【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国土交通省関東地方整備局、東京外かく環状道路本線トンネル(南行)大泉南工事 請負事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、前記チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、前記チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいて前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する評価方法であって、
前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記掘削土の塑性流動性を評価することを特徴とする土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法。
カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、前記チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、前記チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいて前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する評価装置であって、
前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記掘削土の塑性流動性を評価することを特徴とする土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置。
カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド掘削機であって、
請求項3または4に記載の土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置を備えることを特徴とする土圧式シールド掘削機。
【技術分野】
【0001】
本発明は、土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法、評価装置および土圧式シールド掘削機に関するものである。
【0002】
従来、シールドトンネル工事に適用される土圧式シールド工法が知られている。この工法は、カッター装置の背後に掘削土を取り込むためのチャンバーを設けた土圧式シールド掘削機を用いて、チャンバー内に取り込んだ掘削土に対して加水ベントナイトや高分子材料等の薬液あるいは気泡等を添加して攪拌翼で攪拌することにより、掘削土に所定の塑性流動性を持たせてその土圧を切羽に作用させて切羽を安定に保持しつつ掘進を行う工法である。
【0003】
この土圧式シールド工法においては、掘削土による土圧を切羽の全面に対して均一かつ安定に作用させることが重要であるため、チャンバー内における掘削土の塑性流動性を適切に設定しかつ安定に維持する必要がある。そのためには掘削土がチャンバー内全体において均一に塑性流動化しているか否かを掘削中に逐次確認する必要がある。特に昨今においては土圧式シールド工法の大断面化に伴い、チャンバー内の掘削土の塑性流動性を評価するニーズが高まっている。従来の掘削土の塑性流動性を評価するための方法としては、例えば特許文献1に示されるものが知られている。
【0004】
特許文献1に示される方法は、
図18に示すように、チャンバー5内に突出する攪拌翼6をカッター装置7の背部に設ける一方、チャンバー5を区画形成する隔壁8において、回転軸心Z周りの攪拌翼6の回転軌跡である円の周方向にほぼ均等に6等分する位置に土圧計9を分散配置し、土圧計9によって計測したチャンバー5内の掘削土の土圧から、攪拌翼6がそれぞれの土圧計9の近傍位置を通過する際における土圧の変動状況の指標となる指標値をそれぞれ求め、それら指標値に基づいてチャンバー5内の全体における掘削土の塑性流動性を評価するものである。
【0005】
すなわち、この方法は、略同一円周上に配置された土圧計9での土圧変動を数値化し、その大小からチャンバー5内における掘削土の塑性流動性を間接的に評価する。この方法では、土圧計9が略同一円周上に配置されているため攪拌条件(攪拌翼6が土圧計9近傍を通過する速度、攪拌翼6と土圧計9の離隔距離d)が同一であり、攪拌翼6の接近に伴う土圧変動の大小を相互比較すれば塑性流動性を評価するのに十分であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1の方法では、攪拌条件(攪拌翼6との離隔距離d、攪拌翼6の通過速度)が同一とみなせる位置、すなわち略同一円周上に土圧計9を配置していた。しかしながら、特許文献1の方法によって大断面シールドにおけるチャンバー全体を評価するために土圧計9を均等配置しようとすると、
図19に示すように、必ずしも略同一円周上とはならなくなる。この場合、攪拌翼6と土圧計9の離隔距離dや通過速度といった攪拌条件によって土圧変動幅が異なってしまうので、土圧計9間で相互に比較することはできない。このため、攪拌条件が異なる場合の土圧変動の違いを考慮した掘削土の塑性流動性の評価方法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、攪拌条件を考慮した土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法、評価装置および土圧式シールド掘削機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法は、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、前記チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、前記チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいて前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する評価方法であって、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記掘削土の塑性流動性を評価することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法は、上述した発明において、前記土圧計により土圧を計測するステップと、計測した土圧から所定期間の平均土圧を求めるステップと、計測した土圧より平均土圧を差し引いて土圧変動を抽出するステップと、抽出した変動土圧から所定期間の二乗平均平方根を算出して、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係を求めるステップと、抽出した変動土圧から所定期間の波形面積を算出して、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係を求めるステップと、求めた前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価するステップと、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価するステップと、数値化して評価した内容に基づいて、前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価するステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置は、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、前記チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、前記チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいて前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する評価装置であって、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記掘削土の塑性流動性を評価することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置は、上述した発明において、前記土圧計により計測した土圧から所定期間の平均土圧を求める手段と、計測した土圧より平均土圧を差し引いて土圧変動を抽出する手段と、抽出した変動土圧から所定期間の二乗平均平方根を算出して、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係を求める手段と、抽出した変動土圧から所定期間の波形面積を算出して、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係を求める手段と、求めた前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価する手段と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価する手段と、数値化して評価した内容に基づいて、前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る土圧式シールド掘削機は、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド掘削機であって、上述した土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法によれば、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、前記チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、前記チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいて前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する評価方法であって、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記掘削土の塑性流動性を評価するので、土圧計が異なる攪拌条件下におかれても掘削土の塑性流動性を評価することができる。このため、上記の従来の技術では適用が難しかった大断面シールドでも、チャンバー内全域で掘削土の塑性流動性を評価することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法によれば、前記土圧計により土圧を計測するステップと、計測した土圧から所定期間の平均土圧を求めるステップと、計測した土圧より平均土圧を差し引いて土圧変動を抽出するステップと、抽出した変動土圧から所定期間の二乗平均平方根を算出して、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係を求めるステップと、抽出した変動土圧から所定期間の波形面積を算出して、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係を求めるステップと、求めた前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価するステップと、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価するステップと、数値化して評価した内容に基づいて、前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価するステップとを備えるので、RMS振幅と波形面積の2つの評価指標に基づいて、チャンバー内における掘削土の塑性流動性を数値的に評価することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置によれば、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、前記チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、前記チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいて前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する評価装置であって、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記掘削土の塑性流動性を評価するので、土圧計が異なる攪拌条件下におかれても掘削土の塑性流動性を評価することができる。このため、上記の従来の技術では適用が難しかった大断面シールドでも、チャンバー内全域で掘削土の塑性流動性を評価することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置によれば、前記土圧計により計測した土圧から所定期間の平均土圧を求める手段と、計測した土圧より平均土圧を差し引いて土圧変動を抽出する手段と、抽出した変動土圧から所定期間の二乗平均平方根を算出して、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係を求める手段と、抽出した変動土圧から所定期間の波形面積を算出して、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係を求める手段と、求めた前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価する手段と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価する手段と、数値化して評価した内容に基づいて、前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する手段とを備えるので、RMS振幅と波形面積の2つの評価指標に基づいて、チャンバー内における掘削土の塑性流動性を数値的に評価することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る土圧式シールド掘削機によれば、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド掘削機であって、上述した土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置を備えるので、土圧計が異なる攪拌条件下におかれても掘削土の塑性流動性を評価することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法、評価装置の実施の形態を示すフローチャート図である。
【
図2】
図2は、土圧計で計測した土圧の生データの一例を示す時間波形図である。
【
図3】
図3は、算出した平均土圧の一例を示す時間波形図である。
【
図4】
図4は、抽出した変動土圧の一例を示す時間波形図である。
【
図5】
図5は、算出したRMS振幅の一例を示す時間波形図である。
【
図6】
図6は、算出した波形面積の一例を示す時間波形図である。
【
図7】
図7は、RMS振幅とせん断速度の関係から塑性流動状態を5段階評価した一例を示す図である。
【
図8】
図8は、波形面積と離隔距離の逆数の関係から塑性流動状態を5段階評価した一例を示す図である。
【
図9】
図9は、
図7および
図8による評価結果を加算して数値化した塑性流動状態の一例を示すテーブル図である。
【
図10】
図10は、チャンバー内の掘削土の塑性流動性の可視化表示の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、攪拌実験の手順を示すフローチャート図である。
【
図14】
図14は、攪拌実験中の土圧変動の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、攪拌実験により得られたせん断速度とRMS振幅の関係を示す図である。
【
図16】
図16は、攪拌実験により得られた離隔距離の逆数と波形面積の関係を示す図である。
【
図17】
図17は、掘削土の塑性流動性の評価の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、従来の中小口径シールドにおける土圧計の配置例を示した模式図であり、(1)は正面図、(2)は断面図である。
【
図19】
図19は、大断面シールドにおける土圧計の配置例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法、評価装置および土圧式シールド掘削機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
[土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法]
まず、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法について
図1〜
図10を参照しながら説明する。
【0022】
本発明者は、後述するように、泥土試料の硬さや攪拌条件(攪拌翼と土圧計の離隔距離、攪拌翼の通過速度)を変えた攪拌実験を行って土圧変動の違いを評価した。この結果、次の<1>、<2>のことを見出した。
【0023】
<1>せん断速度(攪拌翼の速度÷攪拌翼と土圧計の離隔距離)と、RMS振幅(土圧変動幅を数値化したもの)が線形関係にあるとともに、泥土の硬さの順に並んでいることが確認された。
【0024】
<2>攪拌翼と土圧計の離隔距離の逆数と、波形面積(土圧変動を数値化したもの)が線形関係にあるとともに、泥土の硬さの順に並んでいることが確認された。
【0025】
したがって、これらの関係を利用すれば、攪拌条件が異なる場合でも掘削土の塑性流動性を評価できるようになる。
【0026】
本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法は、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいてチャンバー内における掘削土の塑性流動性を評価する評価方法である。本発明では、掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、攪拌翼と土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、掘削土の塑性流動性を評価する。なお、チャンバー、攪拌翼、土圧計等の位置関係は、上記の従来の技術で説明した
図18等に示したものと同様である。
【0027】
次に、本発明による具体的な塑性流動性の評価手順を、
図1のフローチャートおよび
図2〜
図10の計測データの処理例を参照しながら説明する。
【0028】
(1)土圧の計測
まず、
図1に示すように、各土圧計において土圧の生データを計測する(ステップS1)。この場合、例えば計測間隔0.1sの場合には、0.1秒ごとに計測する。この計測例を
図2に示す。
【0029】
(2)平均土圧の算出
次に、土圧の生データの所定期間(例えば過去30秒間)における平均値(平均土圧)を求め、これをチャンバー全体での変動とみなす(ステップS2)。この算定例を
図3に示す。なお、この変動はシールドジャッキや排土による影響が主要因である。
【0030】
(3)変動土圧の抽出
上記のステップS1で取得した生データから、上記のステップS2で求めた平均土圧を差し引くことによって攪拌翼の影響による変動のみを抽出する(ステップS3)。この抽出例を
図4に示す。
【0031】
(4)RMS振幅の算出
上記のステップS3で抽出した変動土圧において所定期間(例えば現在時点から過去1分間)遡ったデータの二乗平均平方根RMS(Root Mean Square)を、下記の数式(1)を用いて算出する(ステップS4)。この数式(1)は塑性流動性の第一の評価指標というべきものである。この算出例を
図5に示す。なお、数式(1)において、RMS(p)は二乗平均平方根、Nはデータ数、piはi番目の変動土圧のデータである。
【0033】
(5)波形面積の算出
上記のステップS3で抽出した変動土圧において所定期間(例えば現在時点から過去1分間)遡ったデータ(波形)の面積Aを、下記の数式(2)を用いて算出する(ステップS5)。この数式(2)は塑性流動性の第二の評価指標というべきものである。この算出例を
図6に示す。なお、数式(2)において、A(p)は波形面積、Nはデータ数、piはi番目の変動土圧データ、Δtはデータの計測間隔である。
【0035】
(6)RMS振幅とせん断速度から、塑性流動状態を評価
RMS振幅と各土圧計のせん断速度(攪拌翼の通過速度÷攪拌翼と土圧計の離隔距離)をプロットして両者の関係を求め、この関係に基づいて各土圧計位置での塑性流動状態を数値化して評価する(ステップS6)。この場合、塑性流動状態を例えば5段階評価により数値化する。5段階評価の例を
図7に示す。なお、本ステップS6における両者の関係に基づく評価の根拠については後述する。
【0036】
(7)波形面積と離隔距離の逆数から、塑性流動状態を評価
波形面積と攪拌翼と土圧計の離隔距離の逆数をプロットして両者の関係を求め、この関係に基づいて各土圧計位置での塑性流動状態を数値化して評価する(ステップS7)。この場合、塑性流動状態を例えば5段階評価により数値化する。5段階評価の例を
図8に示す。なお、本ステップS7における両者の関係に基づく評価の根拠については後述する。
【0037】
(8)評価した塑性流動状態を数値化
上記のステップS6およびステップS7の評価において判定された数値を加工処理(例えば加算)して数値化し、これに基づいて塑性流動状態を評価する(ステップS8)。数値を加算して評価する場合のテーブルを
図9に示す。
【0038】
(9)チャンバー内全体の塑性流動状態を推定
上記のステップS8において数値化した各土圧計での塑性流動状態をもとにチャンバー内全体の塑性流動状態を推定し、推定した塑性流動状態をディスプレイ等に可視化表示する(ステップS9)。可視化表示例を
図10に示す。
【0039】
ここで、本実施の形態においては、カッターを回転しながら、またはカッター停止中に、ステップS2〜ステップS9の処理を行い、評価した掘削土の塑性流動状態を示す情報を、コンピュータのディスプレイ等に可視化表示する。
図10の例では、図の左側部分に、チャンバー内全体の広範囲にわたって掘削土の塑性流動性を可視化する場合を示しており、塑性流動性として硬軟の度合いをチャンバー全体の空間分布図として表示している。硬軟の度合いについては、例えば色彩や濃淡の違いなどで表現することができる。なお、図の右側部分には、各土圧計の位置における塑性流動状態の評価数値を表示している。
【0040】
カッター回転時または停止時にディスプレイの表示内容を監視することでチャンバー内の掘削土の塑性流動性をリアルタイムに精度良く連続的に把握することができ、それに基づき適切な施工管理を行いつつ掘削を行うことが可能である。このため、塑性流動性の管理を高精度に行うことができる。
【0041】
このように、本発明によれば、土圧計が異なる攪拌条件下におかれても、RMS振幅と波形面積の2つの評価指標に基づいて塑性流動状態を評価できるようになり、上記の従来の技術では適用が難しかった大断面シールドでも、塑性流動状態をチャンバー全域で評価できるようになる。
【0042】
(攪拌条件の違いを考慮した評価の根拠)
次に、上記のステップS6およびステップS7における攪拌条件の違いを考慮した評価方法の根拠について説明する。
【0043】
上述したように、従来は攪拌条件(攪拌翼と土圧計の離隔距離、攪拌翼の通過速度)が同一とみなせる位置、すなわち略同心円上に土圧計を配置していたが、大断面シールドで土圧計を均等配置しようとすると設置半径ごとに攪拌条件が異なり、土圧変動に影響を与える。そこで以下では、攪拌条件が異なる場合の土圧変動の違いを実験的に確認し、それを考慮した塑性流動性の評価方法について検討した。
【0044】
<実験装置の概要>
図11および
図12は、チャンバーを模擬した攪拌実験装置の概要図である。これらの図に示すように、略円筒状の土槽10の中央部の回転軸心Zに回転軸12を回転自在に設け、この上端に、水平アーム14を固定し、水平アーム14の端部側に下方に突出した棒状の攪拌翼16(以下、攪拌棒16という)を設けている。回転軸12の下端は、土槽10の外部のギヤードモーター装置18に取り付けてあり、回転軸12はこのギヤードモーター装置18を駆動源として回転し、土槽10の内部は攪拌棒16によって攪拌されるようになっている。土槽10の内径は66cm、高さは25cmである。また、回転軸心Zからの攪拌棒16の設置半径は20cmである。攪拌棒16の直下と、それを中心に半径方向に5cmずつ離して計4個の土圧計1〜4を設置している。
【0045】
<実験条件と実験方法>
表1に攪拌実験に使用する泥土試料の条件を、
図13に実験手順を示す。
【0047】
泥土試料は、土の種類と気泡添加率を変えることでの計14試料(ケース)を設定した。試料混練直後にスランプ試験と回転粘度計による粘性測定試験を実施し、泥土試料をビンガム流体と仮定して降伏値と塑性粘度を求めた。攪拌実験では攪拌棒16と直下の土圧計2との離隔距離を所定の値(2、4、6cm)に設定し、所定の回転数で5分間攪拌した後、回転数を変えて同様の計測を行った。なお、土圧の計測間隔は0.1秒である。1試料につき攪拌棒16の離隔距離が3条件、回転数が4条件、土圧計が4個あるため、計48の攪拌条件を再現していることになる。
【0048】
<実験結果と考察>
図14は、攪拌時の土圧データの一例である。ただし、計測した土圧値から、その時点より30秒間遡ったデータの平均値を差し引いて示している。この図より、攪拌棒16から一番近い土圧計2の変動幅が一番大きく、攪拌棒16から離れるほど変動幅が小さくなっていることがわかる。
【0049】
土圧変動の幅を数値化するため、30〜300秒までのデータを対象としてRMS振幅(上記の式(1)を参照)を求めた。そして攪拌棒16の速度を土圧計との離隔距離で除したみかけのせん断速度を攪拌条件と考え、上記のRMS振幅との関係を調べたものが
図15である。なお、図が煩雑になることから礫混じり試料(4試料)のデータは削除している。この図から分かるように、両者の関係はほぼ線形であるとともに、粘性定数(降伏値、塑性粘度)の高い順にRMS振幅が高くなっていることが分かった。
【0050】
また、粘性土と砂質土では土圧変動の波形形状が異なったことから、これを考慮する指標として30〜90秒(1分間)波形の面積(上記の式(2)を参照)を試算した。この指標と攪拌条件の関係を検討した結果、
図16に示すように攪拌条件(横軸)として離隔距離の逆数を用いた場合に線形的な関係がみられるとともに、粘性定数の高い順に波形面積が大きくなっていることがわかった。
【0051】
<実機での塑性流動性の評価方法>
上記の知見を、実機での概略の塑性流動性の評価方法に適用する場合には、上述したように、まず、土圧を計測する。そして、土圧の生データに含まれる全体変動を消去し、攪拌翼による変動を求める。次に、評価時点から所定期間(1分間)遡ったデータを用いてRMS振幅および波形面積を算出する。続いて、
図15、
図16に示した関係性を使って攪拌条件を考慮した形で塑性流動状態を判定する。具体的には、例えば
図17に示すように、攪拌条件(横軸)と塑性流動性指標値(縦軸)の関係でプロットし、その点が塑性流動状態のどの範囲にあるかを判定し、数値化する。土圧計ごとに数値化された値からチャンバー全域の数値を推定し、ディスプレイ画面に表示する(
図10を参照)。なお、
図17は模式図であり、図に例示した数値による領域分けについては初期掘進時に調整し、本掘進に備えるようにすることが望ましい。
【0052】
[土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置]
次に、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置について説明する。
【0053】
本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置は、上記の本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法を装置として具現化したものであり、例えばCPUを有するコンピュータ、メモリ、ディスプレイ等のハードウェアにより構成することができる。
【0054】
本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置によれば、土圧計が異なる攪拌条件下におかれても、RMS振幅と波形面積の2つの評価指標に基づいて塑性流動状態を評価できるようになり、上記の従来の技術では適用が難しかった大断面シールドでも、塑性流動状態をチャンバー全域で評価できるようになる。
【0055】
[土圧式シールド掘削機]
次に、本発明に係る土圧式シールド掘削機について説明する。
【0056】
本発明に係る土圧式シールド掘削機は、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド掘削機であって、上記の本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置を備えたものである。したがって、本発明によれば、上記の塑性流動性評価装置で説明したものと同様の作用効果を奏することができる。
【0057】
以上説明したように、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法によれば、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、前記チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、前記チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいて前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する評価方法であって、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記掘削土の塑性流動性を評価するので、土圧計が異なる攪拌条件下におかれても掘削土の塑性流動性を評価することができる。このため、上記の従来の技術では適用が難しかった大断面シールドでも、チャンバー内全域で掘削土の塑性流動性を評価することができる。
【0058】
また、本発明に係る他の土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価方法によれば、前記土圧計により土圧を計測するステップと、計測した土圧から所定期間の平均土圧を求めるステップと、計測した土圧より平均土圧を差し引いて土圧変動を抽出するステップと、抽出した変動土圧から所定期間の二乗平均平方根を算出して、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係を求めるステップと、抽出した変動土圧から所定期間の波形面積を算出して、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係を求めるステップと、求めた前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価するステップと、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価するステップと、数値化して評価した内容に基づいて、前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価するステップとを備えるので、RMS振幅と波形面積の2つの評価指標に基づいて、チャンバー内における掘削土の塑性流動性を数値的に評価することができる。
【0059】
また、本発明に係る土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置によれば、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド工法に適用され、前記チャンバーを隔てた隔壁側に設置された土圧計により、前記チャンバー内の掘削土の土圧を計測し、計測した土圧に基づいて前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する評価装置であって、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記掘削土の塑性流動性を評価するので、土圧計が異なる攪拌条件下におかれても掘削土の塑性流動性を評価することができる。このため、上記の従来の技術では適用が難しかった大断面シールドでも、チャンバー内全域で掘削土の塑性流動性を評価することができる。
【0060】
また、本発明に係る他の土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置によれば、前記土圧計により計測した土圧から所定期間の平均土圧を求める手段と、計測した土圧より平均土圧を差し引いて土圧変動を抽出する手段と、抽出した変動土圧から所定期間の二乗平均平方根を算出して、前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係を求める手段と、抽出した変動土圧から所定期間の波形面積を算出して、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係を求める手段と、求めた前記掘削土のせん断速度と土圧変動のRMS振幅との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価する手段と、前記攪拌翼と前記土圧計の離隔距離の逆数と土圧変動の波形面積との関係に基づいて、前記土圧計の位置での前記掘削土の塑性流動状態を数値化して評価する手段と、数値化して評価した内容に基づいて、前記チャンバー内における前記掘削土の塑性流動性を評価する手段とを備えるので、RMS振幅と波形面積の2つの評価指標に基づいて、チャンバー内における掘削土の塑性流動性を数値的に評価することができる。
【0061】
また、本発明に係る土圧式シールド掘削機によれば、カッタースポーク側に設置された攪拌翼により、チャンバー内の掘削土を攪拌してこの掘削土に塑性流動性を付与し、この掘削土の土圧を切羽に作用させることによって切羽を安定化しつつ掘進を行う土圧式シールド掘削機であって、上述した土圧式シールド工法におけるチャンバー内掘削土の塑性流動性評価装置を備えるので、土圧計が異なる攪拌条件下におかれても掘削土の塑性流動性を評価することができる。