特許第6524480号(P6524480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6524480
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】屋外堆積物飛散防止用コート剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/22 20060101AFI20190527BHJP
   B65G 3/02 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   C09K3/22 E
   B65G3/02 F
   C09K3/22 D
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-189253(P2018-189253)
(22)【出願日】2018年10月4日
【審査請求日】2018年10月4日
(31)【優先権主張番号】特願2017-218833(P2017-218833)
(32)【優先日】2017年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 和也
(72)【発明者】
【氏名】北本 剛
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−031955(JP,A)
【文献】 特開昭59−174695(JP,A)
【文献】 特開平01−203108(JP,A)
【文献】 特開昭63−055176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/22
B65G 3/02
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー混合物100質量%中、スチレン系モノマー:15質量%以上48質量%未満、カルボキシル基を有するモノマー:0.1〜10質量%、およびカルボキシル基を有しない単官能の(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを含むモノマー混合物の共重合物であるスチレンアクリル樹脂100質量部に対して、界面活性剤0.5〜3.5質量部、および水を含む、屋外堆積物飛散防止用コート剤。
【請求項2】
前記スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度が−30〜50℃である、請求項1記載の屋外堆積物飛散防止用コート剤。
【請求項3】
前記スチレンアクリル樹脂の平均粒子径が50〜300nmである、請求項1または2に記載の屋外堆積物飛散防止用コート剤。
【請求項4】
前記モノマー混合物が、エチレン性不飽和モノマーを2個以上有する架橋性モノマー、および/またはエチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基を有するモノマーをさらに含む、請求項1〜3いずれか1項に記載の屋外堆積物飛散防止コート用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外堆積物飛散防止用コート剤に関する。
【0002】
製鉄所、発電所、ガス製造所などでは、使用する石炭、鉄鉱石、スラグなどを屋外に堆積で保管している。風雨によりこれら堆積物から粉塵の飛散や崩落、または流出が起こると周辺環境に問題となる。そのため従来、野積みされた堆積物の飛散防止には、水溶性樹脂、水性樹脂分散体を、野積み堆積物の表層に散布して、野積み堆積物の紛体と樹脂を結着させた樹脂被膜を形成し、粉塵の発生や山崩れを防止する方法が知られており、屋外堆積物飛散防止用コート剤として以下の開示が有る。
【0003】
特許文献1には、ポリアクリル酸ナトリウム架橋体等を含む粉塵防止剤が開示されている。また、特許文献2には、所定の粒度分布を有するエマルジョン樹脂を野積み堆積物に散布して野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止する方法が開示されている。
さらに、特許文献3〜6にも野積み堆積物の含水率上昇抑制や飛散防止を目的とする水性エマルジョンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−25871号公報
【特許文献2】特開2013−203525号公報
【特許文献3】特開昭59−147089号公報
【特許文献4】特開昭59−174695号公報
【特許文献5】特開昭61−043679号公報
【特許文献6】特開昭62−180810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の屋外堆積物飛散防止用コート剤は、保存中に分離し易く、樹脂被膜の性能が不安定になるという問題があった。また、樹脂被膜の耐水性が悪く降雨後に堆積物が崩落し易くなる問題があった。
【0006】
本発明は、保存安定性が良好であり、耐水性が良好な樹脂被膜を安定して形成できる屋外堆積物飛散防止用コート剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、モノマー混合物100質量%中、スチレン系モノマー:15質量%以上48質量%未満、カルボキシル基を有するモノマー:0.1〜10質量%、およびカルボキシル基を有しない単官能の(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを含むモノマー混合物の共重合物であるスチレンアクリル樹脂100質量部に対して、界面活性剤0.5〜3.5質量部、および水を含む、屋外堆積物飛散防止用コート剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により保存安定性が良好であり、耐水性が良好な樹脂被膜を安定して形成できる屋外堆積物飛散防止用コート剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本明細書での用語を説明する。「モノマー」とは、エチレン性不飽和二重結合を有する単量体である。「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルである。「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートである。
スチレンアクリル樹脂は、スチレンおよび(メタ)アクリル酸エステルを必須モノマーとして重合する樹脂である。
【0010】
本発明の屋外堆積物飛散防止用コート剤は、モノマー混合物100質量%中、スチレン系モノマー:15質量%以上48質量%未満、カルボキシル基を有するモノマー:0.1〜10質量%、およびカルボキシル基を有しない単官能の(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを含むモノマー混合物の共重合物であるスチレンアクリル樹脂100質量部に対して、界面活性剤0.5〜3.5質量部、および水を含む、屋外堆積物飛散防止用コート剤である。
本発明の屋外堆積物飛散防止用コート剤は、スチレンを適量使用したスチレンアクリル樹脂を含むのでスチレンアクリル樹脂の粒子としての親水性・疎水性バランスを適切な範囲に調整でき、アニオン性であるため、屋外堆積物飛散防止用コート剤の保存安定性が向上する。また、前記スチレンアクリル樹脂は、樹脂自体の疎水性が高く樹脂被膜の耐水性が向上する。
【0011】
<スチレンアクリル樹脂>
スチレンアクリル樹脂は、スチレン系モノマーを15質量%以上48質量%未満、カルボキシル基を有するモノマーを0.1〜10質量%、およびカルボキシル基を有しない単官能の(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマー混合物の共重合物である。
【0012】
<スチレン系モノマー>
スチレン系モノマーは、スチレンに加え、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体が挙げられる。スチレンは、モノマー混合物中に15質量%以上48質量%未満含み、20〜47.5質量%含むことが好ましい。これにより耐水性、および保存安定性が向上する。
スチレン系モノマーは、単独または2種類以上使用できる。
【0013】
<カルボキシル基を有するモノマー>
カルボキシル基を有するモノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸およびけい皮酸などが挙げられ、これらの中でもアクリル酸が好ましい。カルボキシル基を有するモノマーは、モノマー混合物中に0.1〜10質量%含み、0.2〜5質量%が好ましい。カルボキシル基を有するモノマーを適量含むと保存安定性が優れるコート剤を得ることができ、耐水性に優れる樹脂被膜を安定して形成できる。
カルボキシル基を有するモノマーは、単独または2種類以上使用できる。
【0014】
<カルボキシル基を有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマー>
カルボキシル基を有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは、スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)を適度な範囲に調整し、堆積物に対して樹脂被膜が密着性し易くなる。
カルボキシル基を有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、格別の官能基や環状構造を有しない(メタ)アクリル酸アルキルエステル、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、オキシアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸エステル、脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0015】
格別の官能基や環状構造を有しない(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、3−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも耐水性および経時安定性の観点で、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0016】
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、N−(2―ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、アリルアルコール等が挙げられる。
【0017】
グリシジル基を有する有(メタ)アクリル酸エステルとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0018】
オキシアルキレン基を有する有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルが挙げられる。
芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0020】
カルボキシル基を有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは、単独または2種類以上使用できる。
【0021】
カルボキシル基を有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは、モノマー混合物100質量%中に20〜84.9質量%を含むことが好ましく、25〜80質量%がより好ましい。
【0022】
スチレンアクリル樹脂は、上述のスチレン系モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、およびカルボキシル基を有しない単官能の(メタ)アクリル酸エステル以外の他のモノマーを含むモノマー混合物の共重合物であってもよい。他のモノマーとしては、水中に分散するスチレンアクリル樹脂の粒子の内部に架橋構造を導入するための架橋性モノマーを挙げることができる。
架橋性モノマーとしては、エチレン性不飽和モノマーを2個以上有する架橋性モノマー、エチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基を有するモノマーを挙げることができる。
【0023】
<エチレン性不飽和モノマーを2個以上有する架橋性モノマー>
エチレン性不飽和モノマーを2個以上有する架橋性モノマーは、エチレン性不飽和二重結合(例えば、ビニル基または(メタ)アクリロイル基等)を2以上を有するモノマーである。
エチレン性不飽和モノマーを2個以上有する架橋性モノマーは、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、及びマレイン酸ジアリル等が挙げられる。
エチレン性不飽和モノマーを2個以上有する架橋性モノマーは、単独または2種類以上使用できる。
【0024】
<エチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基を有するモノマー>
エチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基を有するモノマーは、エチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基含有を有するモノマーである。エチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基を有するモノマーは、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、パラスチリルトリメトキシシラン、及びパラスチリルトリエトキシシラン等が挙げられる。
エチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基を有するモノマーは、単独または2種類以上使用できる。
【0025】
エチレン性不飽和モノマーを2個以上有する架橋性モノマーやエチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基を有するモノマーは合計で、モノマー混合物中に0.1〜10質量%含むことが好ましく、0.2〜5質量%がより好ましい。これら架橋性モノマーを適量含むと耐水性を向上させることができる。
【0026】
スチレンアクリル樹脂の合成には、スチレン系モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、カルボキシル基を有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、エチレン性不飽和モノマーを2個以上有する架橋性モノマー、およびエチレン性不飽和二重結合およびアルコキシシリル基を有するモノマー以外にさらにその他モノマーを使用できる。
【0027】
<その他モノマー>
本発明におけるスチレンアクリル樹脂の重合の際には、さらにその他モノマーを併用することができる。
その他モノマーとしては、アミド基含有モノマー、ビニル基含有モノマー、その他反応性官能基含有モノマー等が挙げられる。
【0028】
アミド基含有モノマーは、例えば、N−ビニルアセトアミド、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0029】
ビニル基含有モノマーは、例えば、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0030】
その他モノマーは、単独または2種類以上を使用できる。
【0031】
その他モノマーは、モノマー混合物中に0〜50質量%を含むことが好ましい。
【0032】
<スチレンアクリル樹脂の合成>
スチレンアクリル樹脂の合成は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等の方法で合成できる。これらの中でもスチレンアクリル樹脂は、界面活性剤の存在下、モノマー混合物を乳化重合して合成することが好ましい。スチレンアクリル樹脂は、屋外堆積物飛散防止用コート剤に配合する段階で、粒子の形態であることが好ましい。そのためスチレンアクリル樹脂を溶液重合で合成後、水、および必要に応じて界面活性剤を添加し、公知の方法で水系に転相してスチレンアクリル樹脂粒子を形成してもよい。
【0033】
<スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度>
スチレンアクリル樹脂のTgは、被膜強度、被膜の形成し易さ(成膜性)の観点から、−30〜50℃が好ましく、−20〜40℃がより好ましく、−20〜30℃がさらに好ましい。
【0034】
界面活性剤は、スチレンアクリル樹脂の原料であるモノマー混合物100質量部に対して、0.5〜3.5質量部を使用することが好ましい。また、スチレンアクリル樹脂を、溶液重合で合成して水系に転相する場合、必要に応じてスチレンアクリル樹脂に対して界面活性剤を0.5〜3.5質量部使用してもよい。
【0035】
<界面活性剤>
界面活性剤は、本発明におけるスチレンアクリル樹脂は前述の通り、カルボキシル基を有するモノマーを必須の共重合成分とするので、用いる界面活性剤は、アニオン性、および/またはノニオン性が好ましい。アニオン性、および/またはノニオン性を用いることで、コート剤の保存安定性を向上させることができ、安定した性能の樹脂被膜を形成できる。また、界面活性剤は、耐水性の面でエチレン性不飽和二重結合を有する重合性界面活性剤を使用することが好ましい。
【0036】
重合性界面活性剤は、重合性アニオン性界面活性剤、重合性ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0037】
重合性アニオン性界面活性剤は、例えば、主骨格がスルホコハク酸エステル、アルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルエステル、(メタ)アクリレート硫酸エステル、およびリン酸エステルが好ましい。
【0038】
なお、界面活性剤として重合性界面活性剤のみを用いる場合、重合性界面活性剤は前述のモノマー混合物との共重合の結果、厳密にはスチレンアクリル樹脂の中に組み込まれることとなる。しかし、本発明では、重合性界面活性剤の界面活性剤としての機能を重視し、便宜上、前述のモノマー混合物からなる部分をスチレンアクリル樹脂と称することとする。
従って、界面活性剤として重合性界面活性剤のみを用いる場合、スチレンアクリル樹脂100質量部に対し、界面活性剤0.5〜3.5質量部、および水を含む屋外堆積物飛散防止用コート剤とは、モノマー混合物100質量部を重合性界面活性剤0.5〜3.5質量部および水の存在下に共重合してなる共重合物と水とを含む屋外堆積物飛散防止用コート剤の意である。
また、界面活性剤として重合性界面活性剤の他に非重合性の界面活性剤を重合時に用いる場合、スチレンアクリル樹脂100質量部に対し、界面活性剤0.5〜3.5質量部、および水を含む屋外堆積物飛散防止用コート剤とは、モノマー混合物100質量部を、重合性界面活性剤と非重合性の界面活性剤との合計0.5〜3.5質量部および水の存在下に共重合してなる共重合物と水とを含む屋外堆積物飛散防止用コート剤の意である。
さらに、重合時に重合性界面活性剤を用い、重合後に非重合性の界面活性剤を配合することもできる。この場合、0.5〜3.5質量部という界面活性剤の量は、重合時に供した重合性界面活性剤と重合後に加えた非重合性界面活性剤との合計量が、モノマー混合物100質量部に対して0.5〜3.5質量部であるとの意である。
【0039】
重合性ノニオン性界面活性剤は、例えば主骨格がアルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルエステルが好ましい。
【0040】
非重合性アニオン性界面活性剤は、例えば、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアルキルアリールスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
非重合性ノニオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等が挙げられる。
【0041】
界面活性剤は、単独または2種類以上を使用できる。
【0042】
<スチレンアクリル樹脂粒子の平均粒子径>
スチレンアクリル樹脂粒子の平均粒子径は、50〜300nmが好ましく、100〜250nmがより好ましい。平均粒子径を適度な範囲に調整すると耐水性、経時安定性がより向上する。
【0043】
モノマー混合物の重合には、ラジカル重合開始剤(以下、重合開始剤という)を使用することが好ましい。重合開始剤は、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。なお、乳化重合には、水溶性重合開始剤を使用することが好ましい。
【0044】
油溶性重合開始剤は、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5,トリメチルヘキサノエート、ジt−ブチルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、及びp−メンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリル等のアゾビス化合物等が挙げられる。
【0045】
水溶性重合開始剤は、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等が挙げられる。
【0046】
モノマー混合物の重合に際して、重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより重合反応を促進することができる。このような還元剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム(SMBS)、次亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット等が挙げられる。
【0047】
重合開始剤は、単独または2種類以上を用できる。
【0048】
重合開始剤は、モノマー混合物100質量部に対して、0.03〜5質量部を使用することが好ましい。還元剤は、モノマー混合物100質量部に対して、0.01〜2.5質量部を使用することが好ましい。
【0049】
モノマー混合物の乳化重合の際、必要に応じて、緩衝剤、連鎖移動剤、塩基性化合物等を使用できる。緩衝剤は、例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。連鎖移動剤は、例えば、オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、メルカプト酢酸2−エチルヘキシル、メルカプト酢酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられる。
【0050】
連鎖移動剤は、モノマー混合物100質量部に対して、0.01〜0.5質量部使用することが好ましい。連鎖移動剤を適量使用すると耐水性がより向上する。
【0051】
塩基性化合物は、スチレンアクリル樹脂の中和に使用できる。
塩基性化合物は、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン;ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン;モルホリン、アンモニア等が挙げられる。これらの中でも形成される塗膜の耐水性の観点でアンモニアがより好ましい。
【0052】
屋外堆積物飛散防止用コート剤は、最低造膜温度が−20〜20℃であることが好ましく、−10〜10℃であることがより好ましい。最低造膜温度を適切な範囲に調整すると、堆積物上へ被膜を容易に形成できる。
【0053】
スチレンアクリル樹脂の分散液は、種々の方法で製造することができる。
例えば、スチレン系モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、およびカルボキシル基を有しない単官能の(メタ)アクリル酸エステル系モノマーをそれぞれ特定の範囲で含むモノマー混合物を、前記モノマー混合物100質量部に対して0.5〜3.5質量部の界面活性剤の全部または一部、および水によりモノマーのプレエマルジョンを形成し、水および残りの界面活性剤を入れた反応容器に、前記モノマーのプレエマルジョンを滴下しつつ、重合開始剤を別途添加したり、
反応容器側にも前記モノマーのプレエマルジョンの一部を入れておき、残りのモノマーのプレエマルジョンを滴下しつつ、重合開始剤を別途添加したりしてスチレンアクリル樹脂の分散液を得ることができる。
【0054】
本発明の屋外堆積物飛散防止用コート剤は、保存安定性および耐水性が良好であるため、例えば石炭、鉄鉱石、スラグ、石灰石等の屋外で堆積した堆積物の崩壊(崩落)防止のために使用することが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量部、「%」は質量%をそれぞれ意味する。また、表中の配合量は質量部である。
【0056】
<実施例1>屋外堆積物飛散防止用コート剤の製造
スチレン47.5部、カルボキシル基を有するモノマーとしてアクリル酸1.5部、カルボキシル基を有しない単官能の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーとして2−エチルヘキシルアクリレート51部、界面活性剤としてハイテノールNF−08(第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム)2.0部、イオン交換水40部からなる混合物を、ホモミキサーを用いて混合してモノマープレエマルジョンを作成し、滴下槽に仕込んだ。
別途、還流冷却器、攪拌機、温度計、窒素導入管、原料投入口を具備する4つ口フラスコを反応容器とし、該反応容器にイオン交換水60部を仕込んだ。次いで、窒素を導入し、攪拌しながら、液温を75℃に加熱した。そして、反応容器中に、ハイテノールNF−08を0.5部添加し、過硫酸カリウム0.3部を添加した後、滴下槽から上記モノマープレエマルジョンを3時間かけて連続的に滴下し、乳化重合を行った。滴下終了後、2時間、液温を80℃に保ち、乳化重合を継続した。その後、50℃まで冷却し、溶液を180メッシュのポリエステル製の濾布で濾過することで屋外堆積物飛散防止用コート剤を得た。得られた分散体の不揮発分は50%、分散体に含まれる樹脂の酸価は12mgKOH/gであった。
【0057】
得られた屋外堆積物飛散防止用コート剤について、最低造膜温度(MFT)を測定した。MFTは、造膜温度試験装置(日理商事株式会社製)を用いて、−5〜60℃まで温度勾配をつけたガラス版状に、厚さ300μmの被膜を作成し、成膜し始める温度をMFTとした。
【0058】
また、屋外堆積物飛散防止用コート剤中のスチレンアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)、および樹脂粒子の平均粒子径を測定した。
樹脂のTgは、樹脂粒子を構成する樹脂のTgを意味する。樹脂のTgは、DSC(示差走査熱量計 TAインスツルメント社製)を使用して測定した。具体的には、上記分散体を乾燥させて得られた樹脂を、5℃/分の昇温条件で測定したDSC曲線における吸熱ピークをTgとした。
樹脂粒子の平均粒子径は、動的光散乱測定法によるD50平均粒子径であり、上記分散体を水で500倍(容量比)に希釈した希釈液をナノトラック(日機装社製)で測定して求めた。
【0059】
<保存安定性>
屋外堆積物飛散防止用コート剤の保存安定性は、以下に示す方法によって評価した。屋外堆積物飛散防止用コート剤を不揮発分20%になるように調整して、25℃で静置して経時を行い溶液の外観を目視評価した。
評価基準を下記に示す。
◎:3ヶ月静置後で分離が見られない(極めて良好)
〇:2ヶ月静置後では分離が見られないが、3ヶ月静置後に分離が見られる(良好)
△:1ヶ月静置後では分離が見られないが、2ヶ月静置後に分離が見られる(不良)
×:1ヶ月静置後で分離が見られる(極めて不良)
【0060】
<耐水性A,B>
屋外堆積物飛散防止用コート剤の耐水性は、以下の2種類の方法で評価した。
即ち、屋外堆積物飛散防止用コート剤を乾燥させて得られた不揮発分を秤量した後、200メッシュのステンレス金網に入れ、水に、耐水性Aの場合は50℃で72時間、耐水性Bの場合は70℃で72時間、それぞれ浸漬させた後、乾燥後の質量を秤量し、下記の式に基づいて算出した。
評価基準を下記に示す。耐水性={(浸漬前不揮発分質量部)−(浸漬後不揮発分質量部)}/(浸漬前不揮発分質量部)}×100
◎:99%以上(極めて良好)
○:97%以上、99%未満(良好)
△:95%以上、97%未満(不良)
×:95%未満(極めて不良)
【0061】
<接触角>
屋外堆積物飛散防止用コート剤の接触角は、以下に示す方法によって評価した。屋外堆積物飛散防止用コート剤を不揮発分20%になるように調整し希釈液を作製した。ポリプロピレン板上に、希釈液1.5μLを滴下し、着滴1秒後の接触角を測定した。◎:接触角が60°未満(極めて良好)
○:接触角が60°以上、63°未満(良好)
△:接触角が63°以上、66°未満(不良)
×:接触角が66°以上(極めて不良)
【0062】
<実用評価A、B>
屋外堆積物飛散防止用コート剤の実用評価は、以下の2種類の方法で評価した。
即ち、石炭5kgを用いて、底面積0.1m、高さ20cmのほぼ四角錐状の堆積物を作成し、不揮発分20%になるように飛散防止コート剤200gを調整し、実用評価Aでは調整後1日以内に、実用評価Bでは調整後噴霧器内で2ヵ月静置した後、それぞれ前記堆積物の上から噴霧器で散布し、屋外に静置し状態を目視評価した。
評価基準を下記に示す。
◎:5ヶ月後でも初期の堆積物形状を維持している(極めて良好)
〇:3ヶ月後では初期の堆積物形状を維持しているが、5ヶ月後には崩壊している(良好)
△:1ヶ月後では初期の堆積物形状を維持しているが、3ヶ月後には崩壊している(不良)
×:1ヶ月後には初期の堆積物形状が崩壊している(極めて不良)
【0063】
<実施例2〜9及び比較例1〜7>屋外堆積物飛散防止用コート剤の製造
表1に示す材料及び配合組成に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2〜9及び比較例1〜7の屋外堆積物飛散防止用コート剤をそれぞれ得た。尚、表中の数値は、単位の記載がない項目は「部」を表し、空欄は使用していないことを表す。
【0064】
<比較例8>
スチレンアクリル樹脂以外の樹脂としてスチレンブタジエンラテックス0589(JSR社製)を使用して上記同様に評価した。
【0065】
表中の略号は以下の通りである。
St:スチレン
【0066】
<カルボキシル基含有モノマー>
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
【0067】
<カルボキシル基を有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマー>
MMA:メチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
2HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
DM:ジメチルアミノエチルメタクリレート
【0068】
<架橋性モノマー>
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
【0069】
<界面活性剤>
NF−08:ハイテノールNF−08(第一工業製薬社製、非重合性アニオン活性剤)
SR−10:アデカリアソープSR−10(ADEKA社製、重合性アニオン活性剤)
60W:セチルトリメチルアンモニウムクロライド(花王製、非重合性カチオン活性剤)
【0070】
<開始剤>
KPS:過硫酸カリウム
V−50:2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド
【0071】
【表1】
【要約】
【課題】 本発明は、保存安定性が良好であり、耐水性が良好な樹脂被膜を安定して形成できる屋外堆積物飛散防止用コート剤の提供を目的とする。
【解決手段】 モノマー混合物100質量%中、スチレン系モノマー:15質量%以上48質量%未満、カルボキシル基を有するモノマー:0.1〜10質量%、およびカルボキシル基を有しない単官能の(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを含むモノマー混合物の共重合物であるスチレンアクリル樹脂100質量部に対して、界面活性剤0.5〜3.5質量部、および水を含む、屋外堆積物飛散防止用コート剤。
【選択図】なし