劣化が始まり製品寿命を短くする。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、動きに追従して表面に亀裂が生じるのを防止し、絶縁劣化しない長寿命な圧電アクチュエータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電アクチュエータは、電圧の印加により屈曲運動する圧電アクチュエータであって、金属製の振動板、および前記振動板の主面上に設けられ、素子本体の両主面に電極が設けられた圧電素子を有する圧電アクチュエータ本体と、前記圧電アクチュエータ本体を被覆し、ショアA硬度が100°以上である第1樹脂層と、前記第1樹脂層を被覆し、ショアA硬度が80°以下である第2樹脂層と、を備えることを特徴としている。このように、第1樹脂層のショアA硬度が100°以上なので一定以上の強度の膜を形成でき、第2樹脂層のショアA硬度が80°以下なので、動きに追従して表面に亀裂が生じるのを防止できる。その結果、絶縁性を向上でき、長寿命を実現できる。
【0010】
(2)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記第2樹脂層が、アクリル系またはエポキシ系の硬化樹脂からなることを特徴としている。これにより、容易に入手できる材料で硬化により、耐油性、耐溶剤性を有するコーティングを構成できる。
【0011】
(3)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記第2樹脂層が、アクリル系の紫外線硬化樹脂からなることを特徴としている。これにより温度を上げることなく硬化させることができ、温度上昇による圧電体への影響を防止できる。
【0012】
(4)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記第2樹脂層の厚さが、10μm〜50μmであることを特徴としている。これにより、10μm以上であることで十分な強度により被覆を維持でき、50μm以下であることで動きへ柔軟な追従が可能になる。
【0013】
(5)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記第2樹脂層の材料が、硬化後の伸び率が50%以上であることを特徴としている。これにより、動きへの追従が容易になり、圧電アクチュエータの変位を阻害しない。
【0014】
(6)また、本発明の圧電アクチュエータの製造方法は、電圧の印加により屈曲運動する圧電アクチュエータの製造方法であって、電極を両主面に設けた素子本体を有する圧電素子を、金属製の振動板の主面上に接着して圧電アクチュエータ本体を作製する工程と、前記圧電アクチュエータ本体の表面に、硬化時にショアA硬度100°以上となる第1樹脂を塗布する工程と、前記第1樹脂の表面に硬化時にショアA硬度80°以下となる第2樹脂をスクリーン印刷する工程と、を含むことを特徴としている。これにより、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、動きに追従して表面に亀裂が生じるのを防止できる。その結果、絶縁性を向上でき、長寿命を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の圧電アクチュエータの斜視図である。
【
図2】本発明の圧電アクチュエータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0018】
(圧電アクチュエータの構成)
図1、2は、それぞれ圧電アクチュエータ100の斜視図、断面図である。
図1に示すように、圧電アクチュエータ100は、バイモルフ型の圧電アクチュエータであって、電圧の印加により屈曲運動する。圧電アクチュエータ100は、圧電アクチュエータ本体105、第1樹脂層140および第2樹脂層150を備えている。圧電アクチュエータ100は、編機用選針装置として繊維機械に使用できる。
【0019】
圧電アクチュエータ本体105は、振動板110、圧電素子120、130を備えている。振動板110は、SUS等の金属製であり、シム板とも呼ばれる。振動板110の両主面上には、圧電素子120、130が設けられている。圧電素子120の素子本体121の両主面には、ほぼ全面にわたって外部電極122、123が設けられている。同様に、圧電素子130は、素子本体131の両主面に外部電極132、133が設けられている。なお、主面とは板部材の最も広い面をいう。
【0020】
図1、2に示す例では圧電素子120、130を単純化して表現しているが、素子本体121、131は、圧電セラミックスと内部電極とが厚み方向に交互に積層された積層体である。そして互い違いに内部電極は、断面のほぼ全面にわたって設けられ、それぞれ素子の両主面の外部電極122、123に接続されている。接続には、貫通孔を電極材料で埋めたスルーホール電極を用いてもよい。圧電アクチュエータ100は、バイモルフ型が好ましいが、モノモルフ型であってもよい。なお、素子本体121、131は、圧電セラミックスの単層であってもよい。
【0021】
圧電セラミックスとしては、PZT(PbZrO
3−PbTiO
3)、またはPZTにPb(Mg、Nb)O
3やPb(Ni、Nb)O
3等の鉛系複合ペロブスカイト型化合物を固溶させた3成分系圧電セラミックスを用いることができる。バイモルフ型の圧電素子には、特に、ジルコン酸チタン酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛(PZT−PMN)系材料が好適である。電極には、Ag、Ag/Pd(銀/パラジウム)等、複数種類の材料を用いることができるが、内部電極にはAg/Pdが好適である。
【0022】
圧電素子120の一方の端部の外部電極122には、リード線220が接続されている。同様に、圧電素子130も同じ側の端部の外部電極132にリード線230が接続されている。また、振動板110も同じ側の端部にリード線210が接続されている。リード線210、220、230を用いて駆動信号を圧電アクチュエータ100に入力すると、圧電アクチュエータ100は、駆動信号に応じて屈曲振動する。圧電アクチュエータ100を編機用に用いる場合には、両端に先端支持部を設け、さらに中央に中間支持部を設ける。
【0023】
図2に示すように、圧電アクチュエータ本体105は、樹脂のコート材により2層に被覆されている。第1樹脂層140は、レジスト膜であり、圧電アクチュエータ本体105、主に圧電素子120の外部電極122および圧電素子130の外部電極132を被覆している。第1樹脂層140のショアA硬度(JIS K6253)が100°以上であり、一定以上の強度の膜を形成できる。
【0024】
レジスト材料には、例えば、エポキシ樹脂を主成分とする液状の感光性レジスト材料や、ウレタンアクリレートを主成分とした感光性レジスト材料を用いることができる。一般的に市販されている緑色又は青色のものを使用してもよい。
【0025】
第2樹脂層150は、第1樹脂層140を被覆している。第2樹脂層150のショアA硬度は80°以下であり、動きに追従して表面に亀裂が生じるのを防止できる。その結果、絶縁性を向上でき、長寿命を実現できる。このように、圧電アクチュエータ100では、硬度と伸び率に着目して第2樹脂層150を構成する自硬化型コート材の材料を選択している。なお、第1樹脂層140および第2樹脂層150は、外部電極122、132の表面を覆っていれば十分であるが、端面も含め圧電アクチュエータ本体105の全体を覆っていてもよい。ただし、後述のようにスクリーン印刷を行う場合には、樹脂層が外部電極表面のみを覆う方が工数を省略できるので好ましい。
【0026】
第2樹脂層150は、アクリル系またはエポキシ系の硬化樹脂からなることが好ましい。これらの材料は、容易に入手でき、硬化により、耐油性、耐溶剤性を有するコーティングを構成できる。特に、第2樹脂層150は、アクリル系の紫外線硬化樹脂からなることが好ましい。紫外線硬化樹脂であるため、温度を上げることなく硬化させることができ、温度上昇による圧電体への影響を防止できる。
【0027】
第2樹脂層150の厚さは、10μm〜50μmであることが好ましい。10μm以上であることで十分な強度により被覆を維持でき、50μm以下であることで動きへ柔軟な追従が可能になる。また、第2樹脂層150の材料は、硬化後の伸び率(JIS K6767)が50%以上であることが好ましい。これにより、動きへの追従が容易になる。
【0028】
(圧電アクチュエータの製造方法)
圧電アクチュエータ100の製造方法の一例を説明する。まず、電極が両主面に設けられた素子本体を有する圧電素子を準備する。圧電セラミックス材料としてチタン酸ジルコン酸鉛系(PZT)の圧電材料を秤量し、溶剤およびバインダ等を加えてボールミル等で混合し、スラリーを作製する。そして、得られたスラリーを用いて、例えばドクターブレード法やカレンダロール法により、焼成後の収縮を考慮した所定の厚さのグリーンシートに成形する。
【0029】
得られたシートに内部電極を印刷して、所定の寸法に切り出し、積層して圧縮する。得られた成形体を焼成し、両主面に電極を印刷して圧電素子を作製する。圧電素子には、所定の向きに分極を行う。
【0030】
一方、SUS等の金属製の振動板を準備し、接着剤を用いて圧電素子をその両主面上に接着して圧電アクチュエータ本体を作製する。接着剤として導電性接着剤を用いることで、振動板を取り出し電極として用いることができる。圧電素子の電極および振動板の所定箇所にそれぞれリード線を半田付けし、電気的に接続する。
【0031】
このようにして得られた圧電アクチュエータ本体の表面にレジスト材を塗布し、硬化させ第1樹脂層を形成する。さらに、第1樹脂の表面にコート材をスクリーン印刷し、第2樹脂層を形成する。スクリーン印刷することで、蒸着法に比べて製造コストを低減することができる。また、蒸着法のように、マスキング後の塗布のやり直しは不要であり、2度手間を省くことができる。
【0032】
(実施例)
上記の製造方法により、長さ60mm、幅20mmの圧電アクチュエータの試料を作製した。圧電素子の厚さは180μm、振動板の厚さは100μmとした。圧電材料にはジルコン酸チタン酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛系を用い、振動板にはSUSを用いた。
【0033】
レジスト材には市販されている青色のものを使用し、第1樹脂層(レジスト層)を形成し、圧電アクチュエータ本体を被覆した。さらに、第1樹脂層の表面にスクリーン印刷によりアクリル系の紫外線硬化樹脂を塗布し、紫外線を照射して硬化させ第2樹脂層を形成した。第1樹脂層の厚さは12μm、第2樹脂層の厚さは50μmとした。ショアA硬度を25°から100°まで、20〜30°ずつ変えた第2樹脂層用のコート材を用いてそれぞれの試料を作製した。それぞれのショアA硬度を有する材料の伸び率は、下表の通りである。
【0034】
【表1】
このような圧電アクチュエータの試料を温度60℃、湿度80%の環境下にて100Vの交流電圧を印加し連続駆動させ、前後の第1および第2樹脂層合せた層の絶縁抵抗値および変位量の変化を確認した。
【0035】
その結果、第1樹脂層にショアA硬度の高いコート材を用いた圧電アクチュエータは、駆動前に第1および第2樹脂層合せた層の絶縁抵抗値が1000MΩだったのが、48時間の連続駆動後に0.5MΩまで低下した。一方、ショアA硬度80°以下のコート材は1000時間駆動後も第1および第2樹脂層合せた層の絶縁抵抗値が1000MΩ以上を保っていた。また、第2樹脂層の材料の伸び率に対して変位量を測定したところ、コーティングしていない製品と比べると伸び率50%以上の材料では変位量が変わらないことを確認できた。
【符号の説明】
【0036】
100 圧電アクチュエータ
105 圧電アクチュエータ本体
110 振動板
120、130 圧電素子
121、131 素子本体
122、123、132、133 外部電極
140 第1樹脂層
150 第2樹脂層
210、220、230 リード線